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青森地方裁判所 平成2年(わ)65号 判決 1991年6月26日

本店所在地

青森県北津軽郡鶴田町大字中野字花岡一八四番地二

有限会社

木村畜産

(右代表者代表取締役 木村千恵子)

本籍

青森県北津軽郡鶴田町大字鶴田字前田六六番地一号

住居

同町大字中野字花岡一八四番地二

会社役員

木村一味

昭和六年二月一六日生

右の者らに対する法人税法違反及び被告人木村一味に対する詐欺各被告事件について、当裁判所は、検察官金田茂出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社木村畜産を罰金二五〇〇万円に、被告人木村一味を懲役二年六月に処する。

被告人木村一味に対し、未決勾留日数中一〇日をその刑に算入する。

訴訟費用は被告人木村一味の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社木村畜産(以下「被告会社」とする)は、青森県北津軽郡鶴田町大字中野字花岡一八四番地二に本店を置き、肉豚の生産及び成育並びに販売等を目的とする資本金六二〇万円の有限会社であり、被告人木村一味(以下「被告人」とする)は、被告会社を設立した昭和五七年三月六日から平成二年八月八日までの間、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、

第一  被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、受取奨励金、請負工事代金のバックリベート又は建物更生共済金等の雑収入を除外し、あるいは売上の一部を除外して簿外預金口座に入金する等の方法により、所得を秘匿したうえ、

一  昭和五九年七月一日から同六〇年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得額が七〇一七万一五〇七円(別紙(一)(1)修正損益計算書参照)であつたのにかかわらず、確定申告書提出期限内である同年八月三〇日、同県五所川原市字柳町一番地所在の所轄五所川原税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二一万五四六〇円で、これに対する法人税額が三四万一二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成二年押第二一号の1ないし29)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二九三六万四六〇〇円と右申告税額との差額二九〇二万三四〇〇円(別紙(二)(1)脱税額計算書参照)を免れ、

二  昭和六〇年七月一日から同六一年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得額が五〇三八万七三三一円(別紙(一)(2)修正損益計算書参照)であつたのにかかわらず、確定申告書提出期限内である同年九月一日、右五所川原税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九三三万五三二八円で、これに対する法人税額が三〇五万八〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の30ないし58)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇八三万三五〇〇円と右申告税額との差額一七七七万五五〇〇円(別紙(二)(2)脱税額計算書参照)を免れ、

三  昭和六一年七月一日から同六二年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得額が一四六六万八〇五七円(別紙(一)(3)修正損益計算書参照)であつたのにかかわらず、確定申告書提出期限内である同年八月二九日、右五所川原税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六七二万六五二四円で、これに対する法人税額が一九六万〇一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の59ないし87)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五一四万二九〇〇円と右申告税額との差額三一八万二八〇〇円(別紙(二)(3)脱税額計算書参照)を免れ、

四  昭和六二年七月一日から同六三年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得額が九六七三万九四一九円(別紙(一)(4)修正損益計算書参照)であつたのにかかわらず、確定申告書提出期限内である同年八月三一日、右五所川原税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が一三万五六二〇円で、納付すべき法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の88ないし116)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三九六七万〇三〇〇円(別紙(二)(4)脱税額計算書参照)を免れ、

第二  被告人は、前記会社で従来肉豚を飼育していた同県北津軽郡鶴田町大字鶴田字南田一四四番地二等所在の豚舎の悪臭等が地域での問題となつたことから、昭和六三年二月ころまでの間に、同所で飼育していた豚の大半を同県西津軽郡木造町に建設した豚舎に移転して、前記鶴田町所在豚舎を他の目的に使用すべく考慮していたが、右豚舎の屋根の一部が損壊し、損壊個所から雪降ろし作業中の従業員が落下する等の事態が生じるに至つて、転用よりむしろ豚舎を人為的に倒壊させて右豚舎に掛けていた建物更生共済金を騙取するのが得策であると考え、同月二七日ころから同年三月七日ころまでの間、右豚舎八棟のうち七棟(倒壊部分床面積合計四〇一〇・三四二七平方メートル、いずれも被告会社所有)を右会社従業員の一戸宏樹らに指示して電動ウインチ、ワイヤロープ等を利用して引き倒させたうえ、同月一四日ころ、右豚舎倒壊現場において調査に訪れた鶴田町農業協同組合金融共済課共済係員笹森郁彦に対し、右豚舎の倒壊が豚舎屋根に積もつた雪の重量によつて生じた旨虚偽の事実を述べ、また同月一五日ころ、右倒壊豚舎の査定に訪れた青森県共済農業協同組合連合会生命建物査定課長佐藤聖勝及び同課員寺澤富美雄に対しても、同様の事実を述べ、さらに同年四月一一日ころ、建物更生共済金等支払請求書を持参して右豚舎の前記会社事務所を訪れた右笹森に対し、右請求書の共済金受取人欄に「有限会社木村畜産印」と刻した角印を押捺したうえでこれを交付し、右笹森を介して、同日、同郡鶴田町大字鶴田字前田四二番地二所在の鶴田町農業協同組合事務所において、同組合の建物更生共済金支給決定権者である同組合金融共済課長三上茂に対し、右豚舎の倒壊が真実は人為的に倒壊させたものであるのに、雪害によつて自然に倒壊したものであるかのように装つて、右七棟の豚舎に前記会社が掛けていた建物更生共済金の支払を請求し、右三上をしてその旨誤信させ、よつて、同月二七日、同組合係員をして、前記会社に対する支払として被告人が同組合に開設していた木村杉子名義の普通預金口座に建物更生共済金七二二四万二六三〇円を振り込ませ、もつて、前記会社が同額の財産上不法の利益を得た

ものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告会社代表者(本件各犯行当時)兼被告人の当公判廷における供述

一  第四回公判調書中の被告人の供述部分

一  第三回及び第四回各公判調書中の被告会社代表者木村千恵子の各供述部分

一  被告人の検察官に対する各供述調書(一八通)及び大蔵事務官作成の被告人に対する各質問てん末書(三通)

判示冒頭の事実につき

一  青森法務局五所川原支局登記官北沢一郎作成の商業登記簿謄本(二通)

判示第一の一ないし四の各事実殊に過少申告の事実及び別紙(一)(1)ないし(4)修正損益計算書の公表金額につき

一  五所川原税務署長作成の青色申告の承認の取消通知書謄本

一  押収してある確定申告書計四部(平成二年押第二一号の1ないし116)

判示第一の一ないし四の各事実殊に右各損益計算書の当期増減金額欄記載の内容につき

一  大蔵事務官小山勝彦作成(以下同じ)の「売上調査書」と題する書面(別紙(一)(3)及び(4)修正損益計算書の勘定科目中各1につき。以下書面表題、別紙番号及び勘定科目欄の番号のみを記載する。)

一  期首期末棚卸高等調査書((一)(1)の17、(一)(2)の3及び16、(一)(4)の2)

一  賃金給料調査書((一)(3)及び(4)の各8)

一  雑給調査書((一)(4)の9)

一  減価償却費調査書、固定資産及び減価償却費調査書((一)(1)の12、(一)(2)の11及び22、(一)(3)の11及び25、(一)(4)の12及び28)

一  給与手当調査書((一)(1)の19)

一  受取利息調査書((一)(1)及び(2)の各37、(一)(3)の40、(一)(4)の41)

一  雑収入(受取奨励金)調査書((一)(1)及び(2)の各38)

一  雑収入(受取保険金)調査書((一)(3)の41、(一)(4)の42)

一  雑収入(リベート)調査書((一)(1)の及び(2)の各38)

一  雑収入(その他)調査書((一)(1)の38)

判示第一の一ないし四の各事実殊に本件犯行の場所につき

一  検察事務官作成の平成二年七月二日付報告書

判示第二の事実につき

一  笹森郁彦(二通)、坂本雄二、一戸宏樹、山崎健、荒川佶及び三上茂の検察官に対する各供述調書

一  竹内勇、嶋田英孝、佐藤聖勝、寺澤富美雄(二通)、小山主税、神且つ笹森郁彦の司法警察員に対する各供述調書

一  司法警察員作成の検証調書

一  司法警察員作成の平成二年五月一七日写真撮影報告書(七丁綴り写真五葉添付のもの)

一  司法警察員作成の「犯行に使用された電動ウインチの写真撮影依頼の回答受理について」と題する書面、「証拠品の写真撮影について」と題する書面、「豚舎倒壊部分の面積について」と題する書面、「共済金額の内訳について」と題する書面及び「鶴田町農業協同組合事務所の所在番地について」と題する書面

(事実認定に関する補足説明)

被告人及び弁護人は、本件公訴事実はいずれも認めるものの、法人税ほ脱として公訴提起されたほ脱所得の内容及び額について、一部疑義がある旨主張するので、右の点について判断する。

一  バックリベートの帰属について

被告会社が木造町に建設した通称丸山農場の豚舎建設工事に際し、大機ゴム工業株式会社が交付したバックリベート分計一億〇八九〇万円につき、被告人は、公判廷において個人として受け取つたものであることを窺わせる供述を行い、また弁護人は、被告人が全国養豚経営者会議議長の地位にあり、大機ゴム工業株式会社は被告人の地位を利用し自社の宣伝を考慮し、被告人に交付したとも考えられ、右リベートは被告会社の雑収入にならない疑いがある旨主張する。

しかしながら、前掲各証拠によれば、被告会社は国及び青森県から畜産経営移転促進事業として約二億八〇〇〇万円の補助金を受け、二事業年度で総工費約四億八〇〇〇万円で、西津軽郡木造町に近代的なウインドレス豚舎を建設するに際し、被告人は被告会社の代表者として競争入札により落札した大機ゴム工業株式会社の担当者と交渉し、バックリベートの額、その支払方法、同社の工面する金額に相当する外注書の架空計上方法を示唆し、その協力を受けて、昭和六〇年六月期に五九二〇万円、昭和六一年六月期に四九七〇万円のバックリベートを交付させ、受け取つたリベートについては、被告会社の隠し資産として他の秘匿した収入等と同様に管理していたことが認められる。

これらの諸事情と、被告人自身捜査段階では被告会社の代表者として被告会社の収入として受け取つた旨の供述をし、大機ゴム工業株式会社、その下請けの合資会社ダイヤ商業の担当者は施主である被告会社にバックした旨供述していることに照らせば、右バックリベートは被告会社の雑収入であり、被告人は右所得を先の工作をして除外したものと認定判断することができる。弁護人の意見は採用できない。

二  詐欺による共済金の帰属及び税法上の扱い等について

昭和六三年六月期の雑収入中、鶴田町農業協同組合から受領した共済金等七二八九万五六二八円について、被告人は自己が受け取つたものである旨供述し、弁護人は、(一) 右共済金等は被告会社の雑収入となるとしても、被告会社はこれを利用して損壊した固定資産に代替する資産を取得し、あるいはこれに替わる資産の改良をしており、その取得又は改良に充てた共済金等に係る差益金の圧縮記帳のうえ圧縮額の損金算入をすれば足るのに、被告人は、代表者個人が受け取るべきものと考え、経理処理手続を誤り被告会社の雑収入として計上しなかつたものに過ぎない、右収入は圧縮前においては仮受金として経理処理すべきであり、保険金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入は会計理論上確定しており、確定申告に当たりその記載をしなかつたとしても、やむを得ない事情があるときには事後救済として損金処理ができる事情にある、(二) 右共済金等は被告会社の仮受金であり、圧縮額の損金算入をしない昭和六三年六月期では同期の益金となるか疑問であり、益金となるとしても右は被告人の詐欺行為によるものであるから、被告会社には同額の損害賠償債務があり、その賠償債務は損益対応の原則、一般公正な会計処理に照らし、昭和六三年六月期に発生しており、同額を同期の損金として認容すべきである、(三)被告人は、右の点から共済金等収入をほ脱する認識に欠けていた旨主張する。

しかし、前掲各証拠によれば、鶴田町所在の豚舎は不動産登記簿上被告会社が所有し、被告会社は確定申告に際し右豚舎を被告会社の固定資産として、また、その減価償却費を損金としてそれぞれ計上し、昭和六〇年六月期には右固定資産の火災焼失に伴い雑損失を計上する一方、火災保険金を雑収入として計上し、昭和六三年六月期には、滅失した分に対応し、固定資産除売却損を特別損失として計上していること、被告人は被告会社の代表者として建物更生共済金等支払請求書に「有限会社木村畜産印」と刻した角印を押捺し支払請求をしたことが認められる。これらの事実によれば、共済金等は被告会社が受領したものであり、被告人は被告会社の益金であることを知りながら、これを秘匿し雑収入として計上しなかつたものと認められる。なお、被告人は、公判廷において、圧縮損の手続を知らなかつた旨供述するが、被告会社は昭和六〇年六月期及び昭和六一年六月期には国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額を損金算入しており、右供述は信用できない。

そこで、弁護人の(一)の主張をみるに、判示第二で認定したとおり被告人は被告会社の豚舎の一部損壊後、故意に七棟の豚舎の固有資産を倒壊させ、これを雪害によるものと装い共済金を被告会社に得させたものであり、災害、突発的な事故等により固定資産の損壊を受けたものではない。従つて、右共済金等は、法人税法四七条一項で規定する固定資産の滅失または損壊により共済金等で支払をうけたものとは性格を異にする。そのうえ、被告人は、判示第二の詐欺が露見する前の昭和六三年六月期の確定申告の段階では、被告会社が右共済金等を利用して資産の改良等に充てた共済金等の差益金の額につき、圧縮額の損金経理ができたのに、右共済金等を秘匿して公表計上しなかつたため、圧縮額の損金計上をしなかつたものに過ぎず、確定申告書にその記載をしなかつたことにつきやむを得ない事情があつたものとは判断できない。従つて、経理処理の手続上の誤りにより課税問題が発生したものではない。弁護人の(一)の主張は採用できない。

次に、弁護人の(二)の主張をみるに、まず右共済金等は右の経過で被告会社が得たものであるが、税法上課税すべき所得発生の有無の判断は、利益を生じた原因行為の適法違法とは直接関係なく、経済的利益享受の実態の有無にかかるものと解されるべきところ、本件においては、前記金額全額(なお、豚舎が人為的倒壊の以前に一部損壊していたことは証拠上認められるものの、共済金全額について判示第二の詐欺行為により騙取されたと判断されるべきことはいうまでもない。)について昭和六三年六月末までに入金されていることが認められるから、前記共済金等については、全額を昭和六三年六月期の益金として計上すべきものである。他方、代表者である被告人は被告会社の職務を行うに際し、判示第二の詐欺を行い、他人に損害を与えたから、被告会社はその損害を賠償すべき責任がある。しかし、被告人の詐欺が発覚したのは平成二年に至つてからであり、被告人はそれまで詐欺を否認しており、被告会社は右損害を賠償しようとしなかつた。そうすると、被告会社は、昭和六三年六月期の納期限当時、右損害賠償債務を否定し、損害賠償をしていなかつたから、同額を同期の損金とすることは出来ない。よつて、弁護人の(二)の主張も採用できない。

そして、被告人は、右納期限を徒過させた当時、被告会社が共済金等を受け取つたと知りながら、これを公表計上しなかつたから、ほ脱の故意に欠ける点はない。したがつて、弁護人の(三)の主張も採用できない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の一ないし四の各所為は、法人税法一五九条一項に、判示第二の所為は刑法二四六条二項にそれぞれ該当するところ、判示第一の一ないし四の罪については所定刑期中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一〇日をその刑に算入することとする。

さらに、被告人の判示第一の一ないし四の各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一五九条一項、一六四条一項の罰金刑に処せられるべきところ、判示第一の一、二及び四の各罪については情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金二五〇〇万円に処することとする。

また、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条本文一項により、全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は畜産業を大規模に経営していた被告人が、被告会社の経営規模の拡大や社内留保資金を蓄える目的で、四事業年度にわたつて合計九〇〇〇万円近くの法人税を脱税した他、不要の豚舎を人為的に倒壊させて七二〇〇万円余りの建物更生共済金を騙取したという事案である。

まず脱税に関しては、長期間にわたつて相当額の法人税をほ脱し、当該年度内の脱税率も総計で九五パーセント近くの高率にのぼつている。被告人は、肉畜販売奨励金等を除外しているが、各奨励金の趣旨にもとるうえ、国等の補助事業の指定を受け、補助金と自己資金を合わせた豚舎建設に際し、請負業者に強く働きかけて、高額なバックリベートを得ており、これまた補助金の趣旨にもとる。そして、被告人は、肉豚の酸欠死による受取保険金の外、雪害を装つて得た高額な共済金等を除外している。これら雑収入の性質、バックリベート、共済金等を得た手段に照らし、その犯情は悪質である。被告人は他にも売上除外、架空賃金給料、雑給の計上、減価償却費の水増等を行つており、秘匿方法は多岐にわたつている。これらの諸点に照らせば、被告会社及び被告人の刑事責任は相当なものであり、後記有利な点を考慮しても、行政処分にとどまるべき事案とは解されない。

また建物更生共済金の詐欺に関しては、騙取した利益金額がこの種事犯としても多大であるうえ、被告人は自ら従業員に命令して豚舎七棟の大規模の倒壊作業を行わせ、雪害を装つて共済金を請求し、共済金支払の査察前従業員を口止めし、査察時には従業員を外出させる等の周到な工作を行つており、悪質かつ重大な犯行といわなければならない。

他方、脱税については、被告人の所得秘匿工作や簿外益金の秘匿工作は巧妙なものではなく、簿外益金のうち相当額は社内に留保され、被告会社への役員借入金として被告会社の事業に利用されたこと、被告会社は摘発後事業運営に支障が出る中修正申告を行い、本税及び附帯税を納付し、関連する地方税も附帯税の一部を除き納付し、経理体制の改善に努め、今後右未納金も納付されうること、詐欺については、被害者である鶴田町農業協同組合との間で示談が成立し、受け取つた利益金を超える示談金も支払済であること、被告人は長年にわたつて地域の畜産業の発展に寄与し、社会福祉活動、更生保護事業に金員を寄付し、数々の役職に推されるなどしていたが、本件の発覚及び身柄拘束によつて被告会社の代表取締役の地位を退くとともに、一切の役職を辞任していること等有利な事情がある。

その他諸般の事情を考慮し、被告会社を罰金二五〇〇万円に処する。被告人については、右諸情状のほか、被告会社の代表取締役辞任後も豚肉関係事業の置かれた状況の中その経営に関与し、当面する被告会社の木造町豚舎の悪臭問題に対処すべき立場にあること、その他酌量すべき一切の事情を考慮しても、本件各事案の実行者の刑事責任は重く、有利な事情は刑期で考慮し、懲役二年六月に処する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田秀樹 裁判官 山崎善久 裁判官 田邊三保子)

別紙(一)(1)

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙(一)(2)

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙(一)(3)

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙(一)(4)

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙(二)(1)

脱税額計算書

<省略>

別紙(二)(2)

脱税額計算書

<省略>

別紙(二)(3)

脱税額計算書

<省略>

別紙(二)(4)

脱税額計算書

<省略>

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