青森地方裁判所 昭和27年(行)14号 判決 1958年5月01日
原告 阿保武彦
被告 青森県知事
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「青森県農業委員会が別紙目録記載の農地につき昭和二七年四月一二日付訴願第四五七号を以てなした訴願裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として
一、別紙目録記載の土地(以下本件土地という)は何れも原告の所有であるが、訴外横内村農地委員会はこれに対し昭和二四年二月二一日自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)第三条第一項第二号の規定に基いて農地買収計画(第一一次)を樹立した。そこで原告はこれに対し同年三月二八日異議の申立をなしたところ、同年四月一三日却下の決定がなされ該決定書は同年五月二〇日原告に送達せられた。よつて原告は更に同月三〇日青森県農地委員会に訴願した。
二、ところがその後昭和二四年六月一八日前記横内村農地委員会は右一一次買収計画を取消すと同時に本件土地につき自創法第三条第一項第二号に基き再度の買収計画を樹立したので原告はこれに対し同年七月六日異議の申立をなしたところ、同年八月三日異議却下の決定が送達せられた。よつて原告は同月一〇日青森県農地委員会に訴願を提起したが昭和二七年四月一二日右訴願の提起が法定の期間経過後であるとの理由で訴願却下の裁決がなされ、同月一五日該裁決書が送達せられた。
三、しかしながら右訴願却下の裁決は次の理由によつて違法である。
(一) 右訴願は原告が村農地委員会の異議決定の告知を受けた昭和二四年八月三日から十日以内である同月一〇日これを提起したものであるから期間の遵守において欠けるところがない。
然らずとするも、そもそも右第一二次買収計画はその実第一一次買収計画における対象地の表示の誤謬を訂正したものに過ぎず両者相俟つて一の行政処分がなされたものと目すべきであるから、すでにして原告が第一一次計画に対し異議訴願を申立てている以上その不服申立の効力は右のような関係にある第一二次計画にも及ぶものと解すべきであるに拘らず後者に対する原告の訴願だけを捉えて不服申立期間を経過したとなす本件裁決はその判断を誤つたというべきである。
(二) 仮に右両次に亘る買収計画が各々別個の処分であるとすれば前記第一二次買収計画は前述のとおり第一一次計画に対する原告の訴願が訴願裁決庁に係属中に行われたものであるが、かように事件が既に原処分庁の手を離れ訴願裁決庁に係属した後においては原処分庁は裁決庁の裁決を俟たずしてみだりに原処分と異る処分をすることは許されない。
(三) 右第一二次買収計画は樹立後公告及び書類縦覧の手続が経由せられなかつた。
(四) 本件土地はその大部分が在村地主たる原告の法定保有限度内の小作地である。
(五) 別紙目録一、二の土地については買収計画上如何なる部分が買収の対象となるのか不明確である。
(六) 本件土地は大星神社の境内に接続し古来その神饌畑であつたもので、原告は同神社の神職にあり近い将来本件土地を同神社の境内として使用する意図を有し且つそうすることがその沿革位置に照らし相当である。それにも拘らずこれに対し買収計画を樹立することは違法である。
従つて、右(二)ないし(六)記載の如き瑕疵のある買収計画を看過した本件裁決は違法である。
よつて茲に右訴願裁決の取消を求める。と述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中本件土地が何れも原告の所有であること、
訴外横内村農地委員会が昭和二四年六月一八日本件土地に対し自創法第三条第一項第二号の規定に基き第一二次買収計画を樹立したこと、原告がこれに対し異議を申立てその却下決定に対し青森県農地委員会に訴願を申立てたが訴願提起期間経過の理由により却下の裁決がなされたことは争わない。
原告主張三、の事実は否認する。
(一) 右第一二次買収計画に関する異議訴願の経過は次のとおりである。
昭和二四年六月一九日ないし同月二八日 買収計画の公告縦覧
同年七月六日 異議申立
同月二四日 却下決定(異議申立期間の経過を理由とす)
同月二五日 決定書の交付
同年八月二一日 訴願の提起
昭和二七年四月一二日 訴願却下の裁決
同月一五日 裁決書の交付
右のとおりであるから青森県農業委員会が原告の訴願をもつて法定期間経過後の不適法な申立であるとして却下の裁決をしたのは極めて至当な処分である。
(二) 原告主張の如く横内村農地委員会は前記買収計画に先立ち第一一次買収計画を定めた事実はあつたけれども両者相俟つて一個の行政処分であるとはいえない。
と述べた。(立証省略)
理由
一、訴外横内村農地委員会が昭和二四年六月一八日本件土地につき自創法第三条第一項第二号の規定に基く買収計画(第一二次)を樹立し、これに対して原告が同年七月六日異議の申立をなしたが同委員会はこれを法定の異議申立期間経過を理由として却下したこと並びに原告は更に青森県農地委員会に訴願を提起したが法定の訴願提起期間経過を理由として却下せられたことは当事者間に争いがない。
二、原告は右訴願が法定の期間内に提起せられたものであると主張し被告はこれを争うのでこの点について判断する。
(一) そこで先ず本件における訴願期間につき検討するに、成立に争いのない甲第六号証によると前記第一二次買収計画の縦覧期間の末日は昭和二四年六月二八日であることが認められるから自創法第七条第三項により横内村農地委員会は同年七月八日までに異議に対し決定すべきであつたわけであるが、成立に争いのない乙第二号証によると同農地委員会は同月二五日付通知書を以て原告に対し異議却下決定の告知をしたことが認められる。しかして証人花田重次郎(第三回)は右通知書の送達は即日横内村役場使丁に依嘱してなした旨証言するけれども未だこれを以て右送達が右の日に行われたことの確証とするには足りないし他にはその送達の日時を確認するに足りる証拠はない、しかしながら原告は昭和二四年八月三日に右決定の告知を受けた旨自認するところであるから少なくも同日には右送達があつたものとみるべきである。そうしてみると、自創法第七条第四項の規定に準じ原告は昭和二四年八月一三日までに限り青森県農地委員会に訴願の申立をなすことができるものと解するのが相当である。
(二) ところで原告本人(第二回)は本件の訴願書を昭和二四年八月一〇日頃前記横内村農地委員会に提出した旨供述し、又乙第三号証中成立に争のない原告作成名義の部分の記載に徴すると右訴願書は昭和二四年八月一〇日付を以て作成せられている事実が認められるが、後記各証拠に対比しこれのみを以ては未だ右訴願が原告主張の日時に提起せられたことの充分な証拠となし難い。又成立に争いのない甲第一二号証の七によると、一見、昭和二四年八月一一日に招集された横内村農地委員会の会議において「訴願に関する件」なる議案が上程されたかのような観があるけれども、右書証を成立に争いのない乙第六号証とつきあわせてみれば、右は「訴訟に関する件」の誤記であつて、しかも右「訴訟」は本件の原告以外の者に係るものであることが明白であるから、右甲号証の記載から間接に原告主張の日に訴願の提起があつたことの証左とすることはできない。他には原告が前記認定の訴願期間内に訴願の提起をしたことを認めるに足りる証拠がなく、却つて成立に争いのない乙第五号証の一、二、その方式及び趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証中日付印の部分(原告の全立証によつてもこれら乙号各証の内容は殊更に事実をまげて記載されたものであるとは認め難い。)とを合せ考えると、原告の訴願書は前記訴願期間を経過した昭和二四年八月二一日横内村農地委員会に提出受理せられていることを認めることができる。
(三) 原告は前記買収計画に先立ち樹立せられた第一一次買収計画に対して既に訴願を提起しており、第一二次買収計画は実質上第一一次買収計画と同一処分であるから右訴願は後者に於ても効力がある旨主張する。なるほど右第一二次買収計画は第一一次買収計画に対する訴願係属中に樹立されたことは本件口頭弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、又成立に争いのない甲第一〇、一一号証の各一ないし三(但し一一号証の一、二中「第一三次買収計画」とあるは第一二次買収計画の誤記と認められる)により右両次の買収計画は略同一農地をその目的としていることも否めない。しかし、成立に争のない甲第六号証、同第一〇号証の三に証人花田重次郎(第三回)の証言を綜合すれば、第一一次買収計画はその目的土地の表示が特定充分でなく面積の誤記などもあつたので横内村農地委員会はこれを取消しその欠陥を是正し、改めて右第一二次計画を樹立し、所定の公告縦覧の手続を経由したものであることが認められ、かかる取消が許されないとする根拠に乏しく、又右両次の買収計画が合せて一個の行政処分とみることもできない。況んや、甲第六号証によれば右村農地委員会は昭和二四年六月一九日付原告宛の書面を以て第一一次買収計画を取消したこと及び第一二次買収計画の樹立並びにその縦覧期間を通知し以て原告がこれに不服申立をなすに充分な機会を与えたことが認められ、そうであるからこそ原告は異議申立に及んだものと弁論の全趣旨により認められる。
三、原告は前記請求原因三の(二)ないし(六)において、前記第一二次買収計画の違法を主張しているが、その違法事由は右買収計画の無効を訴求する場合は格別、本件訴願裁決の適否の判断につき顧慮せらるべき筋合でない。
四、然らば結局、原告の右訴願を法定期間経過を理由に却下した青森県農業委員会の本件訴願裁決は正当であるというべきである。
よつて原告の本訴請求は理由がないから棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 飯沢源助 宮本聖司 右川亮平)
(別紙目録省略)