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青森地方裁判所 昭和36年(行)3号 判決 1961年7月11日

青森市大字石江字高間二の三

原告

佐藤兼次郎

右訴訟代理人弁護士

中村慶七

市 大字寺町

被告

青森税務署長

角田善平

右指定代理人

真鍋薰

古館清吾

門馬公一

庄司隆

永島信作

菅原達郎

右当事間の昭和三六年(行)第三号所得税賦課決定取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の訴は、いずれもこれを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対してした昭和三五年度所得税額を金一〇一、〇〇〇円、無申告加算税額を金二五、二五〇円とする賦課処分は、無効であることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」若し、右請求が認容されないときは、二次的に「右処分を取り消す。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、被告は、原告に対し、昭和三五年度所得税額を金一〇一、〇〇〇円、無申告加算税額を金二五、二五〇円とする賦課処分をした。

二、しかしながら、原告には、昭和三五年度において所得税を賦課されるべき所得がなかつたのである。ただし、考えられるのは、原告が、昭和三四年一月五日、訴外佐藤光栄から、同人所有の別紙目録第一記載の土地を青森県知事の許可を停止条件として、代金一、二五〇、〇〇〇円で買い受け、また、同月一四日、訴外志甫利治に対し、原告所有の別紙目録第二記載1の土地を代金一、二二〇、〇〇〇円で、訴外柴田由蔵に対し、同目録記載23の土地を代金四九〇、〇〇〇円で、それぞれ青森県知事の許可を停止条件として売り渡し、右売渡代金の内金一六〇、〇〇〇円を仲介手数料として控除した残金一、五五〇、〇〇〇円の内金一、二五〇、〇〇〇円を前記佐藤光栄に対する買受代金に充て、残余金三〇〇、〇〇〇円を所得したことがあるに過ぎないのである。

以上のように、原告には、昭和三五年度において、所得税を賦課されるべき所得はなかつたのに、被告が所得ありとしてした本件所得賦課処分は、重大かつ明白なかしを伴う無効のものであり、無効でないとしても違法として取り消されるべきである。

三、そこで、原告は、被告に対し、再調査を、仙台国税局長に対し、審査を各求めたが、現在なお裁決がなされていない。

よつて、本訴に及ぶ。

と述べ、

被告主張の本案前の抗弁事実に対し、

1  被告主張の二の事実のうち、原告が本訴の対象としている課税処分が昭和三四年度のものであること及び原告の本訴は、審査の決定を経ないで出訴する正当な事由がないとの主張は争う。その余の事実は認める。

2  原告は、被告から本件所得税の納付書の送達を受け、かつ、納付の督促を受けているのであつて、直ちに、執行を受けるおそれがあり、審査の決定を待つては、執行を受け回復できない損害を受ける危険があるから、審査の決定を経ないで出訴する正当な事由がある。

と述べ、

証拠として、甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三、四号証を提出し、乙第一号証の成立を認めた。

被告指定代理人らは、主文と同趣旨の判決を求め、本案前の抗弁として、次のように述べた。

一、原告は、本訴において、昭和三五年度分の所得税についての被告の決定処分(所得税法第四四条第四項)の無効確認及び取消を求めるのであるが、昭和三五年度分については、原告主張のような課税処分は存在しないから、訴の利益を欠くものである。

二、また、原告の主張する課税処分は、昭和三五年度分ではなく、昭和三四年度分と考えられるのである(被告は、原告の昭和三四年度の所得を、農業所得金二〇〇、〇〇〇円、譲渡所得金四五〇、〇〇〇円と算定したものである)が、再調査の請求または審査の請求の目的となる処分の取消を求める訴は、再調査の請求があつた日から六ケ月を経過してなお再調査の決定の通知がないとき、審査の請求があつた日から三ケ月を経過したとき、または、再調査の決定若しくは審査の決定を経ることにより著るしい損害を生ずる虞のあるときその他正当な事由があるときを除いては、再調査の決定または審査の決定を経ないで訴を提起することはできないとされている(所得税法第五一条第一項)ところ、原告は、被告が昭和三五年一二月一六日にした本件課税処分に対し、同月二八日、被告に対し、再調査の請求をしているが(仙台国税局長に対し審査を求めた事実はない)、右再調査の請求に対しては、再調査決定(所得税法第四八条第五項)の通知がされないままに三ケ月を経過し、かつ、原告から、その間、審査の請求として取り扱うことについて別段の申出もなかつたので、所得税法第四九条第四項により、右の再調査の請求は、その請求の日である昭和三五年一二月二八日から三ケ月を経過した昭和三六年三月二九日に審査の請求があつたものとみなされることになる。従つて、本件課税処分の取消を求める訴は、右昭和三六年三月二九日から三ケ月を経過した同年六月三〇日以降でなければこれを提起できないのにかかわらず、原告は、審査の決定を経ないことについて、なんら正当の理由がないのに、あえてそれ以前の同年三月九日に本訴を提起しているのであるから、本件訴は、所得税法所定の訴願手続を継ない不適法のものとして却下されるべきである。

とこのように述べ

原告の再答弁に対し、

原告が審査の決定を経ないで訴を提起する正当の事由があるとの主張は否認する。課税の執行処分を受ける虞があるだけでは審査の決定を経ないで訴を提起する正当な事由にはならない。

と述べ、

証拠として、乙第一号証を提出し、甲第四号証の成立は認める(ただし、督促状の表示年度は、収納年度は、収納年度を記載したものであり、六月一日以降は発行の年を記載する取扱である。)、その余の甲号各証の成立は不知(甲第三号証は作成名義がない。)

と述べた。

理由

原告は、被告が原告に対し、昭和三五年度の所得税を金一〇一、〇〇〇円、無申告加算税を金二五、二五〇円とする賦課処分をしたと主張し、その無効確認を求め、二次的にその取消を求めるのであるが、成立に争いのない乙第一号証(昭和三四年度分所得税の決定に基く再調査の申請についてと題する書面)及び弁論の全趣旨によると、原告は、被告から昭和三五年一二月一六日青直第六九四号をもつて、昭和三四年度分の所得税額を金一〇一、〇〇〇円、無申告加算税額を金二五、二五〇円とする賦課処分を受け、右賦課処分に対し、同月二八日、被告に対し、再調査の請求をしたことが認められ、右事実からすれば、原告が本訴の対象とすべき所得税の賦課処分は、昭和三四年度のものであることが窺われるところ、原告は、本訴の対象は、昭和三四年度の賦課処分ではなく、昭和三五年度のそれであると主張するのである。しかし、原告の全立証によるも、原告主張の昭和三五年度の所得税賦課処分があることは認められないから、一次的に、その無効確認、二次的にその取消を求める原告の本件訴は、いずれも訴の利益を欠くものとして、却下を免れない。

なお、ちなみに、本訴の対象を昭和三四年度の所得税賦課処分であるとしても、原告は、昭和三四年度において、本件土地売買により所得金三〇〇、〇〇〇円のあつたことを自認しているのであるから、一概に右賦課処分に重大かつ明白なかしがあるということはできず、原告の右賦課処分の無効確認を求める請求は、これを認容するに由なく、また、右賦課処分の取消を求める訴は、被告主張の本案前の抗弁二記載の所得税法所定の審査(再調査を含む)の決定を経ないで提起されたものであることは、原告の自認するところであり、原告主張のように、納付書の送達を受け、かつ、督促を受けており、執行を受けるおそれがあるとの事実があつたとしても、それだけでは、未だ、審査の決定を経ないで出訴する正当な事由があるものとはいえないから、結局、本件賦課処分の取消を求める訴は、不適法として却下を免れないのである。

よつて、原告の本件所得税の賦課処分の無効確認を求める訴及び右処分の取消を求める二次的訴は、いずれも不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野村喜芳 裁判決 福田健次 裁判官 野沢明)

目録

第一 1 青森市大字石江字高間一二三番

一、田 一反二畝二六歩

2 同所一二四番

一、田 二反六畝二〇歩

3 同所一二五番

一、田 五反一畝一六歩

4 同所一二八番

一、田 四畝二三歩

第二 1 同市大字石江字江渡一〇九番

一、畑 一反六畝一八歩

2 同所一一七番二号

一、畑 六畝二〇歩

3 同所同番三号

一、畑 一畝一歩

以上

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