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青森地方裁判所 昭和31年(行)9号 判決 1958年5月29日

原告 対馬謙次郎

被告 青森県知事

主文

原告の本訴請求中、被告が昭和三〇年八月一二日付指令第D三八五二号を以てなした別紙目録記載の農地に対する所有権移転許可処分の無効確認を求める部分はこれを棄却する。

原告の右許可処分の取消を求める訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和三〇年八月一二日付指令第D三八五二号を以てなした別紙目録記載の農地に対する所有権移転許可処分は無効であることを確認する。然らざるときは、右許可処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として

一、別紙目録記載の農地(以下本件農地という。)につき、訴外島村勇一が昭和二九年四月六日同訴外人及び原告連名の所有権移転許可申請書を松島地区農業委員会へ提出したところ、これに対して被告は昭和三〇年八月一二日付指令第D三八五二号を以て本件農地につき右訴外人に対する所有権移転の許可を指令した。

二、しかしながら、右許可処分は次の理由によつて違法である。

(一)  被告は右許可の指令書を訴外島村に対して送達したけれども、原告には未だ送達をしていない。

(二)(イ)  本件農地は原告の所有である(但し登記名義上原告の祖父亡対馬兵吉所有)が、昭和二八年三月二八日訴外島村勇一から金三二万円を利息一ケ年玄米二一俵、返済期日昭和二九年三月二七日なる約定の下に借受けた際、その担保として同訴外人のため五所川原市大字一野坪字馬繋場三〇番田七反八畝二〇歩の内三反八畝二〇歩及び本件農地につき抵当権を設定したものに過ぎない。

(ロ)  仮に、右が抵当権の設定でないとすれば、右借受金債務につき売渡担保となしたものである。

(ハ)  仮に売買が行われたものとすれば、右訴外人は原告の困窮且つ軽率に乗じ時価金一四九万余円(反当金一五万円)の前記農地を僅々金三二万円を以て買受けたものであるから、右売買はその動機及び内容において著しく妥当性を欠き無効の契約といわねばならない。

何れにせよ、前記島村及び原告間において本件農地所有権が移転された事実はない。

三、然るに右島村はこれある如く装い被告の許可を得ようと企て、原告の印章を不正に使用して本件農地につき原告作成名義の所有権移転許可申請書を偽造した上前記一記載のとおりの手続に及んだものである。

よつて茲に、被告に対し右許可処分の無効たることの確認を求める。若し無効でないとせられるときは、これが取消を求める。と述べ

被告の主張に対し、原告が右許可処分につき農地法第八五条に定める訴願を経由していないことはこれを認めるが、その余を否認する。と述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は本案前の抗弁として訴却下の判決を求め、その理由として

一、農地法第三条第一項に基く農地の所有権移転許可処分は不許可処分とは異り当事者の私権に対して直接何らの義務、制限若くは負担を生ぜしめるものでないから、これを以て司法上の訴訟の対象となし難く、且又これを争う利益もないものというべきである。

二、(原告の予備的請求に対し)原告は農地法第八五条所定の訴願を提起していないから、本訴は行政事件訴訟特例法第二条の規定によつて不適法である。

と述べ、

本案につき主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実のうち一、は認める。二、の(一)のうち許可指令書を訴外島村勇一に送達したこと、同(二)のうち本件農地が原告所有であつたこと、登記簿上原告の祖父亡対馬兵吉所有名義となつていたことは何れもこれを認めるが、その余は争う。

一、被告は昭和三〇年八月頃松島地区農業委員会を通じて原告に対し本件許可指令書を交付している。

二、抑々農地法第三条第三条第一項に基く所有権移転の許可処分は農地の所有権の譲渡を受けるべき者につき、その者において譲渡を受けることが国の農地政策上の目的に反しないかどうかを調査の上許否が決せらるべきものであるから、仮に譲受人のみから右の許可申請がなされたとしても、これに基く許可処分がその事由のみによつて違法となるべきものでない。(農地法施行規則第二条は任意規定である。)

三、本件許可処分は適法な許可申請に基いて行われたものである。すなわち、原告及び前記訴外島村の両名は昭和二九年四月六日地元の松島地区農業委員会事務所に赴き、同委員会書記に対して本件農地所有権移転の許可申請をなすべきことを申述べ、よつて同書記の起草に係る許可申請書を確認の上双方押印をなして同委員会に提出したものである。

と述べた。

(立証省略)

理由

一、被告が本件農地につき昭和三〇年八月一二日付を以て農地法第三条に基き原告を譲渡人訴外島村勇一を譲受人とする所有権移転の許可の指令をなしたことは当事者間に争がない。

二、(一) よつて先ず被告の本案前の抗弁一、について検討する。

被告は農地法第三条に基く所有権移転の許可処分は訴訟の対象となりえない旨主張するけれども、右の許可はその対象たる私法上の法律行為を有効ならしめる行政行為であるから、該許可が違法な場合、これによつてなんらかの個人的法益を侵害せられたものがその取消ないし無効の確認を訴求しうることはいう迄もない。

そして原告は私法上の法律行為の有効要件をなす被告の許可処分の瑕疵をつき、その取消もしくは無効確認の判決を得ることにより結局において右私法上の法律行為の効力の発生を否定し得るのであるから訴の利益なしとすることはできない。

(二) 尚又、本件予備的請求に対する被告の本案前の抗弁二、につき按ずるに、原告が本件許可処分につき農地法第八五条の規定に基く訴願を提起しなかつたことは当事者間に争がないから、被告の右抗弁は理由があり、右予備的請求は不適法なものというべきである。

三、そこで、本件無効確認請求の本案につき判断を進めるに、

(一)  原告は、先ず、本件許可の指令書が原告に送達されていない旨主張するが、右許可指令書が申請人の一方たる訴外島村勇一に対して送達せられている事実は当事者間に争がなく、この事実と成立に争のない乙第一号証の一とを考え合わせると原告に対しても許可直後右許可指令書が送達せられたとの事実を推認するに難くない。この点に関する原告本人尋問の結果は措信し難く他に右認定を覆すに足る資料はない。

(二)  次に本件許可が適式な許可申請に基かずになされた旨の原告の主張につき按ずるに、この点に関する証人原健次郎の証言及び原告本人尋問の結果は後記各証拠と対比して措信し難く他に原告の主張を認めるに足る証拠はない。却つて証人島村欣逸、同小野鉄男、同島村勇一の各証言を綜合すると、昭和二九年四月頃原告及び訴外島村勇一は訴外島村欣逸他二名と共に松島村農委員会に赴き、同委員会書記訴外小野鉄男に対して農地法第三条に基く許可申請の手続をなすべくその申請書作成方を依頼し、同日原告及び前記島村勇一は右小野の起草した申請書(乙第一号証の六)に各自押印の上前記委員会へこれを提出した事実が認められるから、本件許可処分は適法な申請に基くものであるというべきである。

(三)  次に原告は本件許可の対象たる所有権移転行為が不存在ないし無効であるから、従つて許可処分も無効であると主張するが、抑々農地所有権の移転に対する県知事の許可は詮ずるところ許可申請当事者の予定する農地所有権の移転を許可することが当該農地の耕作者の地位の安定に役立つか否か、農業生産力の増進に寄与するところがあるか否かの国の農地政策上の見地からこれを判定し、これらの点を積極に解される場合(詳言すれば農地法第三条第二項所定の許可の消極条件のない場合)において申請を許可するにすぎないのであるから、もしこれらの点の判断に誤りがある場合においては許可処分の瑕疵となることを免れないとしても、許可申請当事者の予定した所有権移転の行為自体が予定に反して不成立もしくは無効であるとしてもそのことが逆に許可処分に瑕疵として影響するものとすることはできない(このことは当事者が知事の許可は得たが、その後の何らかの都合で所有権移転を断念した場合を考えれば這般の関係は極めて明瞭である)。

以上のとおりの次第で、本件許可処分には何ら違法の点がないから、原告の右許可処分の無効確認を求める請求は失当として棄却すべく、又右許可処分の無効を求める予備的請求は前説示のとおり不適法であるから、これを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 宮本聖司 右川亮平)

(別紙目録省略)

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