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青森地方裁判所 平成15年(ワ)141号 判決 2005年5月10日

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  別紙本訴物件目録一ないし一一記載の各土地を次のとおり分割する。

(1)  同目録七記載の土地のうち、別紙図面一の一(全体図)の黄色部分の土地(別紙図面一の二「地積測量図」で求積した土地)を被告C山一郎の単独所有とする。

(2)  同目録一ないし六及び八ないし一一記載の各土地全部並びに同目録七記載の土地のうち、別紙図面一の一(全体図)の黄色部分の土地を除くその余の土地(青色部分)を本訴原告の単独所有とする。

(3)  被告C山一郎は、本訴原告に対し、同目録七記載の土地のうち、別紙図面一の一(全体図)の黄色部分を除くその余の土地(青色部分)に関する同被告の共有持分一七六分の三一につき、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。

二(1)  本訴原告は、別紙賠償額一覧表の「被告氏名」欄記載の各被告に対し、各被告の「賠償額」欄記載の金員をそれぞれ支払え。

(2)  別紙賠償額一覧表の「被告氏名」欄記載の各被告は、それぞれ、本訴原告に対し、上記金員の支払を受けるのと引き換えに、別紙本訴物件目録一ないし一一記載の各土地に関する各被告の別紙賠償額一覧表の「共有持分」欄記載の共有持分につき、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。

三  反訴原告の訴えを却下する。

四  訴訟費用のうち、本訴請求に関するものは本訴原告の負担とし、反訴請求に関するものは反訴原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求(以下、本訴反訴を通じて、本訴原告・反訴被告を「原告」と、本訴被告・反訴原告A野花子を「被告花子」と表記する。)

一  本訴請求(別紙当事者目録第二の一「亡A野太郎(以下「亡太郎」という。)相続人関係」、すなわち、被告花子、被告B山松子、被告A野一江、被告D川二江、被告A野二郎及び被告A野三郎に関しては主位的請求であり、その余の被告らに関しては本訴請求のみである。)

(1)  主文一項(1)及び(3)並びに二項(2)(ただし、被告花子に関する部分を除く)と同旨

(2)ア  ((ア)及び(ウ)並びに(イ)のうち被告花子に関する部分は、後記イと選択的請求として)

(ア) 別紙本訴物件目録八記載の土地(以下、別紙本訴物件目録記載の個別の土地は、「本訴土地八」などと表記する。)のうち、別紙図面二の一(全体図)の赤色部分(別紙図面二の二「地積測量図」で求積した土地)を被告花子の単独所有とする。

(イ) 本訴土地一ないし六及び九ないし一一全部、本訴土地七のうち、別紙図面一の一(全体図)の青色部分並びに本訴土地八のうち、別紙図面二の一(全体図)の青色部分を原告の単独所有とする。

(ウ) 被告花子は、原告に対し、本訴土地一ないし七及び九ないし一一全部並びに本訴土地八のうち、別紙図面二の一(全体図)の赤色部分を除くその余の土地(青色部分)に関する同被告の共有持分五二八分の一につき、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。

イ (上記ア(ア)及び(ウ)並びに(イ)のうち被告花子に関する部分と選択的請求として)

(ア) 被告花子は、原告に対し、六五万三三三一円の支払を受けるのと引き換えに、本訴土地一ないし一一(以下「本件各土地」という。)に関する同被告の共有持分五二八分の一につき、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。

(イ) 主文一項(2)同旨

(3)  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  本訴予備的請求(ただし、亡太郎相続人関係の被告らのみ)

(1)  被告花子、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎、被告B山松子及び被告A野一江(亡A野四郎相続人)は、本件各土地につき、青森地方法務局むつ支局平成一五年六月二三日受付第四三八一号をもってされたA野三江持分全部移転登記(別紙登記目録一。被告花子持分一五八四分の一、被告D川二江持分六三三六分の一、被告A野二郎持分六三三六分の一、被告A野三郎持分六三三六分の一、亡A野四郎持分六三三六分の一、被告B山松子持分一五八四分の一)の錯誤を原因とする抹消登記手続をせよ。

(2)  被告花子は、被告B山松子、亡A野三江相続人である被告花子、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎、被告B山松子及び被告A野一江(亡A野四郎相続人)、並びに亡A野五郎相続人である被告A野一江、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎及び被告A野一江(亡A野四郎相続人)は、被告花子に対し、本件各土地につき、青森地方法務局むつ支局平成一五年六月二三日受付第四三八〇号をもってされたA野太郎持分全部移転登記(別紙登記目録二。亡A野三江持分五二八分の一、被告花子持分七九二分の一、亡A野五郎持分七九二分の一、被告B山松子持分七九二分の一)の権利者について、錯誤を原因として、被告花子の単独所有とする更正登記手続をせよ。

(3)  (下記(4)と選択的請求として)

被告花子は、原告に対し、金一九五万九九九一円の支払いを受けるのと引き換えに、本件各土地に関する同被告の共有持分一七六分の一につき、持分移転登記手続をせよ。

(4)  (上記(3)と選択的請求として)

ア 本訴土地八のうち、別紙図面(全体図)の赤色部分(別紙図面「地積測量図」で求積した土地)を被告花子の単独所有とする。

イ 被告花子は原告に対し、本訴土地一ないし七、本訴土地八のうち別紙図面(全体図)の赤色部分を除くその余の土地(青色部分)、本訴土地九ないし一一につき、共有物分割を原因として、同被告の共有持分一七六分の一の持分移転登記手続をせよ。

三  被告花子の反訴請求

(1)  原告は、被告花子に対し、別紙反訴物件目録一記載の土地(以下「反訴土地一」という。)を明け渡せ。

(2)  原告は、被告花子に対し、別紙反訴物件目録二記載の土地(以下「反訴土地二」という。)について、別紙反訴登記目録二記載の登記(以下「反訴登記二」という。)の抹消登記手続をせよ。

(3)  原告は、被告花子に対し、反訴土地二を明け渡せ。

(4)  反訴費用は原告の負担とする。

第二事案の概要等

本訴請求は、本件各土地の共有者である原告が、他の共有者である被告らに対し、共有物分割及びこれを原因とする持分移転登記手続を求めた事案である。

反訴請求は、被告花子が、原告に対し、反訴土地一の土地については共有持分権に基づく妨害排除(管理行為)としてその明渡しを、反訴土地二については所有権に基づく妨害排除としての明渡し及び反訴登記二の抹消登記手続(A野一江の債権者代位)を求めた事案である。

一  前提事実

(1)  原告(原告と被告花子及び被告B野冬夫(以下「被告B野」という。)との間では争いがなく、その余の被告らは争うことを明らかにしないので、下記のとおり認められる。)

ア 原告は、電源の開発をすみやかに行い、電気の供給を増加することを目的として、昭和二七年に電源開発促進法に基づき設立された会社である。

イ 原告には、本訴土地一ないし六及び八ないし一一については一七六分の一七二の、本訴土地七については一七六分の一四一の共有持分がある。

ウ 原告は、青森県下北郡大間町大字大間地区及び奥戸地区において、本件各土地を含む合計約一三二万平方メートルの敷地に、出力一三八万三千キロワットの大間原子力発電所を建設し、その発生電力を北海道電力株式会社から九州電力株式会社までの全国九電力会社へ卸供給することを計画している。大間原子力発電所は、わが国におけるプルトニウム利用(プルサーマル)計画の柔軟性を広げるという国のエネルギー政策の一環として計画された、全炉心でウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)利用を目指す改良型沸騰水軽水炉(フルMOX―ABWR)である。

(2)  被告ら

ア 亡太郎相続人関係(別紙当事者目録第二の一「亡A野太郎相続人関係」(1)ないし(6)の各被告)

(ア) 亡太郎には、本件各土地について、一七六分の一の共有持分があった(被告花子は認め、その余の被告らは争うことを明らかにしないので、上記のとおり認められる。)。

(イ) 亡太郎の法定相続人は妻亡A野三江(法定相続分三分の一)並びに被告花子、亡A野五郎及び被告B山松子(同各九分の二)である。亡A野五郎の法定相続人は、被告A野一江(法定相続分三分の一)並びに被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎及び亡A野四郎(同各六分の一)である。亡A野三江の法定相続人は、被告花子及び被告B山松子(法定相続分各三分の一)並びに被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎及び亡A野四郎(同各一二分の一)である。亡A野四郎の法定相続人は被告A野一江である。よって、亡太郎の本件各土地の共有持分一七六分の一を、上記各法定相続分に従って相続した場合の共有持分は、別紙賠償額一覧表の被告花子、被告B山松子、被告A野一江、被告D川二江、被告A野二郎及び被告A野三郎の各「共有持分」欄記載のとおりである(原告と被告花子及び被告B山松子との間では弁論の全趣旨により認められ、その余の被告らは争うことを明らかにしないので、上記のとおり認められる。)。

イ 亡E原六郎相続人関係(別紙当事者目録第二の二「亡E原六郎相続人関係」(1)ないし(8)の各被告)

亡E原六郎には、本件各土地について、一七六分の一の共有持分があった。上記各被告には、別紙賠償額一覧表二の(1)ないし(8)のとおり、相続により、各人の「共有持分」欄記載の割合による本件各土地の共有持分がある(被告らは争うことを明らかにしないので上記のとおり認められる。)。

ウ 亡D原梅夫相続人関係(別紙当事者目録第二の三「亡D原梅夫相続人関係」(1)ないし(16)の各被告)

亡D原梅夫には、本件各土地について、一七六分の一の共有持分があった。上記各被告には、別紙賠償額一覧表三の(1)ないし(16)のとおり、相続により、各人の「共有持分」欄記載の割合で本件各土地の共有持分がある(被告らは争うことを明らかにしないので上記のとおり認められる。)。

エ 亡E田夏夫相続人関係(別紙当事者目録第二の四「亡E田夏夫相続人関係」(1)ないし(26)の各被告)

亡E田夏夫には、本件各土地について、一七六分の一の共有持分があった。上記各被告には、別紙賠償額一覧表四の(1)ないし(26)のとおり、相続により、各人の「共有持分」欄記載の割合で本件各土地の共有持分がある(被告らは争うことを明らかにしないので上記のとおり認められる。)。

なお、被告A川七郎は、平成一六年七月一六日に死亡し、被告A川七郎相続財産(同年一〇月六日にB原八郎が相続財産管理人に選任された。)が訴訟を承継した。

オ その他(別紙当事者目録第二の五「その他」(1)及び(2)の各被告)

被告C山一郎(以下「被告C山」という。)には、本訴土地七につき一七六分の三一の共有持分があり、被告B野には、本件各土地につき八八〇〇分の七の共有持分がある(被告らは争うことを明らかにしないので、上記のとおり認められる。)。

(3)  本件各土地につき、被告花子及び被告B山松子名義の登記の存在

本件各土地には、①亡太郎から、相続により、被告花子及び被告B山松子に持分各七九二分の一が、②亡A野三江から、相続により、被告花子及び被告B山松子に持分各一五八四分の一が、それぞれ移転した旨の登記が経由されている(共有持分合計各五二八分の一)。

(4)  被告花子の所有地の存在

被告花子は、奥戸地区内に、二筆の土地(大間町大字奥戸字小奥戸《番地省略》、同《番地省略》)を所有している(以下「被告花子個人所有地」という。原告と被告花子との間で争いがない。)

二  本訴請求についての当事者の主張

(1)  原告の主張

ア 共有物分割の方法(原告と被告花子を除く被告らとの関係)

(ア) 本訴土地七のうち、別紙図面一の一の黄色部分は被告C山の単独所有とし、青色部分を原告の単独所有とする。また、本訴土地一ないし六及び九ないし一一は原告の単独所有とする。

(イ)a 被告花子について、現物分割の場合には、本訴土地八のうち、別紙図面二の一の青色部分は原告単独所有とする。

b 被告花子については、全面的価格賠償の方法による共有物分割が行われる場合には、本訴土地八は原告単独所有とする。

(ウ) 原告は、被告C山に対し、本訴土地七のうち、別紙図面一の一の青色部分に関する同被告の共有持分一七六分の三一につき、共有物分割を原因とする移転登記手続を求める。

(エ) 原告と被告C山を除く被告らとの間では、原告が各被告の共有持分を取得し、各被告に別紙賠償額一覧表の「賠償額」欄記載の各金員を支払う方法による分割(全面的価格賠償)を求める。

すなわち、本件各土地は農道、放牧採草地及び防風林であり、個人所有地のない者にとっては利用価値のない土地であること、原告には、本訴土地七については一七六分の一四一の、それ以外の本件各土地については一七六分の一七二の共有持分があること、本件各土地は原告の管理下にあり、大間原子力発電所建設計画があることなどから原告が各共有持分を取得するのが相当である。また、別紙賠償額一覧表の「賠償額」は、本件各土地の適正な鑑定価格を得た上で算定されており、かつ、原告には十分な支払能力がある。

そして、原告は、被告C山を除く被告らに対し、それぞれ、原告単独所有となる本件各土地に関し、別紙賠償額一覧表記載の各被告の「共有持分」欄記載の共有持分について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続(賠償額支払と引換給付)を求める。

イ 共有物分割の方法(原告と被告花子との関係)

(ア) 共有物分割の基礎となる共有持分について

被告花子の本件各土地の共有持分は五二八分の一である。被告花子の共有持分が一七六分の一としても、その旨登記を経由していないから、原告に対抗することはできない(民法一七七条)。したがって、共有物分割の基礎となる共有持分は、被告花子及び被告B山松子とも、各五二八分の一である。

(イ)a (後記bと選択的請求)

本訴土地八のうち、別紙図面二の一の赤色部分は被告花子の単独所有とし、青色部分は原告の単独所有とする。本訴土地一ないし七及び九ないし一一の分割方法は上記ア(ア)ないし(エ)のとおりである。

そして、原告は、被告花子に対し、本訴土地一ないし七及び九ないし一一全部並びに本訴土地八のうち、別紙図面二の一の青色部分に関する同被告の共有持分五二八分の一について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続を求める。

b (前記aと選択的請求)

原告と被告花子との間では、本件各土地につき、原告が被告花子の共有持分五二八分の一を取得し、賠償額として六五万三三三一円を支払う方法による分割(全面的価格賠償)を求める。その理由は上記ア(エ)と同じである。その場合、本訴土地一ないし六及び八ないし一一は原告の単独所有となり、本訴土地七は上記ア(ア)のとおり、原告及び被告C山の各単独所有となる。

そして、原告は、被告花子に対し、原告単独所有となる本件各土地に関し、被告花子の共有持分五二八分の一について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続(賠償額支払と引換給付)を求める。

ウ 権利濫用の主張に対する反論(後記(2)アの主張に対し)

(ア) 本件各土地が分割を予定していないとはいえない。また、原告は、既に、被告花子の個人所有地から付替国道(海岸側にある現行の国道三三八号線が大間原子力発電所の建設及び運転のため供用廃止になった場合に、内陸側に付け替えられて供用される予定の国道)に通じる通路を開設しており、被告花子にこれを使用させることを約している。

(イ) 共有物分割請求権は、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに共有者に与えられた基本的な権利であり、共有者の固有の権利として十分尊重に値する財産上の権利である。分割後の土地の利用目的により、共有物分割請求権の行使が、権利濫用となることはありえない。

(ウ) 被告らは、本訴第一回口頭弁論期日(平成一五年九月二四日)で、「持分の割合はともかくとして、分割の方法について原告提案の基本的な考え方については争わない。」と陳述し、その後も被告花子の意思を確認しながら、分割土地の場所及び分割地の面積等の協議を進めてきたが、その間、本訴が権利濫用であるとの主張はなかった。権利濫用の主張は、こうした経緯を無視し、時機に遅れるものであるから、許されない。

(2)  被告花子及び被告B野の主張

ア 権利濫用

(ア) 本件各土地は、各共有者が有する土地の利用を十全ならしめるための通路として永久に確保するために共有形態とされたものであり、そもそも分割することを予定していない。

また、被告花子の個人所有地を袋地とする原告の分割方法は社会的に不相当であって許されない。原告は通路を開設して被告花子に利用させるというが、そのような制限的かつ恩恵的な通路はいつ廃止されるかもしれないのであって、共有物分割を正当化するものではない。

(イ) 大間原子力発電所は極めて危険であり、このような危険な施設を被告花子らの所有地や住居の近くに建設することは、被告花子らの生命、身体の安全を害し、青森県全体、日本国全体の安全をも害する違法な行為であるから、これを建設するためにする本訴請求は権利濫用である。

すなわち、全炉心でMOX燃料を装荷するABWRの運転は世界でも例がないものであり、その安全性の技術は確立されていない。しかも、フルMOX燃料で運転するので、事故の確率が相対的に高く、大量に生み出される使用済み核燃料の悪性が極めて強い。原告が依拠する原子力発電所の安全対策と安全評価は、いまだ確固たる基準が確立されておらず、その安全性の前提も多々問題が存しているのが現状であり、大間原子力発電所が重大事故を起こす可能性は高い。そして、重大事故が発生した場合、風向きによっては青森市、函館市及び札幌市が全滅し、あるいは、東北地域、東京圏全体が壊滅するおそれがある。東京圏が被害を受けた場合には国家機能が停止する。このような、極めて危険な施設を建設するためにする本訴請求は権利濫用である。

(ウ) 大間町はマグロその他海産物の産地として有名であり、大間原子力発電所による風評被害は計り知れない。

イ 共有物分割の方法

(ア) 共有物分割は現物分割が原則であり、それが不能か又は分割によって著しく価格を損するおそれがあるときは共有物の競売を命じてその売得金を共有持分割合に応じて分割すべきであり、価格賠償による分割は許されない。

(イ) 被告B野は、共有物分割をするとすれば現物分割を希望する。その場合の土地の位置及び範囲は、被告花子の個人所有地の利用に役立つところを希望する。

(3)  被告花子及び被告B山松子の主張―共有物分割の基礎となる共有持分の割合

ア 被告花子

被告花子は、法定相続人全員の合意により、亡太郎所有の不動産の全部を単独で相続した。したがって、被告花子の本件各土地の共有持分は一七六分の一である。

また、原告は、民法一七七条にいう第三者ではない。

イ 被告B山松子

亡太郎の資産についてはすべて被告花子が単独相続したので被告B山松子には権利はない。

(4)  被告A野一江、同D川二江、同A野二郎、同A野三郎、同E原九郎、同E原十郎、同E原一夫、同E原二夫、同D原春子、同C田五江、同D野六江、同D原三夫、同D原四夫、同D原四江、同D原五夫、同E山七江、同A山六夫、同D原七夫、同D原八夫、同B川八江、同C原九江、同A田秋子、同D田九夫、同D田十夫、同E野十江、同A原一雄、同A原一美、同亡A川七郎訴訟承継人A川七郎相続財産、同B田二美、同C野三美、同D山四美、同E田二雄、同E田五美、同E田三雄、同E田四雄、同E川六美、同A本七美、同B沢八美、同E川五雄、同C林九美、同E田十美及び同D谷一子(以上「被告A野一江外四一名」という。)並びに同C山の主張

訴訟費用はすべて原告の負担とすること、登記手続は原告がなすことを条件に原告の請求を認める。

三  本訴予備的請求(亡太郎相続人関係のみ)に関する当事者の主張

(1)  原告の主張

被告花子の本件各土地の共有持分が一七六分の一であり、これを原告に対抗しうるものと認定された場合には、予備的に、次のとおり請求する。なお、この場合、被告B山松子、被告A野一江、被告D川二江、被告A野二郎及び被告A野三郎に対する共有物分割請求は却下されるべきである。

ア 共有物分割の方法

(ア) (後記(イ)と選択的請求)

本訴土地八のうち、別紙図面(全体図)の赤色部分は被告花子の単独所有とし、青色部分は原告の単独所有とする。なお、本訴土地一ないし七及び九ないし一一の分割方法は上記二(1)ア(ア)、(ウ)及び(エ)のとおりである。

そして、原告は、被告花子に対し、本訴土地一ないし七及び九ないし一一全部並びに本訴土地八のうち、別紙図面の青色部分に関する同被告の共有持分一七六分の一について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続を求める。

(イ) (前記(ア)と選択的請求)

原告と被告花子との間では、本件各土地につき、原告が被告花子の共有持分一七六分の一を取得し、原告が被告花子に一九五万九九九一円を支払う方法による分割(全面的価格賠償)を求める。その理由は上記二(1)ア(エ)と同じである。その場合、本訴土地一ないし六及び八ないし一一は原告の単独所有となり、本訴土地七は上記二(1)ア(ア)のとおり、原告及び被告C山の各単独所有となる。

そして、原告は、被告花子に対し、原告単独所有となる本件各土地に関し、被告花子の共有持分一七六分の一について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続(賠償額支払と引換給付)を求める。

イ 抹消登記手続請求

(ア) 被告花子には、本件各土地につき、一七六分の一の共有持分がある。

(イ) 本件各土地について、亡太郎持分の一部を亡A野三江が相続したことを前提とする、別紙登記目録一記載のA野三江持分全部移転登記(以下、「本件一登記」という。)がある。

(ウ) よって、被告花子は、本件一登記の抹消登記手続請求権を有する。

(エ) 抹消登記手続請求の登記義務者は、登記名義人が被告花子、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎、亡A野四郎及び被告B山松子であるところ、亡A野四郎の相続人は被告A野一江であるから、結局、被告花子、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎、被告B山松子及び被告A野一江となる。

(オ) そして、本訴予備的請求が認容される場合、原告は被告花子に対して、金一九五万九九九一円の支払と引き換えに、本件各土地に関する被告花子の共有持分一七六分の一につき、持分移転登記手続請求権を有するか(全面的価格賠償の場合)、又は、原告は被告花子に対して、本訴土地一ないし七及び九ないし一一並びに本訴土地八のうち別紙図面(全体図)の青色部分について、共有物分割を原因として、同被告の共有持分一七六分の一の持分移転登記手続請求権を有する(現物分割の場合)ので、被保全債権が存在する。

(カ) よって、原告は、被告花子、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎、被告B山松子及び亡A野四郎相続人である被告A野一江に対し、被告花子に代位して、同人の共有持分権に基づき、本件各土地につき、錯誤を原因とする本件一登記の抹消登記手続を求める。

ウ 更正登記手続請求

(ア) 上記イ(ア)に同じ。

(イ) 本件各土地について、別紙登記目録二記載の亡太郎持分全部移転登記(以下、「本件二登記」という。)がある。

(ウ) よって、被告花子は、本件二登記を、錯誤を原因として、被告花子の持分割合を一七六分の一とする更正登記手続請求権を有する。

(エ) 更正登記手続請求権の登記義務者は、登記名義人が①被告花子及び被告B山松子、②亡A野三江、③亡A野五郎であるところ、亡A野三江の相続人が被告花子、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎、亡A野四郎及び被告B山松子であり、亡A野五郎の相続人が被告A野一江、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎及び亡A野四郎であり、亡A野四郎の相続人が被告A野一江であるから、結局、登記義務者は①'被告花子及び被告B山松子、②'亡A野三江相続人である被告花子、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎、被告B山松子及び亡A野四郎の相続人である被告A野一江、③'亡A野五郎相続人である被告A野一江、被告D川二江、被告A野二郎、被告A野三郎及び亡A野四郎相続人である被告A野一江となる。

(オ) 上記イ(オ)に同じ。

(カ) よって、原告は、上記(ウ)①'ないし③'の者に対し、被告花子に代位して、同人の共有持分権に基づき、本件各土地につき、本件二登記の権利者について、錯誤を原因として、被告花子の単独所有とする更正登記手続を求める。

(2)  被告花子の主張

ア 共有物分割の方法

否認もしくは争う。

イ 抹消登記手続請求及び更正登記手続請求

原告の主張のうち、イ及びウの(ア)ないし(エ)の各事実は認めるが、(オ)は否認する。原告の被告花子に対する持分移転登記手続請求権は本件訴訟の判決が確定することで初めて形成されるものであり、これを被保全権利とすることは許されない。よって、原告の各請求はいずれも却下又は棄却されるべきである。

四  反訴請求に関する当事者の主張

(1)  被告花子の主張

ア 反訴土地一について

(ア) 被告花子には、反訴土地一につき、一七六分の一の共有持分がある。

(イ) 原告は、反訴土地一を道路状に改変した上で不法占有している。

(ウ) よって、被告花子は、原告に対し、共有持分権に基づく管理行為として、反訴土地一の明渡しを求める。

(エ) 原告が開設した被告花子の個人所有地から公路につながる通路は、反訴土地一をほしいままに冒用して作られたものであり、本訴請求と反訴請求は重要な関連性がある。

イ 反訴土地二及び反訴登記二について

(ア) 被告花子は、反訴土地二の所有者である。

(イ) 反訴土地二には、別紙反訴登記目録一記載の登記(以下「反訴登記一」という。)及び反訴登記二記載の各登記がある。

(ウ) 反訴登記一の登記原因は不存在である。したがって、原告は無権利者であるA野一江から反訴土地二を譲り受けたことになり、物権変動は生じていない。

(エ) よって、被告花子は、原告に対し、所有権に基づき、反訴土地二の明渡しを求めるとともに、A野一江を代位して、反訴登記二の抹消登記手続を求める。

(オ) 反訴土地二の所有権が被告花子にあるならば、本件各土地の共有持分割合が異なってくるから、反訴請求は本訴請求と重要な関連性がある。

(2)  原告の主張

ア 反訴土地一について

(ア) (1)ア(ア)は否認する。原告の単独所有地である。

(イ) (1)ア(イ)のうち、原告が道路状に改変した上で占有していることは認めるが、不法占有であるとする点は否認する。

(ウ) (1)ア(ウ)は争う。

(エ) (1)ア(エ)について、反訴土地一は本訴請求の対象となっている本件各土地を構成するものではなく、被告花子の個人所有地につながる通路(以下「本件通路」という。)の敷地とされている土地に過ぎないこと、本件通路の敷地が何人の所有に係るものかは本訴請求の帰趨に全く影響しないことからすれば、本訴請求との関連性を欠く。よって、反訴土地一に関する請求は却下されるべきである。

イ 反訴土地二並びに反訴登記一及び反訴登記二について

(ア) (1)イ(ア)は否認する。原告の単独所有地である。

(イ) (1)イ(イ)は認める。

(ウ) (1)イ(ウ)は否認する。

(エ) (1)イ(エ)は争う。

(オ) (1)イ(オ)について、反訴土地二が原告の単独所有であった場合と、被告花子の単独所有であった場合とで、本件各土地の共有持分が異なることはなく、本訴請求との関連性を欠く。よって、反訴土地二に関する請求は却下されるべきである。

五  争点

(1)  本訴請求は権利濫用か

(2)  共有物分割の基礎となる共有持分

(3)  共有物分割の方法

(4)  反訴請求の適法性

第三争点に対する判断

一  本訴請求は権利濫用か

(1)ア  民法二五六条の立法の趣旨・目的は、次のとおりである。

すなわち、共有の場合にあっては、持分権が共有の性質上互いに制約し合う関係に立つため、単独所有の場合に比し、物の利用又は改善等において十分配慮されない状態におかれることがあり、また、共有者間に共有物の管理、変更等をめぐって、意見の対立、紛争が生じやすく、いったんかかる意見の対立、紛争が生じたときは、共有物の管理、変更等に障害を来し、物の経済的価値が十分に実現されなくなるという事態となるので、民法二五六条は、かかる弊害を除去し、共有者に目的物を自由に支配させ、その経済的効用を十分に発揮させるため、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができるものとし、しかも共有者の締結する共有物の不分割契約について期間の制限を設け、不分割契約はその制限を超えては効力を有しないとして、共有者に共有物の分割請求権を保障している。このように、共有物分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、上記のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるに至ったものである(最高裁昭和六二年四月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁)。

以上に説示した共有物分割請求権の法的性質、公益的目的に照らすと、当該共有物がその性質上分割することのできないものでない限り、共有物分割請求権を共有者に否定することは許されないと解するのが相当である。

イ 被告花子及び被告B野は、権利濫用の評価根拠事実として、大間原子力発電所の危険性や風評被害を主張しているが、共有物分割後の土地利用目的いかんによって、共有物分割請求権の行使が否定されるものではなく、その主張は失当である(したがって証拠調べの必要性がない。)。

(2)ア  また、被告花子及び被告B野は、本件各土地は分割を予定されていないと主張する。

しかし、分割の対象が土地であるということ自体から、性質上分割することができないとはいえず、また、全証拠を検討しても分割を制限する当事者間の合意の存在は窺われない。

かえって、《証拠省略》によれば、本件各土地について、次の事実が認められる。すなわち、①国は、昭和二六年二月、自作農創設特別措置法に基づき、大間町奥戸地区の農地を住民一七六名に売り渡したが、その際、住民の便宜のため、本件各土地を各人持分均等の共有地として、農道として必要な部分は農道として、それ以外の部分は共同放牧採草地や防風林として売り渡したこと、②小奥戸開拓組合(組合員は上記住民)規約六条によれば、地区内の個人所有地の権利移転時には、本件各土地の持分も付随して移転するものとされたこと、③原告は、上記①の個人所有地及びこれに付随する本件各土地の共有持分を買い受けた結果、被告花子以外の個人所有地と本件各土地の共有持分の大部分(本訴土地七は一七六分の一四一、それ以外の本件各土地は一七六分の一七二)を取得し、その旨登記を了したこと、④被告花子は、本訴土地八記載の土地の一部分を現在の国道から同人の個人所有地への通路として使用していたに過ぎず、同土地のその余の部分は、原告が管理上通行する部分を除いて原野化しており、農地として利用したり、通行したりすることができない状態にあること、また、被告花子は、上記土地以外の本件各土地は使用していないこと、⑤原告及び被告花子以外に本件各土地を利用する者はいないことなどの事実が認められる。以上の各事実は、本件各土地の分割を法的に制限する事情がないことを基礎付けるものといえる。

イ さらに、被告花子及び被告B野は、原告主張の分割方法が、被告花子の個人所有地を袋地にするものであり、許されないと主張する。

しかし、分割方法の主張は当事者の意見ないし希望であって裁判所を拘束するものではないから(最高裁昭和五七年三月九日第三小法廷判決・裁判集民一三五号三一三頁)、主張内容の相当性が共有物分割請求を許さないとする基礎事情となるものではない。このことに加え、原告は、被告花子の個人所有地から付替国道に通じる通路を開設し、同人に使用させることを約していることが認められる。

したがって、被告花子及び被告B野の上記主張は失当である。

(3)  以上(1)及び(2)によれば、原告の本訴請求が権利濫用であるとはいえない。

二  共有物分割の基礎となる共有持分

不動産の共有者の一員が自己の持分を譲渡した場合における譲受人以外の他の共有者は民法一七七条にいう第三者に該当するから、上記譲渡につき登記が存しないときには、譲受人は、上記持分の取得をもって他の共有者に対抗することができない。そして、共有物分割の訴えは、共有者間の権利関係をその全員について画一的に創設する訴えであるから、持分譲渡があっても、これをもって他の共有者に対抗できないときには、共有者全員に対する関係において、上記持分がなお譲渡人に帰属するものとして共有物分割をなすべきものである(最高裁昭和四六年六月一八日第二小法廷判決・民集二五巻四号五五〇頁)。

そして、譲受人以外の共有者を民法一七七条の第三者とした趣旨は、共有者が共有物全体の処置を決する場合に、持分の譲渡の当事者以外の共有者は、他の共有者の特定、持分の多寡を決められなくては、その処置に窮することになるから、他の共有者が誰であるか、持分がどれだけかの点に関する確実な証明のために、登記を基準として画一的な取扱いをしようとした点にあり、この趣旨は、相続によって持分を取得した共有者が、他の共有者に対して共有持分の取得を主張する場合、特に、法定相続分と異なる割合で持分を取得したと主張する場合にも妥当するものである。したがって、相続の当事者以外の共有者が、持分の相続の有無及び範囲を争う限り、共有者全員につき、登記を基準として画一的に共有者の特定や持分の多寡を決するものと解するのが相当である。

本件では、原告は、亡太郎相続人関係の被告らに対し、本件各土地の登記に基づいて共有者及び共有持分を特定して本訴に及び、被告花子が亡太郎の共有持分全部を相続した旨の主張に対しては原告が民法一七七条の第三者であると主張して、原告が、被告花子及び被告B山松子の相続による持分の取得に関する主張を争っている。そうすると、亡太郎の相続人間の実体的権利関係がいかなるものであったとしても、被告花子及び被告B山松子について、共有物分割の基礎となる共有持分は、登記された共有持分、すなわち、各五二八分の一として取り扱うべきである。

三  共有物分割の方法

(1)  原告と被告C山との関係

原告は、本訴土地七のうち、別紙図面一の一の黄色部分の土地を被告C山の単独所有とする分割案を示し、同人もこれを了承する旨の書面を提出していることから、上記土地を被告C山の単独所有とする。

また、原告の被告C山に対する、本訴土地七の青色部分に関する同人の共有持分一七六分の三一につき、共有物分割を原因とする持分移転登記手続の請求は認められる。

(2)  原告と被告花子及び被告C山を除く被告らとの関係

ア 民法二五八条二項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、競売による分割をすることができる旨を規定している。ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。したがって、上記の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである(最高裁平成八年一〇月三一日第一小法廷判決・民集五〇巻九号二五六三頁)。したがって、一般的に全面的価格賠償による分割は許されないとする被告花子及び被告B野の主張は失当である。

イ そこで、全面的価格賠償が許される特段の事情があるか検討する。

(ア) 前提事実のほか、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

a 本件各土地は、自作農創設特別措置法により奥戸地区に個人所有地を持った一七六名の便宜のため、農道、放牧採草地及び防風林を共有地としたものである。平成二年以降、原告が個人所有地及び本件各土地の共有持分を買収した結果、現在は、個人所有地があるのは被告花子と原告のみである。また、原告は本訴土地七は一七六分の一四一、それ以外の本件各土地は一七六分の一七二という、大部分の共有持分を取得している。

b 被告C山及び被告花子を除く各被告は、別紙賠償額一覧表の各被告の「共有持分」欄のとおり、本件各土地にわずかの共有持分を有するに過ぎない。

c 本件各土地は、原告による買収後は、原告が大間原子力発電所建設用地として管理し、あるいは、被告花子が国道に至る通路として利用しているほかは利用されていない。したがって、被告C山及び被告花子以外の各被告が現物分割を受けたとしても利用価値が乏しい。

d 被告A野一江外四一名は、全面的価格賠償による分割を了承する旨の書面を提出しており、その意向は、上記aないしcに照らして合理的なものといえる。

e 原告が本件各土地の共有持分の買収の基礎とした単価は、不動産鑑定士による鑑定及び小奥戸開発組合との協議を踏まえて、一平方メートルあたり、現況が雑種地である本訴土地三及び四は六〇〇〇円、現況が防風林と通路である本訴土地一、二、八及び一一は二〇〇〇円、現況が崖地である本訴土地五ないし七、九及び一〇は六〇〇円と定めた(以上を「買取価格」という。)。原告は、本訴で、この単価を基礎とする全面的価格賠償を求めている。

平成一六年七月一日を価格時点とする鑑定評価によると、一平方メートルあたり、本訴土地三及び四は四五〇〇円、本訴土地一及び二は一五〇〇円、本訴土地八及び一一は一三五〇円、本訴土地五及び六は六〇〇円、本訴土地七は七〇〇円、本訴土地九は五五〇円、本訴土地一〇は六一〇円と評価されている。この鑑定評価は、工事着工前でかつ公法上の土地利用規制が存しないことを前提とし、取引事例比較法、収益還元法等の評価方式を適用して実施されたものであり、その評価は相当と認められる。そして、この鑑定評価額と前記買取価格とを比較すると、本訴土地七及び一〇以外は、いずれも前記買取価格の方が高額であり、また、本件各土地の評価総額(登記簿面積に各単価を掛けて合算した価格)は、買取価格の方が高額である。したがって、本訴で基礎とする買取価格は、相当と認められる鑑定評価額を上回っており、共有者に有利である。

そして、本件各土地は、いずれも国土調査法による地籍測量(実測による測量)が実施されており、登記簿記載の面積は正確なものと認められる(仮に実測値と異なっていたとしても、同法及び同法施行令の定める公差の範囲である。)。そうすると、全面的価格賠償の前提として、本件各土地の面積を改めて実測する必要性はない。

別紙賠償額一覧表の各被告の「賠償額」記載の金額は、本件各土地の上記買取価格に登記簿面積を掛けた額を合算し、これに各人の共有持分を掛ける方法により算出したものであり、その価格は相当と認められる。

f 原告は、平成二年以降、本件各土地の共有持分を権利者から買い受けてきたことが認められ、原告の会社規模を考慮すると、原告には、別紙賠償額一覧表記載の各賠償額の支払能力があると認められる。

(イ) 以上に説示した共有関係の発生原因、現在の原告並びに被告C山及び被告花子を除く各被告の共有持分、共有物の利用状況及び現物分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性((ア)aないしd)に照らすと、本件各土地(被告C山に現物分割する土地部分を除く。)を原告に単独取得させるのが相当である。そして、別紙賠償額一覧表の賠償額は、適正な評価に基づき算出されたものと認められ((ア)e)、かつ、原告には賠償金の支払能力があると認められること、((ア)f)から、全面的価格賠償によった場合でも、当事者間の公平を害することはない。そうすると、本件では、全面的価格賠償が許される特段の事情があると認められる。

(ウ) なお、被告B野は、被告花子の個人所有地の利用に役立つ場所を現物分割するよう希望しているが、被告B野の共有持分が八八〇〇分の七とわずかであること、被告B野自身の個人所有地と接しておらず、同人にとっての利用価値が乏しいこと、その他前記説示した事情を総合すると、被告B野についても、全面的価格賠償によることが相当である。

(エ) よって、被告C山及び被告花子を除く別紙賠償額一覧表記載の各被告は、全面的価格賠償として、各人の「賠償額」欄記載の各金員の支払を受けることができる。そして、原告は、本件各土地について、上記各被告の共有持分(別紙賠償額一覧表の各被告の「共有持分」欄記載のとおり)を取得し、単独所有とする(ただし、被告C山の単独所有とする部分は除く。)。

また、原告の上記各被告に対する、本件各土地の共有持分につき、共有物分割を原因とする持分移転登記の請求は認められる(賠償金支払と引換給付)。

(3)  原告と被告花子との関係

ア 前記(2)アに説示した共有物分割訴訟の性質や、裁判所は分割方法に関する当事者の主張に必ずしも拘束されるものではないことに照らすと、裁判所は、裁量により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った分割方法を定めることができるのであり、現物分割が不可能であることは全面的価格賠償の方法による分割をする上での要件とされていないと解するのが相当である。

イ 本件では、原告と被告花子との関係でも、上記(2)イ(ア)a、d、e及びfの各事実が認められる。これに加えて、被告花子は、本件共有物分割訴訟において、五二八分の一の共有持分を有しているものとして取り扱われるに過ぎず、その持分割合はわずかである。被告花子には個人所有地があり、同所から公道(現在の国道又は付替国道)に通じる通路が必要となるが、付替国道に通じる本件通路は原告が既に開設しており、これを被告花子に使用させることを約している。仮に、本訴土地八の一部分を現物分割して個人所有地から公道に至る通路にあてたとしても、その通路全ての所有権を取得できるほどの共有持分を有しておらず、利用価値は限定的なものにとどまる。

以上に説示した事情に照らすと、被告花子との関係でも、全面的価格賠償の方法、すなわち、原告が本件各土地についての被告花子の共有持分を取得して本件各土地(被告C山に現物分割する土地部分を除く)を原告の単独所有とし、被告花子は賠償金を受領するのが相当である。

よって、被告花子は、原告から、賠償金六五万三三三一円の支払を受けることができる。そして、原告の、本件各土地の被告花子の共有持分五二八分の一につき、共有物分割を原因とする持分移転登記の請求は認められる(賠償金支払と引換給付)。

四  反訴請求の適法性

(1)  被告は、本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする限り、反訴を提起することができるが、本訴との関連性がなく、併合要件を欠く場合には、終局判決をもってこれを却下すべきである(最高裁昭和四一年一一月一〇日第一小法廷判決・民集二〇巻第九号一七三三頁)。そして、反訴請求が本訴請求と関連するとは、権利関係の内容又はその発生原因の点で、法律上又は事実上共通性があることをいうと解される。

(2)  反訴土地一に関する請求

反訴土地一は、本件通路の敷地となっている土地の一部であるが、本件各土地とは全く別個の土地である。したがって、反訴土地一の共有持分権に基づく明渡請求は、権利内容の点でも、発生原因の点でも、本訴請求とは法律上も事実上も共通性があるとはいえない。

よって、反訴土地一に関する請求は、併合要件を欠き、不適法である。

(3)  反訴土地二並びに反訴登記二に関する請求

反訴土地二は、被告花子の個人所有地(小奥戸《番地省略》)に隣接する土地であるが、本件各土地とは全く別個の土地である。したがって、反訴土地二の所有権に基づく明渡請求及び抹消登記手続請求は、権利内容の点でも、発生原因の点でも、本訴請求とは法律上も事実上も共通性があるとはいえない。

よって、反訴土地二及び反訴登記二に関する請求は、併合要件を欠き、不適法である。

五  よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河野泰義 裁判官 佐々木健二 石井芳明)

<以下省略>

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