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青森地方裁判所 昭和45年(ワ)123号 判決 1970年11月30日

原告 今政四郎

被告 相内建設株式会社

主文

原、被告間の昭和四五年(手ワ)第九号約束手形金請求事件について当裁判所が昭和四五年三月一九日に言渡した手形判決は、これを認可する。

本件異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原、被告間の青森簡易裁判所昭和四五年(ロ)第三〇号約束手形金請求事件の仮執行宣言付支払命令を認可する。異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

原告主張の請求原因については、本件手形判決の事実欄に記載のとおりであるのでここにこれを引用する。原告訴訟代理人は、被告の相殺の抗弁を否認し、立証として、原告本人尋問の結果を援用した。

被告訴訟代理人は、「原、被告間の青森簡易裁判所昭和四五年(ロ)第三〇号約束手形金請求事件の仮執行宣言付支払命令を取消す。原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

請求原因事実はすべて認める

と述べ、抗弁として、

被告は昭和四四年七月二三日ごろより同年九月二三日ごろまでの間に原告との間の今別川河川災害復旧工事の工事契約に基いて、原告に対し金八三万八、〇二二円相当の工事代金債権を有しているので、被告はこれを自働債権として本件第四回口頭弁論期日(昭和四五年七月一六日)において対当額で相殺の意思表示をする

と述べた。

理由

請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

被告の相殺の抗弁については、これを認むべき証拠はなく、かえつて原告本人尋問の結果によれば、被告主張の自働債権は存在しないことがうかがわれ、右抗弁は採用することが出来ない。

そうだとすれば、前記請求原因事実により、被告は原告に対し本件手形判決記載の(1) ないし(3) の約束手形金合計金一四六万三、三〇〇円および(1) の約束手形金二五万円に対する呈示の日の翌日である昭和四四年一二月二四日から、(2) 、(3) の約束手形金合計金一二一万三、三〇〇円に対する呈示の日の翌日である同年一二月三一日からそれぞれ支払ずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払義務があるところ、本訴が原告主張の経緯で通常訴訟に移行したことは記録上明らかであるので、青森簡易裁判所昭和四五年(ロ)第三〇号約束手形金請求事件の仮執行宣言付支払命令は認可すべきであり、原告の本訴請求は正当である。

ところで、本件記録によれば、原告は支払命令の申立の段階で手形訴訟による審理および裁判を求める旨の申述をなし、支払命令にその旨が附記されたこと、しかしながら右支払命令に対し被告は所定の期間内に異議の申立をなさなかつたため、原告の申立により仮執行の宣言がなされたことが明らかである。そうだとすれば民訴法四六二条三項により前記の手形訴訟による審理および裁判を求める旨の申述はなかつたものとみなされるため、右仮執行宣言付支払命令に対する異議により通常訴訟に移行した後は、手形訴訟手続ではなく通常手続によつて審理されることになる。しかるに当裁判所は右規定を看過し、手形訴訟による審理をなし、昭和四五年三月一九日に前記仮執行宣言付支払命令を認可する旨の手形判決を言渡した。ところで、民訴法四五七条によれば、手形判決に対する異議による通常手続への転移後の判決が手形判決と符合するときは、裁判所は右手形判決を認可することを要するが、但し手形判決の手続が法律に違背したときは右符合にもかかわらずこれを取消すべきことが規定されているが、右に云う法律違背は、重大な法律違背すなわち判決の成立過程自体に違法がある場合を云うものと解すべきである。そうだとすれば本件の如く単に通常手続で審理裁判すべきものを、手形訴訟による審理および裁判をなしたにすぎない手続違背は手形訴訟制度がもうけられたことから生ずる特有の法律違背にすぎず、右に云う判決の成立過程自体に違法がある場合に該らないものと云うべきである。しかるところ、前記の如く本訴請求は正当で、本件手形判決に符合するから、結局同条本文により本件手形判決を認可することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、四五八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 久末洋三)

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