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青森地方裁判所 昭和43年(行ウ)16号 判決 1970年2月25日

原告(死亡) 工藤米七

右訴訟代理人弁護士 寺井俊正

被告 成田佐太郎

右訴訟代理人弁護士 小山内績

主文

本件訴訟は、昭和四四年九月二〇日原告の死亡によって終了した。

事実

一  原告訴訟代理人は、「被告は、車力村に対し金五五八、〇〇〇円とこれに対する昭和四三年一〇月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因および抗弁に対する答弁として、次のとおり述べた。

(一)  請求原因

1  被告は、昭和四〇年三月から車力村の村長たる地位にあり、原告は、同村の住民である。

2  被告は、車力村の村長として、昭和四三年四月三〇日頃、昭和四二年度一般会計補正予算歳出第二款(総務費)第一項(総務管理費)第一目(一般管理費)第一三部(委託料)に基ずく支払として、訴外松橋富義に対し金五五八、〇〇〇円を支払うべき旨の支出命令を発し、その頃同村収入役をして右金員を同訴外人に交付せしめた。

3  しかしながら、車力村は松橋富義との間において、右金員支出の原因となるべき委託契約等は何ら締結したことがないから、被告の支出命令は地方自治法第二三二条の三にいう支出負担行為を欠き、違法のものである。

なお、被告が右支出命令を発するに至った経緯は次のとおりである。

被告は、右松橋ら数名とともに、青森地方裁判所に対し、昭和三九年八月車力村村議会および同村々長を被告として村議会決議不存在確認等の訴(同庁昭和三九年(行ウ)第八号事件)を、また昭和四〇年三月には同村教育委員会を被告として学校廃止届無効確認の訴(同庁昭和四〇年(行ウ)第四号事件)を提起したが、いずれも極めて理由に乏しい訴で、却下また棄却されるべきものであったが、被告(本件被告)らは昭和四二年一一月右各訴を取下げるに至った。しかして被告は、同村々長となったことを利用して、その権限を濫用し、右訴訟に要した自己および松橋らの出費を補填しようという目的のために本件支出命令を発したものである。

右のように被告は、違法な支出命令を発し、それにより車力村に対し金五五八、〇〇〇円の損害を与えた。

4  そこで、原告は、昭和四三年六月二九日村監査委員に対し、監査を請求して、右金員支出の差止めまたは支出済の際はこれを村に賠償せしむべき措置を求めたが、右監査委員は昭和四三年八月二六日付をもって、原告に対し右請求は理由がない旨の通知を発し、原告は同月二七日これを受領した。

5  以上により、原告は、地方自治法第二四二条の二第一項第四号により車力村に代位して本件訴に及んだものである。

(二)  被告の抗弁に対する答弁

1  原告が昭和四四年九月二〇日死亡したことは認めるが、右原告の死亡により本件訴訟は当然終了するものではない。

2  被告は、昭和四二年一一月に、被告らが前記各訴訟において支出した金員を車力村において負担する旨の契約が締結されたものである旨主張するが、右契約は村議会の議決を経て締結されたものでないから無効のものであるし、のみならず、被告は個人的な出捐を村の公金をもって補填しようとして、村長たる地位を利用し、右契約を締結したものであるが、双方代理禁止の法意に照らし、被告には右契約を締結すべき権限を有しなかったものと解すべきであるから、この点からも右契約は無効のものである。

二  被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁および抗弁として、次のとおり述べた。

(一)  本案前の抗弁

本件訴訟は、地方自治法第二四二条の二の所謂住民訴訟で、その訴訟追行権は一身専属権と解すべきであるから、原告が死亡した場合には、訴訟の承継はなく、当該訴訟は当然終了するところ、原告は昭和四四年九月二〇日死亡したのでこれにより本件訴訟は終了した。

(二)  本案に対する答弁および抗弁

1  原告主張の請求原因事実中、1、2および4の事実は認める。もっとも、金五五八、〇〇〇は松橋富義個人に交付されたのではなく富部落民代表者に交付されたものである。なお3の事実については、被告を含めた同部落民が原告主張のような各訴訟を提起したことは認めるが、その余の点は否認する。

2  被告が本件支出命令を発するに至った経緯は次のとおりであって、なんら違法の点は存しない。

すなわち、車力村には、従前富、車力、牛潟の三中学校が存在したが、昭和三九年当時の車力村々長は、議会の正式な議決がないのに、右三中学校を統合する旨の議決があったものとして、車力村最大の部落である富、豊富両部落民の反対を無視して統合中学校建築に着手したので、被告を含めた富部落民は原告主張にかかる前記各訴訟を提起したが、結局統合中学校校舎建築は完成した。しかしながら、富部落民は富中学校の廃止に抗議して、その子弟を新中学校に登校させない処置にでたため紛争は深刻化してきた。かかる状況のもとにおいて被告は、村長当選後村民全体の紛争解決の要請に従い、昭和四二年一一月富部落民と話し合い同部落民の子弟を統合中学校に登校させるよう説得するとともに、同部落民が前記各訴訟に要した費用のうち、金五五八、〇〇〇円を村において負担することを約し、その費用を昭和四二年度車力村一般会計補正予算に計上し、村議会において可決されたので、これに基づき本件支出命令を発するに至ったもので、かかる措置については事前に自治省および青森県当局に問い合わせた結果、適法な措置であるとの確認をも得ているのであって、なんら違法な点は存しない。

三  証拠関係≪省略≫

理由

≪証拠省略≫によれば、原告が昭和四四年九月二〇日死亡したことが認められる。

ところで、本件訴は、原告が地方自治法第二四二条の二第一項第四号の規定に基ずき、普通地方公共団体の住民たる資格において、当該普通地方公共団体に代位し、その長たる被告に対し損害賠償を訴求するものであっていわゆる住民訴訟に属することは、原告の請求自体に徴して明らかであるところ、かような住民の資格にもとずいての同法第二四二条の二第一項各号所定の各請求権につき相続、譲渡を認める明文の規定がなく、このことと右請求権が公法上の権利であることに徴して法は右権利を譲渡性なきものとしたと解するのが相当である。従って、右権利は、その帰属および行使につきいずれも一身専属的のものというべきであるから既に原告が死亡した以上相続等による承継がなく本件訴訟は当然終了したといわなければならない。しかるに、原告訴訟代理人は本件最終口頭弁論期日において原告の死亡に関する前記事実を認めながら本件訴訟を維持しているのであって、そのこと自体に徴して当事者間に本件訴訟の終了につき争いがあり、右訴訟終了の旨を主文に宣言して明確にする要があると認める。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 間中彦次 裁判官 辻忠雄 本田恭一)

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