青森地方裁判所 昭和51年(行ウ)9号 判決
原告 石垣食品株式会社
被告 青森県知事
代理人 W1 W2 W3 W4 ほか二名
主文
一 原告の主位的請求を棄却する。
二 原告の予備的請求を却下する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(主位的請求)
1 被告が原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について昭和五一年三月二三日付でなした換地処分は無効であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
(予備的請求)
1 被告が原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について昭和五一年三月二三日付でなした換地処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(主位的請求について)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(予備的請求について)
1 本案前の申立
(一) 原告の請求を却下する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
2 本案の申立
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件分筆前の土地の分筆と所有権移転の経緯
青森市<以下省略>宅地一六九坪(以下「本件分筆前の土地」という。)は、もとC(以下「C」という。)が所有していたものであるが、Cは本件分筆前の土地から、昭和二八年一〇月一二日別紙物件目録(二)、(三)記載の各土地を分筆し、右一三一番九宅地の地積は一〇七坪七合四勺となり、右一三一番九宅地一〇七坪七合四勺から昭和三三年一月九日同目録(四)記載の土地を分筆し、一三一番九宅地の地積は四四坪七合四勺となり、右一三一番九宅地四四坪七合四勺から同年一一月一三日同目録(五)記載の土地を分筆し(以下それぞれ「分筆後の(二)ないし(五)の土地」という。)、一三一番九宅地の地積は四一坪二合四勺となつた。右一三一番九宅地四一坪二合四勺が同目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)である。
CはD(以下「D」という。)に対し、昭和二八年一一月九日分筆後の(二)の土地を、同年一〇月二〇日分筆後の(三)の土地をそれぞれ売渡した。さらに、CはE(以下「E」という。)に対し昭和三三年一二月一一日分筆後の(四)、(五)の各土地を売渡し、Eは右各土地を昭和三四年五月一三日日本電建株式会社(以下「日本電建」という。)に売渡した。また、Cは昭和三四年九月二九日本件土地をF(以下「F」という。)に売渡し、原告は昭和三五年二月一一日本件土地をFから代物弁済により譲受け、その所有権を取得した。
2 青森市都市計画復興土地区画整理事業の概要
(一) 戦災復興院は、昭和二一年九月四日都市計画法(大正八年法律第三六号)第三条の規定に基づき、青森市都市計画復興土地区画整理事業(以下「本件土地区画整理事業」という。)の事業決定をした。本件土地区画整理事業は同月一一日特別都市計画法(昭和二一年法律第一一九号)の施行により被告の行う土地区画整理事業となつた。被告は、都市計画法第一四条の規定に基づき、昭和二二年六月一八日内閣総理大臣の設計認可を得、同月三〇日事業計画の決定公告をした。昭和二九年五月二〇日特別都市計画法が廃止され、本件土地区画整理事業は、土地区画整理法施行法第五条の規定により、土地区画整理法第三条第四項の規定による土地区画整理事業となつた。
(二) 本件土地区画整理事業の施行区は、東部工区、中部第一工区、中部第二工区及び西部工区に分かれており、本件土地は、中部第二工区の三七街区に所在していた。
(三) 被告は、本件土地区画整理事業の一環として、昭和二四年五月七日本件分筆前の土地について換地予定地(土地区画整理法の施行された昭和三〇年四月一日以降は、同法第九八条に基づいて指定された仮換地とみなされる。
以下換地予定地というべき場合も単に仮換地いう。)として一二〇坪五合の土地を指定し(以下「本件仮換地」という。)、そのころ当時の本件分筆前の土地所有者Cにその旨通知した。
(四) 本件土地区画整理事業は昭和三四年度において工事がほぼ完了した。
被告は土地区画整理法第一〇三条第四項の規定により昭和五一年八月一〇日本件土地の所在する中部第二工区について換地処分の公告を青森県報に掲載して行つた。
3 本件換地処分
被告は、土地区画整理法第一〇三条第一項の規定により、昭和五一年三月二三日付書面をもつて原告に対し、本件土地について「換地を交付しないで金銭で清算する。清算金として金一九〇万〇一四五円を交付する。」旨の換地処分(以下「本件換地処分」という。)の通知をした。右通知書は遅くとも昭和五一年四月初めには原告に到達した。
4 本件換地処分の無効
本件換地処分は次の理由により無効である。
(一) 本件換地処分は、土地区画整理法第九〇条の規定により宅地所有者である原告の申出又は同意がないのに換地を交付しないものであるから、無効である。
(二) 原告は、本件土地の所有権を取得したことにより、本件仮換地の使用収益権をD及び日本電建とその所有地の面積の割合に応じて準共有することになつた(最判昭和四三年一二月二四日民集二二巻一三号三三九三頁参照)が、当時D及び日本電建が事実上本件仮換地の使用収益を専有しており、原告は本件仮換地を使用収益することができなかつた。このような場合、被告には本件仮換地について原告が使用収益できる範囲を具体的に定める仮換地変更指定処分をなすべき義務がある。そして、原告は被告の右処分によつて仮換地を使用収益することができるようになる。そこで、原告は被告に対し、昭和三八年一二月一〇日付、昭和四三年五月三一日付及び昭和四五年一二月二四日付各書面で本件仮換地の変更指定処分の申請をしたが被告は何の応答もしなかつたので、原告はさらに昭和四六年五月七日付書面で被告の右不作為につき異議申立をした。しかし、被告は原告に対し何の意思表示もしなかつた。そのため、原告は本件仮換地を全く使用収益することができずに本件換地処分を受けた。このように被告は、原告の仮換地使用収益権を侵害したものであつて、原告の被つた損害は甚大である。被告が権限を濫用して仮換地変更指定処分を怠つた違法は、後行処分としての本件換地処分を無効とするものである。
(三) 本件土地区画整理事業は、昭和三四年度において工事がほぼ完了したにもかかわらず、本件換地処分がなされたのは昭和五一年四月初めである。これは、土地区画整理事業の工事完了後遅滞なく換地処分をしなければならない旨規定する土地区画整理法第一〇三条第二項の規定に違反し、本件換地処分は無効である。なお、内閣総理大臣が認可した当初の事業計画によると、工事着手昭和二一年八月一日、工事完了予定昭和二四年三月三一日、残務整理工事完了後約一年となつている。本件土地区画整理事業は、右事業計画より著しく遅延している。
(四) 土地区画整理法第九〇条の規定により換地を定めない場合、清算金は土地を失うことに対する損失補償の性質を有することからすれば、その価額は土地喪失に対する正当な補償といえるものでなければならず、少なくとも換地処分時の時価を下回ることは許されない。本件土地の清算金一九〇万〇一四五円は時価(本件換地処分時の本件土地の価額は一坪あたり一〇〇万円を下らない)に比し著しく低額であつて正当な補償とはいえず、憲法第二九条第三項、土地区画整理法第九四条の規定に違反する。
以上のとおり本件換地処分は違法、無効であるから、原告は本件換地処分の無効確認を求める。仮に違法の程度が無効に至らない場合には、予備的に本件換地処分の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の事実はいずれも認める。
2 同4の(一)ないし(四)はいずれも争う。
三 被告の主張
(主位的請求について)
本件換地処分は次のとおり適法になされた。
1 土地区画整理法第九〇条の申出または同意について
Cは昭和三四年九月一四日被告に対し、本件土地について対応する換地地積がないこととした土地の分筆異動届を提出した。しかして、右分筆異動届は左のとおり土地区画整理法第九〇条所定の換地を定めない旨の申出または同意(以下単に「換地不交付の申出」という。)にあたるとみるのが相当である。
すなわち、
(一) 右分筆異動届は、単に従前の土地の分筆後の地積を記載するだけでなく、その分筆後の各土地に対応する換地地積を記載してなされているところ、本件土地についてのみ対応する換地地積がないこととして届出がなされていること。
(二) 右分筆異動届には、分筆した従前の土地の地形図だけでなく、それに対応する換地分割図も添付されているが、右換地分割図によれば、本件土地については国道敷の部分として届出がなされていること。
(三) 土地区画整理事業の行政実務上、仮換地の指定後に従前の土地が分筆された場合、分筆後の各土地に対応する仮換地部分を特定した分筆異動届を当事者から提出させ、それが区画整理の目的に反しない限りそのまま受理され、換地処分をするについての目安とされている。本件のように分筆された土地についての換地不交付の申出も同様の方法でなされるのが通常の取扱いであること。
に照らせば、右分筆異動届が換地不交付の申出であることは明らかである。
そして、右申出がなされた後、本件土地はCからFへ、Fから原告へと所有権が移転され、その旨の登記がなされた。従つて、土地区画整理法第一二九条のいわゆる手続承継の規定により、Cのなした換地不交付の申出の効力は原告に及ぶものである。
2 原告主張の仮換地変更指定処分について
(一) Cの換地不交付の申出がある本件において、被告は、原告の仮換地変更指定処分申請に応答して仮換地変更指定処分をなすべき義務はない。すなわち、仮換地の使用収益権を準共有する者がその相互の間において、仮換地につき各自独立して使用収益できる範囲を合意することは自由であり、この債権的な合意は私法上有効に当事者を拘束する。これは債権的な合意であるから、これに参加していない第三者を拘束するものではないが、準共有にかかる権利についての債権を生ぜしめる合意として、民法第二五四条の準用により仮換地の使用収益権の準共有者の持分の特定承継人に対しては、その者が右合意の存在を知つていたか否かにかかわりなくその効力を及ぼすものである。
ところで、Cは昭和二八年分筆後の(二)及び(三)の各土地(合計面積六一坪二合六勺)をDに譲渡したが、その際、本件分筆前の土地に対する本件仮換地を実測して同一面積を分割特定し、Dの使用収益できる範囲を定めた。さらにCは、昭和三三年分筆後の(四)及び(五)の各土地(合計面積六六坪五合)をEに譲渡し、その際も本件仮換地を実測して同一面積を分割特定し、Eの使用収益できる範囲を定めた。その結果本件仮換地につきCが使用収益できる地積は零となり、Cは前記分筆異動届を被告に提出して、本件土地につき換地不交付の申出をした。これらは、C、D、Eとの間において順次締結された本件仮換地の使用収益権についての分割契約というべき特約である。このように仮換地の使用収益権を準共有する者の間において分割契約がなされた場合、準共有者全員から仮換地の変更指定処分申請があつたときは格別、そうでないときに仮換地の変更指定処分をすれば、いたずらに関係権利者の権利を侵害し法的安定性を損うことになるから、被告が仮換地変更指定処分をすることは許されない。
(二) さらに、原告の仮換地変更指定処分申請に対する被告の対応が仮に違法であつたとしても、本来仮換地処分と換地処分は、それぞれ目的及び効果を異にする別個独立の処分であるから、仮換地変更指定処分申請に対する違法は本件換地処分の違法事由とはならない。
3 原告主張の土地区画整理法第一〇三条第二項違反について
戦災復興事業施行に伴う土地区画整理事業は、(1)事業施行面積が膨大であること、(2)従前の宅地についての現形測量ができないのが多いこと、(3)戦後のインフレーシヨンのため事業用資材の調達にも困難をきわめたこと、(4)戦後の混乱を反映したバラツク等の要移転建築物が増加したこと、(5)事業従事人員、特に経験を有する者の確保が困難であつたこと等の理由から、その完了までに長期間を要している実情である。
本件土地区画整理事業についても、右のような困難な問題に遭遇しながらも、昭和三四年度においてほぼ工事を完了した。
しかして、被告は昭和三七年度中に換地処分を行うべく、宅地価格の評定をも実施し、換地計画を確定するため、これを土地区画整理法第八八条第二項の規定により縦覧に供したのであるが、これに対し利害関係人から四三五〇件にのぼる意見書が提出された。
右意見書の内容の大部分は、清算金の徴収をめぐる関係権利者の利害の対立に基づくものであつたため、換地計画とりわけ土地の評価について再検討することとなつた。そこで、学識経験者をもつて構成する土地評価調査検討委員会に土地評価についての意見を求めたうえ、昭和四九年八月一九日評価員に諮問し、同委員から同年一〇月一二日答申を受けた。そして、昭和四九年一〇月二五日から昭和五〇年二月一二日までの間四回にわたり、土地区画整理審議会協議会を開催した後、同年八月一四日本件土地を含む中部第二工区について換地計画を作成した。被告は、土地区画整理法第八八条第六項の規定により中部第二工区にかかる換地計画について、同年九月中部第二工区土地区画整理審議会の意見を聞いたうえ、同法第八八条第二項の規定に基づき、昭和五〇年一一月二六日から同年一二月九日まで公衆の縦覧に供し、昭和五一年三月一二日中部第二工区換地計画を決定した。(なお、昭和三七年に縦覧に供した換地計画は、昭和五〇年三月八日青森県報において廃止した旨の公告をした。)
右のとおり、本件土地区画整理事業は、事業の開始から終了まで長期間を要したが、これは戦災復興土地区画整理事業施行に伴うやむをえない事情によるものである。また、土地区画整理法自身もそのことを予定しているものであるから、事業が長期間にわたつたからといつて、本件換地処分が無効になるものではない。
4 清算金の算定について
(一) 土地区画整理事業は、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るために、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設または変更の事業を行うものであつて、当該施行区域内の土地を一団とみなし、これよりまず道路、公園等の公共施設の用地を控除したうえ、残地の区画を整然とし、整理前の土地の権利関係を原則として整理後の土地に移行せしめるものである。しかして、従前の土地に照応する整理後の土地(換地)は、土地区画整理法第八九条の定める標準により定めることになるが、具体的な整理事業においては、施行地区内の権利者相互間に不均衡を生ずることがある(換地設計の技術上の制約等から、従前の宅地の利用価値にかかる状況と換地のそれとが完全に一致することは一般にありえない。)ので、この不均衡を是正しようというのが清算金の制度である。すなわち、清算金は、この不均衡を是正し権利者相互間の公平を図るため、照応の原則を適用して換地を決定した後に残る若干の価値的不均衡を金銭の徴収または交付という方法によつて是正するものであつて、宅地の喪失に対してその損失を補償するというものではない。
(二) 従つて、このような清算金の性質からすると、清算金の算定にあたつては、単に従前の宅地と換地との評価額の差を求める(いわゆる差額清算)のではなく、当該土地区画整理事業施行地区における従前の宅地及び換地について、それぞれ宅地価額の総額を求め、次に従前の各宅地の評定価額に、従前の宅地価額総額に対する換地価額総額の割合(これを比例係数という。)を乗じて各宅地の比例権利価額を算定したうえ、右比例権利価額と換地の評定価額の差を求める(いわゆる比例清算)ということになる(この結果、従前の宅地の比例権利価額が換地の評定価額より高額の場合は交付清算金となり、逆の場合には徴収清算金となる。)。
このようにして算出された清算金は、従前の宅地と換地との評価額の差を単に権利保障または不当利得として清算するものではなく、当該土地区画整理事業によつて生じた施行地区内における権利者相互間の不均衡を金銭で清算するとともに、当該事業によつて生じた利益を施行地区内に還元する作用を営むものである。
(三) しかし、例外として、照応の原則の適用のない換地不交付(土地区画整理法第九〇条、第九一条第三項、第九二条第三項、第九五条第六項)等による清算金の場合においては、所有権を喪失することになるから、損失補償の実質を有することになる。
(四) ところで、本件においては換地不交付による清算金処分の形態を採用していることから、一見本件清算金は全記(三)の土地所有権の喪失に対する損失補償でなければならないかのようにも見える。しかし、以下のとおり本件換地処分における清算金は損失補償としての性質を有するものではなく、前記(一)の通常の意味の清算金(以下「不均衡是正調整金」という。)の性質を有するものである。すなわち、前記2のとおり、本件土地はもとCの所有していた土地(本件分筆前の土地)の一部であり、昭和二四年五月七日本件分筆前の土地について仮換地の指定がなされていたところ、その後Cは本件分筆前の土地から分筆後の(二)ないし(五)の各土地を分筆し、そのうち分筆後の(二)、(三)の各土地をDに、同(四)、(五)の各土地をEに譲渡したが、右各譲渡に際しD、Eとの間において、本件仮換地の使用収益権について分割契約を締結し、本件仮換地はすべてD、Eが使用収益するとともに、その代わり換地処分時に交付されるべき清算金を自己が取得することとした。そして、Cに残された本件土地は、国道四号線として拡幅された範囲内にあつて、しかも仮換地指定によつて減歩された地積に相応するものであつた。Cは、右各譲渡に際し、所有権の内容のうち処分権の及ぶ範囲(従前の宅地)と使用収益権の及ぶ範囲(仮換地)とを一致させただけで減歩率について考慮しなかつた。それはCが換地処分時に本件分筆前の土地に照応する本件仮換地がそのまま換地に移行することを承知のうえで、残地である本件土地が国道敷地となり現実に使用収益できない土地であつたことから、これを自己に保留したうえ、前記分割契約に基づく清算金を取得する権利を実効あらしめるため、被告に対し換地不交付の申出をすることによつて、不均衡是正調整金としての性質を有する清算金の交付を受けようと考えていたからである。従つて、Cとしては、本件土地に照応する換地を取得する意思も、また、換地に代わる損失補償を受ける意思も有していなかつた。そして、原告はこのような権利をCからFを経て取得したものであつて、原告の取得した権利は、完全な使用収益権を伴う所有権ではなく、(不均衡是正調整金の性質を有する清算金交付請求権として)金銭債権化された所有権にすぎないのである。
以上のとおり、本件換地処分によつて原告は本件土地について使用収益権を伴う完全な所有権を喪失したわけではないから、本件清算金が損失補償としての性質を有するものでないことは明らかである。
(五) 本件土地区画整理事業における宅地価格の評定
土地区画整理事業における宅地評定方法は、達観式評価方法と路線価式評価方法とに分けられる。
土地区画整理法及び同法施行令並びに同法施行規則には別段の定めがないので、被告は土地区画整理法第六五条第一項の規定により土地区画整理審議会の同意を得て選任された評価員の意見を聞き、土地評価基準及び土地評価要領を定め、同法第三条第四項の規定による本件土地区画整理事業における宅地の評価はこれによることとした。右基準においては、土地区画整理における清算金の制度及び宅地評価の特色を考慮して、最も理論的、科学的な評価方法である「路線価式評価方法」を採用した。
(1) 路線価式評価方法について
路線価式評価方法は、各路線(街路)ごとに標準的な間口と奥行をもつ宅地を基準地として想定し、この基準地の一平方メートル当りの地積(単位地積)に対する価格を算定し、それを標準路線価とし、その標準路線価を基礎として各路線に接する他の画地については、それぞれの画地の特殊性に応じてこれを増減する評価方法である。
(2) 路線価の決定方法について
路線価の定め方には、達観方法、採点方法及び評定算式の方法があるが、本件土地区画整理事業における路線価は、理論的数学的にすぐれている評定算式の方法により算定した。
評定算式方法は、土地の評価を左右する要素の変化に伴う土地の利用の価値の変化の法則を見い出し、これを一定の算式にすることにより、各要素の条件を機械的にあてはめることによつて、土地の利用価値を求める方法である。
この評定算式による路線価は、土地の評価を左右する要素をその類似の性質ごとに道路の性質に関する要素、施設に対する接近性に関する要素及び宅地そのものの性質に関する要素の三要素に集約し、これらの各要素による宅地の利用価値を、街路係数、接近係数及び宅地係数をもつて表わし、この三係数を合計したものである。
路線価の算定式は別表一記載のとおりである。
(3) 路線価の指数換算について
路線価は、普通金円をもつて表示されるが、長期間を要する土地区画整理事業においては、従前の宅地と換地との各評価時点間の貨幣価値の変動を更正する便宜と整理前後の路線価の比較を容易にするため、路線価は円単位の価額ではなく指数に換算し、これを路線価指数として表わす。
路線価指数は、従前の宅地の最高路線価指数を一〇〇〇個として比較換算した指数を各路線について表示する。
(4) 路線価指数の修正について
路線価指数に基づく宅地価格の評定は、各宅地ごとにその位置、形状、面積、道路に接する状態、奥行、間口等が異なることから、各宅地についての特殊な条件を考慮して指数を修正すべき事項(奥行逓減割合、角地修正、間口修正等)によりそれぞれ修正が加えられる。
(5) 評価の時期について
清算金算定の基礎となる従前の宅地及び換地の評価は、多数の権利者に対する取扱いを最も公平かつ合理的に行うために、土地区画整理事業の施行に伴い生じた宅地の利用価値の増進の度合の不均衡が明確になつた時期を基準として、同一時点で評価すべきものである。しかして、その時点は、仮換地の使用収益が全面的に開始される時点、すなわち、工事の概ね完成した時期(工事概成時)が妥当であり、また、戦災復興土地区画整理事業においては、対象地区が膨大であり、右工事完成後も換地処分までには、さらに長年月を要するものであるから、その後の時の経過により土地区画整理事業以外の要因が加わり、土地の利用状況も変化し、評価の要因も変動することが少なくないので、この要因を排除するためにも、工事概成時において評価するのが最も合理的である。
(6) 指数一個の単価について
各宅地の計算結果は指数で表わされており、最終的に換地処分を行うためには指数を金員に換算しなければならない。
本件土地区画整理事業における指数一個あたりの単価は、評価員の意見を聞いたうえ、整理後の換地の最高路線価指数一一七〇個で、その地点の工事概成時である昭和三四年の相続税財産評価額一万九〇九〇円を除することによつて、一平方メートルあたり一六円三〇銭と定めた。
(7) 時点修正について
各宅地の権利価額は総指数一個あたりの単価を乗じて得た金額であるが、本件土地区画整理事業における権利価格は、工事概成時である昭和三四年を基準として昭和三七年の時点で評価した。しかし、昭和三七年から本件換地計画案を作成した昭和四九年まで一二年を経過しているので、法令には特段の定めはないが、この間の時点修正をするのが妥当と考えられた。そこで被告は土地区画整理法施行令第六一条第一項による清算金の分割徴収、交付の場合の利率年六パーセントのほか、昭和三七年から昭和四九年までの公定歩合、卸売物価指数の上昇率、民法所定の利率、商事法定利率等を参考にして、権利価額に対する年利六パーセントの割合による複利計算をして得た額を時点修正分金額として権利価額に加算した。
(六) 本件土地の評価
本件土地を土地評価基準及び土地評価要領に従つて評価すると、次のとおりである。
(1) 路線価の算定について
本件土地の利用状況は、北側の国道四号線に面した部分は中程度の商業地であり、西側の市道(側道)に接する部分は中以下の商業地である。これを基礎に本件土地の路線価を計算すると、別表二「本件土地の路線価算定表」記載のとおり、国道の路線価は一三・四五四、国道の路線価は三・三八八となる。
(2) 路線価指数の算定について
路線価は小数以下三位で算出されるため、各路線価との比較に難があり、これを容易にするため土地区画整理事業施行前の土地の最高路線価を一〇〇〇個として換算した指数により表示する。その算定式は、
路線価指数=路線価× 1000/事業施行前の土地の最高路線価
と表わされるところ、土地区画整理事業施行前の土地の最高路線価は、新町通り「カネ長デパート」付近の三一・三五〇であつたので、本件土地が接する国道の路線価指数は、
13,454× 1000/31,350 ≒430(個)
また側道の路線価指数は、
3,388× 1000/31,350 ≒110(個)
とそれぞれ算出することができる。
(3) 平方メートルあたりの指数について
本件分筆前の土地は別紙図面のとおり不整形な土地であつたため、その評価を一律に行うことができないので、別紙図面<イ><ロ><ハ><ニ>に区分したうえ各部分の指数を算出し、その合計指数を合計地積で除して平方メートルあたりの指数を求めた。その算式は次のとおりである。
<イ>の部分の指数=路線価指数×地積×6メートルの奥行逆逓減百分率
(35618個=430個×84.87m2×0.976)
<イ>の部分の加算指数=路線価指数×角地部分地積×角地加算率
(653個=110個×84.87m2×0.07)
<ロ>の部分の指数=路線価指数×地積×5メートルの奥行逆逓減百分率
(4306個=430個×10.43m2×0.960)
<ハ>の部分の指数=路線価指数×地積×4メートルの奥行逆逓減百分率
(14382個=430個×35.81m2×0.934)
<ニ>の部分の指数=路線価指数×地積×2メートルの奥行逆逓減百分率×三角地修正係数
(451個=110個×5.22m2×0.826×0.95)
平方メートルあたり指数=合計指数÷合計地積
(406個=55410個÷136.33m2)
(4) 評定指数の算出について
本件土地区画整理事業においては、登記簿上の地積を基準として換地を交付しているために、評価の段階で、登記簿上の地積に縄延率(施行面積と登記簿上の地積に事業施行前の公共用地施設用地の面積を加えたものとの比一・〇〇九)を乗じて基準地積を算出し、これに平方メートルあたりの指数を乗じて評定指数を求めた。
基準地積=登記簿上の地積×縄延率
(137.55=136.33×1.009)
評定指数=基準地積×平方メートルあたりの指数
(55845=137.55×406)
(5) 所有権の比例権利指数の算出について(比例清算)
交付清算金と徴収清算金の総額を同額とするために評定指数に比例率を乗じて所有権の比例権利指数を求めた。比例率は、換地処分後の土地の評定指数の総計を事業施行前の土地の評定指数の総計で除した一・〇三七四九八六九九である。
所有権の比例権利指数=評定指数×比例率
(57939=55845×1.037498699)
(6) 所有権の権利価額の算出について
所有権の権利価額は比例権利指数に指数一個の単価を乗ずることにより求められる。
所有権の権利価額=所有権の比例権利指数×指数1個の単価
(944406=57939×16.3)
(7) 時点修正について
前記(五)(7)のとおり、評価時点である昭和三七年から評価員に諮問した昭和四九年まで一二年を経過していたので、その間の時点修正分金額として権利価額に年利六パーセントの割合による複利計算して得た額九五万五七三九円を加えた。
(8) 清算金の決定
所有権の権利価額九四万四四〇六円に時点修正分金額九五万五七三九円を加えた金一九〇万〇一四五円を本件土地に対する清算金として決定した。
以上のとおり本件清算金の算出については何ら違法な点はない。
(七) 仮に本件換地処分における清算金が損失補償としての性質を有するとしても、本件清算金の算定は相当である。すなわち、憲法第二九条第三項の「正当な補償」の意義については相当な補償で足りると解されているところ、換地不交付の場合、権利者が失うのは従前の土地としての宅地であるから、従前の宅地の価格に基づき合理的に算出された相当な額が清算金額となるはずである。右の評価の基準時は前記のとおり工事概成時と解すべきであるが、換地不交付清算金処分の場合権利者は従前の宅地の所有権を失うことになるから、工事概成時から時点修正(年六パーセント)することになる。本件土地については(六)のとおり権利価額が九四万四四〇六円、時点修正分金額が九五万五七三九円となる。右金額は本件土地の時価と完全には一致しないとしても、路線価式評価方法という合理的な方法によつて算出されたものであるから、相当な補償金額にあたるというべきである。
(八) 仮に、本件清算金が損失補償の性質を有し、その算出方法に瑕疵があつたとしても、判例、通説によれば行政処分が無効となるのは「重大かつ明白な」瑕疵が存する場合であるとされているところ、本件換地処分における特殊事情(前記三の4の(四))を考慮すれば、その瑕疵は到底「重大かつ明白」とはいえないから、本件換地処分が無効になることはない。
(予備的請求について)
(本案前の主張)
原告に対する本件換地処分の通知は、遅くとも昭和五一年四月初めころ原告に到達した。従つて、原告は昭和五一年四月初めころ本件換地処分を知つた。
しかるに、本件訴は昭和五一年一〇月一八日提起されたものであり、かつまた、原告は本件換地処分に対して審査請求をした事実もないから、本件予備的請求は、行政事件訴訟法第一四条所定の出訴期間を徒過した後の訴として不適法であつて、却下を免れない。
(本案の主張)
主位的請求についての被告の主張と同一であるからこれを引用する。
四 被告の主張に対する原告の認否
(主位的請求について)
1 被告の主張1のうち、Cが被告に対し土地の分筆異動届を提出したことは知らない。仮にCが分筆異動届を提出したとしても、右分筆異動届が換地不交付の申出にあたること及びCのなした換地不交付の申出の効力が原告にも及ぶことはいずれも争う。
2 同2の(一)のうち、CがD、Eとの間において本件仮換地の使用収益権について分割契約を締結したことは否認する。
同2の(二)のうち、仮換地変更指定処分を怠つた違法が本件換地処分の違法事由にならないとの主張は争う。
3 同3のうち、本件土地区画整理事業の遅延がやむをえない理由に基づくものであることは否認する。
4 同4のうち、本件換地処分における清算金が不均衡是正調整金としての性質をもつものであること、本件清算金の額が憲法第二九条第三項所定の「正当な補償」の範囲内にあること及び本件清算金算定における瑕疵が重大かつ明白ではないとの主張はいずれも争う。
(予備的請求について)
被告の本案前の主張のうち、本件換地処分の通知が昭和五一年四月初めころ原告に到達したこと、原告が昭和五一年一〇月一八日本件訴を提起したことは認めるが、本件予備的請求が出訴期間を徒過した後の訴であるとの主張は争う。
五 被告の主張に対する原告の反論
1 換地不交付の申出について
(一) 土地区画整理事業においては、土地に関する権利関係の変更が本体であり、清算金に関する権利義務の設定はあくまで補充的なものである。取引上通常換地がないことは予想されず、換地不交付の申出による金銭清算は、本来の土地区画整理とは異質の、土地収用と同一の結果となるものであるから、その手続はとりわけ慎重になされるべきである。また、換地不交付の申出は、当然その際予想される清算金額を前提としてなされるものである。このようなことを考慮すると、換地不交付の申出は(1)換地計画の作成に際し、(2)換地計画作成時の土地所有者により、(3)私人の公法行為として、その意思を明確にした書面によりなされなければならないと解すべきである。しかるに、本件の場合右(1)ないし(3)のいずれの要件も充たされていない。
(二) 被告は、Cが被告に提出した土地分筆異動届をもつて換地不交付の申出にあたると主張するが、土地分筆異動届は、被告がその施行規程により土地を分筆した者は分筆前後の地番、地積等につき届出ることを定めたものにすぎず、換地不交付の申出の意思表示をする書式ではない。そのうえ、右分筆異動届は被告が権利者、権利状態を把握するためのものにすぎない。他方換地不交付の申出は重大な権利関係の変更をもたらすものであつて、その内容、効果において異質なものであるから、分筆異動届によつて換地不交付の申出の意思を確認するということはできない。
(三) 仮に、Cが被告に提出した土地分筆異動届が換地不交付の申出にあたるとしても、以下のとおり原告に対しその効力が及ぶことはない。
(1) 換地不交付の申出は土地区画整理法第一二九条所定の「処分、手続その他の行為」にはあたらない。すなわち、土地区画整理事業においては本来換地を交付すべきものであつて、取引上通常換地がないことは予想されない。従つて、取引の安全上登記なくして換地不交付の申出の効力の承継を認めることは、譲受人に不測の損害を与えることになるから許されないというべきである。
(2) 土地区画整理法第九〇条は、土地所有者が換地不交付の申出をしようとする場合、右土地について地上権等土地を使用収益できる権利を有する者がいるときには、その者の同意も得なければならない旨規定する。ところで、本件のように仮換地指定後従前の宅地が分筆、譲渡されて各筆の所有者を異にするようになつた場合、各筆所有者は、各筆に対応する換地が確定するまでは、その所有地積に応じ、確定されるべき換地を共有し、仮換地使用収益権を準共有しているから、換地不交付の申出をしようとする際には各筆所有者全員の同意が必要であつて、一筆だけの所有者単独では有効に申出をなしえないと解すべきである。
(3) 土地区画整理事業は、土地区画整理を実施し、整理前の土地に対してそれに照応する整理後の土地(換地)を指定したうえ、それに伴う各権利者の不均衡を清算金の交付、徴収という手段で是正するものであるから、現実に指定された換地の地積が従前の土地の地積より少ない場合であつても、その減歩された地積について換地不交付の申出をすることによつて清算金の交付を受けられないことはその性質上当然である。ところで、被告が主張するように、Cが本件土地区画整理事業によつて減歩され、国道敷となつて使用収益できない本件土地について換地不交付の申出をしたというのであれば、それは減歩された地積についてCが清算金の交付を受けることを認めることになつてしまう。従つて、このようなCの換地不交付の申出は、同人の不当な利益を図るために、被告の職員と結託してなした違法な申出というべきであつて、かかる違法な申出の効力が本件土地の善意の譲受人である原告に対して承継されることはない。
2 土地区画整理法第一〇三条第二項違反について
本件土地区画整理事業が遅延したのは被告の換地計画がずさんであつたために、多くの市民の抵抗を受け、昭和三七年に縦覧に供した換地計画が実施できなかつたからであつて、遅延した責任はすべて被告にある。
3 清算金の算定について
(一) 清算金算定のため土地を評価するにあたり、その評価時点を工事概成時(昭和三四年)とすることは誤りである。すなわち、土地の利用価値は正確には時々刻々変わるから、昭和三七年の換地計画作成に際し昭和三四年当時の土地の価値を評定することは困難であり、まして、昭和五一年の換地計画作成に際し昭和三四年当時の価値を評定することは至難であつて恣意的にならざるをえない。土地区画整理事業後それと関係のない評価要因が生じたときは、その要因につき適切な考慮を払えば足りる。とりわけ、路線価指数一個の単価を算定する場合、工事概成時である昭和三四年を基準とする理由はない。
(二) 本件土地の評価は換地処分時の時価によるべく、昭和三四年を評価時点とした不均衡是正のための路線価方法によるべきでない。さらに、本件土地の路線価の算定にあたつても恣意的な算定がなされている。すなわち、本件土地は分筆により四一坪二合四勺になつたということがわかつているだけで、その位置、形状は正確には判明していないのであるから路線価の算定は恣意的にならざるをえないうえ、路線価の算定にあたつて被処分者から徴収する清算金の額を少なくするため、街路係数におけるt(街路系統、連続性等街路の性質を表わす係数)の値、接近係数におけるm(対象施設の影響力の強さを表わす係数)の値、宅地係数におけるU(宅地に対する建築物の容積的利用の程度および画地割による建築密度により表わす係数)の値等その採用に幅のあるものについてその数値を加減、操作したものである。
(二) さらに、時点修正分の金額を算定するにあたつても年六パーセントの割合による複利計算をするだけでは足りず、少なくとも物価による修正(平均上昇率による)を超え、または盛込まれたものでなければならない(日本不動産研究所全国市街地価格によると、昭和三〇年三月三一日時点の地価を一〇〇とすると、昭和三四年三月三一日時点の地価は二二〇、昭和五一年三月三一日時点の地価は二七一二となつている。)。
4 出訴期間の起算日について
換地処分は、土地区画整理事業施行地区内全部につき同時に効果を生ずべきもので、そのために土地区画整理法は換地処分の効力の発生を公告にかからしめているのであるから、換地処分の通知と公告は一体となつているというべきである。また、清算金の交付を受ける権利は換地処分の公告により確定し、交付を受けるべき相手方も公告時の権利者である。従つて、出訴期間の起算日も本件換地処分の公告の日の翌日である昭和五一年八月一一日と解すべきであるから、本件予備的請求が出訴期間を徒過しているということはない。出訴期間の起算日を換地処分通知の日の翌日とすることは、そもそもその必要がないばかりでなく、各人ごとに換地処分の内容が確定する日が異なることになつて、効力を一斉に生じさせようとする法の趣旨にも反することになる。
六 原告の反論に対する被告の認否及び再反論
1 原告の反論1ないし4はいずれも争う。
2 換地不交付申出の主体、時期等について
(一) 換地不交付の申出をなすべき時期については法律上何の規定もないうえ、権利者が右申出をなす動機が多種多様であることからすると、右申出は土地区画整理事業開始時から換地処分の効力が発生するまで自由になしうると解すべきである。右の時期は申出が土地区画整理事業に有効にかかわることの可能な期間であつて、申出をなすべき時期を換地計画作成時に限定する合理的な理由はない。また、換地不交付の申出をなすべき主体は、右の期間中の土地所有者であれば足り、換地計画作成時の所有者でなければならないものではない。さらに、換地不交付の申出が書面によつてなされれば事務処理上便利であり、後日の紛争防止のため役立つことは考えられるが、要は権利者の意思が明確でありさえすればよいのであつて、法令等に規定がないことからしても、必ずしも書面によらなければならないものではない。
(二) そして、一旦換地不交付の申出がなされた場合、その後に権利変動があつたとしても、右申出の効果は土地区画整理法第一二九条の規定により、右権利を取得した者に対して及ぶことになる。原告は換地不交付の申出は登記をしなければその後に権利を取得した者に対して対抗できないと主張するが、同法第一二九条の立法趣旨並びに右申出について登記を対抗要件とする旨の規定の存しないこと及び現行法上右申出を登記する方法がないこと等からして原告の主張は失当である。
(三) 仮換地指定後従前の土地が分筆、譲渡されて各筆の所有者を異にするようになつた場合、各分筆所有者が仮換地使用収益権を準共有するとしても、他の準共有者は土地区画整理法第九〇条の「……その他の宅地を使用し、又は収益することができる権利を有する者」には該当しない。右規定の趣旨は、宅地について所有者以外の第三者が正当な使用収益権を有している場合、それらの者の同意がないまま換地不交付清算金処分をすることになれば、換地が存在しなくなつて、右の第三者の使用収益権が消滅してしまうことになるので、第三者の利益を保護するためこれらの者の同意を必要としたのである。ところで、仮換地使用収益権の準共有者は、当人が同意をしない限りいずれ換地処分によつて従前の土地同様宅地の単独所有者になる者であつて、賃借権者のように換地不交付により使用収益権が消滅する者とは根本的にその立場を異にするから、分筆後そのうちの一筆について換地不交付の申出をする場合、他の分筆所有者の同意は要しないと解すべきである。
3 出訴期間の起算日について
原告は、本件予備的請求についての出訴期間の起算日を本件換地処分の公告の日の翌日である昭和五一年八月一一日であると主張するが、同日を起算日とするのは公告自体に瑕疵があることを理由とする場合に限られ、本件のように換地処分の内容に瑕疵があることを理由とする場合には、被処分者に換地処分の通知が到達した日の翌日を起算日とすべきである。
第三証拠 <略>
理由
第一主位的請求について
一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
右争いのない事実に<証拠略>、弁論の全趣旨を加えると、次の事実が認められる。
1 Cが本件分筆前の土地(一六九坪)を所有していたこと、被告が昭和二四年五月七日本件分筆前の土地について本件仮換地(一二〇坪五合)を指定し、そのころ本件分筆前の土地所有者Cにその旨通知したこと、
2 Cは昭和二八年一〇月一二日本件分筆前の土地から分筆後の(二)、(三)の各土地を分筆し、Dに対し同年一一月九日分筆後の(二)の土地を、同年一〇月二〇日分筆後の(三)の土地を売渡し、各同日所有権移転登記を経由したこと、右各売渡に際して、Cは本件仮換地を実測し、本件仮換地上に分筆後の(二)、(三)の各土地の登記簿上の地積と同じ面積の土地部分を分割して場所を特定し、右土地部分をDの使用収益できる範囲と定めて同人に引渡したこと、従つて、Cの所有する青森市<以下省略>宅地一六九坪(本件分筆前の土地)の地積は、右分筆後一〇七坪七合四勺となつたこと、
3 Cは、昭和三三年一月九日右一三一番九宅地一〇七坪七合四勺から分筆後の(四)の土地を分筆し、一三一番九宅地の地積は四四坪七合四勺となり、さらに昭和三三年一一月一三日右一三一番九宅地四四坪七合四勺から分筆後の(五)の土地を分筆し、一三一番九宅地の地積は四一坪二合四勺(本件土地)となつたこと、Cは昭和三三年一二月一一日Eに対し分筆後の(四)、(五)の各土地を売渡し、同日各所有権移転登記を経由したこと、右各売渡に際し、Cは本件仮換地のうちDに引渡した土地部分を除くその余の部分をEの使用収益できる範囲と定めて同人に引渡したこと、従つて、Cが本件仮換地のうち現実に使用収益できる部分はなくなつたこと、
4 本件土地の所有者Cは昭和三四年九月一四日被告に対し土地の分筆異動届を提出したこと、被告が定めた分筆異動届の様式は、被告が将来換地処分をする際の準拠とするため、分筆後の各筆の地番、地目、地積を記載するだけでなく、分筆後の各土地に対応する換地地積を記載するとともに、分筆後の各土地に対応する仮換地の部分を特定した換地分割図を添付するようになつていたこと、Cは右定めに従つて右届出をしたものであつて、分筆後の(四)、(五)の各土地については、その地積と同じ地積をそれぞれ対応する換地地積として記載するとともに、本件土地四一・二四坪については対応する換地地積がないものとして記載せず、換地分割図においても、本件仮換地は分筆後の(二)ないし(五)の各土地に該当するものとするとともに、本件土地については国道四号線の敷地部分として本件仮換地上に対応する部分がないものとしたこと、
5 Cは昭和二二年七月一五日から昭和三一年三月三一日まで土地区画整理事業の土地整理委員をしていたこと、Cは本件土地について被告から清算金が交付されるのであれば、これを受けようと考えて、被告に右のとおり分筆異動届を提出したものであること、
6 土地区画整理事業において換地不交付の申出がなされるのは、仮換地指定後、従前の宅地が分筆され、そのうちの一部分についてなされることが多く、行政実務上Cの提出した分筆異動届のように、分筆後の土地のうちの一筆についてそれに対応する換地地積の記載がなく、残余の土地について記載されている換地地積の合計が従前の宅地に対して指定されている仮換地の地積と一致する場合には、右分筆異動届は通常換地不交付の申出として取扱われており、本件土地区画整理事業においても昭和四一年三月まで約四〇〇件にのぼる事案について同様の取扱いをしてきたこと、
7 Cは昭和三四年九月二九日Fに本件土地を売渡し、同日所有権移転登記を経由し、Fは昭和三五年二月一〇日原告に本件土地を代物弁済として譲渡し、同年二月一一日所有権移転登記を経由したこと、
8 被告は、土地区画整理法第一〇三条第一項の規定により、昭和五一年三月二三日付書面をもつて原告に対し、本件換地処分の通知をしたこと、右通知書は遅くとも昭和五一年四月初めには原告に到達したこと、
9 被告は土地区画整理法第一〇三条第四項の規定により昭和五一年八月一〇日本件土地の所在する中部第二工区について換地処分の公告を青森県報に掲載して行つたこと、
以上の事実が認められる。右認定を覆えすに足りる証拠はない。
二 以上の事実に基づいて本件換地処分の効力について判断する。
1 Cの換地不交付の申出について
(一) 原告は、「換地不交付の申出は、(1)換地計画の作成に際し、(2)換地計画作成時の土地の所有者により、(3)私人の公法行為として、その意思を明確にした書面によりなされなければならないのに、Cの提出した分筆異動届は右要件を具備していない。」旨主張する。しかし、換地不交付の申出をなしうる時期については土地区画整理に関する法令にこれを制限する明文の定めがないこと、換地不交付の申出は換地計画において清算金額が定められる以前であつてもできないわけではないこと、土地区画整理事業はその性質上事業の開始から換地計画作成に至るまでに相当の年月を要するものであるのに、その間換地不交付の申出を全くなしえないとする合理的な理由はないこと等に照らせば、換地不交付の申出をなしうる時期は換地計画作成時のみに限定する必要はなく、事業が開始された後で換地処分がなされる以前であれば自由にこれをなしうるものと解するのが相当である。また、換地不交付の申出はそれが定型化された書面によりなされれば、事務処理上便利であるうえ後日の紛争を未然に防止することに資するので望ましいけれども、土地区画整理に関する法令には書面によらなければならない旨を定めた規定はないから、必ずしも定型化された書面によらなくともさしつかえないというべきである。
しかして、前記一の事実によると、本件分筆前の土地に対し本件仮換地の指定がなされた後、本件土地の所有者Cが昭和三四年九月一四日被告に対し土地分筆異動届を提出した行為は、土地区画整理法第九〇条に定める「本件土地の全部について換地を定めない旨の宅地の所有者の申出」にあたるものと認めるのが相当である。
(二) なお、原告は、「仮換地指定後、従前の宅地が分筆、譲渡されて、各筆の土地の所有者を異にするようになつた場合に、そのうちの一筆の土地所有者が換地不交付の申出をするには、他の各筆の土地の所有者の同意が必要であるのに、Cは他の土地の所有者の同意を得ていない。」旨主張する。なるほど、仮換地の指定後、従前の宅地が分割譲渡されて所有者を異にする二筆以上の宅地となつた場合においては、施行者により各筆に対する仮換地を特定した変更指定処分がなされない限り、各所有者は、仮換地全体につき、従前の宅地に対する各自の所有地積の割合に応じ使用収益権を共同して行使すべき、いわゆる準共有関係にあるものと解すべきである。(最判昭和四三・一二・二四民集二二・一三・三三九三)。しかし、前記一の事実によると、Cは、本件仮換地の特定の一部分をDに売渡して、同人が使用収益することを認め、さらに本件仮換地の残部をEに売渡して、同人が使用収益することを認め、かつ、右各売渡部分について従前の宅地を分割してその分筆登記を経由したものであり(仮換地の特定の部分について売買契約がなされ、その部分について使用する権能を認める合意が有効であることにつき、最判昭和四三・九・二四民集二二・九・一九五九等参照)、本件土地については、本件仮換地の使用収益部分なしと定めたことが認められる。そして、C、D間、C、E間の右各合意は私法上有効に合意の当事者を拘束するものであつて、換地処分があつたときは、右各合意に基づいて換地の分筆が行われるものである。従つて、施行者により分筆後の(二)ないし(五)の土地に対する仮換地を特定した変更指定処分がされていない本件において、本件土地の所有者で、本件仮換地の準共有者であるCが、本件土地について換地不交付の申出をしても、D、Eの利益をなんら害するものではないから、Cは、その所有の本件土地について単独で換地不交付の申出をなすことができ、分筆後の(二)ないし(五)の土地の各所有者の同意を要しないものと解すべきである。
(三) 前記一の事実によると、Cが昭和三四年九月一四日被告に対し換地不交付の申出をした後に、本件土地は昭和三四年九月二九日CからFに、昭和三五年二月一〇日Fから原告に譲渡され、その旨の登記が経由されたことが認められる。ところで、このように土地区画整理事業の施行にかかる土地の所有者が換地不交付の申出をした後、右土地の所有者に変動があつた場合、前所有者がなした換地不交付の申出は土地区画整理法第一二九条所定の「土地区画整理事業の施行に係る土地について権利を有する者がした処分、手続その他の行為」として、その効力は新所有者に承継されるものと解するのが相当である。従つて、Cがなした換地不交付の申出は、土地区画整理法第一二九条の規定により、原告がしたものとみなすべきである。
なお、原告は、「登記なくして換地不交付の申出の効力の承継を認めることは許されない。」旨主張するが、不動産登記法上換地不交付の申出を登記する方法がないから、右主張は採用できない(なお、土地区画整理事業の施行にかかる土地の所有権を取得しようとするものは、右土地取得前に施行者から、その土地について換地不交付の申出がなされていないかどうかを確認すべきである。)。
(四) 原告は、「Cの換地不交付の申出は、同人の不当な利益を図るため被告の職員と結託してなした違法な申出というべきであるから、右換地不交付の申出の効力は原告には承継されない。」旨主張する。しかし、前記一の事実によると、Cの換地不交付の申出は、同人の不当な利益を図るためになしたものとは認められないから、原告の右主張は採用できない。
2 仮換地変更指定処分について
<証拠略>によると、原告が被告に対し、昭和三八年一二月一〇日付、昭和四三年五月三一日付及び昭和四五年一二月二四日付各書面で仮換地変更指定処分の申請をしたが、被告はこれに対し何の応答もしなかつたこと、さらに原告は昭和四六年五月七日付書面で被告の右不作為に対し異議申立をしたところ、被告はこれに対しても何の応答もしなかつたことが、いずれも認められる。証人Gの証言中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。しかし、仮換地指定処分及び仮換地変更指定処分と換地処分とは、別個独立の行政処分であつて、仮換地の効力は、換地処分が効力を生じたときに消滅するから、仮換地指定処分及び仮換地変更指定処分に瑕疵があつても換地処分の効力に影響を及ぼさない。従つて、原告の仮換地変更指定処分の申請、異議の申立に対し、仮に被告の行為に瑕疵があつたとしても、本件換地処分を無効とする事由とはならない。
3 土地区画整理法第一〇三条第二項違反の有無について
前記一の争いのない事実によると、本件土地区画整理事業は昭和二一年九月四日事業決定がなされ、昭和二二年六月一八日内閣総理大臣の設計認可を得、同月三〇日事業計画の決定公告がなされたこと、昭和三四年度においてほぼ工事が完了したこと、本件換地処分がなされたのは遅くとも昭和五一年四月初めであり、その旨の公告がなされたのは同年八月一〇日であることが認められる。
<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 本件土地区画整理事業を含む戦災復興土地区画整理事業は、戦後のインフレーシヨンによる事業用資材の不足、調達の困難等の理由から事業の遂行に多大の障害を伴い、事業の完了までに長年月を要することを余儀なくされた。特に本件土地区画整理事業は、その施行面積が約四〇〇ヘクタールに及んだうえ、施行地区内の関係権利者数も一万人を超えるという膨大なものであつて、その規模において戦災復興土地区画整理事業を施行した全国一〇二都市のうちで大きい方から一二番目に位置するものであつた。
(二) 右のような幾多の困難にもかかわらず、被告は昭和三四年度においてほぼ工事を完了したので、昭和三七年度中に換地処分を実施すべく換地計画を作成し、関係権利者の縦覧に供したところ、利害関係人から四三五〇件にものぼる意見書が提出された。右意見書の大部分は、換地処分において徴収される清算金の金額が高額すぎるというものであつた。
(三) ところで、昭和三七年に作成された換地計画においては、宅地を評価する際の基準として建設省が昭和二五年に作成した宅地利用増進率算定標準を採用していたが、右宅地利用増進率算定標準においては、事業施行地区内の宅地の最高価額と最低価額の比が一二対一と表示されていた。しかし、同一の宅地についての固定資産税評価額あるいは相続税財産評価額では右の比率が二七対一となつていて二倍以上の差があつたことから、右宅地利用増進率算定標準を本件土地区画整理事業において、そのまま採用することは適当でないと考えられたため、被告は事業施行地区内の宅地の評価を含め昭和三七年の換地計画を再検討することにした。
(四) 被告は、このような方針に基づき宅地の評価をし直したが、そのために本件換地計画案を作成した昭和四九年までの一二年間を要した。ところで、昭和二二年六月一八日内閣総理大臣が設計認可した事業計画では施行期間が昭和二四年までと定められていたが、施行期間が延長されるに伴い、その都度土地区画整理法所定の手続を履践して事業計画が変更されてきた。
(五) なお、戦災復興土地区画整理事業においては、前記一〇二都市のうち一〇都市が未だ事業が完了していない状態にある。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
以上の事実によると、本件土地区画整理事業においては事業の開始から完了まで約三〇年という長年月を要したが、それは事業施行に伴うやむをえない理由に基づくものと認められる。また、本件土地区画整理事業については、当初の事業計画よりその施行期間が延長されたが、その都度適法に事業計画が変更されたことが認められる。従つて、本件土地区画整理事業がその完了までに長年月を要したけれども、それが直ちに土地区画整理法第一〇三条第二項の規定に違反するものとはいえないから、本件換地処分が無効となるものではない。
4 本件清算金について
(一) 本件清算金の性質
(1) 土地区画整理は、都市計画区域内の一定範囲の土地を健全な市街地に造成するため、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図ることを目的として、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設または変更に関する工事をする事業であつて(土地区画整理法第二条第一項)、当該施行区域の土地を一団とみなし、これから必要な道路、公園、広場等の公共施設の用地をまず控除したうえ、残地の区画形質を整然とし、整理前の土地の権利関係を原則として整理後の土地(換地)に移行せしめるのである。そして、換地は従前の土地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等に照応するように定められなければならないが(同法第八九条第一項)、具体的な土地区画整理事業においては、公益上の必要及び換地設計上の技術的理由から、換地相互間に若干の不均衡が生ずることはやむをえないところであつて、その不均衡を金銭で是正しようとするのが清算金の制度であると解される。この場合において、最も公平に換地指定されるべき換地各筆の価額と現実に指定された換地各筆の価額とを比較し、後者が大となる場合には両者の差額を土地の権利者から徴収し、逆に後者が小である場合には両者の差額を土地の権利者に交付することになる。
ところで、換地不交付となつた土地や創設換地された土地、適正化により増換地または強減歩を受けた土地については、右と事情を異にし、換地照応の原則の適用外にあつて、著しく損失を受けまたは利益を得るものであり、換地相互間の不均衡是正という右の清算金の性質になじまないから、実質的には損失補償金の支払または不当利得金の徴収として処理しなければならないと解するのが相当である。
以上要するに、換地処分において土地区画整理法第八九条第一項所定の照応の原則の適用がある場合の清算金は不均衡是正調整金としての性質を有し、反対に照応の原則の適用のない場合の清算金は損失補償または不当利得としての性質を有するものと解するのが相当である。
(2) そこで、本件清算金の性質について検討する。
前記一の事実によると、本件分筆前の土地がかつてCの所有していた一筆の土地であつたこと、昭和二四年五月七日本件分筆前の土地について本件仮換地が仮換地として指定されたことが認められる。<証拠略>を総合すると、本件土地区画整理事業における換地処分に際しては、仮換地が概ねそのまま換地に移行したこと、Cが換地不交付の申出をしなければ、本件土地に対して換地として指定されたはずの地積はすべて分筆後の(二)ないし(五)の各土地に換地として指定され、その結果この部分を含めて分筆後の(二)、(三)の各土地に対しては二〇七・七三平方メートル、同(四)、(五)の各土地に対しては二一五・九五平方メートルの換地が、それぞれ指定されたことが認められる。
右事実によると、本件土地を含む本件分筆前の土地を全体として見れば、それに対して照応の原則に適合するように換地の指定があつたものと認められる。ただ本件土地について換地不交付の申出がなされたため、右申出がなかつたならば本件土地に対して換地として指定されたはずの地積が、すべて分筆後の(二)ないし(五)の各土地の換地に指定されるとともに、本件土地については換地不交付清算金処分がなされたものと認められる。
このように従前の宅地を分筆した後、そのうちの一筆について換地不交付の申出があつたため、その部分については換地不交付清算金処分を行う場合、その部分を含めた従前の宅地を全体として見れば、それに照応する換地の指定がなされているときには一応照応の原則が満たされていると考えられるから、全く照応の原則の適用の余地のない場合とは事情を異にし、その際交付する清算金は土地を喪失したことに対する損失補償金としての性質を有するものではなく、不均衡是正調整金としての性質を有するにすぎないものと解するのが相当である。このような場合においても、原告の主張するように、清算金は土地を喪失したことに対する損失補償金の性質を有するものとすれば、換地不交付の申出にかかる土地の所有者にとつては、分筆前の宅地について、一方ではそれに照応する換地の指定を受けながら、他方では分筆後の宅地について、その所有権を喪失したこととして損失補償金の支払を受けられることになつて、全体としてみれば分筆後の宅地について二重取りすることを肯認することになつてしまうので、不合理であるといわざるをえないからである。
そして、右のように解することが最もよく関係権利者の意思に合致するとともに、土地区画整理事業の継続的かつ円滑な運営にも資することになるものと考えられる。(なお、換地不交付の申出にかかる土地をその後取得した第三者が、不均衡是正調整金としての清算金しか交付されないとすると、不測の損害を受けることもあり得るけれども、そのようなときは右第三者は当該土地の譲渡人に対して民法第五七〇条等により損害賠償等の請求をすることができるから、その保護に欠けるところはないというべきである。)
従つて、本件においては、不均衡是正調整金としての性質を有する清算金で足りるものというべきである。
(3) 右のとおり、本件清算金が不均衡是正調整金としての性質を有するものとすれば、その算定にあたつてはいわゆる比例清算方式を採用するのが相当である。
<証拠略>を総合すれば、本件清算金の算定にあたつて、被告が比例清算方式を採用したこと、比例清算方式の内容が被告主張(被告の主張4、(二))のとおりであることが認められる。
そうすると、被告が本件清算金の算定にあたつて、まず本件土地区画整理事業施行地区内における従前の土地及び換地についてそれぞれ宅地価額の総額を求め、次に本件土地の評定価額に、従前の宅地価額総額に対する換地価額総額の割合(比例係数)を乗じて比例権利価額を算定したうえ、比例権利価額と換地の評定価額の差を求めた(もつとも、本件の場合換地が交付されなかつたので換地の評定価額は零となる。)のは相当な方法であつたということができる。
(二) 本件土地の評価方法等
(1) <証拠略>を総合すれば、土地区画整理事業における土地の評価の方法としては、達観式評価方法と路線価式評価方法の二とおりの方法があること、本件土地区画整理事業においては、そのうち路線価式評価方法を採用したこと、路線価式評価方法の内容が被告主張(被告の主張4、(五))のとおりであることが認められる。
土地区画整理事業における土地の評価は、施行地区内の広大な面積にわたり、しかも多数の従前の宅地、換地の双方につき、同一時点で公平かつ迅速に、その事業による利用価値の増進を把握するためになされるものであることに鑑みれば、土地の評価にあたつては、右の目的に適う路線価式評価方法を採用することが相当である。
(2) <証拠略>を総合すると、本件土地区画整理事業においては、土地の評価をするにあたり工事概成時である昭和三四年度を基準としたこと、路線価指数一個あたりの単価を金員に換算するに際しても工事概成時である昭和三四年度の相続税財産評価額を基準としたこと、被告は本件清算金の算定にあたり、当初換地計画を作成した昭和三七年から本件の換地計画を作成した昭和四九年までの一二年間について、時点修正分として年六パーセントの利率による複利加算をしたことが認められる。
そこで、被告のなした右の措置が適法であるかどうかについて検討する。
土地区画整理事業の施行地区内においては、工事が概成すると、ほとんどすべての仮換地について使用収益が開始され、土地の利用価値の増進の度合の不均衡が顕在化されるうえ、時が経過するにつれ、土地区画整理事業以外の要因により土地の利用状況も変化し、評価の要因も変動するから、この要因を排除するためにも、工事が概成した時点で土地の評価をするのが合理的である。なお、原告は、「換地計画作成の段階において工事概成時における土地の利用状況等を評価することは困難であつて恣意的にならざるをえない。」旨主張する。しかし、換地計画作成の段階においても、工事概成時の現況図、航空写真等の資料により土地の評価は適正になしうるものというべきであるから、右主張は理由がない。
そして、本件清算金は前記のとおり、換地相互間の不均衡を是正するためのものであるから、路線価指数一個あたりの単価を金員に換算するにあたつて、施行地区内の権利者の相当数が納得する工事概成時の相続税財産評価額を基準としたとしてもさしつかえないというべきである。
さらに、工事概成時から換地処分時までの間に相当の年月を経過した場合、換地処分以前の段階で清算金の仮清算をすることが妥当である。しかし、仮清算をしなかつた場合に、工事概成時から換地処分時までの期間の時点修正をするか否か、時点修正をするとすればどのような修正を施すかは、土地区画整理事業施行者の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。すなわち、土地区画整理事業がその性質上長年月を要することは前記3のとおりであつて、工事概成時から換地処分がなされるまでに相当の年月を要することは土地区画整理法自身も十分予想しているものと解されるところ、同法及び同法施行令においては工事概成時から換地処分時までの時点修正に関する明確な規定は存しないから(この点、清算金の分割徴収または交付について、年六パーセントの割合による利率の利子を付するべき旨を定める土地区画整理法第一一〇条第二項、同法施行令第六一条第一項参照)、同法は、時点修正をするか否か、時点修正をする場合の方法について、事業施行者の合理的な裁量に委ねたものと解することができる。従つて、時点修正をするにあたり、必ずしも原告の主張するように物価上昇率によることを要しない。
以上のとおり、被告が本件清算金を算定するにあたつて、土地の評価を工事概成時である昭和三四年を基準にして行つたこと、路線価指数一個あたりの単価を金員に換算する際、工事概成時である昭和三四年の相続税財産評価額を基準にしたこと、時点修正分金額として、当初の換地計画を作成した昭和三七年から本件の換地計画を作成した昭和四九年までの一二年間について年六パーセントの利率による複利加算をしたことはいずれも適法な措置であつたということができる。
(三) 本件清算金の算定
前記一の事実によると、本件土地がもと本件分筆前の土地の一部であり、本件土地区画整理事業施行後五筆に分筆されたうちの一筆であることが認められる。このように事業施行後に分筆された土地についての評価は分筆された土地ごとになすよりも、分筆前の土地について平方メートルあたりの指数の平均を求め、これを基礎に分筆後の本件土地の評定額を求めるのが合理的である。
そこで、右のことを前提として本件清算金を算定するに、<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 路線価指数の算定
(イ) 本件分筆前の土地の路線価は、別表二「本件土地の路線価算定表」記載のとおり、国道の路線価が一三・四五四、側道の路線価が三・三八八となる。
(ロ) (イ)の路線価を本件土地区画整理事業施行前の土地の最高路線価を指数一〇〇〇個として指数で表わすと、国道の路線価指数は四三〇個、側道の路線価指数は一一〇個となる。
(ハ) (ロ)で算出した路線価指数をもとに、本件分筆前の土地を別紙図面のとおり<イ><ロ><ハ><ニ>の四つの部分に区分したうえ計算し、平方メートルあたりの路線価指数を求めると四〇六個となる。
(2) 本件土地の評価額
(イ) 本件土地区画整理事業における縄延率は一・〇〇九であるから、本件土地の基準地積は、
基準地積=登記簿上の地積×縄延率
の算式にあてはめて計算すると一三七・五五平方メートルとなる。従つて、本件土地の評定指数は
評定指数=基準地積×平方メートルあたりの指数
であるから、五五八四五個となる。
(ロ) 本件土地区画整理事業における比例率は一・〇三七四九八六九九であるから、本件土地の比例権利指数は、
比例権利指数=評定指数×比例率
により五七九三九個となる。
(ハ) 路線価指数一個あたりの単価は、本件土地区画整理事業完了後の最高路線価指数一一七〇個でその地点(新町通り「a」百貨店前)の工事概成時である昭和三四年の相続税財産評価額一万九〇九〇円を除することにより一六円三〇銭となる。
そこで、所有権の権利価額は、
所有権の権利価額=比例権利指数×指数1価の単価
により九四万四四〇六円となる。
(3) 時点修正について
このようにして算出された所有権の権利価額九四万四四〇六円に、昭和三七年から昭和四九年までの一二年間について、年六パーセントの利率による複利加算をすると、合計金一九〇万〇一四五円となる。
従つて、本件清算金の算定は正当である。
なお、原告は、本件清算金の算定にあたつて、被告が恣意的に路線価を算定した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は理由がない。
第二予備的請求について
前記一の事実によると、本件換地処分の通知が遅くとも昭和五一年四月初めころ原告に到達したことが認められる、また原告が本件訴を提起したのは、昭和五一年一〇月一八日であることは当事者間に争いがない。
右事実によると、原告が本件換地処分取消の訴を提起したのは、本件換地処分を知つた昭和五一年四月初めころから三箇月を経過した後であるといわざるを得ない(出訴期間の起算日について最判昭和五六年七月三日、昭和五五年(行ツ)第六一号事件乙第四〇号証参照)。
そうすると、本件換地処分の取消を求める原告の予備的請求は、行政事件訴訟法第一四条に規定する出訴期間徒過後の訴の提起であつて、不適法であるといわなければならない。
第三結論
以上説示したとおり、原告の主位的請求は理由がないからこれを棄却し、予備的請求は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 竹山國雄 須山幸夫 小池勝雅)
物件目録
(一) 青森市○○町一三一番九
宅地四一坪二合四勺(一三六・三三平方メートル)
(本件土地)
(二) 同所同番一〇
宅地一四坪五合一勺(四七・九六平方メートル)
(分筆後の(二)の土地)
(三) 同所同番一一
宅地四六坪七合五勺(一五四・五四平方メートル)
(分筆後の(三)の土地)
(四) 同所同番一二
宅地六三坪(二〇八・二六平方メートル)
(分筆後の(四)の土地)
(五) 同所同番一三
宅地三坪五合(一一・五七平方メートル)
(分筆後の(五)の土地)
別表一、別表二、別紙図面 <略>