大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 平成18年(わ)137号 判決 2006年1月29日

主文

1  被告人を懲役10年に処する。

2  未決勾留日数中100日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1  帰宅途中のA(当時27歳)を認めるや,強いて同女を姦淫しようと企て,平成17年5月1日午前零時55分ころから同日午前3時30分ころまでの間,滋賀県守山市内の路上において,いきなり同女の背後から同女を押し倒すなどの暴行を加えて,同女を同市所在の甲駐車場内に引きずり込み,同所において,同女の頭髪をつかんで立たせ,腕を回して同女の頸部を締め付けながら同女の口を手でふさぎ,同女を仰向けに押し倒して馬乗りになり,手拳で同女の腹部を殴打するなどの暴行を加え,同女に対し,「暴れるから痛い目に遭うんや。声出したら殺す。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧した上,同女の着衣の胸元を開いて同女の乳房をなめ,同女のパンティーを引き下ろしてその陰部を弄び,口淫させるなどして,同女を強いて姦淫し,さらに,同市内の路上において,前記駐車場から逃走した同女に対し,その背後から同女の頭髪をつかんで引っ張り,腕を回して同女の頸部を締め付け,手拳で同女の顔面を殴打し,うずくまった同女に対し,その腹部を数回蹴り上げ,同女の背部を数回踏みつけるなどの暴行を加えた上,同市所在の乙広場北西側小道に連行し,同所において,同女を仰向けに押し倒して馬乗りになり,両手で同女の頸部を締め付けるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同女の乳房をなめ,その陰部を弄び,口淫させるなどして,同女を強いて姦淫し,引き続き,同女を同市内の丙ガレージに同女の髪をつかんで連行し,同所において,口淫させるなどして,同女を強いて姦淫し,その際,前記一連の暴行により,同女に全治4週間を要する全身打撲・擦過傷,胸骨骨折の傷害を負わせ

第2  携帯電話機を強取しようと企て,平成18年7月11日午前2時43分ころ,青森市内の近歩道上において,B(当時29歳)に対し,その左大腿部を右足で膝蹴りするなどの暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同女所有の携帯電話機1台(時価約4000円相当)を強取し,その際,上記暴行により,同女に全治約1週間を要する下口唇,左大腿部及び左膝挫傷の傷害を負わせ

たものである。

(証拠の標目) 省略

(事実認定の補足説明)

1  弁護人は,①判示第1の強姦致傷について,被告人に強姦の犯意が発生したのは,被害者を認めたときではなく,被告人がナンパをするため被害者に声をかけたが,無視されたため,怒って被害者の両肩を押したときである,②判示第2の強盗致傷について,被告人は,寂しい気持ちを紛らわすため,被害者と話をしたいと考え,そのきっかけにするため,被害者の携帯電話機を取ったもので,携帯電話機を強取する意図はなかったものであり,不法領得の意思の存在については疑問が生じうる余地がある旨主張し,被告人も,当公判廷において,これに沿う供述をするので,これらの点について判断する。

2  強姦の犯意発生時期について

<・><編注:< >部分は原文のとおり。以下同様> 本件において,被告人が,約1か月前に妻が流産したため,セックスが出来ず,ストレスが溜まっていたことから,駅前でナンパしてセックスしたいと考えており,本件犯行当日も早くナンパしてセックスしたいと考えて外出し,JR丁駅南口付近で1時間ほどナンパしたが成功しなかったため,腹を立てて,早くセックスしようとJR戊駅前に移動し,そこでも1時間ほどナンパしたが成功しなかったため,同駅東口付近のコンビニエンスストアに赴いた際,ナンパが成功しないことに無性に腹を立て,同駅東口北側の人通りのない場所を探して歩くうちに,被害者が目に入り,声をかけたものの,無視されたので,駐車場に小走りで入ろうとした被害者の後ろから背中を突き飛ばし,本件強姦行為に及んだことは被告人自身も認めているが,被告人は,性欲を高め,場所を変えつつ,かつ約2時間以上ナンパを試みたにもかかわらず,これが不成功に終わり,何としてもセックスしたいとの思いがナンパ開始当初に比べてもさらに相当程度強くなっていた上,被害者を認めナンパしたものの無視されると,いきなりその背中を突き飛ばした後,約2時間半もの長時間,場所を変え,繰り返し被害者に暴行・脅迫を加えて姦淫行為に及んでいることや,被告人が,ナンパしやすい駅前ではなく駅から約280メートルも離れた人気のない乙広場付近で本件犯行に及んだことも併せ考慮すれば,被告人が被害者を認めたときには強姦の意思を抱いていたことを強く窺わせるものであるところ,被告人は,捜査段階においては,前記の経緯のとおり,性欲を高めてナンパを繰り返したものの成功せず,JR戊駅東口付近のコンビニエンスストアに赴いた際,ナンパが成功しないことに無性に腹を立て,こうなったら人気のない場所に連れ込んで強姦でもしなければセックスは無理と考え,同駅東口北側の人通りのない場所を探して歩くうちに,被害者が目に入り,この女性を強姦しようと思って近付いたが,他方で,ナンパがうまくいくかもしれないとの微かな期待で声をかけたものの,無視されたので,この女性を強姦しようと決意し,本件犯行に及んだ旨供述しているが,前記の,被告人が当初から強姦の犯意を有していたと窺わせることをよく説明するものである上,その行動や強姦を決意するに至る心理過程等について,具体的かつ詳細に供述するものであって,特に不自然,不合理な点は見出せず,被害者に声をかけたときやその前後の状況について,被害者の供述とも概ね合致しているのであって,被告人の捜査段階における供述は信用性が高いと認められる。

<・> これに対し,被告人は,当公判廷において,被害者に声をかけたものの無視されたことで腹が立ち,強姦の意図が生じた,捜査段階では,取調官から,被害者に声をかける前にも強姦の意思を有していたはずであると何回も強く言われたこと,自分の考えが及ばなくなっていたこと,また,ナンパの目的にセックスをしようとの気持ちがあったのは間違いなかったことから,被害者を認めたときに強姦しようと思った旨供述したとしているが,本件犯行時には駅から約280メートルも離れた人気のない広場東側の歩道を女性を探しながら歩いていたこと,それまでもナンパしても無視されていたにもかかわらず,被告人は本件犯行のような行為に及んでいないことからも,被害者に対する行為は飛躍しており,その心情について被告人は当公判廷において「自分でも何と言っていいか分からない」と述べる。にとどまり,合理的説明ができていないことなどからすれば,強姦の犯意発生時期に関する被告人の公判供述は信用できないというほかない。

<・> 以上によれば,被告人は被害者を認めたときには既に強姦の犯意を有していたことが認められる。

3  不法領得の意思について

<・> 被告人は,当公判廷において,携帯電話機は,被害者に構ってもらうために取ろうと思ったにすぎず,被害者から抵抗されて取ることができなかったので,腹が立って被害者に暴力をふるった,その後,自分のしたことに恐怖を感じて逃げた,逃げるときも意図して携帯電話機を持って逃げたわけではなく,たまたま持っていた旨供述する。

<・> しかしながら,被告人が判示の暴行を加えて被害者から携帯電話機を奪い取ったことは,被告人自身も認めているところ,被告人は,捜査段階においては,被害者から携帯電話機を取って遊んでやろうと考え,携帯電話機を掴み取ろうとしたものの,予想に反して,被害者が携帯電話機を掴んで離さなかったため,腹を立て,暴力をふるってでも絶対に取ってやるとの強い気持ちになり,判示の暴行を加えた旨供述しており,当公判廷においても,被害者から抵抗され,暴行を加えた時点では携帯電話機に執着して,これを取ろうとしたこと及びその後,当該携帯電話機を用いて何回か架電したことを認めた上,取った携帯電話機は逃げているうちに落としたとも供述していて,自らの意思で携帯電話機を投棄するなどの積極的な行動に出ておらず,被害者に構ってもらうこともなく逃走していることなどからすれば,被告人は,被害者に判示の暴行を加え,携帯電話機を手にした時点では,所有者である被害者を排除して自己の物として利用する意思及びその経済的用法に従って利用,処分する意思すなわち不法領得の意思を有しており,被告人は被害者の反抗を抑圧して携帯電話機を強取したと認めることができる。

(法令の適用) 省略

(量刑の理由)

まず判示第1の犯行に至る経緯や動機を見ると,被告人は,陸上自衛隊X駐屯地に勤務していたが,平成12年に長男が生まれてから妻との性交渉が減っていたところ,その後,妻は第2子を望むようになったものの,被告人の海外勤務の関係で子作りを控えたことから,妻との性交渉が減ったため,性交渉が出来ないことや多忙な仕事のストレスが溜まり,仕事帰りや妻に嘘を言って外出し,JR亥駅近辺でナンパするようになったものであるが,平成17年4月には,第2子を流産したため出産願望を強く持つ妻と,子供よりも自分を構ってほしいとの思いを持ち第2子を望まない被告人との溝は深くなり,また,そのころ2か月間は妻と性交渉ができなかったことから一層ストレスが溜まり,性交渉をするためにまたナンパをするようになり,本件前日である同月30日,家族で外出して帰宅した後,妻に「友達と飲みに行ってくる。」と嘘を言って,JR丁駅前にナンパをしに行ったものの,約1時間ほど試みても成功しなかったため,早く女性と性交渉をしたいという思いから,JR戊駅に移動し,同駅西口付近で約1時間ほどナンパをしたが,やはり成功せず,同駅東口に場所を変えたものの,女性がほとんどいなかったことから,東口付近のコンビニエンスストアまで女性を探しに行った際,ナンパが成功しないことに腹を立て,人気のない場所に女性を連れ込んで強姦しようと思い立ち,できるだけ暗くて人気のない場所を探して歩き,被害者を認めてその犯行を敢行したものであって,その動機は自己の性欲を満足させるために尽き,実に自己中心的で身勝手であり,酌量の余地は全くない。被告人は,被害者を認めると,約30メートルの距離を後ろからつけて行き,被害者に声をかけたものの無視されるや激怒し,自己の車を駐車していた駐車場に入りかけた被害者を後ろから突き飛ばして転倒させ,駐車場内に連れ込んで被害者の頸部を絞めたり口を塞ぐなどしたほか,馬乗りになって被害者の腹部を殴るなどした上,「声出したら殺す。」などと申し向けて脅迫し,帰してくれと懇願する被害者の言葉に耳を傾けることなく被害者の身体を弄び,口淫させ,姦淫した上,隙を見て逃げ出した被害者を約70.6メートルも追いかけ,路上で被害者に追いついて髪の毛を掴んで捕まえ,その顔面を殴打し,その身体を蹴るなどして,痛みのあまりうずくまった被害者に対し,情け容赦なく腹部を数回蹴り上げ,背部を数回踏みつけるなどした上,強姦するため線路沿いの小道に被害者を連れ込んで押し倒し,被害者の上半身を裸にして再びその身体を弄び,付近を車が通っていたため更に小道の奥に連れ込んで口淫させ,姦淫し,更に人気のない場所で姦淫するため,被害者の頭髪をつかんで立たせ,線路のフェンスを乗り越えさせて線路反対側の人気のない駐車場に連れ込み,そこでまたもや被害者に口淫させるなどした上で姦淫し,被害者の口腔内に射精したものであって,被告人は場所を変え,3か所でそれぞれ姦淫行為に及んだもので,その時間も合計約2時間半と長時間にわたっており,被害者の人格を一顧だにせず,ひたすら性欲を満たそうとして被害者を蹂躙し尽くした極めて悪質な犯行であって,その犯行態様は執拗かつ卑劣である。被害者は,夜間,仕事帰りにいきなり本件被害に遭ったものであって,落ち度は全くなく,被告人から首を絞められたり,声を出したら殺すと何度も脅迫されながら,筆舌に尽くし難い数々の暴行を受け,場所を変えて被告人が満足するまで何回も姦淫されたばかりか,被告人の顔を見ていることもあって殺されるのではないかという思いも抱いたもので,被害者が抱いた苦痛や恐怖感,屈辱感,絶望感は察するに余りある。被害者は,被告人による一連の暴行によって,胸骨骨折を含む全治4週間の重い傷害を負ったばかりか,被害後は夜一人で出歩けなくなったり,電車通勤もできなくなって,仕事から帰宅する際は上司や夫が送迎することが必要となったほか,持病の心臓病が悪化して常時服薬していなければならなくなったり,汚い身体だからと現在の夫との結婚を諦めようとしたり,手首を切って自殺を図ろうとするなど,本件犯行は被害者に今なお深刻な影響を与えていて,被害者の処罰感情が厳しいのももっともである。

続いて,判示第2の犯行を見ると,被告人は,判示第1の犯行後,Y駐屯地へ家族を伴い転勤したものの,妻が第2子の懐妊に伴う体調不良から実家に帰省したために単身で生活していたが,職場に溶け込めず,また,同僚の女性の胸を触ったり,女風呂をのぞき見るなどしたことから,2度にわたり,謹慎処分を受けたこともあって,職場での孤立感を深め,寂しいなどと思い悩み,併せて平成18年8月1日付けで前任地であるX駐屯地への異動が決まったものの,Y駐屯地に赴任してからわずか1年での異動であり,異動先でも自己の不祥事が知られているようであったことから,異動後も自分の居場所はなく,妻にも自己の不祥事が分かってしまい,妻も居場所がなくなってしまうなどと悩んでいたものであるが,謹慎処分明けの日である同年7月10日,行きつけの焼肉店のマスター夫妻が開き,常連客も参加した被告人の送別会に出席し,その後,常連客とスナックに飲みに行ったものの,気が付くと1人になっていたことから寂しさが募り,若い女性に構って欲しいとの思いから,通りかかった被害者の着衣の上から尻を触り,驚いて振り向いた被害者から携帯電話機を取って構ってもらおうとしたが,予想に反して被害者が携帯電話機を手放さなかったために,激高して何としても携帯電話機を取ってやると思い,被害者が後で歩道上に倒れ込むほどの強さで同女の左大腿部を右足で数回膝蹴りし,その反抗を抑圧して携帯電話機を強取したものであって,その動機は自己中心的かつ身勝手であって,酌量の余地はなく,犯行態様は執拗かついかにも粗暴で悪質である。被害者には落ち度は全くなく,仕事帰りに,いきなり尻を触られ,携帯電話機をつかまれた時の恐怖と驚愕は想像するに難くなく,本件によって,携帯電話機を強取されたばかりか,左大腿部には皮下出血が生じ,歩く際にも痛みを生じるほどであり,本件後,夜1人で歩くことができなくなったのであって,被害者の処罰感情が厳しいのももっともである。

しかるに,被告人は,いずれの被害者に対しても慰謝の措置を講じていない。被告人は,本件各犯行以外にも,判示第1の犯行後に,前記のとおりの同僚女性に対するわいせつ行為等に及んでいるばかりか,判示第1の犯行前にも,滋賀県内で気に入った女性を見かけるや,つけて行き,背後からいきなり胸を触るなどの行為を2回行ったことをはじめ,路上で女性の胸を触るなどしたと供述していることなどからすると,被告人には歪んだ強い性欲と女性をそのはけ口としてのみ求める傾向が明らかに認められ,被告人の性犯罪に対する規範意識は相当程度鈍磨していると言わざるを得ず,再犯のおそれも強く憂慮されるところであって,本件各犯行は,被告人の人格の深部に根ざしたものであることから,被告人を矯正するには相当長期間施設に収容することが必要不可欠と言える

以上によれば,被告人の刑事責任は重大であって,被告人が,当公判廷において,自分の身勝手な思いや行動から罪のない人に肉体的精神的苦痛を与えて申し訳ない,被害者に償いたい旨述べるなど本件について反省の情を示していること,将来的には被害弁償をしたいとの意思を有していること,いずれの犯行も計画的なものではないこと,判示第2の強盗致傷事件については,被害額が多額ではなく,被害品は被害者に還付されていること,判示第2の犯行により自衛隊を懲戒免職になり,一定の社会的制裁を受けていること,被告人の父親が今後の監督を誓約していること,被告人にはこれまで前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情を最大限考慮しても,被告人の責任の重大性からすれば,主文掲記の刑は免れないと判断した。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑 懲役10年)

(裁判長裁判官 渡邉英敬 裁判官 室橋雅仁 裁判官 香川礼子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例