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青森地方裁判所 昭和27年(行モ)3号 決定

被申立人が昭和二十七年三月十五日申立人に対してなした青森県議会議員除名処分の効力の発生を当裁判所昭和二十七年(行)第一〇号県議会議員除名処分取消請求事件の判決が確定するまで停止する。

二、理  由

申立人は主文と同趣旨の決定を求める旨申立てその理由とするところは申立人は昭和二十六年四月三十日施行の青森県議会議員選挙に上北郡より立候補し二十六名の立候補者中第二位を以て当選し、此旨同年五月一日青森県選挙管理委員会により告示せられ同日より引続き青森県議会議員たるの地位にあつたものである。

申立人は爾来常に厳正なる立場を持し是を是とし否を否とするの態度を堅持し来つたため県政の鋭い批判者として一部内心恥づるものある人士より畏怖せられ来つた傾があつた。

昭和二十七年三月五日、二十九回定例県議会が招集せられたが同月十三日申立人は緊急質問に立ち、人員整理竝地方事務所の廃止に対し批判の矢を向け、その計画甚しく杜撰にして妥当を欠き、又数字的にも右整理により予算上所期の効果を挙ぐる所以に非らざることを四十五分間に亘り力説し、且県当局に今日の財政上苦境に至つた原因を顧み別個の方途による施策をとるべきことを促し、此れに対しては哀心より協力を惜しむものに非らざることを訴えたのである。

然るに時偶々自由党席と覚しき議席より頻りに彌次が飛び申立人の真摯なる態度を嘲笑するが如き言動があつたので、申立人はこれに激発せられ彌次者に対し「私は自由党の諸君に申上げて居るのではなくて、知事さんに申上げて居る。私は諸君のように利権が慾しくて県会議員になつて来ているのではない。土建業者でもなければ馬喰でもない。私はもう少し真面目に県政というものを考えて行きたい為に心魂を砕いて申上げて居る次第であります。」と応酬したのである。

申立人は自己の右彌次に激発せられたる発言に語辞の妥当ならざるものありしことを感じ、議長に申入れその許しを得て、同日謹慎の意を表し左の如き取消の発言をし、前回発言の取消訂正を行つたのである。

「先程私の発言中私は諸君のように利権漁りでもないし、或は土方馬喰でないと申上げました。この内「諸君のように」と申上げたことは誠に不適当であつたとこういうふうに心から考えますので、この際取消を致し、謹んで皆さんの御諒解を得たいと思います。」

然るに申立人の失脚を窺う一部議員は好機逸すべからずとし、右申立人の取消に拘らず失言問題を取上げ自党の多数を恃んで申立人の懲罰動議を提出した。

その趣旨弁明によれば「先刻米内山議員より発言された緊急質問中不適当と認めて自ら一部辞句の取消を表明いたしましたが、その態度甚だ不謹慎且つ誠意の程も認められず、殊に重ねて「土建業者」を「土方」と称するが如き言辞を許したのはかえつて侮辱の度を増したるものと考え、茲に地方自治法第百三十二条及び第百三十三条により同議員を懲罰に付するの動議を提出したのであります。懲罰委員の数は十名とし、これの人選は議長一任とする。なお表決は無記名投票とする。何卒満場の御賛成あらんことをお願いします。」というにあり、結局申立人の取消の言辞に理由なき言い掛りをつけ、申立人の失脚を策せんとするにあることを露呈しているのである。

其後採決の結果懲罰委員会が設置せられ委員会に於て審議せられたが、その審議の内容も多々各自の感情の赴くまゝに終始し、真に事犯の性質と事の軽重を判断することなく、一委員の如き申立人が久六島問題につき反対の意見を表明せることを取上げ、又他の委員は「最初の空気に本人(申立人)の態度が加算した」とて除名を主張する如き全く同委員会が懲罰事犯の対象の何たるかをも弁へざることを示すものである。斯く背理の限りをつくした右委員会は同月十五日多数を以て除名を相当とするとの決定を見たとし、本会議にその報告をした(但同委員会の決定の存在せざること後述の通り)。

同日本会議に於てはこの報告を議題として表決に附されたが、その議決に当り、議長は裁決の方法を無記名投票と定め且つ「投票用紙には除名を可とする議員は賛成、否とする議員は反対と御記載願います。尚投票中に白票ある場合は白票を反対の意思表示と見做します御諒承願います」と宣言し投票が行われた。

而して開票の結果、出席議員四十四名中「賛成」と記入せる投票三十三票、「反対」と記入せる投票九票、白票一票、「可」と記入せる投票二票の存在することが確認せられた。開票立会人桜田一義、杉山勝雄は右「可」と記入せる投票は議長の宣言と反し「賛成」の数に数うることを得ずと異議を述べたが議長はこれを無視し、会議に諮ることもなく「賛成」三十四票と発表し除名が可決々定せりと宣告したのである。

地方自治法第百三十五条二項によれば除名のためには議員の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意がなければならぬこと明らかである。而して当日の出席議員は前敍の通り四十四名であるから除名のためにはその四分の三、三十三名以上の同意がなければならない筈である。

然るに前敍の通り「賛成」と記入せるもの三十二票にすぎない議長は除名を可とするものは「賛成」と記載すべき旨を明らかに宣言し記載方法を確定せるに拘わらず故意にその宣言と違い「可」と記載せる投票をも賛成の数中に加えるが如きは到底許されない処と信ぜられる。

何んとなれば投票者は田夫野人と異り苟も一県の県会議員であり、且除名の如き最重大にして最厳格を要する投票に於て議長の定めし投票方法と異る記載をなしたのは畢竟「賛成」と記載し除名を成立せしむることを希望せざりし結果と解すべきであるからである。尚且投票者の意思の問題は姑く措くも、除名の如き重大厳密を要する投票に於て議長の定めし投票方法と異る記載は総べて無効と解すべきものと信ぜられ、いづれにするも「賛成」は三十二票にすぎずして四分の三の数に満たず従つて除名は発効するに由なきものである。然るにこの事実を曲げて宣告せられし除名処分は無効にして取消を免れないものと信ぜられるのである。

青森県議会会議規則第百十三条は「すべて会議規則の疑義は議長が議会に諮つて決めなければならない」と規定している。その趣旨とする処は会議規則第一条に「議会の運営は地方自治法その他に規定されているものゝ外はこの規則による」とせられ居る議会の運営万般に関する疑義を指すものとせられ、しかく運営せられ来つたのである。而して今回の除名投票に当つては前敍の通り開票立会人桜田、杉山両氏が「可」の票の取扱に関し疑義を述べたのであるから、議長は当然議会に諮つて決定すべきものであるに拘わらず、独断以て賛成の票中に加えたものであり、此点前項の誤と共に二重の誤を犯したものと言うべく、斯かる違法なる手続の下になされたる除名の宣告は此点よりも取消を免れないものと信ぜられる。

昭和二十七年三月十五日の会議は懲罰特別委員会の決定を議題として申立人の除名の可否を裁決に問うたものである。然るにその議題たるべき特別委員会の決定なるものは議事法上未だ存在せざるものである。何んとなれば、十五日の特別委員会に於ては一、申立人を除名すべしとするもの二、申立人を出席停止処分に附すべしとするもの三、懲罰を科すべからずとするもの等各種の案が提出せられ居りしこと会議録上明らかであり、委員長が委員会の意思を決定せんとせば各動議を分別しその裁決の順序を定め、順次可否を問い裁決すべきに拘わらず、同委員会はこの議事法上の大原則に悖り三個の議案を混淆し表決に附したものであり、この表決によつては委員会の意思を決定するに由なきものである。従つて未だ特別委員会の決定なるものは存在せず、延いてこの特別委員会の決定なるものを議題に供せる本会議の裁決亦当然無効たるを免れない。衆議院規則第二百三十八条に議長の制止又は取消の命に従わない者は議長は国会法百十六条によつてこれを処する外、尚懲罰事犯として懲罰委員会に付することが出来ると規定している。これによつて見れば事犯軽微の場合は議長の制止又は取消の命に直ちに従つた者に対しては、敢て懲罰を課せざる趣旨なることが覗はれるのであるが、この理は地方自治法の下に於ても同様である。

殊に本件の如く敢えて議長の制止は取消の命を俟つ迄もなく申立人は自発的に取消をなし「謹んで皆さんの了解を求めます」としているのであるから、本件事実は懲罰事犯に何等該当せざるものと言うべきである。

更に申立人は発言の字句を正式に訂正せるものであるから申立人の発言が果して懲罰に該当するや、否やは訂正と相俟ち一体として発言の意味を判定し評価せらるべきであり、然る場合何等懲罰事犯に該当するものに非ざること之亦多言を要せずして明らかである。更に又当初発言のみとつて見ても、申立人の発言は申立人の熱意を揶揄する彌次に挑発せられたる言辞であり、彌次者が懲罰せられることは兎も角くこれに応酬せる申立人のみが懲罰に附せられる謂なきものと信ぜられる次第である。

さればこそ懲罰動議提出者はその趣旨弁明よりして明らかな如く申立人の当初発言を問題とするに非らずして、次の取消発言を懲罰の対象とせるものであるが、その懲罰動議の理由なきこと之亦当然多言を要せずして明らかなところである。

以上いづれの点よりするも申立人の言辞は懲罰事犯に該当せざるものなきに拘らず、その認定を誤り決定せられたる被申立人の処分はこの点よりしても違法であるから取消さるべきである。

仮に百歩をゆづり申立人の言辞が何等かの意味に於て懲罰事犯に該当するとしても被申立人の除名処分は尚違法にして取消を免れない。

抑々除名は議員たるの地位を終局的に剥脱するものであり、最重最苛の懲罰であること論をまたない。而して除名は単に当該当事者に重大影響を及ぼすばかりでなく、又当該議員を選挙せる選挙民が当該議員を通じ自己の意志を表明する機会をも併せ剥奪するものであり、その適用は最も慎重を要するところである。この理は地方自治法第八十条に当該選挙民が議員の解職の請求をなすにすら、有権者総数の三分の一以上の署名を要すとしていることも明らかである。従つて除名処分を適用するには当該議員並に選挙民に対し蒙らしめる損失と対比しつゝ、尚且当該議員を除名せざれば議会の秩序を保持し難いほど重大なる事犯の生ぜし場合にして、始めて除名を可能とすること憲法第九十三条に保障せられる住民の議員選出の権利並に憲法第九十二条に基き、地方自治の本旨に基き制定された地方自治法の趣旨よりして当然のことゝいうべきである(此の理は衆院規則第二百四十五条に「議院の秩序をみだし又は議院の品位を傷つけその情状が特に重い者に対しては、議院はこれを除名することができる」と規定せられ、参議院規則には第二百四十五条に「議院を騒がし又は議院の体面を汚し、その情状が特に重い者に対しては登院を停止し又は除名することができる」と規定せられ居り、他の都道府県に於ても前から規定をなし居ることよりも知られる。一例を挙げれば北海道議会々議規則は、第七十二条に「議会の騒掻を醸し又は議会の体面を汚す行為でその情重き者は出席を停止し、又は除名の手続をなすことができる」と規定し、徳島県会々議規則は第百五十五条に「議会を乱し又は議会の体面を汚しその情状が特に甚しいものに対しては出席を停止し、又は除名することができる」と規定し居る如き、いづれも前敍の法理を明らかにせるものである)。

然るに今回のことは四十五分間に亘る真摯なる演説中前述の如く、彌次に激発せられし申立人の片言隻語をとらえ、剰え議長の許可を得て取消訂正を了せる後に、これを懲罰に附し、而も厳重の罰たる除名を課したものであり、その処分は事の軽重の判定を誤り甚しく苛酷に失し違法として取消を免れないものと信ぜられる。

以上要するに被申立人の除名処分なるものは非違と背理の推積以外の何ものでもなく、畢竟常日頃申立人の公正にして鋭利なる批判に理を以て対抗するを得ざる人士が多数を恃み、申立人の真意を曲げ、その片言隻語を捉え、申立人の発言を封ぜんとの強引なる企図に出でしこと明らかであり、議会の民主的運営に一大汚点を印せるものである。

尚本件発生の背景について今少しく補足すると、昭和二十七年三月十五日除名処分直後に発表せられた自由党議員団の声明中「米内山君はことある毎に独り我意を張り、同調を拒み、議事運行を阻むこと甚しく小数党の意見を尊重する意思に便乗して傍若無人の態度をとる如きは、平素吾等のひんしゆく措かないところであつた」とある言に徴し平素の宿怨を晴さんとするにあること自ら明らかなるものがある。更にこれを裏づけるものとして自由党議員にして申立人に対する懲罰動議提出者の一人たる鈴木農の同月十四日の本会議に於ける、緊急質問と称する発言内容を見ると申立人が久六島問題について、抜打的地籍編入措置は隣県との好みを害し手続上遺憾ありとして唯一人反対したことを捉え撤底的に申立人個人の攻撃に終始したのであり、又自由党議員にして懲罰動議提出者の一人たる田中助蔵は懲罰特別委員会に於て申立人は久六島問題のとき一人反対したと難じ居り、平素申立人の漲然たる言論に反溌を感じ快からざりし情を露呈し本件除名の隠れたる原因を示すものである。

更に一歩立入りこれを考察すると昭和二十七年三月十七日附東奥日報紙は今回の懲罰問題は自由党議員にして土建業者たる高樋氏の外「田中(助)氏や鈴木氏、中立では山谷氏など土建業者を中心として米内山氏に利害関係深い人達が急先鋒であつた。例えば田中(助)氏は海光文事件で鈴木(農)氏は米内山氏が県公安委員当時メチール闇事件で高樋氏は県立黒石高校入札請負事業や公共事業で攻撃を受けるなど、それぞれ米内山氏の槍玉にあげられた人々でどう見ても感情的なところがあつた」と評して居るが真相の一端を挾摘せる観察と言うべきである。要するに今回事犯は一の単なる口実に過ぎず、多数派議員の反対派有力議員を葬り去らんとの根深い意図がその抵流をなすこと明らかである。

兎も角訴状に詳述の如く申立人の四十五分に亘る真摯なる演説中彌次に激発せられたる片言隻語を捉え、而も取消訂正後に懲罰に付し、剰え最重の罰たる除名を科しその発言を封ずるが如きは、正に常軌を犯したる暴挙と言うべく、為に野党の中核として活躍し来つた申立人の言論は完全に封ぜられ、申立人は致命的打撃を蒙ることは勿論議会運営にも重大影響を及ぼすことは明らかである。殊に目下昭和二十七年度予算案の審議中であり、更に四月に年初議会を控え、行政整理案地方事務所廃止案其他重要議案山積の時に当り野党第三控室議員団の財政、予算関係の主査議員たる地位にある申立人の議会活動の完全なる停止は真に償うべからざる損害を招来すること明らかである。

更に又今回の除名は上北郡下の選挙民にも重大影響を及ぼし、同郡下選挙民の意思が不当に枉屈せしめられたるものとして同郡下選挙民三千名の署名を以て除名反対の請願を県議会に提出中であるこの選挙民の正しき意思の伸達はこれ亦一日も忽がせにすべからざる緊急事である。旁々以て本停止命令を求める次第である」というにある。

よつて当裁判所は記録に徴し本件申立を理由があるものと認めて主文のとおり決定する。

(裁判官 新妻太郎 小友末知 野原文吉)

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