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青森地方裁判所 平成12年(行ウ)3号 判決 2003年4月22日

主文

1  被告が,原告に対し,平成10年7月7日付けでした源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分(ただし,平成11年2月25日付けでした源泉徴収にかかる所得税を訂正する納税告知処分及び重加算税の賦課決定の変更決定処分後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

主文同旨

第2事案の概要

本件は,被告が,原告に対し,原告の元代表者が原告の資金から引き出した経済的利益が原告からの給与所得にあたるとして,源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分をしたのに対し,これらの取消しを請求した事案である。

1  前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)

(1)  原告等

原告は,平成8年4月1日に設立された社会福祉法人である。

Aは,原告の設立当初から平成10年2月13日に辞任するまで,原告を代表する理事長であった。

Bは,Aの夫である。

原告の設立当時,A,B及びAの父親であるCが,合計で寄附総額の少なくとも65パーセントを寄附していた。

(2)  Aらによる原告資金の引出し

ア 原告の取引関係書類及び会計帳簿には,原告が,有限会社青森ロード工業に対し,路盤改良工事を発注し,その工事代金として,平成8年5月31日に1800万円,同年6月6日に660万円を支払ったとの記載が存在し,原告の銀行預金口座(以下「原告口座」という。)から,平成8年5月31日に1800万円,同年6月5日に600万円が引き出された。

しかしながら,現実には,原告は,上記工事を発注しておらず,合計2400万円を有限会社青森ロード工業に支払ってもいない。

平成8年5月31日,原告口座から1800万円が引き出された直後,蓬生会準備室本部A名義の銀行預金口座(以下「準備室口座」という。)に,1800万円が入金され,その直後,同口座から1800万0721円が引き出され,Bが経営する蓬田観光バス株式会社(以下「蓬田観光」という。)に1800万円が入金された。

平成8年6月5日,原告口座から600万円が引き出された直後,準備室口座に,600万円が入金された。同口座からは,同日に合計220万円,同月10日,合計112万円,同月14日,合計100万円,同月17日,143万5000円,同年7月1日,24万5000円と6日間に分けて前記金額に相当する金員が引き出され,そのうち363万5000円は蓬田観光に入金された。

その後,平成10年7月7日に至るまで,上記合計2400万円に相当する金員が原告に返還されたことはない。

イ 原告は,平成8年4月3日,日産ディーゼル青森販売株式会社(以下「日産ディーゼル青森販売」という。)に対し,発電機システムを3605万円(内消費税相当額105万円)で注文することで合意した(乙17)。

上記発電機システムの注文は,当初からリースの方式を用いる予定であったところ,Bが,日産ディーゼル青森販売に対し,リース会社としてみちのくリース株式会社(以下「みちのくリース」という。)を介在させ,日産ディーゼル青森販売からみちのくリースへの上記発電機システムの販売価格を,4200万円(内消費税相当額200万円)とし,当初合意の金額との差額を返すよう依頼した。これを受けて,日産ディーゼル青森販売は,上記発電機システムについてのみちのくリースからの見積請求に対し,4200万円(内消費税相当額200万円)との見積を回答した。その後,平成9年6月2日,原告とみちのくリースは,上記発電機システムのリース契約を締結し,みちのくリースは,日産ディーゼル青森販売に対し,上記発電機システムを4200万円(内消費税相当額200万円)で発注した(乙18,19,20の1及び2,22)。

日産ディーゼル青森販売は,みちのくリースから上記発電機システムの代金が入金された後の平成9年7月11日,Bに対し,額面595万円の小切手を交付し,原告名義の領収証を受領した(乙7,22)。

その後,平成10年7月7日に至るまで,上記595万円に相当する金員が原告に返還されたことはない。

ウ 後記(3)のとおり,前記アの原告口座から引き出した合計2400万円及び前記イの日産ディーゼル青森販売から返還を受けた595万円について,被告がこれらをAの給与所得と認定し,原告に対し納税告知処分等を行った後の平成10年12月31日,原告は,Aに対し,事実関係の照会を行った。これに対し,Aは,平成11年1月7日ころ,原告に対し,前記各金員について,原告理事長の地位を濫用し,理事会の議決を経ないで,原告の資金を引き出してBが経営する会社の資金に流用していたことを認め,平成12年7月3日,原告との間で,前記流用した金員を原告に返済すべき債務を負担していることを確認し,これを分割弁済する旨の債務弁済契約公正証書を作成した(甲8,16,17)。

(3)  納税告知処分等

ア 被告は,Aが原告から引き出した前記(2)の金員について,原告がAに対し,平成8年5月に1800万円,同年6月に575万5000円,同年7月に24万5000円,平成9年7月に595万円を各供与したもので,これらは所得税法上の給与所得にあたるとし,原告がこれらについての所得税を源泉徴収して納税する義務を負っているのに法定納期限までにその納付がなかったとして,平成10年7月7日付けで,原告に対し,別紙処分一覧表1のとおり,源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び重加算税賦課決定(以下「本件各処分」という。)をした。なお,被告は,平成11年2月25日付けで,原告に対し,本件各処分のうち,平成9年7月分の源泉所得税額及び重加算税額を別紙処分一覧表2のとおり変更する決定をした。

イ 原告は,本件各処分に対し,平成10年9月8日付けで,被告に対し異議を申し立てたが,被告は,同年12月8日付けで,異議申立を棄却した。

原告は,上記異議申立棄却決定に対し,平成11年1月7日付けで,国税不服審判所長に対し審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成12年3月27日付けで,前記変更決定後の本件各処分にかかる審査請求を棄却した。

2  争点

(1)  Aが享受した経済的利益は所得税法上の所得といえるか。

(被告の主張)

原告は,A,B及びAの父親であるCが,寄附総額のうち形式的には65パーセント,実質的には全てを占めるいわば同族会社的色彩の濃い典型的な同族法人であり,Aが経営面,給与の支給を含む資金面全般の実権を掌握していた。このことからすれば,代表者たる地位にある自らに対する賞与支給に,簿外預金からの支出や架空工事費の計上等の仮装手段が伴っていたからといって,これが単純に横領等に該当するとは解し難い(なお,定款上,原告法人設立時の理事とされているD及びEが実際に理事に就任したのは,蓬生園開園直前の平成9年3月20日あるいは開園日の同年4月1日であることからすると,他の理事も同時期に理事に就任したと推認され,それ以前に理事会が開催された形跡はなく,原告法人の意思決定機関は,理事長であるAしか存在しなかったものと認められる。)。

仮に,Aの利得が業務上横領罪等に該当するとしても,所得税は,納税者に経済的利益が発生し,担税力が増加したという事実に着目して課せられるものであるから,経済的利益発生の原因となった行為が違法,無効であったとしても,その経済的利益は所得税法上の所得というべきであるし,これに対応する返還債務等が発生したとしても,その履行によって経済的利益が失われたときに更正の請求(所得税法152条,同施行令274条に基づき,当該事実が生じた日の翌日から2月以内に税務署長に対し請求できる。)等の対象となり得ることは別として,その経済的利益が所得を構成することには変わりはない。

所得税法152条,同法施行令274条及び国税通則法71条が,「無効な行為による経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われた」場合について定めていることに照らせば,行為が無効であっても返還債務等の履行によって経済的成果が失われることがない限りは,所得として課税するものと解するべきである。また,昭和45年の現行所得税法基本通達でも,「収入とすべき金額」または「総収入に算入すべき金額」は,その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない」と規定している。

さらに,判例の立場として,不法原因による経済的利益の課税の可否については,売買及び相殺が不適法ないし無効と解される余地のあった事案において,「税法の見地においては,課税の原因となった行為が,厳密な法令の解釈適用の見地から,客観的評価において不適法,無効とされるかどうかは問題ではなく,税法の見地からは,課税の原因となった行為が関係当事者の間で有効のものとして取り扱われ,これにより,現実に課税の要件事実が満たされていると認められる場合である限り,右行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは何ら妨げられない。」と判示し(最高裁判所第3小法廷昭和38年10月29日判決・判例時報352号30頁),また,利息制限法による制限超過の利息等が課税所得を構成するか否かが争われた事案において,「法律上有効に保有できない利得であっても,利得者がそれを現実に支配し,自己のために享受しているかぎり,課税所得たる所得を構成する」旨判示しており(最高裁判所第3小法廷昭和46年11月9日判決・民集25巻8号1120頁),同旨下級審裁判例も存する。

(原告の主張)

1(2)のとおり,原告の資金をAが引き出したといっても,これはAがその当時の原告代表者としての地位を濫用して原告から横領したものであるから,Aは資金の引出しと同時に,原告に対して同額の損害賠償債務を負うものである。実際,Aは平成12年7月3日に原告との間で,横領した金員を原告に返済すべき債務を負担していることを確認し,これを分割返済する旨の債務弁済契約公正証書を作成している。

したがって,Aには所得そのものが発生していない。

昭和26年の旧所得税法基本通達でも,横領により取得した財物については所得税を課さないこととされていた。なお,同通達は昭和45年に全面改正され,現在の通達には同様の規定は存在しないが,基本的には従前同様に考えられるべきである。

したがって,Aが享受した経済的利益は所得税法上の所得とはいえない。

(2)  Aが享受した経済的利益は所得税法上の給与所得といえるか。

(被告の主張)

法人からの給付が,役員の役員たる地位に基づく利益の供与である場合には,当該給付は給与というべきである。そして,一般に法人の役員に対し当該法人から支給される金銭等は,その支給が役員の立場とは全く無関係に,法人から見て純然たる第三者との間の取引ともいうべき態様によりなされたものでない限り,原則としてその役員の職務執行の対価の性質を有するものであり,給与と認めることができる。

ところで,同族会社,個人会社等の法人においては,代表者等の実質的経営者が,その資産を自由に処分し得る地位,権限を有し,簿外資産を捻出し,これを当該法人の事業とは無関係に利得し,費消することがあり,そのような利得はしばしば仮装,隠蔽手段を伴ってされる場合がある。しかし,給与支出としての外形を有しない利得であっても,法人の資金運用の一切を把握する経営者が法人の資産から支出し,これが事業資金等に使用された形跡がなく,経営者自らが利得,費消したものと推認される場合には,特段の事情がない限り,当該利得は経営者が自らの労務提供に対する対価即ち給与としてこれを支出し,取得したものと解するのが相当である。そして,そのような利得の原因行為が刑法その他の法令に違反する違法なものであったとしても,当該利得の給与性は否定されるものではない。

本件においては,法人の行為計算が異常不合理なものかどうかを評価するもの,もしくは,法人の行為計算を基礎とした経済的利益の認定,という問題ではなく,法人の不正な帳票から当該役員に経済的利益が帰属したかどうか,帰属自体の事実認定の問題というべきところ,①原告の代表権を有する理事長であったAは,施設建設準備業務及び蓬生園開園直後の経理事務を含む業務全般の実権をもっぱら一人で掌握し,原告の資産を私的に取得・消費し得る地位にあったと認められること,② 前記第2の1(2)ア及びイのとおり,合計2995万円が簿外所得であり,社外流出したことが明らかであること,③そのうち2163万5000円が蓬田観光に入金され,支出残額831万5000円を含め,原告に返還された事実がなく,いずれもAが費消したこと,④原告の設立時の基本財産である寄附金は,そのすべてがA及びBにより調達されていたことが推認され,原告は極めて同族性の濃い法人であったこと,⑤本件各処分に係る税務調査の過程において,理事長であったAから,原処分庁の調査担当者に対し,本件路盤改良工事及び本件発電機システムのリース契約に係る使途不明金について,何ら合理的な説明がなされなかったこと等の間接事実から,裁判例から抽出した認定賞与課税における充足すべき要素をすべて満たすことが明らかであり,原告の設立時から蓬生園開園直後の期間において,当該期間における業務全般をもっぱら一人で遂行したことに対する労務の対価たる賞与として支出・取得したものと解するほかはない。

したがって,Aが享受した経済的利益は,Aが原告から供与を受けた臨時的給与である役員賞与とみるべきである。

(原告の主張)

給与所得とは,労務の対価として支給されたものをいうべきところ,Aによる1(2) の原告資金の引き出しは,その当時の原告代表者としての地位を濫用して取得したものであって,原告からの給付は存在しないし,Aの労務の対価としての支出でもない。

被告は,原告が同族法人であったとし,認定賞与として給与所得というべきであると主張するが,同族会社の隠れた利益処分とは異なり,Aによる1(2)の原告資金の引き出しは,原告の意思とは合致しない横領行為であるから,これを給与所得ということはできない。

また,原告は公益性の高い社会福祉法人であり,都道府県知事の認可を得て設立され,知事の一般的監督を受けることになっている。その会計については予算を毎会計年度開始前に理事長において編成し,理事総数の3分の2以上の同意を得なければならない(定款16条),また,予算をもって定めるもののほか,新たに義務の負担をし,又は権利の放棄をしようとするときは,理事総数の3分の2以上の同意がなければならない(同19条)等として予算の拘束性を定めている。

上記予算については,原告は発起人会の承認を得て平成8年度及び平成9年度分が設立関係の添付書類として県知事に提出されていた。役員報酬ないし職員給与についても予算が設定され,各役員もその予算額に拘束され,仮に後日変更することがあっても,理事会の承認を得てから支出されなければならない。原告がAに支給することが予算書で予定されていたのは,役員報酬はゼロであり,副園長の立場で月額約40万円が予定されていたのみである。

また,法人の資産は,理事会の定める方法により,理事長が管理する資産のうち現金は,確実な金融機関に預け入れ,確実な信託会社に信託し,又は確実な有価証券に換えて保管する(定款14条)と定められ,資産は理事長が管理するが善管注意義務をもってなされるべきことは当然である。

以上の定款の規定ないし原告が社会福祉法人であること,予算書の記載事実及びAが設立当初である平成8年4月1日から平成10年2月13日まで理事長の地位にあったことに被告主張の外形的事実を当てはめれば,本件の引出し行為は,原告の資産を自己及びその夫であるBが経営する蓬田観光の運営資金に充てるため,ほしいままに自己が業務上保管中の原告資金の中から2400万円を引き出し,又はBに595万円を交付させて横領したものであるというべきである。

したがって,Aが享受した経済的利益は給与所得とはいえず,仮に所得税法上の所得であるとしても,雑所得にあたるというべきである。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)について

原告は,Aが享受した経済的利益は,Aが原告代表者としての地位を濫用し,原告の資金を引き出して横領したものであり,Aは,資金引き出しと同時に原告に対して同額の損害賠償債務を負っているのであるから,所得税法上の所得とはならないと主張する。

確かに,Aは,本件で享受した経済的利益について,原告に返済する義務を負っていることを認め,その返済方法についても原告と合意をし,その旨の債務弁済契約公正証書を作成している。

しかしながら,所得税法は,あくまでも,事実として発生した経済的利益状態に着目してこれを所得とし,課税対象としているものと解される。これを前提とすると,たとえ経済的利益の原因となった行為が,私法上違法・無効とされ,その返還債務等が発生する場合であっても,現実に経済的利益が存在する限り,所得税法上の所得に該当するというべきである。

したがって,Aが享受した経済的利益は,所得税法上の所得に当たるということができる。この点についての原告の主張は採用することができない。

2  争点(2)について

(1)  被告は,一般に,法人の役員に対して法人から支給される金銭は,原則としてその役員の職務執行の対価の性質を有する給与であると主張し,さらに,本件においては,A及びその夫が,原告の設立当時,全額の寄附をしていたことや,本件当時においてAが原告の実権を掌握していたことなどを前提とし,そのような事実関係の下では,原告の代表権を有していたAが原告から引き出した資金は,役員としての職務執行の対価である賞与と解すべきであると主張する。

(2)  しかしながら,賞与を含む給与所得(所得税法28条1項)とは,雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい,その認定に当たっては,とりわけ,給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものであるかどうかを重視すべきものと解される(最高裁判所第2小法廷昭和56年4月24日判決・民集35巻3号672頁参照)。

ところが,Aによる原告からの資金引出しは,その態様に照らせば,原告が主張するように,原告からの横領ともいうべきものであって,原告との関係では違法なものであるから,これを直ちに原告により支給されたものとすることはできない。

加えて,給与所得については,所得税法上常に源泉徴収によるものとされ,給与の支払者が納税すべきものとされており,支払者は源泉徴収する義務を罰則をもって強制されている(所得税法183条,240条)。このことに照らせば,法は,給与所得の内容として,支払者にこのような源泉徴収手続の負担を負わせるにふさわしいものを想定していると解すべきである。ところが,本件において,Aが原告の資金を横領する際に,原告が所得税を天引きして徴収する機会があったとはおよそ考えられないのであるから,Aによる資金の引出しを,原告において源泉徴収義務のある賞与の支払であると解することは,困難といわざるを得ない。

しかも,本件の事実関係の下では,Aによる原告からの資金の引出しは,もっぱらAが夫の経営する蓬田観光の経営資金に供する目的で行ったものであるから,他の理事がこれを容認しないことは明らかであり,原告の客観的意思や事情とは無関係のものであったというべきである。そうすると,これをもってAの原告役員としての職務執行の対価であると評価するのは,むしろ不合理というべきである。

(3)  なお,確かに,営利法人である会社の場合には,その活動によって収益を上げ,これを社員に還元することがそもそもの存在目的とされ,その意味で社員である株主等は会社の財産に対して持分的権利を有しているということができ,しかも,会社の運営についても程度の差こそあれ社員の意思を反映させることが予定されているのであるから,会社の規模や実態によっては,会社の財産を役員が利得した場合に,これを利益処分である賞与として把握する(いわゆる認定賞与)ことが相当である事案も想定し得る。

しかし,原告のような非営利法人については,たとえ設立当時の寄附の全額ないし相当割合をある範囲の親族らがしていたとしても,法人の財産を寄附者に還元することは予定されていないのであるし,さらに社会福祉法人については,解散時の残余財産について,社会福祉事業を行う者ないし国庫に帰属することすら法定されているのであるから(社会福祉法47条),これを会社と同視することはできない。

しかも,社会福祉法によれば,いったん定款が定められた後は,その定款によって予定される方法を別とすれば,寄附者の意思を法人の運営に反映させる手段はなく,寄附者らが役員から排除されることすら十分にあり得るのであるから,法人の財産を役員が利得した場合に,その時点において当該役員が法人を実質的に支配していたとしても,これを利益処分であると解することには,一般論としても疑問が残るところである。

そして,現に原告においては,Aが平成10年2月13日に原告の代表者を退任し,同年3月末にAの実弟であるFが原告の事務長を退職し、さらに平成12年3月末にAの父親であるCが原告の代表者を退任し,その後はAとその親族は原告の運営には関与しなくなっているのであって(甲7,証人G),このような原告の実態に照らしても,Aによる本件の資金引出しを,いわゆる認定賞与として,給与所得に該当すると解することは相当でない。

(4)  以上で検討したところによれば,Aによる原告からの資金引出しを,原告からAへの賞与の支給と解することはできず,したがって,Aが享受した経済的利益は,所得税法上の給与所得には当たらないというべきである。この点についての被告の主張は採用することができない。

3  以上によれば,原告の請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河野泰義)

裁判官 畠山新及び裁判官守山修生は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 河野泰義

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