青森地方裁判所 平成14年(わ)230号 判決 2003年5月23日
主文
被告人Aを懲役5年に,被告人Bを懲役6年に,それぞれ処する。
被告人両名に対し,未決勾留日数中各90日を,それぞれその刑に算入する。
犯罪事実
第1 被告人Bは,平成14年3月13日午後3時30分ころ,仙台市a区b字cd番地のeY病院2階エレベーターホールにおいて,C(当時52歳)に対し,左手拳で同人の右側頭部を1回殴打する暴行を加え,よって,同人に対し,加療約1週間を要する頭部打撲の傷害を負わせた。
第2 被告人A及びDは,平成14年7月中旬ころ,Eから,F所有土地の買収交渉を依頼され,同年9月初めから頻繁に同人方を訪れるようになったが,次第に,同人がその所有土地を売却する意思はなく,その意思が強固なことを知り,当該土地を買収することは無理だと思うようになって,Fやその息子であるGに対して,土地買収の話を持ちかけることは全くしなかった。しかし,被告人A及びDは,EからFやGに渡すようにと預かった金員を同人らに渡すことはしない一方,Eに対しては,土地買収交渉が順調に進んでいるかのように嘘の報告をしていた。このため,F所有土地の買収交渉が順調に進展していると信じていたEは,同年9月下旬ころから,契約の成立を急がせるようになり,同年10月10日ころには,Fが買収に応じないのは金額に不満があるからだとして買収金額を上げて交渉するよう指示するようになった。このため,Dは,このままでは,いずれ,Fらとの間で買収交渉を一切してこなかったことや,Eから預かった金員をFらに渡していなかったことがEに分かってしまう,そうなればどういうことになるか分からないと思うようになり,自分たちがFと契約に行く際に,強盗に襲われてけん銃で撃たれ,契約金も奪われたことにすれば,買収交渉は打ち切りになるし,これまでの経緯も隠すことができると考え,同年10月10日ころ,その旨を被告人Aに相談した。被告人Aは,Dのこの提案に賛成し,翌日11日ころ,被告人Bに対し,強盗に襲われたように見せかけたいのでけん銃を入手できないかと相談すると,被告人Bは,力を貸す旨答えた。
平成14年10月16日ころ,DはEに対し,7000万円持っていけば契約できると嘘の報告をし,それを信じたEは,金銭を調達して,同月18日,合計7000万円をDに預けた。D及び被告人Aは,それを持ってF宅まで赴いたが,Fに対して買収の話は一切せず,Eには,Fが21日に契約しに来てくれと言っている旨Dが嘘の報告をしたところ,時間を決めるように言われ,同月21日午後1時に契約するとの話になった。
いよいよ追い詰められたDは,F方からの帰り道に,被告人Aに対し,21日に計画を実行することと,被告人Bにけん銃を撃ってもらうことを提案したところ,被告人Aもこれに賛成した。そして,同月19日,被告人両名及びDは,下見をし,Dが被告人Bに対し,21日に現金7000万円を運ぶ,3人組の男に車を止められけん銃を撃たれて金を奪われたことにする,強盗犯人の役をやってけん銃を撃ってくれ,7000万円は三等分しよう,と持ちかけ,被告人両名もこれに賛成し,
1 被告人両名は,Dと共謀のうえ,いずれも法定の除外事由がないのに,同年10月21日午前11時45分ころ,青森県f郡g町大字h字ij番地kH方から東南東方向約407メートル先海岸空き地に停車中の普通乗用自動車内において,回転弾倉式けん銃1丁を同けん銃に適合する実包1発と共に携帯して所持し,
2 被告人両名は,Dと共謀のうえ,青森県公安委員会の許可を受けないで,前記第2の1記載の日時場所において,上記普通乗用自動車運転席右横のセンターパネルめがけて,上記回転弾倉式けん銃を用いて上記実包1発を発射し,もって,火薬類を爆発させ,
3 被告人両名は,Dと共謀のうえ,同人及び被告人Aが,同月18日,Eから,F所有に係る土地の買収資金として現金7000万円を預かり,上記Eのため保管中,これを横領しようと企て,前記第2の1記載の日時場所において,ほしいままに,これを自己らの用途に費消する目的で着服し,もって横領し
たものである。
量刑の理由
1 本件は,被告人両名が,Dと共謀のうえ,被告人A及びDの勤務する会社の社長から預かっていた現金を領得することを企て,乗用車内に回転弾倉式けん銃1丁とこれに適合する実包1発を持ち込み(判示第2の1の犯行),これを発射させ(判示第2の2の犯行),現金の運搬途中に強盗の被害にあったことを装って現金7000万円を横領し(判示第2の3の犯行),被告人Bが,かつて交際していた女性から託されて花を届けにきた花屋の主人に対し,その女性の住所を教えてくれるようやりとりしたものの,これに応じてもらえなかったことに憤慨し,手拳で暴行を加えて加療約1週間を要する傷害を負わせた(判示第1の犯行)事案である。
2 判示第2の1ないし3の各犯行は,被害者から信頼を受けて預かっていた多額の現金を自分たちのものにするため,強盗の被害にあったかのように装ったもので,動機に酌量の余地はない。被告人らは,犯行現場を下見する等の準備を重ねて計画的に前記犯行を敢行したものであり,強盗の被害にあったことに信憑性を持たせるため,殺傷能力の高い危険なけん銃を用意し,これに適合する実弾を発射することまでしたのであって,これにより付近住民に大きな不安を与えるなど,悪質である。本件横領金は7000万円と多額であって,捜査過程で横領金の隠匿先の一部が判明したことにより,1000万円が被害者に返還された他は,具体的な弁償の見込みもないのであって,将来において被害が回復されることを期待することはできない。
3 被告人Aは,横領された被害者の経営する会社で役員を務めるなど,被害者から信頼される立場にあり,しかも,平成12年4月に執行猶予の有罪判決を受けて,身を慎むべき立場にありながら,執行猶予期間中であるにもかかわらず,安易にDの横領の誘いに迎合し,前記犯行に加担したものであって,厳しく非難されなければならない。
そうすると,前記犯行を計画し立案したのは被告人Aではないこと,分配された横領金の分け前のうち,半分以上をDに返還し,1000万円については被害者に返還されていること,反省の情を示していること,糖尿病等の持病のため体調が芳しくないこと,早晩前刑の執行猶予が取り消されて本刑と併せて執行されるであろうことを考慮しても,被告人Aについては,主文の刑が相当である。
4 一方,被告人Bは,社会的危険性の高いけん銃を用意し,けん銃を発砲するなど,強盗の被害にあったことを装う計画において重要な役割を果たしているうえ,平成12年3月に出所してきたばかりであるにもかかわらず,前記犯行のみならず,一般市民に対し理不尽な理由による傷害事件をも起こしており,規範意識の欠如は甚だしく,再犯のおそれもなお否定できない。そのほか,けん銃の入手先を終始明らかにせず,横領金の分け前の一部を隠匿していながら曖昧な供述に終始していることなどにかんがみると,横領については,被告人Aの誘いを受けて本件犯行に加担したに過ぎないこと,一応の反省の情を示していること,傷害事件については示談が成立していることなどを考慮しても,被告人Bには主文の刑が相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 被告人Aに対し懲役6年,被告人Bに対し懲役7年)
(裁判長裁判官 髙原章 裁判官 結城剛行 裁判官 吉田静香)