青森地方裁判所 平成3年(行ウ)6号 判決 2006年6月16日
主文
1 原告らのうち,別紙当事者目録記載の番号75から90までの原告らを除く者の訴えをいずれも却下する。
2 別紙当事者目録記載の番号75から90までの原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
略語例
以下,本判決においては,別紙「略語表」記載の略語を用いる。ただし,正式の用語を用いることもあるし,略語であることを本文中に明記することもある。
事実及び理由
第1部請求
第1原告らの請求
被告が日本原燃産業株式会社に対して平成2年11月15日付けでした「六ヶ所低レベル放射性廃棄物貯蔵センター」廃棄物埋設事業許可処分を取り消す。
第2被告の答弁
1 本案前の答弁
本件訴えをいずれも却下する。
2 本案の答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
第2部事案の概要
第1本件事案の概要
本件は,日本原燃産業株式会社が青森県上北郡六ヶ所村に「六ヶ所低レベル放射性廃棄物貯蔵センター」(低レベル放射性廃棄物を埋設の方法により最終的に処分する施設)を建設するために原子炉等規制法51条の2に基づいて廃棄物埋設事業の許可申請をしたことを受けて,内閣総理大臣が平成2年11月15日付けでその許可処分をしたことに対し,原告ら138名が,内閣総理大臣の地位を承継した被告を相手方として,その廃棄物埋設事業許可処分が違法である旨主張して,上記許可処分の取消しを求めているという事案である。
第2本件の中心的争点
本件の中心的争点は,次のとおりである。
1 全国各地や海外に居住する原告らの原告適格の有無
2 審理判断の枠組みに関する法律論
(1) 基本設計以外の事由の主張制限の当否
(2) 自己の法律上の利益に関係のない違法事由の主張制限の当否
(3) 放射性廃棄物埋設事業の許可処分の取消訴訟における司法審査の在り方
3 本件事業許可処分の手続的違法性の有無
(1) 原子炉等規制法の憲法13条,25条違反による無効・違法性
(2) 設計に関する具体的審査基準の欠如による違法性
(3) 特定廃棄物管理施設の管理事業許可を受けていないことの違法性
(4) 本件事業許可申請の審査者全面的指導による一部補正の違法性
(5) 不適格ななれ合い委員による審査の違法性
(6) 本件審査の密室性,秘密性及びずさんさによる違法性
(7) 本件廃棄物埋設施設の立地等の民主・公開の原則違反による違法性
(8) 農地法違反の土地取得による違法性
(9) むつ小川原開発第2次基本計画違反による違法性
(10) 当初から許可を前提とした審査による違法性
4 原子炉等規制法51条の3第1項2号の要件への適合性の有無
(1) 2号要件のうち経理的基礎に係る部分の適合性の有無
(2) 2号要件のうち技術的能力に係る部分の適合性の有無
5 原子炉等規制法51条の3第1項3号(災害防止)の要件への適合性の有無
(1) 基本的立地条件(自然環境,社会環境)
ア 自然環境
(ア) 地盤
a 支持地盤の強度
(a) 土質(砂岩)
(b) コア採取率,RQDの高さと地盤の強固さとの関係
(c) 地表近くの少ない箇所でのN値測定
(d) 少ない箇所での上限降伏値測定
(e) ボーリング調査結果の開示の不自然さ(隠ぺい疑惑)
b 断層の存在
(a) 最初の埋設事業許可申請におけるf-a断層及びf-b断層の隠ぺい
(b) f-a断層及びf-b断層が活断層である可能性
(c) f-a断層及びf-b断層が非活断層でも被害が増幅される可能性
(d) 鷹架層中部層混在部にある節理(ひび割れ)
(e) 本件廃棄物埋設予定地内に別の断層が存在する可能性
c 地すべり発生の可能性
d 脱水による地盤沈下等発生の可能性
(イ) 地震
a 地震リストの改ざんの有無
b 震度階の検討の要否
c 中小地震による被害の検討について
d 青森県東方沖の大地震発生の可能性
e 活断層の存否
f 液状化現象
(ウ) 気象
a 豪雪
b 強風
(エ) 水理
a 洪水・津波
b シケ・濃霧
(オ) 地下水の放射能汚染等の可能性
a 地下水の放射能汚染の可能性
b 地下水の重金属汚染の可能性
イ 社会環境
(ア) 国家石油備蓄基地の危険性
(イ) 自衛隊三沢基地,米軍三沢基地の危険性
(ウ) 人口分布状況
(エ) 原子力施設の集中立地
(2) 本件廃棄物埋設施設に埋設する核燃料物質の性状等
ア 埋設する放射性廃棄物の放射能レベル
イ 原子炉等規制法施行令に定める放射能濃度上限等の実効性
ウ 廃棄体の表面の線量当量率
(3) 本件廃棄物埋設施設自体の安全性又は安全評価についての違法性
ア 平常時における線量当量評価の違法性
(ア) 仮蓋状態下の廃棄体等による被ばく
(イ) 施設廃棄物(液体)からの被ばく
(ウ) 地下水の流速の計算について
イ 段階管理における安全性に関する違法性
ウ 廃棄物埋設施設の覆土の問題点
エ アメリカの事故事例
オ 埋設体からの一挙的漏えいに伴う地下水等汚染による被ばく
カ 航空機の墜落等による廃棄体の一挙的漏出による被ばく
(4) 輸送中の事故
第3部前提事実
以下の事実は,括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨により認めることができるか又は当事者間に争いがない。
第1本件事業許可処分に至る経緯等
1 昭和63年4月の本件事業許可申請
昭和63年4月27日,日本原燃産業株式会社は,低レベル放射性廃棄物を埋設の方法により最終的に処分する施設として,青森県上北郡六ヶ所村に「六ヶ所低レベル放射性廃棄物貯蔵センター」を建設するために,内閣総理大臣に対し,原子炉等規制法51条の2,同法施行令13条の8,廃棄物埋設事業規則2条の規定に基づき,低レベル放射性廃棄物埋設の事業許可申請をした(乙1)。
2 本件事業許可申請に対する審査の経過
(1) 内閣総理大臣の科学技術庁に対する審査指示
内閣総理大臣は,本件事業許可申請を受けた後,直ちに,その指揮の下に所部の機関である科学技術庁に対し,本件事業許可申請に係る審査を指示した。これを受けて科学技術庁は,自ら審査を進めると同時に,本件事業許可申請が原子炉等規制法51条の3第1項3号所定の許可要件(下記参照)に適合するかどうかについて,原子力安全技術顧問の意見を聴く必要があるものと判断し,専門技術的見地からの各顧問の意見を聴取した(乙42,A証言)。
記
原子炉等規制法51条の3第1項
「内閣総理大臣は,前条第一項の許可の申請があった場合においては,その申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,同項の許可をしてはならない。
一 その許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと。
二 その事業を適確に遂行するに足りる技術的能力及び経理的基礎があること。
三 廃棄物埋設施設又は廃棄物管理施設の位置,構造及び設備が核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物による災害の防止上支障がないものであること。」
(2) 科学技術庁審査中における本件事業許可申請の一部補正
科学技術庁による審査中,原燃産業は,内閣総理大臣に対し,平成元年10月27日及び平成2年2月21日の2回にわたって,本件事業許可申請の一部補正をした(乙2,3)。
(3) 原子力委員会及び原子力安全委員会に対する各諮問
平成2年2月21日,科学技術庁は,本件事業許可申請が原子炉等規制法51条の3第1項各号所定の前記許可要件に適合するものと判断した。
そこで,内閣総理大臣は,同日,その意見(乙37の2の別紙,別添〔科学技術庁の安全審査書〕)を付した上で,原子炉等規制法51条の3第2項に従い,同条第1項1号及び2号のうち経理的基礎に係る部分の許可要件への適合性については原子力委員会に対して,同項2号のうち技術的能力に係る部分及び同3号(災害防止)の許可要件への適合性については原子力安全委員会に対して,それぞれ諮問をした(乙9の1から3まで,乙11の1から3まで)。
(4) 原子力安全委員会の安全審査会に対する調査審議の指示
平成2年2月22日,原子力安全委員会は,安全審査会に対し,本件事業許可申請の原子炉等規制法51条の3第1項3号(災害防止)の許可要件への適合性についての調査審議を指示した(乙37の1)。
(5) 安全審査会の第27部会設置による調査審議
これを受けて,第35回安全審査会は,平成2年3月14日,その担当部会として第27部会を設置した(乙38の1)。そして,その第27部会は,平成2年3月14日以降,施設評価ワーキンググループ及び被ばく評価ワーキンググループを設けるとともに,9回にわたって調査審議を行った(乙38の12)。
(6) 安全審査会審査中における本件事業許可申請の3回目の一部補正
安全審査会による審査中の平成2年9月19日,原燃産業は,本件事業許可申請について3回目の一部補正をした(乙4)。
(7) 第27部会の報告
安全審査会の第27部会は,平成2年10月12日の部会において,本件廃棄物埋設事業の許可後の安全性を確保することができる旨の部会報告を決定した(乙38の12)。
(8) 安全審査会の原子力安全委員会に対する報告
安全審査会は,平成2年10月19日,第27部会の上記報告(乙38の12)を受けて調査審議をした結果,本件廃棄物埋設事業の許可後の安全性を確保することができるものと判断し,この旨を原子力安全委員会に対して報告した(乙38の15)。
(9) 原子力安全委員会の内閣総理大臣に対する答申
原子力安全委員会は,平成2年4月26日,青森県上北郡六ヶ所村において,本件事業許可申請に係る廃棄物埋設の事業について公開ヒアリングを開催し,意見を聴取した(乙37の12)。
また,原子力安全委員会は,本件事業許可申請の原子炉等規制法51条の3第1項2号のうち技術的能力に係る部分の許可要件への適合性について審議をし,安全審査会の上記報告を踏まえて同項3号(災害防止)の許可要件についても審議をした。
以上の第27部会,安全審査会及び原子力安全委員会の調査審議の結果,原子力安全委員会は,平成2年11月1日,内閣総理大臣に対し,本件事業許可申請が上記各許可要件に適合しているものと認める旨の答申をした(乙12の1から3まで,乙37の9・10)。
(10) 原子力委員会の内閣総理大臣に対する答申
他方,原子力委員会は,本件事業許可申請の原子炉等規制法51条の3第1項1号及び2号のうち経理的基礎に係る部分の許可要件への適合性について審議をし,平成2年11月2日,内閣総理大臣に対し,本件事業許可申請が上記各許可要件に適合しているものと認める旨の答申をした(乙10の1から3まで)。
(11) 内閣総理大臣の通商産業大臣との協議
内閣総理大臣は,平成2年11月6日から同月9日まで,通商産業大臣と協議をした(乙42,A証言)。
3 平成2年11月の内閣総理大臣による本件事業許可処分
内閣総理大臣は,本件事業許可申請が原子炉等規制法51条の3第1項各号の許可要件に適合するものと判断し,本件事業許可申請から約2年半後の平成2年11月15日,原燃産業に対し,低レベル放射性廃棄物埋設の事業許可処分をした。
第2当事者の地位や変更等
1 原告らの居住地
原告らの居住地は,近くは本件廃棄物埋設施設がある青森県上北郡六ヶ所村から,遠くは国外のロンドン市内まで様々である。
2 内閣総理大臣から経済産業大臣への被告の地位の変更
平成13年1月6日施行の中央省庁等改革関係法施行法(平成11年法律第160号)904条により,原子炉等規制法51条の3に基づく廃棄物埋設事業許可が内閣総理大臣の権限から被告(経済産業大臣)の権限と改められるとともに,上記施行法1301条1項により,同法施行前に法令の規定に基づき内閣総理大臣がした廃棄物埋設事業許可については被告がしたものとみなされることとなった。これにより,内閣総理大臣が平成2年11月15日にした本件事業許可処分も,被告がしたものとみなされ,被告は,その取消訴訟につき被告適格を有している(なお,平成16年法律第84号による改正前の行訴法11条1項,附則3条参照)。
3 原燃産業の合併
本件事業許可申請をした日本原燃産業株式会社(原燃産業)は,平成4年7月1日,日本原燃サービス株式会社と合併し,日本原燃株式会社(日本原燃)となった。
第3本件の低レベル放射性廃棄物埋設事業を理解するための前提事項
1 放射線の性状等(乙7,弁論の全趣旨)
(1) 放射線,放射能及び放射性物質(乙7の11頁以下)
ア 放射線とは,①アルファ線(プラス電荷粒子を持つもの),ベータ線(マイナス電荷粒子を持つもの),中性子線等の粒子線(原子,中性子,電子等の粒子が細い幅でほぼ一定の方向に飛ぶ流れ)と,②ガンマ線,エックス線等波長の非常に短い電磁波との総称である。
イ 陽子数と中性子数の割合が不適当であったり,陽子数がある程度以上多いことにより安定的に存在することができない原子核は,原子核内部で変化を起こし,何らかの粒子やエネルギーを放出する。このとき原子核が放出する粒子やエネルギーを放射線という。もっとも,原子核は,基本的にはそのままの状態で核分裂や核融合を起こすことはなく,外部から中性子が飛び込むなどして不安定な状態になった場合に核分裂を起こし,膨大なエネルギーを発生させる(乙A4の20頁)。
ウ この放射線の種類は,原子核の変化の仕方に応じて異なっている。
エ そして,このように原子核の状態が変化して放射線を出す能力を放射能といい,放射能を有する物質を放射性物質という。
(2) 放射線に関する量と単位(乙7の26頁以下)
ア 放射線に関する量としては,放射線量(吸収線量),線量当量,放射能量等があり,その単位としては,グレイ,シーベルト,ベクレル等がある。
イ 放射線量・吸収線量(グレイ・ラド)
物質が吸収した放射線量(吸収線量)は,ある物質が放射線の照射によりエネルギーを吸収したときのその物質の単位量当たりのエネルギー量であり,その物質1キログラム当たり1ジュールのエネルギーを吸収したときにその吸収した放射線量を1グレイ(Gy)という。グレイは,国際単位系に属しており,このほかに吸収線量を表す単位としてはラド(rad)があり,1ラドは,1.0×10–2グレイに相当する。
ウ 線量当量(シーベルト・レム)
放射線の人体に対する生物学的影響は,同じ吸収線量(グレイ値)の場合でも,放射線を受ける組織の感受性が様々であり,放射線の種類やエネルギーによっても影響力が異なることから,放射線被ばくの影響を計る共通の尺度として,人体に対する生物学的影響を表す放射線量(線量当量)が用いられ,その単位はシーベルト(Sv)である。シーベルトは,グレイと同じく国際単位系に属しており,このほかに線量当量を表す単位としてはレム(rem)があり,1レムは,1.0×10–2シーベルトに相当する。なお,線量当量に関しては,放射線の人体に与える影響が放射線を受ける組織によって異なるため,各組織が受けた線量当量に組織ごとに定められた係数を乗じて補正したものの合計値として実効線量当量という概念が用いられるほか,ある特定の組織(例えば眼の水晶体)が受けた平均的な線量に線質係数(放射線の人体に与える影響が放射線の種類及びエネルギーによって異なることから,この違いを補正するための係数)を乗じたものとして組織線量当量という概念もある(単位は同じ。)。
エ 放射能量(ベクレル・キュリー)
放射能量は,単位時間当たりの原子核の崩壊数に着目して表される放射性物質の量であり,原子核が1秒間当たり1個崩壊する放射性物質の量(放射能量)を1ベクレル(Bq)という。ベクレルは,国際単位系で定められた単位であり,このほかに放射能量を表す単位としてキュリー(Ci)があり,1キュリーは,3.7×1010ベクレルに相当する。
(3) 放射線の性質
放射線のうち,ガンマ線等の電磁波は,その透過力が非常に大きく,これを遮へいするためには一般的に厚い鉛板やコンクリート壁が必要である。
また,粒子線のうち,アルファ線は,その透過力が極めて小さく,空気中でも数cm程度しか透過することができず,薄い紙1枚で完全に遮へいすることができる。ベータ線は,その透過力がアルファ線よりもかなり大きいが,空気中でも数十cmないし数m程度しか透過することができず,数mmないし1cm程度のアルミニウムやプラスチックの板で完全に遮へいすることができる(乙A4の58頁,59頁)。
(4) 放射線被ばくによる影響
ア 自然放射線と人工放射線による被ばく
(ア) 自然界にはあらゆるところに放射線が存在し,これを特に自然放射線という。自然放射線による一人当たりの線量は,居住地域や生活様式等によってかなりの差異を生ずるが,世界平均で年間2.4ミリシーベルト程度であるとされている(乙A4の59頁)。東京とニューヨークを航空機で往復すると宇宙線からの線量が増加し,1回当たり0.2ミリシーベルト程度を被ばくするとされている(乙A4の60頁)。
(イ) 人工放射線による被ばく
自然放射線以外に人の被ばくの原因となっている人工的な放射線を人工放射線という。例えば,医療用として,胸部レントゲン間接撮影の場合には1回当たり約0.05ミリシーベルト程度を,胃の集団検診の場合には1検査当たり約0.6ミリシーベルト程度を,胸部X線コンピュータ(1回)・断層撮影検査(CTスキャン)の場合には約6.9ミリシーベルトを,それぞれ被ばくする(乙A4の60頁)。
イ 放射線被ばくの確定的影響と確率的影響
(ア) 確定的影響
ICRP(国際放射線防護委員会)は,人体に現れる放射線被ばくの影響について,確定的影響と確率的影響に大別し,それぞれ防護の考え方を示している。確定的影響とは,しきい線量(障害が発生する最小の被ばく線量)が障害ごとに存在し,この線量を超えて被ばくした場合にのみ障害が現れ,この線量以下の低い線量では障害が発生しないことが明らかになっているものをいう(乙A4の61頁)。例えば,白内障による視力障害のしきい線量は5シーベルトとされている。確定的影響については,個人の被ばく線量をしきい線量以下に抑えることにより,放射線障害の発生を未然に防ぐことができるとの考え方が取られている。
(イ) 確率的影響
確率的影響とは,放射線被ばくによりすべての人に影響が必ず現れるというものではなく,被ばく線量の増加とともに影響の発生確率が増加するとされているものをいう。一部のがんと遺伝的影響がこれに当たる(乙A4の61頁)。確率的影響については,放射線防護の立場から,その影響が明らかになっていない低い線量であっても被ばく線量に比例した影響が発生し,しきい線量は存在しないという安全側に立った慎重な考え方を採用した上で,放射線による確率的影響のリスクを容認できるレベルに制限するという考え方が取られている。
(ウ) 一度に大量の放射線を被ばくしたときの影響
全身で1000ミリシーベルト程度を被ばくすると,急性放射線症の症状として10%程度の人に悪心,嘔吐が現れ,全身で7000から1万ミリシーベルトを被ばくすると,死亡に至るとされている(乙A4の60頁)。
また,大量の放射線の被ばくによる影響は,発生する時期により,白血球の減少などの数十日以内に現れる早期影響と,白内障,白血病,がんなどの晩発影響とに分けられる(乙A4の61頁)。
ウ 一般公衆の線量限度
ICRPは,数多くの知見に基づいて放射線防護に関する考え方をまとめ,多くの勧告を発表してきており,国際的に権威あるものとして認められている。我が国を始め,世界各国とも放射線防護のための線量限度としては,ICRPの勧告値を採用している(乙A4の65頁)。
本件事業許可処分当時の線量当量限度は,ICRPの1985年パリ声明(公衆の構成員に関する主たる実効線量当量の限度を年間1ミリシーベルトとしたもの)等に基づき線量当量限度を定める件等により規定されており,周辺監視区域外の一般公衆の実効線量当量は,年間1ミリシーベルトとされている。
さらに,ICRPは,1977年勧告において,原子力施設による被ばくは,合理的に達成できる限り低く保たれなければならないという,いわゆるALARA(As Low As Reasonably Achievable)の原則を勧告しており,我が国においても当該原則に基づいて原子力施設の設計上の対策が講じられている。
(5) 放射能の減衰
放射性物質が放射線を放出する量は,時間の経過とともに少なくなる。この現象を放射能の減衰という。放射能の減衰の仕方は,それぞれの放射能物質に固有のもので,多様であるが,コバルト60であれば約5年,セシウム137であれば約30年の経過によりその放射能が半分になる。このように放射能が半分になるまでに要する時間のことを半減期という(乙A4の47頁)。
2 核燃料サイクルと低レベル放射性廃棄物
(1) 核燃料サイクル(乙5,6,弁論の全趣旨)
ア 核燃料は,ウラン鉱石の採鉱に始まり,製錬,転換,濃縮,再転換,成型加工の各工程を経て,原子炉施設に装荷し得る燃料集合体となり,原子炉施設において発電等に使用された後にも,更に使用済核燃料の再処理という工程を経ることにより,繰り返し利用することができるようになる。この各工程により,核燃料の流れが循環することから,これらを合わせて「核燃料サイクル」と呼んでいる。
イ 現在進められている一般的な核燃料サイクルの概略は,次のとおりである(別紙「核燃料サイクルの概念図」参照)。
まず,ウラン鉱石を鉱山から採掘し(採鉱),次に,この採鉱されたウラン鉱石からウランを取り出して精製し,粉末状のイエローケーキと呼ばれるウラン精鉱にする工程(製錬)を経た後,ウラン濃縮をするために,このイエローケーキを六フッ化ウランにする工程(転換)を経る。この六フッ化ウラン中にあるウランの同位体であるウラン235のウラン全体量に占める比率を高め,更に濃縮した六フッ化ウランを成型加工するために粉末状の二酸化ウランにした上(再転換),この二酸化ウランを焼き固めてペレットと呼ばれる状態にし,これを金属製の被覆管に封じ込め,燃料集合体として組み立てる(成型加工)。これらの各工程を経て,原子炉施設に装荷し得る燃料集合体を製造する。そして,原子炉施設において発電等に使用された使用済核燃料についても,燃え残りのウラン及び新たに生成されたプルトニウム並びに核分裂生成物等に分離する工程(再処理)を経ることにより,ウラン及びプルトニウムを回収し,これらを再び原子炉の燃料として利用する。これが核燃料サイクルの概略である。
(2) 核分裂連鎖反応の意義等(乙A4の20頁以下)
ア ウラン235などの原子核は,外部から入ってきた中性子が当たるなどのきっかけにより複数の異なる原子核に分裂するとき,中性子を放出する。この中性子で次の核分裂を引き起こすようにし,これを繰り返していくと,核分裂が継続する状態となり,これを核分裂連鎖反応という。
イ 1回の核分裂で発生した複数個の中性子のうち,1つのみが次の核分裂を引き起こす状態,つまり核分裂を引き起こしたのと同数の中性子が次の核分裂を引き起こすという状態では,核分裂の数が常に一定に保たれる。この状態を臨界という。
他方,核分裂を引き起こした数よりも多い中性子が次の核分裂を引き起こし,核分裂を起こす原子核が増加していく状態を臨界超過という。
ウ ウランを用いた原子爆弾は,ウラン235の割合が100%に近いものを使用し,核分裂で発生したままの早い状態の中性子によって次の核分裂を引き起こさせるため,非常に短い時間で核分裂数を倍増させ続けることになり,一瞬のうちにほとんどのウランを核分裂させ,爆発的なエネルギーを放出させる。
エ これに対し,原子力発電の運転においては,核分裂の数を一定にして臨界の状態を維持し,その出力を一定に保つため,①燃料としてはウラン235の割合が3~5%のものを使用し,②中性子を吸収する働きのあるウラン238を燃料中の大部分として用い,③発生した中性子の速度を遅くしてから次の核分裂をさせるような設計とし,④軽水炉型原子力発電においては燃料の温度が上がることにより自然と核分裂が抑えられるように自己制御性を持った設計を行い,⑤核分裂を引き起こす中性子数をコントロールすることができる制御棒を備えるなどしており,原子爆弾とは根本的に異なる仕組みを採用している。
オ 一般電気事業用の発電量に占める原子力発電の割合は,平成16年度において約29%である(乙A4の11頁)。
(3) 低レベル放射性廃棄物
ア 低レベル放射性廃棄物の意義
(ア) 放射性廃棄物とは,一般的には,核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物で,廃棄しようとするものをいう。
(イ) この放射性廃棄物は,高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物とに区分される。このうち,高レベル放射性廃棄物とは,再処理の過程において使用済核燃料から分離される放射能レベルの高い廃液又はそれをガラス固化したものをいう。また,低レベル放射性廃棄物とは,高レベル放射性廃棄物以外の放射性廃棄物をいう。この低レベル放射性廃棄物は,ウラン燃料の製造加工(転換,濃縮を含む。)施設,原子炉施設,再処理施設,各種研究施設等から発生するものである。例えば,濃縮廃液(原子力発電所内で使用した雑用水,作業衣類などの洗濯廃液等の液体廃棄物を蒸発濃縮処理したもの),使用済樹脂(原子力発電所内で使用した雑用水,作業衣類などの洗濯廃液等を浄化するために使用したイオン交換樹脂),焼却灰(原子力発電所で使用した紙,布等を焼却したもの)等をセメント等で固めたもの等である(乙A4の46頁以下,63頁以下)。
イ 低レベル放射性廃棄物の処理処分方法の状況
(ア) 原子炉の運転に伴って発生する低レベル放射性廃棄物のうち,気体状のもの及び一部の液体状のものは「線量当量限度等を定める件」に定める基準値を下回ることを確認した上で,施設の外に放出されている。
(イ) しかし,それ以外の液体状のもの及び固体状のものは,濃縮,焼却,固化等の処理が行われて,各施設の敷地内に貯蔵されている。原子力発電所において貯蔵されている固体状の低レベル放射性廃棄物の平成17年3月末の保管量は,200lドラム缶に換算して約54万本である(乙A4の49頁)。
(ウ) これらの固体状の低レベル放射性廃棄物については,陸地処分及び海洋処分を行うことが基本的な方針とされている。
(エ) このうち,陸地処分とは,原子力発電所等から発生する低レベル放射性廃棄物を浅い地中に埋設した後,放射能の低減により被ばく管理の観点からは埋設場所の管理を必要としないものと認められるまでの間,一般公衆に与えるおそれのある放射線被ばくの程度等を勘案しながら所要の管理を行い,処分する方法である。
(オ) 他方,海洋処分については,昭和60年9月の第9回ロンドン条約締約国会議において,科学的な検討のみならず,政治的,社会的な検討を含む広範な調査,研究を終了するまで,これを一時停止するとの決議がされた。このため,日本としては,海洋処分については,関係国の懸念を無視してはこれを行わないとの従来よりの方針に従い,関係諸国とも協議をしつつ対処することとしている。
第4本件廃棄物埋設施設の概要(乙1から4まで)
1 本件廃棄物埋設施設の位置
別紙「検証見取図第1」記載のとおり,青森県下北半島南部の上北郡六ヶ所村大石平にある標高30mから60mの丘陵地帯に,本件廃棄物埋設施設を設置する日本原燃六ケ所事業所(以下「本事業所」という。平成5年4月14日に「六ヶ所濃縮・埋設事業所」と名称変更された。)を設ける。本事業所南側は尾駮沼に面しており,本事業所からの距離は,近接集落である野附地区までが約1.5km,青森市までが約80km,三沢市までが約40kmである(乙1の3頁)。
2 本件廃棄物埋設施設に埋設する核燃料物質等の性状等
(1) 本件廃棄物埋設施設で埋設を行う放射性廃棄物は,原子力発電所において発生する放射性廃棄物及び本件廃棄物埋設施設の操業に伴って付随的に発生する放射性廃棄物をセメント,アスファルト又は不飽和ポリエステル樹脂を用いて容器内に均一に固型化したものであり(乙1の1頁,乙3の1頁),その表面の線量当量率は10mSv/hを超えないものである(乙3の5頁,乙2の6-14)。また,その8割以上をセメントで固型化することとし(乙2の1頁,乙4の8頁),その数量を最大4万m3(200lドラム缶20万本に相当する量)とする(乙1の1頁,乙2の1頁)。
(2) 廃棄物埋設を行う放射性廃棄物に含まれる主要な放射性物質の受入れ時における最大放射能濃度及び総放射能量は,別紙「最大放射能濃度及び総放射能量表」(本件事業許可申請書平成元年10月27日付け一部補正書〔乙2〕の6頁)のとおりである。
3 本件廃棄物埋設施設の構造及び設備の概要
(1) 本件廃棄物埋設施設の基本構成
本件廃棄物埋設施設の基本構成は,①埋設設備,排水・監視設備及び覆土(埋設設備とその上面及び側面を覆う土砂等)により構成される廃棄物埋設地と,②放射性廃棄物の受入れ施設,放射線管理施設等により構成される廃棄物埋設地の附属施設(以下「附属施設」という。)とする(乙1の3頁以下,乙2の1頁)。
(2) 本件廃棄物埋設物施設の位置等
別図1「六ヶ所事業所の敷地」記載のとおり,敷地のほぼ中央北寄りに廃棄物埋設地を設け,現造成面を約14m(標高32m)ないし19m(標高26m)掘り下げて,本件廃棄物埋設設備を設置する(乙2の5-18)。また,その東側には,その内部に放射性廃棄物の受入れ施設等の主要な附属施設を収納する低レベル廃棄物管理建屋(以下「管理建屋」という。)を設置する。
(3) 廃棄物埋設地の具体的な説明
ア 廃棄物埋設地については,鷹架層を掘り下げて,鉄筋コンクリート造の埋設設備を40基設置する。上記埋設設備1基につき,放射性廃棄物を容器に固型化したもの(以下「廃棄体」という。)約1000m3(200lドラム缶約5000本相当)を埋設することとし,この埋設設備5基をもって埋設設備群を構成する。そして,その埋設設備群の8群をもって本件廃棄物埋設地を構成する。この埋設設備群については,それぞれ東西方向に並行に配列する(別図2「埋設設備群の配置図」。乙1の5頁)。
イ 埋設設備については,鉄筋コンクリート造の外周仕切設備,内部仕切設備及び覆いにより構成し,その外形寸法については,平面で約24m2,高さで約6mとする(乙2の8頁,5-18)。内部仕切設備により埋設設備の内部を16区画に区画する。各区画内には,廃棄体を定置した後,空げきが残らないようにセメント系充てん材を充てんする(乙2の8頁,5-18)。
外周仕切設備及び覆いと廃棄体との間には,上記セメント系充てん材の層を設け,更にその外側には,排水・監視設備として,浸入してきた水を排水できるよう十分な機能を有するポーラスコンクリートの層及び排水管を設けるとともに,排水状況の監視・点検のため埋設設備群周囲に点検路を設けるものとする(別図3-1「埋設設備の平面図」,別図3-2「埋設設備の断面図」,別図3-3「埋設設備の鳥かん図」,乙2の8頁,5-19)。排水・監視設備からの排水は,放射性物質の濃度を測定し,必要に応じ適切な処理をすることとする(乙2の4頁)。
埋設設備の上面及び側面には,廃棄物埋設地の周辺の土壌等に比して透水性が大きくならないように土砂等を締め固めながら,埋設設備上面からの厚さが6m以上となるように覆土を施すこととする。覆土のうち,埋設設備設置地盤から埋設設備上面2mまでの間の覆土の透水性については,これを鷹架層の平均的な値より小さくすることとする(乙2の8頁,5-19,6-2)。
ウ 廃棄物埋設地における廃棄体の最大埋設能力は,4万0960m3(200lドラム缶20万4800本相当)である。
(4) 附属施設の具体的な説明
以下の各施設により附属施設を構成する。
ア 管理建屋
管理建屋とは,附属施設のうち,放射性廃棄物の受入れ施設,液体廃棄物の廃棄施設,固体廃棄物の廃棄施設等の一部又は全部が収納される建物であって,地上2階,建築面積約3600m2の鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄筋コンクリート造及び一部鉄骨造)とする(乙2の3頁)。管理建屋の換気空調設備については,非管理区域系と管理区域系とに区分して給排気をすることができる構造とする(乙1の4頁)。
イ 放射性廃棄物の受入れ施設
放射性廃棄物の受入れ施設については,廃棄体取扱い設備,廃棄体一時貯蔵室等により構成する。放射性廃棄物の受入れ施設の主要な機器として,一時貯蔵天井クレーン,コンベア,埋設クレーン等を設ける。受け入れる放射性廃棄物の最大受入れ能力は,1年当たり約1万m3(200lドラム缶5万本相当)である。また,放射性廃棄物の受入れ施設の廃棄体の一時貯蔵能力は,約640m3(200lドラム缶約3200本相当)である(乙1の6頁)。
ウ 放射線管理施設
屋内における放射線管理用の主要な設備として個人管理用測定設備,放射線監視・測定設備及び試料分析関係設備を,また,屋外における放射線管理用の主要な設備として個人管理用測定設備,放射線監視・測定設備,放射線管理設備,試料分析関係設備等を,それぞれ設けるものとする(乙1の7頁,乙2の11頁)。
エ 液体廃棄物の廃棄施設
液体廃棄物処理設備については,附属施設において分析等の作業の際に発生する廃液,排水・監視設備からの排水等を収集し,必要に応じてろ過等の処理を行った後,放射性物質の濃度が「線量当量限度等を定める件」に定める周辺監視区域外の水中の濃度限度(9条)を十分に下回ることを確認してから,施設外へ放出する構造とする(乙1の8頁,乙2の4頁)。
液体廃棄物処理設備の主要な設備については,収集タンク,ろ過装置(ろ過器・脱塩塔),サンプルタンクを設け,その処理能力を3時間単位で3m3とする。また,排水口の位置については,管理建屋南側約1kmの尾駮沼に接する地点とする(乙1の8頁)。
オ 固体廃棄物の廃棄施設
本件廃棄物埋設施設において発生する可能性がある固体廃棄物は,使用済樹脂,使用済フィルタ,布,紙等である。固体廃棄物処理設備については,使用済樹脂等を廃棄物埋設地に埋設することができるように,ドラム缶にセメント固化をすることができる構造とし,また,使用済フィルタ,布,紙等をドラム缶に詰めた後,管理建屋内に保管廃棄をすることができる構造とする(乙1の8頁以下)。
固体廃棄物処理設備の主要な設備については,使用済樹脂等をドラム缶にセメント固化するための使用済樹脂受タンク,固化装置とし,その処理能力については,発生の予想される使用済樹脂等をドラム缶にセメント固化をするのに十分な対処をすることができるものとする。また,固体廃棄物の最大保管廃棄能力を200lドラム缶で80本相当とする(乙1の9頁)。
4 本件廃棄物埋設施設における埋設の方法の概要
廃棄物埋設は,原子力発電所から受け入れた廃棄体及び本件廃棄物埋設施設の操業に伴って付随的に発生する廃棄体であって,廃棄物埋設事業規則8条に定める廃棄体の技術上の基準を満足するものを対象とし,以下の方法で行うこととしている(別図4「埋設作業工程」)。
(1) 廃棄体定置
排水等の必要な措置を行った埋設設備の区画内に,外部放射線に係る線量当量の低減を考慮しながら廃棄体を定置する。定置に当たり,雨水等の浸入を防止し,埋設設備の点検を行うとともに,放射性物質濃度の高い廃棄体を極端に集中して配置しないように配慮し,また,セメントで固型化したもの以外の廃棄体(アスファルト又は不飽和ポリエステル樹脂で固型化したもの。)を極端に偏って配置しないように配慮する(乙2の13頁,6-2,乙4の8頁)。
(2) 充てん材充てん
廃棄体の定置終了後,速やかに仮蓋(約50cm厚コンクリート板相当。ただし,寒冷時定置分は60cm厚コンクリート板相当〔乙3の4頁〕)をし,その後順次埋設設備の区画内にセメント系充てん材を充てんする。なお,寒冷時にはセメント系充てん材は,充てんしない(乙2の6-2)。
(3) 覆い設置
充てん材の充てん後,順次仮蓋を取り外し,埋設設備の区画上部に覆いを設置する(乙2の13頁)。
(4) 覆土
覆い設置が終了した埋設設備の上面及び側面は,土砂等を締め固めながら順次覆土を行う。これらの覆土は,寒冷時には施工しない(乙2の13頁,6-2)。
5 放射能の減衰に応じた保安のために講ずべき措置の変更予定時期
本件廃棄物埋設地の管理を実施するに当たり,原子力安全委員会が昭和63年3月17日に定めた「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」(乙14の6)に従って第1段階,第2段階及び第3段階を設定する。各段階に応じた廃棄物埋設についての保安のために講ずべき措置の変更予定時期を,以下のとおり設定する(乙2の15頁)。
(1) 第1段階
周辺監視区域(周辺監視区域とは,廃棄物埋設施設及びその周辺の区域〔管理区域を除く。〕であって,当該区域の外側のいかなる場所においてもその場所における線量当量が科学技術庁長官の定める線量当量限度を超えるおそれのないものをいう〔廃棄物埋設事業規則1条4号〕。)及び埋設保全区域(埋設保全区域とは,廃棄物埋設地の保全のために特に管理を必要とする場所であって,管理区域以外のものをいう〔同規則1条5号〕。)を設定し,埋設設備外への放射性物質の漏出がないことの監視等を行う段階であって,その終了予定時期については,埋設を開始した後,10年を経過し15年以内の時点とする。
(2) 第2段階
周辺監視区域及び埋設保全区域を設定し,標識を設けるなどの必要な措置を講ずるとともに,放射性物質の環境への漏出状況を監視し,必要に応じて放射性物質移行抑制等の適正な措置を講ずる段階であって,その終了予定時期を第1段階終了後30年とする。
(3) 第3段階
埋設保全区域を設定し,標識を設けるなどの必要な措置を講ずる段階であって,その終了予定時期を第1段階終了後300年とする。なお,第3段階を終了するに当たっては,終了に係る措置について所管官庁の承認を得るものとする。
第5「安全審査の基本的考え方」等に基づく本件安全審査の概要
1 本件安全審査の審査基準(「安全審査の基本的考え方」)
本件安全審査は,「安全審査の基本的考え方」等に基づく安全審査を行うことにより,本件廃棄物埋設施設の基本設計ないし基本的設計方針が核燃料物質等による災害の防止上支障がないものであるかどうかを審査した。
2 安全性確保対策の4つの柱
本件安全審査は,「安全審査の基本的考え方」が次の4つの安全性確保対策を柱としているとの前提で行われた(乙14の6の688頁以下)。
(1) 第1は,廃棄物埋設施設についてその基本的立地条件に係る安全性確保対策が講じられていることである。すなわち,立地地点及びその周辺における自然環境及び社会環境(基本的立地条件)を検討して,当該施設の基本設計ないし基本的設計方針との関連において,廃棄物埋設施設に係る大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えることができず,また,万一,事故が発生しても災害を拡大するような事象の少ない立地地点が選定されていることである。
(2) 第2は,上記の基本的立地条件に起因する事象への対策のほか,廃棄物埋設施設自体の安全性確保対策が講じられていることである。すなわち,廃棄物埋設施設の耐震性,地震以外の自然現象に対する安全性,火災・爆発の防止,電源喪失に対する考慮等について,その基本設計ないし基本的設計方針において所要の安全性確保対策が講じられていることである。
(3) 第3は,廃棄物埋設施設の平常時における被ばく低減に係る安全性確保対策が講じられていることである。すなわち,廃棄物埋設施設の平常時において環境に放出される放射線及び放射性物質についても,これらによる一般公衆の線量当量を「線量当量限度等を定める件」に規定する周辺監視区域外の線量当量(1年間につき実効線量当量1ミリシーベルト)以下にすることはもちろんのこと,これを合理的に達成できる限り低減させるように,その基本設計ないし基本的設計方針において所要の被ばく低減対策が講じられていることである。
(4) 第4は,廃棄物埋設施設の「安全評価」が行われていることである。すなわち,廃棄物埋設施設において技術的にみて想定される異常事象が発生するとした場合でも,廃棄物埋設施設自体の安全性確保対策との関連において,一般公衆に対して,過度の放射線被ばくを及ぼさないことが確認されることである。
3 本件事業許可申請に対する本件安全審査の内容
本件廃棄物埋設施設に係る本件安全審査においては,主として本件事業許可申請書記載の「三 廃棄する核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の性状及び量」(原子炉等規制法51条の2第2項3号),「四 廃棄物埋設施設の位置,構造及び設備並びに廃棄の方法」(同項4号)及び「五 放射能の減衰に応じた廃棄物埋設についての保安のために講ずべき措置の変更予定時期」(同項5号)並びに同申請書の添付書類のうち「添付書類三 廃棄物埋設施設を設置しようとする場所における気象,地盤,水理,地震,社会環境等の状況に関する説明書」(廃棄物埋設事業規則2条2項3号),「添付書類四 廃棄物埋設施設を設置しようとする場所の中心から5km以内の地域を含む縮尺五万分の一の地図」(同項4号),「添付書類五 廃棄物埋設施設の安全設計に関する説明書」(同項5号),「添付書類六 核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物による放射線の被ばく管理及び放射性廃棄物の廃棄に関する説明書」(同項6号),「添付書類七 廃棄物埋設施設の操作上の過失,機械又は装置の故障,浸水,地震,火災等があった場合に発生すると想定される廃棄物埋設施設の事故の種類,程度,影響等に関する説明書」(同項7号)等に基づき,本件事業許可申請に係る廃棄物埋設施設が,その基本設計ないし基本的設計方針において,上記のような安全性確保対策が講じられているか否かが判断された。
その結果,本件調査審議においては,本件廃棄物埋設施設については,上記の安全性確保対策の考え方にのっとり適切な配慮がされているので,その安全性が確保されるものと判断され,原子力安全委員会の意見を尊重した被告(当時は内閣総理大臣)が本件廃棄物埋設事業の許可処分をした。
第4部当事者の主張
第1原告適格
1 被告の主張
(1) 原告適格に関するもんじゅ最高裁判決の判示基準
ア もんじゅ最高裁判決は,原子炉施設に係る設置許可処分を争う原告適格に関して,当該住民の居住する地域が,原子炉事故等に基づく災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域である場合には原告適格を肯定することができるとし,これを判断するための手法として,「当該原子炉の種類,構造,規模等の当該原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で,当該住民の居住する地域と原子炉の位置との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきものである」と判示している。
イ そうすると,廃棄物埋設事業許可に係る原子炉等規制法51条の3第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号が,単に公衆の生命,身体の安全等を一般的公益として保護しようとするにとどまらず,当該廃棄物埋設施設周辺に居住し,放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解した場合には,もんじゅ最高裁判決の上記判断手法は,原子炉施設のみならず,廃棄物埋設事業許可処分を争う原告適格の有無を判断する場合についても妥当する。ただし,それぞれの施設によりその潜在的危険性が異なるものであるから,本件においても,本件廃棄物埋設施設の種類,構造,規模等の具体的な諸条件によって認められるその潜在的な危険性の程度と,当該住民の居住する地域と施設との距離関係を合わせ考慮して,社会通念に照らし,原告適格の有無を判断すべきことになる。
(2) 本件の原告適格に対するもんじゅ最高裁判決判示基準のあてはめ
ア 本件廃棄物埋設施設は,原子力発電所から発生する廃液や使用済樹脂等のいわゆる低レベル放射性廃棄物をセメントやアスファルト等で容器に均一に固型化したもの(廃棄体)を,地面を掘り下げて設置される鉄筋コンクリート造の埋設施設に埋設し,放射能の低減等に応じて管理の内容を段階的に変更しつつ,最終的に処分する施設であって,核分裂反応を用いてエネルギーを発生させるものではない。また,本件廃棄物埋設施設に内蔵される放射能量は原子力発電所と比べてはるかに少ない上,その放射能量が時間の経過とともに急速に減少するのであるから,一般公衆に対して著しい放射線被ばくを与えることなどおよそ想定されない。
イ このように本件廃棄物埋設施設の有する潜在的な危険性は,もんじゅ最高裁判決で対象とされた原子炉施設と比較すれば,比べようのない程小さいものということができるから,社会通念に照らして合理的に判断するならば,関東地方,関西地方,九州地方及びロンドン市に居住する原告らについてはいうまでもなく,本件廃棄物埋設施設のある六ヶ所村に居住する原告らについても,その居住する地域が本件廃棄物埋設施設の放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住する者であるとはいえない。
ウ したがって,原告らは,本件事業許可処分の取消しを求める法律上の利益を有する者には該当せず,原告適格を欠く。
2 原告らの主張
廃棄物埋設事業許可に係る原子炉等規制法51条の3第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号は,当該廃棄物埋設施設周辺に居住し,放射能汚染事故により被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとしたものである。そして,本件廃棄物埋設施設は,原告らの生命,身体の安全等を侵害するおそれがあるから,原告らには原告適格がある。
なお,本件事業許可処分の取消判決が対世的効力を有することに照らすと,裁判所は,少なくとも原告らの中に明らかに原告適格のある者が存在することを確認した段階においては,原告全員について一々原告適格の有無を論じることなく,本案判断を行うべきである。
第2審理判断の枠組みに関する法律論
1 被告の主張
(1) 基本設計以外の事由の主張制限
ア 原子炉等規制法51条の2第2項及び廃棄物埋設事業規則2条1項各号に定められた廃棄物埋設事業許可申請書への記載事項が廃棄物埋設施設の基本的な事項や基本設計,基本的設計方針とされていること,廃棄物埋設事業の許可の制度(原子炉等規制法51条の2第1項1号)の後に,廃棄物埋設施設及びこれに関する保安のための措置についての確認の制度と,埋設しようとする核燃料物質等及びこれに関する保安のための措置についての確認の制度が設けられていること(同法51条の6)などにかんがみると,廃棄物埋設事業許可において安全審査の対象となる事項は,廃棄物埋設施設自体の安全性に直接関係する事項に限られ,かつ,廃棄物埋設施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関する事項に限られていることが明らかである。なお,原子炉等規制法において,最初の埋設事業許可のときにのみ原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を聴くべきものとされているのは,立法府の判断によるものであり,最初の事業許可の審査の段階で詳細設計も含めて審査されるという趣旨ではない。
イ そして,本件訴訟の審理の対象は,本件事業許可処分の違法性の存否,すなわち本件事業許可申請が原子炉等規制法51条の3第1項各号所定の許可要件に適合するとした内閣総理大臣の判断における違法性の存否であるから,本件訴訟の審理対象は,本件事業許可申請に対して内閣総理大臣のした同項各号所定の許可要件適合性審査の対象事項に限定されるのであり,同項3号についていえば,本件廃棄物埋設施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関する事項のみに限定される。
ウ それゆえ,廃棄物埋設施設自体の安全性に直接関係のない事項や,本件廃棄物埋設施設自体の安全性に関係する事項であっても,その詳細設計や具体的施設管理に関する事項は,本件訴訟の審理の対象にはならない。
エ そして,原子炉等規制法51条の3第2項の趣旨が,同条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号所定の要件の適合性について,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねるものであることにかんがみると,どのような事項が廃棄物埋設事業許可の段階における安全審査の対象となるべき当該廃棄物埋設施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関する事項に該当するのかという点も,上記の要件の適合性に関する判断を構成するものとして,同様に原子力安全委員会の意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的な判断にゆだねられていると解すべきである(もんじゅ第2次最高裁判決参照)。
(2) 取消訴訟における処分の違法事由の主張制限
ア 主観訴訟たる取消訴訟の本質は,行政庁の処分によって原告らの被っている具体的権利,法的利益の侵害の救済をすることにあるから,行訴法10条1項にいう「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは,行政庁の処分に存する違法のうち,原告らの個人的権利,利益の保護を目的として行政権の行使に制約を課するため設けられたのではない法規に違背したにすぎない違法をいう。
イ これを本件についてみると,原告ら主張の事由のうち,原子炉等規制法51条の3第1項2号の経理的基礎に関する要件についての事項及び同項3号の要件に関する事項であっても,それが原告ら自らの法律上の利益に関係のない本件廃棄物埋設施設の従業員の安全性に関する事項等は行訴法10条1項の適用により本件の審理対象とはならない。経理的基礎に関する要件は,廃棄物埋設の事業には多額の資金を要することにかんがみ,廃棄物埋設事業の計画が資金調達との関係で支障なく遂行されるか否かを確認することにより,原子力の開発及び利用の計画的な遂行という国益の実現を図ることを目的とするものである。
(3) 放射性廃棄物埋設事業の許可処分の取消訴訟における司法審査の在り方
ア 廃棄物埋設事業許可の許可基準のうち,本件訴訟の審理の対象である原子炉等規制法51条の3第1項2号のうちの技術的能力に係る要件及び同項3号の要件の審査には,高度の科学的,専門技術的な知見に基づく総合的な判断を要するのであり,本件事業許可処分は極めて科学的,専門技術的な知見に基づく総合的な判断を要する処分である。
イ そうであれば,本件訴訟における裁判所の審理,判断は,原子力安全委員会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かとの観点から行われるべきであって,当該申請者に技術的能力があるとした判断の過程や原子炉等規制法51条の3第1項3号の要件への適合性についての調査審議に用いられた具体的な審査基準に不合理な点があり,あるいは当該廃棄物埋設施設が上記の具体的な審査基準に適合するとしたその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合に初めて,被告行政庁の判断には,不合理な点があり,それに基づく当該廃棄物埋設事業許可処分が違法であるとして,これを取り消すことができる。
ウ したがって,本件訴訟の審理においては,いたずらに科学的,専門技術的な事項に踏み込むことなく,被告行政庁の高度の科学的,専門技術的な知見に基づく総合的な判断を前提とした上で,本件事業許可申請に対する原子力安全委員会の調査審議に用いられた具体的な審査基準に不合理な点があるか否か,あるいはその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落,又は著しい不合理があるか否かの点についてのみ審査するという方法により,本件事業許可処分の違法性の有無の審理,判断がされるべきである。
エ 違法判断の基準時と科学的経験則
原子炉等規制法24条1項3号所定の技術的能力の有無及び同条4号所定の安全性に関する各要件適合性について,被告行政庁の判断に不合理な点があるかどうかは,現在の科学技術水準に照らして決められるべきものとされているが(伊方最高裁判決),廃棄物埋設事業の許可後の新知見によって当該許可に当たって用いられた知見が誤っているとされる場合であっても,新知見を考慮してもなお基本設計ないし基本設計方針における安全確保対策によって廃棄物埋設施設の安全性を確保し得るのであれば,災害の防止上支障がない(同法51条の3第1項3号)ことに変わりがないから,当該許可は違法ではない。
オ 本来的な主張立証責任が原告にあること
被告行政庁は,まず,その依拠した具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等,被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づき主張,立証する必要があり,その主張,立証を尽くさない場合には,被告行政庁がした判断について不合理な点のあることが事実上推認される(伊方最高裁判決)。しかし,本件訴訟のように被告行政庁がその主張,立証を尽くしたような場合においては,本来の原則に従って,内閣総理大臣の要件適合性に関する判断に不合理な点があることの主張立証責任は,原告らにあることになる。
2 原告らの主張
(1) 基本設計以外の事由の主張制限の主張に対して
ア 基本設計論自体の誤り
放射性廃棄物に係る事故の危険性にかんがみれば,周辺住民の生命,健康を守るため,放射性廃棄物の輸送の問題も含め本件廃棄物埋設施設の操業により周辺住民に対して被害を与えないことが確認されない限り廃棄物埋設事業を許可しないことが求められているといわざるを得ない。また,廃棄物埋設施設の操業により周辺住民に対して被害を与えかねないか否かの判断は,事業許可を争う裁判において,一括して審理されなければならない。一つの訴訟で争い得る範囲を限定することは憲法32条(裁判を受ける権利の保障)の趣旨に反する。
「安全審査の対象事項が廃棄物埋設施設自体の安全性に直接関係する事項に限られ,かつ,廃棄物埋設施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関する事項に限られる。」旨の被告の主張は,原子炉等規制法には何ら根拠がなく,その立法時には全く想定されていなかった議論であり,被告が敗訴を免れるために各種原発関連訴訟の途中から主張するようになったものである。また,基本設計論は,被告自らがその定義や範囲を明らかにすることができないという恣意的な概念である。さらに,それは,被告が原子力安全委員会に詳細設計をも含めた全事項について安全審査を行わせているという実態にも反し,最初の事業認可以外には原子力安全委員会の審査(意見聴取)が法律上義務付けられていないことからみて,不当である。
イ 放射性廃棄物埋設事業許可処分における基本設計論の誤り
仮に,原子炉設置許可処分については基本設計論を採用したとしても,原子炉設置とは異なる廃棄物埋設については,被告主張の詳細設計を審査する手続は存在しないから,少なくとも廃棄物埋設の設計に関しては基本設計,詳細設計の区別がなく,すべてが安全審査の対象となっている。
(2) 取消訴訟における処分の違法事由の主張制限の主張に対して
ア 行訴法10条1項の意義を,被告の主張するように厳格に解釈すると,取消訴訟での審理が極めて煩瑣でかつ窮屈なものとなり,取消訴訟の包括的な行政の適法性統制機能が後退し,ひいては国民の権利救済機能を狭めるという重大な結果を招くものとなるから,不当である。
イ また,本件廃棄物埋設施設も含めた原子力施設の従業員が本件廃棄物埋設施設についての危険性を主張し,その権利主張をすることは極めて困難であるから,既に原告適格が肯認された後の審理の段階において,いたずらに行訴法を狭く解して本件廃棄物埋設施設の従業員の安全性についての主張制限を行うべきではない。
ウ また,六ヶ所村の住民は,本件廃棄物埋設施設を含む核燃料サイクル施設の建設,操業により主要産業である農業,漁業を破壊されてしまう上,他の産業もないために将来において上記施設により被ばく労働をして生活費を得るしかない状況に追い込まれる危険性があるから,少なくとも六ヶ所村在住の原告については,労働者被ばくの問題を自己の法律上の利益に関わる問題とすべきである。
(3) 本件事業許可処分の取消訴訟における司法審査の在り方の主張に対して
被告の主張を争う。
第3本件事業許可処分の手続的適法性
1 原告らの主張
(1) 原子炉等規制法の憲法13条,25条違反による無効・違法性
ア 放射性廃棄物の処理,処分については,放射能の危険の大きさと,五感の作用でその被ばくを察知することができないという放射能の特殊性にかんがみ,一般産業における廃棄物処理と比べてはるかに厳しい規制がされるべきである。
イ そうであるのに,原子炉等規制法は,廃棄物処理の一般原則である発生者責任の原則を放棄し,かつその規制内容も,本件廃棄物埋設施設で受け入れるセメント固化体に使用するセメントとしてJIS規格上の汎用セメントを指定するなど規制をしていないに等しく,また,セメント固化体の強度・耐久性を大きく左右する骨材についても何らの規制をしていない。さらに,放射能濃度や廃棄体の強度に関する規定は存在するものの,実際に受け入れる廃棄体がこの基準に合致しているか否かの確認に当たっては,放射能濃度や強度の測定を義務付けていない(廃棄物埋設事業規則7条1項4号,5号)。
ウ このように無内容な条件により放射性廃棄物の埋設事業の許可を与えてしまうような原子炉等規制法の規定は,施設周辺住民の人格権の尊重を保障した憲法13条の規定のみならず,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の保障を定めた憲法25条の規定にも抵触して無効であるから,無効な原子炉等規制法に基づいてされた本件事業許可処分も,違憲無効であって,違法である。
(2) 設計に関する具体的審査基準の欠如による違法性
原子炉等規制法上,廃棄物埋設施設においては,事業許可処分の後には,他の原子力施設とは異なり,設計及び工事方法の認可,使用前検査,溶接検査並びに定期検査が行われず,同法51条の6の「確認」(工事終了後の施設そのもの及び保安のための措置が廃棄物埋設事業規則6条に定める技術基準に合致するかどうかの確認)が行われるのみであって,設計に関する審査が行われない。したがって,廃棄物埋設施設については,事業許可の段階において被告主張の基本設計,詳細設計を問わず,設計に関する限りすべての事項を審査しなければならない。そうであるのに,廃棄物埋設施設に関する安全審査基準としては,あいまいで無内容な「安全審査の基本的考え方」があるのみであり,それでは原子炉等規制法が要求している審査が到底不可能であるから,そのような設計に関する審査基準のない状態で行われた本件事業許可処分は違法である。
(3) 特定廃棄物管理施設の管理事業許可を受けていないことの違法性
原子炉等規制法上,3.7テラベクレル以上の放射性廃棄物を埋設するまでの間に管理をする施設は,「特定廃棄物管理施設」とされ,その管理の事業については,埋設の事業のように事業許可の後に「確認」が行われるのみではなく,設計及び工事方法の認可,使用前検査,定期検査が必要とされ(同法51条の7,同法施行令13条の12),厳しい規制がされている。そのような法の趣旨に照らすと,廃棄物埋設の事業の附属施設として貯蔵が許される廃棄物は3.7テラベクレル未満のものに限られるというべきである。
そうであるところ,本件事業許可処分において許可された埋設の事業の中には,一時貯蔵能力が約640m3(200lドラム缶約3200本相当)の放射性廃棄物受入れ施設が存在し,受入れ予定の廃棄体の放射能濃度は,コバルト60についてだけでも最大2.78テラベクレル毎トンであって,200lドラム缶数本だけで3.7テラベクレルを超えることになるから,この受入れ施設は「特定廃棄物管理施設」に該当するというべきである。
ところが,そのような特定廃棄物管理施設を含む本件廃棄物埋設事業について,管理の事業許可はされていないから,そのような事業許可を欠いている原燃産業に対してした本件事業許可処分は違法である。
被告は,原子炉等規制法施行令13条の10(当時)において,廃棄物埋設事業者が廃棄物埋設施設において行う管理又は処理は,同廃棄物管理に該当しないと定められている旨主張するが,原子炉等規制法51条の2第1項2号は「管理」事業の定義を政令に委任しているとは文言上も解されないし,下位規範である政令が上位規範である法律で要求されている「管理」事業の許可の除外類型を規定するというのは不自然である。
(4) 本件事業許可申請の審査者全面的指導による一部補正の違法性
昭和63年4月にされた本件事業許可申請は,平成元年10月に①ピットの鷹架層までの掘り下げ,②構造の変更,③敷地内の2本の断層の容認の3点の一部補正がされているが,これらにより当初の申請内容は根本的に変わり,申請としての同一性を失っている。これは,審査者であるはずの科学技術庁や原子力安全委員会が,全面的に申請者を指導して不合格の申請書を書き替えさせることにより合格と変更するに等しいものであり,指導の限界を超えている。公正な立場で安全審査をすべき機関としては,補正を却下し,当初の申請を不許可として新たな申請をやり直させるべきであったから,それをしなかった不公正な本件事業許可処分は手続的に違法である。
(5) 不適格ななれ合い委員による審査の違法性
ア 原子力委員会は原子力の利用を推進する機関であるが,実質審議を担うその専門部会等には,電事連,電力会社及び日本原産会議をはじめとする原子力産業関係者が多数構成委員となっている。とりわけ,本件廃棄物埋設施設にかかわりの深い放射性廃棄物対策専門部会には,原燃産業の取締役まで委員として名を連ねている。
イ また,安全性を点検すべき原子力安全委員会にも,本件廃棄物埋設事業を推進する立場の専門家が加わっている。実質審議を担った核燃料安全専門審査会,放射性廃棄物安全基準専門部会には,原子力の開発・利用の促進を目的とする動力炉・核燃料開発事業団,日本原子力研究所及び財団法人原子力安全研究会の構成員をはじめとする推進派の名前が多数見受けられるだけでなく,他部会の委員を兼任する専門家も多い。
ウ このように多くのなれ合い委員が本件審査に関与しており,これらの委員に対して厳正中立な審査を求めることは至難の業であるから,本件事業許可処分は,手続的に違法である。
(6) 本件審査の密室性,秘密性,ずさんさによる違法性
ア 本件のような国民の生命,健康,財産と環境に重大な影響を与え,高度の科学的知識を要求される原子力施設の建設許否を判断する場合には,公正で合理的な結論を担保するために,事業許可申請書,添付書類その他の安全審査資料を公開し,その安全性に疑問を持つ関係住民や専門の科学者に十分な告知聴聞の機会を与え,その批判にさらすことが憲法21条(表現の自由)や公平原則・条理に基づき強く要請されるところであるが,そのための制度的保障もないし,実際にもそれらが履践されていない。本件では,基本的データが公開されないため,国民が本件審査の当否を判断することができない上,本件審査の前提条件が不明確であり,結論の根拠や理由付けも不十分である。
イ 本件審査において,原子力安全委員会,原子力委員会その他の関係機関の構成員は,定められた会議にほとんど出席せず,ごく限られた特定の委員らに審査を任せている。
ウ また,原子力安全委員会等の審査内容に関しても,その事後検証に不可欠な議事録等の記録が存在しないか又は不整備であって,ずさん極まりない。
(7) 本件廃棄物埋設施設の立地等の民主・公開の原則違反による違法性
ア 国の政策決定の非民主性
西欧諸国においては国民投票等で民意を問うた上での長期政策決定を義務付けているのに対し,我が国においては,将来世代にも多大な影響を与える原子力政策に関する決定が,事実上経済産業大臣の諮問機関である原子力委員会の審議のみによってされており,主権者である国民がその大切な政策決定過程から疎外されている。
イ 青森県民の合意形成の欠如
本件廃棄物埋設施設の立地選定についても,財政難に苦しむ六ヶ所村村長と青森県知事は,施設予定地周辺の住民や青森県民一般に対する事前の環境アセスメントや公聴会を実施せず,十分な県民合意を得ないまま,経済振興策,核燃料サイクル関連の税収のために,昭和60年電気事業連合会の核燃料サイクル施設六ヶ所村立地要請を受け入れた。その後,核燃料サイクル施設建設反対の住民運動が活発となり,平成3年2月の県知事選挙(稀にみる金権選挙)においては,建設推進派の知事が誕生したものの,白紙撤回と凍結の候補者が合わせて56%の投票数を獲得したことは,青森県民の意思が核燃料サイクル施設の建設反対にあることを如実に物語っている。青森県の農民は,りんご,米,野菜の生産,畜産,酪農等を行っているが,基準値を下回るかどうかを問わず,放射能汚染の発生や,風評被害により,深刻な打撃を受けることが明らかである。また,トイレなきマンションといわれる原子力発電に伴う廃棄物は,被告が主張するように危険性の低いものならば,全国の核のゴミを青森県に集める必要はなく,各地域で処理・処分をすれば足りるはずである。自分の庭のゴミを他人の庭に捨てることは誰しもが許さない。青森県は,縄文時代以前から人が住み,営々と文化を築いてきた土地であり,核のゴミ捨て場ではない。
ウ 本件安全審査資料等の非公開
申請書の備付け等形式だけの資料の一般公開は行われたものの,本件安全審査の基本に関わる肝心な書類や資料は,一切公開されなかった。特に,地盤,地質,地震,地下水等についての調査資料は,これを公開して国民による科学的な批判・検討にさらす必要があるのに,それがされなかった。
エ 環境アセスメントの欠落
本件廃棄物埋設施設について,住民が参加するかたちでの環境アセスメントが実施されていない。
オ 公開ヒアリングの欺まん性
平成2年4月26日に本件事業許可申請についての「公開ヒアリング」が開催されたが,意見陳述人16名はすべて「推進を前提とした質問」に終始し,明らかに推進側から「お願い」されたとおぼしきメンバーばかりであって,県民の意見を聴いたという既成事実を作り上げるためのものでしかなかった。
カ 以上のとおり本件事業許可申請及びその審査の過程は,原子力基本法の民主・公開の原則を踏みにじるものであるから,この点を看過した本件事業許可処分は違法である。
(8) 農地法違反の土地取得による違法性
本件廃棄物埋設施設の敷地は元々は農地であったが,むつ小川原開発公社が,石油精製・石油化学施設等及び10万人都市建設のために協力してほしいと県より要請されていた農民から,10アール当たり60万円前後で買収し,その後に上記計画が放棄されて当初の計画に反して巨大な核のゴミ捨て場を建設する目的で原燃産業がこれを買い受けたものである。しかし,むつ小川原開発公社による上記敷地の取得は,違法・無効な手続を用いて農地転用許可手続の適用除外を受け,脱法的に所有権を譲り受けたもので無効であり,したがって,その転得者である原燃産業も所有者たりえないから,上記敷地に本件廃棄物埋設施設を建設することは許されない。本件事業許可処分は,この点を看過しており違法である。
(9) むつ小川原開発第2次基本計画違反による違法性
むつ小川原開発第2次基本計画には,核燃料サイクル施設の立地計画などなかった。昭和60年に上記基本計画に核燃料サイクル施設に係る項目が追加され,3回目の閣議口頭了承がされたときも,土地利用計画,人口推定,工業出荷額等むつ小川原開発計画の基本となる計画の見直しはされていないのであり,現状で本件廃棄物埋設施設を建設することは上記基本計画に抵触するから違法である。
(10) 当初から許可を前提とした審査による違法性
①本件廃棄物埋設施設を含む核燃料サイクル施設の計画が国策的事業であるとの認識の下に本件事業許可申請が周到に準備・推進されてきたこと,②本件審査の過程において,六ヶ所村とそれ以外の候補地との立地条件の対比がされた形跡のないこと,③国・県・事業者が一体となり,推進体制の強化,一方的PR活動の繰り返し,交付金のばらまき(事業許可がされていない段階における電源三法交付金による地域振興整備計画は,ウラン濃縮工場と本件廃棄物埋設施設に係る金額が50億円,再処理施設に係る金額が総額270億円であり,青森県民の多数意思である核燃料サイクル施設建設反対の声を札束で封じ込めようとするものである。)や企業進出による懐柔策等により,青森県民の世論を無視しながら既成事実を積み上げていることなどに照らせば,本件審査においては許可を前提としたセレモニーとしての審査が行われているにすぎず,手続的に重大な瑕疵があるから,本件事業許可処分は違法である。
2 被告の主張
(1) 憲法13条,25条違反の主張に対して
ア 原子炉等規制法では,製錬事業者,加工事業者,原子炉設置者,再処理事業者等の各事業者に,それぞれ核燃料物質等の廃棄について,保安のために必要な措置を講ずべきことを定める(11条の2,21条の2第1項,35条1,2項,48条1項,51条の16第1,2項,58条)とともに,廃棄の事業を行おうとする者は,内閣総理大臣の許可を得なければならないとしている(51条の2第1項)。そして,廃棄物埋設施設及び廃棄物管理施設の設計から事業実施に至る過程を段階的に区分し,それぞれの段階に対応して各種の規制手続を介在させ,これらの一連の規制手続を通じて廃棄の事業に係る安全確保を図らせるといった厳しい規制がされている。また,廃棄体に使用するセメントは,「核燃料物質等の埋設に関する措置等に係る技術的細目を定める告示」(昭和63年科学技術庁告示第2号)4条1号イに適合するようにとの規制がされており,また骨材については,骨材そのものに関しての規制はないが,骨材の種類にかかわらず固型化された放射性廃棄物の強度について,同条3号により規制されている。したがって,放射性廃棄物について通常の産業廃棄物よりも厳しい規制がされるべきであるのにされていない旨の原告らの主張は失当である。
イ また,原子炉等規制法51条の6第2項にいう確認においては,廃棄物埋設事業者から提出された廃棄体等に係る廃棄物埋設に関する確認申請書に添付される放射性廃棄物の放射能濃度を測定した方法その他放射性廃棄物の放射能濃度を決定した方法に関する説明書並びに廃棄体の強度を測定した方法その他当該廃棄体の強度を決定した方法及びその結果に関する説明書(廃棄物埋設事業規則7条2項5号,6号)の内容を検討し,申請書及び上記説明書に記載されている内容が技術基準(同規則8条)に適合しているかを確認することとなっているから,放射能濃度や強度の測定を義務付けていない旨の原告らの上記主張も失当である。
ウ さらに,そもそも原子炉等規制法は,エネルギーの安定した供給を確保することにより人類社会の福祉と国民生活の水準向上に寄与することを目的とする原子力基本法にのっとり,原子力の平和利用が計画的に推進されるよう,その前提となる安全性確保のために必要な具体的規制を行うものであるから,幸福を追求する国民の権利(憲法13条)や健康で文化的な生活を営む権利(憲法25条)又は社会福祉等の向上及び増進に関する国の責務(憲法25条)は,いずれもこれらの法律を通じて具体化され,広く積極的に実現されるのであり,このような原子炉等規制法が憲法に違反することはない。
(2) 設計審査の具体的基準を欠くから違法であるとの主張に対して
ア 原子炉等規制法51条の6第1項にいう確認には,確認を受けようとする廃棄物埋設施設の概要等を記載した申請書に当該廃棄物埋設施設の設計図・構造図・設計計算書等の書類を添えることとなっていること(廃棄物埋設事業規則4条)から明らかなように,事業許可後の「確認」には詳細設計に関する審査が含まれているのであり,また,廃棄物埋設事業許可の段階においては,専ら当該廃棄物埋設施設の基本設計ないし基本的設計方針のみが審査の対象となるのである。したがって,原告らの上記主張は,その前提において失当である。
イ また,廃棄物埋設施設に関する安全審査基準としては,原子炉等規制法施行令,廃棄物埋設事業規則及び「線量当量限度等を定める件」といった法令上の審査基準のほか,原子力安全委員会の定めた「安全審査の基本的考え方」及び参考として「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」(昭和57年1月28日原子力安全委員会決定),「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(昭和56年7月20日同委員会決定),「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」(昭和51年9月28日原子力委員会決定)が用いられている。したがって,「安全審査の基本的考え方」しか審査基準がない旨の原告らの主張は失当である。
ウ 次に,「安全審査の基本的考え方」は,廃棄物埋設施設に関する技術的細部にわたってまで逐一具体的な指示を与えるものである必要はなく,専門技術的知見を有する者が,審査において,申請に係る廃棄物埋設施設の位置,構造及び設備が当該施設の基本設計ないし基本的設計方針において災害の防止上支障がないものとして設置されるものであるかどうかを判断するための基本的枠組みを提供する内容を具備していれば足りるものであるところ,「安全審査の基本的考え方」はこの要請を完全に満たしている。したがって,「安全審査の基本的考え方」の内容があいまいであるとの原告らの主張は,理由がない。
(3) 特定廃棄物管理施設を含んでいるから違法性があるとの主張に対して
廃棄物管理とは,核燃料物質等についての最終的な処分がされるまでの間において行われる放射線による障害の防止を目的とした管理等のことであり(原子炉等規制法51条の2第1項2号),同法施行令13条の10には,廃棄物埋設事業者が廃棄物埋設施設において行う管理又は処理は,上記廃棄物管理に該当しないと定められているのであるから,3.7テラベクレル以上の放射性廃棄物を埋設する際には管理事業の許可が別途必要であるのにこれを欠くから違法である旨の原告らの主張は,同法の解釈を誤ったものとして,理由がない。
(4) 本件事業許可申請の審査者指導の一部補正に係る違法の主張に対して
原告らの主張する一部補正は科学技術庁において本件事業許可申請が原子炉等規制法51条の3第1項各号所定の許可要件に適合しているか否かを審査していた時点(原子力安全委員会への諮問前)において,原燃産業から自主的にされたものであり,内閣総理大臣が上記補正前後の申請内容は申請としての同一性を失うものではないと判断し,補正を認めたものであり,原告ら主張の不公正な指導等は存在せず,違法ではない。
(5) 本件審査が不適格ななれ合い委員により行われたとの主張に対して
ア 原子力委員会について
原告らが指摘する放射性廃棄物対策専門部会における審議事項は,「放射性廃棄物に関する研究開発の進め方」等についてであるが(昭和62年11月27日原子力委員会決定),同部会は廃棄物埋設の事業の許可に関し,原子炉等規制法51条の3第2項に基づいて原子力委員会が内閣総理大臣から諮問を受けた際の審議,決定に関与する機関ではなく,本件事業許可処分に係る審査には何ら関与していないのであるから,原告らの主張は失当である。
なお,原子力委員会の委員は,両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し(原子力委員会等設置法5条1項),専門委員も学識経験がある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命することとされているのであり(同設置法施行令3条2項),各委員の適格性は十分に担保されている。
イ 原子力安全委員会について
原子力安全委員会の委員は,両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し(原子力委員会等設置法22条,5条1項),また核燃料安全専門審査会の審査委員は学識経験がある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命する(同法20条,17条1項)こととされているのであり,各委員の適格性は十分に担保され,およそ推進派・反対派という観点から選ばれるものではない。
ウ 原告らの主張はその法律上の利益に関係がないこと
そもそも原子力委員会等の構成に関する原告らの主張は,上記のように違法とされる前提事実がない上,自己の法律上の利益に関係がないから,本件訴訟の審理の対象外である。
(6) 本件審査の密室性,秘密性,ずさんさの主張に対して
ア 憲法21条が国家に対して情報の開示を義務付けた規定であると解することはできないし,ましてや同条から直ちに具体的な情報開示の請求権が生ずるということもないのであるから,法律の規定をまたずに,憲法21条から直ちに情報の開示に関し何らかの法的効果を生ずるということはない。そうすると,行政手続の中にこのような公開制度が法律上設けられておらず,上記手続の中において本件事業許可申請書等が公開されなかったとしても,これらのことは,何ら憲法21条等に違反するものではなく,行政手続の適法性や妥当性を左右するものでもない。
なお,現実には本件事業許可申請書及びその添付書類並びに本件事業許可申請書一部補正に係る書類は,それぞれ受理後速やかに,更には安全審査書は本件事業許可処分後速やかに,国会図書館,青森県立図書館等において公開されており,本件事業許可申請書及びその添付書類には,地盤,地質,地震,地下水等に関する事項が記載されている。
イ また,本件については,原子力安全委員会から核燃料安全専門審査会に対して調査審議の指示がされ,審査会内部では第27部会がこれを担当し,同部会で専門的かつ詳細に調査審議をし,その結果を踏まえて上記審査会が再度調査審議をした上で最終的に委員会審議及び決定がされたものである。したがって,特定の委員に審査を任せたとの原告らの主張は失当である。
ウ さらに,審査の議事録については原子力委員会議事運営規則及び原子力安全委員会議事運営規則によりその作成が義務付けられており,これが遵守されている(その議事概要は原子力委員会月報,原子力安全委員会月報に掲載されている。)。したがって,議事録がずさんであるとの原告らの主張は理由がない。
(7) その他の手続に関する違法事由の主張に対して
その他原告らの主張する手続的違法事由((7) 本件廃棄物埋設施設の民主・公開の原則違反による違法性,(8) 農地法違反の土地取得による違法性,(9) むつ小川原開発第2次基本計画違反による違法性,(10) 当初から許可を前提とした審査による違法性)は,違法とされる前提事実がない上,いずれも「廃棄物埋設施設自体の安全性に直接関係する事項で,基本的設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関する事項」に当たらず,原子炉等規制法51条の3第1項各号所定の要件適合性の審査とは何らの関係を有しないから,本件訴訟の審理の対象とはならない。
第4原子炉等規制法51条の3第1項2号の要件への適合性の有無
1 2号要件のうち経理的基礎に係る部分の適合性の有無
(1) 原告らの主張
原燃産業には経理的基礎が欠けており,また廃棄物埋設事業を行う300年を超える長期間にわたり同社や同社を支援する電力会社が存続する保証はない。
(2) 被告の主張
本件事業許可申請が原子炉等規制法51条の3第1項2号に規定する「事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎がある」との要件に適合しているかどうかについての審査は,原告らの法律上の利益に関係のない事項(行訴法10条1項参照)の審査であるから,原告らの経理的基礎に係る部分の主張は失当である。なお,顧客である電力会社の経営は安定しており,収入も確実であることから,原燃産業の事業計画の実現性について問題がなく,本件事業許可申請は「事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎がある」ものと判断された。
2 2号要件のうち技術的能力に係る部分の適合性の有無
(1) 原告らの主張
原燃産業には,低レベル放射性廃棄物埋設事業をした実績が試験・研究を含めて全くない。また,本件事業許可申請書によると,施設の建設・操業に約70名の技術者が必要とされているのに,本件事業許可申請当時には65名しかおらず,施設の建設に必要な技術者すら不足している。したがって,原燃産業には,原子炉等規制法51条の3第1項2号の「事業を適確に遂行するに足りる技術的能力がある」という要件が欠如している。
(2) 被告の主張
①本件事業許可申請書の添付書類のうち「添付書類二 廃棄物埋設に関する技術的能力に関する説明書」(廃棄物埋設事業規則2条2項2号)によれば,原燃産業の実施する廃棄物埋設の方法が既に原子力施設において実績のある廃棄物処理,放射線管理及び土木・建築工事の技術を利用することにより十分可能なものであって,特別な技術を必要とするものではないこと,②原燃産業は,これらの技術につき専門的知識及び経験を有する技術者を有していること,③本件廃棄物埋設施設の建設,操業に当たって必要とする技術者については,定期採用等により逐次増強を図るとともに,原子力発電所への派遣等による技術的能力のかん養に努めるとされていること,④電力会社等との連絡を密にし,人的・技術的協力を適宜得るとされていることなどから,原燃産業には,本件廃棄物埋設施設を設計,建設及び操業するために必要な技術的能力(原子炉等規制法51条の3第1項2号の技術的能力の要件)があるものと判断した。
第5原子炉等規制法51条の3第1項3号(災害防止)の要件への適合性の有無
1 原告らの主張
(1) 基本的立地条件(自然環境,社会環境)
ア 自然環境
(ア) 地盤の不十分さ
a 支持地盤の強度の不十分さ
(a) 土質(砂岩)の不十分さ
本件廃棄物埋設施設の支持地盤の本層は砂岩であり,土質工学的にいうと,土と岩石の中間の硬さを有する軟岩に属する。したがって,十分な耐震力を有する支持地盤であるとは到底言い難い。
(b) コア採取率の高さと地盤の強固さとの無関係
最近ではボーリング機械の改良や作業員の技能程度の向上等によりコア採取率(ボーリングによって得られたコアの長さを掘進長で除した値を百分率で表したもの)が高くなったので,本件廃棄物埋設予定地のコア採取率が100%であったことは,必ずしもその地層が埋設設備の支持地盤として適していることの理由にはならない。
(c) RQDの数値の高さと地盤の強固さとの無関係
RQD(岩盤良好度)の数値(ボーリングによって深さ1mの長さの部分から得られたコアのうち,長さが10cm以上のコアのみの合計値の1mに対する比率を百分比で表したもの)についても,コア採取率と同様の理由から最近では数値がかなり高くなり,軟質ではあるが不連続面の少ない岩石・地層の方が,硬質ではあるが不連続面が多く,岩質が劣悪化している岩石・地層よりも,RQDがかえって大きな値を示すことがあるから,本件廃棄物埋設予定地のRQDの平均値が96.6%であることをもって,その岩質が良いと評価するのは著しく妥当性を欠く。
(d) 地表近くの少ない箇所でのN値測定の不十分さ
地盤の強度を求める試験に標準貫入試験があり,N値を測定する。N値とは,貫入用具をボーリング孔底に下ろし,重さ63.5kgのハンマーで75cmの落差から打撃し,貫入用具が地盤中に30cm貫入するのに要する打撃回数を記録した数値であり,一般に50以上であることが要求される。
ところで,建築物の支持地盤がいわゆる「サンドイッチ地盤」になっている場合,すなわち上記のN値が相対的に大きい岩石・地層の間に,N値が相対的に小さい岩石・地層がサンドイッチ状に挟まれた格好となっている場合があり,そのような場合には,地震時に予想外の大被害を被るおそれが多分にあるとされているので,支持地盤のN値は地表面近くの位置で少しばかり測定するだけでは不十分であり,かなりの深さに至るまで数多く測定することが必要不可欠である。そうであるにもかかわらず,本件事業許可申請書には鷹架層中部層の最上部又はそれに近い位置における6個のN値しか記載されていないから,原燃産業の実施した標準貫入試験は,極めて不十分である。また,本件支持地盤より新しい第四紀層である段丘堆積層にさえ,N値が50以上に及ぶ部分が存在していることからも,支持地盤としての良否の評価基準としてN値を重用することには,大きな問題がある。
(e) 少ない箇所での上限降伏値測定の不十分さ
原燃産業が実施した岩盤支持力試験は,その実施箇所が4か所と少ない上,上記試験で得られた4つの降伏値(地盤にある構造物を載荷し,荷重を加えて応力・ひずみ量の相関関係を調べると,初めは応力・ひずみ量の関係が直線関係を示すが,ある応力を超えると,ひずみ量が急増し始める点があり,この点を「降伏点」といい,そのときの応力を「降伏値」という。)の数値の間にはばらつきが小さく,それが最悪値及び最良値に該当しているかどうかが明らかではないこと,破砕帯と非破砕帯とではその降伏値に大きな差異があるのに破砕帯の上限降伏値の最小値(最悪値)が本件廃棄物埋設設備による荷重に対して安全性を有しているのかどうかが未解明であることからみて,極めて不十分である。
(f) ボーリング調査結果の開示の不自然さ(隠ぺい疑惑)
また,本件事業許可申請書によると,①合計27孔でボーリング調査が実施されたことになっているが(乙2の3-47頁。別紙「埋設設備群設置位置及びその付近の地質水平断面図」),上記申請書に掲げられている地質柱状図は5孔のものだけであること(乙2の3-48頁以下),②しかも本件廃棄物埋設予定地内にある2本の断層に近い位置にある5-c孔(f-b断層に最も近い),d-5孔(f-a断層に最も近い),2-d孔(f-b断層に2番目に近い)の各地質柱状図が掲げられていないこと,③4-b孔(f-b断層に2番目に近い)では掘進長がわずか16mにすぎず,斜めになっているf-b断層に届く手前でボーリング掘進が中止されたかのようになっていること(乙2の3-46頁。別紙「埋設設備群設置位置及びその付近の地質断面図」)からすると,地盤条件が相対的に良好な5孔のみの地質柱状図のみを意図的に選んで掲げ,それ以外の掲げられていない地質柱状図のなかには地盤条件の劣悪なことが明示されているものがあり,これを意図的に隠しているのではないかという疑惑がある。d-5孔ではあと数m掘進すればf-b断層に達し,4-b孔ではあと40m掘進すればf-b断層に突き当たるはずであり(乙2の3-46頁),したがって,それらの深さまで掘進された地質柱状図が示されたならば,両断層とも破砕帯を伴い,その部分の岩質がかなりぜい弱化・劣悪化していることが分かるはずである。原燃産業はぜい弱劣悪な岩質データを故意に隠ぺいしたものと考えざるを得ない。
b 断層の存在
(a) 最初の埋設事業許可申請におけるf-a断層及びf-b断層の隠ぺい
原燃産業は,最初の本件事業許可申請の際に,既に2本の断層の存在を認識していたにもかかわらず,「地盤については,本施設を設置する基礎地盤は全体に砂岩・凝灰岩類であり,過去に地すべり,陥没の発生した形跡はなく,本施設に影響を与えるような断層も認められない。」などと申告し,断層の存在を隠していた(乙1の7-1頁)。その後,別紙「埋設設備群設置位置及びその付近の地質水平断面図」記載のとおり,埋設設備群設置位置とその付近の地層には2本の断層(f-a断層及びf-b断層)の存在することが補正時に表面化したが,そのこと自体が,原燃産業による立地環境調査のずさんさを推測させる。
(b) f-a断層及びf-b断層が活断層である可能性
上記のf-a断層及びf-b断層が活断層ではないとする地質学的根拠はない。支持地盤の鷹架層には多数の節理(ひび割れ)が存在するが,断層と節理(ひび割れ)との区別は極めて困難であり,f-a断層及びf-b断層が,活断層又は活断層の疑いのある断層であるとの可能性を否定することができない。段丘堆積層のような未固結堆積層では,断層によって切断されて変位を受けてもそのことを容易に確認することができない場合が少なくないので,f-a断層及びf-b断層のいずれも実際には段丘堆積層に対して変位を与えている可能性がある。これらの断層の活動が第四紀洪積世新期の段丘堆積層の堆積以前に終息したとはいえない以上,これらの断層が震源断層となって内陸直下型地震の発生するおそれがある。
なお,本件訴訟係属後の平成7年1月17日,「兵庫県南部地震」(M7.2,神戸では震度6から7の烈震,最大加速度600から800ガル[関東大震災の2倍])が発生した。その深刻な被害は,我々の人知を超えるものであり,現代文明と科学技術に対する自然の警鐘であったが,その地震は「断層」が動いたものであって,地震の発生により「活断層」であったことが判明した。原告らは,断層が「活断層」である可能性がゼロでなければ本件廃棄物埋設施設を建設することに到底納得することができない。万分の1でも活断層が存在する可能性があるのであるならば,本件廃棄物埋設施設の建設を即刻中止してもらわなければならない。
(c) f-a断層及びf-b断層が非活断層でも被害が増幅される可能性
仮にf-a断層及びf-b断層が活断層ではないとしても,他所で起きた地震の影響により断層沿いに被害が集中するという事態が予想される。f-a断層には,鏡肌(断層運動に伴う摩擦のために断層面の両側の岩盤上に生じた光沢のある面)が存在するから,その断層面が固結・密着していないぜい弱な部分のあることが明らかである。さらに,f-b断層は,走向(北73度東)・傾斜(南へ80度)のある断層として記載されているから,面なし断層(落差のあることは認められるが,断層面が失われているか,完全にゆ着して周囲の岩石との区別が不明瞭な断層)であるとはいえず,断層面がゆ着しているとしても,その断層面が失われるほどのものではない。特に,これらの断層が破砕帯を伴っている場合には地震の被害が増幅されるが,本件安全審査においてはこれらの点の考慮がされていない。
(d) 鷹架層中部層混在部にある節理(ひび割れ)
本件事業許可申請書のトレンチスケッチにある「鷹架層中部層混在部」には,多くの節理(ひび割れ)が認められるから,地質学でいう破砕帯(断裂・圧砕等の作用によって角礫状又は粘土状などに破砕された岩石が一定幅の帯を形成しているもの)であるが,破砕帯の部分は硬く見えても,実際にはその岩質がぜい弱・劣悪化していることがある。また,原燃産業が実施した岩盤支持力試験においては,破砕帯と非破砕帯の各部分の間にどの程度の差異が存在するのかが明らかにされていない。したがって,上記箇所を硬質であるとする本件事業許可申請の説明は,十分な根拠を有しない。
(e) 本件廃棄物埋設予定地内に別の断層が存在する可能性
再処理施設及び廃棄物管理施設の敷地内に分布する段丘堆積層中に小断層の存在することが原燃サービスの調査により明らかにされているから,より詳細な地質調査を実施すれば,本件廃棄物埋設施設の敷地内の段丘堆積層にも別の断層の存在が確認される可能性がある。また,断層と節理(ひび割れ)の区別は無層理塊状の地層の場合には非常に困難であるので,無層理塊状である段丘堆積層に散在している節理は,断層である可能性がある。さらに,本件事業許可申請書は,諸文献には本件廃棄物埋設施設の敷地に該当する位置に断層が記載されていないから断層がないと結論付けているが,それらの諸文献はそもそも延長距離の短い小規模な断層を記載していない文献なのであるから,その文献に記載がないから一切の断層が存在していないということにはならない。
c 地すべり発生の可能性
過去の地すべり地形が長期間にわたって保存されているとは限らないので,本件事業許可申請書補正書(乙2の3-13頁)の記述は,過去に地すべりが発生したことをうかがわせる状態が存在しないという趣旨であるにすぎない。そして,現に昭和43年の十勝沖地震に際して青森県東部地方の火山灰地帯に地すべりが発生したこと,本件廃棄物埋設施設の敷地は造成地であること,開発行為による水の賦存状の変化や地形の変化等のために新しく地すべり地帯になる場合も予想されることなどからすると,火山灰層がかなり広く分布している本件廃棄物埋設施設の敷地内においては,地すべりの発生するがい然性が極めて高い。
d 脱水による地盤沈下等発生の可能性
鷹架層中部層は,原燃サービスの実施した弾性波試験結果等から軟岩に属することが判明しており,十分な地耐力を有する支持地盤であるとはいえない。また,原燃産業が実施した物理試験の結果によれば,その構成岩石は単位体積重量が小さく,含水比及び間隙率が高いから(全体の40から50%が水),その岩質は劣悪であると判定せざるを得ない。したがって,もし何らかの原因によってこの地層に脱水現象が起こった場合には,沈下や陥没が問題となる。
(イ) 地震
a 地震リストの改ざん
本件事業許可申請書(昭和63年4月提出)は,敷地周辺の被害地震のリスト作成に当たり,「新編日本被害地震総覧」(宇佐美龍夫著,昭和62年3月刊行)や,M(マグニチュード)5.5以上の日本の地震の規模・震央位置・震源の深さを気象庁が再計算して昭和57年に公表したものなどの最新の資料を用いていない。また,震央位置が敷地から200km以遠の地震及び震央位置が不明の被害地震であっても,過去に本件廃棄物埋設予定地周辺に被害を及ぼしていることが明らかであるにもかかわらず,本件事業許可申請書は,これらの地震を震央分布図(別紙「被害地震の震央分布」・乙2の3-64)から除外している。したがって,被害地震の調査方法に誤りがある。
b 震度階の無視
本件廃棄物埋設施設は,まぎれもなく原子力関連施設の一つであり,万が一強い地震に襲われると,放射性物質が地下水・河川水・湖沼水・海水及び土壌へと漏出し,その放射能汚染が広範囲にわたるおそれがある。そうであるのに,原燃産業が被害地震の震度階を検討した形跡が全くなく,本件安全審査においても,被害地震の震度階を考慮せず,安易に耐震設計審査指針における重要度分類度Cクラスの耐震設計(一般産業施設と同等の安全性を保持する耐震設計)で足りると結論付けている。しかし,これは,放射性廃棄物の特殊な危険性を軽視,看過したものであって,根本的に誤っている。
一般の家屋や工場について,どんな地震でもつぶれないような耐震構造にせよというのは,コストの面からみて実際的でないかもしれない。しかし,原子力関連施設は,人類が直面する最も危険な施設である。したがって,原子力関連施設については,採算性を度外視してでも完璧な安全対策を講じさせて然るべきである。それで採算性が取れず困るというのなら,操業を止めるしかない。
したがって,本件廃棄物埋設施設について,震度階を想定していないこと自体が,不当極まりなく,明らかに違法である。
c 中小地震による被害の検討の欠如
本件安全審査は大地震発生のケースのみに着眼して検討を行っている。しかし,地震の被害は,地震の規模だけでなく,震央距離,断層距離,震源距離,深さ,卓越周期,地震の特性等によっても左右されるから,中小地震による影響度の検討をしなければならないが,本件安全審査においては,その検討がされていない。
d 青森県東方沖の大地震発生の可能性
さらに,青森県東方沖が「地震の巣」であることは,地震学会の定説であり,将来,本件廃棄物埋設施設の敷地周辺において約50年に1回の割合で十勝沖地震クラスの大地震又は巨大地震の発生する可能性のあることが学者によって指摘されている。実際にも,本件訴訟提起後の平成6年12月28日に「三陸はるか沖地震」(M7.5,八戸では震度6の烈震)が発生し,死者3名,負傷者283名,損害家屋266棟の被害が生じた。
また,予想もしなかった大地震の発生により,放射能が低減しない段階でコンクリートピットから漏出した場合の被害が本件安全審査では考慮されていないから違法である。
e 活断層の存在
(a) 海域の活断層の存在
海域には,活断層研究会編「日本の活断層-分布図と資料」(甲D77の1。平成3年東京大学出版会発行)によると,別紙「下北半島周辺海域の活断層分布」のとおり,下北半島東方の海岸からわずか約20km沖合の海底南北方向に,延長距離約100km,崖高200km以上に及ぶ確実度Ⅰ(活断層であることが確実で,それが地形上にも表れているもの)の大活断層が存在しており,そのほかにも沖合には,崖高200m以上の小さな活断層が7つ存在している。延長距離が100km内外の大活断層によって引き起こされる地震は関東大震災(M7.9)や十勝沖地震(M7.9)を上回るM8.1から8.2程度と推定され,その震度階は6から7になるおそれがある。しかも,この海底大活断層の南方延長線上を震央位置とする6つの地震の記録があり(昭和53年5月16日のM約5.8,天保3年〔1832年〕2月13日等のM約6.5,寛文7年〔1667年〕7月3日等のM約6.0から6.4,延宝2年〔1674年〕3月10日等のM約6.0,明和6年〔1769年〕6月9日等のM約6.5,嘉永7年〔1854年〕閏7月5日のM約6.5),これらの震央位置の直下に震源断層が存在しているとすると,この海底大活断層の南端は更に30km伸びて,総延長距離は120kmとなり,より巨大な地震を発生させる可能性がある。
また,この海底大活断層は,有史において被害地震を引き起こした記録を持たないから,本件廃棄物埋設施設周辺はいわゆる地震空白地帯であって,巨大地震発生の確率が極めて高い。
(b) 陸域の活断層の存在
本件廃棄物埋設予定地周辺の陸域にも,別紙「小川原一帯の活断層の分布」のとおり,確実度Ⅱ(活断層であると推定され,それが地形上にも表れているもの)及び確実度Ⅲ(活断層の可能性があり,地形的にもその疑いがあるもの)の活断層が多数存在する。例えば,本件廃棄物埋設予定地に近い北方には出戸西方断層(4km),横浜断層(4km),一切山東方断層(7km),南西方には野辺地断層(7km),上原子断層(2km),天間林断層(9km),十和田市西方断層(4km),南方には三沢断層(4km)がある。また,やや離れた場所の長い断層としては,折爪断層(44km),青森湾西断層(16km),津軽山地西縁断層帯(30km)がある。
そのため,これらが直接の震源になったり,別の地震の影響により断層が動いて本件廃棄物埋設施設に被害をもたらす危険性が高い。特に野辺地断層,上原子断層,天間林断層,十和田市西方断層が総延長25kmの一連の断層であるとすると(日本第4紀地図・東京大学出版会昭和62年刊行),M7.1から7.2の地震が発生する計算となり,約30kmしか離れていない本件廃棄物埋設予定地は相当の被害を受ける。折爪断層,青森湾西断層,津軽山地西縁断層帯が再活動した場合には,それぞれM7.6,M6.8,M7.3程度の地震が発生する。
(c) 変位地形と活断層の関係について
空中写真の判読結果等から変位地形が認められない場合にも活断層が実在していることがあり得るので,単に空中写真の判読結果等に基づいて変位地形の有無,活断層の有無を判断することは著しく妥当性を欠く。
(d) 本件廃棄物埋設施設周辺には,海域,陸域にわたり,くもの巣のように活断層が存在するにもかかわらず,本件安全審査は,これらの断層を故意に無視しており,その違法性は明らかである。
f 液状化現象
本件安全審査においては地震による液状化現象(本来は固体の砂地盤が液体の状態になる現象)を検討した形跡がうかがわれないが,本件廃棄物埋設施設の敷地の地層のうち少なくとも一部は,液状化現象の要件を多分にみたしているといえるから,本件安全審査の過誤,欠落は明らかである。
(ウ) 気象
a 豪雪
本件廃棄物埋設施設付近の降雪量は,平地では豪雪地帯に属するから,施設の安全対策,放射性物質等の運搬の安全確保に関して支障となることが明らかである。最大積雪深190cmに十分耐える設計にすることは,技術的困難を伴うが,仮にそれが可能であったとしても,施設管理上多大の支障と危険を避け難い。
b 強風
本件廃棄物埋設施設周辺は強風地帯に属し,ヤマセが吹けば風下の六ヶ所村とその周辺町村,青森市,弘前市等の津軽地方にまで放射性廃棄物が拡散,降下する危険性があるし,西風の場合には,六ヶ所村の中心部である尾駮部落が放射能の被ばくにさらされる。
(エ) 水理
a 洪水・津波
本件安全審査では,本件廃棄物埋設施設が洪水により被害を受けることはないとされているが,全く根拠を欠く。
また,本件廃棄物埋設施設が標高30m以上の台地に位置していることから,高潮・津波により被害を受けることはないとされているが,八重山地震津波の波高は85.4m,明治三陸地震津波の波高は38.4mといわれている。したがって,将来30mを超える波高の津波が本件廃棄物埋設施設を襲わないという保証はなく,このような規模の津波が来襲したとき,被害が発生しないという保証もなく,本件安全審査においてはこの点の考慮が欠落している。
b シケ・濃霧
六ヶ所村沿岸を含む太平洋沿岸は,シケが多く,濃霧の多発海域であり,過去において船舶の衝突,転覆,座礁の海難事故があとを絶たない。しかも,むつ小川原港周辺の海域は流砂が堆積して船舶の航行の妨げとなっており,同港はおよそ良港とはいえないが,本件安全審査においてはこの点の考慮が欠落している。
(オ) 地下水の汚染等の可能性
a 地下水の放射能汚染の危険性
(a) 浅地処分困難な立地の劣悪さ
放射性廃棄物埋設地に絶対欠かせない立地条件は,水のない場所である。降雨,降雪量の多い地域や地下水の豊富な土地(帯水層)に埋めると,コンクリートピットやドラム缶の腐食,ひび割れが生じた際に,地下水の放射能汚染を招くからである。そのため,我が国では低レベル放射性廃棄物は浅地(通気層)に処分をすることが基本方針とされている。
しかしながら,本件廃棄物埋設施設では上記基本方針を放棄し,鷹架層の岩盤を掘削して埋設し,ピットの上面・側面をベントナイトを混合した土砂で覆うこと及びピットの中には集水機能を有するポーラスコンクリート層を設けて排水を容易にするという方式に計画を変更している。それは,埋設地が通気層ではなく,帯水層であって,しかも透水性に富んでおり,人工バリアでは放射能漏出を防止することができないからである。このように,本件敷地は不適地であって,その地質が埋設場所としては劣悪であり,地下水,ひいては河川水,湖沼水,海水の放射能汚染を招くおそれのあることが明らかであるのに,本件事業許可処分はこれを看過しているから,違法である。
(b) 鉄筋コンクリート造の構造物やモルタルの健全性を長年にわたって維持することが困難であることは公知の事実であり,覆土にも大きな問題点があることを考慮すると,埋設設備のコンクリート及びセメント系充てん材(モルタル)が地下水と接触し,埋設設備の放射性物質閉じ込め機能が損なわれ,放射性物質が外部環境に漏出して,地下水汚染を発生させるという可能性は,十分にある。
(c) 平成8年8月26日に動燃東海事業所において低レベル放射性廃棄物を収納したドラム缶が長期間にわたりピット内に水が溜まった状態で放置され,ドラム缶が著しく腐食し,その多くが崩壊寸前の状態となっていることが発覚したという事件に照らしても,地下水汚染の可能性があることは明らかである(甲16)。
また,平成10年11月24日,日本原燃は,「補修を施した廃棄体を含む廃棄物埋設確認申請書(廃棄体用)の提出について」(甲41の1)を公表し,平成11年1月に東京電力株式会社福島第一原子力発電所から受入れ予定の低レベル放射性廃棄物2472本のうち1208本の廃棄体ドラム缶の表面に錆等があり補修したものが含まれていたことなどを明らかにしたが,平成10年11月25日のデーリー東北(甲42)によると,上記1208本の廃棄体のドラム缶については,結露等でドラム缶内部のセメント内部から水がしみ出して腐食,錆,穴の原因となったらしいとされている。また,補修済みとされたドラム缶2個について「液垂れ跡」の残ったドラム缶が発見されたことが平成11年10月8日に明らかにされている(甲49)。そうであるとすると,ドラム缶による長期管理では健全性を保つことができないおそれがあり,埋設前の審査体制にも不安があるから,埋設により一層ドラム缶の腐食が進み,埋設後に地下水を汚染する可能性がある。
(d) 廃棄体が埋設される鷹架層には,断層面又は節理(ひび割れ)面を充たして胚胎している深層地下水が存在し,施設周辺住民がこれを井戸水等の生活用水として使用している。
また,埋設設備の破損は,上を流れる浅層地下水の浸透によるだけではなく,深層地下水の影響によっても起こり得るところであり,もしそのような事態が発生した場合には,地下水の放射能汚染による周辺住民の被害は計り知れないが,本件安全審査はこの点について全く考慮していない。
(e) 化学物質による地下水の放射能汚染の可能性
水質試験試料採取地点12か所はすべて本件廃棄物埋設予定地の周辺であって,敷地内ではない上,地層別の水質試験結果が示されていないから不十分であり,埋設設備の放射性物質閉じ込め機能を損なうような化学物質が本件廃棄物埋設予定地内にあるかどうかは確認されていない。化学物質により埋設設備の放射性物質閉じ込め機能が損なわれ,放射性物質が外部環境に漏出して地下水の放射能汚染が発生する可能性を否定することができない。
b 地下水の重金属汚染の可能性
また,本件廃棄物埋設設備のコンクリート・セメント系充てん材又は本件廃棄物埋設設備の建設に伴って使用される水ガラス系地盤凝固剤(主成分珪酸ソーダ)が地下水と接触することによりアルカリ汚染を招き,更には上記水ガラス系地盤凝固剤に含まれる微量の鉛・亜鉛・銅・カドミウム・クロム・水銀・砒素等により重金属汚染を招く可能性がある。
イ 社会環境
(ア) 国家石油備蓄基地
本件廃棄物埋設施設から1.5kmしか離れていない国家石油備蓄基地が火災に発展した場合には,本件廃棄物埋設施設の事故誘因となることが容易に推測され,その安全性が損なわれるおそれがある。
(イ) 自衛隊三沢基地,米軍三沢基地
a 自衛隊三沢基地においては,日夜飛行訓練を繰り返し,他の基地等からの飛行機も頻繁に飛来してくるから,パイロットのわずかな油断により本件廃棄物埋設施設の上空を航空機が通過し,墜落事故を起こす可能性がある。本件廃棄物埋設施設周辺においては,過去50回以上に及ぶ軍用機の墜落・不時着事故,80回以上の誤射爆・落下物事故が起きている。特に三沢基地配属の軍用機(F16,F1等)は,本件廃棄物埋設施設周辺海域や岩手県山中に墜落するなど頻繁に事故を起こしている。平成元年3月16日には本件廃棄物埋設施設からわずか6kmの人家庭先に11.3kgの模擬爆弾が,同年9月5日には4km離れた畑にF16の模擬爆弾が,それぞれ誤投下され,平成3年5月7日には遂にF16が本件廃棄物埋設施設からわずか20数kmの三沢基地内に墜落した。
b 本件安全審査書は,本件廃棄物埋設施設の上空は原則として飛行制限がされているとしているが,原子力施設上空に関する飛行制限は絶対的なものではなく,米軍機については航空法の適用も除外されているから,不当である。平成元年6月には米軍ヘリコプターが四国電力伊方原子力発電所近くに墜落するという事故が発生している。
(ウ) 人口分布状況(隔離距離の規定欠如)
事故時・平常時における放射能による被害を最小限に食い止めるためには,施設と住民居住地域とに十分な隔離距離が保たれなければならないが,法律上この隔離距離が具体的に決められておらず,本件安全審査においては周辺地域住民の生命,健康に対する配慮が欠落している。
(エ) 原子力施設の集中立地
本件廃棄物埋設施設に隣接して,大量の高レベル放射性廃棄物やプルトニウムの貯蔵施設と再処理工場とを併設する計画が進行中であるが,本件安全審査においてはこれらの施設の集中立地を想定した審査をしていない。
(2) 本件廃棄物埋設施設に埋設する核燃料物質の性状等
ア 埋設する放射性廃棄物の放射能レベルの危険性の高さ
(ア) 低レベル放射性廃棄物は,日本の区分でいえば濃度1μCi/ml以下のものとされている(昭和39年6月12日廃棄物処理専門部会報告書〔原子力委員会廃棄物処理専門部会〕)。
しかし,本件廃棄物埋設施設に埋設が予定されている放射性廃棄物の最大放射能濃度は,上記低レベル放射性廃棄物の上限の4.76倍もの放射能濃度をもっており,高い危険性を有し,低レベル廃棄物などとは到底いえない。
(イ) 低レベル放射能の危険性
ICRP(国際放射線防護委員会)は,原子力施設等から公衆が受ける被ばくに適用される線量制限システムについて,上限(容認することができない線量)を短期間(2,3年)の被ばくに対して年間5ミリシーベルト,又は放射線が生涯にわたって残留する可能性のある長期間の汚染に対して年間1ミリシーベルトとし,それ以下の線量レベルをできる限り低くすることと設定・勧告している。しかし,年間1ミリシーベルトという被ばく量も,長期間被ばくについては毎年1ミリシーベルトの被ばくにより1万人から10万人に一人の割合で将来がんになるものであるから,安全なものではなく,リスクが低いというにすぎない。そして,様々な研究成果によれば,妊娠前後や低年齢の子供にとっては,より低い放射線被ばくによってがんや白血病等になる危険性が高くなっているとされている。
イ 原子炉等規制法施行令に定める放射能濃度上限等の実効性欠如
(ア) 原子炉等規制法施行令13条の9により定められた埋設廃棄体固化体の濃度上限値(以下「上限規制値」という。)は,その安全性に照らしての合理的な数値ではなく,安全性とは無関係な本件廃棄物埋設施設の許可と過去の廃棄物の埋設追認のために定められたものにすぎない。
(イ) 上限規制値は,6種類の放射性物質について設けられているのみで,それ以外の数多くの放射性物質については全く規制を設けていない。本件廃棄物埋設施設に埋設予定の廃棄物についても,トリチウム,ニッケル59,ニオブ94,テクネチウム99,ヨウ素129等については,上限規制値はなく,野放しの状態である。
(ウ) また,原子炉等規制法施行令や廃棄物埋設事業規則には,埋設されるドラム缶の放射能量や,1か所の施設に埋設することができる廃棄物の放射能総量に関する規制はない。そのため,上限規制値は,全般的な安全の視点からされているものではなく,全く実効性がない。
(エ) 原子炉等規制法施行令13条の9の上限規制値が設定される前に作成された廃棄物ドラム缶が多数存在するし,そのドラム缶を破壊点検して濃度を確認してから詰め直すなどの措置が想定されているわけでもないし,ドラム缶を破壊しないでその外側表面から濃度を推定することにも限界があるから(ガンマ線を測定して埋設ドラム缶内部の濃度を推定する方法があるが,それではガンマ線以外の放射線を出す廃棄物の測定ができない。),事実上は,上限規制値の設定も,廃棄物の放射能濃度の現状を追認するものにしかならない。
(オ) また,廃棄物を埋設しようとする際には,事業者は,廃棄体に含まれる放射性物質の種類ごとの放射能量及び放射能濃度を記載して,科学技術庁長官(当時)に申請し(廃棄物埋設事業規則7条別記様式第2),内閣総理大臣(当時)が「放射能濃度が申請書等に記載した最大放射能濃度を超えないこと」を「確認」するとされている(同規則8条2項2号)。しかし,この「確認」は,民間業者に代行させることができるものでしかない(原子炉等規制法61条の41)。そして,廃棄物の容器内の中身の放射能濃度を測定することは前述のように困難であるから,上記の濃度の「確認」は何ら意味がない。
(カ) また,平成11年6月8日号の写真雑誌「フラッシュ」によれば,東京電力の下請会社に勤務していたA氏は,福島第一原発において2年半,低レベル放射性廃棄物の検査等を担当し,雑固化体廃棄物を1500度の高温焼却処理したガラス状の溶融物をドラム缶に封入したものの表面線量率の測定を行い,一定レベル以上にならないようにデータを改ざんしたとされている。これは,本件廃棄物埋設施設に現在搬入が認められいる均質固化体の放射能測定データの改ざんを示唆するものではないが,放射能測定がどのようにして行われているかを把握することができ,濃度規制の実効性の欠如をうかがわせる。
ウ 廃棄体の表面の線量当量率
本件廃棄物埋設事業により,平常時における放射線の影響として問題となるのは,廃棄体の表面放射線量の程度であるが,これについては法令上線規制値が全く設けられていない。単に廃棄物の表面線量(1cm2量当量率)が0.5から2mSv/hの場合には白色の帯を,2から5mSv/hの場合には橙色の帯を,5mSv/hを超える場合には赤色の帯を,それぞれ付けるものとされているにすぎない。
なお,本件事業許可申請書一部補正書(乙2の6-14頁)によれば,廃棄体の表面の線量当量率は,10mSv/hを超えないものとされているが,この数値は,1時間かつ1cm2当たりでありながら公衆の年間許容被ばく量の10倍の放射線に相当する放射線量であり,膨大な放射線量である。
(3) 本件廃棄物埋設施設自体の安全性又は安全評価についての違法性
ア 平常時における線量当量評価の違法性
(ア) 仮蓋状態下の廃棄体等による被ばく
埋設の過程の中には,仮蓋を開けて埋設作業を行う工程と,仮蓋はされているが覆土のない状態が存在するのであり,これらの過程において一般公衆及び放射線業務従事者が受ける外部放射線による線量当量を評価したところ,敷地境界外住民が年間40から70ミリレム,敷地内労働者が年間1800から3300ミリレムと,ほぼ線量当量限度に匹敵する外部被ばくを受けることが判明した。それにもかかわらず,本件事業許可処分は,このような危険性を無視しているから,違法である。
(イ) 施設廃棄物(液体)からの被ばく
本件廃棄物埋設施設から発生する液体廃棄物の発生源は,廃棄体の表面を洗浄した際の排水であるところ,これは廃棄体の表面汚染とその程度という非定量的な出来事に依存するから,この量が本件事業許可申請書添付書類(乙2の6-11頁)に記載の年間推定最大放出放射能量(トリチウム以外は20万ベクレル,トリチウムは2億ベクレル)の範囲内に収まるという保証はない。また,トリチウムはろ過や脱塩装置によってこれを除去することができないから,その人体への影響は無視することができない。
(ウ) 地下水の流速の計算について
平常時の地下水を汲み上げることなどにより地下水の水面が低下し,渦流状態になる場合があるから,地下水の流速を求める際に層流状態に限って適用されるダルシー則を用いて地下水の流速を計算し,平常時における線量当量評価をすることは,誤りである。また,本件事業許可申請書添付書類に記載されている地下水の流速は実際の流速値とは異なるし,安全を見込んだ数値であるとはいえない。
イ 段階管理における安全性に関する違法性
(ア) 第1段階は,廃棄体がむき出しになった状態であり,仮蓋しかない状況で大雨,洪水,大雪等があった場合,仮蓋もない状況で埋設設備に航空機が墜落したような場合には,廃棄体に内蔵されている大量の放射能が周辺環境にまき散らされる危険性が大きい。
(イ) 第2段階における具体的な線量当量及び放射性物質の濃度の監視システム,測定範囲,チェック方法が明確にされておらず,これらを行うための人的,経済的,組織的な裏付けも明確にされていない。このような体制においては,原燃産業は,十分な管理を行うことができない。
(ウ) 第3段階は300年の長期にわたる段階であり,この間の企業の存続性(特に原子力発電停止後の企業の存続)及び沢水の利用禁止,地表面の掘削の制約等の遵守の実効性には疑問があり,管理とは名ばかりで,捨てるに等しい行為である。平成8年8月26日には動燃東海事業所において低レベル放射性廃棄物を収納したドラム缶が放置され,ドラム缶が著しく腐食したという事件が発生したが,それは屋外貯蔵ピットで行われたから発見されたが,本件廃棄物埋設施設においてはそのような腐食が分からないように埋めるものである上,40年後ないし45年後という腐食漏出のがい然性が高くなる時期(第3段階開始時期)になると,地下水の採取測定等をやめてしまい,放射性物質の漏出があるかどうかも分からなくしてしまう仕組みにしているものであるから,違法である。
(エ) 第1段階終了時から300年後(第3段階終了時)における残存放射能は,別紙「300年後の残存放射能毒性」記載のとおり,到底管理を終了させてよいような量ではないにもかかわらず,300年以降には一切の管理を行わないという考え方には問題がある。300年後の子孫の利害を代表する者が誰もいないことを良いことにして,彼らにそのつけを回そうというやり方を絶対に許すことができない。
ウ 廃棄物埋設地の覆土の問題点
(ア) 本件廃棄物埋設施設の敷地は造成地であるが,造成地は,地震時や集中豪雨,連続降雨時に自然地盤の部分に比べて一層大規模な地盤災害を引き起こすおそれがある。そして,地震時には地すべり,陥没,地割れ等が,集中豪雨・連続降雨時には地すべり,陥没,土砂流出等が発生して覆土が所定の厚さを保持することができなくなるおそれがある。
(イ) 覆土には自然地盤ほどの粘着力がなく,粒子がばらばらで吸水率が高く,自然地盤と比べて風化による土質の軟弱,劣悪化も早く進行する。また,ベントナイト混合土の土質が長年月にわたって安全に保持され得るかという点はいまだに確認されていない。
エ アメリカの事故事例
アメリカでは,ウェストヴァレー,マキシーフラッツ,シェフィールド,アイダホのように低レベル放射性廃棄物処分場がわずか数十年の間に問題を続出させている。例えば,蓋の割れ目からピット内に水が入って,ピットが風呂桶のようになり,ドラム缶が水浸しになった例(ウェストヴァレー,マキシーフラッツ),ドラム缶がぼろぼろになって内容物が崩れ圧縮され,ピット内に空間ができたためピットの蓋が上からの圧力に耐えられなくなった例(シェフィールド),洪水で表土が流され処分施設が水浸しになった例(アイダホ)等が報告されている。本件廃棄物埋設施設においても放射能漏れの危険性が大きい。
オ 埋設体からの一挙的漏えいに伴う地下水等汚染による被ばく
埋設後30年後以降にドラム缶の腐食やコンクリートのクラックが生じ,これによって放射性廃棄物が流出する一方,地下水がピットに浸入するという事故を想定し,更に
① 1区画分のピットが長年の浸食,腐蝕,地震等によって漏えい口が生じる。
② 最高濃度の埋設体1区画分の放射能総量の1%だけが地下水に流入する。
③ 上記の濃度による汚染地下水の10%だけが井戸水に混入する。
④ 住民の摂取する井戸水量も本件審査基準に従い600lとする。
との具体的条件を想定すると,井戸水を1年間摂取した住民の被ばく量は22レム(一般公衆の許容線量の220倍)という高い値になる。そして,それは単に井戸水の利用者だけの問題ではなく,汚染水の影響を受ける沼や池,湖,牧草,農作物にも波及し,倍加(濃縮)される。
このような驚くべき事故想定を無視した本件事業許可処分の違法性は,明らかである。
カ 航空機の墜落等による廃棄体の一挙的漏出による被ばく
(ア) 墜落事故を想定しての安全評価に関する本件安全審査は,次の諸点において,不当である。すなわち,①天ヶ森射爆撃場の訓練飛行機F1又はF16のみを対象とし,その他の軍用機や民間飛行機を対象とせず,アメリカにおいて発生したような民間航空機を利用した自爆テロの危険性を看過していること,②空中衝突やパイロットによる空間識失調等エンジンの推力を保持したままの事故の方が多く,事故原因に占めるエンジントラブルの割合は僅か約19%にすぎないのにもかかわらず,F16がエンジントラブルによりエンジンを停止して滑空するという不自然な想定条件を用いたこと,③エンジン停止の滑空状態においても航空機の衝突速度を215から340m/sとする想定条件も検討されていたのに,過去の他の原子力施設においては衝突速度を150m/sとした想定条件を採用しており,この想定条件を引き上げると時間的にも費用的にも多大なコストがかかることなどから結局は衝突速度を150m/sとする過去の想定条件をそのまま採用したこと(甲D208から210まで),④実爆弾搭載機の墜落を想定しなかったこと,⑤破損する廃棄体の本数を600本と少なく想定したこと,⑥600本の廃棄体が破損した場合の放射性物質の放出量の想定も過小であったこと,以上の諸点において,不当である。
(イ) ドラム缶3200本貯蔵可能な管理建屋において,航空機の墜落炎上により最大濃度の廃棄体54本分しか放出されなかったと仮定した場合であっても,その放射能は,管理建屋からの距離300mの地点においては急性障害発生レベルである259ミリシーベルトに,およそ10kmの地点においては一般人の年間の被ばく線量限度である1ミリシーベルトに,それぞれ達する。また,1号施設で埋設する最大濃度のドラム缶廃棄体1350本を管理建屋内で貯蔵中に航空機が墜落炎上し,その全量が放出された場合には,管理建屋からの距離が540mの地点においては半数致死線量(3シーベルト)に,約2.5kmの地点においては急性害を引き起こす線量(250ミリシーベルト)に,約80kmの地点においては一般人の年間の被ばく線量限度1ミリシーベルトに,それぞれ達する(甲A30)。
(4) 輸送中の事故
本件廃棄物埋設施設が建設された場合,国内各地の原子力発電所のみならず,海外からも海上・陸上の経路によって大量の放射性物質が搬入されることになるが,輸送中の事故の危険性もある。例えば,昭和52年9月27日,アメリカ合衆国コロラド州で濃縮ウランを積んだトレーラーが横転し,積み荷のドラム缶が大破し,6.8トンの濃縮ウラン粉末が1.5km四方に飛散した。また,昭和59年8月25日,六フッ化ウランを詰めたコンテナ30個を積んだフランスの貨物船モン・ルイ号400トンがベルギーで西ドイツのカーフェリーと衝突して沈没したが,どのコンテナも変形し,うち1個は取り出し口のバルブが破損し,六フッ化ウランが漏れていた。
このように輸送中の事故の例もあるから,本件安全審査も,放射性物質の搬入・搬出の全経路にわたって行われるべきであるが,本件事業許可処分はこの点の審査を欠落させている点においても,違法である。
2 被告の主張
(1) 基本的立地条件(自然環境,社会環境)について
ア 自然環境に関する主張に対して
(ア) 地盤に関する主張に対して
a 支持地盤の強度に関する主張に対して
(a) 土質(砂岩)に関する主張に対して
ある地盤が構造物の支持地盤として適当であるか否かは,当該地盤の有する支持力と当該構造物の荷重の関係等から判断されるものであり,原告ら主張のように当該地盤が土質工学上「軟岩」であるか「硬岩」であるかによって判断されるものではない。
本件安全審査においては,原燃産業の行った文献調査,地表地質調査,空中写真の判読,ボーリング調査結果,岩盤支持力試験結果,標準貫入試験の結果(N値50以上の岩盤)等を検討し,更に審査の過程においてもトレンチ調査(一定の調査範囲を掘削し,地質を露出した状態で観察することによる調査),ボーリングコアの観察等の現地調査を行った上で,①埋設設備群設置位置及びその付近の地盤には,変位地形が認められず,地すべり地形及び陥没の発生した形跡も認められないこと,②f-a断層及びf-b断層とも段丘堆積層に変位を与えておらず,支持地盤の安定性に影響を与えるものではないこと,③鷹架層中部層は埋設設備による荷重に対して十分な支持力を有していると判断されたこと,④埋設設備は設置方法等からみて設置深度における荷重が設置前後において大差なく,沈下のおそれもないことなどから,本件支持地盤は十分な地耐力を有しており,安全確保上支障がないものと判断した。
(b) コア採取率とRQDに関する主張に対して
原告らの主張に係るボーリングコアの採取率やRQDは,本件支持地盤の性状を示す指標の一つにすぎない。本件安全審査においては,原告ら主張のコア採取率又はRQDの数値のみによって支持地盤としての適否を判断したものではないから,この点に関する原告らの主張は失当である。
(c) N値測定に関する主張に対して
本件安全審査においては,本件支持地盤である鷹架層中部層について,N値が50以上である位置より更に深い地盤についても,現地におけるボーリングコアの観察によって,N値が50以上である位置と同程度あるいはそれ以上に強固であって,柔らかい層が挟在していないことを確認している。また,本件安全審査においては,N値だけで支持地盤としての適否を判断したのではないから,この点に関する原告らの主張は失当である。
(d) ボーリング調査結果の開示(隠ぺい疑惑)に関する主張に対して
本件事業許可申請書添付書類には,埋設設備群設置位置の地質状況を説明することができる代表的な5孔が地質柱状図として示されている。本件安全審査においては,上記地質柱状図の検討のほか,上記5孔以外のものも含めたボーリングコアの観察やトレンチ調査等の現地調査を行い,埋設設備群設置位置及びその付近の地盤には,埋設設備に影響を与えるような性状等が認められないことを確認した。原告ら主張のボーリング調査結果の隠ぺい疑惑は根拠がない。
b 断層に関する主張に対して
(a) f-a断層及びf-b断層の隠ぺい疑惑の主張に対して
確かに本件事業許可申請書及びその添付書類に2本の断層の直近の地質柱状図が掲げられていないが,それぞれの断層の性状をより詳細に調査することのできるトレンチ調査が行われており,そのトレンチスケッチが本件事業許可申請書添付書類に掲げられている。そして,本件安全審査においては,そのトレンチ調査により,f-a断層及びf-b断層の各断層沿いに存在する鷹架層中部層混在部がいずれも固結し,周囲の岩石と同程度の硬さを有していることを確認している。したがって,ぜい弱・劣悪な岩質データを隠ぺいした旨の原告らの主張は何ら根拠がない。
(b) f-a断層及びf-b断層が活断層である可能性の主張に対して
断層とは「岩石の破壊によって生ずる不連続面のうち,面に平行な変位のあるもの」であり(「地学事典」[平凡社]672頁),節理とは,「岩石中の明瞭な割れ目で,割れ目の面に平行な方向への相対的変位が全くないか,あってもごくわずかなもの」である(同書587頁)。本件安全審査においては,文献調査,地表地質調査及びトレンチ調査の結果を検討し,専門的知見を有する者の現地調査結果を加えた結果,f-a断層及びf-b断層は,段丘堆積層に変位を与えていないことが確認され,また,未固結の地層であっても運動があれば,当該断層付近の地層の構造が乱れるとか地層がたわむとか何らかの痕跡が残るから,断層運動の影響が及んでいる地層であるか否かは識別可能であるところ,トレンチスケッチ中に含まれる割れ目については,鷹架層中部層,段丘堆積層のいずれにおいても,割れ目面に平行で明りょうな変位の認められないことが確認された。そして,これらから,f-a断層及びf-b断層は,段丘堆積層の堆積する以前にその活動を終えた断層であって,活断層ではないと判断された。したがって,f-a断層及びf-b断層が活断層である可能性があるとする原告らの主張は理由がない。
(c) f-a断層等が非活断層でも被害が増幅される可能性の主張に対して
本件安全審査においては,トレンチ調査の結果等により,埋設設備群設置位置に認められるf-b断層の断層沿いには,破砕帯が認められないこと,上記断層沿いの鷹架層中部層混在部はその幅が3ないし25cmと小規模なものである上,上記断層は傾斜が70ないし80度と高角度であること,及び断層面に沿っては弱層が認められず,断層面がゆ着していることを確認し,その周辺は安定した鷹架層中部層の岩盤であると判断されたから,他所で起きた地震による被害が上記断層沿いに集中したり,その被害が増幅することは考えられない。
(d) 鷹架層中部層混在部の節理に関する主張に対して
破砕帯とは,造構運動(地殻を構成する岩石や地層を変位,変形させて,褶曲,断層等の構造を造り上げる運動の総称)等により断層沿いに幅数mmないし数mの帯状に破砕された部分であり,一般には母岩の岩片等からなる断層角礫(断層運動により生じたもので,断層面の間に存在する角礫)又は断層粘土(断層運動による両盤の摩擦破砕で生じたもので,断層面の間隙を脈状に満たす粘土)により形成され,周囲の岩盤に比べて強度が著しく劣るものである。本件安全審査においては,トレンチ調査により,鷹架層中部層混在部においては,f-a断層及びf-b断層に沿って両側の岩相が混在し,角礫状や粘土状を呈していないこと及び周囲の岩石とほぼ同程度の硬さを有していることを確認し,鷹架層中部層混在部はその岩質がぜい弱・劣悪化した破砕帯ではないことを確認した。また,鷹架層中部層混在部は固結しており,周囲の岩石と同程度の硬さを有しているので,岩盤支持力試験を行う必要がない。したがって,この点に関する原告らの主張は失当である。
(e) 他の断層の存在可能性に関する主張に対して
本件支持地盤の地質調査としては,文献調査以外に,ボーリング調査,地表地質調査等の結果を検討し,更にトレンチ調査やボーリングコアの観察等の現地調査を行った上で,埋設設備群設置位置及びその付近の地盤には,埋設設備に影響を与えるような性状等が認められないことを確認している。したがって,この点に関する原告らの主張は失当である。
c 地すべり発生の可能性に関する主張に対して
本件廃棄物埋設施設の支持地盤は,鷹架層中部層の岩盤であって,原告らの主張するような火山灰層ではない。また,施設設置のための整地は,一般の宅地造成のように盛土をするものではなく,岩盤中に埋設設備を設置するため,岩盤自体を掘削して地形を整えるものであるから,上記主張は,前提を誤るものである。これらに加えて,埋設設備群設置位置に認められるf-b断層はその傾斜が高角度であり,断層面に沿って弱層が認められず,断層面がゆ着しているから,本件支持地盤が地すべりを起こすことは考えられない。その上,本件安全審査においては,空中写真の判読結果等から埋設設備群設置位置及びその付近並びに管理建屋設置位置及びその付近には,地すべり地形の発生した形跡も認められないことを確認している。また,本件廃棄物埋設施設は平坦な台地に位置しており,地形的に地すべりが発生しにくい。
d 脱水による地盤沈下等発生の可能性に関する主張に対して
原告らが仮定する脱水現象に起因する沈下や陥没については,本件廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺の地形,気象等の自然環境からみると,そもそも脱水現象や陥没が発生すること自体想定し難い上,それに起因して沈下等が起こるという主張には何ら根拠がない。
(イ) 地震に関する主張に対して
a 地震リストの改ざんの主張に対して
確かに,本件事業許可申請書添付書類には,「宇佐美カタログ(1979)」,「宇津カタログ(1982)」及び「地震月報(昭和56年1月ないし昭和63年5月)」に記載されている被害地震のうち,本件廃棄物埋設施設から震央までの距離が200km以内のものが震央分布図に記載されているが,原燃産業においては,これらに加えて,原告らの主張に係る最新の資料である「新編日本被害地震総覧(昭和62年)」,「理科年表(昭和64年)」等をも検討の上,敷地からの震央距離や地震規模の大小等にかかわらず,敷地近傍で大地震が発生していないことを確認していることから,本件安全審査においては,この調査が妥当なものであると判断した。
b 震度階の無視の主張に対して
本件廃棄物埋設施設において取り扱われる低レベル放射性廃棄物は潜在的危険性が小さいものであり,「耐震設計審査指針」における耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設に対応する耐震設計(一般産業施設と同等の安全性を保持することができる設計)を行うことにより,その安全を確保することができる。
c 中小地震による被害の検討欠如の主張に対して
本件廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺における地震に関しては十分な調査が行われ,本件安全審査においては,地震の規模の大小を問わず,敷地近傍で被害の大きな地震が発生していないことを確認している。
d 青森県東方沖の大地震発生の可能性に関する主張に対して
上記のとおり,本件安全審査においては,地震の規模の大小を問わず,敷地近傍で被害の大きな地震が発生していないことを確認しているほか,埋設設備については,一般産業施設の耐震設計に相当するものとして,設備に作用する水平震度(水平方向の設計地震力を算定する際に自重に乗じる係数)を0.2として算定された設計地震力に対して許容応力度法(構造物等に作用する荷重及び外力を組み合わせ,その結果,柱,梁等の各部材内部に生じる内力の単位面積当たりの大きさが使用材料の許容応力度を超えないようにする設計法)により設計し,廃棄物埋設地の管理の第1段階において放射性物質が埋設設備の外へ漏出しないようにしている。また,第1段階において仮に放射性物質が漏出した場合でも,速やかに放射性物質の漏出を防止するため,修復等の措置を行うものとしている。さらに,第2段階以降においては,廃棄体,埋設設備等が著しく劣化し,第2段階当初から放射性物質の漏出が始まると仮定するなどして一般公衆の受ける線量当量の評価を行い,その場合でも,一般公衆の受ける線量当量が十分小さいことを確認している。
したがって,地震に対しても本件廃棄物埋設施設に安全確保上問題となることはない。
e 活断層の考慮の要否に関する主張に対して
(a) 原子力施設の設置に当たり,地震の原因としての活断層に対する評価を行う必要があるか否かは,当該施設の有する特質に応じて,その施設の安全確保の観点から,合目的的に決せられるべきものである。例えば原子炉施設については,その内蔵するエネルギー及び放射能量が大量であることにかんがみて「耐震設計審査指針」に従い,耐震設計上の重要度分類Aクラスの施設については設計用最強地震による地震力又は「耐震設計審査指針」に定める静的地震力のいずれか大きいほうの地震力に対して耐えることを,更に同Aクラスのうち特に重要と考えられる施設をAsクラスとして,設計用限地震による地震力に対しても安全機能を保持することができることとされているところ,設計用最強地震ないし設計用限界地震をそれぞれ想定する際に,上記両地震の起因事象の一つとして過去の地震記録に加えて活断層に対する評価を行うこととされている。このように,設計用最強地震や設計用限界地震を想定する際に過去の地震記録に加えて活断層に対する評価を行うこととされているのは,過去の地震記録によって敷地及びその周辺に影響を与えた地震を検討することにより,将来の地震による敷地及びその周辺に対する影響の程度を予測することができるが,更に原子炉施設の有する潜在的危険性にかんがみ,活断層の有無,活動度等をも検討することにより,発生する可能性が極めて低いと考えられる地震についても配慮するためである。
(b) これに対して,廃棄物埋設施設は,上記のような原子炉施設と異なり,その内蔵する放射能量が少ないなど潜在的危険性が極めて小さいので,廃棄物埋設施設の耐震設計を定めた「安全審査の基本的考え方」Ⅶの7-1においては,設計用最強地震や設計用限界地震を想定することとはされておらず,ひいては地震の原因としての活断層に対する評価を行うことが要求されていない。廃棄物埋設施設の地震に対する設計上の考慮としては,「耐震設計審査指針」における耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設に対応する設計地震力に対し,適切な期間安全上要求される機能を損なわない設計を行こととされており,上記の耐震設計法を採用すれば廃棄物埋設施設の安全確保の目的を達するものとされている。すなわち,廃棄物埋設施設については,原子炉施設とは異なり,地震の原因としての活断層に関する評価を行う必要がなく,基本的立地条件としての地盤の安定性を評価するという観点から埋設設備群設置位置及びその付近にある断層を対象とし,それが施設に影響を及ぼすか否かの検討を行えば足りるのである。
(c) 本件安全審査においては,上記の「安全審査の基本的考え方」にのっとり,ボーリング調査,地表地質調査,文献調査等により,埋設設備群設置位置及びその付近において施設の安全性に影響を与えるような断層が認められないことを確認しているから,違法性がない。
(d) 変位地形と活断層の関係について
変位地形を確認することは,空中写真の判読のほかに,地表地質調査等を実施することにより可能である。そして,本件安全審査においては,空中写真の判読のほかに,現地における地表地質調査等により,埋設設備群設置位置及びその付近並びに管理建屋設置位置及びその付近には,変位地形が認められないことを確認している。したがって,単に空中写真の判読結果等に基づいて変位地形の有無,活断層の有無を判断することは著しく妥当性を欠く旨の原告らの主張は理由がない。
(ウ) 気象に関する主張に対して
a 豪雪に関する主張に対して
最大積雪深(垂直最深積雪量)190cm程度の積雪は,建物の設計上,何ら技術的な障害となるものではない。また,核燃料物質等の運搬についても,除雪等をすれば十分可能である。
b 強風に関する主張に対して
本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設から放出される気体廃棄物の年間放出量から,拡散しにくい気象条件を設定した場合においても,一般公衆の受ける線量当量が,敷地境界においてすら,十分に小さいことを確認している。また,より遠隔地(本件廃棄物埋設施設までの直線距離は青森市からが30km以上,弘前市からが約80kmである。)の場合,あるいは,より強い風の吹く場合には,一層拡散されるので,上記線量当量は,はるかに小さくなる。
(エ) 水理に関する主張に対して
a 洪水,津波に関する主張に対して
(a) 洪水に関する主張に対して
本件廃棄物埋設施設は,標高約30m以上の台地にあり,その付近にある老部川及び二又川は標高20m以下に位置するから,本件廃棄物埋設施設が洪水の被害を受けるおそれはない。
(b) 津波に関する主張に対して
原告らの挙げる津波の例のうち八重山地震津波は,沖縄県石垣島等におけるものであって,その地形的条件が本件廃棄物埋設施設敷地周辺とは大きく異なる。また,明治三陸地震津波の高さが最も高かったのは,「日本被害津波総覧」によれば三陸町における24.4m,「理科年表」によれば同町における38.2mとされているところ,三陸町をこうした大きな津波が襲った原因は,同町周辺の海岸がリアス式の地形であることによる。これに対し,本件廃棄物埋設施設は,単調な海岸線から約3km離れた標高約30m以上の台地に位置するから,その地形的条件が全く異なる。地形,海岸線の状況,海岸からの距離等からみて,本件廃棄物埋設施設が津波により影響を受けることはない。
b シケ,濃霧に関する主張に対して
原告らはシケ,濃霧による船舶の航行に関する考慮が欠落しているとするが,核燃料物質等の海上輸送については,船舶安全法による規制が講じられている上,そもそも,本件安全審査において考慮すべき事項ではない。
(オ) 地下水の放射能汚染等の主張に対して
a 地下水の放射能汚染の可能性の主張に対して
(a) 本件廃棄物埋設施設付近の地質について
本件廃棄物埋設施設における放射性廃棄物は計画変更後も浅地に処分されているから,その基本方針に変更はない。また,「原子力開発利用長期計画」(昭和62年6月原子力委員会決定)においても,「低レベル放射性廃棄物の処分については,陸地処分及び海洋処分を行うことを基本的な方針とする。」とされているように,当時我が国において浅地に処分することのみが基本方針とされていたわけでもない。したがって,計画が変更されたことを理由に本件廃棄物埋設施設周辺の自然環境は劣悪であるとする原告らの主張は失当である。
(b) コンクリートの健全性に関する主張に対して
埋設設備に使用するコンクリートは,「コンクリート標準示方書」(社団法人土木学会発行)に準拠して設計及び施工されること,鷹架層及び第四紀層中の地下水には埋設設備のコンクリート及びセメント系充てん材の閉じ込め機能に影響を与える成分は認められないことなどから,埋設設備のコンクリートの健全性は少なくとも数十年間維持することができると考えられる。
(c) ドラム缶の閉じ込め機能に関する主張に対して
「液垂れ跡」のあるドラム缶が発見された部分に関する原告らの主張は,原子炉等規制法51条の6の廃棄物埋設に関する確認の段階において規制される事柄に係るものであるから,本件訴訟の審理の対象とはならない。
また,動燃東海事業所において低レベル放射性廃棄物を収納したドラム缶が長期間水が溜まった状態で貯蔵されていたことに関する原告らの主張も,それらの貯蔵は原子炉等規制法の第6章の核燃料物質等の使用等に関する規制の対象であって,本件事業許可処分における同法51条の3第1項の各要件の審査の対象とはならないものであるから,本件訴訟の審理の対象にはならない。
(d) 地下水の水質試験について
地下水の水質試験は,設置位置そのものではないにしても,本件廃棄物埋設施設の敷地内全体を覆うように12か所の地点で日本工業規格に準拠して実施されている。上記のような狭い範囲で地下水の水質が著しく変化することは考え難いから,地下水の一般特性を把握するには十分である。また,本件事業許可申請書添付書類三においては,本件廃棄物埋設施設敷地内の鷹架層中部層及び第四紀層の地下水における硫酸イオン濃度,炭酸水素イオン濃度,塩化物イオン濃度等を測定した結果が記載されており,以上の記載により,本件安全審査において,地下水が埋設設備の閉じ込め機能に影響を与えるか否かについて,十分判断することができる。
(e) 地下水の調査について
本件事業許可申請書添付書類三には,敷地内の代表的な観測位置における1年間の地下水位の観測結果及び昭和61年6月1日の地下水面の等高線図が示されており,これによって敷地内における地下水位又は地下水面を十分に確認することができる。
本件事業許可申請書添付書類三に掲げられている地下水面の等高線図には,本件廃棄物埋設施設の敷地全体にわたる地下水面の等高線が記載されており,第四紀層の分布していない場所の地下水面についても記載がされている。
(f) 地下水の尾駮沼への流入について
埋設設備群設置位置及びその付近の地質構造,地形等から判断すると,廃棄物埋設地を通過する地下水は,地下水面の傾斜方向に流下して敷地中央部の沢を経て尾駮沼に流入しているのであり,本件廃棄物埋設施設の敷地周辺において一般公衆が深井戸を利用することによって被ばくすることは考えられない。
(g) 浸入した地下水の排水
また,仮に埋設設備の外周仕切設備及び覆いから地下水が浸入した場合であっても,その水が廃棄体に達することなく排水することができるよう,ポーラスコンクリート層等の排水・監視設備を設け,廃棄物埋設地の管理の第1段階,第2段階の間は監視しながら排水を行うので,少なくとも第2段階終了時(埋設開始後40ないし45年後)までは,埋設設備の外に放射性物質が容易に漏出することは考えられない。
(h) 仮に漏出した場合でも一般公衆に対する線量当量が小さいこと
さらに,本件安全審査においては,線量当量評価をする際,評価結果が厳しくなるように第2段階当初から廃棄物埋設設備等の透水性が砂程度になって放射性物質の漏出が開始すると想定した上での原燃産業の評価を妥当なものとして,その場合の一般公衆に与える線量当量は十分小さいことを確認している。
(i) したがって,井戸水の放射能汚染に関する原告らの主張は,廃棄物埋設地に係る放射性物質の閉じ込め機能及び生活環境への移行抑制措置を理解せずにされたものであり,失当である。
b 地下水の重金属汚染の可能性に関する主張に対して
放射性物質以外の化学物質による地下水の汚染については,本件安全審査の対象となるものではなく,本件訴訟の審理の対象とはなりえない。
イ 社会環境に関する主張に対して
(ア) 国家石油備蓄基地の危険性の主張に対して
敷地境界から国家石油備蓄基地までは約1.5km離れており,また,本件廃棄物埋設施設からは,約3kmもの距離があるので,類焼の影響はない。このことは,青森県石油コンビナート等防災本部が作成した「青森県石油コンビナート等防災計画」(昭和52年3月)によると,仮に,上記石油備蓄基地のタンクから原油が流出し,防油堤内に全面的に火災が発生した場合を想定しても,そのふく射熱による影響(木材等の有機物が有炎火の粉があるときの引火の限界値)が及ぶ範囲は380mと予測されていることからも明らかである。
(イ) 自衛隊三沢基地,米軍三沢基地の危険性の主張に対して
原子力施設付近上空の飛行規制は,自衛隊機を含む我が国の航空機については,航空法99条に基づき運輸省が発行する「航空路誌」(AIP)に,「航空機による原子力施設に対する災害を防止するため,下記の施設付近の上空の飛行は,できる限り避けること。」という指導事項が掲載,公示されたり,原子力施設の位置等が掲載,公示されたりして周知されている(現に,本件廃棄物埋設施設についても,日本原燃が埋設事業を開始する前の平成4年9月25日付けの「航空路誌」に掲載されている。)。そして,機長は,これら原子力施設付近上空の飛行規制の情報を確認した後でなければ航空機を出発させてはならず(航空法73条の2及び同法施行規則164条の16第1項3号),また,機長が航空情報を確認せずに航空機を出発させた場合には5万円以下の罰金に処せられる(同法153条1号)。さらに,自衛隊機については,防衛庁が発行する「航空路図誌」により,重ねて原子力施設付近上空の飛行規制の周知徹底が図られている。
米軍機については,上記航空法各条の規定は適用されないが,国際法上,一般に,ある国の軍隊が他国に駐留する場合,駐留国における公共の安全に妥当な考慮を払って活動すべきものとされている上,従来,政府から米軍に対して「航空路誌」に係る情報を事実上提供する(米軍が発行する「FLIGHT INFORMATION PUBLICATION」に掲載される。)とともに,原子力施設付近上空の飛行規制について徹底するよう要請してきている。そして,この点について,昭和63年6月30日に開催された日米合同委員会において,米国側代表から,「原子力施設付近の上空の飛行については在日米軍としては従来より日本側の規則を遵守してきたが,…改めて在日米軍内に右を徹底するよう措置する」との回答を得ている。なお,ウラン濃縮工場が平成3年2月25日付けの「航空路誌」に掲載され,公示されたことを受けて,我が国政府は,米軍に対し,同年3月14日に開催された日米合同委員会において,改めて核燃料サイクル施設に係る付近上空の飛行規制について徹底を図るべき旨を申し入れている。また,F16による実爆弾投棄事件(平成3年11月8日)の後の同月20日に開催された日米合同委員会においても同様の申入れを行っている。これらの申入れに対しても,米国側は,今後とも在日米軍内に上記の飛行規制を徹底させる旨繰り返し回答しているところである。
このように本件安全審査においては,上記のような航空機の飛行に係る法的規制等を踏まえ,かつ,三沢空港等と本件廃棄物埋設施設との距離も勘案して,航空機が本件廃棄物埋設施設に墜落する可能性が極めて小さいと判断したのであり,この判断は合理性を有する。
なお,上記の原子力施設付近上空の飛行規制のほかにも,航空法81条ただし書に規定する最低安全高度以下の高度での飛行の許可は運輸省通達により原子力施設付近の上空においては行わないこととされ,また,同法92条1項ただし書に規定する同項3号の航空機の姿勢を頻繁に変更する飛行等の許可は本件廃棄物埋設施設を含む核燃料サイクル施設を中心とする半径2海里の空域のうち対地2000フィート以下の空域では行わないようにされているなど,航空機による原子力施設に対する災害を防止するため,各種の措置が講じられている。
(ウ) 人口分布状況に関する主張に対して
「安全審査の基本的考え方」においては,平常時における一般公衆の線量当量は「合理的に達成できる限り低い」ものであることが,また,技術的にみて想定される異常事象が発生した場合でも一般公衆に対し過度の放射線被ばくを及ぼさないことが,それぞれ要求されている。したがって,本件廃棄物埋設施設周辺地域住民の生命,健康に対する考慮は十分されている。
(エ) 原子力施設の集中立地に関する主張に対して
行政処分においては,その時点における法令と事実状態を基準に安全審査がされるのであり,本件安全審査においては,先行するウラン濃縮工場に起因する一般公衆の線量当量が十分低く,その寄与を考慮する必要がないと判断している。再処理施設等の後続の原子力施設については,当該施設の安全審査時点において本件廃棄物埋設施設との重畳を考慮する必要があるとしても,本件安全審査において,許可にも至っていない施設を前提として,その影響を考慮することができないのは当然である。なお,原子力施設の集中立地に関する原告らの主張は,本件訴訟の審理の対象外である。
(2) 本件廃棄物埋設施設に埋設する核燃料物質の性状等の主張に対して
ア 埋設する放射性廃棄物の放射能レベルに関する主張に対して
原子力委員会廃棄物処理専門部会が示した放射能レベルの区分は,同部会が将来我が国の原子力の開発に伴って発生する相当量の放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方をまとめた報告(昭和39年6月12日)の中で廃棄物の処理や発生量の推算の必要性から便宜的に設定されたものにすぎず,処分の際にそのまま適用するために設定されたものではない。埋設の事業の対象となる放射性廃棄物については,原子炉等規制法施行令13条の9において,放射線防護の観点から重要な代表的放射性物質について,放射能濃度の上限値が定められているが,その設定は十分な合理性を有するものである。そして,本件廃棄物埋設施設に埋設される放射性廃棄物に含まれる放射性物質の最大放射能濃度は,いずれも上記施行令に規定される放射能濃度の上限値を超えていないから,問題はない。
イ 原子炉等規制法施行令に定める放射能濃度上限等に関する主張に対して
(ア) 原子炉等規制法施行令13条の9に定める廃棄物埋設事業の対象となる放射性廃棄物に関する放射能濃度の上限値は,放射線障害防止の技術的基準に関する法律(昭和33年法律第162号)6条に基づき,関係省庁が放射線審議会に諮問してその答申を得て,更に原子炉等規制法51条の2第3項の規定に基づき,原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重して制定されたものである。
また,この廃棄物埋設事業の対象となる放射性廃棄物に関する放射能濃度の上限値は,次のような考え方で設定されている。すなわち,低レベル放射性固体廃棄物は,原子炉施設に限って発生するものではなく,他の原子力施設においても発生し得るが,まず,原子炉施設から発生し容器に固型化した放射性固体廃棄物のうち,浅地中処分の対象とすべきものの放射能濃度の上限値については,上記放射性固体廃棄物を浅地中に設けられたコンクリートピットに充てん材とともに収納する方法により処分される場合を想定することとし,埋設された放射性廃棄物により一般公衆の受けるおそれのある被ばく線量が管理期間終了以降に被ばく管理の観点からは処分場を管理することを必要としない低い線量であること等を基準として,放射線防護の観点から重要な代表的放射性物質について定められたものである。したがって,濃度上限値が合理的な数値ではなく,安全性とは無関係である旨の原告らの主張は理由がない。
(イ) なお,原子炉等規制法施行令13条の9に定められている放射性廃棄物の放射能濃度の上限値を定めるに当たって,6種類の放射性物質について基準を設けているのは,原子炉施設から発生する廃棄物のように放射性物質の組成がある程度明らかな場合には,影響度の大きい限られた放射性物質の濃度の上限値を設定することによってその他の放射性物質もおのずと制限されることになるという考え方に基づくものである。このような観点から,影響度の大きいと考えられる代表的放射性物質を抽出し,抽出された放射性物質の生成過程及びその放射性物質の被ばく経路を基に,最終的に放射線障害防止の観点から重要な6種類の放射性物質を選定し,原子炉等規制法施行令13条の9において,この6種類の放射性物質について基準を設けたのである。したがって,6種類以外の放射性物質が野放しにされているから上記上限値の規制が無意味である旨の原告らの主張は失当である。
(ウ) 次に,1か所に埋設することができる廃棄物の放射能総量については,放射線被ばく管理の観点から規制がされている。すなわち,廃棄物埋設事業規則2条1項においては,廃棄物埋設を行う放射性廃棄物で容器に固型化したものの種類及び数量並びに当該放射性廃棄物に含まれる放射性物質の種類ごとの最大放射能濃度及び総放射能量を許可申請書に記載することと定められている。そして,上記記載を含む申請に基づく本件安全審査においては,管理期間中の平常時において一般公衆の線量当量が法令に定める周辺監視区域外における線量当量限度以下に抑えられることはもとより,「合理的に達成できる限り低く」保たれるような対策がされていること,異常事象が発生した場合でも,一般公衆に対し,過度の被ばくを及ぼさないこと,管理期間の終了に当たって埋設された放射性廃棄物により一般公衆の受けるおそれのある線量当量が被ばく管理の観点からは,処分場を管理することを必要としない低い線量であることを確認することとされている。
また,埋設される廃棄体一体当たりの放射能量については,規制対象である放射能濃度に廃棄体重量を乗じることにより得られるものであり,総放射能量の設定の妥当性を審査することにより,十分に安全確保の目的を達することができるから,廃棄体一体当たりの放射能量について殊更に規制を行う必要はない。
(エ) 原子炉等規制法51条の6第2項の廃棄体等に係る廃棄物埋設に関する確認においては,事業者から提出された確認申請書に添付される放射性廃棄物の放射能濃度の測定方法その他上記放射能濃度の決定方法に関する説明書の内容を検討した上で,上記確認申請書に記載された各廃棄体中の放射能濃度が本件事業許可申請書に記載されている最大放射能濃度を超えないことを確認することとされている。
なお,既に原子力発電所で作られた廃棄体であっても,代表サンプルの放射化学分析により廃棄体外部から非破壊測定できる核種とできない核種との相関関係を求め,かつ,個々の廃棄体外部からの非破壊測定結果とを組み合わせること等により,廃棄体中の放射能濃度を確認することは可能である。また,指定廃棄確認機関の指定等に関しては,原子炉等規制法61条の41及び指定検査機関等に関する規則(昭和61年総理府令第68号)に厳格に定められているから,指定廃棄確認機関の廃棄体の確認も厳格に行われる。したがって,廃棄体の放射能濃度の確認の実効性がない旨の原告らの主張は理由がない。
ウ 廃棄体の表面の線量当量率に関する主張に対して
廃棄体の表面の線量当量率が高いからといって直ちにそれが問題となるわけではなく,廃棄の方法,施設の設計等によって,一般公衆及び放射線業務従事者の放射線防護が適切にされるか否かが問題となるのである。そして,「線量当量限度等を定める件」において,周辺監視区域外及び放射線業務従事者の線量当量限度が定められているから,必要な規制は十分にされている。
なお,本件事業許可申請においては,本件廃棄物埋設施設に受入れ可能な廃棄体の表面の線量当量率は毎時10ミリシーベルトを超えないものとした上で,評価結果が厳しくなる条件等を用いて,本件廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される放射性物質から敷地境界外の一般公衆が受ける外部被ばくに係る線量当量が評価された結果,最大でも年間約0.027ミリシーベルトであるとされており,本件安全審査においては,上記の計算条件,計算方法等の妥当性を確認した上で,本件廃棄物埋設施設は,一般公衆の受ける線量当量が「合理的に達成できる限り低く」なるように設計されていると判断された。したがって,廃棄体の表面放射線量について法令上規制が全く設けられていないから安全性を欠く旨の原告らの主張は理由がない。
なお,放射線業務従事者の被ばくに関する事項は,本件廃棄物埋設施設に従事する者ではない原告らにとって,自らの法律上の利益に関係しない事項であるから,本件訴訟の審理の対象とはならない。
(3) 本件廃棄物埋設施設自体の安全性又は安全性評価に関する主張に対して
ア 平常時における線量当量評価に関する主張に対して
(ア) 仮蓋状態下の廃棄体等による被ばくに関する主張に対して
a 仮蓋状態下の埋設体等による被ばくに関する原告らの評価は,何らの合理的な根拠を有しないから,その前提において既に失当である。
b なお,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設は一般公衆の受ける線量当量の評価に当たっては,原告らの主張する仮蓋のない状態及び仮蓋はあるが覆土のない状態も合理的に考慮されている。
(イ) 施設廃棄物(液体)からの被ばくに関する主張に対して
本件廃棄物埋設施設において想定される液体廃棄物について,当初の申請においては,搬入された廃棄体の表面が何らかの原因により汚染されている状況を想定して,除染廃液等とされていたが,廃棄体は搬出前に汚染のないことを確認され,輸送中に廃棄体が汚染されるような事態を想定し難いこと等から,平成元年10月27日付け一部補正において,本件廃棄物埋設施設の附属施設において分析等の作業の過程で発生する廃液,排水・監視設備からの排水等と改められたのであり,本件安全審査においても上記補正後の申請内容を審査したのであるから,原告らの主張はその前提において失当である。
(ウ) 地下水の流速の計算に関する主張に対して
本件廃棄物埋設施設周辺の井戸水の汲み上げは,本件廃棄物埋設施設予定地及びその付近の地下水に影響を与えるものではない。また,地下水の流れが渦流状態であったとしても,ダルシー則を用いて計算により求めた地下水の流速は,実際のものよりも速いことが一般に知られている。したがって,ダルシー則を用いて求めた地下水の流速は,その流れが仮に渦流状態であったとしても,過小に評価されることはなく,渦流状態であるからダルシー則を適用できないとする原告らの主張は失当である。
そもそも線量当量評価を行うに当たって地下水に関して必要となるのは,その流量である。この地下水の流量は,地下水の流速に断面積を乗じて把握することができるが,そこで用いられる地下水の流速は断面積と対応して設定される。ところで,ダルシー則による流速(見かけの流速)を適用する場合には,現実には水の流れない部分も含めた全断面積を用いるのであって,これと見かけの流速との積として求められる地下水の流量は,原告らの主張する実際に水が流れる断面積と実際の流速との積で求められる地下水流量と変わるものではない。さらに,線量当量評価における地下水の流量の設定に当たっては,ダルシー則により求められる平均的な地下水の流速より速い値を用いている。また,本件安全審査においては,本件事業許可申請書添付書類に記載された透水係数や動水勾配並びに地下水流速算出方法の妥当性について確認している。
(エ) 平常時の一般公衆に対する線量当量評価の算定について
a 本件安全審査においては,合理的な諸条件を設定した上,想定される被ばくの経路と最大被ばく量を次のとおり算定した。
(a) 換気空調設備から放出される気体廃棄物中の放射性物質を吸収摂取することによる内部被ばく量(実効線量当量)は,敷地境界外で最大となる地点において,年間約1.5×10–6ミリシーベルト
(b) 液体廃棄物中の放射性物質が移行する尾駮沼の沼産物摂取による内部被ばく量(実効線量当量)は,年間約4.4×10–7ミリシーベルト
(c) 地下水の放射性物質が移行する尾駮沼の沼産物摂取による内部被ばく量(実効線量当量)は,最大で年間約3.1×10–5ミリシーベルト
(d) 沢への放射性物質の移行による内部被ばく及び外部被ばくによる線量当量は,最大で年間約4.1×10–9ミリシーベルト
(e) 廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される放射性物質からの外部被ばくによる線量当量は,敷地境界外に居住する人を対象として,最大で年間約0.027ミリシーベルト
b 上記の算定によれば,廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される放射性物質からの外部被ばく量が最大であって,これに重畳の可能性のある他の被ばく経路を考慮しても,本件廃棄物埋設施設は,平常時における一般公衆の被ばく線量を「安全審査の基本的考え方」に示されているとおり合理的に達成できる限り低くなるように設計されているものと判断された。また,上記被ばく経路(a)及び(e)の評価地点(敷地境界)が周辺監視区域境界とほぼ一致しているので,周辺監視区域境界外における線量当量は,線量当量限度等を定める件(昭和63年7月26日科学技術庁告示第20号)に基づく周辺監視区域外の線量量限度である年間1ミリシーベルトを十分に下回るものと判断された。さらに,同告示3条1項2号に定める皮膚及び眼の水晶体の組織線量当量については,選定されている放射性物質の種類及びその線量当量係数からみると,前記経路(e)の評価結果による,周辺監視区域境界外における外部放射線に係る線量当量(年間約0.027ミリシーベルト)とほぼ等しいこととなり,同告示に定める組織線量当量の限度である年間50ミリシーベルトを十分に下回るものと判断された。
イ 段階管理における安全性に関する主張に対して
(ア) 埋設作業中でさえ埋設設備区画内への雨水等の浸入を防止することとされているから,雨や雪による浸水が問題となることはない。
さらに,本件廃棄物埋設施設は,定期航空路及び訓練空域から離れており,航空機は原則として,原子力関係施設上空を飛行することを規制されているから,本件廃棄物埋設施設に航空機等の飛来物が墜落する可能性は極めて小さい。そこで,航空機の墜落に備えた設計上の考慮は必要ないと判断されたものであるから,原告らの主張は当を得ない(乙8の21頁,乙12の3の5頁)。
(イ) 本件事業許可申請において,気体廃棄物については,換気空調設備の排気口における放射性物質の濃度を排気用モニタで監視することとされている。また,液体廃棄物については,サンプルタンク等の液体廃棄物中の放射性物質の濃度を放射能測定装置により測定することができるように設計することとされ,更に周辺監視区域境界付近にモニタリングポイントを設け,外部放射線に係る線量当量を測定するほか,周辺監視区域境界付近の地下水を定期的に採取して,放射性物質の濃度を測定することができるように設計することとされている。また,埋設設備からの放射性物質の漏出状況を監視するため,排水・監視設備により排水した水の放射性物質の濃度を測定するとともに,必要に応じて埋設設備の近傍において地下水の採取等を行うこととされている。その結果,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設から放出又は漏出する放射性物質の濃度等の監視に係る対策が妥当であるものと判断した。
なお,具体的な線量当量及び放射性物質の濃度の監視に係る事項は,原子炉等規制法51条の18の保安規定の認可の際に審査することになる。
(ウ) 原燃産業には事業者としての経理的基礎,技術的能力があり,本件廃棄物埋設施設の安全確保のための活動基盤に問題が生じることはない。また,原子炉等規制法51条の18に基づき,事業者は,廃棄物埋設についての保安のために講ずべき措置等を規定した保安規定を定め,内閣総理大臣の認可を受ける必要があり,事業者には保安規定の遵守義務があるから,第3段階においても管理は十分に行われる。
(エ) 管理期間終了以後の一般公衆に対する線量当量評価について
a 本件事業許可申請及び本件安全審査においては,合理的な諸条件を設定した上,管理期間終了以後に想定される被ばくの経路と線量当量を次のとおり算定した。
(a) 地下水中の放射性物質が移行する尾駮沼の沼産物摂取による内部被ばく量の最大値は,実効線量当量で,年間約7.5×10–5ミリシーベルト
(b) 廃棄物埋設地近傍の沢水の飲用による内部被ばく量の最大値は,実効線量当量で年間1.3×10–4ミリシーベルト
(c) 廃棄物埋設地近傍の沢水を用いて生産する農畜産物の摂取による内部被ばく量(実効線量当量)の最大値は,農産物が年間約9.1×10–5ミリシーベルト,畜産物が年間約2.9×10–5ミリシーベルト
(d) 廃棄物埋設地近傍の沢水を生産に利用する農耕作業による外部被ばく及び内部被ばくを合計した線量当量の最大値は,年間約5.5×10–5ミリシーベルト
(e) 廃棄物埋設地又はその近傍における住宅施設の建築工事による外部被ばく及び内部被ばくを合計した線量当量の最大値は,年間約8.3×10–5ミリシーベルト
(f) 廃棄物埋設地又はその近傍における居住による外部被ばく及び内部被ばくを合計した線量当量の最大値は,年間約1.5×10–3ミリシーベルト
(g) 廃棄物埋設地における地下数階を有する建物の建設工事による外部被ばく及び内部被ばくを合計した線量当量は,その工事に従事する人を対象として,最大で年間約8.1×10–3ミリシーベルト
(h) 廃棄物埋設地における地下数階を有する建物の建設工事によって発生する土壌上での居住による外部被ばく及び内部被ばくを合計した線量当量は,その居住者を対象として,最大で年間約0.014ミリシーベルト
(i) 廃棄物埋設地又はその近傍における井戸水の飲用による内部被ばく量(実効線量当量)は,最大で年間約3.0×10–3ミリシーベルト
b 本件安全審査において,上記評価シナリオの選定,計算条件等の妥当性を確認した上で,一般的な経路(上記経路(a)から(f))については,その最大値(上記経路(f)の年間約1.5×10–3ミリシーベルト=1.5マイクロシーベルト)が「安全審査の基本的考え方」にめやすとして定められている線量(年間10マイクロシーベルト)を十分下回っており,また,発生頻度は小さいが線量当量評価の観点から影響が大きい経路(上記経路(g)から(i))については,その最大値(上記経路(h)の年間約0.014ミリシーベルト=14マイクロシーベルト)が上記線量(年間10マイクロシーベルト)を著しく超えない範囲にあると判断した。さらに,上記「安全審査の考え方」が定める管理期間終了以後の線量当量の評価についてのめやす線量は,放射線審議会基本部会報告「放射性固体廃棄物の浅地中処分における規制除外線量について」(昭和62年12月)に示された規制除外線量を採用したものであるところ,同報告書が準拠しているICRPの勧告は,個人の規制除外線量を年間合計100マイクロシーベルトのオーダーの線量に相当するリスク以下にすることにしているから,上記の各経路の線量当量は,ICRPの勧告値に照らしても,十分に低い。
以上の結果から,本件安全審査においては,管理期間終了以後において,埋設した放射性廃棄物に起因する一般公衆の線量当量が被ばくの観点からは管理することを必要としない低い線量であることを確認することができたため,有意な期間内に管理することを必要としない状況へ移行することができると判断した。
ウ 廃棄物埋設地の覆土に関する主張に対して
(ア) 本件廃棄物埋設施設は平坦な台地に位置しており,地形的に地すべりが発生しにくいと考えられ,また,埋設設備は天然の地盤を掘り下げて設置されるから土砂流失により覆土が喪失することは物理的に考えられないし,覆土は土砂等を締め固めながら行い廃棄物埋設地の周辺の土壌等に比して透水性が大きくならないようにするとともに,地表面には植生を施し,地表水に対しては排水を考慮して,埋設設備が容易に露出しないよう配慮することとされている。このように,覆土の部分は自然地盤の部分に比して地割れ,陥没等が起こりやすいとはいえないし,埋設設備群設置位置及びその付近には,変位地形が認められず,地すベり地形及び陥没の発生した形跡も認められないから,覆土が所定の厚さを保持し得ないことはない。
(イ) 埋設設備の上面及び側面には,土砂等を締め固めながら周辺の土壌等に比して透水性が大きくならないよう覆土が施される。その覆土の厚さは埋設設備上面から6m以上とされ,鷹架層を掘り下げた部分を埋め戻す覆土のうち,埋設設備群設置地盤から埋設設備上面2mまでの間の覆土は,土砂にベントナイトを混合し,透水係数がN値50以上の鷹架層中部層の値より小さい毎秒10?7cm程度となるよう施工されることとなっている。そして,線量当量評価において,ベントナイトを混合した覆土の透水係数として上記の設計値に余裕をもたせた値を採用しても,一般公衆の受ける線量当量は十分小さいことから,本件安全審査においては,覆土は放射性物質の生活環境への移行を抑制する機能を有すると判断したのである。また,上記に述べたベントナイトは,土などと同様に天然の材料であって,長期にわたってその性質が変わりにくいという性質をもっている。
エ アメリカの事故事例に関する主張に対して
アメリカのウェストヴァレー,マキシーフラッツ,シェフィールドの事故は,低レベル廃棄物処分場の覆土の材料の選択及び施工が不適切であったこと,並びに腐食又は分解しやすい廃棄物をそのまま埋設したことに起因するところ,本件廃棄物埋設施設においては,セメント,アスファルト等を用いて容器に固型化した放射性廃棄物を鉄筋コンクリート造の埋設設備の区画内に定置し,セメント系充てん材を充てんした後,鉄筋コンクリート造の覆いを設置し,更に埋設設備上面からの厚さ6m以上の覆土を施すこととされており,その上で,第2段階における管理として,埋設設備からの放射性物質の漏出の状況を監視し,必要に応じて放射性物質の移行抑制等の措置を講ずることとされていること等からすると,上記各処分場で発生したような事故が発生することは考えられない。また,アイダホでは,洪水により浸水が発生したが,本件廃棄物埋設施設において,洪水により問題が生じることはない。
さらに,廃棄物埋設地においては,廃棄物埋設地から放射性物質が異常に漏出したとしても,第2段階当初から物理的閉じ込めは期待せず,埋設設備等の透水性が砂程度になっているものとし,ベントナイトを混合した覆土の透水係数は設計値に余裕をもたせた値になっているものと想定して一般公衆に与える線量当量が評価されている。本件安全審査においては,上記のような放射性物質の異常な漏出を想定しても,一般公衆に対し,過度の放射線被ばくを及ぼすことはないと判断されている。
オ 一挙的漏えいに伴う地下水等汚染による被ばくに関する主張に対して
原告らの事故事象の想定は,何ら合理的な根拠を有しないものであり,その前提において既に失当である。
カ 航空機の墜落などによる廃棄体の一挙的漏出による被ばくに関する主張に対して
(ア) 自衛隊機による緊急発進(スクランブル)は,回数が多くない上,原子力施設付近上空を避けて通ることになっているため,本件廃棄物埋設施設への墜落については考慮する必要がない。なお,米軍機は,緊急発進(スクランブル)を行っていない。
当初の申請においては,覆土が施された以降に廃棄物埋設地に航空機が墜落する場合が仮定されていたが,平成元年10月27日付け一部補正において,すべての施設に航空機が墜落した場合を考慮することに改められ,このうち,一般公衆の受ける線量当量が最も厳しくなる管理建屋に航空機が墜落するとした場合の評価条件及び評価結果が申請書添付書類に記載されているのであり,原告らの主張はこれらの事実を看過するものであり,失当である。
(イ) 本件安全審査においては,自衛隊機については,天ヶ森射爆撃場での訓練の際模擬弾を使用していること(このことは,昭和60年2月16日に開催された第102回国会衆議院予算委員会での防衛庁長官の答弁に明らかなとおりである。),米軍機についても天ヶ森射爆撃場での訓練で米軍機が実爆弾を使用していないこと(このことは,平成3年11月14日に開催された第122回国会衆議院予算委員会での外務省の松浦政府委員の答弁からも明らかなとおりである。)を確認した。したがって,本件安全審査において,万一の墜落を想定した訓練機が実爆弾を搭載していないとしてその影響を確認したことには十分合理性がある。
(ウ) 一般公衆の受ける線量当量が最も厳しくなる管理建屋への航空機墜落時の影響を評価する上で設定された条件は,別紙「航空機墜落時の線量当量評価の計算条件」のとおりであり,本件評価条件の設定は十分合理性を有する。なお,上記事故による一般公衆の線量当量は,敷地境界外の最大となる場所において,実効線量当量で約0.13ミリシーベルトであり,一般公衆への被ばくによる影響は小さい。また,その他の施設についてはこの値を下回る。
(エ) 原告ら主張の事故事象の想定は,何ら合理的な根拠を有しないものであり,その前提において失当である。
(4) 輸送中の事故について
核燃料物質等の輸送については,本件事業許可処分の規制とは別途の規制が講じられており,本件訴訟における審理の対象ではない。
第5部当裁判所の判断
第1原告適格について
1 行訴法9条1項は,処分取消訴訟の原告適格を,当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に限定している。そして,同条2項は,「裁判所は,処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては,当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては,当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。」と規定している。
2 そこで,このような観点から,原子炉等規制法51条の2,51条の3に基づく廃棄物埋設事業許可処分につき,廃棄物埋設施設の周辺に居住する者が,その処分の取消訴訟を提起することができる法律上の利益を有するかどうかについて検討する。
原子炉等規制法は,原子力基本法の精神にのっとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うことなどを目的として制定されたものである(原子炉等規制法1条)。原子炉等規制法51条の3第1項に基づく廃棄物埋設事業の許可申請に対する許可権者である内閣総理大臣は,許可申請が同項各号に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならず,また,上記許可をする場合においては,あらかじめ,同項1号(原子力開発等に支障がないこと)及び2号(事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会の意見を聴き,同項2号(事業を適確に遂行するに足りる技術的能力に係る部分に限る。)及び3号(災害防止)に規定する基準の適用については,原子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければならないものとされている(同条2項)。原子炉等規制法51条の3第1項各号所定の許可基準のうち,2号(技術的能力に係る部分に限る。)は,当該申請者が事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するかどうかについて,また,3号は,廃棄物埋設施設の位置,構造及び設備が核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物による災害の防止上支障がないものであるかどうかについて,審査を行うベきものと定めている。廃棄物埋設事業許可の基準として,上記の2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号(災害防止)が設けられた趣旨は,廃棄物埋設施設が,放射性廃棄物を埋設の方法により最終的に処分する施設であって,廃棄物埋設事業を行おうとする者がその事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を欠くとき,又は廃棄物埋設施設の安全性が確保されないときは,当該廃棄物埋設施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射性物質等によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,このような災害が起こらないようにするため,廃棄物埋設事業許可の段階で,廃棄物埋設事業を行おうとする者の上記技術的能力の有無並びに申請に係る廃棄物埋設施設の位置,構造及び設備の安全性につき十分な審査をし,上記の者において所定の技術的能力があり,かつ,廃棄物埋設施設の位置,構造及び設備が上記災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない限り,内閣総理大臣は廃棄物埋設事業許可処分をしてはならないとした点にあるものと解される。そして,原子炉等規制法51条の3第1項2号所定の技術的能力の有無及び同項3号所定の安全性に関する各審査に過誤,欠落があった場合には重大な核燃料物質等の漏出事故等が起こる可能性があり,そのような事故等が起こったときには,廃棄物埋設施設に近い住民ほど甚大な被害を受けるがい然性が高く,しかも,その被害の程度はより直接的かつ重大なものとなるのであって,特に,廃棄物埋設施設の近くに居住する者はその生命,身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるのであるから,上記各号は,このような廃棄物埋設施設の事故等がもたらす災害による被害の性質を考慮した上で,技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと解される。このような上記2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号(災害防止)の設けられた趣旨,上記各号が考慮している被害の性質等にかんがみると,上記各号は,単に公衆の生命,身体の安全,環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず,廃棄物埋設施設周辺に居住し,上記事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。
そして,原告らの居住する地域が上記事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるかどうかについては,当該廃棄物埋設施設の構造,規模等の当該廃棄物埋設施設に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で,原告らの居住する地域と当該廃棄物埋設施設の位置との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきものである(もんじゅ最高裁判決参照)。
3 上記の見地から本件についてみると,前記前提事実等によれば,①本件廃棄物埋設施設は,原子力エネルギーを発生利用する施設ではなく,低レベル放射性廃棄物をセメント等で容器内へ均一に固型化したものを,地面を掘り下げて設置される鉄筋コンクリート造の埋設設備に埋設し,放射能の低減等に応じて管理の内容を段階的に変更しつつ,最終的に処分する施設であること,②本件廃棄物埋設施設で埋設を行う放射性廃棄物の表面の線量当量率は10mSv/hを超えないものとされており(乙3の5頁,乙2の6-14),その数量は最大4万m3(200lドラム缶20万本に相当する量)であること(乙2の1頁),③「線量当量限度等を定める件」は,周辺監視区域外の線量当量限度を1年間につき実効線量当量1ミリシーベルトと規定しているところ,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される放射性物質から敷地境界外の一般公衆が受ける線量当量の最大値は,周辺監視区域境界とほぼ一致する地点の外部放射線に係る線量当量で,年間約0.027ミリシーベルトであり(乙2の6-49頁),管理期間終了以後における一般公衆の線量当量の最大値も年間約0.0015ミリシーベルトであると判断され(乙2の6-60頁),本件事業許可処分はそのような判断に基づいてされていることを認めることができる。また,本件廃棄物埋設施設において埋設される放射性廃棄物に含まれる主要な放射性物質は,コバルト60,ニッケル63等であり,受入れ時における総放射能量は1.73×1015ベクレルであって,原子力発電所に内蔵される放射能量と比較すると,はるかに少なく,その危険性も小さいことを認めることができる(乙42の2頁)。そして,これらの事実を踏まえ,本件廃棄物埋設施設の立地場所との距離関係を中心として,地形や地勢を考慮しながら社会通念に照らして勘案すると,本件廃棄物埋設施設の設置許可の際に行われる原子炉等規制法51条の3第1項2号所定の技術的能力の有無及び3号所定の安全性に関する各審査に過誤,欠落がある場合に起こり得る事故等に起因する災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される範囲の住民に属する原告としては,青森県上北郡六ヶ所村内(その距離は本件廃棄物埋設施設から最遠隔地でも約20km以内である行政区画内)に居住する原告ら16名(別紙当事者目録記載の番号75から90までの者。乙A5)がこれに該当するというべきであり,これらの原告らのみが,本件訴訟において,行訴法9条1項所定の「法律上の利益を有する者」に該当するものと認めるのが相当である。
4 これに対して,原告らは,「本件事業許可処分の取消判決が対世的効力を有することに照らすと,裁判所は,少なくとも原告らの中に明らかに原告適格のある者が存在することを確認した段階においては,原告全員について一々原告適格の有無を論ずることなく,本案判断を行うべきである。」旨主張するが,原告適格は本案判決の言渡しをするために必要な訴訟要件であるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
5 以上によれば,原告らのうち前記の範囲の者は本件において原告適格を有するものということができるが,その余の原告らは原告適格を欠き,その訴えはいずれも不適法であるから却下することとする。
第2審理判断の枠組みに関する法律論について
1 基本設計以外の事由の主張制限について
(1) 原子炉等規制法は,その規制の対象を,製錬事業(第2章),加工事業(第3章),原子炉の設置,運転等(第4章),再処理事業(第5章),廃棄事業(第5章の2),核燃料物質等の使用等(第6章),国際規制物資の使用(第6章の2),指定検査機関等(第6章の3)に分け,それぞれにつき内閣総理大臣の指定,許可,認可等を受けるべきものとしているのであるから,第5章の2所定の廃棄の事業に関する規制は,専ら廃棄事業の許可等の同章所定の事項をその対象とするものであって,他の各章において規制することとされている事項までをもその対象とするものではないと解される。
また,原子炉等規制法第5章の2の廃棄の事業に関する規制の内容をみると,廃棄物埋設事業の許可,変更の許可(51条の2ないし51条の5)のほかに,廃棄物埋設施設及びこれに関する保安のための措置の確認(51条の6第1項),埋設しようとする核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物及びこれに関する保安のための措置の確認(同条2項),放射能の減衰に応じた廃棄物埋設についての保安のために講ずべき措置その他の事項を規定した保安規定の認可(51条の18第1項)等の各規制が定められており,これらの規制が段階的に行われることとされている。したがって,廃棄物埋設の事業の許可の段階においては,専ら当該廃棄物埋設施設の基本設計のみが規制の対象となるのであって,後続の手続の段階で規制の対象とされる事項は規制の対象とはならないものと解される。
上記原子炉等規制法の構造に照らすと,廃棄物埋設の事業の許可の段階の安全審査においては,当該廃棄物埋設施設の安全性にかかわる事項のすべてをその対象とするものではなく,その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である(伊方最高裁判決参照)。
そして,後記のとおり,原子炉等規制法51条の3第1項の趣旨が,同項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号(災害防止)所定の基準の適合性について,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねるものであることにかんがみると,どのような事項が廃棄物埋設事業の許可の段階における安全審査の対象となるべき当該廃棄物埋設施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当するのかという点も,上記の基準の適合性に関する判断を構成するものとして,同様に原子力安全委員会の意見を十分に尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねられているものと解される(もんじゅ第2次最高裁判決参照)。
(2) 上記によれば,原告らの主張のうち,廃棄物埋設事業許可の段階の安全審査の対象となる本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性にかかわらない事項についての主張は,理由がない。
2 取消訴訟における処分の違法事由の主張制限について
(1) 原告らは,取消訴訟である本件訴訟において,自己の法律上の利益に関係のない違法を取消事由として主張することはできない(行訴法10条1項)。
(2) そして,行訴法10条1項にいう法律上の利益は,原告適格(同法9条1項)の基礎となる法律上の利益と同義であると解されるところ,前記のとおり,原告らの本件訴訟における原告適格を基礎付ける法律上の利益は,原子炉等規制法51条の3第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号(災害防止)が保護の対象としている原告らの生命,身体の安全等である。
(3) したがって,原告らが本件訴訟において取消事由として主張することができる実体法上の事由は,原子炉等規制法51条の3第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号(災害防止)の要件にかかわる違法事由のうち,原告らの生命,身体の安全等に関するものに限られるものと解される。
(4) そうすると,原告らの主張のうち,原子炉等規制法51条の3第1項2号(経理的基礎に係る部分に限る。)の要件適合性や同項3号(災害防止)の要件適合性のうち労働者被ばくに関する事項等(甲1参照)は,本件訴訟においては労働者ではない原告らが主張することは許されず,それらに関する原告らの主張は理由がない。
3 司法審査の在り方について
(1) 前記のとおり,廃棄物埋設事業許可の基準として,原子炉等規制法51条の3第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号(災害防止)が設けられた趣旨は,廃棄物埋設施設が,放射性廃棄物を埋設の方法により最終的に処分する施設であって,廃棄物埋設事業を行おうとする者がその事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を欠くとき,又は廃棄物施設の安全性が確保されないときは,当該廃棄物埋設施設の従業員やその周辺住民の生命,身体等に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射性物質によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすことがあることにかんがみ,このような災害が起こらないようにするため,廃棄物埋設事業許可の段階で,廃棄物埋設事業を行おうとする者の技術的能力の有無並びに申請に係る廃棄物埋設施設の位置,構造及び設備の安全性につき科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにあるものと解される。
(2) そして,上記の技術的能力を含めた廃棄物埋設施設の安全性に関する審査は,当該廃棄物埋設施設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等について,廃棄物埋設施設設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該廃棄物埋設事業者の上記技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討するものであり,しかも,上記審査の対象には,将来の予測に係る事項も含まれているのであって,上記審査においては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして,原子炉等規制法51条の3第2項が,内閣総理大臣は,廃棄物埋設事業の許可をする場合においては,同条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号(災害防止)所定の基準の適用について,あらかじめ原子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければならないと定めているのは,廃棄物埋設施設の安全性に関する審査の特質を考慮し,上記各号所定の基準の適合性については,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨であるものと解される。
(3) 以上の点を考慮すると,廃棄物埋設施設の安全性に関する判断の適否が争われる廃棄物埋設事業許可処分の取消訴訟における裁判所の審理,判断は,現在の科学技術水準に照らし,①原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の調査審議において用いられた具体的審査基準について不合理な点があるかどうか,又は②当該廃棄物埋設施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会等の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるかどうかという観点から行うべきであり,仮に上記具体的審査基準が不合理であり,又は上記具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会等の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があって,内閣総理大臣の判断がこれらに依拠してされたものであると認められる場合には,内閣総理大臣の上記判断に不合理な点があるものとして,上記判断に基づく廃棄物埋設事業許可処分が違法になるものと解される(伊方最高裁判決参照)。
第3本件事業許可処分の手続的適法性について
1 憲法13条,25条違反の原告らの主張について
(1) 原告らは,「原子炉等規制法は,放射性廃棄物を固化するセメントや骨材についての規制をしておらず,放射能濃度や強度の測定を義務付けていない上,無内容な条件により放射性廃棄物の埋設事業の許可を与えてしまうから,憲法13条,25条に抵触して無効であり,無効な原子炉等規制法に従った本件事業許可処分も,違憲無効であって,違法である。」旨主張する。
(2)ア しかしながら,原子炉等規制法は,廃棄物埋設施設及び廃棄物管理施設の設計から事業実施に至るまでの過程を段階的に区分し,それぞれの段階に対応して各種の規制手続を介在させ,これらの一連の規制手続を通じて廃棄の事業に係る安全性を確保するという仕組みを採用しているのであるから,廃棄物埋設事業許可処分の段階において,原告らの主張するような具体的な規制がされなければならないというものではない。
イ また,廃棄体に使用するセメントは,日本工業規格JISR5210(1979)若しくはJISR5211(1979)に定めるセメント又はこれと同等以上の品質を有するセメントを用いなければならないとの規制がされており(埋設細目告示4条1号イ〔乙A2の852頁〕,廃棄物埋設事業規則8条1号〔乙A2の834頁以下〕,原子炉等規制法51条の6第1項),骨材そのものに関しての規制はないものの,骨材の種類にかかわらずセメントを用いて固型化された放射性廃棄物の強度について,一軸圧縮強度が15kg/cm2以上とするように規制がされている(上記告示4条3号〔乙A2の852頁〕)。
さらに,廃棄物埋設事業者は,埋設しようとする核燃料物質等について,放射性廃棄物の放射能濃度を測定した方法その他放射性廃棄物の放射能濃度を決定した方法に関する説明書並びに廃棄体の強度を測定した方法その他当該廃棄体の強度を決定した方法及びその結果に関する説明書を提出し(廃棄物埋設事業規則7条1項4号,5号〔乙A2の834頁〕),その内容が同規則8条に規定する技術上の基準に適合しているかどうかについて,内閣総理大臣の確認を受けなければならないとされている(原子炉等規制法51条の6第1項)。
したがって,原子炉等規制法が放射性廃棄物を固化するセメントや骨材,放射能濃度や強度の測定に係る規制をしていないということはできない。
ウ そして,上記規制に加えて,原子炉等規制法は,製錬事業者,加工事業者,原子炉設置者,再処理事業者等の各事業者に,それぞれ核燃料物質等の廃棄について,保安のために必要な措置を講ずべきことを定めている(同法11条の2,21条の2第1項,35条1,2項,48条1項,51条の16第1,2項,58条)。
エ 以上からすれば,「原子炉等規制法が無内容な条件により放射性廃棄物の埋設事業の許可を与えてしまうから憲法13条,25条に抵触して無効である。」旨の原告らの上記主張は理由がない。
2 設計審査の具体的基準を欠くから違法であるとの原告らの主張について
(1) 原告らは,「設計審査の具体的基準としては,あいまいな『安全審査の基本的考え方』しか審査基準がないから,本件事業許可処分は違法である。」旨主張する。
(2) しかしながら,前記説示のとおり,廃棄物埋設事業の許可の段階においては,専ら当該廃棄物埋設施設の基本設計のみが規制の対象となるのであり,廃棄物埋設施設の設計図,構造図等の図面は,事業許可後の廃棄物埋設施設及びこれに関する保安の措置の確認を受ける段階で提出されるものであるところ(廃棄物埋設事業規則2条,4条),「安全審査の基本的考え方」は,廃棄物埋設施設の基本設計の安全性について判断するための基準として,不合理なものであるということはできないから,「安全審査の基本的考え方」の内容があいまいであるとの原告らの主張は理由がない。
(3) また,本件安全審査の際の具体的審査基準としては,「安全審査の基本的考え方」以外にも,原子炉等規制法施行令,廃棄物埋設事業規則及び「線量当量限度等を定める件」といった法令上の審査基準が用いられたほか,原子力安全委員会の定めた「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」(乙14の4),「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(乙14の3),「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」(乙14の5)が参考とされているから,「安全審査の基本的考え方」しか審査基準がない旨の原告らの上記主張は,理由がない。
3 別途必要な管理事業の許可を欠くから違法である旨の原告らの主張について
(1) 原告らは,「原子炉等規制法上,3.7テラベクレル以上の放射性廃棄物を埋設するまでの間に管理をする施設は,『特定廃棄物管理施設』とされ,その管理の事業については,埋設の事業のように事業許可の後に『確認』が行われるのみではなく,設計及び工事方法の認可,使用前検査並びに定期検査が必要とされていること(同法51条の7,8,10,同法施行令13条の12)にかんがみると,3.7テラベクレル以上の放射性廃棄物を貯蔵する本件廃棄物埋設施設の附属施設は,上記の『特定廃棄物管理施設』に当たるものとして,別途,管理事業の許可を受けるべきであるのに,本件においては,その許可がないから,違法である。」旨主張する。
(2) しかしながら,廃棄の事業としての廃棄物管理とは,核燃料物質等についての最終的な処分がされるまでの間において行われる放射線による障害の防止を目的とした管理その他の管理又は処理のことであって,その具体的内容は政令で定めるものとされているところ(原子炉等規制法51条の2第1項2号),その委任を受けた同法施行令13条の10(乙A2の101頁)は,廃棄物埋設事業者が廃棄物埋設施設において行う管理又は処理は,上記廃棄物管理に該当しないと定めているのであるから,本件廃棄物埋設施設の附属施設に3.7テラベクレル以上の放射性廃棄物が貯蔵されることになるとしても,それが「特定廃棄物管理施設」であるということはできない。
したがって,3.7テラベクレル以上の放射性廃棄物を埋設する際には管理事業の許可が別途必要であるのにこれを欠くから違法である旨の原告らの上記主張は,理由がない。
4 審査者指導の申請書一部補正は違法である旨の原告らの主張について
(1) 原告らは,「審査者であるはずの科学技術庁や原子力安全委員会が,本来は却下すべき申請について,全面的に申請者を指導して同一性を失うほど申請書を書き替えさせて不公正に許可を与えたから違法である。」旨主張する。
(2) しかしながら,本件における申請書の一部補正は,本件安全審査の前又はその過程において,原燃産業の意思に基づいてされたものであり(乙2から4まで),たとえその端緒において審査機関による問題点の指摘等があったとしても,その一部補正が違法であるということはできない。また,本件における一部補正は申請としての同一性を失うものではないと認めることができる上(乙1から4まで),その一部補正手続に関して不公正な点があったと認めることもできない。
したがって,本件における申請書の一部補正が違法であるとはいえない。
5 なれ合い委員による審査なので違法である旨の原告らの主張について
(1) 原告らは,「原子力委員会及び原子力安全委員会又はそれらの下部組織(例えば,放射性廃棄物対策専門部会)においては,原子力関連産業又は原子力推進派の委員が多数存在しており,そのようななれ合い委員に対して厳正中立な審査を求めることはできないから,本件事業許可処分は,手続的に違法である。」旨主張する。
(2)ア しかしながら,原子力委員会の委員は,両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し(原子力委員会等設置法5条1項〔乙A2の8頁〕),専門委員も学識経験がある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命することとされている(同設置法施行令3条2項〔乙A2の13頁〕)。
また,原子力安全委員会の委員は,両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し(原子力委員会等設置法22条,5条1項),安全審査会の審査委員は学識経験がある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命することとされているのであり(同法20条,17条1項),上記各委員の任命が不公正であって違法であると認めるに足りる証拠はない。
イ なお,原告らが指摘する放射性廃棄物対策専門部会は,放射性廃棄物対策の具体的な推進方策について調査審議をするために設置されたものであって(昭和62年11月27日原子力委員会決定,乙15の3),同部会が本件調査審議に関与したものと認めることはできないから,この点に関する原告らの主張は理由がない。
ウ 以上によれば,原子力委員会又は原子力安全委員会の委員の中になれ合い委員が多いから本件事業許可処分が手続的に違法である旨の原告らの上記主張は,理由がない。
6 本件審査の密室性,秘密性及びずさんさの原告らの主張について
(1) 原告らは,「事業許可申請書,添付書類その他の安全審査資料を公開することが憲法21条(表現の自由)や公平原則・条理に基づき強く要請されるが,上記公開がされていない。また,本件審査において,原子力安全委員会,原子力委員会その他の関係機関の構成員は,特定の委員らに審査を任せている。さらに,原子力安全委員会等の関係機関の審査内容に関する議事録等が存在しないか又は不整備である。」旨主張する。
(2) しかしながら,憲法21条が国家に対して情報の開示を義務付けた規定であると解することはできないから同条を根拠に安全審査資料の公開を導くことはできないし,公平原則や条理がそのような公開を要請する法的根拠であるということもできないから,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
また,本件審査においては,原子力安全委員会から安全審査会に対して調査審議の指示がされ,これを受けた安全審査会が担当部会として第27部会を設置し,同部会において専門的かつ詳細な調査審議をし,その結果を踏まえて安全審査会が再度調査審議をした上で最終的に原子力安全委員会において審議及び決定をしたものである(前提事実)。また,原子力委員会の審査においても,特定の委員らに審査が任せられたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件審査が特定の委員らに任せられたとする原告らの上記主張は理由がない。
さらに,本件審査の議事録については原子力委員会議事運営規則(昭和32年2月28日原子力委員会決定,乙16の3)6条1項及び原子力安全委員会議事運営規則(昭和53年10月21日原子力安全委員会決定,乙16の4)6条1項によりその作成が義務付けられており,上記規定に従い議事録が作成されていることを認めることができる(乙10の3,弁論の全趣旨)。したがって,議事録が不存在又は不備である旨の原告らの上記主張も理由がない。
7 民主・公開の原則違反による違法性の原告らの主張について
(1) 原告らは,「本件審査は原子力基本法の民主・公開の原則を踏みにじるものであり,この点を看過した本件事業許可処分は違法である。」旨主張する。
(2) しかしながら,原告らの主張する調査資料の公開や,住民が参加する形での環境アセスメントは,本件事業許可処分に当たり法律上必要とされていたものではなく,平成2年4月26日に行われた公開ヒアリング等が特段非民主的な手続であるということもできない。したがって,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
8 農地法違反及びむつ小川原開発第2次基本計画違反の原告ら主張について
(1) 原告らは,「むつ小川原開発公社による本件廃棄物埋設施設の敷地の取得は,農地法に違反した無効なものであり,その転得者である原燃産業も所有者たりえないから,本件事業許可処分は違法である。」,「むつ小川原開発第2次基本計画に,核燃料サイクル施設の立地計画はなかったから,本件廃棄物埋設施設を建設することは,上記基本計画に抵触する。」旨主張する。
(2) しかしながら,上記各事情は,本件事業許可処分と直接の関連性を有するものではなく,原子炉等規制法等で規定されている手続にかかわるものではないから,本件事業許可処分の手続的適法性を左右するに足りる事情となるものではない。したがって,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
9 許可を前提とした審査による違法性の原告ら主張について
(1) 原告らは,「本件審査においては当初から許可をすることを前提としたセレモニーとしての審査を行っているにすぎず,手続的に重大な瑕疵があるから,本件事業許可処分は違法である。」旨主張する。
(2) しかしながら,本件審査が当初から許可をすることを前提にして行われたと認めるに足りる証拠はないから,原告らの上記主張は理由がない。
第4原子炉等規制法51条の3第1項2号要件の適合性について
1 2号要件のうち経理的基礎に係る部分の適合性
前記説示のとおり,原子炉等規制法51条の3第1項2号のうち,経理的基礎に係る部分の要件に関する違法事由を原告らが本件訴訟において主張することはできない。したがって,経理的基礎に係る部分の要件に関する原告らの主張は,理由がない。
2 2号要件のうち技術的能力に係る部分の適合性
(1) 本件調査審議及び判断の過程
ア 本件事業許可申請においては,①原燃産業の実施する廃棄物埋設の方法が既に原子力施設において実績のある廃棄物処理,放射線管理及び土木・建築工事の技術を利用することにより十分可能なものであって,特別な技術を必要とするものではないこと,②原燃産業は,これらの技術につき専門的知識及び経験を有する技術者を有していること,③本件廃棄物埋設施設の建設,操業に当たって必要とする技術者については,定期採用等により逐次増強を図るとともに,原子力発電所への派遣等による技術的能力のかん養に努めるとされていること,④電力会社等との連絡を密にし,人的・技術的協力を適宜得ることなどが明らかにされていた(本件事業許可申請書の添付書類二「廃棄物埋設に関する技術的能力に関する説明書」。乙1から4まで)。
イ そこで,原子炉等規制法51条の3第1項2号のうち技術的能力に係る部分に関する調査審議においては,①原燃産業は,原子力発電所において廃棄物処理,放射線管理等の経験を有する技術者を有していること,②本件廃棄物埋設施設を計画,建設し,また,事業を遂行していく上においては,実務経験,知識等を有する要員が確保されることとなっており,また,長期間にわたり事業を適確に遂行するのに十分な組織体制が整備されていることを確認し,これらの点から原燃産業には本件廃棄物埋設施設を設置するために必要な技術的能力及び適確に業務を遂行するための技術的能力(同法51条の3第1項2号の技術的能力の要件)があると判断した。そして,この上記調査審議の結果を尊重した内閣総理大臣により本件事業許可処分がされた(乙12の1から3まで,乙37の10,乙42,A証言)。
(2) 裁判所の判断
以上によれば,内閣総理大臣の上記判断が依拠した原子力安全委員会等による本件調査審議において用いられた技術的能力に係る具体的審査基準に不合理な点があるとはいえないし,本件事業許可申請が上記技術的能力の要件に適合するとした原子力安全委員会等の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできない。したがって,この技術的能力の要件への不適合を理由に本件事業許可処分が違法であるということはできない。
(3) 原告らの主張に対する判断
これに対して,原告らは,「原燃産業には,低レベル放射性廃棄物埋設事業をした実績が試験・研究を含めて全くない。また,本件事業許可申請書によると,施設の建設・操業に約70名の技術者が必要とされているのに,本件事業許可申請当時には65名しかおらず,施設の建設に必要な技術者すら不足している。したがって,原燃産業には,技術的能力の要件がない。」旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,科学的,専門技術的知見を有する学識経験者等により構成される原子力安全委員会がした本件調査審議の過程においては,低レベル放射性廃棄物埋設事業は既に原燃産業が実績を有する技術を利用することにより遂行可能であること,技術者の数等についても今後人員の確保を図る見通しのあることが確認されているのであるから,原告らの上記主張は理由がない。
第5原子炉等規制法51条の3第1項3号(災害防止)要件の適合性について
1 本件安全審査における具体的な審査基準について
証拠(乙8,乙12の1から3まで,乙14の1から7まで,乙42,A証言)及び弁論の全趣旨によれば,本件安全審査の具体的審査基準の内容は,以下のとおりであったことを認めることができる。
(1) 本件安全審査の具体的審査基準の内容
本件安全審査においては,法令上の審査基準として,原子炉等規制法施行令,廃棄物埋設事業規則及び「線量当量限度等を定める件」が用いられた。
また,本件安全審査は,原子力安全委員会が決定した「原子力安全委員会の行う原子力施設に係る安全審査等について」に従うとともに,「安全審査の基本的考え方」(乙14の6)に基づくほか,「気象指針」(乙14の4),「耐震設計審査指針」(乙14の3),「線量評価指針」(乙14の5)などが参考とされた。
(2) 具体的審査基準の一つである「安全審査の基本的考え方」の内容
上記のうち,「安全審査の基本的考え方」は,放射性固体廃棄物の埋設施設の安全性を評価する際の考え方について,廃棄物埋設施設の安全確保上の特徴を踏まえて取りまとめられた指針であり,廃棄物埋設事業として原子炉施設の運転等に伴って発生する低レベル放射性固体廃棄物を浅地中に埋設し,その管理を段階的に軽減して行う最終的な処分について適用するものとし,その基本的な考え方を次のとおり定めていた(乙14の6の688頁以下)。
ア 基本的立地条件(「安全審査の基本的考え方」Ⅲ)
廃棄物埋設施設及びその周辺において,大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えられないこと,また,万一,事故が発生した場合において,その影響を拡大するような事象も少ないこと
なお,「安全審査の基本的考え方」の解説においては,以下のような事象を考慮する必要があるとされていた(乙14の6の692頁以下)。
(ア) 自然環境
a 地震,津波,地すべり,陥没,台風,高潮,洪水,異常寒波,豪雪等の自然現象
b 地盤,地耐力,断層等の地質及び地形等
c 風向,風速,降水量等の気象
d 河川,地下水等の水象及び水理
(イ) 社会環境
a 近傍工場等における火災,爆発等
b 河川水,地下水等の利用状況,農業,畜産業,漁業等食物に関する土地利用等の状況及び人口分布等
c 石炭,鉱石等の天然資源
イ 被ばく線量評価(「安全審査の基本的考え方」Ⅳ)
(ア) 平常時評価(乙14の6の688頁)
平常時における一般公衆の被ばく線量は,段階管理の計画,廃棄物埋設施設の設計並びに敷地及びその周辺の状況との関連において,「合理的に達成できる限り低い」ものであること
なお,「安全審査の基本的考え方」の解説によると,平常時における廃棄物埋設地からの放射性物質の漏出,廃棄物埋設地の附属施設からの放射性気体廃棄物及び放射性液体廃棄物の放出等に伴う一般公衆の被ばく線量が,法令に定める線量当量限度を超えないことはもとより,「合理的に達成できる限り低い」ことを段階管理の計画,設計並びに敷地及びその周辺の状況との関連において評価するとされていた(乙14の6の693頁)。
(イ) 安全評価(乙14の6の688頁以下)
技術的にみて想定される異常事象が発生するとした場合,一般公衆に対し,過度の放射線被ばくを及ぼさないこと
なお,「安全審査の基本的考え方」の解説においては,以下のとおり定められていた(乙14の6の693頁以下)。
a 廃棄物埋設地については,事業の長期性にかんがみ,平常時評価において考慮した事象を超えるような事象が仮に発生するとしても一般公衆に対し安全上支障がないことを確認するため,廃棄物埋設地からの放射性物質の異常な漏出を技術的見地から仮定して一般公衆の被ばく線量を評価する。
b 廃棄物埋設地の附属施設については,以下のような事故の発生の可能性を検討し,一般公衆の被ばくの観点から重要と思われる事故を選定して一般公衆の被ばく線量を評価する。
(a) 誤操作による廃棄物の落下等に伴う放射性物質の飛散
(b) 配管等の破損,各種機器の故障等による放射性物質の漏出
(c) 火災等
c 被ばく線量の評価に当たっては,事故発生後,その影響を緩和するための対策が講じられる場合は異常を検知するまでの時間,作業に要する時間等を適切に考慮し,事故が収束するまでの間に漏出し,又は放出された放射性物質等により発生するおそれのある一般公衆の被ばく線量を評価するものとする。
d 「一般公衆に対して,過度の放射線被ばくを及ぼさないこと」とは,事故等の発生頻度との兼ね合いを考慮して判断しようとするものであり,判断基準は「一般公衆に対して著しい放射線被ばくのリスクを与えないこと」とするが,その具体的な運用に当たっては,ICRP勧告及びパリ声明による公衆の構成員に関する実効線量当量限度を超えなければ「リスク」は小さいものと判断する。
ウ 放射線管理(「安全審査の基本的考え方」Ⅴ,乙14の6の689頁)
(ア) 閉じ込めの機能
廃棄物埋設施設は,第1段階において放射性物質を廃棄物埋設地の限定された区域に閉じ込める機能を有する設計であること
(イ) 放射線防護
a 廃棄物埋設施設は,直接ガンマ線及びスカイシャインガンマ線による一般公衆の被ばく線量が「合理的に達成できる限り低く」できるように放射線遮へいがされていること
b 廃棄物埋設施設においては,放射線作業者の作業条件を考慮して,適切な放射線遮へい,換気等がされていること
(ウ) 放射線被ばく管理
廃棄物埋設施設においては,放射線作業者の被ばく線量を十分に監視し,管理するための対策が講じられていること
エ 環境安全(「安全審査の基本的考え方」Ⅵ,乙14の6の689頁)
(ア) 放射性気体廃棄物及び放射性液体廃棄物の放出管理
廃棄物埋設施設においては,廃棄物埋設地の附属施設から発生する放射性気体廃棄物及び放射性液体廃棄物を適切に処理するなどにより,周辺環境に放出する放射性物質の濃度等を「合理的に達成できる限り低く」できるようになっていること
(イ) 放射線監視
a 廃棄物埋設施設においては,廃棄物埋設地の附属施設から放出する放射性気体廃棄物及び放射性液体廃棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること
また,放射性物質の放出量に応じて,周辺環境における放射線量,放射線物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること
b 廃棄物埋設施設においては,第1段階及び第2段階において,廃棄物埋設地から地下水等に漏出し,生活環境に移行する放射性物質の濃度等について適切に監視するための対策が講じられていること
オ その他の安全対策(「安全審査の基本的考え方」Ⅶ)
(ア) 地震に対する設計上の考慮(乙14の6の690頁)
廃棄物埋設施設は,設計地震力に対して,適切な期間安全上要求される機能を損なわない設計であること
この設計地震力は,「耐震設計審査指針」における耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設に対応するものとして定めること
なお,「安全審査の基本的考え方」の解説では,「適切な期間」とは,廃棄物埋設地にあっては第1段階の期間とし,廃棄物埋設地の附属施設にあっては廃棄物埋設事業を適切に進める上で必要とされる期間とされている。また,「安全上要求される機能を損なわない」とは,廃棄物埋設地にあっては,閉じ込め機能等が失われないこととされていた(乙14の6の694頁)。
(イ) 地震以外の自然現象に対する設計上の考慮(乙14の6の690頁)
廃棄物埋設施設は,敷地及びその周辺における過去の記録,現地調査等を参照して,予想される地震以外の自然現象を考慮して適切な期間安全上要求される機能を損なわない設計であること
なお,「安全審査の基本的考え方」の解説では,「適切な期間」及び「安全上要求される機能を損なわない」の意義について,地震に対する設計上の考慮と同様に解されていた(乙14の6の694頁)。
(ウ) 火災・爆発に対する考慮(乙14の6の690頁)
廃棄物埋設施設においては,火災・爆発の発生を防止し,かつ,万一の火災・爆発時にも施設外への放射性物質の放出が過大とならないための適切な対策が講じられていること
(エ) 電源喪失に対する考慮(乙14の6の690頁)
廃棄物埋設施設の附属施設においては,外部電源系の機能喪失に対応した適切な対策が講じられていること
(オ) 準拠規格及び基準(乙14の6の690頁)
廃棄物埋設施設の設計,工事等については,適切と認められる規格及び基準によるものであること
カ 管理期間の終了(「安全審査の基本的考え方」Ⅷ,乙14の6の690頁)
被ばく管理の観点から行う廃棄物埋設地の管理は,有意な期間内に終了し得るとともに,管理期間終了以後において,埋設した廃棄物に起因して発生すると想定される一般公衆の被ばく線量は,被ばく管理の観点からは管理することを必要としない低い線量であること
なお,「安全審査の基本的考え方」の解説においては,原子炉施設から発生する廃棄物中に含まれる放射性物質のうち,放射能量が多く,廃棄物埋設施設の放射線防護上重要なコバルト60,セシウム137等は,300年から400年を経過すると1千分の1から1万分の1以下に減衰し,これらの放射能量が極めて少なくなることや,外国における例も参考として,管理を終了し得る「有意な期間」としては,300年から400年をめやすとして用いることとされていた。また,「被ばく管理の観点からは管理することを必要としない低い線量」とは,被ばく線量の評価値が放射線審議会基本部会報告「放射性廃棄物の浅地中処分における規制除外線量について」(昭和62年12月)に示された規制除外線量である年間10マイクロシーベルトを超えないことをめやすとするとされており,発生頻度が小さいと考えられる事象については,被ばく線量の評価値が,年間10マイクロシーベルトを著しく超えないことをめやすとするとされていた(乙14の6の694頁)。
2 本件安全審査の具体的審査基準に基づく本件調査審議及び判断の過程
証拠(乙1から4まで,乙8,乙12の1から3まで,乙37の6,乙37の10,乙38の12,乙38の15,乙42,乙43,乙D1,乙D5,A証言,B証言,C証言)及び弁論の全趣旨によれば,本件安全審査における具体的審査基準に基づく調査審議及び判断の過程は,以下のとおりであったことを認めることができる。
(1) 基本的立地条件について
ア 基本的立地条件に関する本件調査審議及び判断においては,以下のとおり,敷地,地盤,地震,気象,水理及び社会環境の各側面から検討が行われ,廃棄物埋設施設及びその周辺において,大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えられず,また,万一,事故が発生した場合において,その影響を拡大するような事象も少ないことが確認された。
(ア) 敷地(乙8の13頁)
本事業所の敷地面積は約340万m2であり,埋設設備は敷地のほぼ中央北寄りに,管理建屋は敷地のほぼ中央東寄りに,それぞれ設置され,その敷地は法令で定める周辺監視区域の設定に十分な広さを有していることが確認された。
(イ) 地盤(乙8の15頁,16頁)
地盤に関しては,文献調査,空中写真判読,地表地質調査,ボーリング調査,トレンチ調査(一定の調査範囲を掘削し,地質を露出した状態にして観察する調査)及び岩盤支持力試験等が実施されており,これらの調査及び試験の内容については,現地調査も行い確認した結果,妥当なものであると判断された。
地盤については,主として以下の項目について検討が行われ,埋設設備群設置位置及びその付近の地盤は,本件廃棄物埋設施設の安全確保上支障がないものと判断された。
a 埋設設備群設置位置及びその付近には,新第三系中新統(約170万年前から2400万年前まで〔甲D113の283頁〕)に形成された鷹架層が分布しており,更にこれを覆って第四系更新統(約170万年前以降〔甲D113の283頁〕)に形成された段丘堆積層等が堆積している。
埋設設備の支持地盤は,鷹架層中部層であり,北側に主に砂質軽石凝灰岩,南側に砂岩が分布しており,埋設設備群設置位置及びその付近における鷹架層のRQD(地盤の割れ目を簡便かつ定量的に表現するための指標であり,ボーリングコア1m区間のうち,割れ目から割れ目の延長が10cmを超える部分のコアの総延長を,1mに対する割合で表示したもので,100%に近いほど割れ目が少ない地盤であると評価されるもの)は平均96.6%である。鷹架層中部層は,表層部を除くと標準貫入試験によるN値(重量63.5kgのハンマーを75cm自由落下させ,標準貫入試験用サンプラを30cm打ち込むのに要する打撃数)が50以上,岩盤支持力試験による上限降伏値(岩盤の支持力を求める試験において,荷重と変位量から求まる岩盤の応力〔外部から加えられた力に応じて物体内部に生ずる単位面積当たりの力〕の値)が36kg/cm2以上であることから,埋設設備による荷重に対して十分な支持力を有していると判断された。
また,埋設設備の設置面での荷重は,埋設の設備の設置前後において大差なく,沈下は問題にならないと判断された。
b 埋設設備群設置位置及びその付近の鷹架層中には,f-a断層及びf-b断層と称する2本の断層が認められている。
トレンチ調査等の結果によれば,①両断層とも9万年から10万年前以前に堆積したと考えられる段丘堆積層に変位を与えていないこと,②埋設設備群設置位置にあるf-b断層はその傾斜が70°から80°と高角度であること,③それらの断層面に沿って弱層が認められず,断層面がゆ着していることから,支持地盤の安定性に影響を与えるものではないものと判断された。
c 埋設設備群設置位置及びその付近並びに管理建屋設置位置及びその付近には,変位地形は認められず,地すべり地形及び陥没の発生した形跡も認められないことが確認された。
なお,以上の試験結果等を線量当量評価に用いることは,妥当なものと判断された。
(ウ) 地震(乙8の17頁)
本件廃棄物埋設施設で取り扱われる低レベル放射性廃棄物は,潜在的危険性が小さいことから,「安全審査の基本的考え方」に基づき「耐震設計審査指針」における耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設に対応する設計地震力による耐震設計がされることとされているが,敷地周辺で発生した過去の主な地震についても,いわゆる宇佐美カタログ(1979),いわゆる宇津カタログ(1982),地震月報によるほか,「新編 日本被害地震総覧」等の過去の地震に関する最近の資料も参照され,敷地近傍で大地震が発生していないことが確認された。
(エ) 気象(乙8の14頁)
本件廃棄物埋設施設の設計に使用する気象資料としては,八戸測候所,むつ測候所等での観測結果が考慮されており,最寄りの気象官署である八戸測候所及びむつ測候所の観測資料によれば,最大瞬間風速は41.3m/s,積雪の深さの最大値は170cm,最低気温は-22.4℃,年降水量は約1000mmから1400mmであること,敷地から最も近い観測所である六ヶ所地域気象観測所の気象観測データによれば,積雪の深さの最大値は190cm,年降水量の平均値は約1200mmであることが確認された。
また,敷地内で昭和61年1月から1年間にわたり気象観測を実施しており,1年間の気象観測データによれば,地上における最多風向は西方向で約20%,年平均風速は4.5m/sであることが確認された。線量当量の評価に用いる放射性物質の相対濃度(x/q)は,この1年間の気象観測データを用いて,「気象指針」に準拠し,実効放出継続時間を1時間として計算した結果,累積出現頻度が97%に当たる敷地境界の方位別のx/qのうち最大の値は,放出源が埋設設備のとき1.4×10–4s/m3,放出源が管理建屋のとき2.5×10–4s/m3であることが確認された。
上記測候所等の気候は敷地の気候に比較的類似し,かつ,長期間の観測資料が得られており,また,敷地内での観測結果の統計的検定により,この年が異常な年でないことが確認されていることから,上記の気象資料を本件廃棄物埋設施設の設計及び線量当量評価に考慮することは妥当なものであると判断された。
(オ) 水理(乙8の18頁以下)
水理に関しては,敷地付近の河川等の状況及び敷地内の地下水の状況について地下水位観測,透水試験,水質試験等が実施されており,これらの調査,試験の内容については,現地調査を行い検討した結果,いずれも妥当であると判断された。
敷地付近における河川として老部川と二又川があるが,地形の状況からみて,本件廃棄物埋設施設が洪水により被害を受けることはなく,また,本件廃棄物埋設施設が海岸から約3km離れた標高30m以上の台地に位置していることから,高潮,津波により被害を受けることはないものと判断された。
地下水位観測結果から,地下水面は主に第四紀層内にあり,埋設設備群設置位置を通過した地下水は,敷地中央部の沢を経て尾駮沼に流入しているものと判断された。
透水試験結果によれば,埋設設備群設置位置及びその付近における鷹架層中部層のN値50以上の部分の透水係数は,平均1.1×10–5cm/s,N値50未満の部分の透水係数は,平均1.5×10–4cm/s,及び第四紀層の透水係数は,平均4.0×10–4cm/sであることが確認された。また,鷹架層中に認められるf-a断層及びf-b断層の断層部における透水係数は,平均1.3×10–5cm/sであり,断層の性状から判断して,地下水の流動上問題となることはないものと判断された。
水質試験結果から,鷹架層及び第四紀層中の地下水には,埋設設備のコンクリート及びセメント系充てん材の閉じ込め機能に影響を与えるような成分は認められないことを確認した。
また,以上の試験結果等を線量当量評価に考慮することは,妥当なものと判断された。
(カ) 社会環境(乙8の20頁,21頁)
敷地周辺の社会環境に関しては,人口,産業活動,交通等について調査され,周辺の人口密度は90.8人/km2(昭和60年10月1日現在)であり,総人口の推移は昭和56年から昭和60年までにおいてほぼ横ばい傾向にあること,主な産業は第一次産業であること,尾駮沼では漁業権は設定されていないが暫定的に漁業が認められていること,付近における生活用水及び畜産用水は主に深井戸を水源とする簡易水道が用いられており,農業用水は主に河川水が用いられていること,六ヶ所村の水道普及率は昭和60年度において約98%であること,廃棄物埋設地及びその近傍に採掘対象となり得る規模の石炭,鉱石等は認められないこと,敷地周辺の主要な道路は国道338号線が太平洋沿いにあり,主要な港湾としてむつ小川原港があることが確認された。
別紙「検証見取図第1」記載のとおり,敷地境界から西方向へ約1.5km離れたところに石油備蓄基地があり,敷地内にはウラン濃縮施設が建設中(当時)であるが,これらの施設の火災を想定しても,類焼は考えられないことから,本件廃棄物埋設施設の安全性が損なわれることはないと判断された。
また,本件廃棄物埋設施設から南方向約28km離れた位置に三沢空港が,西方向約10km離れた上空に「V-11」と呼ばれる定期航空路が,南方向約10km離れた位置に防衛庁等の航空機の訓練空域がそれぞれあるが,本件廃棄物埋設施設から離れていること及び航空機は原則として原子力施設上空を飛行しないように規制されていることから,航空機が本件廃棄物埋設施設に墜落する可能性は極めて小さいことが確認された。さらに,現在訓練に使用されている航空機が管理建屋に仮に墜落した場合の影響についても解析した結果,管理建屋に墜落したとしても,一般公衆の線量当量は,敷地境界外の最大となる場所(管理建屋から東約500mの地点)において,約0.13ミリシーベルトであり,その影響は小さいことが確認された。
以上から,敷地周辺の社会環境は本件廃棄物埋設施設の安全確保上支障がないものと判断された。また,農漁業などの産業活動等の状況についての調査結果を線量当量評価に考慮することは妥当なものと判断された。
(2) 廃棄物埋設を行う放射性廃棄物等について(乙8の22頁)
廃棄物埋設を行う放射性廃棄物等については,以下のとおり,廃棄物埋設を行う放射性廃棄物及び保安のために講ずべき措置の変更予定時期についての検討がされ,安全上問題のないことが確認された。
ア 廃棄物埋設を行う放射性廃棄物
廃棄物埋設を行う放射性廃棄物は,原子力発電所及び本件廃棄物埋設施設で発生する放射性廃棄物を容器に均一に固型化したものであり,8割以上がセメントで固型化したものである。本件廃棄物埋設施設で廃棄物埋設を行う放射性廃棄物の数量は,最大4万m3(200lドラム缶20万本相当)であることが確認された。
廃棄物埋設を行うに当たり考慮している主要な放射性物質の種類は,廃棄体の受入れまでの経過期間,線量当量の評価への寄与等の観点から選定されており,妥当なものと判断された。また,廃棄体の受入れ時における放射性物質の種類ごとの総放射能量についても,線量当量評価の結果から安全上問題ないものと判断された。
イ 保安のために講ずべき措置の変更予定時期
廃棄物埋設地は,以下のとおりの段階管理を行うこととしていることを確認し,線量当量評価の結果から妥当なものと判断された。
第1段階の終了予定時期は,埋設開始以降10年経過し15年以内の間
第2段階の終了予定時期は,第1段階終了後30年
第3段階の終了予定時期は,第1段階終了後300年
(3) 廃棄物埋設施設の安全設計について
本件廃棄物埋設施設の安全設計について,以下のとおり,放射線管理,環境安全及びその他の安全対策の観点から検討がされ,安全設計上の考慮は妥当なものであることが確認された。
ア 放射線管理(乙8の24頁,25頁)
以下のとおり,放射線管理に係る対策は妥当なものと判断された。
(ア) 閉じ込め機能等
第1段階において,放射性物質を廃棄物埋設地の限定された区域に閉じ込めるため,埋設設備の外周仕切設備及び覆いは,地震力,自重,土圧等の荷重に対して十分な構造上の安定性を有するように設計されていること,埋設設備の外周仕切設備及び覆いから地下水が浸入した場合でも,その水が廃棄体に達することなく排水することができるよう排水・監視設備を設け,更に外周仕切設備及び覆いと廃棄体との間にはセメント系充てん材層が設けられることが確認された。また,施工管理においても十分配慮する方針であることが確認された。
さらに,放射性物質の生活環境への移行を抑制するため埋設設備の上面及び側面に,土砂等を締め固めながら周辺の土壌等に比して透水性が大きくならないように覆土を行い,その厚さは埋設設備上面から6m以上とし,このうち,埋設設備設置地盤から埋設設備上面2mまでの間の覆土は,土砂にベントナイトを混合し,その透水係数が10–7cm/s程度となるように施工するとともに,その施工管理においても十分な配慮をする方針であることが確認された。
なお,液体廃棄物処理設備等は,漏えいし難い構造とし,万一の外部への漏えいを防止するために,せきを設ける等の対策を講じる方針であることが確認された。
(イ) 放射線防護(乙8の26頁,27頁)
放射線防護については,放射線業務従業者が受ける線量当量が法令に定められた線量当量限度を超えないことはもちろん,不必要な放射線を受けないようにするため,管理建屋は立入り頻度,滞在時間等を考慮した適切な遮へい,換気がされること,埋設設備は十分な遮へい厚を有すること,廃棄体の取扱い設備及び検査設備は自動化,遠隔化が図られることなどが確認された。
また,廃棄体の定置作業は,埋設設備の北側側面及び最上面に表面の線量当量率が2mSv/hを超えない廃棄体を定置し,廃棄体320本を標準的な1日の作業単位とし,開口部の制限や覆いを設置するまでの間仮蓋が施されること,廃棄体定置終了後の埋設設備には適切な覆土が施されることなどが確認された。
さらに,本件廃棄物埋設施設からの直接ガンマ線及びスカイシャインガンマ線による人の居住の可能性のある敷地境界外の一般公衆の受ける線量当量が,「合理的に達成できる限り低く」できるような適切な遮へいがされることが確認された。
(ウ) 放射線被ばく管理(乙8の27頁,28頁)
放射線業務従事者等の線量当量を十分に監視し,管理するため,管理区域の設定,区画,出入管理等の措置が講じられること,作業環境の管理をするため放射線管理設備及び機器が設けられること,個人の線量当量測定器が備えられることなどが確認された。
また,一般公衆の受ける線量当量を「合理的に達成できる限り低く」抑えるため,第1段階及び第2段階は周辺監視区域及び埋設保全区域が設定されること,第3段階では,埋設保全区域の設定,敷地内での地表面の掘削等の制約及び人の居住,沢水の利用等の禁止措置が行われることが確認された。
イ 環境安全(乙8の29頁以下)
以下のとおり,環境安全に関する対策は妥当なものと判断された。
(ア) 放射性廃棄物の管理
附属施設から発生する気体廃棄物の放出放射能量は,最大でも年間,トリチウムで2×105ベクレル,トリチウム以外の放射性廃棄物で4×104ベクレルと少ないこと,本件廃棄物埋設施設から発生する液体廃棄物は必要に応じて適切な処理能力を有する液体廃棄物処理設備で処理され,液体廃棄物の放出放射能量は,最大でも年間,トリチウムで2×180ベクレル,トリチウム以外の放射性物質で2×105ベクレルであること,及び本件廃棄物埋設施設から発生する均一に固型化された廃棄体以外の固体廃棄物は,十分な容量を持つ保管廃棄施設に保管廃棄されることが確認された。
(イ) 放射線監視
a 放出される放射性物質の濃度等の監視
本件廃棄物埋設施設においては,附属施設から放出される気体廃棄物及び液体廃棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること,周辺環境における放射線量,放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていることが確認された。
b 段階管理における監視
本件廃棄物埋設施設においては,第1段階では埋設設備から放射性物質の漏出のないこと,また,第2段階では廃棄物埋設地から地下水等に漏出し,生活環境に移行する放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていることが確認された。
ウ その他の安全対策(乙8の33頁以下)
以下のとおり,その他の安全対策に対する考慮は妥当なものであると判断された。
(ア) 地震に対する設計上の考慮
本件廃棄物埋設施設については,「安全審査の基本的考え方」に基づき,「耐震設計審査指針」における耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設に対応する設計地震力により設計されることが確認された。
すなわち,埋設設備については,設備に作用する水平震度を0.2(196ガル。地球の重力加速度980ガルを震度1とした場合の数値。B証言〔第46回弁論実施分〕38頁)とした設計地震力に対して,許容応力度法により設計されること,管理建屋,液体廃棄物処理設備等の附属施設については,それぞれ,Cクラスの建物・構築物及び機器・配管系に適用される規定に基づき設計されること,また,クレーンについては,「クレーン構造規格」に基づき設計されることが確認された。
なお,排水・監視設備のうち点検路については,「土木学会トンネル標準示方書(開削編)」に基づき設計されることが確認された。
(イ) 地震以外の自然現象に対する設計上の考慮
管理建屋及び埋設クレーンは,それぞれ建築基準法及び「クレーン構造規格」で定められる風圧力に対して設計されるとともに,敷地周辺の過去の台風記録も考慮されることが確認された。
管理建屋は,建築基準法で定められる積雪荷重に対して設計され,その他の附属施設についてもこれと同等の設計が行われるとともに,敷地周辺の過去の積雪記録も考慮されることが確認された。
覆土は土砂等を締め固め,周辺の土壌等に比して透水性が大きくならないように施工されるとともに,地表面には植生を施し,また,地表水に対しては排水を行う等,容易に埋設設備が露出しないよう配慮されることが確認された。
(ウ) 火災・爆発に対する考慮
管理建屋は,主要な構造を鉄骨鉄筋コンクリート造とし,実用上可能な限り不燃性又は難燃性材料が使用されること,また,本件廃棄物埋設施設を構成する機器,設備類は,可燃物を極力排除するように設計されること,更に万一の火災に備え,管理建屋には,消防法等に基づき自動火災報知設備,消火栓等が設置されるとともに,防火区画が設定されることが確認された。
(エ) 電源喪失等に対する考慮
廃棄体取扱い設備は,電源が喪失しても機械的な構造により廃棄体の落下を防止するように設計されること,また,一時貯蔵天井クレーン等は,「クレーン構造規格」に基づき設計されるとともに,運転員の誤操作による事故への発展を防止できるように廃棄体落下防止等のインターロックが設けられることが確認された。
(オ) 準拠規格及び基準
本件廃棄物埋設施設の設計,工事等については,適切と認められる規格,基準等に準拠することが確認された。
(4) 線量当量評価について
線量当量評価について,以下のとおり,平常時評価,管理期間終了以後における評価,安全評価の観点から検討がされ,安全設計上の考慮は妥当なものであることが確認された。
ア 平常時における線量当量の評価(管理期間内における評価)
(ア) 本件廃棄物埋設施設において平常時に想定される一般公衆に対する線量当量を評価する経路として,段階管理の計画,本件廃棄物埋設施設の設計並びに敷地及びその周辺の自然環境及び社会環境との関連,更に線量当量の評価上の重要性の観点から,以下のとおりの代表的な経路が選定されていることが確認され,平常時において発生すると考えられる代表的な経路として妥当なものであると判断された。
a 換気空調設備から放出される気体廃棄物中の放射性物質の移行による内部被ばく(経路①)
b 液体廃棄物中の放射性物質が移行する尾駮沼の沼産物摂取による内部被ばく(経路②)
c 地下水中の放射性物質が移行する尾駮沼の沼産物摂取による内部被ばく(経路③)
d 沢への放射性廃棄物の移行による外部被ばく及び内部被ばく(経路④)
e 廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される放射性物質からの外部被ばく(経路⑤)
また,線量当量の計算については,主な計算条件,計算方法は別紙「線量当量の平常時評価(管理期間内における評価)の計算条件」記載のとおりであるほか,その他の計算条件についても,それぞれの評価経路に応じた適切な計算条件が設定されており,計算方法についても評価経路に応じて「線量評価指針」,「気象指針」を参考にし,適切なモデル,計算コードを使用して行われていることから妥当なものと判断された。
(イ) 上記に基づいて計算,評価された平常時の一般公衆の線量当量についての評価結果は以下のとおりである。
a 経路①
気体廃棄物中の放射性物質の吸入摂取による実効線量当量は,敷地境界外で最大となる地点(管理建屋から東約500mの地点)において年間約1.5×10–6ミリシーベルトである。
b 経路②
液体廃棄物中の放射性物質が移行する尾駮沼の沼産物摂取による実効線量当量は,年間約4.4×10–7ミリシーベルトである。
c 経路③
地下水中の放射性物質が移行する尾駮沼の沼産物摂取による実効線量当量は,年間約3.1×10–5ミリシーベルトである。
d 経路④
地下水中の放射線物質が移行する沢への立入りに伴う外部放射線及び吸入摂取による線量当量は,年間約4.1×10–9ミリシーベルトである。
e 経路⑤
本件廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される廃棄体中の放射性物質によるスカイシャインガンマ線に係る線量当量は,第1段階の最大となる年次において,敷地境界外の最大となる地点(埋設地から北約190mでほぼ周辺監視区域境界にある地点)で年間約0.027ミリシーベルトである。
(ウ) 以上から,第1段階から第3段階を通じて一般公衆に対する線量当量が最大となるのは,本件廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される廃棄体中の放射性物質によるスカイシャインガンマ線に係る線量当量の年間約0.027ミリシーベルトであり,これに重畳の可能性のある他の評価経路を考慮しても,それらの線量当量への寄与は十分小さいと評価されるので,法令に定める実効線量当量の限度(年間1ミリシーベルト)を十分に下回ることはもとより,「安全審査の基本的考え方」に示されているところの「合理的に達成できる限り低く」なる設計となっているものと判断された。
さらに,皮膚及び眼の水晶体の組織線量当量は,選定されている放射性物質の種類及びその線量当量換算係数から,周辺監視区域外における外部放射線に係る線量当量(年間約0.027ミリシーベルト)を下回ると考えられるので,法令に定める組織線量当量の限度(年間50ミリシーベルト〔乙A2の263頁〕)を十分に下回ると判断された。
加えて,ウラン濃縮施設に起因する一般公衆の線量当量は十分低いので,その寄与を考慮する必要はないと判断された。
イ 管理期間終了後における線量当量の評価
(ア) 管理期間終了以後における評価については,一般的であると考えられる線量当量評価経路及び発生頻度が小さいと考えられる線量当量評価経路が想定された。
一般的であると考えられる線量当量評価経路は,敷地及びその周辺が,現在の延長上としての田園地域,あるいは現在の六ヶ所村周辺の地方都市程度の工業地域になることを前提に,以下の経路が選定されていることが確認され,管理を必要としない状況へ移行できる見通しを得るための代表的な経路として妥当なものと判断された。
① 地下水中の放射性物質が移行する尾駮沼の沼産物摂取による内部被ばく
② 廃棄物埋設地近傍の沢水の飲用による内部被ばく
③ 廃棄物埋設地近傍の沢水を用いて生産する農畜産物の摂取による内部被ばく
④ 廃棄物埋設地近傍の沢水を生産に利用する農耕作業による外部被ばく及び内部被ばく
⑤ 廃棄物埋設地又はその近傍における住宅施設の建設工事による外部被ばく及び内部被ばく
⑥ 廃棄物埋設地又はその近傍における居住による外部被ばく及び内部被ばく
他方,発生頻度が小さいと考えられる線量当量評価経路は,一般的であると考えられる線量当量評価経路と同様の前提のもとで線量当量評価の観点から影響が大きいと考えられるものとして,以下の経路が選定されていることが確認され,管理を必要としない状況へ移行できる見通しを得るための代表的な経路として妥当なものと判断された。
⑦ 廃棄物埋設地における地下数階を有する建物の建設工事による外部被ばく及び内部被ばく
⑧ 廃棄物埋設地における地下数階を有する建物の建設工事によって発生した土壌上での居住による外部被ばく及び内部被ばく
⑨ 廃棄物埋設地又はその近傍における井戸水の飲用による内部被ばく
また,線量当量の主な計算条件,計算方法は別紙「線量当量の管理期間終了以後における評価の計算条件」のとおりであるほか,その他の計算条件についても,それぞれの評価経路に応じた適切な計算条件が設定されており,計算方法についても評価経路に応じて「線量評価指針」を参考にし,適切なモデル,計算コードを使用して行われていることから妥当なものと判断された。
(イ) 上記に基づいて計算,評価された管理期間終了以後における一般公衆の線量当量についての評価結果は以下のとおりである。
a 一般的であると考えられる線量当量評価経路
(a) 経路①
地下水中の放射性物質が移行する尾駮沼の沼産物摂取による実効線量当量は,年間7.5×10–5ミリシーベルトである。
(b) 経路②
廃棄物埋設地近傍の沢水の飲用による実効線量当量は,年間1.3×10–4ミリシーベルトである。
(c) 経路③
廃棄物埋設地近傍の沢水を用いて生産する農畜産物の摂取による実効線量当量は,農産物摂取で年間約9.1×10–5ミリシーベルト,畜産物摂取で年間約2.9×10–5ミリシーベルトである。
(d) 経路④
廃棄物埋設地近傍の沢水を生産に利用する農耕作業による外部放射線及び吸引摂取による線量当量は,年間約5.5×10–5ミリシーベルトである。
(e) 経路⑤
廃棄物埋設地又はその近傍における住宅施設の建設工事に伴う外部放射線及び吸入摂取による線量当量は,年間約8.3×10–5ミリシーベルトである。
(f) 経路⑥
廃棄物埋設地又はその近傍での居住に伴う外部放射線及び吸入摂取による線量当量は,年間約1.5×10–3ミリシーベルトである。
b 発生頻度が小さいと考えられる線量当量評価経路
(a) 経路⑦
廃棄物埋設地における地下数階を有する建物の建設工事に伴う外部放射線及び吸入摂取による線量当量は,年間約8.1×10–3 ミリシーベルトである。
(b) 経路⑧
廃棄物埋設地における地下数階を有する建物の建設工事によって発生する土壌上での居住に伴う外部放射線及び吸入摂取による線量当量は,年間約0.014ミリシーベルトである。
(c) 経路⑨
廃棄物埋設地又はその近傍における井戸水の飲用による実効線量当量は,年間約3.0×10–3ミリシーベルトである。
(ウ) 以上のとおり,一般的であると考えられる経路として選定された線量当量評価経路の中で,線量当量の評価結果が最大となるのは,廃棄物埋設地又はその近傍での居住による経路の場合の年間約1.5×10–3ミリシーベルトであり,これに重畳の可能性のある評価経路を考慮しても評価結果は十分に小さく,「安全審査の基本的考え方」が定める10μSv/年(0.01mSv/年)を十分下回ることが確認された。
また,発生頻度が小さいと考えられる経路として選定された線量当量評価経路の中で,線量当量の評価結果が最大となるのは,廃棄物埋設地における地下数階を有する建物の建設工事によって発生する土壌上での居住による経路の年間約0.014ミリシーベルトであり,この評価結果は「安全審査の基本的考え方」が定める「めやす線量を著しく超えない」範囲内にあるものと判断された。なお,管理期間終了以後の線量当量の評価についてのめやす線量は,放射線審議会基本部会報告「放射性固体廃棄物の浅地中処分における規制除外線量について」(昭和62年12月)に示された規制除外線量(10マイクロシーベルト)を適用していることは前記のとおりであるが,同報告書が準拠しているICRP Pub.46は,規制除外された全ての線源からの寄与の合計を年間100マイクロシーベルト(0.1ミリシーベルト)の線量に相当するリスク以下にすることを勧告している(乙8の61頁)。
これらの評価結果から,「安全審査の基本的考え方」が定める「有意な期間」内に管理することを必要としない状況へ移行できることの見通しがあるものと判断された。
ウ 安全評価
(ア) 安全評価については,廃棄体の取扱いに伴う事故(大きな線量当量を与える可能性のある事故として,廃棄体を廃棄物埋設地における埋設クレーンにより吊り上げて埋設設備に定置する作業中にその廃棄体が落下し,廃棄体が2本破損する事故)及び廃棄物埋設地からの放射性物質の異常な漏出(放射性物質の漏出抑制に重要な機能を果たす埋設設備及びベントナイトを混合した覆土の健全性が相当低下し,異常な漏出が生じる事故)が選定されていることを確認し,異常時の安全性を確認するという観点から妥当なものと判断された。
また,事故の場合の線量当量の計算は,主なものは以下のとおりであるほか,それぞれの評価経路に応じた適切な計算条件が設定されており,計算方法についても「線量評価指針」を参考にして行われていることから妥当なものと判断された。
a 廃棄体は埋設クレーンから落下するものとし,落下する廃棄体の数は,廃棄体を保持するつかみ具の機構が各廃棄体に対して独立しているので,1本とする。また,破損する廃棄体は,落下した廃棄体とその直下の廃棄体の計2本とする。
b 廃棄体の放射能濃度は,別紙「最大放射能濃度及び総放射能量表」に記載される最大放射能濃度とする。
c 廃棄体重量は,実際の廃棄体の重量に裕度をみて0.5トンとする。
d 大気拡散条件は,前記(気象について判示している部分)の線量当量の評価に用いる放射性物質の相対濃度(x/q)を用いる。
(イ) 上記に基づき計算された一般公衆の線量当量の評価結果として,廃棄体の取扱いに伴う事故による実効線量当量は,敷地境界外で最大となる地点(埋設地から南西約600mの地点)において約9.0×10–5ミリシーベルトであることが確認された。
また,放射性物質の異常な漏出についての評価結果は,第2段階当初から埋設設備及びベントナイトを混合した覆土の健全性が相当低下する状態を想定している前記平常時評価の経路③の評価に包含されることが確認された(その実効線量当量は,年間約3.1×10–5ミリシーベルト)。
(ウ) 以上から,事故として取り上げられている事象の評価結果は,ICRP勧告及びパリ声明(ICRP会議の声明)による公衆の構成員に関する実効線量当量年間1ミリシーベルトを十分に下回っており,一般公衆に対して過度の放射線被ばくを及ぼすことがないものと判断された。
3 本件安全審査に関する原告らの主張に対する判断
上記のような本件安全審査の調査審議及び判断の過程に対する原告らの主張について,以下,①本件調査審議において用いられた具体的審査基準について不合理な点があるかどうか,②本件廃棄物埋設施設が上記具体的審査基準に適合するとした本件調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるかどうかという観点から個別に検討する。
(1) 基本的立地条件(自然環境,社会環境)について
ア 自然環境について
(ア) 地盤について
a 支持地盤について
(a) 土質(砂岩)について
原告らは,「本件廃棄物埋設施設の支持地盤の本層は,砂岩であり,土質工学的には軟岩に属するから,十分な耐震力を有する支持地盤であるとは言い難い。」旨主張する。
確かに本件廃棄物埋設施設の支持地盤が軟岩に属することを認めることができるものの(甲D57の1から4,B証言,弁論の全趣旨),軟岩であることから直ちに支持地盤として不適切であるとの知見については,これを認めるに足りる証拠はない。むしろ,地盤に関する安全審査においては,支持地盤が荷重に対して十分な地耐力を有するかどうかが問題とされるものであるところ,本件安全審査においては,文献調査,空中写真判読,地表地質調査,ボーリング調査,トレンチ調査,岩盤支持力試験等の結果を総合的に検討した上で,支持地盤が荷重に対して十分な地耐力を有すると判断されたのであるから,支持地盤が軟岩であることをもって直ちに支持地盤として不適切であると帰結する原告らの上記主張は理由がない。
(b) ボーリングコア採取率,RQDについて
また,原告らは,「最近は技術の進歩により軟弱な地盤であってもコア採取率やRQDの数値が高くなっているから,それらの数値の高さをもって直ちに支持地盤として適当であるとはいえない。」旨主張する。
確かに,ボーリングコア採取率(ボーリングで採取されたコアの長さを掘進長で除した値を百分率で表したもの)やRQD(ボーリングによって深さ1mの長さの部分から得られたコアのうち,長さが10cm以上のコアのみの合計値の1mに対する比率を百分比で表したもの)の数値の高さのみが直ちに支持地盤としての適当さを示すものではないとしても,それらの数値の検討が岩盤の検査においてなお有効なものであることを認めることができるし(甲D57の1,弁論の全趣旨),上記認定のとおり本件安全審査においてはこれらの数値のみに着目して審査がされたわけでもないから,原告らの上記主張は理由がない。
(c) 地表近くの標準貫入試験について
さらに,原告らは,「支持地盤としての良否の評価基準として,地表近くの少ない箇所で行われた標準貫入試験のN値を重用することには,大きな問題がある。」旨主張する。
確かに,標準貫入試験を行う際,対象となる岩盤の中に礫のようなものが入っている場合には,そのN値が大きくなるという傾向があるものの(B証言〔第46回弁論実施分〕11頁,甲D51の45頁),本件廃棄物埋設施設の支持地盤は深いところまで同じ地層が連続していて,標準貫入試験のN値を測定した地点より深いところに存在する地盤であっても同程度以上の支持力があるものと認めることができるから(B証言〔第43回弁論実施分〕10頁),地表近くの地点で測定されたN値を用いることが不合理であるとはいえない。
なお,原告らは,「支持地盤が地震被害を増幅させやすい『サンドイッチ地盤』(甲D105)となっている可能性があるから,支持地盤のN値は地表面近くの位置で少しばかり測定するのみでは不十分である。」とも主張する。しかしながら,「サンドイッチ地盤」の概念を提唱する学者によっても,「サンドイッチ地盤」は第四紀層に属する洪積層又は沖積層にみられるものであって,本件廃棄物埋設施設の支持地盤となっている第三紀層(約170万年前よりも前にできた地層)は,構造物の信頼できる地盤となっているというのであり(甲D60の1),第三紀層の岩盤において「サンドイッチ地盤」に起因する地震被害が確認された例があるとも認められないのであるから(甲D57の3の97頁以下),原告らの上記主張は理由がない。
(d) 岩盤支持力試験の実施箇所数について
さらに,原告らは,「岩盤支持力試験も,その実施箇所が4か所と少ないことなどから,不十分であり,地盤が本件廃棄物埋設施設の荷重に対して安全性を有しているか疑問である。」旨主張する。
しかしながら,岩盤支持力試験は,地盤の支持特性を代表することができる地点において行われるものであるから,岩盤支持力試験の実施箇所が4か所であることが不合理であるということはできない。また,本件廃棄物埋設施設の支持地盤において行われた上記試験の結果は,試験を行った4か所とも上限降伏値が36kg/cm2以上と,埋設設備の荷重(1cm2当たり3kg程度)と比較しても十分に高い値であるということができるから(B証言〔第43回弁論実施分〕11頁以下),本件廃棄物埋設施設の荷重に対する地盤の安全性に問題はない。
(e) ボーリング調査結果の隠ぺい疑惑について
原告らは,「合計27孔でボーリング調査が実施されたのに,5孔の地質柱状図しか公表されておらず,原燃産業は,ぜい弱劣悪な岩質データを故意に隠ぺいした疑惑があり,地盤に問題がある。」旨主張する。
確かに,①原燃産業は,別紙「埋設設備群設置位置及びその付近の地質水平断面図」記載のとおり,多数の箇所でボーリング調査をしながら5孔の地質柱状図しか公表していないこと(乙2の3-48頁以下),②本件廃棄物埋設施設内にある2本の断層に近い位置にある5-c孔(f-b断層に最も近い),D-5孔(f-a断層に最も近い),2-d孔(f-a断層に2番目に近い)の各地質柱状図が掲げられていないのは不自然であること,③別紙「埋設設備群設置位置及びその付近の地質断面図」記載のとおり,f-b断層近くの4-b孔では掘進長がわずか約16mにすぎず,斜めになっているf-b断層に届く手前でボーリング掘進が中止されたかのようになっており,D-5孔でもあとわずかの掘進によりf-a断層に到達するのにその手前で柱状図が途切れているのは極めて不自然であること(乙2の3-46頁),④これらについて本件訴訟において被告から合理的な説明がないことからすると,原燃産業は地盤条件が相対的に良好な5孔のみの地質柱状図を意図的に選んで掲げ,しかも4-b孔についてはf-b断層に,D-5孔についてはf-a断層に,それぞれ到達する手前で柱状図を切って公表したのではないかという合理的な疑いがある。
しかしながら,本件調査審議の過程においては,上記5孔以外のものも含めたボーリングコアの観察を行った上,断層の性状をより詳細に調査することのできるトレンチ調査を実施し(そのトレンチスケッチは本件事業許可申請書添付書類に掲げられている。),更に前記のとおり他の試験結果,調査結果を総合勘案して支持地盤として適当であるとの判断をするに至ったというのであるから,上記のボーリング調査結果の公表について不自然な点があったとしても,これをもって支持地盤に関する本件調査審議及び判断の過程において看過し難い過誤,欠落があるということはできない。したがって,ボーリング調査結果の隠ぺい疑惑に関する原告らの上記主張は理由がない。
(f) 間隙率について
原告らは,「アメリカやフランスでは低レベル廃棄物埋設施設の敷地としてはその地盤の実効間隙率が1%以下でなければならないという基準があるが(甲D3の5頁),本件廃棄物埋設予定地の鷹架層中部層砂質軽石凝灰岩の間隙率は52.1%,鷹架層中部層砂岩の間隙率は44.3%であるから(乙2の3-32頁),敷地として不適当である。」旨指摘する(B証言〔第45回弁論実施分〕54頁以下,C証言69頁以下各参照)。
しかしながら,その間隙率の測定結果には誤差も多い上,「有効間隙率」と「間隙率」とは異なる概念であって一方の数値を正確に片方の数値へ換算し直すことも困難であること(C証言70頁以下),間隙率のみが地盤の適否を判断する絶対的な基準であるとはいえないこと(B証言〔第45回弁論実施分〕55頁)にかんがみると,上記の間隙率の試験結果のみをもって本件廃棄物埋設施設の予定地が敷地として不適当であるということはできない。
b 断層について
(a) 最初の埋設事業許可申請におけるf-a断層等の隠ぺいについて
原告らは,「埋設設備群設置位置とその付近の地層には2本の断層(f-a断層及びf-b断層)の存在することが補正時に表面化したが,そのこと自体が,原燃産業による立地環境調査のずさんさを推測させる。」旨主張する。
確かに,原燃産業は,最初の本件事業許可申請の際には,既に2本の断層の存在を認識していたにもかかわらず,「地盤については,本施設を設置する基礎地盤は全体に砂岩・凝灰岩類であり,過去に地すべり,陥没の発生した形跡はなく,本施設に影響を与えるような断層も認められない。」などと申告し,2本の断層(f-a断層及びf-b断層)の存在を隠していたから(乙1の7-1頁),原告らが不信感を抱くのも自然なことである。
しかしながら,その後に原燃産業が行った補正において2本の断層の存在が明示され,本件調査審議はこれに基づいて行われているのであるから,f-a断層及びf-b断層が原燃産業による最初の事業許可申請書において明示されなかったことをもって直ちに地盤の適合性に関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。したがって,f-a断層及びf-b断層の隠ぺいに関する原告らの上記主張は採用することができない。
(b) f-a断層及びf-b断層が活断層である可能性について
原告らは,「f-a断層及びf-b断層が活断層ではないとする地質学的根拠はなく,これらが活断層又は活断層の疑いのある断層であるとの可能性を否定することができない以上,これらの断層が震源断層となって内陸直下型地震の発生するおそれがある。特に兵庫県南部地震(M7.2,神戸では震度6から7の烈震,最大加速度600から800ガル[関東大震災の2倍])においては,断層が震源断層となって甚大な被害が発生したから,原告らとしては,本件の両断層が活断層である可能性がゼロでなければ本件廃棄物埋設施設を建設することには到底納得することができない。」旨主張する。
しかしながら,原告らはf-a断層及びf-b断層が活断層である可能性を抽象的に主張するにとどまるものであるところ,本件安全審査においては,文献調査,空中写真の判読,現地調査,ボーリング調査,トレンチ調査等の結果を総合検討した結果,①f-a断層及びf-b断層は,「日本の活断層」(昭和55年,活断層研究会編)等の文献に記載されていないこと,②両断層には断層運動によって形成された変位地形も認められないこと,③両断層が9万年から10万年前以前に堆積したと考えられる第四紀層の段丘堆積層に対して変位を与えていないことなどから,両断層は段丘堆積層が堆積する以前にその活動を終えた断層であって,活断層ではないものと判断したことを認めることができる(乙43の5頁以下,B証言,弁論の全趣旨)。したがって,このような判断の経過と根拠にかんがみると,上記断層に関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできず,この点に関する原告らの上記主張は採用することができない。
(c) f-a断層等が非活断層でも被害が増幅される可能性について
原告らは,「f-a断層及びf-b断層が活断層ではないとしても,他所で起きた地震の影響により断層沿いに被害が集中するという事態が予想される。」旨主張する。
しかしながら,本件安全審査においては,①本件廃棄物埋設施設の敷地近傍で大地震の発生していないことが確認されていること,②f-a断層はその傾斜が70°ないし90°,f-b断層はその傾斜が70°ないし80°と高角度ですべりが生じにくいこと,③断層面に沿って存在する岩石は固結化していて周囲の岩石と同程度の硬さを有していること,④f-b断層についてはその断層面がゆ着していることを認めることができ(乙43,B証言),そのような諸事情に照らすと,f-a断層及びf-b断層が本件廃棄物埋設施設の支持地盤の安定性に影響を与えることがないものと判断した本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
加えて,本件安全審査の際の線量当量の評価に当たっては,廃棄体,埋設設備等が著しく劣化して第2段階当初から放射性物質の漏出が始まると仮定するなどして一般公衆の受ける線量当量の評価を行い,そのように埋設設備の閉じ込め機能が損なわれた場合であっても,一般公衆の受ける線量当量が,法令に定める実効線量当量の限度(原子炉施設の周辺監視区域外において年間1ミリシーベルト〔乙A2の263頁〕)に比して十分小さいことが確認されているのであるから,仮に地震の影響による被害が断層沿いに集中することが想定されるとしても,本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできず,上記原告らの主張を採用することはできない。
(d) 鷹架層中部層混在部にある節理(ひび割れ)について
原告らは,「鷹架層中部層混在部には,多くの節理(ひび割れ)が認められ,これは地質学でいう破砕帯に当たるが,破砕帯の部分は硬く見えても,実際にはその岩質がぜい弱・劣悪化していることがあるから,破砕帯も含めて岩盤支持力試験を行う必要があり,それをしないで上記箇所を硬質であるとする本件事業許可申請の説明は,十分な根拠を有しない。」旨主張する。
しかしながら,鷹架層中部層混在部においては,f-a断層及びf-b断層に沿って両側の岩相が混在し角礫状や粘土状を呈しておらず,固結して周囲の岩石と同程度の硬さを有しているほか,トレンチ調査を行った際も周辺の健全な岩盤と同様の硬さであることが確認されており(B証言〔第43回弁論実施分〕22頁以下,同〔第45回弁論実施分〕33頁),原告らの上記主張以外にぜい弱な破砕帯が存在することを客観的に裏付けるような証拠がないことからすると,鷹架層中部層混在部が岩質のぜい弱化,劣悪化している破砕帯に当たると認めることはできない。
なお,証人Cの証言中には,上記混在部が破砕帯であると言ってもよいかのように証言をする部分もあるが(C証言65頁),地盤としての適否を判断するに当たっては現地における露頭の観察やボーリングコアの観察が最も重要であることは同証人も同時に証言しているところであるから(C証言68頁),上記C証言は上記の判断を左右するに足りるものではない。
したがって,この点に関する原告らの主張は採用することができない。
(e) 本件廃棄物埋設予定地内に別の断層が存在する可能性について
原告らは,「より詳細な地質調査を実施すれば,本件廃棄物埋設施設の敷地内の段丘堆積層にも別の断層の存在が確認される可能性がある。」旨主張する。
しかし,原告らは別の断層の存在を抽象的な可能性として主張するにとどまるところ,本件安全審査においては,具体的に文献調査,空中写真判読,地表地質調査,ボーリング調査,トレンチ調査等の結果を総合検討するなどした上,埋設設備群設置位置及びその付近には,地盤の安定性に影響を与えるような断層が認められないことを確認しているのであるから,別の断層が存在するという抽象的な可能性をもって本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。したがって,この点に関する原告らの主張は採用することができない。
c 地すべり発生の可能性について
原告らは,「過去の地すべり地形が長期間にわたって保存されているとは限らないこと,十勝沖地震に際して青森県東部地方の火山灰地帯に地すべりが発生したこと,本件廃棄物埋設施設の敷地は火山灰層が広く分布する造成地であること,開発行為による水の賦存状態の変化や地形の変化等のために新しく地すべり地帯になる場合も予想されることなどからすると,地すべり発生のがい然性が極めて高い。」旨主張し,過去の地すべりの事例に関する証拠を提出する(甲D17から甲D18の3まで,甲D192の1から5まで)。
確かに,本件廃棄物埋設施設の敷地には火山灰層が堆積しているが,埋設設備の支持地盤は火山灰層ではなく鷹架層中部層の岩盤である上,一般的な造成地とは異なり,鷹架層を掘り下げて埋設設備を設置するのであるから,原告らの主張する地すべりの事例と本件廃棄物埋設施設の敷地とはその地形的条件を異にしている。そして,本件安全審査においては,空中写真の判読や現地調査の結果等を検討した結果,埋設設備群設置位置及びその付近並びに管理建屋設置位置及びその付近においては,地すべり地形の発生した形跡のないことを確認している(B証言〔第46回弁論実施分〕26頁以下)。また,仮に,本件安全審査の過程においては,大地震による地すべりが発生したとしても,管理期間内であれば覆土やベントナイト混合土の修復が可能であるし,管理期間終了後であれば,埋設設備劣化後の低頻度の事象における被ばく評価に包含されるものとして,安全上は問題ではないものと判断されている(甲A10)。したがって,地すべり発生の可能性に関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできず,この点に関する原告らの主張は採用することができない。
d 脱水による地盤沈下等発生の可能性について
原告らは,「鷹架層中部層は,原燃サービスの実施した弾性波試験結果等から軟岩に属することが判明しており,十分な地耐力を有する支持地盤であるとはいえない。また,その構成岩石は単位体積重量が小さく,含水比及び間隙率が高いから(全体の40から50%が水),もし何らかの原因によってこの地層に脱水現象が起こった場合には,沈下や陥没が問題となる。」旨主張する。
しかしながら,原告らは脱水現象が発生する可能性を抽象的に主張するにとどまるところ,本件廃棄物埋設施設及びその周辺の地形,気象等に照らし,脱水現象の発生する具体的なおそれがあることを認めることはできないから,脱水に起因して沈下や陥没が起こるという原告らの上記主張は採用することができない。
(イ) 地震について
a 地震に関する本件安全審査について,原告らは,「①震央から200km以遠の地震及び震央位置不明の被害地震を考慮していないから地震の調査方法に誤りがある。②廃棄物埋設施設について重要度分類度Cクラスの耐震設計(一般産業施設と同等の安全性を保持する耐震設計)で足りると結論付け,原子力関連施設特有の安全性の要請に配慮した震度階を想定していないこと自体が不当である。③中小地震による影響を考慮していない。④青森県東方沖には延長距離約100km,崖高200km以上に及ぶ確実度Ⅰの大活断層が存在しているし,その他の陸域等にも様々な活断層があるのに,それらによる巨大地震による被害の可能性を考慮していないのは,不当である。実際に本件訴訟提起後の平成6年12月28日には,『三陸はるか沖地震』(M7.5,八戸では震度6の烈震)が発生し,死者3名,負傷者283名,損害家屋266棟の被害が生じている。⑤地震による液状化現象も考慮していないのは不当である。」旨主張する。
b しかしながら,前記認定のとおり,本件廃棄物埋設施設は,原子炉施設と比較するとその内蔵する放射能量が少ないためにその潜在的危険性がはるかに小さい。そして,実際の本件安全審査における線量当量評価の結果においても,第2段階当初から閉じ込め機能が損なわれると仮定しても,管理期間内において一般公衆に対する線量当量が最大となる評価経路は,本件廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される廃棄体中の放射性物質によるスカイシャインガンマ線に係る線量当量の年間約0.027ミリシーベルトであり,これに重畳の可能性のある他の評価経路を考慮しても,それらの線量当量への寄与は小さく,一般公衆の線量当量について「線量当量限度等を定める件」が規定した周辺監視区域外の線量当量の限度である年間1ミリシーベルトの値を十分に下回ることが確認されている。また,管理期間終了後においても,一般的であると考えられる経路として選定された線量当量評価経路の中で,線量当量の評価結果が最大となるのは,廃棄物埋設地又はその近傍での居住による経路の場合の年間約1.5×10–3ミリシーベルトであり,これに重畳の可能性のある評価経路を考慮しても評価結果は十分に小さく,「安全審査の基本的考え方」が定めるめやす線量10μSv/年(0.01mSv/年)を十分下回ることが確認されている。
そうであれば,仮に大地震により埋設設備が損傷し,その閉じ込め機能が破壊されたといった場合においても,一般公衆の受ける線量当量が著しく大きくなることは考えにくいから,原告らの上記各主張にもかかわらず,地震に関する本件安全審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,又はその具体的審査基準に適合するとした本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(ウ) 気象について
a 豪雪について
原告らは,「本件廃棄物埋設施設付近の降雪量は,平地では豪雪地帯に属するから,施設の安全対策,放射性物質等の運搬の安全確保に関して支障となることが明らかである。」旨主張する。
しかしながら,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設から最も近い観測所である六ヶ所地域気象観測所のデータによると,積雪の深さの最大値(最大積雪深)は190cmであることが確認されているところ,最大積雪深190cm程度の積雪によって,本件廃棄物埋設施設の安全確保等に支障が生ずることを認めるに足りる証拠はなく,むしろ,建物の設計上,技術的な障害とはならないものと認めることができる(弁論の全趣旨)。
したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
b 強風について
原告らは,「本件廃棄物埋設施設周辺は強風地帯に属し,ヤマセが吹けば風下の六ヶ所村とその周辺町村,青森市,弘前市等の津軽地方にまで放射性廃棄物が拡散,降下する危険性があるし,西風の場合には,六ヶ所村の中心部である尾駮部落が放射能の被ばくにさらされる。」旨主張する。
しかしながら,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設から放出される気体廃棄物の年間放出量を前提とした上,拡散しにくい気象条件を設定した場合でも,一般公衆の受ける線量当量が敷地境界においてすら十分に小さいこと(年間約1.5×10–6ミリシーベルト〔平常時における線量当量評価経路①〕)が確認されている。また,強風が吹いた場合には,大気の拡散によりその線量当量は一層小さくなると考えられる。
したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
(エ) 水理について
a 洪水・津波について
原告らは,「洪水の被害がないとする根拠を欠く。高潮・津波についても,八重山地震津波の波高は85.4m,明治三陸地震津波の波高は38.4mといわれているから,将来30mを超える波高の津波が本件廃棄物埋設施設を襲わないという保証はない。」旨主張する。
しかしながら,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設周辺の地形の状況を検討した上,洪水の被害を受けることはないと判断されるとともに,本件廃棄物埋設施設は,海岸線から約3km離れた標高約30m以上の台地に位置していることから,高潮,津波により被害を受けることもないと判断されているところ,この点に関する原告らの主張は,抽象的に洪水の危険性を主張し,又は地形的条件の異なる地域における例を挙げて津波の危険性を主張するにとどまるものであるから,これらによって本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるとすることはできない。
したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
b シケ・濃霧について
原告らは,「本件安全審査においてはシケ,濃霧による船舶の航行に関する考慮が欠落している。」旨主張する。
しかしながら,核燃料物質等の海上輸送の点は,本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性にかかわる事項とはいえず,本件安全審査において考慮すべき事項ではないから,原告らの上記主張は理由がない。
(オ) 地下水の汚染等の可能性について
a 地下水の放射能汚染の危険性について
(a) 浅地処分について
原告らは,「我が国では低レベル放射性廃棄物は浅地(通気層)に処分することが基本方針とされている。本件廃棄物埋設施設の埋設地は帯水層で,しかも透水性に富んでいる不適地であって,放射能漏出による地下水汚染を招くおそれがあるのに,本件事業許可処分はこれを看過している。」旨主張する。
確かに,アメリカを中心として,日本においても低レベル放射性廃棄物の陸地処分は,浅地処分を基本的な方策とするという知見の存在することを認めることができる(乙6の104頁以下,弁論の全趣旨)。しかしながら,埋設地の適性としてより重要であるのは地下水の流動の影響が及びにくい場所であるかどうか(酸化と還元の状態を繰り返すような環境にないかどうか)という点であって,日本においては通気層であってもアメリカに比較すると含水量が多く,その含水量に変動があること,他方において地下水面より下に存在している埋蔵文化財であってもその保存状態が良かったという事例が日本には存在することにかんがみると,日本においては,低レベル放射性廃棄物を浅地の通気層に埋設することが必須の条件であると認めることはできない(C証言8頁以下,B証言〔第45回弁論実施分〕9頁,弁論の全趣旨)。
そして,本件安全審査においては,埋設設備が設置される鷹架層中部層のN値50以上の部分の透水係数は,平均1.1×10–5cm/sであり,同N値50未満の部分の透水係数(平均1.5×10–4cm/s)及び第四紀層の透水係数(平均4.0×10–4cm/s)より10倍以上小さいことが確認されている(乙2の3-34頁表3-14)。したがって,本件廃棄物埋設設備周辺の地下水は埋設設備が設置される鷹架層中部層ではなく,主に第四紀層及び鷹架層中部層表層部(N値50未満の部分)を流れていて,埋設設備に対する地下水の影響は十分に小さいものと判断することができる(乙43,乙D5,B証言,C証言)。
なお,原告らは,「本件廃棄物埋設施設付近には降雨のあった直後に地下水位の上昇している観測井が存在するから,地盤の透水性が高く,敷地として不適当である。」旨主張するが(甲D165の2-64頁,2-29頁),そのような降雨直後の地下水位の上昇は気圧等の影響(低気圧が来るとそれに向かって水位が上昇することや,雨が地下水まで到達しなくても降雨による圧力のみによって地層中の圧縮された空気を介して地下水まで伝播することにより地下水位が上昇すること)によっても生じ得るものであるから(C証言46頁,95頁以下),上記の地下水位の上昇した観測井の存在をもって埋設設備の設置される鷹架層中部層の透水性が高いことを帰結することはできない。
(b) 地下水位の変動領域について
また,原告らは「本件廃棄物埋設地は地下水位の変動領域内にあり,そのような地下水の影響を受けやすい変動領域は埋設設備の設置位置として不適地である。」旨主張する(C証言21頁以下)。
確かに,埋設設備設置位置の周辺には,本件廃棄物埋設設備が設置される第三紀層(鷹架層)と同じ年代の地層内で地下水位が変動している地点が存在している(例えば,甲D165の2-4頁記載の図のD-2地点〔同2-27頁〕,同E-4地点〔同2-36頁〕)。
しかしながら,上記のうち地下水位が第三紀層(鷹架層)内で大きく変動している地点は,台地から低地に向かう急斜面において第三紀層(鷹架層)が地表に露出する手前の地点であって,そのような低地に近くなる地点においては地下水が斜面に沿って落ち込むために第三紀層(鷹架層)内での地下水位の変動が大きくなっているものであり(C証言38頁以下),埋設設備設置位置直近の地点(上記の図のC-5地点〔甲D165の2-24頁〕,同D-5地点〔同2-30頁〕)を含め,埋設設備設置位置により近い地点においては,主として第四紀層内において地下水位が変動するにとどまっていることを認めることができる(甲D165,C証言34頁)。したがって,埋設設備設置位置が地下水の変動領域内にあって不適地であるということはできない。
(c) 造成工事による地下水位の減少傾向について
さらに,原告らは,「本件廃棄物埋設施設周辺の造成工事の影響により,地下水位が造成工事前の昭和61年から造成工事後の昭和62年,63年と継続的に下がっている。例えば,観測井D-5では,造成工事前の昭和61年6月の地下水位が標高42m程度であったものが,造成工事後の昭和62年10月には標高39m程度にまで低下し(甲D165の2-9頁,C証言49頁以下),昭和62年3月において標高39m程度であったものが昭和63年3月には標高37ないし38mにまで低下している(甲D165の2-11頁,C証言50頁以下)。もしも,このペースで地下水位の低下が続いているとすると,平成2年11月の本件事業許可処分時には地下水位の標高が34m程度になり,本件廃棄物埋設施設(その南側標高が底面で26m・上面で32m,北側標高が底面で32m・上面で38m)は,まさに地下水位の季節変動の領域に入ることになる。日本原燃は,一旦掘削した観測井のその後の観測データを保持しているはずであるのに昭和63年3月から2年半後の本件事業許可申請までの間の観測データを提出しなかったが,それは日本原燃にとって不利な観測データであったからであると推認される。」旨を主張する(C証言49頁以下,甲D165の2-9頁から11頁まで)。
しかしながら,D-5観測井(本件廃棄物埋設施設の東側)の昭和62年3月から昭和63年3月までの1年間の地下水位の低下は約1mであると認めることができ(甲D165の2-10と2-11の比較),その前の昭和61年6月から昭和62年10月までの約1年4か月間の地下水位の低下幅が約3mにも達していることに比較すると(甲D165の2-9頁,C証言49頁以下),その低下の速度が半分以下に鈍化している。このように年間1m以下の範囲で鈍化すると考えられる地下水位の低下傾向に加えて,埋設設備設置位置付近の透水性が小さいことなどを勘案すると,造成工事による地下水位に対する影響は一時的なものというべきであり,地下水位(昭和63年3月時点の地下水位は標高約38m〔甲D165の2-11頁〕)が昭和63年以降も下がり続けて本件廃棄物埋設設備の設置位置(埋設設備の高さは約6m〔乙2の5-19頁〕であり,埋設設備の南側の標高はその底面で26m・上面で32m,埋設設備の北側の標高はその底面で32m・上面で38mであるから〔乙2の5-30頁〕,それらの傾斜地の中間にあるD-5観測井に近い本件埋設設備の東側標高は底面で約29m・上面で約35mと推認される。)まで下がるとは考え難い(C証言52頁)。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(d) 断層沿いの「水みち」(地下水の浸透路)について
また,原告らは,「f-a断層及びf-b断層がいわゆる『水みち』(地下水の浸透路)になっている。」旨主張する。
確かに,原告らが主張するとおり,①f-a断層及びf-b断層の周辺には,埋設設備の設置される鷹架層中部層の透水係数よりもかなり高い透水係数(10–3cm/sオーダー)の場所が複数存在していることを認めることができる(甲D41,56・別紙「埋設設備周辺での第三紀層鷹架層の透水試験結果図」,B証言〔第46回弁論実施分〕54頁以下,同80頁)。また,②ラドン法による割れ目調査(地下深部にある放射性元素は,地表に出やすい環境,例えば割れ目を通って上昇してくるので,地表において土壌中のラドンガスの濃度分布を測定することにより,地下の断層,割れ目の存在状態を推定することができるという調査方法)の結果によれば,f-a断層及びf-b断層にほぼ沿った複数の地点においてラドンガスの濃度が高くなっていることを認めることができる(甲D41の参考資料1の14頁・「ラドン/トロン比分布図」,C証言62頁以下)。さらに,③岩盤透水試験の結果によれば,断層のある深さに達した途端に加圧状態の水を注入したときの透水量が一気に上昇した地点のあることを認めることができる(甲D41の参考資料3の19頁以下,C証言64頁以下)。加えて,④反撥度測定検査(シュミット・ロック・ハンマにより断層部分の露頭付近にある岩石等を叩いてその反撥度を測定する検査)によると,断層部分の露頭付近にある混在部の反撥度は相対的にやや低いことを認めることができる(甲D189)。したがって,これらの点からすると,f-a断層及びf-b断層に沿って割れ目が存在し,その割れ目部分が連続しており,水が通りやすくなったいわゆる「水みち」が存在しているのではないかという疑いがない訳ではない。
しかしながら,それらの透水性の高い地点の中間又は延長線上付近には透水性の低い地点も点在している(別紙「埋設設備周辺での第三紀層鷹架層の透水試験結果図」〔甲D56〕のg-⑤地点,g-⑦,k-⑨,c-①地点)。また,断層部分5か所の透水係数の平均が1.3×10–5cm/sと低く(乙2の3-18頁),各箇所の数値にも大きなばらつきがなかった(B証言〔第46回弁論実施分〕54頁,甲D41の7項「埋設設備周辺の鷹架層の透水係数の分布について」)。さらに,断層部分に設けたトレンチにおいてシュミット・ロック・ハンマによる岩石硬度測定をした結果によると,混在部の岩石の反撥度は周囲の岩石のそれよりやや低いとはいえ,専門家の立場からすると,ほぼ同程度の堅さを有しており,断層面が固結・密着しているものと認められた。また,ボーリング調査の結果によれば10–3cm/sという透水係数の多い部分が連続していないことが確認されており(B証言〔第45回弁論実施分〕65頁),地盤として問題のないものと判断されていた(甲D189)。これらの点にかんがみると,断層部分に沿って透水係数の大きい部分が部分的に存在していることまでは認められるものの,それらの透水係数の多い断層部分がすべて連続していわゆる「水みち」(地下水の浸透路)になっているとまで認めることはできない(A証言〔第44回弁論実施分〕83頁以下,B証言〔第45回弁論実施分〕63頁以下,同〔第46回弁論実施分〕72頁以下,C証言60頁以下,甲D41の7項「埋設設備周辺の鷹架層の透水係数の分布について」)。
なお,本件安全審査においては,仮に透水性の大きい上記各部分がf-a断層及びf-b断層に沿って連続し,いわゆる「水みち」が形成されているとしても,別紙「検証見取図第1」記載のとおり,最終的にはその水が敷地西側の沢を経由して尾鮫沼へ,又は直接に尾鮫沼へ至る地形となっているから,被ばく評価上は問題とはならないこと,仮に本件廃棄物埋設設備の施工時に地盤の透水性に大きな影響を及ぼすような割れ目が発見された場合にもその段階において必要に応じて十分な対策を行うことが可能であることが確認されている(甲D41の7項)。
したがって,上記の「水みち」の存在可能性に関する原告らの上記主張は採用することができない。
(e) その他の地下水の放射能汚染について
① 原告らは,「埋設設備のコンクリート等が地下水と接触し,埋設設備の放射性物質閉じ込め機能が損なわれ,放射性物質が外部環境に漏出して,それによる地下水汚染が発生する可能性がある。」,「ドラム缶による長期管理では健全性を保つことができないおそれがあり,実際に『液垂れ跡』のあるドラム缶2本が本件廃棄物埋設施設に搬入されるなど埋設前の審査体制にも不安があるから,埋設後に地下水が汚染される可能性がある。」,「埋設設備の破損は,深層地下水の影響によっても起こり得るが,そのような事態が発生した場合には,地下水の放射能汚染による周辺住民に対する被害は計り知れない。」などと主張する。
② しかしながら,本件安全審査においては,仮に埋設設備の外周仕切設備及び覆いから表面水が浸入した場合であっても,その水が廃棄体に達することなく排水することができるよう,ポーラスコンクリート層等の排水・監視設備を設け,廃棄物埋設地の管理の第1段階,第2段階の期間中はその監視をしながら排水を行うことが確認されている。また,線量当量評価に当たっては,廃棄体,埋設設備等が著しく劣化し,第2段階当初から放射性物質の漏出が始まると仮定した場合であっても,一般公衆の受ける線量当量が十分に小さいことを確認しているのである。したがって,放射性物質の漏出に関して原告らの主張する上記諸事情を考慮したとしても,本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
③ なお,「液垂れ跡」のあるドラム缶が発見された部分に関する原告らの主張は(甲41の1から51まで参照),原子炉等規制法51条の6の廃棄物埋設に関する確認の段階において規制される事柄に係るものであり,本件訴訟の審理の対象とはならないから,理由がない。また,動燃東海事業所において低レベル放射性廃棄物を収納したドラム缶が長期間水が溜まった状態で貯蔵されていたことに関する原告らの主張も(甲16から19まで,26参照),それらの貯蔵は原子炉等規制法の第6章の核燃料物質等の使用等に関する規制の対象であって,本件事業許可処分における同法51条の3第1項の各要件の審査の対象とはならないものであるから,本件訴訟の審理の対象とはならず,理由がない。
(f) 井戸水シナリオ等について
① 原告らは「廃棄体が埋設される鷹架層には深層地下水が存在し,施設周辺住民がこれを井戸水などの生活用水として使用している。」旨主張する。
しかしながら,本件安全審査においては,廃棄物埋設地を通過する地下水は,地下水面の傾斜方向に流下して敷地中央部の沢を経て尾駮沼に流入しており,一般公衆が深井戸を利用することによって被ばくする事態は考えられないことが確認されているから,この点に関する原告らの主張は理由がない。
② また,本件安全審査においては,井戸水の利用に関しては管理期間終了後の線量当量評価経路として廃棄物埋設地又はその近傍における井戸水の飲用による内部被ばく(同経路⑨)が想定されているところ,原告らは,「井戸水の飲用による被ばく(いわゆる井戸水シナリオ)のうち,埋設設備内に掘られた井戸から採取した水を飲んだ人の被ばくといった危険性の高いケースが想定されていないことは不当である。」旨主張する。
確かに,本件調査審議の過程においては,線量当量評価の経路として,埋設設備を貫くように掘られた井戸から採取した水を飲んだ人の被ばくに係る経路を設定することが検討されたものの,最終的には評価経路として想定されなかったことを認めることができる(甲A4,甲D7,40,A証言〔第44回弁論実施分〕86頁以下)。
しかしながら,埋設地周辺においては透水係数が低いために井戸を掘削しても十分な揚水量を得ることができないから井戸水の利用は考え難い(B証言〔第45回弁論実施分〕78頁)。また,低レベルとはいえ放射性廃棄物が埋設された本件廃棄物埋設設備内に井戸を掘ることは通常想定し難い。したがって,管理期間終了後の線量当量評価経路⑨以上に,本件廃棄物埋設設備内に掘られた井戸から採取した水を飲んだ人の被ばくに係る評価経路を,評価経路として想定しなかったことについて,看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(g) 化学物質による地下水汚染について
① 原告らは,「水質試験試料採取地点12か所はすべて本件廃棄物埋設予定地の周辺であって,敷地内ではない上,地層別の水質試験結果が示されていないから不十分であり,埋設設備の放射性物質閉じ込め機能を損なうような化学物質が本件廃棄物埋設予定地内にあるかどうかは確認されていない。したがって,化学物質により埋設設備の放射性物質閉じ込め機能が損なわれ,放射性物質が外部環境に漏出して地下水の放射能汚染が発生する可能性を否定することができない。」旨主張する。
② しかしながら,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設周辺の12か所の地点で行われた地下水の水質試験の結果によれば(乙2の3-56頁),その周辺12か所の地点の鷹架層及び第四紀層中の地下水中には埋設設備のコンクリート及びセメント系充てん材の閉じ込め機能に影響を与えるような成分が存在していないことが確認されているところ,その周辺12か所の地点と本件廃棄物埋設設備設置位置とでその地下水の水質が著しく変化していることは考え難いから,本件廃棄物埋設予定地内において地下水の水質検査をしていないことに問題はない(B証言〔第43回弁論実施分〕34頁)。
③ したがって,本件調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえず,原告らの上記主張は採用することができない。
b 地下水の重金属汚染の可能性について
原告らは,「本件廃棄物埋設設備の設置により重金属汚染を招く可能性がある。」旨主張する。
しかし,放射性物質以外の化学物質による地下水の汚染については,本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性にかかわる事項ではなく,本件安全審査の対象とはならないから,この点に関する原告らの主張は理由がない。
イ 社会環境について
(ア) 国家石油備蓄基地について
a 原告らは,「本件廃棄物埋設施設から1.5kmしか離れていない国家石油備蓄基地に火災が発生した場合には,本件廃棄物埋設施設の安全性が損なわれる。」旨主張する。
b しかしながら,別紙「検証見取図第1」記載のとおり,本件廃棄物埋設施設の敷地境界から石油備蓄基地までは約1.5km離れており,本件廃棄物埋設施設からは約3kmの距離があると認められるところ(乙8の20頁,乙12の3の5頁,弁論の全趣旨),「青森県石油コンビナート等防災計画」(青森県石油コンビナート等防災本部作成)によれば,仮に,上記石油備蓄基地のタンクから原油が流出し,防油堤内に全面的に火災が発生した場合を想定しても,そのふく射熱による影響(木材等の有機物が有炎火の粉があるときの引火の限界値)が及ぶ範囲は380mと予測されていること(乙21の39頁)からすれば,火災を想定しても本件廃棄物埋設施設への類焼が考えられないとした本件調査審議及び判断の過程について,看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
(イ) 自衛隊三沢基地,米軍三沢基地について
a 原告らは,「本件廃棄物埋設施設の周辺には自衛隊三沢基地や米軍三沢基地があるから,墜落事故の危険性がある。平成元年3月16日には本件廃棄物埋設施設からわずか6kmの距離にある人家の庭先に11.3kgの模擬爆弾が,同年9月5日には4km離れた畑にF16の模擬爆弾が,それぞれ誤投下された。平成3年5月7日には遂にF16が本件廃棄物埋設施設からわずか20数kmの三沢基地内に墜落した。平成元年6月には,四国電力伊方原子力発電所近くに米軍ヘリコプターが墜落した。したがって,本件廃棄物埋設施設は,その場所的位置からみて,不適当である。」旨主張し,これに沿った証拠(甲D197の1から204まで,206,211から214の6まで)を提出する。
b しかしながら,①自衛隊機を含む我が国の航空機に対しては,航空法99条に基づき運輸省が発行する「航空路誌」(AIP)に,「航空機による原子力施設に対する災害を防止するため,下記の施設付近の上空の飛行は,できる限り避けること。」という指導事項や原子力施設の位置等が掲載,公示されており(乙22から26まで),機長は,これら原子力施設付近上空の飛行規制の情報を確認した後でなければ航空機を出発させてはならず(同法73条の2〔平成11年法律第160号による改正前のもの。乙A3の40頁〕及び同法施行規則164条の16第1項3号〔平成5年運輸省令第4号による改正前のもの。乙A3の231頁〕),また,機長がその航空情報を確認せずに航空機を出発させた場合には5万円以下の罰金に処せられる(同法153条1号〔平成6年法律第76号による改正前のもの。乙A3の75頁〕)とされていること,②米軍機に対しては,上記航空法各条の規定は適用されないものの,日本政府から米軍に対して「航空路誌」に係る情報を事実上提供するとともに,原子力施設付近上空の飛行規制について徹底するよう要請しており,昭和63年6月30日に開催された日米合同委員会においても,米国側代表から,「原子力施設付近の上空の飛行については在日米軍としては従来より日本側の規則を遵守してきたが,改めて在日米軍内にそれを徹底するよう措置する」旨の回答がされていること(乙27,弁論の全趣旨),③三沢米軍の1998年11月1日付けの作戦教範11-F16においても,北日本飛行禁止・回避空域として六ヶ所村の核燃焼サイクル施設が指定され,同施設の上空が飛行禁止とされ,3海里(5.5km)に近づかないようにと指導されていること(甲D205),以上の事実を認めることができる。
c このように航空機による原子力施設に対する災害を防止するため,各種の措置が講じられていることからすれば,本件安全審査において,上記のような航空機の飛行に係る法的規制等を踏まえ,かつ,民間航空機の定期航路及び軍用機との訓練空域と本件廃棄物埋設施設上の距離がそれぞれ約10km離れていること(別紙「飛行パターンの抽出」〔甲D207〕参照)をも勘案して,自衛隊三沢基地及び米軍三沢基地の航空機が本件廃棄物埋設施設に墜落する可能性が極めて小さいと判断したことについては(乙1の3-10,乙2の3-4),看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(ウ) 人口分布状況について
原告らは,「施設と住民居住地域とに十分な隔離距離が保たれなければならないが,法律上この隔離距離が具体的に決められていないから,周辺地域住民の生命,健康に対する配慮が欠落している。」旨主張する。
しかしながら,具体的審査基準の一つである「安全審査の基本的考え方」においては,平常時における一般公衆の線量当量は「合理的に達成できる限り低い」ものであること及び技術的にみて想定される異常事象が発生した場合でも一般公衆に対し過度の放射線被ばくを及ぼさないことが審査基準として定められていることからすると,周辺居住住民の安全性に関して具体的審査基準を欠き又はその基準に不合理な点があるということはできない。したがって,原告らの上記主張は理由がない。
(エ) 原子力施設の集中立地について
原告らは,「本件廃棄物埋設施設に隣接して,大量の高レベル放射性廃棄物やプルトニウムの貯蔵施設と再処理工場とを併設する計画が進行中であるが,本件安全審査においてはこれらの施設の集中立地を想定した審査をしていない。」旨主張する。
しかしながら,本件安全審査においては,先行するウラン濃縮工場については,これに起因する一般公衆の線量当量が十分低く,その寄与を考慮する必要がないとの判断がされているところ,この点に関する調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。また,再処理施設等の後続の原子力施設については,当該施設の安全審査の段階において本件廃棄物埋設施設との重畳が考慮されると考えられるし,本件事業許可処分時にはいまだ計画段階にあったにすぎないものであるから(弁論の全趣旨),本件安全審査においてそれらの施設を想定した審査をしていないからといって,本件調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
(2) 本件廃棄物埋設施設に埋設する核燃料物質の性状等について
ア 埋設する放射性廃棄物の放射能レベルの危険性について
原告らは,「低レベル放射性廃棄物は,日本の区分でいえば濃度1μCi/ml以下のものとされているのに(昭和39年6月12日廃棄物処理専門部会報告書〔原子力委員会廃棄物処理専門部会〕),本施設に埋設が予定されている放射性廃棄物の最大放射能濃度は,上記低レベルの上限値の4.76倍もの放射能濃度を有しており,低レベル廃棄物であるなどとは到底いえず,危険性が高い。」旨主張する。
しかしながら,原告ら主張の上記放射能レベルの区分は,上記廃棄物処理専門部会が,原子力の開発に伴って将来的に発生する相当量の放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方等について審議し,昭和39年6月12日に,その結果を原子力委員会委員長に対して報告した中において,国際的な基準がないといった当時の状況の下で,放射性廃棄物の処理や発生量を推算する必要性から便宜的に設定した区分であり,埋設処分の際にそのまま適用するために設定したものではない(乙30の6頁)。
そして,廃棄の事業の対象となる放射性廃棄物については,原子炉等規制法51条の2第1項1号,同法施行令13条の9において,①炭素14(上限値は37ギガベクレル毎トン),②コバルト60(上限値は11.1テラベクレル毎トン),③ニッケル63(上限値は1.11テラベクレル毎トン),④ストロンチウム90(上限値は74ギガベクレル毎トン),⑤セシウム137(上限値は1.11テラベクレル毎トン),⑥アルファ線を放出する放射性物質(上限値は1.11ギガベクレル毎トン)の6種類の放射性物質について,放射能濃度の上限値が定められているところ,これらの数値は,放射線防護の観点から重要な代表的放射性物質について,放射能濃度の上限値を定めたものと認めることができる(弁論の全趣旨)。
また,本件廃棄物埋設施設に埋設される放射性廃棄物に含まれる放射性物質のうち,上記6種類の放射性物質の最大放射能濃度(別紙「最大放射能濃度及び総放射能量表」参照)は,いずれも上記放射能濃度の上限値を超えておらず,その他の主要な放射性物質の種類も,廃棄体の受入れまでの経過期間,線量当量の評価への寄与等の観点から選定されており,妥当であると判断されているのであるから,上記規制(具体的審査基準)が不合理であるとか,上記規制に適合するとした本件調査審議の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
イ 原子炉等規制法施行令に定める放射能濃度上限等の実効性について
(ア) 原告らは,「原子炉等規制法施行令13条の9により定められた埋設廃棄体固化体の濃度上限値は,合理的な数値ではない。」旨主張する。
しかしながら,原子炉等規制法施行令13条の9に定める廃棄物埋設事業の対象となる放射性廃棄物に関する放射能濃度の上限値は,放射線障害防止の技術的基準に関する法律(昭和33年法律第162号)6条に基づき,関係行政機関の長である内閣総理大臣,通商産業大臣及び運輸大臣が,科学技術庁に置かれた放射線審議会に諮問して妥当である旨の答申を得るとともに(乙31,32),原子炉等規制法51条の2第3項の規定に基づき,原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を聴き,いずれも妥当なものであるとの答申を得た上で(乙33,34),これを十分に尊重して制定したものであると認めることができる。
このように上記濃度上限値は,科学的,専門技術的な知見に基づいた議論を踏まえた上で制定されたものであるといえるから,具体的審査基準としての上記濃度規制について不合理な点があるということはできない。
(イ) 原告らは,「6種類の放射性物質以外の放射性物質の濃度については無規制であるから,規制の実効性がない。」旨主張する。
しかしながら,原子炉等規制法施行令13条の9に定める放射性廃棄物の放射能濃度の上限値は,原子炉施設から発生する廃棄物のように放射性物質の組成がある程度明らかである場合には,影響度の大きい限られた放射性物質の濃度の上限値を設定することによってその他の放射性物質もおのずと制限されることになると考えられるため,影響度の大きい代表的な放射性物質を抽出し,抽出された放射性物質の生成過程及びその放射性物質の被ばく経路を基に,最終的に放射線障害防止の観点から重要な6種類の放射性物質(炭素14,コバルト60,ニッケル63,ストロンチウム90,セシウム137,アルファ線を放出する放射性物質)を選定し,これらについて基準を設けたものであると認めることができる(弁論の全趣旨)。
したがって,上記6種類の放射性物質についてのみ濃度上限規制をしたことが不合理であるということはできない。
(ウ) 原告らは,「原子炉等規制法施行令や廃棄物埋設事業規則には,埋設されるドラム缶一体当たりの放射能量や,1か所の施設に埋設することができる廃棄物の放射能総量に関する規制を欠くから,規制の実効性がない。」旨主張する。
しかしながら,埋設される廃棄体一体当たりの放射能量は,放射能濃度に廃棄体重量を乗じることにより求められるものであるところ,本件安全審査においては埋設される放射性廃棄物に含まれる放射性物質の総放射能量の設定の妥当性が審査されており,これにより安全確保の目的を達することができるから,廃棄体一体当たりの放射能量について規制をしなかったことが格別不合理であるということはできない。
また,本件安全審査においては,①廃棄物埋設を行う放射性廃棄物の最大放射能濃度及び総放射能量を前提とした上で,前記のとおり,管理期間中の平常時において一般公衆に対する線量当量が法令に定める実効線量当量限度を十分に下回ることはもとより,「安全審査の基本的考え方」に示されているように「合理的に達成できる限り低く」する対策がされていること,②管理期間終了以後の一般公衆に対する線量当量が,被ばく管理の観点からは管理することを必要としない低い線量となっていること,③異常事象が発生した場合でも,一般公衆に対し,過度の被ばくを及ぼさないことが確認されていることからすると,1か所に埋設することができる廃棄物の放射能総量に関して規制がされていないことが格別不合理であるともいえない。
(エ) 原告らは,「規制値設定前に作成された廃棄物ドラム缶がある上,廃棄物ドラム缶を破壊点検して濃度を確認するわけでもなく,ドラム缶を破壊しないでその濃度を推定することにも限界がある。また,濃度の『確認』は,民間業者に代行させることができるものでしかない。また,雑誌フラッシュによれば,福島第一原発においては低レベル放射性廃棄物の検査データの改ざんがされていたとのことである。したがって,濃度規制は,その実効性を欠く。」旨主張する。
しかしながら,埋設する廃棄体は,その放射能濃度が本件事業許可申請に係る申請書等に記載した最大放射能濃度を超えないことについて,内閣総理大臣の「確認」を受けるとされているところ(原子炉等規制法51条の6第2項,廃棄物埋設事業規則8条),原子炉等規制法施行令13条の9に定める放射性廃棄物の放射能濃度の上限値が制定される以前に原子力発電所で作られた廃棄体であっても,非破壊外部測定法(廃棄体の外部から非破壊測定をする方法),スケーリングファクタ法(代表サンプル〔母集団を適切に代表している廃棄体から採取した試料〕の放射化学分析から得られる難測定核種〔廃棄体外部から非破壊測定が困難な放射性物質〕とkey核種〔廃棄体外部から非破壊測定が可能なγ線を放出し,難測定核種と相関関係を有する放射性物質〕との相関関係と個々の廃棄体外部からの非破壊測定結果とを組み合わせる方法),平均放射能濃度法(代表サンプルの放射科学分析から得られる平均的な放射性物質濃度を用いる方法),理論計算法(原子炉燃焼計算等により理論的に得られる放射性物質の組成比と他の手法で求めた放射性物質濃度とを用いる方法)といった手法を用いることにより,廃棄体中の放射能濃度を確認することが可能であることが確認されている(乙35,36,弁論の全趣旨)。
また,確かに,内閣総理大臣は原子炉等規制法51条の6第2項の「確認」を,その指定する者(以下「指定廃棄確認機関」という。)に行わせることができるとされているが(同法61条の41第1項),指定廃棄確認機関の指定等は,指定検査機関等に関する規則(昭和61年12月12日総理府令第68号。乙A2の958頁)の規定に従って行われるものと認めることができるから(弁論の全趣旨),上記「確認」が指定廃棄確認機関によって行われること自体が不合理であるとはいえない。
なお,原告ら主張の福島第一原発における検査データの改ざん事例は,仮に本件廃棄物埋設施設においてそのような事例があったとしても,上記「確認」の際に検査がされるのであるし,その実施に関する事項は,本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性にかかわらない事項である上,そもそも本件安全審査の対象ではないから,原告らの上記主張は理由がない。
したがって,廃棄体の「確認」制度に関する具体的審査基準に不合理な点があるということはできないし,それに関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできず,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
ウ 廃棄体の表面の線量当量率について
原告らは,「法令上,廃棄体の表面放射線量についての規制がない。なお,補正書(乙2の6-14頁)によれば,廃棄体の表面の線量当量率は,10mSv/hを超えないものとされているが,この数値は,1時間かつ1cm2当たりでありながら公衆の年間許容被ばく量の10倍の放射線に相当する放射線量であり,膨大な放射線量である。」旨主張する。
しかしながら,放射線防護の観点からすれば,一般公衆及び放射線業務従事者の放射線防護が適切にされるかどうかが問題であり,廃棄体の表面放射線量が高いこと自体が直ちに問題となるわけではないと考えられるから,その規制のないことが不合理であるとはいえない。そして,本件安全審査においては,前記のとおり,管理期間内において,本件廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される放射性物質から敷地境界外の一般公衆が受ける外部被ばくに係る線量当量は,最大でも年間約0.027ミリシーベルトであると評価され,法令に定める線量当量の限度(1ミリシーベルト)を下回ることことはもとより,一般公衆の受ける線量当量が「合理的に達成できる限り低く」なるように設計されていると判断されている。
したがって,廃棄体の表面の線量当量に関する規制(具体的審査基準)に不合理な点があるということはできず,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
(3) 本件廃棄物埋設施設自体の安全性又は安全評価の違法性について
ア 平常時における線量当量評価について
(ア) 仮蓋状態下の廃棄体等による被ばくについて
原告らは,「仮蓋を開けて埋設作業を行う工程及び仮蓋はされているが覆土のない状態において一般公衆及び放射線業務従事者が受ける外部放射線による線量当量を評価したところ,敷地境界外住民で年間40から70ミリレム,敷地内労働者で年間1800から3300ミリレムと,ほぼ線量当量限度に匹敵する外部被ばくを受けることが判明した。にもかかわらず,このような危険性を無視した本件事業許可処分は違法である。」旨主張する。
しかしながら,原告らの主張に係る線量当量が合理的な根拠に基づいて評価されていると認めるに足りる証拠はなく,前記認定によれば,本件安全審査における線量当量評価に当たっては,原告らの主張する仮蓋のない状態及び仮蓋はあるが覆土のない状態も合理的に考慮されていると認めることができる。したがって,仮蓋状態下の廃棄体等による被ばくに関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできず,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
(イ) 施設廃棄物(液体)からの被ばくについて
原告らは,「本件廃棄物埋設施設から発生する液体廃棄物の発生源は,廃棄体の表面を洗浄した際の排水であるところ,これは廃棄体の表面汚染とその程度という非定量的な出来事に依存するから,この量が本件事業許可申請書添付書類(乙2の6-11頁)に記載の年間推定最大放出放射能量の範囲内に収まるという保証はない。また,トリチウムはろ過や脱塩装置により除去することができないから,その人体への影響は無視し得ない。」旨主張する。
しかしながら,本件廃棄物埋設施設において想定される液体廃棄物は,附属施設において分析等の作業の過程で発生する廃液,排水・監視設備からの排水等であり(乙2の5-15頁),廃棄体の表面を洗浄した際の排水は液体廃棄物として想定されていない(当初の申請においては,液体廃棄物は附属施設において汚染が発生した時に生ずる除染廃液等とされていたが,廃棄体は搬出前に汚染のないことが確認され,輸送中に廃棄体が汚染されるような事態を想定し難いことなどから,平成元年10月27日付け一部補正(乙2)においては,上記のとおりに改められたのであり,本件安全審査においても上記補正後の申請内容を審査したことを認めることができる〔弁論の全趣旨〕。)。したがって,原告らの上記主張はその前提を欠き,理由がない。
(ウ) 地下水の流速の計算について
a 原告らは,「地下水を汲み上げることなどにより地下水の水面が低下し,渦流状態になる場合があるから,地下水の流速を求める際に層流状態に限って適用されるダルシー則を用いて地下水の流速を計算し,平常時における線量当量評価をすることは,誤りである。また,本件事業許可申請書添付書類に記載されている地下水の流速は実際の流速値と異なるし,安全を見込んだ数値であるとはいえない。」旨主張する。
b 確かに,ダルシー則に関して一般論として原告らが主張するような知見の存在することを認めることはできるが(甲D36,162),本件廃棄物埋設施設周辺の井戸等は,埋設設備群設置位置及びその付近の地下水の流動状況に影響を及ぼさないこと,埋設設備設置位置付近の地中はその透水係数が小さく地下水の流速が遅いといった性質を持つことが確認されているのであるから,本件廃棄物埋設施設敷地の地下水について,ダルシー則を適用することが不合理であるということはできない(乙43,乙D4,5,B証言〔第45回弁論実施分〕49頁以下,C証言)。
c また,本件事業許可申請書に記載されている地下水の流速が実際の流速とは異なるとの主張については,本件安全審査においては,地下水の流速などの地下水に関するパラメータを設定するに当たって,試験結果などのデータをそのまま用いるのではなく,安全側に設定されている(乙43,B証言)というのであるから,この点に関する原告らの主張も採用することができない。
イ 段階管理における安全性に関する違法性について
(ア) 原告らは,「第1段階は,仮蓋しかない状況で大雨,洪水,大雪等があった場合や,仮蓋もない状況で埋設設備に航空機が墜落したような場合には,廃棄体に内蔵されている大量の放射能が周辺環境にまき散らされる危険性が大きい。」旨主張する。
しかしながら,廃棄体の定置に当たっては,埋設設備区画内への雨水等の浸入を防止するとともに外周仕切設備,内部仕切設備等の点検を随時行うこととされており(乙2の6-2),また,排水・監視設備により排水を行い,排水した水の放射性物質の濃度を測定することなどにより放射性物質の漏出のないことを確認することとされているから(乙2の6-17),この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
さらに,前記認定のとおり,本件廃棄物埋設施設は,定期航空路及び防衛庁等の訓練空域からそれぞれ約10km離れており,航空機は原則として原子力施設上空を飛行しないように規制されているから,本件廃棄物埋設施設に航空機が墜落する可能性は極めて小さい。また,埋設作業中及び設置後覆土前という状態は短期間であるから,その短期間内に航空機が墜落するという確率は,なお一層小さくなる。したがって,これらの点にかんがみると,埋設作業中とか覆土前の状態における航空機墜落事故の場合を考慮外と判断したとしても,航空機墜落時の安全評価に関する本件安全審査の過程について,看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(イ) 原告らは,「第2段階における具体的な線量当量及び放射性物質の濃度の監視システム,測定範囲,チェック方法や,これらを行うための人的,経済的,組織的な裏付けが明確にされていないから,管理態勢が不十分である。」旨主張する。
しかしながら,具体的な線量当量及び放射性物質の濃度の監視に係る事項は,保安規定の認可の際に審査される事項であり(原子炉等規制法51条の18,廃棄物埋設事業規則20条1項6号),本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性にかかわらない事項であるから,この点に関する原告らの主張は理由がない。
なお,本件安全審査においては,①本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性にかかわる事項として,附属施設から放出される気体廃棄物及び液体廃棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること,②周辺環境における放射線量,放射性物質の濃度等を適切に監視するための方策が講じられていること,③第2段階では廃棄物埋設地から地下水に漏出し,生活環境に移行する放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていることが確認されている。したがって,段階管理における第2段階の安全性に関する審査基準について不合理な点があるということはできず,その基準に適合するとした本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということもできない。
(ウ) 原告らは,「第3段階は300年の長期にわたる段階であり,この間の企業の存続性(特に原子力発電停止後の企業の存続)及び沢水の利用禁止,地表面の掘削の制約等の遵守の実効性には疑問があり,管理とは名ばかりで,捨てるに等しい行為である。」旨主張する。
しかしながら,原告らの主張する企業の存続性や,沢水の利用禁止,地表面の掘削の制約等の遵守の実効性といった事項は,本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性にかかわる事項ではなく,本件安全審査の対象ではないと認められるから,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
(エ) 原告らは,「本件廃棄物埋設施設は廃棄ドラム缶の腐食が分からないように埋めるものであって,40年後ないし45年後という腐食漏出のがい然性が高くなる時期(第3段階開始時期)になると,地下水の採取測定等もやめてしまい,放射性物質の漏出があるかどうかも分からなくする仕組みにしているものであるから,違法である。第1段階終了時から300年後(第3段階終了時)における残存放射能は,別紙『300年後の残存放射能毒性』記載のとおり,管理を終了させてよいような量ではないにもかかわらず,300年後の子孫の利害を代表する者が誰もいないことを良いことにして,彼らにそのつけを回そうというやり方を絶対に許すことができない。」旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件安全審査においては,管理期間内において一般公衆に対する線量当量が最大となる評価経路は,本件廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される廃棄体中の放射性物質によるスカイシャインガンマ線に係る線量当量の年間約0.027ミリシーベルトであり(管理期間内評価経路⑤),これに重畳の可能性のある他の評価経路を考慮しても,それらの線量当量への寄与は十分小さいと評価されるので,法令に定める実効線量当量の限度(年間1ミリシーベルト)を十分に下回ることはもとより,「安全審査の基本的考え方」に示されているところの「合理的に達成できる限り低く」なる設計となっているものと判断されている。
また,管理期間終了後においても,一般的であると考えられる経路として選定された線量当量評価経路の中で,線量当量の評価結果が最大となるのは,廃棄物埋設地又はその近傍での居住による経路(管理期間終了後評価経路⑥)の場合の年間約1.5×10–3ミリシーベルトであり,これに重畳の可能性のある評価経路を考慮しても評価結果は十分に小さく,「安全審査の基本的考え方」が定める10μSv/年(0.01mSv/年)を十分下回ることが確認されている。さらに,発生頻度が小さいと考えられる経路として選定された線量当量評価経路の中で,線量当量の評価結果が最大となるのは,廃棄物埋設地における地下数階を有する建物の建設工事によって発生する土壌上での居住による経路(管理期間終了後評価経路⑧)の年間約0.014ミリシーベルトであり,この評価結果は「安全審査の基本的考え方」が定める「めやす線量を著しく超えない」範囲内にあることが確認されている。
なお,管理期間前後を通じたこれら評価結果は,日常生活に伴う被ばく量,例えば,自然放射線による一人当たりの世界平均の被ばく量年間2.4ミリシーベルト程度(乙A4の59頁)や,人工放射線による胃の集団検診1回の被ばく量約0.6ミリシーベルト程度,胸部X線コンピュータ(1回)・断層撮影検査(CTスキャン)の被ばく量約6.9ミリシーベルト(乙A4の60頁)を大きく下回っている。
以上によれば,埋設地の段階管理の安全評価に関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできず,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
ウ 廃棄物埋設施設の覆土について
(ア) 原告らは,「造成地は,地震時には地すべり,陥没,地割れ等が,集中豪雨・連続降雨時には地すべり,陥没,土砂流出等が,それぞれ発生して覆土が所定の厚さを保持することができなくなるおそれがある。」旨主張する。
しかしながら,本件安全審査においては,本件廃棄物埋設施設及びその付近には,地すべり地形及び陥没の発生した形跡が認められないこと,覆土は土砂等を締め固めながら周辺の土壌等に比して透水性が大きくならないように施工され,その厚さは埋設設備上面から6m以上とすることが確認されている。
以上によれば,原告らが主張するような覆土が所定の厚さを保持することができなくなる具体的なおそれがあるとはいえず,原告らの上記主張は理由がない。
(イ) また,原告らは,「覆土には自然地盤ほどの粘着力がなく,粒子がばらばらで吸水率が高く,自然地盤と比べて風化による土質の軟弱,劣悪化も早く進行する。また,ベントナイト混合土の土質が長年月にわたって安全に保持され得るかについて確認されていない。」旨主張する。
しかしながら,本件安全審査においては,①埋設設備の上面及び側面には,土砂等を締め固めながら周辺の土壌等に比して透水性が大きくならないよう覆土が施されること,②その覆土の厚さは埋設設備上面から6m以上とされ,このうち,埋設設備群設置地盤から埋設設備上面2mまでの間の覆土には,土砂にベントナイトを混合し,その透水係数がN値50以上の鷹架層中部層の値より小さい10–7cm/s程度となるよう施工されることとなっていることが確認されている。さらに,線量当量評価においては,放射性物質の漏出が第2段階当初から開始するという想定に立ちながら,ベントナイトを混合した覆土の透水係数について上記の設計値に余裕をみて設定するとの条件を採用しても,前記のとおり放射性物質の漏出に係る一般公衆の受ける線量当量が十分小さいことが確認されている。
したがって,廃棄物埋設施設の覆土に関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということもできず,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
エ アメリカの事故事例について
(ア) 原告らは,「アメリカでは,ウェストヴァレー,マキシーフラッツ,シェフィールド,アイダホのように低レベル放射性廃棄物処分場においてわずか数十年の間に問題を続出させているから,本件廃棄物埋設施設においても放射能漏れの危険性が大きい。」旨主張する。
(イ) しかしながら,ウェストヴァレー及びマキシーフラッツの各処分場における事故は,ピット内に水が浸入したことによるものであるとされているが(弁論の全趣旨),本件廃棄物埋設施設においては,廃棄体を鉄筋コンクリート造の埋設設備の区画内に定置し,セメント系充てん材を充てんした後,覆いを設置し,更に埋設設備上面からの厚さ6m以上の覆土を施すこととされており,浸入してきた水を排水することができるように排水・監視設備を設けることとしている。
(ウ) また,シェフィールドの処分場における事故は,埋設した廃棄物の形状等に問題があったことによるものであるとされているところ(弁論の全趣旨),本件廃棄物埋設施設においては,セメント,アスファルト等を用いて容器に固型化した放射性廃棄物を埋設することとされている。
(エ) さらに,アイダホの処分場においては,洪水により浸水が発生したとされているところ(弁論の全趣旨),本件廃棄物埋設施設付近の河川及び地形の状況からみて,本件廃棄物埋設施設が洪水により被害を受けることが想定されず,高潮,津波により被害を受けることもないものと判断されている。
(オ) 以上のとおり,原告らの主張する事故の事例は,いずれも本件廃棄物埋設施設とは事情を異にする施設における事故の事例であるといえるから,原告ら主張の各事故の存在をもって,本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
オ 埋設体からの一挙的漏えいに伴う地下水汚染による被ばくについて
原告らは,「埋設後30年後以降にドラム缶の腐食やコンクリートのクラックが生じ,これによって放射性廃棄物が流出する一方,地下水がピットに浸入するという事故を想定すると,井戸水を1年間摂取した住民の被ばく量は22レム(一般公衆の許容線量の220倍)という高い値になるから,本件事業許可処分は,違法である。」旨主張する。
しかしながら,原告らの主張に係る放射能漏えい事故の条件及び線量当量評価が合理的な根拠を有するものと認めるに足りる証拠はない。他方で,本件安全審査における線量当量評価に当たっては,地下水汚染による被ばくについても合理的な考慮がされているものと認めることができる。したがって,原告らの上記主張は理由がない。
カ 航空機の墜落等による廃棄体の一挙的漏出による被ばくについて
(ア) 原告らは,「天ヶ森射爆撃場の訓練飛行機F1又はF16のみを対象とし,その他の軍用機や民間飛行機を対象とせず,アメリカで発生したような民間航空機を利用した自爆テロの危険性を看過しているから不当である。」とも主張する。
しかしながら,本件廃棄物埋設施設は民間航空機の定期航路や軍用機の訓練空域からそれぞれ約10km程度離れており,本件廃棄物埋設施設に航空機が墜落する可能性は極めて小さいと考えられることにかんがみると(乙1の3-10,乙2の3-4),民間飛行機を対象としなかったことや,軍用機について軍用機F1及びF16のみを対象としたことについて,看過し難い過誤,欠落があるとまでいうことはできない。また,アメリカにおいて発生したような民間航空機を利用した自爆テロの危険性についても,その可能性が極めて小さいと考えられる上,テロ一般に対しては当然に治安維持の観点からも最大限の回避努力が期待されることにかんがみると,本件安全審査において民間航空機を利用した自爆テロの危険性を考慮しなかったとしても,看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(イ) さらに,原告らは,「空中衝突やパイロットによる空間識失調等エンジンの推力を保持したままの事故の方が多く,事故原因に占めるエンジントラブルの割合は僅か約19%にすぎないのにもかかわらず,F16がエンジントラブルによりエンジンを停止して滑空するという不自然な想定条件を用いたことは不当である。」旨主張する(甲D208から210まで参照)。
しかしながら,本件安全審査においては,航空機事故における機材要因の中ではエンジントラブルが最も多いことからエンジン停止の滑空状態を想定条件としたというのであって(甲D208),その条件設定には理由がある上,航空機の墜落事故の発生確率が極めて小さいことにもかんがみると,上記の想定条件を採用した安全評価の過程について,看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(ウ) 原告らは,「エンジン停止の滑空状態であってもその衝突速度を215から340m/sとすることを検討していたのに,過去の他の原子力施設において衝突速度を150m/sとする想定条件を採用しており,その想定条件を引き上げると時間的にも費用的にも多大なコストがかかるという経済的理由により,過去の想定条件である衝突速度150m/sをそのまま採用したのであり,不当である(甲D208から210まで)。」旨主張しており,確かに本件安全審査の過程においては,想定する衝突速度を150m/sから215m/sに引き上げて防護設計をする場合には管理建屋建設費として約660億円もの費用の増加が見込まれるなどの検討がされていたことを認めることができる(甲D210)。
しかしながら,そもそも航空機墜落事故の発生確率が極めて小さいこと,本件廃棄物埋設施設の潜在的危険性は原子炉施設と比較するとはるかに小さいことにかんがみると,前記の理由により本件廃棄物埋設施設の最大衝突速度を150m/sと想定したことについて,看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(エ) 原告らは,「実爆弾搭載機の墜落を想定しなかったことが不当である。」旨主張する。
しかしながら,証拠(乙28,29)及び弁論の全趣旨によれば,別紙「検証見取図第1」及び別紙「飛行パターンの抽出」記載のとおり,本件廃棄物埋設施設から10km程度離れた自衛隊天ヶ森射爆撃場における訓練の際に,自衛隊機は模擬弾を使用していること,米軍機についても約10km以上離れた天ヶ森射爆撃場における訓練においては実爆弾を使用していないことを認めることができるから,実爆弾搭載機の墜落を想定しなかったことについて,看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
なお,原告ら主張の実爆弾投下の実例については(甲D223参照),天ヶ森射爆撃場における訓練のためにではなく,米軍三沢基地から沖縄県における訓練のために移動する途中の事故であり,沖縄県とは反対の北側に位置する本件廃棄物埋設施設に上記の実爆弾搭載機が墜落する危険性は極めて小さいと認めることができるから(甲D224),上記の点は本件安全審査の墜落事故に関する想定に影響を与えるには足りない。
(オ) 原告らは,「ドラム缶3200本貯蔵可能な管理建屋において,航空機の墜落炎上により最大濃度の廃棄体54本分しか放出されなかったと仮定した場合であっても,その放射能は,管理建屋からの距離300mの地点においては急性障害発生レベルである259ミリシーベルトに,およそ10kmの地点においては一般人の年間の被ばく線量限度である1ミリシーベルトに,それぞれ達する。また,1号施設で埋設する最大濃度のドラム缶廃棄体1350本を管理建屋内に貯蔵中,航空機が墜落炎上し,その全量が放出された場合には,管理建屋からの距離が540mの地点においては半数致死線量(3シーベルト)に,約2.5kmの地点においては急性障害を引き起こす線量(250ミリシーベルト)に,約80kmの地点においては一般人の年間の被ばく線量限度1ミリシーベルトに,それぞれ達する。」旨主張し,その主張を裏付ける証拠として,原子力資料情報室・D氏作成の「六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設施設に航空機が墜落した場合の災害評価」と題する書面(甲A30)を提出する。
しかしながら,上記原告ら提出の書面(甲A30)が前提とする航空機事故の想定条件及び線量当量評価が合理的な根拠を有すると認めるに足りる証拠はない。他方で,本件安全審査においては,前記認定のとおり,航空機事故による被ばくについても複数の専門家による検討がされ,管理建屋に航空機が墜落した場合における一般公衆の線量当量は,敷地境界外の最大となる場所において,実効線量当量で約0.13ミリシーベルトと,一般公衆への被ばくによる影響が大きくなることはなく,上記評価条件にはなお余裕があると判断されている。そうすると,上記原告ら提出の書面(甲A30)をもって,本件安全審査における上記安全評価について,看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(4) 輸送中の事故について
原告らは,「本件廃棄物埋設施設が建設された場合,放射性廃棄物の輸送中の事故の危険性があるのに,本件事業許可処分はこの点の審査を欠落させている点においても,違法である。」旨主張する。
しかしながら,輸送中の事故に関する事項は,本件廃棄物埋設施設の基本設計の安全性にかかわる事項ではなく,本件安全審査の対象ではないから,この点に関する原告らの上記主張は理由がない。
4 本件安全審査の具体的審査基準の合理性の有無並びに本件調査審議及び判断過程の過誤,欠落の有無についての裁判所の判断
上記第3項の原告らの主張についての説示判断内容のほか,前記第1項における本件安全審査の具体的審査基準の内容,第2項の本件事業許可申請がその具体的審査基準に適合するとした本件調査審議及び判断の過程に照らすと,①原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の調査審議において用いられた本件具体的審査基準について不合理な点があるということはできないし,②本件廃棄物埋設施設が上記具体的審査基準に適合するとした本件調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできないから,本件事業許可処分が違法であるということはできない。
第6部結論
以上によれば,青森県上北郡六ヶ所村に居住していない原告ら(別紙当事者目録記載の番号75から90までの者を除く者)の訴えについては原告適格を欠くから,これらをいずれも却下することとし,青森県上北郡六ヶ所村に居住している原告ら(別紙当事者目録記載の番号75から90までの者)の本件事業許可処分の取消請求については理由がないからこれらをいずれも棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 齊木教朗)
裁判官伊澤文子及び同石井芳明は,転補のため署名押印をすることができない。裁判長裁判官 齊木教朗
別紙略語表
行訴法
行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)
原子炉等規制法
核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号。ただし,平成5年法律第89号による改正前のものをいう。)
原子炉等規制法施行令
核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令(昭和32年政令第324号。ただし,平成3年号外政令第42号による改正前のものをいう。)
原子力委員会等設置法
原子力委員会及び原子力安全委員会設置法(昭和30年法律第188号。ただし,平成11年号外法律第102号による改正前のものをいう。)
廃棄物埋設事業規則
核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の廃棄物埋設の事業に関する規則(昭和63年総理府令第1号。ただし,平成2年総理府令第41号による改正前のものをいう。)
埋設細目告示
核燃料物質等の埋設に関する措置等に係る技術的細目を定める告示(昭和63年1月13日科学技術庁告示第2号)
線量当量限度等を定める件
試験研究の用に供する原子炉等の設置,運転等に関する規則等の規定に基づく線量当量限度等を定める件(昭和63年7月26日科学技術庁告示第20号)
安全審査の基本的考え方
原子力安全委員会が昭和63年3月17日に定めた「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」
耐震設計審査指針
発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(昭和56年7月20日原子力安全委員会決定)
気象指針
発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針(昭和57年1月28日原子力安全委員会決定)
線量評価指針
発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針(昭和51年9月28日原子力委員会決定)
本件事業許可処分
被告が平成2年11月15日付けで日本原燃産業株式会社に対してした「六ヶ所低レベル放射性廃棄物貯蔵センター」廃棄物埋設事業許可処分
本件事業許可申請
日本原燃産業株式会社が昭和63年4月27日付けで被告に対してした「六ヶ所低レベル放射性廃棄物貯蔵センター」廃棄物埋設事業許可申請(ただし,平成元年10月27日付け,平成2年2月21日付け及び同年9月19日付けでその一部が各補正されている。)
本件廃棄物埋設施設
本件事業許可処分に係る低レベル放射性廃棄物埋設施設
本件廃棄物埋設事業
本件事業許可処分に係る低レベル放射性廃棄物の埋設事業
本件審査
被告,原子力委員会及び原子力安全委員会が本件事業許可申請を受けて,原子炉等規制法51条の3第1項各号の要件への適合性に関してした審査
本件調査審議
原子力安全委員会,安全審査会,第27部会が本件事業許可申請を受けて,原子炉等規制法51条の3第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号(災害防止)の要件への適合性に関してした調査審議
本件安全審査
被告及び原子力安全委員会が本件事業許可申請を受けて,原子炉等規制法51条の3第1項3号の要件への適合性に関してした審査
ICRP
国際放射線防護委員会
安全審査会
核燃料安全専門審査会
原燃産業
日本原燃産業株式会社(ただし,平成4年7月1日以降,会社合併により日本原燃株式会社となった。)
原燃サービス
日本原燃サービス(ただし,平成4年7月1日付けで,日本原燃株式会社に商号変更された。)
核燃料物質等
核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物
もんじゅ最高裁判決
最高裁判所平成元年(行ツ)第130号平成4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁
もんじゅ第2次最高裁判決
最高裁判所平成15年(行ヒ)第108号平成17年5月30日第一小法廷判決・裁判所時報1388号1頁
伊方最高裁判決
最高裁判所昭和60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁
別紙300年後の残存放射能毒性
核種
一般人の年間摂取限度の倍数
30年後
300年後
トリチウム
37万倍
炭素14
190万倍
180万倍
コバルト60
15億倍
ニッケル59
130万倍
130万倍
ニッケル63
6.3億倍
9600万倍
ストロンチウム90
12億倍
180万倍
ニオフ94
300万倍
300万倍
セシウム137
3億倍
60万倍
アルファ放射体(アメリシウム241)
530億倍
330億倍