青森地方裁判所 平成12年(わ)221号 判決 2002年2月06日
主文
被告人を懲役15年に処する。
未決勾留日数中270日を上記刑に算入する。
押収してある刺身包丁一丁を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1借金の返済に窮したこと等から前途を悲観し,妻及び二人の子供を殺害して自らも自殺しようと企て,
1 平成12年11月3日午後10時ころ,青森県上北郡a町字d○○番地有限会社I砕石採石場出入口橋から北東約170メートルの町道S防災ダム線上に駐車中の普通貨物自動車内において,長男A(当時12歳)の左胸部を所携の刺身包丁(刃体の長さ約21.5センチメートル)で2回突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を心損傷を伴う胸部刺創による血胸により死亡させて殺害し,
2 同日時ころ,同所において,長女B(当時14歳)の左胸部を上記刺身包丁で1回突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を心及び大動脈損傷を伴う胸部刺創による血胸により死亡させて殺害し,
3 同日時ころ,同所において,妻C(当時47歳)の承諾を得て,その左胸部を上記刺身包丁で2回突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を左肺損傷を伴う胸部刺創による呼吸障害により死亡させて殺害し,
第2業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時ころ,前記場所において,前記刺身包丁一丁を携帯し
たものである。
(事実認定の補足説明)
1 判示第1の3の妻Cに対する殺人の公訴事実について,検察官は,Cは,被告人がCを殺害することを始め,親子心中をすることについて承諾していなかったと主張するのに対し,弁護人は,この点について,Cが予め同意していたと主張し,被告人も,これに沿う供述をするので,以下,この点について検討する。
2 関係各証拠(省略)によれば,被告人が本件犯行に至る経過等について,次のとおりの事実が認められる。
(1) 被告人は,昭和24年青森県上北郡a町で出生し,地元の高等学校を卒業して東京のデザイナー専門学校を中退した後,工員のアルバイトを経て福島県郡山市内の看板店で稼働するようになった。被告人は,昭和50年にDと結婚したが,昭和51年には精神分裂病の診断を受けて精神病院に入院し,昭和52年1月には妻Dを刺殺した後に自殺を図った。被告人は,妻Dを刺殺した事件については責任能力を欠いていたとして不起訴処分となり,同市内の精神病院に措置入院となった。
被告人は,昭和56年に上記精神病院を退院後,郷里の青森県上北郡a町に帰って看板業を営むようになり,昭和58年にはCと結婚した。被告人とCとの間には,昭和61年にBが,昭和63年にはAが誕生した。被告人は,平成7年,C所有の土地上に自宅を建築し,C,B,A及び被告人の実母Eと共に生活していた。
被告人は,昭和56年に精神病院を退院した後は投薬による精神分裂病の治療を継続し,平成8年6月からはT市立中央病院に通院して治療を受け,平成12年当時は向精神薬ユミレース,精神緩和薬レキソタン,睡眠導入剤ハルシオンの投薬を受けていた。
(2) 被告人は,平成7年以降,自宅及び仕事場を建築し,自動車を購入したこと等により,合計約3000万円の負債を抱えるようになり,平成12年当時は毎月約20万円を返済しなければならなかったうえ,同年12月からは,住宅ローンのステップアップ償還により,毎月の返済額が約4万円増額されることとなっていた。
一方,被告人の営んでいた看板業は,景気の停滞に加え,被告人がカッティング文字による看板製作のための機械を導入しなかったことにより仕事量が減少し,かといって積極的な営業努力もしなかったため,収入は減少の一途をたどっていた。そのうえ,平成12年5月にはCの勤務していたデパートが倒産したため,被告人一家は,Cの実家から借財したり,Eの年金を生活費に充てるなどして暮らしていたが,同年12月以降の借財返済の目途は立たなかった。被告人は,借金の返済に行き詰まることを思い悩んでいたが,その前年の平成11年に約10年間に亘って交際を続けてきた愛人と未練を残しながらも別れたことや,平成12年10月に受診した健康診断で胆嚢ポリープが疑われると診断されたことも相俟って将来を悲観するようになり,同年10月ころ,自殺しようと考え,さらに,C,B及びAを道連れに心中することを決意した。そして,被告人は,同月下旬ころ,所有していたテレビ,8ミリビデオカメラ,業務用掃除機等を売却し,ビデオテープ,日記等を焼却処分するなどして,身辺整理を始めた。
(3) 被告人は,心中の方法として,自動車の排気ガスを車内に引き込み,もしこれを吸って心中することができなかった場合には,刃物を用いて心中することに決め,犯行当日までに,排気ガスを引き込むためのダクト2本を入手し,刺身包丁一丁を購入して準備した。
また,被告人は,心中の機会として,祝日で子供らの学校が休みとなる平成12年11月3日に,同月8日に迫っていたBの修学旅行のための買い物をするとの名目の下に,C及び子供らを連れ出すことに決めた。
(4) 被告人は,平成12年11月3日午前9時ころ,普通貨物自動車を運転して知人のF宅に赴き,同人を乗せて心中に適した場所を探して見て回り,同日午前10時30分ころ,同人を同人宅に送った後に別れた。
同日午後2時ころから午後3時ころまでの間に,被告人は,C,B及びAを連れ,買い物に行くと言って,普通貨物自動車に乗り,前記ダクト及び刺身包丁を持って自宅を出発した。この際,Cは,Eに対し,買い物に行ってくるから,夕飯を食べたら寝ているようにと言った。
被告人らは,まず,Kスポーツ店に赴き,午後3時53分ころ,トレーニングスーツを購入した。
その後,被告人らは,Oショッピングセンターに赴き,回転寿司店で食事をして午後4時41分ころに同店を出た後,同ショッピングセンター内の「ブルーグラス」に赴き,午後4時44分ころ,パーカーを購入した。
そして,被告人らは,Oショッピングセンターを出て,自宅のあるa町とは反対方向の八戸市方面に向かい,同市nのレンタルビデオ店の駐車場に駐車して時間潰しをしたり,同市内で普通貨物自動車に給油をした後,午後8時ころ,a町の本件犯行現場に至った。
上記の自宅を出てから本件犯行現場に至るまでの間のいずれかの時点で,Cは被告人が投薬を受けていた薬剤のうちのレキソタンを,Bは同じくハルシオンを,Aは同じくハルシオン及びレキソタンを,それぞれ服用した。
(5) 本件犯行現場に至り,被告人は,用意しておいたダクトを普通貨物自動車のマフラーに繋ぎ,これを助手席の窓に取り付け,ガムテープで目張りをし,服用した薬物の影響で既に眠り込んでいたC,B及びAを乗車させたままでエンジンをかけ,心中しようとしたが,思うように排気ガスが車内に入ってこなかったため,準備してきた刺身包丁を用いてA,B及びCを刺殺したうえで自殺することとし,判示第1の1ないし3の犯行に及んだ。
被告人は,妻子3名を刺殺した後,自殺しようとして自らの身体を刺身包丁で多数回突き刺したが,死に切れず,通りかかった者の通報により病院に搬送された。
3 被告人は,捜査段階及び当公判廷において,Cが,被告人が自殺しようとしていることに気付き,被告人に対し,「死ぬのであれば子供たちを残すことはできない。死ぬときは家族一緒に死ななければならない。」などと言い出し,排気ガスを車内に引き込むためのダクトを購入してきたり,心中を図るには,11月3日の学校が休みの日にBの修学旅行のための買い物と称して出掛けるといいと提案したり,子供たちに睡眠薬を飲ませたり,一緒に普通貨物自動車のマフラーにダクトをつないだりしたと供述する。これに対し,検察官は,被告人の上記のような供述は,多くの点で客観的事実と異なっており,到底信用することができないと主張する。
そこで検討するに,被告人の上記供述は,被告人自身,必ずしも確かな記憶ではないとしているうえ,被告人は,Cが本件犯行現場でワインをコップで3,4杯飲んだと供述しているのに対し,Cの解剖検査の結果からは,有意濃度のエチルアルコールは検出されておらず,また,被告人は,自宅から,投与されていた薬剤を3本の瓶に入れ,被告人がそのうち2本,Cが残り1本を持参して本件犯行現場に至ったと供述しているのに対し,本件犯行現場及びその周辺からは瓶が1本しか発見されていないなど,客観的事実と一致しない部分が存在するし,被告人は,Cが,その実母から死ぬときは家族一緒に死ななければならないと言われていると話した旨供述しているのに対し,Cの実母であるUは,Cにそのようなことを言ったことはないと供述するなど,不自然な点が存在しており,被告人の上記供述は,直ちに信用することができない。
ただ,鑑定人G作成の鑑定書によれば,被告人には,本件犯行により自らが受けた精神的衝撃及び被告人が自殺を図って病院に搬送された後に全身麻酔下で行われた手術の影響により,記憶障害が残っていることが認められるから,被告人の供述に客観的事実と一致しない部分や不自然な点が存在するからといって,被告人が,その罪責を軽減させるためにあえて虚偽の供述をしていると断定することはできない。したがって,被告人の上記供述を信用することができないからといって,これのみをもって,Cが殺害に同意していなかったとまで認めることはできない。
4 検察官は,Cには殺害を承諾する動機がなく,Cの生前の言動からも,Cが殺害について同意していたことは窺い得ないと主張する。確かに,Cの本件被害前の言動は,特段に普段と異なるものではなく,身辺整理をしたり,遺書を残したりもしていないことが認められる。
しかしながら,これらの事情があるからといって,Cが,周囲に心中の気配を気取られないようにあえて平静を装い,普段どおりの生活を送っていた可能性を否定することはできず,これに加えて,Cが被告人の身辺整理を押し止めた形跡がないこと,Cが親や兄姉に家庭内の不平や不満等を言わない傾向があったことに照らすと,上記事情のみをもって,Cが殺害を承諾していなかったとまで認めることもできない。
また,Cが子供らを含めた親子心中を承諾する動機についても,前記2の2で認定したとおり,被告人一家は経済的に困窮していたのであるし,夫が心中を決意していると知ったときに,家族への情愛等から,これに同意した可能性を完全には否定することができない。
5 そこで,さらに進んで,前記2において認定した事実経過を前提として,親子心中についてのCの承諾を否定することができるかどうか検討することとする。
まず,本件当日の,自宅を出発する時から犯行現場に至るまでのCの行動についてみるに,前記2の4のとおり,Cは,自宅を出発する際,Eに対し,夕飯を食べたら寝ているようにと話している。ところが,Eの司法警察員に対する供述調書2通によれば,一家の夕食は大抵午後7時30分ころであるが,Eはくも膜下出血の後遺症により右半身が不自由なため,Cが夕食の支度をしており,被告人とCらが買い物に出掛けても,午後6時ころには帰宅していたことが認められる。そして,本件当日,被告人とCらが自宅を出発したのは,午後2時ころから午後3時ころまでの間であり,自宅とOショッピングセンターの間は自動車を使えば長くても1時間程度で移動できるのであるから,実際にKスポーツ店でトレーニングスーツを購入したのが午後3時53分ころ,Oショッピングセンターの回転寿司店を出たのが午後4時41分ころ,同ショッピングセンター内の店舗でパーカーを購入したのが午後4時44分ころであることに照らすと,被告人らが買い物と食事をした後に帰宅しても,午後7時以前には十分到着することができることになるから,Cは,既に,自宅を出発する際,買い物と食事をして直ちに帰宅するつもりがなかったものと認められる。これは,老齢で右半身不随の姑と同居している嫁の行動としては些か不自然であるといわざるを得ず,Cが,この時点で被告人が心中するつもりであることを知っていた可能性を否定することができない。さらに,被告人らは,前記2の4のとおり,Oショッピングセンターを出てから,自宅とは反対の八戸市方面に向かって時間を浪費しているところ,これについてCが特に異を唱えた形跡は見当たらない。これも,上記姑と同居する嫁の行動としては不自然の感を免れず,この点も,Cが,親子心中をすることを承諾していた方向に推認させる事情というべきである。
次に,Cが,レキソタンを服用していた点についてであるが,確かに,Cはある程度乗り物酔いをしやすかったことは認められるものの,子供らとは異なり,当時47歳に達していたCは,自分が服用する薬剤が何であるかを確認することなく飲み込む可能性はほとんど無いものと考えられ,Cは,被告人に投与された薬剤であることを知って飲み込んだ可能性が十分にあるというべきである。そうすると,Cは,被告人が親子心中をしようとしていることを知り,これを是認して,敢えて,薬物を飲んで眠ろうとしたのではないかとの疑いが生ずることになる。加えて,自宅を出てから本件犯行現場に至る間に,被告人が,Cに見つかることなく,子供らに薬物を服用させることは困難であることに照らすと,更に進んで,Cが親子心中に同意していた疑いも残るところである。確かに,前記3及び4で検討したように,Cが殺害に同意していたと積極的に認めることはできず,むしろ,それは相当に疑わしいというべきですらあるが,反面,上記の諸事情に鑑みると,Cが,親子心中に同意していたのではないかとの合理的疑いを払拭することもまた,できないというべきである。
6 以上の次第で,Cの殺害については,Cが予めこれに同意していた可能性を否定し切れないのであって,同意殺人を認定するに止めるのが相当である。
(法令の適用)(省略)
(被告人の責任能力に対する判断)
1 弁護人は,本件犯行当時,被告人はうつ状態に陥っており,このために心神耗弱の状態にあったと主張するので,以下,この点について検討する。
2 青森県立X病院副院長H作成の「被告人精神簡易鑑定書」と題する書面及び鑑定人G作成の鑑定書等によれば,被告人の精神分裂病は,平成12年9月当時にはほぼ完全寛解に近い状態にあったが,前記のとおり,被告人は,借金返済が行き詰まる窮状にあったことに加え,前年に別れた愛人への未練,健康診断で胆嚢ポリープの疑いがあるとの診断が下されたことが相俟って,将来を悲観するようになり,これらが原因となって,精神分裂病の基盤とは直接関係がなく,反応性うつ状態に陥り,平成12年10月ころ,自殺を考えるようになり,さらにはその自己中心的な性向も影響して,妻子を道連れに無理心中することを決意し,本件犯行に及んだことが認められる。即ち,本件犯行には,被告人が陥ったうつ状態が影響を及ぼしているのであって,その影響の程度について,当審において被告人の精神状態を鑑定した鑑定人Gは,是非を弁別し,これに従って行動する能力は完全には失われていなかったものの,相当程度障害されていたとの見解を示し,本件起訴前に検察官の嘱託により被告人の精神状態を鑑定したH副院長は,是非を弁別する能力は完全ではなく,これに従って行動する能力が軽度低下していたとの見解を示している。
3 一方,被告人は,前記のとおり,本件犯行に至るまでに,所有していたテレビやビデオテープ等を処分して身辺整理をしたこと,無理心中の方法として,自動車の排気ガスを車内に引き込むことを考え,ダクトを入手し,さらに,これが失敗した場合には,刃物を用いることとして,刺身包丁を準備していること,本件犯行までに,自らあるいは知人と共に,心中に適した場所を探し求めて下見していること,子供らの学校が休みとなる祝日に,5日後に予定されていたBの修学旅行のための買い物を口実としてCと子供らを連れ出していること,C,B及びAに,被告人が投薬を受けていたハルシオン及びレキソタンを服用させ,眠らせて抵抗する力を奪っていること,実際の犯行においても,当初は排気ガスを用いて心中しようとしたもののこれに失敗し,次いで,予め準備していた刺身包丁を用いてA,B及びCを刺殺し,被告人自身もその後に自殺を図っていることが認められる。
4 以上を前提として,本件犯行当時の被告人の責任能力について判断するに,上記2で認定したとおり,本件犯行には,被告人がうつ状態に陥っていた影響が相当程度にあったものの,そのうつ状態と被告人の精神分裂病との関係は直接的なものではないうえ,上記3で認定したとおり,被告人が本件犯行を決意するに至った動機は,一応了解可能なものであること,被告人は,本件犯行に至るまで,身辺整理をすると共に周到に犯行の準備をし,計画的に本件犯行を敢行していることが認められ,さらに,本件犯行の前後に亘り,被告人が特段不自然ないし不合理な行動をした形跡は認められないのであって,これらの事情に照らせば,被告人は,うつ状態による影響を受けつつも,犯行時点まで,相当程度に合理的な判断をし,これに基づいて行動をしているということができる。
したがって,被告人は,本件犯行当時,うつ状態に陥っており,これによって,是非を弁別しこれに従って行動する能力は一定程度減弱していたと認められるものの,刑事責任能力を軽減するまでに著しく減弱していたとはいえず,通常の責任能力を具有していたものと認められ,弁護人の前記主張は採用することができない。
(量刑の理由)
1 本件は,借金の返済に窮するなどして将来を悲観した被告人が,妻子を道連れに心中を図り,妻,長女及び長男を所携の刺身包丁で刺殺したが,妻については,心中に同意していたのではないかとの疑いを否定し切れない事案である。
犯行の主要な動機は,被告人が抱えた合計約3000万円の借金と看板業の業績不振により,将来を悲観したことにあるが,その借金を重ねるに至った事情と業績不振に陥った事情のいずれも,被告人の無計画さや業績改善意欲の乏しさに起因しているばかりでなく,妻子まで巻き込んで死に至らしめる理由には到底なり得るものではなく,甚だ思慮に欠けた,自己中心的かつ身勝手な犯行であって,酌むべき余地はない。
しかも,被告人は,犯行現場の下見や凶器の準備を始め,周到に準備をし,少なくとも子供らについてはその意思を全く無視し,薬物を服用させて眠らせ,抵抗したり逃げ出したりする力を奪ったうえで計画的に殺害したものであり,その態様も,当初は排気ガスを用いて殺害を図ったものの,これが叶わないとなるや,予め準備していた刺身包丁で被害者3名を次々と刺殺したもので,血に染まった現場は実に凄惨であり,冷酷非情な犯行といわなければならず,犯情極めて悪質である。
そして,本件犯行により,3名もの尊い生命が失われており,その結果は余りにも痛ましく,重大である。被告人の妻Cは当時47歳,長女Bは当時14歳,長男Aは当時12歳であって,それぞれに将来が開けていたはずであるのに,被告人は,被害者らの将来を完全に奪ったものであり,とりわけ,未だ十代の若さで,これから青春を謳歌する筈であった長女及び長男は,その意思に反し,庇護を受けるべき筈の父親の手によって,一方的に人生の終焉を告げられたものであって,その無念さは察するに余りあるものがある。
また,被害者らの隣の家で生活していた,Cの実母及び実兄,さらには被害者ら及び被告人と同居していた,Cの姑であり,B及びAの祖母でもある被告人の実母の被った精神的衝撃は甚大であるが,同人らに対する慰藉の措置はほとんど講じられておらず,その処罰感情は,いずれも,甚だ厳しいものがある。
したがって,被告人に対しては,長期間刑務所に収容して,その刑事責任の重大さを深く自覚させ,長く被害者らの冥福を祈らせる必要がある。
2 他方,被告人については,本件犯行当時,反応性うつ状態に陥っており,その判断能力が一定程度減弱していたこと,犯行が,怨恨や経済的利益の追求に根差したものではないこと,自らも自殺を図り,重傷を負っていること,被告人は,現在では,妻子3名の尊い生命を奪ってしまったことを悔い,相応の反省の情を示していることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。そこで,これらの事情を総合考慮して,被告人に対しては,主文掲記の刑を科するのが相当と判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役18年,刺身包丁没収)
(裁判長裁判官 山内昭善 裁判官 石原直弥 裁判官 守山修生)