青森地方裁判所 昭和27年(行)17号 判決
原告 鈴木百太郎
被告 青森県農業委員会
一、主 文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告が昭和二十七年四月二十二日なした別紙目録記載の農地(以下本件農地と略称する)に対する原告の自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第六条の三第一項による指示の申請を棄却する旨の裁決はこれを取消す、被告は高杉村農業委員会に対し右農地について自創法第六条の二第一項の買収計画(以下遡及買収計画と略称する)を定めるべき旨の指示をしなければならない。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求の原因として、訴外川村いよは昭和二十年十一月二十三日当時及び同日以降引続いて本件農地の所在地高杉村に居住し該農地を所有し原告は同日以降引続いてこれを賃借耕作しているものであるが、川村いよの同日現在において所有する自作農地は三町七反八畝十八歩小作農地(高杉村所在)は八反四畝二十七歩(原告が耕作する本件農地を含む)であつた、(本件三の農地は訴外川村堅司の所有であるが同人は耕作の業務を営む川村いよの同居の親族であるからこれは自創法上川村いよの所有とみなされる)ところが同村における自創法第三条第一項第三号による保有農地の限度は三町八反であるから同人の右自小作農地中自作地及び小作地中一畝十二歩を除くその余の小作地八反三畝十五歩は保有限度を超過し当時同号による買収の対象となつていた。そして本件農地はその合計が五反に及ぶものであるから少くとも右八反三畝十五歩の一部に該当し当時当然買収せらるべきものであつた。しかるに同人がその所有農地中原告が耕作する農地以外の農地を昭和二十年十二月二十八日同人の同居親族で同日分家した川村勝司に対し分与し、そのため同人が現在所有する自小作農地は同号による保有限度内にありその小作地(本件農地を含む)は同号による買収ができないことになつている、よつて原告は高杉村農業委員会に対し自創法第六条による遡及買収計画を樹立すべきことを請求した、それにも拘らず同委員会は徒に日時を遷延して何等為すところがない、そこで原告は昭和二十六年十一月五日被告に対し同法第六条の三による遡及買収指示の申請をしたところ被告は昭和二十七年四月二十二日川村勝司が分家をなし川村いよの所有農地の分与を受けたのは昭和二十年十一月二十三日前であるから本件農地は遡及買収の対象たり得ないとの理由の下に右申請を棄却する旨の決定をなし昭和二十七年四月二十五日原告に対しその決定書を送達した、しかし乍ら川村勝司が分家をなし川村いよからその農地の分与を受けた時期は前述のとおり昭和二十年十二月二十八日であり右決定はこの事実を誤認しこれに基ずいて本件農地は遡及買収の対象とならないものであるとなし原告の申請を排斥するに至つたものでもとより違法不当であつて取消さるべきものであるからこれが取消の判決を求め、なお本件農地が遡及買収の対象たり得ること及びその小作農たる原告が高杉村農業委員会に対し遡及買収計画樹立の申請をなしたことは叙上の通りであるから被告は原告の遡及買収指示申請により高杉村農業委員会に対し本件農地について遡及買収計画を定めなければならない旨の指示をなすべき義務ありというべくよつて同趣旨の判決を求めるため本訴に及ぶと陳述し被告の本案前の抗弁第一に対し遡及買収指示申請を却下した県農業委員会の決定はこれによつて一応申請人に買収農地の売渡を受ける利益を失わせることになるから出訴の対象となる行政処分に該当する、第二について行政庁に対し一定の行政行為をなさないことを命ずる裁判を求める訴或は違法な行政処分を変更する裁判を求める訴が許されるものであるから行政庁に対し一定の行為を命ずる裁判も許されて然るべきであると述べた。(立証省略)
被告指定代理人は本案前の抗弁として主文同旨の判決を求めその理由として第一原告は被告がなした原告の遡及買収指示申請却下の決定の取消を求めているが、凡そ自創法第六条の三は小作農に対し遡及買収指示申請を許しているがこの請求を受けた行政庁には該申請に対する何等の行為をも命じていない、よつてその意図するところはその申請をして申請を受けた行政庁の職権発動を促す機縁たらしめるに過ぎないものというべきである、従つて被告がなした本件申請却下の決定は申請者たる原告の権利義務に何等影響を及ぼすべきものではなく単なる好意的な措置に過ぎないものと解すべきであるから本件決定は行政事件訴訟特例法第二条に所謂行政庁の処分に該当しない、よつてその取消を求める部分の訴は不適法にして却下せらるべきものである、第二原告は「被告は高杉村農業委員会に対し本件農地について遡及買収計画を定めるべき旨の指示をしなければならない」との判決を求めているが行政庁に対し行政処分を命ずる判決を許すとするならば司法権を以て行政権を侵害することになり三権分立の原則に背戻することになるからかかる訴は許されない、従つてこの部分の訴も亦不適法として却下せらるべきものであると述べ
本案については原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め原告主張事実中川村いよが昭和二十年十一月二十三日当時及び同日以降本件農地の所在地高杉村に居住して該農地を所有し原告が同日以降引続いてこれを賃借耕作しているものであること、高杉村における自創法第三条第一項第三号の農地保有面積の限度及び川村いよの現に所有する農地は同号の保有限度内にありこれを超過しないこと、原告が被告に対し本件指示申請前高杉村農業委員会に対し本件農地につき遡及買収計画樹立の請求をなしたが同委員会がこれに応じなかつたこと、原告主張日時原告が被告に対し遡及買収指示申請をなしたところ被告がこれを棄却して原告に対しその決定書を送達したことはいずれもこれを認めるがその余の事実はすべてこれを争う、凡そ或る小作農が昭和二十年十一月二十三日以降引続き耕作している場合その小作地が遡及買収の対象となるにはその農地の同日現在における所有者若しくはその所有者の住所が同日以後において変更した場合に限られる、或る者の所有小作農地が昭和二十年十一月二十三日現在にいて自創法第三条第一項第三号の保有限度を超過しその小作地(全部又は一部)が買収の対象となつていた場合にしてその後その者の自小作農地が減少したことのみによりその者に残存している小作地が同号により買収できなくなつたとしてもこれについては遡及買収をすることができないものであるというべきところ本件農地は昭和二十年十一月二十三日以降引続き川村いよがこれを所有し原告がこれを耕作ししかも川村いよの住所は同日以降高杉村にあつて何等変るところがない、従つて本件農地は遡及買収の対象たり得ないこと明である。又被告は川村いよの昭和二十年十一月二十三日現在における所有農地並びに川村いよがその所有農地を分家川村勝司に分与した日時はいずれもこれを争うものであるが仮りに原告主張のとおりであつたとしてもかかる場合は自創法上遡及買収をなすに由ないものであると陳述した。(立証省略)
三、理 由
よつて先ず本件訴が適法であるかどうかについて判断するに(一)被告は自創法第六条の三第一項の規定に基ずいてなされた農地遡及買収指示請求を棄却する旨の裁決は何等申請人の権利を害せず、従つて該裁決の取消を求むる訴は不適法として却下を免れない旨主張するけれども、該裁決があつたとしても爾後政府をして当該農地の買収を不能ならしめまたはその請求を受けた県農業委員会がこれを理由なしとして排斥する場合法律上必ず棄却の決定通知をしなければならない性質のものであるというわけのものではないがその決定は申請人の指示申請権を否定し一応政府は当該農地を買収しないことを明にし申請人をして買収農地の売渡を受ける利益を失わせるものであるということができるから右裁決はその性質上出訴の対象となる行政処分とみるのが相当である。しかし乍ら遡及買収制度を認めた自創法は既に廃止され最早これを許さない現行法令下においては遡及買収指示請求棄却の決定を争う利益がないといわなければならない。以上のような理由により本件において被告がなした原告の遡及買収指示申請棄却の決定の取消を求める訴は不適法であるから却下すべきものである。次いで(二)原告の「被告は高杉村農業委員会に対し本件農地について遡及買収計画を定めるべきことを指示しなければならない」との裁判を求める本件訴はいうまでもなく行政庁に対し一定の行為を命ずる裁判を求める訴であるというべきところかかる訴は行政行為の適否の判断を越え、司法権と行政権とを分立させた憲法上の原則に反し、現行法上到底許されないものというべきである。よつてこの訴も又不適法として却下するの外はない。(遡及買収制度が廃止された後は遡及買収計画とかその指示なるものがあるべき筈もなく従つてその指示をなすべきことを命ずることも法律上不能のことに属する)
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 工藤健作 中田早苗 野原文吉)
(目録省略)