青森地方裁判所 昭和27年(行)37号 判決
原告 岸谷俊雄
被告 黒石町議会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は被告町議会がなした原告に同議会議員の被選挙権がない旨の昭和二十七年九月二十五日附決定を取消す。訴訟費用は被告町議会の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、
「原告は昭和二十六年四月二十三日被告町議会議員に当選し、爾来引続きその職にあつたところ被告町議会は昭和二十七年九月二十五日住所が黒石町にないという理由で原告に被告町議会議員の被選挙権がない旨の決定をなし同日原告にその決定書を交付した。しかし乍ら被告町議会は右決定をなすにつき委員会の審査を経ていないから被告町議会会議規則第四十七条の議員の被選挙権の有無の決定については委員会の審査を経て議決しなければならないとの規定に反し違法である。仮りに右主張が理由がないとしても原告の住所は黒石町大字山形町百十番地であるから、右決定は違法である。よつてこれが取消の判決を求めるため本訴に及ぶ。」
と陳述し、被告主張事実はすべてこれを争うと述べた(立証省略)。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、
「原告主張事実中原告が昭和二十六年四月二十三日被告町議会議員に当選し引続きその職にあつたこと、被告町議会が原告主張日時その主張のような理由で原告に被告町議会議員の被選挙権がない旨の決定をなし、同日その決定書を原告に交付したこと、被告町議会が右決定をなすにつき被告町議会会議規則第四十七条に定めた委員会の審査を経ていないことはいずれもこれを認めるが、その余の事実はこれを否認する。被告町議会は本件決定をなすにあたり右規則第四十七条所定の委員会に代るところの被告町議会の全員協議会において充分協議審査を尽したのであるから委員会の審査を経ないということを理由として右決定が違法であるというのは当らない。仮りに右が理由がないとしても被告町議会は昭和二十七年十月一日の臨時議会において同条に則り設置された委員会の審査を経て右決定を再確認した。よつて委員会の審査を経ていないという点はこれにより追完されたから最早本件決定が右規則に反するものであるということはできない。しかるところ原告の住所が昭和二十六年七月以降黒石町にないことは同人が黒石町長より昭和二十七年七月一日住民登録法第七条による消除処分を受けたことにより明かである。従つて原告の本訴請求は失当である。」
と述べた(立証省略)。
三、理 由
原告が被告町議会の議員であつたこと、被告町議会が昭和二十七年九月二十五日の会議において原告の住所が黒石町にないという理由で原告に被告町議会議員の被選挙権がない旨の決定をなし、同日原告にその決定書を交付したことはいずれも当事者間に争がない。
しかるところ被告町議会が同町議会会議規則第四十七条所定の委員会の審査を経ず本件決定をなしたことも当事者間に争がないから該決定は右会議規則に反する違法な決定であるといわなければならない。被告町議会は右規則所定の委員会に代るべき同議会全員協議会において協議審査を尽したのであるから、右決定は前記規則に反するものではないと主張するが、右全員協議会が右委員会による審査を代行できるかどうかの論議はさておき右のような委員会に「代るべき」協議会が開催された事実を認めるに足りる資料は何もないから該主張は理由がない。次に被告町議会はその昭和二十七年十月一日の臨時会議における再確認により本件決定が前記規則に違反した点は追完されたから最早右決定が右規則に反したということはできないと主張するが右の如く爾後の会議で委員会の審査を経たうえ再度決定を確認したとしても本件決定が右規則所定の委員会の審査を経ないでなされたことに変りがないから右主張も又理由がない。
そこで右違法を理由に本件決定を取消すべきかどうかにつき按ずるに成立に争ない乙第四、五、六、七、十一、十二、十三号証証人速水善三の証言及び同証言により真正に成立したと認める同第八号証証人桜庭憲市の証言及び同証言により真正に成立したと認める同第九号証証人石沢善哲の証言及び同証言により真正に成立したと認める同第十号証証人対島佐吉、富谷正治の各証言を綜合すると原告は東北鉄工所に勤め兼ねて黒石町議会議員黒中農業協同組合監事等の役職に就任し黒石町大字寺小路十二番地一号に宅地建物を所有しこれに居住していたものであるが、昭和二十六年七月頃該宅地建物を他に売却し同町に接する中郷村大字黒石字大坂町後百一番地所在の同人所有の住家に妻子と共に転居し引続きここに居住しているもので、原告がその住所であると主張する黒石町大字山形町百十番地は前記原告の勤務先である東北鉄工所の事務所であつて、原告はこれに寝具を備えているが、右は寝泊りのためのものではなく単にこれに居住するものの如く仮装するに過ぎないものであり、他に黒石町においては原告の生活関係の中心と認められるものは何もないことが認められる。右認定に反する証人岡村定勝の証言は速に措信できないし成立につき争ない甲第一、二号証は同乙第一、二号証に対比して原告の住所に対する認定の資料とはなし難い。されば原告の住所は本件決定当時並びにその後においても黒石町にないことが明であるから本件決定を前叙の如き手続上の瑕疵を理由として取消すことは徒に被告町議会をして同じ決定を反覆せしめるの結果を招来するに過ぎないから行政事件訴訟特例法第十一条の趣旨を汲み、右決定は前記の如く違法ではあるが、これのみによつては取消すべきものでないとみるのが相当である。
しかるところ原告の住所は前認定の如く黒石町にないのであるから原告の本訴請求はこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 工藤健作 中田早苗 野原文吉)