青森地方裁判所 平成13年(ワ)84号 判決 2001年8月28日
甲事件原告
有限会社スギヤマホーム
同代表者代表取締役
杉山武男
同訴訟代理人弁護士
山田揚一
乙事件原告
株式会社中三
同代表者代表取締役
中村公英
同訴訟代理人弁護士
石岡隆司
丙事件原告
太田進
同訴訟代理人弁護士
沼田徹
丁事件原告
有限会社○○
同代表者代表取締役
甲山太郎
丁事件原告
甲山太郎
参加人
小友春江
上記三名訴訟代理人弁護士
徳中征之
甲、乙、丁事件被告
あいおい損害保険株式会社
(旧商号・大東東火災海上保険株式会社)
同代表者代表取締役
瀨下明
乙、丙、丁事件被告
第一火災海上保険相互会社
同代表者保険管理人
社団法人日本損害保険協会
上記両名訴訟代理人弁護士
江口保夫
同上
三上雅通
主文
1 甲事件原告、乙事件原告、丙事件原告、丁事件原告ら及び参加人の各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、甲事件原告、乙事件原告、丙事件原告及び丁事件原告らと同事件被告らとの間で生じた分は同事件原告らの負担とし、参加によって生じた費用は参加人の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
(甲事件)
甲事件被告(乙、丁事件被告。以下「被告あいおい損害保険」という。)は、甲事件原告(以下「原告スギヤマホーム」という。)に対し、金八二一五万五三四一円及び内金三七四二万一〇九五円に対する平成五年一二月一五日から、内金四四七三万四二四六円に対する平成六年一月二六日から、各支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え(遅延損害金の起算日は差押命令確定日の翌日である。)。
(乙事件)
1 被告あいおい損害保険は、乙事件原告(以下「原告中三」という。)に対し、金一〇九八万九七〇一円及びこれに対する平成六年一二月三〇日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え(遅延損害金の起算日は訴状送達日の翌日である。2項も同じ。)。
2 乙事件被告(丙、丁事件被告。以下「被告第一火災海上保険」という。)は、原告中三に対し、金二七五万一四七四円及びこれに対する平成六年一二月三〇日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
(丙事件)
被告第一火災海上保険は、丙事件原告(以下「原告太田」という。)に対し、金九〇五万八二一六円及びこれに対する平成六年九月八日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え(遅延損害金の起算日は転付命令送達日の翌日である。)。
(丁事件)
1 被告あいおい損害保険は、丁事件原告有限会社○○(以下「原告○○」という。)に対し、金一億四七八一万四九〇一円及びこれに対する平成六年二月一日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え(遅延損害金の起算日は履行遅滞の後である。以下同じ。)。
2 被告第一火災海上保険は、原告○○に対し、金一二〇〇万円及びこれに対する平成六年二月一日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告第一火災海上保険は、丁事件原告甲山太郎(以下「原告甲山」という。)に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成六年二月一日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
(参加事件)
1 被告あいおい損害保険は、参加人に対し、金一億四七八一万四九〇一円及びこれに対する平成六年二月一日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告第一火災海上保険は、参加人に対し、金二二〇〇万円及びこれに対する平成六年二月一日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告○○及び同甲山が被告らとの間でそれぞれ保険契約を締結していた建物等の火災事故について、その保険金支払請求権を差し押さえて取立権等を取得した保険契約者である同原告らの債権者及び同原告らが被告らに対してそれぞれ保険金の支払を請求(原告○○及び同甲山の請求は、反訴であり、その本訴は、被告らが同原告らとの間で保険金支払債務の不存在確認を請求したものであるが、その後、同原告らが反訴を提起したことにより、被告らは本訴を取り下げた。)したのに対し、被告らが、同火災事故は保険契約者側の故意ないし重大な過失により発生したものであることを理由に、保険約款の免責条項による免責を主張してその支払を拒絶する一方、参加人は、本件訴訟の係属中、原告○○及び同甲山から本件丁事件の訴訟物である被告らに対する保険金支払請求債権の譲渡を受けたとして被告らに対し保険金の支払を求めて本件訴訟に参加した事案である。
1 争いのない事実等(以下の事実は当事者間に争いがないか、証拠により容易に認めることができる。)
(1) 乙川二郎は、平成元年六月一二日、被告第一火災海上保険との間で、別紙物件目録1記載の建物について別紙契約目録3記載の保険契約を締結し、原告○○は平成四年一〇月七日保険契約者の地位を承継した。
原告○○の代表者である原告甲山は、平成元年六月一二日、被告第一火災海上保険との間で、前記建物内の家財について同目録4記載の保険契約を締結した。
(2) 原告○○及び同甲山は平成四年五月から前記建物の増築工事をし、その結果、同建物は平成五年三月ころ別紙物件目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)となった。このため原告○○は、平成五年三月二九日、被告あいおい損害保険との間で、本件建物について別紙契約目録1記載の保険契約を、同年八月二日、本件建物及び同建物内の家財について同目録2記載の保険契約をそれぞれ締結した。
(3) 本件建物及び家財は、平成五年九月一八日に発生した火災(以下「本件火災」という。)により焼失した。そこで、原告○○及び同甲山は、平成五年一〇月ころ、被告らに対し保険金の支払を請求したが、被告らはその支払を拒絶した。
(4) 原告スギヤマホームは、別紙契約目録2、5及び6記載の保険契約に基づく保険金支払請求権に対し別紙債権執行目録1記載の債権執行をして取立権を取得し、原告中三は、別紙契約目録2及び4記載の保険契約に基づく保険金支払請求権に対し別紙債権執行目録2記載の債権執行をして取立権を取得し、原告太田は、別紙契約目録3記載の保険契約に基づく保険金支払請求権に対し別紙債権執行目録3記載の債権執行をして転付命令を取得した。
2 争点
(1) 本件火災が故意ないし重過失によって発生したものであるのかどうか。
(被告ら)
本件火災は、以下のとおり、原告○○の代表者である原告甲山によって招致されたものである。
ア 原告甲山の人物属性について
原告甲山は、取込詐欺や横領事犯の前科前歴多数を有するほか、借入金未払いや横領による民事事件等も多数起こしており、上記民・刑両面にわたって負担する債務のほとんどを現在に至るまで履行していない状況にある。本件建物を建築するに当たっても、その建築代金のほとんどが未払いの状況であり、同原告は、その代金を何らかの形で捻出する必要に迫られていた。その場合、上記のような性向を有する同人が、本件建物の火災保険金に目を付けるのは至極当然の成り行きであるといわざるを得ない。
イ 本件建物建築の経緯
原告○○は、実体の伴わない名前だけのいわゆる幽霊会社であり、本件建物を建築しようとした平成四年四月か五月当時、全く営業をしていなかったばかりか、その代表者である原告甲山自身何らまっとうな仕事には就いていなかった。原告甲山は本件建物をあくまでも同人の詐欺的活動の舞台装置として利用するために増改築したのであり、当初から同建物を居住のための建物とはみなしていなかった。
ウ 原告甲山の経済的破綻
本件建物の工事代金及び同建物内の家財道具購入額の合計額は一億五五五七万円以上に上る。原告甲山は、本件火災発生時までに上記金員のうち六八五五万円程度をすべて借入金により支払ったが、八七〇〇万円以上が未払いであった。同原告は、上記八七〇〇万円以上の未払代金について、手形や先日付小切手を発行したが、同手形についても不渡事故を起こし、平成五年八月の時点において、もはや手形金の決済資金も、その余の支払資金も持ち合わせておらず、借入先のあても皆無であった。また、手形金以外の借入金の弁済期も切迫したり既に徒過している状況であった。したがって、原告甲山は、少なくとも同年九月三〇日までには何らかの形で一億円以上の金策をしなければならない状況に陥っていたものである。そこで、原告甲山は、多くの債権者の追及や刑事告訴を逃れるために本件建物を放火し、保険金が下りればそれをもって支払う旨弁解し、債務弁済の引き延ばしを計ったものとしか考えざるを得ない。
エ 本件火災当日の原告甲山の不審な行動について
原告甲山は、それまで何回か移り住んだ居宅においては買い求めたことのない仏壇を、平成五年八月二五日に山本仏壇店から購入している。しかもその仏壇は一五三万五〇〇〇円もする高価なものであるが、五万円を支払ったのみで残金はいまだに支払っていない。また、原告甲山の母親は常日頃仏壇に生花を供えていたが、原告甲山は、特別信心深い者でも、仏壇に関心を持っている者でもないにもかかわらず、本件火災当日、仏壇に燃えやすいビニール製造花をわざわざ買い求めに行っている。原告甲山は、その日に限って、妻に頼んで本件建物に居住する母親を温泉に連れ出し、放火実行を母親らに判らないよう、かつ容易に行えるよう工作している。しかも、原告甲山は、その日に限って、青森市内のアパートに住む同人の娘方へテレビを運びに行っている。さらに、原告甲山は、当日の昼頃になって、本件建物に居候していた乙川二郎に対し一緒に青森に行ってほしいと頼んでいる。そのため、原告甲山宅はいつもと違い、同人の母親も、妻も、居候の乙川もいない無人状態になった。なお、娘のアパートには既にテレビがあったし、運び込んだテレビは娘の狭い部屋を更に狭くするほどの大型テレビであった。また、原告甲山はテレビを運び込むために乙川を手伝わせたが、娘のアパートに着いた際には娘にテレビを運び込む作業を手伝わせれば済むことであり、何も乙川を一緒に青森まで連れて行く必要はなかった。原告甲山がわざわざ乙川を連れ出した理由は、放火行為を乙川に知られないためか、または原告甲山と乙川とが共犯であったか、そのいずれかであることが強く推察される。原告甲山は、その日に限って、それも娘のアパートに行くという慌ただしい最中に、造花を買いに行ったり仏壇のろうそくに火を灯すという殊勝な行動をとった旨、本件火災発生後、消防署職員に供述している。原告甲山は、娘のアパートに着くや、テレビを降ろして同アパート内に置いた後、自宅が無人で心配であるとの理由から慌ただしく帰って行ったが、弘前市内に着くや、本件建物には戻らず、乙川とともに飲食店「ワラビ」においてゆっくりと夕食をとったと供述している。原告甲山は、調査会社担当者に対しては、同人らが青森から帰って立ち寄った飲食店は「ワラビ」ではなく、スナック「京都」であると異なった説明をしている。
以上のとおり、原告甲山は、本件火災当日、殊更に本件建物を無人状態にし、同人が青森に行く直前に仏壇のろうそくを灯したり、仏壇には前日までとは違って可燃しやすい造花を供えるという事実をわざわざ作出し、本件火災は仏壇のろうそくの消し忘れによるものであるとの仮説を導く手だてを施している。
オ 原告甲山の虚偽供述
原告甲山本人は、本件火災当日の午後六時三〇分ころ、本件建物を施錠の上、乙川とともに青森へ行き、午後七時過ぎに青森の娘のアパートに着き、午後八時ころ同アパートを出発したと供述するのであるが、その供述どおりであるとすれば、本件建物の出火時刻は午後七時五一分ころであるから同人にはアリバイが成立することになる。しかしながら、原告甲山本人の上記供述は明らかに虚偽である。すなわち、同原告は、前記娘のアパートに着いたときはまだ明るかったとするのであるが、本件火災当日の日の入りは午後五時四二分であることが明らかであるから、同原告は、午後五時五〇分までには娘のアパートに着いていたことになるのである。
カ 本件火災の出火原因について
本件火災の出火原因は、弘前地区消防事務組合が見分した本件建物の和室の焼き状況にすべての鍵がある。すなわち、同組合の報告によれば、その焼き状況は次のとおりである。①仏壇が置かれていた和室の焼き状況が一番激しい。②同和室の床の間中央に幅1.5m、高さ1.8mの仏壇があり、左右の床の間に棚、地袋があり、仏壇を含めて向かって左側が最も焼きが強く、外壁モルタルを残し木摺は焼き脱落し、仏壇の床、手前の地板は燃え抜け、天井、内壁は焼失し、仏壇は原形をとどめていない状況である。③出火場所は通常の火災と違って、床の間地板に、ある程度幅を持った(広さをもった)火が最初にあったと考えられる。④難焼物件といわれる畳表がすべて燃えて床藁が露出している。⑤一枚板のテーブルの縁が、火が出たと考えられる方向と反対側からも強い火(熱)を受けた影響が見られる。⑥同じく、火が出たと考えられる方向と反対側の柱にも強い火(熱)を受けた影響が見られる。以上の事実から、本件火災の出火箇所は仏壇の置かれている向かって左側の床の間の下部付近を主たる箇所として、そのほかにも複数箇所の可能性もあり、放火の可能性が最も強いものである。ところで、原告甲山本人の供述によれば、同人は本件建物を施錠して青森に向かったとのことであり、放火事件の中で建物の屋内に放火をする場合は痴情怨恨を除くとほとんど稀であって、仮にそのような場合でも本件のような建物の奥まった箇所に放火することは更に少ないのであるから、本件火災は本件建物に容易に出入りすることのできる原告甲山によって引き起こされたとしか考えることはできない。
なお、原告甲山は、消防署職員に対し、①仏壇のローソクに火を付けた。②ローソクは、新しいものを使用した。③ローソクは三段ある仏壇の下段中央の燭台に立てた。④燭台の左側には造花が入っている花瓶、中段中央には色紙のような物(木製の額入れ、表面にビニールが貼られている)、その左側に半紙に包まれている銭別が入っている供え物台、上段中央に位牌がある。⑤ローソクの炎は中段の少し上に位置し、中段中央にある色紙との間隔は一〇センチメートルくらいである。⑥拝み終えてからすぐ息を吹いてローソクの火を消したが、その時、芯が黒くなったのを見て火が消えたと思い、完全に消えたかどうか確認はしていないなどと供述したため、前記組合は、その供述に従い本件火災原因を「原告甲山が仏壇のローソクの炎を息を吹いて消えたものと見間違い、このため仏壇中央に置かれてある色紙のようなものに着火し、火災になったものと推定する。」と判定した。しかし、同原告の上記供述中仏壇内の配置に関する③ないし⑤の内容については、後に被告あいおい損害保険派遣の調査員中谷恒行が同原告から聴取した内容と大幅に異なるし、何よりも仏壇内のことを知悉している甲山花子の供述とも大幅に異なる。また、ローソクの炎と可燃物との間隔が一〇センチメートルもあった場合には、到底同可燃物に着火することはない。したがって、本件火災の出火原因が仏壇のローソクの炎が色紙様のものに着火したことに基づくものであるとの仮説は到底受け入れることができない。
以上によれば、本件火災は原告○○の代表者である原告甲山の故意又は重大な過失によって発生したものであるから、被告らは保険契約者である原告○○及び同甲山に対し本件火災によって焼失した本件建物及び家財について保険金を支払うことはできない(被告あいおい損害保険との間の保険契約についての住宅総合保険普通保険約款二条一項及び長期総合保険普通保険約款一〇条一項、被告第一火災海上保険との間の保険契約についての火災相互保険普通保険約款二条一項)。したがって、同原告らの保険金支払請求権は発生していないから、原告ら及び参加人の請求は理由がない。
なお、原告スギヤマホームは、別紙契約目録5及び6記載の保険契約に基づく保険金支払請求権に対し別紙債権執行目録1記載の債権執行をして取立権を取得したとして、その取立権に基づき、被告あいおい損害保険に対し保険金の支払を求めているけれども、上記保険契約は、いずれも本件建物を目的物件とするものではなく、本件火災に遭遇しなかった茶室及び作業小屋を目的物件とするものであるから、請求自体失当である。
(原告ら)
アについて
被告らが提出した証拠は、原告甲山を悪人と決め付け、放火犯に陥れるために意図的作為的に作成されたものであり信用することはできない。
イについて
原告甲山は塗装業、造園業を平成四年の本件建物の増築工事着工までは行っていたものであり、以後は増築工事に専念した。乙川も陳述書において北海道に二箇所の造園工事の手伝いに行っていることを認めている。同原告は一〇年をかけて、かつ二億五〇〇〇万円を超える費用をかけて造園展示場、ゴルフ練習場、テニスコート、会社事務所兼自宅の工事をしてきた。本件火災でこれを失ったことは、保険金が下りても損害を填補することが不可能なばかりか、本来の事業計画を崩壊させてしまったのである。被告らは本件建物は詐欺的活動の舞台と主張するが、保険金を不払いせんがための無理なこじつけである。
ウについて
原告○○は原告スギヤマホームからの借入金四五〇〇万円及び長兄甲山一郎からの借入金五〇〇〇万円の中から七〇〇〇万円、さらに原告甲山と妻春子双方の自己資金五〇〇〇万円の合計一億二〇〇〇万円を工事代金として現金払いしている。このうち長兄からの借入金五〇〇〇万円は返済を待ってもらえる借入金である。この状況のもとに青森銀行から八〇〇〇万円の借入の話が進んでいたのであり、この借入がなされれば工事代金の支払は全く問題がなかったのである。他方、本件火災による保険金が下りた場合でも、逆に損害が生じ借入金や工事残代金等の全額返済は困難である。したがって、保険目当ての放火は自らの首を絞めるに等しいのであり、被告らの主張は保険金を不払いせんがための無理なこじつけといわざるを得ない。
エについて
妻が母と温泉旅行に行ったのは敬老の日の延長で予定どおりの行動である。また娘から娘のビデオ付きテレビをアパートに搬入するよう頼まれて搬入したものである。さらに仏壇の購入も母の希望によったものであり、造花に取り替えたのは金箔のため仏壇店の指示に従ったまでのことである。以上のとおり、何ら不審な行動ではない。被告らの主張は保険金を不払いせんがための無理なこじつけといわざるを得ない。
オについて
被告らの主張は、原告甲山が記憶違いで娘のアパートに着いたときは明るかったと述べたことを唯一の手がかりとして、無理な創作をしている。当日午後五時三〇分ころに乙川、葛西らの大工の片付けが終わったことは、当事者らの証言等から動かし難い事実である。また午後六時前後に出発して七時前後に娘のところに着き、七時三〇分前後に娘のところを出て、八時三〇分ころに飲食店「ワラビ」に着き、一〇時ころに代行を頼んでワラビを出て家に帰ったのである。
カについて
弘前地区消防事務組合は仏壇のろうそくからの出火と決めつけて調査した疑いがある。原告甲山はろうそくを吹き消して火は消えたと主張しているにもかかわらず、消えなかったこと及び色紙が燃えやすいものであったと決めつけているのである。大隈証人の認めるように仏壇のろうそくからの出火ではないと思われる。仏壇の置かれている向かって左側の床の間の焼失が強いことから、そこからの出火と思われ、漏電の可能性もあるのではないかと思われる。しかし、専門家の大隈証人がこれを否定するのであれば、出火の原因は不明といわざるを得ない。
(2) 損害の額
(原告ら)
本件建物の工事費内訳は別紙建物内訳表のとおりであり、松山工務店に支払った金額二六一二万五九三九円、他の業者の工事金額、○○経費(別紙○○経費内訳表参照)の合計は一億四五七六万二一四八円である。このうち松山工務店の下請について、下請工事費合計一七二〇万四二〇六円が重複しているので、これを控除した一億二八五五万七九四二円が焼失した本件建物の価格である。原告○○の焼失した家財は、別紙動産内訳表(○○)のとおりであり、その合計額は三一二五万六九五九円である。原告甲山の焼失した家財は、同表(甲山太郎)のとおりであり、その合計額は一二七二万三三五八円である。
(原告○○)
原告○○は、被告あいおい損害保険に対し、本件建物について、別紙契約目録1記載の保険契約に基づき八〇五五万七九四二円の保険金の支払を、同目録2記載の保険契約に基づき三六〇〇万円の保険金の支払をそれぞれ請求する。
(被告ら)
すべて否認する。
(3) 参加人による原告○○及び同甲山の被告らに対して有する各保険金支払請求債権の承継
(参加人)
参加人は、平成一三年二月一日、それぞれ原告○○から別紙契約目録1及び2記載の保険契約に基づいて被告あいおい損害保険に対して有する合計一億四七八一万四九〇一円の保険金支払請求債権並びに同目録3記載の保険契約に基づいて被告第一火災海上保険に対して有する一二〇〇万円の保険金支払請求債権の譲渡を、原告甲山から同目録4記載の保険契約に基づいて被告第一火災海上保険に対して有する一〇〇〇万円の保険金支払請求債権の譲渡を受けた。
(被告ら)
いずれも知らない。なお、仮に債権譲渡がされたとしても、上記債権譲渡のうち差押部分については被告らに対し対抗できない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件火災が故意ないし重過失によって発生したものであるのかどうか)について
被告らは、間接事実を縷々主張して、本件火災は原告甲山により招致されたものであると推認すべきであると主張するので、以下この点について順次検討することにする。
(1) 本件火災発生当時本件建物が無人の状態であったことについて
証拠(甲C第33号証、乙第10号証、原告甲山本人(第一回。以下特に断らない場合を除き第一回をさすものとする。))及び弁論の全趣旨によれば、原告甲山は、塗装業のほか、平成三年五月に造園の設計施工等を目的とする原告○○を設立して造園業を営むものであるが、昭和五七年ころ、乙川から別紙物件目録1記載の建物及びその敷地を買い受け、同建物の骨組等だけ残し他は取り壊し、平成四年四月二〇日、松山工務店に増築工事を請け負わせ、平成五年七月中旬ころ本件建物が完成したこと、原告甲山は、平成四年一一月、養老院に入所していた母花子を引き取り、平成五年四月ころには妻春子と婚姻し、そのころから、母花子、妻春子及び乙川とともに本件建物に居住していたこと、花子と春子は、本件火災当日の平成五年九月一八日、湯ノ沢温泉に湯治に行き、また、原告甲山は、同日夕刻から、長女夏子の下宿先である青森市内にあるアパートに二五インチテレビを届けるため、乙川を同伴して本件建物を明けたので、本件建物は無人の状態となったこと、しかるに本件建物はこの間に出火し、第一発見者の山形勝亮が、同日午後七時五〇分ころ、本件建物から発煙しているのを認め、本件火災が発覚したことが認められる。
(2) 本件火災当時の原告甲山の経済状態について
証拠(乙第14、15号証、第24ないし第29号証、原告甲山本人(ただし、後記信用しない部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば、本件建物建築工事、外構工事、庭園工事、作業小屋建築工事代金の合計額並びに同建物内の家財道具購入額合計額は別紙本件建物等代金及び決済状況一覧表記載のとおり総計約一億五〇〇〇万円以上に上るが、原告甲山は、同表のとおり、本件火災発生時までに上記代金のうち約六〇〇〇万円程度を支払ったに止まり、約九〇〇〇万円以上が未払いの状況にあったこと、同原告は、前記未払代金について、数々の詐言を用いて支払の延期を求めたが、これが通用しなくなった債権者に対しては、別紙○○振出手形小切手一覧表記載のとおり原告○○振出の手形若しくは先日付小切手を発行したが、原告甲山は、平成五年五月以降同年八月末にかけて、同表のとおり、六通の手形及び先日付小切手(額面合計一〇〇七万一三四九円)について依頼返却や組戻しを受け、同表番号9の手形については、第一回の手形不渡事故を起こしており、同年八月の時点においてはもはや手形の決済資金もその余の支払資金も全く持ち合わせておらず、借入先のあても皆無であったこと、しかるに同原告は、同時点では到底決済できないことを知悉しながら、同表番号8及び10の各手形を振り出し、結局同年九月三〇日には一六二五万九八九四円の手形等を、同年一〇月三一日には六〇〇万円の手形を決済する必要に迫られていたこと、同原告は、前記工事代金の既払分については、別紙○○借入金及び保険料支払一覧表番号1、2、4及び5の各借入金によりまかなったが、同表記載の合計一億一〇〇〇万円余の借入金は全く支払われず、原告スギヤマホーム及び同中三からの番号1、3及び4の各借入金も同年八月三一日を経過した時点で弁済期を徒過している状況にあったことが認められ、原告甲山は、少なくとも平成五年九月中には何らかの形で一億円を超える金策をしなけれはならない状況にあったといえる。
ところで、原告らは、原告○○においては、原告スギヤマホーム及び原告甲山の長兄甲山一郎からの各借入金から七〇〇〇万円、さらに原告甲山と妻春子の自己資金五〇〇〇万円の合計一億二〇〇〇万円を本件建物の工事代金として現金払いしたものであり、青森銀行から八〇〇〇万円の借入の話が進んでいたので経済的破綻状況にはなかったと主張し、証拠(甲C第15、16号証の各1ないし12、第21号証の1ないし4、第37、38号証、乙第32号証、原告甲山本人)中にはこれに沿う部分があるけれども、原告甲山本人の供述内容は、上記自己資金の隠匿の態様や青森銀行との交渉経過等に関して曖昧であり、客観的な裏付けも十分ではなく、前掲乙第15号証の記載内容に照らし、信用できず、原告らの主張は採用できない。
(3) 本件建物建築の動機等について
証拠(甲C第45号証、乙第15号証、原告甲山本人(第一、二回))及び弁論の全趣旨によれば、本件建物の建築費用は一億五〇〇〇万円余であり、庭園、ゴルフ練習場及びテニスコート等の華美な施設を有するものであったこと、他方、原告○○はほとんど活動実体の伴わない名前だけの会社であって、本件建物を建設しようとした平成四年四月か五月当時は、全く営業活動をしておらず、原告甲山自身も何らの仕事に就いていなかったこと、本件建物建築の動機に関する同原告の説明は曖昧であり、前記テニスコートとゴルフ練習場は同一敷地上に重ねて設置されているものであって、真に営業に供する目的で建設されたとは考え難いこと、同原告は、本件火災に近接した平成五年春ころから、原告中三から総額一〇〇〇万円以上の高価な什器・家具等を購買したが、これら家財道具をそのころ置き場所にしていた愛人の丙野秋子方から本件建物内に搬入し、これらを別紙契約目録2記載の保険契約等の目的としたことが認められる。
これらの事情にかんがみると、当初から営業のために使用する目的で本件建物が建築されものとは認めることができず、被告らが主張するような不正な目的で建築されたものとまでは認めることができないけれども、原告甲山が前記のとおり多額の借金をしてまで高価な本件建物を建築した動機には不明朗な点があることは否定できない。上記認定に反する証拠(甲C第33号証、第38号証、原告甲山本人)は曖昧であり変遷も見られ到底信用することはできない。
(4) 保険契約締結の時期及びその内容について
前記争いのない事実等に証拠(甲C第7、8号証の各1、2、第9ないし第14号証、第20号証、原告甲山本人)を総合すれば、原告甲山は、原告○○の代表者として、平成五年三月二九日、被告あいおい損害保険との間で、本件建物について別紙契約目録1記載の保険金額一億円、保険期間一〇年、月額保険料九万八〇〇〇円の保険契約を締結し、また同年八月二日には、同被告との間で、本件建物及び家財について同目録2記載の保険金総額七六〇〇万円、保険期間一年、保険料二三万二四〇〇円の保険契約を締結し、さらに同日それまでは積立方式であった同目録1記載の保険契約を、八月分の保険料の支払を免れるべく、返戻金を受けられない掛捨方式に変更したことが認められるところ、このように本件火災に近接した時期に、しかも前認定のとおり当時多額の債務を負担していた原告甲山が上記のような多額の保険金を発生させる保険契約に殊更加入した上、保険料の支払負担を免れる掛け捨ての方式に変更していることは、同原告の保険金詐欺の動機及び当時の経済的逼迫をともに窺わせる事情といわなくてはならない。
(5) 本件火災当日の行動に関する原告甲山の説明について
原告甲山は、本件火災発生の翌日である平成五年九月一九日の警察署による火災原因調査、その後の保険会社による調査、本件訴訟における原告本人尋問等で本件火災当日の行動について説明をしているが、その内容は一部に後記のような変遷も窺われるけれども、主に原告甲山の本人尋問における供述に依拠して、その大要を記すと、「本件火災当日は、朝六時ころから起床し、午前一〇時ころ、所用のため同棲していた丙野秋子方へ赴き午後零時三〇分ころ帰宅した。ところで、本件仏壇には母花子が毎日生花を供えていたが、当日は母が温泉に行っていたので、自分が午後二時三〇分ころ、茂森町の花屋に造花を購入しに行き、午後三時過ぎに帰宅して生花と入れ替えた。その後、午後五時ころ戸締まりのために樹木<番地略>所在の別宅に行き午後六時二〇分ころ再び本件建物に帰宅し、仏壇のローソクをつけた。同ローソクは長さ九ないし一〇センチメートル、太さ一センチメートル位で仏壇の引き出しに入れていた新しいものを使用した。仏壇の棚は三段ありローソクは下段中央の燭台に立てた。棚に置いてあるものは下段中央の燭台の左側に造花が入っている花瓶、中段中央に木製の額に入りガラスの張られた真如苑の御真影、上段の中央に位牌が置かれている。ローソクの炎は中段の少し上に位置し、中段の中央にある御真影との間隔は一〇センチメートル位であると思う。一、二分ほど拝み、拝み終えてからすぐ息を吹いてローソクを吹き消し、黒い芯になったのは確認した。その後、自分は長女夏子の下宿先である青森市内にあるアパートにテレビを届けるため、乙川とともに本件建物を午後六時三〇分ころ出発し、午後七時三〇分ころ下宿先に届け、午後八時ころに引返し、途中で弘前市内のワラビという飲食店で食事をし、午後一〇時ころ本件建物に帰宅し、本件火災を知った。出火原因と考えられるのは、仏壇の引込電線からと思う。」というものである。
しかしながら、上記供述内容は全体に変遷も多く客観的な証拠とも齟齬する部分があり、その信用性は疑わしい。すなわち、前記仏壇内の配置に関する供述内容は、乙第31号証によって認められる本件火災発生後一か月以内にされた同原告の説明と異なる上、その変遷の理由に関する同原告本人の説明も曖昧であり、仏壇内の状況等を説明する乙第31号証中の甲山花子の供述内容とも食い違うもので、虚構のものとの印象を払拭することができない。また、同原告は、夏子方に到着した時間については、そのころはまだ明るかった旨繰り返し供述しているが、乙第38号証によれば、本件火災当日の日没時刻は午後五時四二分であることが認められるから、上記供述どおりであるとすれば、同原告が夏子方に到着したのは同時刻以前と考えるほかなく、同原告が本件建物を出発して以後の行動内容や時間の経過に関する供述はにわかに信用することができない。
(6) 本件火災当日の原告甲山の不審な行動について
原告甲山の本件火災当日の行動には、以下のような不自然かつ不可解な点が見受けられる。
ア 証拠(乙第31号証、第33号証、証人中谷、原告甲山本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告甲山は、それまで何回か移り住んだ居宅においては買い求めたことのない仏壇を、平成五年八月二五日に山本仏壇店から購入しているところ、同仏壇は一五三万五〇〇〇円と高価なものであるが、五万円を支払ったのみで残代金はいまだに支払われていないこと、また、原告甲山の母親は常日頃仏壇に生花を供えていたが、同原告は、特別信心深い者でも、仏壇に関心を持っている者でもなく、前記仏壇店からは、仏壇には金属製の常花が付いているので花をあげる必要はないと聞き及んでいたにもかかわらず、本件火災当日、仏壇に供えるために可燃性の高いビニール製造花をわざわざ買い求めていること、さらに、同原告は、その日に限って、それも娘のアパートに行くという慌ただしい最中に、仏壇のろうそくに火を灯すなどしたことが認められる。
イ 証拠(乙第31号証、証人中谷、原告甲山本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告甲山は、その日に限って、妻に頼んで母親を温泉に連れ出していること、また、同原告は、青森市内のアパートに住む同人の娘方ヘテレビを運びに行ったほか、当日の昼頃になって、本件建物に居候していた乙川に対し一緒に青森に行ってほしいと依頼して同人とともに青森に行き、このため本件火災発生当時原告甲山宅はいつもと違い、同人の母親も、妻も、居候の乙川もいない無人状態になったこと、さらに、娘のアパートには既にテレビがあったし、運び込んだテレビは娘の狭い部屋を更に狭くするほどの大型テレビであったこと、しかも、同原告はテレビを積み込むためにわざわざ乙川を手伝わせたが、娘のアパートに着いた際には娘にテレビを運び込む作業を手伝わせれば済むことであり、乙川を連れて青森まで行く必要はなかったことが認められ、当時原告甲山が乙川を同行するに至った経緯等に関する同原告の説明内容にも変遷が見られることなどに照らすと、原告甲山が放火実行を母親らに悟られずに、かつ容易に行えるよう工作したのではないかとの疑いを払拭することができない。
ウ 前掲各証拠によれば、原告甲山は、娘のアパートに着くや、テレビを降ろして同アパートに置いた後、自宅が無人で心配であるとの理由から慌ただしく帰って行ったが、弘前市内に着くや、本件建物には戻らず、乙川とともに飲食店「ワラビ」においてゆっくりと夕食をとったとするのであるが、その内容はそれ自体不自然である。なお、原告甲山は、調査会社担当者に対しては、同人らが青森から帰って立ち寄った飲食店は「ワラビ」ではなく、スナック「京都」であると異なった説明をしており(乙第31号証、証人中谷)、同原告の供述は変遷している。
以上のとおり、原告甲山は、本件火災当日、殊更に本件建物を無人状態にし、同人が青森に行く直前に仏壇のろうそくを灯したり、前日までとは違って可燃しやすい造花を供えるなどした上、本件火災発生後は、本件火災が仏壇のろうそくの消し忘れによるものであることを殊更強調するかのごとき弁解に終始しているものというべきであって、同原告の上記不自然かつ不可解な行動は、いずれも本件火災が仏壇のろうそくの消し忘れに起因するものであることを印象づけるために作為的に行われたものと認めるのが相当である。
(7) 本件火災の出火原因について
弘前地区消防事務組合作成の火災調査報告書(乙第10号証)によれば、本件火災による本件建物の焼き状況は、一、二階の一部の天井が焼け落ち、特に二階天井裏の木骨材はほとんど焼きし、焼けて変色した屋根トタン、外壁が残存するのみであること、北側玄関内部については、玄関天井は焼け落ちているが内装は水損のみであること、東側、洗面所、風呂場、トイレ、夫婦の寝室はいずれも水損のみで寝室の天井の一部が焼け落ちているのが認められたこと、台所、居間、和室と進み焼きが強く、特に仏壇が置かれていた和室の焼き状況が居間より激しいこと、和室の床は残っているが、柱は焼け細り、天井は二階梁を残しほとんど焼失し、屋根トタンのみが残存していること、出火場所と思われる床の間においては、中央に幅1.5メートル、高さ1.8メートルの仏壇があり、左右の床の間に、地袋があり、仏壇を含めて向かって左側が最も焼きが強く、外壁モルタルを残し木摺りは焼き脱落し、仏壇の床、手前の地板は燃え抜け、天井、内壁は焼失し、仏壇は原型を止めない状況であったこと、燃え抜けた床下においては、北側土台角が焼け細り、変色した仏壇の飾り金具や燭台があり、右側地袋の床の一部が焼け落ちていたこと、二階においては、娘の部屋、長男の部屋及びベランダ、トイレ等の天井はいずれも焼け落ち、野地板は焼失し、焼けた屋根トタンのみが残存し、内壁は水損していること、さらに東側花子の部屋においては、同様に天井、野地板が焼き脱落、内壁が一部焼きしていたこと、東側及び乙川が間借りしている部屋はいずれも水損していたことがそれぞれ認められる。そして、この事実に証拠(乙第36号証の1、2、第41ないし第43号証、証人大隈)によって認められる事実をも考え合わせると、まず、本件火災の出火箇所としては、前記のように、和室床の間のうち、仏壇の置かれている向かって左側の同室北西側の焼き状況が一番激しく、同所の床の間の地板にある程度幅と広さをもった火が最初にあったと考えられることから、同所付近が主たる出火箇所と認められるが、他方で同室内においては難焼物件といわれる畳表がすべて燃えて床藁が露出しており、一枚板のテーブルの縁が、前記火が出たと考えられる方向と反対側である南側からも強い火を受けた影響が見られることや、火が出たと考えられる方向と反対側の東側の柱にも強い火を受けた影響が見られることなどからすると、複数箇所からの出火の可能性も否定できない。そして、本件においては前記床の間付近は火が用いられる可能性がなく、出火状況も特異であること等の事情にかんがみると、放火の可能性が最も強いというべきである。加えて、原告甲山本人の供述によれば、同人は本件建物を施錠して青森に向かったというのであるから、本件火災は本件建物に容易に出入りすることのできる原告甲山ないしその関与者によって引き起こされたものと推認できる。
なお、前記火災調査報告書においては、原告甲山の、自分はローソクの消火状況を確認しておらず、前記御真影がビニール張りで、ローソクの炎と御真影の間隔が一〇センチメートル位であったなどとする供述を前提に、ローソクが燃焼していくと御真影との間隔が狭くなることを根拠として、原告甲山が息を吹きかけたことで仏壇のローソクの炎が消えたものと見間違い、このためローソクの炎が御真影に着火して本件火災に至ったものとしているが、同原告の前記供述自体、虚構の疑いが濃い上、証拠(乙第36号証の1、2、第37号証、証人大隈)によれば、ローソクの炎と可燃物との間隔が一〇センチメートルあった場合には、到底可燃物に着火するようなことはないこと、また、上記方法で出火したと仮定したとしても、仏壇のうちローソクの上の部分が燃えるとしても本件のように仏壇の下部までが燃えるとは考え難いことが認められるから、同報告書の結論は採用することができない。また、原告らは、仏壇の置かれている向かって左側の床の間の壁の中に床から天井へ通じていたとする配線からの漏電の可能性を主張し、前記のとおり原告甲山本人もこれに沿う供述をする。しかしながら、同箇所に配線があったとする客観的証拠はなく、証人大隈の証言によれば、漏電の場合、焼け切れた電線の先端に溶融痕が見られるはずであるのに、同所付近の焼け切れた電線にはこれがなく、また、漏電による火災の場合は当該電線の付近の柱に深い焼きが生じその上方を焼く等の特有の焼け方をするのであって、本件火災のような広範な焼け方はしないことが認められるから、原告らの主張は採用できない。
(8) 以上に認定説示した原告甲山の本件火災発生当時の経済的逼迫状況や本件建物建築の動機に不明朗な点があること、本件建物や家財についての保険契約締結の時期及びその内容、本件火災当日の同原告の不自然かつ不可解な行動並びに本件火災の出火原因等にかんがみると、原告甲山は、本件火災発生当時、本件火災を招致して保険金詐欺を敢行する強固な動機を有していたと認めるに十分である上、同原告が本件火災に直接ないし間接に関与したのではないかとの疑いを払拭することもできないのであって、本件火災の客観的な発生状況もまた放火の疑いを強く示唆するもので、かつ、少なくとも同原告が何らかの形で関与したことを窺わせるものであり、これらの事情を総合勘案すると、その具体的な方法は明らかではないけれども、本件火災は、多額の保険金を取得する目的で、原告甲山ないしその関与者が故意に招致したものと認めるのが相当である。
しかして、乙第18号証、第20、21号証及び弁論の趣旨によれば、被告あいおい損害保険と原告○○との間の保険契約についての住宅総合保険普通保険約款二条一項一号及び長期総合保険普通保険約款一〇条一項一号、同原告及び原告甲山と被告第一火災海上保険との間の保険契約についての火災相互保険普通保険約款二条一項一号には、いずれも保険契約者ないしその業務執行者の故意又は重大な過失により生じた損害については保険会社は保険金の支払を免れる旨定められていることが認められるから、被告らは、同原告らに対して別紙契約目録1ないし4記載の各保険契約に基づく保険金の支払義務を負わないというべきである。
そうすると、原告○○及び同甲山の上記保険契約に基づく保険金支払請求権は発生していないから、原告ら及び参加人の請求は、その余の争点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
なお、原告スギヤマホームは、別紙債権執行目録1記載の各債務名義に基づき、原告○○と被告あいおい損害保険との間の別紙契約目録5及び6記載の保険契約に基づく保険金支払請求権に対しても差押えをして取立権を取得し、その取立権に基づき、同被告に対して保険金の支払を求めているけれども、甲A第3号証の1、2、甲C第33号証、乙第10号証及び第47号証によれば、同保険契約の目的物はいずれも本件建物ではなく罹災を免れた茶室及び作業所であると認められるから、請求自体失当といわざるを得ない。
2 結論
以上によれば、原告ら及び参加人の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法六一条、六五条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・山﨑勉、裁判官・畠山新、裁判官・髙木勝己)
別紙
物件目録<省略>
契約目録<省略>