青森地方裁判所 平成元年(行ウ)7号 判決 2002年3月15日
目 次
主文
略語例
事実及び理由
第一部 前提事実等
第一 請求
第二 事案の概要
第三 本件許可処分に至る経緯等
第四 当事者等
第五 本件事案の基礎となる事情
第六 本件施設の概要
第七 放射線及びウランの性状
第二部 当事者の主張
第一章 原告適格(主位的請求及び予備的請求に共通の争点)
第二章 憲法上及び法律論上の主張(主位的請求の争点)
第一 規制法一三条一項にいう「加工の事業」該当性
第二 憲法一三条、一四条、二五条違反
第三 憲法三一条違反
第三章 審理判断の枠組みに関する法律論(予備的請求の争点)
第一 取消訴訟における処分の違法事由の主張制限
第二 基本設計以外の事由の主張制限
第三 本件予備的請求の司法審査の在り方
第四章 本件許可処分の手続的適法性(予備的請求の争点)
第一 本件許可申請書及び添付書類の不備
第二 審査主体の問題点
第三 審査の実態に関する問題点
第四 指針による審査の違法性
第五 その他の手続上の問題点
第五章 規制法一四条一項二号要件適合性(予備的請求の争点)
第一 二号要件のうち経理的基礎に係る部分の適合性
第二 二号要件のうち技術的能力に係る部分の適合性
第六章 規制法一四条一項三号要件適合性(予備的請求の争点)
第一 総論的主張
一 ウランの人体への影響
二 国内規制値の問題点
三 加工施設指針の欠陥
四 加工施設指針の濃縮施設への妥当性
五 規制法一四条一項三号要件適合性の審理手法
第二 本件施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策
一 地盤
二 地震
三 その他の自然的立地条件
四 社会的立地条件
第三 加工施設自体の安全性確保対策
一 地震に対する考慮
二 火災・爆発等に対する考慮
三 臨界に関する安全設計
四 六フッ化ウランの閉込めに係る安全設計
五 外部電源喪失に対する考慮
六 従事者の放射線被曝低減に係る安全性確保対策
七 その他の安全性確保対策
八 検証の結果と本件施設の安全性確保対策の問題点
九 本件施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
一〇 他の原子力施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
第四 公共の安全性確保
第五 平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策
第六 その他の違法事由(本件施設の軍事転用の危険性)
第三部 主位的請求に対する判断
第一章 原告適格
第一 当裁判所の判断
第二 被告の主張に対する判断
第三 原告らの主張に対する判断
第二章 本案の争点に対する判断
第一 はじめに
第二 本件許可処分の法律上の根拠の有無
第三 憲法一三条、一四条、二五条違反
第四 憲法三一条違反
第五 まとめ
第三章 結論
第四部 予備的請求に対する判断
第一章 原告適格
第二章 審査判断の枠組みに関する法律論
第一 取消訴訟における処分の違法事由の主張制限
第二 加工事業許可における審査の対象
第三 司法審査の在り方
一 審理、判断の方法
二 立証責任
三 判断基準時
第三章 本件許可処分の手続的適法性
第一 当裁判所の判断
第二 原告らの主張に対する判断
一 本件許可申請書及び添付書類の不備
二 審査主体の問題点
三 審査の実態に関する問題点
四 指針による審査の違法性
五 その他の手続上の問題点
第四章 規制法一四条一項二号要件適合性
第一 はじめに
第二 技術的能力に関する調査審議及び判断の過程
第三 被告の主張に対する判断
第四 原告らの主張に対する判断
第五 まとめ
第五章 規制法一四条一項三号要件適合性
第一 はじめに
一 判断基準
1 事実認定
2 本件施設において問題となる災害
3 本件施設に求められる安全性の意義
4 求められる安全性の内容と程度
二 本件安全審査の基本的な考え方と具体的審査基準
1 事実認定
2 被告の主張に対する判断
三 原告らの主張に対する判断
四 次項以下の判断について
第二 加工施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策
一 はじめに
二 指針の内容
三 本件安全審査の内容
四 被告の主張に対する判断
五 原告らの主張に対する判断
1 地盤
2 地震
3 その他の自然的立地条件
4 社会環境
5 墜落事故評価の問題点
6 まとめ
第三 加工施設自体の安全性確保対策
一 はじめに
二 加工施設指針等の内容
三 本件安全審査の内容
四 被告の主張に対する判断
五 原告らの主張に対する判断
1 地震に対する考慮
2 火災・爆発等に対する考慮
3 臨界に関する安全設計
4 六フッ化ウランの閉込めに係る安全設計
5 外部電源喪失に対する考慮
6 検証結果等と本件施設の安全性確保対策の問題点
7 本件施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
8 他の原子力施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
第四 公共の安全性確保
一 はじめに
二 加工施設指針等の内容
三 本件安全審査の内容
四 被告の主張に対する判断
五 原告らの主張に対する判断
第五 平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策
一 はじめに
二 加工施設指針等の内容
三 本件安全審査の内容
四 被告の主張に対する判断
五 原告らの主張に対する判断
第六 まとめ
第六章 結論
原告 甲野太郎 ほか171名(仮名)
被告 経済産業大臣
代理人 岩渕正紀 畠山稔 長屋文裕 野下智之 並木浩一 原克好 喜島成和 大沼洋一 近藤裕之 堀田次郎 野呂恒雄 角掛幹也 鈴木正彦 星庄一 坂本善信 金田和典 小館卓司 蛯澤政則 ほか11名
主文
一 本件訴訟のうち原告Aに関する部分は、平成八年四月三日同原告の死亡により終了した。
二 原告Aを除ぐ原告らのうち、別紙当事者目録<略>記載の番号五二、五三及び六三ないし七四の原告らを除く者の訴えをいずれも却下する。
三 別紙当事者目録<略>記載の番号五二、五三及び六三ないし七四の原告らの請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は原告Aと被告との間で生じた分を除き原告らの負担とする。
略語例
以下、本判決においては、別紙略語表記載の略語を用いることとする。ただし、正式の用語を用いる場合もある。
事実及び理由
第一部 前提事実等
第一請求
一 原告ら
1 主位的請求
本件許可処分が無効であることを確認する。
2 予備的請求
本件許可処分を取り消す。
二 被告
1 本案前の答弁
本件訴えをいずれも却下する。
2 本案の答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
第二事案の概要
本件は、原燃産業(現在の日本原燃)が青森県上北郡六ヶ所村における六ヶ所ウラン濃縮工場の建設のため規制法一三条に基づいてした核燃料物質の加工事業許可申請に対し、内閣総理大臣が昭和六三年八月一〇日に加工事業許可処分をしたことに関して、全国各地に居住する原告ら一七二名が、主位的に右処分の無効確認を求めるとともに、予備的にその取消しを求めている事案である。本件においては、本案前の争点として、原告適格が主位的請求及び予備的請求でともに争われている(第二部第一章)ほか、本案の争点としては、主位的請求では本件許可処分の憲法上及び法律論上の問題点(同第二章)が、予備的請求では審理判断の枠組みに関する法律論(同第三章)及び本件許可処分の手続的、実体的適法性(同第四章、第五章)が、それぞれ争われている。
第三本件許可処分に至る経緯等(当事者間に争いがない。)
<1> 昭和六二年五月二六日 原燃産業は、内閣総理大臣に対して本件許可申請をした。内閣総理大臣は、申請を受けた後直ちに、その指揮の下に所部の機関である科学技術庁に右申請に係る審査を行わせ、これを受けて科学技術庁は、審査を開始し、本件許可申請の規制法一四条一項三号の許可要件への適合性については適宜加工・使用安全技術顧問会の意見を聴取しながら審査を進めた。
<2> 一二月八日 原燃産業は、申請の一部補正をした。
<3> 一二月一六日 科学技術庁は、本件許可申請が規制法一四条一項各号の許可要件に適合すると判断した。
内閣総理大臣は、右意見を付して、同項一号及び同項二号のうち経理的基礎に係る部分の許可要件への適合性については原子力委員会に、同項二号のうち技術的能力に係る部分及び同項三号の許可要件への適合性については原子力安全委員会に、それぞれ諮問した。
<4> 一二月一七日 原子力安全委員会は、規制法一四条一項二号のうち技術的能力に係る部分について自ら審査を行う一方、同項三号の許可要件への適合性については核燃料安全専門審査会に調査審議を指示した。
<5> 一二月二二日 第二九回核燃料安全専門審査会が開催され、担当部会として第二三部会を設置した。
<6> 昭和六三年五月一六日 原燃産業は、本件許可申請の一部補正をした。
<7> 六月二七日 右同
<8> 七月一三日 核燃料安全専門審査会第二三部会は、一一回にわたる調査審議を経て結論を出し、部会報告を決定した。
第三二回核燃料安全専門審査会が開催され、右報告を受けて調査審議の結果、許可後の安全性は確保し得るものと判断し、その結論を原子力安全委員会に報告した。
<9> 七月二一日 原子力安全委員会は、内閣総理大臣に対し、本件許可申請に対する規制法一四条一項二号のうち技術的能力に係る部分及び同項三号所定の許可の基準の適用は妥当なものと認める旨答申した。
<10> 七月二二日 原子力委員会は、内閣総理大臣に対し、本件許可申請に対する規制法一四条一項一号及び同項二号のうち経理的基礎に係る部分に規定する基準の適用は妥当なものと認める旨答申した。
<11> 七月二七日 内閣総理大臣は、この日から同年八月九日までの間、本件許可処分をするに当たりあらかじめ通商産業大臣に協議した。
<12> 八月一〇日 内閣総理大臣は、原燃産業に対し、本件許可処分をした。
<13> 一〇月七日 原告らは、内閣総理大臣に対し、本件許可処分について異議申立てをした。
<14> 平成元年七月一三日 原告らは、本訴を提起した。
第四当事者等(当事者間に争いがない。)
一 原告ら
原告らは、近くは本件施設がある青森県上北郡六ヶ所村、遠くは鹿児島県指宿市と、全国各地に居住する者であり、本件施設からその居住地までの距離は、約一・五キロメートルから一五〇〇キロメートル余りまでと様々である。
二 被告
平成一三年一月六日の中央省庁等改革関係法施行法(平成一一年法律第一六〇号。)九〇四条による改正により、規制法一三条、一四条に基づく加工事業許可は被告の権限とされるとともに、右施行法一三〇一条一項により、同法が施行された平成一三年一月六日の前に規制法の規定に基づき内閣総理大臣がした加工事業許可は被告がしたものとみなされることとなった。これにより、内閣総理大臣が昭和六三年八月一〇日にした本件許可処分も、現在は被告がしたものとみなされ、被告は、その無効確認訴訟及び取消訴訟につき被告適格を有している(行訴法三八条一項・一一条一項)。
三 申請者
本件許可申請をした原燃産業は、平成四年七月一日に日本原燃サービス株式会社と合併し、日本原燃となった。
第五本件事案の基礎となる事情(<証拠略>)
一 原子力発電の仕組み
ある種の質量数の大きい元素の原子核が二つの同程度の質量数を持つ原子核に分裂する現象を核分裂といい、その際、大きなエネルギーが放出される。このような核分裂を起こし得る原子核に中性子が当たると核分裂が極めて起こりやすくなり、また、核分裂の際には原子核から中性子等が放出される。
したがって、一定の条件の下で核分裂性(核分裂を起こしやすい性質)の物質に中性子を照射すると、その物質中のいくつかの原子核が核分裂を起こし、その核分裂により更に中性子が放出されて他の原子核の分裂を起こさせるというように連鎖反応が続き、それに伴い莫大なエネルギーが生じる。これが現在実用化されている原子力エネルギー利用の基本原理であり、右のような連鎖反応を制御してエネルギーを取り出すための装置が原子炉である。
原子炉で生じたエネルギーで蒸気を作り、この蒸気でタービンを回し、タービンによって発電機を回して電気を起こすのが原子力発電の基本的な仕組みである。この蒸気を電気に変える仕組みは、火力発電と同様である。
二 核燃料サイクルの仕組みと意義
現在国内で実用化されている原子力発電所は、原子炉内でエネルギーを取り出すための核分裂性の物質、すなわち核燃料として、ウランを用いている。核燃料物質であるウランは、ウラン鉱石の採鉱から始まり、製錬、転換、濃縮、再転換、成型加工を経て核燃料となり、原子炉に装荷し発電に使用される。この利用後の使用済核燃料には、高レベル放射性廃棄物である核分裂生成物のほか、核燃料として再度利用が可能なウラン及びプルトニウムが含まれており、再処理という過程によりこれらの物質を取り出せば、これを核燃料として再び利用することが可能となる。このような、核燃料を原子力発電所で使用した後に再処理を経て再び原子力発電所で利用するという、核燃料の流れが循環する過程が、「核燃料サイクル」と呼ばれているものである。
現在国内で進められている一般的な核燃料サイクルの概略は、次のとおりである。
<1> 「採鉱」
ウラン鉱石(粗鉱)を鉱山から採掘することである。ウラン鉱石にはウランが通常〇・一ないし〇・三パーセント程度しか含まれていない。
<2> 「製錬」
ウラン鉱石からウランを取り出して精製を行い、ウラン鉱石をイエローケーキと呼ばれる八酸化三ウランのウラン精鉱にする工程である。
<3> 「転換」
ウラン濃縮のために、八酸化三ウラン等のウラン化合物を六フッ化ウランにする工程である。
<4> 「濃縮」
六フッ化ウラン中の、ウラン二三五と呼ばれるウランの同位体のウラン全体量中に占める割合を高める工程である。
<5> 「再転換」
濃縮された六フッ化ウランを成型加工のために粉末状の二酸化ウランにする工程である。
<6> 「成型加工」
粉末状の二酸化ウランを焼き固め、ペレットと呼ばれる状態にし、これを金属製の被覆管に封じ込め、原子炉に装荷するために燃料集合体として組み立てる工程である。
<7> 「再処理」
使用済核燃料を燃え残りのウラン及び新たに生成された核分裂性の物質であるプルトニウムと、高レベル放射性廃棄物であるその他の核分裂生成物とに分離する工程である。再処理によって回収されたウラン及びプルトニウムは、転換や濃縮等の工程を経ることによって再び核燃料として利用することができる。
三 ウラン濃縮
1 ウラン
ウランは原子番号九二の元素であり、ラジウム、トリウム等と並んで天然に存在する放射性元素の一つである。
ウランには人工のものも含めれば一〇種類以上の同位体が存在するが、天然ウランは、ウラン二三八、ウラン二三五、ウラン二三四の三種類の同位体の混合物であり、その存在比はそれぞれ約九九・二七パーセント、約〇・七二パーセント、約〇・〇〇五六パーセント(約〇・〇〇五四パーセントとする文献もある。)である。
2 六フッ化ウラン
六フッ化ウランは、ウランとフッ素との化合物の一つで、不燃性で爆発性もないが、腐食性を有する放射性物質である。水と反応し、フッ化水素とフッ化ウラニルという物質を生ずる。大気圧下では、常温で白色の固体であり、摂氏五六・五度で昇華(固体が液状になることなく直接に気体になること)するが、加圧して加熱すると液化する。ガス拡散法又は遠心分離法等によるウラン濃縮には、この六フッ化ウランが用いられる。
3 ウラン濃縮の意義と必要性
質量数の大きい元素の原子核でも核分裂性のものは限られており、また、同じ元素の同位体でもすべてが核分裂性であるわけではない。天然ウランを構成する三つのウランの同位体のうち、ウラン二三五は核分裂性が高く、ウランを核燃料物質として利用するに当たり重要な役割を果たしているが、天然ウラン中に約〇・七二パーセントしか含まれていない。これに対し、天然ウラン中の約九九・二七パーセントを占めるウラン二三八は、ウラン二三五に比べて核分裂性が極めて小さい。
原子炉においては、核燃料物質に対して外部から中性子が供給されなくても、核燃料物質自体の核分裂反応によって生じた中性子により更に核分裂が生じる核分裂の連鎖反応が一定の状態で持続される臨界状態が維持される必要がある。ところで、原子炉には種々の型があり、ウラン二三五を約〇・七二パーセントしか含んでいない天然ウランを核燃料として利用することのできる型の原子炉もあるが、現在国内の実用発電用原子炉の大勢を占める軽水型原子炉(軽水炉)では、核分裂の連鎖反応を起こしやすくするための減速材(核分裂によって生じた高速の中性子の状態では、次の核分裂を生じさせる確率が低く、核分裂の連鎖反応が続かないため、中性子の速度を遅くする機能を果たすもの。)及び原子炉の冷却材として用いられる軽水(普通の水のこと。水素の同位体である重水素を含む重水と区別する意味で軽水と呼ばれる。)の中性子を吸収する性質が強いため、ウラン二三五の含有率が低い天然ウランのままでは、臨界状態を維持することはできない。そこで、ウランを核燃料とする軽水炉においては、全ウラン中のウラン二三五の存在比を、天然ウランの状態の約〇・七二パーセントから、二ないし四パーセント程度に高めたウランを燃料として用いる必要がある。
このように、ウランを軽水炉で使用するためには、ウラン中のウラン二三五の割合を一定の濃度まで高める濃縮という工程が必要となる。この工程によってウラン二三五の存在比を天然ウランより大きくしたウランを、濃縮ウランという。また、この濃縮の結果、ウラン二三五の存在比が天然ウランより小さくなったウランも生じるが、これを劣化ウランという。
4 ウラン濃縮の方法
現在、ウランの濃縮法としては、遠心分離法、ガス拡散法、レーザー法、化学交換法等が知られているが、本件施設で用いられているのは、遠心分離法である。
遠心分離法は、高速で回転している円筒の中に気体状にした六フッ化ウランを供給したときに、ウラン二三五とウラン二三八とのわずかな質量の差から、質量の大きいウラン二三八が遠心力で円筒の外側に多く集まり、中心に近いところではウラン二三五の割合が増えてくる原理を用いたもので、このウラン二三五がわずかに増えた部分を取り出し、同じことを多数回繰り返すことによって濃縮ウランを作り出す方法である。
5 我が国におけるウラン濃縮技術と事業
現在、我が国は、ウラン濃縮役務の大部分を、米国エネルギー省(DOE)や、フランスを中心とした国々の共同出資により造られた濃縮企業体である欧州ウラン濃縮機構(ユーロディフ)との契約により確保している。しかし、他方では、国内でのウラン濃縮の事業化が進められてきている。
国内における遠心分離法によるウラン濃縮については、昭和三〇年代から、動燃事業団(当初はその前身である原子燃料公社)が中心となってその研究を進め、昭和四七年度からは国のプロジェクトとして開発が推進された。
動燃事業団は、岡山県人形峠において、昭和五四年九月にパイロットプラントの一部運転を開始した後、昭和五七年三月末には約五〇トンSWU/年(ウラン濃縮の分離作業能力をいい、単位時間当たりの分離作業量(分離作業単位SWUを単位とする。)で表され、工場等の規模を表すのに用いられる。)以上の能力で全面運転を開始し、平成二年三月末まで各種の試験研究を行ってきた。
さらに、動燃事業団は、遠心分離機の量産技術の確立、プラント設備の合理化等により濃縮プラントの信頼性、経済性の向上を図るため、商業プラントに先立って原型プラントの建設を進め、昭和六三年四月にその第一期分が一〇〇トンSWU/年の能力で操業を開始、翌平成元年五月にはその第二期分が操業を開始している。
本件施設は、原燃産業が、これらの成果を踏まえて建設した商業プラントである。
第六本件施設の概要(<証拠略>)
一 本件施設の位置
本件施設を設置する日本原燃六ヶ所事業所は、青森県北東部の下北半島南部の上北郡六ヶ所村大石平に位置する。同事業所から近接集落の野附地区までの距離は、約一・五キロメートルである。
二 本件施設の機能等
本件施設は、発電用原子炉の燃料として供給する濃縮ウラン(最高濃縮度五パーセント)を遠心分離法により製造するものである。
本件施設は、昭和六三年一〇月に建屋工事に着手され、平成四年三月に操業が開始された。分離作業能力は、操業開始当時は一五〇トンSWU/年であったが、その後のカスケード設備(配管により接続された遠心分離機群)等の増設に伴う向上により、平成一〇年一〇月以降は一〇五〇トンSWU/年となっている。
また、本件施設におけるウランの貯蔵能力は、ウラン量に換算すると、その貯蔵専用区域であるウラン貯蔵庫においては、濃縮ウラン八五トン、天然ウラン五一〇トン、劣化ウラン一八一〇トンであり、このほか加工工程内の保管区域においても濃縮ウラン七七トン(ウラン量換算)を貯蔵できる。
三 工程
本件施設における工程は、以下のとおりである。
<1> 原料の貯蔵
本件施設の原料は天然ウランであり、六フッ化ウランの形で鋼鉄製容器(以下「原料シリンダ」という。)に入れられて、ウラン貯蔵庫で一時保管される。
<2> 脱気
原料の入った原料シリンダを発生槽に装着し、シリンダ内の圧力及び発生槽内の温度を測定して原料六フッ化ウランの純度を調べ、純度が低い場合は必要に応じてシリンダ内の不純ガスを含む気体を排出する脱気を行い、原料六フッ化ウランの純度を高める。
<3> 発生
発生槽に装着した原料シリンダを温水で加熱することにより六フッ化ウランを気化し、六フッ化ウランガスを発生させる。
<4> 濃縮
発生工程で発生させた六フッ化ウランガスは、配管によりカスケード設備に供給され、遠心分離機により製品六フッ化ウランガス(濃縮ウラン)と廃品六フッ化ウランガス(劣化ウラン)に分離される。
<5> 製品六フッ化ウランの捕集・回収
カスケード設備で分離された製品六フッ化ウランガスは、コールドトラップ(六フッ化ウランを冷却し凝固させて捕集する設備)により捕集される。捕集された製品六フッ化ウランは、コールドトラップを加熱することにより気化され、冷却した鋼鉄製容器(以下「中間製品容器」という。)に移送し、回収される。この中間製品容器は、あらかじめ製品回収槽に装着されている。
また、コールドトラップで捕集されなかった微量の六フッ化ウランは、排気系統においてケミカルトラップ(吸着剤の化学的性質を利用して特定の物質を捕集する機器で、本件施設では六フッ化ウランの吸着を目的として吸着剤にフッ化ナトリウムを用いるものとフッ化水素の吸着を目的として吸着剤にアルミナを用いるものの二種類がある。)により捕集される。
<6> 廃品六フッ化ウランの回収
カスケード設備で分離された廃品六フッ化ウランガスは、廃品コンプレッサで昇圧された後、冷却した鋼鉄製容器(以下「廃品シリンダ」という。)に移送され、回収される。この廃品シリンダは、あらかじめ廃品回収槽に装着されている。
<7> 均質処理及び濃縮度測定
中間製品容器を均質槽に装着し、加熱することにより、容器内の六フッ化ウランを液化し、均質化(濃縮度のばらつきをなくすこと)する。その後、この液体状態の六フッ化ウランの一部をサンプルシリンダに抜き出し、更にサンプルチューブに小分けして、濃縮度及び純度の測定が行われる。これらの均質処理を終了した製品六フッ化ウランは、間接冷却される。
均質処理工程では、本件施設内で最も高温高圧の条件下で六フッ化ウランが取り扱われ、最高使用温度は摂氏九四度、その場合の六フッ化ウランの飽和蒸気圧は一平方センチメートル当たり二・七キログラム重、すなわち約二・六気圧である。
<8> 濃縮度調整
均質処理及び濃縮度測定を行った製品六フッ化ウランは、必要に応じ、濃縮度調整が必要な製品六フッ化ウランと原料六フッ化ウラン又は濃度が既知の製品六フッ化ウランとを混合する方法により濃縮度調整を行う。濃縮度調整を終えた中間製品容器は、再度均質処理及び濃縮度測定を行う。
<9> 製品六フッ化ウランの充填
均質処理及び濃縮度調整を終えた製品六フッ化ウランの入った中間製品容器を均質槽に装着し、加熱することにより製品六フッ化ウランを気化し、冷却した鋼鉄製容器(以下「製品シリンダ」という。)に移送し、充填する。この製品シリンダは、あらかじめ製品シリンダ槽に装着されている。
<10> 製品六フッ化ウラン及び廃品六フッ化ウランの貯蔵
製品六フッ化ウランは製品シリンダに充填された状態で、また、廃品六フッ化ウランは廃品シリンダに充填された状態で、それぞれウラン貯蔵庫に貯蔵される。
四 本件施設の設備等
本件施設における主要な建屋としては、ウラン濃縮建屋、ウラン貯蔵建屋、ウラン濃縮廃棄物建屋及び補助建屋があり、本件施設の主要な設備はウラン濃縮建屋に設置されている。ウラン濃縮建屋は、中央操作棟、発回均質棟及びカスケード棟に分かれており、中央操作棟には、中央制御室、常用電源室、非常用電源室、管理排水処理室、分析室等が配置され、発回均質棟には発生回収室及び均質室が配置されている。また、カスケード棟にはカスケード室、中間室及び高周波電源室が、ウラン貯蔵建屋にはウラン貯蔵庫及び搬出入棟が、それぞれ配置されている。
本件施設の主要な設備としては、カスケード設備、六フッ化ウラン処理設備、均質・ブレンディング設備及び高周波電源設備がある。このうち、カスケード設備は遠心分離機で、高周波電源設備は高周波インバータ装置で構成され、それぞれカスケード室及び高周波電源室に配置されている。六フッ化ウラン処理設備は、発生槽、製品回収槽、廃品回収槽、各種コールドトラップ、各種ケミカルトラップ、フツ化ナトリウム処理槽及び廃品六フッ化ウラン用のコンプレッサで構成されており、そのほとんどは発生回収室及び中間室に配置されているほか、一部のケミカルトラップは均質室に配置されている。均質・ブレンディング設備は、均質槽、製品シリンダ槽、原料シリンダ槽、減圧槽、コールドトラップ、各種ケミカルトラップ、サンプル小分け装置、中間製品容器及び工程用モニタで構成され、いずれも均質室に配置されている。
本件施設における工程のうち、脱気、発生、製品六フッ化ウランの捕集・回収及び廃品六フッ化ウランの回収(前記三の<2>、<3>、<5>、<6>)は六フッ化ウラン処理設備で、濃縮(同じく<4>)はカスケード設備で、均質処理、濃縮度調整及び製品六フッ化ウランの充填(同じく<7>、<8>、<9>)は均質・ブレンディング設備でそれぞれ行われ、原料、製品六フッ化ウラン及び廃品六フッ化ウランの貯蔵(同じく<1>、<10>)はウラン貯蔵庫で行われる。
第七放射線及びウランの性状(<証拠略>)
一 放射線、放射能及び放射性物質
放射線とは、アルファ線、ベータ線、中性子線等の粒子線(原子、中性子、電子等の粒子が細い幅でほぼ一定の方向に飛ぶ流れ)と、ガンマ線、エックス線等波長の非常に短い電磁波との総称である。
陽子数と中性子数の割合が不適当であったり、陽子数がある程度以上多いという理由により安定に存在することができない原子核は、原子核内で変化が起こり、何らかの粒子やエネルギーを放出する。このとき放出される粒子やエネルギーは放射線であり、放射線の種類は、原子核の変化の仕方に応じて異なっている。
そして、このように原子核の状態が変化して放射線を出す能力を放射能といい、放射能を有する物質を放射性物質という。
二 放射線に関する量と単位
放射線に関する量としては、放射線量、線量当量及び放射能量等があり、その単位としては、グレイ、シーベルト、ベクレル等がある。
物質が吸収した放射線量(吸収線量)は、ある物質が放射線の照射によりエネルギーを吸収したときのその物質の単位量当たりのエネルギー量であり、その物質一キログラム当たり一ジュールのエネルギーを吸収したときにその吸収した放射線量を一グレイ(Gy)という。グレイは国際単位系に属しており、このほかに吸収線量を表す単位としてはラド(rad)があり、一ラドは一・〇×一〇のマイナス二乗グレイに相当する。
放射線の人体に対する生物学的影響は、同じ吸収線量(グレイ値)の場合でも、放射線を受ける組織の感受性が様々で、放射線の種類やエネルギーによっても影響力が異なることから、放射線被曝の影響を計る共通の尺度として、人体に対する生物学的影響を表す放射線量(線量当量)が用いられ、単位はシーベルト(Sv)である。シーベルトはグレイと同じく国際単位系に属しており、このほかに線量当量を表す単位としてレム(rem)があり、一レムは一・〇×一〇のマイナス二乗シーベルトに相当する。なお、線量当量に関しては、放射線の人体に与える影響が放射線を受ける組織によって異なるため、各組織が受けた線量当量に組織ごとに定められた係数を乗じて補正したものの合計値として実効線量当量という概念が用いられるほか、ある特定の組織(例えば眼の水晶体)が受けた平均的な線量に線質係数(放射線の人体に与える影響が放射線の種類及びエネルギーによって異なることから、この違いを補正するための係数)を乗じたものとして組織線量当量という概念もある(単位は同じ。)。
放射能量は、単位時間当たりの原子核の崩壊数に着目して表される放射性物質の量であり、原子核が一秒間当たり一個崩壊する放射性物質の量(放射能量)を一ベクレル(Bq)という。ベクレルは、国際単位系で定められた単位で、このほかに放射能量を表す単位としてキュリー(Ci)があり、一キュリーは、三・七×一〇の一〇乗ベクレルに相当する。
三 ウランの放射能
ウランは、核分裂性の元素、すなわち一定の割合で原子核が自発的に放射線を発しながらより小さな原子核に壊れていくという性質を有する元素であり、放射性元素と呼ばれ、このように自発的に原子核が壊れる現象を放射性崩壊(又は放射性壊変)という。また、同一の元素(原子番号、すなわち陽子数が同一の物質)の中で質量数(陽子数と中性子数の合計)の違いに着目して原子の種類を区別する場合、それぞれの原子種を核種と呼び、放射性崩壊を生じる性質を有する核種を放射性核種と呼ぶ。
放射性崩壊には、アルファ線を発しながら崩壊するアルファ崩壊、ベータ線を発しながら崩壊するベータ崩壊等があるが、天然ウランに含まれるウラン二三八等の崩壊は主としてアルファ崩壊で、放出される放射線はほとんどがアルファ線(ごく一部であるが、ガンマ線も放出される。)であり、天然ウランの比放射能(単位質量当たりの放射能量)は、一グラム当たり約二・五×一〇の四乗ベクレル(約〇・七マイクロキュリー)である。
アルファ崩壊後のウラン二三八ないしウラン二三五は、やはり放射性核種であるトリウムの同位体となり、更に約一日(ウラン二三五の場合)又は約二四日(ウラン二三八の場合)の半減期(ある放射性核種の数が放射性壊変により半分になるまでの時間)でベータ崩壊を起こし、更に何回ものアルファ崩壊及びベータ崩壊を繰り返して様々な種類の放射性核種に変化し、最終的には放射能を持たない鉛の安定同位体となる。このようにウラン二三八やウラン二三五が放射性崩壊を繰り返す過程で変化する様々な放射性核種を娘核種といい、これらの半減期は一秒未満から数十万年であって、半減期がおよそ四四億七〇〇〇万年のウラン二三八やおよそ七億四〇〇万年のウラン二三五と比較して、相対的に短い。
また、ウランは、右のように放射性崩壊によって自発的に放射線を発するほか、原子核に中性子等が衝突した場合には、核分裂反応を起こし、原子核が複数に分裂するとともに、大きなエネルギーと二個又は三個の中性子(中性子線)とを放出する性質を有している。この性質を利用するのが原子炉であることは前記のとおりである。
第二部 当事者の主張
第一章 原告適格(主位的請求及び予備的請求に共通の争点)
(被告の主張)
もんじゅ最高裁判決は、原子炉施設に係る設置許可処分を争う原告適格に関して、当該住民の居住する地域が、右の放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かを判断するための手法として、「当該原子炉の種類、構造、規模等の当該原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で、当該住民の居住する地域と原子炉の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らし、合理的に判断すべきものである」と判示している。そうすると、加工事業許可に係る規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号が、単に公衆の生命、身体の安全等を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、当該加工施設周辺に居住し、放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解した場合、この判断手法は、原子炉施設のみならず、加工事業許可処分を争う原告適格の有無を判断する場合についても妥当するものといえる。
ただし、それぞれの加工施設によりその潜在的危険性は異なるものであるから、本件においても、本件施設の種類、構造、規模等の具体的な諸条件によって認められるその潜在的な危険性の程度と、当該住民の居住する地域と施設との距離関係を合わせ考慮して、社会通念に照らし、原告適格の有無を判断すべきことになる。具体的には、次のとおりである。
一 原告らの訴状記載の住所地は、近くは本件施設の所在地である青森県六ヶ所村から、遠くは関東地方の東京都・横浜市等、関西地方の大阪市・京都市等、九州地方の福岡市・鹿児島県指宿市等にまで及んでいる。
二 一方、本件施設は、発電用原子炉の燃料として供給する濃縮ウラン(最高濃縮度五パーセント)を遠心分離法により製造するもので、当初の分離作業能力は毎年六〇〇トンSWUである。
そして、本件施設の濃縮工程においては、ウラン二三五の濃縮度は五パーセント以下であり、また、本件施設にその最大貯蔵量のウランが貯蔵されるとしても、その放射能量は二〇〇〇キュリー程度であり、原子力施設としては放射能量が最も少ない施設の一つとして位置づけられている。また、本件施設は、原子炉のようなエネルギーの生産施設ではないので、熱の発生がなく、内包するエネルギーも小さい。
さらに、原料及び製品である六フッ化ウランは、不燃性で、爆発性もない化合物であり、その濃縮工程においては、常に未臨界の状態で取り扱われるのはもちろんのこと、固体、液体及び気体の状態変化はあるが、化学変化はなく、最高使用温度で摂氏九四度と比較的低温で、ほとんどが大気圧以下で取り扱われるなど、その工程は、単純でかつ本来的に安全性が高いものである。
三 以上の、種類、構造、規模等の本件施設に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で、原告らの居住する地域と本件施設の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らして検討すると、本件施設は、前記のように発電用原子炉の燃料として供給する濃縮ウランを遠心分離法により製造するもので、原子力施設としては放射能量が最も少ないものの一つであり、また、熱の発生がなく、内包するエネルギーも小さいものである上、原料及び製品である六フッ化ウランは、不燃性で、爆発性もない化合物であり、その濃縮工程では、常に未臨界の状態で、かつ、化学変化はなく、比較的低温で、ほとんどが大気圧以下で取り扱われるなど、その工程は、単純でかつ本来的に安全性の高いものである。したがって、本件施設の有する潜在的な危険性は、もんじゅ最高裁判決で対象とされた原子炉施設と比較すれば、比べようのないほど小さいものということができるから、社会通念に照らして合理的に判断するならば、関東地方、関西地方、九州地方に居住する原告らについてはいうまでもなく、本件施設のある六ヶ所村に居住する原告らについても、その居住する地域が本件施設の放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるとはいえないことは明らかである。
四 右のとおり、もんじゅ最高裁判決の趣旨に照らして検討してみても、原告らは、本件において、社会通念上、本件施設の放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるとはいえない地域に居住するのであるから、本件許可処分の無効確認及び取消しを求める法律上の利益を有する者には該当せず、原告適格を欠くものというべきである。
(原告らの主張)
一 もんじゅ最高裁判決の判断手法に従って本件を検討すると、本件施設で処理されるウランは、人体に対し強度の放射性毒性及び化学的毒性を有するものであり、しかも本件施設にはそれが最大二四〇〇トンを超えて使用貯蔵される。また、本件施設には同様に人体に有害なウランの崩壊生成物も大量に存在する。したがって、原告らは、日常的な放射能の放出により生命身体等に直接的かつ重大な被害を被る危険性が存するほか、本件施設は地震、航空機事故、火災・爆発等による施設破壊の危険性があり、ひとたび事故が発生すれば、次のとおりその影響は広範囲にわたり、原告らが本件施設から大量に放出される放射性物質及び放射性降下物によってその生命、身体を侵害されるおそれがあるのは明らかである。
本件施設の破壊時に放出されるウランの量は、控えめに見積もって、施設全体のウランの貯蔵能力である二四〇〇トン余り(濃縮ウラン八五トン、天然ウラン五一〇トン、劣化ウラン一八一〇トン)のうち五パーセント濃縮ウラン一〇トンと想定して、以下検討することとする。また、本件施設で事故が発生した場合、ウランは、まずは六フッ化ウランの形で放出され、これがフッ化ウラニルに変化するが、環境中では更に二酸化ウランないしは八酸化三ウランに変化すると考えられるので、以下では、酸化ウランの形態で計算を行う。また、環境中に放出された放射性物質がどのようにして大気中に拡散され、人体に摂取されて被曝をもたらすかは、いわゆる拡散式と摂取モデルによって推定される。拡散式とは、粒子の大きさや天候状態、大気安定度により左右される拡散の状況を一定の仮定の下に計算するもので、ここでは「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について」(昭和五七年一月二八日原子力安全委員会決定。以下「気象指針」という。)に従ってパスキルの計算式を用い、大気安定度をF(大気に逆転層ができ、放射性物質が上空にまで上がらず遠くにまで影響を与える場合)と仮定し、風速を毎秒二メートル、ウランは地上〇メートルからミスト状の小さな粒子となって放出拡散したとの条件で試算を行う。その結果、年間一〇〇ミリレム(一ミリシーベルト。ただし、本件許可処分当時は五ミリシーベルトと定められていたが、現時点において一ミリシーベルトの限度を上回ることは許されない。)と定められている一般公衆の被曝限度を超える範囲は、約七〇〇キロメートル風下の地域までに及ぶこととなり、実際の地図上では、本件施設から六〇〇キロメートル程度離れた東京都を含むことになる。しかも、地震、航空機、あるいは火災・爆発による施設破壊により本件施設に内蔵されるウランが全量放出する潜在的危険性があり、約六〇〇トン相当分のウランが全量放出した場合は、東京都での被爆線量は〇・三八ミリシーベルトであり、八〇〇キロメートル離れた松本市、名古屋では〇・〇六ミリシーベルトである。
したがって、原告らは、本件許可処分の無効確認訴訟及び取消訴訟を提起するについて「法律上の利益を有する者」に該当する。
二 規制法一四条一項二号(経理的基礎に係る部分に限る。)所定の経理的基礎のない者に事業許可を与えれば、不完全なウラン濃縮工場を建設するおそれがあることは見やすい道理であり、災害防止のためにはこのようなことは防止しなければならない。右経理的基礎の要件は、災害防止を資金面から担保し、もって周辺住民個々人の利益をも保護する趣旨のものである。
(被告の反論)
事故による影響評価に関する原告らの主張は、以下に述べるとおり現実離れした恣意的なものであり、「被害を受ける蓋然性」を基礎づける主張としては失当である。
一 原告らは、周辺住民への被害を評価するに当たり、想定される事故により濃縮ウラン一〇トンが環境中に放出されると主張するが、いかなる状況の下に、どのような機序で濃縮ウランが漏洩し、どのような計算によってそれを一〇トンと見積もったのかについて、何らの根拠を示していない。
なお、本件施設における最大想定事故により建屋外へ漏洩するウラン量は一・七×一〇のマイナス二乗グラムにすぎないし、仮に航空機が本件施設のウラン貯蔵建屋に墜落したとしても、建屋外へ漏洩するウラン量は〇・三キュリー(五パーセント濃縮ウランで約一一〇キログラム相当)程度である。
二 本件施設ではウランは六フッ化ウランの形態で取り扱われており、これが空気と接触すると空気中の水分と反応してフッ化ウラニルに変化するものの、フッ化ウラニルは常温では安定した物質であり、通常の環境中では、二酸化ウランや八酸化三ウランに変化しないことは、科学技術上の知見として明らかである。
また、このように酸化ウランの形態をとる場合には、吸入摂取による単位ウラン量当たりの被曝線量はフッ化ウラニルの場合の約五〇倍になるため、計算上の被曝線量を大幅に引き上げることとなる。したがって、ウラン全量について酸化ウランの形態で被曝線量の計算を行っている原告らの計算は、恣意的なものであり、失当である。
三 原告らが行った試算の方法は、その基づく気象指針にのつとったものではなく、またその計算値も実態とかけ離れたものであり、失当である。
第二章 憲法上及び法律論上の主張(主位的請求の争点)
第一規制法一三条一項にいう「加工の事業」該当性
(原告らの主張)
ウラン濃縮については、制定当初の規制法や規制法施行令には明文規定がなかったところ、昭和五九年六月一八日、加工事業規則が改正され、加工施設の中に「濃縮施設」が追加された。これによって、以後事業として行われるウラン濃縮は、規制法三章の「加工」に該当するという政府解釈がとられることとなった。本件許可処分も、このような政府解釈に従ってされたものである。
しかし、右の政府解釈は、以下の点から誤りであることが明らかであって、「加工」は「濃縮」を含まないものと解釈するのが相当であり、したがって、我が国の法体制においては、国内でウラン濃縮を行うことは禁止されており、何人もこれに対して許可処分をすることはできない。しかるに本件許可申請は、ウラン濃縮事業をその内容とするものであることは明らかであるから、これに対してされた本件許可処分は、法令の根拠に欠けるものであり、その違法性は重大かつ明白なものであるから、当然無効のものであるといわねばならない。
一 文理解釈
1 文理解釈上、濃縮が加工に含まれると解する余地はない。すなわち、規制法においては、加工とは「核燃料物質を原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために、これを物理的又は化学的方法により処理することをいう」と定義されている(二条六項(現在の同条七項))。
これに対し、濃縮を定義するとすれば、核燃料物質に含まれる特定の同位体の比率を変える操作ということができ、このような操作は、核燃料物質の形状や組成を変えることには含まれないし、また、そもそも「処理」とは材料に加工を施して性質を変えることをいうものであるが、濃縮は操作ではあっても処理とはいえない。
また、濃縮の具体的方法であるガス拡散法や遠心分離法、化学交換法、レーザー法などを物理的又は化学的方法と呼ぶことにも無理がある。
2 規制法の定義規定を文字どおりに読めば、ウラン燃料の場合、加工とは、物理的に形状を変えるいわゆる成型加工と、酸化ウランと六フッ化ウランとの化学的な転換・再転換の工程とを指していることが明らかである。
この点に関し、資源エネルギー庁長官官房原子力産業課作成の核燃料サイクル関係資料では、核燃料サイクルは、製錬―転換―濃縮―再転換―加工―発電―再処理―転換とされ、加工は「粉末状態の濃縮ウランを焼き固め、ペレットと呼ばれる状態に成型加工した後、ジルカロイ製の被覆管に封じ込める。こうしてできた燃料棒を、原子炉に装荷するために燃料集合体として組立てること」と説明されており、濃縮と加工は明らかに区別されている。諸外国の例をみても、英米においては濃縮(Enrichment)と加工成型(Fabrication)は区別され別個の規制がされている。
3 ウラン濃縮技術は、核爆弾製造のための軍事技術の一環として、マンハッタン計画の中で開発されたものであり、現在でも軍事転用の危険性を内包する技術である。このため、アメリカでは、ウラン濃縮事業は国の独占的所有とされており、我が国でも、原子力基本法の基本方針である平和の目的に限り原子力利用がされるべきことを受けて、規制法一条が、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られる」と規定している。このため、規制法二四条は原子炉設置の許可基準として、四四条の二は再処理事業者の指定基準として、いずれも「平和の目的以外に利用されるおそれがないこと」を掲げている。これに対し、加工事業の許可基準としては、規制法はこの平和利用の要件を要求していない。
そうすると、濃縮は加工に含まれるという政府解釈の下では、軍事転用の危険性の高い濃縮技術について、これを平和利用目的に限定させるための原子力委員会の審査は行われないこととなってしまうという、法規制の実際上も極めて不都合な結果とならざるを得ない(規制法一四条二項)。このことは、当初加工は核燃料サイクルのさほど重要でない一段階であり、軍事転用の危険性もないと考えられていたことを裏付けるもので、このことからも加工が濃縮を含まないことは明らかである。
また、規制法は、製錬、加工、原子炉の設置及び運転、再処理、核燃料物質の使用等について、許可ないしは指定の要件上、目的及び主体を限定して再処理を最も厳しく規制し、次に目的を限定して原子炉の設置及び運転と使用を厳しく規制しており、製錬と加工については、これより緩やかな規制が行われている。しかして、もし規制法制定当時に濃縮についての規定が設けられた場合、主体を公社に限定するような再処理と同程度の規制がされていたと考えるのが自然であり、このような考え方は、昭和三三年一二月二四日の原子力委員会の決定においても明らかにされている。にもかかわらず、規制法は、加工事業を民間の事業者が自由に行うことができるとしており、このような内容の立法がされたということは、濃縮が加工に含まれないことを示している。
二 立法者意思
規制法制定当時、国内においてウラン濃縮を行う計画は全くなく、立法者の意思は、国内での濃縮を想定していない。
このことは、制定過程の昭和三二年五月六日開催の第二六回国会衆議院科学技術振興対策特別委員会に説明員として出席した二名の原子力委員会委員が、国内で濃縮を行うことは全く念頭になく、専ら外国又は国際機関より入手することを前提とした説明をしていること、島村武久原子力委員会委員(当時)が、電気新聞(昭和四八年一一月二七日付け)の「ウラン濃縮雑感」と題する文章中で、「歴史を振り返って一九五六年わが国最初の長期計画をみると、(中略)ウラン濃縮については一言も触れられていない。それは隔膜法の事しか伝え聞いていなかった当時、莫大な電力を必要とする濃縮ウランによって発電を行うことは日本の国情に適わしくないと考えられたからであった。」と述べていることから裏付けられる。
また、原子力技術の重要な構成要素として、濃縮という段階があることは規制法制定当時から明らかであったのであり、濃縮ウランの取得方法等についての国会論議もされていたにもかかわらず、立法過程では、加工に濃縮が含まれるとの説明は一切されていない。
三 政府解釈
政府は、昭和五九年八月二日衆議院科学技術委員会における辻栄一政府委員の答弁中で、規制法の制定当時、衆参両院における委員会での提案理由中で濃縮は加工に含まれるとの説明は一言もなされていないことを認めている。
また、規制法の立法のための国会審議の冒頭における政府委員による提案理由の説明では、当時、加工技術は実施段階を予想できる段階であったこと及び加工が原子炉に使用する燃料要素の加工と説明されていることが示されており、このことから、当時実施段階が全く予想できなかった濃縮は加工に含まれず、また、加工が燃料要素ではない濃縮を含まないことが明らかである。
このほか、昭和三二年五月一八日の参議院商工委員会における政府委員の答弁中では、濃縮は当面基礎研究を始めようとする段階、加工は研究の成果を集大成して精錬工場を作る段階にあるとそれぞれ説明されており、加工と濃縮が別個の段階として捉えられている。また、右答弁中では、加工が金属加工と化学処理を指すことも示されている。
そして、政府は、自ら、一定の時期までは、ウラン濃縮技術の事業化の段階で法改正を行う準備を進めていた。すなわち、昭和五七年五月二〇日付けの原子力産業新聞中の「ウラン濃縮事業化計画 法律的裏付け問題が浮上」との見出し記事は、濃縮を加工事業規制で対処するには、立法時の経緯、核拡散上の問題点があることを指摘した上、「新たにウラン濃縮事業に関する法改正を行う可能性もでてくる」としている。このように、政府部内にもウラン濃縮事業を行うためには規制法の改正が必要との見解が存在したのである。
四 学説
塩野宏元東大教授は、「核燃料サイクルと法規制」(第一法規)の中で、濃縮という核燃料サイクルの段階は我が国では自からは実施しないということを前提として規制法は制定されているとみるのが素直であり、したがって、我が国でも転換、濃縮の技術が実用化される段階にあっては、規制法自体を改正して、少なくとも再処理と同等の規制を明文化する必要があると考えられる旨の見解を示している。
(被告の主張)
一 文理解釈について
濃縮とは、ウランの同位体であるウラン二三五のウラン全体量中に占める割合を高める工程である。本件施設においては、ウランの同位体であるウラン二三五とウラン二三八の質量の違いに着目して、遠心分離法という「物理的方法」によって、核燃料物質である六フッ化ウラン(ウラン二三五の割合は約〇・七パーセント)中のウラン二三五の割合を高め、「原子炉に燃料として使用できる」ような「組成」(ウラン二三五の割合が五・〇パーセント以下の範囲で濃縮された六フッ化ウラン)とするものである。したがって、本件施設における濃縮は、正しく規制法二条六項(現在の同条七項)の定義にいう加工に該当することは、文理解釈上明らかである。
原告らが文理解釈の裏付けとして援用する資源エネルギー庁長官官房原子力産業課作成の「核燃料サイクル関係資料」は、核燃料サイクルの各工程及び内容を平易に解説したものであって、規制法での規制の体系や同法上の用語の説明をしたものではなく、同資料中の用語は必ずしも法令上の用語とは一致しないから、規制法上の加工の解釈の根拠にはならない。また、原告らは、英米では濃縮と加工成型は区別され別個の規制がされていると主張するが、各国の原子力に係る基本的な法体系、規制の在り方はそれぞれの国で異なることは当然であり、諸外国の例により我が国の規制法上の条文解釈を行うこと自体妥当でない。
また、このほか、原告らは、規制法一四条の加工事業許可の基準に原子炉の設置の許可基準や再処理の事業の指定基準にあるような「平和の目的以外に利用されるおそれがないこと」という要件が定められていない点を指摘するが、これは、「原子炉」や「再処理」の定義中にその利用目的が定められていないために(二条四項、七項)、その利用目的を平和利用に限定するためには許可基準や指定基準に目的の要件が必要であるのに対し、加工の事業については、その定義中に「原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために(中略)処理すること」とあり、原子炉の利用目的の規制と合わせれば利用目的が平和利用に限定されることが確保されることになることから、加工の事業を許可するに当たり改めて利用目的を限定する許可基準を設ける必要がないため、平和利用目的の要件が課されていないにすぎない。
次に、規制法上の加工の事業の実施主体が再処理と同様に公社に限定されていないことも、濃縮が加工に含まれるとの解釈を否定すべき根拠となるものではない。すなわち、原告らの援用する原子力委員会決定は、当然のことながら規制法の法解釈について述べたものではなく、その時点における将来の原子力開発の構想を述べたものにすぎないのであるから、右決定の記述から規制法上の加工に濃縮が含まれないとの結論が導かれるものではない。
二 立法者意思について
規制法制定当時、我が国において将来的にウラン濃縮事業を行うとの考えが全くなかったとする原告らの主張は、以下のとおり事実に反する。
まず、原告らが指摘する二名の原子力委員会委員の説明は、海外からの濃縮ウランの入手についての当時の見通しを述べたにすぎず、これらの発言をもって、国内においてウラン濃縮を行う計画が存在しなかったことを裏付けるものということはできない。
次に、規制法制定当時に、将来的にウラン濃縮事業を国内で行うことは想定されていた。このことは、例えば、昭和三二年五月一八日の参議院商工委員会における佐々木義武政府委員の答弁で、「それからもう一つは、濃縮ウランの問題でございますけれども、これは御承知のように非常に多額の費用と電気を要する事業でございまして、日本ではなかなかすぐその段階に飛び込むにはむずかしいのでございますから、昨年度、三十一年度からこれに対する基礎研究を始めようというので、東京の工業大学に依頼いたしまして、その方面の研究をさしてございます。」として示されている。また昭和三三年一二月二四日原子力委員会決定「核燃料開発に対する考え方」においても、「低濃縮ウラン燃料を使用する動力炉の将来性にかんがみ、わが国においてもウラン濃縮の技術を開発する必要がある。(中略)濃縮に有利な性質をもった新ウラン化合物、新しい濃縮法等わが国に適した濃縮技術の研究を強力に促進する。」との方針が決定されているのである。このように、規制法制定当時、将来的にウラン濃縮事業を国内で行うことは想定されていたものということができ、当時国内においてウラン濃縮事業を行う計画は全くなかったとする原告らの主張は明らかに事実とは異なる。
なお、仮に、規制法制定当時に国内でウラン濃縮事業を行う具体的な計画がなかったとしても、そのことは、直ちに規制法上、ウラン濃縮事業が「加工の事業」に含まれないと解すべき根拠となるものではない。
三 政府解釈について
規制法制定当時には、濃縮業務はまだ日本国内において事業として行う程度には成熟していなかった。したがって、実験レベルで行われていたウラン濃縮に関する研究は、同法五二条以下に定める使用として規制されてきた。その後、我が国における濃縮業務が動燃事業団の人形峠事業所ウラン濃縮原型プラントのように同法によって事業として規制すべき程度に発展し、具体的に規制対象とすべき事業が出現するに至ったことを受け、成型加工等、当時の加工の事業の実態に即して定められていた加工事業規則を一部改正し、加工事業許可申請書や設計及び工事の方法の認可申請書の記載事項等に濃縮施設に関する規定を追加することとしたのであり、右加工事業規則改正の前後を通じて、濃縮事業についての政府の解釈は一貫しており、変更された事実はない。
原告らの指摘する辻栄一政府委員の答弁は、規制法の制定当時に政府が濃縮は規制法の加工に含まれるとの積極的な説明はしていないというにすぎず、ウラン濃縮事業が同法の「加工の事業」に含まれないことを認めたものでもなければ、規制法制定当時政府がそのような見解を採っていたことを表明したものでもない。すなわち、辻栄一政府委員は、従来の政府解釈について、「私ども最近になって先ほど述べた解釈を変えたわけではございませんで、事業の実態が出てきたので具体的な対象事業が出てきたということで考えております。」と答弁しており、また、加工事業規則の改正については、「これは、ウラン濃縮が加工の業に含まれるか否かという議論ではなくて、我々の考えといたしましては、具体的に動燃における事業が加工の業として考えた方が適当であるという事態に進展してまいった、そういう規制する対象の事業が具体的にあらわれてきたのでここに入れたのであるという考え方でございます。」と答弁しており、これらの答弁によれば、右加工事業規則改正の前後を通じてウラン濃縮事業が加工事業に含まれるという政府の見解に変更がないことは明らかである。
原告らは、規制法制定当時の政府の提案理由説明及び国会答弁を援用してるる主張する。しかしながら、これらは、いずれも規制法における加工の事業にウラン濃縮事業が含まれない旨を述べたものでもなければ、ウラン濃縮を事業として実施する場合には法律の改正が必要であるとの考えを明らかにしたものでもない。したがって、原告らの主張に係る右各事実は、ウラン濃縮が規制法上の加工に該当するとの解釈を否定すべき根拠となるものではなく、原告らの主張は、いずれも失当である。
また、政府部内にも法改正が必要との見解が存したとの主張についても、原告らの援用する昭和五七年五月二〇日付け原子力産業新聞中の記事は、原告らの右主張を裏付けるものではない。
四 学説について
原告らは、規制法がウラン濃縮事業を予定していないことは学説からもうかがえるとして、塩野宏編著「核燃料サイクルと法規制」中の記述を援用する。
しかしながら、塩野宏教授は、右の中で、「「加工」の中に読みこむという解釈もあるかもしれないが、論議の残るところであろう。」とも述べており、規制法の解釈として、必ずしもウラン濃縮事業が「加工の事業」に含まれないと断定したものとはいえない。
一方、学説上は、ウラン濃縮事業を「加工」の事業として規制することを認める見解も存在しており(例えば、藤原淳一郎「原子力と立法」(ジュリスト八〇五号所収))、学説上の見解をもって条文解釈の決め手とすることは妥当でない。
第二憲法一三条、一四条、二五条違反
(原告らの主張)
原子力発電の危険性の根源は、原子力発電所を運転することによって必然的に大量に発生する死の灰やプルトニウムなどの放射性物質にある。一〇〇万キロワット級の原発を一年間運転すると、原子炉の中には広島型原爆がばらまいた量の約千倍分の死の灰と長崎型原爆を約五〇発も作ることができるプルトニウムがたまる。この半減期二万四千年のプルトニウムこそは、人間が作りだした最悪の毒物だということができる。そして、これらの放射性物質の安全な管理方法については、いずれの国も解決に苦しんでいて、安全管理方法を確立した国はいまだなく、今後もその確立は技術的に疑わしいとするのが世界の技術的状況である。
このような、人類がこれまで取り扱ったことがないほどに危険で、しかも安全管理技術の確立されない超毒物である放射性物質を大量に作り出す原子力発電所、核燃料サイクルの推進を許す原子力基本法及び規制法は、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を定める憲法一三条、法の下の平等を定める憲法一四条(原子力施設周辺の住民を、そこに居住しているという社会的身分により放射線被曝線量の点で差別している。)、生存権を定める憲法二五条に違反し、違憲である。
(被告の主張)
原子力基本法及び規制法は、核燃料物質等は適正な規制をすることにより安全に管理することができることを前提として、エネルギーの安定した供給を確保することによって人類社会の福祉と国民生活の水準向上に寄与するよう定め、あるいは原子力の平和利用の計画的推進や前提となる安全性の確保のために必要な具体的規制を行うのであるから、むしろ、幸福等を追求する国民の権利(憲法一三条)、国民の平等(憲法一四条)、健康で文化的な生活や社会福祉(憲法二五条)の憲法上の権利は、いずれもこれらの法律を通じて具体化され、広く積極的に実現されるのであり、これらの法律が憲法に違反するものでないことは明らかである。
また、規制法は、原子力基本法の精神にのっとり、原子力の利用に関して各分野ごとに、また、各段階ごとにそれぞれ規制を行うことによって安全性を確保する構造となっており、これによって、公共の安全を確保する法体系が採られているのであるから、これらの法規が、原子力施設周辺住民の憲法上の右各権利を侵害するものであるとはいえない。
第三憲法三一条違反
(原告らの主張)
憲法三一条以下の適正手続条項は、直接には刑事手続を対象としているが、行政手続にもその保護が及ぶことは今日の確立した判例といってよいし、核燃料加工事業許可処分が、罪に該当する特定の行為に対する反動として及ぼされる刑罰と比較して無条件に人権の制約を及ぼすものである点において、あるいは及ぼされる害悪が生命や健康の侵害という刑罰に匹敵するものである点において、刑罰と同等かそれ以上の人権侵害に当たることを考えれば、右処分には当然憲法三一条の適正手続保障が及ぼされなければならない。
そして、憲法三一条からは、加工事業許可処分手続における許可の基準は、行政が政治的経済的な様々な要請を受けて行う恣意的な政策的判断から住民等の生命と健康に対する憲法上の人権を保障する歯止めとなる必要上、原子力行政に関する政策的裁量に委ねられる余地はなく、定量的かつ明白なように直接に法律でもって規制されていなければならない(明確性の原則)。また、公正な処分を行う不可欠の前提として、関係住民に対して告知聴聞の機会を与え、同時に許可処分に際して事前に許可申請書、添付書類を始めとする安全審査資料を公開することが義務づけられているものと考えられる(民主、公開の原則・原子力基本法第二条)。
ところが、規制法一四条の許可基準は、定量的かつ一義的に明確とはいえないどころか、全くの白地規定といわざるを得ない。また、規制法には告知聴聞及び事前資料公開に関する規定は存在しないし、原子力委員会や原子力安全委員会の審査をもって核の危険性にさらされる住民に対する説明と同意に代置することもできない。したがって、規制法一三条、一四条は、憲法三一条に違背する違憲無効なものであり、右規定を根拠としてされた本件許可処分は違憲、違法である。
(被告の主張)
一 憲法三一条の規定が、本来、刑事手続の保障に関するものであることは、その文言自体からも同条が次条以下の刑事裁判手続上の人権保障の諸規定を率いる形で置かれていることからも明らかである。
もっとも、行政手続においても、憲法三一条にいう適正手続の精神が尊重されるべきことを否定するものではない。しかしながら、すべての行政処分について、不利益を被る関係者に対し告知、弁解、防禦の機会を与えなければならないわけではなく、憲法三一条の精神に照らせば、行政手続のうち憲法三一条の保障の対象となるものは、刑罰と実質的に同視し得る秩序罰や執行罰等についてであるというべきである。
これに対し、刑罰の性質を有しない行政手続において行政処分の手続的な適正公平が必要とされる根拠は、当該処分の根拠とされた実定法の趣旨、すなわち、当該処分について行政庁の処分要件を定める授権規定に内在する黙示の要請によるものであって、憲法上の要請ではなく、このような行政手続にあっては、当該処分の目的、性格並びにそれによって制約を受ける国民の権利の内容及び制約の程度、態様に照らして合理的かつ適正と認められる手続によれば足りる。
二 加工事業許可処分は、その許可の要件を定める規制法一四条一項の規定の文言に照らし、さらに許可権者である内閣総理大臣の検討すべき内容に照らし、広範かつ高度な、原子力行政に関する政策的裁量と、加工施設の安全性に関する専門技術的裁量とを伴う裁量処分であるというべきであり、特に、一四条一項三号の要件に関しては、同号が抽象的な要件を設定するにとどめているのは、加工事業許可の際、加工施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性について問題とされる事柄が複雑、高度の専門技術的事項にかかわるものであり、しかもそれについての技術及び知見が不断に進歩、発展、変化しつつあることを考えるならば、右の許可要件について法律をもってあらかじめ具体的な定めをしておくことは実際上極めて困難であるのみならず、かえって判断の硬直化を招き適切な審査を行い難くするおそれがあり、相当でないとする趣旨によるものである。
右の趣旨において、立法機関が規制法一四条の要件を定めたことはもとより合理性のあることであり、仮に憲法三一条の要請が行政手続にも及ぶとしても、規制法一四条一項が憲法三一条に違反しないことは明らかである。
三 また、仮に憲法三一条の要請が行政手続に及ぶとしても、告知聴聞、資料の事前公開に関する規定のないことをもって、憲法三一条に違反するということはできない。すなわち、加工事業許可については、行政庁自らがその要件を審査するとともに、原子力委員会、原子力安全委員会(これらの委員会は、許可権者である内閣総理大臣その他の行政機関から指揮命令を受けることなく、各委員会自体において審議し、決定する機関であり、その各委員は、設置法五条一項及び二二条により、両議院の同意を得て内閣総理大臣により任命される。)の審査を経ることとされ、許可権者である内閣総理大臣は、右両委員会の意見を聴き、これを十分に尊重しなければならない(規制法一四条二項)とする等、法令による厳格な手続を踏まえた上でされるのであり、憲法三一条にいう適正手続の内容を十分に具体化したものとなっている。
第三章 審理判断の枠組みに関する法律論(予備的請求の争点)
第一取消訴訟における処分の違法事由の主張制限
(被告の主張)
主観訴訟たる取消訴訟の本質は、取消判決によって違法な行政作用を排除し公益に資することを目的とするものではなく、行政庁の処分によって原告の被っている具体的権利、法的利益の侵害の救済を目的とするものである。このことから、取消訴訟の本案前の訴訟要件としての原告適格について、当該処分等の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」(行訴法九条)に限定するとともに、これと別個に本案審理についても、行訴法一〇条一項の規定が設けられたのである。したがって、右一〇条一項にいう「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは、行政庁の処分に存する違法のうち、原告の個人的権利、利益の保護を目的として行政権の行使に制約を課するため設けられたのではない法規に違背したにすぎない違法をいう。
これを本件についてみると、原告ら主張の事由のうち以下の点については、行訴法一〇条一項の適用により本件予備的請求の審理対象とはならない。
一 加工能力が著しく過大にならないこと
加工事業許可の要件を定めた規制法一四条一項各号のうち、その一号において「その許可をすることによって加工の能力が著しく過大にならないこと」として、内閣総理大臣の許可権限の行使に制約を課した趣旨は、専ら核燃料物質の加工の能力が著しく過大となることにより不当な競争を引き起こし、核燃料物質の需給状況を混乱させて、原子炉燃料の計画的な供給を阻害することを防止し、原子力開発利用の計画的遂行を図ることにあるのであって、加工施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的とするものでないことは明らかである。
したがって、本件許可処分の要件のうち、規制法一四条一項一号に係る違法事由については、原告らの法律上の利益に関係ない違法事由であるから、本件予備的請求の審理の対象とはならない。
二 経理的基礎
規制法一四条一項二号のうち、経理的基礎の要件が定められている趣旨は、加工事業には多額の資金を要することにかんがみ、主として加工事業による災害の防止を加工事業者の資金的な面から担保し、もって公共の安全を図ろうとするものにほかならず、専ら公益の実現を目的とするものであって、これも加工施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的とするものではないことは明らかである。
したがって、本件許可処分の要件のうち、規制法一四条一項二号の経理的基礎に係る違法事由については、原告らの法律上の利益に関係がないから、本件予備的請求の審理対象とはならない。
三 労働者被曝
本件施設の従業員の安全性に関する事項は、規制法一四条一項三号にかかわる事項ではあるものの、原告らは本件施設で労働に従事する者ではないから、原告ら自らの法律上の利益には関連を有しない事柄というほかなく、行訴法一〇条一項によりこれを本件予備的請求の審理の対象とすることはできない。
(原告らの主張)
行訴法は、被告が主張するような厳格な主張制限を取消訴訟に加えるものではない。
すなわち、行訴法一〇条一項の規定は、行政訴訟も国民の権利保護に仕える主観訴訟であるとの理念を表すために、その効果を深く考えることなく、いわば不用意に立法された規定であって、立法者も、取消訴訟での審理対象を純然たる私益保護条項の違反だけに厳格に限定しようとする意図は有していなかったというべきである。なぜなら、取消訴訟は主観訴訟ではあるけれども、同時に公権力の統制にも資する客観訴訟性を併せ持っている以上、取消訴訟での審理対象は、純然たる私益保護要件の定めだけでなく、処分に関連するすべての規定、さらには法の一般原則などの不文法も含めて広く包括的にあらゆる違法事由に及ぶというべきだからである。したがって、行訴法一〇条一項の規定は、法治主義の原則の例外として、いかなる意味でも原告の利益と関係のない、特異な違法事由の主張を排除しようとする趣旨であると解するのが相当である。
また、第三者の利益の主張についても、その制限に関する問題は、既に事件・争訟が適正に成立している場合に、裁判所がどこまでを考慮に入れて判断できるかという問題であるが、少なくとも第三者が自らその権利を主張し得ず又は主張することが極めて困難であるという事情がある場合には、訴訟当事者にその第三者の権利を主張することを認めても、司法権との関係では問題はないというべきである。
右のことを具体的にみると、次のとおりである。
一 経理的基礎
規制法一四条一項二号のうち経理的基礎に関する部分の要件は、経理的基礎のない者に事業許可を与えれば不完全な加工施設を建設するおそれがあることから、災害防止を資金面から担保して、もって周辺住民個々人の利益を保護するものとして加工事業許可処分の要件とされたものであると解するべきである。
二 労働者被曝
原子力施設において、労働者は事業者から強い圧力を受けており、自らの権利を主張することは事実上困難である。その上、放射能による障害は、それが生じた後にその原因が原子力施設から放出された人工放射線に起因するものであることを立証することがほとんど不可能であり、その意味でも、本件施設の従業員が本件施設について危険性を主張し権利主張することは極めて困難であり、したがって、原告適格が認められた原告に対して行訴法一〇条一項を適用して本件施設の従業員の安全性について主張制限をするべきではない。
また、労働者の被曝による健康障害やそのおそれにより、これらの者の就業場所や業務の転換、作業方法の変更等が必要となるが、このようなおそれ等が高ければ高いほど労働者の健康保持のために就業場所や業務の転換等の措置は頻繁とならざるを得ない。そして、就業場所や業務の転換、作業方法の転換等の頻度が高まれば、就業者の特定作業に対する熟練を妨げ、作業におけるチームワークの形成を阻害する等、施設の操業運転上の安全管理が十分に保たれなくなるおそれがあり、このことは、重大事故につながるヒューマンエラーを引き起こし、ひいては周辺住民の安全が脅かされることになりかねない。このように、労働者被曝の問題は、単に労働者自身の権利の問題であるのみならず、原告らの権利侵害のおそれとも関連している。
(被告の反論)
原告らの主張は、抗告訴訟を主観訴訟と位置づけている我が国の行政事件訴訟においては、到底是認できず、単なる立法論にすぎないものである。行訴法一〇条一項の主張制限は厳格に解すべきでないとの原告らの主張についても、右規定が主観訴訟たる抗告訴訟の本質によるものである以上、原告らの主張するような第三者の権利についてまで漫然と審理の対象とすることができないことは当然のことである。
第二基本設計以外の事由の主張制限
(被告の主張)
一 規制法における安全規制の体系
加工事業に関する規制法における安全規制の体系の特色は、加工施設の設計から事業開始に至る過程を段階的に区分し、それぞれの段階に対応して加工事業許可、加工施設の設計及び工事の方法の認可、施設検査、保安規定の認可等の規制手続を介在せしめ、これら一連の規制手続を通じて加工事業に係る安全確保を図るという方法に基づく段階的安全規制の体系が採られていることである。すなわち、加工事業を行おうとする者は、まず、内閣総理大臣の加工事業許可(規制法一三条一項)を受けなければならず、この加工事業許可に際しての安全審査(規制法一四条一項三号要件適合性についての審査)の機能は、加工施設の詳細設計及び工事の前提となる基本的事項すなわち基本設計ないし基本的設計方針を確定し、これらに対し一定の枠づけを与えることにある。
次に、加工事業許可を受けた者は、加工施設の工事に着手する前に、右の枠づけを前提として細部の設計を行い、その設計及び工事の方法について内閣総理大臣の認可を受けねばならない(規制法一六条の二第一項)。加工施設の工事はこの認可に係る詳細設計に従って行われ、工事の各段階において、完成した部分の使用開始前に、内閣総理大臣の施設検査が実施され、これに合格しなければならない(規制法一六条の三第一項)。なお、総理府令(加工事業規則三条の八)に定める加工施設であって溶接をするものについては、その溶接の方法について内閣総理大臣の認可を受け、かつ、その溶接について内閣総理大臣の検査を受け、これにも合格しなければならない(規制法一六条の四第一項)。
さらに、事業の開始前に加工事業者及びその従業者が核燃料物質による災害を防止するために守らなければならない事項を保安規定として定め、これにつき内閣総理大臣の認可を受けなければならない(規制法二二条一項)。
以上要するに、規制法等による加工施設の安全確保に関する行政規制の体系は、加工事業許可に際しての安全審査を土台として段階的に行われるのであり、それぞれの段階において、かつ、その全過程を通じて、所要の安全確保が図られているのである。
二 本件予備的請求の審理の対象となる事項
右のとおり、加工事業に関する規制法における安全規制の体系は、加工施設の設計から事業開始に至る過程を段階的に区分し、それぞれの段階に対応して、一連の許認可等の規制手続を介在せしめ、これらを通じて加工事業に係る安全確保を図るという方法に基づく段階的安全規制の体系が採られている。加工事業許可手続を加工事業に関する段階的安全規制の体系の中に位置づけて、加工事業許可に際しての安全審査の対象となる事項について考察すれば、それが加工施設自体の安全性に直接関係する事項に限られ、かつ、加工施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関する事項に限られるものであることは明らかである。したがって、加工施設自体の安全性に関係する事項であっても、例えば、その詳細設計や具体的運転管理に関する事項のごときは事業許可の際の右安全審査の対象に含まれない。
そして、本件取消訴訟の本案審理の対象は、本件許可処分の違法性の存否、すなわち本件許可申請が規制法一四条一項各号所定の許可要件に適合するとした内閣総理大臣の判断における違法性の存否であるから、本件取消訴訟の本案審理の対象となる事項は、本件許可申請に対して内閣総理大臣がした規制法一四条一項各号所定の許可要件適合性審査の対象事項に限定され、加工施設自体の安全性に関係する事項であっても、その詳細設計や具体的運転管理に関する事項のごときは本件取消訴訟の審理の対象にはならない。
(原告らの主張)
以下のとおり、被告の主張は、規制法に何ら根拠がなく、また規制法が原子力安全委員会に安全審査を行わせている趣旨に反するものであり、被告の主張する基本設計も被告自らその定義も範囲も明らかにできない恣意的な概念であり、規制法が規定する基本的処分の申請書の記載事項を横断的に考察すればたちまち破綻する場当り的な議論であって規制法の条文の解釈として到底採り得ない。また被告の主張する詳細設計以降の手続はこれまでの原子力関係施設における事故の原因の大半を含んでおり、そのような重要な手続に原子力安全委員会が何ら関与しないのは妥当でなく、さらに住民の権利を侵害する結果になるなど実質的にも全く不当である。よっていずれの点からも被告の主張する基本設計論が成り立つ余地はない。
一 原子力基本法は、「原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図るため、総理府に原子力委員会及び原子力安全委員会を置く。」とし(同法四条)、「原子力安全委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する事項のうち、安全の確保に関する事項について企画し、審議し、及び決定する。」としており(同法五条第二項)、これを受けて規制法は加工事業許可に際し、加工施設の位置、構造及び設備が核燃料物質による災害の防止上支障がないものであること及びその事業を適確に遂行するに足りる技術的能力があることの基準につき内閣総理大臣は原子力安全委員会の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならないとしている(規制法一四条)。他方、設計及び工事の方法の認可以降の手続においては原子力安全委員会の意見は法律上も実際も求められない。
このような法体系からすれば、加工事業に伴う安全の確保については原子力安全委員会がすべて審議・決定する必要があり、原子力安全委員会の関与が事業許可に限られている以上、事業許可の際の安全審査において、加工施設の設計、建設、運転、廃棄物処理等の全分野にわたって、後続する手続と実際の工事運転により加工施設の安全が脅やかされることがないことを担保できる程度まで詳細に、安全に関する事項を審査しなければならないと解さざるを得ない。
二 被告は、原発訴訟において昭和五二年以降原子力施設をめぐるすべての行政訴訟で基本設計論を主張しているが、いまだにいずれの訴訟においても基本設計の定義と範囲を明らかにすることができていない。被告は基本設計論を維持するのであれば直ちにその主張する基本設計の定義、範囲、詳細設計との区別の判断基準を明確にしなければならない。
三 被告の主張によれば、事業許可の際に基本設計についてのみ安全審査がなされ、詳細設計以降については行政庁(本件加工事業の場合科学技術庁)の審査のみがなされ、その全過程を通じて所要の安全確保が図られるという。
しかし、設計及び工事の方法の認可(被告主張の詳細設計の審査)はその基準も漠然としたもので到底行政庁限りで適確な審査をなし得るものではなく、他方において原発訴訟における被告の主張によれば、スリーマイル島原発事故も含め現実に発生した事故の大半は詳細設計以降の瑕疵によって生じたものであり、このような事故防止、安全確保上の重要問題を行政庁のみで判断する手続に委ねることは到底できない。
すなわち、加工施設技術基準はわずか一六箇条しかなく、いずれの規定も「~し得る機能を有すること」といった類の定め方で具体的な数値等の具体的判断基準は全くない。このような規定によって行政官がその技術基準適合性を判断することは全く不可能であり、実態としては盲判にならざるを得ない。
その上、これまで被告によって詳細設計以降の問題とされた事項は決して軽視し得ないものである。まずスリーマイル島原発事故の原因はすべて詳細設計以降の問題とされた。チェルノブイリ原発事故の原因も自己制御性と緊急停止系の問題以外は詳細設計以降の問題と主張されている。さらには、被告は東海第二原発で発生した四〇件余の事故、故障について原因すら特定せず理由も述べずに「いずれも本件原子炉の基本設計ないし基本的設計方針に係るものではない」としている。つまり実際に発生した事故については大半が詳細設計以降の問題というのである。だとすれば事故を防止し安全を確保するためには詳細設計以降をこそ重視して安全審査をしなければならないはずである。そのような事故防止上重要な部分について原子力安全委員会が関与せず行政庁だけの判断でなし得る手続のみに委ねるなど到底許されない。
四 被告の主張に従えば、加工施設の周辺住民が加工施設による原子力災害を受ける危険を行政訴訟上実質的に争うためには、事業許可処分につき異議を申し立てた上取消訴訟を提起し、さらに設計及び工事の方法の認可処分につき異議を申し立てた上取消訴訟を提起し、さらに施設検査合格処分につき異議を申し立てた上取消訴訟を提起し、さらに溶接検査合格処分につき異議を申し立てた上取消訴訟を提起し、さらに保安規定許可処分につき異議を申し立てた上取消訴訟を提起しなければならないことになる。さらには設計及び工事の方法の認可は加工規則第三条の二第三項で分割して認可申請を行い得ることとされるからその分割してなされた認可ごとに各手続を行うことになる上、施設検査も各部分ごとに段階に分けてなされるのでその合格処分ごとに各手続を行うことになるなど、被告の主張にあわせれば、住民は一つの施設につき数百件に及ぶ訴訟を提起しなければならなくなる。しかもこれらの手続は事業許可以外はいつ行われたのかすら公表されず、住民は訴訟提起の機会すら奪われている。
被告の主張と、手続をひた隠しにする被告の態度は原子力施設の瑕疵により被害を受ける可能性のある周辺住民が自らの生命健康を守るため訴訟提起する権利を著しく侵害するものである。
五 憲法三二条にかんがみ、加工施設の操業によって周辺住民に被害を与えないか否かの判断は、最初の行政処分である加工事業許可の際に一括して行われる必要があり、また加工事業許可を争う訴訟において一括して審理されなければならない。それは規制法上加工事業許可がなされれば後は簡単な手続で建設・換業に至り、また裁判の実情からみて操業前に判決を出し得るためにも事業許可段階で争う必要があること、そして、他方、周辺住民に発生する危険は基本設計のみから生じるとは限らずいくつかの手続の複合的なミスにより事故に至ることもあることからも明らかである。殊更に手続を区分し、一つの訴訟で争い得る範囲を限定することは憲法三二条の趣旨にも反することになる。
第三本件予備的請求の司法審査の在り方
(被告の主張)
一 本件許可処分が行訴法三〇条にいう行政庁の裁量処分であることは疑う余地がない。本件許可処分の許可の要件を定める規制法一四条一項の規定の文言に照らし、さらに、許可権者である内閣総理大臣の検討すべき内容に照らし、本件許可処分が、広範かつ高度な、原子力行政に関する政策的裁量と、加工施設の安全性に関する専門技術的裁量とを伴う裁量処分であることは明らかである。すなわち、規制法一四条一項各号所定の許可要件のうち、例えば一号の要件に関しては政策的裁量が、三号の要件に関しては専門技術的裁量が伴うものであるが、以下、このうち右三号の専門技術的裁量の意義について司法審査との関係を含めて述べることとする。
規制法一四条一項三号要件に関する行政庁の専門技術的裁量については次の二つの段階において考えることができる。第一に、具体的審査基準の策定についての専門技術的裁量である。規制法一四条一項三号が抽象的な許可要件を設定するにとどめているのは、加工事業許可の際、加工施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性について問題とされる事柄が複雑、高度の専門技術的事項にかかわるものであり、しかもそれについての技術及び知見が不断に進歩、発展、変化しつつあることを考えるならば、右の許可要件について法律をもってあらかじめ具体的な定めをしておくことは実際上極めて困難であるのみならず、かえって判断の硬直化を招き適切な審査を行い難くするおそれがあり相当でないとする趣旨によるものと解される。したがって、右のような趣旨からすれば、三号要件の審査基準の具体的内容の策定については、合理的な範囲内において、行政庁の専門技術的裁量に委ねられているということができるのである。第二は、三号要件適合性に係る判断に至る審査過程についての裁量、すなわち、どのような知見等に基づき、どのような検討を経て、右要件適合性についての結論に到達するかについての専門技術的裁量である。右審査に係る加工施設は、高度な科学技術を用いた複雑な技術体系を有するものであるから、それに関する安全性の判断は、特定の分野のみならず、関連する広範な分野の専門技術的知見等を動員し、かつ将来の予測に係る事項を含めた総合的判断として成り立つものである。右のような判断過程の構造からすれば、三号要件適合性に係る結論に到達する審査過程において、不可避的に行政庁の諸々の専門技術的裁量的判断を伴うものであることは明らかである。
以上のとおり、三号要件適合性の審査については、具体的審査基準の策定及び審査過程の両面において専門技術的裁量が伴う。
二 本件許可処分の適法性についての司法審査の方法は、加工事業許可処分が右に述べたとおり高度な政策的、専門技術的裁量処分であり、かつ、取消訴訟における審理が、行政庁の権限行使の適法性に関する司法再審査をその本質とするものであることにかんがみれば、裁判所が当該許可申請の規制法一四条一項二号及び三号に係る許可要件適合性について改めて独自の審査を行い、その結果に基づく裁判所自らの判断を行政庁たる内閣総理大臣の裁量判断と対比して直接その適否を決しようとする方法(いわゆる司法判断代置方式)は妥当でなく、各要件適合性に関する被告の裁量判断を前提とした上、それが行政庁としての立場における裁量判断として著しく不合理なものでないかどうかを審理、判断しようとするものでなければならない。
実際問題としても、裁判所が、広範な分野にわたる専門技術的知見等に基づかなければ的確な判断のできない加工施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関して、それぞれの分野の専門家を擁する行政庁(ないし原子力安全委員会)の裁量判断を前提とせず、いわば白紙の状態から独自の判断をするということは事実上困難であると考えられる。
この点に関し、規制法一四条二項が、内閣総理大臣は加工事業許可要件の適用について原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を十分に尊重しなければならない旨規定している趣旨は、右の内閣総理大臣の判断の適法性についての司法審査の場においても、十分参酌されるべきである。
以上述べたところによれば、本件許可処分の適法性、特に三号要件適合性についての裁判所の審理は、内閣総理大臣の専門技術的裁量判断を前提として、内閣総理大臣の判断過程に応じ、それを総合的、全体的に考察して、その裁量判断に著しい不合理がないか否かを再審査するという方法によりなされるべきであり、その結果内閣総理大臣の裁量的判断に著しい不合理があるとの判断に達した場合に初めて本件許可処分は行訴法三〇条にいう行政庁の裁量権の逸脱、濫用がある違法な処分としてこれを取り消すことが許容されるというべきである。
そして、行政庁の裁量処分にあっては、裁量を誤っても不当となるにとどまり違法とならないのが原則であり、裁量権の逸脱又は濫用の場合のみ例外として違法となるのであるから、違法事由(裁量権の逸脱又は濫用)の存在は、その取消しを求める者において、主張、立証することを要するのは明らかなところである(最高裁判所昭和四二年四月七日第二小法廷判決・民集二一巻三号五七二頁参照)。
第四章 本件許可処分の手続的適法性(予備的請求の争点)
第一本件許可申請書及び添付書類の不備
(原告らの主張)
一 本件許可申請書及び添付書類の記載内容
本件許可申請書及び添付書類は、申請者が設置しようとする本件施設について、その基本的な構造・仕様をほとんど記載しておらず、申請書としての体裁をなしていない。
1 原子力施設の構造・設備を明らかにするには、建屋、機器の機能のほか、その材質、形状寸法、肉厚を明記し、特に放射性物質を取り扱う機器については、設計温度、使用温度、設計圧力、使用圧力、流体を取り扱う場合のその濃度及び流量を明らかにすることが不可欠であるが、本件許可申請書及び添付書類は、これらの数値をほとんど明らかにしていない。例えば、材質を記載してあるのは、建屋以外ではコールドトラップ(ステンレス鋼)及び高性能エアフィルタ(HEPAフィルタ)のみであり、施設の中枢であるカスケード部や事故想定上重要な均質槽については、その材質が明らかにされていない。肉厚に至っては、発回均質棟の建屋の壁が厚さ約九〇センチメートルとされているだけで、設備・機器についてはどれ一つとして明らかにされていない。そして、放射性物質で、金属と反応しやすく、しかも水と反応すると腐食性、毒性の強いフッ化水素を生成する六フッ化ウランを取り扱う機器についても、材質、肉厚が明らかにされていない上、温度、圧力等もほとんど示されていない。
また、使用温度が示されている場合でも極めて漠然としたもので、安全審査上無意味に近い。例えば製品コールドトラップは、濃縮された六フッ化ウランガスを冷凍機で冷却・固化し、その後電気ヒーター等で加熱して再度気化させる作業を繰り返す機器であり、その健全性維持のためには、材質及び肉厚に加え、冷却時の温度、加熱時の温度、冷却・加熱時の温度勾配、使用期間中の冷却・加熱回数が安全審査上不可欠のデータとなる。しかし、本件許可申請書及び添付書類に記載されているのは、その材質(ステンレス鋼)と耐用温度(摂氏マイナス一九〇度)のみである。
2 本件許可申請書には、施設の使用期間が記載されておらず、機器の防食についても、ケミカルトラップに関し「容器の形状を維持するために耐食性及び強度を考慮したものを使用する」としている以外、何らの記載もない。
3 ウラン濃縮の中枢的設備であるカスケード部(遠心分離機及び配管等)に至っては、六フッ化ウランの供給流量につき一定流量と、使用温度及び圧力につき常温及び大気圧以下としているのみで、全く何も記載されていないといってよい。
まず、加工事業規則二条一項一号二(ロ)は、許可申請書に「主要な設備及び機器の種類及び個数」を記載することを求めているが、本件許可申請書及び添付書類は、ウラン濃縮施設の中枢的機器である遠心分離機の種類及び個数を明記しておらず、同規則に明らかに違反している。
次に、遠心分離機は、近時では向流型が主流であり(本件許可申請書には向流型か否かすら書かれていないが)、その中でも、向流を起こすためにバッフル板を用いるもの(ジッペ型)、加熱・冷却によるもの(グロス型)、外部ポンプによるものなどがあり、その型により濃縮性能、保安の難易に差があるところ、本件許可申請書では、この遠心分離機の型すら明らかにされていない。また、形状寸法等が明らかにされていないのは前述のとおりであり、本件許可申請書では、遠心分離法によるということ以外どのようにしてウラン濃縮を行うのか全く不明である。さらに、遠心分離機一台当たりの性能、濃縮能力も示されていない。
さらに、遠心分離機の設計においては、最大周速(回転胴の材質に規定され、これにより半径、回転速度の限界が定まる。)及び共鳴振動による破損の回避(回転胴の材質、半径及び長さにより共鳴振動を起こす回転速度が規定される。)は最も初歩的な考慮事項であるが、これらに関する記載は全くなく、検討の跡すらない。
4 本件許可申請書の数値等の不記載が、ウラン濃縮技術についての核拡散防止上の特別の考慮によるものでないことは明らかである。というのは、本件許可申請書上、申請者が核拡散防止に関わると主張する部分は、許可申請書に記載された上で、公開の際に白紙で隠してコピーされているにすぎないし、旭化成工業株式会社が日向市に設置したウラン濃縮研究所(化学交換法を採用)についての許可申請書及び添付書類では、本件許可申請書では隠された数値の大半が明記されており、化学交換法において遠心分離法の遠心分離機に相当する濃縮塔についても、材質、形状寸法、肉厚等を明記し、構造図、配置図も添付されているからである。
5 本件許可申請書の記載中、「放射線管理の諸対策」の部分は、結局のところ、管理方法の種別をあげて、「区分する」「明示する」「測定する」「採取する」「放射線管理を行う」「確認する」「漏洩することを防ぐ設計としている」「排気用モニタにより連続的に監視する」「確認後、排水口から放出する」「測定し、記録する」「十分小さい値である」などと結論だけを述べるものにすぎず、そこでは、具体的にどのような機種と技術により管理を行い、どのような目標値が設定され、その安全管理が現実に適切に行われ得るかといった具体的な安全審査の資料は何一つ明示されていない。それにもかかわらず内閣総理大臣は漫然と「基準に適合する」との判断を行って、本件許可処分をしている。
しかし、これでは、加工施設指針に記載された諸対策について、申請書で「対策を講じる」と記載すれば、どのような申請も認められてしまうことになり、その対策が十分なものか、その対策を行う能力があるのか、といった安全審査の基本的事項は何ら審査されないままとなってしまう。
6 放射線遮へい対策について、本件許可申請書は、単に「濃縮ウラン、天然ウラン及び劣化ウランからの放射線量率は低く、放射線遮へいは特に必要としない。」と述べているのみである。しかし、加工施設指針五は「核燃料施設においては、従事者等の作業条件を考慮して、十分な放射線遮蔽がなされていること。」と遮へい対策を義務づけているのであるから、最低限、放射線量率等放射線遮へいをしないという判断の適正を検討するための資料を明らかにする必要がある。
7 以上述べたところから明らかなように、本件許可申請書及び添付書類には、施設の構造及び設備がほとんど記載されておらず、この程度の記載では、いかなる専門家であっても、本件施設が核燃料物質による災害の防止上支障がないか否かはもちろん、そもそも申請者にウラン濃縮を行える技術的能力があるか否かすら判断できない。したがって、このような許可申請書に基づく許可処分は、本来不可能であり、違法である。
二 被告の主張に対する反論
1 加工事業規則二条一項一号ニ(ロ)により必要な「主要な設備及び機器の種類及び個数」の記載について、被告は、「機器の種類」としては「遠心分離機」、「個数」としては遠心分離機自体ではなく遠心分離機群で構成される「カスケード設備」の個数で足りるとしている。しかし、「種類及び個数」といえば、同一対象についての「種類及び個数」を指していると解するのが自然であるし、右規則が申請書に「主要な設備及び機器の種類及び個数」の記載を求めているのは、いうまでもなく安全審査のためであって、遠心分離機の具体的機種(どのような機種が設置されるのか)やカスケード内に近接して設置される遠心分離機の個数や設置状況を知らなければ到底安全審査はできない。
2 被告は、本件施設が放射線遮へい対策を必要としないことについて、「ウランを収納する設備・機器からの放射線の線量率は、設備・機器による遮へい効果等によって低下し、右放射線による影響が、放射線業務従事者の放射線被曝を管理する上で問題となるものではない。」と判断したと述べるが、そのような事情は何ら本件許可申請書に記載されていない。加えて、線量率がどの程度に低下するのかが不明なままでは、到底適切な安全審査がなされたとはいえない。
(被告の主張)
加工事業許可に係る安全審査においては、加工施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関する事項を対象とするものであり、詳細設計や運転管理に関する事項について審査を行うものではなく、原告らが指摘する項目は、仮に審査が必要であるとしても詳細設計以降の審査において取り扱うべき事項である。そして、安全審査の対象となる事項を審査する上では、本件許可申請書及びその添付書類の記載内容は必要にして十分である。
なお、原告らは、加工事業規則二条一項一号ニ(ロ)は加工の事業の許可申請書に「主要な設備及び機器の種類及び個数」を記載することを求めているのに、本件許可申請書及びその添付書類においては遠心分離機の種類及び個数を明記していないから右規定に違反する旨主張する。しかしながら、遠心分離法による濃縮設備としての機能は、個々の遠心分離機によって果たされるのではなく、配管で接続された多段多数の遠心分離機群で構成されるカスケード設備により発揮されるものであるところ、本件許可申請書においては、「機器の種類」として遠心分離機とし、「個数」としてカスケード設備が四組と各記載されているから、右加工事業規則の規定に違反するものではなく、原告らの主張は失当である。
第二審査主体の問題点
(原告らの主張)
一 原子力委員会は、原子力の利用を推進する機関であり、実質審議を担うその専門部会等は、電事連・電力会社・日本原子力産業会議を始め、原子力産業の関係者が多数構成員となっている。とりわけ本件施設に関わりの深いウラン濃縮懇談会には、申請者である原燃産業の大垣忠雄社長が名を連ねており、いわば自分で事業許可申請を出しそれを審査するということが行われている。
二 安全性をチェックすべき原子力安全委員会には、この事業を推進する立場の専門家が加わっており、今回の申請の実質審議を担当した核燃料安全専門審査会にも、原子力の開発・利用の促進を目的とする日本原子力研究所及び動燃事業団の関係者を始めとする推進派の名前が多数見受けられ、特に、核燃料安全専門審査会会長の高島洋一は、原子力委員会やウラン濃縮懇談会にも属しており、このような馴れ合い委員に厳正な審査を求めることは極めて困難である。
三 JCO東海事業所の施設の加工事業許可の安全審査は、青地哲男が部会長を務める核燃料安全専門審査会第八部会が担当し、誤った審査を行ったものである。この事実からすれば、核燃料安全専門審査会及び右青地には核燃料サイクル施設の安全審査能力が欠落していると解するのが相当である。
本件施設は、同じ核燃料安全専門審査会の青地哲男氏が部会長を務める核燃料安全専門審査会第二三部会が安全審査を担当したものであり、安全審査能力に欠ける者が審査を行った点において、看過し難い過誤、欠落があるというべきである。
四 原子力安全委員会は、原子力行政における推進部門と安全審査部門とを組織的に分離することで原子力施設の安全性のダブル・チェックを果たさせようとして昭和五三年の原子力基本法の改正によって設けられた機関であるが、その実態は、到底他の機関がした判断を独立して審査できるようなものではない。すなわち、同委員会は、独自の調査・研究スタッフを持っていないため、独自の調査・解析によるデータを踏まえて審査をすることは能力的に不可能であり、通産省や科学技術庁等の諮問を受けた際に電力会社や行政庁等が作成した書類・資料に基づいて審査を行わざるを得ない。また、同委員会は、これまで、一度も許可申請につき要件不適合との答申をしたこともなければ、原子力安全について根本的問題提起をしたこともない。
(被告の主張)
原子力委員会の委員は両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し(設置法五条一項)、その専門委員も学識経験がある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命することとされているのであり(設置法施行令三条二項)、右委員及び専門委員の適格性は、十分に担保されている。
原告らが指摘するウラン濃縮懇談会は、「我が国のウラン濃縮事業の具体化が進展している状況に鑑み、二一世紀初めを見通した今後のウラン濃縮の展開、技術開発の方向付け等につき調査審議するため」(「ウラン濃縮懇談会の設置について」、昭和六〇年一二月一七日原子力委員会決定)に設置されたものにすぎず、加工の事業の許可に関し、規制法一四条二項に基づいて原子力委員会が内閣総理大臣から諮問を受けた際の審議、決定その他本件許可処分に係る審査に何ら関与する機関ではない。
原子力安全委員会の委員は、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し(設置法二二条・五条一項)、また核燃料安全専門審査会の審査委員は学識経験のある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命する(設置法二〇条・一七条一項)こととされており、右委員及び審査委員の適格性は十分に担保され、およそ推進派、反対派という観点から選ばれるものではない。
第三審査の実態に関する問題点
(原告らの主張)
一 許可を前提とした審査
1 本件施設を含む核燃料施設の事業計画が、国策的事業との認識の下に推進されていることは、<1>昭和五九年七月、総合エネルギー調査会原子力部会が「自主的核燃料サイクルの確立に向けて」と題する報告で、商業濃縮プラントを国策として位置づけ、同年四月二〇日電事連が青森県知事に核燃料サイクルの包括要請をしたことを評価していること、<2>青森県知事も、国策の確認ができたことを立地受入れの理由とし、地元と事業者間の基本協定においてもそのことが確認されていること、<3>昭和六〇年四月に核燃立地のため「むつ小川原開発第二次基本計画」が一部修正されて閣議口頭了解がされたこと、<4>昭和六一年七月の前記原子力部会による「原子力ビジョン―二一世紀の原子力を考える」や原子力委員会の昭和六二年六月改定の「原子力開発利用長期計画」に六ヶ所村立地を前提とした核燃料サイクルの推進確立が謳われていること、<5>昭和六三年四月一七日、伊藤科学技術庁長官が盛岡市で「反対運動に対しては、不退転の決意で説得に当たり理解を深めていくつもりだ」と発言したこと、等の事実に照らし明白である。
このような位置づけがなされている「核燃計画」を、原子力利用を推進する立場の原子力委員会が規制するはずがないし、国会の関与もなく内閣総理大臣によって任命される核燃料安全専門審査会の審査委員の意見によって事実上の決定がなされる原子力安全委員会に、安全確保を国策に優先させる勇気と決断が備わっているとは到底信じ難い。
2 本件安全審査の過程において、六ヶ所村とそれ以外の候補地との立地条件の対比がされた形跡はない。
本件施設の立地は、核廃棄物処理の必要性に迫られた国や電気事業者の意図と、むつ小川原開発の挫折を回復しようとする財界とその失政を糊塗しようとする北村県政の思惑が一致した結果にほかならず、六ヶ所村が適地であるから立地されたものではないことからすれば、本件安全審査において、候補地の対比検討がなされなかったことは理の当然といえる。
しかして、核燃立地決定をするに際し、計画そのもの及び立地点等について各種の代替案を検討し、予測と評価を行うこと(アセスメント)は必要不可欠であるところ、審査段階でこの点の議論が全くされていないことは、六ヶ所村立地を前提とした審査しかなされなかったことの証左である。
3 青森県は、昭和六三年七月一一日本件施設と低レベル放射性廃棄物貯蔵施設に係る五〇億円に上る電源三法交付金の整備計画申請を国に行い、同年八月三一日正式に承認された。右申請時点では、本件許可申請は原子力安全委員会の安全審査中であったし、低レベル放射性廃棄物貯蔵施設は科学技術庁で審査中であった。
さらに問題なのは、これら二施設については、元々交付金の対象施設となっていなかったものであるが、昭和六二年一一月二七日の閣議により、急遽交付対象施設とする政令改正がされた。その上、原発では地元自治体及びその隣接市町村にしか交付されないものが、再処理工場を含む核燃サイクル施設を意識してか、その隣々接市町村までも交付対象とする念の入れようである。つまり、審査の最中に許可を前提とした交付金をバラまいているのである。建設が不確定なものに前例金を交付するはずがなく、そこには青森県で広がりつつある核燃料サイクル施設反対派の声を封じ込めようとする意図が表れている。
4 昭和六三年五月三〇日、国(科学技術庁・資源エネルギー庁)、青森県、電気事業連合会、日本原燃サービス株式会社及び原燃産業が一体となって「原子燃料サイクル月例広報連絡会」なる広報組織を発足させ、新聞・ラジオ・テレビといったマスコミを通じたPR活動を行い、また、立地反対の声が広がる酪農業・漁業関係者を対象とした座談会を開催しようとしたが、いくつもの農協が安全性を一方的にPRするこのやり方に反発して参加を拒否した。このような反対運動の盛り上がりを抑えるために、国は再度金のバラまきを画策し、通産省の昭和六四年度予算概算要求に、核燃サイクル立地に絡み新たに原子力発電施設等周辺地域交付金と電源地域産業育成支援補助金を盛り込み、核燃料サイクル関係広報対策等委託費も前年度の約四倍に当たる四億円に増額している。
5 以上のように、本件許可申請についてされた審査は、極めて恣意的で、許可を前提としたセレモニーにすぎないことは明白である。
二 審査の杜撰さ
本件安全審査において、原子力安全委員会、原子力委員会その他の関係機関の構成員は、定められた会議にほとんど出席せず、ごく限られた特定の委員らに審査を任せていて、会議は著しく形骸化しており、その審査内容も、事後検証に不可欠な議事録等の記録が存在しないか若しくは不整備で杜撰極まりない。なお、この点に関して原告らがその議事内容を調査検討しようとしても、その議事録の内容の公表はもちろん、議事録の存否さえ明らかにされていない。
(被告の主張)
一 許可を前提とした審査について
原告らは、国策としての推進、他地域との立地条件の対比がなされていないこと、許可を前提とした交付金の交付等について主張するが、これらの事項が本件許可処分における規制法一四条一項各号所定の要件適合性の審査と何らの関係も有しないことは明らかであって、本件取消訴訟の審理の対象とはならない。
二 審査の杜撰さについて
原告らの主張は、核燃料安全専門審査会第二三部会に関する限り失当である。すなわち、本件については、原子力安全委員会から核燃料安全専門審査会に調査審議の指示がされ、同審査会内部では第二三部会がこれを担当し、同部会で専門的かつ詳細に調査審議した結果が、核燃料安全専門審査会で再度調査審議された上で最終的に原子力安全委員会の審議及び決定に反映されている。
また、審査の議事録は、原子力委員会議事運営規則及び原子力安全委員会議事運営規則によりその作成が義務づけられ、これが遵守されており、その議事概要は原子力委員会月報、原子力安全委員会月報に掲載されている。
第四指針による審査の違法性
(原告らの主張)
一 加工施設指針の法律上の根拠
本件許可処分は、核燃料施設基本指針と加工施設指針に基づく原子力安全委員会の安全審査をクリアして初めて認められるものである。しかし、これらの指針は、安全審査基準の最も重要な部分を占めているにもかかわらず、いずれも同委員会の決定にすぎず法律上の根拠をもたないから、これらに基づいて安全審査を行うことは違法である。
二 加工施設指針の適用の遵法
加工施設指針は、昭和五五年一二月二二日に原子力安全委員会で決定されたもので、「加工の事業の許可の申請に係る加工施設であって、濃縮度五%以下の未照射ウランを転換・加工する施設に適用される」としているが、もしその適用対象が濃縮施設を含むのであれば、「濃縮度五%以下の未照射ウランを転換・加工する」などという表現ではなく、端的に「濃縮度五%以内までウランを濃縮する」という表現が用いられたはずであるから、この適用対象を素直に読む限り、濃縮施設は加工施設指針の適用外と解さざるを得ない。
このことは、指針の内容をみることで更に明らかとなる。すなわち、加工施設指針一〇の「単一ユニットの臨界安全」では、「濃縮度の制限」による臨界管理が明記されていない。本件施設のカスケード設備における唯一の臨界管理方法は濃縮度制限であり、濃縮施設における臨界管理において濃縮度制限が極めて重要であることはいうまでもないことである。ところが、この点が明記されていないことは、加工施設指針が取り扱うウランの濃縮度が一定値に固定されている転換施設及び加工施設のみを念頭に置いていることを示している。
また、加工事業規則が改正され濃縮に関する規定が付け加えられたのは昭和五九年六月のことであり、それ以前においては、規制法を改正して濃縮事業に関する規定を新設するという方策が政府内部で検討されていたことは、前述のとおりである。したがって、加工施設指針の制定当時には、濃縮を加工事業に含めるとの政府解釈も確立していなかった。
したがって、加工施設指針を濃縮施設である本件施設に適用することはできず、これを適用して行われた本件安全審査は手続的に違法である。
(被告の主張)
一 加工施設指針の法律上の根拠について
本件許可処分に際しての規制法一四条一項三号要件適合性の審査のような優れて専門技術的な事項については、一方において、科学技術の進歩や新しい研究の成果を必要に応じて速やかに取り入れるとともに、他方において、その審査、判断の客観性、確実性及び予測可能性を確保することが必要であり、そのためには、法令上の審査基準である加工事業規則等のほか、原子力安全委員会がある程度一般的な基準や審査の考え方等を指針として定め、このような指針を中心として、その他の技術的知見をも参考にして審査を行うことこそが合目的的であり、機能的である。
加工施設指針の法的性格は、原子力安全委員会の内規ともいうべきものであり、原子力安全委員会が指針を定めるべきことを明示的に規定した条文は存しないが、右のとおりの規制法一四条一項三号要件の審査の性格からすれば、審査に当たり加工施設指針を用いることは、法の趣旨に照らして合目的的であり、かつ、機能的である。したがって、指針定立を委任する旨の法律が存しないからといって加工施設指針が当然に違法となるものではなく、要は、右指針に基づいてされた本件許可処分が法の規定に適合するか否かが問題となるのであるから、原告らの主張は、それ自体失当である。
なお、原子力安全委員会は実質的には行政委員会に近い性格を持つものであり、またその任務は原子力基本法五条二項により「原子力の研究、開発及び利用に関する事項のうち、安全の確保に関する事項について企画し、審議し、及び決定する」こととされており、加工施設指針は右条項に基づいて策定されているものである。
二 加工施設指針の適用の違法について
加工施設指針が加工事業許可の申請に係る加工施設に対する安全審査上の指針として取りまとめられたものであること、及び加工施設指針の「濃縮度五%以下の未照射ウランを転換、加工する施設」に本件施設のような濃縮度五パーセント以下の範囲内で濃縮を行う施設も含まれることは明らかである。また、加工施設指針一〇の「単一ユニットの臨界安全」の項には、「核的制限値を設定するに当たっては取扱われるウランの…濃縮度…を考慮」すると明記されているのであって、これは濃縮度制限にほかならない。
第五その他の手続上の問題点
(原告らの主張)
一 告知聴聞の機会の欠落・安全審査資料公開の不実施
規制法は、加工事業許可処分の手続要件として、関係住民に対する告知聴聞の機会付与や安全審査資料の公開を明定していないが、これは法制の不備であって、<1>憲法三一条の適正手続の要請は行政処分においても妥当し、法律に規定のない場合でも憲法上の要請から行政法規を合理的に解釈する必要があること、<2>原子力基本法二条は、原子力の開発利用は民主的な運営の下に行うものとし、また、研究開発利用の成果は公開するものとしており、右規定は単なる訓示規定にとどまらず法規範性を有するものと考えられること、<3>憲法二一条の表現の自由の現代的形態である知る権利の確立に伴い、情報公開は大きな世論となっており、安全審査資料の公開も請求し得るものと考えられること、<4>実質的にも、本件施設のように環境に重大な影響を及ぼし科学的な争点を多く含んだ施設の許否を判断する者は、公正で合理的な意思決定をする前提として、安全審査資料を事前に公開し、その安全性に疑問を持つ関係住民及び専門科学者に十分な告知聴聞の機会を与えることが、公平原則及び条理上強く要請されると考えられることなどの事情を総合して規制法一三条、一四条を合意的かつ合理的に解釈するならば、本来はこれらの手続が履践されなければならない。にもかかわらず、本件ではこれが履践されていないから、本件許可処分は違法である。
二 審査の密室性・秘密主義と許可申請書等の非公開
1 本件のような国民の生命、健康、財産と環境に重大な影響を与え、高度の科学的知識を要求される原子力施設の建設許否を判断する場合には、公正で合理的な結論を担保するために、事業許可申請書、添付書類その他の安全審査資料を公開し、その安全性に疑問を持つ関係住民や専門科学者に十分な告知聴聞の機会を与え、その批判にさらすことが憲法二一条や公平原則・条理に基づき強く要請される。また、公権力に対して情報の開示を求める積極的情報収集権は、少なくとも抽象的請求権としては憲法二一条により保障されると解するべきである。したがって、法律の解釈においては、このような情報公開や積極的情報収集権の保護が要請されるというべきところであるが、本件では、その保障は履践されていない。
2 本件施設に関しては、許可直前に青森県民の強い要請で、科学技術庁から申請書と環境保全調査報告書が一般公開されたにすぎない。申請から許可に至る関係機関の審議経過について、国民は、その結論部分をマスコミの報道で知り得るのみで、内容を知ることは不可能な状況に置かれた。そして、公開された安全審査資料は、本件施設の安全性、必要性を判断するのに不可欠な基本的データが企業秘密や核不拡散情報に属することを理由に隠されていたり、審査の前提条件が不明確であったり、結論の根拠や理由づけが不十分であるなど、国民の側から施設の安全性をチェックすることは全く不可能である。
3 本件許可申請書及び添付書類は、一部の図表に紙を貼ってコピーした状態で開示されたが、その一部非公開の理由は、「企業秘密または核不拡散に係る情報に属する」とのことであった。しかし、非公開部分は、工事に要する資金の額及びその調達計画、加工事業開始後五年間の資金計画及び事業収支見積、カスケード室、均質室の一部、ウラン貯蔵建屋、ウラン濃縮廃棄物建屋の各室内の配置図であるが、いずれも企業秘密又は核不拡散に係る情報に属するとはいい難い。すなわち、資金関係については、各地の原発などの設置の際には明らかにされており(株式非公開の日本原電の場合でも同じ)企業秘密とはいえないし、核不拡散に係る情報でもない。配置図については、旭化成ウラン濃縮研究所の許可申請書及び添付書類においては、カスケード部に該当する濃縮工程、均質室に該当する混合槽(回収工程)についても配置図が添付され公開されており、企業秘密や核不拡散に係る情報とは到底考えられない。
むしろ、資金関係は、本件施設の採算が合わないことが明白であり、しかも安い濃縮ウラン製造を掲げていても実は海外産のものより高価なものしか製造できないことを、国民の目から隠蔽することを目的として秘匿されたものと解されるし、配置図関係は、本件施設の安全設計が極めて不備であり、また事故想定が全く非現実的であることを隠蔽するために秘匿したものと解されるのである。とすれば、国側のこの非公開の姿勢自体、本件施設の経理的基礎及び安全性を公正に審査する意思のないことの表れである。このような立場に立って行われた本件許可処分は、それだけでも違法というべきである。
(被告の主張)
一 告知聴聞の機会の欠落・安全審査資料公開の不実施について
規制法が加工の事業の許可処分の手続要件として、関係住民に対する告知聴聞の機会の付与や安全審査資料の公開を規定していないことは認めるが、その余は争う。
二 審査の密室性・秘密主義と許可申請書等の非公開について
1 憲法二一条は、国家に対して情報の開示を義務づけた規定と解することはできないし、国民に対し情報の入手について国家の干渉を受けないという消極的自由を保障した規定と解することもできない。したがって、法律の規定をまたずに、憲法二一条から直ちに情報の開示に関し何らかの法的効果を生ずるということはない。そうすると、行政手続中にこのような公開制度が法律上設けられておらず、右手続の中でその申請書等が公開されなかったとしても、これらのことは、何ら憲法二一条等に違反するものということはできないし、そのゆえに行政手続の適法性や妥当性が左右されるものでもないことは明らかである。
2 申請書等の公開は行われている。すなわち、本件許可申請書及びその添付書類は、本件許可申請の直後(本件許可処分の一三か月前)に公開されているし、「ウラン濃縮施設及び低レベル放射性廃棄物貯蔵施設に係る環境保全調査報告書」は本件許可処分の三か月前に公開されているのである。なお、右環境保全調査報告書は青森県により公開されたもので、本件許可処分とは関係がない。
また、本件許可申請書、その添付書類及び申請の一部補正書並びに安全審査書は、青森県庁及び国会図書館等で公開されている。このほか、原子力委員会、原子力安全委員会の審議経過については、その議事概要がそれぞれ原子力委員会月報、原子力安全委員会月報に掲載されており、これらの月報は何人でも自由に入手できる。
3 原告らは、本件許可申請書及びその添付書類の公開に当たり、各地の原子力発電所設置の際には明らかにされていた資金関係についてあえて本件で非公開としたのは本件施設の非経済性を隠ぺいするためであると主張するが、工事に要する資金の額及びその調達計画等の資金関係情報は、事業者である原燃産業の企業機密に属するものであるから非公開とすることには理由がある。
また、本件許可申請書及びその添付書類中、文書公開に当たり非公開の対象とされたのは、資金関係を除けばウラン濃縮建屋一階の機器名称の番号のみであり、原告らが主張する各建屋の配置図は公開されている。右機器名称の番号を非公開としたのは、事業者である原燃産業から核不拡散上の機密事項に属するとの理由により非公開としたいとの要請があり、内閣総理大臣も核不拡散上非公開とする必要があると判断したためである。そもそも、原子力の開発、利用に係る一定の技術については、国際慣行により核不拡散上の観点から情報管理が行われており、ウラン濃縮に係る諸技術についても核不拡散上の観点から一定の情報管理が必要となることは当然であり、右非公開措置に何らの違法もない。
もとより、核不拡散等を理由に本件許可申請書及びその添付書類が一部非公開とされている場合でも、内閣総理大臣は、当該非公開箇所について当然審査を行っている。
第五章 規制法一四条一項二号要件適合性(予備的請求の争点)
第一二号要件のうち経理的基礎に係る部分の適合性
(原告らの主張)
一 原燃産業の経営状態
原燃産業は事業活動を行っておらず、損失はあっても収入(営業収入)はない。昭和六一年三月三一日の欠損金は、約一億一〇〇〇万円である(申請書添付書類九―一四)。そして、アメリカ、ウレンコ社、旧ソ連ないしロシア、フランスなどのウラン濃縮事業によって濃縮ウランの世界的供給過剰が恒常化する中で、原燃産業のウラン濃縮事業が採算ベースに乗ることは極めて困難であり、当面は国の補助金だけが頼りと言われでいる。
すなわち、本件許可処分当時の原燃産業の経理的基礎は論じる余地がないし、将来的にもその基礎の充実を期待することは全くできない。恒常的な赤字企業が、住民の生命、身体に甚大な被害をもたらす危険のある事業を営むことは、その損害賠償能力を論じるまでもなく許されるべきではない。
その後、原燃産業が日本原燃サービス株式会社と合併して発足した日本原燃においても、累積未処理損失金は増加を続け、平成七年三月三一日現在(第一六期末)における日本原燃の有価証券報告書上の累積未処理損失金は二八四億七九〇〇万円に達した。また、その後平成八年三月三一日時点(第一七期末)では、右額は二二七億四三〇〇万円に減少してはいるものの、これは、当期中の高レベル放射性廃棄物のガラス固化体受入れによる収入一〇三億一五〇〇万円によるものであり、この収入を除外すると、第一七期においては、上半期だけで約九二億円もの営業損失が生じている。これは、当期において生産能力六〇〇トンSWU/年の九五・七パーセントに当たるフル稼働に近い稼働率で運転をしたためであり、同期の下半期において、日本原燃は、このような赤字の増加を軽減するために、濃縮役務価格を国際相場の三・三ないし四・四倍の高水準に引き上げている。
二 ウラン濃縮役務供給契約の実際
我が国において、濃縮ウランは、少なくとも平成一二年過ぎまでは海外との長期契約によって確保されている。
すなわち、我が国のウラン濃縮役務に関して、原子力委員会は、原子力白書(平成二年版)において「米国から現在約三〇〇〇tSWU/年の供給を受けており、二〇〇〇年(平成一二年)頃には約四〇〇〇tSWU/年、また国際合弁企業ユーロディフ社及びコジェマ社から、二〇〇〇年まで合計約一六〇〇tSWU/年の供給契約を有していること、世界の濃縮役務の需給バランスは緩和傾向にあり、米国エネルギー省(DOE)と欧州の濃縮事業者は激しい価格競争を展開すると共に、一層の低廉化を目指してレーザー法等の技術開発を進めている」と述べている。この白書では、ウラン濃縮役務の供給量を最小値で表現しているが、実際はDOEから年間約三〇〇〇ないし六〇〇〇トンSWUの輸入が可能とされている(平成元年五月三〇日付日経産業新聞)。各国との既契約内容の詳細が明らかにされていないため、不明な点があるが、これだけの既契約分があること自体、本件施設の必要性に重大な疑問を生じさせるのに十分である。すなわち、総出力三〇〇〇万キロワット程度の原発を稼動するには、年間約三〇〇〇ないし四〇〇〇トンSWUで十分であり、DOEの供給量にフランスその他の分を加算すれば、平成一二年過ぎまで何ら支障を来すことはないはずである。
三 世界の濃縮役務需給
原子力関係の専門誌による平成元年ないし平成二年ころにおける平成一二年までのウラン濃縮役務に関する需給予測では、圧倒的な買手市場が予想されており、仮に我が国が世界的な脱原発の流れに逆行して原発依存度を高め続けても、独自にウラン濃縮を行う必要など全くないことを明瞭に示していた。
そして、最近のウラン濃縮価格をめぐる日本及び世界情勢の推移は、自国の軍事分野における需要が減少し、原発の閉鎖が相次いで需要の伸びも計画を大きく下回っている旧ソ連ないしはロシアの濃縮ウランの叩き売り等の影響もあって極めてドラスティックであり、濃縮ウランの需給は、「緩和状態」どころではなく、国際的な濃縮ウラン供給能力過剰現象が予測をも遥かに越えた水準で進行しつつあり、また、近時の世界市場におけるウラン濃縮役務価格に関する今後の長期的見通しも、価格の下落を示唆している。したがって、各電力会社は、必要とあれば、短期契約と長期契約とを問わず、任意の量の濃縮ウランを任意の価格で調達可能な状況にある。
四 遠心分離法によるウラン濃縮技術の破綻
昭和六三年八月一日付けの「原子力委員会ウラン濃縮懇談会新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループ中間報告書」は、当時から既に世界的なウラン濃縮役務の供給能力の過剰及び当時の急激な円高の進行に対応した我が国のウラン濃縮事業の経済性向上を訴える一方で、本件施設で採用された遠心分離機について、将来的にこれ以上の飛躍的な技術的進歩やコストダウンは期待し難いとしていた。
遠心分離法は、米国が条件の困難性から断念をしたいわくつきの技術であり、国と動力炉・核燃料開発事業団の過去二〇年間にわたる遠心分離法の開発は、今や経済的には全く意味を失っている。
五 ウラン濃縮新技術開発
現在、レーザー法や化学交換法といった経済性において遠心分離法よりも格段に優れたウラン濃縮技術について研究開発が進められており、これらの新技術が世界の主流となるのは時間の問題である。
六 まとめ
以上によれば、本件施設のような時代錯誤的な遠心分離法による濃縮施設は、経済的に論外であり、本件施設に規制法一四条一項二号にいう経理的基礎が欠けていることは明らかである。
(被告の主張)
本件許可申請が規制法一四条一項二号に規定する事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎があるとの要件に適合しているかどうかについての審査は、主として本件許可申請書の添付書類のうち「添付書類一 事業計画書」(加工事業規則二条二項一号、特に「工事に要する資金の額及びその調達計画」(同号ハ)、「加工の事業の開始の日以後五年内の日を含む毎事業年度における資金計画及び事業の収支見積り」(同号ニ))及び「添付書類九 法人にあっては、定款、役員の氏名及び履歴、登記簿の抄本並びに最近の財産目録、貸借対照表及び損益計算書」(加工事業規則二条二項九号)等に基づき、事業を遂行するために必要な設備資金、運転資金等の見積りが適切なものであるかどうか、その調達能力があるかどうか等を判断する。
原燃産業は、事業を遂行するために必要とされる資金を自己資金及び借入金により充当する計画であり、その返済等についての計画も妥当なものであり、また、顧客である電力会社の経営は安定しており、収入も確実であることから、内閣総理大臣は、その計画の実現性についても問題がないものと判断した。このように、本件許可申請は、規制法一四条一項二号の許可要件のうち経理的基礎に係る部分に適合するものである。
第二二号要件のうち技術的能力に係る部分の適合性
(被告の主張)
本件許可申請が規制法一四条一項二号に規定する「事業を適確に遂行するに足りる技術的能力」があるとの要件に適合しているかどうかについての審査は、主として本件許可申請書の添付書類のうち「添付書類二 加工に関する技術的能力に関する説明書」(加工事業規則二条二項二号)等に基づき、原燃産業が当該事業を計画、遂行していく上で必要な組織、要員を確保することになっているか等を中心に、人的、組織的な面から加工事業者としての適格性の有無を判断する。
原燃産業は、設立に当たって、従来から遠心分離法によるウラン濃縮について研究開発を進め、岡山県人形峠で同法によるウラン濃縮のパイロットプラント及び原型プラントの建設・運転の実績のある動燃事業団から同事業団の保有するウラン濃縮技術を継承することとし、動燃事業団、電力会社等から主たる技術者の移籍を行っていること、本件施設の建設、運転に当たって必要とする技術者については、定期採用等により逐次増強を図るとともに、動燃事業団への派遣等による技術的能力のかん養に努めることになっていること等から、内閣総理大臣は、原燃産業には本件施設を設計、建設及び運転するために必要な技術的能力があるものと判断した。
(原告らの主張)
一 原燃産業の技術的能力
原燃産業は、昭和六〇年三月に設立された会社であるが、これまでウラン濃縮事業の実績は試験・研究を含めて全くないし、ほかにも一切収益活動を行ったこともない。したがって、原燃産業について、その技術的能力の有無を論じることはできない。
この点に関する原燃産業の説明(本件許可申請書添付書類二)は、動燃事業団が技術的能力を有することの説明にはなっても、原燃産業自身の能力の説明にはならない。現に原燃産業は、右説明中で、申請当時においては本件施設の建設に必要な技術者すら不足していることを自認している。しかし、本来、技術的能力の評価は、当該企業の過去の事業実績に対してなし得るものであり、将来の事業活動に対する見込みや期待が評価の基準となることはあり得ない。
右のように、事業実績も技術蓄積も一切なく、必要人員すら充足していない原燃産業には、法定の技術的能力が欠如している。
二 本件施設における事故例と原燃産業の技術的能力
1 本件施設において平成六年二月七日に発生した、大半の機器について中央制御室から監視も操作もできない状態が一時間四五分以上も継続するという事故について、日本原燃は、事故原因の発端はプラグピンの品質管理ができず、腐食生成物が生じたことにあると発表している。
また、日本原燃の発表によれば、コネクタの締め付け確認作業、複数シーケンサの初期化作業、廃品第二段コンプレッサの停止後の起動作業について作業手順書を作成していなかったことも、事故の原因とされている。
これらの発表は、日本原燃が部品管理能力や適切な運転管理を行う能力を欠いていることを示している。
2 日本原燃の発表によれば、シーケンサの機能復旧作業において保修課長が運転課長と協議した結果、誤った順序での作業を指示したとされているが、これは素人目にも明らかな誤りであって、右両名は本件施設の運転について素人並の知識しか持っていないことになり、ひいては日本原燃が適確な運転を行う能力を欠いていることを示している。
3 右の事故は、平成四年一月二六日及び同年二月二四日の高周波電源系統での二回の事故、同年六月一七日のバスダクトのショート・火花発生事故、同年一〇月二五日の落雷事故に続く本件施設における五回目の事故である。このように、事故が多発している事実からも、日本原燃の運転管理能力の欠落は明らかである。
三 JCO事故にみる技術的能力審査の過誤欠落
JCO東海事業所の転換試験棟での作業に従事していた「スペシャルクルー」は五名で構成されていたが、いずれも転換試験棟での作業経験は浅く、最も長い者でも二、三か月の経験しかなかった。事故時に作業をしていた副長と作業員二名は、副長が延べ二、三か月、作業員二名に至ってはこの製造が初めてで延べ一、二週間の経験のみしかなかった。
また、裏マニュアルの作成に当たっては核燃料取扱主任者の資格を持つ者二名がその審査に関与していたほか、JCO事故のときも、バケツを使用する作業を核燃料取扱主任者であるグループ長が指示書(プロセスパラメーターシート)で作業員に指示していた。また、沈殿槽へのウラン溶液の複数バッチ投入について、核燃料取扱主任者資格を持つ製造部計画グループ員が副長から「ウラン溶液均一化撹拌作業に沈殿槽を使用して、ウラン溶液を投入しても問題ないか」と聞かれたのに対して「大丈夫だろう」と回答し、作業にゴーサインを出している。この者は、低濃縮ウラン溶液を複数バッチ沈殿槽に入れても臨界にならないことから、高濃縮ウランを沈殿槽に複数バッチ入れても臨界にならないものと判断してしまったと言い訳しているようである。
右のように、今回の事故時に直接作業をしていた二名やその上司その他のメンバーの実際の作業経験からすれば、書類上で技術者の経験年数を申請させても、現場で現実に経験者がいることは保証されないというべきである。また、核燃料取扱主任者資格を有する者が裏マニュアルの作成や違法作業の指示を行っていたことからすると、核燃料取扱主任者資格を持つ者がいても臨界規制を遵守させることについて役に立たず、むしろ違法作業をしても大丈夫であるという形でその知識を悪用して違法作業を支援する危険性があり、また、核燃料取扱主任者資格を取得していても臨界管理の初歩的な知識に欠け、臨界管理の能力が全くない者が存在することが明らかである。
このような現状をみると、作業従事者の経験年数や核燃料取扱主任者有資格者の有無は、臨界安全性を保障するものでないことはもちろんその存在がプラスになるのかどうかさえ怪しく、その意味で、書類で出す技術者の経験年数や国家資格者の数は実際の技術的能力とは無関係である。そして、事故により明らかになつたJCOの操業の実情をみれば、JCOに加工事業を適確に遂行するに足りる技術的能力がなかったことは明白であり、被告主張の安全審査の手法でJCOの技術的能力を実際にチェックすることはできなかった。
日本原燃の技術的能力についても、右と全く同様の審査がなされているのみであるから、本件安全審査は到底合理的な審査とはいえず、技術的能力の審査判断において看過し難い過誤、欠落があるというべきである。
(被告の反論)
本件施設において平成六年二月七日に発生した事象は、コネクタのプラグピン表面に、電気的絶縁物である腐食生成物が生成したこと及び不適切なコネクタの締め付けトルク確認作業を行ったことによって発生した接触不良並びにシーケンサの復旧作業に当たって適切な換作ができなかったことによるものであるが、このような具体的な運転管理上の個々の事態から直ちに日本原燃に技術的能力がないと断ずるのは誤りである。
すなわち、加工事業許可処分における技術的能力に関する審査は、事業許可後の施設の建設及び運転という加工事業の全過程において、申請者が加工施設を取り扱っていく上での適確な技術的能力を有するか否かを、申請者の人的、組織的な実態を総合的に観察、検討することにより行うものであるところ、原燃産業は、遠心分離法によるウラン濃縮についての実績を有する動燃事業団からウラン濃縮技術を継承することとし、動燃事業団、電力会社等からの主たる技術者の移籍及び技術者の定期採用等を行い必要な要員の充足を図るとともに、技術者の動燃事業団への派遣等による技術的能力のかん養に努めることになっており、内閣総理大臣は、これらの事項を総合して、原燃産業が本件施設を建設及び運転するために必要な技術的能力を有しているものと判断したものであり、本件事象は右判断の合理性を左右する性質のものではない。
第六章 規制法一四条一項三号要件適合性(予備的請求の争点)
第一総論的主張
一 ウランの人体への影響
(原告らの主張)
以下のとおり、ウランは、それ自体人体及び環境に対して高度の危険性を有するものであり、このような危険な物質を大量に取り扱う本件施設の建設は許されるべきではない。
1 ウランの放射能毒性
ウランの発するアルファ線は、物質に対する貫通力が小さいため、人体の外部からの被曝(外部被曝)による影響は少ない。しかし、一旦ウランが体内に入り込むとアルファ線は強い破壊力をもって細胞を照射し、内部に著しい損傷を与える(内部被曝)。生体内に吸収されない不溶性のウランは、とりわけ肺に沈着して容易に排出されず、しかもウランの半減期が長いため、長期間にわたって肺を始めとする体内組織を被曝させ、がんなどの晩発性の障害や遺伝障害の原因となる。
国際原子力機関の「放射線事故等の評価」(一九七四年)によると、不溶性の天然ウランが肺に年間五レムの被曝を与える放射能の量は、五・四二×一〇の二乗マイクロキュリーとされている。そして、一般人の許容被曝線量は、許容被曝線量等を定める件で年間〇・五レムとされているので、同量の被曝を与える放射能の量は、五・四二×一〇の三乗マイクロキュリー、すなわち二・〇一×一〇の二乗ベクレルであり、これを天然ウランの量に換算すると約八ミリグラムとなる。本件施設には最大で五一〇トンの天然ウラン及び八五トンの濃縮ウランが貯蔵されるが、これを右数値にあてはめると、肺に対する一般人の許容被曝線量に対して、天然ウランは六三七億五〇〇〇人分の放射能量を本件施設は有しており、また、五パーセント濃縮ウランについても同様の計算をすると、濃縮ウラン八五トンは三二三〇億人分の年間摂取限度となる(現実にはこれに劣化ウランの放射能量が加わる)。
また、本件施設で貯蔵及び使用されるウランの全体量は三〇〇〇トン規模になるが、天然ウランの一般人の年摂取限度は一・一ミリグラム、五パーセント濃縮ウランの一般人の年摂取限度は〇・二七ミリグラムであるから、本件施設では数兆人分の年摂取限度のウランが貯蔵及び使用されることになり、その内蔵する放射能量は莫大である。
2 ウランの化学毒性
ウランは上記の放射能毒性とともに、物質としての化学毒性を有する。昭和四八年発表のアメリカ国立職業安全衛生研究所による研究結果によれば、水溶性のウランはメチル水銀や青化カリなどの猛毒に匹敵する化学毒性を有しており、腎臓や神経系を侵す重金属毒の一種に分類される。
ウランは工業上、固体(酸化ウラン)又は気体(六フッ化ウラン)で取り扱われることが多く(本件施設も同様)、水溶性ウランの化学毒性に注目されることが少ない。しかし、本件施設の事故により貯蔵していたウランが地下水に浸出した場合などを想定すると、前記の放射能毒性とともにウランの化学毒性が周辺住民の生命・身体に重大な危険をもたらすことは明らかである。
3 崩壊生成物の危険性
本件施設に貯蔵されるウランには、製錬後の期間に応じた崩壊生成物(娘核種)が含まれている。すなわち、ウラン鉱石の製錬によって、ウランは一旦純粋な形となるが、その後の期間の経過によって、ウランは放射線を発して崩壊し、ラジウム、ラドンなどの崩壊生成物を生じさせる。
このうち、ラジウムはウランの粉塵とともに体内に入り、腸で吸収されて骨に運ばれ、白血病や骨癌の原因となる。また、ラドンはラジウムの崩壊によって発生する気体状の物質で、気体であるため容易に環境中に放出され、肺に取り込まれると肺癌の原因となる。
(被告の主張)
ウランが一定の潜在的危険性を有することは事実であるが、その潜在的危険性を顕在化させないための努力を払うことにより、これを安全に利用することができるのであり、潜在的危険性が存することのみを理由として、直ちにその利用が否定されるべきものではない。そして、本件安全審査においては、種々の安全性確保対策が講じられることにより本件施設の安全性は確保されると判断されたのであって、適切な安全性確保対策が講じられているか否かを問うことなく、ウランの有する潜在的危険性のみを理由として本件施設の建設が許されるべきではないとする原告らの主張は、それ自体失当である。
また、本件施設において貯蔵及び使用されるウランの全体量三〇〇〇トンが数兆人分の一般人の年摂取限度のウランに相当するとの原告らの主張は、本件施設で貯蔵及び使用するウランの全量が施設外に放出され、かつ、その全量を一般人が摂取するとの仮定に基づくものであるが、原告らのこのような仮定自体合理的な根拠を有しないものであり、その計算結果も実際上意味がない。そして、本件安全審査においては、本件施設において適切な安全確保対策が講じられることはもとより、平常時評価として平常時における一般公衆の被曝線量が実用可能な限り低いものであること及び事故時評価として最大想定事故が発生するとした場合でも一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないことをそれぞれ確認しているのであるから、原告らの仮定するような事態は起こり得ない。したがって、原告らの主張は、その前提を欠き失当である。
また、仮に、右の点をおくとしても、原子力施設に係る安全審査において、安全確保の観点から必要な対策が講じられているか否かを審査する際に、施設に内蔵する放射能量等、それぞれの施設の有する潜在的危険性を考慮することには合理性がある。
二 国内規制値の問題点
(原告らの主張)
本件において被告が主張する、許容被曝線量を年間〇・五レムとする放射線の規制値は、ICRPの一九四八年(昭和二三年)勧告に基づいている。しかし、ICRPの勧告の背景にある考え方は、原子力産業に従事する労働者や原子力施設周辺地域の住民の生命身体の安全よりも、原子力産業の経済的利益を優先させるものである上、一九六〇年(昭和三五年)代以降には低線量・微量の放射線の生物体に与える影響や広島長崎の被曝線量の再評価に関する研究成果が発表され、従前の放射線の危険性評価には重大な誤りが指摘されるに至っている。また、ICRPは、その前身である国際エックス線ラジウム防護委員会(IXRPC)の設立された一九二八年(昭和三年)以降現在までの間に数度にわたり放射線防護のための線量制限値を提示してきたが、その制限値は、提示の度に切り下げられている。このような経緯に照らすと、今日では、ICRPの勧告値自体が人間の生命身体に対する被曝の絶対的かつ最終的な安全基準として信頼するには足りず、むしろ今後の新たな知見によって更に厳しい規制強化が必要となることが予測されるところであるから、ICRP勧告に依拠する被告の立場は、前提において破綻しているというべきである。
(被告の主張)
ICRPは、一九二八年(昭和三年)に国際エックス線ラジウム防護委員会として発足し、一九五〇年(昭和二五年)に現在の組織形態となったもので、放射線医学、物理学、生物学、遺伝学等放射線防護に関する世界の最高権威者をもって構成され、政治や行政の状況に左右されることなく、科学的な立場から放射線防護に関する勧告を行っている機関である。ICRPは、放射線影響、放射線防護に関する最新の知見及び技術に基づいて、放射線防護の基本的考え方、方策及び基準等につき検討し、その結果を勧告あるいは報告書の形で公刊しており、これらは、日本を始め世界各国において、放射線防護関係法令の立案に際して、遵守あるいは尊重されていて、我が国においても、ICRP勧告を尊重し、科学技術庁に設置された放射線審議会(放射線障害防止の技術的基準に関する法律四条)においてされる審議等を踏まえ、国内法令への取り入れを行っている。
このうち、一般公衆の放射線被曝の線量制限については、本件許可処分の当時には、ICRPの一般公衆の許容被曝線量に関する勧告(一九五八年)を尊重し、放射線審議会の答申を受けて、加工事業規則等の規定に基づき、許容被曝線量等を定める件所定の周辺監視区域外の許容被曝線量、すなわち一般公衆の許容被曝線量は、一年間につき〇・五レムとされていた。また、ICRP一九七七年(昭和五二年)勧告及び一九八五年(昭和六〇年)パリ声明に基づき、国内法令を改廃した結果、現在は、加工施設における周辺監視区域外の線量当量限度は、実効線量当量について一年間につき一ミリシーベルト、皮膚及び眼の水晶体の組織線量当量についてそれぞれ一年間につき五〇ミリシーベルトとされている。さらに、ICRP一九九〇年(平成二年)勧告(ただし、一般公衆に対する実効線量当量限度は、同一九七七年勧告及び一九八五年パリ声明におけるそれから変更されていない。)については、現在、放射線審議会においてその国内法令への取り入れについて審議されているところである。
ICRP勧告の線量制限値は、このように、最新の科学的・技術的知見に基づく、各界の最高権威者による専門的な検討を経て定められたものであり、これまでのICRPによる線量制限値の見直しも、放射線利用の拡大に伴い、線量限度の目的が、直接観察し得るような悪性でない影響(皮膚の紅斑等)の防止(急性影響の防止)から、がんや遺伝的影響の発生の防止(晩発影響の防止)へと拡大、変化したことや、長年にわたるX線やラジウムその他の放射性物質の使用経験及び人間その他の生物の放射線影響に関するデータ等に基づく新しい知見が得られたことなどを背景とするものであり、これらにより被曝線量の安全基準としての信頼性をその都度高めているものである。そして、この制限値は、将来的には新たな知見の獲得等により変更されることがあり得るとしても、現在において最も信頼性の高い基準であることに何ら変わりはないのであり、現在におけるその信頼性が否定されるべきものでないことは当然である。したがって、ICRP勧告を尊重して定められた国内規制値に、原告らが主張するような問題はない。
三 加工施設指針の欠陥
(原告らの主張)
加工施設指針は、指針の内容がいずれも極めて抽象的で具体性に欠け、放射線の管理のために何をどのようにしてどの程度に管理すべきか、という点を何ら明らかにしておらず、指針としての実効性に欠けている。放射線の安全管理を意味のあるものにするためには、安全確保上必要とされる項目を定めるのみではなく、最低限それをどのような施設と技術で、どの程度に行うべきかを明記して、申請に係る施設が安全であるかどうかを具体的に判断する必要があり、放射線管理の基本的枠組みを審査するだけでは、到底安全審査たりえない。
また、事故は複数の故障(トラブル)が重なって発生するものであるにもかかわらず、加工施設指針は単一故障しか想定しておらず、この点においても安全審査上内容が不十分である。
(被告の主張)
加工施設指針は、加工施設に関する技術的事項の細部にわたってまで逐一具体的な指示を与えるものである必要はなく、専門技術的知見を有する者が、審査において、申請に係る加工施設の位置、構造及び設備が当該施設の基本設計ないし基本的設計方針において災害防止上支障がないものとして設置されるものであるかどうかを判断するための基本的枠組みを提供する内容を具備していれば足りるものであるところ、加工施設指針はこの要請を完全に満たしているから、指針の内容が抽象的であるとの原告らの批判は当たらない。
また、複数の故障を想定していないとの点については、加工施設指針三の内容から明らかなように、加工施設指針は、技術的合理性を有する範囲において発生が想定される事故について考慮することとしており、技術的合理性の観点から発生する可能性が極めて低いと考えられるもの、すなわち、例えば別個の原因に基づき同時に複数の事故が発生すること等の事象については考慮する必要がないものとしているのであり、このことは十分に合理的なものである。
四 加工施設指針の濃縮施設への妥当性
(原告らの主張)
濃縮施設は、加工施設指針が予定するその他の加工施設(ウラン成型施設やいわゆる加工施設)とは、取り扱うウランの状態、工程の複雑さが異なっており、その危険性は高く、安全確保手段をより厳しく規制する必要がある。したがって、加工施設指針は、濃縮施設の安全性を審査する基準としては不十分であって、その点において不合理である。
(被告の主張)
加工施設指針は、ウラン濃縮施設の安全審査においても十分な合理性を有する審査基準である。
五 規制法一四条一項三号要件適合性の審理手法
(被告の主張)
原子力施設における安全性の確保とは、当該原子力施設における核燃料物質等による災害を防止するため、当該原子力施設の位置、構造及び設備について、核燃料物質の有する潜在的危険性を顕在化させない対策をどのように講じるかということに尽きるものである。
もっとも、加工施設は原子力施設ではあるが、原子炉のようなエネルギーの生産施設ではないので、その内包するエネルギーは小さく、また、ウランが常に臨界未満の状態で取り扱われるので、臨界状態での核分裂反応を制御する機能も必要ない。しかも、加工施設である本件施設は、その内蔵する放射能量が原子力施設としては最も少ないものの一つであるし、また、そこで取り扱われる六フッ化ウランは不燃性でかつ爆発性もなく、その工程においては、化学変化がなく、比較的低温でかつ大部分が大気圧以下で取り扱われる。したがって、本件施設は、その潜在的危険性が極めて小さいものであるということができる。
加工施設に係る安全性確保対策については、客観性の担保、確実性及び予測可能性の確保等のために、その基準として原子力安全委員会により定められた核燃料施設基本指針及び加工施設指針がある。これらの指針等に基づく安全審査を行うことにより、当該加工施設の基本設計ないし基本的設計方針が適切なものであるか否か、すなわち、核燃料物質による災害の防止上支障がないものであるか否かが判断される。
右の安全性確保対策は、次の四つの柱に集約される。
第一は、加工施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策、すなわち、加工施設を立地するに際して、立地地点及びその周辺における自然環境及び社会環境(基本的立地条件)を検討して、当該施設の基本設計ないし基本的設計方針との関連において、加工施設に係る大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えられず、万一事故が発生しても災害を拡大するような事象の少ない立地を選定することである。
第二は、右の基本的立地条件に起因する事象への対策のほか、加工施設自体の安全性確保対策、すなわち、ウラン加工施設の耐震性、地震以外の自然現象に対する安全性、火災・爆発の防止、臨界管理、電源喪失に対する考慮、放射性物質の閉込め等について、その基本設計ないし基本的設計方針において所要の安全性確保対策を講ずることである。
第三は、加工施設自体の安全性確保対策との関連において、公共の安全が確保されていることであり、加工施設で最大想定事故(安全上重要な施設との関連において、技術的にみて発生が想定される事故のうちで、一般公衆の被曝線量が最大となるもの)が発生した場合でも、一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないことである。
第四は、加工施設の平常運転時における被曝低減に係る安全性確保対策、すなわち、加工施設の平常運転時において環境に放出される放射線及び放射性物質についても、これらによる一般公衆の被曝線量が許容被曝線量等を定める件に規定する周辺監視区域外の許容被曝線量(年間〇・五レム)、あるいはこれに代わって発せられた線量当量限度等を定める件に定める周辺監視区域外の線量当量(実効線量当量一ミリシーベルト)以下となるようにすることはもちろんのこと、これを実用可能な限り低減させるように、その基本設計ないし基本的設計方針において所要の被曝低減対策を講ずることである。
本件施設の設置に当たっては、このような安全性確保対策の考え方にのっとり適切な配慮がなされているので、その安全性は確保されるものと判断した。
第二本件施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策
一 地盤
(被告の主張)
本件施設を設置する原燃産業六ヶ所事業所は、青森県下北半島南部の上北郡六ヶ所村大石平にある標高三〇ないし六〇メートルの丘陵地帯にあり、事業所南側は尾駮沼に面している。事業所の敷地は約三四〇万平方メートルである。
本件施設の敷地(以下「本件敷地」という。)には、鷹架層と呼ばれる新生代第三紀(古生物の進化の過程に基づく地質年代の分類の一つで、およそ六五〇〇万年前から一八〇万年前までを指す。)の砂岩・凝灰岩類(いずれも堆積岩(岩石の砕屑物、火山噴出物、生物の遺骸等が、それらの生成場所又は他の場所に運搬・沈殿堆積して固結した岩石)の一種で、砂岩は主に粒径一六分の一ミリメートルないし二ミリメートルの砂粒が堆積し固結した岩石、凝灰岩類は火山灰等の火山噴出物が堆積し固結した岩石である。)が分布しており、さらにこれらを覆って第四紀(右地質年代の分類においておよそ一八〇万年前から現在までを指す。)の段丘堆積層や火山灰層が堆積している。この鷹架層は、上面の風化された部分を除くと、標準貫入試験のN値が五〇以上の十分な地耐力(地盤が建築物等の荷重に対して耐え得る強さ)を有する岩盤である。本件施設の建物は、この鷹架層に支持させる設計となっている。
右の標準貫入試験とは、「土の標準貫入試験方法」(日本工業規格(JIS―A―一二一九)に準拠して実施されるもので、地盤の堅さ、締まり具合の相対値であるN値を求めるためのものであり、N値は六三・五キログラムのハンマを七五センチメートルの高さから落下させ、試験用サンプラを三〇センチメートル打ち込むのに要する打撃数である。そして、一般にN値は地耐力を表す一つの指標とされており、N値からその地盤の地耐力の一つである許容支持力を推定することができる。そこで、右鷹架層は、N値が五〇以上の岩盤であるから、本件施設の支持地盤として十分な地耐力を有し、立地条件として安全上問題がないものと判断できる。
また、本件敷地に関しては、公刊文献による調査及びボーリングコア観察等の現地調査等により、過去に地滑り及び陥没の発生した例はないこと、及び、本件敷地周辺は、なだらかな台地であって地滑りが発生するような地形ではなく、陥没を引き起こすような地層もないことを確認した。
(原告らの主張)
1 支持地盤
(一) 安全審査書で本件施設の支持層とされている鷹架層は、本層は砂岩で、凝灰岩は極く薄い層が挟在するにすぎず、土質工学的にいうと、土と岩石の中間の硬さを有する「軟岩」に属する。
そして、ある地(岩)盤が、ある建築物の支持層として適当であるか否かは、単に当該地(岩)盤の許容支持力だけで決まるものではないことは今や常識となっており、例えば、仮に支持力は十分にあっても、その地(岩)盤が軟岩か硬岩かによって、地震時の揺れ方の強さにもかなり大きな差異が出てくることも想定されるし、軟岩と硬岩との間には諸物性値についての顕著な差異もあるから、軟岩か硬岩かの問題を一切度外視してよいということにはならない。本件安全審査には、この点に考慮を払っていない違法がある。
右のことは、昭和六〇年に本件敷地に近接する石油国家備蓄基地のオイルタンク六基が不同沈下した事実から明らかである。なお、この不同沈下を引き起こした石油タンクの工区の基礎地盤が砂子又層及び火山灰(ローム)層であって鷹架層でないことは被告の説明のとおりであるにしても、右の石油タンクは、不同沈下を防止するために「危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示」の関係諸条項を十分に満たしていることが確認されていたものであったはずである。しかし、それにもかかわらず、石油タンクの一部が実際に不同沈下を引き起こしたのであるから、本件施設の建物についても、加工施設指針に背反していない限り安全性が十分確保されているとはいえないことになる。
(二) N値によって許容支持力を推定する方法には、精度の点からみて問題があることを指摘する見解は少なくなく、また、一般論として、N値に余りにも依存しすぎるという風潮に対して警告を発している学者もいるから、N値の調査結果のみをもって鷹架層が本件施設の支持地盤として十分な地耐力を有するとはいえない。
(三) N値に基づく地耐力の推定値がどの程度正しいのかを正確に判定するには平板載荷試験などによって岩盤支持力を計算することが必要であるし、地盤の性質を把握するためには、より深くボーリング調査を行うとともにコア採取率、最大コア長及びRQD(岩盤良好度)の結果を示す必要があり、物理試験(単位体積重量、含水比、比重、間隙率の調査)も必要である。にもかかわらず、これらの試験は実施されておらず、この点を看過した本件安全審査は違法である。この点については、被告も、支持地盤としての適否は「支持力と当該建築物の荷重との関係などから判断される」と主張し、N値から推定される許容支持力以外の諸性質も影響するものとしている。
(四) ある地盤の地耐力が十分であるとするためには、地耐力の平均値及びその標準偏差並びに最低値及び最高値を明らかにするとともに、最低値の部分でも十分な余裕があることを示す必要がある。にもかかわらず、安全審査書は、この数値を明示しておらず、違法である。
2 サンドウィッチ地盤
本件敷地の下には、硬い地層の間に軟弱な地層がサンドウィッチ状にはさまれた、いわゆる「サンドウィッチ地盤」が存在する。この地盤があると、仮に地盤の支持力の点で特に問題はないとしても、気象庁震度階級(地震動の強さを表す指標をいい、人間が感じる程度に応じて地震に階級をつけたもの。以下「震度階」といい、具体的な数値については「震度一」などという。)五以上の地震に襲われた場合には、建物の倒壊等極めて危険な状態となる。
近年、いわゆるサンドウィッチ地盤の問題が注目されるようになってきたのは、この問題が耐震設計基準の中に取り入れられていないため、建築基準法関係諸法令を遵守して適法に建築された建物が、震度五程度の地震に際して圧潰したり、傾斜したりするなどの顕著な被害を被ったという例が、昭和四三年十勝沖地震、昭和五〇年四月二一日の「大分県中部の地震」や昭和五三年宮城県沖地震などに際して数多く見られたという冷厳な事実に基づいている。そして、この用語は、専門家としてこの用語を最初に使用した日本大学理工学部の守屋喜久夫教授(応用地質学)により、明確に定義されている。
本件許可申請書に掲げられている地質断面図によれば、鷹架層のN値は、一メートルごとの測定値が三回連続して五〇以上を示した時点で測定が中止されており、同層のN値について確認されている事項は、上部の風化部を除くと、N値が五〇以上の部分が少なくとも二メートル連続して出現しているということだけということになる。したがって、それ以深の部分のN値も五〇以上あるということは、あくまでも推測にすぎず確認はされていないから、それ以深にN値が小さい部分、すなわちサンドウィッチ地盤がないことも確認されていないことになり、他にもサンドウィッチ地盤の存否を確認する調査は行われていないが、本件安全審査には、この点に考慮を払っていない違法がある。
被告は、N値が五〇以上あれば、一般的に十分堅い地盤と判断できるため、通常、N値が五〇以上に達した時点でN値の測定を終了するのが通常であると主張する。しかし、基礎地(岩)盤に求められる堅さは、その上に築造される構造物の性質(どの程度の安全性が求められるのかというような点をも含む。)との関係で相対的に決まるものであるから、N値の測定にしても、N値が五〇以上の部分がどのくらいの層厚を有して連続的に発達しているかを調査・確認することが極めて重要になる場合もある。ゆえに、多くの事業者は、N値が五〇以上の部分が二メートル連続して出現した時点でN値の測定を終了するようなことは、一般に行わない。
被告は、N値が五〇以上であることが確認された位置より更に深い所の地盤についても、現地におけるボーリングコアの観察によって問題がないことを確認していると主張するが、ボーリングコアの観察にはどうしても観察者の主観が入るため、ボーリングコアの観察だけでN値が五〇以上あるか否かを推定することはできても、確認することはできない。このため、この点を確認するためには、客観的な標準貫入試験を相当程度の深さまで実施することが必要不可欠になる。
3 地滑り・陥没等の危険
表層地盤や盛り土による造成部分では、地滑り、陥没が発生する危険が多分にある上、本件敷地は同じ造成地でも均質性を欠いているので、危険性は一層高い。さらに、集中豪雨等により崩壊の危険があり、降雨で地盤がゆるんでいるところへ地震が起こると大きい地震災害が発生する。造成地は、非造成地と比べて地盤が軟弱なため、地滑り、陥没等のほかに液状化現象等も引き起こしやすいことは今日では既に常識化しているところであるが、被告は、地滑り、陥没等の対策が排水工事、法面工事等において施されるので地滑り、陥没等のおそれはないと主張し、工学万能・技術万能の立場を露わにしている。しかし、かかる主張は、「壊れないように作ったので、壊れることはない」というようなもので、およそ無意味・無内容なものでしかない。
また、鷹架層が地滑り、陥没や崩壊を引き起こさない地層であることを証するに足る地質学的資料は、全く存在していない。詳細な地質調査を実施すれば、右のような諸現象を引き起こす可能性を示唆するような事実が明らかになるかも知れないのである。現に、本件施設の敷地よりははるかに詳細な地質調査が実施された使用済み核燃料再処理工場の敷地内には、同工場の事業者である原燃サービスの内部資料によって、急傾斜崩壊や重力性滑りなどが存在することが明らかにされている。
4 断層調査の不備
断層と節理との区別は極めて難しく、また断層の範囲の識別も困難なことが少なくないのに、本件敷地における断層調査は、五一孔のボーリング孔中七孔についてしか地質柱状図が作成されず、掘進長も短い極めて不十分なものにとどまっている。十分なボーリング調査やトレンチ調査、不連続面の分布状態や性質についての詳細な調査をすれば、本件施設に影響を与えるような断層(活断層)の存在が確認される可能性は極めて高い。また、本件施設に隣接する低レベル放射性廃棄物埋設施設では、当初その申請書では断層は存在しないとされていたが、その後の補正書でf―a、f―bの二つの断層が存在すると追加記載されるに至っており、右各断層の延長線として本件敷地内にも断層が存在する可能性がある。
これに対し、被告は、ボーリング調査や地表地質調査、文献調査により施設の安全性に影響を与えるような断層のないことを確認しているから、本件敷地に地震断層の出現による地盤の変位が生ずるおそれはないと主張しているが、掘進長もさして長くないボーリング調査において、施設の安全性に影響を与えるような断層の有無をどのようにして調べたのかについての説明は一切ない。また、本件敷地の大部分は、第四紀層あるいは盛土層に覆われているため、地表地質調査によってすべての断層の性状を明らかにすることは不可能である。さらに、本件施設の立地が決定される以前の段階で、施設の安全性に影響を与えるような断層の存在の有無を調べた学者・研究者がいたはずもないから、そのような断層は存在していないことを明記した文献が存在しているわけもない。
また、被告は、「日本で今までに認められた二〇前後に及ぶ地震断層のほとんどすべては、活断層つまり第四紀に何度か動いた断層に沿ってあらわれている。」という一般論を展開するのみで、<1>明治二九年八月三一日の陸羽地震の際に出現した川舟地震断層、大正一四年五月二三日の北但馬地震の際に出現した田結地震断層、昭和一八年九月一〇日の鳥取地震の際に出現した吉岡地震断層などのように、活断層の存在が全く知られていない場所に出現した地震断層も存在していること、<2>今日知られている二〇前後の地震断層のうちの出現時期が最古のものは、一八四七年五月八日の善光寺地震の際に出現したものであること、<3>それ以前の年代の地震に伴って出現した地震断層も、当然、多数存在しているはずであるにもかかわらず、それらは、出現後の地形の変化などによって、痕跡をとどめなくなっているものと推定されること、などについては何ら言及していない。
5 地盤の隆起沈降等
地震が起こると、地盤の隆起・沈降による地盤の変位が生じることが少なくない。
この点に関し、本件安全審査では、「本件施設付近の地盤は、…過去に局所的な隆起・沈降を生じたことを示す形跡がないことから、将来においても施設に影響を与えるような地盤の隆起あるいは沈降を生じるおそれのないことを確認している。」とされている。しかし、<1>本件安全審査では過去に局所的な隆起あるいは沈降を生じたことを示す形跡の有無をどのようにして調べたのかについて、全く説明していないこと、<2>過去に施設に影響を与えるような局所的な隆起あるいは沈降を生じたことがあったとしても、それらの形跡が現在残っているとは限らないから、「形跡がない」ということは、この場合、隆起あるいは沈降が生じたことはなかったことの証左になるものではなく、それらが生じたかどうかは不明であるにすぎないこと、<3>何事についても「初めて」ということがある以上、施設に影響を与えるような地盤の局所的な隆起あるいは沈降が過去に起こったことが仮になかったとしても将来にわたっても起こらないという保証はどこにも存在していないこと、などからすれば、本件安全審査は、科学的根拠を全く欠いているといえる。
(被告の反論)
原告らは、本件許可申請及び本件安全審査には、本件施設の支持地盤の地耐力の判断方法等に誤りがあると主張するが、右主張は、以下に述べるとおりいずれも理由がなく失当である。
1 支持地盤について
(一) 原告らの主張(一)について
ある地盤が建築物の支持地盤として適当であるか否かは、当該地盤の有する支持力と当該建築物の荷重との関係などから判断されるものであり、当該地盤が土質工学上「軟岩」であるか「硬岩」であるかによって判断されるものではない。また、建築基準法等関係法令は、建築物の耐震設計に用いる設計地震力の算定に関して、地盤を三種に区分しているのであるが(昭和五五年建設省告示第一七九三号)、岩盤については軟岩、硬岩を区別することなく同一に取り扱うよう定めているのであり、また、建築基準法施行令九三条においても、岩盤の長期応力に対する許容応力度としては、それが軟岩又は硬岩のいずれに分類されるものであるかに関係なく、一平方メートル当たり一〇〇トンを採用することができるものとしている。
また、石油備蓄基地のオイルタンクの沈下(発生年は昭和六〇年ではなく昭和五八年ころである。)については、むつ小川原石油備蓄株式会社は、不同沈下したタンクの工区の地盤は砂子又層及び火山灰(ローム)層であると説明しており、本件施設の支持地盤である鷹架層とは異なるから、原告らの主張は失当である。
(二) 原告らの主張(二)について
本件施設の支持地盤が十分な地耐力を有していると判断したのは、そのN値が五〇以上であることが確認されたことに加え、現地におけるボーリング調査、地表地質調査及び文献調査により、支持地盤が新生代第三紀に形成された鷹架層の砂岩・凝灰岩類からなる岩盤であることが確認されたことによるものである。したがって、原告らの主張は、その前提において既に失当である。
(三) 原告らの主張(三)について
ボーリング調査、地表地質調査及び文献調査の結果、鷹架層は、十分な安定性を有する岩盤であり、また、前述のとおり、標準貫入試験によるN値が五〇以上の十分な地耐力を有する岩盤であることから、このような地盤であれば、原告ら主張に係るN値以外の各種試験を行わなくても、本件施設の支持地盤として安全上問題がないと判断することができる。
なお、標準貫入試験によるN値とそれ以外の各種試験により求められる数値との間では、例えば地盤の許容応力度とN値との関係については、一般に、土質の性質に応じて一定の相関性が認められている。すなわち、例えば、「土質調査法」(土質工学会編)によれば、N値五〇の地盤の許容応力度は、岩盤に比べて相対的に許容応力度が小さいとされる砂地盤の場合においても、一平方メートル当たり四五トン以上とされている。また、地盤の種類と許容応力度の関係についても、建築基準法施行令九三条によれば、岩盤については長期応力に対する許容応力度として、一平方メートル当たり一〇〇トンを採用することができるとされている。このように、N値ないし地盤の種類と許容応力度との間には一定の相関性が認められており、したがって、一般に、ある地盤について、標準質入試験によるN値及び地盤の種類が明らかであれば、標準貫入試験以外の各種試験が実施されていなくとも、許容応力度を推定することは可能である。
ちなみに、例えば、本件施設に比して高層で壁厚も大きい原子力発電所の原子炉建屋においても、その常時接地圧は一平方メートル当たり七〇トン程度であり、これに対し、岩盤である本件支持地盤が長期応力に対して、一平方メートル当たり一〇〇トンの許容応力度を採用することができることからしても、本件施設の支持地盤が十分な地耐力を有することは、標準貫入試験以外の各種試験を行うまでもなく明らかである。
(四) 原告らの主張(四)について
本件施設の支持地盤である鷹架層は、前述のとおり、新生代第三紀のN値が五〇以上の岩盤であって、そのような地盤であれば、本件施設の支持地盤として十分な地耐力を有しているものと判断できる。したがって、原告らの主張は失当である。なお、標準貫入試験においては、N値が五〇以上の地盤であれば、一般的に十分堅い地盤と判断できるため、通常、打撃数が五〇を数えた時点(すなわち、N値五〇以上を確認したこととなる。)で、試験の目的を達したものとしてこれを終了するのが通例である。
2 サンドウィッチ地盤について
標準貫入試験によるN値がハンマーの打撃数であることからも明らかなように、一般に十分堅い地盤に対しては、打撃数が五〇を数えた時点でこれを終了するのが通例である。この試験の趣旨について、「土質調査法」は、「土層が密な砂礫や固結した粘土などの場合、三〇センチメートル未満の貫入量で打撃回数が五〇回を超えることもしばしば起きる。このようなときに機械的に三〇センチメートル貫入に要する打撃数を求めることは無意味であり、特に必要のない限り五〇回を限度として打撃を打ち切ってよいことにした。」としており、打撃数が五〇回を数えた時点でこれを終了することには何ら異とする点はない。
そして、鷹架層については、本件安全審査において、N値が五〇以上であることが確認された位置より更に深い所の地盤についても、現地におけるボーリングコアの観察によって、N値が五〇以上である位置と同程度あるいはそれ以上に新鮮かつ強固であって、柔らかい層が狭在していないことを確認している。専門的知見を有する者であれば、ボーリングコアを観察することにより、N値が五〇以上であることが確認された位置より深いところの地盤がN値が五〇以上であることが確認された地盤のコアと同程度あるいはそれ以上の堅さを有していることを確認することができる。
3 地滑り、陥没等の危険について
そもそも、本件施設の支持地盤は鷹架層の岩盤であって、表層部や造成した盛り土部分ではないから、支持地盤の滑り、陥没、崩壊の可能性は考えられない。また、敷地の造成部分についても、排水工事、法面工事等において地滑り、陥没等の対策が施されることとなっており、地滑り、陥没等のおそれはない。
4 断層調査の不備について
断層については、「日本の活断層―分布図と資料―」(活断層研究会編)によれば、「日本で今までに認められた二〇前後におよぶ地震断層のほとんどすべては、活断層つまり第四紀に何度か動いた断層に沿ってあらわれている。」とされているところ、本件安全審査においては、本件敷地全体において実施された五一孔のボーリング調査により敷地全体の地質構造が明らかにされており、本件安全審査では、この調査結果のほか、地表地質調査の結果や文献調査等によって、本件施設の支持地盤である鷹架層において施設の安全性に影響を与えるような断層が認められないことを確認しているから、本件敷地に地震断層の出現による地盤の変位が生ずるおそれはない。
右の各調査結果から施設の安全性に影響を与えるような断層の有無を判断することは、専門的知見を有する者であれば、これを行うことに特段の困難はないものであり、本件安全審査においても、右の各調査結果から施設の安全性に影響を与えるような断層のないことが確認された。
また、本件施設と近接するところに所在する低レベル放射性廃棄物埋設施設の事業許可申請書中に断層が記載され、この断層が本件敷地内に断層がある可能性を指摘する点については、確かに、右廃棄物埋設事業の安全審査では、埋設設備群設置位置及びその付近の鷹架層中にf―a断層、f―b断層と称する二本の断層が認められるものの、両断層とも支持地盤の安定性に影響を与えるものではないと判断されている。したがって、かかる知見は、施設の安全性に影響を及ぼすような断層がないと判断した本件安全審査の妥当性に何ら影響を与えるものでない。
5 地盤の隆起・沈降等について
本件安全審査においては、本件敷地に関し、ボーリング調査、地表地質調査及び文献調査を実施することにより、造成前の地形状況、敷地直下の鷹架層とその上位の第四紀層との地層境界及び第四紀層の分布状況を調査して、過去に局所的な隆起、沈降等の形跡がないことを確認して、将来においても施設に影響を与えるような地盤の隆起あるいは沈降を生じるおそれはないと判断している。
二 地震
(被告の主張)
本件敷地周辺の被害地震については、本件許可申請書の添付書類三に、「宇佐美カタログ(一九七九)」、「宇津カタログ(一九八二)」(被害等級一以上のものに限る。)及び「気象庁地震月報」(震度四又はマグニチユード五以上で被害報告のあるものに限る。)に記載されている被害地震中、本件敷地からの震央距離が二〇〇キロメートル以内の地震が「敷地周辺の被害地震」として記載されている。
本件安全審査においては、敷地の基本的立地条件として、事故の誘因を排除し、災害の拡大を防止する観点から、信頼性が高いと考えられる右各文献に加え、昭和六二年三月刊行の「新編日本被害地震総覧」、「理科年表(昭和六二年版)」等の新しいデータも含め、さらに震央距離が二〇〇キロメートルを超える地震についても十分検討した結果、本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度は、最大でも震度五程度であることを確認した。
(原告らの主張)
1 地震リストの改ざん
(一) 震源が二〇〇キロメートル以遠の地震
本件許可申請書は、本件敷地周辺の被害地震のリスト作成に当たり、敷地から二〇〇キロメートル以内に震央位置がある五五の地震だけを取り上げているが、これは、被害が震央距離とあまり関係ないという地震学の常識に照らし誤りである。本件安全審査は、申請者のこのような「地震隠し」を前提としてされたものであり、若しくは地震リストの改ざんを看過したものであって違法である。
また、本件許可申請書では、本震と余震がある場合において、本震の震央位置が敷地から二〇〇キロメートル以遠にあるとしても、余震の震央位置が敷地から二〇〇キロメートル以内にある地震は、独立の一地震として取り扱われない限り除外されており、この点を不問にした点においても本件安全審査は違法である。
(二) 新規データの参照の有無
被告は、本件安全審査において、本件許可申請書で地震に関する文献として使用された「宇佐美カタログ」や「宇津カタログ」等の諸文献に加え、更に昭和六二年三月刊行の「新編日本被害地震総覧」や「理科年表(昭和六二年版)」等に示されている新しいデータをも含めて検討したと主張しているが、右「理科年表(昭和六二年版)」の「日本付近の被害地震年代表」は古いデータに基づいて作成されており(理科年表で新しいデータが初めて示されたのは、本件許可処分の後の昭和六三年一一月三〇日に刊行された昭和六四年版の「日本付近のおもな被害地震年代表」においてである。)、内閣総理大臣が同書を実際に見たのであれば、それには新しいデータはまだ取り入れられていないことに直ちに気付いたはずである。しかし、被告は、同書には新しいデータが示されていた旨言明しており、真実内閣総理大臣が同書を見たかどうかは極めて疑わしい。また、内閣総理大臣は、平成三年九月に科学技術庁が公表した「六ヶ所ウラン濃縮工場とその安全審査について」と題する文書(以下「安全審査について」という。)では、地震の項において、そのような文献に示されている新しいデータをも含めて検討したということを一言も述べていない。
(三) 宇佐美カタログの改訂
「新編日本被害地震総覧」の著者である宇佐美龍夫博士は、同書が刊行された昭和六二年三月一〇日の時点で旧著の「宇佐美カタログ(一九七九)」を事実上の廃棄処分にしたわけであるが、原燃産業は、そのことを知らずに本件許可申請書を作成したため(提出日は昭和六二年五月二七日)、申請書に掲げた被害地震のリストを、宇佐美博士の新著「新編日本被害地震総覧」に基づかず、旧著に基づいてまとめるという過ちを犯した。そして、内閣総理大臣も、宇佐美博士の新著が刊行されたことを知らなかったため、本件許可申請書の地震のリストが古いデータに基づいてまとめられていることを見逃してしまった。内閣総理大臣としては、本件安全審査に際し、宇佐美博士の旧著に基づいて地震のリストをまとめた原燃産業に対し、新著に基づいて地震のリストを作りなおすとともに、地震の項の説明を全面的に書き替えることを要求すべきであった。
(四) 震央位置不明の地震や余震の扱い
本件敷地の周辺地域には、一六五六年四月一六日の「八戸の地震」から一八五八年五月一一日の「八戸の地震」に至るまでの約二〇〇年間に、震央位置が不明の地震が合計一八個あったことが知られており、それらのうちの一三個までが「八戸の地震」あるいは「陸奥八戸の地震」とされているが、これらの各地震の震央位置が不明なのは、被害地域が、多くの場合、一地点しか知られていないことに加えて、被害記事も少ないことによるものである。しかし、当時、これらの地震の被害地域は、日本の中でも文明の開化が非常に遅れた場所で、特に繁栄した町などもなかったため、かなり強い地震に襲われた場合でも、それほど顕著な被害も発生しなかったものと思われる。したがって、震央位置が不明のこれらの地震について、被害記事が少ないのは、地震の強さの割合には被害規模が小さく、被害記録もわずかな古文書等にとどめられているためであるにすぎないとみるのが相当と考えられる。そうすると、もし将来、「八戸の地震」あるいは「陸奥八戸の地震」と呼ばれている地変とほぼ同一規模の地震が、ほぼ同一の震央位置で発生した場合には、被害地域は単に八戸だけにとどまらず、青森県東部地方のかなり広い範囲にわたり、しかも各地にかなり大規模な被害が発生するおそれが多分にあるといわざるを得ない。
そうすると、被害記事が少ない地震は強い地震ではなかったとは必ずしも限らないのであるから、原燃産業が震央位置不明の地震をリストから除いたのは著しく妥当性を欠くものとなり、この点を不問にした本件安全審査にも、当然のことながら重大な過誤があることになる。
2 震度階のごまかし
(一) 本件許可申請書の誤り
本件許可申請書によると、本件敷地で震度階が最大になったものは、昭和五三年の「青森県東岸の地震」の「IVに近いV」で、それ以外はすべて四以下とされている。
しかし、一七六三年一月二九日の「八戸の地震」では、八戸、田名部、青森が五ないし六の地震に見舞われているし(本件許可申請書では五に近い四)、一八五六年八月二三日の「日高の胆振・渡島・津軽・南部の地震」は五ないし五の強と推定(申請書では六の中間)されている(前記「新編日本被害地震総覧」)。また、昭和四三年五月一六日十勝沖地震の本震は、気象庁の発表では五、青森県の調査では五(部分的に六)とされている(申請書では四)。
ところで、気象庁による震度階ごとの揺れや被害程度の説明によれば、震度四(中震)で死者や全壊家屋が出ることはほとんどない。しかし、前述の十勝沖地震では、青森県だけで死者四七名、負傷者一八八名、全壊家屋六四六戸に達していることを考えるならば、この地震の震度階を四とし、「過去の地震の記録から本件敷地周辺では、大地震のおそれは極めて少ない」と結論づけた本件許可申請書の誤りは明白である。したがって、これを受けて「震度階を最大V」と断定した本件安全審査は誤りである。
(二) マグニチュード―震央距離図の問題点
縦軸に地震のマグニチュード(M)、横軸に地震の震央距離をそれぞれ書き、村松・勝又ほかによる震度区分曲線を書き加えたマグニチュード―震央距離図は、既往の文献において震度階が五、五+あるいは五ないし六とみなされている多くの地震(一七六三年一月二九日の「陸奥八戸の地震」、一八五六年八月二三日の「日高・胆振・渡島・津軽・南部の地震」、昭和四三年五月一六日の十勝沖地震)を震度四と評価する結果となるし、そもそも、震度階などで表わされる地震動による揺れの強さは地震の規模(マグニチュード)及び震央距離のほか、卓越周期・震源探さや地盤の特性などによっても大きく左右されるものであるから、地震による本件敷地への影響度を平均的に評価する上で有効なものとはいえない。
また、マグニチュード―震央位置図に書き加えられている震度区分曲線は、地震の規模(マグニチュード)及び震央距離、それに卓越周期から求めた最大加速度値に基づいて描かれており、被害状況や揺れの強さによって決定されたものではない。このため、同図では、規模及び震央距離が同一の地震の敷地での影響は、卓越周期を同一とみなす限り、全く同一の震度階で表わされることになる。しかし、最大加速度値を用いた計算方法は、いかなる計算式を用いても、強震計による実測値とは大きくかけ離れた数値が得られることが少なくなく、しかも多くの場合、計算値は実測値と比べて著しく小さなものになる。
(三) 他の資料の参照の有無
「安全審査について」は、原燃産業が示したマグニチュード―震央距離図に記入されている各地震の本件敷地での推定震度階をそのまま肯認し、同図において、昭和五三年五月一六日の「青森県東岸の地震」の本件敷地での推定震度階が四に近い五になっていること、そして、この四に近い五という震度階が、本件敷地の周辺地域で記録されたすべての地震の本件敷地での震度階の中で最高のものになっていることから、本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度を最大でも震度五程度と結論づけており、このことは、本件安全審査において、「新編日本被害地震総覧」や「青森県大震災の記録」に示されているデータが全く検討されなかったことを示唆するものといえる。
被告は、本件安全審査においてはマグニチュード―震央距離図を参考にしながら、公表された他の資料等をも参照して総合的にその震度階を判断した上で、本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度は最大でも震度五程度であるとの結論に達したと主張しているが、原燃産業が本件許可申請書の中で示したマグニチュード―震央距離図による敷地での震度階と、公表された他の資料等によるそれとの間に差異が存在し、前者が後者よりも低く評価されている例がいくつもあることが明らかにされた場合には、当然、そのことを前記「安全審査について」に明記し、マグニチュード―震央距離図は地震の本件敷地への影響度を評価する上で必ずしも有効とはいえない旨をも付言すべきであるのに、右審査書はそれらの事柄には全く言及しておらず、内閣総理大臣が真実、公表された他の資料等を実際に参照したかどうかは疑わしい。
また、本件安全審査において「公表された他の資料等」を実際に参照したのであれば、一七六三年一月二九日の「陸奥八戸の地震」や昭和四三年五月一六日の十勝沖地震のように本件敷地を含む青森県東部地方での震度階が五ないし六あるいは六に達した地震もあることを指摘している文献もある以上、本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度は、最大六程度としなくてはならないはずであるから、内閣総理大臣は、「公表された他の資料等」を実際には参照していないか、あるいは震度階を殊更に実際よりも一ランク低く評価していることになる。
3 中小規模の地震
震害は地震の規模だけでなく、震央距離、断層距離、震源距離、深さ、卓越周期、地震の特性などによって左右される。実際、全国各地には、中小規模の内陸直下型地震であったにもかかわらず、震源深さが浅くまた震央距離が近かったために、被害地震になった例も少なからず存在しているので、そのような地震が本件敷地又はその周辺を襲った場合の本件敷地での影響度を検討することが是非とも必要になる。
この点、本件安全審査においては、地震の規模の大小にかかわらず本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度(震度階)が検討されてはいるものの、そこで用いられた震度階は例のマグニチュード―震央距離図に示されたものであり、それには、前述したように実際の震度階よりも低く評価されているものがあるから、本件敷地での影響をこのような方法のみによって検討することは、決して相当とはいい難い。したがって、本件安全審査において、中小地震による影響について十分な検討が行われたとはいえない。
4 震度五を上回る地震発生の危険
ある地点における最大震度階が近年において更新された例が全国各地に少なからず存在していることを考えるならば、過去において本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度が最大でも震度五程度であったとしても、震度五の地震を想定すればその目的が達せられるというものではない。例えば、函館では、昭和四三年五月一六日の十勝沖地震(マグニチュード七・九)で九五年間の観測史上初めて震度五を経験しており、このタイプの地震は、これまでにおおむね一〇〇年プラスマイナス一〇年内外の周期をもって三回起こったことが知られているので、今から数十年後の二一世紀半ばころには、青森県東部地方の一部が震度六になるような地震に襲われる蓋然性は極めて高いといわなくてはならない。
また、青森県東方沖が地震の巣であることは地震学界の定説であり、将来、本件敷地周辺で五〇年に一回の割合で十勝沖地震クラスの大地震もしくは巨大地震が発生する可能性が学者によって指摘されている(昭和四四年三月二〇日発刊青森県大震災の記録、昭和四三年十勝沖地震震害座談会(当時の北村副知事と学者の座談会))。
したがって、前述した過去の地震経験に照らし、将来発生する地震が震度五を超える地震でないとの保証はどこにもなく、加工施設指針一三によっても、本件施設の安全確保のためには、震度六の地震を想定する必要がある。
5 加工施設指針の問題点
本件施設を含むウラン加工施設の敷地周辺の陸域及び海域に多数の活断層が存在しているという事実などに照らしてみると、仮に建屋直下及び敷地内には施設の安全性に影響を与えるような断層は存在していない場合でも、敷地周辺に存在する活断層の再活動によって地震が発生し、その地震によって本件施設が設計地震力を超える強い地震力を受け、施設の安全性が確保されないという事態になる蓋然性も、決して皆無とはいえない。すなわち、地震時に本件施設の安全性を確保できるかどうかは、建屋直下及び敷地内に存在する断層のみを対象とした安全性の検討によっては到底明らかにできない。
したがって、地震の原因としての活断層に関する評価を要求していない加工施設指針一三はそれ自体不備であり、これに基づいて行われた本件安全審査には重大な違法がある。
6 活断層の存在
(一) 本件許可申請書が引用する「日本の活断層―分布図と資料―」によると、下北半島東方の海岸から約二〇キロメートル沖合の海底南北方向に、延長距離約一〇〇キロメートル、崖高二〇〇メートル以上に及ぶ確実度I(活断層であることが確実で、それが地形上にも表れているもの)の大活断層が存在し、そのほかに立地点沖合には、崖高二〇〇メートル以上の活断層八本が走っている事実が認められるが、本件許可申請書には四本しか記載されていない。そして、延長距離が一〇〇キロメートル内外の活断層の全面的な再活動によって引き起こされる地震は、その延長距離から考えて、関東大地震(マグニチュード七・九)、十勝沖地震(同七・九)を上回るマグニチュード八・〇前後と推定される。
右の大活断層は、八戸沖あたりまで延びる長さ一二〇キロメートル内外に達する可能性があるものであるところ、有史において被害地震を引き起こした記録を持たないいわゆる地震空白地帯である上、昭和五三年五月一六日の「青森県東岸の地震」の主震(マグニチュード五・八の主震が二つ)は、震央位置からみてこの海底大活断層の一部の再活動によって引き起こされたものと考えられ、今後巨大地震が発生する確率は極めて高い。
また、それ以外にも、下北半島の東方沖合には、崖高二〇〇メートル以上の活断層八本が走っている。
このほか、陸域にも、確実度II(活断層であると推定され、それが地形上にも表れているもの)及び確実度III(活断層の可能性があり、地形的にもその疑いがあるもの)の活断層が多数存在する。そのため、これらが直接の震源になったり、別の震源の影響で、断層が動き施設損壊をもたらす危険が高い。
このように、海域・陸域にわたり、くもの巣のように活断層が存在することは本件許可申請書にも記載がある厳然たる事実であるにもかかわらず、安全審査書は、これらの断層を故意に無視したり、施設に影響を与えないと断定するが、いかなる根拠によるものか全く不明である。
(二) 被告は、そもそも「地震空白地帯」という概念自体が曖昧である上、「地震空白地帯」であることを理由に巨大地震発生の確率はきわめて高いとする科学的根拠もないと主張する。
しかし、「地震空白地帯」とは、地震学者だけでなく、原子力事業関係者によっても広く認められている概念であって、地震が発生する蓋然性が存在する地帯でありながら、かなりの長期間にわたって大きな地震が発生していない地帯をいうものであり、東海地震の発生のおそれが指摘される科学的根拠の一つともされ、無地震帯とは根本的に異なるものである。地震空白地帯は、歪みのエネルギーが蓄積されつつある地帯であるため、近年においてすでに大きな地震が発生し、蓄積されていた歪みのエネルギーの相当量が開放された地帯と比べて、将来、大きな地震発生の蓋然性がかなり高い。
また、被告は、右のような原告らの主張を裏付ける文献も存在していないとして、このような主張は科学的根拠のない推測ともいうべきものと批判している。
しかし、地震学をも含む地球科学の諸分野では、物理学や化学などと異なって、実験によって確認することが不可能な事柄が多く、したがって、地球科学上の諸学説・諸見解には、推測によって成り立っているものが多い。現に、被告が「確認している」と自称する事柄も、その大部分は、既に述べたように、単なる憶測あるいは推測の類でしかない。
そうすると、問題は、ある一つの事柄についての推測がどのような科学的根拠に支えられているのかという点に尽きることになるが、「多くの地震は、活断層の再活動によって起きる」という近年の地震学の定説に従うならば、震央位置の直下に当該地震の震源断層となった活断層が存在するということに疑問の余地がなく、したがって、それを「推測」というのであれば、これを裏付ける文献の有無とは関わりなく原告らの主張には十分な科学的根拠があることになる。
(三) 被告は、活断層研究会編「日本の活断層―分布図と資料―」の所説を引用して、本件施設の敷地を含む東北地方外帯(東北地方の太平洋側及びその沿岸)は活断層の密度が極小の地域であることを指摘し、また、同文献に記載されている活断層のうち確実度II及び同IIIのものについてはそれらのすべてが活断層と確認されたものではないとしているが、このような被告の説明には多くの問題点がある。
まず、右文献が東北地方外帯を日本列島の中で活断層の密度が極小の地域としていることは事実であるが、本件敷地は、東北地方内帯陸上と東北地方外帯との境界付近に位置するとみなすのが至当である。そして、東北地方内帯の東方は、東日本太平洋斜面になっているが、活断層の密度は、東北地方内帯陸上は「中」、東日本太平洋斜面は「大」となっていること、そして、活断層の再活動による地震による影響は、その地震の規模によってははるか遠方にまで及ぶこと、などの諸点を考えるならば、被告の主張は、本件敷地が「地震に安全な場所」であることを裏付けるものとはいえない。現に、本件敷地を含む青森県東部地方が最大の被災地となった昭和四三年十勝沖地震(マグニチュード七・九)は、前述の東日本太平洋斜面に震央を有するものである。
また、東北地方外帯は、活断層の密度が極小の地域であるとはいえ、明治三五年一月三〇日の「三戸地方の地震」(マグニチュード七・〇)の震央も存在しているので、「地震に安全」といえる場所とは決していえない。
なお、「日本の活断層―分布図と資料―」に活断層として図示されている断層のうち、特に確実度がIIないしIIIとされているもののすべてが実際に活断層と確認されているわけでないことは被告の主張のとおりであるが、右文献に図示されていない活断層も多数存在していることも一般に肯認されている事柄である。また、確実度がIの活断層でなければそれが内陸直下型地震の震源断層になるおそれが小さいというわけでもないことは、例えば、昭和二三年六月二八日の福井地震が確実度IIの活断層しか分布していない場所を震央として起こったものであることからも明々白々な事柄といえる。
7 鳥取県西部地震が明らかにした本件安全審査の誤り
平成一二年一〇月六日午後一時三〇分、鳥取県西部において地震が発生し、気象庁は、この地震のマグニチュードは七・三、境港市及び日野町において震度六強を観測したと発表した。この地震に関して、科学技術庁防災科学技術研究所は日野の観測点において、地表での最大加速度は一一三五ガル、計測震度は六・六を記録したと発表した。現在の気象庁の震度判定では計測震度六・五以上は震度七に相当する。
本件安全審査で行われた方法で、科学技術庁防災科学研究所によれば震度七相当、気象庁によっても震度六強と評価された日野での歴史地震による最大地震を評価した結果は、本件敷地と同様、震度五にとどまった。したがって、本件安全審査の基準により鳥取県西部地震が発生する前の段階で日野に本件施設と同様の加工事業許可申請が出されていたら、最大想定地震による震度は五と評価され、震度五に耐える設計であればよいとされたはずである。しかし、現実にはこの場所を震度七ないし六強の非常に強い地震が襲った。
このように、本件安全審査と同じ方法で最大震度が五と評価される日野で震度七ないし六強の地震が現実に記録されたことは、本件敷地についても同様の事態が生じ得ること、少なくとも本件安全審査の方法ではそのような事態が起こらないということを保証できないことを示している。本件安全審査で用いられた具体的審査基準は、最大想定地震を現実に発生したものよりもかなり過小評価しており、したがって、この基準は不合理であり、本件安全審査に重大な過誤と欠落があることは明らかである。
8 プレート間地震及び海洋プレート(スラブ)内地震に関する安全審査の欠如
(一) 地震には、プレート間の大規模な地震、大陸プレート内地震及び海洋プレート(スラブ)内地震の三種類がある。このうち地震の根本原因であるプレートの運動そのものによって、プレート境界にひずみ応力が蓄積し、この応力が一定の限度に達したときに、一気にこの応力が開放するのがプレート間地震である。これに対し、プレートの運動によってプレート内に蓄積されたひずみ応力が一部開放され、既存の断層部分がずれたり、新たな断層を作ったりするのがプレート内地震である。
(二) 東北地方のプレート間地震としては、明治三〇年の宮城県沖地震(マグニチュード七・七)、昭和一三年の塩屋沖地震(マグニチュード七~七・五)、昭和三三年の十勝沖地震(マグニチュード七・九)、昭和四三年の宮城県沖地震(マグニチュード七・四)があるが最近では平成六年一二月二八日の三陸はるか沖地震(マグニチュード七・六)も発生している。特に、十勝沖地震は、青森県全域の東版部に震度五以上の被害をもたらした。また、三陸はるか沖地震の震源は、本件敷地から約二〇〇キロメートルとかなり距離が離れていたにもかかわらず、八戸では震度六を記録している。震源が海岸に近く、また相対的に六ヶ所村に近ければ、六ヶ所村の震度階が六ないし七に達した可能性は否定できない。この点は、本件許可処分後に判明した事実であるが、口頭弁論終結時までに発生した事実として、判決の基礎とすべきである。
プレート間地震は、通常は日本海溝付近で発生しているが、前記塩屋沖地震や昭和四三年の宮城県沖地震は比較的陸域に近いところで発生している。そして、下北半島の沖合の近い海域で大規模なプレート間地震が発生する可能性がある。
このように、本件施設付近では大規模なプレート間地震が繰り返し発生しているにもかかわらず、本件安全審査においては、この大規模なプレート間地震を検討の対象から外しており、看過し難い過誤と欠落がある。
(三) 次に、大陸のプレートの下に沈み込んで地下に斜めに垂れ下がっている海洋プレートをスラブと呼ぶが、海洋プレート(スラブ)内地震については、まだその発生のメカニズムなどはよく分かっていないが、最近スラブ間の比較的浅い、深さ二〇~四〇キロメートルないし一〇〇キロメートルくらいのところで、巨大地震が立て続けに発生している。平成五年一月の釧路沖地震(マグニチュード七・八(七・九)、震源の深さ約一〇〇キロメートル)や平成六年の北海道東方沖地震(マグニチュード八・一、震源の深さ数十キロメートル)などは、この海洋プレート内地震である。
本件施設のある地盤は、大陸プレート内に位置しているが、その直下にも太平洋プレートの先端部分が潜り込んでいる。この海洋プレート内に地震活動が認められることは明らかであり、大規模な海洋プレート(スラブ)内地震が発生する可能性は否定できない。
本件安全審査においては、このような地震の発生を想定した審査は全く行われておらず、審査の過誤というよりは明らかな欠落がある。
(被告の反論)
1 地震リストの改ざんについて
(一) 震源が二〇〇キロメートル以遠の地震
本件許可申請書において、文献に記載されている被害地震のうち、本件施設から震央までの距離が二〇〇キロメートル以内のものが添付書類三の表三―三「敷地周辺の被害地震」として記載されているのは事実であるが、本件安全審査においては、これに加えて、震央位置が二〇〇キロメートルを超えるものについても敷地への影響度の審査をしている。
(二) 新規データの参照の有無
本件安全審査では、本件許可申請書に記載された地震以外に、昭和六二年三月刊行の「新編日本被害地震総覧」や昭和六二年版「理科年表」といった最近の文献による検討を行っている(ただし、このことは、昭和六二年版の「理科年表」に「新編日本被害地震総覧」に基づく新しいデータが掲載されており、本件安全審査において当該データに対する検討を行ったとの趣旨ではない。)ことは前記のとおりである。
原告らは、この点に関し、内閣総理大臣が新しいデータを含めて検討したことが事実であるならば、「安全審査について」にその旨を付言すべきであるところ、右文書には、その旨の記載がないと主張するが、「安全審査について」は、そもそも、国民の理解に資するため本件施設の概要と本件安全審査内容の概要をとりまとめて公表した冊子であり、「安全審査について」に「新編日本被害地震総覧」等の最近の文献をも含めて検討した旨の記載がないからといって、そのことは本件安全審査において右事項の検討を行っていないことを意味するものではない。なお、安全審査書は、原告らの主張に係る「安全審査について」とは別の文書であるが、これもまた、本件安全審査内容の骨子をとりまとめたものであり、本件安全審査の内容すべてを記載したものではないから、安全審査書に原告らの指摘に係る右事項の記載がないことも、本件安全審査において当該事項の検討を行っていないことを意味するものではないことは当然である。
(三) 宇佐美カタログの改訂
原告らの主張に係る「新編日本被害地震総覧」と「宇佐美カタログ(一九七九)」とでは、そこで収められている地震の諸元(マグニチュード、震央位置)に一部差異があることから、本件安全審査においては、「宇佐美カタログ(一九七九)」その他のデータに基づいて作成された本件許可申請書添付書類三の表三―三「敷地周辺の被害地震」につき審査した上で、更に「新編日本被害地震総覧」の地震のデータについても検討を行った結果、本件敷地周辺で記録された被害地震の敷地での影響度が、最大でも震度五程度であるとの本件許可申請書添付書類三記載の結論の妥当性を確認している。
したがって、原告らの主張は、その前提を欠き失当である。
(四) 震央位置不明の地震や余震の扱い
震央位置が不明の被害地震については、被害記事も少なく、中には実際に地震があったかどうか疑わしいものもあるが、これらについても被害記事等を考慮し、敷地周辺に多大な被害を及ぼしたものはないことを確認している。なお、原告らが指摘するいわゆる「八戸の地震」や「陸奥八戸の地震」については、これらが記録された一七世紀ないし一九世紀には青森県内に既に八戸、田名部、青森等の城下町や港町が形成されていたのであるから、仮に右の地震が原告らのいうように青森県東部地方のかなり広い範囲にわたって大規模な被害をもたらすものであったとすれば、これらの地域の被害について何らかの記録が残されているはずであるところ、被害記事等を検討してもそのような記録が存在しない以上、右地震が原告らの主張するような強い地震であったということはできない。また、本件安全審査では、被害記事の内容を個々に検討したのであって、被害記事の多寡をもって被害地震の状況を判断したものでもない。
また、本震の震央距離が二〇〇キロメートルを超え、余震の震央距離が二〇〇キロメートル以内となる地震についても、同様に被害記事等から敷地周辺に多大な被害を及ぼしたものはないことを確認している。
2 震度階のごまかしについて
(一) 本件許可申請書の誤り
本件許可申請書の添付書類三の図三―七は、マグニチュード―震央距離図に、本件敷地からの震央距離が二〇〇キロメートル以内の被害地震を記入し、これらの地震の敷地における震度階を推定したものであり、地震による敷地への影響度を平均的に評価する上で有効な手段であることから、本件許可申請書の添付書類に記載されている。そして、右図の中で、例えば、昭和四三年の十勝沖地震については、確かに震度四の領域に記入されてはいる。
しかし、本件安全審査では、右地震については、気象庁発表資料では本件敷地を含む青森県東部地方の震度階が五とされているため、敷地での影響度は震度五と評価しており、原告らの右主張に係るその余の地震についても、右と同様に震度五と評価している。このように、本件安全審査においては、同図を参考にするほか、公表された他の資料等をも参照して総合的にその震度階を判断した上で、本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度は最大でも震度五程度であるとの結論に達したものである。
(二) マグニチュード―震央距離図の問題点
マグニチュード―震央距離図中の震度区分曲線は、過去の観測地震のデータから近似的に描かれたものであるから、個々の地震をこれに当てはめる場合には、観測された震度階と区分曲線上の震度階に差が生じることもあり得るが、右震度区分曲線が常に震度階を低めに評価するといった傾向を有するものではない。
また、震度区分曲線とは、地震の規模と震度四、五及び六の領域の大きさとの平均的な関係を示す曲線であり、村松及び勝又、徳永により提案された経験式に基づくものであるところ、この経験式は、おおむね、<1>標本となる地震を選定し、それぞれの地震ごとに、気象庁の震度観測データから震度階の範囲を確定し面積を求める、<2>いくつかの地震についてこの作業を行うと、震度階ごとに、マグニチュードと右の領域の面積との関係を示す近似式が得られる、<3>各領域を円形とみなして、マグニチュードと円形とみなした各領域の半径との関係を示す近似式を導く、という方法により求められたものである。マグニチュード―震央距離図中の震度区分曲線は、このような方法により求められた近似式に従って描かれたものであり、そこでは最大加速度値は用いられていないのであるから、最大加速度値に関する問題点をいう原告らの主張は、失当である。
このほか、本件安全審査においては、マグニチュード―震央距離図を参考にして、公表された他の資料等をも参照して総合的にその震度階を判断したのであるから、原告らの主張は、その前提において失当である。
(三) 他の資料の参照の有無
本件許可申請書に引用されたマグニチュード―震央距離図による本件敷地での震度階と内閣総理大臣が参照した他の資料との間に差異が存することや、マグニチュード―震央距離図が地震による敷地への影響度を評価する上で必ずしも有効とはいえないことが「安全審査について」ないし安全審査書に記載されていないことは、内閣総理大臣が本件安全審査においてマグニチュード―震央距離図の性格を考慮しなかったことを意味するものではないし、ましてや、本件安全審査において右各図書に記載されていない他の資料を参照しなかったことを示唆するものでもない。
また、「青森県大震災の記録」中の震度分布図の中に、青森県東部地方の一部に震度階が六とされている箇所があることは事実であるが、本件敷地付近は同図において震度五とされているのであるから、原告らの主張は、その前提を欠き、失当である。なお、右地震による実際の建物の被害状況は、六ヶ所村では、全壊棟数〇(家屋倒壊率〇パーセント)、半壊棟数六、一部破損棟数二三であり(「青森県大震災の記録」参照)、被害の程度は小さいものであった。
3 中小規模の地震について
本件安全審査においては、大地震発生のケースのみに着眼して検討を行ったものではなく、地震の規模の大小にかかわらず本件敷地周辺で記録された被害地震についてその影響度(震度階)を検討している。ちなみに、気象庁作成の「地震観測指針(参考編)」によれば、マグニチュード七以上が大地震、同五以上七未満が中地震、同三以上五未満が小地震と分類されており、この分類に従えば、本件許可申請書の添付書類三の表三―三「敷地周辺の被害地震」に記載された各地震には大地震だけでなく中、小地震も含まれていることは明らかである。
また、震源深さが浅く、震央距離が近い場合の中小規模の「内陸直下型地震」については、マグニチュード―震央距離図を作成するに当たって基礎とされたデータに、昭和五三年五月一六日に発生した二つの地震(いずれもマグニチュード五・八、震央距離一〇キロメートル、震源深さ一〇キロメートル)のように震源深さが浅い中地震の例も含まれており、その意味で検討はされている。
4 震度五を上回る地震発生の危険について
加工施設指針一三は、本件施設を含むウラン加工施設につき、過去の地震記録を検討すればその安全確保の目的を達するものとしているが、これは、過去の地震記録にないような地震が将来において発生する蓋然性は極めて低いと考えられるため、ウラン加工施設の有する潜在的危険性の程度にかんがみ、過去の地震記録にないような地震までをも想定する必要はない旨を規定したものである。
そして、本件安全審査においては、前述のとおり、過去において本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度は、最大でも震度五程度であることを確認している。
5 加工施設指針の問題点について
原子力施設の設置に当たり地震の原因としての活断層に対する評価を行う必要があるか否かは、当該施設の有する特質に応じて、その施設の安全確保の観点から合目的的に決せられるべきものである。そして、本件施設を含むウラン加工施設は、原子炉施設や再処理施設と異なり、その内蔵する放射能量が少ないなど潜在的危険性が極めて小さいので、ウラン加工施設の耐震設計を定めた加工施設指針一三においては、設計用最強地震や設計用限界地震を想定することとはされておらず、ひいては地震の原因としての活断層に対する評価を行うことは要求されていない。
6 活断層の存在について
(一) 加工施設指針一三によれば、ウラン加工施設については、原子炉施設や再処理施設と異なり、地震の原因としての活断層に関する評価を行う必要がなく、基本的立地条件としての地盤の安定性を評価するという観点から建屋直下及び敷地内にある断層を対象とし、それが施設に不同沈下等の影響を及ぼすか否かの検討を行えば足りることになる。
(二) 下北半島東方約二〇キロメートル沖合の海底に存在するという活断層に関する原告らの主張は、次のとおりいずれも誤りである。
原告らの主張に係る断層とは、本件許可申請書の添付書類三の表三―四「敷地周辺の文献による活断層」に記載された海域―二の、敷地から北北東の方位にある断層長さが八四キロメートルの断層のことを指すものであろうが、まず、右断層が確実度Iであるとする点については、同表のもととされた「日本の活断層―分布図と資料―」では、海底の活断層については確実度の評価はされておらず、当然確実度の記載はない。また、右海域が「地震空白地帯」であるとの点についても、そもそも「地震空白地帯」という概念自体があいまいである上、「地震空白地帯」であることを理由に巨大地震発生の確率は極めて高いとする科学的根拠もない。さらに、昭和五三年の青森県東岸の地震の主震は、この活断層の一部の再活動によって起こったものとみなされるとの点、及び、この断層が八戸沖辺りまで延びており長さが一二〇キロメートル内外に達するとの点についても、これを裏付ける文献はなく、原告らの科学的根拠のない推測とでもいうべきものである。
(三) 「日本の活断層―分布図と資料―」によれば、本件敷地を含む東北地方外帯(東北地方の太平洋側及びその沿岸)は活断層の密度が極小であるとされている。また、例えば、同文献が確実度IIについては「活断層であると推定されるもの。」、確実度IIIについては「活断層の可能性があるが、変位の向きが不明であったり、他の原因も考えられるもの。たとえば川や海の浸食、あるいは断層に沿う浸食作用による地形の疑いの残るもの。」としていることから明らかなとおり、同文献に記載された「活断層」のすべてが実際に活断層であると確認されたものでもない。
7 鳥取県西部地震が明らかにした本件安全審査の誤りについて
原告らは、本件安全審査においては、本件許可処分以降に発生した地震をも考慮すべきであると主張するが、本件安全審査では、本件敷地付近で過去において記録された被害地震の敷地における影響度を審査すれば足り、右地震の規模を超える地震までをも想定する必要はない。また、本件許可処分の違法判断の基準時が処分時であることからも、本件安全審査後に発生した地震を考慮することは許されない。
したがって、原告らの主張は、その前提において失当である。
三 その他の自然的立地条件
(被告の主張)
1 気象
本件安全審査においては、本件敷地近傍の観測所等の気象観測データにより、本件許可申請の時点において、本件敷地周辺の年平均気温は摂氏約九度、最高気温は摂氏三三・九度、最低気温は摂氏マイナス一四・六度、年間降水量は約一二〇〇ミリメートル、最大積雪深は一九〇センチメートルであり、また、過去の台風等による最大風速は毎秒二六・二メートル、瞬間最大風速は毎秒三五・九メートルであって、これらの気象条件が本件施設の安全性に影響を与えるものでないことを確認した。
2 水理・水象
本件施設に必要な工業用水は、本件敷地の西方を流れる二又川に設置する取水施設から取水することとなっている。
本件敷地周辺における河川として、二又川のほかに老部川があるが、地形の状況からみて、洪水により本件施設が被害を受けることはない。また、本件施設は海岸から約三キロメートル離れた標高約三六メートルの丘陵地帯に位置していることから、高潮又は津波により本件施設が被害を受けることはないと判断した。
(原告らの主張)
1 気象
(一) 積雪
本件敷地周辺地域は、冬期の降水量は比較的少ないが、平地では豪雪地帯に属し、施設の安全対策、放射性物質等の運搬の安全確保に支障となることは明らかである。最大積雪深一九〇センチメートルに十分耐える設計にすることは、極めて技術的困難を伴うが、仮にそれが可能であっても、施設の稼働上多大の支障と危険を避け難い。
また、本件敷地周辺を含む東北地方北部の太平洋側は、東北地方の日本海側と比べれば、積雪量が概して少ないとはいえ、ともに豪雪地帯対策特別措置法による豪雪地帯に指定されており、敷地周辺において、いつなんどき最大積雪深が更新されないとも限らない。さらに、積雪深が短時間に急増し、敷地周辺が孤立状態になった場合などには、除雪等が円滑にできないことも当然あり得ることになる。
(二) 強風
(1) 本件敷地周辺は強風地帯に属し、ヤマセが吹けば風下の六ヶ所村とその周辺町村、青森市、弘前市などの津軽地方にまで気体放射性廃棄物が拡散、降下するし、西風の場合には、六ヶ所村の中心部である尾駮部落が放射能の被曝にさらされることになる。本件安全審査は、これらの点の考慮を怠っている。
これに対する被告の反論は、本件施設が最悪の事故を起こした場合のウランの異常放出について考慮したものではないし、また、そこにいう、一般公衆の被曝線量を確認するに当たり考慮したとする「十分な裕度のある拡散条件」の内容も明らかでない。さらに、チェルノブイリ原発の事故の例にも見られるように、被曝線量は、事故を引き起こした施設からの距離が遠くなるほど小さくなるとは限らない。それに、強い風が吹いた場合、吹き方如何によっては、ある地点における被曝線量が急増することも決して皆無とはいえない。
(2) 本件安全審査で台風に対する安全設計の基礎とされた最大風速二六・二メートル/秒及び最大瞬間風速三五・九メートル/秒は、本件施設の敷地から直線距離で約五〇キロメートルも離れた青森市の数値で、敷地と青森との間には気象状況にも大きな差異があることから、本件施設の強風に対する安全設計を青森の数値を用いて行ったのは不適当である。
2 水理・水象
(一) 洪水・高潮等
安全審査書によると、「敷地周辺における河川として、二又川のほかに老部川があるが、地形の状況からみて、洪水により本施設が被害を受けることはない」とされているが、全く根拠を欠いている。
そして、右両河川において、大規模な洪水のために川床が一挙に急上昇し、それに伴って河川水の水位も急上昇して河崖の侵蝕を早め、それがゆくゆくは本件施設が位置する丘陵の下の崖の崩壊を促す結果になることもあり得るから、敷地と河川との間の現地点における標高差だけに基づいて敷地における洪水の危険性はないと即断することは必ずしも相当とはいえず、本件施設は洪水によって被害を被るおそれがあるというべきである。
(二) 津波
八重山地震津波の波高は八五・四メートル、明治三陸地震津波の波高は三八・四メートルといわれている。したがって、将来約三六メートルを超える波高の津波が、本件施設を襲わないという保証はなく、また、津波による老部川・二又川や尾駮沼の沿岸における斜面崩壊などに起因する崩土の水域への流入があれば、津波の規模が大きくなり、間接的にせよ、津波の影響を被る結果になる可能性があるが、本件安全審査はこれを看過している。
そして、リアス式の海岸地形になっている場所では津波の波高が高くなることは、一般論としていえるにしても、リアス式の海岸地形になっていなければ波高の高い津波に襲われないとは決していえないし、平坦な海岸地形の場所にも高い波高の津波が押し寄せ多数の死者等が出たという例はこれまでにも各地で知られているように、津波の波高の高低を左右する要因は場所ごとに異なり、また、同一あるいはほぼ同一の場所でも、津波ごとに異なる。ゆえに、本件敷地付近の海岸は、八重山地震津波に襲われた石垣島等と地形的条件が大きく異なり、また、明治三陸地震津波に襲われたリアス式海岸とも異なる地形的条件を備えているからといって、本件敷地が高い波高の津波に襲われるおそれはないとは決していえない。
さらに、本件敷地が存在する丘陵地帯の周辺に河川や湖沼がなければ、付近の海岸に波高の高い津波が押し寄せた場合でも、その津波が海岸から約三キロメートル離れている標高約三六メートルの本件敷地にまで被害を及ぼすおそれはまずは存在しないと考えてよいが、実際には、河川や湖沼が存在しているので、海岸に押し寄せた津波が、これらの水域に浸入することによって、本件敷地にも影響を及ぼす可能性は十分に考えられる。
(三) 地下水
(1) 調査の不備
本件施設の安全上の評価を行うに当たり、立地地点及びその周辺における地下水等の自然環境を加工施設指針の定めるところに従って検討するためには、地下水位の調査や帯水層の分布状態の調査などは何よりも先に手がけなければならないものである。特に、本件許可申請書添付の地質平面図や断面図によると、建屋の一部が帯水層上に建設されることになり、このことによる危険性の検討が必要となる。しかし、原燃産業は、本件許可申請書の中で、事故の誘因を排除し、災害の拡大を防止する観点から、立地地点及びその周辺における地下水等の自然環境をどのように検討したかを全く説明しておらず、本件安全審査においても、敷地の地下水位を検討した結果安全確保上支障がないことを確認した形跡がない。
また、被告は、本件施設の建物が鷹架層からなる岩盤を支持地盤としているため液状化等の地下水を起因とする災害の発生の可能性は考えられず、したがって、本件安全審査において、地下水あるいは帯水層の賦存状態について安全上の評価を行う必要がないと主張する。しかし、液状化等の地下水を起因とする災害の発生の可能性は、鷹架層については極めて小さいにしても、同層上部の風化部にはN値がわずか一〇内外にすぎない部分も存在しているので、もしそのような部分が地下水によって飽和されていれば、液状化する可能性も皆無とはいえない。また、敷地のうち、表層地盤、とりわけ盛土からなる造成地盤については、液状化現象の発生は十分に考えられ、表層地盤の一部が液状化しても本件施設の事故の誘因になり、災害を拡大させる結果を招くおそれは多分にある。したがって、本件施設の支持地盤が鷹架層であるからといって、地下水位や帯水層の分布状態等を調査する必要がないということにはならない。
このほか、被告は、日本道路協会編「道路橋示方書・同解説(V 耐震設計編)」に基づいて、地震時に液状化現象が発生する可能性のある地層について説明しているが、この説明には、今日の最新の知識に照らしてみると既に古くなっている点がある。すなわち、最新の知識によると、液状化現象は、砂質土層よりも更に細粒のシルト層のほか砂礫層でも起こっていること、特に造成地では、震央距離がかなり遠い地点でも液状化現象が起こっていることが明らかにされている。
(2) 環境汚染の問題
安全性の確保は、本件施設だけにではなく、周辺地域の環境についても要求されるはずであるから、加工施設指針が、地下水等の自然環境の検討を、加工施設の立地地点だけでなくその周辺においても行うように定めているのも、放射性物質が洩れたときの環境に与える影響を考慮外におくことができないという趣旨によるものと解するのが相当である。したがって、水象調査のうち、放射能が環境に洩れたとき、これが地表水、地下水に混入し、どこをどのように汚染するか、環境に与える影響はどうかという事前調査は不可欠である。しかし、本件許可申請書でも本件安全審査の過程でも、この点に対する考慮は全く払われていない。
この点、被告は、本件施設においては、放射性物質の十分な漏洩防止対策を施すとともに、廃液は適切な処理を行い、排水中に含まれる放射性物質の量が周辺監視区域外での許容濃度以下であることを確認した後に放出することとされていると述べているが、このような具体性のない説明は、安全上の評価についての論議を進めるうえで全く無価値のものというほかはない。例えば、放射性物質の十分な漏洩防止対策を施すから問題はないといった説明は、「放射性物質は洩れないようにしてあるので、洩れることはない。」という、およそ無意味で無内容なものでしかない。
(被告の反論)
1 気象について
(一) 積雪
本件敷地付近の建築物は、建築基準法等関係法令及び青森県の指導に基づいて一三五センチメートルの積雪量に耐え得るよう設計することとされている。これに対して、本件施設の建物は最大積雪深(垂直最深積雪量)である一九〇センチメートルの積雪量に耐え得るように設計することとされているところ、本件安全審査においては、右程度の積雪量に耐え得るように本件施設の建物を設計することは、材料の選定や柱・はり等の部材の数及び寸法の決定等を適切に行うことにより、何ら技術的困難を伴うことなく可能なものであることを確認した。
(二) 強風
(1) 本件安全審査においては、本件施設の平常時の排気に含まれて放出されるウランの年間放出量から、十分な裕度のある拡散条件を考慮しても、一般公衆の被曝線量は周辺監視区域境界においても十分小さいことを確認している。また、より遠隔地(本件施設からの直線距離は青森市で三〇キロメートル以上、弘前市では約八〇キロメートルにも達する。)や強い風の吹く場合には、より拡散されるので被曝線量ははるかに小さくなる。
(2) 内閣総理大臣が本件安全審査において確認した、過去の最大風速毎秒二六・二メートル及び瞬間最大風速毎秒三五・九メートルという数値は、原告らの指摘するように青森市におけるものであるが、これらは本件安全審査に際してあくまで参考とされたものにすぎない。
そして、本件施設の強風に対する安全設計は、右数値とは別に、建築基準法施行令に定める風圧力(風速毎秒六〇メートル相当)に耐えるようにされたものである。
2 水理・水象について
(一) 洪水・高潮等
本件敷地は、標高約三六メートルの丘陵地帯にあり、その付近にある老部川及び二又川は標高二〇メートル以下である。このことを含め、本件敷地と老部川及び二又川との位置関係等の地形の状況を総合的に考慮すれば、洪水により本件施設が被害を受ける危険性のないことは明らかである。
(二) 津波
(1) 原告らの挙げる津波の例のうち八重山地震津波は、沖縄県石垣島等という地形的条件が本件敷地周辺と大きく異なる地域におけるものであり、また、明治三陸地震津波については、この時津波の高さが最も高かったのは、「日本被害津波総覧」によれば三陸町における二四・四メートル、「理科年表」によれば同町における三八・二メートルとされているところ、三陸町をこうした大きな津波が襲った原因は、同町周辺の海岸がリアス式の地形であることによるものである。このほか、平坦な海岸地形になっている場所の津波については、「日本被害津波総覧」によれば、一四九八年の明応地震の際の津波の高さは最大で一〇メートル、また、一七〇三年の元禄地震の際の津波の高さは最大で一〇・五メートルとされている。
そして、本件敷地は、単調な海岸線の海岸から約三キロメートル離れた標高約三六メートルの丘陵地帯に位置しており、本件敷地と河川等との標高差、地形の状況、海岸からの距離等からみて、本件施設が津波により影響を受けることがないことは明らかであるし、右のような地形状況からみて大規模な斜面崩壊が起こるとも考えられない。
(2) 本件敷地と海岸との位置関係、また、標高が一ないし二〇メートルである老部川及び二又川との位置関係等からして、津波の遡行により本件敷地に被害が及ぶおそれのないことは明らかである。
(三) 地下水
(1) 調査の不備
一般に地震時に液状化の可能性のある地層は、地下水位面が現地盤面から一〇メートル以内にある沖積層で、かつ現地盤面から二〇メートル以内の範囲における平均粒径D五〇が〇・〇二ミリメートル以上二・〇ミリメートル以下である飽和砂質土層であるとされている(「道路橋示方書・同解説(V耐震設計編)」(日本道路協会編))。これに対し、加工施設指針においては、事故の誘因を排除し、災害の拡大を防止する観点から立地地点及びその周辺における地下水等の自然環境を検討し、安全確保上支障がないことを確認することとされているところ、本件安全審査においては、本件施設の建物は、新生代第三紀の砂岩・凝灰岩類からなる岩盤である鷹架層に支持させる設計となっていることを確認している。したがって、液状化等の地下水を起因とする災害の発生の可能性は考えられず、本件安全審査において、このほかに地下水位や帯水層の賦存状態について安全上の評価を行う必要はない。
また、本件施設の建物は、鷹架層の上部の風化された部分に支持させるものではなく、鷹架層のN値が五〇以上の部分に支持させるものであるから、原告らの主張は、その前提を欠き失当である。
(2) 環境汚染の問題
加工施設指針一に地下水等の自然環境を検討すべき旨が定められているのは、右に述べたとおり、事故の誘因を排除し、災害の拡大を防止する観点から立地地点及びその周辺における事象を検討し、安全確保上支障がないことを確認するためであり、原告らが主張するように、放射性物質が洩れたとき環境に与える影響を検討するためではない。
なお、本件施設においては、放射性物質の十分な漏洩防止対策を施すとともに、廃液は適切な処理を行い、排水中に含まれる放射性物質の濃度が周辺監視区域外での許容濃度以下であることを確認した後、放出することとされている。
四 社会的立地条件
(被告の主張)
本件安全審査においては、本件敷地周辺の社会環境に関し、本件施設周辺地域の人口密度、総人口の推移状況、産業及び産業活動のほか、航空機が本件施設に墜落する可能性について調査が行われ、次のとおり確認した。
1 周辺地域(六ヶ所村及び隣接六市町村)の人口密度は一平方キロメートル当たり九〇・八人(昭和六〇年一〇月一日現在)であり、総人口の推移状況はここ数年ほぼ横ばい傾向である。
2 周辺地域における主な産業は農業及び漁業であり、また、本件敷地の西方、本件施設から約四キロメートル離れた位置に国家石油備蓄基地があるが、本件施設から十分離れていることから、これらの産業活動によって本件施設の安全性が損なわれることはないと判断した。
3 本件施設から南方向約二八キロメートル離れた位置に三沢空港が、西方向約一〇キロメートル離れた上空に「V―一一」と呼ばれる定期航空路が、南方向約一〇キロメートル離れた位置に防衛庁等の航空機の訓練区域(三沢対地訓練区域)が、それぞれあるが、本件施設からいずれも十分離れていること及び航空機は原則として原子力施設上空を飛行しないように規制されることから、航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいと判断した。
4 また、本件安全審査では、社会的立地条件として敷地上空の飛行状況を検討するほかに、訓練中の航空機が万一本件施設の安全上重要な施設に墜落したとしても、一般公衆に対する影響は小さいことを確認した。
(一) 想定事故の評価条件
訓練中の航空機の墜落の影響を評価する上で設定された条件は、以下のとおりである。
(1) 墜落を想定する航空機の機種は、三沢対地訓練区域で射爆撃訓練を実施している航空機のうち、三沢基地に最も多く配属されている防衛庁のF一及び米軍のF一六とする。
(2) 航空機の墜落の影響を評価する施設は、安全上重要な施設のうち取り扱うウランの性状及びウラン保有量を考慮して、ウラン濃縮建屋のうちの発回均質棟及びカスケード棟並びにウラン貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫とする。
(3) 航空機は、東西一二キロメートル、南北四・五キロメートルの訓練コース上を飛行中、エンジン故障等によりコースを外れ本件施設まで滑空し衝突するものとして、衝突速度を毎秒一五〇メートル(毎時五四〇キロメートル)とする。
(4) 墜落を想定する航空機の重量は、射爆撃訓練を行っているF一、F一六の通常想定される訓練時の重量に余裕をみて一六トンとする。
(5) 航空機の墜落時には、燃料油による火災が発生するものとして評価する。燃料油量は、F一に比べて機内燃料油量の多いF一六の機内燃料油全量約四立方メートルとする。燃料油量は離陸及び飛行により減少するが、ここでは安全側に機内保有燃料油全量で評価する。なお、外部燃料タンク中の燃料及び翼中の燃料は施設への衝突時に建屋外で飛散するものと考えられる。
(二) 発回均質棟の安全性
ウラン濃縮建屋のうち発回均質棟については、約九〇センチメートルの屋根・壁厚を有する鉄筋コンクリート構造となっているため、次のような評価結果に基づき、仮に航空機が発回均質棟に衝突したとしても貫通せず、また、鉄筋コンクリート板が破壊することもないので、その健全性は確保されるものと判断した。
(1) 鉄筋コンクリート構造部の貫通限界厚さ(飛来物が衝突対象となる構造物に衝突した際の貫通しない限界の版厚)の評価では、機体に比べ剛性の高いエンジンを対象とし、その評価式としてDegen式(peter P. Degenが一九八〇年(昭和五五)に提案した、鉄筋コンクリート板に剛飛来物が衝突した際の貫通限界厚さの評価式)を用いる。
右評価式は剛飛来物(飛来物が衝突する構造物に比較して相対的に堅く変形しにくい飛来物)に対する評価式であるため、エンジンの柔性を考慮した衝撃実験から求めた柔飛来物(飛来物が衝突する構造物に比較して相対的に柔らかく変形しやすい飛来物)の低減効果を考慮したところ、貫通限界厚さは約八〇センチメートルとなり、エンジンが貫通することはない。
(2) 鉄筋コンクリート構造である発回均質棟の屋根・壁厚を九〇センチメートルとした場合について、航空機墜落時の衝撃荷重に対する有限要素法(連続体を有限個の要素の集合体に理想化して未知量を求める、構造解析等に使用される解析方法)による応答解析を行った結果、衝突部のコンクリート圧縮破壊及び鉄筋破断による鉄筋コンクリート板の破壊はない。
(三) ウランの漏洩量の評価条件
ウラン貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫については、航空機が衝突した場合には建屋を貫通し、その健全性は失われるものと判断されることから、安全審査上、進んで事故の際の六フッ化ウランの漏洩量を検討する必要があるが、漏洩量の算定に当たって前提とした条件は、おおむね次のとおりである。なお、ウラン濃縮建屋のうちカスケード棟等については、ウラン保有量が少ないため六フッ化ウラン漏洩の問題はない。
(1) ウラン貯蔵庫は鉄筋コンクリート構造のため、航空機が墜落した場合、機体の翼部等は衝突面で飛散するものと考えられるので、胴体部が建屋を貫通するものとする。貫通した胴体部によりシリンダは損傷するが、シリンダは厚い鋼製であることから大きな損傷はないと考えられる。シリンダの損傷本数は、衝突部周辺への波及も考慮し、安全側に余裕をもたせるため、翼部等を含む機体の平面全投影面積に安全余裕を見込んだ約九〇平方メートルの範囲の製品シリンダの全数である一五本とする(なお、天然ウランや劣化ウランは、濃縮ウランに比べ比放射能が小さいので、原料シリンダや廃品シリンダの損傷時の評価は右評価に包含される。)。
(2) 航空機は、ウラン貯蔵庫の屋根又は壁にある角度をもって衝突すると考えられるが、安全側に余裕をもたせるため、屋根に直角に衝突するものとする。
(3) 航空機の墜落時に、燃料油は霧状に飛散し、建屋衝突面で瞬時に爆燃し、火災は短時間で終了するが、安全余裕を見込んで、機内保有燃料油全量が建屋内の傾斜した床面に流出し、燃焼するものとして火災の継続時間を評価する。
火災継続時間は、燃料油の床面上の拡がりと燃料油の燃焼速度を考慮すると約三分程度と評価されるが、余裕をみて約六分とする。
(4) 火災継続時間中の火炎からの放射熱は一平方メートル・時間当たり約二五〇〇〇キロカロリーであり、安全余裕を見込んで、すべての放射熱を床面上の損傷シリンダが全表面で受けるものとする。
(四) 六フッ化ウランの漏洩量と被曝線量
右各条件に基づいて解析すると、シリンダ内の六フッ化ウランの温度が昇華温度摂氏五六・五度(大気圧)に至り、その後六フッ化ウランが昇華漏洩することとなり、その結果、漏洩量は約三キュリーとなる。また、漏洩した六フッ化ウランは、空気中の水分と反応して、固体状のフッ化ウラニルとなるが、この大部分は重力による沈降及び壁等への付着により建屋内に残留すると考えられること、及び建屋の破損の程度は小さいことから、ウラン貯蔵庫の建屋外への漏洩量は、シリンダから漏洩した六フッ化ウランの一〇分の一の約〇・三キュリーとなる。
一般公衆に対する被曝線量の評価に当たっては、次のような方法を用いた。すなわち、建屋外に漏洩したフッ化ウラニルは、本来、重力による沈降を伴いながら敷地内に拡散するが、安全余裕を見込んでこの重力による沈降を考慮に入れないで、気象指針に準拠し、本件許可申請書の添付書類三に記載された気象データを用いてフッ化ウラニルの拡散を評価した。その結果、本件敷地の境界における最大相対濃度は毎立方メートル五・七二×一〇のマイナス八乗時となり、さらにこれを用いて一般公衆に対する被曝線量を評価した結果、約〇・〇六レムとなった。この一般公衆に対する被曝線量を算定する際に必要な線量換算係数は、ウランの濃縮度を五パーセントとして、ICRPのPub.三〇に基づき毎キュリー二・七×一〇の六乗レムとし、また、標準人の呼吸率は、ICRPのPub.二三に基づき毎時一・二立方メートルとした。
この約〇・〇六レムという値は、本件許可処分時における一般公衆の一人当たりの許容被曝線量である毎年〇・五レム及び現在の一般公衆の線量当量限度である一人当たりの被曝線量(線量当量)年間〇・一一レム(一・一ミリシーベルト)と比べても小さい値であり、一般公衆への被曝による影響は小さく、健康に障害をもたらすことはない。
(原告らの主張)
以下のように、社会的基本的立地条件に関する安全審査結果には、重大な瑕疵、遺漏が存し違法である。
1 国家石油備蓄基地
本件敷地とむつ小川原国家石油備蓄基地との距離は、最短では二・三キロメートルしかない。
右石油備蓄基地の原油タンクの基数は五一基、一基のタンク容量は約一一万キロリットル、全備蓄容量は五七〇万キロリットルで、現在予定量のオイルインが完了している。同石油備蓄基地の最大想定事故は原油流出とタンク火災であるが、昭和五八年一二月二四日、推定で四九・五キロリットルの原油洩れ事故が発生している。このような不測の事態は、基地の大火災の原因となり、ひいては本件施設を含む核燃料サイクル施設の事故誘因となりかねない。安全審査書は「本施設の安全性が損なわれることはない」というが、その根拠が全く示されていない。
2 人口分布状況
六ヶ所村は面積二五三・三四平方キロメートル、昭和六二年二月二八日現在、人口は一万二二五三人、世帯数三一八六、隣接する東北町(人口一万二四四七人)と横浜町(人口六五七七人)は、六ヶ所村と接する部分が広範囲にわたるため、本件施設立地の影響が大きい。六ヶ所村の政治、経済、教育の中心は尾駮部落であり、世帯数は三百数十で立地点に最も近接している。
事故時・平常時における放射能による被害を最小限にくいとめるためには、施設と住民居住区域とに十分な離隔距離が保たれなければならないが、本件安全審査では、本件施設の周辺地域住民、とりわけ二・五キロメートルしか離れていない尾駮地区の住民の生命、健康に対する考慮が全くされていない。
3 集中立地の危険性
本件施設周辺には、他にも、大量の放射性物質を内蔵する再処理工場、高レベル放射性廃棄物の貯蔵場、低レベル放射性廃棄物の埋設処分場などの、大規模な原子力施設の立地計画が進行中であり、このような施設の集中化によって各施設の危険性が相乗的に増大化することは避け難い。また、一つの原子力施設において放射性物質の大量放出を伴うような大事故が発生した場合、近隣の他の原子力施設の運転員も短時間のうちに運転を放棄して退避せざるを得ないこととなり、二次災害を生じやすい状況が発生する。
ところが、本件許可処分に当たっては、右の施設の集中立地を想定した審査を行っていない。
4 航空交通
(一) 飛行規制
三沢基地は、青森県三沢市を中心とする一五八二ヘクタールの敷地内に存する軍事基地であり、現在、米軍の最新鋭戦闘機F一六が五十数機、P三Cが九機、自衛隊機F一が三六機実戦配備されており、日夜射撃訓練やタッチアンドゴーのスクランブル発進の演習が繰り返されているほか、第七艦隊原子力空母が入港すると、艦載機が飛来し、激しい飛行訓練が行われる。
この訓練空域は、頻繁に航空機が往来交錯するため、その空域の安全を確保する目的から、運輸大臣により特別管制空域(三沢特別管制区)に指定されており(航空法(ただし、平成元年法律第六七号による改正前のもの。以下同じ。)九四条の二、航空交通管制区又は航空交通管制圏のうち計器飛行方式により飛行しなければならない空域を指定する告示(平成元年運輸省告示第六三九号による改正前のもの))、本件施設の立地点を含む六ヶ所村全域の上空もこの特別管制空域に含まれ、この空域を飛行する場合、原則として管制官の許可(コンタクト)が必要とされ計器飛行方式が義務づけられているが、本件安全審査では、途中までこの特別管制空域の存在を航空機事故の要因として検討していたものの、原子力施設上空の飛行規制の存在を理由に審査の対象外にしてしまっている。
この点に関し、運輸省の「原子力関係施設上空の飛行規制について」と題する通知では、「施設附近の上空飛行は、できる限り避けさせること」とされているものの、この表現は絶対的な飛行制限ではない。そして、米軍機は、航空法の適用を除外されており、米軍機にも自衛隊機にも軍事訓練や有事の場合に本件施設上空をわざわざ迂回して飛行するということは期待できない。そもそも、軍事目的を最優先する米軍機にかかる期待を持つこと自体非現実的である。
このほか、飛行制限に関する具体的合意については、目下のところ、米軍、防衛庁、防衛施設庁、事業者との相互間において交渉すら持たれていない状況である。
(二) 本件施設上空の飛行状況
本件施設を含む核燃料サイクル施設の立地点は、前記の軍用機が配備されているほか日本エアシステムが乗り入れている三沢基地の北方約二八キロメートルである。また、施設から約一〇キロメートル離れたところには三沢対地訓練区域(いわゆる天ヶ森射爆撃場)がある。原燃産業と日本原燃サービス株式会社が、アジア航測株式会社に委託して行った調査によると、昭和六一年一二月一日より昭和六二年一一月三〇日までの一年間、六ヶ所建設準備事務所上空に飛来する航空機の飛行回数は実に四万二八四六回の多数回に及んでいる。これほど多数回航空機が上空を飛び交っているところに原子力施設を造るということ自体、非常識といわなければならない。
右訓練区域と本件施設とは一〇キロメートル離れているが、訓練区域を使用する航空機の飛行コースと立地点との最短距離は約五、六キロメートルしかない。これは、最高速度がマッハ二(秒速六八〇メートル)であるF一六では僅か数秒間の距離にすぎず、パイロットのわずかの油断で航空機が本件敷地上空へ到達しかねない。
問題は空港等との距離が遠方であるかどうかではなく、本件施設上空を航空機が通過するかどうかである。
なお、茨城県東海村の動燃事業団の再処理工場の場合、立地要請がなされた時点では、施設に隣接して、やはり米軍の対地射爆撃場(水戸対地射爆撃場)が存在したため、立地要請に対して、茨城県議会は、水戸対地射爆撃場返還のめどがついていないことを理由の一つに挙げ、再処理工場立地に対する反対決議をした。そして、結局同射爆撃場は昭和四八年三月に米軍から返還され、その後に同再処理工場が立地されている。このような先例に従えば、本件においても、当然三沢対地訓練区域が移転・返還された後に本件施設等が立地されなければならない。逆にいえば、右訓練区域がある限り、本件施設をその近辺に立地すべきではない。
(三) 墜落事故発生の危険性
右のような状況の下、本件敷地周辺では、過去において五〇回以上に及ぶ軍用機の墜落・不時着事故、八〇回以上の誤射爆・落下物事故が起きている。特に三沢基地配属の軍用機については、昭和六二年三月にF一六が八戸沖に墜落して以来事故が相次いでいる。
ちなみに、日本原燃は、施設への航空機墜落の確率は一〇〇万分の一であると説明しているところ、これに従い、前記飛行回数をもとに単純計算すると、墜落の時期はさておき、約二〇年に一回は施設への墜落事故が発生することとなる。
このように、航空機が本件施設を直撃するような事態は、想定事故の範疇を超え、もはや現実の問題となっている。
5 墜落事故評価の問題点
(一) 想定事故の評価条件
(1) 想定対象
本件安全審査は、三沢対地訓練区域での飛行訓練を行う訓練機の墜落衝突事故のみが検討対象であるかのごときであるが、これは想定される事故の一例にすぎない。安全審査では、申請書の記載事項を審査すれば足りるというものではなく、申請書記載の事例も含め、自然条件及び社会条件上の事故要因事象及び災害拡大要因がないかどうかをあらゆる側面から検討する必要がある。したがって、三沢対地訓練区域での訓練機だけでなく、三沢基地から発着する軍用機や本件敷地周辺の上空を飛行するすべての航空機について審査がされなければならない。
また、安全審査書は、墜落事故を想定しての評価をしているが、航空機以外の誤射爆・落下物事故を想定していない。
(2) 爆弾の搭載
本件安全審査は、実爆弾不搭載機の墜落、衝突を想定している。
ところが、平成三年一一月には、F一六が天ヶ森射爆場の東方海上、高瀬川河口から約六キロメートル、本件施設からは一〇キロメートルの地点に、二個の二〇〇〇ポンド(九〇〇キログラム)の実爆弾を投棄するという事件が勃発した。このように、本件施設上空を飛行する軍用機がいつも模擬爆弾だけを積んで飛んでいるという保証は全くなく、実弾等兵器を積んで飛行している可能性も極めて高い。
爆弾が爆発したときの破壊力(威力)については、TNT爆薬量を基本にして、爆薬のTNT当量及び爆心からの距離に基づいてスケール化距離を算出し(三乗根則)、スケール化距離の数値に対応する爆風圧(ピーク過圧)をグラフから求め、割り出すことが可能である。F一六が通常搭載している二〇〇〇ポンド爆弾は、MK84-2,000-LB GENERAL PURPOS BOMBと呼ばれる通常タイプのものであると推認されるが、この爆弾に充填される火薬の種類や量については、文献によれば、爆弾一個当たり、九四五ポンドのマイノル2(注・TNT火薬より五〇パーセント強力な爆薬)、トリトナル(注・TNTとアルミニウムからなる爆薬)あるいはH6火薬が充填された鋳型綱ケース入り、総重量一九七〇ポンドと説明されている。したがって、二〇〇〇ポンド爆弾には、九四五ポンド、つまり四二八・六五キログラムのマイノル2、TNT換算では六四二・九七キログラムの火薬が充填されていることになる。
これに基づいて計算をすると、F一六が二〇〇〇ポンド爆弾を二個搭載して施設から三〇メートル離れたところに墜落し、爆弾が爆発した場合には、施設は完全に破壊されるし、爆心地が一〇〇メートル以内の距離であれば、コンクリート建物・れんが壁は破損し、コンクリート・ブロックには剪断・たわみが生じ、建造物に重被害発生などという極めて憂慮すべき事態となる。
(二) 発回均質棟の安全性
(1) 飛来物形状係数
貫通限界厚さを求めるに当たり用いられる飛来物形状係数は、〇・七二=平坦がほぼ完全な平面の場合であって、少しでも丸みをおびている場合は〇・八四=若干丸いが使用される。そして、航空機のエンジンの場合、形状が円管で衝突する場合には〇・七二=平坦でみるべきだとしても、航空機のエンジンが円管状で衝突するのは、天井ないし壁に対して完全に垂直に衝突するという極めて特殊な場合だけであり(内閣総理大臣が想定したのは滑空状態での撃落であるから、天井に垂直に衝突することは考え難い。)、それ以外の角度で衝突すれば面ではなくほぼ点で衝突することになり、若干丸いや球形になるはずであるから、むしろ飛来物形状係数は〇・八四の方が現実的であるし、また、模擬弾の場合はその先端の形状からは一・〇=球形が妥当である。
したがって、飛来物形状係数を〇・七二として、戦闘機が墜落しても発回均質棟は局部破壊しないとし、航空機事故時の安全評価をしなかった本件安全審査は、その安全審査に用いた具体的審査基準に不合理な点があり、調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるというべきである。
なお、この点に関し、本件安全審査に提出された計算では、飛来物形状係数は明記されず、F一及びF一六について計算したこと、衝突速度を毎秒一五〇メートルとしたこと、Degen式が用いられたこと、柔飛来物低減係数に〇・七五が用いられたことが記載された上で、貫通限界厚さが約八〇センチメートルとされているが、右条件で飛来物形状係数を〇・七二としてDegen式によりF一六の貫通限界厚さを求めると七四・三二センチメートルとなり(なお、F一ではこれよりずっと小さい値である。)、約八〇センチメートルというには不自然な数値である。これに対し、飛来物形状係数を〇・八四として同様の計算を行うと、貫通限界厚さは七九・九〇センチメートルとなる。このことから、本件安全審査で用いられた飛来物形状係数は、若干丸いことを表す〇・八四であったとも推認される。
(2) Adeli&Ain式(編注・「Ain式」は「Amin式」の誤りか)
本件安全審査では、F一及びF一六戦闘機について、Degen式を用いて貫通限界厚さを計算している。
これに対し、内閣総理大臣が六ヶ所村の核燃料サイクル施設の安全審査の方法を検討するために諮問した「外部事象検討分科会」報告書においては、「実験値との近似が良いか、安全側の結果を与える評価式」あるいは「飛来物実験結果と比較的一致度が良い式」の一つとしてAdeli&Ain式が挙げられているところ、原告らがパソコンを用いて独自に計算した(ただし、飛来物形状係数については、右で主張したところにより、航空機については〇・八四、模擬弾については一・〇とする。)結果、この式によれば、F一六を始めとする多くの戦闘機や模擬爆弾、そして、すべての旅客機で、貫通限界厚さが九〇センチメートルを超えることとなり、発回均質棟でも局部破壊が生じることが判明した。
なお、飛来物形状係数にあえて不合理な〇・七二=平坦を用いても、Adeli&Ain式では、F一六についての貫通限界厚さは九〇センチメートルを超える。
(3) F四EJ改の衝突事故
本件安全審査では、以後に三沢基地に配備されたF四EJ改について事故評価をしていない。しかし、原告らがパソコンで独自に計算した結果、内閣総理大臣が用いたDegen式を用いても、F四EJ改の場合は貫通限界厚さが九〇センチメートルを超え、発回均質棟でも局部破壊が生じることが判明した。
(4) 最良滑空速度
本件安全震災に当たって想定されたのは、要するにトラックパターンで訓練中の航空機がエンジン推力を喪失し、グライダーのように滑空して本件施設に到達するという場合であり、この場合最良滑空速度は一四・七m/sであるから、衝突秒速は毎秒一五〇メートルを超えないというのである。
しかし、そもそも、航空機が地上の施設に衝突する場合の速度を算定するに際し、最良滑空速度をもって衝突速度とするという見解自体決して確立した考えとはいえないし、エンジン推力を維持したまま、パイロットが操縦不能となるケースは十分考えられるから、エンジン停止の場合だけを想定する本件安全審査の過誤、欠落は明らかである。
(5) まとめ
右に述べたとおり、本件安全審査は、飛来物形状係数の最も小さくなる場合を採用した上、貫通限界厚さが九〇センチメートルを超えない組み合わせであるDegen式とF一ないしF一六という組み合わせのみを選んでいるほか、衝突速度も最良滑空速度をもって検討している。
このことは、発回均質棟につき戦闘機が墜落しても局部破壊しないと判断してウラン漏出に関する安全評価をしなかった本件安全審査に用いた具体的審査基準に不合理な点があり、調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があることを示すとともに、本件安全審査のやり方が、評価式の選定や墜落する戦闘機の機種及びその衝突速度の選択において発回均質棟が局部破壊しないという結果を導くものを選定したことが推認され、その点でも安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があったことを示すものである。
(三) 中央操作棟の安全性
内閣総理大臣の想定でも、中央操作棟については、「貫通する。また、航空機衝突によっても鉄筋コンクリートスラブが破壊され、全体破壊が起こり得る。」とされている(<証拠略>)。にもかかわらず、このような場合でも、「大量のウランの放出が起き、周辺の公衆に放射能被爆を与えるということはない。」とされている(<証拠略>)。
しかし、この場合本件施設の制御が不能となるのであって、どういうことが発生するか予想は不能であり、最大・最悪の事態を想定すべきである。
(四) 六フッ化ウランの漏洩量と被曝線量
ウラン貯蔵建屋に貯蔵可能なウラン全量が貯蔵されている場合、施設破壊時の放射能の漏洩量は〇・三キュリーにとどまらないことは明らかであり、安全審査書の評価は誤りである。
また、仮に一般公衆への被曝線量が〇・〇六レムであったとしても、健康に重大な障害をもたらすことは明らかであって、影響が小さいなどとは断じていえない。
このほか、墜落事故では、火災が原因で有毒のフッ化水素が発生する危険があるが、本件安全審査ではこの点に対する考慮がされていない。
(五) 航空機墜落実験
本件安全審査で実験は実施されていないが、机上計算で安全性を確保し得るとは到底考えられない。
なお、この点に関し、日本原燃サービス株式会社は、航空機の衝突事故を想定した実験(米国サンディア国立研究所における航空機衝突実験)を映したビデオを、平成元年六月二七日に青森県議会総務企画常任委員会の所属議員に公開し、さらに同月三〇日には青森市の本社においてもこれを公開した。しかし、この実験については、地面に固定された建造物に爆弾や燃料を積載した戦闘機が高速で墜落ないし衝突した場合の施設の安全性を調査したものではない等の様々な問題点がある。
このほか、内閣総理大臣は、本件許可処分後に飛行機等の飛来物落下による周辺環境への影響を確かめるための「確証試験」を実施しているが、本件許可処分後にこれを実施するということは、本件安全審査の中で安全性の確認がされていなかったことにほかならない。
(被告の反論)
1 国家石油備蓄基地について
本件施設は国家石油備蓄基地から約四キロメートルもの距離があるので、類焼の影響はない。このことは、例えば、青森県石油コンビナート等防災本部が作成した「青森県石油コンビナート等防災計画」(昭和五二年三月)によると、仮に、右石油備蓄基地の最大容量タンクからの原油の流出・防油堤内全面火災を想定しても、そのふく射熱による影響(木材等の有機物が有炎火の粉があるときの引火の限界値)が及ぶ範囲は三八〇メートルと予測されていることからも明らかである。
本件敷地と石油備蓄基地との距離は最短で二・三キロメートルであるとの原告らの主張は、敷地境界と石油備蓄基地との最短距離を指しているものと思われるが、基地での火災の影響を考える際に敷地境界との距離は意味がない。
2 人口分布状況について
本件安全審査においては、加工施設指針三に従って、平常時はもとより、最大想定事故の場合であっても、一般公衆の被曝線量は極めて小さく、立地条件を満たしていることを確認している。
3 集中立地の危険性について
本件許可処分の時点において本件施設周辺に建設が計画されている再処理工場等の他の原子力施設については、それぞれの施設について規制法に基づいた安全審査が別個に行われ、当該施設の十分な事故防止対策が講じられていることが確認されることとなる。
また、平常時の一般公衆の放射線被曝については、後続の原子力施設の安全審査において本件施設との重畳をも考慮すれば足りるのであって、本件安全審査で計画段階の他の原子力施設の影響を考慮する必要はない。
4 航空交通について
(一) 飛行規制
本件施設を含む原子力施設付近上空の航空機の飛行規制については、次のような仕組みでその周知が図られ、飛行規制が遵守されることとなっており、本件安全審査においては、これらの航空機の飛行に係る法的規制等を踏まえ、三沢空港等の本件施設との距離も勘案して、航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいと判断したのであり、この判断は合理性を有するものといえる。
(1) 自衛隊機を含む我が国の航空機
自衛隊機を含む我が国の航空機については、航空法九九条に基づき、運輸大臣より航空機乗組員に対して提供される情報(航空情報)の一つとして、運輸省が発行する「航空路誌」(AIP)に、「航空機による原子力施設に対する災害を防止するため、下記の施設付近の上空の飛行は、できる限り避けること。」との指導事項及び原子力施設の位置等が掲載、公示されることにより、航空機乗組員に対して原子力施設付近上空の飛行規制が周知される。そして、機長は、これら原子力施設付近上空の飛行規制の情報を含む、航空法九九条により運輸大臣が提供する情報(航空情報)を確認した後でなければ、航空機を出発させてはならず(七三条の二、航空法施行規則一六四条の一六第一項三号)、また、機長が航空情報を確認せずに航空機を出発させた場合は五万円以下の罰金に処せられることとされている(航空法一五三条一項一号)。さらに、右のほか、自衛隊機については防衛庁が発行する「航空路図誌」により、重ねて原子力施設付近上空の飛行規制について自衛隊員に対し周知徹底が図られることとなっている。
(2) 米軍機
米軍機については右の航空法等の規定は適用されないものの、一般国際法上、ある国の軍隊は他国に駐留する場合において、駐留国における公共の安全に妥当な考慮を払って活動すべきものであるとされている上、従来より政府から米軍に対して「航空路誌」に係る情報が事実上提供されるとともに(米軍が発行する「FLIGHT INFORMATION PUBLICATION」に掲載される。)、原子力施設付近上空の飛行規制について徹底するよう要請してきている。そして、この点について、昭和六三年六月三〇日に開催された日米合同委員会において、米国側代表より、「原子力施設付近の上空の飛行については在日米軍としては従来より日本側の規則を遵守してきたが、…改めて在日米軍内に右を徹底するよう措置する。」との回答を得ている。
なお、本件許可処分後であるが、本件施設が平成三年二月二五日付けの「航空路誌」に掲載され、公示されたことを受けて、同年三月一四日に開催された日米合同委員会において、改めて政府から本件施設を含む核燃料サイクル施設に係る付近上空の飛行規制について米軍において徹底を図るべき旨を申し入れている。また、F一六による実爆弾投棄事件(平成三年一一月八日)の後の平成三年一一月二〇日に開催された日米合同委員会においても同様の申入れを行っており、これらの申入れに対しても、米国側は、今後とも在日米軍内に右の飛行規制を徹底させる旨繰り返し回答している。
これらの飛行規制は飛行禁止等の絶対的な飛行規制ではないが、米軍機及び自衛隊機を含めこれまで実際上遵守されてきている。
(3) その他
右に述べた原子力施設付近上空の飛行規制のほかにも、運輸省通達により、運輸省令で定める最低安全高度以下の高度での飛行を許可する航空法八一条ただし書に定められた許可は原子力施設付近の上空については行わないこととされ、また、航空機の姿勢を頻繁に変更する飛行等を許可する航空法九二条一項三号ただし書に定められた許可は本件施設を中心とする半径二海里の空域のうち対地二〇〇〇フィート以下の空域では行わないよう運用されているなど、航空機による原子力施設に対する災害を防止するため各種の措置が講じられている。
(二) 本件施設上空の飛行状況
原告らの主張に係る調査は射爆撃訓練のために航空機が訓練コースを周回する回数を観測した結果であって、同事務所ないし本件施設の真上に航空機が飛来した回数を観測したものではない。また、墜落の確率が約二〇年に一回であるとの原告らの計算は何ら根拠のないものである。
(三) 墜落事故発生の危険性
航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さく、また三沢対地訓練区域で訓練中の航空機が万一本件施設の安全上重要な施設に墜落したとしても、放射性物質による一般公衆への被曝による影響は小さいため、本件施設の立地条件に問題はない。
5 墜落事故評価の問題点について
(一) 想定事故の評価条件
(1) 想定対象
本件安全審査において、航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいと判断したことは、航空交通に関して既に述べたとおりであるが、さらに念のため、万一航空機が本件施設へ墜落した場合の影響を確認したのは、本件施設の南方向約一〇キロメートル離れた場所に米軍及び防衛庁の航空機の訓練区域があり、同区域で射爆撃訓練が実施されていたこと、及び同区域での射爆撃訓練のために航空機が訓練コースを周回する回数が比較的多数回であったことによるものである。
これに対して、三沢対地訓練区域で訓練を実施している航空機以外の航空機については、その飛行区域の本件施設との距離を含む位置関係及び三沢基地におけるその離発着方向などからして、本件施設への万一の墜落という事態を想定するだけの基礎事実が存しないと考えられることから、本件施設への万一の墜落を想定しなかったにすぎない。
また、本件施設の付近上空は飛行規制がされていること、本件施設の上空は訓練コースから離れていること、また模擬弾や外部燃料タンク等の落下物は推進力を持たないことから、本件施設への模擬弾等の誤落下については想定する必要がない。
(2) 爆弾の搭載
原告らの主張に係る事件とは、沖縄県の鳥島射爆撃場での実弾訓練を目的として三沢基地を飛び立った米軍機が不調を来したため、付近海上に漁船等船舶がないことを確認した上で、安全確保のため起爆装置が作動しない形で海上へ実爆弾を投棄したというものである。そして、同機は三沢対地訓練区域での訓練を目的としたものではないため、本件施設への万一の墜落を想定する必要はないから、右事実は、三沢対地訓練区域で訓練を実施している航空機以外の航空機を考慮の対象外とした本件安全審査の適法性を左右するものではない。
また、本件安全審査で万一の墜落を想定した三沢対地訓練区域での訓練機のうち、自衛隊機については模擬弾を使用しており、米軍機についても、日米合同委員会において三沢対地訓練区域での射爆撃訓練で使用される爆薬等の種類が決められており、その中に実爆弾が含まれていないことが確認されている。したがって、本件安全審査において万一の墜落を想定した訓練機につき、実爆弾を搭載していないものとしたことは十分合理的なものである。
(二) 発回均質棟の安全性
本件安全審査における航空機の墜落事故の評価においては、前記のとおり、技術的合理性の観点を考慮し、可能性の高い条件を、また不確定なものについては安全余裕を見込んだ条件を選択して評価している。
また、約九〇センチメートルの屋根・壁厚を有する鉄筋コンクリート構造となっている発回均質棟は、仮に航空機が衝突したとしてもその健全性が確保されることも前記のとおりであって、その条件の設定は、十分な根拠を有する。
(三) 六フッ化ウランの漏洩量と被曝線量
ウラン貯蔵庫への航空機墜落事故の際の貯蔵されている六フッ化ウランの漏洩量の評価に当たって、技術的合理性を有する条件に安全余裕を見込んでウランの漏洩量を評価し、〇・三キュリーとしたこと、及び右事故により想定される一般公衆の被曝線量〇・〇六レムが健康に障害をもたらすことはないことは、前記のとおりである。
また、フッ化水素は、原子力利用以外の分野でも広く使用されている非放射性の物質であり、その影響の問題は原子力施設固有の問題ではないので、規制法に基づく本件安全審査の対象とはならない。
(四) 航空機墜落実験
航空機事故に係る本件安全審査においては、申請者である原燃産業が設定した航空機墜落に係る評価条件及び評価結果が妥当なものであるかどうかを、原燃産業が行った実験結果や公表されている研究成果等に基づいて審査するのであって、内閣総理大臣が独自に実験を行わなければならないものではないから、実験を実施していないことが本件許可処分を違法とするものではない。そして、原告らが指摘する航空機衝突実験は、本件安全審査においては用いていない。
ちなみに、原燃産業は、万一の航空機墜落時における本件施設の安全性を評価するために、前述のとおり、航空機衝突時の鉄筋コンクリート構造部の貫通限界厚さの評価において、公表されている研究成果であるDegen式を用いる際に衝突実験を実施し、その結果に基づき飛来物の特性から貫通限界厚さの低減効果を考慮している。
また、原告ら指摘の「確証試験」とは、平成二年度から行われている本件施設等に関する安全性実証試験を指すものと思われるが、これは、本件安全審査において本件施設の安全性を確認するために行われたものではなく、地元住民の理解を深めるために、実際の試験により安全性を実証することを目的とするものであり、原子力発電所等についても、これまで同様の趣旨から種々の安全性実証試験が行われてきている。
第三加工施設自体の安全性確保対策
一 地震に対する考慮
(被告の主張)
ウラン加工施設における安全上重要な施設は、加工施設指針一三において、その重要度により耐震設計上の区分がされるとともに、敷地及びその周辺地域における過去の記録、現地調査等を参照して最も適切と考えられる設計地震力に十分耐える設計であることとされており、具体的には、<1>本件施設の建物・構築物及び設備・機器がそれぞれの重要度に応じ適切に分類されているか、<2>加工施設指針が示す耐震設計に関する基本的な方針を満足する設計を行うこととしているか、<3>右各分類のうちの設備・機器の第一類、第二類及び第三類並びに建物・構築物の第一類及び第二類については、建築基準法施行令八八条から定まる最小地震力に安全のための割増係数を適切に乗じた設計地震力を用いることとしているか、などが審査される。
本件安全審査においては、この加工施設指針一三に基づき、本件施設の耐震設計に係る基本設計ないし基本的設計方針によって耐震安全性が確保できることを確認した。
1 耐震設計上の重要度分類
本件施設の安全上重要な設備・機器及び建物・構築物は、加工施設指針一三に従い、地震により発生する可能性のあるウランによる環境への影響の観点から、その耐震設計上の重要度が、以下のとおりそれぞれ第一類、第二類及び第三類に分類され、所要の耐震設計を行うこととなっている。
(一) 設備・機器
(1) 第一類の設備・機器とは、「非密封ウランを取扱う設備・機器及び非密封ウランを閉じ込めるための設備・機器並びに臨界安全上の核的制限値を有する設備・機器及びその制限値を維持するための設備・機器であって、その機能を失うことによる影響、効果の大きいもの」であり、本件施設においては、六フッ化ウラン処理設備のうち発生槽、製品回収槽、廃品回収槽及び製品コールドトラップ等、均質・ブレンディング設備のうち均質槽、製品シリンダ槽及び原料シリンダ槽等並びに貯蔵設備のうちシリンダ置台がこれに当たる。
(2) 第二類の設備・機器とは、「非密封ウランを取扱う設備・機器及び非密封ウランを閉じ込めるための設備・機器並びに臨界安全上の核的制限値を有する設備・機器及びその制限値を維持するための設備・機器であって、その機能を失うことによる、影響、効果が小さいもの及び化学的制限値又は熱的制限値を有する設備・機器」であり、本件施設においては、カスケード設備、六フッ化ウラン処理設備のうち捕集排気系ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)(六フッ化ウランを吸着する性質を有する吸着剤であるフッ化ナトリウムにより六フッ化ウランガスを補修する機器)等、均質・ブレンディング設備のうち均質パージ系コールドトラップ(均質ブレンディング設備のコールドトラップ)等、管理廃水処理設備、排気設備並びに非常用設備のうちディーゼル発電機及び放射線監視設備がこれに当たる。
(3) 第三類の設備・機器とは、「第一類、第二類以外のもの」である。
(二) 建物・構築物
(1) 第一類の建物・構築物とは、「第一類の設備・機器を収納する建物・構築物」であり、本件施設においては、発回均質棟及びウラン貯蔵庫がこれに当たる。
(2) 第二類の建物・構築物とは、「第二類の設備・機器を収納する建物・構築物」であり、本件施設においては、中央操作棟、カスケード棟、搬出入棟、ウラン濃縮廃棄物建屋及び補助建屋がこれに当たる。
(3) 第三類の建物・構築物とは、「第一類、第二類以外のもの」である。
2 耐震設計に関する基本方針
本件施設の建物・構築物及び設備・機器の耐震設計は、加工施設指針一三に基づき、<1>耐震設計は、原則として静的設計法(地震時に作用する最大の力が常時作用し続けるとした場合の外力である静的地震力に耐えるようにする耐震設計方法)によること、<2>耐震設計上の重要度の分類において、上位の分類に属するものは、下位の分類に属するものの破損によって波及的破損が生じないこと、<3>上位の分類の建物・構築物と構造的に一体に設計することが必要な場合には、上位分類の設計法によること、<4>設備・機器の設計に当たっては剛構造(外力を受けた場合の変形の程度が小さい構築物を指す。)となることを基本とし、それが困難な場合には動的解析(地震の際に構築物等そのものも地震動に応じて振動することを前提として振動状態の計算を行い、その構築物等に作用する地震力を求める方法)等適切な方法により設計すること、という耐震設計の基本方針を満足することになっている。
また、隣接する各建物間は、エキスパンションジョイントを介して接続し、耐震設計上独立した構造とすることとなっている。
3 本件施設の耐震設計法
本件施設の耐震設計法は、加工施設指針一三に従い、次のような耐震設計法となっている。
(一) 建物・構築物の耐震設計法
建物・構築物の耐震設計法については、各類とも原則として静的設計法を基本とし、建築基準法等関係法令によることとなっている。
第一類及び第二類の建物・構築物については、それぞれ耐震設計上の静的地震力として、建築基準法施行令八八条から定まる最小地震力に割増係数(本件施設では、第一類が一・三、第二類が一・一)を乗じたものを用いることとなっている。
(二) 設備・機器の耐震設計法
設備・機器の耐震設計法については、原則として静的設計法を基本とすることとなっている。
設備・機器については、まず、重要度分類の各類ともに一次設計を行い、更に第一類の設備・機器については二次設計を行うこととなっている。
(三) その他
このほか、本件施設は、敷地及びその周辺地域の自然環境の調査をもとに、台風、積雪等予想される自然力に対して十分耐える設計となっている。
(原告らの主張)
1 本件許可申請書の内容
加工施設指針一三「地震に対する考慮」は、施設を重要度により耐震設計上の区分を行うこと、敷地及びその周辺地域における過去の記録、現地調査などを参照して、最も適切と考えられる設計地震力に十分耐える設計であること、の二要件を示している。ところが本件許可申請書は、設備・機器及び建物・構築物のそれぞれについて耐震設計上の区分を行ってはいるが、各種建物図面、設備・機器の各種図面など、設計地震力に十分耐えられる設計であることを示し、今回の計画の耐震設計の内容を判断するのに必要な具体的な内容は何ら提示していない。
本件許可申請書における「地震に対する考慮」は、総じていえば、本件事業内容に則した具体的なものではなく、加工施設指針一三の文面をそのまま引き写したといってよい内容であって、単に指針一三に従って耐震性を確保するよう努力することを約するにすぎない。
2 割増係数の定め方
加工施設指針一三は、設備・機器及び建物・構築物それぞれに対して三つの分類を行うことを定めた上、この各分類につき、「敷地及び周辺地域における過去の記録、現地調査などを参照して最も適切と考えられる設計地震力」を定めることを求めている。さらに、加工施設指針は、この設計地震力について、一般建築物に関する建築基準法施行令所定の設計地震力値に割増係数を乗じて算出することを求め、同時に割増係数の下限値を示している。
このように、指針一三が割増係数の下限値のみを示しているのは、ウラン加工施設が放射性物質を扱う特殊な施設であり、一般の建物とは比べものにならない高度な安全性を要求されるものであるために、設計に用いる地震力の設定に当たっては、建築基準法施行令に定める地震力をそのまま採用するのではなく、申請者に施設敷地の固有の条件を精密に調査させ、それらの結果を十分に参照させた上で値を決めさせることが必要であるという考えが基本にあるからといえる。殊に、ウラン加工施設は、動的設計が義務づけられている原子力発電所や再処理施設の耐震設計と異なり原則として静的設計が認められており、一般の建築物との相違は設計地震力の算出に当たり割増係数を乗じる点のみであって、しかも一般の中規模建物に義務づけられている大地震時を想定した二次の耐震設計は課せられていない。このような加工施設指針一三の弱点を補う意味からも、割増係数を定めるに当たっては、地震について精密な検討を行うことが一層大切である。したがって、申請者は、割増係数を定めるに当たり、加工施設指針一三に従い敷地及びその周辺地域における過去の地震記録調査、現地の地盤調査などを精密に実施し、それらの結果を十分参照する必要がある。
ところが、本件許可申請書は、加工施設指針一三で示された下限値を割増係数として採用しているものの、掲げられた関連資料から割増係数を算定するまでの判断過程を一切示しておらず、建築物の振動特性を特定するための資料(例えば建築物の各種図面、固有周期などの動特性値)や、敷地周辺は過去に最高どの程度の地震動を受けたのか、どのような地盤被害が観察されたのかといった設計地震力を推定するために必要不可欠な敷地固有の地震データも欠けている。これでは、申請者が地盤条件をどのように考慮したのか、算定する地震力が適切かどうかは判断できず、まして地震力に対して安全性が確保できるという結論は引き出せない。
3 建物内部の設備・機器に対する地震の影響
安全審査書は、建屋自体の倒損壊による影響だけを評価し、建物内部の設備・機器に対する地震の影響を考慮していない点においても不十分である。特に、ウラン貯蔵庫内の三種類のシリンダーは、仕切壁もないまま密集して配置されており、地震の振動で接触したり重なり合ったりして破損し、六フッ化ウランが漏洩する危険性がある。
4 他の施設の耐震設計との比較
発電用原子炉施設や使用済み核燃料再処理施設の耐震設計では、設計用地震として設計用最強地震及び設計用限界地震という二種類の地震を考え、それぞれの地震に対応した設計地震力の数値を定めることになっているが、本件施設の耐震設計では、そのような二種類の地震に対応した設計地震力が考慮されていない。
5 三陸はるか沖地震と阪神大震災が科学技術に与えた警鐘
(一) 核燃の立地要請から約一〇年の間、青森県に影響を与えた地震の回数は、実に、有感一四三回及び無感一二二二回の合計一三六五回と多数回に及ぶ。その中でも最大のものは、前記のとおり平成六年一二月二八日の「三陸はるか沖地震」(マグニチュード七・五、震度六、震源は八戸沿岸から約二〇〇キロメートルの日本海溝の内側)と、その最大余震(マグニチュード六・九、震度五、震源は八戸沿岸から約八〇キロメートル沖合)で、人的被害は、死者三名及び負傷者二八三名、損害家屋は二六六棟、被害総額は約六七七億円にのぼった。
この地震で、むつ小川原港の放射性廃棄物荷揚岸壁のコンクリート舗装の路面が長さ約五〇メートルにわたり数センチメートル陥没したことが判明しているが、操業中の本件施設に対する影響は定かでない。しかし、「三陸はるか沖地震」が六ヶ所村を直撃した場合には、本件施設の建造物と機器類に対しかなり大規模な被害が発生したであろうことは想像に難くない。
(二) そして、平成七年一月一七日「兵庫県南部地震」(阪神大震災)が発生した。活断層のずれによる直下型地震(マグニチュード七・二、震度六ないし七)である。
その被害実態は人知を超え、現代文明と科学技術に対する自然の警鐘ともいうべきもので、これによって、これまでの日本の建築技術における楽観主義は批判され、今では、耐震設計基準の見直しが声高く叫ばれ、科学万能主義と過信を戒める反省が専門家の中から上がっている。
(三) 右のような動きは、一般建築物に限らず、原子力発電所等の原子力施設に対しても深刻な課題を投げ掛けているが、特に原告らが憂慮するのは、阪神大震災の震源が活断層であったという点と、建築基準法に適合していた建造物がかくももろく倒壊したという冷厳な事実である。
本件安全審査では、マグニチュード八・二までに耐えられるよう設計されているとされるが、これはあくまで机上の計算にすぎず、その影響を正確に予測できないことは今回の地震が如実に証明している。今回の一連の地震は、専門家と称する人たちが、これなら大丈夫と定めた指針をことごとく打ち砕いた。
これらの地震は、はかり知れない人的、物的な犠牲をもたらしたが、その一方で、我々に六ヶ所村核燃施設の稼働・建設の中止と、改めて安全審査をやり直す必要性を教示してくれた。
6 ロッキング現象への対策
軟弱地盤の上に重量のある建物を建てると、しばしばロッキング現象(建物が上下方向に回転する現象)が発生する。本件施設の建屋の屋根スラブや壁は厚く補強されており、建物自体は重量が増え、重心も比較的上の方に上がることになる。このような建物を、地下水を豊富に含み軟弱である地盤に建設すれば、地震時にロッキング現象を起こす可能性が高い。特に、製品貯蔵庫は間仕切壁もない広い空間なので、他の空間に比べて“柔(やわ)”で重心位置も高い。製品シリンダは、移動可能なように簡単にしか固定していないので、地震時にロッキングのために転がりだし、衝突して破損する危険性がある。
7 本件施設の耐震設計上の問題
本件施設は、静的解析によって設計されているが、これは、今日予測される地震の規模との関係で不十分な設計方法であり、本件施設の安全性を確保したことにはならない。近時の耐震設計では、単純に地震の最大加速度を固定化し、その大小を基礎として建物への影響を考える(静的設計)のではなく、建物や設備の固有周期に近い領域の加速度による影響(共振)が大きいことから、建物や設備の固有周期を踏まえ地震力を時刻歴に対応させて建物などの安全性を評価する(動的設計)必要があるとされている。
しかし、本件安全審査においては、想定した地震力に対して本件施設の建物や設備の固有周期に応じた時刻歴の評価、解析を行っていない。
8 静的設計による結果に対する審査の不備
前述のとおり、本件施設の耐震設計が静的設計によっていることは、近時の耐震設計の考え方からは不十分というべきであるが、仮にこれを認めるとしても、本件施設の耐震設計に対する安全審査においては、発回均質棟、ウラン貯蔵庫、カスケード棟、第一類に分類される設備や機器(例えばシリンダ置台、遠心分離機)など本件施設の主要な建物や設備の固有周期、建物の振動特性について、具体的な審査を行っていない。
したがって、本件安全審査には、静的設計の内容の審査、検討が行われなかった不備がある。
9 エキスパンションジョイント
エキスパンションジョイントとは、各建物を物理的に分離しておくことによって、地震により相互に影響を及ぼし合わないようにする接続方法の接続部分をいうところ、本件施設の建物相互は、エキスパンションジョイントで接続されているものがあるが、エキスパンションジョイントは固有周期を異にする建物の接続方法であり、これを誤れば地震時に建物の破損をもたらす危険があるのに、その妥当性を審査しなかったのは、本件安全審査の重大な誤りである。
(被告の反論)
1 本件許可申請書の内容について
本件許可申請書及びその添付書類には、本件施設の各設備・機器及び各建物・構築物ごとに耐震設計上の重要度分類が定められているとともに、割増係数についても数値が具体的に定められているなど、本件施設固有の耐震設計に係る基本設計ないし基本的設計方針を審査する上で、必要にして十分な内容が記載されている。
本件施設の耐震設計に係る安全審査においては、その基本設計ないし基本的設計方針において安全性が確認されれば足りるのであるから、原告らの主張に係る建築物の振動特性を表す値、具体的な設計地震力の値ないしそれらを求める計算過程などは、本件安全審査の対象とはならない。
ちなみに、これらは、本件施設の耐震設計に係る詳細設計に属する事項であるため、本件施設の設計及び工事の方法の許可(規制法一六条の二)の際に審査される事項である。
2 割増係数の定め方について
右に述べたとおり、本件施設の耐震設計に係る安全審査においては、その基本設計ないし基本的設計方針において安全性が確認されれば足りるのであるから、原告らの主張に係る建築物の振動特性を表す値、具体的な設計地震力の値ないしそれらを求める計算過程などは、本件安全審査の対象とはならない。
また、加工施設指針一三によれば、「最も適切と考えられる設計地震力」の設定に当たっては、敷地及びその周辺地域における過去の地震の記録等を参照することとされている。本件施設についても、加工施設指針に従い、「最も適切と考えられる設計地震力」を設定する際に、指針において乗じることが要求されている割増係数の決定について、本件施設の敷地及びその周辺地域における過去の地震の記録を参照した上で、どの程度の割増係数を乗じることが本件施設の安全確保のために必要であるかが審査されることとなる。このような観点から、本件施設の敷地及びその周辺地域における過去の地震の記録等をみると、前述のとおり、過去の地震による敷地での影響度は最大でも震度五程度であり、これは、建築基準法施行令八八条が定める地震力を用いていわゆる一次設計を施すことにより建築物の機能が保持される程度の地震動であることから、本件施設の耐震設計について、同条によって定められる最小地震力に加工施設指針一三で定める割増係数の下限値を乗じて設計地震力とすることは、その基本設計ないし基本的設計方針において、安全確保の目的を達する上で妥当なものであると判断した。
このように、本件許可申請書及びその添付書類から施設の耐震設計の安全性を判断することができ、また、右判断過程及びその結論には何らの過誤も存しない。
なお、建築物の振動特性を表す値、具体的な設計地震力の値ないしそれらを求める計算過程などが、本件施設の耐震設計に係る詳細設計に属する事項であることは前記のとおりである。
3 建物内部の設備・機器に対する地震の影響について
加工施設指針一三は、設備・機器の耐震設計について、第一類ないし第三類のすべての設備・機器に対し一次設計を施すこととしており、これに加えて、第一類に分類される設備・機器については二次設計を行うこととしており、本件安全審査においても、加工施設指針一三に基づき、原告ら主張に係る建屋内部の設備・機器について、右設計が行われることを確認することにより、地震の影響を考慮している。
4 他の施設の耐震設計との比較について
そもそも、原子力施設においてどのような耐震設計を施すべきであるかということは、当該施設の有する特質に応じて、その施設の安全確保の観点から合目的的に決せられるべきものであって、原子炉施設の耐震設計においては、その内蔵するエネルギー及び放射能量が大量であることにかんがみて、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」において、耐震設計上の重要度分類Aクラスの施設については、設計用最強地震による地震力又は同指針で定める静的地震力のいずれか大きい方の地震力に対しても耐えることとされ、さらに、Aクラスのうち特に重要と考えられる施設をAsクラスとして、設計用限界地震による地震力に対しても安全機能が保持できることとされている。これは、再処理施設についても同様である。
これに対し、本件施設を含むウラン加工施設は、その内蔵するエネルギーが小さく、また、臨界状態での核分裂反応を制御する必要性もない。したがって、原子炉施設ないし再処理施設と同等の耐震設計をウラン加工施設に求める必要はなく、加工施設指針は、右に述べた施設の特質を踏まえ、ウラン加工施設の安全確保のために必要とする耐震設計について規定しているのであり、本件施設においても、加工施設指針所定の耐震設計を採用することにより十分にその安全確保の目的を達することができる。
5 兵庫県南部地震(阪神大震災)に係る主張について
原告らは、兵庫県南部地震の発生を理由に本件施設の耐震設計を見直す必要がある旨主張する。
しかしながら、本件施設の耐震設計においては、建築基準法に基づき静的設計方法により設計を行っているところ、阪神大震災で倒壊した高速道路等とは異なった設計手法が採用されている。このような設計方法及びその背景にある条件が大きく異なることを無視して、両者を単純に比較することは耐震工学上全く無意味であり、原告らのいうところはそもそも前提において当を得ない。
また、建設省の建設技術審査委員会の特別委員会である平成七年阪神・淡路大震災建築震災調査委員会においても、兵庫県南部地震における建築物被害を踏まえた設計用地震力の評価を検討しており、現行の設計用地震力のレベルを緊急に変更する必要性は低いと判断しているのである。
したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。
二 火災・爆発等に対する考慮
(被告の主張)
ウラン加工施設における火災・爆発に対する考慮に係る安全審査においては、加工施設指針一五に従い、<1>ウラン加工施設の建屋は、建築基準法等関係法令で定める耐火構造又は不燃性材料で造られたものであるかどうか、設備・機器は実用上可能な限り不燃性又は難燃性材料を使用する設計であるかどうか、<2>施設において可燃性、爆発性の物質を使用する場合において適切な対策が講じられているかどうか、<3>万一火災・爆発が発生した場合にも適切な拡大防止対策が講じられているかどうかを審査するものである。
本件安全審査では、本件施設において、右の点につき、<1>建物は建築基準法の耐火建築物又は簡易耐火建築物とされ、<2>設備・機器は、実用上可能な限り不燃性又は難燃性材料を使用する設計とされ、<3>主工程においては、可燃性の物質又は爆発性のガス等を使用しないこと、を確認しており、火災爆発のおそれはないことのほか、万一の場合を考慮して、防火区画を設定するとともに消火設備、自動火災報知設備等を設置し、火災が拡大しないような対策が講じられていることを確認した。
(原告らの主張)
1 防火対策及び火災の拡大防止対策
本件許可申請書は、加工施設指針一五の記載内容をそのまま繰り返し、設備・機器の材料について、不燃性又は難燃性材料を主として使用するとするのみであって、具体的にどのような材料を用いるかを明らかにしておらず、本件施設が真に加工施設指針一五にそうものであるかどうかは確認できない。
また、本件許可申請書は、本件施設内での火災の発生可能性を極めて少ない等とした上、火災の拡大防止対策としては消防法や建築基準法に基づく機器(自動火災報知設備、消火栓、消火器等)の設置と防火区画の設定を掲げているのみで、その具体的な種類や個数、配置、設定場所等を全く記載せず、何らの考慮も払っていない。
2 可燃性・爆発性物質対策
本件許可申請書は、施設内の爆発防止対策や施設外の爆発等の拡大防止対策を不要とし、何らの考慮も払っていない。
本件許可申請書では、可燃性・爆発性の物質に関する火災・爆発対策として、「分析室等でアセトン等を使用するが、取扱量を制限するとともに、これらの保管は本施設の倉庫内危険物貯蔵エリア等で行う」とのみ記載し、使用される可燃性・爆発性物質の種類、使用場所、保管場所はいずれも特定されていない。
加えて、例示されているアセトンは、消防法に定める危険物であり、その貯蔵、取扱いが規制されている引火性液体(第一石油類)でもあって、条件次第では引火爆発の危険がある。そして、その使用場所である分析室は、内閣総理大臣が本件施設の最大想定事故の発生場所として想定した場所である均質室の隣に位置し、分析室前の廊下には六フッ化ウランのシリンダを発生回収室等に運搬する運搬台車専用レールが走っているという、本件施設内で可燃性・爆発性物質を使用する場合に最も危険な部類に属する場所で使用することが明言されている。にもかかわらず、本件許可申請書では、事故防止対策の内容を一切記載していない。また、アセトンの爆発の発火源となりやすいのは静電気スパークと電気火花であるが、本件施設には電気系統の設計・施工に重大な欠陥があり、現に平成四年六月一七日には放電による火花が発生する事故が発生しているのであり、通常の施設より発火源が容易に発生するといわざるを得ない。
3 消火法
六フッ化ウランを取り扱う設備・機器ないしその周辺で火災が発生した場合には、臨界やフッ化水素発生の危険を避けるため、化学的な消防法を採る必要があり、しかも、消火剤としては減速材となり得るものや六フッ化ウランとよく反応する薬品を避けて選択する必要がある。しかし、本件許可申請書及び添付書類においては、消火設備として単に「消火栓、消火器等」とするだけで、右の考慮をした形跡がない。
4 航空機墜落時の消火対策
ウラン貯蔵建屋に貯蔵される製品シリンダ(最大五五本、ウラン量八五トン)、原料シリンダ(最大六〇本、ウラン量五一〇トン)、廃品シリンダ(最大二一〇本、ウラン量一八一〇トン)の間には、防火区画は設けられておらず、仕切壁もない状態で密集して配置されている。したがって、これらのシリンダは、航空機事故により一部が直接破壊されると、その余のものも飛び散った機体本体や建屋の破片により間接的に破損する危険がある。
また、破損しなかったシリンダも燃料油火災により著しく加熱されることになり、その温度はシリンダの設計温度である摂氏一二一度をはるかに超えることが予測され、その場合、シリンダ内の六フッ化ウランは気化し、その圧力でシリンダが破裂し、六フッ化ウランが漏洩する。
このような事態を防止するために、本件安全審査では、航空機墜落の場合に、いかなる消火剤によりどれくらいの時間で消火可能なのか、その間シリンダの温度はどう変化し何本破損するのか、消火剤はどれだけ備蓄されているのか、という点を審査することが不可欠であるが、これらの点の審査がされた形跡はない。なお、この点に関し、検証の結果では、火災発生時の消火対策に関し、貯蔵庫内に設置されている「大小合わせて合計五三本の二酸化炭素消火器で対処することになっている。」と説明されているが、小規模の火災ならいざ知らず、貯蔵庫全体が炎上した場合には尽力による対応は不可能である。
5 被告の主張について
被告は、これらはすべて安全審査の対象となる事項ではないと主張するが、本件許可申請書の記載のみでは、本件施設で採用された拡大防止対策の適否や爆発の拡大防止対策が不要であるか否かを判断することは不可能である。また、被告は、本訴においていまだ基本設計の定義と範囲の判断基準を明らかに主張しないまま、原告らの主張に答えられなくなると、特段の法的根拠も客観的基準もなく、恣意的に、原告らから指摘されて回答できないところも「設計及び工事の方法の認可の際の審査事項」としているにすぎない。
また、被告は、本件訴訟の審理対象は基本設計に限定されると主張し、原告らの主張のうち被告が「基本設計でない」と勝手に決めた部分については審理の対象外として認否すらしていない。しかるに、被告の訴訟態度は、例えば消火器の種類について、これを基本設計に属さないとしながら、他方では「本件施設内の六フッ化ウランを取り扱う箇所では二酸化炭素消火設備による消火をする」と主張しているように、被告に不利な場合には基本設計以外の部分は審理対象外であるとしながら、被告側で安全性を主張する場合はこれを持ち出して主張するという、恣意的なものである。
(被告の反論)
1 防火対策及び火災の拡大防止対策について
本件許可申請書添付書類には、本件施設における火災・爆発に対する考慮に係る右基本設計ないし基本的設計方針を審査する上で十分な内容の事項が記載されており、本件安全審査も、右記載に基づいてされ、右対策により火災・爆発に対する安全性が確保されることを確認している。
また、設計及び工事の方法の認可申請に当たっては、当該申請に係る設計及び工事の方法が加工施設技術基準に適合していることを説明した書類を添付しなければならないこととされており(加工事業規則三条の二第二項)、消火設備等についてもそれが設置される場合には消火設備等に関する設計及び工事の方法が加工施設技術基準に適合していることについての説明書を添付することを要するものであるところ、加工施設技術基準では、火災等による損傷の防止について、「加工施設が火災の影響を受けることにより加工施設の安全に著しい支障が生じるおそれがある場合は、必要に応じて消火設備及び警報設備(中略)を施設しなければならない。」との基準が定められている(四条一項)。このことからも明らかなとおり、原告らが本件許可申請書に具体的に記載されていないとする設備・機器の材料、消火栓・消火器の種類・個数・配置、防火区画の設定場所等の事項は、いずれも本件安全審査の対象となる事項ではなく、規制法一六条の二の設計及び工事の方法の認可の際に審査されるものである。
2 可燃性・爆発性物質対策について
危険物については、本件許可申請において、ウラン濃縮建屋などから離れた倉庫等において保管されることとされており、分析室等でアセトン等を使用する場合にもその取扱量を制限することとされているところ(本件許可申請書添付書類五―二三参照)、本件安全審査においては、右申請内容は火災・爆発に対する考慮に係る基本設計ないし基本的設計方針において妥当なものであると判断した。
3 消火法について
本件安全審査においては、火災・爆発のおそれはないが、万一の場合を考慮して適切に消火設備等を設けることとしていることを確認している。
そして、具体的にどのような設備を設けるかは、右に述べたように、設計及び工事の方法の認可の際に審査されることになっている。
なお、本件施設では、六フッ化ウランを取り扱う設備・機器は漏洩し難い構造とされているが、念のため六フッ化ウランを取り扱う箇所においては、二酸化炭素消火設備による消火をすることとしている。
4 航空機墜落時の消火対策について
本件安全審査においては、前記のとおり、ウラン貯蔵庫への航空機墜落事故の際の貯蔵されている六フッ化ウランの漏洩量の評価として、技術的合理性を有する条件に、F一六の機内燃料油全量が火災に寄与するなど安全余裕を見込んでウランの漏洩量を評価しても、建屋外へのウランの漏洩量は〇・三キュリー程度であると判断している。
三 臨界に関する安全設計
(被告の主張)
臨界になると、核分裂連鎖反応の結果として大量のエネルギー及び放射線が発生する。ウラン加工施設においては、このような臨界に伴って生じる大量のエネルギー及び放射線による危険を避けるため、臨界を防止するための安全設計(臨界安全設計)が必要となる。
本件施設においては、以下に述べるように、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられることとなっている。
1 単一ユニットの臨界安全
ウラン加工施設における単一ユニット(核燃料施設基本指針及び加工施設指針において臨界管理を考える場合に対象となる核燃料物質取扱い上の単位)の臨界安全については、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられていなければならない。このため、単一ユニットは、技術的にみて想定されるいかなる場合でも、単一ユニットの形状寸法、質量、容積、溶液濃度の制限及び中性子吸収材の使用等並びにこれらの組合せにより臨界を防止する対策が講じられていることが確認されなければならない(加工施設指針一〇)。
本件施設においては、ウランの濃縮度を五パーセント以下に制限し、六フッ化ウランを収納する設備・機器の形状寸法を制限し又は中性子の減速度(核分裂によって生じた中性子の速度が減速材により減速される度合いを表す指標で、通常、代表的な減速材である水の構成要素である水素とウラン二三五との原子数の比(H/U―二三五)で表される。)を制限することにより、臨界を防止する設計となっている。このため、機器の設計及び通常時における運転条件は核的制限値(臨界安全を確保するために設定される制限値)を超えず、異常時でも臨界安全値(異常時においても臨界に至らないと判断される値)を超えないこととなっている。
このうち、ウランの濃縮度は、カスケード設備へ供給する原料六フッ化ウランの流量及びカスケード内の六フッ化ウランの圧力から定まることから、この流量及び圧力を制御することにより濃縮度を管理するとともに、インターロックを設け濃縮度が制限値(五パーセント)を超えないようにすることとなっている。
次に、形状寸法制限については、ウランを収納する設備・機器のうち、その形状寸法を制限して比較的小型にすることができるケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及びケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)で使用された六フッ化ウランの吸着剤であるフッ化ナトリウムの処理槽は、公表されている信頼し得る文献に基づき、設計上の余裕を考慮して、その直径を核的制限値五七・五五センチメートル以下に制限することにより臨界を防止することとなっている。
さらに、ウランの質量、容積及び形状寸法のいずれをも制限することが困難な設備・機器(コールドトラップ、製品シリンダ、中間製品容器及び減圧槽)は、中性子の減速度を制限することにより臨界を防止することとなっている。これらの設備・機器は、公表されている信頼し得る文献に基づき、通常使用条件における減速度に対して、余裕を考慮し、H/U―二三五原子数比一・七を核的制限値として設定することとなっており、六フッ化ウランの純度を九九・五パーセント以上に保つことにより、H/U―二三五原子数比が一・七以下となり、公表されている信頼し得る文献に基づく臨界安全値である一〇を上回ることがないような設計となっていて、これによって臨界は防止されるほか、万一水分を含んだ空気が流入した場合についても、コールドトラップ、中間製品容器、製品シリンダのH/U―二三五原子数比の値を計算することにより臨界安全の確認計算がされている。このほか、カスケード設備については、本件許可申請書添付書類掲記の諸条件を設定し、内外で十分な使用実績を積んだ信頼性の高い臨界計算コードであるKENO―IV/Sコード(臨界計算コードの一つ)を用いて、中性子の無限増倍率を算出することにより臨界安全設計の確認計算がされており、その結果、いかなる場合でも臨界に達することはないことが確認されている。
本件安全審査においては、右に述べた本件許可申請に係る単一ユニットの臨界安全設計につき審査した結果、右の中性子の減速度(H/U―二三五原子数比)の値又は中性子の実効増倍率の値を踏まえ、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界に達することはなく、単一ユニットにおける臨界安全が確保されるものと判断した。
2 複数ユニットの臨界安全
ウラン加工施設の複数ユニットは、ユニット相互間の中性子相互干渉(各単一ユニット内で発生した中性子のうち外に漏れ出たものが他の単一ユニットに相互に作用して核分裂反応に寄与する現象)を考慮し、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられていなければならない。このため、ユニットの配列については、技術的にみて想定されるいかなる場合でもユニット相互間における間隔の維持又はユニット相互間における中性子遮へいの使用等により臨界を防止する対策が講じられていることが確認されなければならない(加工施設指針一一)。
本件施設の複数ユニットは、信頼性の高い臨界計算コードにより、十分安全裕度のある条件で臨界計算を行い、安全な配置とすることとなっている。
具体的には、臨界計算として、製品コールドトラップについては三〇センチメートル間隔で、ケミカルトラップについては一メートル間隔で、それぞれ無限配列されたモデルが設定され、KENO―IV/Sコードを用いて、機器相互又は機器群相互の配列を考慮した中性子の実効増倍率が計算されているほか、均質室内で中間製品容器相互が万一接触した場合及びウラン貯蔵庫で製品シリンダ相互が万一接触した場合を考慮し、内外で十分な使用実績を積んだ信頼性の高い臨界計算コードであるKENO―V・aコード(臨界計算コードの一つ)を用いて中性子の実効増倍率が計算されている。この結果、本件施設では、コールドトラップ、六フッ化ウランシリンダ、中間製品容器及び減圧槽は、それぞれ他のユニットと相互の間隔が三〇センチメートル以上、また、ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及びフッ化ナトリウムの処理槽は、それぞれ他のユニットと相互の間隔が一メートル以上とし、いずれも十分な間隔を有する配置とすることとなっている。
本件安全審査では、複数ユニットの臨界安全設計の確認計算で右の各モデルにおいて中性子の実効増倍率がいずれも〇・九五以下となったことを確認し、右のユニット配置の下では、複数ユニットにおいても、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界に達することはないと判断した。
(原告らの主張)
1 加工施設指針の問題点
加工施設指針一〇は、単一ユニットにおける臨界安全に関して、「核燃料施設における単一ユニットは、技術的にみて想定されるいかなる場合でも、臨界を防止する対策が講じられていること」と定めた上、「核的制限値の維持、管理については、起こるとは考えられない独立した二つ以上の異常が同時に起こらない限り臨界に達しないものであること」との単一故障指針を定め、本件安全審査もこの方針に従って行われている。
しかし、加工施設指針は、実際の臨界事故が様々な要因の複合によって発生している事実を無視する不当なものであり、単一故障のみを想定すれば足りるとする指針の違法性は明らかである。
2 臨界事故を想定した災害評価の欠如
加工施設指針一二(臨界事故に対する考慮)は、「ウラン加工施設においては、指針一〇及び指針一一を満足するかぎり、臨界事故に対する考慮は要しない」としている。本件許可申請書も、「いかなる場合でも安全であるよう十分な設計と管理が行われるので臨界事故が起こることはない。」として、臨界事故を想定した災害評価を行っていない。
しかし、本件施設と同様に加工事業許可(変更)申請書では臨界事故は起こり得ないとされていたJCO東海事業所でも現実に臨界事故が発生した事実にかんがみると、同様の臨界事故は本件施設においても発生する危険があるから、本件施設においても当然に臨界事故を想定して事故評価をすべきである。したがって、これを行わなかった本件安全審査には看過し難い過誤、欠落があるというべきである。
3 本件安全審査の問題点
本件許可申請書と安全審査書では、臨界安全設計の確認過程で必要となる施設機器の正確な配置、形状、寸法、機器ごとのウラン使用量等の基礎的データーが全く示されておらず、その審査結果を科学的に検証することは不可能である。
結局のところ、本件許可申請書は結論を示したにすぎず、その前提となるべき想定条件の記載及びその根拠を欠いており、このような申請に基づいてされた本件許可処分もまた違法である。
4 水との接触による臨界事故の危険性
本件施設で取り扱っている中間製品容器には、ウラン量で三〇五〇キログラム、水が十分にある環境の場合の最小臨界量の八〇倍余りの量のウランが内蔵されている。この中間製品容器に六フッ化ウランが入ったままで水を注ぎ込むと大規模な臨界事故になる。そして、これと同時に大量のフッ化水素が発生してフィルタの機能を喪失させ、放射能が大量に漏洩して臨界を停止する作業が困難となる結果、臨界状態が長時間続くことにもなりかねない。
本件施設では、この中間製品容器を水で洗っているが、その際に中間製品容器に六フッ化ウランが入っていないことを確保する手段は、事前に重量を測定することだけである。
JCO東海事業所では、沈殿槽にウランを送るに当たり事前に重量を測定し規定量以上送らないことになっていたが、実際には規定量の七倍が投入されて臨界事故に至っており、本件施設でも、中間製品容器を水で洗う際に、六フッ化ウランが充填されていないことの確認を誤りあるいは怠り、ないしは意図的に確認手順を省いた結果、六フッ化ウランが充填されている中間製品容器に水が注ぎ込まれ、臨界事故が発生する危険があるというべきである。
また、本件許可申請書と安全審査書では、臨界安全設計の確認過程で必要となる施設機器の正確な配置、形状、寸法、機器ごとのウラン使用量、水の使用工程とその場所など等の基礎的データが全く示されておらず、また、中間製品容器を間接冷却するための低温水と容器との位置関係も明らかではないため、爆発事故や地震、航空機の墜落事故などによる施設の破壊時に、この水と濃縮ウランが接する可能性も否定できない。
5 容器破裂による臨界事故の危険性
均質槽あるいは製品シリンダ槽において中間製品容器ないし製品シリンダを加熱する際に、加熱温度が高くなり過ぎるか、過充填状態で加熱すると、六フッ化ウランの液化膨張により内圧が急上昇して中間製品容器ないし製品シリンダが液圧破壊する危険がある。一九八六年(昭和六一年)一月四日アメリカ合衆国オクラホマ州セコイヤ燃料会社ウラン転換工場における爆発事故はまさにそのような事故であった。
本件施設の設計との関係でいえば、これらの容器を加熱する際、圧力が異常上昇した場合に、加熱を停止するインターコックがあるが、圧力は容器自体ではなく容器に接続する配管部で測定している。したがって、これらの容器について、均質槽等に装着する際に配管への接続を忘れて加熱を行うと、加熱された六フッ化ウランの逃げ場がなく容器内の圧力は上昇するが、圧力計部分では圧力が全く上昇しないのでインターロックは働かず、加熱過剰により均質槽内で中間製品容器が破裂する危険がある。なお、均質槽については、インターロックではないものの温度により加熱用熱水コイルの熱水流量を調整する仕組みがあることがうかがわれるが、この温度測定器は多重化されておらず、温度測定器自体の故障等があれば加熱過剰を防止することはできない(例えば、動燃事業団でもアスファルト固化処理施設のエクストルーダーの温度測定器が故障したのを知りながら長年放置して運転し、火災爆発事故に至っている。)。
また、本件施設においては、製品シリンダ槽は本来最終工程の槽であり、そこから他の槽への六フッ化ウランの移送は予定されていないから、本来であればこの槽に加熱の機能は全く必要ないはずであるが、本件許可申請書においては、製品シリンダ槽の一つには加熱機能を持たせるとされており、製品シリンダに過充填をした場合には加熱して六フッ化ウランを気化させ移送することを予定しているといわざるを得ない。そうすると、製品シリンダ槽においても、製品シリンダと配管の接続を忘れたまま加熱が行われた場合、製品シリンダが破裂する危険がある。
そして、右のように中間製品容器や製品シリンダが破裂した場合、熱水コイルが破損する可能性は十分に考えられ、破損した部分から水が大量に噴出し、容器内の六フッ化ウランに水が接触して臨界事故になる危険がある。
6 臨界安全性評価の不合理性
本件安全審査においては、五パーセント濃縮ウランについては減速比(水素/ウラン二三五)が一〇以下では臨界に達しないという基準を用いて容器類(コールドトラップ、中間製品容器、製品シリンダ、減圧槽)の臨界安全性を判断している。そして、この手法を用いる場合の事故想定としては、いずれについてもウラン量が最小臨界量のときに湿った空気(摂氏四〇度、相対温度一〇〇パーセント)が流入して容器の空間を満たした場合を想定している。
容器類の臨界安全性評価に当たっては、湿った空気ではなく水の流入を想定すべきであるが、仮に空気の流入のみを考慮するとした場合でも、少なくともコールドトラップについては、この評価は不合理である。すなわち、コールドトラップが六フッ化ウラン捕集中に、コールドトラップにつながる配管が破断するなどして空気が流入した場合、流入した空気はそのままの状態でコールドトラップの空間を満たして大気圧に達したときに流入が止まるわけではない。コールドトラップは、ロータリーポンプで吸引を続けており、かつ零下数十度で冷却(冷凍)しているのであるから、空気中の水分だけが凍り付いてコールドトラップ内に残り、乾燥空気がロータリーポンプに吸引されて出ていき、流入口がふさがれない限り、極論すれば容器の容量いっぱいまで水が氷の状態で入り得るのである。
本件安全審査においては、「万一、水分を含んだ空気がコールドトラップに流入した場合でも、内部の圧力上昇を検出し、コールドトラップの出入口弁を閉止するので、さらに水分の流入が続くことはない。」とされているが、出入口弁の閉止は「自動的に」と記載されていない以上手動であるから、その閉止が遅れれば容器の容積を上回る大量の湿った空気が流入し得るのである。コールドトラップの内圧が大気圧に至るまで水分の流入が続いたとしてもという仮定が理論上の最大想定になるのは、空気が吸引も冷却(冷凍)もされていない場合の話であり、コールドトラップには全く当てはまらない。
したがって、本件安全審査のコールドトラップの臨界安全性に関する判断は、理論的にコールドトラップの臨界安全性を保証するものではなく、不合理である。
7 臨界管理方法の不合理性
本件施設においては、臨界管理の方法として通常最も信頼性が高いとされる形状寸法管理は、わずかにケミカルトラップとNaF処理槽に採用されているのみで、他の機器には全く採用されていない。本件施設の臨界管理は、そのほとんどを人為的な要素に左右される濃縮度管理と減速度管理に依存している。すなわち、本件施設においてケミカルトラップとNaF処理槽について採用された形状寸法管理も、取り扱う六フッ化ウランの濃縮度が五パーセントに制限されることを前提にしたものであり、濃縮度管理に依存しているのである。形状寸法管理が特定のウラン濃縮度を前提とするのは他の施設では当然ともいえるが、それはウラン濃縮工場以外の施設では取り扱うウランの濃縮度が変化することはないからである。
しかし、本件施設のようなウラン濃縮工場は、その工程内でウランの濃縮度自体を変化させるのであるから、濃縮度管理の制限値である五パーセントそのものを他の臨界管理の前提とすることには疑問がある。濃縮度管理が破られたときに備えて濃縮度管理の制限値を超えたところを前提とする形状寸法管理が採用されるべきである。
そして、実際、本件施設においては、濃縮度管理の信頼性はかなり低いといわざるを得ない。まず、濃縮度の測定は、一日一回質量分析装置で行っているにすぎないのであるから、濃縮度はリアルタイムでは把握されていない。そして、濃縮度管理の最後の頼りの過濃縮防止インターロックがハードワイヤーにつながれておらず、伝送ラインがダウンすると機能喪失する設計となっている。
また、本件施設においては、濃縮ウランを充填した容器(中間製品容器、製品シリンダ)を誤って発生槽に装着した場合には、当然に濃縮度は五パーセントを超えるが、過濃縮防止インターロックは濃縮度そのものでかかるのではない(原料供給流量と廃品圧力の関数)ので、このような場合、インターロックによっては過濃縮を防止できない。
このように、本件施設の濃縮度管理の信頼性がかなり低いこと、またその信頼性が安全審査で保証されていないことが明らかになっているのであるから、濃縮度管理以外の臨界管理は、濃縮度が五パーセントを超えた場合でも対応できるような対策でなければならない。にもかかわらず、そのような臨界管理対策がなされていない。
8 火災時の消火方法を制限しないことの不合理性
本件安全審査において、六フッ化ウランを取り扱う容器・機器の火災の際に水をかけて消火するか否かについて全く検討されていない。六フッ化ウランを充填した容器に水を注入すれば臨界事故に至る危険があることは明らかである。
したがって、火災時の臨界安全性の基本方針、最低限でも六フッ化ウランを取り扱う容器・機器に火災の際に水をかけずに消火する方策を安全審査において確認すべきであることは明白であり、これすら行わなかった本件安全審査には看過し難い過誤、欠落があることは明らかである。
9 臨界事故時の事故拡大防止対策が全く採られていないことの不合理性
JCOの施設においては、加工事業(変更)許可申請書上、「いかなる場合でも安全であるよう十分な設計がなされているので臨界事故は起こり得ない。」と明記されていたが、現実に臨界事故が発生した。そして、JCOの施設においては、取り扱うウランが臨界に至ったときに未臨界状態にするための装置(中性子吸収材の注入等)はもちろん、臨界に至ったことを検知する装置も警報もなかった。
本件安全審査においても、JCOの施設と同様、「いかなる場合でも安全であるよう十分な設計と管理が行われるので臨界事故が起こることはない。」として、臨界事故を全く想定せず事故評価しない申請を承認、許可している。そして、JCOの施設と同様に、臨界に至った場合に未臨界状態にするための装置はもちろん、臨界に至ったことを検知する装置も警報も全く設けられていない。しかし、本件施設においても、臨界事故の危険があり、また、全く同様の申請がなされていたJCOの施設で現実に臨界事故が発生した事実にかんがみれば、本件施設においても当然に臨界事故を想定し、臨界に至ったときに事故の拡大を防止するための対策を採るべきである。にもかかわらず、これを行わなかった本件安全審査には、看過し難い過誤、欠落があるというべきである。
(被告の反論)
1 加工施設指針の問題点について
原告らの主張に係る「単一の故障」が何を意味するかは必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、加工施設指針一〇は、通常想定される事象に対してはもちろんのこと、通常は起こるとは考えられない事象が発生したとしても、それのみでは臨界に達しないように安全を見込んで核的制限値を維持・管理すべき旨を定めたものであり、これによって臨界安全は確保されるとし、核的制限値の維持・管理に当たり、起こるとは考えられない独立した二つ以上の異常が同時に起こることまでをも考慮する必要はないとしたものである。
2 臨界事故を想定した災害評価の欠如について
そもそも、加工施設指針の適用対象であるウラン加工施設が濃縮度五パーセント以下のウランを転換、加工する施設であり、その潜在的危険性の程度が小さいことにかんがみれば、加工施設指針一〇及び一一を満足する限り、当該ウラン加工施設においては、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界に達することはなく、ウラン加工施設における臨界に関する安全設計の目的を達するので、これに重ねて臨界事故の発生を想定する必要はないことになる。このように、加工施設指針一二の内容は、合理的な根拠を有する。
3 本件安全審査の問題点について
原告らの主張に係る機器の配置、形状、寸法、機器ごとのウラン使用量等は、設備・機器の詳細設計に係るものであり、これらの条件を用いて実際に臨界が防止される設計になっているかどうかは、規制法一六条の二の設計及び工事の方法の認可の際に審査されるべき事項であって、本件安全審査における審査対象事項にはならない。
4 水との接触による臨界事故の危険性について
原告らは、中間製品容器の水洗いによる臨界事故の発生を主張するが、中間製品容器等の水洗いは、当該中間製品容器等の具体的な運用上の管理に当たるものであり、保安規定の認可の際に審査されるもので、後続の規制に属するものである。したがって、当該水洗いに関する事項は、本件安全審査の対象外であって、本件訴訟の審理の対象とならない。そもそも、洗缶架台に載せられる容器は六フッ化ウランが充填されていない容器であって、このようなウランの存在を前提としない容器は臨界防止対策の考慮を要しないものである。ちなみに、中間製品容器等の水洗いにおける臨界管理については、科学技術庁が平成一一年一〇月七日に行った緊急総点検においても、許認可上の違反がないこと、基本的な安全性の確保がされていることを確認している。
次に、原告らは、爆発事故や地震、航空機の墜落事故などによる施設の破壊時に、水と濃縮ウランが接する可能性が否定できないと主張する。しかし、そもそも、本件施設において、爆発事故や地震による六フッ化ウランの漏洩は考えられず、航空機事故発生の可能性も極めて低いことは、いずれも本件安全審査において確認されている。
また、本件許可申請においては、本件施設の各設備・機器の臨界安全の確認計算を行う際に、設備・機器外の雰囲気が最適減速状態(核分裂によって生じた中性子の速度が核分裂の連鎖反応が最も起こりやすい速度に減速されている状態)となるものとして安全側に条件を設定して計算されているところ、本件安全審査においては、右計算が妥当なものであり、これによれば、臨界安全が確保されるとの結論を得たのである。したがって、仮に何らかの理由により水の配管に破断が生じて、水が各設備・機器に接触し、当該設備・機器外において、右の最適減速状態に至るようなことがあったとしても、臨界に達することはないことは本件安全審査において確認されている。
更に、本件施設においては、六フッ化ウランを取り扱う設備・機器は漏洩のない構造とされている上、これらの設備・機器のうち、温水による直接加熱又は低温水による直接冷却がされる原料シリンダと廃品シリンダでは、六フッ化ウランは〇・九五パーセント以下の濃縮度で取り扱われるため、仮に水と接触するようなことがあっても臨界には至らないし、その他の設備・機器では、冷却に水を使用する場合はいずれも間接冷却(低温水により冷却された空気で冷却すること)の方法が採用されており、設備・機器内の六フッ化ウランが水と接触することはない。したがって、万一、六フッ化ウランが漏洩する事態を想定した場合でも、臨界に達することはない。
5 容器破裂による臨界事故の危険性について
原告らは、配管を接続せずに容器を加熱する一方、温度測定器が故障して加熱過剰が生じると、これにより容器が破裂し、その破裂により熱水コイルが破損し、その破損部から水が大量に噴出するなどして、均質槽、製品シリンダ槽での容器破壊による臨界事故が発生する可能性があると主張する。
しかしながら、原告らの主張は、その前提とする事柄が発生する点について、何らの根拠も示しておらず、仮定に仮定を重ねた上での議論であって、主張自体失当である。
6 臨界安全性評価の不合理性について
原告らは、本件許可申請書には、「コールドトラップの出入口弁を閉止する」と記載されているだけで、弁の閉止が「自動的に」行われるとは記載されていないのであるから、これは手動を意味すると理解されるので、弁の閉止遅れの可能性があるところ、コールドトラップ捕集中に配管が破断する等の事象により空気が流入し続けると、コールドトラップ内に水が氷の状態で入り得ることになるから、コールドトラップについての臨界安全性評価は不合理であると主張する。
しかし、本件許可申請書の「内部の圧力上昇を検出し、コールドトラップの出入口弁を閉止する」との記載部分は、圧力上昇の検出から弁の閉止に至るすべての過程が人の操作の関与を予定しておらず、自動であることを意味している。したがって、原告らの右主張は、この点の誤解に基づく立論であって、失当である。
7 臨界管理方法の不合理性について
本件安全審査では、本件施設の濃縮工程における濃縮度は、カスケード設備へ供給する原料六フッ化ウランの流量及びカスケードの圧力によって定まることから、その流量及び圧力を監視することによって濃縮度を管理するとともに、これらに対しインターロックを設けて、濃縮度が制限値を超えないようにすることとしている。このように、濃縮度は、その数値を質量分析装置により測定しなくても、流量及び圧力を監視することにより、常時把握し、管理することができるものである。したがって、濃縮度の数値そのものをリアルタイムで知る必要があるかのようにいう原告らの主張は、前提において当を得ない。なお、質量分析装置による濃縮度の測定は、右の流量及び圧力の監視による濃縮度の管理が適切に行われていることの確認のために行っているものであるから、一日一回右測定を行うことは、適宜かつ合理的である。
また、原告らのいう伝送ラインがダウンした場合でも、本件施設においては、伝送ラインとは独立な専用の配線を介して、中央制御室において流量及び圧力を監視し、操作することが可能であるから、濃縮度を常に把握し、管理することができる。加えて、この場合にも、コントローラーは制御を継続するので、カスケードの流量及び圧力は正常に制御され、これにより濃縮度も正常な値を維持することになる。したがって、右の場合を想定して濃縮度管理の信頼度が低いとする原告らの主張は理由がない。
8 火災時の消火方法を制限しないことの不合理性について
本件安全審査では、万が一の火災・爆発を考慮して適切に消火設備等を設けることとしていることを確認している。これに対し、その具体的な設備や消火の具体的方法については、設計及び工事の方法の認可の際に審査される事項であって、本件安全審査の対象ではない。したがって、原告らの主張は失当である。
なお、本件安全審査では、申請者が、本件施設の各設備・機器の臨界安全につき、設備・機器外の雰囲気が最適減速状態となるものとして安全側に条件を設定して行った確認計算の結果、臨界安全が確保されると判断したことが妥当であることを確認している。このように、本件安全審査では、何らかの理由により水が各設備・機器に接触するような場合を想定しても、臨界に達することがないことを確認しているのであり、臨界安全性についての審査も十分に行われたものである。したがって、原告らの主張は、この点からも失当である。
四 六フッ化ウランの閉込めに係る安全設計
(被告の主張)
1 加工事業規則及び加工施設指針の規定
加工事業規則は、外部放射線の放射線量、空気中もしくは水中の放射性物質の濃度が法令に定める基準を超えるか又は放射性物質によって汚染された物の表面の放射性物質の密度が法令に定める基準を超えるおそれがある場合には管理区域を設定し、壁、さく等によって区画するほか、標識で明示する等の措置を講ずることとしている(加工事業規則一条三号、七条の二第一号、許容被曝線量等を定める件一条の二)。また、加工施設指針四は、ウラン加工施設の管理区域のうち、ウランを密封して取り扱い又は貯蔵し、汚染の発生するおそれのない区域を第二種管理区域、そうでない区域を第一種管理区域として、区分して管理するものとしている。
2 本件安全審査の内容
本件安全審査においては、右の点に関し、次のとおり本件施設がウランを限定した区域に閉じ込める十分な機能を有することを確認した。
(一) 本件施設においては、加工事業規則等に従って、施設内に適切に管理区域が設けられ、第一種管理区域の気圧は、第二種管理区域、非管理区域及び大気圧より負圧に維持することとし、この区域の排気の処理は高性能エアフィルタを通して行うこととなっている。
(二) 六フッ化ウランを取り扱う設備・機器は漏洩し難い構造とし、万一漏洩した場合でも、漏洩を最小限にとどめ、施設外への拡大を防止できる設計となっている。
(三) 六フッ化ウランを大気圧以上で取り扱う場合、中間製品容器は閉じ込めの機能を有する均質槽に収納することとなっている。また、六フッ化ウランを大気圧以上で取り扱う均質槽の配管等には、配管カバー等を設けることとなっている。これらの排気系統には、工程用モニタ及び局所排気設備を設け、万一配管等から六フッ化ウランの漏洩が発生した場合には、工程用モニタにより早期に検知し、警報を発するとともに、自動的に緊急遮断弁(均質槽元弁)を閉じ、局所排気設備を経由して排気する系統に自動的に切り替える設計となっている。
(四) カスケード設備、六フッ化ウラン処理設備等からの排気に含まれる六フッ化ウランは、コールドトラップ又はケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及び高性能エアフィルタにより捕集することにより、施設外へのウランの放出を少なくする設計となっている。
(原告らの主張)
1 加工施設指針の問題点
加工施設指針四は、放射線管理について、「放射性物質を限定区域に閉じ込める十分な機能」とするのみで、内容が抽象的で指針としての実効性に欠けており、放射線の管理のために、何を、どのようにして、どの程度に管理すべきか、という点を何ら明らかにしていない。
これに対し被告は、「加工施設指針は、ウラン加工施設に関する技術的事項の細部にわたってまで、逐一具体的な指示を与えるものである必要はなく、(中略)当該施設の基本設計ないし基本的設計方針において災害防止上支障がないものとして設置されるものであるかどうかを判断するための基本的枠組みを提供するものであれば足りる」とするが、放射線管理の「基本的枠組み」を審査するだけでは、到底安全審査たり得ないことは明らかである。すなわち、放射線の安全管理を意味のあるものにするためには、安全確保上必要とされる項目を定めるのみではなく、最低限それをどのような施設と技術で、どの程度に行うべきかが明記されなければ、申請に係る施設が安全であるかどうかの判断はできない。そして、本件許可申請以外には、原燃産業が放射線管理のために採っている施策や内容を公に把握する術はないのであるから、その安全性のチェックはほとんど不可能である。
2 本件安全審査の問題点
被告が「具体的な設備の設置及び管理方法が明記されている」と強弁する本件許可申請書の「放射線管理の諸対策」とは、結局のところ管理方法の種別を挙げて、「区分する」「明示する」などと結論だけを述べるものにすぎず、そこには具体的にどのような機種と技術により管理を行い、どのような目標値が設定され、その安全管理が現実に適切になされ得るかといった具体的な安全審査の資料は何一つ明示されていない。それにもかかわらず内閣総理大臣が漫然「基準に適合する」との判断を行って、本件許可処分をしている。
しかし、これでは、指針に記載された諸対策について、申請書で「対策を講じる」と記載すれば、どのような申請も認められてしまうことになり、その対策が十分なものか、その対策を行う能力があるのか、といった安全審査の基本的事項は、何ら審査されないままとなってしまう。
3 事故拡大防止対策の不備
原子力施設においては、施設の建屋・機器からの排気を排風機で引き、高性能エアフィルタを通して放射性物質の粒子を除去して外部に放出しており、本件施設も同様である。高性能エアフィルタの健全性が保たれる限りは、このやり方により放射性物質の外部への放出を抑制することができる。
しかし、本件施設のように、六フッ化ウランを扱う施設の場合、六フッ化ウランの漏洩に必然的に伴うフッ化水素の発生が困難を生じさせる。すなわち、フッ化水素が高性能エアフィルタのガラスウールを溶かしてしまうので、放射性物質の大量漏洩を避けるためには、フッ化水素を高性能エアフィルタに到達する前に除去する必要性がある。この点について、本件施設においては、捕集排気系、カスケード排気系、一般パージ系、均質パージ系の四つの排気系に、ロータリーポンプに至る前にNaFトラップを置き、事故時に備えて均質槽配管カバー、均質槽、サンプル小分け装置フードからの排気については事故時に工程用モニタでフッ化水素を検出した時点で切り替える局所排気装置を設けている。しかし、この設計は、次のとおり、容器・シリンダの破裂事故の際に、フッ化水素を除去して高性能エアフィルタの健全性を確保するのに十分とは到底いえない。
第一に、事故時の排気をフッ化水素吸着器のある局所排気装置へ送るのが、事故になってからの切替えという点は驚くべき手抜きである。JCOの転換試験棟ですら塔槽類からの排気は平常時からフッ化水素除去機能のある湿式スクラバを経由していたが、本件施設の設計は、排気系の安全性においてJCOの転換試験棟以下である。
第二に、その切替弁は「ダンパ」とされており、ダンパとは「漏洩許容型バタフライ弁」のことであるから、均質槽・均質槽配管カバーでの事故の際にも事故発生後も局所排気装置を経由しないで高性能エアフィルタに到達する排気(フッ化水素)が相当程度あると考えざるを得ない。このダンパの漏洩率は定かでないが、事故発生後も排風機で引き続けるのであるから、吸引しない場合の漏洩率が低くても、本件施設のように排風機で吸引している場合には、相当な漏洩率となると考えられる。この漏洩について、本件安全審査では全く検討していないのであるから、本件安全審査に看過し難い過誤、欠落があることは明らかというべきである。
第三に、局所排気装置につながれているのは均質槽等のみであり、製品シリンダ槽等は局所排気装置には全くつながれていないし、中間製品容器置場ももちろん同様である。
第四に、均質槽内の配管破断や中間製品容器の破裂の際に、局所排気装置に意味があるのは、均質槽そのものが健全な場合だけである。容器の破裂時の衝撃圧力や臨界事故に伴う爆発で均質槽自体が破裂してしまった場合は、発生したフッ化水素と六フッ化ウラン・放射性物質は、フッ化水素除去装置を経ることなく、建屋の排気系を通じて高性能エアフィルタを直撃する。そして、セコイヤ工場で発生した事故では、シリンダの破裂により均質槽に該当するスティームチェスト自体が破裂している。
4 コールドトラップ機能喪失事故
ウラン捕集中のコールドトラップがその冷却機能を喪失した場合、六フッ化ウランガスを吸引しているロータリーポンプが停止しなければ、大量の六フッ化ウランガスがコールドトラップを素通りしてロータリーポンプを経由して排気系統へと流出する。その流出量がケミカルトラップの容量を超え、発生したフッ化水素の量が高性能エアフィルタのガラスウールを溶かして機能喪失させる量に達すれば、大量の六フッ化ウランが漏洩するに至る。
本件施設においては、電源喪失の場合にロータリーポンプが停止するようにインターロックが設けられているが、電源喪失によらずに、例えばコールドトラップに至る電源ケーブルの断線等によりコールドトラップのみ機能喪失した場合には、ロータリーポンプは停止しないのである。
5 遠心分離機破損事故
本件安全審査においては、遠心分離機は、その構造について断面図さえみることなく、本件施設で実際に使用される遠心分離機の破壊実験もなく、ただ動燃の人形峠の施設で用いられた遠心分離機の仕様での模擬実験のデータが提出され、これと同様の方法でこれから試験をして設計するというだけで真空気密性能が維持されると判断された。
そして、安全審査の際に審査担当者に配布された模擬実験の資料は、わずか一〇のデータしかなく、しかも、この実験は動燃が行ったものであり、データの分布から考えて動燃技報八〇号掲載の実験と同じものであるところ、安全審査担当者に配布された資料では、この動燃の実験結果のうち外筒肉厚の八割程度まで食い込んだ部分(最も食い込んだ部分)のデータははずされていた。
このように、本件安全審査の判断は、本件施設で使用される遠心分離機についてのデータも知らされず、動燃の施設の遠心分離機の仕様を前提にした模擬実験についてさえデータの一部、それも重要な一部を隠された状態でなされたものであって、明らかに不十分なものであり、また、調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるというべきである。
(被告の反論)
1 加工施設指針の問題点について
加工施設指針は、ウラン加工施設に関する技術的事項の細部にわたってまで、逐一具体的な指示を与えるものである必要はなく、むしろ核燃料安全専門審査会の審査委員等の専門技術的知見を有する者が、審査において、申請に係るウラン加工施設の位置、構造及び設備が当該施設の基本設計ないし基本的設計方針において災害防止上支障がないものとして設置されるものであるかどうかを判断するための基本的枠組みを提供するものであれば足りる。
そして、加工施設指針四は、放射性物質の閉込めの機能に関し、作業環境の汚染防止に対する考慮として、管理区域の区分管理、ウランの飛散・漏洩防止構造の採用、ウラン除去機能を持つ排気系統の設置などを、周辺環境の汚染防止に対する考慮として、高性能エアフィルタ等の適切なウラン除去設備の設置などを、それぞれ安全確保上必要とされる事項として定めており、放射性物質の閉込めの機能につき、右の要請を満たす内容を備えている。
2 本件安全審査の問題点について
本件許可申請書添付書類六には、本件施設における放射線管理に係る基本設計ないし基本的設計方針を審査する上で十分な内容が記載されている。原告らの主張する測定・管理の方法等は、規制法一六条の二の設計及び工事の方法の認可並びに同法二二条の保安規定の認可の際に審査されるべき事項である。
3 遠心分離機破損事故について
本件安全審査では、六フッ化ウランを取り扱う設備・機器は、漏洩し難い構造とし、万一漏洩した場合でも、漏洩を最小限にとどめ、施設外への拡大を防止できる設計としていることを確認しており、具体的に、本件施設の遠心分離機については、回転体が破損しても外筒(ケーシング)の真空気密性能が十分保たれるように、破損試験により裏付けられた強度設計を行い、かつ、破損試験により安全が確認された回転数以下となるように高周波電源設備の周波数を制限することを確認している。したがって、原告らの主張は失当である。
しかも、原告らの指摘する実験データは、定格周速に対し一・二倍以上の周速でのデータであり、仮にこの実験データを本件安全審査の際に採用していたとしても、これを考慮する必要がないものであって、原告らの主張は、この点からも失当である。
五 外部電源喪失に対する考慮
(被告の主張)
本件施設においては、外部電源系(一般の送電線から送られる電気)の機能喪失対策として、ディーゼル発電機、直流電源設備及び無停電電源装置を設置し、第一種管理区域の排気設備、放射線監視設備、自動火災報知設備、非常用通報設備、安全上必要な計測制御設備等に電力を供給することとされている。また、外部電源が喪失した場合は、工程中に六フッ化ウランを閉じ込めるための弁が自動的に閉じる設計とされている上、外部電源の喪失によりコールドトラップ、製品回収槽、廃品回収槽等の冷却能力が喪失することとなるが、たとえ室温が摂氏四〇度としても、六フッ化ウランの飽和蒸気圧(ある物質の気相と液相又は固相とが一定の温度において平衡に共存するときの当該物質の蒸気の圧力)は大気圧未満(約〇・四気圧)であり、工程内の圧力が大気圧を超えることはなく、六フッ化ウランが漏洩することはない。
本件安全審査では、右のことを確認している。
(原告らの主張)
本件安全審査においては、災害評価において「本施設においては、…外部電源喪失に対する対策を行うので、災害が起こることはない」とする本件許可申請書及び添付書類を追認しているのみで、以下のように、本件許可申請書の記載の不備を看過している上、様々な事故の可能性について検討した形跡もなく、外部電源喪失に係る事故防止対策についての安全審査は全く不十分である。したがって、本件許可処分は違法である。
1 本件許可申請書の内容
安全審査書は、「外部電源系の機能喪失対策としてのディーゼル発電機、直流電源設備及び無停電電源装置の設置」を確認したとするが、本件許可申請書及び添付書類中には、ディーゼル発電機、直流電源設備の容量すら記載されておらず、直流電源設備及び無停電電源装置がどれくらいの時間の電源喪失に対応し得るのか(ディーゼル発電機による給電可能時までの約二〇秒間のみか、それ以上か)も明らかでない。したがって、ディーゼル発電機から母線に至る回路が、コイルの焼損、ネジのゆるみその他の原因により切断された場合に、全く給電されなくなるのか、直流電源設備のみで一定時間給電できるのかも不明である。しかも、直流電源設備及び無停電電源装置に直接つながれている「安全上必要な計測制御設備等」に何が含まれるかも全く不明である。これでは外部電源喪失時に、機器・設備の安全性が保たれるか判断のしようがない。
2 圧力上昇の危険
本件施設では、外部電源喪失時に、次のように工程内部の圧力が上昇する危険があるが、この場合に、コールドトラップないしそれに接続された配管や弁が健全性を維持できるかについては何ら検討されていない。
(一) コールドトラップ等
本件施設においては、六フッ化ウラン(原料シリンダ)を温水加熱して気化させ、カスケード部(常温、大気圧以下)で濃縮し、コールドトラップで急冷して固化捕集する。コールドトラップで固化捕集されなかった六フッ化ウラン(〇・一パーセント以下とされる)は、捕集排気系に送られ、ケミカルトラップ、高性能エアフィルターで更に捕集され、残りは外界に放出される。外部電源喪失の場合、捕集排気系のロータリーポンプ入口弁が自動閉となり、他方コールドトラップは冷却能力を喪失する。このときコールドトラップでは、気体状の六フッ化ウランが電源喪失前の吸引の慣性で流入し続け、他方冷却能力を喪失し、六フッ化ウランの固化が止まり、気体状のままとなるので圧力が上昇する。
(二) ケミカルトラップ
平成四年一月ないし二月の本件施設における事故のように遠心分離機の電源のみが失われた場合、工程の温度はヒーターの故障がなければ維持されるとされているが、異常発生により製品回収槽に至る弁が閉鎖される結果、カスケード部の六フッ化ウランガスはカスケード排気系へと押しやられることになり、カスケード排気系のケミカルトラップに吸着されることになる。
しかし、原料シリンダの容量(ウラン量で八・五トン)に対してカスケード排気系の二基のケミカルトラップの容量(それぞれ同じく七〇キログラム)は極めて小さいから、カスケード排気系から外に至る弁が閉鎖されていれば六フッ化ウランガスの排出先がなくなり圧力が上昇することになる。
3 六フッ化ウラン固化の危険
本件施設では、次のとおり外部電源喪失により工程内部で六フッ化ウランが固化して配管等の閉塞を発生させる可能性がある。この場合、流入する六フッ化ウラン(一部起動している場合や電源回復による再起動時)により局部的に圧力が上昇し、配管等が破損する危険がある。
(一) 加熱機能の喪失
六フッ化ウランは、大気圧下では摂氏五六・五度以下では固化凝固するので、気体状に保つためには加熱する必要があるが、外部電源喪失によりこの加熱機能が失われ、六フッ化ウランがいたるところで固化し、小口径の配管、弁では固化した六フッ化ウランによる流路閉塞も発生しかねない。そのような場合、流入する六フッ化ウラン(一部起動している場合や電源回復による再起動時)により局部的に圧力が上昇し、更に六フッ化ウランが固化することを繰り返す危険がある。
(二) 減圧機能の喪失
カスケード設備は通常大気圧以下に減圧され、常温でも六フッ化ウランが気体状であるとされるが、外部電源喪失時にはこの減圧を維持できず、その結果、カスケード部の遠心分離機及び配管内で六フッ化ウランが固化する可能性がある。
その場合、電源回復後においても、六フッ化ウランの固化を検知することも、固化した部分を直接加熱することも不可能で、六フッ化ウラン固化による流路閉塞に気付かずに再起動し、局所的な圧力上昇を招く危険がある。
(三) 温度低下
本件許可申請書添付書類には一定の配管にヒーターを巻いて加熱を維持する旨の記載があるが、公開された写真をみる限り、目詰まりの危険の大きいカスケード部の細い配管にはヒーターが巻かれておらず、固化を防止し難い上、一旦固化凝固した場合その復旧(気化)が極めて困難である。
特に、平成四年の事故時に明らかになったように六フッ化ウランガスの回収に五時間もの時間を要するというのであるからその間の温度低下は大きいことを考慮しなければならない。
4 遠心分離機の共振による破損の危険
遠心分離機の設計に当たっては、その材質、寸法(特に回転胴の半径、長さ)により共鳴振動を起こす回転速度が規定されるが、このことは最も初歩的な考慮事項であるのに本件許可申請書には全く記載がなく、本件安全審査でも検討されていない。
しかるに、平成四年の事故の際の原燃産業の発表によれば、本件施設では、遠心分離機への給電が五分以上ストップすると回転速度の減少により共振が発生するとされている上、遠心分離機については、経済的理由から、外部電源喪失時のバックアップは一切ないとされている。さらに、遠心分離機には制動装置はなく、電源停止時には回転が停止するまで約一二時間を要する。したがって、遠心分離機への給電のストップが五分以上継続すれば、遠心分離機の共振は防止し得ず、共振により遠心分離機には強度の繰り返し応力が働き、激しい金属疲労が蓄積する。
そして、このような共振動の影響は、回転胴が固定されたモーターの軸受けを介して、モーターが固定された外筒や配管にも及ぶこととなる。このように、通常運転時の速度以下に共振点があるという設計上の欠陥と、度々遠心分離機への給電をストップさせる電源系統の欠陥のある本件施設では、運転を継続すれば、早晩共振により遠心分離機ないし配管が破損して六フッ化ウランが大量に漏洩する事故に至ることは避けられない。
右のような点を一切審査することなくなされた本件許可処分は明らかに違法である。
(被告の反論)
1 本件許可申請書の内容について
ウラン加工施設における電源喪失に対する考慮に係る安全審査においては、加工施設指針一六に従い、停電等の外部電源系の機能喪失時に、第一種管理区域の排気設備、放射線監視設備、火災等の警報設備等の安全上必要な設備・機器を作動し得るのに十分な容量及び信頼性のある非常用電源系を有するものであるかどうかを審査するものであるところ、本件許可申請書の記載内容は、十分な容量のディーゼル発電機(二台)、直流電源設備及び無停電電源装置を設置し、第一種管理区域の排気設備、放射線監視設備、自動火災報知設備、非常用通報設備、安全上必要な計測制御設備等に電力を供給することとされている。そして、右記載内容は、本件施設における電源喪失に対する考慮に係る安全性を審査する上で十分な内容のものであるところ、本件安全審査においては、右記載内容により、電源喪失時の安全性が確保できることを確認している。
なお、原告らの主張に係るディーゼル発電機、直流電源設備の容量及び直流電源設備、無停電電源装置に接続される計測制御設備等については、規制法一六条の二の設計及び工事の方法の許可の際に審査されることとされている。
2 圧力上昇の危険について
本件施設においては、六フッ化ウランの処理工程(発生、供給、濃縮、捕集及び回収の各工程)内の六フッ化ウランガスは大気圧未満で取り扱われ、また、六フッ化ウランの飽和蒸気圧は、摂氏四〇度でも約〇・四気圧程度である。そして、外部電源喪失時には、各排気系のロータリーポンプの入口弁がインターロックにより自動的に閉じるので、六フッ化ウランは工程中に閉じ込められる。
したがって、たとえ室温が摂氏四〇度であっても、本件施設の六フッ化ウラン処理工程において、運転時ないし外部電源喪失時に、工程内の六フッ化ウランガスの圧力が大気圧を超えることは物理的にあり得ず、かかる低圧の六フッ化ウランガスが配管・弁の健全性を損なうことはあり得ない。
3 六フッ化ウラン固化の危険について
原告らは、外部電源喪失の場合には、配管内で六フッ化ウランが固化し、それに伴う圧力の上昇、右圧力上昇に起因する配管の破断、ひいては六フッ化ウランの漏洩が生ずる旨主張するが、既に述べたとおり、運転時ないし外部電源喪失時に、六フッ化ウランの固化によって工程内の六フッ化ウランガスの圧力が大気圧を超えることはそもそもあり得ないし、カスケード設備では、もともと常温で運転されるので温度低下により六フッ化ウランが固化することもない。
4 遠心分離機の共振による破損の危険について
本件安全審査においては、本件施設で万一遠心分離機の回転体が破損しても外筒(ケーシング)の真空気密性能が十分に保たれるように、破損試験により裏付けられた強度設計が行われることを確認している。したがって、仮に原告らの主張するように共振により遠心分離機に破損が生じたとしても、外筒の気密性能は維持され、六フッ化ウランは漏洩しない。
六 従事者の放射線被曝低減に係る安全性確保対策
(被告の主張)
本件施設においては、電離放射線障害防止規則、加工事業規則等に従って、放射線業務従事者に対する万全の放射線管理が実施されることとされ、具体的には、管理区域に立ち入る者については、フィルムバッジ等の個人被曝線量測定器等により各人別に被曝線量を測定評価し通知することとするほか、管理区域内で作業を行う場合には、作業による被曝線量及び作業場の放射線環境に応じた作業方法を必要に応じ立案し、作業者の受ける被曝線量を低くするよう努めるなど、十分な被曝管理対策が採られることになっている。本件安全審査においては、これらの事項を確認した。
(原告らの主張)
1 加工施設指針の問題点
加工施設指針は、ウラン加工施設について、放射線管理のために、従事者等の作業条件を考慮した十分な放射線遮蔽(加工施設指針五)及び従事者等の放射線被曝の十分な監視及び管理対策(加工施設指針六)を要求しているが、これらの指針は具体性に欠け、放射線の管理のために、何を、どのようにして、どの程度に管理すべきか、という点は何ら明らかにされていない。
しかし、放射線の安全管理を意味のあるものにするためには、安全確保上必要とされる項目を定めるのみではなく、最低限それをどのような施設と技術で、どの程度に行うべきかが明記されなければ、申請に係る施設が安全であるかどうかの判断はできない。そして、本件許可申請書以外には、原燃産業が放射線管理のために採っている施策や内容を公に把握する術はないのであるから、その安全性のチェックはほとんど不可能となるのである。
2 本件安全審査の問題点
(一) 放射線管理の諸対策
本件許可申請書は、個人被曝管理、施設放射線管理のいずれにおいても、管理目標、保安教育・健康診断・測定・記録等の実施を述べるだけで、その実施のための施設機能及び放射線遮断対策について、具体的にどのような機種と技術により管理を行い、どのような目標値が設定され、その安全管理が現実に適切になされ得るかといった具体的な安全審査の資料を何一つ明示していない。それ故、申請書がいくら諸管理の実施を述べていても、それは内容のない空疎なものでしかない。
これに対し、安全審査書は、単に申請書が述べる管理対策を列挙し、それに対する十分な検討を加えることもなく、漫然と指針に適合するとの結論を下している。しかし、これでは、指針に記載された諸対策について、申請書で「対策を講じる」と記載すれば、どのような申請も認められてしまうことになり、その対策が十分なものか、どの対策を行う能力があるのか、といった安全審査の基本的事項は、何ら審査されない結果となる。このような本件安全審査には、重大な違法性が存するというべきである。
(二) 放射線遮へい対策
本件許可申請書は、放射線遮へい対策について、単に「濃縮ウラン、天然ウラン及び劣化ウランからの放射線量率は低く、放射線遮へいは特に必要としない。」と述べているのみである。
しかし、加工施設指針五は遮へい対策を義務づけているのであるから、最低限、放射線量率がどの程度のものであり、放射線遮へいをしないという判断が適正なものかどうかという資料が明らかにされる必要がある。これがないままに漫然と申請書の結論のみの記載を信用して、加工施設指針に記載された対策を不要とする内閣総理大臣の態度は、およそ安全審査を放棄するものといわざるを得ない。
被告は、「本件施設においては、ウランを収納する設備・機器からの放射線の線量率は、設備・機器による遮へい効果等によって低下し、右放射線による影響が、放射線業務従事者の放射線被曝を管理する上で問題となるものではない。」と判断したと述べるが、そのような事情は何ら本件許可申請書に記載されておらず、加えて線量率がどの程度に低下するのかが不明なもとでは、到底適切な安全審査がなされたとはいえない。
(被告の反論)
1 加工施設指針の問題点について
加工施設指針は、核燃料安全専門審査会の審査委員等の専門技術的知見を有する者に対し、申請に係るウラン加工施設の位置、構造及び設備が当該施設の基本設計ないし基本的設計方針において災害防止上支障がないものとして設置されるものであるかどうかを審査において判断するための基本的枠組みを提供するものであれば足り、ウラン加工施設に関する技術的事項の細部にわたってまで、逐一具体的な指示を与えるものである必要はない。
この点、加工施設指針五では、放射線遮へいに関し、必要な箇所に放射線遮へいを施すことが定められている。さらに、加工施設指針六では、放射線被曝管理に関し、作業環境における放射線被曝管理としてはサーベイメータ、ダストモニタ等の監視設備・機器の備付け、防塵マスク等適切な呼吸保護具の備付けなどを、放射線業務従事者等の個人被曝管理としては必要な線量計の機器の備付けを、それぞれ行うことが定められている。このように、加工施設指針は、放射線遮へい及び放射線被曝管理につき、右の要請を満たす内容を備えている。
2 本件安全審査の問題点について
(一) 放射線管理の諸対策
本件許可申請書の添付書類六においては、例えば、施設放射線管理については、管理区域の放射線管理として、管理区域を設定・区分し、外部放射線量をサーベイメータ等によって定期的に測定すること、表面汚染密度をスミヤ法等により定期的に測定すること、ダストサンプラで試料を採取し空気中の放射性物質濃度を放射能測定装置で定期的に測定すること、退出モニタ等により第一種管理区域退出時の表面汚染を測定すること、排気中の放射性物質濃度を排気用モニタにより連続的に監視すること、及び放射能測定装置により排水中の放射性物質濃度を測定すること、並びに周辺監視区域の管理として、周辺監視区域を設定し、外部放射線量をモニタリングポイントで定期的に測定すること等、具体的な設備の設置及び管理方法が記載されており、また、個人被曝管理についても、具体的な設備の設置及び管理方法が明記されている。
本件安全審査では、右の点を確認の上、本件施設における放射線管理方法は妥当であると判断したものである。
(二) 放射線遮へい対策
加工施設指針五において定められた放射線遮へい対策は、放射線業務従事者の被曝を低減する目的でなされるものであり、例えば、ウランの内在する設備・機器に対し近距離で、長時間にわたり作業が行われるような場合には、この対策を講じる必要が生じる。
ところで、本件施設においては、ウランを収納する設備・機器からの放射線の線量率は、設備・機器による遮へい効果等によって低下し、右放射線による影響が、放射線業務従事者の放射線被曝を管理する上で問題となるほどのものではない。そこで、本件安全審査においては、放射線遮へい対策を特に講じる必要はないと判断した。
七 その他の安全性確保対策
(被告の主張)
1 熱的安全設計
六フッ化ウランを取り扱う原料シリンダ、製品シリンダ及び中間製品容器については、その使用温度が設計温度である摂氏一二一度を超えないようにインターロック等を設けることとなっている。
2 過充填に対する考慮
六フッ化ウランをシリンダ類に充填する際に万一過充填となった場合、その過充填となったシリンダ類を均質化のために加熱すると破損のおそれがある。このため、過充填防止対策として、シリンダ類の重量を測定し、一定量以上の六フッ化ウランは充填できないようなインターロック等を設けることとなっている。
3 増設に対する考慮
カスケード設備等の増設時の考慮として、運転区域に支障を及ぼさないよう運転区域と増設区域の間には間仕切り壁を設けることとなっている。また、六フッ化ウランを取り扱う配管等のつなぎ込みは、特定のつなぎ込みエリアに集中して管理する等、施設の安全性が損なわれないよう適切な対策を講じることとなっている。
4 その他の安全対策
緊急時には、必要箇所との連絡を円滑に行うため、非常用通報設備等を設けることとなっている。
六フッ化ウランシリンダ類、ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)等の移動に際しては、漏洩検査を行い漏洩のないことを確認した後移動する等、適切な対策を講じることとなっている。
また、安全上重要な施設は、日本工業規格(JIS)等安全上適切と認められる規格、基準等に準拠するとともに、安全機能を確認するための検査及び試験並びに安全機能を維持するための保守及び修理ができる設計となっている。
八 検証の結果と本件施設の安全性確保対策の問題点
(原告らの主張)
1 中央制御室内の操作機器
本件施設の中央制御室には、主要な設備の運転中の監視及び操作を行う主盤と、熱水・低温水の管理を行う補助系統に係るプラント関連盤が設置されている。
このうち、主盤においては、運転員一人当たりが監視・操作しなければならない計器の数や領域が多岐広範囲にわたっており、誤操作・運転ミスを招来しかねない。殊に緊急時における正確な操作を確保する措置、なかんずくフェイルセーフの設計思想に基づく制御機構がどのように工夫されているか定かでない。また、均質槽のインターロックをバイパスするスイッチや、製品コールドトラップからの移送の弁操作のためのスイッチなど、極めて重要なスイッチが、安易に誤操作されやすい構造・配置となっている。
また、プラント関連盤は、主盤による主要設備の運転・操作と密接不可分な系統であるにもかかわらず、中央制御室において右主盤から離隔した位置に設置されており、運転員の指揮連携関係も明らかでない。
2 非常用電源室及びディーゼル発電機室
(一) 直流電源設備及び無停電電源装置
本件施設の非常用電源室に設置された、直流電源設備及び無停電電源装置は、外部電源喪失時に本件施設の正常かつ安全な稼働(ないし停止)を確保するために必要不可欠な設備である。このうち、直流電源設備は、バッテリー(蓄電池)で構成され、外部電源喪失時に、ディーゼル発電機が起動するまでに要する二〇秒間の補助電源として、非常用通報設備、自動火災通報知設備、非常用照明及び無停電電源装置を機能させる唯一の電力源である。また、無停電電源装置は、定常時は外部電源を受電し、外部電源喪失時は第一時的に(少なくとも二〇秒間は)直流電源設備から受電して本件施設の安全上必要不可欠な計測制御系に電力を供給する装置であり、それ自体が電力源ではなく、外部電源が喪失しかつ直流電源設備が機能しない場合には、この装置も作動しない。
しかし、これらの設備は、それぞれ一ユニットずつしか設けられておらず、これらに対する予備的なバックアップ態勢は設けられていない。このため、仮にこれらの設備に不具合が生じた場合には、外部電源喪失時に非常用のディーゼル発電機が所定どおりに起動したとしても、本件施設は一時的に無電源状態に陥る。また、同様のことは、切替機能が不良の場合にも起こり得る。
また、直流電源設備のバッテリーの電気容量は約三〇分間とされているが、これは実証されておらず、さらにその有効使用期限や取替期間も不明だから、右電源設備の不具合や電気容量の費消によって本件施設は文字どおり無電源状態となり得る。
さらに、非常用電源室中央部の天井付近にあるケーブルトレイ上のケーブルは、すべて非常用電源系ケーブルであるところ、それらの一部は直流電源設備や無停電電源装置から各設備に電力を供給するためのケーブルであるが、これらはいずれも金属パイプ等で防護されておらずゴム製のカバーのみのむき出しの状態で、いずれも右の同一のトレイ上を通っている。このような状態では、火災の発生等の一つの事故により、安全上重要なすべての機器の電源が同時に完全に失われる危険がある。
(二) ディーゼル発電機
本件施設では、ディーゼル発電機は二台設置され、停電信号で自動起動し、約二〇秒で電圧確立した後、電力併給を開始するとされている。
しかし、自動起動の条件ないし保証は明らかでなく、電圧確立に要する時間も本件許可申請書では「約二〇秒」とされるなど確実な根拠がない。
なお、本件施設では、二台のディーゼル発電機が隣接した部屋にそれぞれ設置されて、法令に基づき月一回の機能試験のほか別個に検査を実施しているとされているが、そのような定期の機能試験ないし検査の各結果は公表されておらず、実証性を欠いている。ディーゼル発電機は非常用(通常電源喪失時)の唯一の電気供給源であり、その機能が客観的に検証、実証されない限り本件施設の安全性が立証されたとはいえない。
3 高周波電源室
(一) 高周波インバータ装置
高周波インバータ装置は、遠心分離機に駆動電源を供給するに当たり、周波数を制御することによって遠心分離機の回転胴の回転数(回転速度)を破損限界以下に制御することとされている。したがって、この機器が故障しあるいは変調をきたした場合、遠心分離機の回転胴の回転数が異常に上昇し、回転胴及び外筒が破損する危険がある。
他方、この機器は、遠心分離機に電気を供給しているが、遠心分離機にはバックアップ電源がないため、この機器の異常により遠心分離機への電気供給が停止すると、遠心分離機が停止するに至る。この場合、本件施設の遠心分離機は、定格運転状態から停電が五分間続いた状態で共振点に達するという設計上の欠陥があるため、すべての遠心分離機でほぼ同時に共振を生じることになり、振動による金属疲労を蓄積し、いずれ破損する。
このように、この機器は、回転数の上昇、停電、いずれの方向への異常も遠心分離機の破損につながりかねないものであり、高い信頼性が要求されている。
ところが、この機器は、平成四年の本件施設の慣らし運転中に起こった二度の試験で二度とも異常を生じて遠心分離機への電気の供給を停止させ、遠心分離機の共振を引き起こしている。日本原燃の発表によれば、これらの事故は、過電流によるブレーカーの作動、誤警報によるとされるが、被告は、いまだにこの機器の仕様を明らかにしない上、核不拡散上の機微情報がないにも拘らず日本原燃の商業秘密と称して事故原因となる箇所についての検証及び説明を拒否し、「室内入口からの検証」に固執して高周波インバータ装置を外側からよく見ることすらさせなかった。このような被告の姿勢からも、高周波インバータ装置が欠陥を抱えており、その欠陥は裁判結果に影響を及ぼしかねない重大なものであることが推認される。
(二) バスダクトないしケーブルダクト
バスダクトないしケーブルダクトは、高周波インバータ装置から遠心分離機に電気を供給しているケーブルの一部であり、この機器の故障は、高周波インバータ装置の故障と同様に、遠心分離機の破損につながりかねない。平成五年六月一七日に本件施設で発生した事故も、このバスダクトにおける絶縁体の損傷と火花の発生が原因で遠心分離機の手動停止に至るというものであった。日本原燃は、この事故の原因を施工ミスと説明しているが、設計ミスである可能性が強い。いずれにしても電気ケーブル類から容易に火花が発生することは、アセトン等の爆発性の薬品類を使用するにもかかわらず爆発対策の全くない本件施設にとって致命的な欠陥である。
ところが、内閣総理大臣はやはり、このバスダクトにも核不拡散上の機微情報がないにもかかわらず、現に事故が発生したバスダクトを検証目的物とすることに抵抗し、下から眺めさせるだけで現物を見せなかった。このような内閣総理大臣の姿勢からも、このバスダクト及びケーブルに深刻な欠陥が存在することが推認される。
4 中間室
(一) ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)
ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)等については、核的制限値(形状寸法)が円筒直径で五七・五五センチメートルとされているが、本件施設はこれを超過しているおそれがある。そして本件の検証でこれを計測したところ、外径は約一八三・五センチメートル(直径五八・四一センチメートル)であった。この事実により、本件施設の臨界管理には重大な疑問が存在する。
またフッ化ナトリウムの容量によって定まるウラン捕集能力は一基当たり七〇キログラムとされているが、これによる捕集能力の科学的裏付けはない。また、九九・九九パーセント以上という捕集効率もこれを裏付ける資料がなく、臨界管理上問題が残る。
(二) ケミカルトラップ(アルミナ)
ケミカルトラップ(アルミナ)は、容量がそもそも不明であり、フッ化水素の除去効率が九九・九九パーセント以上というのも根拠がない。また、捕集対象物であるフッ化水素の含有量が不明であり、このケミカルトラップ(アルミナ)の能力には、多大の疑問がある。
しかるに、内閣総理大臣は、右の点について、本件の検証においても、「カスケード排気系ケミカルトラップ(アルミナ)のフッ化水素の吸着能力について、本件施設を数十年運転してもアルミナを交換しなくてもよい程度のアルミナが充てんされていますが、その捕集絶対量は、日本原燃の企業秘密であり答えられません」。「カスケード排気系ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)については、この機器に至るまでの配管等に気密性があることから、仮定として、ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)に大量の水分が混入した場合の捕集能力の劣化については、仮定上のことですので答えられません」として釈明を拒否した。
ケミカルトラップは、放射性物質の漏洩防止及び臨界管理という原子力関係施設の安全確保上最重要の設備であり、この安全性について被告が具体的な釈明(主張、反証)をなし得ない以上、少なくともこの点で、本件施設の危険性が推認されたものというべきである。
5 発生回収室
(一) 発生槽
発生槽では、原料六フッ化ウランを充填した原料シリンダを温熱水をシャワー状に浴びせて加熱し、六フッ化ウランを気化させているが、六フッ化ウランのカスケード設備への移送工程に目詰まりなどが生じると、工程の圧力が大気圧を超え、配管の溶接部、弁、継ぎ手のパッキングなどから六フッ化ウランが漏出する可能性がある。
この設備においては、温熱水とシリンダが直接に接するため、シリンダのバルブなどから原料六フッ化ウランが漏出すると、水と六フッ化ウランが急激な発熱反応を引き起こし、フッ化ウラニルとフッ化水素が発生する。フッ化ウラニルとフッ化水素には生物的急性毒性があり、吸い込むと喉頭、気管支、肺などを損傷し、肺水腫を引き起こし、死亡例も報告されている。また、フッ化水素は強い腐食性があり、大規模な漏洩につながる。
臨界管理上も、六フッ化ウランと水が直接に接するため、臨界に達しやすい。
(二) 製品コールドトラップ
カスケード設備から製品コールドトラップに六フッ化ウランガスを供給するラインと、製品コールドトラップから製品回収槽へ製品六フッ化ウランガスを移送するラインは、一つの配管が兼ねることとなっていることが検証で確認されたが、この二つの機能の切換操作については、弁の開閉を手動操作で行うものと説明されているが、この手動操作を誤れば製品六フッ化ウランガスがカスケード設備に逆流するような事故が発生する可能性がある。
そして、製品コールドトラップには、六フッ化ウランの漏洩検出装置は設置されていない。被告は、六フッ化ウランの漏洩検出装置を設置しない理由を、「六フッ化ウランは大気圧以下で取り扱われる」ためとしているが、定格運転時には六フッ化ウランが大気圧以下で取り扱うこととなっていても、事故時に六フッ化ウランの固化や、排気系の停電による機能喪失などの原因によって、同機器内の六フッ化ウランが大気圧を超えることは十分考えられるところであって、漏洩検出装置を設置しない設計は正当化できない。
(三) 製品回収槽
製品回収槽では、製品コールドトラップから再加熱されて送られてくる製品六フッ化ウランガスを冷気によって間接冷却された中間製品容器に充填していく工程が実施されている。
この工程においては、中間製品容器の過充填の危険がある。空気冷却の能力が不十分だったり、重量測定機の故障、インターロック回路の故障によりインターロックが働かないときは、この機器内の六フッ化ウランが大気圧以上となり、ついには配管の溶接部、弁、継ぎ手のパッキング部分などから漏洩する可能性がある。
にもかかわらず、この工程にも六フッ化ウランの漏洩検出装置は設置されておらず、製品コールドトラップと同様の問題がある。
(四) 廃品回収槽
この設備は、カスケード設備から送られてきた廃品六フッ化ウランガスを低温の水で直接冷却された廃品シリンダーに充填していく工程が実施されている。ここでは、シリンダと水が接することから、発生槽と同様の危険性がある。
また、廃品系には、この廃品回収槽の前段に二段のコンプレッサが設置されており、このコンプレッサにより六フッ化ウランガスが加圧されている。冷却能力が十分でないと、コンプレッサによる過剰な加圧が加わり、配管の溶接部、弁、継ぎ手のパッキング部などから六フッ化ウランが漏洩する可能性がある。
にもかかわらず、この工程にも六フッ化ウランの漏洩検出装置は設置されていない。
6 均質室
均質槽は、濃縮六フッ化ウランを密閉状態で加熱して液化するため、当然に六フッ化ウランが大気圧以上に加圧された状態で扱われる。そのために機器・配管の破損があれば、その中の六フッ化ウランの大半が外部に漏洩する。この点についての安全対策としては、密閉する弁までの配管について配管カバーを設け、その内側で配管が破断した場合には、工程用モニタでフッ化水素を検出して、配管カバーからの排気をフッ化水素吸着器を経由する局所排気設備に切り替えることとされている。本件施設では、機器・配管の破損による六フッ化ウラン漏洩時の対策は、実にこれのみである。
しかし、まず局所排気設備への切替えは二つの弁を信号により同時に開閉することで行うが、これが失敗すれば六フッ化ウランガスが一般の排気系に流出し、その場合フッ化水素によりエアフィルタが機能を喪失し、六フッ化ウランの大半が施設外に漏洩することになる。本件許可申請書及び安全審査書では、この切替え失敗を全く想定しておらず、局所排気設備でフッ化水素吸着器を経由した場合についてのみエアファルタの健全性を論じている。
本件許可申請書によれば、エアフィルタの性能は六九グラムのフッ化水素で劣化するところ、六フッ化ウランガスが一般の排気系に流出した場合、一・一キログラムのフッ化水素がエアフィルタに到着するので、エアフィルタによる捕集はほとんど期待できない。この切替え失敗は工程用モニターの故障、切替えの信号系の故障、弁の故障等の原因から発生し得る。これらの機器の信頼性や工程用モニタの設定値については、本件許可申請書においても、被告の主張立証においても全く明らかにされていない。
その上、検証において、工程用モニタは、均質槽及び配管カバーから十数メートル離れた位置にあり、配管カバーとはゴム製ホースによって連絡され、フッ化水素がそのゴム製のホースを通って工程用モニタに達して初めて検出されることが判明した。したがって、このゴム製のホースが破断ないし閉塞した場合は、大量の六フッ化ウラン漏洩があっても工程用モニタはフッ化水素を検出できず、「局所排気設備」への切替えは行われず、六フッ化ウランが大量に施設外に漏洩することになる。
さらに、配管カバー外での配管の破損については対策がなされていない。例えば、内閣総理大臣の指示説明にある濃縮度調整工程では、均質槽二つと原料シリンダ槽を結んで中間製品容器と原料シリンダを加熱する。このとき、正しい手順では均質槽のうち一つには空の中間製品容器を装着することになっているが、この際に、六フッ化ウランの充填された中間製品容器を装着した場合、配管カバー外の配管部分も加圧され、六フッ化ウランが大気圧以上で取り扱われることになる。この場合の配管破断は、本件安全審査で想定しているよりも更に大きな漏洩(およそ二倍の量)につながるが、この場合について特段の対策はなく、本件施設内に漏洩した六フッ化ウランのほぼ全量が施設外に漏洩することになる。
なお、均質槽、製品シリンダ槽には、過充填を防ぐために重量測定によるインターロックが設けられているとされているが、重量計はシリンダの置き方により測定ミスを生じ得るし、インターロックもバイパスされ得る。その場合、セコイヤ工場で発生したようなシリンダの破損による六フッ化ウラン漏洩事故が生じ得る。
7 管理廃水処理室
液体廃棄物は、廃水口から尾餃沼へ放出されるが、ここでは六ヶ所村民が現に漁業を営んでおり、漁獲物は六ヶ所村と周辺市町村で消費されている。しかし、放射能濃度が線量当量限度等を定める件で定める濃度限度以下であることが正しく確認される保証がないばかりか、微量でも放射能は生体濃縮するので、人体、環境にとって危険かつ有害である。
8 排気室
核廃棄設備のプレフィルタや高性能エアフィルタなどの構成機器の具体的性能については、本件許可申請書や安全審査書に何らの記載や説明もない。
また、排気用モニタは、すべての放射性物質とその濃度を測定できる性能を有しない上、本件の検証では、このモニタが排気中の放射性物質の濃度限度以下になった場合に警報を発するのみで、自動排気停止装置を備えていないことが判明した。したがって、電源喪失事故が発生したが警報が作動しなかった場合、放射能の無制限な外部放出の危険を招来しかねない。
9 ウラン貯蔵庫
本件許可申請書によると、シリンダは、「落下試験により安全性が確認されている範囲内に吊り上げ高さを制限するので…運搬中に落下したとしてもUF6の漏洩が発生することはない」とされている。
この点、衝撃に対する強度は、製品六フッ化ウラン用の三〇Bシリンダの場合、重量は約三トンで、試験条件は高さ一・二メートルからの落下となる。検証時に内閣総理大臣が「各シリンダーの吊り上げ高さは、床面から一・二メートルまでに制限されています」と説明しているのはこのことを意味する。これに対し、原料六フッ化ウラン用の四八Yシリンダは、L型(一九九一年からはLSA―I型)に分類され、法令上の試験条件はない。仮に一般の試験条件を適用したとしても、総重量一五トンにもなるこの容器の条件は、何と〇・三メートルからの落下に耐え得る程度でしかない。
また、核分裂性物質である濃縮六フッ化ウランには、特別の試験条件として高さ九メートルからの落下試験が適用される。しかし、輸送中の事故を考えると、この落下に耐えることが容器の強度の基準になったとしても、まだ不足である。
このように、シリンダの強度は、極めて脆弱なものである。
九 本件施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
(原告らの主張)
1 平成四年一月二六日及び同年二月二四日の事故
これらの事故は、わずか一か月のうちに二度、それも、連続運転中ではなく停電再起動試験を行った二度の機会のいずれにも事故が起こったというものであり、本件施設の電源系統に深刻な欠陥があることを示すもので、外部電源そのものの喪失ではないものの、遠心分離機に関して外部電源喪失の場合に類する危険を内包している。
2 平成四年六月一七日の事故
(一) 施工の杜撰さ
バスダクトの支持取付けに当たり熱膨張を考慮しないということは、極めて初歩的な施工ミスであってそれ自体論外であるし、他の箇所についても到底まともに施工されているとは思えない。
(二) 電気系統の事故の頻発
右事故で示されたような電気系統の施工ないし設計における欠陥のある本件施設においては、同じように、電気火花が生じたり、電気系統の故障から停電事故が頻発することが予測される。
3 平成六年二月七日の事故
(一) 共用に対する考慮
本件安全審査において用いられた加工施設指針は、一九「共用に対する考慮」として、「核燃料施設における安全上重要な施設は共用によってその安全機能を失うおそれのある場合には共用しない設計であること」とし、その解説においては、「安全上重要な施設のうち当該加工施設以外の原子力施設との間、又は当該加工施設内で共用するものについては、その機能、構造等から判断して共用によって当該加工施設の安全性に支障をきたさないことを確認すること」とされている。ここでは、他の原子力施設との共用だけでなく、当該加工施設内の共用も問題とされている。
そして、本件安全審査では、本件許可申請書の添付書類五に「共用に対する考慮」「本施設において安全上重要な施設で他の原子力施設等と共用するものはない」とあるだけで、安全審査書ではこの点について全く言及されていない。すなわち、本件安全審査においては共用に対する考慮について具体的な審査は行われず、特に施設内の共用については何ら審査されなかった。その結果、本件施設では、施設内の共用について全く設計上の配慮がされず、多くの施設、機器が、その機器喪失により安全性が著しく損なわれるおそれがある伝送ラインとシーケンサを共用するに至り、そのため右のような事故が発生拡大したものである。
このように、右事故により明らかになった伝送ラインとシーケンサ共用の実態は、加工施設指針一九に違反しており、その審査を行わなかった本件安全審査は違法である。
(二) フェイル・セーフの不採用
原子力施設において重要な機器につきフェイル・セーフの設計を採用するか否かは、正しく基本的な設計方針の問題である。加工施設指針は、それ自体時代遅れの不合理なものであるから、その中にはフェイル・セーフの採否に言及した部分はないが、原子力発電所に係る安全審査では必ず触れられている点である。
ところが、本件安全審査においては、インターロックの採用は数箇所で言及されているが、フェイル・セーフの採否については本件許可申請書にも安全審査書にも一言の言及もない。その結果、本件施設ではフェイル・セーフの設計思想は全く採用されず、右事故も、シーケンサにフェイル・セーフの設計思想が採用されていなかったために発生拡大したものである。
したがって、この事故により明らかになった本件施設でのフェイル・セーフの不採用は、本件安全審査の違法性を示すというべきである。
(三) 事故解析条件の誤り
本件安全審査では、加工施設指針が時代遅れの不合理なもので、事故の解析において事故発生防止・拡大防止機能についての故障を想定すべきことすら規定されていないこともあり、最大想定事故とした均質槽の配管カバー内配管破損事故の解析に当たり、安全保護のための機器が一つの故障もなく作動するという前提で事故解析を行っている。
しかし、右事故では、それらの事故拡大防止機能が一切働かない状態が現に発生しているのであり、そのような安易な事故解析条件の設定は、正しく不合理なものというべきである。
したがって、右事故は、本件安全審査の事故解析条件の設定、ひいては事故解析そのものの不合理性を明らかにしたものである。
(被告の反論)
1 平成四年一月二六日及び同年二月二四日の停電再起動試験について
原告らは、右事象により、本件施設の電源系統には深刻な欠陥があることが露呈されたと主張する。
しかしながら、停電再起動試験とは、そもそも施設の安全機能の実証を目的とするものではなく、慣らし運転の一環として、短時間の停電が発生しても運転の継続への影響がないことを確認するという専ら営業上の観点から、原燃産業が自主的に行ったものである。すなわち、遠心分離機の電源が何らかの理由により失われた場合には、その回転速度は次第に低下するところ、停電が短時間にとどまり回転速度が一定の範囲内にあれば、電源が復旧した際に、その状態で遠心分離機に電気を供給し、通常運転時の回転速度に短時間で復帰させることが可能であり、本試験は、この点を検証するための試験であり、したがって、そもそも施設の安全機能の実証を目的とするものではない。したがって、右各事象は、いずれも施設の安全性を左右するものではなく、この点に係る原告らの主張は、本件訴訟の審理の対象とはならないものである。
また、右事象の原因については、既に高周波電源設備の電流の変動を抑える回路の調整、電源を切った時のサージ抑制、接地方法の改善などの適切な対応策が講じられた結果、正常な作動が現に確認されているものであるから、原告らの右主張は何ら根拠がなく、失当である。
2 平成四年六月一七日の運転停止について
右運転停止は、バスダクトの施工上の不具合に起因するものであり、本件安全審査の対象である本件施設の基本設計ないし基本的設計方針に起因して発生したものではないから、右事象は、本件安全審査とは無関係であり、したがって本件訴訟の審理の対象とはならない。
3 平成六年二月七日の計測制御設備異常発生に伴う運転停止について
この事象は、本件安全審査の対象である本件施設の基本設計ないし基本的設計方針に起因して発生したものではなく、したがって、右事象の発生が何ら本件安全審査の合理性を左右するものではないが、念のため、原告らの主張に対し必要な反論をすることとする。
(一) 共用に対する考慮
機器の制御を行うシーケンサと機器自体は当然接続されるべきものであり、かつ、伝送ラインを介してコントローラ、他のシーケンサ等との間で信号の送受信を行い機器を制御するシーケンサは、伝送ラインとは当然接続されるものである。したがって、右接続は共用というべきものではない。
(二) フェイル・セーフの不採用
本件安全審査においては、自動弁(空気作動弁)を作動させるための空気及び電源の喪失時の対策として、万一、空気又は電源が喪失した場合は、自動弁がその弁特性により自動閉となり六フッ化ウランを工程内に閉じ込める設計とするというように、フェイル・セーフの設計思想に立ち本件施設にとって必要な対策が講じられていることを確認している。
なお、何らかの異常事態に際しては、その事態の規模や形態に応じて適切な措置が執られれば良いのであって、例えば、シーケンサについては、その機能が停止した場合には、直ちに運転状態を確認し、必要に応じて機器の操作を行う等の手段が用意されていれば足りるのであり、必ずしもそれらのすべての監視・操作が中央制御室で実施できなければならないものではない。現に、右事象に際しては、ホット定格モードであった1B及び1Dカスケード並びに全還流モードであった1Aカスケードに、いずれも安全上の問題は生じなかったので、これらを直ちに全還流モードにする必要性は認められなかった。また、加熱の停止についても、六フッ化ウランの温度等に関しては、右事象の継続中も安全に監視・制御がされていたのであるから、過加熱に至る危険性はなく、自動的に加熱を停止する必要性は認められなかった。したがって、どのような事態であっても全還流モードへの移行や、加熱の停止等が行われなければならないとする原告らの主張は、失当である。
(三) 事故解析条件の誤り
本件安全審査においては、緊急しゃ断弁及び局所排気設備の系統を切り替えるダンパ(弁)が多重化され、十分な信頼性を有する設計とすることを確認しており、最大想定事故が発生した際にこれらの機器が作動しないということは技術的に考えられないから、原告ら主張のような想定をしないことに不合理はない。
なお、本件施設においては、これらの機器は、伝送ラインとは別系統のハードワイヤーを介して制御されており、本件事象による影響は受けていない。
一〇 他の原子力施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
(原告らの主張)
被告は、本件安全審査について、諸設備が申請書どおりに稼働することを前提とするのみで、それ以外に安全性の論拠を何ら挙げていないが、本件許可申請書の予想するとおりに諸設備が稼働するのか、事故が起こっても申請書どおりに防護されるのかについては、本件許可申請書から独立した批判的検討が必要である。
にもかかわらず、本件安全審査は、本件施設と同種の施設で現に生じた以下の事故についてさえ、これが起こり得ないという根拠を示していない。これでは、十分な安全審査が行われたとは到底いい得ず、むしろ、本件安全審査は事業者の申請内容を鵜呑みにした杜撰なものであるというべきである。
1 動燃事業団人形峠事業所ウラン濃縮試験工場における爆発事故
この事故は、昭和五八年二月三日、右工場の排水のウラン濃度をチェックする化学分析室で、廃液の加熱処理中にガラス製ビーカーが爆発したもので、首などにガラス破片が刺さった職員が出血多量で死亡した。
被告は、この事故は六フッ化ウランを取り扱うことに起因するものではなく、濃縮施設固有の技術的欠陥あるいは濃縮の作業工程が内包する固有の危険ではないから本件施設の危険性を裏付けるものではないと主張する。しかし、この事故は廃液処理の際に起きた事故であり、廃液処理も工程の一部であって、廃液処理の過程で起きる事故を、本件施設の持つ危険性から排除することはできない。しかるに、そもそも本件許可申請書は、廃液処理としてどのような化学反応が行われるのか等の具体的工程を何ら明らかにしておらず、本件施設と同種の施設で現に生じたこのような事故についてさえ、それが起こり得ないという根拠を示していない。これでは十分な安全審査が行われたとは到底いい得ない。
2 セコイヤ燃料会社転換工場におけるシリンダ破裂事故
この事故は、一九八六年(昭和六一年)一月四日、アメリカ合衆国オクラホマ州ゴアのセコイヤ燃料会社転換工場で天然ウランのイエローケーキ(八酸化三ウラン)を六フッ化ウランに変える転換作業中、製品六フッ化ウランを輸送用容器(シリンダ)に詰める工程において、計量ミスのために最大充填量である約一二・五トンを超えて六フッ化ウランが充填されているのに気づいた作業員が、過剰分の約九百キログラムを気化してプラントに戻そうと蒸気加熱したところ、シリンダが破裂したというものである。
この事故により、約三〇分ないし四〇分の間に、容器内のおよそ一三・四トンの六フッ化ウランがすべて放出され、空気中の水分と反応してフッ化水素及びフッ化ウラニルとなり、工場内の労働者と周辺住民を襲った。これにより、作業員一人がフッ化水素を吸い込んで肺が焼けただれ呼吸困難となったのが原因で死亡したほか、作業員一七人と住民一一人が病院に収容され、百人以上が病院で手当てを受けた。また、入院者は、その後退院できたものの、呼吸障害の重い人、尿中のウラン量がかなり多い人もいるといわれている。このほか、重い粒子であるフッ化ウラニルは、大部分が工場内と近くのハイウェイに落ち、周辺の環境を広く汚染し、汚染による長期的影響が懸念されている。
この工場においては、操作マニュアルでは過充填された六フッ化ウランは加熱せず移送することになっており、作業員らは当初そのように移送しようとしたのであるが、六フッ化ウランが冷えて固化してきたため移送がうまくいかず、当直責任者の不在もあって、現場の人為ミスによりシリンダを建屋外に運び出して加熱しており、規定どおりであれば起こらないはずのことが起こっている。このようにマニュアルどおりに事が進まなかった場合に現場の判断で処置がされて起こり得る人為ミスの可能性は本件施設にも存在し、このような事故は本件施設においても起こり得る。この点について被告は何ら反論をしていない。
3 ポーツマスウラン濃縮工場における六フッ化ウラン漏洩事故
この事故は、一九八六年(昭和六一年)一月一〇日、アメリカ合衆国オハイオ州パイクトンの政府(エネルギー省)所有のポーツマスウラン濃縮工場で監視システムのデータの見直しをしたところ、一九八五年(昭和六〇年)一二月二七日から一週間の間に約二一キログラムの六フッ化ウランガスが空気中に漏れていたことが判明したというものである。
被告は、ポーツマス濃縮工場は、ガス拡散法を用いており、遠心分離法を採用している本件施設と同一に論じられないとするが、いずれの方法もウランを気体の六フッ化ウランにして扱うのであり、気体の六フッ化ウランが排気中に流入した場合の危険性において同様である。
また、被告は、本件許可申請書ではケミカルトラップ(アルミナ)のほかにケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)と高性能エアフィルタが設置され、モニタで監視することとされているから環境に悪影響はあり得ないとするが、地震や爆発事故によってこれらの機能に支障が生じないのか等について、事故解析はされていない。
4 JCO東海事業所転換試験棟での臨界事故
(一) 臨界事故を想定しない誤り
JCO東海事業所においては、加工事業許可(変更)申請書上、「いかなる場合でも安全であるよう十分な設計がなされているので臨界事故は起こり得ない。」と明記されていたが、現実には臨界事故が発生した。
本件施設の安全審査においては、右と同様に「いかなる場合でも安全であるよう十分な設計と管理が行われるので臨界事故が起こることはない。」として、臨界事故を全く想定せず事故評価をしない申請を承認、許可している。
しかし、本件施設においても臨界事故の危険はあるし、また、全く同様の申請がなされていたJCO東海事業所で現実に臨界事故が発生した事実にかんがみれば、本件施設においても当然に臨界事故を想定すべきである。したがって、事故想定及び事故評価を行わなかった本件安全審査には看過し難い過誤、欠落があるというべきである。
(二) 最大想定事故の非現実性
JCO東海事業所の加工事業許可申請書では、転換試験棟における最大想定事故について、臨界事故は想定せずに六フッ化ウランの漏洩事故を想定し、事故による周辺監視区域外の一般公衆の最大被曝量を九ナノシーベルト(ナノは一〇億分の一)であるとしている。
しかし、右事故で科学技術庁が事故調査委員会に報告した被曝量評価では、敷地境界における被曝量は一六〇ミリシーベルトとされている。この評価は様々な仮定を前提としたものであり、しかもその根拠となるデータが極めて少ないもので、原告らはなお過小評価であるという疑義を持っているものであるが、この科学技術庁の評価を前提としても、実際に起こった事故は安全審査での最大想定事故の一七七八万倍の規模となっている。この事実は、従前から原告らが安全審査における最大想定事故の想定が余りにも過小であり、非現実的であると主張してきたことを裏付けるものである。
この点からも本件安全審査には看過し難い過誤、欠落があるというべきである。
(被告の反論)
1 動燃事業団人形峠事業所における事故について
原告らの主張に係るガラス製ビーカーの破裂事故は、右事業所ウラン濃縮試験工場内の化学分析室で、廃液中の有機物を除去するために硝酸と過塩素酸を加えて分離処理を行っていたところ、右有機物と過塩素酸とが急激に反応したことによりビーカーが破裂したもので、たまたま破裂したビーカーのあるフード内を覗き込んでいた作業者一名が、ビーカーの破片で頸動脈を切り出血多量で死亡するに至ったものである。
しかしながら、右事故は、廃液中の有機物と過塩素酸とが急激に反応することにより発生したものであり、六フッ化ウランを取り扱うことに起因するものではなく、また、濃縮施設固有の技術的欠陥あるいは濃縮の作業工程が内包する固有の危険性に起因して発生したものでもないのであるから、原告らの主張は、六フッ化ウランや本件施設の危険性を何ら裏付けるものではない。
また、そもそも本件施設において施設外への放射性物質の放出につながるような火災・爆発を発生させるおそれのある危険物の取り扱いに関しては、本件安全審査において、火災・爆発に対する考慮に係る基本設計及び基本的設計方針において妥当なものであることを確認しているところ、右事故は、およそ施設外への放射性物質の放出につながるようなものではなく、右事故に係る危険性に対する考慮は、本件安全審査の対象となる事項ではない。
2 セコイヤ燃料会社転換工場におけるシリンダ破裂事故について
この事故の原因は、<1>従業員の操作ミスにより、シリンダを乗せた台車が重量計の上に正しく置かれなかったために、制限充填量を超える六フッ化ウランが充填されてしまったこと、<2>米国の取扱基準及びセコイヤ社の運転要領が禁止しているにもかかわらず、過充填されたシリンダを加熱処理したこと、<3>加熱が行われた場所が屋外であり、密閉構造とはなっておらず、かつ、排気処理設備も設置されていなかったため、漏洩した六フッ化ウランが直接大気中に放出されたこと、の三点であると考えられている。しかし、本件施設においては、右事故例のような六フッ化ウランの放出はあり得ない。
まず、右<1>の点については、本件施設では、誤操作を排除すべくシリンダの最大充填量を超えないように重量測定によるインターロック等が設けられることとされているなど、過充填に対する適切な対策が講じられていることを本件安全審査において確認している。また、右<2>の点については、万一過充填された場合には、シリンダを加熱せずに、最大充填量以下になるまで六フッ化ウランを移送することとされている。さらに、右<3>の点については、右の処理が行われる発生回収室を含む第一種管理区域は、排気設備により負圧に維持されるとともに、第一種管理区域からの排気は、高性能エアフィルタ等により処理した後、排気口を通じて屋外へ排出する構造とされている。
本件安全審査においては、右各対策が採られることとされていることを確認しており、本件施設においては、右セコイヤ燃料会社転換工場の事故のような六フッ化ウランの大気中への大量放出は起こり得ない。
3 ポーツマス濃縮工場における六フッ化ウラン漏洩事故について
そもそも、右工場はガス拡散法によるウラン濃縮を行っているものであって、遠心分離法を採用している本件施設と同一に論じることはできない。
また、本件安全審査においては、本件施設の排気系設備について、<1>本件施設の排気系は、ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及び高性能エアフィルタにより放射性物質の除去等の処理を行った後、排気口から排出されることとされていること、<2>排気口から排出する排気中の放射性物質の濃度は排気用モニタにより連続的に監視することとされており、万一にも周辺の環境に悪影響を及ぼさないこととされていること、<3>本件施設のケミカルトラップ、高性能エアフィルタ等の設備・機器については適切な耐震設計がされること、<4>本件施設の主工程においては、可燃性又は爆発性の物質を使用しないこと等火災・爆発に対する適切な考慮が払われており、本件施設において爆発が発生することは考えられないこと、以上の点を確認しており、本件施設で、ポーツマス濃縮工場で発生したような六フッ化ウランの漏洩が起こることはないし、ケミカルトラップや高性能エアフィルタ等の諸設備について、地震や爆発事故によってその機能に支障が生じることを想定して事故解析をする必要もない。
4 JCO東海事業所の事故について
原告らはJCOのウラン加工工場が、申請書上では「いかなる場合でも安全であるような十分な設計がなされているので臨界事故は起こり得ない。」としていたのに、平成一一年九月三〇日臨界事故が発生したことを指摘して、本件安全審査において臨界事故を想定しなかったことは看過し難い過誤、欠落に当たると主張する。
しかしながら、JCOウラン加工工場と本件施設とは、同じく加工の事業許可に係る施設であるとはいえ、工場が担う目的や作業内容が異なり、取り扱うウランの性状や設置される機器・設備等が全く違うのであり、両者を直接比較することはできない。したがって、JCO事故をもって、本件施設においても臨界事故の発生を想定すべきであるとするのは、いかにも短絡的である。
JCOウラン加工工場転換試験棟では、ウラン粉末に硝酸を加えて溶解し、濃縮度一八・八パーセントの硝酸ウラニル溶液を製造し、濃度を均一化する作業をしていた。一方、本件施設においては、取り扱うウランは六フッ化ウランであり、濃縮度は五パーセント以下である。すなわち、濃縮度一八・八パーセントのウランを取り扱うこともなければ、硝酸ウラニル溶液を製造する作業自体存在しないのであるから、JCO事故は、本件施設では発生し得ない。
しかも、JCO事故の原因は、許可申請書上の装置や社内で作成された手順書をも無視して、認可された保安規定上の核的制限値を超えるウラン溶液を注入する作業が行われたことにある。したがって、右事故原因が許認可上の事項とは全く異なるものであることは明らかである。
以上のとおり、JCO事故を取り上げて、本件安全審査において臨界事故を想定しなかったことに看過し難い過誤、欠落があるとする原告らの主張は失当である。
第四公共の安全性確保
(被告の主張)
一 加工施設指針の規定
加工施設指針は、念のため、安全上重要な施設との関連において、最悪の場合、技術的にみて発生が想定される事故のうちで、一般公衆の被曝線量が最大となるものを最大想定事故として、これが発生するとした場合でも一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないことを確認することとしている。
事故時の評価に当たっては、まず、事故の選定が妥当なものであるかどうかについて判断する。すなわち、ウラン加工施設の設計に即し、<1>有機溶媒等の火災・爆発、<2>六フッ化ウラン等の飛散、漏洩、<3>自然災害等の事故の発生の可能性を技術的観点から十分に検討し、最悪の場合、技術的にみて発生が想定される事故であって、一般公衆の放射線被曝の観点からみて重要と考えられる事故を選定していることを確認する。次に、ウラン総放出量の計算が妥当なものであるかどうかについて判断する。すなわち、選定した事故について、<1>ウランの形態・性状及び存在量、<2>事故時の閉込め機能(高性能エアフィルタ等の除去系の機能を除く。)の健全性、<3>排気系への移行率、<4>高性能エアフィルタ等除去系の捕集効率について十分に検討し、安全裕度のある条件を設定してウランの総放出量を計算するが、その想定した条件が妥当なものであることを確認する。最後に、選定した事故のうち最大のウラン総放出量を与える事故を最大想定事故として設定し、この最大想定事故により一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないかどうかについて判断する。すなわち、最大想定事故時のウランの総放出量に基づき、十分な安全裕度のある拡散条件等を設定して一般公衆の被曝線量を計算し、一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないことを確認する。ただし、加工施設指針は、十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には、被曝線量の評価を要しないものとしている。
二 本件安全審査の内容
1 最大想定事故選定の妥当性
本件許可申請においては、以下のとおり、種々の事故の発生を想定し、その事故の程度や影響について検討した上で、最大想定事故として均質・ブレンディング設備の均質槽の中間製品容器へ続く配管の破損を想定している。本件安全審査においては、これらの各事故評価につき審査した結果、均質・ブレンディング設備の均質槽の中間製品容器へ続く配管の破損事故を最大想定事故として選定した申請者の判断を妥当と判断した。
(一) 本件許可申請書添付書類七においては、六フッ化ウランの漏洩による事故の程度及び影響として、六フッ化ウラン処理設備、均質・ブレンディング設備、貯蔵設備、カスケード設備、気体廃棄物の廃棄設備及び液体廃棄物の廃棄設備の各設備ごとに、圧力条件、設備・機器の構造等の観点を踏まえて、六フッ化ウランの漏洩の可能性が検討されたその結果が示されているほか、自然現象等による事故、火災・爆発等による事故、外部電源喪失による事故、臨界による事故についても、事故の影響や程度の評価結果が示されている。
(二) 各設備における六フッ化ウラン漏洩の可能性を検討したところでは、六フッ化ウラン処理設備については、六フッ化ウランを大気圧以下で取り扱うので設備・機器の故障等により六フッ化ウランが設備外へ漏洩することはないとされ、貯蔵設備については、六フッ化ウランシリンダ類は落下試験により安全性が確認されている範囲内に吊り上げ高さを制限するので万一六フッ化ウランシリンダ類が運搬中に落下したとしても六フッ化ウランの漏洩が発生することはないとされている。また、カスケード設備については、遠心分離機の回転体の破損が想定された上で、遠心機の回転体が破損しても外筒(ケーシング)の真空気密性能が十分に保たれるように強度設計を行い破損試験により強度は確認しているので六フッ化ウランの漏洩が発生することはないとされ、気体廃棄物の廃棄設備については、高性能エアフィルタが破損した場合及び排風機が故障により停止した場合が想定され、いずれの場合においても安全上問題がないとされている。さらに、液体廃棄物の廃棄設備についても、本件許可申請書添付書類に記載された漏洩対策が行われることにより、許容濃度以上の放射性液体廃棄物が周辺環境へ漏れ出ることはないとされている。
(三) 自然現象のうち、地震による事故の評価については、本件施設の建物・構築物及び設備・機器の耐震設計は、本件許可申請書添付書類の記載のとおりに行われるので、地震が起こった場合でも六フッ化ウランは配管等に閉じ込められ、災害が起こることはないとされ、また、過去の地震の記録から本件敷地周辺では、大地震のおそれは極めて小さいとされている。
その他の自然現象等による事故の評価については、台風及び積雪に対する安全設計は、本件許可申請書添付書類の記載のとおりに行われるので、台風及び積雪による事故のおそれはなく、また、適切な接地設計等が行われるので、雷により本件施設の安全性が損なわれるおそれはなく、さらに、支持地盤は、十分な地耐力を有する鷹架層の砂岩・凝灰岩類であり、過去に地滑り、陥没の発生した例もないこと等から、地盤を原因とする事故のおそれもないとされている。
(四) 火災・爆発等による事故の評価については、本件施設では火災が拡大するおそれがなく、六フッ化ウランが設備の外に漏洩する事故には至らないとされ、また、外部電源喪失による事故についても、本件許可申請書添付書類記載の対策が講じられるので、事故が起こることはないとされ、さらに、臨界による事故の評価については、適切な設計と管理が行われることから臨界事故が起こることはないとされている。
(五) 一方、均質・ブレンディング設備については、右設備が六フッ化ウランを大気圧以上の圧力条件で取り扱うものであるところ、大気圧以上の圧力条件の下で六フッ化ウランを取り扱う系は、大気圧未満で六フッ化ウランを取り扱う系よりも、破損が起こった場合の六フッ化ウランの漏洩量が大きくなるとして、一般公衆の被曝線量が最大となる事故、すなわち外部環境へのウラン放出量が最大となる事故の評価結果が示されている。
まず、同設備の均質処理工程(均質槽に装着された中間製品容器内の六フッ化ウランの均質処理を行う工程)で取り扱われる中間製品容器については、高圧ガス取締法(昭和二六年法律第二〇四号)に基づき、一平方センチメートル当たり一四キログラム重(ゲージ圧力)の設計圧力及び摂氏一二一度の設計温度で設計、製作及び試験を行ったものが、一平方センチメートル当たり約二・七キログラム重(ゲージ圧力)以下の使用圧力及び摂氏九四度以下の使用温度との各条件で使用されるため、中間製品容器の安全性は確保できるとされている。また、同工程においては、均質槽は密封状態で使用され、しかも均質槽自体が均質換作時の最高使用温度摂氏九四度における六フッ化ウランの飽和蒸気圧に対して余裕のある強度設計が行われるため、たとえ均質槽内で配管の破損が発生しても、六フッ化ウランは槽内に閉じ込められるとされている。
(六) 以上の理由により、本件許可申請においては、本件施設における最大想定事故として、均質槽内に設置されている中間製品容器が均質化のため加熱状態にある時に、均質処理工程における均質槽の外の緊急遮断弁に接続している配管が破損する場合が想定されている。
2 最大想定事故評価条件設定の妥当性
右の最大想定事故が仮に発生した場合、六フッ化ウランは、配管部の周囲を覆っている配管カバーの内部に漏洩し、空気中の水分と反応してフッ化ウラニルとフッ化水素が発生する。このフッ化水素が工程用モニタにより検出され、緊急遮断弁が閉止して六フッ化ウランの漏洩が止まる一方、配管カバー内からの排気はフッ化水素吸着器、高性能エアフィルタ等からなる局所排気設備を経由して行われることとなっている。したがって、最大想定事故時の被曝線量の評価に当たっては、配管破損時から緊急遮断弁の閉止に至るまでの間に漏洩する六フッ化ウランから生じるフッ化ウラニルのうち施設外に放出されることとなる部分が対象となる。
次に、本件許可申請においては、最大想定事故の災害評価条件として、次の各条件を設定している。すなわち、<1>中間製品容器内の六フッ化ウランの温度は摂氏九四度、<2>配管破断部の内径は七・八ミリメートル、<3>漏洩部からの放出速度は、<1>及び<2>の条件の下に、通常用いられる計算式から、六フッ化ウラン毎秒一一四グラムが続くものとし、<4>漏洩継続時間は、工程用モニタにより漏洩を検知し緊急遮断弁を閉止するまでの三〇秒とする。これらの条件下では、漏洩量は、六フッ化ウラン毎秒一一四グラム×三〇秒=六フッ化ウラン三・四二キログラムであるが、安全側に余裕をみて六フッ化ウラン五キログラムとする。
漏洩した六フッ化ウランは、全量が空気中の水分と反応して、四・三八キログラムのフッ化ウラニル(ウラン元素量三・三八×一〇の三乗グラム)となる。フッ化ウラニルの発生量の五〇パーセントがダクト内壁面に付着し、残量が局所排気設備の高性能エアフィルタで処理され、局所排気設備で処理された排気が通常運転時の排気ラインに導かれて放出されるとし、総合的な捕集効率は、高性能エアフィルタ二段で九九・九九九パーセントとすると、この想定事故による施設外へのウランの総放出量は、ウラン元素量で一・七×一〇のマイナス二乗グラム(三・三八×一〇の三乗グラム×(一―〇・五)×(一―〇・九九九九九))、その放射能量は、五パーセントの濃縮ウランの比放射能がグラム当たり二・七マイクロキュリーであるから、四・六×一〇のマイナス二乗マイクロキュリー(約一七〇〇ベクレル)となる。
以上についてその妥当性を検討すると、まず、漏洩部からのガスの放出速度は、本来放出とともに小さくなるところ、安全側にみて一定量としている。また、漏洩継続時間も工程用モニタにより漏洩を検知し緊急遮断弁を閉止するまでの時間に余裕をみて三〇秒としている。さらに漏洩量全体も、六フッ化ウラン三・四二キログラムのところを安全側にみて五キログラムとして計算している。フッ化ウラニルは固体であるから、ほとんどダクト内壁面に付着すると考えられるのに対し、残量を五〇パーセントと安全側に設定し、一段で九九・九パーセントの捕集効率の高性能エアフィルタ二段の捕集効率を九九・九九九パーセントと低く設定している等、全体として十分な安全裕度を見込んだものであるので妥当であると判断した。
3 事故時評価の結果
以上のとおり、技術的にみて発生が想定される事故のうち最大のウラン放出量を与える事故として、均質・ブレンディング設備の均質槽の中間製品容器へ続く配管の破損を想定し、この最大想定事故において六フッ化ウランの放出速度、漏洩継続時間、高性能エアフィルタの捕集効率等を考慮して算出した結果、ウランの総放出量はウラン元素量で一・七×一〇のマイナス二乗グラム、放射能量にして〇・〇四六マイクロキュリーと極めて少ない。本件安全審査では、このウラン放出量からすれば、改めて定量的な被曝評価を行うまでもなく、一般公衆の被曝線量は極めて小さく、一般公衆に対する過度の放射線被曝を及ぼすものではないことは明らかであると判断した。
ちなみに、被告の試算によれば、最大想定事故に起因する一般公衆の線量当量は、線量当量限度等を定める件に定める周辺監視区域外の線量当量限度である一年間につき一ミリシーベルトの百万分の一以下にすぎず、原告らの各居住地においては更に小さい値となる。
なお、一般公衆の被曝線量は、放出される放射能量に、大気拡散による希釈率(相対濃度)、呼吸率及び線量換算係数を乗じて算出されるものであるところ、大気拡散による希釈率及び線量換算係数については本件許可申請書に、呼吸率については公開文献であるICRPのPub.二に、それぞれ記載されており、これらの数値を基に被曝線量の計算を行うことが可能であるが、本件安全審査においては、右に述べた理由により、右数値を用いての被曝線量計算を改めて行う必要はないものと判断した。
(原告らの主張)
一 加工施設指針の問題点
加工施設指針三は、「核燃料施設に最大想定事故が発生するとした場合、一般公衆に対し、過度の放射線被曝を及ぼさないこと」としている。しかし、最大想定事故時のウラン総放出量の算定については、複合事故の可能性を想定していないのみならず、「一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には」被曝線量そのものの評価を要しないとして、被曝線量による安全規制を放棄している。それ故、このような指針によって、実際に発生する事故に十分対応できるかは甚だ疑問である。
二 最大想定事故選定の妥当性
本件許可申請書は、六フッ化ウラン漏洩の可能性について、均質・ブレンディング設備の均質槽以外の設備の事故(六フッ化ウラン処理設備、貯蔵設備、カスケード設備、気体廃棄物の廃棄設備、液体廃棄物の廃棄設備など)によっても漏洩の可能性はない、自然現象等(浸水、地震、台風、積雪)による事故のおそれはないか、一般公衆への被曝による影響は少ない、火災・爆発等によっては漏洩事故に至らない、外部電源事故や臨界事故は起こらない、などと十分な根拠を示さない全く安易な想定によって、均質・ブレンディング設備の均質槽の中間製品容器へ続く配管破損事故のみを想定し、本件施設で発生するおそれがある地震や航空機事故が原因となって施設自体が破壊されてしまい遮断弁やフィルターの機能も役に立たないような事態における事故時被曝の危険性を無視している。
にもかかわらず、杜撰な申請に基づき、漫然、均質・ブレンディング設備の均質槽の中間製品容器へ続く配管破損事故のみを取り上げた本件安全審査には、重大な違法性が存する。
三 最大想定事故評価条件設定の妥当性
原告らが想定した、施設全体が破壊され、遮断弁やフィルターの機能も役に立たないような事故では、本件施設に貯蔵されている最大で二四〇〇トンに及ぶウランの大部分が環境中に放出されることは避け難い。
四 事故評価結果の妥当性
原告らが想定する施設全体が破壊される場合におけるウラン放出量の推定として、控えめに見積もって、濃縮ウランのうち一〇トンが環境中に放出されたものとして周辺住民への被害を評価してみると、施設から遠く六〇〇キロメートル離れた東京でも被曝線量は〇・一三レムとなり、一〇〇ミリレム(一ミリシーベルト)の一般公衆の被曝限度を超える被曝を受けることとなる。これに対し、本件許可申請書は、その想定した最大想定事故について、これが発生した場合でもウラン放出量は極めて小さいとして、一般公衆の被曝線量計算すら行っていない。
このような杜撰な申請に基づき、その場合ウラン放出量は極めて小さいとして一般公衆への被曝線量は極めて低いことを確認したとする安全審査結果には、重大な違法性が存する。
(被告の反論)
一 加工施設指針の問題点について
加工施設指針三は、その定め方からも明らかなとおり、技術的合理性を有する範囲において発生が想定される事故を考慮することとしているのであり、技術的合理性の観点から発生する可能性が極めて低いと考えられるもの、すなわち、例えば別個の原因に基づき同時に複数の事故が発生すること等の事象については考慮する必要のないものとしているのであって、このことは、十分な合理性を有する。したがって、原告らの主張は失当である。
また、加工施設指針三が、「当該最大想定事故時のウランの総放出量からみて、十分な安全裕度をみた事故時の拡散条件を考慮しても、一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には、被曝線量の評価は要しないものとする。」としているのは、そのような場合においては、改めて定量的な被曝評価を行うまでもなく、最大想定事故を想定する目的、すなわち、「最大想定事故が発生するとした場合、一般公衆に対し、過度の放射線被曝を及ぼさないこと」を確認するとの目的を達しているからなのであり、このことも十分な合理性を有する。
二 最大想定事故選定の妥当性について
本件安全審査において、航空機事故を最大想定事故の検討の際に考慮しなかったのは、航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいことから、右航空機事故は、加工施設指針三でいう「技術的にみて発生が想定される事故」とはいえず、したがって、加工施設指針三に定める最大想定事故として考慮すべき事故ではないからである。
三 最大想定事故評価条件設定の妥当性について
本件安全審査においては、本件施設の最大想定事故時のウラン放出量が極めて小さいことを確認しており、そのウラン放出量からすれば改めて定量的な被曝評価を行うまでもなく一般公衆の被曝線量が極めて小さく、一般公衆に対する過度の放射線被曝を及ぼさないことが明らかであるので、申請者の判断を妥当としたものである。
原告らは、周辺住民への被害を評価するに当たり、想定される事故により濃縮ウラン一〇トンが環境中に放出されると主張するが、いかなる状況の下に、どのような機序で濃縮ウランが漏洩し、どのような計算によってそれを一〇トンと見積もったのかについて、何らの根拠を示していない。
四 事故評価結果の妥当性について
事故による影響評価に関する原告らの主張は、以下に述べるとおり現実離れした恣意的なものである。
1 本件施設ではウランは六フッ化ウランの形態で取扱われており、これが空気と接触すると空気中の水分と反応してフッ化ウラニルに変化するものの、フッ化ウラニルは常温では安定した物質であり、通常の環境中では、二酸化ウランや八酸化三ウランに変化しないことは、科学技術上の知見として明らかである。また、このように酸化ウランの形態をとる場合には、吸入摂取による単位ウラン量当たりの被曝線量はフッ化ウラニルの場合の約五〇倍になるため、計算上の被曝線量を大幅に引き上げることとなる。したがって、ウラン全量について酸化ウランの形態で被曝線量の計算を行っている原告らの計算は、恣意的なものである。
2 原告らは、一〇トンのウランが環境中へ放出された場合について、気象指針に従って、パスキルの計算式を用いて、大気安定度Fの場合について試算したとして、六ヶ所村から東京都までの各地域の被曝線量を示している。
しかしながら、原告らの右拡散計算は気象指針にのっとったものではなく、またその計算値も実態とかけ離れたものであり、失当である。
すなわち、まず、原告らは、気象指針にのっとって拡散計算を行ったかのように主張するが、原告らの計算は、気象指針による想定事故時の大気拡散の解析方法とは異なっている。すなわち、気象指針では、想定事故時の被曝線量の計算に用いる放射性物質の濃度については、敷地における風向、風速、大気安定度等の気象観測データ及び放出継続時間を考慮して方位別に求め、年間累積出現頻度が九七パーセントに相当するものの最大値を採用することとされている(気象指針VI)が、原告らのなした計算は、その主張自体から明らかなように、気象指針の解析方法を用いたものではない。
また、原告らの示した被曝線量は、特に遠距離において著しく過大となり、実態とかけ離れたものとなっている。すなわち、原告らはパスキルの基本計算式(気象指針IVの基本拡散式)を用いて計算したと主張するが、この基本拡散式は、風向、風速、その他の気象条件がすべて一様に定常であって、放射性物質が放出源から定常的に放出されると仮定した場合の基本的な計算式である。しかしながら、現実には長距離、長時間にわたって風向・風速が一定であることはあり得ないため、距離を長くとればとるほど、計算値が実際の拡散状況からかい離していくことは理の当然である。原告らは、例えば、風下一〇〇〇キロメートルの距離についても右計算式を用いて計算を行い、〇・〇六レムの被曝線量となると主張するが、これは同一方向の風が同一の大気安定度の下で一四〇時間も継続して吹き続けるという気象条件を前提としているに等しいものである(風速毎秒二メートルの風が放出物質を一〇〇〇キロメートル先に運ぶには約一四〇時間を要する。)。しかし、現実には同一方向の風が同一の大気安定度の下で一四〇時間も吹き続けることなどはあり得ないから、一〇〇〇キロメートル先の被曝線量が〇・〇六レムもの値を示すことはない。
第五平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策
(被告の主張)
一 加工施設指針の規定
ウラン加工施設の設置に当たっては、その核燃料物質の有する潜在的危険性が顕在化することのないように、当該ウラン加工施設の平常運転時における被曝低減に係る安全対策、すなわち、ウラン加工施設の平常運転時において環境に放出される放射線及び放射性物質による一般公衆の被曝線量が許容被曝線量等を定める件に定める周辺監視区域外の許容被曝線量(あるいは、これに代わって発せられた線量当量限度等を定める件に定める周辺監視区域外の線量当量)以下となるようにすることはもちろんのこと、実用可能な限り、これを許容被曝線量より低減させるための対策が講じられていなければならない。
このため、ウラン加工施設の平常運転時における被曝低減対策に係る安全性についての安全審査においては、ウラン加工施設の運転に伴い発生する放射性廃棄物(核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物で、廃棄しようとするもの)を適切に処理する等によって、周辺環境へ放出する放射性物質の濃度等を実用可能な限り低くできるようになっているかどうか(加工施設指針七、放射性廃棄物の放出管理)、放射性物質の貯蔵等による敷地周辺の放射線量を実用可能な限り低くできるようになっているかどうか(加工施設指針八、貯蔵等に対する考慮)、放射性廃棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられ、また、放射性物質の放出の可能性に応じ、周辺環境における放射線量、放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられているかどうか(加工施設指針九、放射線監視)等について審査し、ウラン加工施設の平常時における一般公衆の被曝線量が実用可能な限り低いものであることを確認することとなっている。
二 本件安全審査の内容
1 放射性廃棄物の管理
(一) 気体廃棄物
放射性物質を含む可能性のある排気は、高性能エアフィルタ、排風機等からなる排気設備で処理後、排気口を通じて屋外へ排出される。排気設備は、第一種管理区域を負圧に維持する能力を有し、かつ屋外へのウランの放出を実用可能な限り少なくするように高性能エアフィルタ等を設けることとなっている。
ケミカルトラップ等により処理された各工程からの排気は、各種ケミカルトラップ等で処理後、その他の第一種管理区域からの排気とともに、排気ダクトを通じ排出することとなっている。
また、均質室の均質槽、均質槽配管カバー等からの排気は、六フッ化ウランの漏洩が発生した場合には、フッ化水素吸着器、高性能エアフィルタ等からなる局所排気設備を経由して排出することとなっている。
これらの処理の結果、排気中に含まれて放出されることになるウランの年間放出量は、各工程ごとの年間ウラン取扱量、排気系への移行率、高性能フィルタの除去効率等を安全側に設定して算出しても、ウラン量にして〇・一五グラム(放射能量で〇・一八マイクロキュリー)にすぎない。
(二) 液体廃棄物
分析廃水、洗缶廃水、手洗い水等において発生する放射性物質を含む可能性のある液体廃棄物は、凝集沈殿槽、砂ろ過塔、ウラン吸着塔等からなる管理廃水処理設備において必要に応じて凝集沈殿、ろ過等の処理を行った後、排水中の放射性物質濃度が周辺監視区域外での許容濃度(加工事業規則七条の八第七号、許容被曝線量等を定める件一〇条)以下であることを確認した後、他の一般排水とともに(すなわち、更に希釈されて)排水口から事業所外へ放出することとなっている。管理廃水処理設備の処理能力は一年当たり約三〇〇〇立方メートルであり、管理区域での年間発生予想量約八五〇立方メートルに対し、十分な処理能力を有する設計となっている。
(三) 固体廃棄物
固体廃棄物は、ウエス(ぼろ布)、ゴム手袋等の可燃性の固体廃棄物及び器材、スラジ(汚泥)等の不燃性の固体廃棄物に区分し、ドラム缶等に収納してウラン濃縮廃棄物建屋に保管廃棄することとなっている。
ウラン濃縮廃棄物建屋の保管能力は約四七〇〇本(二〇〇リットルドラム缶換算)であり、固体廃棄物の年間発生予想量約七〇〇本(二〇〇リットルドラム缶換算)に対し、十分な保管廃棄能力を有する設計となっている。
2 貯蔵等に対する考慮
本件施設のウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量は、ウラン及び放射性廃棄物の最大貯蔵量並びに工程中のウラン保有量を考慮し安全裕度を見込んだ計算を行った結果、最も近い周辺監視区域境界外においても十分小さい値である。
3 平常時の公衆に対する被曝線量の評価の結果
本件安全審査における排気・排水中の放射性物質による周辺環境への影響評価の概略は、次のとおりである。
(一) 排気による周辺環境への影響評価
本件許可申請における排気による周辺環境への影響評価については、本件施設のウランの年間放出量は、各工程ごとに、ウランの年間取扱い量、排気系への移行率、捕集効率等を勘案して算定した結果、合計で年間〇・一八マイクロキュリーとされている。
排気中のウランによる一般公衆の被曝線量は、ウランの右年間放出量〇・一八マイクロキュリーに、評価対象地点における希釈率(相対濃度)、呼吸率、線量換算係数を乗ずることによって求められるが、そもそも、右計算を行うまでもなく、一般公衆の被曝線量は十分小さいとされている。
本件安全審査においては、本件許可申請に係る右影響評価を妥当なものと判断した。
(二) 排水による周辺環境への影響評価
本件施設においては、主工程からの放射性液体廃棄物の発生はなく、放射性物質を含む可能性のある廃水は、主に分析廃水、洗缶廃水、手洗い水等の付随的廃水で、最大年間約八五〇立方メートルであるが、これらの廃水は、管理廃水処理設備において必要に応じ凝集沈殿、ろ過等の処理が行われた後、放射性物質濃度が許容被曝線量等を定める件所定の周辺監視区域外の許容濃度以下であることを確認した後に、他の一般排水とともに、排水口から事業所外へ放出することとされている。そこで、本件許可申請においては、排水中に含まれて放出されるウランの年間放出量は極めて少なく、改めて定量的な被曝評価を行うまでもなく、一般公衆の被曝線量が極めて小さくなるとされている。
本件安全審査においては、本件許可申請に係る右影響評価を妥当なものと判断した。
ちなみに、被告の試算によると、排気及び排水中の放射性物質に起因する一般公衆の線量当量は、これを合計しても線量当量限度等を定める件所定の周辺監視区域外の線量当量限度である一年間につき一ミリシーベルトの一万分の一以下にすぎない。
(三) ウラン貯蔵等による周辺環境への影響評価
ウラン貯蔵等に起因する一般公衆の被曝線量は、人の居住の可能性のある本件施設の敷地境界外において、十分な安全裕度のある条件を考慮しても十分低いものとなっている。
4 放射性物質の放出量等の監視
本件施設からの排気中の放射性物質濃度は、周辺監視区域外での許容濃度以下であることを排気用モニタにより連続的に監視することとなっており、排水中の放射性物質濃度は、排水の事業所外への放出に当たり、放射能測定装置により周辺監視区域外での許容濃度以下であることを確認することとなっている。
本件施設の管理区域周辺には周辺監視区域を設定することとなっており、周辺監視区域内の空気中の放射性物質濃度及び外部放射線量を定期的に測定することとなっている。
また、本件施設外における環境モニタリングとして、外部放射線量及び土壌や陸水等に含まれる放射性物質濃度を定期的に測定することとなっている。
5 本件安全審査の結論
以上のとおり、本件施設の平常運転時における被曝線量低減対策に係る安全性は確保されるものと判断した。
(原告らの主張)
一 加工施設指針二の問題点
加工施設指針二は、「核燃料施設の平常時における一般公衆の被曝線量が、実用可能な限り低いものであること」とし、排気、排水中のウランによる被曝について絶対的な条件を定めていない上、「一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には」被曝線量そのものの評価を要しないとして、被曝線量による安全規制を放棄している。さらに、加工施設指針は、いわゆる娘核種による被曝については何らの考慮も加えていない。このような指針によって、平常時被曝の危険性を防止することは不可能である。
二 加工施設指針七ないし九の問題点
加工施設指針七ないし九は、ウラン加工施設について、環境安全のために、放射性廃棄物の放出管理、貯蔵等に対する考慮及び放射線監視を要求している。しかし、ここで安全の指標とされる放射性物質の濃度、放射線量は、「実用可能な限り低くでき」れば足り、監視対策も「適切」なもので足りるものとされており、環境安全のために最低限どのような目標が必要かという視点は皆無である。さらに、ここで安全管理の対象とされているのはウラン等に限られ、フッ化水素などの他の有害物質については全く考慮の対象とされていない。
三 平常運転時の一般公衆の被曝線量評価
本件許可申請書では、排気中のウランによる被曝線量については年間放出量がウラン量で〇・一五グラム(〇・一八マイクロキュリー)で一般公衆への被曝線量は十分小さいとし、排水中のウランによる被曝線量については、ウランの年間放出量又は年間平均濃度を明らかにすることもなく、一般公衆への被曝線量は極めて小さいとして、いずれにおいても一般公衆への被曝線量評価をしていない。すなわち、本件許可申請書においては、平常運転時、一般公衆が本件施設によってどの程度の被曝を受けるかについて全く明らかにされていない。また、放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量についても、十分小さい値であるとのみ述べ、被曝線量の評価及びそれに対する対策には触れていない。
このような申請に基づき、漫然、一般公衆への被曝線量は十分低いことを確認したと報告する安全審査結果には、重大な違法性が存する。
四 環境安全上の問題点
1 本件許可申請書では、周辺環境管理については放射性物質濃度を定期的に測定するとのみ述べ、測定方法、測定結果に対する対処については触れていない。
このような申請に基づき、漫然、適切な配慮があり安全性は確保されるとする安全審査結果には、重大な違法性が存する。
2 本件施設と低レベル放射性廃棄物貯蔵センターを合わせた三四〇万平方メートルの敷地内には、ダストサンプラが一箇所、モニタリングポイントが一〇箇所設定されているのみである。しかし、空気中のちりに付着した放射性物質の浮遊は必ずしも均質ではなく、風向き等の気象条件により分布に偏頗を生じるし、気流によっては監視区域を超えて遠方に浮遊することもあり得るから、たった一箇所のダストサンプラでは、空気中の放射性物質の浮遊データを正確に収集することはできない。
また、四つの核燃料サイクル施設が集中立地する本件施設立地区域においては、当該ダストサンプラやモニタリングポイントで捕捉された放射性物質の発生源を正確に区別することはできない。
さらに、このダストサンプラによって捕捉されるのは、フィルターに付着し捕集されるちりのみであって、気体状の放射性物質を計測することは不可能である。
(被告の反論)
一 加工施設指針二の問題点について
1 「絶対的な条件を定めていない」との主張
この主張は、そもそも加工施設指針についての誤った解釈を前提とするものである。
すなわち、加工事業者は、加工事業規則一条三号並びに七条の八第四号及び第七号により、周辺監視区域外の空気中及び水中の放射性物質の濃度が許容被曝線量等を定める件一〇条一項所定の許容濃度を超えず、また、周辺監視区域外の許容被曝線量が右告示二条所定の値、すなわち一年間につき〇・五レムを超えないようにする法令上の義務を負っている。加工施設指針二は、右法令が定める周辺監視区域外における右許容被曝線量値を超えないことを当然の前提とした上で、これよりも更に一般公衆の許容被曝線量を実用可能な限り低くする対策を講ずることをウラン加工事業者に要求しているものである。このように、加工施設指針二は、法令上の許容被曝線量の値を前提とした上で定められたものであるから、原告らの主張は失当である。
2 「安全規制を放棄している」との主張
加工施設指針二が、排気中及び排水中のウランによる一般公衆の被曝について、ウランの年間放出量又は年間平均濃度からみて、十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には、被曝線量の評価は要しないものとするとしている理由は、そのような場合においては、改めて定量的な被曝評価を行うまでもなく、被曝評価の目的、すなわち「核燃料施設の平常時における一般公衆の被曝線量が、実用可能な限り低いものであること。」を確認するとの目的を既に達していることが明らかであるということによるものであって、このことには十分な合理性がある。
3 娘核種の考慮
右に述べたように、加工施設指針二は、許容被曝線量等を定める件所定の許容被曝線量値を前提として、更に一般公衆の被曝線量を実用可能な限り低くすることを求めるものである。そして、この許容被曝線量等を定める件は、「周辺監視区域外の許容被曝線量は、一年間につき〇・五レムとする」(二条)と定めており、特定の核種のみに限定することなく、〇・五レムとの許容被曝線量値を超えないことを求めている。したがって、右告示によれば、一般公衆の被曝線量評価において娘核種の考慮が必要な場合には、当然これも考慮した上で許容被曝線量値を下回ることを要するものであり、また、同告示においては、放射性物質の種類が明らかで、かつ、空気中又は水中にそれぞれ二種類以上の放射性物質がある場合にあっては、放射性物質が一種類である場合の許容濃度に対する各放射性物質の濃度の割合の和が一になるような濃度が、各放射性物質の許容濃度とされる(一〇条一項、六条二号)として、一般公衆の被曝線量の計算に当たっては、放射性物質の種類をも考慮に入れることとしている。
このように、安全審査の基本的枠組みを提供することを目的に定められている加工施設指針は、加工事業規則及び許容被曝線量等を定める件を前提とし、ウランの娘核種の考慮が必要となる場合には、当然これをも考慮して一般公衆の被曝線量を実用可能な限り低くすることを求めるものであるから、原告らの主張は失当である。
二 加工施設指針七ないし九の問題点について
周辺監視区域外における一般公衆の被曝線量については、許容被曝線量等を定める件において定められているところ、加工施設指針七及び八では、右告示の規定を踏まえ、一般公衆の被曝線量が右告示で定める許容被曝線量を超えないことを当然の前提とした上で、更に実用可能な限り低くできるようになっていることを要求しているものである。また、放射線監視について定めた加工施設指針九の規定については、そもそも加工施設指針は安全審査の基本的枠組みを提供する内容を具備していれば足りるものであるところ、加工施設指針九においては、ウラン加工施設の放射線監視対策につき、放出口等及び周辺環境においてウランの濃度等の適切な監視対策が講じられているか否かを確認すべき旨定めているのであり、右の点を確認することにより、ウラン加工施設の放射線監視対策に係る安全性確保の目的を達するものとされているのであるから、加工施設指針の右規定は、安全審査の基本的枠組みとして十分な内容を具備している。
このほか、原告らは、加工施設指針七ないし九においては、安全管理の対象がウラン等に限られ、フッ化水素などの他の有害物質は全く考慮されていないと主張するが、フッ化水素は、原子力利用に限らず他の分野でも広く使用されている非放射性の物質であり、その影響の問題は原子力施設固有の問題ではないので、規制法に基づく本件安全審査の対象とならない。したがって、規制法一四条一項三号の要件適合性を審査するに当たり判断の基本的枠組みを提供することを目的とする加工施設指針においても、フッ化水素等の安全管理は、その対象とされていない。なお、本件施設においては、工程内で仮にフッ化水素が発生したとしても、捕集排気系のケミカルトラップ(アルミナ)で吸着、除去される設計とされている。
三 平常運転時の一般公衆の被曝線量評価について
加工施設指針二が、排気中及び排水中のウランによる一般公衆の被曝について、ウランの年間放出量又は年間平均濃度からみて、十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には被曝線量の評価は要しないものとするとしていることには前記のとおり十分な合理性があり、本件安全審査では、年間の放射性気体廃棄物中のウラン量及び放射性液体廃棄物の濃度を考慮して、被曝線量の評価は要しないと判断したのである。
また、ウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量についても、本件施設においては、ウランを取り扱う設備・機器の放射線量率が低いこと及び本件施設における施設の配置等の諸事情から、本件安全審査においては、本件施設におけるウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量が周辺監視区域外において十分低いものであることは被曝線量の具体的な数値について計算を行うまでもなく明らかであると判断した。
四 環境安全上の問題点について
原告らは、本件許可申請書は周辺環境管理については放射性物質濃度を定期的に測定するとのみ述べ、測定方法、測定結果に対する対処について触れておらず、これを是認した本件安全審査は違法であると主張する。
しかしながら、本件施設においては、そこから放出される気体廃棄物及び液体廃棄物中に含まれる放射性物質の量を極力減少させるとともに、これらの放射性物質を事業所外へ放出するまでには、所要の箇所において厳重な監視をすることとしている上、周辺監視区域外においても、環境放射線のモニタリングを行うこととし、外部放射線量、土壌や陸水に含まれる放射性物質濃度を定期的に測定することとしている。本件安全審査においては、本件施設におけるウラン放出量が十分小さいことなどを踏まえ、周辺環境監視対策に係る右申請内容を妥当なものと判断した。したがって、原告らの右主張は失当である。
なお、放射性物質濃度の測定方法、測定結果に対する対処等は、規制法二二条による保安規定の認可の際に審査される事項である。
ちなみに、原燃産業は、本件施設周辺地域において、放射性物質の濃度等についてのモニタリングを実施している。例えば、原燃産業は、本件施設周辺の各所にモニタリングステーションを設置し、ガンマ線の線量率や放射性物質の濃度を測定し、また、周辺地域のモニタリングポイントでガンマ線の積算線量の測定を行っている。さらに、周辺の各地において大気浮遊塵、河川水、湖沼水、飲料水、河底土、湖底土、土壌、農畜産物、淡水産食品等の採取を行い、放射性物質の濃度を測定している。
第六その他の違法事由(本件施設の軍事転用の危険性)
(原告らの主張)
一 ウラン濃縮技術は、アメリカのマンハッタン計画の中で、濃縮ウランを原料とする広島型原爆を製造するための技術として開発されたものである。ウラン濃縮技術を実施する事業者は、これが軍事目的に転用されたりすることのないように、厳格に法的及び技術的な防護措置を講ずる義務がある。
二 法的な防護措置としては、原子炉の設置や再処理事業にみられるように、規制法において、「平和目的利用への限定」を規定し、このような条項に基づいて、事業の実態を規制行政庁と原子力委員会が厳格に審査する必要がある。ところが、わが国の規制法上はウラン濃縮事業の実施に当たって「平和目的利用への限定」の規定がなく、法的には軍事技術への転用に規制上の歯止めがかからなくなっている。
三 次に、技術的な防護措置とは、高濃縮ウランの製造が不可能ないしは著しく困難な技術原理を採用することである。一定以上の濃縮がなされれば、臨界に達してそれ以上の濃縮が不可能な技術などが、技術的な防護措置に沿う技術と評価できる。本件施設で採用される遠心分離法という技術は、アメリカでガス拡散法に次いで開発された技術であり、イギリス、ドイツ、オランダの三国が共同出資したウラン濃縮会社であるウレンコ社が現に採用しているが、いずれも軍事目的そのもの、あるいはこれに即時転用可能な技術として開発されたものであり、技術的な防護措置は存在していないといわざるを得ない。
四 劣化ウランは、ウラン濃縮工程から生み出される濃縮ウランの対極となる物資であり比重が重いため、最近の湾岸戦争やボスニア紛争などでミサイルの弾頭に多用されている。今後、本件施設で製造された劣化ウランが、アメリカなどのいずれかの国における劣化ウラン弾頭に使用される可能性があり、これを防止するための法規制は存在しない。
このように、本件施設におけるウラン濃縮には、軍事転用を防止する法的及び技術的な防護措置が欠如しており、したがって、本件施設には軍事転用のおそれがあり、原子力利用を平和目的に限定している原子力基本法に違反するものである。この点を看過した本件安全審査には、重大な過誤がある。
(被告の反論)
原子力基本法は、原子力の研究、開発及び利用の全般にわたる包括的な法規範ではあるものの、それぞれの法規制の具体的な内容のほとんどすべてを他の法律にゆだねている。したがって、同法が直接国民の権利義務に影響を及ぼしたり、国民と国家との間の具体的な法律関係を形成したりすることはない。そして、同法二条に規定する原子力の研究、開発及び利用に関する平和の目的は、同法の法的性格、平和利用の目的の内容自体から明らかなとおり、原子力の研究、開発及び利用にかかわりを有するすべての者がそのよりどころとすべき基本的精神ないし基本方針を宣言したものであって、個々の原子力の利用に係る許可手続を直接規制するものではない。したがって、原子力基本法が本件許可処分の要件であることを前提にする原告らの主張は、その前提において失当である。
第三部 主位的請求に対する判断
まず、記録によると、原告Aは、本件訴訟係属後の平成八年四月三日死亡したことが明らかである。しかして、本件訴訟である本件許可処分の無効確認及び取消訴訟は、いずれも本件施設周辺に居住している同原告が規制法一三条、一四条に基づく本件許可処分により本件施設の事故等により自己の生命、身体の安全等に対し直接的かつ重大な被害を受けるおそれがあるとして提起したものである。後述のとおり、規制法一四条の規定は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、加工施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。しかしながら、ここでいう生命、身体の安全等の利益の中に財産が含まれるとしても、加工施設周辺に居住していることが原告適格を基礎づける要件であり、したがって、規制法の前記規定が加工施設周辺に居住せず財産だけを有するにすぎない者の利益をも個別具体的に保護しているとまでは解することができないから、右のような利益は一身専属的なものであって、相続の対象とはならないというべきである。
そうすると、本件訴訟のうち同原告に関する部分は、その死亡により終了したものといわざるを得ない。
第一章 原告適格
第一当裁判所の判断
一 行訴法九条は、処分取消訴訟の原告適格を、当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に限定しているところ、その意義は、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁判所昭和五三年三月一四日第三小法廷判決・民集三二巻二号二一一頁、最高裁判所昭和五七年九月九日第一小法廷判決・民集三六巻九号一六七九頁、最高裁判所平成元年二月一七日第二小法廷判決・民集四三巻二号五六頁)。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨か否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(もんじゅ最高裁判決)。
しかして、行訴法三六条は、無効等確認の訴えの原告適格につき規定しているが、同条にいう当該処分等の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」の意義についても、右の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するべきである(もんじゅ最高裁判決)。
二 そこで、このような観点から、規制法一三条、一四条に基づく加工事業許可処分につき、加工施設の周辺に居住する者が、その無効確認訴訟を提起することができる法律上の利益を有するか否かについて検討する。
1 規制法は、原子力基本法の精神にのっとり、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ、かつ、これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに、これらによる災害を防止して公共の安全を図るために、製錬、加工、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うことなどを目的として制定されたものである(一条)。規制法一三条一項に基づく加工事業の許可申請に対する許可権者である内閣総理大臣は、許可申請が同法一四条一項各号に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならず、また、右許可をする場合においては、あらかじめ、同項一号及び二号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会、同項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号に規定する基準の適用については、核燃料物質及び原子炉に関する安全の確保のための規制等を所管事項とする原子力安全委員会の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならないものとされている(一四条)。同法一四条一項各号所定の許可基準のうち、二号(技術的能力に係る部分に限る。)は、当該申請者が加工事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき、また、三号は、当該申請に係る加工施設の位置、構造及び設備が核燃料物質による災害の防止上支障がないものであるか否かにつき、審査を行うべきものと定めている。加工事業許可の基準として、右の二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号が設けられた趣旨は、加工施設が、原子核分裂の過程において高エネルギーを放出するウラン等の核燃料物質を多量に内部に保有して取り扱い、これを原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために物理的又は化学的方法により処理する施設であって、加工事業を行おうとする者がその事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を欠くとき又は加工施設の安全性が確保されないときは、当該加工施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射性物質によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、このような災害が起こらないようにするため、加工事業許可の段階で、加工事業を行おうとする者の右技術的能力の有無並びに申請に係る加工施設の位置、構造及び設備の安全性につき十分な審査をし、右の者において所定の技術的能力があり、かつ、加工施設の位置、構造及び設備が右災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない限り、内閣総理大臣は加工事業許可処分をしてはならないとした点にある。
そして、同法一四条一項二号所定の技術的能力の有無及び三号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落があった場合には重大な臨界事故ないしは核燃料物質の漏出事故等が起こる可能性があり、そのような事故等が起こったときは、加工施設に近い住民ほど甚大な被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その被害の程度はより直接的かつ重大なものとなるのであって、特に、加工施設の近くに居住する者はその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるのであり、右各号は、このような加工施設の事故等がもたらす災害による被害の性質を考慮した上で、技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと解される。右の二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号の設けられた趣旨、右各号が考慮している被害の性質等にかんがみると、右各号は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、加工施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である(もんじゅ最高裁判決参照)。
2 右に対し、規制法一四条一項一号及び二号(経理的基礎に係る部分に限る。)の規定については、同法一三条一項に基づく加工事業の許可申請に対する許可権者である内閣総理大臣は、許可申請が同法一四条一項各号に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならず、また、右許可をする場合においては、あらかじめ、同項一号及び二号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については核燃料物質及び原子力に関する規制のうち安全確保のためのもの以外の事項等を所管事項とする原子力委員会の意見を聴くこととされている。そして、同条一項一号は、当該申請に対し許可をすることによって加工の能力が著しく過大にならないか否かについて、二号(経理的基礎に係る部分に限る。)は、当該申請につき加工事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎を有するか否かにつき、審査を行うべきものと定めている。
加工事業許可の基準として、右の一号が設けられた趣旨は、専ら加工事業が原子力利用に関する国家的かつ長期的視野に立った一定の計画に適合する範囲内で行われることを確保し、もって、将来におけるエネルギー資源の確保を図り、人類の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することにあると解される。また、右の二号(経理的基礎に係る部分に限る。)が設けられた趣旨は、加工事業者につき事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎を要求することによって、多額の資金を要する加工事業の円滑な遂行を保障するに足りる財源的裏付けがあることを確保することにあると解される。このような一号及び二号(経理的基礎に係る部分に限る。)の設けられた趣旨に照らすと、一号が加工施設周辺の住民の個別的利益を保護する趣旨を含まないことはもちろん、二号(経理的基礎に係る部分に限る。)についても、加工事業の円滑な遂行という一般的公益を保護しようとするにとどまり、それ以上に、加工施設周辺の個々の住民の生命、身体の安全その他の利益を個々人の個別的利益として直接的に併せ保護する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。
したがって、加工施設の周辺に居住する住民について、規制法一四条一項一号及び二号(経理的基礎に係る部分に限る。)の規定を根拠に規制法一三条、一四条に基づく加工事業許可処分につきその無効確認訴訟又は取消訴訟を提起することができる法律上保護された利益を有すると解することはできない。
3 このほか、規制法一三条、一四条に基づく加工事業許可処分につき、加工施設の周辺に居住する者が、その無効確認訴訟又は取消訴訟を提起することができる法律上の利益を有するものと解すべき根拠は見当たらない。
三 次に、原告らが前記の加工施設の事故等により直接的かつ重大な被害を受けるか否か、すなわち、原告らの居住する地域が右事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かが問題となるが、この点は、当該加工施設の種類、構造、規模等の当該加工施設に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で、当該原告の居住する地域と加工施設の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らし、合理的に判断すべきものである(もんじゅ最高裁判決参照)。
右の見地から本件についてみると、前記前提事実等によれば、<1>原告らの居住地と本件施設との距離は、約一・五キロメートルから約一五〇〇キロメートル余りまでと様々であること、<2>本件施設で扱う六フッ化ウランは、大気圧下では常温で白色の不燃性の固体であるが、それ自体から放射線を発する放射性物質であること、<3>本件施設には最大でウラン量にして二四八二トンのウランが貯蔵され、このうち濃縮ウランは一六二トンであること、<4>本件施設で製造貯蔵される濃縮ウランは、天然ウランと比較して核分裂性の高いウラン二三五の含有比率が高いものの、その濃縮度は五パーセント以下であること、<5>本件施設は、原子力エネルギーを発生利用する施設ではなく、構造設備はむしろ一般の工業プラントに類するもので、六フッ化ウランを未臨界の状態のまま加熱、遠心分離、冷却固化、圧縮及び液化するのみの、さほど複雑とはいえない工程のものであること、<6>遠心分離法によるウラン濃縮技術は、各種の試験研究や技術開発を経て実用化されており、本件施設はそれらの研究開発の成果を踏まえて建設された商業プラントであること、以上の事実が認められる。
これらの事実を踏まえ、本件施設の立地場所との距離関係を中心として、地形や地勢を考慮しながら社会通念に照らし勘案すると、本件施設の設置許可の際に行われる規制法一四条一項二号所定の技術的能力の有無及び三号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落がある場合に起こり得る事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される範囲の住民に属する原告としては、原告Aを除く原告らのうち別紙当事者目録<略>記載の番号五二、五三、六三ないし七四の合計一四名がこれに該当するというべきであり、これらの原告のみが、本件許可処分の無効確認を求める本件主位的請求において、行訴法三六条所定の「法律上の利益を有する者」に該当するものと認められる。
四 右に説示したところによれば、原告Aを除く原告らのうち右の範囲の者は、本件の主位的請求である無効確認訴訟において原告適格を有するといえるが、その余の原告らは、主位的請求における原告適格を欠く者といわざるを得ず、その訴えはいずれも不適法なものとして却下を免れない。
第二被告の主張に対する判断
被告は、規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号の保護利益に関し、本件施設の周辺住民の居住する地域が加工施設の事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かについて、本件施設の潜在的危険性は原子炉施設と比較すると比べようのないほど小さいとして、六ヶ所村も含め原告らの居住する地域はいずれも本件施設の放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるとはいえないと主張する。
しかしながら、前記(第一の三)で掲げた諸事情を踏まえて検討すると、本件施設において加工事業を行おうとする者が所定の技術的能力を欠き又は本件施設の安全性が確保されない場合にも、前記一四名の原告ら(その居住地で本件施設から最も近いものの本件施設との距離は一・五キロメートルである。)にさえ、本件施設の事故等による災害により直接的かつ重大な被害が及ばないとする被告の主張は、被告が主張する本件施設の潜在的危険性が相対的に小さいことを前提としても、なお社会通念に照らした合理的判断として容認できないというべきである。したがって、被告の主張は理由がない。
第三原告らの主張に対する判断
原告らは、規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号の保護利益に関し、本件施設の事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域の範囲として、放射性物質の大気中への拡散と摂取モデルにより算出した被曝量を根拠に、東京都を含む本件施設から半径六〇〇キロメートル以上の範囲であると主張している。
しかしながら、右の算定及びその妥当性の裏付けとなる的確な証拠はなく(もっとも、原告らは、その根拠として<証拠略>を提出するけれども、<証拠略>でも、本件施設での臨界事故が起きたときの一般公衆に対する被爆線量の評価は、臨界の規模(核分裂するウランの量と継続時間)、放出核種の想定、放射能放出のタイミング、放出の経路など非常に複雑、かつ、想定による評価幅(誤差)が大きく不確実性を伴うことが指摘されているし、そもそも建屋内から外部へのウラン漏洩量の算出について何ら根拠を示していないから、<証拠略>の被爆線量の評価結果を直ちに採用することはできない。)、その上、右の主張における被害は、本件施設から放出された放射性物質が、周辺環境を介して広範囲に拡散する中で人体へ摂取されることにより生じるものであって、本件施設の事故により直接もたらされるものとはいい難く、このような遠隔地に居住する住民について想定される被害は、もはや加工施設周辺に居住している住民について認められる個別具体的な被害の域を超えて、広く一般公衆について等しく考えられる抽象的、一般的な被害という性質を有するにすぎないというべきであるから、そのような被害を受けるにとどまる住民の生命、身体の安全等は、規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号の保護法益との関係では、個々人の個別的利益として保護されるものではないと解するのが相当である。したがって、原告らの主張する被曝被害の可能性を理由に、右の範囲に居住する原告らの生命、身体の安全等が規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号の規定により保護された利益であると認めることはできない。
また、原告らは、規制法一四条一項二号(経理的基礎に係る部分に限る。)が、加工施設の災害防止を資金面から担保し、もって周辺住民個々人の利益をも保護する趣旨のものであると主張するが、右規定の目的は、先にみたとおり(第一の二2)、多額の資金を要する加工事業の円滑な遂行を保障するに足りる財源的裏付けがあることを確保することにあるのであって、この加工事業の円滑な遂行の一環として加工施設の安全性は抽象的に確保され、これを通じて公衆の生命身体の安全等の個々的な利益の保護も間接的には図られるものの、そのような具体的な利益は、右規定との関係における限りは、加工事業の円滑な遂行という一般的公益の中に吸収解消されており、当該公益の実現を通じて反射的に保護される利益にすぎないものと解するのが相当である。したがって、右主張もまた理由がない。
第二章 本案の争点に対する判断
第一はじめに
行政処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならないから、行政処分の無効確認訴訟において原告が主張すべき無効事由も、処分の重大かつ明白な瑕疵に限られる(最高裁判所昭和三六年三月七日第三小法廷判決・民集一五巻三号三八一頁参照)。
第二本件許可処分の法律上の根拠の有無
規制法二条六項(現在の同条七項)は、同法において「加工」とは、「核燃料物質を原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために、これを物理的又は化学的方法により処理することをいう。」と定義している。そして、同条二項は、核燃料物質につき、原子力基本法三条二号に規定する核燃料物質、すなわち「ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質であって、政令で定めるもの」と定義し、右政令の定めである核燃料物質、核原料物質、原子炉及び放射線の定義に関する政令(昭和三二年政令第三二五号)一条は、一号として「ウラン二三五のウラン二三八に対する比率が天然の混合率であるウラン及びその化合物」を掲げている。
そして、前記前提事実等によれば、本件施設は、ウラン二三五のウラン二三八に対する比率が天然の混合率であるウランの化合物である六フッ化ウランという核燃料物質を取り扱う施設で、その事業目的は、軽水炉の燃料として使用できるようにウラン中のウラン二三五の存在比率を天然ウランより高めた濃縮ウランを製造することにあり、そこで用いられる濃縮方法は、高速で回転する円筒中に働く遠心力という物理作用を利用してウラン二三八と質量数の異なるウラン二三五を円筒の内側に多く集め取り出す遠心分離法である。そうすると、本件施設で行われるウラン濃縮は、核燃料物質である六フッ化ウランを、原子炉である軽水炉で燃料として使用できるウラン二三五の高い組成の濃縮ウランとするために、遠心分離法という物理的方法により処理するものということになるから、規制法二条六項にいう「加工」に該当するというべきである。
これに対し、原告らは、ウラン濃縮は一般に規制法二条六項にいう「加工」に該当しないと主張するところ、その理由として縷々主張する点は、いずれも右の法文の解釈を妨げるには至らない。
第三憲法一三条、一四条、二五条違反
原子力基本法は、一条で、「この法律は、原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上に寄与することを目的とする。」と定め、二条において、基本方針として、「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。」と定めている。また、同法の規定を受けて制定された規制法は、一条で、その目的につき、「この法律は、原子力基本法(中略)の精神にのつとり、核原料物資、核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ、かつ、これらの利用が計画的に行われることを確保し、あわせてこれらによる災害を防止して公共の安全を図るために、製錬、加工、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関して必要な規制等を行う(中略)ことを目的とする。」と規定するとともに、二章ないし五章の二において、製錬、加工、再処理及び廃棄の各事業並びに原子炉の設置、運転等に関する規制に関する諸規定を設けている。このように、原子力基本法及び規制法は、原子力利用の内包する危険性を踏まえ、原子力発電や核燃料サイクルの各過程において原子力利用の安全性を確保し、右の危険性が現実化しないようにするために法規制を行っているのであるから、これらの法律について、憲法一三条、一四条ないしは二五条に反し違憲であるとすべき事由は認められない。
原告らの主張は、いわゆる死の灰やプルトニウムの危険性を根拠に右各法律が原子力発電や核燃料サイクル自体の存在を禁止していない点を違憲とするものであるが、憲法一三条、一四条ないしは二五条がそのような趣旨を含むと解することはできないから、右主張は理由がない。
第四憲法三一条違反
一 行政手続は、憲法三一条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、常に必ず行政処分の相手方等に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるなどの一定の手続を設けることを必要とするものではないと解するのが相当である(伊方最高裁判決)。
そして、加工事業許可の申請が規制法一四条一項各号所定の基準に適合するかどうかの審査は、当該申請者の技術的能力や加工施設の安全性に関する極めて高度な専門技術的判断を伴うものであり、同条二項は、右許可をする場合に、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会ないしは原子力安全委員会の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならないと定めている。このことからすれば、規制法が、許可手続の審査資料の公開や加工施設設置予定地の周辺住民に対する説明会の開催、告知聴聞の手続又は同意取得につき規定を設けていないことをもって、規制法が憲法三一条の趣旨に反するということはできない。したがって、右の点をもって憲法三一条違反をいう原告らの主張は理由がない。
また、本件許可申請書、添付書類その他の安全審査資料が公開されず、原子力安全委員会の審査も公開されなかったし、公開ヒヤリングも開催されずに行われ本件安全審査には、憲法三一条、二一条等に違反する看過し得ない違法があるとする原告らの主張も、規制法等の関係法規に照らし、規制法一四条一項三号に基づく安全審査において、事前の資料公開や公開ヒヤリングの開催を義務づける規定がないことは明らかであり、これら憲法の規定が右のような資料公開等を義務づける根拠とはならないから、その前提において失当であるといわざるを得ない。
二 規制法一四条一項各号は、加工事業許可の基準につき定めているところ、同項三号は、加工施設の安全性に関し、加工施設の位置、構造及び設備が核燃料物質による災害の防止上支障がないものであることを掲げているが、それは、加工施設の安全性に関する審査が、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づいてされる必要がある上、科学技術は不断に進歩、発展していることから、加工施設の安全性に関する基準を具体的かつ詳細に法律で定めることは困難であるのみならず、最新の科学技術水準への即応性の観点からみて適当ではないとの見解に基づくものと考えられ、右見解は十分合理性を有するものといえる。しかも、加工事業許可に当たっては、申請に係る加工施設の位置、構造及び設備の安全性に関する審査の適正を確保するため、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を聴きこれを十分に尊重するという慎重な手続が定められていることを考慮すると、右規定が定量的でない又は不明確であるとの非難は当たらないというべきである。したがって、右規定が定量的でなく、あるいは一義的に明確とはいえないことを前提とする原告らの憲法三一条違反の主張は、その前提を欠いており理由がない。
第五まとめ
右のとおり、本件許可処分に重大かつ明白な瑕疵があるとはいえないから、一四名の原告らの本件許可処分の無効確認を求める主位的請求はいずれも理由がない。
第三章 結論
以上によれば、本件訴訟のうち原告Aに関する部分については、死亡による終了宣言をすることとし、同原告を除く原告らのうち、別紙当事者目録<略>記載の番号五二、五三及び六三ないし七四の合計一四名以外の原告らの本件許可処分の無効確認を求める主位的請求に係る訴えは、いずれも原告適格を欠き不適法であるからこれを却下すべきものであり、その余の右一四名の原告らの主位的請求は、いずれも理由がないから棄却を免れない。
第四部 予備的請求に対する判断
第一章 原告適格
本件の主位的請求である本件許可処分の無効確認訴訟における原告適格につき前に説示したところ(第三部第一章第一)は、予備的請求である本件許可処分の取消訴訟にも妥当する。したがって、原告Aを除く原告らのうち、別紙当事者目録<略>の番号五二、五三及び六三ないし七四の合計一四名の原告らは本件予備的請求における原告適格を有するものの、その余の原告らは、予備的請求における原告適格を欠いており、その訴えはいずれも不適法なものとして却下を免れない。
第二章 審査判断の枠組みに関する法律論
第一取消訴訟における処分の違法事由の主張制限
原告らは、取消訴訟である本件予備的請求において、自己の法律上の利益に関係のない違法を取消事由として主張することはできない(行訴法一〇条一項)。
そして、行訴法一〇条一項にいう法律上の利益は、行訴法九条の原告適格の基礎となる法律上の利益と同義であると解されるところ、前記(第三部第一章第一の二、第四部第一章)のとおり、原告らの本件取消訴訟における原告適格を基礎づける法律上の利益は、規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号が保護の対象としている原告らの生命、身体の安全等である。したがって、原告らが本件取消訴訟において取消事由として主張できる実体法上の事由は、規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号の要件にかかわる違法事由のうち、原告らの生命、身体の安全等に関するものに限られる。
そうすると、原告らの主張のうち、規制法一四条一項二号(経理的基礎に係る部分に限る。)要件適合性や同項三号要件適合性のうち労働者被曝に関する事項等は、本件予備的請求においては主張することが許されず、その主張はそれ自体失当といわざるを得ない。
第二加工事業許可における審査の対象
一 規制法は、その規制の対象を、製錬事業(第二章)、加工事業(第三章)、原子炉の設置、運転等(第四章)、再処理事業(第五章)、廃棄事業(第五章の二)、核燃料物質等の使用等(第六章)、国際規制物質の使用(第六章の二)に分け、それぞれにつき内閣総理大臣の指定、許可、認可等を受けるべきものとしているのであるから、第三章所定の加工の事業に関する規制は、専ら加工事業の許可等の同章所定の事項をその対象とするものであって、他の各章において規制することとされている事項までをその対象とするものでないと解すべきである。
また、規制法第三章の加工の事業に関する規制の内容をみると、加工事業の許可、変更の許可(一三条ないし一六条)のほかに、設計及び工事の方法の認可(一六条の二)、溶接の検査(一六条の四)、使用前検査(一六条の三)、保安規定の認可(二二条)等の各規制が定められており、これらの規制が段階的に行われることとされている。したがって、加工の事業の許可の段階においては、専ら当該加工施設の基本設計のみが規制の対象となるのであって、後続の設計及び工事の方法の認可手続や保安規定の認可手続等の段階で規制の対象とされる当該加工施設の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないものと解すべきである。
右にみた規制法の構造に照らすと、加工の事業の許可の段階の安全審査においては、当該加工施設の安全性にかかわる事項のすべてをその対象とするものではなく、その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である(伊方最高裁判決参照)。
二 右によれば、後に詳しくみるように、原告らの主張のうち、加工事業許可の段階の安全審査の対象となる当該加工施設の基本設計の安全性にかかわらない事項についての主張は、それ自体失当というべきである。
そのほか、原告らは軍事転用の危険性を指摘して本件施設が原子力の平和目的利用を定める原子力基本法二条に違反する旨主張するけれども、この規定が個々の原子力の利用に係る許可手続を直接規制するものとは解されないから、原子力の平和目的利用が本件許可処分の要件であることを前提にする原告らの主張は、その前提において失当というべきである。
三 原告らは、右の基本設計の範囲については客観的基準がなく、その範囲は恣意的に定められている旨主張しており、弁論の全趣旨によれば、基本設計の範囲を客観的に明らかにする基準は存在しないことが認められる。
しかしながら、規制法一六条一項、加工事業規則三条の二第一項の規定に照らすと、加工施設の基本設計は、加工事業許可に当たり審査確認されたそれ自体は抽象的、概括的な概念にすぎない規制法一四条一項三号所定の安全性と加工施設の具体的な設計及び工事の方法とを架橋し、右安全性を具体化しながら、具体的な設計及び工事の方法が加工事業許可を受けた基本設計によるものであることが確認されることを通じて右安全性が実現されるという機能を有するものであるということができ、したがって、加工施設の基本設計に求められる内容も、もとより加工施設の建物及び施設の具体的な設計である必要はなく、設計及び工事の方法の認可手続における具体的な設計及び工事の方法につき安全性を審査するための規範ないしは枠組みとして機能するに足りる内容である必要があるとともに、かつそれで足りるというべきである。そしてまた、後に第三の一でみるように、規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号所定の基準の適合性が各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねられていることからすれば、右判断に必要な加工施設の基本設計の具体性の程度や判断の対象となる事項の取捨選択も、同様に右の内閣総理大臣の合理的な判断に委ねられているものと解されるから、安全審査の対象である基本設計の具体性の欠如や範囲の問題は、これに関する安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がある場合に限り、これに基づく内閣総理大臣の判断を不合理なものとして加工事業許可処分の取消事由となるものというべきである。
第三司法審査の在り方
一 審理、判断の方法
前記(第三部第一章第一)のとおり、加工事業許可の基準として、規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号が設けられた趣旨は、加工施設が、原子核分裂の過程において高エネルギーを放出するウラン等の核燃料物質を多量に内部に保有して取り扱い、これを原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために物理的又は化学的方法により処理する施設であって、加工事業を行おうとする者がその事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を欠くとき、又は加工施設の安全性が確保されないときは、当該加工施設の従業員やその周辺住民の生命、身体等に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射性物質によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすことがあることにかんがみ、このような災害が起こらないようにするため、加工事業許可の段階で、加工事業を行おうとする者の技術的能力の有無並びに申請に係る加工施設の位置、構造及び設備の安全性につき科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される。
右の技術的能力を含めた加工施設の安全性に関する審査は、当該加工施設そのものの工学的安全性、平常運転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への放射線の影響、事故時における周辺地域への影響等を、加工施設予定地の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の社会的条件及び当該加工事業者の右技術的能力との関連において、多角的、総合的見地から検討するものであり、しかも、右審査の対象には、将来の予測に係る事項も含まれているのであって、右審査においては、原子力工学はもとより、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして、規制法一四条二項が、内閣総理大臣は、加工事業の許可をする場合においては、同条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号所定の基準の適用について、あらかじめ原子力委員会の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならないと定め、さらに、原子力安全委員会には下部組織として学識経験のある者及び関係行政機関の職員から任命される審査委員で組織される核燃料安全専門審査会が置かれ、原子力安全委員会委員長の指示に基づき核燃料物質に係る安全性に関する事項を調査審議することとされているところ(設置法一九条、二〇条・一七条)、規制法が加工事業許可処分に当たり右のような手続を設けているのは、加工施設の安全性に関する審査の特質を考慮し、右各号所定の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねる趣旨と解するのが相当である。
以上の点を考慮すると、右の加工施設の安全性に関する判断の適否が争われる加工事業許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた内閣総理大臣の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該加工施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、内閣総理大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、内閣総理大臣の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく加工施設設置許可処分は違法と解すべきである(伊方最高裁判決参照)。
二 立証責任
加工事業許可処分についての取消訴訟においては、前記の処分の性質にかんがみると、内閣総理大臣がした判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解されるが、当該加工施設の安全審査に関する資料を、すべて平成一三年一月六日の中央省庁等改革関係法施行法による規制法の改正に伴い右処分の権限を承継した被告の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、内閣総理大臣の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告が右主張、立証を尽くさない場合には、内閣総理大臣がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである(伊方最高裁判決参照)。
三 判断基準時
取消訴訟は、行政庁の処分に関する判断の適否を審査する抗告訴訟であり、その適否判断の前提とすべき事情も、当該処分当時に存在していたものに限られるというべきである(最高裁判所昭和二七年一月二五日第二小法廷判決・民集六巻一号二二頁参照)。
これに対し、原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の調査審議において用いられた具体的審査基準の合理性の有無や右調査審議及び判断の過程における過誤、欠落の有無を判断するに当たり用いられるべき科学技術水準は、法適用の前提となる事実そのものではなく、事実認定の際に適用される経験則のうち科学性・技術性・専門性があるものにすぎないから、前記のとおり、現在の科学技術水準を用いるのが相当である。
第三章 本件許可処分の手続的適法性
第一当裁判所の判断
前記前提事実等で認定した本件許可申請がされてから本件許可処分に至るまでの手続経過は、規制法等所定の手続に適合した適法なものと認められる。
また、規制法一三条二項は、加工事業を行おうとする者が提出すべき申請書の記載事項として、<1>氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名、<2>加工設備及びその付属施設を設置する工場又は事業所の名称及び所在地、<3>加工施設の位置、構造及び設備並びに加工の方法、<4>加工施設の工事計画を挙げている。また、同条一項は、加工の事業を行おうとする者は政令で定めるところにより内閣総理大臣の許可を受けなければならないと定め、これを受けて、加工事業規則二条一項は、右申請書の記載について細目を定めている。このほか、規制法施行令三条二項は、規制法一三条一項を受けて、右許可を受けようとする者は、事業計画書その他総理府令で定める書類を添えて申請しなければならないと規定し、当該総理府令の定めである加工事業規則三条二項は添付すべき各種書類を掲げている。そして、<証拠略>により認められる本件許可申請書の記載内容は、右各法規の定める記載事項を満たすものということができる。
右によれば、本件許可処分は、規制法その他の関係法規に基づいて手続的に適法に行われたものということができる。
第二原告らの主張に対する判断
一 本件許可申請書及び添付書類の不備
1 原告らは、加工事業規則二条一項一号ニ(ロ)所定の記載事項である「主要な設備及び機器の種類及び個数」に関し、本件許可申請書において遠心分離機の具体的な機種及び個数が明記されていないと主張する。
<証拠略>によれば、本件許可申請書の別添書類「加工施設の位置、構造及び設備並びに加工の方法」六頁においては、右事項につき、設備としてカスケード設備、主要な機器として遠心分離機、個数として四組等と記載されていることが認められ、確かに、本件許可申請書には遠心分離機の具体的な機種や個数が記載されてはいないけれども、本件施設の遠心分離装置については、複数の遠心分離機群で構成されるカスケード設備自体を主要な設備として捉えた上でその種類及び個数について記載されているのであり、加工事業規則二条一項一号ニ(ロ)の要請を満たしているといえる。これ以上に、個々の遠心分離機の具体的な種類及び個数の記載を求めることは、加工事業規則が本来予定していないカスケード設備の具体的な仕様の記載を求めることになるが、加工事業規則からそのような趣旨を読みとることはできない(なお、加工事業規則は、その制定当初、各種の加工施設について、主要な設備及び機器の種類、仕様及び個数を申請書に記載するよう求めていたが、このうち、仕様の記載を求める部分は、昭和四三年総理府令四三号による改正により削除された。)。したがって、原告らの主張は、理由がない。
2 このほか、原告らが本件許可申請書又はその添付書類の不備として主張する事由のうち、本件施設の基本設計の安全性にかかわる事由は、いずれも、規制法、規制法施行令又は加工事業規則に定められた所要の記載事項に関するものではないから、本件許可処分の手続的適法性を左右するものとはいえず、主張自体失当である。
二 審査主体の問題点
1 原告らは、原子力委員会の構成員に、原子力産業の関係者が多数構成員となっていると主張する。
しかしながら、原子力委員会は、本件許可処分との関係では、規制法一四条一項一号及び二号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用について内閣総理大臣から意見を求められるにすぎず、その構成の問題は、規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号の要件の審査に影響をもたらす可能性のない事由である。したがって、右主張は、原告らの法律上の利益に関係がない違法を理由とするものであり、それ自体失当である。
2 原告らは、原子力安全委員会には本件許可処分に係る加工事業を推進する立場の専門家が加わっているほか、同委員会に設置される核燃料安全専門審査会にも、同様に会長の高島洋一を始め原子力利用の推進派の人物が多数含まれており、委員の構成上原子力委員会に厳正な審査を求めることは極めて困難である旨主張する。
しかし、右の主張は、高島洋一を除くほか、原子力安全委員会の委員ないし核燃料安全専門審査会の審査委員のうちいずれの人物をもって原告らのいう推進派であるかにつき具体的な主張立証を欠いている上、その推進派である人物が多数委員となっていることにより直ちに原子力委員会が厳正な審査をすることができなくなるともいえないから、理由がなく採用できない。そして、右主張のうち高島洋一なる人物に関する部分も、<証拠略>によれば、同人が昭和六〇年一二月一七日当時埼玉大学教授の身分にあった濃縮ウランの遠心分離技術に関する専門家であり、ウラン濃縮懇談会の設置当時の構成員であったとは認められるものの、この事実をもって同人を原告らのいう推進派の人物であるとか、同人の審査委員としての参加によって核燃料安全専門審査会の厳正な審査が困難になった等の事実を認めることはできないから、やはり理由がない。
3 原告らは、JCOに対して加工事業許可がされた際に核燃料安全専門審査会第八部会が担当して行った安全審査は、臨界事故を想定していない点及び非現実で過少な最大想定事故評価を容認した点において誤りであったとして、核燃料安全専門審査会及びその第八部会の部会長であり本件安全審査を担当した同審査会第二三部会の部会長をも務めていた青地哲男にはいずれも核燃料サイクル施設の安全審査をする能力が欠落しており、本件安全審査には看過し難い過誤、欠落があると主張する。
しかしながら、仮にJCOに対する加工事業許可処分のための核燃料安全専門審査会第八部会の安全審査に誤りがあったとしても、その事実をもって直ちに核燃料安全専門審査会全体や右青地の安全審査担当者としての資質に問題があるとするのは論理に飛躍があるし、他に核燃料安全専門審査会や右青地において本件安全審査を適切かつ公平に行う上で審査体制の不備ないし資質上の問題があることをうかがわせる資料はない。したがって、原告らの主張は理由がない。
4 原告らは、原子力安全委員会について、独自の調査研究能力がない点及びこれまで一度も許可申請につき要件不適合との答申をしたり原子力安全に関する根本的問題提起をしたことがないことを根拠に、安全審査をすることが能力的に不可能であると主張する。
しかしながら、原子力安全委員会の委員は、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する者である(設置法二二条・五条一項)上、同委員会には、委員長の指示があった場合に核燃料物質に係る安全性に関する事項を調査審議する常設の機関として四〇名以内の審査委員で組織される核燃料安全専門審査会が置かれ、右審査委員は、学識経験のある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命することとされている(設置法一九条、二〇条・一七条一項、設置法施行令六条二項)。さらに、原子力安全委員会には、専門の事項を調査審議させるために専門委員を置くことができ、専門委員もまた学識経験がある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣により任命されることとされている(設置法施行令八条・三条)ほか、原子力安全委員会は、その所掌事務を行うため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、報告、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができることとされている(設置法二五条)。これらの事実に照らすと、原子力安全委員会は、安全審査のために質的にも量的にも十分な人的体制及び調査権限を有しているといえ、同委員会に独自の調査研究能力がないとする原告らの主張は当たらない。また、同委員会がこれまで要件不適合との答申や根本的問題提起をしたことがないとする点は、そのような事情は同委員会の安全審査に必要な資質の有無を左右するものとはいえないから、主張自体失当である。
三 審査の実態に関する問題点
1 原告らは、本件許可申請についてされた審査は許可を前提とした恣意的かつ不公正なものであると主張し、その根拠として縷々主張する。
しかし、このうち、本件安全審査の過程において六ヶ所村とそれ以外の候補地との立地条件の比較検討がされていないことをいう点は、加工事業許可申請に対する安全審査が、申請に係る特定の場所に設置される加工施設の安全性を審査するための制度であって、加工施設の設置のために適切な立地を広く検討して選定する手続ではない以上、主張として失当というほかない。また、その余の点は、いずれも国等が本件施設を含む核燃料サイクル関係施設の六ヶ所村への設置計画の推進に関与していることをいうものであるが、原子力安全委員会の委員に一定の身分保障があること(設置法二二条、六条、七条)、内閣総理大臣は同委員会の安全審査に関する決定の報告を受けたときはこれを十分に尊重しなければならないとされていること(設置法二三条)及び実際にも内閣総理大臣が原子力安全委員会の答申に沿った内容のものとして本件許可処分をしていること(前提事実等)に照らすと、原告らが主張する事由を前提としても本件安全審査が恣意的ないしは不公正であるとはいえない。
2 また、原告らは、審査の杜撰さとして、原子力安全委員会や核燃料安全専門審査会の構成員が会議にほとんど出席せず一部の者に審査を任せており、審査は著しく形骸化して内容も杜撰であると主張するが、これに沿う事実を認定するに足りる的確な証拠はないから、右主張は理由がない。
四 指針による審査の違法性
1 原告らは、本件安全審査において重要な役割を果たす核燃料施設基本指針及び加工施設指針が、いずれも単なる原子力安全委員会の決定にすぎず、法律上の根拠を持たないとして、これらの指針に基づいた本件安全審査に手続的違法があると主張する。
しかしながら、本件安全審査は、その合理性を十分首肯し得る規制法一四条一項三号の規定に基づき、所定の手続にのっとり行われたものであるから、仮に審査で用いられた基準が法律に根拠がないものであるとしても、そのような事情が安全審査及び加工事業許可処分の手続的違法をもたらす事由に当たるとは解されない。したがって、右主張は理由がない。
2 また、原告らは、規制法における「加工」の解釈や加工施設指針の文言を理由として、濃縮施設は加工施設指針の適用対象ではないと主張する。しかし、規制法にいう加工施設は濃縮施設を含むものと解すべきことは前記のとおりであるし、<証拠略>により認められる加工施設指針の文言によっても、加工施設指針がウラン加工施設の中で濃縮施設を適用対象外としているとは解されないから、原告らの主張は、理由がなく採用できない。
五 その他の手続上の問題点
原告らが本件許可処分の手続的違法事由として主張するその余の事情は、いずれも規制法等で履践が求められている手続にかかわるものではないから、本件許可処分の手続的適法性を左右するものではない。したがって、これらの主張は、いずれも理由がない。
第四章 規制法一四条一項二号要件適合性
第一はじめに
原告らは、規制法一四条一項二号のうち経理的基礎に係る部分の要件にかかわる違法事由を本件予備的請求において主張することはできず、その主張はそれ自体失当であることは、前記第二章第一で説示したとおりである。したがって、本章では、同号の要件のうち技術的能力に係る部分に関する主張のみを争点として取り上げ、判断することとする。
前記前提事実等における手続経過によれば、内閣総理大臣は、規制法一四条二項の規定に基づき、同条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)の許可基準の適用につき原子力安全委員会に諮問し、これを妥当とする旨の同委員会の答申を受け、これに依拠して本件許可処分を行ったものと認められる。
そこで、以下、前記第二章第三の一で説示したところに従い、内閣総理大臣の右判断に不合理な点があるか否かにつき、現在の科学技術水準に照らし、右判断が依拠した原子力安全委員会の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該加工施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるか否かという観点から検討を加えることとする。そして、具体的な判断順序としては、前記第二章第三の二で説示したところにより、まず、被告の主張立証に基づき右の具体的審査基準における不合理な点の有無並びに調査審議及び判断の過程における看過し難い過誤、欠落の有無につき判断検討し、右不合理な点又は過誤、欠落があるものとは認められない場合に、すすんで、右不合理な点又は過誤、欠落があるとする原告らの主張について判断することとする。
第二技術的能力に関する調査審議及び判断の過程
<証拠略>及び前記前提事実等を総合すると、次の事実が認められる。
一 科学技術庁は、本件許可申請が昭和六二年五月二六日に受理された後、規制法一四条二項所定の諮問に先立つ一次審査として、同条一項各号の要件充足性に関する審査を行った。科学技術庁は、同年一二月までに一次審査を終え、原燃産業の技術的能力については、<1>原燃産業が、遠心分離法によるウラン濃縮プラントの建設、運転に当たって、動燃事業団が保有するウラン濃縮技術を継承するとともに、先行プラントへの出向及び研修機関への派遣を通じて技術者の養成に努めており、今後とも定期採用等により逐次増強を図り、事業開始までに約一二〇名の技術者を確保することとしていること、<2>当時原燃産業は七三名(核燃料取扱主任者免状を有する者二名を含む。)の技術者が施設の設計等の業務に従事しており、このうち原子力関係業務に一〇年以上従事した者が約四割を占めていること、<3>運転開始後の運転管理に当たって、運転課、補修課、技術課、安全管理課等からなる組織を設けることとしていること、を理由に、原燃産業に加工の事業を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める旨判断した。
そして、内閣総理大臣は、同年一二月一六日、原子力安全委員会に対し、規制法一四条二項に基づき、同条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)及び三号に規定する基準の適用について書面により意見を求め、その別紙において技術的能力に関する科学技術庁の右判断内容を提示した。
二 原子力安全委員会は、昭和六三年七月二一日の第二九回定例会議で、原燃産業の技術的能力に関する審査を他の議題の審議とともに約二〇分間にわたり実施し、原子力安全委員会事務局から配布資料「日本原燃産業株式会社六ヶ所事業所における核燃料物質の加工の事業の許可に係る技術的能力について(案)」(<証拠略>)に基づく説明を受けた後、審議を行った。
右配布資料は、重点的に確認すべき事項として、(一)事業を適確に遂行するに必要な各部門が確立されることとなっており、また各部門に実務経験、知識等を有する管理者が確保される見通しがあること及び事業を適確に遂行するに必要な技術者が確保されているか又は確実な養成計画を有すること、(二)法律上必要な核燃料取扱主任者等の有資格者が確保されること、(三)建設・運転の各段階における品質保証活動を体系的に実施できること、(四)その他、が掲げられ、それぞれの事項に関する本件許可申請の適合性については、次のとおりの内容であった。
1 右(一)について
事業を適確に遂行するに必要な各部門としては、本社にウラン濃縮部、ウラン濃縮技術開発部、土木建築部、安全管理部等が、六ヶ所事業所に技術課、安全管理課、運転課、保修課等が設けられる。
これらの各部門に必要な技術者(管理者を含む。)は、本社約四〇名、六ヶ所事業所約一二〇名であり、現在、約一〇〇名の技術者が施設の設計等の業務に従事している。これらの技術者は、電気、機械、原子力、化学、土木、建築等の技術者であり、このうち管理職員の原子力関係業務平均従事年数は約一四年、一般職の右年数は約三年、全体では約八年である。このため事業遂行に必要な技術者の確保については、今後の定期採用等により増強を図ることとしている。
また、採用した技術者に対しては、動燃事業団への派遣によるウラン濃縮工場の設計、建設及び運転に関する実務の修得、研修機関等への参加による関連知識の修得等による技術的能力の涵養及び養成のほか、必要に応じ動燃事業団等の技術的協力を受けることとしている。
以上のことから本事業を適確に遂行するに必要な管理者及び技術者は確保し得るものと判断する。
2 右(二)について
申請者は昭和六三年六月現在で核燃料取扱主任者有資格者三名、第一種放射線取扱主任者有資格者七名を有しており、また、技術者の確実な養成計画により、必要な有資格者を確保し得るものと判断する。
3 右(三)について
建設・運転の各段階における品質保証活動のため、本社に品質保証計画の基本的事項を定める品質保証委員会を、本社及び事業所間に品質保証に関する指導、調整、審議等を行う品質保証連絡会議を設けることとしており、所要の品質保証活動を体系的に実施できるものと判断する。
4 右(四)について
遠心分離法によるウラン濃縮技術については、動燃事業団によって昭和五四年よりパイロットプラントが運転され、さらに、現在同事業団によって原型プラントの建設が進められている。
このため原燃産業は、動燃事業団との間に「ウラン濃縮施設の建設、運転等に関する技術協力基本協定」及び「技術協力の実施に関する協定」を結び、同事業団の保有するウラン濃縮技術を継承することとしていることは、事業を適確に遂行する上に適切なことと判断する。
三 原子力安全委員会は、審議の中で、右資料の記載内容のほか、原燃産業が擁するウラン濃縮関係の技術者約一〇〇名(正確には九六名)のうち三一名が原子力関係業務への平均従事年数が一〇年以上の者であること及び原燃産業が本社及び六ヶ所建設準備事務所に既に必要な組織を有していることも併せ考慮し、その結果、内閣総理大臣による規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)の基準の適用は妥当なものと認めるとの結論に達し、その旨答申することを決定した。
四 原子力安全委員会は、昭和六三年七月一三日、内閣総理大臣に対し、規制法一四条一項に規定する許可基準の適用について答申し、その中で、同項二号(技術的能力に係る部分に限る。)に関して、審査した結果妥当なものと認めるとの判断を示した。
第三被告の主張に対する判断
右で認定した原子力安全委員会の調査審議において審査基準として用いられた重点的確認事項は、原燃産業の技術的能力を質的及び量的な人的側面で確保するとともに、組織的な側面から品質保証の裏付けを保障しようとするものであり、その内容が不合理とは認められない。そして、本件許可申請を右確認事項に照らして検討した結果、原燃産業に所定の技術的能力があるとの内閣総理大臣の判断を妥当なものとした原子力安全委員会の調査審議及び判断の過程も、確認事項に沿って必要な事項が本件許可申請書の記載により確認された結果のものといえ、これに看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。
第四原告らの主張に対する判断
一 原告らは、技術的能力の評価は申請者の過去の事業実績に対してするもので、将来の事業活動に対する見込み等は評価の対象とならないことを前提に、本件許可処分以前にウラン濃縮の試験研究や事業実績のない原燃産業には所定の技術的能力が欠けると主張する。
しかしながら、規制法第三章の加工の事業に関する規制は、加工事業の許可、変更の許可(一三条ないし一六条)のほかに、設計及び工事の方法の認可(一六条の二)、溶接の検査(一六条の四)、使用前検査(一六条の三)、保安規定の認可(二二条)等の各規制が定められ、これらの規制が段階的に行われることとなっていることに照らすと、規制法が、加工事業許可処分の段階で、申請者において実際の加工事業の適確な遂行に必要な人的、組織的あるいは技術的体制をあらかじめ現に具備していることまで要求しているものとは解されず、加工事業許可手続においては、将来必要な人員や組織等が整備されることが相当の具体性と実現可能性を備えた計画によって示されていれば、それで足りるというべきである。
したがって、これと異なる前提に立つ原告らの主張は、理由がない。
二 また、原告らは、本件施設の稼働開始後に事故ないし不具合が発生した事実をもって、原燃産業の運転管理能力の欠陥は明らかであると主張する。
しかし、原告らが指摘する事故ないし不具合(その内容は、後に第五章第三の五7でみるとおりである。)は、いずれも原燃産業において加工事業を適確に遂行するに足りる技術能力があるとした本件安全審査の前記判断の合理性を左右するに足りる事象であるとまでは認められない。したがって、原告らの主張は理由がない。
三 このほか、原告らは、JCO事故の原因や背景を根拠に、作業従事者の経験年数や核燃料取扱主任者の有資格者の有無ないし数は実際の技術的能力の有無とは無関係であるとして、JCOに対する加工事業許可処分と同様の審査がされたのみの技術的能力に関する本件安全審査には看過し難い過誤、欠落があると主張する。
しかしながら、核燃料取扱主任者免状は、科学技術庁長官が行う核燃料取扱主任者試験に合格する等した者に対して交付され、これを有する者は、加工事業又は再処理事業における核燃料取扱主任者又は廃棄事業における廃棄物取扱主任者に選任される資格があり、科学技術庁長官は、核燃料取扱主任者免状の交付を受けた者が規制法又は規制法に基づく命令の規定に違反したときはその免状の返納を命ずることができる(規制法二二条の二、二二条の三、五一条、五一条の二〇)。そして、核燃料取扱主任者試験は、核燃料物質取扱主任者の職務を行うに必要な専門的知識及び経験を有するかどうかを目的として行われる筆記試験で、試験事項は原則として<1>核燃料物質の化学的性質及び物理的性質、<2>核燃料物質の取扱いに関する技術、<3>放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術、<4>核燃料物質に関する法令の四項目である(加工事業規則八条の三)。さらに、加工事業者は、核燃料物質の取扱いに関して保安の監督を行わせるために核燃料取扱主任者を選任しなければならないとされている(二二条の二)。このように、核燃料取扱主任者免状の交付手続やその保有者の資格等につき一定の規制がされていることに照らすと、同免状の保有者は、核燃料物質の取扱いや放射線障害の防止の技術等加工事業の適確な遂行に有益な一定の知識と技術を有していることは否定できない。また、原子力関係業務の経験年数も、加工事業の適確な遂行に有益な人的資源に求められる資質の一つであることは否定できないところである。そうすると、右免状の保有者や原子力関係業務経験年数の長い者が、規範意識の鈍磨や作業上の慣れ、安全性への過信などが原因となって加工施設の安全を損なう行為に出る危険性があるとしても、あるいは原告らが主張するようにJCO事故の発生に核燃料取扱主任者免状を有する者の行為が何らかの寄与をしていたとしても、そのような危険は加工施設の作業従事者に対する継続的な研修や教育、啓発で防止されるべき性質のものであって、免状保有者の有無や人数、原子力関係業務の経験年数といった資質を有する人的資源が、加工事業者の所定の技術的能力の確保に全く資するところがないとまではいえない。
そして、先にみたとおり、技術的能力に関する本件安全審査は、原燃産業の従業員の右免状保有者数と原子力関係業務の経験年数のみに着目してされたものではなく、他にも原燃産業の組織体制や動燃事業団その他外部における実習研修による人的資源の質的向上や動燃事業団からの技術的協力あるいは技術移転の計画といった事情を考慮してされたものであるから、原告らの主張によっても、なお、技術的能力に関する本件安全審査に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
第五まとめ
以上検討したところによれば、本件許可申請について規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)要件適合性を認めた内閣総理大臣の判断には、不合理な点はないものということができる。
第五章 規制法一四条一項三号要件適合性
第一はじめに
前記前提事実等で認定した手続経過によれば、内閣総理大臣は、規制法一四条二項の規定に基づき、本件許可申請の同条一項三号の許可基準への適合性につき原子力安全委員会に諮問し、これを肯定する旨の同委員会の答申を受け、これに依拠して本件許可処分を行ったものと認められる。
そこで、本章では、前記(第二章第三の一、二)で説示したところに従い、内閣総理大臣の右判断に不合理な点があるか否かにつき、本項においては右判断が依拠した具体的審査基準に不合理な点があるか否かという点を、第二項以下においては本件施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるか否かという点をそれぞれ検討するほか、本項では、右具体的審査基準の合理性と併せて、本章の判断の前提となる基本的な考え方等についても裁判所の判断を示すこととする。
一 判断基準
規制法一四条一項三号が加工施設の位置、構造及び設備の安全性を確保して防止しようとしている災害は、その文言上、申請に係る加工施設が取り扱う核燃料物質に起因する災害を指すことは明らかである。そこで、本件施設が取り扱う核燃料物質である六フッ化ウランがいかなる潜在的危険性を有する物質であるかについてみた上で、本件許可処分の規制法一四条一項三号要件適合性を判断するに当たり、この六フッ化ウランのいかなる危険性に着目し、どのような基準を用いるべきかについて検討する。
1 事実認定
<証拠略>によれば、次の事実が認められる。
(一) 放射線の種類とその性質(<証拠略>)
放射線は、その種類ごとに、物質との相互作用及びその透過力、必要な遮へい方法等が異なっている。
アルファ線は、原子核のアルファ崩壊により放出される放射線で、陽子と中性子各二個で構成されるアルファ粒子の流れである。アルファ粒子は、正の二価の電荷を持ち、質量数は四で、その電荷や質量数が大きいことから物質との相互作用が大きく、このため透過力は極めて小さく、空気中でも数センチメートル程度しか透過できず、薄い紙一枚で完全に遮へいすることができる。ただし、このように短い距離で停止する間に他の物質と相互作用を行いその有するエネルギーを与えるため、同じ距離の中で他の物質を電離するような作用は、他の放射線に比べてはるかに大きい。
ベータ線は、原子核のベータ崩壊により放出される放射線で、ベータ粒子と呼ばれる電子又は陽電子の流れである。ベータ粒子の質量はアルファ粒子の約七〇〇〇分の一とアルファ線と比べるとはるかに小さいため、物質との相互作用は小さく、したがって透過力はアルファ線よりもかなり大きいが、空気中でも数十センチメートルないし数メートル程度しか透過できず、数ミリメートルないし一センチメートル程度の厚さのアルミニウムやプラスチックの板で完全に遮へいすることができる。
中性子線は、陽子とほぼ同じ質量を持ち電荷のない粒子である中性子の流れである。物質との相互作用の起こり方はその速度により異なり、したがって、透過力についても、低速度のものは透過力が小さいものの、高速度のものは透過力がかなり大きく、減速ないし遮へいされない限りは数キロメートル程度の距離にまで達することもある。中性子線は、水のように水素を大量に含む物質中を通し、質量のほぼ等しい水素の原子核と衝突させて減速させることができ、ホウ素やカドミウム等中性子を吸収する性質の強い物質により容易に遮へいすることができるようになる。中性子が他の元素の原子核に吸収されると、その原子核はもとの元素と質量数が異なる同位元素となるが、これは不安定なもの、すなわち放射性核種であることが少なくない。
これに対し、放射線のうち、電磁波であるガンマ線は、質量も電荷もないために物質との相互作用はベータ線と比べてもはるかに小さく、透過力が非常に大きい。これを遮へいするには厚い鉛板やコンクリート壁が必要である。
(二) ウラン等による放射線被曝の危険性(<証拠略>)
放射線による被曝の形態は、体外に存在する放射性物質が発する放射線を被曝する外部被曝と、飲食物の摂取又は空気の吸入に伴って体内に取り込まれた放射性物質が発する放射線を被曝する内部被曝の二種類に大別される。
このうち、ウランが放射性崩壊に伴って発するアルファ線又はベータ線は、右のとおり透過力が弱く、人体でも皮膚の部分でほとんどエネルギーが吸収されてしまうために、外部被曝ではさほど重要な問題にはならない。
これに対し、体内にウランが取り込まれた場合、体内におけるウランの代謝はウランの化学的形態(可溶性のウランか不溶性のウランかによる区別)及びウランの摂取経路(飲食物摂取によるか空気吸入によるか)等に依存し、体内に取り込まれたウランの一部は、排泄物、呼気等に混じって体外に排出され、一部が骨、腎臓等に蓄積されるが、このようにして体内に存するウランは、その発するアルファ線等が周囲の人体組織にエネルギーを与え、体内器官に大きな影響を及ぼすおそれがある。
このほか、ウランが核分裂反応を起こした場合には、放出された中性子のうち高速のものは時には数キロメートルの距離にまで達することがあり、人体組織を直接被曝させる外部被曝をもたらすほか、中性子を吸収した原子を放射性核種とする放射化現象を引き起こし、これにより生じた放射性物質が体内に取り込まれることにより生じる内部被曝を間接的にもたらすおそれがある。
(三) 環境中の放射線(<証拠略>)
自然界には、宇宙線と呼ばれる宇宙から降り注ぐ放射線があるほか、地殻を構成している花崗岩、石灰岩、粘土等の物質、あるいは飲食物中にも含まれている放射性物質から放出される放射線も存在している。放射線や放射性物質は、このように天然に存在するもののほか、人工的に作り出されるものもある。
自然放射線の被曝による一人当たりの線量当量は、居住地域や生活様式等によってかなりの差異を生じるが、平均して年間一・一ミリシーベルト程度であるとされており、その内訳は、宇宙線によるものが〇・三五ミリシーベルト程度、大地からの放射線によるものが〇・四ミリシーベルト程度、摂取された飲食物等からの放射線によるものが〇・三五ミリシーベルト程度とされている。さらに、土壌・建材等から発生し空気中に含まれるラドン(ラジウムの崩壊により生ずる放射性の気体)等により、平均して年間一ミリシーベルト程度を受けている。この自然放射線による一人当たりの線量当量は地域によってかなりの差異があり、国内においても最大の地域と最小の地域との間には年間〇・四ミリシーベルト程度の差異が認められる。ただし、局所的にはもっと高線量の場所も存在し、海外では約七ミリシーベルトを記録している地域もある。また、コンクリート造りの家屋の中で受ける線量当量は、コンクリートの中に含まれる天然の放射性物質からの放射線が加わって、木造の家屋の中で受ける線量当量の約一・五倍になる場合も決して珍しくないほか、高空では宇宙線を遮へいする効果のある空気の層が薄いため、高空を飛行する飛行機の中では地上よりも多く被曝することになり、例えば、パリ・ニューヨーク間をジェット機で一往復すると約〇・〇五ミリシーベルト多く被曝する。一方、大洋を航海する船舶の上では、大地からの放射線の影響がないので、受ける自然放射線量は少ない。
また、人工放射線の被曝による線量当量としては、例えば、胸部レントゲン間接撮影の場合には一回当たり〇・三ミリシーベルト程度、胃の集団検診の場合には一検査当たり四ミリシーベルト程度を被曝することになる。
自然放射線と人工放射線の性質やこれによる影響に区別はなく、放射線によって人体が受ける影響は、いずれも同一尺度である線量当量(単位はシーベルト)により表される。
(四) 放射線の人体への影響(<証拠略>)
(1) 高線量の放射線被曝による影響
高線量の放射線被曝による影響としては、放射線を被曝した個人に現れる身体的障害と、その個人の子孫に現れる遺伝的障害とに分けられる。また、放射線の人への影響は、確率的影響と非確率的影響とに分けて考えるのが便利な場合もある。前者は線量当量に応じて放射線の影響が確率的に現れるもので、がんや遺伝的障害の発生がその例である。後者は影響の強さ(重篤度)が線量とともに変わるもので、そのためにその線量以下では影響が現れないといった「しきい値」があり得るような影響で、白内障、皮膚障害等がその例である。
(ア) 身体的障害
身体的障害は、放射線被曝後数週間以内に現れる急性障害と、かなり長い潜伏期間を経て現れる晩発性障害とに分けられる。
このうち、急性障害は、短期間にあるレベル以上の線量の放射線に被曝した場合に初めて生じるものであって、線量当量、被曝部位等によってその障害の状況は異なるが、その症状としては、白血球の減少、皮膚の発赤(紅斑)、脱毛等があり、線量当量が高くなると造血組織の障害等により死に至ることもある。例えば、全身の線量当量が〇・五ないし一シーベルト程度の場合、白血球の一時的な減少が生じ、二・五ないし五シーベルト程度では、主として造血組織の障害のため被曝した人の半数が六〇日以内に死亡し、七ないし一〇シーベルト以上では、造血組織の障害により被曝した人の全員が死亡するといわれている。しかしながら、全身に〇・五シーベルト以下の放射線を被曝したときは臨床症状はほとんど発生しないといわれている。
また、晩発性障害は、放射線被曝により急性障害が生じ、それが回復した後に、又は放射線被曝時には何らの障害も現れないまま数年ないし数十年が経過した後に、被曝した人の一部に発生することがあり得ると考えられているが、その症状としては、白血病やその他のがん、白内障等がある。晩発性障害のうち白血病やその他のがんのような確率的影響については、それらの発生と線量当量との関係について、比較的高線量領域ではほぼ直線関係が成立することが認められている。
(イ) 遺伝的障害
遺伝的障害は、放射線の被曝により生殖細胞中にある遺伝子に変化(突然変異)が生じ、それが子孫に伝えられて障害として現れるものである。放射線の線量当量と遺伝的障害の発生との関係については、人間以外のいくつかの動物の場合に、比較的高線量領域ではほぼ直線関係が成立することが認められている。
(2) 低線量の放射線被曝による影響
低線量放射線の生物への影響は、身体的障害については、急性障害は右のように全身に〇・五シーベルト以下の放射線を被曝したときは臨床症状はほとんど発生しないといわれており、問題となるのは、晩発性障害及び遺伝的障害である。そして、晩発性障害の中でも、白内障のような非確率的影響については、低線量の放射線被曝によっては発生しないことがはっきりしており、しきい値があるとされている。
これに対し、晩発性障害のうち白血病やその他のがんのような確率的影響、あるいは遺伝的障害における障害の発生と線量当量との関係については、低線量の場合は自然放射線による影響との区別が困難であること、低線量の放射線の効果が線量に応じて小さくなることから影響の実験的証明に困難が伴うこと、生物には細胞や組織が持つ損傷回復力があり低線量の放射線の影響の現れ方が不分明であること、晩発性障害の潜伏期が長いこと、といった様々な理由から、その有無を明らかにする決定的な研究成果は得られていない。この点に関する研究としては、広島や長崎の原爆被害に関する経験的データや医療・原子力開発の従事者、原子力施設周辺住民等の被曝データに基づいた研究のほか、動植物に関する実験や観察による研究が行われているが、人的被害に基づいた研究は結果の評価が分かれており、動植物に関する研究も、その成果自体に対する評価のほかに研究結果の人間への応用の可否についても議論が分かれている。ただ、ショウジョウバエ、カイコやハツカネズミを用いて比較的低線量の放射線と遺伝子突然変異の間の直線関係を明らかにした研究については、その結果を直接人間に当てはめることはできないとしても、そのメカニズムを考えるとある程度までは人間にも当てはめてよいと考えられている。
(五) 規制値(当事者間に争いがない。)
(1) 環境上の規制値
本件許可処分当時、我が国においては、ウランによる内部被曝について、身体的障害及び遺伝的障害の発生の頻度を無視し得るほど小さいものとするため、周辺監視区域(人の居住を禁止し、かつ、業務上立ち入る者以外の者の立入りを制限する措置を講ずる区域)外につき、空気中と水中とに分けて、その許容濃度を、例えば天然ウランの場合はそれぞれ一立方センチメートル当たり二×一〇のマイナス一二乗マイクロキュリー及び六×一〇のマイナス七乗マイクロキュリーと定めていた(許容被曝線量等を定める件一〇条一項、六条一号、別表第三、加工事業規則一条四号)。これは、ICRPの体内放射線量に関する専門委員会IIの一九五九年(昭和三四年)報告及び同報告に対する一九六二年(昭和三七年)補遺を尊重し、放射線審議会の答申を受けて、同報告書中の天然ウランに係る最も厳しい値に基づき定められた数値であった。
しかし、右の許容被曝線量等を定める件は、本件許可処分の直前の昭和六三年七月二六日に科学技術庁の告示が出された線量当量限度等を定める件により平成元年三月三一日限りで廃止となり、同年四月一日以降は、線量当量限度等を定める件が、一九七七年(昭和五二年)のICRPの勧告及び一九八五年(昭和六〇年)のパリ声明に基づき、内部被曝については線量当量限度を基準としたより直接的な管理が可能なように、周辺監視区域外における空気中及び水中の放射性物質の濃度限度を、周辺監視区域外の公衆の個人が一年間呼吸し、又は水を一年間飲み続けた場合の内部被曝により一ミリシーベルトの実効線量当量となるような空気中及び水中の三か月の平均の放射性物質の濃度と定め、さらに、外部放射線、空気の吸入摂取及び水の経口摂取により併せて被曝する場合にあっては、これらによる線量当量を合計しても、公衆の個人の線量当量限度は実効線量当量で一年間につき一ミリシーベルトとすることを定めている(線量当量限度等を定める件九条一項、加工事業規則一条三号、七条の八第四号及び七号)。
(2) 公衆被曝の規制値
本件許可処分の当時、核燃料物質の加工施設における周辺監視区域外の許容被曝線量、すなわち公衆の許容被曝線量は、一年間につき〇・五レム(五ミリシーベルト)とされていた(許容被曝線量等を定める件二条、加工事業規則一条四号)。これは、一九五八年(昭和三三年)のICRPの公衆に対する許容被曝線量に関する勧告を尊重し、総理府に設置された放射線審議会の答申を受けて、加工事業規則等の規定に基づき定められた数値であり、アメリカ、カナダ、ソ連等の諸外国においても採用されていた数値である。
ところで、ICRPは、右公衆に対する許容被曝線量を勧告するに当たっては、放射線被曝による障害については、しきい値が存在するかも知れないことを認めながらも、これを積極的に肯定するまでの知見は得られていないので、いかに低い被曝線量でも障害が生じるかも知れない、換言すれば、低線量放射線被曝と障害発生との間に直線関係が成り立つかも知れないという慎重な仮定の下に、長年にわたるエックス線やラジウムその他の放射性物質の使用経験、人間その他の生物の放射線障害に関する知見に照らして、身体的障害及び遺伝的障害の発生する確率が無視し得るほど小さい線量を社会的に容認できる許容線量として、このような数値を勧告したものである。
現在では、核燃料物質の加工施設における周辺監視区域外の線量当量限度、すなわち公衆の線量当量限度は、実効線量当量について一年間一ミリシーベルト、皮膚及び眼の水晶体の組織線量当量についてそれぞれ一年間につき五〇ミリシーベルトとされている(線量当量限度等を定める件三条、現行の加工事業規則一条三号)。これは、一九七七年(昭和五二年)のICRPの勧告及び一九八五年(昭和六〇年)パリ声明に基づき、先の関係法令を改廃したものである。この法令の改廃では、旧法令の「被曝放射線量」及び「許容被曝線量」を、それぞれ「線量当量」及び「線量当量限度」と改めるとともに、実効線量当量及び組織線量当量の二元管理を行うことにより、放射線防護基準を体系的に整理している。すなわち、実効線量当量を用いることによって放射線の確率的影響を総合的に評価し、一般公衆が放射線から受けるリスクを社会的に容認できるレベル、すなわち公共輸送機関の事故等により受けるリスクと同程度のレベルに制限するとともに、組織線量当量を用いることによって、皮膚及び眼の水晶体の組織の線量当量をしきい値以下にすることで、非確率的影響の発生を防止するものである。
(六) 六フッ化ウランの化学的危険性(<証拠略>)
六フッ化ウランは、反応性・腐食性の強い劇物で、皮膚に触れた場合には熱傷を引き起こし、吸入した場合には呼吸器系組織を激しく損傷して致命的となるおそれがあり、可燃物を着火させることもある。そして、六フッ化ウランは、前記前提事実等のとおり、大気圧下では常温で固体であるが、昇華点は摂氏五六・五度で、常温でも揮発性は高く、気体の状態では分子量が大きいため地表近くを漂う傾向が強い。
また、六フッ化ウランは、水(空気中の水蒸気を含む。)と反応してフッ化ウラニル及びフッ化水素を生じる性質があるが、フッ化水素は、常温では液体であるものの、揮発性が高く常温でも気化しやすい性質を有しており、腐食性や人体の組織への侵襲性が強いほか、気体やその水溶液の毒性も極めて強く、許容濃度は三ppmと極めて低い。
(七) 放射性廃棄物の危険性(<証拠略>)
放射性廃棄物は、放射性気体廃棄物、放射性液体廃棄物及び放射性固体廃棄物に分類され、本件施設では、放射性気体廃棄物としては施設から放出される排気が、放射性液体廃棄物としては分析排水や洗缶排水等の排水及び使用済みの洗浄用溶剤等が、放射性固体廃棄物としてはシリンダ類の交換作業等の非定常的な作業の際に発生するウエス、ゴム手袋等が、それぞれ発生する。これらが不相当な方法で処分された場合、これらの廃棄物に接し又は摂取した本件施設内外の者が外部被曝ないしは内部被曝を受ける危険がある。
2 本件施設において問題となる災害
右認定事実によれば、本件施設が取り扱う核燃料物質である六フッ化ウランに起因する災害としては、六フッ化ウランが放射性崩壊に伴って発するアルファ線及びベータ線による内部被曝(透過力が小さいために外部被曝は問題にならない。)、六フッ化ウランが核分裂反応に伴って発する中性子線に起因する外部被曝及び内部被曝、本件施設で生じた放射性廃棄物が施設外で引き起こす外部被曝及び内部被曝並びに六フッ化ウランないしはこれから生成したフッ化水素の化学的な劇物性ないしは毒物性に起因するものを挙げることができる。
しかしながら、一般に核燃料物質が化学的に毒物性又は劇物性を有していることにより生じるおそれのある災害については、毒物及び劇物取締法が右の性質に着目して必要な規制を設けているところであり、規制法が同じ視点から核燃料物質である毒物及び劇物についてより厳重な規制を加えているとは解されない。したがって、本件施設について規制法一四条一項三号要件適合性を検討するに当たっても、同号にいう「核燃料物質による災害」としては、六フッ化ウラン及びフッ化水素の化学的な性質に起因するものを念頭に置く必要はないというべきである。
3 本件施設に求められる安全性の意義
六フッ化ウランが放射性崩壊により発するアルファ線及びベータ線による内部被曝は、六フッ化ウランが本件施設から外部環境に漏出する等して人体に摂取されることで生じるものであるから、本件施設について規制法一四条一項三号要件適合性を検討するに当たっては、六フッ化ウランが平常時に本件施設内に閉じ込められていることはもちろん、様々な事故が原因で本件施設外へ大量に漏出等することのないような事故防止対策が講じられていることが必要となる。また、六フッ化ウランが核分裂反応により発する中性子線に起因する外部被曝及び内部被曝については、核分裂反応を連鎖的に引き起こす臨界状態をいかにして生じさせないかという臨界管理が重要となる。
そうすると、結局、加工施設の位置、構造及び設備が右のような災害の防止上支障がないものであることという規制法一四条一項三号要件適合性については、具体的には、六フッ化ウランが平常時はもちろんのこと、事故によっても本件施設外へ大量に漏出等することのないよう、ウランの閉込め機能の確保対策及び諸般の事故防止対策が講じられているか否か、臨界管理が適切に行われているか否か、放射性廃棄物管理が適切に行われているか否か、という観点から判断されるべき事柄であるということができる。
4 求められる安全性の内容と程度
本件施設において問題となる六フッ化ウランに起因する災害の防止対策の適否を審査するに当たっては、放射線の人体に対する影響において、一定の線量以下では障害が発生しないような限界値(しきい値)があるか否かが問題となるが、<1>放射線の人体への影響のうち急性障害や一部の晩発性障害にはしきい値はないとされているのに対し、がんや白血病等の晩発性障害や遺伝的障害の発生については、しきい値の有無に関する決定的な研究成果はないものの、遺伝的障害の発生と比較的低線量の放射線との間には直線関係があると考えてもよいと考えられていること、<2>本件許可処分当時の国内の許容被曝線量の規制値や現在の線量当量限度の規制値、あるいはその基礎となったICRPの勧告値は、低線量放射線被曝と障害発生との間に直線関係が成り立つかもしれないという仮定に基づいていること、といった前記認定事実のほか、<3>規制法一四条一項三号要件適合性の判断においては、人体への障害発生との関係の有無が確認されていない放射線の影響については、これを存在するとの前提に立たない限り加工施設について核燃料物質による災害の防止上支障がないことにはならないことも併せ考慮すると、右三号要件適合性に関する裁判所の審理判断は、しきい値の存在を前提として行うのが相当であるというべきである。
ところで、加工施設に求められる安全性の程度、すなわち核燃料物質が有する潜在的危険の顕在化を防止すべき程度については、右のように放射線の人体に対する影響のうち一定のものにしきい値がないものとした場合、そのような非確率的影響をいかなる程度においても防止しようとするならば、六フッ化ウランの漏洩や放射性廃棄物の排出を皆無とし、臨界事故その他の事故発生の可能性も絶対的に零としなければならないことになる。しかし、証人柴田俊忍の証言によれば、およそ人工の設備ないし機器は、万全の手当を講じたとしても、何らかの破綻ないし事故が発生する可能性を必然的に有しており、これを絶対的に零にすることは不可能であることが認められる。そうすると、核燃料物質が有する潜在的危険の顕在化を完全に防止し得るような加工施設は存在し得ないということになり、したがって、右のような意味における安全性を有する加工施設はおよそ存在せず、あらゆる加工事業許可申請は安全審査を通過し得ないために不許可とならざるを得ない。
しかしながら、原子力基本法が、原子力の研究、開発及び利用の推進は将来におけるエネルギー資源の確保や学術の進歩と産業の振興をもたらし、人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与するものであるとの考え方(一条)や、原子力の研究、開発及び利用が平和の目的や安全確保と共存し得るものであるとの考え方(二条)を示していること、また、規制法が核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用とこれらによる災害を防止して公共の安全を図ることが両立し得ることを前提としていること(一条)等に照らし、右のような事態が規制法の予定するところでないことはいうまでもなく、規制法が予定している加工施設の安全性も、右の意味のものであるとは解されない。
しかして、およそあらゆる人工の設備ないし機器は程度の差こそあれ常に何らかの危険を伴うことは避け難いところであり、しかもその中には加工施設と同様にひとたび破綻ないし事故が生じれば人の生命身体に危害を及ぼすようなものが少なくないにもかかわらず、そのような絶対的安全性を欠く設備機器の存在を国内外の法規や社会通念が許容し、その利用が現代における人々の生活や経済活動に深く浸透してこれを支える不可欠の要素となっているのは、設備機器の本質的危険性の程度とその利用によって得られる社会的な効用や利便の大きさとを比較衡量したときに前者に後者が優越しているときはその設備機器を一応有益なものと評価してその存在可能性を認めた上、当該設備機器の具体的危険性が社会通念上容認し得る一定水準以下に保たれる場合には、これが「安全性」を備えているものとして利用することが許されるとの考え方に基づくものであるといえる。そして、原子力基本法や規制法が原子力等の利用と安全確保等の両立をうたいつつ、安全性を審査した上で加工施設を設置して加工事業を行うことを許容しているのも、基本的には人工の設備機器の利用に関する右の考え方に立脚し、加工施設の利用によって得られる社会的な効用等の大きさが加工施設の本質的危険性の程度に優越しているとの価値判断の下に、加工施設一般について加工事業許可を与える余地を認めた上で、個別の加工施設の具体的危険性が社会通念上容認し得る一定水準以下に保たれているか否かを確認し、これが認められるときには必要とされる安全性を備えているものとして加工事業の遂行を許可する趣旨であると解される。したがって、規制法一四条一項三号が予定する加工施設の安全性の程度は、その危険性が社会通念上容認し得る一定水準以下に保たれていることを要すると解するのが相当である。
もっとも、右の社会通念上容認し得る一定水準の具体的内容を各設備・機器の安全性や立地条件等の諸条件について個別具体的に示すことは、甚だ困難といわざるを得ない。とはいえ、各設備・機器につき発生が想定される事故が施設外にもたらす環境や人体への影響については定量的な評価が可能であり、政府の放射線被曝に関する規制が環境中の放射性物質の濃度や公衆の被曝線量等について規制値を定める方法で行われているのも同じ趣旨であるといえる。しかしながら、これらの規制値は、その放射性物質や放射線の由来を問うことなく空気中又は水中の放射性物質の濃度や公衆の被曝量を定めているものであって、環境中にはもともと本件施設に由来する放射性物質ないし放射線以外にも人工の放射性物質や放射線が存在している以上、本件施設から放出される放射性物質や放射線による被曝量それ自体が右の規制値を満足していれば足りるという性質のものでないことは当然である。したがって、本件における裁判所の判断も、本件許可処分当時の政府の規制値である許容被曝線量等を定める件所定の環境中の許容濃度及び許容被曝線量や、本件許可処分当時ICRPの勧告を受けて既に科学技術庁の告示が出されていた線量当量限度等を定める件(ただし、その適用は平成元年四月一日からである。)における規制値を単に下回っていれば足りるとするものではなく、本件施設から放出される危険性のある放射性物質又は放射線による公衆の被曝線量が、右の規制値を下回ることは当然のこととして、さらに環境中に自然に存在する放射性物質及び自然放射線による一般公衆の線量当量並びに診療を受けるための被曝による線量当量を参考にしながら、社会通念上許容し得る一定水準以下に保たれているか否かを基準にして行うこととする。
二 本件安全審査の基本的な考え方と具体的審査基準
1 事実認定
<証拠略>によれば、次の事実が認められる。
(一) 原子力安全委員会は、規制法の規制対象となる核燃料施設のうち、加工施設、再処理施設及び使用施設等について、各工程を通じて核燃料物質が臨界に達しないための対策及び放射性物質を閉じ込めるための対策等が必要となるとの考えの下に、その安全審査に際し統一的視点からの評価が可能となるように、これらの核燃料施設に共通した安全審査の基本的考え方を取りまとめたものとして、昭和五五年二月七日付け決定により核燃料施設基本指針を定めた。また、同委員会は、この決定が当該指針に基づき各種核燃料施設についてその特質に応じた個別の安全審査指針を整備するものとしていることを受けて、加工事業許可の申請に係るウラン加工施設の安全審査を客観的かつ合理的に行うため、ウラン加工施設に対する安全審査上の指針として加工施設指針をとりまとめ、同年一二月二二日付けで決定した。この加工施設指針は、核燃料施設基本指針の各指針について、ウラン加工施設の特質に即して詳細な基準を定め、あるいは具体化する内容になっている。
核燃料施設基本指針の内容は、次のとおりである。
(1) 基本的条件
核燃料施設の立地地点及びその周辺においては、大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えられないこと。また、万一事故が発生した場合において、災害を拡大するような事象も少ないこと。
(2) 平常時条件
核燃料施設の平常時における一般公衆の被曝線量が、実用可能な限り低いものであること。
(3) 事故時条件
核燃料施設に最大想定事故(安全上重要な施設との関連において、技術的にみて発生が想定される事故のうちで、一般公衆の被曝線量が最大となるもの)が発生するとした場合、一般公衆に対して、過度の放射線被曝を及ぼさないこと。
(4) 閉じ込めの機能
核燃料施設は、放射性物質を限定された区域に閉じ込める十分な機能を有すること。
(5) 放射線遮へい
核燃料施設においては、従事者等の作業条件を考慮して、十分な放射線遮へいがなされていること。
(6) 放射線被曝管理
核燃料施設においては、従事者等の放射線被曝を十分に監視し、管理するための対策が講じられていること。
(7) 放射性廃棄物の放出管理
核燃料施設においては、その運転に伴い発生する放射性廃棄物を適切に処理する等により、周辺環境へ放出する放射性物質の濃度等を実用可能な限り低くできるようになっていること。
(8) 貯蔵に対する考慮
核燃料施設においては、放射性物質の貯蔵等による敷地周辺の放射線量を実用可能な限り低くできるようになっていること。
(9) 放射線監視
核燃料施設においては、放射性廃棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること。
また、放射性物質の放出の可能性に応じ、周辺環境における放射線量、放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること。
(10) 単一ユニットの臨界安全
核燃料施設における単一ユニットは、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられていること。
(11) 複数ユニットの臨界安全
核燃料施設内に単一ユニットが二つ以上存在する場合には、ユニット相互間の中性子相互干渉を考慮し、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられていること。
(12) 臨界事故に対する考慮
誤操作等により臨界事故の発生するおそれのある核燃料施設においては、万一の臨界事故に対する適切な対策が講じられていること。
(13) 地震に対する考慮
核燃料施設における安全上重要な施設は、その重要度により耐震設計上の区分がなされるとともに、敷地及びその周辺地域における過去の記録、現地調査等を参照して、最も適切と考えられる設計地震力に十分耐える設計であること。
(14) 地震以外の自然現象に対する考慮
核燃料施設における安全上重要な施設は、敷地及びその周辺地域における過去の記録、現地調査等を参照して、予想される地震以外の自然現象のうち最も過酷と考えられる自然力を考慮した設計であること。
(15) 火災・爆発に対する考慮
火災・爆発のおそれのある核燃料施設においては、その発生を防止し、かつ、万一の火災・爆発時には、その拡大を防止するとともに、施設外への放射性物質の放出が過大とならないための適切な対策が講じられていること。
(16) 電源喪失に対する考慮
核燃料施設においては、外部電源系の機能喪失に対応した適切な対策が講じられていること。
(17) 放射性物質の移動に対する考慮
核燃料施設においては、核燃料施設内における放射性物質の移動に際し、閉込めの機能、放射線遮へい等について適切な対策が講じられていること。
(18) 事故時に対する考慮
核燃料施設においては、事故に対応した警報、通信連絡、従事者の退避等のための適切な対策が講じられていること。
(19) 共用に対する考慮
核燃料施設における安全上重要な施設は、共用によってその安全機能を失うおそれのある場合には、共用しない設計であること。
(20) 準拠規格及び基準
核燃料施設における安全上重要な施設の設計、工事及び検査については、適切と認められる規格及び基準によるものであること。
(21) 検査、修理等に対する考慮
核燃料施設における安全上重要な施設は、その重要度に応じ、適切な方法により検査、試験、保守及び修理ができるようになっていること。
(二) 原子力安全委員会は、本件安全審査における調査審議に当たり、右各指針に基づいて検討を行ったほか、米国国立標準協会(American nationalstandard institute、略称ANSI)が定める規格、国内の様々な技術基準をも参考とし、さらに先行のウラン濃縮施設の設計や運転実績、試験研究の結果等、様々な分野の技術的な知見の蓄積も活用した。
(三) 本件安全審査では、ウラン濃縮施設の特質を考慮して、ウランの潜在的危険性の顕在化を防止するためには、ウランを特定の区域に閉じ込め、極力外部環境へ出さないようにすることに尽きるとの考えから、ウラン濃縮施設における安全性確保対策は次の四つの審査事項に集約されるとの基本的な考え方に立って、これらが満たされているか否かを検討した。
(1) 加工施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策
加工施設の立地地点及びその周辺における自然環境及び社会的環境を検討して、当該施設の基本設計ないし基本的設計方針との関連において、加工施設に係る大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えられないこと、また、万一事故が発生しても災害を拡大するような事象の少ない立地を選定していること。
(2) 加工施設自体の安全性確保対策
加工施設自体につき、放射性物質の閉込め機能、臨界安全管理、火災爆発の防止、電源喪失に対する考慮等の点において、安全性確保対策を講じていること。
(3) 公共の安全性確保
加工施設中の安全上重要な施設との関連において、最大想定事故、すなわち技術的に見て発生が想定される事故のうちで一般公衆の被曝線量が最大となるものが発生した場合でも、一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないこと。
(4) 平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策
加工施設の平常運転時において環境に放出される放射線及び放射性物質について、これらによる一般公衆の被曝線量が許容被曝線量等を定める件に規定する周辺監視区域外の許容被曝線量(年間〇・五レム)ないしはこれに代わって発せられた線量当量限度等を定める件所定の周辺監視区域外の線量当量である実効線量当量一ミリシーベルト以下となるのみならず、これを実用可能な限り低減させるように、基本設計ないし基本的設計方針において所要の被曝低減対策を講じていること。
2 被告の主張に対する判断
右認定のとおり、本件安全審査においては、基本的立地条件として大きな事故の誘因となる事象を避ける立地が選定されているかどうかを審査するとともに、加工施設自体において事故を防止するための安全性確保対策が図られているか、また、平常運転時においても被曝低減対策を講じているかどうかを審査し、さらに事故が発生した場合にも一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないことを確認することとしており、このような四つの観点から安全性確保対策を検討するとの考え方は、本件施設における六フッ化ウランの潜在的危険性の顕在化を防止するために必要な前記検討事項(六フッ化ウランが平常時はもちろんのこと、様々な事故によっても本件施設外へ漏出等することのないよう、ウランの閉込め機能の確保対策及び諸般の事故防止対策が講じられているか否か、臨界管理が適切に行われているか否か及び放射性廃棄物管理が適切に行われているか否か)に照らし、不合理とはいえない。
そして、具体的審査基準として用いられた核燃料施設基本指針及び加工施設指針も、右審査事項に対応した内容となっており、現在の科学技術水準に照らしても、各審査事項を審査するにつき不合理な内容とは認められないほか、原子力安全委員会がその他の技術基準を参考とし、あるいは既存の技術的知見の蓄積を活用したことについても、その技術基準や知見に不合理な点は認められない。
三 原告らの主張に対する判断
1 原告らは、ウランの放射能毒性、化学毒性及びウランの崩壊生成物の危険性を指摘し、ウランのような危険な物質を大量に取り扱うことを理由として本件施設の建設は許されないと主張する。
しかしながら、前記のとおり、規制法は、原告らが指摘するような危険性を前提としながら、一定の安全性を備える加工施設については加工事業を許可し得るとの考えの下、加工施設の安全性につき必要な規制を行っているものであるから、本件施設の具体的な危険性を指摘することなく本件施設がウランを大量に取り扱うことのみを理由とする原告らの右主張は、失当である。
2 原告らは、ICRPの勧告値が信頼に足りず、これに依拠した被告の立場は破綻している旨主張するが、本件安全審査がICRPの勧告に基づいて定められた政府の規制値(本件許可処分当時は許容被曝線量等を定める件)を下回っていることをもって直ちに本件施設の安全性を肯定したものでないことは後にみるとおりであるから、原告らの主張は、前提を欠いており理由がない。
3 原告らは、加工施設指針の内容が具体性を欠いており実効性に欠ける旨主張する。
しかしながら、加工施設に要求される安全性の内容及び程度は加工施設の種類に応じて様々である上、その安全性を確保する方法も多種多様で、技術性専門性も極めて高いものであるから、これに関する基準を事前に一義的に求めるのはかえって不合理というべきであること、前記(第二章第二)のとおり、規制法一三条の加工事業の許可手続は、専ら当該加工施設の基本設計のみが規制の対象となるのであって、後続の設計及び工事の方法の認可(一六条の二)の段階で規制の対象とされる当該加工施設の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないから、加工事業許可に当たって行われる安全審査の審査基準においてもこれら具体的な詳細設計や工事方法にかかわる事項を定める必要まではないこと、加工施設指針を用いて安全審査を行う主体は、核燃料物質及び原子炉に関する安全の確保のための規制等を所管事項とする原子力安全委員会と、学識経験者及び関係行政機関の職員から任命される審査委員により組織され核燃料物質に係る安全性に関する事項の調査審議を任務とする核燃料安全専門審査会であること、加工施設指針が設けられた趣旨が前記認定のとおり安全審査の客観性及び合理性を確保するために統一的視点を提供することにあること、以上の点を総合すれば、安全審査において用いられる審査基準は、原子力安全委員会及び核燃料安全専門審査会が申請に係る加工施設について当該施設の基本設計ないし基本的設計方針において安全性を有するか否かを判断するための基本的枠組みを提供する内容を具備していれば足りるというべきである。そして、加工施設指針は、本件施設における核燃料物質の潜在的危険性の顕在化を防止するという安全性の確保上必要な内容を備えていることは前記のとおりであるから、右基本的枠組みとしての機能を十分に果たし得るものといえ、これが具体性ないし実効性に欠けるとの批判は当たらないというべきである。
また、原告らは、事故は複数の故障(トラブル)が重なって発生するものであるにもかかわらず、加工施設指針は単一故障しか想定しておらず内容が不十分であると主張する。そして、この点に関しては、証人高木仁三郎の証言中には、事故例の分析をしたところでは、一つ一つは大事故に直接つながらないような小さな人為ミスや故障が、他の人為ミスや故障を誘うというように、人間と機械のインターラクションの中で将棋倒し式にことが発展して大きな事故が起こるというのが実際の事故のパターンであるとする部分がある。また、証人柴田俊忍の証言中には、全体のシステムの安全性については、個々の機器の故障や作業者のミスのみで議論されるべきではなく、ある事象がシステムの中で次にどのような影響を及ぼすかを考慮して総合的に検討する必要があるとする部分がある。
しかしながら、加工施設指針は、技術的にみて発生が想定される範囲の事故について考慮することとしているところ(<証拠略>)、ある事象から連鎖的に他の事象が発生して事故が拡大するという場合については、そのような連鎖が技術的にみて想定される因果関係を有する限り加工施設指針はそのような事態をも含めて事故の想定をしていると解されるから、右の批判は当たらないというべきである。また、相互に関連性のない複数の独立の事象が同時に発生するという事態については、加工施設指針も想定していないものと認められるものの、そのような事態の発生する確率は各個の事象の発生する確率の積として算出される極めて小さいものであるから、そのような事態を想定していないからといって、加工施設指針をそれ自体不合理と評することはできない。したがって、原告らの主張は理由がない。
4 原告らは、ウラン濃縮施設では安全性確保手段において他のウラン加工施設より厳格な規制が必要であることを理由として、加工施設指針はウラン濃縮施設の安全性を審査する基準としては不十分であると主張する。
しかしながら、加工施設指針がウラン濃縮施設における安全の確保上必要な内容を備えていることは前記のとおりであるから、右主張は採用できない。
四 次項以下の判断について
本件安全審査では、前記二1(三)のとおり、加工施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策、加工施設自体の安全性確保対策、公共の安全性確保及び平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策の四つの観点から本件許可申請を検討しており、そのような判断の方法は、六フッ化ウランを取り扱う本件施設の安全性の判断手法として適切であるということができるから、本件安全審査の調査審議及び判断の過程における過誤、欠落の有無に関する次項以下の当裁判所の判断も、それぞれの観点ごとに、原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の調査審議及び判断の過程を検討することとする。
第二加工施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策
一 はじめに
本件施設に求められる前記の意味における安全性は、本件施設の基本的立地条件との関係では、本件施設の各種の立地条件において、本件施設の一部又は全部の損傷によって六フッ化ウランの漏洩をもたらすような事故を引き起こす危険性が社会通念上容認し得る一定水準以下に保たれているか否かという観点から検討されるべきこととなる。
二 指針の内容(<証拠略>)
核燃料施設基本指針一は、立地条件の基本的条件について、核燃料施設の立地地点及びその周辺においては、大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えられないこと、また、万一事故が発生した場合において災害を拡大するような事象も少ないことを定めている。そして、加工施設指針一は、この点に関し、事故の誘因を排除し、災害の拡大を防止する観点からウラン加工施設の立地地点及びその周辺における次の事象を検討し、安全確保上支障がないことを確認することとしている。
1 自然環境
<1> 地震、洪水、台風、豪雪、高潮、津波、地滑り、陥没等の自然現象
<2> 風向、風速、降雨量等の気象
<3> 河川、地下水等の水象及び水理
<4> 地盤、地耐力、断層等の地質及び地形等
2 社会環境
<1> 近接工場等における火災、爆発
<2> 農業、畜産業、漁業等食物に関する土地利用及び人口分布等
三 本件安全審査の内容
<証拠略>によれば、本件安全審査では、本件施設の基本的立地条件について、以下のとおり、敷地、地盤、地震、気象、水理・水象及び社会環境の各側面から検討が行われ、立地地点及びその周辺においては大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えられず、また、万一事故が発生した場合において災害を拡大するような事象も少ないことを確認したことが認められる。
1 敷地
本件安全審査では、本件施設を設置する原燃産業の六ヶ所事業所は、青森県下北半島南部の上北郡六ヶ所村大石平にある標高三〇ないし六〇メートルの丘陵地帯にあり、事業所南側は尾駮沼に面していて、事業所の面積は約三四〇平方メートル、本件施設の標高は約三六メートルであることを確認した。
2 地盤
地盤に関しては、施設が設置される場所が十分な地耐力を持っているかどうかという観点のほか、地滑り又は陥没は、これが発生した場合、本件施設の建物の傾斜や倒壊を招く危険があることから、敷地に地滑り又は陥没の危険性があるかどうかが検討され、さらに、仮に本件施設の敷地内に断層が存在した場合、近い将来において地震を発生させ、本件施設の安全性を損なう要因となり得ることが問題になるほか、断層の変動によって本件施設の安全性が直接に損なわれることも考えられるため、敷地に施設に影響を与えるような断層があるかという観点からも検討が行われた。
(一) 地耐力について
(1) 本件安全審査では、次の事項を確認した。
ア 本件敷地内では、原燃産業により五〇本余りのボーリング調査が行われており、その結果、鷹架層と呼ばれる新生代第三紀層の岩盤が敷地全体に広がっていることが確認されている。また、青森県発行の土地分類基本調査を参照したところでも、鷹架層が本件敷地に十分な広がりを持っていることが確認されている。
イ 新生代第三紀の岩盤層は、上部境界に近い部分では風化が進んでいる可能性があるものの、それ以外の部分は、十分な安定性と地耐力がある地盤であって、通常の構造物の支持層として十分な能力を持っていると理解されている。
ウ 地盤の地耐力を調査する代表的な方法としては、重さ六三・五キログラム重のハンマーを七五センチメートルの高さから落下させて三〇センチメートル打ち込むのに要する回数を調べ、そのN値と呼ばれる回数をもって地盤の固さの指標とする標準貫入試験があり、世界各地で用いられているほか、JIS規格でも試験方法が定められている。また、N値と地耐力の相関関係については実績のある経験式が認められており、日本建築学会が定める建築基礎構造設計指針及び同解説では、N値とこれから期待できる地耐力との関係が示されていて、N値が五〇以上の岩盤については一平方メートル当たり五〇トンの地耐力を期待してよいこととされている。本件敷地については、建物建設予定地周辺の七箇所で標準貫入試験が実施されており、そのいずれにおいても、鷹架層のうち本件施設の建物の支持層として設定されている位置ではN値が五〇以上との調査結果が得られた。
エ ボーリング調査で得られたコアの観察及びボーリング柱状図によれば、本件施設の支持地盤として問題になるような軟らかい層は含まれていない。
(2) 本件安全審査では、右の事項を検討した結果、地耐力については、本件施設の建物が鉄骨の二階建て程度のものであることを踏まえ、新生代第三紀の岩盤である鷹架層で、しかもN値五〇以上の層を支持地盤とすることから、十分な地耐力を有する地盤を支持地盤としていると判断した。
(二) 地滑り・陥没の危険性について
本件安全審査では、現地調査によって現地の地形や地質のほかボーリング調査で得られたコアの観察が行われたほか、文献調査によっても本件敷地やその周辺で地滑り又は陥没が発生したことは認められないことを確認し、敷地において地滑り又は陥没が起こる可能性はないと判断した。
(三) 断層について
(1) 本件安全審査では、次の点を確認した。
ア 青森県発行の土地分類基本調査に基づいた文献調査及び現地調査の際に行われたボーリングコアの観察結果上は、本件敷地内に断層は見つからなかった。
イ ボーリング調査でサンプルが採取される範囲より深い範囲には、昔に動いた断層がある可能性はあり、そのような断層についてはボーリング調査で調査することはできないものの、仮にそのような古い断層が存在したとしても、本件施設に影響を与える断層ではないと考えられた。
ウ 本件敷地内でも、ボーリング孔と他のボーリング孔との間にあってボーリング調査では発見されなかった断層がある可能性はあるが、そのような規模の断層は大きな地震を引き起こすような断層であるとは考えられない。
エ 現地調査では、敷地造成の際に作られた法面において砂岩の地層と凝灰岩類の地層とが垂直に接していることが観察されているところ、これが断層であるか否かは明らかではないものの、その境界面が完全に固着していること及びこれらの境界がその上部にある第四紀の段丘堆積層にずれの影響を与えていないことから、仮に断層であったとしても本件施設に影響を及ぼすものではないと判断される。
(2) 本件安全審査では、右の確認事項を考慮した結果、本件敷地内に本件施設の安全性に影響するような断層はないものと判断した。
(四) 結論
本件安全審査では、以上の検討の結果、地盤の面では、敷地の選定に問題はないとの判断を下した。
3 地震
(一) 本件安全審査では、地震について、自然現象として繰り返し起こるという性質を持っており、有史以来の記録調査によってどの程度の地震がどのような間隔で発生し、どの程度の影響があったかどうかを知ることができるという知見に基づき、本件敷地周辺での過去の被害地震について、揺れや被害の程度が具体的に判明している地震については直接に本件敷地における震度階を調査したほか、文献調査により過去の被害地震の規模及び震央の距離を調べ、任意の地点における地震のマグニチュード及び震央距離と当該地点での震度階との相関関係を示す相関図に当てはめ、本件敷地における震度階を推定するという検討を行った。まず、本件許可申請書では、「資料日本被害地震総覧」(いわゆる宇佐美カタログ)、いわゆる宇津カタログ(一九八二)及び気象庁地震月報の各資料に掲載された地震中、震央が本件敷地から半径二〇〇キロメートル以内にありかつ一定規模以上のものを列挙し、これらを右の相関図に当てはめたものが記載され、その結果としては右の地震が本件敷地に及ぼした影響は震度V程度のものであることが示されており、本件安全審査では、右の内容を相当なものと認めた。また、本件安全審査では、本件許可申請書が参照していない新しい資料である昭和六二年三月刊行の「新編日本被害地震総覧」(いわゆる宇佐美カタログの新版)や昭和六二年版の理科年表に記載された地震についても同様の検討を加えた。
このほか、本件安全審査では、本件敷地から震央が二〇〇キロメートル以上離れた地震についても独自に調査を行い、実際に揺れの程度が判明している地震については、実際の揺れや被害の程度に関する資料をも検討した。
(二) 本件安全審査では、右の検討の結果、過去の地震の本件敷地への影響は最大で震度V程度であると認めた上、地盤条件を併せて総合的に評価した結果、本件敷地では震度Vの地震を考えれば十分であり、建物等の耐震設計においても震度Vの地震を想定すれば足りると判断した。
4 気象
本件安全審査では、本件施設近傍の観測所等の気象観測データによると、年平均気温摂氏約九度、最高気温摂氏三三・九度、最低気温摂氏マイナス一四・六度、年間降水量約一二〇〇ミリメートル、最大積雪深一九〇センチメートル、最大風速毎秒二六・二メートル、瞬間最大風速毎秒三五・九メートルであることを確認した。
5 水理・水象
本件安全審査では、本件敷地周辺の水理・水象に関する事実を確認し、その結果、本件敷地周辺における河川としては、二又川のほか老部川があるが、地形の状況からみて、洪水により本件施設が被害を受けることはなく、また、本件敷地は海岸から約三キロメートル離れた標高約三六メートルの丘陵地帯に位置していることから、高潮や津波により本件施設が被害を受けることはないと判断した。
6 社会環境
(一) 本件安全審査では、本件敷地周辺の社会環境に関し、人口、産業、交通等について調査が行われ、人口については、本件敷地周辺地域である六ヶ所村及び隣接の六市町村の人口密度は昭和六〇年一〇月一日現在で一平方キロメートル当たり九〇・八人であり、総人口の推移状況は数年来ほぼ横ばい傾向であることが確認され、また、産業については、周辺地域における主な産業は農業及び漁業であるほか、本件敷地から約四キロメートルの位置に国家石油備蓄基地があることが確認された。
本件安全審査では、これらの活動場所等と本件敷地との距離が十分離れていることから、これらの産業活動等によって本件施設の安全性が損なわれることはないと判断した。
(二) 本件安全審査では、交通に関しては専ら航空機の関係が問題になるとの考えから、本件敷地の南方約二八キロメートルの位置に三沢空港があるほか、西方約一〇キロメートルの位置に「V―一一」と呼ばれる定期航空路があり、南方約一〇キロメートルの位置に防衛庁及び在日米軍の航空機が使用する訓練空域(三沢対地訓練区域)があることが検討対象とされた。
このうち、三沢空港については、本件敷地との距離に照らし、ここを離発着する航空機が離発着時に事故を起こして墜落した場合でも本件施設に影響を与えることはないと判断された。
また、定期航空路については、その中心線が本件敷地から約一〇キロメートル離れていること、安定した水平飛行を行っている巡航中の航空機が異常を起こすことはまれであること及び航空法に従って飛行する航空機の機長が確認を義務づけられている航空路誌には原子力施設付近の上空はできる限り飛行を避ける旨記載されることになっていることを考慮し、この航空路を飛行中の航空機が本件施設に墜落する可能性は無視できると判断された。
さらに、訓練空域については、本件敷地からの距離が約一〇キロメートルであること及び訓練空域を使用する航空機のうち自衛隊機については航空路誌に基づく右の飛行規制が適用されていることのほか、この飛行規制の適用のない米軍機についても、米軍が航空路誌の情報の提供を受けて、その発行するフライトインフォメーションパブリケーションに掲載して周知する形で右の規制が尊重されていることを考慮し、当該訓練空域を使用する訓練中の航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいと判断された。
(三) このほか、航空機の関係では、訓練中の航空機が仮に本件施設の安全上重要な施設に墜落した場合の一般公衆に対する影響についての評価を行った。具体的には、三沢対地訓練区域で射爆撃訓練を実施している航空機のうち三沢基地に最も多く配備されている防衛庁のF一と米軍のF一六がエンジン故障等により訓練コースを外れて本件施設付近まで滑空して施設に衝突するものと仮定し、衝突速度毎秒一五〇メートル、墜落時に発生する火災に寄与する燃料量を四立方メートルとした条件の下で、衝突対象としては、取り扱うウランの性状や量を考慮してウラン濃縮建屋のうち発回均質棟及びカスケード棟並びにウラン貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫を選定した。その結果、発回均質棟については、屋根及び壁が厚さ約九〇センチメートルの鉄筋コンクリート造りであることから、機体全体の衝撃荷重によるコンクリート板の全体破壊も、機体のうちで貫通限界厚さが大きいエンジン部分の貫通も起こらず、ウラン貯蔵庫については、胴体部が建屋を貫通して内部のシリンダの損傷をもたらすものの、その場合に燃料油により発生する火災の熱でシリンダ内の固体の六フッ化ウランが気化してその一〇パーセントが建屋外に漏洩したとしてもその放射能量は〇・三キュリーであって、気象データと拡散条件等を考慮して敷地境界における一般人の内部被曝による線量当量を求めると〇・〇六レム(〇・六ミリシーベルト)となることから、一般公衆への被曝による影響は小さいと判断された。また、カスケード棟については、保有するウランの量が少ないため、その全量が衝突事故によって建屋外に漏洩した場合でも、漏洩量はウラン貯蔵庫を下回ることから、やはり一般公衆への被曝による影響は小さいと判断された。
四 被告の主張に対する判断
右二及び三で認定した事実によれば、基本的立地条件に関する本件安全審査で用いられた具体的審査基準に不合理な点は見当たらないし、本件安全審査の調査審議及び判断の過程にも看過し難い過誤、欠落は認められない。
五 原告らの主張に対する判断
1 地盤
(一) 支持地盤
(1) 原告らは、鷹架層の本件施設の支持層としての適否は、当該地盤の許容支持力のみでは決まらず、地盤が軟岩か硬岩かの問題を考慮する必要があり、軟岩に属する鷹架層は支持層としては不適当であるのに、本件安全審査ではこの点に考慮を払っていないと主張する。
しかしながら、<証拠略>によれば、鷹架層が軟岩に属するとの事実を認めることができるものの、それ以上に、鷹架層の本件施設の支持層としての適否を判断するために当該事実を考慮する必要があるとの知見については、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、<証拠略>によれば、建築物を建てる場合の支持地盤の適否を判断するに当たっては、許容支持力が重要な指標であり、それ以外に考慮される指標としては、ダムや堰堤を建設する場合における透水性や一軸圧縮強度があるものの、当該地盤が土質工学上軟岩か硬岩かはその判断要素に該当しないことが認められる。したがって、右主張は理由がない。
また、この点に関し、原告らは、右主張の根拠として、本件敷地に近接する石油国家備蓄基地のオイルタンク六基が不同沈下した事実を指摘するが、右沈下の原因が、そのオイルタンクの支持層が軟岩であることを看過したことにあることを認めるべき証拠はないから、当該事実をもって右主張の理由とすることはできない。
(2) 原告らは、N値によって許容支持力を推定する方法について、測定精度や方法としての有用性の問題点を指摘した上で、N値の調査結果のみをもって鷹架層の支持地盤としての適否を判断することはできないと主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、本件安全審査の過程では、標準貫入試験のほか、文献調査、ボーリング調査及びこれで得られたコアの観察等が実施され、これらを踏まえて判断が下されているのであるから、支持地盤の適否をN値のみをもって判断したことを前提とする右主張は、失当というほかない。
(3) また、原告らは、次のとおり本件敷地については様々な試験が実施されておらず、この点を看過した本件安全審査は不合理であると主張する。
ア 平板載荷試験に基づく岩盤支持力の計算について
原告らは、N値に基づく地耐力の推定値の正確性の判定には平板載荷試験などによって岩盤支持力を計算することが必要であるにもかかわらず、これが実施されていないと主張する。
しかしながら、<証拠略>によれば、本件敷地については平板載荷試験が実施され、その結果図が核燃料安全専門審査会第二三部会の第一回会合に資料として提示され審査の対象となっていることが認められるから、右主張は失当である。
イ ボーリング調査の深度及び調査事項について
原告らは、地盤の性質を把握するためには、より深くボーリング調査を行う必要があるとともに、調査結果としてコア採取率、最大コア長及びRQD(岩盤良好度)を示す必要があると主張する。
この点については、<証拠略>によれば、コア採取率、最大コア長及びRQD(岩盤良好度)は、いずれも岩盤のボーリング調査で得られる地質情報であり、最大コア長は一メートルのボーリングによって得られた試料中の最長のコアの長さを、RQDは右試料に占める一〇センチメートル以上のコアの合計の長さの割合の一メートルに対する百分率を、コア採取率は右試料に占めるコアの長さの合計の一メートルに対する百分率をそれぞれ示すものであること、ボーリング及びコアの観察結果は一定の様式に従いボーリング柱状図にまとめられるものであるところ、右の三種類の指標は岩盤のボーリング柱状図には必ず記載されるべきものであること、本件許可申請書及びその添付書類では、ボーリング調査の結果としてはN値の調査結果と土質のみが記載された地質断面図が示されたにとどまり、本件安全審査でも右の各数値は確認されなかったことが認められる。
しかしながら、ボーリングの割れ目の状態はボーリングのコアを見ればすぐ分かること(<証拠略>)及び本件安全審査では耐震工学を専門とする科学技術庁の原子力安全技術顧問の大谷圭一による現地でのコアの観察が実施されていること(<証拠略>)からすると、本件安全審査においては、ボーリング調査で得られたコアの状況は、数値化してボーリング柱状図に示されるまでもなくコア観察によって直接に把握されていたものと考えられるから、審査の客観性の担保という観点からはボーリング柱状図に直接コアの状況が示されていない点には問題があることは否定できないけれども、このことをもって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとまではいえない。
また、ボーリング調査の深度については、本件安全審査で結果が確認されたボーリング調査が本件施設の支持層として予定されている鷹架層の広がりを確認する深さまで行われたことは前記認定のとおりであるところ、<証拠略>によれば、ボーリング調査は事前調査で想定した支持層を確認できる深さまで実施すれば足りるとされていることが認められるから、それ以上の深度までボーリング調査が行われなかったからといって、これを問題としなかった本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
ウ 物理試験(単位体積重量、含水比、比重、間隙率の調査)について
右の各調査事項については、鷹架層の支持地盤としての適否に関して調査を実施すべき必要性を認めるに足りる証拠はなく、原告らの主張は理由がない。
エ 透水試験について
透水試験については、本件施設に関する調査の必要性を認めるべき証拠はなく、かえって、<証拠略>によれば、右試験はダムや堰堤を建設する場合に透水性を調べるために必要となる試験であるにすぎず、本件施設では透水性は問題にならないことが認められる。したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。
(4) このほか、原告らは、地耐力を十分と評価するためには地耐力の平均値、標準偏差、最高値及び最低値を明らかにした上、最低値の部分でも十分な余裕があることを示す必要があると主張し、<証拠略>中には右主張と同旨の部分があるけれども、右書証の該当箇所は原告生越忠本人が作成したものであって、他に右主張を客観的に裏付ける証拠はない以上、右書証のみをもって本件安全審査の調査審議の過程に看過し難い過誤、欠落があるとまでは認めるに足りない。
(二) サンドウィッチ地盤
原告らは、本件敷地の地盤の標準貫入試験がN値を三回連続して記録した時点で中止されていることをもって、その下にN値が低い部分があることは確認されておらず、本件敷地の下に硬い地層の間に軟弱な地層がサンドウィッチ状に挟まれたいわゆるサンドウィッチ地盤が存在する可能性があると主張する。
しかし、<証拠略>によれば、サンドウィッチ地盤の概念を提唱する理学博士守屋喜久夫によると、サンドウィッチ地盤は第四紀層に属する洪積層又は沖積層にみられるものであるのに対し、第三紀層は、古生層及び中生層に比べ固結度は低いものの一部を除いて構造物の信頼できる地盤となるとされており、この見解によれば、第三紀層である鷹架層についてサンドウィッチ地盤が問題になる余地はなく、本件安全審査がこの点を考慮していないことをもって看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。また、原告生越忠本人の供述中には、第三紀層の岩盤の内部においても、硬質の層と破砕帯による軟弱な層が重なっている場合には右のサンドウィッチ地盤と同様の危険性があると述べる部分があるけれども、同原告がその尋問間中で挙げたサンドウィッチ地盤による被害例の中にも岩盤における被害であることが確認された例はない上、右のとおり守屋博士によっても第三紀層は基本的に構造物の基礎地盤として信頼し得るとされており、証人大谷圭一もサンドウィッチ地盤により地震波が増幅される現象は第四紀層である沖積層ないしは洪積層の上層部で考えられるものであって、第三紀層については考慮の必要がないとも証言していることからすると、本件安全審査において第三紀層である鷹架層につきサンドウィッチ地盤の可能性を念頭に置かなかったからといって、これを看過し難い過誤、欠落であるとはいえない。
このほか、原告らは、基礎地盤に求められる性質はその上の構造物との関係で相対的に定まることから、十分なN値を持つ層がどの程度連続しているかを調査確認することが必要となる場合もあると主張し、その例として、原子力船「むつ」の新定係港に関する立地調査におけるボーリング調査でも、N値が五〇以上となった部分より更に深い標尺一〇〇メートルの地点まで調査が行われている事実<証拠略>を指摘するが、原告らの主張によっても、N値の連続性を調査確認する必要性は建築しようとする構造物との関係で相対的に定まるとしながら、本件施設との関係でそのような必要性があることの主張立証はないから、右主張は前提を欠き失当である。また、原告らが援用する右の調査事例についても、その深度まで調査が行われた理由がサンドウィッチ地盤の可能性を考慮したためであるとは証拠上明らかでない以上、原告らの主張を認めるべき根拠とはならない。
(三) 地滑り・陥没等の危険
原告らは、本件敷地の表層地盤又は盛土による造成部分における地滑り及び陥没の危険性を主張する。
しかしながら、地滑り又は陥没の危険が問題となるのは、本件施設の建物の傾斜や倒壊を招く危険があるからであり、また、本件施設の建物の支持地盤は盛土ないしは表層地盤ではなく第三紀層である鷹架層であることは前記認定のとおりであるところ、証人大谷圭一の証言よれば、右のように岩盤である鷹架層を支持地盤とする場合には敷地造成のための盛土部分について地滑り又は陥没の危険性を問題にする必要はないことが認められる。したがって、右主張は、それ自体失当というべきである。
また、原告らは、鷹架層が地滑り又は陥没の危険性のない地層であることは証明されておらず、詳細な調査を行えば右の危険性を示唆する事実が明らかになるかも知れない旨主張する。
しかしながら、鷹架層に関する地滑り及び陥没の危険性については、現地の地形や地質の観察、ボーリングコアの観察及び文献調査が行われ、これらの結果に基づいて本件安全審査の調査審議及び判断がされたことは前記認定のとおりであるところ、これに対して、何ら具体的な調査方法も示すことなく調査次第で危険性が判明するといった抽象的可能性を指摘するにとどまる右の主張は、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があることの主張としては不十分であって、それ自体失当というべきである。
なお、原告らは、右の主張に関して、本件敷地に近接する使用済核燃料再処理工場の敷地内で急傾斜崩壊ないしは重力性滑りが生じているとの点を指摘するのであるが、<証拠略>によれば、右の滑り面は鷹架層の上部表面の風化部分とその上の同じく第三紀層に属する砂子又層の下部層との間で生じたものであるのに対して、本件敷地では鷹架層の上には第四紀の段丘堆積層や火山灰層が堆積していることが認められるから、右指摘事実によって本件敷地における調査が不十分であるとはいえない。
(四) 断層調査の不備
原告らは、本件敷地におけるボーリング調査は掘進長が不十分で、ボーリング柱状図の作成も少ない点において十分でなく、十分なボーリング調査やトレンチ調査等をすれば本件施設に影響を与えるような断層が確認される可能性が極めて高い旨、また、本件施設に隣接する低レベル放射性廃棄物埋設施設では、当初その申請書では断層は存在しないとされていたが、その後の補正書でf―a、f―bの二つの断層が存在すると追加記載されるに至っており、右各断層の延長線として本件敷地内にも断層が存在する可能性があると主張する。
このうち、ボーリング柱状図については、<証拠略>によれば、確かに、本件敷地について実施された合計五一孔のボーリング調査中、申請書で示され本件安全審査上でも資料とされたボーリング柱状図は二点にすぎなかったことが認められるものの、他方、本件安全審査ではボーリングによる地質調査の結果に基づいて作成された敷地全体にわたる地質平面図及び地質断面図合計五枚が資料として検討対象となったことが認められるから、ボーリング柱状図の作成が不十分であることをもって本件安全審査の基礎となったボーリング調査が不十分であるとまではいえない。
また、ボーリングの掘進長については、<証拠略>によれば、本件敷地で行われたボーリング調査における掘進長はおよそ二〇メートルから最大で五〇メートル前後で、これ以上の深度にある断層までは確認できないものであることが認められる。しかしながら、<証拠略>によれば、活断層とは一般に最近の地質時代に繰り返し活動し将来も活動することが推定される断層であるところ、活断層であるか否かの判断は第一に近い過去に活動したかどうかであるとされており、この近い過去の範囲は研究者によって多少の相違があって、約五〇万年前以降あるいは約一〇〇万年前以降との意見もあるものの、日本全体の活断層に関する文献としては日本で最も権威のある文献とされている「日本の活断層―分布図と資料―」(現在は新編が出されている。)ではこれを広めにとって地質年代における第四紀(約二〇〇万年前から現在までの間)に動いたとみなされる断層を活断層としていること、本件敷地は造成後の標高約三六メートルの地盤からでも〇メートルないし数メートル以深は第三紀層である鷹架層が分布していること、断層活動の痕跡は第四紀層では不明確な場合もあるものの第三紀層では明確に現れること、以上の事実が認められ、これらを総合すると、右の程度の掘進長のボーリング調査を行えば、本件敷地の下に分布する第三紀層である鷹架層における地層のずれの有無を確認することにより、本件敷地内における活断層の有無は十分に判断可能ということができる。したがって、掘進長を不十分とする原告らの主張は理由がない。
そして、トレンチ調査その他の調査の要否については、原告生越忠本人の供述によれば、ボーリング調査は位置及び深度が適正であれば得られたコアを調べることにより断層の有無は確認できるものと認められるところ、本件敷地では、全体にわたり約一〇〇メートル間隔のボーリング調査が格子状に行われた上に建造物立地予定場所では更に数十メートル間隔でボーリング調査が実施されており<証拠略>、東京の地下鉄でもボーリング調査は一〇〇メートル間隔で実施されているにすぎないこと<証拠略>等に照らすと、ボーリング孔の数及び位置は適正であるといえるし、ボーリングの掘進長が活断層の有無を確認するに足りるものであることは右で述べたとおりであるから、その余の調査を実施すべき必要性はないものということができる。
このほか、原告らは、文献調査の実効性について疑問を投げかけているけれども、本件安全審査で文献調査の対象となった「日本の活断層―分布図と資料―」は、日本全体を網羅する活断層の資料として最も権威があると考えられている資料であるから<証拠略>、原告らの主張は当を得たものとはいえない。
さらに、f―a断層、f―b断層の各断層の延長線として本件敷地内にも断層が存在する可能性があるとする点については、これら二つの断層が本件敷地に近接する低レベル放射性廃棄物埋設施設敷地の埋設設備群設置位置及びその付近の鷹架層中に存在することは当事者間に争いがないけれども、右の各断層の延長線として本件敷地内にも断層が存在することを認めるに足りる確たる証拠はない(原告生越忠本人の本件敷地内に断層がある旨の供述も憶測を述べるにすぎない。)から、原告らの主張は採用できない。
(五) 地盤の隆起・沈降等
原告らは、地震が起きた場合には一般的に地盤の隆起・沈降による地盤の変位が生じることが少なくないにもかかわらず、本件安全審査は、将来においても施設に影響を与えるような地盤の隆起あるいは沈降を生じるおそれがないとの結論を導いているのは、<1>過去の隆起沈降の有無の調査方法が不明であること、<2>調査によっても隆起沈降の形跡がないことが示されるにとどまり隆起沈降のなかったことの証明にはならないこと、<3>過去に隆起沈降がないからといって将来これが生じない保証はないこと、の点において科学的根拠を欠いていると主張する。
しかし、本件安全審査において、文献調査及びボーリング調査の結果により過去に地盤の局所的な隆起沈降が生じた形跡がないことを確認したことは前記認定のとおりであるから、右<1>は理由がない。また、過去における隆起沈降の有無について合理的な調査手法により調査が行われている限り、過去の隆起沈降の形跡の有無をもって将来の隆起沈降の可能性を判断することにも一定の合理性はあるというべきであるところ、証人大谷圭一の証言によれば、本件敷地が属する台地ないしは丘陵のすそ野の土地については、建物建築のための地盤調査としては、文献調査によって地盤の広がりを確認するとともに現地でボーリング調査を行うことが重要であること、及び急傾斜の台地や丘陵地における地盤調査では地盤の隆起・沈降を念頭に置いた注意深い調査が必要であるのに対して、本件敷地のように台地ないしは丘陵地のすそ野に位置するなだらかな地形の場所においては、建築物の設計においてそのような配慮は不要と考えられていることが認められるから、過去の隆起沈降の形跡を右のように文献調査及びボーリング調査によって確認する方法は十分に合理的であるということができ、その結果として過去に隆起沈降の形跡がないことをもって将来においても隆起沈降のおそれがないと判断した本件安全審査もまた一定の合理性を有しているものというべきであり、右<2><3>も採用できない。したがって、原告らの主張は理由がない。
2 地震
(一) 地震リストの改ざん
原告らは、本件許可申請書が本件敷地から震央までの距離が二〇〇キロメートル以上ある地震を取り上げておらず、かつ旧いデータに基づいているにもかかわらず、これを前提とし、あるいはこのことを看過している点において本件安全審査は違法であると主張するが、本件安全審査において、本件許可申請書が参照していない新しい資料である昭和六二年三月刊行の「新編日本被害地震総覧」(いわゆる宇佐美カタログの新版)や昭和六二年版の理科年表に記載された地震についても検討が加えられたこと及び本件敷地から震央が二〇〇キロメートル以上離れた地震についても本件許可申請書の記載とは別に検討が加えられたことは前記認定のとおりであるから、右主張は理由がない。なお、原告らは、この点に関し、科学技術庁発表の文書の記載を問題としているけれども、右文書の記載内容についてはこれを認めるべき証拠はない。また、原告らは、本件許可申請書では震央位置が本件敷地から二〇〇キロメートル以遠の地震については余震が二〇〇キロメートル以内にあっても除外されており、本件安全審査ではこの点を不問にしている旨主張するが、本件安全審査において本件許可申請書に掲記の地震のほか震央距離が二〇〇キロメートル以上の地震も検討対象としたことは右のとおりであるから、この主張も理由がない。
次に、原告らは、本件許可申請書の添付書類における本件敷地周辺の被害地震の表が宇佐美カタログの旧版を基に作成されていることをもって、内閣総理大臣が原燃産業に対し右の表及び本件許可申請書の差替えを要求すべきであったと主張するが、本件安全審査において宇佐美カタログの新版に基づいた検討が行われたことは前記認定のとおりである以上、内閣総理大臣が原燃産業に対して本件許可申請書等の差替えを求めなかったからといって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるということはできない。したがって、右主張は理由がない。
このほか、原告らは、本件許可申請書が震央位置が不明である地震を考慮対象外としていることを不問とした点において本件安全審査に重大な過誤があると主張する。しかしながら、証人大谷圭一の証言によれば、本件安全審査では、検討対象となった資料に記載された地震のうち、本件許可申請書が考慮対象外とした震央不明の地震についても検討を加え、本件敷地において考慮すべき最大の震度階についての判断に影響を与えるような地震はないと判断されたことが認められるから、右主張は理由がない。なお、この点に関し、原告らは、震央位置の不明な地震は被害記事が少ないとしても弱い地震とは限らないとも主張するが、震央位置が不明でかつ被害記事も少ない地震については、その規模等を調査する手段がないこと及びそのような地震が被害の既知である地震より大規模な被害を本件敷地にもたらす蓋然性を認めることもできないことからすると、右主張をもって本件安全審査が不合理であるとはいえない。
(二) 震度階のごまかし
(1) 原告らは、昭和四三年五月一六日の十勝沖地震の本震は、青森県の調査において震度V、一部では震度Ⅵであり、死傷者や全壊家屋が多数に上っているにもかかわらず、これを震度IVに位置づけた本件許可申請書の誤りは明白であり、本件許可申請書を受けて本件敷地での最大の震度階をVと結論した本件安全審査の誤りは明白であると主張する。しかしながら、<証拠略>によれば、十勝沖地震の際の本件敷地周辺地域における震度階はVであったことが認められるから、右主張は理由がない。
(2) 原告らは、マグニチュード―震央距離図上に過去の地震の数値をあてはめて震度階を検討する手法について、震度階は右の地震規模(マグニチュード)及び震央距離以外の諸要素によっても大きく左右されるとして、地震による敷地への影響を評価する方法としての有効性に欠ける旨主張する。
この点については、<証拠略>によれば、マグニチュード―震央距離図は、過去の地震のデータに基づき地震規模とある震度階を記録した地域の面積との関係を図式化して相関関係を見出し両者の関係を表す近似式を導いた研究成果を応用して、右地域が震央を中心とする円であると仮定した場合の半径を計算し、地震規模とこの半径距離との関係を示したものであること、しかしながら、地震規模と一定の震度階の地域の面積とは実際には厳密な等式関係にはなく、また、震度階は地盤条件や発震機構等の要因に左右され同一震度階の分布も必ずしも円形にならないといった理由から、右のマグニチュード―震央距離図は、平均的・モデル的な両者の相関関係を示すにとどまるものであること、したがって、ある地震における現実の震度階と、マグニチュード―震央距離図に当てはめて求めた震度階とは必ずしも一致するものではないこと、以上の事実が認められ、これらの事実によれば、マグニチュード―震央距離図から求めた震度階は、ある地震による震度階を検討する上では、平均的な震度階を示す一応の機能を有しているということはできるものの、実際の地震との関係では、右図から求めた震度階と実際の震度階が異なることは十分あり得ることであって、その意味で右図に基づく推測を絶対視することはできないというべきであり、マグニチュード―震央距離図と実際の地震による各地の震度階とを比較した結果<証拠略>に照らしても、原告らの右主張は一面において正しい指摘を含んでいるということができる。
しかしながら、他方、右の認定事実によれば、マグニチュード―震央距離図は、震度不明の地震の震度階を推測する一応の機能を有しており、また、実際の震度階と齟齬を生じる場合があるにしても、実際の震度階を過小の方向に偏って評価する性質のものではないことが認められる。そして、<証拠略>によれば、実際の地震の震度階の範囲を円形で推定することはできないにしても、発震機構等が不明である過去の地震について同一震度階の範囲を円で近似することには一定の妥当性が認められること、昭和四四年に論文で発表された前記近似式は基礎となった地震データのその後の補正によってもなお妥当性を維持していると考えられ、また、この式の不当性を指摘する議論もされていないこと及び他に実際の震度階が不明である過去の地震について本件敷地における震度階を推定する方法は見当たらないことが認められ、これらの事実をも併せ考えると、右図によって過去の被害程度が不明である地震の震度階を推測する手法は、なお一定の合理性及び有効性を有しているというべきであって、これを不合理として排斥するまでの理由はない。加えて、本件安全審査においては、マグニチュード―震央距離図に基づく推測結果以外に、揺れや被害の程度が具体的に判明している地震についてはその震度階を直接調査しており、これらを総合して検討した結果、本件敷地で考慮すべき地震を震度Vであると判断したものであることは前記認定のとおりであるから、本件安全審査の調査審議及び判断がマグニチュード―震央距離図を偏重し、専らこれに依拠しているというわけでもない。以上の点を踏まえると、原告らの右主張によっても、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとまではいえない。
なお、原告らは、地震の最大加速度と震度階との関係を根拠にマグニチュード―震央距離図に描かれている震度区分曲線の根拠における問題点をも主張するが、その裏付けとなる証拠は見当たらない。
(3) このほか、原告らは、科学技術庁作成の「安全審査について」の記載を根拠にして、内閣総理大臣が真実、本件許可申請書が基礎とした以外の資料を参照したかどうかは疑わしいと主張するが、右文書の記載内容については何らの立証もない。
また、原告らは、過去の地震には青森県東部地方で震度階がVないしVIあるいはVIに達した地震もあるとして、本件安全審査で真実他の資料を参照したのであれば本件敷地周辺で記録された被害地震の影響度を最大VIとするはずであると主張する。しかしながら、原告らが指摘する二つの地震(一七六三年一月二九日の「陸奥八戸の地震」及び昭和四三年五月一六日の十勝沖地震)が本件敷地に震度VIの揺れを生じさせた事実を認めるに足りる証拠はない。もっとも、<証拠略>中には、右十勝沖地震で六ヶ所村に震度VIの場所もありそうであるとするかのごとき記載部分があるけれども、右記載は、その前後関係及び添付文書を総合すれば、六ヶ所村以外の地点における震度階について言及したにすぎないと解される。したがって、原告らの主張は採用できない。
(三) 中小規模の地震
原告らは、本件安全審査では中小規模の地震、すなわちマグニチュード七未満の地震についての検討が必要であるのに、マグニチュード―震央距離図によってしか検討がされておらず相当でない旨主張するが、本件安全審査では実際の震度階が資料で明らかになっている地震についてはそれに基づく検討が行われていること及び震度階不明の地震についてマグニチュード―震央距離図により震度階を推測する手法が不合理とはいえないことはいずれも前記のとおりであるから、右主張は理由がない。
(四) 震度Vを上回る地震発生の危険
原告らは、将来本件敷地において震度Vを超える地震が発生しないとの保証はないとして、本件安全審査の判断の不合理性を主張する。
後記(七)で認定するとおり、本件施設を含む日本中のあらゆる場所の原発、核燃料施設が想定外の大地震に襲われ、それぞれの基準地震動を上回る激しい地震動に襲われる可能性があると指摘する地震学者がいることは確かであり、将来本件敷地において震度Vを超える地震が絶対発生しないと断定することはできないけども、本件安全審査においては、歴史地震を検討して過去に発生した地震の本件敷地への影響は最大で震度V程度であると認めた上、地盤条件を併せて総合的に評価した結果、本件敷地では震度Vの地震を考えれば十分であると判断したことは前記認定のとおりであり、このことは過去に発生した地震の規模を超える地震が今後発生する蓋然性が低いとの判断に基づくものといえ、将来震度Vを超える地震が発生しないとの保証がないからといって、本件安全審査の判断が格別不合理であるとまではいえない。
(五) 加工施設指針の問題点
原告らは、敷地の直下に断層が存在していなくても敷地周辺の断層の再活動により発生する地震でウラン加工施設が設計地震力を超える強い地震力を受けてその安全性が損なわれる可能性があるとして、地震の原因としての活断層に関する評価を要求していない加工施設指針は不備である旨主張する。
しかしながら、ある建造物について、これに被害を及ぼし得る地震の調査をいかなる範囲で行うべきかは当該建物の特質に応じて定められるべきものであるところ、地震が自然現象として繰り返し発生するという性質を持っており、有史以来の記録調査によって将来ある地域で発生し得る地震の規模や発生間隔、影響の程度を知ることができるという知見(<証拠略>)に照らすと、加工施設指針が、ウラン加工施設について敷地及びその周辺地域における過去の記録及び現地調査によって最も適切と考えられる地震力を判断するという方法を定めていることにも、一定の合理性があるということができる。これに対して、ウラン加工施設との関係において、右の調査以上に、地震に関して敷地周辺地域の活断層を調査すべき必要性があると解すべき的確な根拠は見当たらない。したがって、原告らの主張は理由がない。
(六) 活断層の存在
原告らは、下北半島の東方沖合の海底や陸域に多数の活断層があるにもかかわらず、安全審査書が根拠もなくその存在を故意に無視し、あるいは施設に影響を与えないと断定している旨主張する。
しかしながら、加工施設指針は、ウラン加工施設における最も適切と考えられる設計地震の検討を、敷地及びその周辺地域における過去の記録、現地調査等を参照して行えば足りることとしており、活断層は、地質及び地形の観点から考慮されるのみで、地震の原因としては検討対象として位置づけられていない。したがって、基本的立地条件の審査としては、断層については施設に不同沈下等の影響を及ぼすか否か等の観点から敷地内の断層を対象とした検討がされていれば足り、それ以上に、敷地外の断層について、地震の原因として検討対象とすることまでは必要がないというべきである。したがって、原告らの主張は理由がない。
(七) プレート間地震及び海洋プレート(スラブ)内地震に関する安全審査の欠如
原告らは、本件施設付近では大規模なプレート間地震が繰り返し発生しているにもかかわらず、本件安全審査においては、この大規模なプレート間地震を検討の対象から外しており、また、海洋プレート(スラブ)内に地震活動が認められ、大規模な海洋プレート(スラブ)内地震が発生する可能性は否定できないのに、本件安全審査においては、このような地震の発生を想定した審査は全く行われておらず、明らかな欠落があると主張する。
<証拠略>によると、日本列島の太平洋沿岸及び沖合に起こるマグニチュード七以上の主なプレート境界ないしプレート間地震の発生場所として青森県東方沖が挙げられ、昭和四三年五月一六日に発生した十勝沖地震及び平成六年一二月二八日に発生した三陸はるか沖地震は、いずれもこのプレート間地震によるものであるとされていること、また、平成五年一月一五日に発生した釧路沖地震及び平成六年一〇月四日に発生した北海道東方沖地震がいずれも太平洋プレート内の深さ三、四〇から一〇〇キロメートルでマグニチュード七・八以上の海洋プレート(スラブ)内地震であるとし、現状では、本件施設を含む日本中のあらゆる場所の原発、核燃料施設が想定外の大地震に襲われ、それぞれの基準地震動を上回る激しい地震動に襲われる可能性があると指摘する地震学者がいることが認められる。
しかし、本件施設のようなウラン加工施設を設置するに当たっては、その立地条件や耐震設計上想定される地震として最大規模のものを想定するのが望ましいことではあるが、それには自ずと限度があるのであって、本件施設のようなウラン加工施設は、取り扱う核燃料物質の性質や加工施設の内容等からして、他の原子炉施設と比べ、内蔵するエネルギー及び放射能量が少なく、しかも臨界状態での核分裂反応を制御する必要性もないこと等核燃料物質による災害の潜在的危険性が相対的に小さいこと、また、日本中のあらゆる場所の原発、核燃料施設がそれぞれの基準地震動を上回る激しい地震動に襲われる可能性があると指摘する右地震学者も、スラブ内地震の発生条件はまだ学問的に解明されていないとしていること等の事情にかんがみると、本件安全審査において、プレート間地震、殊に海洋プレート(スラブ)内地震といった地震学上の新たな知見を考慮しその発生を想定していないとしても、この点に看過し難い欠落があるとまではいえない。したがって、原告らの主張は理由がない。
(八) 鳥取県西部地震が明らかにした本件安全審査の誤り
原告らは、平成一二年一〇月六日に発生した鳥取県西部地震について、本件安全審査と同じ方法で最大震度が五と評価される日野で震度七ないし六強の地震が記録されたことは、本件敷地においても同様の事態が生じ得るとし、本件安全審査で用いられた具体的審査基準は最大想定地震を現実に発生したものよりもかなり過小評価しており、この基準は不合理であると主張する。
確かに、<証拠略>によると、平成一二年一〇月六日鳥取県西部においてマグニチュード七・三の規模の地震があり、境港市及び日野町で震度六強を観測していることが認められる。しかし、鳥取県西部地震については、地震学者等の専門家による科学的な調査、研究がいまだ十分されたとはいい難い状況にあることがうかがわれ、この地震に関する科学的知見により本件安全審査で用いられた審査基準が不合理なものであると評価するには十分でないから、鳥取県西部地震の際に右のような観測値が得られたとの一事をもって、本件安全審査で用いられた審査基準が直ちに合理性を欠くものであるとまではいえない。したがって、原告らの主張は採用できない。
3 その他の自然的立地条件
(一) 気象
(1) 積雪
原告らは、本件敷地周辺が豪雪地帯であり、本件施設を一九〇センチメートルの最大積雪深に耐える設計とすることは困難であり、仮に設計が可能であるとしても施設の稼働上多大な支障と危険が避け難いと主張するが、この点の裏付けとなる証拠はない。
また、原告らは、本件敷地周辺でこれまでの最大積雪深を超える積雪がある可能性を指摘するものの、右主張は、そのような事態が生じる抽象的危険性を指摘するにとどまり、これをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
よって、原告らの主張は、いずれも理由がない。
(2) 強風
原告らは、本件敷地周辺が強風地帯に属することをもって、本件施設で事故があった場合には風下の周辺住民が放射線被曝を受けるとし、本件安全審査がこの点の考慮を怠っていると主張する。
しかしながら、本件安全審査では、後にみるように、技術的に発生が想定し得る事故のうち一般公衆の放射線被曝の観点からみて重要と考えられる事故(最大想定事故)の検討の中で、本件施設から六フッ化ウランが漏洩した場合の一般公衆の被曝線量については十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても極めて小さいと判断しているものであるから、右の主張は理由がない。
また、原告らは、本件安全審査で検討の対象となった過去の最大風速及び瞬間最大風速が本件敷地から約五〇キロメートル離れた青森市で観測された数値であること(当事者間に争いがない。)をもって、本件安全審査は不適当であると主張する。
この点については、確かに、加工施設指針一が加工施設の立地地点における風向や風速を検討することを定めていることに照らすと、青森市における観測データが検討されたにとどまる本件安全審査が必ずしも相当であるとはいい難いものの、右の観測データも本件敷地における風速の程度を見積もる最低限の参考資料としての意味合いはあること及び本件施設が建築基準法施行令所定の風速毎秒六〇メートル相当の風圧力に耐えるように設計されるものであること(<証拠略>)を踏まえると、このことをもって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとまではいえない。
(二) 水理・水象
(1) 洪水・高潮等
この点に関する原告らの主張は、洪水による侵蝕作用によって将来的には本件敷地の存する丘陵が崩壊するというものにすぎず、前記認定の本件安全審査における調査審議及び判断の過程の看過し難い過誤、欠落の主張としては不十分であり、主張自体失当である。
(2) 津波
この点に関する原告らの主張は、本件敷地の約三六メートルという標高を上回る波高の津波が過去にあったこと等を根拠として、本件敷地が津波に襲われる危険性を抽象的に指摘するにとどまり、本件敷地の具体的な諸要素(標高、海岸からの距離、地形等)に基づいて本件敷地に津波の危険性がないとした本件安全審査の調査審議及び判断の過程における看過し難い過誤、欠落の主張としては足りないというべきであって、それ自体失当である。
(3) 地下水
原告らは、鷹架層上部の風化部分中のN値が一〇程度の部分は、これが地下水によって飽和されている場合には液状化現象を起こす危険性があると主張するが、本件施設の建物については、支持層を鷹架層のうちN値が五〇以上の部分に設定することは前記認定のとおりであるから、右主張は、本件施設の安全性とは関係のない地盤について液状化の危険を指摘するものにすぎず、主張自体失当である。また、原告らは、本件敷地の表層地盤、とりわけ造成地盤については液状化現象の可能性が十分にあり、加工施設の事故の誘因になると主張するが、支持地盤より上の表層の地盤の液状化によって本件施設にいかなる危険が及ぶかについては具体的な主張がなく、主張自体失当というべきである。
このほか、原告らは、環境汚染との関係で地下水の検討の必要性を主張するが、このような環境への影響それ自体は、本件施設に求められる安全性の問題には含まれないから、右主張は理由がない。
4 社会環境
(一) 国家石油備蓄基地
原告らは、むつ小川原国家石油備蓄基地での大火災が本件施設の事故誘因となりかねない旨主張する。
しかし、本件安全審査においては、本件敷地との距離関係を理由として右国家石油備蓄基地の存在によっても本件施設の安全性が損なわれることはないと判断されたことは前記認定のとおりであり、そこでの大火災を抽象的な事故誘因として指摘するにとどまる原告らの主張は、本件安全審査の調査審議又は判断の過程における看過し難い過誤、欠落の主張とはいえず、それ自体失当である。
(二) 人口分布状況
原告らは、本件安全審査において、六ヶ所村の尾駮地区の住民の生命等に対する考慮が全くされていない旨主張するが、前記のとおり、規制法一四条一項三号の規定は、加工施設周辺に居住し、加工施設における臨界事故ないしは核燃料物質の漏出事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等をも保護する趣旨を含んでいるものであるから、本件安全審査は、本件施設の三号要件適合性を審査することを通じて右地区を含む周辺地域の住民の生命等の保護を図っているということができ、したがって、右主張は理由がない。
(三) 集中立地の危険性
原告らは、本件許可処分当時、本件敷地周辺には他の原子力関連施設の立地計画が進行中であり、施設の集中化によって各施設の危険性が相乗的に増大するとして、本件安全審査においてこのような施設の集中立地を想定した審査が行われていない旨主張する。
しかしながら、原告らが問題とする原子力関連施設については、本件許可処分当時はいまだ規制法上の指定や許可がされておらず、計画段階にあったにすぎないものであるから(<証拠略>)、本件安全審査においてそれらの危険性を評価しなかったからといって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
(四) 航空交通
(1) まず、原告らは、本件敷地上空が米軍三沢基地所属の航空機等の訓練空域での頻繁な往来における安全確保の目的で特別管制空域に指定されているところ、本件安全審査では、途中まで特別管制区の存在を航空機事故の要因として検討していたものの、原子力施設上空の飛行規制の存在を理由に審査の対象外にしてしまったが、右飛行規制は努力目標であり絶対的制限でないから、本件安全審査には重大な過誤があると主張する。
航空法九四条の二第一項及び航空交通管制区又は航空交通管制圏のうち計器飛行方式により飛行しなければならない空域を指定する告示(昭和三八年運輸省告示第三三八号。ただし、平成元年運輸省告示第六三九号による改正前のもの)並びに<証拠略>によれば、三沢市、野辺地町、東北町、六ヶ所村等及びその沖合にわたる面積約五〇〇平方キロメートルの区域の直上空域のうち高度六〇〇メートル以上七〇〇〇メートル以下の空域は、高度六一〇〇メートルを超え七〇〇〇メートル以下の三沢第一特別管制区と高度六〇〇メートル以上六一〇〇メートル以下の三沢第二特別管制区(以下この両特別管制区を併せて「本件特別管制空域」という。)に指定されており、その範囲は、三沢対地訓練区域に係る飛行制限空域の大部分を含みながらその北西方向から南西方向等にかけて下北半島の基部を横断する区域の上空に及び、本件敷地もその直下に位置していることが認められる。
そして、特別管制空域に関しては、<証拠略>及び航空関係法規によると、<1>航空機の飛行方式は、経路その他の飛行の方法について常に運輸大臣の指示等(実際には航空交通管制の指示等)に従って飛行する計器飛行方式(IFR)と、パイロットが目視によって地上の障害物、地表及び空中の他の飛行機などとの間に間隔を設定しながら航空機を操縦しそれらとの衝突を回避について常にパイロットが責任を負う有視界飛行方式(VFR)とがあること、<2>航空法に基づく管制空域としては航空交通管制区、航空交通管制圏等があり、これらの管制空域内を計器飛行方式で飛行する航空機は管制機関から飛行計画の承認を受け、飛行中は常時管制機関の周波数を聴取しその指示に従うことが義務づけられていること、<3>航空交通管制区とは、地表等からの高度が二〇〇メートル以上の空域で航空交通の安全のために運輸大臣が告示で指定するものをいい、航空路のほか、飛行機が計器飛行方式で出発上昇又は降下進入するための経路に必要な区域等が指定の対象で、このうち計器飛行方式による出発機及び到着機の多い区域については、進入管制業務又はターミナルレーダー管制業務を行う必要上進入管制区(ACA)として別途運輸大臣から告示されていること、<4>航空交通管制圏とは飛行場及びその上空における航空交通の安全のために運輸大臣が告示で指定するものをいい、通常は飛行場の標点から半径九キロメートルの円で囲まれた地域の上空について定められること、<5>特別管制空域(PCA)は、航空交通の輻輳する空域のうち主として特定の飛行場の周辺について公示された空域で、この空域においては運輸大臣の許可を受けた場合以外は計器飛行方式によらなければ飛行してはならないこと、<6>三沢第二特別管制区は三沢空港の進入管制区につき定められ、三沢第一特別管制区は三沢空港の進入管制区にかかわらない航空交通管制区につき定められていること、<7>本件特別管制空域は、三沢対地訓練区域で訓練を行う自衛隊機及び米軍機が飛行する空域の安全確保のために設定されたもので、これら軍用機等の飛行が優先され、原則的には民間の航空機の進入は許可されない運用がされており、訓練中の軍用機等は有視界飛行方式で飛行するものとされていること、以上の事実が認められる。
ところで、<証拠略>によると、自衛隊機を含む我が国の航空機については、航空法九九条に基づき、運輸大臣より航空機乗組員に対して提供される航空情報の一つとして運輸省が発行する「航空路誌」(AIP)に「航空機による原子力施設に対する災害を防止するため、下記の施設付近の上空の飛行は、できる限り避けること。」との指導事項及び原子力施設の位置等が掲載、公示されることにより、航空機乗組員に対して原子力施設付近上空の飛行規制が周知されること、もっとも、米軍機には航空法の規定は適用されないが、従前より政府から米軍に対し「航空路誌」に係る情報が事実上提供されるとともに、原子力施設付近上空の飛行規制について徹底するよう要請してきており、実際、昭和六三年六月三〇日に開催された日米合同委員会において、米国側代表が「原子力施設付近の上空の飛行については在日米軍としては従来より日本側の規則を遵守してきたが、(中略)改めて在日米軍内に右を徹底するよう措置する」と回答していること、そして、これらの飛行規制は飛行禁止等の絶対的な飛行規制ではないけれども、実際自衛隊機及び米軍機を含めこれまで遵守されてきていることが認められる(<証拠略>は、この認定を左右するに足りない。)。
このように、本件特別管制空域においては、その指定の有無にかかわらず、航空機は、原則として原子力施設及びその付近の上空を飛行しないよう規制され、自衛隊機はもとより米軍機についても実際上遵守されてきており、三沢特別管制区の存在については、本件許可申請書及び核燃料安全専門審査会第二三部会の審査メモ(<証拠略>)において一旦言及されはしたが、右のとおりの規制がされていることを理由に本件施設の安全性に影響を及ぼすことはないと判断された。
以上検討したところによれば、原子力施設上空の飛行規制は絶対的な飛行規制ではないが、その実効性までも否定することは当を得たものとはいえないから、これが絶対的制限でないことを理由に本件安全審査に重大な過誤があるとする原告らの主張は採用できない。
(2) 次に、原告らは、本件敷地上空の飛行状況として、敷地南方約二八キロメートルのところに三沢基地があり、敷地から南方約一〇キロメートル離れたところに三沢対地訓練区域があり、敷地近辺で測定した航空機の飛行回数が四万回を上回ると主張し、このように多数回航空機が上空を飛行しているところに本件施設を造ることは非常識であると主張する。
しかし、前記三6(二)で認定したとおり、原子力施設付近の上空における飛行をできる限り避けるこという飛行規制が敷かれ、またこの規制が及ばない米軍機においてもこの規制内容を遵守することとされていることからすれば、三沢基地や三沢対地訓練区域の存在をもって、直ちに本件敷地上空を航空機が多数飛行すると認めることはできないし、原告ら主張の飛行回数の測定値も、本件敷地で測定されたものとは認められない上、本件安全審査では、当該測定値を前提として算出した三沢対地訓練区域で訓練を行う航空機の本件施設への墜落確率についても検討を加えているから(<証拠略>)、当該測定値をもって直ちに本件安全審査に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
このほか、原告らは、パイロットのわずかの油断で航空機が本件敷地上空に到達する可能性を指摘するところ、そのような事態が発生する余地のあることは否定できないものの、そのようにして本件敷地上空を航空機が通過することがあり得ることのみをもって、本件安全審査に看過し難い過誤、欠落があるということはできない。
(3) また、原告らは、航空機が墜落する事故が相次いでおり、本件施設へ墜落する頻度は二〇年に一回であると主張し、<証拠略>中には、施設への墜落の頻度を二〇年ないし二五年に一回であるとする記載部分がある。しかし、右の主張及び記載部分はいずれも、本件安全審査で検討対象となった日本原燃による墜落確率の試算値である一・六の一〇のマイナス六乗倍等の数値(<証拠略>)に基づいて、一〇〇万回に一回余り墜落することと施設周辺の航空機の年間飛行回数の計測値の概数である四万回ないし五万回という数値(<証拠略>)とから算出したものと推測されるけれども、<証拠略>によれば、右試算値は、年間六万回ないし六万五〇〇〇回という飛行回数を前提とした上で一年間に航空機が墜落する確率を求めたものであると認められるから、<証拠略>の記載に基づく原告らの主張は、これを一回の飛行当たりの墜落確率であると誤解したことに基づくものというべきであり、採用できない。
5 墜落事故評価の問題点
(一) 想定事故の評価条件
原告らは、事故評価の対象としては、三沢対地訓練区域を使用する航空機のみならず、三沢基地を発着する軍用機その他本件敷地周辺上空を飛行するすべての航空機を想定した審査が必要であると主張する。しかしながら、前記のとおり、本件安全審査において本件施設の安全性に影響を及ぼし得る航空交通として考慮の対象となった三つの要素のうち、本件施設への墜落の可能性が問題となるのは三沢対地訓練区域を使用する航空機のみであって、三沢空港を発着する航空機の離発着時の事故の場合にも本件施設への影響はなく、また、定期航空路を飛行中の航空機が本件施設に墜落する可能性は無視できると判断されたのであって、この判断が妥当性を欠くとまではいえないから、墜落事故の事故評価において三沢対地訓練区域を使用する主たる航空機を想定対象としたことをもって当該事故評価に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
また、原告らは、誤射爆や落下物事故が想定対象となっていない点をも指摘するが、<証拠略>によれば、六ヶ所村内におけるこれらの事故はこれまでいずれも三沢対地訓練区域のための飛行コース近傍の地点で発生していることが認められるから、右コースから一〇キロメートル離れている本件施設の事故評価において右事故を想定対象としなかったことをもって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程における過誤、欠落ということはできない。
さらに、原告らは、平成三年一一月に米軍のF一六が三沢対地訓練区域の東方海上に二個の実爆弾を投棄したとの事実をもって、本件敷地上空を飛行する軍用機が実爆弾を搭載している可能性が高い旨主張する。しかしながら、<証拠略>によれば、右の事件は、三沢基地を離陸後鳥島の射爆撃場に向かう予定で実爆弾を搭載していた米軍機が離陸直後にトラブルを起こしたために三沢対地訓練区域の沖合に爆弾を投棄したという事件であるのに対し、三沢対地訓練区域における訓練は模擬弾を用いて行われているものであることが認められ、このことからすると、三沢対地訓練区域を使用する航空機による事故を想定する場合において実爆弾の搭載を想定する必要性があるとはいえないし、また、三沢対地訓練区域を使用する主たる航空機を想定対象とし、それ以外の航空機について事故評価を行わなかったことに看過し難い過誤、欠落があるといえないことは右で説示したとおりであるから、原告らの主張は理由がない。
(二) 発回均質棟の安全性
原告らは、航空機等が墜落した場合の貫通限界厚さを求めるに当たって用いる飛来物形状係数は、航空機の場合には若干丸い場合の〇・八四を、模擬弾の場合には球形の場合の一・〇を用いるべきであると主張する。
この点については、証人大森勝良の証言によれば、本件安全審査では飛来物形状係数を平坦の場合の〇・七二を用いて計算しているものと認められるところ、具体的にいかなる形状の場合にいかなる飛来物形状係数を用いるべきかという点及び本件安全審査における事故想定で前提とされたF一六のエンジンの具体的な形状についてはいずれも原告らの主張に沿う事実を認めるに足りる証拠はないから、本件安全審査で〇・七二という飛来物形状係数が用いられたことを看過し難い過誤と評価することはできない。また、模擬弾の飛来物形状係数については、本件安全審査ではそもそも模擬弾を想定した事故評価を行っておらず、この点を看過し難い過誤、欠落ということができないことは右のとおりであるから、原告らの主張は前提を欠き失当である。
次に、原告らは、貫通限界厚さを求めるに当たり用いる評価式として、本件安全審査で用いられたDegen式ではなく、Adeli&Amin式を用いると、F一六やその他の戦闘機、模擬爆弾、旅客機について限界貫通厚さが九〇センチメートルを超え、発回均質棟でも局部破壊が生じることになると主張する。しかし、本件安全審査においてDegen式を用いたことそれ自体が看過し難いほどの過誤であることを認めるに足りる立証はないから、右主張によっても、Degen式を用いて行われた本件安全審査における墜落の影響評価の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
また、原告らは、本件安全審査において本件許可処分後に三沢基地に配備された航空機であるF四EJ改について事故評価をしていない点を主張する。しかし、本件安全審査における事故評価は前記のとおり三沢対地訓練区域を使用する航空機のうち本件許可処分当時三沢基地に最も多く配備されていた航空機として航空自衛隊のF一及び米軍のF一六を想定対象としたものであって、本件許可処分当時に三沢基地に配備されていなかったF四EJ改を想定して事故評価を行わなかったとしても、このことをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程における看過し難いほどの過誤、欠落とはいえない。
さらに、原告らは、本件安全審査に当たって想定されたのは、トラックパターンで訓練中の航空機がエンジン推力を喪失し、グライダーのように滑空して本件施設に到達するという場合であるが、そもそも航空機が地上の施設に衝突する場合の速度を算定するに際し、最良滑空速度をもって衝突速度とする見解自体確立した考えとはいえないし、エンジン推力を維持したまま、パイロットが操縦不能となるケースは十分考えられるから、エンジン停止の場合だけを想定する本件安全審査の過誤、欠落は明らかであると主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件安全審査においては、三沢対地訓練区域を使用する訓練中の航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいと判断されたこと、そして、この判断は原告らが主張するパイロットが操縦不能となるような事例の可能性を考慮したとしても必ずしも妥当性を欠くものであるとはいえないこと等からすると、当該訓練中の航空機が本件施設に墜落することを想定し、防衛庁のF一と米軍のF一六がエンジン故障等により訓練コースを外れて本件施設付近まで滑空して施設に衝突する、すなわち原告らが指摘する最良滑空速度で衝突するものと仮定し、エンジン推力を維持したままの状態で施設に衝突するような場合を想定せずに、施設に墜落した場合の一般公衆に対する影響についての評価を行ったとしても、そのことをもって、直ちに本件安全審査が行った事故評価に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
このほか、原告らは、本件安全審査が、想定条件、飛来物形状係数や評価式について、貫通限界厚さが九〇センチメートルを超えず発回均質棟が局部破壊しないとの結果を導く組合せを殊更に選定している旨主張するが、衝突速度を含め想定条件その他事故評価を行うに当たって採用された要素の選択は、個別的にはそれ自体に看過し難い過誤があるとは評価できず、またそこに恣意的な選択判断が働いたことを認めるに足りる証拠もない以上、右主張は採用できない。
(三) 中央操作棟の安全性
原告らは、内閣総理大臣の想定でも、中央操作棟については「貫通する。また、航空機衝突によっても鉄筋コンクリートスラブが破壊され、全体破壊が起こり得る。」とされており(<証拠略>)、この場合本件施設の制御が不能となるのであって、どういうことが発生するか予想は不能であり、最大・最悪の事態を想定すべきであると主張する。
しかし、そもそも<証拠略>中には原告らが指摘するような記載部分は存在しないし、全体破壊によってウラン濃縮建屋内の中央操作棟が破壊され、施設の制御が不能となる事態が発生するとしても、そもそも原告らにおいて、そのことによりいかなる事態が発生するのか予想は不能であるとしているのであって、果たしていかなる事態が発生し、どのような結果がもたらされるのか等について何らの主張もない。もっとも、この点について、証人柴田俊忍は、フェイル・セーフの考え方で作られてあれば問題はないが、そうでない限りは暴走することも考えなければいけないと証言し、また、証人高木仁三郎も、中央操作棟が破壊されるということは制御ができなくなるということであるから、そのような状況の中では、誰も現場に入れなくなり、ほとんど現場が野放しになり、素早く進むかゆっくり進むか多少評価に違いがあるが、大規模なウランの放出が進んでいき、想定される数トンの量のウラン以上のウラン災害になる可能性が十分ある旨証言する。
確かに、右証言からうかがわれる中央操作棟の破壊によってもたらされる事態の内容に照らすと、航空機が本件施設に墜落した場合に想定される事故評価において、その衝突対象として中央操作棟を含むウラン濃縮建屋のうち発回均質棟とカスケード棟のみを選定したことは必ずしも十分なものとはいえない。しかしながら、前記認定のとおり、本件安全審査においては、三沢対地訓練空域を使用する訓練中の航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいと判断されたのであって、仮にそのような航空機が本件施設に墜落する事故を想定した場合に、取り扱うウランの性状や量を考慮し、その衝突対象として発回均質棟等を選定し、中央操作棟を選定しなかったとしても、そのことをもって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
(四) 六フッ化ウランの漏洩量と被曝線量
原告らは、ウラン貯蔵建屋に貯蔵可能な最大量のウランが貯蔵されている場合には施設破壊時の放射能の漏洩量は〇・三キュリーにとどまらない旨主張し、証人柴田俊忍及び同高木仁三郎の各証言中にはこれに沿う趣旨を述べる部分がある。
この点については、<証拠略>によれば、ウラン貯蔵庫における施設破壊時の放射能漏洩量の算定根拠としては、<1>建物に航空機が墜落した場合には機体の翼部等は飛散して胴体部のみが建屋内に貫通すると評価されたこと、<2>貫通した導体によって損傷を受けるシリンダの数は、衝突部周辺への波及も考慮して翼部等を含む機体の平面的な全投影面積である約九〇平方メートルの範囲で、しかも放射能内蔵量の多い製品シリンダを想定し、製品シリンダ一五本と想定したこと、<3>航空機墜落時に発生する火災は、機体の保有燃料油全量が傾斜床面に流出して燃焼すると仮定し、傾斜路における流体の流速に関するマニングの式と燃料油の燃焼速度を考慮すると約三分間継続すると評価されるところを、安全側に裕度をみて約六分間と想定すること、<4>火災により生じる放射熱である二万五〇〇〇キロカロリー毎平方メートル時間のエネルギーは安全側にすべてが損傷シリンダの全面で受熱されるものと仮定すること、<5>シリンダ内の六フッ化ウランの温度が七六〇トール(一気圧)の下における昇華温度である摂氏五六度に至って昇華するものとしてシリンダから漏洩する量を計算すると、その放射能量は約三キュリーとなること、<6>シリンダから漏洩した六フッ化ウランの建屋外への漏洩率については、六フッ化ウランが漏洩後空気中の水分と反応してフッ化ウラニル(ウラン原子一個、酸素原子二個及びフッ素原子二個からなる分子)となり、大部分は重力沈降及び壁等への付着により建屋内に残留すると考えられること及び建屋の破損の程度から一〇パーセントと想定したこと、以上の事実が認められる。これに対し、前記の証言のうち、証人柴田俊忍の証言は破損するシリンダの本数(右<2>の点)に関し、建屋内のシリンダの全部の破損を想定すべきであるとするものであるが、その考え方と右<2>の想定の優劣はともかくとしても、右証言のみをもっては、右<2>の想定に看過し難い過誤があると認めるには足りないというべきである。また、証人高木仁三郎の証言は、六フッ化ウランのシリンダから建屋内への漏洩量及び建屋の外への漏洩率(右<5>及び<6>の点)に関し、単にその結論のみを取り上げて過小であると指摘するものにすぎず、この証言をもって本件安全審査における墜落事故評価の調査審議及び判断の過程に過誤があると認めることはできない。
また、原告らは、ウラン貯蔵建屋からのウランの漏洩量が〇・三キュリーである場合に一般公衆への被曝線量当量が〇・〇六レムであるとしても、これが健康に重大な障害をもたらすことは明らかであると主張する。しかしながら、この〇・〇六レム、すなわち〇・六ミリシーベルトという線量当量については、<証拠略>によれば、核種摂取後五〇年間にわたり全身が受ける実効線量当量であると認められるところ、これは一般の自然放射線の被曝による平均の一人当たりの線量当量年間一・一ミリシーベルト程度や、胃の集団検診の場合の一検査当たり四ミリシーベルト程度といった値と比較した場合に格段に小さい数値ということができ、これがいかなる意味において健康に重大な影響をもたらすのか明確でない以上、右主張は失当というべきである。
このほか、原告らは、墜落事故に伴う火災に起因するフッ化水素の発生について本件安全審査において考慮がされていない旨主張するが、<証拠略>によれば、フッ化水素については、建屋外への漏洩量を五〇パーセントと想定した場合の敷地境界濃度について検討が行われたことが認められるから、右主張は前提を欠き失当である。
(五) 航空機墜落実験
原告らは、本件安全審査において航空機の衝突を想定した実験を実施していない点をもって、本件安全審査の違法を主張するけれども、本件安全審査においていかなる実験を行う必要性があるかについては何ら具体的な主張はないから、右主張はそれ自体失当である。
6 まとめ
以上によれば、本件施設の基本的立地条件に係る安全性に関する原告らの主張は、いずれも理由がなく、したがって、この点において本件許可処分における内閣総理大臣の判断に不合理な点があるとはいえない。
第三加工施設自体の安全性確保対策
一 はじめに
規制法一四条一項三号の要件のうち、本件施設自体の安全性確保対策に係るものは、前記(第一の―3)のとおり、想定される各種の事故防止対策、事故によっても六フッ化ウランが大量に漏出等することのないようなウランの閉込め機能の確保対策及び臨界管理がそれぞれ適切に行われているかという問題であり、これらによって六フッ化ウランの潜在的危険が顕在化する危険性が社会通念上容認し得る一定水準以下となっているか否かという観点から検討されるべきこととなる。
なお、加工施設自体の安全性確保対策に係る本件安全審査のうち、労働者被曝に関する放射線遮へい及び放射線被曝管理並びに放射性物質閉込めの機能のうち作業環境の汚染防止に対する考慮については、前記(第二章第一)の説示のとおり本件において原告らはその違法を主張することができないから、被告の主張立証に基づくものも含め、この点に関する認定判断はしない。
二 加工施設指針等の内容(<証拠略>)
1 地震に対する考慮
核燃料施設基本指針一三は、地震に対する考慮として、核燃料施設における安全上重要な施設は、その重要度による耐震設計上の区分がなされるとともに、敷地及びその周辺地域における過去の記録、現地調査等を参照して、最も適切と考えられる設計地震力に十分耐える設計であることを定めている。また、加工施設指針一三は、耐震設計上の重要度分類としては、設備・機器(配管、ダクト等を含む。)と建物・構築物とに分けて、それぞれについて、地震により発生する可能性のあるウランによる環境への影響の観点から、ウラン加工施設の耐震設計上の重要度の分類を第一類から第三類まで定めるとともに、耐震設計評価法として、四点の耐震設計上の基本的な方針を掲げた上で、建物・構築物の耐震設計法、設備・機器の耐震設計法について、静的設計法を基本とすること、耐震設計上の静的地震力として建築基準法施行令(昭和六三年政令第三二二号による改正前のもの。以下同じ。)八八条所定の最小地震力に割増係数を乗じたものを用いること等を定めている。
2 地震以外の自然現象に対する考慮
核燃料施設基本指針一四は、地震以外の自然現象に対する考慮として、核燃料施設における安全上重要な施設は敷地及びその周辺地域における過去の記録、現地調査等を参照して、予想される地震以外の自然現象のうち最も過酷と考えられる自然力を考慮した設計であることを定めている。そして、加工施設指針一四は、右にいう自然力につき、敷地及びその周辺地域の自然環境をもとに洪水、津波、台風、積雪等のうち予想されるものに対応して、過去の記録の信頼性を十分考慮の上、少なくともこれを下回らない過酷なものであって妥当とみなされるものを選定し、これを設計基礎とすることを定めるとともに、過去の記録や現地調査の結果等を参考にして必要な場合には異種の自然現象を重畳して設計基礎とすることを求めている。
3 火災・爆発に対する考慮
核燃料施設基本指針一五は、火災・爆発のおそれのある核燃料施設においては、その発生を防止し、かつ、火災・爆発時には、その拡大を防止するとともに施設外への放射性物質の放出が過大とならないための適切な対策が講じられていることを定め、この点につき、加工施設指針一五は次のように定めている。
(一) 不燃性材料の使用等
ウラン加工施設の建屋は、建築基準法等関係法令で定める耐火構造又は不燃性材料で造られたものであること。また、設備・機器は実用上可能な限り不燃性又は難燃性材料を使用する設計であること。
(二) 可燃性物質の使用対策
施設において有機溶媒など可燃性の物質又は水素ガスなど爆発性の物質を使用する設備・機器は、火災・爆発の発生を防止するため、発火・温度上昇の防止対策、水素ガス漏洩、空気の混入防止対策等適切な対策が論じられていること。
(三) 火災・爆発の拡大防止対策
万一火災・爆発が発生した場合にも、その拡大を防止するための適切な検知、警報設備及び消火設備等が設けられているとともに、汚染が発生した部屋以外に著しく拡大しないよう適切な対策が講じられていること。
4 臨界安全に対する考慮
(一) 核燃料施設基本指針一〇は、ウラン加工施設における単一ユニットの臨界安全について、技術的に想定されるいかなる場合でも、単一ユニットの形状寸法、質量、溶液濃度の制限及び中性子吸収材の使用等並びにこれらの組合せによって核的に制限することにより臨界を防止する対策が論じられていることを定めている。そして、加工施設指針一〇は、この点につき、次の六点を定めている。
(1) ウランを収納する設備・機器のうち、その寸法又は容積を制限し得るものについては、その寸法又は容積について核的に安全な制限値が設定されていること。
(2) 右(1)の規定を適用することが困難な場合には、取り扱うウラン自体の質量、寸法、容積又は溶液の濃度等について核的に安全な制限値が設定されていること。また、この場合、誤操作等を考慮しても工程中のウランがこの制限値を超えないよう、十分な対策が講じられていること。
(3) ウランの収納を考慮していない設備・機器のうち、ウランが流入するおそれのある設備・機器についても(1)、(2)の条件が満たされていること。
(4) 核的制限値を設定するに当たっては取り扱われるウランの化学的組成、濃縮度、密度、溶液の濃度、幾何学的形状、減速条件、中性子吸収材等を考慮し、特に立証されない限り最も効率のよい中性子の減速、吸収及び反射の各条件を仮定し、かつ、測定又は計算による誤差及び誤換作等を考慮して十分な裕度を見込むこと。
(5) 核的制限値を定めるに当たって参考とする手引書、文献等は、公表された信頼度の十分高いものであり、また、使用する臨界計算コード等は、実験値等との対比がされ信頼度の十分高いことが立証されたものであること。
(6) 核的制限値の維持・管理については、起こるとは考えられない独立した二つ以上の異常が同時に起こらない限り臨界に達しないものであること。
(二) 核燃料施設基本指針一一は、核燃料施設内に単一ユニットが複数存在する場合のユニット相互間の中性子相互干渉を考慮して、複数ユニットの配列について、技術的にみて想定されるいかなる場合でもユニット相互間における間隔の維持又はユニット相互間における中性子遮へいの使用等により臨界を防止する対策が講じられていることを定め、この点につき加工施設指針一一は次の四点を定めている。
(1) ユニット相互間は核的に安全な配置であることを確認すること。
(2) 核的に安全な配置を定めるに当たっては、特に立証されない限り、最も効率のよい中性子の減速、吸収及び反射の各条件を仮定し、かつ、測定又は計算による誤差及び誤操作等を考慮して十分な裕度を見込むこと。
(3) 核的に安全な配置を定めるに当たって参考とする手引書、文献等は、公表された信頼度の十分高いものであり、また、使用する臨界計算コード等は、実験値等との対比がされ信頼度の十分高いことが立証されたものであること。
(4) 核的に安全な配置の維持については、起こるとは考えられない独立した二つ以上の異常が同時に起こらない限り臨界に達しないものであること。
(三) 核燃料施設基本指針一二は、臨界事故に対する考慮として、誤操作等により臨界事故の発生するおそれのある核燃料施設においては万一の臨界事故に対する適切な対策が講じられていることを定めているところ、加工施設指針一二は、ウラン加工施設においては加工施設指針一〇及び一一を満足する限りは臨界事故に対する考慮は要しないと定めている。
5 六フッ化ウラン閉込めの機能に関する安全設計
(一) 核燃料施設基本指針四は、核燃料施設は放射性物質を限定された区域に閉じ込める十分な機能を有することを定めている。そして、加工施設指針四は、これに関して作業環境の汚染防止に対する考慮及び周辺環境の汚染防止に対する考慮に分けて規定をし、前者に関して、ウラン加工施設の管理区域をウランを密封して取り扱い又は貯蔵し、汚染の発生するおそれのない区域(第二種管理区域)とそうでない区域(第一種管理区域)とに区分して管理することを求めた上、後者の周辺環境の汚染防止に対する考慮として、次のとおり定めている。
(1) 第一種管理区域は、漏洩の少ない構造とするとともに、当該区域の外から当該区域に向かって空気が流れるように給排気のバランスをとること。
(2) 第一種管理区域において、汚染のおそれのある空気を排気する系統には、周辺環境の汚染を実用可能な限り少なくするため、高性能エアフィルタ等適切なウラン除去設備を設けるとともに、それらの機能が十分であること。
(3) 事故時においてウランの飛散するおそれのある部屋は漏洩の少ない構造であること。
(二) 核燃料施設基本指針一七は、放射性物質の移動に対する考慮として、核燃料施設においては施設内における放射性物質の移動に際し、閉込めの機能、放射線遮へい等について適切な対策が講じられていることを定め、この点につき加工施設指針一七は、ウランの工程間又は工程内移動に際し、移動するウランの形態、形状に応じて漏洩防止について適切な対策が講じられていることを求めている。
6 外部電源喪失に対する考慮
核燃料施設基本指針一六は、電源喪失に対する考慮として、核燃料施設においては外部電源系の機能喪失に対応した適切な対策が講じられていることを定めており、加工施設指針一六は、ウラン加工施設につき、停電等の外部電源系の機能喪失時に、第一種管理区域の排気設備、放射線監視設備及び火災等の警報設備、緊急通信・連絡設備、非常用照明灯等安全上必要な設備機器を作動し得るのに十分な容量及び信頼性のある非常用電源系を有することを定めている。
7 その他の考慮
(一) 核燃料施設基本指針一九は、核燃料施設における安全上重要な施設が共用によってその安全機能を失うおそれのある場合には、共用しない設計であることを求め、この点につき加工施設指針一九は、安全上重要な施設のうち当該加工施設以外の原子力施設との間、又は当該加工施設内で共用するものについては、その機能、構造等から判断して、共用によって当該加工施設の安全性に支障を来さないことを確認することを定めている。
(二) 核燃料施設基本指針二〇は、核燃料施設における安全上重要な施設の設計、工事及び検査については、適切と認められる規格及び基準によるものであることを求め、加工施設指針二〇は、右の規格及び基準として、加工事業規則、許容被曝線量等を定める件に定める規格及び基準を挙げるとともに、建築基準法や日本工業規格に定める規格及び基準に原則として準拠することを求め、さらに国内において規定されていないものについては、必要に応じて、十分使用実績があり信用性の十分高い国外の規格及び基準に準拠することを求めている。
(三) 核燃料施設基本指針二一及び加工施設指針二一は、核燃料施設における安全上重要な施設につき、その重要度に応じて、適切な方法により安全機能を確認するための検査及び試験並びに安全機能を健全に維持するための保守及び修理ができるようになっていることを求めている。
三 本件安全審査の内容
<証拠略>によれば、本件安全審査では、本件施設自体の安全性確保対策について、以下のとおり、地震に対する考慮、その他の自然現象に対する考慮、火災・爆発に対する考慮、臨界に対する安全設計、六フッ化ウランの閉込めの機能に関する安全設計、外部電源喪失に対する考慮等の各側面から、調査審議及び判断が行われたことが認められる。
1 地震に対する考慮(<証拠略>)
(一) 本件安全審査では、次の事項が確認された。
(1) 本件施設においては、加工施設指針一三が定める耐震設計上の重要度分類に従い、設備・機器と建物・構築物は、次のとおりに分類されている。
ア 設備・機器
(ア) 第一類(機器本体、隔離用の自働遮断弁及びこれらの間の配管類を含む。)
(六フッ化ウラン処理設備)
発生槽、製品回収槽、廃品回収槽、製品コールドトラップ、一般パージ系コールドトラップ
(均質・ブレンディング設備)
均質槽、製品シリンダ槽、減圧槽、原料シリンダ槽、中間製品容器置台
(貯蔵設備)
シリンダ置台
(イ) 第二類(六フッ化ウラン配管類、弁等を含む。)
(カスケード設備)
遠心分離機
(六フッ化ウラン処理設備)
捕集廃棄系ケミカルトラップ(アルミナ)、一般パージ系ケミカルトラップ(アルミナ)、カスケード廃棄系ケミカルトラップ(アルミナ)、アルミナ処理槽、廃品第一段コンプレッサ、廃品第二段コンプレッサ
(均質ブレンディング設備)
均質パージ系コールドトラップ、均質パージ系ケミカルトラップ(アルミナ)
(管理廃水処理設備)
(排気設備)
(非常用設備)
ディーゼル発電機
(放射線監視設備)
排気用モニタ
(ウ) 第三類
(サンプル小分け装置)
(分析設備)
イ 建物・構築物
(ア) 第一類
ウラン濃縮建屋のうち発回均質棟 ウラン貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫
(イ) 第二類
ウラン濃縮建屋のうち中央操作棟、カスケード棟
ウラン貯蔵建屋のうち搬出入棟
補助建屋
(ウ) 第三類 その他の建物・構築物
(2) 本件施設の建物・構築物については、静的設計法により耐震設計を行うとともに、耐震設計上の静的地震力については、建築基準法施行令八八条所定の最小地震力に、第一類のものについては一・三、第二類のものについては一・一の割増係数を乗じたものを用いることとされている。また、本件施設の設備・機器については、静的設計法によるとともに剛構造とすることを基本とし、これによることが困難な場合には、その他適切な方法により耐震設計を行うとともに、建築基準法施行令八八条所定の最小地震力及び第一類の設備・機器については一・五、第二類の設備・機器については一・四、第三類の設備・機器については一・二の各割増係数とから算出した一次地震力と、当該設備又は機器に常時作用している荷重とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して許容応力度を許容限界とする、いわゆる一次設計を行うこととされている。さらに、第一類の設備・機器については、第二次設計として、一次地震力に右の機器等についての割増係数を乗じて算出した二次地震力と常時作用している荷重とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して、設備・機器の相当部分が降伏し、塑性変形する場合でも過大な変形、亀裂又は破損等が生じて施設の安全機能に重大な影響がないような設計を施すこととされている。
(3) このほか、本件施設では、重要度分類において上位の分類に属するものについては下位の分類に属するものの破損によって波及的破損が生じないように設計することとされているとともに、隣接する各建物間はエキスパンションジョイントを介して接続して耐震設計上独立した構造とすることとされている。
(二) 本件安全審査では、右の重要度分類や耐震設計上の方針、割増係数の定め方等が加工施設指針にのっとり、かつ適切であることを確認するとともに、建物及び構築物と設備及び機器の各一次設計における建築基準法施行令八八条所定の最小地震力が震度V程度の地震を対象として想定していることも、基本的立地条件に関して過去の地震の記録等を評価した結果に照らし妥当であり、本件施設は、耐震設計に関する限り、規制法一四条一項三号の基準に適合していると判断した。
2 地震以外の自然現象に対する考慮(<証拠略>)
本件安全審査においては、本件施設が、基本的立地条件において検討された気象条件のうち、強風及び積雪により生じる自然力に対して本件施設が十分耐える設計とされていることが確認され、核燃料施設の核燃料物質による災害の防止上支障がないものであると判断された。
3 火災・爆発等に対する考慮(<証拠略>)
(一) 本件安全審査では、次の事項を確認した。
(1) 本件施設では、火災発生防止のため、建物は建築基準法上の耐火建築物又は簡易耐火建築物とすることとされ、また、設備・機器は不燃性又は難燃性の材料を主として使用することとされている。また、本件施設の主工程では、可燃性の物質及び爆発性の物質を使用せず、分析室等で使用されるアセトン等は、取扱量を制限するとともにその保管は倉庫内の危険物貯蔵エリア等で行うこととなっている。
(2) 本件施設では、火災が発生した場合の拡大防止のために、消防法及び建築基準法に基づき、自働火災報知設備、消火栓、消火器等を設置するとともに、防火壁、防火ダンパ、防火扉等により防火区画を設定することとされている。
(二) 本件安全審査では、右のような火災発生防止及び火災拡大防止のための対策を、火災及び爆発に対する考慮として妥当なものであると判断した。
4 臨界に関する安全設計(<証拠略>)
(一) 加工施設指針では、臨界安全管理の対象となるウランを取り扱う個々のシリンダ等を単一ユニットと位置づけ、加工施設の臨界安全について、単一ユニットの臨界管理と複数ユニットの臨界管理との観点からそれぞれ検討することとしており、本件安全審査における臨界安全に関する安全設計の審査も、この考え方にのっとって行われた。
また、臨界管理の方法としては、一般に、核分裂性物質の量を制限する質量管理、濃縮度を一定以下とする濃縮度管理、工程で用いる装置・機器・容器類の形状や寸法、配列を制限する形状寸法管理、溶液中の核分裂性物質の濃度ないしは濃縮度を制限する濃度(濃縮度)管理、中性子の減速度を制限する減速度管理等があるところ、本件安全審査では、単一ユニットの臨界安全性については、臨界管理の対象となる単一ユニットの選別の適否、臨界管理を行う単一ユニットにおける各制限方法上の制限値(核的制限値)の設定の妥当性、臨界発生の有無を計算するに当たつて用いた臨界計算コードの信頼性及び計算の前提条件における十分な安全裕度の有無、計算結果と制限値との関係等の観点から審査が行われた。
(二) 本件安全審査では、単一ユニットの安全性に関し、次の事項が確認された。
(1) 本件施設では、ウラン二三五の割合が〇・九五パーセント以下のウランは他のいかなる条件下でも臨界にならないとの知見に基づき、濃縮度がこの割合以下の六フッ化ウランである天然ウラン及び劣化ウランのみを扱う、カスケード設備より前の工程及び廃品系の工程に属する単一ユニットについては、臨界管理は不要とし、臨界安全上管理が必要となるユニットを、カスケード設備、製品捕集回収、均質・ブレンディング、製品シリンダ貯蔵、一般パージ及びフッ化ナトリウム処理の各工程としている。
(2) 本件施設において、濃縮度管理は、ウラン濃縮を行うカスケード設備で実施され、核的制限値は五パーセントと設定されている。具体的な管理方法としては、六フッ化ウランの濃縮度がカスケード設備へ供給する原料六フッ化ウランの流量及びカスケードから廃品系へ移行する廃品六フッ化ウランの圧力を監視することによりこれらの値から定まる濃縮ウランの濃縮度を監視するとともに、インターロックを設け、濃縮度が制限値を超えないように管理し、また、六フッ化ウランの濃縮度を質量分析装置により適宜測定することとしている。
次に、五パーセントという核的制限値については、複数の遠心分離機から構成されるカスケード設備全体を単一ユニットとして扱い、モデル計算の条件としては、<1>容器(遠心分離機)を正方格子上に密着して無限に配列し、<2>容器内の六フッ化ウランの濃縮度を五パーセントとし、<3>六フッ化ウランの圧力を摂氏五六度の下で最も高い一気圧、容器内で減速材として作用するフッ化水素は最適減速状態(最も臨界になりやすい状態)の濃度とし、<4>容器の内径及び肉厚を五〇ミリメートルと〇・三ミリメートル、五〇〇ミリメートルと三・〇三ミリメートル、五〇〇〇ミリメートルと三〇・三ミリメートルの三のとおりの組合せで検討し、<5>容器外は最適減速状態にあるものとそれぞれ仮定し、臨界計算コードとしてはKENO―IV/Sを用いて計算したところでは、無限増倍率(中性子が漏洩しない系内においてある時間内に発生する全中性子数と同じ時間内における吸収による全損失中性子数の比で、この値が一未満の場合は理論上は核分裂反応の連鎖が維持されず臨界とならない。)は〇・九五以下となった。
(3) 形状寸法管理は、カスケード設備での濃縮度管理を前提として、少量の濃縮六フッ化ウランを捕集するケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)で採用されており、文献上、濃縮度五パーセント、無限長円筒等の条件下で実効増倍率(中性子が体系から洩れることを考慮した場合の増倍率で、やはり一・〇未満のときが未臨界状態を意味する。)が〇・九となる円筒の直径が五八・八センチメートルとされていることから、設計上の余裕を考慮して核的制限値は五七・五五センチメートルとされている。
(4) 減速度管理は、ウランの質量、容積及び寸法形状のいずれも制限が困難である、コールドトラップ、製品シリンダ、中間製品容器及び減圧槽において採用されている。
本件施設では、水素原子が中性子の減速効果を有する主要な物質であることから、空間の中に存在する水素原子の数とウラン二三五原子の数との比(H/U―235)を中性子の減速度の指標として用いることとし、その数値が一〇のときは濃縮度五パーセントの六フッ化ウランは質量にかかわらず未臨界である、すなわち濃縮度五パーセントの六フッ化ウランの臨界安全値が一〇であるという文献による知見に基づき、核的制限値を一・七と定めることとしている。そして、核的制限値を一・七以下とする具体的方策としては、本件施設における工程内の水素原子として想定されるのが処理される六フッ化ウラン中のフッ化水素を主体とする不純物であることから、六フッ化ウランの純度を高めるために、発生槽で原料シリンダを加熱して六フッ化ウランを気化させるに当たり温度と圧力を測定して純度を調べ、必要に応じ不純物を脱気する方法によることとしている。
このほか、コールドトラップについては、水分を最大限に含む空気が流入した場合を想定し、温度摂氏四〇度、相対湿度一〇〇パーセント、一気圧の空気と最小臨界安全質量のウランという中性子の減速度が最大となる条件を仮定して減速度を計算したところでも、減速度は五・一となり、臨界安全値を下回る結果となっている。
(三) 本件安全審査では、複数ユニットの臨界安全に関し、次の事項が確認された。
(1) 本件施設では、複数ユニットの臨界安全については単一ユニット相互間の距離間隔をとる方法によることとしており、発生回収室については製品コールドトラップ、中間製品容器及びケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)並びにこれらの機器群の相互配列を、均質室については均質パージ系コールドトラップ、減圧槽、中間製品容器及びケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)並びにこれらの機器群の相互配列を、ウラン貯蔵庫については製品シリンダを、ウラン濃縮建屋では使用済のフッ化ナトリウム及び排出スラジ(汚泥)を、それぞれ対象としている。
(2) 右の各対象について、それぞれ前提条件を定め、臨界計算コードとしてKENO―Ⅵ/SないしはKENO―V.aを用いて臨界計算を行った結果、実効増倍率はいずれも〇・九五以下となった。
(3) 右の前提条件から、本件施設では、コールドトラップ、シリンダ類、中間製品容器及び減圧槽はそれぞれ他のユニットと相互の間隔が三〇センチメートル以上、ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及びフッ化ナトリウム処理槽はそれぞれ他のユニットとの相互間隔が一メートル以上となる配置をすることとしている。
(四) 本件安全審査では、単一ユニットの臨界安全に関し、確認された事項を踏まえ、臨界管理の対象となる単一ユニットの選別は適切で、定められた核的制限値がいずれも妥当なものであると判断するとともに、臨界計算に用いられたコードは信頼性が高く、その前提となる計算条件は十分に安全裕度を含んでおり、計算結果も臨界安全値を下回ることを確認した。
また、本件安全審査では、複数ユニットの臨界安全に関して、本件施設につき行われた前記臨界計算が、安全裕度の十分ある計算条件の下、信頼性の高いコードで行われており、その結果、複数ユニットを計算条件上の距離以上に相互に離しておけば臨界安全管理は達成できると判断した。
さらに、本件安全審査では、このほかに、ユニットの移動時及び異種ユニット群の相互干渉についても検討を加え、いずれも中性子実効増倍率が〇・九五となっていることを確認した。
5 六フッ化ウランの閉込めの機能に関する安全設計(<証拠略>)
(一) 本件安全審査では、次の事項を確認した。
(1) 本件施設では、六フッ化ウランを貯蔵するシリンダ類については、ANSIの規格又は米国DOEのシリンダ基準を準用して製作し、あるいは高圧ガス取締法(平成三年法律第一〇七号による改正前のもの)及び特定設備検査規則(平成二年通商産業省令第一二号による改正前のもの)にのっとって設計製作し、検査をすることになっている。また、これらのシリンダ類については、落下試験によって一定の安全性が確認されており、シリンダ類の運搬中にはこの安全性が確認された高さより高くは吊り上げられないこととされているほか、シリンダ類やケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)等の運搬前には漏洩検査により漏洩がないことを確認することとされている。
(2) 本件施設では、加工事業規則に基づき設定すべき管理区域を、六フツ化ウランを取り扱わず放射能汚染の発生するおそれのない第二種管理区域とそれ以外の第一種管理区域とに区分し、発生回収室、均質室、管理排水処理室、分析室、除染室等を第一種管理区域に、カスケード室及びウラン貯蔵建屋を第二種管理区域に、それぞれ区分することとしている。
このうち、第一種管理区域については、排気設備により気圧を第二種管理区域及び非管理区域並びに大気圧より負圧に維持するとともに、内部の空気が排気設備を通らずに外部へ漏洩することを防ぐ設計とすることとしている。この排気設備は、概ね各室ごとの排気系統に分かれており、起動時には排風機が送風機より先に起動し、停止時には送風機が排風機より先に停止する設計とされるとともに、いずれの排気系統も一台の予備の排風機を備え、一台の排風機が運転中に故障した場合には自動的に予備機が起動して排気機能を維持する仕組みになっている。各排気系統は、排風機の直前にプレフィルタ及び高性能エアフィルタを備えており、第一種管理区域からの排気中に放射性物質が含まれている場合でも、これを九九・九パーセントの割合で捕集してから外部へ排気する仕組みとなっている。
さらに、排気設備の末端の排気塔の直前には、排気中の放射性物質の濃度を監視するための排気用モニタが設置されている。
(3) 本件施設で六フッ化ウランを取り扱う機器についての六フッ化ウランの閉込め機能は、次のとおりである。
すなわち、まず、発生回収室、中間室及び均質室に配置される、六フッ化ウランの発生、供給、捕集及び回収の各工程を行う六フッ化ウラン処理設備については、各工程に用いる機器及び配管を溶接等により漏洩のない構造として気密性を確保するとともに、内部の気体六フッ化ウランを大気圧以下で取り扱うこととしている。次に、カスケード室に配置されるカスケード設備を構成する遠心分離機については、高速で回転する内部の回転体が破損しても外筒(ケーシング)の真空気密性能が十分保たれるように、破損試験で確認された強度設計を行うとともに、回転体の回転速度が破損試験で安全性が確認された範囲を超えないように回転体を駆動する高周波電源の周波数を制限することとされている。
また、均質室に配置される均質処理及び濃縮度調整工程を行う均質・ブレンディング設備については、この工程が本件施設で唯一六フッ化ウランを高温高圧の条件(最高使用温度は摂氏九四度、その場合の気体六フッ化ウランの圧力は約二・六気圧)で取り扱う機器であることから、この工程で六フッ化ウランを収容する中間製品容器及びサンプルシリンダは常に均質槽の中で操作を行うこととした上、この均質槽に閉込め機能を持たせ、容器等から六フッ化ウランが漏洩した場合に備えることとしている。さらに、均質槽から外部につながっている配管やバルブについても、これらを覆う配管カバーを設け、配管等から六フッ化ウランが漏洩した場合にも配管カバー内に漏洩を限定することとするとともに、配管カバーに取り付けられた排気設備により配管カバー内は外部の大気圧に対して常に負圧になることとされている。そして、仮に配管や均質槽内部で六フッ化ウランが漏洩した場合には、洩れ出した六フッ化ウランが空気中の水分と反応して生じるフッ化水素を右排気設備の途中に設置された工程用モニタが検知し、信号により均質槽と外部の配管との間に設置されている均質槽元弁(緊急遮断弁)が自動的に閉じて漏洩を止めるとともに、排気設備に設置されたダンパも自動的に作動して漏洩した六フッ化ウランを含む配管カバー内の気体が局所排気装置を経由するように切り替え、プレフィルタ及び高性能エアフィルタを一段多く通すとともに、ケミカルトラップ(アルミナ)によってフッ化水素を除去する仕組みとなっている。これらの緊急遮断弁、工程用モニタ、ダンパ及び排風機はいずれも複数取り付けられ、多重化が図られている。
(4) 本件施設の各工程を構成する機器、すなわちカスケード設備、六フツ化ウラン処理設備及び均質・ブレンディング設備から排出される排気については、微量に六フッ化ウランを含むものであることから、発生槽からの排気を処理する一般パージ系、カスケードからの排気を処理するカスケード排気系、均質ブレンディング設備からの排気を処理する均質パージ系及び製品六フッ化ウラン回収設備からの排気を処理する捕集排気系の四つの系統ごとに六フッ化ウランを除去する仕組みが設けられており、これはケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)、ケミカルトラップ(アルミナ)、空気作動弁及びロータリポンプで構成されているほか、一般パージ系及び均質パージ系では、さらにこれに先立ちコールドトラップが設置されている。六フッ化ウランの除去に関しては、コールドトラップが九九・九パーセント、続くケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)が九九・九九パーセントの捕集効率をそれぞれ有している。そして、右の排気処理設備で処理された気体は、第一種管理区域内の負圧を維持するための前記の排気設備を経由し、プレフィルタ及び高性能エアフィルタを通して外部に排気されることになっている。
(二) 本件安全審査では、右の確認事項により、本件施設では六フッ化ウラン閉込めのための適切な対策が採られており、閉込め機能が十分確保できるものと判断した。
6 外部電源喪失に対する考慮(<証拠略>)
(一) 本件安全審査では、次の事項が確認された。
(1) 本件施設では、十分な容量のディーゼル発電機二台、直流電源設備及び無停電電源装置が設置されることとなっており、外部電源が失われた場合には、第一種管理区域の排気設備、放射線監視設備、自働火災報知設備、非常用通報設備等に電力が供給され、第一種管理区域の負圧が維持されるとともに、各種の監視警報機能が維持される仕組みとなっている。
(2) 本件施設の各工程を構成する各設備の内部からの排気を処理する四つの排気系では、外部電源が失われた場合、空気作動弁が自動的に閉まる構造となっており、工程内の気体が外部へ流出しない仕組みとなっている。このとき、工程内では、コールドトラップ、製品回収槽、廃品回収槽等の冷却機能は喪失されるが、室温が摂氏四〇度の場合でも六フッ化ウランの飽和蒸気圧が約三〇〇トール、すなわち約〇・四気圧程度であることから、工程内の圧力が大気圧を超えることはない。
(二) 本件安全審査では、右の事項を踏まえ、本件施設において、外部電源が喪失した場合にも本件施設の安全機能が十分維持できるような適切な対策が講じられていると判断した。
7 その他の災害防止対策(<証拠略>)
本件安全審査では、次の事項を確認し、右1ないし6以外の観点からも本件施設が六フッ化ウランによる災害防止上支障がないことを確認した。
(一) 本件施設において六フッ化ウランを取り扱う原料シリンダ、製品シリンダ及び中間製品容器については、一定の温度及び圧力に耐えるよう設計がされており、原料シリンダを加熱する発生工程においては、インターロックを設けて設計温度である一二一度を超えないこととされる。また、コールドトラップの加熱においても、内部圧力の異常に対してはインターロックが設けられる。
(二) 本件施設では、六フッ化ウランをシリンダ類に充填する際に過充填を防止する対策として、重量測定により一定量以上の六フッ化ウランは充填できないようなインターロックが設けられることとなっている。
(三) 本件施設では、カスケード設備の増設時に対する考慮として、既存の運転区域に支障を及ぼさないよう、工事管理を行うとともに運転区域と増設区域との間に間仕切り壁を設けることとしている。また、六フッ化ウランを取り扱う配管等のつなぎ込みは、特定のつなぎ込みエリアに集中して管理し、施設の安全性が損なわれないようにしている。このほかにも、建物の主要構造部について増設部分の荷重等を考慮した設計を施し、計測制御設備は増設を考慮した回路構成とするなどの配慮がされている。
(四) 本件施設では、緊急時に必要箇所との連絡を円滑に行うため、非常用通報設備等を設けることとなっている。
(五) 本件施設における安全上重要な設備である第一種管理区域の排気設備や放射線監視設備等については、安全機能を確認するための検査及び試験並びに安全機能を維持するための保守及び修理ができる構造とすることとなっている。
(六) 本件施設においては、安全上重要な施設で他の原子力施設と共用するものはない。
(七) 本件施設における安全上重要な施設の設計、工事及び検査については、規制法、加工事業規則、加工施設技術基準、加工施設、再処理施設及び使用施設等の溶接の技術基準に関する総理府令、許容被曝線量等を定める件等の法令に基づくとともに、必要に応じ、建築基準法、労働安全衛生法、消防法、公害防止関係法令、高圧ガス取締法、電気事業法、工場立地法、日本工業規格、日本電機工業会規格、電気設備に関する技術基準を定める省令、鋼構造設計規準、鉄筋コンクリート構造計算規準及び同解説、鉄骨鉄筋コンクリート構造計算規準及び同解説、建築基礎構造設計規準及び同解説、建築工事標準仕様書、建築設備耐震設計・施工指針に準拠することとしている。
四 被告の主張に対する判断
右二及び三で認定した事実によれば、加工施設自体の安全性確保対策に関する本件安全審査において用いられた具体的審査基準である加工施設指針は、想定される各種の事故防止対策、事故によっても六フッ化ウランが大量に漏出等することのないようなウランの閉込め機能の確保対策及び臨界管理を含む内容となっており、その内容に不合理な点は見当たらない。また、この点に関する本件安全審査の調査審議及び判断の過程も、右にみたとおり、地震に対する考慮、地震以外の自然現象に対する考慮、火災・爆発等に対する考慮、臨界に関する安全設計、六フッ化ウランの閉込めの機能に関する安全設計、外部電源喪失に対する考慮、その他の災害防止対策という視点からそれぞれ本件施設について検討が加えられ、加工施設指針に適合していると判断したものと認められ、この調査審議及び判断の過程それ自体に、看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。
なお、加工施設指針二〇は、準拠すべき規格及び基準の一つとして許容被曝線量等を定める件を挙げ、また、本件施設は、安全上重要な施設の設計、工事及び検査について基づくべき法令のうち、一般公衆の被曝等に関する規制値としては、周辺監視区域外の許容被曝線量を一年間につき〇・五レムと定める許容被曝線量等を定める件によることとし、本件安全審査でもこのことを確認しているものであるところ、本件許可処分当時、許容被曝線量等を定める件を平成元年三月三一日限り廃止し、代わって同年四月一日から適用される周辺監視区域外の線量当量限度を実効線量当量について一年間につき一ミリシーベルトと定める内容の線量当量限度等を定める件の科学技術庁告示が昭和六三年七月二六日に出されていたことから、本件許可処分時においても、許容被曝線量等を定める件は基準としての合理性を失っていたとみるべき余地がないわけではない。しかしながら、本件安全審査では、先にみたとおり(第一の二1(三))、公衆の被曝量が具体的に問題となる場面においては、許容被曝線量等を定める件のみならず線量当量限度等を定める件が規定する周辺監視区域外の線量当量限度をも下回り、さらに、一般公衆の線量当量が実現可能な限り低減するような対策が採られているかという視点から審査を行っており、実際にも、本件施設について公衆の被曝が量的に問題となる場面では、いずれも線量当量限度等を定める件の規制値である一年間につき一ミリシーベルトを適用した場合でも結論は異ならないから、準拠法令に関する本件施設の基本的設計方針を看過し難いほどの過誤、欠落と評することはできないというべきである。また、右に指摘した加工施設指針二〇の基準としての合理性の欠如といった点についても、右のとおり本件安全審査が線量当量限度等を定める件の規制値をも念頭に置いて審査を行っている以上、本件安全審査の判断に依拠してされた内閣総理大臣の判断を不合理とするまでのものではないというべきである。
五 原告らの主張に対する判断
1 地震に対する考慮
(一) 原告らは、本件許可申請書が、設備・機器と建物・構築物のそれぞれについて耐震設計上の区分を行っている以外は設計地震力に十分耐えられる設計であることを示す具体的内容を示しておらず、単に加工施設指針一三に沿って耐震設計を行う旨約束する内容のものにすぎないと主張する。
しかし、右のような具体的な耐震設計は加工事業許可手続における安全審査の対象とならないというべきであるから、原告らの主張は理由がない。なお、耐震設計に関する本件許可申請書の記載の一部が加工施設指針一三とほぼ同内容であることは原告らの指摘するとおりであるものの、ウラン加工施設の安全審査を客観的かつ合理的に行うために安全審査上重要と考えられる基本事項を取りまとめるという加工施設指針の趣旨目的(<証拠略>)が加工施設の基本設計の機能と類似していること、耐震設計に関する加工施設指針一三の規定内容が既に相当程度に具体的であること、耐震設計上の具体的な安全性は具体的かつ詳細な設計を行わない限り示すことが困難であること及び加工施設指針が規制法一六条の二の設計及び工事の方法の認可手続における具体的審査基準ではないこと等を考えれば、基本設計と加工施設指針の内容が一部共通していることにも相当な理由があるということができ、このことをもって、本件許可申請書の内容やこれに沿って審査を行った本件安全審査の内容が不当であるということはできない。
(二) 原告らは、一次地震力及び二次地震力を算出する過程で用いられる割増係数について、本件許可申請書が加工施設指針一三が示した割増係数の下限値を採用するに当たってその根拠となる資料や判断過程を示していない旨主張する。
しかしながら、本件許可申請書上用いることとされた割増係数は安全審査上の具体的基準である加工施設指針一三の定める値の範囲である上、証人大谷圭一の証言によれば、本件安全審査では、本件施設の支持地盤が鷹架層であること及び本件施設の建物が二階建て程度のものであることを考慮して、加工施設指針一三における割増係数の最低値を用いて設計を行っても十分な安全性が確保できると判断していることが認められるから、本件許可申請書が割増係数を定めるにつき根拠資料や判断過程を示していないからといって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に過誤、欠落があるとはいえない。
(三) 原告らは、本件安全審査において建物内部の機器・設備に対する地震の影響が考慮されていない旨主張するが、本件安全審査において、本件施設の設備・機器についても耐震設計上の重要分類がされた上で、静的設計方法によること及び剛構造とすることを基本とするなどし、さらに一次設計及び二次設計を施すこととされていることが確認されたのは前記のとおりであるから、右主張は失当である。また、原告らは、ウラン貯蔵庫内の各種シリンダが密集して配置されているために地震の震動で接触するなどして破損する危険があると主張するが、前記認定によれば、ウラン貯蔵設備に属するシリンダ置台については施設及び設備の耐震設計の分類上最重要である第一類に分類され、この分類に応じて右のように耐震設計が施されることになっており、本件安全審査ではこの点が確認されているのであって、右主張は、この耐震設計にもかかわらず何故にウラン貯蔵庫内のシリンダが破損するのか具体的に主張することなく、単に抽象的な危険性をいうにすぎないものであるから、それ自体失当である。
(四) 原告らは、本件施設の耐震設計において、原子炉施設や再処理施設において要求されているような設計用最強地震及び設計用限界地震という二種類の地震を想定した厳重な耐震設計が採用されていない旨主張する。しかし、そのような設計手法を本件施設を含む加工施設において採用すべき必要性については何らの主張もされていないが、本件施設を含むウラン加工施設は、その内蔵するエネルギーが小さく、また、臨界状態での核分裂反応を制御する必要性もないことから、原子炉施設ないし再処理施設と同等の耐震設計をウラン加工施設に求める必要はないと考えられたのであって、加工施設指針一三は、右に述べた施設の特質を踏まえ、ウラン加工施設の安全確保のために必要とする耐震設計について規定しているというべきであり、本件施設においても、加工施設指針所定の耐震設計を採用することにより十分にその安全確保の目的を達することができるといえるから、原告らの主張は理由がない。
(五) 原告らは、平成六年一二月二八日発生の三陸はるか沖地震及び平成七年一月一七日発生の兵庫県南部地震において建築基準法に適合していた建造物が倒壊したことを根拠に、建築基準法等における耐震設計基準が相当ではないかのごとく主張し、原告生越忠本人の供述中にはこれに沿う部分がある。しかし、<証拠略>によれば、兵庫県南部地震においては昭和五六年の改正以前の建築物に被害が大きく、特に鉄筋コンクリート造りの建物では昭和四六年以前の建築物で倒壊等の甚大な被害が大きいのに対し、現行の耐震基準に基づいて建築されたものは、バランスの悪い建築物や設計施工の不備によるもの等を除くと、大破又は倒壊といった大きな被害を受けていないこと、兵庫県南部地震後に建設省が設置した調査委員会が兵庫県南部地震を踏まえて検討したところでも、建築基準法施行令八八条に基づく当時の建築物の耐震設計用の設計地震力(その算定方法は、本件許可処分当時と同じで、現行の規定もほぼ同内容である。)は妥当であるとされたこと、兵庫県南部地震後に原子力安全委員会の設置した検討会が調査検討したところでも、加工施設指針は兵庫県南部地震を踏まえてもその妥当性が損なわれるものではないと確認されていることが認められ、これらの事実によれば、前記原告生越忠本人の供述によっても、建築基準法施行令所定の耐震設計用の地震力が妥当性を欠いているとまでは認めることはできない。したがって、右主張は理由がない。
(六) 原告らは、本件施設が地震時にロッキング現象を起こす可能性が高い旨主張するが、この可能性についての具体的な主張立証はないから、この点につき本件安全審査の調査審議及び判断の過程に過誤、欠落があるとはいえない。
(七) 原告らは、近時の耐震設計では、単純に地震の最大加速度を固定化し、その大小を基礎として建物への影響を考える(静的設計)のではなく、建物や設備の固有周期に近い領域の加速度による影響(共振)が大きいことから、建物や設備の固有周期を踏まえ地震力を時刻歴に対応させて建物などの安全性を評価する(動的設計)必要があるとされているのに、本件安全審査においては、想定した地震力に対して本件施設の建物や設備の固有周期に応じた時刻歴の評価、解析を行っていないと主張する。
しかし、本件施設の建物・構築物については、静的設計法により耐震設計を行っていることは前記認定のとおりであるが、原告らの主張する動的設計の発想も、結局は前記(四)で主張する本件施設の耐震設計において原子炉施設や再処理施設において要求されているような設計用最強地震及び設計用限界地震という二種類の地震を想定した厳重な耐震設計が採用されていないこと、すなわち加工施設指針一三が他の原子炉施設や再処理施設に比べ施設の安全設計思想が極めて低いものであるということに集約されるのであって、前記(四)で説示したとおりの理由により、そのような動的設計の考えに基づいた評価、解析を行っていないからといって、そのことをもって加工施設指針の耐震設計が不十分であるとはいえない。したがって、本件安全審査において、原告らが主張するような動的設計に基づく評価・解析を行っていないとしても本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。
(八) また、原告らは、本件施設の耐震設計が静的設計によっていることを認めるとしても、本件施設の耐震設計に対する安全審査においては、発回均質棟、ウラン貯蔵庫、カスケード棟、第一類に分類される設備や機器(例えばシリンダ置台、遠心分離機)など本件施設の主要な建物や設備の固有周期、建物の振動特性について、具体的な審査を行っておらず、本件安全審査には、静的設計の内容の審査、検討が行われなかった不備があると主張する。
しかしながら、本件安全審査において本件施設の主要な建物や設備の固有周期等について審査、検討がされなかったとしても、そのことにより本件施設の建物や設備の耐震設計にいかなる影響を及ぼすのかについての主張は何らされていないのであるから、右主張は具体性を欠くものといわざるを得ない。
(九) 原告らは、本件施設の建物相互はエキスパンションジョイントで接続されているものがあるが、エキスパンションジョイントは固有周期を異にする建物の接続方法であり、これを誤れば地震時に建物の破損をもたらす危険があるのに、その妥当性を審査しなかったのは、本件安全審査の重大な謝りであると主張する。
前記認定のとおり、確かに本件施設では隣接する各建物間はエキスパンションジョイントを介して接続して耐震設計上、独立した構造とすることとされているけれども、エキスパンションジョイントによる施工の適否については規制法一六条の二の設計及び工事の方法の認可手続において具体的に審査検討される事柄であって、そもそも加工事業許可手続における安全審査の対象とはならないから、その内容の適否を審査しなかったとしても、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
2 火災・爆発等に対する考慮
(一) 原告らは、本件許可申請書ではいかなる不燃性材料や難燃性材料の種類、消火設備や防火区画の種類や個数、配置等を全く記載しておらず、この点に関する本件安全審査が不十分である旨主張する。しかし、前記(第二章第二)のとおり、加工施設の基本設計は加工施設の建物及び施設の具体的な設計を内容とする必要はなく、規制法一六条の二の設計及び工事の方法の認可手続における具体的な設計及び工事の方法の安全性の側面における適否を審査するための規範ないしは枠組みとして機能するに足りる内容であれば足り、この観点からみると、前記認定の本件安全審査の内容が、設計及び工事の方法の認可手続で審査される具体的設計の安全性を判断するために必要な内容を欠いているとまではいえず、この点において本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
(二) 原告らは、本件安全審査が施設内の爆発防止対策や施設外の爆発等の拡大防止対策を不要とし、何らの考慮も払っていないと主張する。しかし、本件安全審査では、前記認定のとおり、本件施設の設備・機器が水素ガスなどの爆発性の物質を使用しないことが確認されているほか、条件次第では爆発性を有するアセトンについても取扱量の制限及び倉庫内の危険物貯蔵エリア等における保管が行われることが確認されており、爆発防止対策に対する検討が行われているし、施設外の爆発の影響については、前期のとおり基本的立地条件に関する審査において本件施設の安全性を損なうような社会的条件のないことが確認されている。そして、右のような爆発防止対策を前提とすれば、外部の爆発の拡大防止対策について考慮を払っていないとしても、これを調査審議及び判断の過程における看過し難い過誤、欠落と評することはできない。また、原告らは、この点に関し、アセトンの使用場所の問題点や発火源となる火花が発生する危険性を指摘するが、本件安全審査においては、主工程ではアセトンを含め爆発物を使用せず、アセトンは取扱量と保管場所が制限されることを確認しており、右の指摘をもって調査審議及び判断の過程における看過し難い過誤、欠落があるとまではいえない。
(三) 原告らは、本件施設のうち六フッ化ウランを取り扱う設備・機器周辺で火災が発生した場合には、臨界やフッ化水素の発生を避けるため特別な消火方法が必要となるにもかかわらず、本件安全審査では考慮されていない旨主張する。しかし、本件安全審査において、消防法及び建築基準法に基づき自働火災報知設備、消火栓、消火器等を設置することが確認されたことは前記認定のとおりである上、具体的な消火設備の設置状況については、設備及び工事の方法の認可手続において必要に応じた消火設備を施設していることが認められた場合に初めて認可がされること(規制法一六条の二第三項、加工施設技術基準四条一項)からすれば、これを基本設計の内容として安全審査の対象としなかったとしても、これをもって看過し難いほどの過誤、欠落ということはできない。
(四) 原告らは、航空機墜落時の消火対策について審査が行われていない旨主張する。しかし、<証拠略>によれば、前記認定の航空機墜落時の事故評価においては、墜落した航空機の燃料油による火災について、消火活動を考慮せずに燃焼が継続した場合について検討を行い、その結果でも一般公衆への被曝による影響は小さいと判断されていることが認められるから、航空機墜落事故時の消火対策について審査が行われていないとしても、このことが本件安全審査の調査審議及び判断の過程における看過し難い過誤、欠落に当たるとはいえない。
3 臨界に関する安全設計
(一) 原告らは、事故は複数の故障(トラブル)が重なって発生するものであるにもかかわらず、加工施設指針一〇が核的制限値の維持管理において単一の故障のみを想定すれば足りるとしている点を不当であると主張する。
しかしながら、前記認定によれば、加工施設指針一〇は技術的に想定されるいかなる場合でも核的制限が維持されることを定めており、単一の異常を想定しているのは、これがそもそも起こるとは考えられない独立した異常であることを理由としているものであるから、これが同時に、かつ独立に発生するという事態を想定していないからといって、加工施設指針一〇が不当であるとまではいえない。したがって、右主張は理由がない。
(二) 原告らは、本件安全審査が臨界事故を想定した災害評価を行っていない点が看過し難い過誤、欠落に当たると主張する。しかし、ウラン加工施設が核分裂反応を発生利用することを予定しておらず、その意味において潜在的危険の程度が相対的に小さい施設であることからすれば、加工施設指針一二が加工施設指針一〇及び一一を満足して臨界安全が図られている限り当該ウラン加工施設においては臨界事故に対する考慮を要しないとしていることにも一定の合理性があるということもでき、加工施設指針一二それ自体が不合理であるとまでは認められない。したがって、本件安全審査において、本件施設が加工施設指針一〇及び一一に適合し、臨界安全が図られていることを確認している以上、臨界事故に対する考慮をしていないからといって、その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
(三) 原告らは、本件許可申請書や安全審査書では臨界計算で必要な施設機器の正確な配置、形状等のデータが示されておらず、本件許可申請は結論を示したにすぎず根拠を欠くものであり、この申請に基づいてされた本件許可処分は違法であると主張するが、本件安全審査においては、前期認定のとおり必要な諸条件を十分な安全裕度を見込んで設定した上で臨界計算が行われていることが確認されているから、原告らの主張は失当である。
(四) 原告らは、本件施設において、中間製品容器を水洗いする際に誤って六フッ化ウランが充填されているものに水が注ぎ込まれた場合に臨界事故が発生する危険があると主張する。
証人柴田俊忍の証言によれば、原告らが指摘する六フッ化ウランが充填されている中間製品容器に水を注ぎ込まれた場合には、臨界事故が発生しあるいは発生する危険性があることが認められる。しかして、加工施設指針は、技術的に想定されるあらゆる場合における臨界防止対策を要請しているものの、六フッ化ウランが充填されている中間製品容器に水を注ぎ込むという事態は、原告らが主張するように中間製品容器を水で洗う際に、六フッ化ウランが充填されていないことの確認を誤り、あるいは確認を怠るなどの場合に想定し得るが、実際、科学技術庁が平成一一年一〇月七日に本件施設に対して行った緊急総点検においても、本件施設の工程内で唯一水を使用する中間製品容器の洗缶は、缶内のウラン量を重量測定により空であることを確認してから実施しており、洗缶前の十分なパージ(排気)と二回の重量測定により容器内にウランが多量に残ったまま洗缶することはないと確認されている(<証拠略>)。
そうすると、証人柴田俊忍が証言するように、フール・プルーフの考え方(設備機器や装置の誤操作をしたときに、それ以上機器等の機能を進行させないシステムとする考え方)を取り入れるなどして、原告が主張するような事象が発生しないよう臨界防止のための安全設計がされることが望ましいことは確かであるが、そのような考え方に基づいて設備機器等を作製することには困難な面があることは安全工学を専門とする柴田証人自身認めるところである上、そもそも中間製品容器に六フッ化ウランが充填されていないことの確認手段として二回行うこととされている重量測定を怠り、あるいはこれを誤って、中間製品容器内に六フッ化ウランが充填されたまま容器の洗缶を行うなどといった事態は、加工施設指針が臨界防止対策の前提とする技術的に発生が想定されるような事故であると解することはできない。したがって、本件安全審査で臨界に関する安全設計を検討するに当たり、右のような事象を前提とした臨界事故の危険性について審査が行われていないとしても、これをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
また、原告らは、爆発事故、地震、航空機の墜落事故による施設破壊があった場合の臨界事故の可能性が否定できないと主張するが、本件安全審査においては、耐震設計における安全性が確認され、あるいは爆発事故や航空機墜落事故の発生可能性が低いことが確認されていることはここまでに説示したとおりであるから、この主張も理由がない。
(五) 原告らは、均質槽において中間製品容器を加熱しあるいは製品シリンダ槽において製品シリンダを加熱する際に配管との接続が失念された場合は、これらの容器ないしはシリンダが破裂し、容器内の六フッ化ウランが加熱用の熱水と接触して臨界事故となる危険があると主張する。
しかして、中間製品容器や製品シリンダを加熱する際にこれらと配管との接続が失念されて生じる事態として原告らが主張するのは、これらの容器について、均質槽等に中間製品容器などを装着する際に配管への接続を忘れて加熱を行うと、加熱された六フッ化ウランの逃げ場がなく容器内の圧力は上昇し、圧力計部分では圧力が全く上昇しないのでインターロックは働かず、加熱過剰により均質槽内で中間製品容器が破裂する危険があり、また、均質槽については、温度により加熱用熱水コイルの熱水流量を調整する仕組みがあることがうかがわれるが、この温度測定器は多重化されておらず、温度測定器自体の故障等があれば加熱過剰を防止することはできず、したがって、右のように中間製品容器や製品シリンダが破裂した場合、熱水コイルが破損する可能性は十分に考えられ、破損した部分から水が大量に噴出し、容器内の六フッ化ウランに水が接触して臨界事故に至ることである。
しかしながら、ここでも、フール・プルーフの考え方を取り入れるなどして右のような事象が発生しないよう臨界防止のための安全設計がされることが望ましいことは確かであるが、そのような考え方に基づいて設備機器等を作製することには困難な面があることは前記のとおりである上、そもそも、均質槽等に中間製品容器などを装着する際に配管への接続を忘れて加熱を行った結果、容器やシリンダが破裂し、その結果更に熱水コイルが破損し、破損した部分から水が大量に噴出し、容器内の六フッ化ウランに水が接触して臨界事故に至るといった多重連鎖の事象は、加工施設指針が臨界防止対策の前提とする技術的に発生が想定されるような事故であると解することはできない。
したがって、本件安全審査で臨界に関する安全設計を検討するに当たり、右のような事象を前提とした臨界事故の危険性について審査が行われていないとしても、これをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
(六) 原告らは、本件安全審査においては、「万一、水分を含んだ空気がコールドトラップに流入した場合でも、内部の圧力上昇を検出し、コールドトラップの出入口弁を閉止するので、さらに水分の流入が続くことはない。」とされているが、出入口弁の閉止は「自動的に」と記載されていない以上手動であるから、その閉止が遅れれば容器の容積より大量の湿った空気が流入し得ると主張する。
しかし、本件許可申請書添付書類五の「内部の圧力上昇を検出し、コールドトラップの出入口弁を閉止する」との記載部分(五―五)は、それが設備の臨界安全性について言及されたものであることに照らせば、圧力上昇の検出から弁の閉止に至るすべての過程が人による操作の関与を予定しておらず、自動であることを意味しているものといえるから、原告らの主張は理由がない。
(七) 原告らは、本件施設のようなウラン濃縮工場は、その工程内でウランの濃縮度自体を変化させるものであるにもかかわらず、本件施設の濃縮度管理の信頼性がかなり低く本件安全審査でも保証されていないとして、濃縮度管理の制限値である五パーセントそのものを他の臨界管理の前提とすることには疑問があり、濃縮度管理が破られたときに備えて濃縮度管理の制限値を超えたところを前提とする形状寸法管理が採用されるべきであると主張する。
しかしながら、加工施設指針一〇は、単一ユニットの臨界安全に関し、技術的に見て想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられていることを求めているところ、原告らが本件施設における濃縮度管理の問題点として指摘するところがいずれも当を得ないものであることは次に見るとおりであるから、本件施設において形状寸法管理が採用されているケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)において、濃縮度が五パーセントを超える六フッ化ウランが流入するという事態が、技術的に見て想定される場合に該当するとはいえない。したがって、ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)に関する形状寸法管理が、濃縮度が五パーセントを超える六フッ化ウランを前提としていないからといって、これをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるということはできない。
また、原告らは、本件施設における濃縮度の測定は、一日一回質量分析装置で行っているにすぎないのであるから、濃縮度はリアルタイムでは把握されていないと主張する。
しかし、本件施設の濃縮度管理は、ウラン濃縮を行うカスケード設備で実施され、核的制限値は五パーセントと設定されており、その具体的な管理方法としては、六フッ化ウランの濃縮度がカスケード設備へ供給する原料六フッ化ウランの流量及びカスケードから廃品系へ移行する廃品六フッ化ウランの圧力を監視することによりこれらの値から定まる濃縮ウランの濃縮度を監視するとともに、インターロックを設け、濃縮度が制限値を超えないように管理していることは前記認定のとおりであり、濃縮度は、その数値を質量分析装置により測定しなくとも、流量及び圧力を監視することにより常時把握し、管理することができるものであるから、濃縮度の数値をリアルタイムで把握する必要がある旨の原告らの主張は、その前提において当を得たものとはいえない。
さらに、原告らは、濃縮度管理の最後の頼りの過濃縮防止インターロックがハードワイヤーにつながれておらず、伝送ラインがダウンすると機能喪失する設計となっている上、本件施設においては、濃縮ウランを充填した容器(中間製品容器、製品シリンダ)を誤って発生槽に装着した場合には、当然に濃縮度は五パーセントを超えるが、過濃縮防止インターロックは濃縮度そのものでかかるのではないので、インターロックによっては過濃縮を防止できず、このように濃縮度が五パーセントを超えた臨界管理対策がされていないと主張する。
しかし、原告らのいう伝送ラインがダウンした場合でも、本件施設には、右伝送ラインから独立した計測制御設備として、ハードワイヤー(電圧・電流信号を、特定の装置間で、他の電路とは独立して送信又は受信する電路)で構成される六フッ化ウラン等の圧力及び温度等の制御機能を有する設備及び専用の配線(デジタル化した信号を特定の装置間で、他の電路とは独立して、送信及び受信する電路)で構成されるカスケードの流量、圧力の監視・操作機能を有する設備がある(後記7(三)のとおり当事者間に争いがない。)から、濃縮度を常に把握し、管理することができる仕組みになっている。そして、この場合にも、コントローラーは制御を継続するので、カスケードの流量及び圧力は正常に制御され、これにより濃縮度も正常な値を維持することになる(<証拠略>)から、右の場合を想定して濃縮度管理の信頼度が低いとする原告らの主張は理由がない。また、中間製品容器ないしは製品シリンダを誤って発生槽に装着した場合に濃縮度管理が破られるとの主張については、発生槽に装着されるべき原料シリンダの仕様や容量が中間製品容器や製品シリンダのそれとは全く異なっていること(<証拠略>)に照らすと、そもそも原告らが主張するような事態が実際に発生する余地があるとは考え難いから(原料シリンダと規格が共通するのは廃品シリンダのみである。)、そのような事態を想定して過濃縮防止対策に不備があるということはできない。
(八) 原告らは、本件安全審査において、六フッ化ウランを取り扱う容器・機器の火災の際に水をかけて消火するか否かについて全く検討されておらず、したがって、火災時の臨界安全性の基本方針、最低限でも六フッ化ウランを取り扱う容器・機器に火災の際に水をかけずに消火する方策を安全審査において確認すべきであることは明白であり、これすら行わなかった本件安全審査には看過し難い過誤、欠落があることは明らかであると主張する。
しかしながら、本件安全審査においては、消防法及び建築基準法に基づき自働火災報知設備、消火栓、消火器等を設置することが確認されたことは前記認定のとおりであり、その具体的な設備や消火方法については、設計及び工事の方法の認可手続において審査検討される事柄であり、これを基本設計の内容として安全審査の対象としなかったことをもって看過し難い過誤、欠落があるとはいえないことも先に説示したとおりであるから、原告らの主張は理由がない。
(九) 原告らは、本件施設は、JCOの施設と同様に、臨界に至った場合に未臨界状態にするための装置はもちろん、臨界に至ったことを検知する装置も臨界警報も全く設けられていないが、全く同様の申請がなされていたJCOの施設で現実に臨界事故が発生した事実にかんがみれば、本件施設においても当然に臨界事故を想定し、臨界に至ったときに事故の拡大を防止するための対策を採るべきであったにもかかわらず、これを行わなかった本件安全審査には看過し難い過誤、欠落があると主張する。
しかしながら、後記認定説示のとおり(8(四))、JCO事故は、その加工施設において講じられた技術上は適正な臨界管理を殊更無視する態様で作業が行われたために発生したものであって、基本的にはウラン加工施設設置許可の段階の安全審査の対象とはならない加工施設の作業員による意図的な作業工程の不遵守といった事態が原因となったものであり、そのような事態をいかに防止するかは、設備の操作や従業員の保安教育といういずれも保安規定の内容の問題に帰着するというべきであるし、前記(二)で説示したとおり、ウラン加工施設は核分裂反応を発生利用することを予定しておらず、潜在的危険の程度が相対的に小さい施設であることから、加工施設指針一二が加工施設指針一〇及び一一を満足して臨界安全が図られている限り当該ウラン加工施設においては臨界事故に対する考慮を要しないとしていることにも一定の合理性があること等の事情を考慮すると、本件安全審査において、臨界に至った場合に未臨界状態にするための装置や臨界に至ったことを検知する装置ないし臨界警報を設けるなど事故の拡大を防止するための対策を講じなかったことに看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
4 六フッ化ウランの閉込めに係る安全設計
(一) 原告らは、加工施設指針四は内容が抽象的で指針としての実効性に欠けている旨主張する。しかし、加工施設指針は、ウラン加工施設の設計内容に関しては、規制法一六条の二の設計及び工事の方法の認可手続において具体的な設計及び工事の方法の安全性の側面における適否を審査するための規範ないしは枠組みであるウラン加工施設の基本設計について、更にこれが災害防止上支障がないものであるか否かを判断するために定められた判断基準であるから、その内容が抽象的であるからといって、直ちにこれを不合理ということはできない。そして、加工施設指針四は、作業環境の汚染防止に対する考慮と周辺環境の汚染防止に対する考慮とに分けて、前者について五項目、後者について三項目の基準を挙げており、その内容も相当程度に具体的であるから、これをウラン加工施設の基本設計が災害防止上支障がないかどうかを審査する上で不合理というべきほどに抽象的であるとはいえない。したがって、右主張は理由がない。
(二) 原告らは、本件安全審査で審査された本件施設における放射線管理の諸対策が放射線管理に供する機器の機種や技術、目標値などの具体的な資料を明示しないまま結論を述べるものにすぎない旨主張する。
しかしながら、前記認定によれば、六フッ化ウランの閉込め機能に関して本件安全審査で確認された、管理区域の区分、管理区域の排気系統の設定や仕組み、機器の六フッ化ウラン閉込め機能確保のための設備、排気からの六フッ化ウラン除去の仕組み等についての基本設計は、規制法一六条の二の設計及び工事の方法の認可手続における具体的な設計及び工事の方法の安全上の適否を審査するために必要な具体性を備えたものと認められ、これ以上に、原告らが主張するような具体的内容が基本設計に含まれていないからといって、このことをもって基本設計に必要な具体性の程度につき本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。したがって、原告らの主張は理由がない。
(三) 原告らは、原子力施設においては、施設の建屋・機器からの排気を排風機で引き、高性能エアフィルタを通して放射性物質の粒子を除去して外部に放出しており、本件施設も同様であるところ、高性能エアフィルタの健全性が保たれる限りは、このやり方により放射性物質の外部への放出を抑制することができるが、本件施設のように六フッ化ウランを扱う施設の場合、六フッ化ウランの漏洩に必然的に伴うフッ化水素の発生により高性能エアフィルタのガラスウールを溶かしてしまうので、放射性物質の大量漏洩を避けるためには、フッ化水素を高性能エアフィルタに到達する前に除去する必要性があるのに、本件施設においては、捕集排気系、カスケード排気系、一般パージ系、均質パージ系の四つの排気系に、ロータリーポンプに至る前にNaFトラップを置き、事故時に備えては、均質槽配管カバー、均質槽、サンプル小分け装置フードからの排気については事故時に工程用モニタでフッ化水素を検出した時点で切り替える局所排気装置を設けているものの、この設計は、容器・シリンダの破裂事故の際に、フッ化水素を除去して高性能エアフィルタの健全性を確保するのに十分とは到底いえないと主張する。
しかし、まず、高性能エアフィルタの健全性を確保するのに十分でないと原告らが指摘する根拠のうち事故時の排気をフッ化水素吸着器のある局所排気装置へ送るのが事故になってからの切替えとするのは手抜きであるとする点については、<証拠略>によると、JCO東海事業所の転換試験棟では、塔槽類からの排気は常時フッ化水素除去機能のある湿式スクラバと高性能エアフィルタを通す仕組みになっていて、六フッ化ウラン漏洩事故が発生してからの切替えによる本件施設の排気設備と比べ、設計上より安全であると認めることができるけれども、事故発生の前か後かの相違があるだけであって、それが手抜きであるとまでは評価することができないし、この設備設計がフッ化水素を除去して高性能エアフィルタの健全性を確保するのに不十分であるともいえない。
また、その切替弁は「ダンパ」とされており、ダンパとは「漏洩許容型バタフライ弁」のことであるから、均質槽・均質槽配管カバーでの事故の際にも事故発生後も局所排気装置を経由しないで高性能エアフィルタに到達する排気(フッ化水素)が相当程度あると考えざるを得ないとする点については、<証拠略>によれば、本件施設の内容、その排気装置の機能及び構造等に照らし、本件施設の局所排気装置に使用されるダンパは無漏洩型のものであると考えられ、原告らが指摘するようにダンパが一般に「漏洩許容型バタフライ弁」を指すものである(<証拠略>)としても、そのことから直ちに本件施設の局所排気装置に使用されるダンパが漏洩許容型のものであるとまでは認めることができない。
次に、局所排気装置につながれているのは均質槽等のみであり、製品シリンダ槽等は局所排気装置に全くつながれていないなどとする点については、<証拠略>によると、製品シリンダ槽や中間製品容器置場は、いずれも均質室に設置されることになっているところ、確かにこれらは局所排気装置につながれていないことが認められる。そうすると、局所排気装置につながれている均質槽等と比較し、これにつながれていない製品シリンダ槽等は、原告らが主張するように、その原因はともかく製品シリンダや中間製品容器が破裂したような場合にはフッ化水素を除去して高性能エアフィルタの健全性を確保するのに必ずしも十分であるとはいえない。しかしながら、他方、前記認定のとおり均質室に配置される均質処理及び濃縮度調整工程を行う均質・ブレンディング設備は、この工程が本件施設で唯一六フッ化ウランを高温高圧の条件で取り扱う機器であって、均質槽は均質処理及び濃縮度測定を終えた中間製品容器を加熱するのに対し、製品シリンダ槽は基本的には均質槽から製品シリンダに移送された気化状態にある六フッ化ウラン等を冷却する設備であるから(<証拠略>)、その六フッ化ウランの処理方法上設備に対する安全設計に差異を設けることには一定の合理性があることも否定し難いところであり、しかも、構造上製品シリンダ槽や中間製品容器置場のシリンダないし容器自体が破裂するような事象の発生確率は、均質槽内の中間製品容器が破裂する事象に比べ、相対的に小さいものと考えられるから、製品シリンダ槽や中間製品容器置場が局所排気装置につながっていないとしても、その一事をもって、そのような安全設計が不十分であり、その点を審査しなかった本件安全審査に看過し難いほどの過誤、欠落があるとはいえない。
さらに、均質槽内の容器の破裂時の衝撃圧力や臨界事故による爆発により均質槽自体が破裂した場合は、発生したフッ化水素と六フッ化ウラン・放射性物質は建屋の排気系を通じてフッ化水素除去装置を経ることなく、高性能エアフィルタを直撃するとする点については、まず、その前提として原告らが指摘する均質槽自体が破裂する原因となる容器の破裂に関しては、原告らの主張を忖度すれば、均質槽に中間製品容器を装着する際に配管への接続を忘れて加熱を行った結果、容器が破裂するという事態を想定することとなるところ、配管への接続を忘れて中間製品容器の加熱を行い、その結果容器が破裂し、その衝撃圧力で更に均質槽自体が破裂するといった事象は加工施設指針が臨界防止対策の前提とする技術的に発生が想定されるような事故であると解することは困難である。また、臨界事故に伴う爆発で均質槽が破裂する事象に関しては、その臨界事故に伴う爆発がいかなる事象によって招来されるものであるかについての具体的な主張はないのであるが、本件安全審査において、本件施設が加工施設指針一〇及び一一に適合し、臨界安全が図られていることを確認している以上、加工施設指針一二により臨界事故に対する考慮を要しないとされていることに一定の合理性があることは前記説示のとおりであり、少なくともこの合理性の判断を左右するに足りるだけの臨界安全が確保されていないことにより想定される臨界事故の内容等につき具体的に主張しない以上、そのような主張は単に抽象的に臨界事故に伴う爆発で均質槽が破裂するような事象を想定して排気設備の安全設計の不備を指摘するにとどまるものであって、臨界事故として考慮を要しないとされた事象を想定するものにすぎないといわれても致し方ないというべきである。したがって、原告らが主張するような臨界事故に伴う爆発で均質槽自体が破裂するといった事象による高性能エアフィルタの健全性の有無について審査していないとしても本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。そして、原告らが指摘するアメリカ合衆国オクラホマ州のセコイヤ燃料会社ウラン転換工場の事故も、後記認定のとおり(8(二))、その主たる原因は運転規則に違反したシリンダ加熱が行われたことにあると考えられるから、そのような原因による事故の発生までも想定して排気設備の安全設計を審査するまでの必要性はないといわざるを得ない。
したがって、原告らの主張は理由がない。
(四) 原告らは、本件施設においては、電源喪失の場合にロータリーポンプが停止するようにインターロックが設けられているが、電源喪失によらずに、例えばコールドトラップに至る電源ケーブルの断線等によりコールドトラップのみ機能喪失した場合には、ロータリーポンプは停止しないので、その機能喪失による事故が想定される旨主張するが、原告らが主張する電源ケーブルの断線等がいかなる事象により発生するかについて具体的な主張はないから、そのような抽象的に想定される事象による事故の発生を想定していないからといって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえず、右主張は採用できない。
(五) 原告らは、本件安全審査においては、遠心分離機は、その構造について断面図さえみることなく、本件施設で実際に使用される遠心分離機の破壊実験もなく、ただ動燃の人形峠の施設で用いられた遠心分離機の仕様での模擬実験のデータが提出され、これと同様の方法でこれから試験をして設計するというだけで真空気密性能が維持されると判断されたが、この判断は、本件施設で使用される遠心分離機についてのデータも知らされず、動燃の施設の遠心分離機の仕様を前提にした模擬実験についてさえデータの一部、それも重要な一部を隠された状態でなされたものであって、明らかに不十分なものであると主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、本件施設のカスケード室に配置されるカスケード設備を構成する遠心分離機については、高速で回転する内部の回転体が破損しても外筒(ケーシング)の真空気密性能が十分保たれるように、破損試験で確認された強度設計を行うとともに、回転体の回転速度が破損試験で安全性が確認された範囲を超えないように回転体を駆動する高周波電源の周波数を制限することが確認されているのであるから、原告らの主張は理由がない。
5 外部電源喪失に対する考慮
(一) 原告らは、本件安全審査で設置が確認された外部電源系の機能喪失対策のための機器について、その仕様や性能等が明らかではなく、外部電源喪失時に機器・設備の安全性が保たれるか否かの判断が不可能である旨主張する。
しかし、本件安全審査で確認された前記認定の事項は、設備及び工事の方法の認可手続において具体的な設計及び工事の方法の安全上の適否を審査する基本設計として十分な具体性を備えているものと認められ、それ以上に、それ自体から外部電源喪失時の機器設備の安全性が確保されるか否かが確認できるほどに具体的な仕様や性能を内容的に含んでいないからといって、右確認事項を本件施設の基本設計として相当と認めることについて、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。したがって、原告らの主張は理由がない。
(二) 原告らは、外部電源喪失時に様々な機序によってコールドトラップやケミカルトラップあるいはこれらに連なる配管における工程内部の圧力が上昇し、配管や弁等の健全性が損なわれる危険がある旨主張するが、工程内の気密性及び六フッ化ウランガスの純度が維持されている限り、常温下ではいかなる場合でも工程内部の圧力が六フッ化ウランの飽和蒸気圧を超えることはないところ、前記認定のとおり、六フッ化ウランの飽和蒸気圧は摂氏四〇度の下でも約〇・四気圧程度であり、また、外部電源喪失時には工程内の六フッ化ウランの温度は常温程度になるものと考えられるから(<証拠略>)、原告らの主張する配管等の健全性を損なうような圧力上昇という事象はそもそも起こり得ないものというほかない。したがって、原告らの主張は理由がない。
(三) 原告らは、大気圧下では六フッ化ウランが摂氏五六・五度以下で固化凝固することから、外部電源喪失時には、本件施設の工程内の加熱機能ないしは減圧機能が維持できず、工程内で六フッ化ウランが随所で固化し、配管等の目詰まりによって配管内部の圧力が上昇して配管の破断が生じる旨主張する。
しかし、仮に外部電源の喪失により本件施設の工程内で六フッ化ウランが固化する事態が生じたとしても、工程内の気密性及び六フッ化ウランガスの純度が維持されている限り工程内の圧力が六フッ化ウランの飽和蒸気圧を上回ることはないところ、原告らが想定する摂氏五六・五度以下の状況においては、六フッ化ウランの飽和蒸気圧は七六〇トール、すなわち一気圧以下にとどまるから、原告らが主張する配管等の破断をもたらすような圧力の上昇が工程内で生じることはないというべきである。したがって、原告らの主張は理由がない。
(四) 原告らは、外部電源の喪失により遠心分離機の回転速度が減少すると、遠心分離機は共振現象により強度の応力が繰り返し加わり金属疲労が蓄積し、ひいては遠心分離機や配管が破損する危険がある旨主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、本件安全審査では本件施設の遠心分離機について、内部の回転体が破損しても外簡の真空気密性能が十分保たれるように設計されるとともに、回転体の回転速度も破損試験で安全性が確認された範囲を超えないように制限されることが確認されているのであるから、仮に原告らの主張するような共振現象により遠心分離機の回転体が破損することがあっても、その破損箇所から六フッ化ウランが工程外に漏洩しないよう配慮されていることが確認されているということができる。また、共振現象によって遠心分離機の回転体以外の外筒やその外側の配管が破損するとの点については、そのような可能性を認めるに足りる証拠はない以上、そのような危険性について審査していないからといって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるということはできない。したがって、原告らの主張は理由がない。
6 検証結果等と本件施設の安全性確保対策の問題点
内閣総理大臣が本件許可処分をするに当たってした本件許可申請の規制法一四条一項三号要件適合性の判断のうち、加工施設自体の安全性確保対策に係る部分の合理性については、右5までにおいて、本件安全審査の検討内容に沿って、その具体的審査基準に不合理な点は見当たらず、また、その調査審議及び判断の過程にも看過し難い過誤、欠落があるとは認められず、さらに、右不合理ないしは看過し難い過誤、欠落があるとする原告らの主張につき判断をしてきたところであるが、原告らは、このほか、本件訴訟手続中に行われた検証の結果、あるいは本件施設や他の原子力施設においてこれまで発生した事故ないしは事象に基づいて、本件施設自体の安全性確保対策に関する本件安全審査を不合理であるかのごとく主張するので、以下、6ないし8において、これらの点についての裁判所の判断を示すこととする。
(一) 原告らは、中央制御室に関し、運転員一人当たりの受持範囲、設備の監視操作を行う主盤の制御器工場の工夫、スイッチの配置や運転員の指揮連絡関係について問題点を主張するが、これらの事項が加工事業許可手続における安全審査の対象となる基本設計の内容に含まれるとは解されないから、原告らの主張は失当である。
(二) 原告らは、非常用電源室及びディーゼル発電機室に関し、非常用電源設備が一ユニットずつしかないこと、約三〇分間とされる直流電源設備のバッテリーの電気容量が実証されておらずその有効使用期限や取替期間も不明であることを主張するが、このような事実をもって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえないから、右主張は失当である。また、原告らは、非常用電源室の天井付近にあるケーブルが同一のトレイ上を通っていることをもって、火災等の事故により安全上重要なすべての電源が同時に失われる危険があると主張するが、ケーブルの配線の具体的な態様が加工施設の基本設計の内容として安全審査の対象になるとは解されないから、右主張も失当である。
このほか、原告らは、ディーゼル発電機の起動時間や性能が実証されていない旨主張するが、加工事業施設の安全審査において、実際に用いられる発電機の性能等を実証する必要があるとは解されないから、右主張も失当である。
(三) 原告らは、高周波電源室に関し、高周波インバータ装置が故障しあるいは変調を来した場合に遠心分離機の回転数が異常に上昇し遠心分離機が破損する危険がある旨主張するが、右装置が故障により遠心分離機の破損をもたらすほどに異常な高周波数を生じる危険性の存在については、何らの立証もないから、右主張は理由がない。また、原告らは、右機器の故障により遠心分離機への電力供給が停止した場合の共振現象による金属疲労がもたらす遠心分離機の破損の危険性を主張するが、遠心分離機について、共振現象により遠心分離機の回転体が破損した場合でも外筒の気密性が保たれ、六フッ化ウランの閉込め機能に影響を及ぼさないことが確認されていることは前記のとおりであるから、右主張も理由がない。このほか、原告らは、高周波インバータ装置に重大な欠陥がある旨主張するが、そのような事実を認めるべき証拠はない。
次に、原告らは、高周波電源室のバスダクトないしケーブルダクトについて設計ミスの可能性がある旨主張するが、そのような個々の機器の具体的な設計が安全審査における審査対象である基本設計の内容に含まれるとは解されないから、右主張は理由がない。
(四) 原告らは、中間室に設置される機器のうち、ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及びケミカルトラップ(アルミナ)について、実際の寸法が核的制限値を超えている可能性がある旨主張するが、そのような実際に作製された機器の寸法形状が安全審査の審査対象でないことはいうまでもなく、右主張は失当である。また、原告らは、ケミカルトラップについて捕集能力や捕集効率の裏付けがない旨主張するが、基本設計において示されたケミカルトラップの捕集能力や捕集効率が実際の機器において達成できるか否かは、ケミカルトラップの具体的設計内容に係る事項であって、これが基本設計の段階で裏付けをもって確認されていないからといって、本件安全審査の調査審議の過程に過誤、欠落があるとはいえない。
(五) 原告らは、発生回収室に関し、発生槽からカスケード設備に至る配管で目詰まりが生じると工程内の圧力が大気圧を超え、六フッ化ウランが漏洩する可能性があると主張するが、右の目詰まりが発生する可能性を認めるに足りる証拠はないから、右主張は前提を欠き失当である。
次に、原告らは、発生回収室内の製品コールドトラップにおいて、カスケード設備からの配管と製品回収槽への配管の切替えが手動で行われており、切替えを誤ると製品六フッ化ウランガスがカスケード設備に逆流する事故が発生する旨主張するが、そのような事態が仮に生じ得るとしても、これをいかにして防止すべきかは、切替作業をいかにして適切に行うかの問題として、加工事業規則八条一項一号「加工施設の操作及び管理を行う者の職務及び組織に関すること。」に関して規制法二二条に基づく後続の保安規定の認可手続において審査される事柄であるから、右主張は、本件安全審査の対象外のことを問題視するにすぎず、理由がない。
このほか、原告らは、発生回収室内の製品コールドトラップ、製品回収槽及び廃品回収槽において、それぞれ内部の六フッ化ウランの圧力が大気圧を超えて六フッ化ウランが漏洩する可能性があるとして縷々主張するが、原告らが指摘するような事態においても工程内の六フッ化ウランの圧力が大気圧を超えないことは前記5(二)、(三)で説示したとおりであるから、原告らのこれらの主張は、いずれも前提を欠き失当である。
(六) 原告らは、均質室の均質槽ないしはこれに接続する配管から六フッ化ウランが漏洩した場合の配管カバー内の排気について、工程用モニタでフッ化水素を検知した際の排気系統の切替えが失敗した場合、あるいは工程用モニタの検知機能が失われた場合には漏洩した六フッ化ウランの大半が施設外に流出する旨主張するが、本件安全審査では、前記認定のとおり、この工程用モニタが多重化され、原告らの主張するような事態に備えていることが確認されているから、この点について本件安全審査の調査審議及び判断の過程に過誤、欠落があるとはいえない。
次に、原告らは、均質槽での濃縮度調整の作業に当たり誤って空の中間製品容器ではなく六フッ化ウランが充填されたものを装着した場合には、配管カバーのない配管部分でも六フッ化ウランが大気圧になり配管の破断が生じる可能性があると主張するが、そのような事態をいかにして防止するかは、加工事業規則八条一項一号「加工施設の操作及び管理を行う者の職務及び組織に関すること。」として規制法二二条に基づく後続の保安規定の認可手続において審査される事柄であるというべきであるから、右主張は、本件安全審査の対象外のことを問題視するにすぎず、理由がない。
また、原告らは、均質槽及び製品シリンダ槽では六フッ化ウランの過充填のおそれがあり、その場合にはアメリカ合衆国オクラホマ州のセコイヤ燃料会社ウラン転換工場のような容器加熱によるシリンダの破損事故が生じ得る旨主張するが、シリンダ類の破損が単にシリンダ類に対して過充填がされたというだけで、直ちに右事故と同様の因果を辿ってシリンダ破裂事故が発生するというものではないから、右主張は論理に飛躍があるというべきで、それ自体失当である。
(七) 原告らは、本件施設から排出される液体廃棄物について、放射能濃度が線量当量限度等を定める件所定の濃度限度以下であることが確認される保証がない旨主張するが、後記のとおり、本件安全審査においては、本件施設の排気及び排水に含まれるウランの年間放出量が十分少なく、一般公衆の被曝線量は十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても極めて小さいことを確認しており、この点に関して本件安全審査の調査審議及び判断の過程に過誤、欠落があるとはいえない。
また、原告らは、生体濃縮を考えれば微量であっても放射性物質は危険であると主張するが、線量当量限度等を定める件が生体濃縮を考慮しないで定められたものと解すべき根拠は見当たらないから、原告らの主張は理由がない。
(八) 原告らは、本件施設の排気系統に備えられた排気用モニタがすべての放射性物質とその濃度を測定できる機能を有していないと主張するが、本件施設で扱われる放射性物質であるウランの半減期が七億四〇〇万年(ウラン二三五)あるいは四四億七〇〇〇万年(ウラン二三八)と極めて長期であることを考えると、排気用モニタがあらゆる放射性物質に対応していないからといって、これを問題視しなかった本件安全審査に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
また、原告らは、この排気用モニタが異常を検知した場合でも警報を発するのみで、自動排気停止装置を備えておらず、警報が作動しなかった場合には放射性物質の無制限な外部放出の危険があると主張する。しかし、排気用モニタが異常を検知した場合にいかなる方法で対策を講じるかは、排気モニタの詳細設計として設備及び工事の方法の認可手続で審査されるか、あるいは少なくとも「非常の場合に採るべき処置に関すること」として保安規定の認可手続の際に審査されるべき事項と解されるから(加工事業規則八条一項九号)、これを本件安全審査において審査の対象としなかったとしても、このことをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
(九) 原告らは、原料シリンダの衝撃に対する強度がせいぜい〇・三メートルの高さからの落下に耐え得る程度であると主張するが、本件安全審査では、前記のとおり、シリンダ類は落下の安全性が確認された高さより高くは吊り上げられないこととされていることを確認しているから、右の主張によっても、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に過誤、欠落があるとはいえない。
このほか、原告らは、本件施設外での輸送中の事故を考えると、濃縮六フッ化ウランについてのシリンダが九メートルの高さからの落下に耐えるとしても強度が不足している旨主張するが、本件施設外の輸送における安全性は本件安全審査の対象となる事項ではないから、右主張は失当である。
7 本件施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
(一) 平成四年一月二六日及び同年二月二四日に発生した各事象について
(1) 事実関係
右各事象の具体的内容や原因等は、次のとおりである(当事者間に争いがない。)。
ア 本件施設が本格操業を開始する前の平成四年一月二六日、本件施設において遠心分離機の停電再起動試験として、カスケード設備へのウランの出入りを止めた状態にした上で、停電を模擬するため遠心分離機の駆動源である高周波電源設備の電源を切り、四分後に電源を入れたところ、高周波電源設備に大きな電流が流れることを防止し保護するための過電流リレーが作動した。これにより遠心分離機の電源が切れ、ウランがカスケード設備から自動的に回収系へ排気され、右ウラン全量がケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)に回収された。
原燃産業による調査の結果、この過電流リレーが働いた原因は、高周波電源設備における電流の変動を抑える回路の調整が適切でなかったため、遠心分離機の回転数が若干下がった状態で一度に電源を入れたことにより、電流に変動が生じて過電流リレーが作動したことによるものと判明した。このため、同回路を調整した上で、再び停電再起動試験を行い、電流が変動しないことが確認された。
イ 本件施設において、右と同様に平成四年二月二四日に行われた停電再起動試験において、高周波電源設備の電源を切った直後に、一台の高周波電源設備の異常を知らせる表示が出され、カスケード設備内のウランが自動的に回収系へ排気され、右ウラン全量がケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)に回収された。
原燃産業による調査の結果、異常報知装置が作動した原因は、電源を切った際に発生するサージ(電流、電圧の瞬間的な変動)が高周波電源設備の入力変圧器から接地線を介して高周波電源設備の直流短絡検出回路にノイズとして入り、これが同回路の電流信号に相乗して、直流短絡検出回路を作動させ、高周波電源設備の異常警報を発報させたものであることが判明した。このため、従来から設置されているサージ防止回路に加えて、高周波電源設備に悪影響を及ぼすようなサージの発生を抑制する回路を追加し、さらに、入力変圧器と高周波電源設備の接地線を分離して、停電再起動試験を行い、直流短絡検出回路がノイズにより作動しないことが確認された。
(2) 原告らの主張について
原告らは、右各事象が本件施設の電源系等に深刻な欠陥があることを示すものである旨主張するが、そのような個々の機器の具体的な調整や実際の作動が加工施設の基本設計として安全審査の判断事項に含まれるとは解されないし、そもそも原告らのいう欠陥がいかなる意味において本件安全審査の調査審議及び判断の過程の過誤、欠落と関係するかという点についての主張はないから、いずれにせよ右主張はそれ自体失当である。
(二) 平成四年六月一七日に発生した事象について
(1) 事実関係
右事象の具体的内容や原因等は、次のとおりである(当事者間に争いがない)。
ア 本件施設において、平成四年六月一七日、所内電源設備の定期点検を実施した後、高周波電源系統を高圧母線系統につなぎ定格運転状態で運転を続けていたところ、高周波電源系統に軽故障発生を知らせる警報が作動し、高周波インバータのうち一台が停止した。この際、高周波電源室の煙感知器が作動したため、ウランをカスケード設備内の六フッ化ウランガスを回収系へ排気し、カスケードを停止した。遠心分離機はその後も慣性による回転を続け、これが停止したのは翌一八日午前中のことであった。
その後の現場における点検により、入力変圧器と高周波インバータの間のバスダクトの二箇所にすす状の痕跡が確認された。
イ 調査の結果、右の原因は、バスダクトのダクトカバーが高周波電源室天井部の支持構造物に堅固に固定されていたため、熱による伸びが抑えられたことに対し、バスダクト内部の導体が伸びたため、導体を覆っている絶縁体がダクトカバーに押し付けられて損傷し、導体からダクトカバーを経由して大地に電気が流れる地絡が生じたことによるものと判明した。
ウ 原燃産業の発表によれば、高周波電源系統のケーブルダクトの損傷原因は、次のとおりである。
(ア) バスダクトのダクトカバーは高周波電源室天井部の支持構造物に堅固に固定されていたため、熱による伸びが抑えられたことに対し、バスダクト内部の導体が伸びたため、導体を覆っている絶縁体がダクトカバーに押し付けられて損傷し、地絡に至った。
(イ) さらにバスダクトの温度とバスダクト周辺の温度は、設計で許容された温度以下であったものの、許容温度に近かったため、右の事象を助長した。
エ 右調査結果を踏まえて、日本原燃においては、バスダクトの施工上の不具合が故障の原因とならないよう、バスダクトの支持方法をダクトカバーの伸びを抑えない方法に変更するとともに、念のため、バスダクトの温度上昇を低減するため、定格電流の高い規格品に変更し、また、ダクトカバーの材質を鉄からアルミニウムに変更し、さらに、バスダクト付近の温度を下げるため、高周波電源室の天井部に空気の流れを生ずるように換気ダクトを一部改良したとしている。
(2) 原告らの主張について
原告ら、右事象の原因が施工の杜撰さにあるとし、他の箇所の施工の質について問題がある旨主張するが、本件施設の設備・機器の具体的設計内容や施工状態の良し悪しは安全審査の調査審議及び判断における過誤、欠落の有無を左右する問題には当たらないから、右主張は失当である。
(三) 平成六年二月七日に発生した事象について
(1) 事実関係
右事象の具体的内容や原因等は、次のとおりである(当事者間に争いがない。)。
ア 本件施設の中央制御室には、計測制御信号の入出力によって運転に必要な監視・操作を行う中央制御盤(主盤、起動補助盤、プロセス補助盤、プラント関連盤、所内電気盤)及び運転指令台が設置されている。また、発生回収室、中間室、均質室及びリレー室にはそれぞれ計装盤が設置されている。
右各計装盤内には、それぞれ分散形制御装置(六フッ化ウラン等の圧力、流量、温度の値をあらかじめ定められた値になるよう調節弁の弁開度等を自動的に制御する制御装置。以下「コントローラ」という。)及びシーケンス制御装置(ポンプ、弁等をあらかじめ定められた条件及び作動順序に従って動作させる制御装置。以下「シーケンサ」という。)が設置されている。このうち、<1>発生回収室の計装盤内のコントローラは製品コールドトラップ関係の調節弁等の弁開度を調節する機能を、シーケンサは廃品第二段コンプレッサ等の動作を制限する機能を、<2>各中間室の計装盤内のコントローラはカスケード設備の調節弁等の弁開度を調節する機能を、シーケンサはカスケード設備のON―OFF弁(全開又は全閉のいずれかの状態をとる弁)及び廃品第一段コンプレッサ等の動作を制御する機能を、<3>均質室の計装盤内のコントローラは均質槽関係の調節弁等の弁開度を調節する機能を、シーケンサは均質槽関係のON―OFF弁等の動作を制御する機能を、<4>リレー室の計装盤内のコントローラは空調関係の調節弁(全開、全閉の間で開閉度合いを制御し得る弁)の弁開度を調節する等の機能を、シーケンサは排風機等の動作並びに中央制御盤のモード表示灯、スイッチ灯及び警報表示灯の点灯・消灯を制御する機能を、それぞれ持っている。また、コントローラ及びシーケンサは、六フッ化ウランの流れる配管に設置された検出器等からの圧力等の信号を受け、同一の機能を有するA系及びB系の伝送ライン(デジタル化した信号を複数の装置間で送信及び受信する電路)により当該信号を中央制御盤及び運転指令台へ伝送する。
一方、中央制御室からの機器の操作に関する信号は、中央制御盤からA系及びB系伝送ラインにより各計装盤へ伝送されて、コントローラ又はシーケンサにより処理され、機器の制御がされる。
本件施設には、右伝送ラインから独立した計測制御設備として、ハードワイヤー(電圧・電流信号を、特定の装置間で、他の電路とは独立して送信又は受信する電路)で構成される六フッ化ウラン等の圧力及び温度等の制御機能を有する設備及び専用の配線(デジタル化した信号を特定の装置間で、他の電路とは独立して、送信及び受信する電路)で構成されるカスケードの流量、圧力の監視・操作機能を有する設備等がある。
イ 当時、本件施設は、1A、1B及び1Dカスケードについてはホット定格モード(カスケードに原料六フッ化ウランを供給し、製品六フッ化ウランと廃品六フッ化ウランを回収する運転モード)、1Cカスケードについてはコールド定格モード(遠心分離機は運転しているが、カスケードに原料六フッ化ウランを供給していない運転モード)で運転されていた。
平成六年二月七日午前一〇時二七分、1C中間室に設置されている1Cカスケード系計装盤内のコントローラの二重化された通信制御基板のうち一枚が同一仕様の新しい基板と交換された後、1Cカスケード系計装盤内のコネクタが規定どおりのトルクで締め付けられていることの確認作業が行われた。
右確認作業中の午前一〇時四一分、中央制御室において、リレー室、1A中間室、1B中間室、1D中間室、一号発生回収室及び一号均質室の各計装盤の異常を示す警報が鳴った。中央制御室の監視用画面で警報の原因を確認したところ、A系伝送ラインの異常発生が表示され、その二三秒後にB系伝送ラインの異常発生が表示された。また、同じころ、中央制御室からの機器の手動操作を行うスイッチのスイッチ灯も消え、手動操作も不可能となった。このうち、A系伝送ラインは、B系伝送ラインの異常発生の八秒後に異常状態が解消され正常に復帰し、これに伴って、各計装盤内のコントローラは信号の伝送を再開し、これにより中央制御室の監視用画面において圧力、流量、温度及び調節弁の弁開度の監視・操作が可能となった。
これに対し、各計装盤内にあるシーケンサは、伝送ライン両系異常時に停止する設計のため停止したままの状態であり、中央制御室の監視用画面では、シーケンサが制御する機器に関する情報についてはシーケンサ停止前の状態しか把握できなくなって、シーケンサが制御する機器の運転状態を中央制御室において監視・操作し、またシーケンサによって制御することができない状態が継続した。
そこで、直ちに現場においてシーケンサが制御する機器の運転状態が確認された結果、1A、1B及び1Dカスケードは中央制御室の監視用画面の表示ではホット定格モードであったが、現場の確認では、1Aカスケードは全還流モード(原料六フッ化ウランの供給を停止し、カスケード内で六フッ化ウランを循環させる運転モード)で本来「開」となるべき供給系と廃品系を連絡する連絡弁が「閉」となっている状態であること、1B及び1Dカスケードはホット定格モードを維持していること、並びに六フッ化ウラン処理設備、均質・ブレンディング設備及び気体廃棄物の廃棄設備は正常に運転していることが確認された。
一方、中央制御室において、全還流モードである1Aカスケードで、通常の全還流モードを若干上回る圧力の上昇とこれに続く圧力の低下という現象が発生していることが確認されたため、午前一一時一九分、現場における手動操作にて1Aカスケードの六フッ化ウランの排気回収を実施し、この操作によって1Aカスケードの圧力が更に低下したことが中央制御室において確認された後、午前一一時三〇分、現場における手動操作にて1Aカスケードが正常な全還流モードに戻された。
ウ B系伝送ラインの異常発生の原因は、1Cカスケード系計装盤内のコネクタとタップの接触部の接触不良と想定されたので、当該コネクタを取り外して点検し、締め直したところ、午前一一時五八分に中央制御室の監視用画面においてB系伝送ラインが正常に復帰したことが確認された。
B系伝送ラインの復帰後、停止したシーケンサの機能を回復させるためにはイニシャライズ操作(シーケンサ内部に記憶されている停止前に設定した条件を消去する操作)が必要であるため、中央制御室から、各計装盤内のシーケンサのイニシャライズ操作を、リレー室シーケンサ、一号発生回収室シーケンサ、中間室シーケンサの順に順次実施した。
一号発生回収室のシーケンサのイニシャライズ操作に伴い、午後零時二六分、運転中の廃品第二段コンプレッサ(往復動式)が設計どおり停止した。しかし、停止後直ちに予期した起動操作を行うことができず、中央制御室において「廃品第二段コンプレッサ入口ヘッダ圧力高高」警報が鳴った。通常であれば「廃品第二段コンプレッサ入口ヘッダ圧力高高」の信号によって、この圧力の上昇を抑えるためにホット定格モードのカスケードはすべて全還流モードへ移行されるとともに、廃品第一段コンプレッサ(遠心式)内の六フッ化ウランは排気回収されることになるが、本件事象においては、このような制御を実施する1A、1B及び1Dの各中間室のシーケンサがまだイニシャライズ操作未了で停止していたため、これらの動作はなされなかった。
そこで、午後零時三一分に1A中間室のシーケンサのイニシャライズ操作を行うことにより、1A廃品第一段コンプレッサが停止に向けて回転速度を落とし始めるとともに、「廃品第二段コンプレッサ入口ヘッダ圧力高高」の信号によって、1A廃品第一段コンプレッサ内の六フッ化ウランが排気回収された。引き続き午後零時三二分に1B中間室、午後零時三三分に1D中間室の各シーケンサのイニシャライズ操作を行うことにより、1B及び1Dの廃品第一段コンプレッサが停止に向けて回転速度を落とし始めるとともに「廃品第二段コンプレッサ入口ヘッダ圧力高高」の信号によって、1B及び1Dカスケードはホット定格モードから全還流モードに移行し、1B及び1D廃品第一段コンプレッサ内の六フッ化ウランが排気回収された。
また、1B及び1D中間室のシーケンサのイニシャライズ操作後に中央制御室において「1B廃品第一段コンプレッサ故障」及び「1D廃品第一段コンプレッサ故障」警報が鳴った。このため、直ちに中央制御室の監視用画面において確認したところ、1B廃品第一段コンプレッサが一九台中六台、1D廃品第一段コンプレッサが一九台中一台故障表示していることが確認された。なお、1B及び1Dの廃品第一段コンプレッサには、回転停止までの時間が通常より短いものがあった。
午後零時三五分に廃品第二段コンプレッサの入口圧力を低下させるため、廃品第二段コンプレッサ(三台)を運転し、入口圧力の低下を確認した後、午後零時五〇分に廃品第二段コンプレッサを停止した。
エ 事象の原因
右事象の発生原因は次のとおりである。
(ア) 伝送ラインの異常
伝送ラインの異常は、1C計装盤内のコネクタを構成するプラグピンにA系B系いずれについてもニッケル、銅等の酸化物及び塩化物を主体とする腐食生成物(サビ)が生成しており、打振試験等からコネクタの締め付けトルク確認作業により外力がプラグピンに伝わり、タップ側接続端子の接点部で腐食生成物と接触し、接触不良が発生したものと推定され、また、腐食生成物の生成原因としては、プラグピンの金メッキ処理において所定のメッキ厚が得られずピンホールが多く発生したことに加え、メッキ処理工程以降の人汗の付着、保管方法の問題により、腐食が進行したものであることが確認された。
また、A系B系に同時に異常が発生したのは、A系伝送ラインのコネクタの締め付け確認を行った後、A系伝送ラインの健全性を確認することなくB系伝送ラインの締め付け確認作業が行われたためである。
(イ) A系伝送ライン復帰後もシーケンサが停止し、大半の弁及び機器の運転状態の監視、操作ができない状態となったことについて
この原因は、A系及びB系伝送ラインの異常が同時に発生すると、シーケンサの機能が停止して制御を中止し、機器はシーケンサ停止時の運転状態を保持する設計となっており、シーケンサの機能復旧はイニシャライズ操作により行う設計となっていることにある。
(ウ) 1Aカスケードが自動的に全還流モードになり、他方1Bカスケード及び1Dカスケードが通常運転を続けたことについて
この原因は、カスケードの弁の開閉等を制御する中間室シーケンサは、一号発生回収室シーケンサが停止すると六フッ化ウラン処理設備が使用不能と判断してカスケードを全還流モードへ移行させる設計となっているところ、1Aカスケードでは、1A中間室シーケンサより先に一号発生回収室シーケンサが停止したために全還流モードへと移行したが、他方、1Bカスケード及び1Dカスケードでは、1B中間室シーケンサ及び1D中間室シーケンサがカスケードの全還流モードへの移行を行う前に一号発生回収室シーケンサより先に停止し、シーケンサ停止時の通常運転であるホット定格モードを維持したことにある(シーケンサが停止した場合、シーケンサによって制御される機器はシーケンサ停止前の状態を保持する設計となっている。)。
(エ) 1Aカスケードの圧力異常について
カスケード内の圧力変化のシミュレーション計算をした結果により、全還流モード移行時に開となる連絡弁が短時間閉じていたことによるものと推定される。
(オ) 「廃品第二段コンプレッサ入口ヘッダ圧力高高」警報について
シーケンサの復旧作業に当たり、本来は先に中間室シーケンサを復帰させてカスケードを全還流モードに移行させ、六フッ化ウランが廃品第二段コンプレッサに供給されない状態にするべきところを、中間室シーケンサより先に発生回収室シーケンサをイニシャライズしたことにより、カスケードが運転を継続し、六フッ化ウランガスを廃品系に供給し続けた。他方、発生回収室シーケンサが復帰すれば当然停止する設計となっていた廃品第二段コンプレッサは、機能を停止し、かつ、直ちに起動されなかった(その手順書がなかったため)。このため、機能を停止した廃品第二段コンプレッサに六フッ化ウランガスが供給され続け、入口圧力が上昇した。
(カ) 1B、1D「廃品第一段コンプレッサ故障」警報について
六フッ化ウランガスが供給されている状態で廃品第二段コンプレッサが停止したため圧力が上昇し、その前工程である廃品第一段コンプレッサ内の六フッ化ウランガスの圧力が上昇し、コンプレッサ内の回転体の回転抵抗が大きくなり、回転数の低下等の異常を生じて廃品第一段コンプレッサが故障した。
これは、中間室、一号発生回収室いずれの計装盤内のシーケンサからイニシャライズ操作を実施しても、すべてのシーケンサのイニシャライズ操作を完了することが可能であるところ、本事象においては、イニシャライズ操作を一号発生回収室から先に実施し、次いで必要となる複数の廃品第二段コンプレッサを同時に起動させるための操作を適切に行うことができなかったことから、廃品第一段コンプレッサの故障が発生したものである。
(2) 原告らの主張について
ア 原告らは、本件施設においては多くの機器が伝送ラインとシーケンサを共用しており、この点を審査しなかった本件安全審査は加工施設指針一九に違反していると主張する。
しかしながら、本件施設においては、伝送ラインを介さなくとも本件施設における設備・機器は各室ごとに設置された計装盤において操作制御できる設計とされているのであるから(<証拠略>)、伝送ラインをもって加工施設指針一九にいう共用に対する考慮が必要な「安全上重要な施設」、すなわち加工施設指針の用語の定義における<1>ウランを非密封で大量に取り扱う設備・機器、<2>ウランを限定された区域に閉じ込めるための設備・機器であって、その機能喪失により作業環境又は周辺環境に著しい放射能汚染の発生のおそれのあるもの、<3>臨界安全上核的制限値のある設備・機器及び当該制限値を維持するために必要な設備・機器、<4>火災・爆発の防止上、熱的制限値又は化学的制限値のある設備・機器及び当該制限値を維持するために必要な設備・機器、<5>非常用電源等で、その機能喪失によりウラン加工施設の安全性が著しく損なわれるおそれのある系統及び設備・機器、<6>これら<1>ないし<5>の設備・機器が設置されている建物・構築物、のいずれにも該当しないということができる(<証拠略>)。したがって、本件安全審査において伝送ラインに関し共用に対する考慮につき検討しなかったからといって、加工施設指針一九に違反するものということはできない。また、シーケンサは、前記のとおり複数の設備・機器を一定の条件及び作動順序によって動作制御するための装置であるから、各シーケンサがその制御対象とする複数の機器と接続されていることは、そもそも施設の共用には当たらないというほかない。したがって、原告らの主張はいずれも理由がない。
イ 原告らは、本事象の発生拡大がシーケンサにフェイル・セーフ(何らかの不具合が生じた場合に最終的には安全な構造を持たせること(<証拠略>))の設計思想が採用されていないことによるもので、これにより本件施設においては右思想が全く採用されていないことが明らかになったとし、このことが本件安全審査の違法性を示していると主張する。
しかしながら、本件施設においては、少なくとも、各設備からの排気系統に設置されたロータリポンプが電源喪失により停止した場合にその直前に設置されたロータリポンプ入口弁が自動的に閉じる機構においてフェイル・セーフの考え方が採用されているほか(<証拠略>)、本件施設で採用されている各種のインターロックもフェイル・セーフの機能を持たせるための方法の一つであるから(<証拠略>)、本件施設においてこの考え方が全く採用されていないという原告らの主張は事実に反し、前提を欠くというべきである。また、本事象のうち、シーケンサの機能停止後もカスケード設備の一部がホット定格モードを維持したことは、シーケンサの機能停止との関係でカスケード設備がフェイル・セーフの考え方により自動的に運転を停止するよう設計されていなかったことに起因することは認められるものの(<証拠略>)、フェイル・セーフの考え方とフェイル・アズイズ(何らかの不具合が生じた場合にそれまでの動作等を維持すること)の考え方との間で、そのいずれが個々の機器において安全であるかは右の場合も含めて一概にはいえないこと(<証拠略>)及びカスケード設備の一部がホット定格モードを維持したことが本事象の発生拡大に何ら寄与していないことを考えると、やはり本事象をもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に過誤、欠落があるとはいえない。したがって、原告らの主張は理由がない。
ウ 原告らは、本件安全審査が最大想定事故の解析を安全保護の機器が正常に作動するとの前提で行っていることについて、本事象が施設の事故拡大防止機能が一切働かない状態であって、そのような状況が現に発生しているとして、右の事故解析条件及びその解析結果は不合理であると主張する。
しかしながら、加工施設指針三によれば、最大想定事故の事故選定は、技術的にみて発生が想定される範囲で行われれば足りるとされているところ、本事象と本件安全審査で選定した最大想定事故の想定した均質・ブレンディング設備における配管の破損という事象とはそれぞれ独立した事故原因であって、これが同時に発生する確率は極めて小さく、これらが複合的に寄与する事故が技術的にみて発生が想定される事故であるとまではいえないというべきである。したがって、本事象の発生を踏まえても、本件安全審査における最大想定事故の事故想定及び事故解析に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。したがって、右主張は理由がない。
エ 以上のとおりであるから、本事象について原告らが指摘するところによっても、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に過誤、欠落があるということはできない。
8 他の原子力施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
(一) 動燃事業団人形峠事業所ウラン濃縮試験工場での爆発事故について
(1) 弁論の全趣旨によれば、右事故は、昭和五八年二月三日、動燃事業団人形峠事業所ウラン濃縮試験工場内の化学分析室で、廃液中の有機物を除去するために硝酸と過塩素酸を加えて分離処理を行っていたところ、右有機物と過塩素酸とが急激に反応したことによりビーカーが破裂し、破裂したビーカーのあるフード内を覗き込んでいた作業者一名がビーカーの破片で頸動脈を切り、出血多量で死亡するに至ったというものであることが認められる。
(2) 原告らは、右事故をもって、本件施設においても廃液処理の過程で同様の事故が起こる危険がある旨主張する。しかし、本件安全審査においては、火災爆発等に対する考慮として、前記認定のとおり、本件施設の主工程では可燃性の物質及び爆発性の物質を使用せず、分析室等で使用されるアセトン等についても取扱量を制限するとともにその保管は倉庫内の危険物貯蔵エリア等で行うこととなっていることを確認し、本件施設の事故防止対策上妥当なものと判断しているところ、本件施設において右と同種の事故が発生する可能性を認めるべき証拠はないから、右事故の存在をもって本件安全審査の右判断を不合理であるということはできない。
(二) セコイヤ燃料会社ウラン転換工場における六フッ化ウラン容器破裂事故
(1) <証拠略>によれば、右事故は、次のようにして発生したものと認められる。
ア イエローケーキ(ウラン鉱石から製錬された八酸化三ウランの粉末)から六フッ化ウランを製造するアメリカ合衆国オクラホマ州ゴアのセコイヤ燃料会社ウラン転換工場において、一九八六年(昭和六一年)一月四日、シリンダへの液化六フッ化ウランの充填作業中、シリンダを載せた台車の車輪が重量計の上に充分乗っていなかったために正しく重量が測定されず、シリンダに六フッ化ウランが過充填されてしまった。
イ 過充填された六フッ化ウランの一部は、所定の運転手順に従って、コールドトラップを利用した抜き出しが実施されたものの、作業の途中で、六フッ化ウランの抜き出しが困難となった。この原因は、六フッ化ウランの固化にあると考えられる。
ウ 右シリンダは建屋外の蒸気加熱装置に運ばれ、六フッ化ウランを液化させるために弁を閉じた状態で加熱された。この過充填となったシリンダを加熱する措置は、運転手順に違反するものであった。
エ 加熱開始から約二時間後、シリンダが破裂し、漏出した六フッ化ウランは大気中の水分等と反応し、固体粒子であるフッ化ウラニルと気体のフッ化水素となって、折からの風によって拡散し、事故現場から約二〇メートル離れた建物にいた従業員一名がフッ化水素により肺等に損傷を受けて死亡したほか、一〇〇名近くが病院で診察を受けた。
オ 米国原子力規制委員会は、調査の結果、事故の原因として、<1>シリンダが重量計の上に正しく置かれなかったこと、<2>充填が長時間に及び六フッ化ウランがシリンダ内で固化したこと、<3>重量計が過充填となったシリンダの重量を測定できなかったこと、<4>シリンダ重量の計測が多重化されていなかったこと、<5>運転手順に明確に反した過充填のシリンダの加熱が行われたこと、を挙げている。
(2) 原告らは、右事故の例を引きながら、マニュアルどおりに事が進まなかった場合に現場の判断で処置がされて起こり得る人為ミスの可能性が本件施設にも存在すると主張する。しかし、そもそも右事故の主たる原因は、運転規則に違反したシリンダ加熱が行われたことにあると考えられるところ、そのような事態をいかに防止するかは、設備の操作や従業員の保安教育といういずれも保安規定の内容の問題というべきであるから、右事故は本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。
(三) ポーツマスウラン濃縮工場における六フッ化ウラン漏洩事故
(1) <証拠略>によれば、右事故は、ガス拡散法によるウラン濃縮を行っているアメリカ合衆国オハイオ州パイクトンの政府ポーツマスウラン濃縮工場において、一九八五年(昭和六〇年)一二月二七日から約一週間の間に、ウラン濃縮設備内の空気除去系設備に六フッ化ウランが流入し、同設備に設置された六フッ化ウラン除去のためのケミカルトラップの処理容量を超えた六フッ化ウラン約二一キログラムが工場外に漏出したというものであることが認められる。
(2) 原告らは、本件施設においても六フッ化ウランガスが排気中に流入して施設外に漏洩した場合右事故と同様の危険性があると主張する。しかし、前記のとおり、本件安全審査では、各設備からの排気は、四つの系統ごとにケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)で六フッ化ウランを除去するほか、一般パージ系及び均質パージ系の排気系ではコールドトラップによっても六フッ化ウランの除去が行われる仕組みとなっている上、さらに、これらの排気は本件施設の排気設備において、プレフィルタ及び高性能エアフィルタを経由してから排出され、排出口には排気中の放射性物質の濃度を監視するモニタが設置されることを確認した上で、本件施設では六フッ化ウラン閉込めのための適切な対策が採られており、閉込め機能が十分確保できるものと判断した。このように、本件安全審査では、排気中の放射性物質の除去設備及び排気中の放射性物質濃度の監視モニタが本件施設に備えられることを確認しているところ、右事故のように長期間に大量の六フッ化ウランが漏出し続ける事態も右の確認事項で十分防止し得るものと考えられるから、右事故をもって、本件安全審査が不合理であるということはできない。
なお、原告らは、本件施設のフィルタ類やケミカルトラップ等が地震や爆発事故によって機能に支障を生じる可能性について本件安全審査では事故解析がされていない旨主張するが、そのような地震ないしは爆発事故と右事故類似の六フッ化ウラン漏洩事故とが独立して同時的に発生する事象は、技術的にみて想定し得るものとは必ずしもいえないから、右主張は、本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。
(四) JCO東海事業所転換試験棟における臨界事故
(1) <証拠略>によれば、右事故は、次のようにして発生したものと認められる。
ア 平成一一年九月三〇日午前一〇時三五分ころ、JCO東海事業所の転換試験棟で、硝酸ウラニル溶液を製造する目的で、作業員が八酸化三ウランを硝酸に溶解した溶液約四〇リットルを沈殿槽に漏斗で流し込んだところ、沈殿槽内部のウラン溶液が臨界状態となり、遅くとも翌日午前六時三〇分ころまで臨界状態が継続した。
イ 臨界状態のウランから発せられた中性子線及びガンマ線は、施設外にまで達し、これにより、臨界状態発生時に近傍で作業を行っていた作業員三名のほか、消防署職員三名、JCO東海事業所の関係者五六人及び事業所周辺の一般公衆七名、さらに施設内で臨界収束のための作業に携わった一四名が被曝し、うち作業員二名が放射線障害により死亡したほか、数百メートルないし数キロメートルの範囲で周辺環境の物質が放射化された。これに対し、臨界事故による施設自体の破壊はなく、施設内のウランが施設外に漏洩することはなかった。
ウ 地方自治体では、地域住民に対し、施設から三五〇メートル圏内においては避難、一〇キロメートル圏内においては屋内退避措置をそれぞれ勧告した。
エ 右臨界事故の直接の原因は、転換試験棟の工程における臨界安全が、全工程を通じての一バッチ(濃縮度一八・八パーセント、二・四キログラム)の質量制限、一部の工程に入る前の秤量による質量制限及び沈殿槽以外の工程における形状制限で管理されていたところを、質量制限を大きく上回る量の濃縮度一八・八パーセントの硝酸ウラニル溶液を形状制限がされていない沈殿槽に投入したことにある。このような作業工程は、それ自体許認可を受けていないのみならず、JCOが独自に作成した作業手順書(ただし、その内容も許認可を受けていない。)にも反する内容であった。
(2) 原告らは、JCOが加工事業許可を受けるに当たって行われた安全審査でもいかなる場合でも臨界事故は起こり得ないと判断され、臨界事故評価は行われないままになっていながら現実には臨界事故が発生したことをもって、同様の判断がされた本件施設についても、事故評価をしていない安全審査には看過し難い過誤、欠落があると主張する。
しかし、JCOの加工事業変更許可申請の内容(<証拠略>)と右臨界事故の発生経過とを対比すると、右臨界事故は、JCOの加工施設において講じられた技術上は適正な臨界管理を殊更無視する態様で作業が行われたために発生したものであって、基本的にはウラン加工施設設置許可の段階の安全審査の対象とはならない加工施設の作業員による意図的な作業工程の不遵守といった事態が原因となったものであり、右臨界管理は、最悪の逸脱による臨界事故発生の危険までは防止できない恨みはあるものの、それ自体は技術的にみて臨界事故を防止するに足りる内容のものであったということができ、加工施設指針一〇が技術的にみて想定されるあらゆる場合の限度において臨界防止対策を求めている以上、右臨界事故の事実をもってしても、右臨界管理をもって適切な臨界防止対策が採られていると判断した安全審査に過誤があると評価することはできない。そして、本件安全審査も、右同様に技術的にみて臨界を防止し得る対策を講じているか否かを判断したものであって、その判断が不合理といえないことは前にみたとおりである。そうすると、加工施設指針一二が、技術的にみて発生が想定されるあらゆる場合に対する臨界防止対策が図られている限りは臨界事故の事故評価を不要としている以上、本件安全審査において右判断の下に臨界事故評価をしていないことは、格別看過し難い過誤、欠落には当たらないといわざるを得ない。要するに、右臨界事故のような技術的見地からは発生は想定されないが作業従事者の杜撰な管理等によって起こり得る事故については、現行の制度設計上、加工事業許可処分の段階でこれを審査する枠組みにはなっていないのであって、現実に起こり得る各種事故の影響の大きさにかんがみるときはその事の当否は制度論として十分な検討に値するものの、この枠組みの存在を前提とする以上、技術的見地からは発生が想定されないが現実には発生し得る事故を防止し得ないことの不合理を安全審査の判断の当否に帰することはできない筋合いというほかない。もとより、このような悲惨な事故が再び発生することがないよう万全な臨界事故防止対策を講じる必要のあることは当然のことであり、そのためには今回のJCO事故の教訓を生かし、作業従事者の意図的な作業工程の不遵守といった杜撰な管理等によって起こり得る事故についても、加工事業許可申請の許否を審査する段階でその発生を想定した臨界事故評価が行われる仕組みになるよう制度の抜本的な見直しが検討され、右のような現行制度上技術的見地から発生が予想されない臨界事故についても事前に審査する新たな制度の実現が望まれるところである。
このほか、原告らは、右臨界事故を引き合いにして、本件安全審査が最大想定事故として妥当とした事故想定が過小で非現実的であると主張するが、これについても、本件安全審査における最大想定事故の事故選定及び事故評価に関する判断が、技術的にみて発生が想定される事故のうちで一般公衆の被曝線量が最大となるものの選定及び評価としては合理的に行われていることは後記のとおりであって、技術的見地からは発生が想定されない右臨界事故をもって右判断を不合理ということはできない。
したがって、JCO臨界事故に関する原告らの主張は、いずれも理由がない。
第四公共の安全性確保
一 はじめに
本件施設に求められる前記の意味における安全性のうち、公共の安全確保に係るものは、本件施設において発生し得る事故を想定しても、本件施設から直接外部に放出される放射線や本件施設から外部に排出される放射性物質及び放射性廃棄物により引き起こされる一般公衆の被曝が、事故時のものとして社会通念上許容し得る一定水準の範囲内であるかどうかの問題であるといえる。
二 加工施設指針等の内容(<証拠略>)
核燃料施設基本指針三は、事故時条件として、核燃料施設に最大想定事故が発生するとした場合に一般公衆に対し過度の放射線被曝を及ぼさないことを求めている。そして、この点につき、加工施設指針三は次のように定めている。
1 事故の選定
ウラン加工施設の設計に即し、<1>有機溶媒、水素ガス等の火災・爆発、<2>六フッ化ウラン、二酸化ウラン粉末等の飛散、漏洩、<3>自然災害等の事故の発生の可能性を技術的観点から十分に検討し、最悪の場合技術的にみて発生が想定される事故であって一般公衆の放射線被曝の観点からみて重要と考えられる事故を選定すること。
2 ウラン総放出量の計算
右で選定した事故のそれぞれについて、次の事項に関し充分に検討し、安全裕度のある妥当な条件を設定して、ウランの総放出量を計算すること。
(一) ウランの形態・性状及び存在量
(二) 事故時の閉込め機能(高性能エアフィルタ等の除去系の機能を除く。)の健全性
(三) 排気系への移行率
(四) 高性能エアフィルタ等除去系の捕集効率
3 被曝線量の評価
右1で選定した事故のうち、2の計算により最大のウラン総放出量を与える事故を最大想定事故として設定し、当該最大想定事故時のウランの総放出量からみて、十分な安全裕度をみた事故時の拡散条件を考慮しても一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には、被曝線量の評価は要しないものとする。これ以外の場合には、十分な安全裕度のある拡散条件等を設定して一般公衆の被曝線量を計算し、一般公衆に対し、過度の放射線被曝を及ぼさないことを確認すること。
三 本件安全審査の内容
<証拠略>によれば、本件安全審査では、本件施設における最大想定事故の際の公共の安全確保について、次のとおり、事故の選定、ウラン放出量及び一般公衆への影響についてそれぞれ検討を行ったものと認められる。
1 事故の選定
(一) 本件許可申請書では、次のとおり、種々の事故の発生について検討を行った上で、本件施設において最悪の場合技術的にみて発生が想定される事故であって一般公衆の放射線被曝の観点からみて重要と考えられる事故として、均質・ブレンディング設備において中間製品容器が均質槽内に設置され加熱状態にあるときに均質槽外部の緊急遮断弁に接続している配管が破損した場合を想定することとしている。
(1) 本件施設の各設備のうち、六フッ化ウラン処理設備では、六フッ化ウランを大気圧以下で取り扱うので、設備・機器の故障等により六フッ化ウランが設備外へ漏洩することはない。
(2) 均質・ブレンディング設備は、工程内部で六フッ化ウランを大気圧以上の圧力で扱っており、設備・機器が故障した場合、六フッ化ウランが漏洩することがある。
(3) ウラン貯蔵庫では、落下試験によってシリンダの強度上の安全性が確認されている範囲内に吊り上げの高さを制限するので、六フッ化ウランシリンダ類が運搬中に落下したとしても六フッ化ウランの漏洩が発生することはない。
(4) カスケード設備は、工程内部の六フッ化ウランの圧力が大気圧以下である上、気密性能に係る故障として考えられる遠心分離機の回転体の破損の場合においても外筒の真空気密性が維持される設計とされ、破損試験により強度が確認されているので、六フッ化ウランの漏洩が発生することはない。
(5) 気体放射性廃棄物の排気設備では、排気用モニタにより排気中の放射性物質濃度を測定しており、異常時には自動的に警報を発するようにしてあり、また、高性能エアフィルタの異常を防止するために、差圧計によりその前後の差圧を測定する。高性能エアフィルタが破損した場合には、その排気フィルタユニットの使用を停止するが、通常時に使用する排気フィルタユニットの数は余裕を含んでいるので、一部を停止しても排気性能上の問題はない。
排風機が故障により停止した場合は、予備機が自動起動して正常な運転を継続するので、室内の空気が排気設備を通らずに周辺環境へ漏れることはない。
排気設備の起動時には排風機が送風機より先に起動し、停止時には送風機が排風機より先に停止するインターロックを設けるので、第一種管理区域の負圧は維持される。
(6) 本件施設の液体廃棄物は、管理排水処理設備における、排水の漏洩防止対策及び漏洩拡大防止対策により、許容濃度以上の放射性液体廃棄物が周辺環境へ漏れ出ることはない。
(7) 自然現象等による事故については、本件施設の位置及び標高から洪水、高潮及び津波による影響はなく、また、本件施設で採られる建物・構築物及び設備・機器の耐震設計によれば、地震が起こった場合でも六フッ化ウランは配管等に閉じ込められており災害が起こることはない。なお、過去の地震の記録から本件敷地周辺では大地震のおそれは極めて小さく、また、仮に大地震により配管等の破損が生じたとしても一般公衆への被曝による影響は小さい。
このほか、台風及び積雪については、これに十分耐える設計とするので台風及び積雪による事故のおそれはなく、雷についても、適切な設置設計等により本件施設の安全性を損なうおそれはない。
本件施設の建物の支持地盤は、十分な地耐力を有する鷹架層の砂岩・凝灰岩類であり、過去に地滑り、陥没の発生した例もなく施設に影響を与えるような断層も認められない。また、本件敷地の造成工事は、排水工事、法面工事等において地滑り、陥没等の対策を十分施すので地盤を原因とする事故のおそれはない。
(8) 本件施設の建物は、耐火建築物又は簡易耐火建築物とし、設備・機器は不燃性又は難燃性材料を主として使用する。加熱する設備は、発火源とならないよう加熱防止装置等を設け、危険物等はウラン濃縮建屋及びウラン貯蔵建屋から離れた倉庫等に保管する。施設内で火災が発生した場合でも、施設内では引火性又は可燃性の物品の持込み量を常時制限し、また、自動火災報知設備及び消火設備を設置して、初期消火活動により直ちに消火可能であるから、火災が拡大するおそれはなく、六フッ化ウランが設備の外へ漏洩する事故には至らない。
なお、本件施設は、民家及び他の施設から一キロメートル以上の距離をおいて独立して位置し、事業所敷地西側の石油備蓄基地からも約四キロメートル離れているので、類焼のおそれはない。
(9) 本件施設においては、外部電源喪失による事故への防止対策を行うので、外部電源喪失による事故によって災害が起こることはない。
(10) 本件施設において、誤操作により臨界管理の制限条件を超える可能性があるのは濃縮度条件のみであるが、誤操作により流量又は圧力が規定値を超えた場合には、インターロックにより濃縮ウランの生産を停止するので、誤操作により臨界に達することはない。また、仮にインターロックの故障によるすべてのカスケードの濃縮度が制限値である五パーセントを超え、一〇パーセントの濃縮状態が製品コールドトラップへの充填期間中続いたとしても、コールドトラップ等の配列モデルにおける実効増倍率は〇・九五以下であり、また、この間に異常の検知は十分可能である。したがって、万一の場合を想定しても臨界に達することはない。そのほか、本件施設では、臨界事故防止対策によりいかなる場合でも安全であるような十分な設計と管理が行われるので、臨界事故が起こることはない。
(二) 本件安全審査では、本件許可申請書における右の検討内容を確認し、その内容が相当であって、本件施設において技術的にみて発生が想定される事故のうち最大のウラン放出量を与える事故として、均質・ブレンディング設備において、中間製品容器が均質槽内に設置され加熱状態にあるときに均質槽外部の緊急遮断弁に接続している配管が破損した場合を想定することは妥当であると判断した。
2 ウラン放出量
(一) 本件許可申請書では、次のとおり、右の最大想定事故が発生した場合のウランの放出量について検討を行っている。
(1) 均質・ブレンディング設備の均質槽の中間製品容器へ続く配管が破損した場合、六フッ化ウランは、配管部の周囲を覆っている配管カバーの内部に漏洩し、空気中の水分により加水分解してフッ化ウラニルとフッ化水素となる。六フッ化ウランの漏洩は、配管カバー内のフッ化水素が工程用モニタにより検知され緊急遮断弁が閉止するまで継続する。
配管カバー内からの排気は、第一種管理区域を負圧に維持するための排気設備により施設外へ放出されるが、右の工程用モニタがフッ化水素を検知した場合、排気設備内で局所排気設備による処理が追加されるようラインが自動的に切り替わり、プレフィルタ一段、フッ化水素吸着器及び高性能エアフィルタ一段をそれぞれ経由してから通常の排気処理(プレフィルタ及び高性能エアフィルタ各一段)が行われることとなる。
(2) 漏洩する六フッ化ウランの量の算出条件及び算出過程は次のとおりである。
ア 中間製品容器内の六フッ化ウランの温度は摂氏九四度とする。
イ 配管内径は七・八ミリメートルとする。
ウ 漏洩部からのガス状フッ化ウランの放出速度は、圧縮性流体のノズルの式により毎秒約一一四グラムとなり、この速度は放出とともに減少するが、同じ速度で放出し続けるものとする。
エ 漏洩継続時間は、工程用モニタにより漏洩を検知し緊急遮断弁を閉止するまでの時間として、三〇秒とする。
オ 右の条件の下で六フッ化ウランの漏洩量を算出すると、三・四二キログラムとなるが、これを安全側にみて五キログラムとすると、漏洩した六フッ化ウランは全量加水分解して四・三八キログラムのフッ化ウラニルとなり、ウラン量にして三・三八キログラムとなる。
カ フッ化ウラニルの発生量の五〇パーセントは排気設備のダクト内壁面に付着し、残量が局所排気設備の高性能エアフィルタで処理され、さらに通常運転時の排気ラインから放出されるが、このときの捕集効率を、高性能エアフィルタ二段で九九・九九九パーセントとみる。その結果、施設外に放出される総ウラン量は〇・〇一七グラムとなり、その放射能量は、〇・〇四六マイクロキュリーとなる。
(3) このほか、漏洩した六フッ化ウランから生じるフッ化水素が高性能エアフィルタのガラスウールを腐食してその捕集効率を低下させるおそれについては、局所排気設備のフッ化水素吸着器の除去効率が九九・九九パーセントであることから、五キログラムの六フッ化ウランから生成する一・一キログラムのフッ化水素のうち、高性能エアフィルタを通過するフッ化水素は、〇・一一グラムであり、高性能エアフィルタ一枚の効率の低下をもたらすフッ化水素の量が六九グラム以上であるとの知見からすると、高性能エアフィルタの効率が低下することはない。
(二) 本件安全審査では、本件許可申請書における右の算定条件が放出速度、六フッ化ウランの漏洩量及び高性能エアフィルタの捕集効率の点において安全裕度をとっており、ウランの施設外への放出量の計算結果は妥当であると判断した。
3 一般公衆への影響
本件安全審査では、右の〇・〇一七グラムというウラン放出量は極めて少なく、一般公衆の被曝線量は十分な安全裕度のある事故時の拡散条件を考慮しても極めて小さいと判断した。
四 被告の主張に対する判断
右二及び三で認定した事実によれば、公共の安全確保対策に関する本件安全審査で用いられた具体的な審査基準である加工施設指針三は、当該ウラン加工施設についてその設計に即し各種の事故要因を技術的観点から十分に検討し、最悪の場合技術的にみて発生が想定される事故であって一般公衆の放射線被曝の観点からみて重要と考えられる事故を選定するよう求め、その事故を想定した場合のウランの総放出量からみて十分裕度のある事故時の拡散条件を考慮しながら一般公衆の被曝線量について検討することとしており、この内容それ自体に不合理な点は見当たらない。また、この点に関する本件安全審査の調査審議及び判断の過程も、右指針の定めに沿って、各種の事故要因を検討した上で事故の選定を行い、当該事故時に想定されるウラン放出量を求めた結果、その量は極めて少なく、一般公衆の被曝線量は十分な安全裕度のある事故時の拡散条件を考慮しても極めて小さいと判断したものであり、それ自体に看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。
五 原告らの主張に対する判断
1 原告らは、加工施設指針三について、最大想定事故として複合事故の可能性を想定していないことを問題点として指摘する。
しかし、原告らのいう複合事故が、全く独立の複数の原因が同時に生じることにより発生する事故を指すのであれば、そのような事故が生じる確率は極めて小さいというべきであるから、加工施設指針三が独立の複数の原因による事故想定を求めていないからといって、格別不合理ということはできない。また、ある一つの事故原因が連鎖的に他の事故要因を招来して事故を拡大させるような事象については、これが技術的にみて発生が想定されるような事故であれば、加工施設指針三は、それを事故選定の対象に含めているということができる。
このほか、原告らは、一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合に被曝線量の評価を不要としていることをもって、被曝線量による規制を放棄している旨主張するが、加工施設指針三が被曝線量の評価を不要としているのは、一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合においてのことであって、この場合にも一般公衆の被曝線量は極めて小さい限度に規制されているということができるから、原告らの主張は当たらないというべきである。
2 次に、原告らは、本件安全審査が妥当であるとした最大想定事故の選定は安易であり、ほかにも地震や航空機事故が原因となって施設自体が破壊されるおそれがあるとして、本件安全審査に重大な違法があると主張する。しかし、前記認定のとおり、本件安全審査において最大想定事故を選定する過程においては、他の様々な要因による事故の可能性について検討が加えられているから、これをたやすく安易と評価することはできない。また、原告らが主張する事故のうち地震を原因とするものについては前記のとおり検討が加えられ、本件施設における各種の耐震設計に照らし地震が起こった場合でも災害が起こることはなく、また、大地震により配管等の破損が生じたとしても一般公衆への被曝による影響は小さいことが確認されており、この点における本件安全審査の判断に過誤、欠落があるとは認められない。このほか、航空機事故による施設自体の破壊のおそれについては、そのような事故の発生確率が十分に低いことが本件安全審査において確認されていることは前記のとおりであるから、これを技術的にみて発生が想定される事故として扱わなかった本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
3 原告らは、原告らが想定した施設全体が破壊されて遮断弁やフィルタの機能が喪失される事故では、本件施設に貯蔵されているウランの大部分が環境中に放出されることが避け難く、その場合には施設から六〇〇キロメートル離れた東京でも一般公衆の被曝線量は〇・一三レムとなると主張するが、そのような事態をもたらす原因として原告らが主張する航空機事故等は、本件安全審査において最大想定事故として選定の対象となっておらず、その選定過程における本件安全審査の判断に看過し難い過誤、欠落がないことは右にみたとおりであるから、右主張は、最大想定事故として選定されない事故に関する点をいうものにすぎず、前提を欠き失当というべきである。
第五平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策
一 はじめに
本件施設に求められる前記の意味における安全性のうち、平常時の被曝低減に係るものは、本件施設から直接外部に放出される放射線による被曝のほか、本件施設から外部に排出される放射性物質及び放射性廃棄物により引き起こされる被曝が、社会通念上許容し得る一定水準以下にまで低減される対策が施されているかどうかの問題であるといえる。
二 加工施設指針等の内容(<証拠略>)
1 核燃料施設基本指針二は、平常時条件として、核燃料施設の平常時における一般公衆の被曝線量が実用可能な限り低いものであることを求めている。加工施設指針二は、この点について、排気中のウランと排水中のウランとに分けて、一般公衆の被曝について次のとおり定めている。
(一) 排気中のウランによる一般公衆の被曝
(1) ウラン加工施設で取り扱うウランの形態、性状及び取扱量、工程から排気系への移行率並びに高性能エアフィルタ等除去系の捕集効率を考慮して排気に含まれて放出されるウランの年間放出量を算定すること。
(2) 右(1)で求めたウランの年間放出量からみて、十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても、一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には、被曝線量の評価は要しないものとする。
(3) 右(2)以外の場合には、適切な方法により一般公衆の被曝線量を計算し、実用可能な限り低いものであることを確認すること。
(二) 排水中のウランによる一般公衆の被曝
(1) ウラン加工施設から排水に含まれて放出されるウランの年間放出量又は年間平均濃度からみて、十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても、一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には、被曝線量の評価は要しないものとする。
(2) 右(1)以外の場合には、適切な方法により一般公衆の被曝線量を計算し、実用可能な限り低いものであることを確認すること。
2 核燃料施設基本指針七は、放射性廃棄物の放出管理について、核燃料施設においては、その運転に伴い発生する放射性廃棄物を適切に処理する等により周辺環境へ放出する放射性物質の濃度等を実用可能な限り低くできるようになっていることを求め、加工施設指針七は、この点について次のように定めている。
(一) 放射性気体廃棄物の放出管理
排気に含まれて周辺環境へ放出されるウランを実用可能な限り少なくするため、高性能エアフィルタ、エアウォッシャ等の適切な除去設備を設けること。特に、粉末ウラン処理工程等ウランの排気系への移行率が高いと考えられる工程からの排気系には、二段以上の高性能エアフィルタを設けること。
(二) 放射性液体廃棄物の放出管理
排水に含まれて敷地境界外へ放出されるウランを実用可能な限り少なくするため、凝集沈殿設備、ろ過設備、蒸発濃縮設備、希釈設備、イオン交換設備等の適切な廃液処理設備を設けること。
3 核燃料施設基本指針八は、貯蔵等に対する考慮として、核燃料施設においては放射性物質の貯蔵等による敷地周辺の放射線量を実用可能な限り低くできるようになっていることを求めている。この点につき、加工施設指針八は、六フッ化ウラン、二酸化ウラン、燃料集合体等の加工原料若しくは加工製品の貯蔵又は放射性廃棄物の保管廃棄に起因する放射線量をウラン加工施設敷地境界外における人の居住する可能性のある地点において、十分な安全裕度のある条件を設定して計算することとし、その値が実用可能な限り低いものであることを確認することとしている。
4 核燃料施設基本指針九は、放射線監視につき、核燃料施設においては放射性廃棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること及び放射性物質の放出の可能性に応じ周辺環境における放射線量、放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていることを求めている。この点につき、加工施設指針九は、次のように定めている。
(一) 放出口等における監視対策
気体廃棄物及び液体廃棄物の放出口又はその他の適切な箇所において、それぞれウランの濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること。
(二) 周辺環境における監視対策
ウランの放出の可能性に応じ、周辺環境における放射線量、ウランの濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること。
三 本件安全審査の内容
<証拠略>によれば、本件安全審査では、本件施設の平常運転時の被曝低減に係る安全性について、次のとおり、放射性廃棄物の管理、貯蔵等に対する考慮及び平常時の公衆に対する被曝線量の評価の各側面から検討が行われたものと認められる。
1 本件安全審査では、次の事項を確認した。
(一) 放射性廃棄物の管理
(1) 本件施設の第一種管理区域からの排気は、排気設備により排気ダクトを通じてプレフィルタ及び高性能エアフィルタで処理をした上で排気塔から排出されるとともに、排気塔の直前に設置された排気用モニタで排気中の放射性廃棄物の濃度を連続的に監視する仕組みとなっている。また、均質室の均質槽及び均質槽配管カバーの内部からの排気については、平常時は右の排気設備で処理されるほか、工程用モニタにより六フッ化ウランの漏洩が検知された場合には、プレフィルタ、フッ化水素吸着器及び高性能エアフィルタから構成される局所排気装置を経由した上で右の排気設備で処理されることとなっている。
次に、本件施設の各工程からの排気は、四つの排気系統ごとに、ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)により、あるいはケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)とコールドトラップにより六フッ化ウランの除去が行われた上、さらに右の排気設備による処理を経て排出されることとされている。
このほか、本件施設では、フィルタの目詰まりへの対策として、プレフィルタ及び高性能エアフィルタの前後の差圧を測定することにより目詰まりを監視することとされているほか、高性能エアフィルタについては、交換後に捕集効率の測定を行うこととされている。また、ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)については、出口にウラン検出器を取り付けて、性能に異常がないことを確認することとされている。
(2) 本件施設から排出される放射性液体廃棄物としては、管理区域で付随的に発生する分析廃水、洗缶廃水及び手洗水等の廃水があるほか、使用済の洗浄用溶剤などがある。このうち、廃水の発生量は年間で約八五〇立法メートルであり、本件施設では、年間の処理能力が約三〇〇〇立法メートルの管理廃水処理設備を設置することとしている。
右の管理廃水処理設備は、凝集沈殿槽、砂ろ過塔、ウラン吸着塔等から構成されており、右の管理区域からの廃水は、ここで必要に応じて凝集沈殿、ろ過等の処理を行った後、放射性物質濃度が許容被曝線量等を定める件所定の周辺監視区域外の許容濃度以下であることを確認した上、他の一般排水とともに排水口から事業所外へ放出することとされている。
また、使用済洗浄用溶剤は、ドラム缶等に収納して密封し、ウラン濃縮廃棄物建屋に保管廃棄することとされている。
(3) 本件施設で発生する放射性固体廃棄物としては、非定常的な作業の際に発生するウエス、ゴム手袋、ビニールシート、使用済フッ化ナトリウム、スラジ(汚泥)等がある。これらは、可燃性のものと不燃性のものに区分され、それぞれドラム缶等の容器に収納してウラン濃縮廃棄物建屋に保管廃棄することとされている。本件施設における固体放射性廃棄物の年間発生予想量は二〇〇リットルのドラム缶換算で約七〇〇本であるのに対し、右建屋の保管能力は約四七〇〇本である。
このほか、ドラム缶等の容器に収容不可能な大型の固体放射性廃棄物は、プラスチックシート等で密封し、さらに二重包装をして右建屋に保管廃棄することとされている。
(二) 貯蔵等に対する考慮
本件施設のウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量は、これらの最大貯蔵量及び工程中のウラン保有量を考慮して安全裕度を見込んだ計算を行った結果でも、最も近い周辺監視区域境界外の場所でも十分小さい値である。
(三) 平常時の公衆に対する被曝線量の評価
本件施設からの排気による周辺環境への影響については、ウランの年間取扱量、排気系への移行率、捕集効率等につき安全裕度をみた条件を設定して算定したところでも、排出されるウランはウラン量にして年間〇・一五グラム、放射能量にして〇・一八キュリーであるとの結果となっており、十分な裕度のある拡散条件を考慮しても、一般公衆への被曝線量は十分小さい。
また、本件施設の管理廃水処理設備からの排水は、放射性物質濃度が許容被曝線量等を定める件所定の周辺監視区域外の許容濃度以下であることを確認した上で本件施設外へ排出されることとなっており、一般公衆の被曝線量は定量的な被曝評価を行うまでもなく極めて小さい。
(四) 放射性物質の放出量の監視
本件施設では、加工事業規則に基づいて周辺監視区域を設定し、その範囲を標識等により明示するとともに、当該周辺監視区域において空気中の放射性物質濃度及び外部放射線量を定期的に測定することとしている。このほか、本件施設では、施設外環境のモニタリングとして、外部放射線量及び土壌や陸水に含まれる放射性物質濃度を定期的に測定することとしている。
2 本件安全審査では、右の確認事項のほか、排気及び排水中の放射性物質に起因する一般公衆の線量当量を試算したところでも線量当量限度等を定める件所定の周辺監視区域外の線量当量限度である一年間につき一ミリシーベルトの一万分の一以下であることを確認し、本件施設では、放射性廃棄物の放出管理、貯蔵に対する考慮、放射線の監視のいずれの側面においても適切な対策が採られていると判断した。
四 被告の主張に対する判断
右二に認定した事実によれば、平常運転時の被曝低減対策に係る安全性に関する本件安全審査において用いられた具体的審査基準である加工施設指針二及び七ないし九は、ウラン加工施設から排出されるウランによる一般公衆の被曝について、排気中のウランと排水中のウランとに分けて、これらに含まれて環境中へ放出されるウラン及びこれによる一般公衆の被曝線量を実用可能な限り少なくすることを求めるとともに、ウラン加工施設におけるウランの貯蔵による敷地周辺の放射線量の低減を求め、さらに、放射性物質の経路における放射性物質の濃度及び周辺環境における放射線量等を監視すべきことも定めており、本件施設から外部に排出される放射性物質及び放射性廃棄物により引き起こされる被曝を社会通念上許容し得る一定水準以下にまで低減するための対策に関する基準としては、特に不合理な点は認められない。また、右三で認定した事実によれば、平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策に関する本件安全審査の調査審議及び判断の過程も、右加工施設指針の内容に沿ったものといえ、これに看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。
五 原告らの主張に対する判断
1 原告らは、加工施設指針二について、一般公衆の被曝線量について絶対的な条件を定めていない旨主張するが、同指針は、加工施設の平常時における一般公衆の被曝線量が法令等による一般公衆の被曝線量等の規制値以下であることを当然に含意した上で、さらに、その中でも実用可能な限り被曝線量が低いことを求めているものと解され、この実用可能な限り低い被曝線量の値がウラン加工施設ごとに異なり得るものであることを踏まえると、同指針が一般公衆の被曝線量につき定量的な値を定めていないからといって、これを不合理ということはできない。
また、原告らは、加工施設指針二が一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合に被曝線量の評価を不要としていることをもって、被曝線量による安全規制を放棄している旨主張するが、そもそも、一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかである以上、一般公衆の被曝低減対策は被曝線量を計算するまでもなくその目的を達しているといえるから、原告らの主張は当を得ていないというべきである。
このほか、原告らは、加工施設指針二が娘核種による被曝線量を考慮していない旨主張する。この点、確かに、加工施設指針二は、本件施設からの排気又は排水中の放射性物質としてはウランのみを想定した内容となっているのは事実であるものの、ウランの半減期の長さ(七億四〇〇万年(ウラン二三五)ないしは四四億七〇〇〇万年(ウラン二三八)に照らすと、加工施設指針二がウラン加工施設の排気中の放射性物質による被曝の影響の低減を求めるに当たり、放射性物質の年間放出量の算定をウランのみに着目して行うこととしていることを格別不合理と評することはできない。したがって、右主張も理由がない。
2 原告らは、加工施設指針七及び八が、放射性物質の濃度や放射線量につき具体的な目標を定めることなく、実用可能な限り低減できれば足りるとし、また、加工施設指針九が周辺環境等の放射性物質の濃度や放射線量の監視対策が適切なもので足りるとしており、環境安全のために最低限どのような目標が必要かという視点は皆無である旨主張する。しかしながら、ウラン加工施設から放出される放射能の量や放射性物質の濃度を実用可能な限り低く押さえた場合、その放射能量や濃度は、施設の種類や規模、用いられる技術等により多様であることは避けられず、また、放射性物質の濃度や放射線量を監視するための方策も多種多様というべきであることや加工施設指針がウラン加工施設の基本設計の安全性を審査するための基準として原子力安全委員会ないしは核燃料安全専門審査会で用いられるものであること等からすると、加工施設指針七ないし九が環境安全のために最低限の目標値を定めていないからといって、これを格別不合理ということはできない。
また、原告らは、加工施設指針七ないし九が、安全管理の対象としてウランのみを念頭に置き、フッ化水素など他の有害物質について考慮対象外としていると主張するが、これらの指針は、もとより放射性廃棄物の放出管理、放射性物質の貯蔵に対する考慮、放射線監視といったウランの放射性物質としての性質に着目して設けられている基準であるから、これらの基準がフッ化水素など他の物質の化学的毒性や劇物性に着目した内容となっていないからといって、当該指針を不合理ということはできない。そして、環境との関係で、原告らが指摘するような放射性物質以外の有害物質の排出等をいかに低減させるかの問題は、他に当該物質の排出規制等を定める法令があればその場面で検討されれば足りるし、特に規制のない物質について殊更規制法等の原子力関連法令が規制を加えているとも解されないから、加工施設指針において他にもフッ化水素等の排出規制を内容とした指針がないことをもってしても、加工施設指針を不合理という余地はない。
よって、原告らの主張は失当である。
3 原告らは、本件許可申請書が排気及び排水中の放射性物質並びに本件施設に貯蔵されている放射性廃棄物からの放射線による一般公衆の被曝線量の評価やこれに対する対策に触れておらず、これを是認した本件安全審査は違法であると主張する。
しかし、右1でみたとおり、本件施設の排気又は排水中に含まれるウランの年間放出量等からみて十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には被曝線量の評価を不要とする加工施設指針二の内容が不合理であるとはいえないから、本件安全審査において、本件施設の年間の排気中のウラン放出量を試算し、十分な裕度のある拡散条件を考慮しても、一般公衆への被曝線量は十分小さいと判断し、また、本件施設の管理廃水処理設備からの排水の放射性物質濃度が許容被曝線量等を定める件所定の周辺監視区域外の許容濃度以下であることを確認した以上、一般公衆の被曝線量につき定量的評価を行わなかったからといって、これを不合理ということはできない。
また、本件安全審査では、本件施設のウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量がこれらの最大貯蔵量及び工程中のウラン保有量を考慮して安全裕度を見込んだ計算を行った結果でも最も近い周辺監視区域境界外の場所でも十分小さい値であることを確認したとは前記認定のとおりであるから、原告らの主張のうち本件施設内に貯蔵された放射性廃棄物による被曝に関する部分は、前提を欠き失当である。
4 原告らは、本件許可申請書が周辺環境の放射性物質濃度について、測定方法及び測定結果に対する対処について触れておらず、この点を看過して安全性が確保されるとした本件安全審査に重大な違法性が存すると主張するが、本件許可処分の直前に行われた昭和六三年七月二六日総理府令第四一号による改正(平成元年四月一日施行)により加工事業規則上放射性物質の濃度監視に関することが保安規定で必要的に定めるべき事項として追加されていたことに照らすと、本件施設については、放射性物質の濃度の監視に関する事項はこの改正による改正後の加工事業規則に基づき後続の保安規定の認可手続で審査対象となることが予定されていたということができるから、本件安全審査が右事項を加工施設の基本設計の範囲内のものとして検討を加えなかったとしても、これを格別不合理ということはできない。したがって、右主張は理由がない。
また、日本原燃六ヶ所事業所敷地内に設置されるダストサンプラやモニタリングポイントに関する原告らの主張も、そもそも加工施設指針九によれば周辺環境における放射性物質の濃度等の監視のための対策は、放射性物質の放出の可能性に応じたもので足りることとされているところ、本件施設においては、前記三に認定したとおり、本件施設からの排気に含まれるウランの量は年間で〇・一五グラムであることを確認しており、この量との関係でみると、ダストサンプラ及びモニタリングポイントに関して原告らが指摘する点は、いずれも、これをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるというには及ばないということができる。
第六まとめ
以上本章において検討したところによれば、本件許可申請について規制法一四条一項三号要件適合性を認めた内閣総理大臣の判断には、不合理な点はないものということができる。
第六章 結論
以上に認定説示したところによれば、本件許可処分は手続的に適法であり、また、その実体的適法性についても、本件における審理対象となる範囲内においては、規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る。)要件適合性及び三号要件適合性を認めて本件許可処分をすることとした内閣総理大臣の判断に不合理な点はない。
そうすると、原告Aを除く原告らのうち、別紙当事者目録<略>記載の番号五二、五三及び六三ないし七四の合計一四名以外の原告らの本件許可処分の取消しを求める予備的請求に係る訴えは、いずれも原告適格を欠き不適法であるからこれを却下すべきものであり、その余の右一四名の原告らの予備的請求は、いずれも理由がなく棄却を免れない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 山崎勉 高木勝己 宮崎謙)
当事者目録<略>
略語表
行訴法 行政事件訴訟法(昭和三七年法律第一三九号)
設置法 原子力委員会及び原子力安全委員会設置法(昭和三〇年法律第一八八号。ただし、平成一一年法律第一〇二号による改正前のものをいう。)
設置法施行令 原子力委員会及び原子力安全委員会設置法施行令(昭和三一年政令第四号。ただし、平成一二年政令第一四〇号による改正前のものをいう。)
規制法 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三二年法律第一六六号。ただし、特に明記しないかぎり昭和六三年法律第六九号にる改正前のものをいう。)
規制法施行令 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令(昭和三二年政令第三二四号。ただし、特に明記しないかぎり昭和六三年政令第六一号による改正前のものをいう。)
加工事業規則 核燃料物質の加工の事業に関する規則(昭和四一年総理府令第三七号。ただし、昭和六三年総理府令第四一号による改正前のものをいう。)
加工施設技術基準 加工施設の設計及び工事の方法の技術基準に関する総理府令(昭和六二年総理府令第一〇号。ただし、昭和六三年総理府令第四一号による改正前のものをいう。)
線量当量限度等を定める件 試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき線量当量限度等を定める件(昭和六三年科学技術庁告示第二〇号)
許容被曝線量等を定める件 原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、許容被曝線量等を定める件(昭和三五年科学技術庁告示第二一号。ただし、昭和六三年科学技術庁告示第二〇号により廃止。)
核燃料施設基本指針 核燃料施設安全審査基本指針について(昭和五五年二月七日原子力安全委員会決定。ただし、平成元年三月二七日原子力安全委員会決定による改正前のものをいう。)
加工施設指針 ウラン加工施設安全審査指針について(昭和五五年一二月二二日原子力安全委員会決定。ただし、平成元年三月二七日原子力安全委員会決定による改正前のものをいう。)
本件許可申請 日本原燃産業株式会社が昭和六二年五月二六日付けで内閣総理大臣に対してした六ヶ所ウラン濃縮工場核燃料物質加工事業許可申請(ただし、昭和六二年一二月八日付け、昭和六三年五月一六日付け及び同年六月二七日付けをもって一部補正がされたもの)
本件許可申請書 本件許可申請に当たり日本原燃産業株式会社が内閣総理大臣に対して提出した六ヶ所ウラン濃縮工場核燃料物質加工事業許可申請書(ただし、昭和六二年一二月八日付け、昭和六三年五月一六日付け及び同年六月二七日付けをもって一部補正がされたもの)
本件許可処分 内閣総理大臣が昭和六三年八月一〇日付けで日本原燃産業株式会社に対してした六ヶ所ウラン濃縮工場核燃料物質加工事業許可処分
本件施設 本件許可処分に係る加工事業のための加工設備及びその附属施設として日本原燃産業株式会社六ヶ所事業所に設置される六ヶ所ウラン濃縮工場
本件安全審査 内閣総理大臣及び原子力安全委員会が本件許可申請について規制法一四条一項三号の要件の適合性についてした審査
安全審査書 内閣総理大臣が本件許可申請の規制法一四条一項三号の要件適合性について審査した結果を取りまとめた文書
原燃産業 日本原燃産業株式会社
日本原燃 日本原燃株式会社
動燃事業団 動力炉・核燃料開発事業団(現在は核燃料サイクル開発機構)
JCO 株式会社ジェー・シー・オー
JCO事故 JCO東海事業所転換試験棟で平成一一年九月三〇日に起きた臨界事故
ICRP 国際放射線防護委員会
もんじゅ最高裁判決 最高裁判所平成四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁
伊方最高裁判決 最高裁判所平成四年一〇月二九日第一小法廷判決・民集四六巻七号一一七四頁