青森地方裁判所 平成17年(行ウ)6号 判決 2006年10月06日
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告は,Aに対し,1億0295万7107円を支払えとの請求をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2事案の概要
本件は,青森県B市の住民である原告らが,B市がC山D地区自然体験型拠点施設整備事業(以下「本件整備事業」という。)の用地取得のためにBリゾート開発株式会社(以下「Bリゾート開発」という。)との間で締結した不動産買受契約に基づき残代金1億0295万7107円(以下「本件残代金」という。)を支出したのは違法・不当な支出である旨主張して,B市長である被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき,B市の前市長に対して上記残代金相当額を損害賠償請求することを求めたところ,被告が,前市長が行った本件残代金の支出はその裁量権を逸脱・濫用したものではないと主張して争っているという事案である。
その中心的争点は,本件残代金の支出に関する市長の裁量権の逸脱・濫用の有無である。
1 前提事実
以下の事実は,括弧内に記載した証拠により認めることができるか,又は当事者間に争いがない。
(1) 当事者等
ア 原告らは,いずれもB市の住民である。
イ 被告は,B市の現市長であり,平成18年4月16日からその地位にある者である(乙5~7)。
ウ Aは,B市の前市長であり,本件残代金の支出が行われた当時,同市の執行機関として,その支出を命ずる権限を有していた者である。
(2) 本件残代金の支出に至るまでの経緯
ア Bリゾート開発の設立と経営破綻
Bリゾート開発は,平成2年1月,総合保養地域整備法に基づき,C山東麓の開発を目的として設立された第3セクターの株式会社であり,同社の資本金6億円のうち1億8000万円をB市が出資した。
Bリゾート開発は,C山東麓のD地域にスキー場を建設することを計画してその用地を取得したが,スキー場の開発をすることができないまま債務超過の状態に陥り,平成13年3月,総額18億5300万円に上る多額の負債を抱えて解散を決定するとともに,その所有する土地及び工作物の買収をB市に対して要請した(甲1,乙3)。
イ B市によるBリゾート開発所有地等の取得の経緯
(ア) 平成13年8月23日,B市議会平成13年第1回臨時会において,平成13年度B市一般会計補正予算案が上程され,可決されたが,そのうち,Bリゾート開発所有の土地及び工作物の取得等に係る部分は,以下のとおりであった(乙2,4)。
a 公有財産購入費
2億4023万4000円(土地購入費9216万円,工作物購入費1億4807万4000円)
b 補償,補てん及び賠償金
2億4664万3000円(支障物件移転補償費)
c 債務負担行為
期間 平成14年度から平成16年度まで
限度額 1億0295万8000円
(イ) 平成13年9月4日,B市は,Bリゾート開発(代表清算人E)との間で,同社所有の下記の土地(以下「本件土地」という。)及び工作物(以下,Bリゾート開発の所有するこれらの土地及び工作物を併せて「本件土地等」という。)を,同市議会の可決を停止条件として,以下の内容で買い受ける旨の契約を締結した(甲2,以下「本件土地等買受契約」という。)。
対象土地 F362番ほか139筆
地積 26万3312.31m2
購入価格 1億3165万6155円
対象工作物 F1537番ほか
工作物の種類 調整池一式
購入価格 2億1153万4200円
(ウ) 平成13年10月5日,B市議会定例会において,本件土地等の取得に関する議案が上程され,可決された。
(エ) 平成13年10月12日,B市は,Bリゾート開発との間で,物件移転補償契約を締結した。
(オ) 平成13年10月19日,B市は,Bリゾート開発に対し,土地購入費内金9215万9308円及び工作物購入費内金1億4807万3940円の合計2億4023万3248円を支払った。
(カ) さらに,B市は,平成13年12月21日までに,Bリゾート開発に対し,支障物件移転検査を行った上,物件移転補償費として2億4664万2950円を支払った(乙2の3頁,乙3の2頁)。
(3) 住民監査請求及び監査委員による監査結果
原告らは,平成17年8月1日,B市監査委員に対し,地方自治法242条1項の規定に基づき,本件土地等買受契約に係る残代金1億0295万7107円の支出を差し止めるべきことを被告に勧告することを請求したが,同市監査委員は,同月24日付けで,原告らの請求を却下する旨の通知をした(甲23の1~39)。
(4) 本件残代金の支出
B市は,平成17年7月28日,青森県知事に対し,本件土地の農地転用事業計画変更承認申請及び農地転用許可申請をし,同年10月24日にその承認・許可を受けたことから,同年11月18日,Bリゾート開発に対し,本件土地等買受契約に基づく残代金として1億0295万7107円を支払った(本件残代金)。
2 原告らの主張
(1) 本件土地等買受契約が民法90条に反し無効であることによる違法性
以下の諸事情を総合考慮すれば,本件土地等買受契約は民法90条に反し無効なものというべきであり,かかる無効な契約に基づいて行われた本件残代金の支出は市長としての裁量権を逸脱した違法なものである。
ア B市がBリゾート開発と本件土地等買受契約を締結した平成13年9月の時点において,同市の財政ひっ迫が進行していた。B市民一人当たりの純債務額は,平成12年度の40万5000円から平成15年度には44万2000円に増大している(甲13)。
イ 平成13年の時点での整備計画において想定されていた各施設に類似した施設が同市及びその周辺地域には多数存在していた。
ウ 平成13年の時点での整備計画においては,冬期間の施設利用状況予測等の積雪地域であることに対応した費用対効果の検討が欠如していた。
エ 本件整備事業予定地付近は土石流災害が発生する危険があった。
オ 平成13年の時点での整備計画において想定されていた各施設の設置は,C山の景観や生態系等に対して深刻な影響を与えるおそれがあった。
カ 経営破綻した第3セクターであるBリゾート開発への公費支出に対する広範な市民の批判を無視して本件土地等買受契約が締結された。本件土地等買受契約は,リゾート開発に失敗し多額の負債を背負ったBリゾート開発の破綻処理を援助するためのものであって,実質的には債務(平成13年3月時点の負債総額約18億5300万円)の一部肩代わりであった。
キ Bリゾート開発の代表取締役は平成2年の設立から平成9年6月までB市長が務めていたほか,その後も同市の幹部職員が取締役に残っており,本件土地等買受契約の当事者双方が上記の各諸事情を十二分に認識していた。
(2) 事情変更を無視して漫然と行われたことによる違法性
仮に本件土地等買受契約自体を無効であるとまではいえないとしても,平成15年ころ以降,本件整備事業の中核と想定されていた県立Gの建設計画について青森県が事実上これを白紙とする方針を明らかにしたばかりか,同県が本件整備事業と同種目的により設置運営していた「H」や「I」の廃止が決まるなどの極めて大きな事情の変更が生じており(なお,売買契約と内金支払後の平成14年1月にB市が行なったJ県及びK県の同種施設の視察の結果によれば,いずれの施設も財政的に赤字となっていることが既に判明していた。),このような大幅な事情の変更が生じていたのであるならば,B市長としては,本件土地等買受契約の契約書第20条に基づきBリゾート開発と協議を行い,契約の解約や残代金支払の中止に向けた措置を取るべきであったにもかかわらず,かかる措置を一切とらずに漫然と本件残代金の支出をしたこと自体が財務会計法規上違法な行為であるから,本件残代金の支出は市長としての裁量権を逸脱した違法なものである。
(3) 損害の発生
違法な本件残代金1億0295万7107円の支出により,同額の損害がB市に発生した。
よって,原告らは,被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき,被告がAに対して1億0295万7107円の不法行為損害賠償請求をすることを求める。
3 被告の主張
B市の前市長であるAは,本件残代金の支出について同市議会に説明をし,当該予算案は同市議会においてその支出の当否についての審議を経た上で可決されたものである上,本件残代金の支出はBリゾート開発の清算とは関わりがなく,不正な利益をもたらすものではないから,A前市長が「L」などの自然体験型拠点施設を整備するという公益上の必要があると判断して本件残代金の支出を行ったことが,その裁量権を逸脱し又は濫用したものと断ずべき程度に不合理なものであるということはできない(最高裁判所平成17年11月10日第一小法廷判決参照)。
なお,平成18年4月16日に実施されたB市長選挙の結果,本件土地上にGを含む大規模施設を建設するというA前市長の政策に反対し,同建設の中止を公約していたM現市長が当選し,Gの建設が相応しくないという原告らの主張が実現された形となっているが,その政策変更と既にされた公金支出の違法性の問題は別のものである。
4 原告らの再主張
議会に提案し,議会で審議・可決されたからといって,それだけで裁量権の逸脱・濫用がなく適法とされるものではなく(最高裁判所昭和37年3月7日大法廷判決参照),これまでの全国各地における住民訴訟においても,議会の議決を経たということだけで違法性がないとされることはなく,各事案ごとの具体的な事情に基づいて,裁量権の逸脱・濫用の有無が判断されている。被告が援用する最高裁判所平成17年11月10日第一小法廷判決も,具体的な事情について詳細に検討をした上で,当該事案についての結論としては裁量権の逸脱・濫用がないと判断している。これに対し,被告は本件残代金の支出の公益上の必要性について具体的積極的な主張を一切しておらず,そのこと自体が裁量権の逸脱・濫用の裏書きの一つになる。
第3当裁判所の判断
1 裁判所が認定した事実
前記前提事実のほか,証拠(甲1~9,11~18,23の1~23の39,29,乙2~7)及び弁論の全趣旨により認めることができる事実を加えると,本件の事実経過等として,以下の事実を認めることができる。
(1) 本件残代金の支出に至るまでの経緯
ア Bリゾート開発によるスキー場建設計画とそのとん挫
平成2年1月,総合保養地域整備法に基づき,C山東麓の開発を目的として,第3セクターの株式会社であるBリゾート開発が設立され,B市は資本金6億円のうち1億8000万円を出資した(乙3)。
Bリゾート開発は,C山東麓のD地域にスキー場を建設することを計画して用地(そのうち19ヘクタールは農地)を取得し,平成6年,青森県に対し,スキー場建設を目的として農地転用許可を申請してその許可を受け,保安林解除も申請したほか,本件土地の森林を伐採するなどのスキー場造成工事を開始した(甲1,乙3)。
ところが,平成7年,青森県が農水省への保安林解除申請を取り下げたため,これにより,Bリゾート開発によるスキー場造成工事は中断し,以後,本件土地は森林伐採後の原野の状態のままとなった(甲1,乙3)。
イ B市による跡地利用計画の検討とBリゾート開発の解散
平成8年2月,B市は,本件土地の跡地利用計画として,「N周辺整備計画」を発表したが,Bリゾート開発の救済のための計画であるとの批判を受けるなどしたため,同年12月にこれを撤回した(甲1)。
他方,Bリゾート開発は,平成9年にA前市長が代表取締役を辞任し,平成10年度からは,期末未処理損失が資本金6億円を上回る債務超過状態に陥った(甲1)。
このような状況の中,平成12年,B市は,同年6月に開催された同市議会において,Bリゾート開発に対しては設立時の出資金以外の出資や損失補償・赤字補てんなどの支出は考えていない旨の答弁を行う一方,「D地区事業検討会議」を設置し,跡地利用計画の検討を始め,平成13年3月には,「D地区事業検討会議」が検討したD地区整備計画案の内容を市議会全員協議会で初めて発表した。
他方,Bリゾート開発は,平成13年3月,取締役会において会社解散を決議してこれを発表し,その所有地等の買取りをB市に要請した(乙3)。
ウ 自然体験型拠点施設整備の方針決定と本件土地等の買収
B市は,Bリゾート開発からの上記要請を受け,平成13年5月14日,B市議会議員全員協議会において,A前市長が,「Bリゾート開発が平成13年3月6日の取締役会において会社の解散を決議した。今後は新たな整備計画に基づいて,青森県の理解と協力を得ながらD地区にLなどの自然体験型拠点施設を整備していきたい。なお,Bリゾート開発の土地及び工作物取得に係る補正予算,土地取得に係る単行議案の上程は9月議会を予定している。これらの整備計画は,D地区整備計画検討会議での検討結果及びBリゾート調査研究会の推移を踏まえたものである。」との説明を行い,解散したBリゾート開発から本件土地等を取得し,その跡地利用計画として,本件土地に県立Gを含む「L」などの自然体験型拠点施設を整備していく方針を示した(甲3,乙2)。
この方針に従い,B市は,平成13年6月7日,B市重点要望説明会において,青森県知事に対し,県立Gを含む「L」をC山D地区に整備するよう要望し,同知事から,「具体的にD地区ということが出てくれば,これについて前向きに実務者同士で,その場所がふさわしいかどうかも含めて検討させたい。」などとの回答を得た(甲4,乙3)。
B市は,平成13年8月23日,同市議会において,十分な質疑応答を経た上で,Bリゾート開発からの本件土地等の取得についての予算案を可決した(乙4)。そして,B市は,平成13年9月4日,Bリゾート開発との間で,本件整備事業の用地等として,同社所有の本件土地等を総額3億4319万0355円で買い取る旨の契約(本件土地等買受契約)を締結し(甲2),同市議会の議決を経た後,同年10月19日,上記売買代金の内金2億4023万3248円をBリゾート開発に対して支払った(乙2,4)。
もっとも,青森県の担当者らは,平成13年9月18日,市民団体等に対し,「Gについては,具体的な検討をする段階にはない状況である。」などと回答し,同年10月2日,同県議会に提出された市民団体会長による請願についても,「県として,現在,Gに関する建設地,規模等の具体的な計画はありません。」などと説明するなど,この時点においても,青森県は,県立Gの建設について具体的な計画を持っていたわけではなかった(甲4~6)。
エ 青森県による県立G着工見合わせとB市の対応
青森県は,県知事交替後の平成15年8月26日,B市に対し,D地区への県立G建設について,青森県の厳しい財政状況などを理由に当面は困難であるとの見解を示した上(甲7),同年11月,「財政改革プラン」を策定して県立Gを含む大規模施設の着工見合わせを決定し(甲8),さらに,平成16年3月,同県議会において,県立Gについては「必要性や機能,規模,場所などの具体的な方向性や計画を定めるに至っていない。」として,事実上白紙状態である旨答弁した(甲9)。その後も,青森県は,平成17年3月,「青森県行政改革実施計画(平成16年度~平成20年度)」を策定し,子どもの体験活動等の施設として利用されているH及び3か所の県立Iを廃止する一方,施設へ依存しない自然体験活動を実施するなどの方針を打ち出したほか,同年7月には,市民団体に対し,財政状況の悪化により,県立Gの建設についての設置に向けた調査作業を打ち切ったとの見解を改めて示した(甲17)。
他方,B市は,平成16年3月,県立G建設に先行して市独自に周辺整備を進める基本計画を作成する方針を明らかにするとともに(甲15),同年度予算に基本計画作成委託料450万円を計上した上,同年6月,その作成を外部業者に委託した(甲3)。これに基づき平成17年3月に作成された「平成16年度 C山D地区自然体験型拠点施設基本計画書作成業務委託 基本計画書」では,本件整備事業における自然体験型拠点施設は,①C山学習館,②多目的広場,③エントランス,④里山共生,⑤果樹園,⑥農業自然体験の各ゾーンにより構成されることとされており,多目的広場を県立Gの建設用地として転用する余地は残されていたものの(甲16),当初の計画案とは異なり(甲3),その建設を前提とした計画とはなっていなかった(甲11)。
オ 本件残代金の支出
このような状況の中,B市は,青森県知事から本件土地の農地転用事業計画変更承認及び農地転用許可申請を受けた後,平成17年11月18日,Bリゾート開発に対し,本件土地等買受契約に基づき,本件土地等の残代金として,1億0295万7107円を支払った。
カ 本件整備事業に対する反対派市長の当選
平成18年4月16日に行われたB市長選挙の結果,県立Gなどの大規模施設を建設するとのA前市長の政策に反対し,その建設の中止を公約の一つとするM現市長が新市長に当選した(乙5~7)。
(2) B市の財政状況
平成15年3月付けの財団法人O地域社会研究所作成の報告書によれば,平成13年度時点のB市の財政状況として,「旧3市(O市,B市及びP市)の中では独自の財政基盤は脆弱であり,経常収支比率も83%となり,財政の弾力性も失われつつある。平成13年の地方債残高は732億円であり,一般会計歳入の1.1倍となっている。これに対し,各種基金残高は61億円に過ぎない。」などとの指摘がされていた(甲12)。そして,その後もB市の財政難の傾向は進行しており,平成17年2月付けの同市作成の「平成12年B市総合計画に係る施策達成状況報告書(第3号)」によれば,平成13年度には約60億7321万円だった各種基金残高が,平成15年度には約55億4613万円に減少し,他方で市民1人当たりの純債務額は平成13年度の41万8000円から平成15年度には44万2000円に増大している(甲13)。さらに,B市が平成16年11月に発表した今後5年間の中期財政計画では,建設事業費を始めとした投資的経費を平成16年度比で5割程度まで削減するほか,義務的経費を除くその他の経常的経費等の削減を図る方針が掲げられたが,基金残高は平成21年度には11億8325万4000円に減少するとの見通しが示され,このような厳しい財政事情を踏まえて,平成17年度予算編成においては,政策的経費や投資的経費についても効率・重点的な施策の選択に努め,中でも建設事業については緊急性や事業効果などを検討して厳選すること,国・県が補助金を打ち切る事業はやむを得ない場合を除き原則廃止・縮減することなどを方針として打ち出さざるを得ない状況となった(甲14)。
2 当裁判所の判断
(1) 本件土地等買受契約が民法90条に反し無効であることによる違法性の主張について
本件土地等買受契約は,本件整備事業における自然体験型拠点施設の用地取得のために行われており,その目的自体に不当なところはない。また,本件土地等買受契約の締結当時,その締結により多額の公金が支出されることが予測された一方で,B市の財政難の傾向が進行していたという事情は認められるものの,本件土地等買受契約の締結により直ちに同市の財政が破綻するとか重大な危機に瀕するという状況にあったとまでは認めることができない。これらに加え,青森県としては具体的な計画を持っていなかったとはいえ,本件土地等買受契約の締結前の段階において,県知事が,B市が要望し本件整備事業における自然体験型拠点施設の一つとして位置付けていた県立Gの建設について前向きとも受け取ることができる回答をしていたことや,本件土地等買受契約の締結に当たり十分な質疑応答をした上で市議会の予算案の議決を経ていたことをも考慮すれば,地域住民の民意に存立の基盤を置くB市長がした本件土地等買受契約が公序良俗に反する違法な契約であるということはできない。
これに対し,原告らは,先に検討したB市の財政状況のほか,類似施設の存在,積雪地帯であることを踏まえた費用対効果の検討の欠如,土石流災害や環境破壊の危険といった事情の存在や反対派住民の存在等を指摘して,本件土地等買受契約が公序良俗に反するものであると主張するが,それらはすべて政策的当否に係る主張であって,それらが議会の予算案の議決を経た本件土地等買受契約の違法性を基礎付ける事情に当たるとまで認めることはできない。また,原告らは,議会で形式的に審議・可決されたからといって,それだけで裁量権の逸脱・濫用がなく適法とされるものではないとも主張するが,本件では先に検討したとおり,地域住民の代表である議会において十分な質疑が行われた上で予算案が可決され,民意に基盤を置く市長が政策的考慮に基づいてしたものであるから,原告らの主張を採用することはできない。
(2) 事情変更を無視して漫然と行われたことによる違法性の主張について
B市がBリゾート開発との間で本件土地等買受契約を締結した後,青森県が県立Gを含む大規模施設の着工見合わせを決定するとともに,本件整備事業における自然体験型拠点施設と同様に子供の体験活動等の施設として利用されている複数の施設を廃止するなどの方針を打ち出したとしても,B市がこの方針に沿って本件土地等買受契約を解約し,又は本件残代金の支払を中止なければならないとする法的な根拠があると認めることはできないし,一般的に既に契約を締結した後にその残代金の支払をしないことは債務不履行による損害賠償責任を生じさせるのであるから,B市が,青森県の上記方針変更後も,独自の立場から,県立Gの建設を前提とした当初の計画案を修正した上で本件整備事業を継続すると判断したことが,著しく不合理であるとまではいえない。
(3) そして,本件土地等買受契約の残代金の支払がA前市長又はその関係者に不正な利益をもたらすことをうかがわせるに足りる証拠も全くない。
(4) 以上の検討によれば,本件残代金の支出は,民意に基盤を置く市長が議会の予算案議決を経て適法に締結した本件土地等買受契約に基づく義務の履行として行ったものであって,関係者に不正な利益をもたらすこともうかがわれないから,その支出について市長の裁量権の逸脱又は濫用があったと認めることはできず,これを違法であるということはできない。
3 結論
以上によれば,本件残代金の支出が違法であることを前提とする原告らの請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 齊木教朗 裁判官 澤田久文 裁判官 西山渉)