大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 事件番号不詳 判決

本籍並に住居

靑森縣上北郡三本木町大字三本木字稻生二百六十二番地

会社重役

小笠原八十美

当六十一年

右の者に対する労働組合法違反被告事件に付当裁判所は檢事押切德次郞関與審理を盡し次の通り判決する

主文

被告人は無罪

理由

本件公訴事実は

被告人は靑森縣上北郡三本木町十和田鉄道株式会社の社長であるが昭和二十一年三月下旬頃同会社全從業員によつて十和田鉄道労働組合が設立せられ三上淸が組合長に、坂上権藏が副組合長に夫々選任された次で同人等は右組合の指導者となつて社長等重役の退陣其の他十四項目の要求事項を決定し労働組合靑森地方協議会爭議部長であつた佐藤義男や同協議会組織部長であつた大塚英五郞等の應援を得て会社側と交渉を重ね右要求事項の受諾方を申入れたが満足すべき回答を得るにいたらなかつたので同年四月下旬頃右組合は遂に経営管理を断行した被告人は右労働組合の斯樣な動きに対し三上淸、坂上権藏及び右会社の会計係であつた惡原正夫の三名を其の主動的存在と考え之等の人達が右組合員であることを好まず昭和二十一年五月三十一日右会社事務所に於て三上、惡原の両名に対しては依願退職、坂上に対しては命退職の形式を以つて孰れも解雇の申渡をなし以て右三名に対し同人等が労働組合員であることの故を以て之を解雇したものである。

と謂うのであるが先づ右組合の爭議の経緯を概観するに十和田鉄道株式会社は靑森縣上北郡三本木町に本社を置き從業員総数二百余名を有し軌道の経営及びバスの運行を業とするもので被告人は同会社の社長であること、昭和二十一年三月二十六日同会社全從業員に於て十和田鉄道労働組合を結成し組合長に三上淸、副組合長に坂上権藏が夫々就任し同年四月二十一日右本社に於て第一回労働組合大会を開催し会社側に対する要求事項として一、團体交渉権の確立、二、労働組合による会社経営参加(経営協議会の設置)、三、不良課長等の即時退職、四、不良重役の即時退陣等十五項目を会社側に請求することを議決し翌四月二十二日右三上淸及び坂上権藏外十数名の代表者は労働組合靑森地方協議会組織部長であつた大塚英五郞の應援指導の下に会社側に対し右要求事項を提出し交渉したが社長である被告人不在のため物別れとなり更に同年四月二十六日被告人及び会社側全重役と会見し被退職要求者として被告人外七名の氏名を明示して交渉の結果要求事項中從業員の待遇関係に関する部分は概ね妥結を見るにいたつたが会社民主化の要求事項としての会社経営参加重役及び課長等の退職要求の件が全面的に拒否されたので組合側に於ては翌四月二十七日から経営管理に入ると共に靑森縣地方労働委員会に調停の申請をした同委員会は昭和二十一年五月三日靑森縣上北郡三本木町に於て調停委員会を開催し調査審議の上組合側の要求十五項目を全部妥当と認め会社側に其の全面的受諾方を勧告し同月十二日に到り会社側は労働組合の要求事項の中重役退陣以外は殆と全部承認し両者間に経営協議委員会の設置外十一個條に亙る労働協約の成立を見るに到り労働協約書が取り交わされ茲に爭議は解決したこと同年五月三十一日三上淸、惡原正夫は依願解職坂上権藏は命退職により夫々解雇となつたことは被告人の当公廷に於ける供述その他の証拠により明かである。次に右三名に対する解雇の事由に付審按するに三上淸については被告人の当公廷に於ける供述第二回公判調書中証人三上淸、福沢淸、宮下実、石川勉、三星実等の各証言の記載等を綜合すれば前記労働爭議中三上は被告人が自分の選挙運動の費用に右会社の金を流用し会社の自動車を選挙運動に使用したとか会社に配給された長靴地下足袋等を横領したとか等被告人の名誉を毀損するような事項を記載した十和田鉄道幹部粛正声明書と題するガリ版刷の書面を作成頒布し、又右会社從業員の職場大会等の席上に於て発表するなど被告人の惡宣傳につとめ、以て被告人の個人の名誉を著しく毀損したものであり右は労働爭議行爲としての正当な限界を越脱したものであることを認めることが出來る。坂上権藏については被告人の当公廷に於ける供述第二回公判調書中証人坂上権藏、福浅淸、宮下実、石川勉、三星実等の各証言の記載等を綜合すれば坂上は右組合の経営管理中である昭和二十一年四月下旬頃会社の営業上の貨物自動車二台を右会社の業務に全然無関係であり且坂上自身も一面識もなくその身許すら判つて居ない靑森縣上北郡野辺地町木村某なるものに対しその用途も使用期間も確めず且無償で貸與したもので右貸與は会社の正常な営業の運営の範囲を明かに越脱した不法な行爲であり経営管理終了後右会社に於て右自動車の所在を諸所捜索の結果右木村某に於て使用して居ることを探知しその返還方を要求したがなかなか返還してくれず会社経営上重大な支障を來したことを認めることが出來る。又惡原正夫については被告人の当公廷に於ける供述第二回公判調書中証人宮下実、石川勉、三星実等の各証言の記載檢察事務官の〓谷正一、漆畑多利に対する各聽取書の記載等を綜合すれば惡原は右会社鉄道部の会計主任として重要な地位にありながら入社当時約六ケ月位は眞面目に働いていたが其の後は常に自席を離れ会社の用務を辨ずることが出來なかつたので右労働組合が設立される以前から同人を退職させる予定であつたが同人は右会社の重役宮下実等の推薦により採用されたものであるが故に右宮下等の希望を入れ同人等に善処方依賴中のものであつたことを認めることが出來るのである。被告人の当公廷に於ける供述第二回公判調書中証人宮下実、石川勉、三星実、長橋虔二、三浦光重、三上淸、坂上権藏、惡原正夫、福沢淸等の各証言の記載及び前記労働協約書によれば右労働爭議の結果締結された労働協約により全從業員の解雇、採用、昇給、賞與、賞罰、轉勤等は挙げて重役代表六名、労働組合員代表六名を以て組織する経営協議委員会の多数決による決議によつて之を決定し社長は單にその決定を実施するに過ぎないことになつたが昭和二十一年五月三十一日十和田鉄道株式会社の本社に於て第一回経営協議会が開催され同委員会には重役代表として被告人、宮下実石川勉、三星実の四名、組合代表としてはこの委員会に出席する爲特に各職場毎に組合員によつて選出され且つ組合長の承認を受けた森石次郞、福沢淸、漆畑多利、〓谷正一、田島多藏の五名が各出席したこと、該協議委員会に於て三上坂上、惡原の三名の退職の件が審議され三上淸は社長である被告人を惡宣傳し名誉を毀損し延いては会社の信用をきづつけたことを理由に、又惡原正夫は職場怠慢を理由に右、両名を依願解職とすること、坂上権藏は会社所有の自動車の不正貸出行爲を理由として解職処分に付することが全員一致で可決されたので之が施行機関である社長の地位にあつた被告人は即日右三名を右会社の本社社長室に呼寄せ同日附を以て夫々解職処分に附する旨申渡したことを認めるに充分である。然らば三上淸及び坂上権藏に対する解職は正当の事由により正当の手続である経営協議委員会の議を経てなされたものであることが認められ労働組合法第十一條の所謂組合員たるの故を以て解雇したものと謂うことは出來ないから被告人の右両名を解雇処分に附した所爲は罪とならないものと謂うべく刑事訴訟法第三百六十二條前段に從い無罪の言渡を爲すべく、次に惡原正夫に対する被告人の解職の事由としてあげられて居る勤務怠慢の程度が解職に値する程のものであつたかどうかについては充分な証拠がないが同人の解職の話は労働組合結成前からあつたことは前記認定の通りであり檢事の惡原正夫に対する聽取書(第一回)中同人の供述として自分は運輸大臣をやつて居る苫米地の会社に永らく会計係をして居た関係上被告人は苫米地と反対党であるところから自分を心よく思つていないらしく宮下から社長はお前をいやがつて居るから辞めたらどうかとの話があつた労組結成及び労働爭議については自分は積極的に関係したことはない経営管理中は会計を受け持つていたが別に組合の幹部でもなし実際上もその樣な立場にはなかつた労組の会計係は別の人が担当していた被告人が自分をやめさせた裏面の理由は自分を苫米地のスパイとにらんだ関係もあると思う旨の記載第二回公判調書中の惡原正夫、坂上権藏の各証言の記載檢事の惡原正夫に対する聽取書(昭和二十三年六月八日附の記載を綜合すれば同人は右組合の結成後よほど日数がたつてから之に加入したもので元より同組合の幹部ではなく又右組合の敍上労働爭議に際しても組合の爲積極的に活動したことがなかつた事実を認め得るのであつて被告人が右組合の組合員であるが故を以て惡原を解雇した点に付之を認むるに足る証明がないから惡原の解雇に付ては刑事訴訟法第三百六十二條後段を適用して無罪の言渡を爲すべきものである。

仍て主文の通り判決する

(裁判長裁判官 新妻太郞 裁判官 石井〓吾 裁判官 小友末知)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!