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青森地方裁判所 昭和47年(ワ)127号 判決 1977年5月31日

原告 国

訴訟代理人 宮北登 伊藤俊平 寺田明 哘崎勝四郎 ほか四名

被告 宮本留一

主文

別紙物件目録記載の土地が原告の所有であることを確認する。

被告は右土地に立入り、または第三者をして立入らせてはならない。

被告は原告に対し、金二七万六、九五一円及びこれに対する昭和四六年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は第三項にかぎり仮に執行することができる。

事実

原告指定代理人は主文第一ないし第四項同旨の判決及び第三項につき仮執行の宣言を求め

その請求の原因として

一  別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)は、次に述べるように大平国有林一三〇林班い小班五七二、八〇〇平方メートルに該当し、原告の所有である。

しかして大平国有林成立の経緯は次のとおりである。

(一)  大平国有林一三〇林班い小班はむつ市大字大平に所在する大平国有林一、四七八、二一五・八〇平方メートルの一部である。

(二)  大平国有林は、もと、陸奥国下北郡大湊村大字大平字木平二一番、同所二二番、同所字梨木平の内大久保二三番及び同所二四番の四筆に該当し、内務省所管の官有地であつた。

その後明治二二年二月皇室典範が制定され、御料制度の確立に伴つて、右官有地は同年三月二〇日皇室財産に編入され、爾来永く大平御料林と称され、宮内省御料局が、次いで同省帝室林野局管下の東京支局野辺地出張所が管理経営してきた。

そして昭和二一年一一月財産税法の制定によつて皇室財産が物納されることとなつた結果、昭和二二年四月一日大平御料林はそのまま大蔵省に物納されたうえ、同日付で農林省に所管換となり、国有林に編入されて、大平国有林と命名され、また同国有林の一部に所属する本件土地は同国有林一三〇林班と命名され、以来今日に至るまで、国有財産法三条二項四号に定める原告国の企業用財産として、農林省青森営林局管下のむつ営林署長が管理経営してきたものである。

(三)  大平国有林の位置は、大平御料林であつた当時、次のようにして明確にされた。

すなわち、宮内省御料局は、明治三一年九月二一日から同年一一月二日にわたり、御料地境界踏査内規に基づき、隣接地である陸奥国下北郡大湊村大字大平字本町浜町通の内多賀道四〇番ノ一〇ほか一五筆の土地所有者及び管理者の現地立会を得て、実地踏査をなして境界を査定し、さらに明治三三年一一月二二日から明治三四年一一月三日までの間、境界測量を実施し、この結果大平御料林と隣接土地との境界が明らかにされた。

しかして大平国有林のうち、本件土地である一三〇林班い小班に隣接する土地は、前記境界査定当時、青森大林区署長(のちの青森営林局)が管理していた字荒川五〇番国有林(別紙図面表示の42地点から順次49地点に至るまでの境界部分の北側に隣接して所在し、現在の荒川山国有林に該当)及び字梨木平三六番国有原野(同図面表示の103地点から順次107地点を経て1地点に至る境界部分の南側に隣接して所在)、並びに青森県知事が管理していた国有地河川「大荒川」(同図面表示の50地点から順次88地点に至る境界部分の北側に隣接して所在)のほか、私有地は本山兼吉が所有していた字梨木平の内中道三八番の二山林(同図面表示の88地点から順次103地点に至る境界部分の南側に隣接して所在)だけである。

従つて被告がその所有権を主張するむつ市文京町四四〇番及び四四一番(旧表示同市大字大平字荒川四八番ノ二及び同番ノ三)の土地は本件土地である大平国有林一三〇林班い小班に隣接してきえもいないのである。

二  しかるに被告は本件土地が右のように自己の所有であると主張して、原告の所有権を否認している。

そして被告は、何らの権原がないのに、本件土地に立ち入り、昭和四六年九月二一日頃から本件土地のうち別紙図面表示の70地点付近の土石を採取し始め、その後同年一一月二〇日までの問に、本件土地のうち同図面に赤斜線をもつて表示した部分の土地から二、八一九・五立方メートルの土石を採取し、さらに原告が同図面表示の69ないし72の各地点に設置したコンクリート製境界標柱四本を毀滅し、原告の所有権を侵害した。しかして被告には、少なくとも、本件土地ないし右物件が原告の所有に属することを当然知り得べきであつたのに、これを知らずして右所為に及んだことに過失が存するから、被告は右不法行為により原告に与えた損害を賠償すべき責任がある。

被告の右不法行為により原告が被つた損害は、右土石の価額相当額二七万六、三一一円、及び右境界標柱の価額相当額六四〇円、以上合計二七万六、九五一円である。

三  よつて原告は被告に対し、本件土地の所有権確認及び本件土地立入禁止を求めるとともに、右損害金二七万六、九五一円及びこれに対する本件継続的不法行為期間の中間日である昭和四六年一〇月二〇日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。と述べた。

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め

答弁として

請求原因一の事実中、(一)、(二)の事実は不知、(三)の事実及び本件土地が原告所有の大平国有林一三〇林班い小班に該当するとの事実は否認する。

本件土地は被告所有のむつ市文京町四四〇番原野三五、七三五平方メートル及び同所四四一番原野一八八四平方メートル(旧表示同市大字大平字荒川四八番ノ二及び同番ノ三)に所属する。

同二の事実中、被告が原告主張の時期に本件土地で土石を採取したことは認めるが、その余の事実は否認する。と述べた。

理由

一  先ず本件土地が原告の所有であるかどうかについて検討する。

<証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すると、大平国有林一三〇林い小班はむつ市大字大平に所在する原告所有の大平国有林一、四七八、二一五・八〇平方メートルに所属するものであること、及び大平国有林成立の経緯に関する請求原因一・(二)の事実を認めることができ、他に右認定をくつがえすをに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、大平国有林はもとの大平御料林の地籍から成るものであることが明らかである。

そこで大平御料林の位置範囲等につき前掲各証拠に、<証拠略>をあわせ総合すると、大平御料林については、宮内省御料局が管理していた当時、明治三一年九月二一日から同年一一月二日にわたり、御料局技手宮本勇作ほか三名の係官が、御料地境界踏査内規に基づいて、右御料林の隣接私有地の所有者及び隣接国有地の管理者の現地立会を求めて、その境界全域を査定し、そして右査定に基づき、明治三三年一一月二二日から明治三四年一二月三日にわたり、御料局技師鬼丸長次郎が右査定境界を測量し、その測量成果を御料地測量簿(甲第二号証。各枝番を含む)にあらわし、さらに御料地境界簿(同第一号語。各枝番を含む)を作成して、境界標識番号、種類、位置、右御料林の地籍、地目、現況、隣接地の地籍、地目及びその所有者、管理者を登載し、かつ隣接地の全所有者、管理者の承認、調印を得て、これにより大平御料林の位置、範囲は前記御料地境界簿及び測料簿記載のように明らかにされたこと、そしてそれ以来右御料林の位置範囲は前記査定どおりのものとして、これに対し何びとからも異議故障の申出を受けることなく、同地は、疑いなく、宮内省が管理する皇室財産として是認され、同地に対する原告国の所有は平穏にして安定した状態を保つてきたことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

しかして前記認定の事実に、<証拠略>を総台すると、本件土地は前認定の大平御料林に含まれ、大平御料林が大平国有林と名を変えて農林省の所管換になつてからは、同国有林一三〇林班い小班と命名されて、同省青森営林局管下のむつ営林署長が管理経営してきたもので、原告国の所有であることが認められ、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく措信し難く、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

二  次に被告の不法行為の成否について判断する。

被告が昭和四六年九月二一日頃から同年一一月二〇日までの間に本件土地から土石を採取したことは当事者間に争いがないところ、この事実に、<証拠略>によると、被告は、何ら権原がなく、しかもむつ営林署職員の再三にわたる中止方の要請をうけながら、自己の所有であると主張してこれを無視し、前記期間中継続して、本件土地に立ち入り、本件土地のうち別紙図面に赤斜線をもつて表示した地域から合計二、八一九・五立方メートルの土石を採取し、また原告が同図面表示の69ないし72の各地点に設置して所有していたコンクリート製境界標柱四本を毀滅したことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

そして右認定事実と先に一で認定した事実によつて考えれば、被告には、少なくとも、右各物件が原告国の所有に属することを知り得べきであつたのに、これを知らずに右所為に及んだことに過失があつたものと認められるから、被告は、民法七〇九条に基づき、右不法行為によつて原告に与えた損害を賠償すべき責任がある。

そこで、損害額につき、<証拠略>によると、当時における前記土石二、八一九・五立方メートルの価額は二七万六、三一一円、境界標柱四本の価額は六四〇円、合計二七万六、九五一円を下らず、原告は少なくとも同額の損害を被つたものと認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

三  そうすると原告の被告に対する本訴請求はすべて理由があるから認容すべきである。

なお遅延損害金の起算日について一言ふれる。本件のごとき土石の不法採取等が一定期間継続的になされた場合においても、その損害賠償債権は当該不法行為と同時に発生しかつ遅滞に陥るものであるから、右損害賠償債権は当該不法行為の継続期間中日々累積しかつその日毎の分について遅延損害金が加算されるものであるが、本件のごとき内容の不法行為の性質上、右期間の終期即ち最終の不法行為時においてはじめて既経過分の損害の総額を確定することができるが、期間経過中における日々の損害額については被害者である原告においてこれらを逐一明確に立証することが不能であるか困難である場合、なおも原告に右の点の立証を要求して、右立証を果たさないからとの理由で、終期の翌日から遅延損害金を起算する取扱いは被害者に酷である反面、不法行為者に不必要な利益を与えるものであつて、衝平ではない。かかる場合には、原告主張のように、遅延損害金の額は右継続期間中の総額に対しその中間日から起算して計算する取扱いを是認してよい。若し被告がこれに不服であるならば、むしろ被告の方で右継続期間中における日々の債務額(土石採取量)を立証して右取扱いを免れるべきであるが、本件においては被告にこの点の立証がない。

よつて民訴法八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺康次 吉武克洋 池谷泉)

別紙

物件目録

青森県むつ市大字大平字大平所在の

別紙図面表示の1ないし107、1の各地点を順次直線をもつて結んだ範囲内の地域

面積五七二、八〇〇平方メートル

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