青森地方裁判所 平成14年(わ)184号 判決 2003年1月24日
主文
被告人を懲役10月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
犯罪事実
被告人は,有限会社A1の代表取締役で,青森県上北郡a村内に本店を有する土木建築工事等請負業者で構成する建友会の会員であったものであるが,前記建友会の会員であった,有限会社B1の代表取締役B,株式会社C1の取締役C,D1株式会社の取締役D,株式会社E1の代表取締役E,株式会社F1の取締役F,有限会社G1の代表取締役G,H1株式会社の取締役H,有限会社I1の代表取締役I,株式会社J1の代表取締役J,有限会社K1の代表取締役K,L1有限会社の代表取締役L及び株式会社M1の代表取締役Mの12名と共謀のうえ,平成12年12月1日,同県同郡b町字bc番地d所在の青森県信用組合b支店において,a村長として,同村職員を指揮監督し,同村が発注する各種公共工事に関し,指名競争入札における参加者の指名,請負契約の締結等の職務を統括管理していたNに対し,同村発注に係る工事につき,前記13社がそれぞれ指名競争入札参加業者に指名されるなど有利便宜な取計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取計らいを受けたいとの趣旨のもとに,同支店長代理Oを介して,現金2000万円を供与し,もって,前記Nの前記職務に関して賄賂を供与したものである。
(量刑の理由)
1 本件は,a村内の土木建設業者で構成する建友会の会員で,同会の会計を担当していた被告人が,他の建友会会員12名と共謀のうえ,本来業者間の自由かつ公平な競争により受注されるべき同村発注の公共工事につき,入札参加業者の指名等で有利便宜な取計らいを受け,今後も同様の有利便宜な取計らいを受けようとして,同村村長の地位にあったNに対し,その要求に応じて,2000万円の現金を贈与した事案である。
2 建友会は,N村長に協力し支援する見返りとして,同村長からa村の発注する工事の割振りと工事価格の内報を受け,会員間で談合することにより,同工事を確実かつ高額で落札するために設けられた団体であり,被告人は,同会会員として上記方式により繰り返し工事を落札して利益を得ていたところ,今後も同様の方式により工事を落札して利益を得ようとして,N村長に賄賂を供与したものであって,a村政に対する村民らの信頼を著しく失墜させた本件犯行は,厳しく非難されなければならない。
本件賄賂の金額は,2000万円と極めて多額であるうえ,建友会会員は,本件犯行後も,前記方式によりa村発注の工事を重ねて落札して不法な利益を得,a村政の公正な執行を歪曲させており,その弊害は著しいものがある。
建友会では,次期村長選挙に備え,Nを当選させるための選挙資金等に充てるため,同人が同会員に割り振った同村発注の工事額の,土木工事については1パーセントに,建築工事については0.5パーセントに,それぞれ相当する金額を,賦金と称して同会員らから徴収していたところ,被告人は,同会の会計を担当する者として,これを管理する立場にあったが,本件犯行に関連してa村議会に100条委員会が設置されることになるや,賦金の入出金状況を記載した現金出納帳を自宅焼却炉で焼却してその使途を不分明にし,賦金の行方全体の把握を困難にしており,この点もまた厳しく非難されなければならない。
以上のとおり,被告人の刑事責任は重く,厳正な処罰をもって臨む必要がある。
3 しかしながら,被告人は,a村の公共工事の発注を掌握するN村長から賄賂を要求され,やむなくこれに応じたものであること,被告人が分担した金額は41万円であり,本件共犯者の中では最も少なく,受注した工事額も他の建友会会員に比べて少ないこと,捜査段階から一貫して本件犯行を素直に認めていること,公判開始後ながら,被告人が建友会に納めた賦金の一部に当たる17万6100円をa村へ寄付し,その他の建友会業者にも賦金に当たる額を同村に返還するように働きかけるなどして反省の情を示していること,被告人の経営する会社は実質的に休業状態に追い込まれていること,昭和47年に傷害により罰金刑に処せられた前科1犯はあるものの,他に前科はないこと,狭心症を患って,相当期間入院し,その後も通院を余儀なくされていること,被告人の妻が,今後再犯に及ばないように監督して行く旨当公判廷で述べていることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。
4 そこで,これらの諸事情を総合考慮して,被告人に対し,主文掲記の刑を科したうえ,今回は,その刑の執行を猶予し,社会内で自力更生する機会を与えることとする。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役1年)
(裁判長裁判官 山内昭善 裁判官 結城剛行 裁判官 吉田静香)