青森地方裁判所 昭和24年(行)53号 判決
原告 北谷幸八
被告 青森県知事
補助参加人 奈良佐市 外一名
一、主 文
被告が昭和二十四年十月八日原告に対してなした換地予定地変更指定処分中原告所有の青森市大字米町八番の一、六、七、九番の二宅地に対する被告の同年五月二十三日附換地予定地指定処分を撤回した部分はこれを取消す。
訴訟費用中原告と被告との間に生じた分は被告の負担とし、原告と補助参加人等との間に生じた分は補助参加人等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十四年十月八日原告に対してなした換地予定地変更指定処分中原告所有の青森市大字米町八番の一、六、七、九番の二宅地に対する被告の同年五月二十三日附換地予定地指定処分を撤回した部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申立て、その請求の原因として、(一)青森市大字米町八番の一、六、七、九番の二宅地二百五十一坪九合六勺(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ト)(イ)点を順次直線を以て連結する範囲内の地域、以下この地域をA地域と略称する)は、原告の所有にして青森市特別都市計画事業施行区域に属するところ、被告は右計画事業として土地区画整理の必要上特別都市計画法第十三条により昭和二十四年五月二十三日右宅地に対し同所八番の一、六、七、九番の二宅地百四十五坪四合二勺(別紙図面(ハ)(ナ)(ソ)(タ)(ム)(ヌ)(ハ)点を順次直線を以て連結する範囲内の地域、以下この指定処分を第一回換地予定地指定処分と略称する)を換地予定地と指定し、同日その旨を原告及び補助参加人奈良佐市に通知した。この指定処分による換地予定地は原告所有の右宅地の一部百二十五坪四合二勺(別紙図面(ハ)(ト)(ム)(ヌ)(ハ)点を順次直線を以て連結する範囲内の地域、以下この地域をB地域と略称する)とその西方に接する補助参加人奈良佐市所有の同所八番の三、四、八、九宅地中の米町一丁目通りに面する間口二間奥行十間の短形二十坪の地域(別紙図面(ト)(ナ)(ソ)(タ)(ト)点を順次直線を以て連結した範囲内の地域、以下この地域をC地域と略称する)を合併したものである。しかるところ(二)被告は同法条により同年十月八日第一回換地予定地指定処分を撤回し、新にB地域とC地域中東方間口一尺五寸奥行十間の地域(別紙図面(ト)(ナ)(ワ)(ル)(ト)点を順次直線を以て連結する範囲内の地域、以下この地域をD地域と略称する)及びその南方に接しB地域の西方に当る補助参加人奈良佐市所有宅地間口一尺五寸奥行十間の地域(別紙図面(ハ)(ナ)(ワ)(ヨ)(ハ)点を順次直線を以て連結する範囲の地域)を換地予定地として指定する旨の換地予定地変更指定地変更指定処分をなし、同日その旨を原告及び補助参加人奈良佐市に通知した。(三)しかし乍ら被告が右の如く換地予定地変更指定処分をなすに至つたのは専らC地域の所有者補助参加人奈良佐市の苦情によるものであつて第一回換地予定地指定処分後の事情の転移に基ずき該処分を撤回すべき公益上の必要が発生したものではない。従つて本件換地予定地変更指定処分中第一次換地予定地指定処分を撤回した部分は違法である。よつてこれが取消の判決を求めると陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、本訴において取消の対象としている換地予定地指定の撤回処分につき訴願の裁決を経ていないことは認める。しかし原告は本件換地予定地変更指定処分により第一次換地予定地指定処分の結果取消したC地域を除いた残余の部分(別紙図面(ソ)(タ)(ル)(ワ)(ソ)点を順次直線を以て連結する範囲内の地域、以下この地域をE地域と略称する)に対する使用収益権を喪失し訴願の裁決を経ていては著しい損害を蒙る虞があると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は本案前の抗弁として訴却下の判決を求め、その理由として、行政事件訴訟特例法第二条によれば行政処分に対し訴願をなし得る場合には訴の提起に先立ち訴願をなすべきが原則である。しかるに特別都市計画法第二十六条都市計画法第二十五条によれば、本訴において取消の対象とされている被告の換地予定地指定の撤回処分に対し訴願をなし得るのであるから、訴願の裁決を経ないで提起した本訴は不適法として却下せらるべきである。なお原告主張の正当事由に対し、本件換地予定地指定の撤回処分の結果原告主張の地域(E地域)について原告が特別都市計画法による使用収益権を喪失したことはこれを認めるが、単に使用収益ができないことを行政事件訴訟特例法第二条但書にいう著しい損害なりとなすならば、同条にいわゆる訴願前置主義の原則は有名無実のものとなる。しかも該地は僅に間口二間奥行十間の土地に過ぎない。原告とても差当つて本件土地を使用し、該地上に建物を築造しなければならない事情もなく、又その計画もない。被告がこの地域を新に他に換地予定地として指定し、その指定を受けた者が建物を築造し、しかる後該建物を除去することになつたとしても、除去不能の建物が造られるなどとは考えられないし、除去に必要な費用を原告が負担するわけのものでもない。原告が訴願の裁決を経ることによつて著しい損害を蒙る虞があるなどとは到底考えられないと述べ、本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め答弁として、原告主張事実中(一)(二)の事実はこれを認めるが、その余の事実はすべてこれを否認する。第一次換地予定地指定処分は隣地(C地域)の所有者補助参加人奈良佐市の同意を得ていないため、被告の換地設計の方針に反していたこと、その処分の結果によると原告従前の所有地(A地域)に比して原告が指定を受けた土地(BC地域)は百六坪五合四勺減少し、その減歩率は四割を越えてはいるが原告の青森市特別都市計画事業施行区域内における他の所有地(別紙目録記載の土地)に対する換地予定地をみると、同事業施行区域内の換地予定地の平均減歩率二割三分を下廻つていたこと等を是正する必要上、本件換地予定地変更指定処分をなしたものであつて、第一次換地予定地指定処分を撤回したことに何等違法の点は有しないと陳述した。(立証省略)
三、理 由
先ず被告の本案前の抗弁について考えるに、特別都市計画法に規定する事項につき行政庁のなした処分を違法とし、取消を求める場合は訴願を経ないで直接裁判所へ出訴できるものとみるのが相当であるから、被告青森県知事の特別都市計画法第十三条による換地予定地指定の撤回処分の取消を求める本訴はこれが提起前訴願の裁決を経る必要がない。従つて被告の右抗弁はその理由がない。よつて進んで本案につき按ずるに、原告主張の前叙(一)(二)の事実は当事者間に争がない。凡そ換地予定地の指定を受けた者は換地処分の効力が生ずるまでその換地を使用収益することができるものであるから、換地予定地指定処分の撤回は処分庁において勝手に為し得るものではなく、その処分後に生じた事情の変遷により該処分を存続せしめ難い公益上の必要が有する場合に限り、これを許されるものといわなければならない。然るに被告は第一次換地予定地の指定が被告の換地設計の方針に反し、且つ青森市特別都市計画事業施行区域内における他の原告所有地(別紙目録記載の土地)に対する換地予定地の減歩率が同区域内の平均減歩率二割三分より少なかつたため、これが是正の必要上第一次換地予定地指定処分を撤回するに至つたというが、被告主張の右前段の事情は該処分後に生じた事情でないことはその主張自体に徴し明かであり成立につき争ない乙第一乃至八号証によれば、右土地に対する換地予定地指定処分はいずれも本件第一次換地予定地指定処分前になされていることが明であるから、右後段の事情も又その処分後に発生した事情ではない。(原告の他の所有地に対する換地予定地指定処分の結果生じた減歩率の不均衡をこれと関係のない本件第一次換地予定地指定処分の変更により是正することは遽に理解し難いところであり、右乙号証によれば右の不均衡と称する減歩率は二割四分を越えるもので、被告主張の平均減歩率二割三分を既に超過していることが明であり、いずれの点に是正の必要があるのかわからない)。よつて被告の主張はいずれも爾余の判断をなすまでもなく、第一次換地予定地指定処分の撤回を理由あらしめるものとはなし難い。却つて成立につき争ない甲第五号証の二証人村本磯吉の証言を綜合すると、被告が第一次換地予定地指定処分を撤回するに至つた理由はC地域の従前の所有者参加人奈良佐市の不服を認容し同地を同人のため換地予定地として指定するにあつたことが窺い知られる。果して然らば本件換地予定地変更指定処分中第一次換地予定地指定処分を撤回した部分は爾後に生じた事情の転移による公益上の必要に基ずきなされたものではなく、被告の恣意平擅による違法反処分であり取消さるべきものであるといわざるを得ない。
よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十四条第九十三条第九十五条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 工藤健作 小友末知 野原文吉)