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青森地方裁判所 平成5年(ワ)285号 判決 1995年12月21日

原告

沖崎八郎

被告

高瀬亮こと坂岡亮

主文

一  被告は、原告に対し、金三六六万八七二九円及びこれに対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

ただし、被告が金一五〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金四一二二万七五八四円及びこれに対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実(損害及びその填補の点を除く。)

1(交通事故の発生)

(一)  日時 平成元年四月一五日午後一時二〇分ころ

(二)  場所 青森市大字荒川字南荒川山二五三林班

(三)  加害車両 普通乗用自動車(被告運転)

(四)  被害車両 普通乗用自動車(内藤隆夫運転、原告及び楊玉嬌同乗)

(五)  事故態様 被告(田辺製薬青森出張所勤務)が、帰宅のために十和田湖方面から雲谷方面に向けて加害車両を運転中、雪の回廊のなか下り左カーブを進行するに際し、交通閑散に気を許し、徐行することなく時速約六〇キロメートルの速度のままカーブに進入した過失により、対向車である被害者車両を認めたが、曲がりきれず、対向車線に進入して被害車両に衝突したものである。

(この交通事故を以下「本件交通事故」という)

2(被告の責任)

被告は、加害車両の保有者であり、自賠法三条に基づき原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3(原告の受傷の内容及び治療の経過)

(一)  平成元年四月一五日

川島東策医師(以下「東策医師」という)

左肘関節複雑骨折との診断

(二)  同年四月一五日から五月二日

県立中央病院(以下「県病」という)

上腕外顆骨折との診断で即日手術(入院一八日)

(三)  同年五月二日から六月一五日

川島卯太郎医師(以下「卯太郎医院」という)

左上腕外顆骨折との診断(入院四五日)

(この間県病にも通院)

(四)  同年六月一六日から平成四年六月二三日

卯太郎医院

一一〇四日間通院(通院実日数五九五日)

(五)  平成元年一〇月三〇日から一一月二二日

県病

再手術のため(入院二四日)

4(症状固定日と自賠責での後遺症認定)

原告の症状固定日は、平成四年六月二三日であり、原告の後遺症について、自賠責では一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)と認定された。

二  主たる争点

1  原告の左肘の傷害と本件交通事故との因果関係(尺骨神経麻痺が本件交通事故に起因するものか否か、本件交通事故によるとして、素因及び医療ミスによる損害拡大をどう考えるか。)

〔被告〕

(一) 原告の左肘は発育過程(九歳か一〇歳のころ)において骨折したが、骨折部の繊維質組織によつて偽関節になつていた(当事者間に争いがない。この骨折歴を以下「本件骨折歴」という)。

本件交通事故によつて、右繊維質の部分が損傷を受けて骨片が動くようになつたもので、原告の左肘が複雑骨折したものではない。

(二) この原告の素因が本件事故により顕在化し、被害を拡大した。

(三) また、県病では、右の骨片を固定すると肘の運動域が三〇度位になるので、固定しないでキルシユナー鋼線でとめて繊維組織の修復を待つための手術をした。ところが、右手術の結果、尺骨神経を刺激する結果となり、再手術では、この刺激が加わらないように尺骨神経を移動させたものであるが、原告の左手に後遺障害を残すこととなつた。

原告の左肘は偽関節になつていたものであり、手術するのは適当ではなく、経過観察にとどめるべきであつた。また、キルシユナー鋼線の固定も拙劣であり、尺骨神経移行術も適当でなかつた(尺骨神経は反対の内側顆にあり、むしろ橈骨神経が近くを通つている。)。

右のとおり、医師による処置のまずさも加わつて被害を拡大した。

(四) したがつて、本件交通事故以前の症状が本件交通事故により悪化し、更に医師の判断ミスから原告の現在の結果があるのであるから、被告が賠償するとしても、原告の右の素因及び医療の判断ミスの影響を除いた割合に応じた賠償をすべきである。

そして、右の減額割合は少なくとも七割を下ることはないと思料する。

〔原告〕

(一) 損害賠償額の算定にあたり、加害行為前から存在した被害者である原告の本件骨折歴を斟酌するのは、加害者・被害者間の損害の公平な分担を目的とする損害賠償法理からして、相当ではない。

原告にとつて全く帰責事由の存しない医師の治療方法の落ち度が仮に存在したとしても、それがなければ早く治療期間が終了したはずであるとの形で結果的に原告に責任を負わせる議論は、交通事故の賠償法理として根本的に間違つている。

(二) 原告は、本件交通事故前は何らの不都合なく正常人として通常の生活をしていた者であり、本件骨折歴が本件交通事故の傷害の結果を重篤なものとしたとは必ずしも解されない。

仮に、本件骨折歴が本件事故による損害の発生、拡大に寄与したと認められても、そのこと自体が加害者である被告の加害行為によつて強いられた結果であつて、本件骨折歴に対し何ら法的責任を負うべき者でない被害者(原告)にその負担を負わすことは酷であり、その社会的活動を著しく妨げるものである。

(三) 本件においては、尺骨神経移行術という手術の選択及び手術自体に判断ミスなどはなく、適正なものであつた。すなわち、県病の医師は、原告の左肘の偽関節部分(外顆部)の不安定性が見られ、痛みを伴うことから、不安定性そのものに問題があると判断し、麻痺の出現を恐れ、あえて早期の手術に踏み切つたものであり、手術の選択及び手術自体に判断ミスはない。

原告の現在の左肘の麻痺は、遅発性尺骨神経麻痺であり、これが保存的治療で起こらなかつたという保証はない。

仮に、県病の執刀医に医療上のミスがあつたとしても、被告の交通事故という不法行為と右医療過誤とは共同不法行為であつて、結局、被告は、原告が被つた全損害の賠償責任を免れない。

(四) したがつて、本件においては、被告の割合的認定または素因考慮による減額の主張は、失当である。

2  原告の損害

(一) 休業損害

〔原告〕一五一〇万三三七三円

原告(昭和一九年七月一日生)は、本件事故当時、政治結社日本青年者青森県支部(以下「本件支部」という)の最高相談役であつた。

(以上、当事者間に争いがない。)

原告は、本件支部の事務所費用一切を自ら賄い、その最小限度の固定費として、一か月七〇万円(事務所の賃料、電気、水道、ガス、電話その他雑費等)を支出していた。原告は、税務申告は無申告であるが、平均して一か月七〇万円を超える収入があつたのである。

しかし、原告の休業損害は、賃金センサスの年齢別、産業計全労働者の年収額を基準とするのが穏当であり、平成元年四月一五日から平成四年六月二三日までの一一六六日間の原告の休業損害は、一五一〇万三三七三円である。

(計算式)4727900÷365×1166=15103373

〔被告〕争う。

原告は、本件支部の最高相談役であり、政治活動をしているのであるから、休業損害は存在しない。このような場合、平均賃金を使つて休業損害を算出するのは相当でない。

政治結社日本青年者とは、広域暴力団住吉連合会系の暴力団であり、原告はその幹部であつて、法で救済されるべき休業損害は存在しない。

(二) 逸失利益

〔原告〕一八二三万八七一一円

原告の後遺症は、少なくとも後遺障害等級一〇級一〇号(一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの)に該当するものである。

原告の逸失利益も、賃金センサスの年齢別、産業計全労働者の年収額を基準とするのが穏当であり、そうすると逸失利益は、一八二三万八七一一円である。

(計算式)5589500×12.0853×0.27=18238711

5589500 平成4年度の賃金センサス

12.0853 67歳から48歳を引いた19年のライプニツツ係数

0.27 後遺障害等級10級10号の労働能力喪失率

〔被告〕争う。

休業損害と同様である。政治活動に腕のしびれという後遺障害はほとんどマイナスとならないはずである。

(三) 慰謝料

〔原告〕合計七二二万円

(1) 入通院慰謝料(入院三か月、通院三六か月) 二六二万円

(2) 後遺症慰謝料 四六〇万円

〔被告〕争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  原告の素因並びに本件交通事故による受傷の内容及び治療の経過等について

1  当事者間に争いがない事実に、証拠(甲二、三の1、四の1、2、五の1ないし5、一五の1、2、一六、一七、乙一、二、五、六、九、一〇、証人五十嵐裕、同伊勢紀久、原告本人)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。すなわち、

(一) 原告は、昭和一九年七月一日生れの男子であるが、発育過程である一〇歳当時、左肘を骨折(上腕骨外顆骨折)して弘前大学病院で手術を受けたが、右骨折部分は、この本件骨折歴に起因して骨の回りの繊維質組織によつて偽関節(骨折した部分が癒合できずに、関節様になつた状態)となつており、本件交通事故当時、本件骨折歴による長い経過の中で外反肘(外反変形)を起こしていた。

(二) 原告は、本件交通事故前は、相撲、柔道、水泳、ゴルフとスポーツは何でもこなし、不都合なく通常の生活をしていた。

(三) 本件交通事故直後、原告は東策医師に救急車で運ばれ、同医師に「左肘関節複雑骨折」で手術適応との診断を受け、「腫脹、激痛あり、骨折音顕著である。屈伸不能にてレントゲンにて上腕骨肘部の骨折を認めた。」との所見で県病へ搬送された。

県病においても「左上腕骨外顆骨折」(但し、陳旧性外顆骨折で古い偽関節の可能性も考慮に入れられた。)であり、本件交通事故でその部分に傷害を受けたものであること、このまま放置すると外反肘が強くなり、遅発性尺骨神経麻痺を予防するためにも(後記(七)で述べる「外反動揺性」を防止するため)、外力によつてゆるんだ外顆と上腕骨との間を固定して骨片を連絡する繊維性結合組織の修復を得るための手術が必要と診断し、即日、岡田晶博医師(以下「岡田医師」という)は、局静麻酔で経皮的に二本のキルシユナー鋼線で骨片の固定する手術をした(この手術を以下「本件固定手術」という)。岡田医師は、手術中の原告との話合いで、前記の肘の不安定性を強く止めると肘関節の動きが著しく制限されるため、肘の可動域を重視した本件固定手術を実施した。

(四) 原告は、平成元年五月二日から六月一五日まで左上腕外顆骨折との診断で卯太郎医院に四五日間入院し、その後は同医院及び県病に通院して治療を受けていたが、本件交通事故から約四か月経過後である同年八月ころから、原告は、左肘から前腕にかけてのしびれを自覚し、その後に左前腕の筋萎縮などの所見が見られるようになり、県病において、遅発性尺骨神経麻痺と診断され、同年一一月二日、伊勢紀久医師(以下「伊勢医師」という)の執刀で神経剥離移行術が実施された。伊勢医師の診断では、本件固定手術は肘の可動域を重視して前記の不安定性を止めることがやや不十分であつたため、右の遅発性尺骨神経麻痺が起こつたものと推測している。

(五) その後も原告は、卯太郎医院に平成四年六月二三日まで通院して治療を受け(通院実日数五九五日)、右平成四年六月二三日、症状固定とされ、原告の後遺症について、自賠責では一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)と認定された。

(六) 右症状固定当時の原告の後遺障害の内容は以下のとおりである。すなわち、自覚症状としては、「左前腕しびれ感があり、左手握力の低下、左肘関節屈曲制限あり」であり、他覚症状及び検査結果等は、「左肘関節部から第四、五指にかけて一〇分の五の知覚鈍麻あり、左小指球筋、拇指内転筋に軽度の筋萎縮あり、握力右五三キログラム、左二三キログラム、尺骨神経伝導速度(運動)右五一メートル毎秒、左二八メートル毎秒、左尺骨神経に明らかな伝導遅延あり」である。

原告の平成六年七月当時の症状は、左握力がようやく三〇キログラムになるなど次第に機能が回復しているが、冬など寒くなるとしびれなどの症状が出る状態である。

(七) なお、偽関節に関する治療及び遅発性尺骨神経麻痺についての医学的知見については、以下のとおりである。

偽関節に関する治療については、(一)将来の神経障害の発症を未然に防止する目的で手術して骨癒合を計るという意見と(二)骨折部はそのまま放置し、将来遅発性尺骨神経麻痺が発生したら神経に対する処置を行えばいいとする意見の両論がある。また、偽関節に関連する遅発性尺骨神経麻痺については、「外顆偽関節に続発する神経麻痺の原因は種々考えられている。肘関節の外反動揺性と肘外偏角の増大により、尺骨神経が牽引されることが最も大きな因子であろう。成人例では尺骨神経前方移行術が多く行われるが、成長期で偽関節部の対向が比較的良好なら、偽関節部の癒合を得るべく腸骨移植を行うべきである。」といわれている。

以上のとおり認められる。

2  他方、本件全証拠によつても以下の事実を認めることはできない。すなわち、本件固定手術をしたのは不適切で経過観察に止めるべきであつたとか、本件固定手術の結果、尺骨神経を刺激する結果となつたとか、元々存在した原告左肘の偽関節による外反肘によつて、本件交通事故により左肘部に傷害を受けなくても早晩原告の遅発性尺骨神経麻痺が発生したものであるとか、遅発性尺骨神経麻痺は本件交通事故と全く無関係であるとか、以上の各事実を認定できるに足りる的確な証拠はない(右事実に副う証人五十嵐裕の証言及び乙一、九、一〇の各供述記載は、これに反する証人伊勢紀久の証言並びに弁論の全趣旨に照らすと、直ちに採用することはできない。)。

3  以上の認定事実及び説示したところから、原告に現れた遅発性尺骨神経麻痺が本件交通事故に起因するものか否か、本件交通事故によるとして、素因及び医療ミスによる損害拡大がなかつたか否かについて、以下判断する。

(一) まず、前記の認定事実によれば、本件固定手術及び尺骨神経移行術の選択及び手術自体に医師の判断過誤などはなく、後に診療記録等を精査して判断すると、結果的に妥当とはいえない部分が仮にあつたとしても、右の手術等の治療行為は、当時原告を直接担当した医師の裁量権の範囲内のことというべきである。

そして、前記のとおり、元々存在した原告左肘の偽関節による外反肘によつて、本件交通事故により左肘部に傷害を受けなくても早晩原告の遅発性尺骨神経麻痺が発生したものであるとか、遅発性尺骨神経麻痺は本件交通事故と全く無関係であるとかを認定できる的確な証拠はないから、結局、本件交通事故による原告の受傷と遅発性尺骨神経麻痺との間には相当因果関係があるといわざるを得ず、これを否定することは困難というべきである。

(二) 次に、被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となつて損害が発生した場合おいて、当該疾患の態様、程度などに照らして加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができるというべきである。

本件においては、本件交通事故による受傷と本件交通事故前から存在した原告の本件骨折歴による偽関節及び外反肘とが共に原因となつて原告の遅発性尺骨神経麻痺が発現したものであることは否定できない事実である。しかし、既に認定した原告の本件骨折歴による偽関節、外反肘の態様、程度などに照らすと、被告に原告の全損害を賠償させることが公平を失すると判断するのは困難であり、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用して、原告の右素因を斟酌することは相当とはいえない。

したがつて、原告の素因を考慮して損害賠償額が減額されるべきであるとの被告の主張は採用できない。

二  原告の損害について

1  治療費

治療費については、当事者間に実質的争いがない(原告は四九九万四二二四円と、被告は五〇二万八〇九四円と主張する。)。

2  入院雑費 八万七〇〇〇円(当事者間に争いがない。)

3  通院交通費 一七万八五〇〇円(当事者間に争いがない。)

4  休業損害 一二〇万三二二九円(請求額一五一〇万三三七三円)

当事者間に争いがない事実に証拠(原告本人)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、広域暴力団住吉連合会系の政治結社日本青年者の幹部であつて、昭和六三年一〇月ころに帰青して以来、隊員七、八名を擁する本件支部の最高相談役(最高責任者)として「政治活動」(企業コンサルタント、金融ブローカー、不動産等の商取引を含む。)をしていること、本件支部の主たる収入源は顧問料等の固定収入であり、月々相当額に達するが、原告個人の収入は安定せず、全く税務申告をしたことがないこと、卯太郎医院での治療時間は待ち時間等も入れると一日一時間程度であつたこと、以上の事実が認められる。

なお、原告は、本件支部の事務所費用一切を原告自ら賄い、その最小限度の固定費として一か月七〇万円(事務所の賃料、電気、水道、ガス、電話その他雑費等)を支出していたと主張し、その本人尋問においても、原告は、「一か月一五〇万円ないし二〇〇万円位の収入があつた。」旨の供述をするが、これを裏付けるに足りる的確な証拠はない。

以上と弁論の全趣旨を総合すれば、原告は本件交通事故による受傷による入院期間中及び通院期間中、その「政治活動」にある程度の支障が生じ、収入も若干減少したものと認められるが、原告の職業、年齢、後遺障害の部位、程度及び通院状況等に照らすと、休業期間については、原告が県病及び卯太郎医院に入院していた合計八七日分と卯太郎医院への通院実日数五九五日の約六分の一の日数である一〇〇日の合計一八七日分であると認定するのが相当である。

また、前記認定の事実並びに弁論の全趣旨を総合すれば、休業損害の算定について、原告の主張する賃金センサスの年齢別、産業計全労働者の年収額そのものを基準とするのは相当ではなく、平成四年度の賃金センサスの第一巻第一表の年齢別、産業計全労働者の年収額の二分の一の額を基準とするのが妥当である。

そうすると、結局、原告の休業損害は一二〇万三二二九円となる。

(計算式)4697100÷2÷365×187=1203229

5  逸失利益 〇円(請求額一八二三万八七一一円)

前記のとおり、自賠責において原告は本件交通事故により後遺症一二級と認定され、本訴において、原告は、少なくとも後遺障害等級一〇級一〇号(一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの)に該当すると主張する。

しかし、前記の認定事実に鑑みれば、原告の後遺障害は一二級に相当すると考えられ、原告の職業、年齢、後遺障害の部位、程度及び症状固定日以後の症状の推移等に照らせば、原告の収入の実質的減少が症状固定日以後も存在するとは考え難く、後遺症による逸失利益を認容することはできない。

6  慰謝料 四五〇万円(請求額合計七二二万円)

以上に認定説示したところと本件に顕れた一切の事情を総合すると、入通院慰謝料は二〇〇万円、後遺症慰謝料は二五〇万円の合計四五〇万円と認めるのが相当である。

三  損害の填補

被告が、原告に対し、任意保険会社を通じて治療費の外に二六〇万円を支払つたことは、当事者間に争いがない。

四  弁護士費用 三〇万円(請求額三〇〇万円)

既に認定説示したところによれば、本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用は、三〇万円と認めるのが相当である。

第五結論

以上の次第であるから、原告の請求は主文第一項掲記の範囲内で理由があり、その余は理由がない。

(裁判官 片野悟好)

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