大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 昭和53年(ワ)399号 判決 1983年3月08日

原告 花田俊博

被告 日本電信電話公社

代理人 中村勲 佐藤康 角田春雄 高辻昭三 ほか九名

主文

一  被告が原告に対し昭和五三年一〇月一二日付でなした戒告処分は無効であることを確認する。

二  被告は原告に対し、金一一万〇一九二円及び内金五〇九六円に対する昭和五三年一〇月二一日から支払い済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項同旨

2  被告は原告に対し、金七一万〇一九二円及び内金五〇万五〇九六円に対する昭和五三年一〇月二一日から支払い済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2、第3項について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、公衆電気通信業務及びこれに付帯する業務等を行うため、日本電信電話公社法(以下公社法という。)に基づき設置された公法上の法人である。

原告は、昭和四五年四月一日から被告の弘前電報電話局に勤務し、昭和五二年四月一日から同局施設部機械課(以下機械課という。)に所属する職員である。

2  原告は、昭和五三年九月四日機械課長の竹本一雄(以下竹本課長という。)に対し、原告が昭和五三年度において有していた年次有給休暇(以下年休という。)の日数の範囲内で、同月一七日を年休とする旨の請求(時季指定)をした(以下本件年休の時季指定という。)。

3  そこで、原告は同月一七日出勤しなかったところ、被告の弘前電報電話局長は、原告の本件年休の時季指定に対し同月一三日に竹本課長が時季変更権を行使したから、「原告が竹本課長の就労命令を無視し、同月一七日無断欠勤をしたことは、被告職員就業規則第五九条第三号及び第一八号の規定に該当する行為である。」として、原告に対し公社法第三三条の規定に基づき同年一〇月一二日付で戒告処分(以下本件戒告処分という。)にした。さらに被告は、原告が同年一〇月二〇日に本来受給すべき賃金から同年九月一七日欠勤分として金五〇九六円を差引いた(以下本件賃金カツトという。)。

4  しかし、原告は昭和五三年九月一七日に適法に年休を取得したものであつて無断欠勤をしたことはない。従つて、被告の原告に対する本件戒告処分及び本件賃金カツトはいずれも違法、無効であつて、被告は右差引賃金を未払賃金として支払うべき義務がある。

5  また、竹本課長は、業務上の支障がないのに、原告が本件年休の時季として指定した日が成田国際空港反対集会の日にあたることを理由として、時季変更権を行使したものである。さらに、弘前電報電話局長は、原告が欠勤するや、、それを無断欠勤とみなして本件戒告処分に及んだものである。竹本課長及び弘前電報電話局長は、これらの措置が労働基準法第三九条の規定に反する違法なものであることを知りながら、または少なくとも過失により知らずに右各措置をとつたものである。しかして、竹本課長及び弘前電報電話局長は被告の被用者であり、右各措置はその業務の執行についてなした違法行為であるから、被告は原告に対し、民法第七一五条に基づき、原告が被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

原告は、被告の右不法行為により甚大な精神的苦痛を被り、これを金銭に評価すると金五〇万円を下らない。また原告は、本件戒告処分の無効確認、右慰謝料の支払いを求める訴訟の提起を余儀なくされ、そのために弁護士に本件訴訟の提起を依頼せざるをえなかつた。右弁護士費用は金二〇万円を下らない。

よつて、原告は被告に対し、本件戒告処分の無効確認と右未払賃金五〇九六円及びこれと同額の労働基準法第一一四条所定の附加金、慰謝料金五〇万円、弁護士費用金二〇万円並びに右未払賃金五〇九六円及び慰謝料金五〇万円の合計金五〇万五〇九六円に対する本件戒告処分がなされた後で、本件賃金カツトがなされた日の翌日である昭和五三年一〇月二一日から支払い済に至るまで、年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は認める。

2  同4、5は争う。

三  被告の主張

本件戒告処分及び本件賃金カツトは次のとおり適法になされたものである。

1  時季変更権の行使による年休の不成立

原告の本件年休の時季指定については、以下のとおり原告が年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日に年休をとつた場合には、被告の業務の正常な運営が妨げられる事情が存したので、竹本課長は原告に対し時季変更権を行使した。従つて、昭和五三年九月一七日には年休は成立しておらず、原告には就労義務があつたものである。

(一) 機械課の業務内容

昭和五三年九月当時、原告の所属する機械課の主な業務は、市内、市外電話機械設備、伝送無線機械設備の建設保全に関する次の(1)ないし(11)のものであつた。

(1) 故障の受付及び試験をする部門から機械(局内の搬信、データ関係を除く。)の故障についての連絡を受け修理を行う業務。

(2) 電話の開通、移転に必要な局内作業。

(3) 新設又は増設工事で設備された交換機等の性能検査と、単体及び接続等総合的な試験業務。

(4) 保全強化のため計画的に行う工事。

(5) 交換機などの通信機器の性能を試験する業務。

(6) 市外電話回線の増減、変更に伴う接続試験等の局内作業。

(7) 部外からの申請で行う電気通信設備の移転工事に伴う電話回線の試験立会業務。

(8) 手動交換台及び関連機器の試験並びに修理、手動交換台関係の機器の試験と修理の業務。

(9) 非常災害等に際し、通信の確保をはかるために設置するTZ四〇三、孤立無線等可搬無線機の運用並びに保守業務。

(10) 保守者が常駐しない電話交換局所にある電気通信設備の試験及び修理業務。

(11) 即時網通話サービスを良好な状態に保つため、自局エリヤ内の電気通信回線及び交換機の運転状況を管理する業務。

(二) 機械課の組織と勤務体制

(1) 機械課は、課長一名、第一市内係長一名、第二市内係長一名、第一市外係長一名、第二市外係長一名、工事係長二名、工事主任六名、係員二七名で組織されていたが、作業内容により、市内機械担当(以下市内担当という。)と市外機械担当(以下市外担当という。)に大別され、市内担当としては第一市内係長、第二市内係長、工事係長各一名、工事主任四名、係員一八名があてられ、市内自動交換機の建設、保全作業に従事し、市外担当としては第一市外係長、第二市外係長、工事係長各一名、工事主任二名、係員八名があてられて、市外自動交換機、手動交換機の建設、保全作業に従事しており、他の係員一名は課内の共通事務担当となつていた。

(2) 原告は、市外担当の係員として現場作業に従事していたものであるが、市外担当一三名のうち、第一、第二市外係長の二名はデスク作業として午前八時三〇分から午後五時一〇分までの日勤勤務を行い、他は現場作業に従事し、そのうち工事係長一名、工事主任二名、係員二名の五名は午前八時三〇分から午後五時一〇分までの日勤勤務であり、他の係員六名は日勤、宿直宿明勤務の六輪番交替服務の勤務体制をとつており、原告は右六輪番交替服務を行つていた。

なお、市外担当の右六輪番交替服務のうち宿直宿明勤務の配置人員は一名であり、同じく日曜日の市外担当の日勤勤務の配置人員は二名であつた。

(三) 事業の正常な運営を妨げる事情

(1) 機械課では前述のように課員を市内担当と市外担当に分けて作業を行つていたが、通常右二つの担当相互間で人員を流用して作業にあたることはないので、原告の所属する市外担当は第一市外係長以下一三名に固定されていた。

(2) ところで、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日(日曜)の原告の勤務予定は、日勤(午前八時三〇分から午後五時一〇分まで)であり、右当日の機械課・市外担当の出勤予定者数及び休務予定者数は次表のとおりであつた。

日勤

宿直

宿明

週休

合計

一三

(3) 右表のとおり同日は日曜日にあたるため、日勤帯の配置人員は二名で最低の要員配置であつた。

すなわち、機械課市外担当の保守する通信機械設備に障害が発生した場合、その早急な回復が絶対の要請となるため、障害原因の探索、修理および関係各局所との連絡等の措置を複数の人員が協働一体となつて迅速に行う必要があることから、障害発生頻度の高い日勤帯は二名の要員を確保することとしていたものである。

しかも、右通信機械設備のうちC82市外自動交換機は弘前電報電話局の五階に、手動交換台は四階に、また手動交換台関係の各種機器は二階に、それぞれ設置されている関係上、それらに障害が同時に発生した場合は、それぞれのフロアに分かれて作業をしなければならず、さらに、警察、消防、岩木山地震対策線等の重要専用回線の障害や、各市町村等にそれぞれ設置してある孤立防止用無線電話施設に障害が発生した場合は局外に出動しての作業と局内作業に分かれなければならないことになるのであつて、もとより障害発生は予測し得るものでないとはいえ、これら不時の障害発生に備えるためにも、日勤帯においては二名の要員を絶えず確保する必要があつた。従つて、同日原告の年休を認めると、当日の日勤帯の配置人員が一名のみとなつてしまい代務者の補充も困難なことから、被告の業務に支障を生ずる恐れが多分にあつた。

(4) さらに、本件年休の時季指定がなされた昭和五三年九月四日当時、弘前電報電話局においては、青森電気通信部の指示に基づき、特別災害体制が敷かれていた。すなわち、成田国際空港(新東京国際空港、以下成田空港という。)の開港に反対していたいわゆる過激派及びその同調者らは、あくまで同空港を廃港に追い込むためと称して、同年六月五日から同年九月一七日までの一〇〇日間を「一〇〇日闘争」と銘打ち各種の違法行為を反復していたが、被告の所有する各種の電気通信施設に対しても無差別にゲリラ的な破壊行為を加えていた。そこで、弘前電報電話局においても全管理者により、重要市外電話ケーブル及び無人の電話交換局に対するパトロール、局舎の警備等の警備体制をとつていた。

同年九月一七日は、右「一〇〇日闘争」の最終日として過激派による被告の各種施設に対する破壊行為が多分に懸念される状況にあつた。

ところで、過激派により右破壊行為が行われた場合、弘前電報電話局においては第一義的には管理者が事態に対応することになつていたが、管理者のみでは対応しきれないときには、当然一般職員を召集することになつていた。従つて、原告が同年九月一七日に年休をとつた場合においては、右非常事態発生の際に召集をうけてその復旧にあたるべき職員が一名減少することとなる事情にあつた。

以上のとおり、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日に原告の服務を欠いた場合には、機械課市外担当の最低配置人員を欠くことになつて、その業務の正常な運営が妨げられることが明白であつた。

(四) 勤務割変更の裁量性

なお、本件のように最低配置人員配置時に年休の時季指定がなされた場合、請求者に年休を取得させるためには、週休予定者に代替勤務を命じたうえで、その者のために別途週休日を設定するなど相当複雑な勤務割の変更措置をしなければならないことになるが、被告にはこのような勤務割の変更をしなければならない法的義務はない。すなわち、そもそも勤務割の変更とは、所属長が先に指定した勤務割を勤務の始終業時刻が異なる他種の勤務割に変更することであつて、使用者として本来有する労務指揮権(業務命令)を行使するものであるから、勤務割を変更するか否かは所属長の裁量に委ねられているというべきである。所属長が当該の事案に応じ業務運営及び要員配置の状況、当該職員の技能、経験、申し出の動機ないし必要性等の諸事情を勘案して勤務割の変更の要否を決定することになる。そして、勤務割を変更しない場合には業務上の支障が生じ、時季変更権を行使せざるをえないことになるが、その際にも被告において代替勤務者を確保するために努力をしなければならない義務があるものではない。

仮に、右のような場合、原則として被告に代替勤務者を確保すべき義務ないし勤務割を変更すべき義務があるとしても、勤務割を変更しないことについて合理的な理由があるなど特段の事情の存する場合にはこのような義務は生じないというべきである。

本件においては、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日に年休を取得した場合においては、後記(2の(三))のとおり原告が成田空港の廃港をめざす過激派の違法行為に同調し、被告及び被告の職員の信用を著しく失墜させる懸念があつたのであるから、被告が勤務割の変更をしないことに合理的な理由があつたというべきである。従つて、被告には代替勤務者を確保する義務も勤務割を変更する義務もなかつたというべきである。

(五) 時季変更権の行使と原告に対する出勤指示(就労命令)

以上のとおり、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日に原告の服務を欠くと機械課の業務の正常な運営が妨げられるおそれがあつたため、竹本課長は同月一三日原告に対し、「九月一七日の年休は業務上支障があり、他の時季に変更するので、同日は勤務割どおり勤務されたい。」旨申し向けて時季変更権を行使するとともに同月一七日の服務を指示した。これに対し原告から「年休を取れない理由を聞かせて欲しい。」との質問があつたので、竹本課長は「当日の日勤は最低配置であつて年休によつて一名欠員となることは業務上支障がある。」旨説明した。

さらに、原告は同月一六日「明日一七日はどうしても年休をもらう。」旨電話で竹本課長に申し入れてきたので、同課長は原告に対し重ねて「一七日の年休は代替勤務者がなく業務上支障がある。」旨伝えて出勤を命じた。

2  権利の濫用

原告の本件年休の時季指定は、形式的には労働基準法第三九条第三項所定の年休の時季指定権を行使する形態をとつているが、その行使の時期、意図、態様等からみて、実質的には一般の労働者として、さらには被告の職員として要請される信義に著しく反し、年休制度の趣旨、目的に反する反社会的な行為をするために年休を利用しようとしたものとして到底許容されるべきものではなく、権利の濫用にわたるものであつて、同条項に定める時季指定の効果を有さず無効というべきである。すなわち、

(一) そもそも、年休制度が制定された趣旨、目的は、本来労働者の労働による精神的、肉体的疲労を回復し、その効果として労働力の維持培養を図るとともに、労働者に人たるに値する生活を得させるところにある。従つて、年休の時季指定に関しては、本来このような趣旨、目的に由来する内在的制約があり、労働者においてこれを右趣旨、目的にそうよう利用すべきである。この意味で年休請求権は全く無制約な絶対的な権利ではなく、相対的な権利であるというべきであり、右趣旨、目的に明らかに反する意図をもつてなされた年休の時季指定は、もはや権利として法的保護を受け得ず、その行使は無効なものと判断されるべきである。

(二) さらに、年休の時季指定に関しては、その権利行使にあたつてもその労働者の法的地位、行使の時期、態様及び行使の際の客観的情勢等に即して一定の制約があると解すべきである。

(1) 被告の職員は、私企業の労働者に比し、公共性の高い公法人である被告に勤務する者として、公務員に準じて誠実にその職務を遂行すべき責務を有し、勤務の内外を問わず一定の行為規範に従うべき義務を有するものというべきである(公社法第三四条、被告職員就業規則第四条、第九条参照)。このような被告の職員の地位の重大性にかんがみると、被告の職員は、本来の職務について信義の要請に従つた誠実な職務の遂行が強く求められるばかりでなく、職務を離れた一般社会における行動についても、誠実に行動すべき義務が私企業の労働者に比しかなり広範に要請されるといわなければならない。

(2) しかも、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日ころは、成田空港開港阻止闘争と喧伝された各種の行為に公務員ないし被告の職員らが参加して非違行為に及んだことに関し、健全な一般社会から公務員等の勤務関係についてごうごうたる非難が加えられており、被告においてもこれら一般社会の非難を正当に受けとめて服務関係の厳正化の指示をなし、国民から被告及び被告の職員に付託された信頼を確保するために努力していた時期でもあつたのである。

(三) しかるに、原告は成田空港開港阻止を唱えている過激派集団であるいわゆる「第四インター」に所属するか、またはこれに同調する者であり、成田空港の開港阻止を叫んで東北地方において積極的な活動をしていた者である。原告の本件年休の時季指定も昭和五三年九月一七日に開催されることになつていた成田空港反対闘争を標榜する現地集会に参加する目的のもとになされたものである。しかして、成田空港反対闘争等と称して行われる現地集会は、単に平穏裡に反対意思を表明する集会というものではなく、兇器を準備して違法行為に出で、あるいは警備の警察隊と衝突をくり返すといつた違法行為に出でていたことは当事における公然の事実であつて、このような集会に参加して違法行為に加わるため、年休の時季指定をなすことは明らかに反社会的行為に及ぶための手段というべく、それが年休の本来認められた趣旨、目的に反し、さらには被告の職員として要請される信義に著しく反することは明らかであるといわなければならない。

以上のとおり、原告の本件年休の時季指定は、権利の濫用として何ら法的効果のないものというべきである。

3  前記1または2により、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日については年休は成立していないというべきである。しかるに、原告は、同日適法に年休を取得したとして、原告の本件年休の時季指定に対する竹本課長の時季変更権の行使を無視し、かつ、同課長の同月一三日及び同月一六日における出勤指示(就労命令)に反して無断欠勤をした。

4  ところで、原告の昭和五三年九月一七日の欠勤は、竹本課長の同月一三日及び同月一六日における就労命令に反してなされたものであるから、被告の就業規則第五九条第三号所定の「上長の命令に服さないとき」に該当する。また、原告の本件年休の時季指定は、同課長の時季変更権の行使により、あるいは権利の濫用としてその法的効果が生じなかつたものであるから、原告の同月一七日の欠勤は正当な理由を欠き、同就業規則第五条第一項所定の「職員は、みだりに欠勤してはならない。」に違反するので、同就業規則第五九条第一八号所定の「第五条の規定に違反したとき」に該当する。

そこで、被告から懲戒権を委任されている弘前電報電話局長は、原告に対し、公社法第三三条に則りその裁量の範囲内で、同年一〇月一二日同条の懲戒処分中最も軽い処分である本件戒告処分の発令をした。さらに、同月二〇日原告が本来受給すべき賃金から右無断欠勤を理由として昭和五三年九月一七日分金五〇九六円を差引いた。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1の冒頭部分は争う。

同1の(一)、(二)及び(三)の(1)、(2)は認める。ただし、(一)のうち、(1)、(3)ないし(10)の業務を市外担当が日曜日に行うことは全くないか、あるいはほとんどない。(一)のうち(2)の業務は市内担当の業務であつて市外担当の業務ではない。

被告の主張1の(三)の(3)、(4)は争う。日曜日の日勤帯が平日または日曜日の宿直に比して特に障害発生頻度が高いということはない。また、日曜日に局内の各フロアーで同時に障害が発生する確率は極めて低いうえ、仮に同時に障害が発生したとしても、一つずつ修理していくことができる。さらに、警察、消防等の専用線は市外担当において出動しなければならない確率が極めて低いうえ、孤立防止無線電話施設については、日曜日に障害を受けつけることはありえない。

被告の主張1の(四)は争う。年休の時季指定によつて代替勤務者が必要となつた場合、それを確保するのは使用者である被告の義務である。

被告の主張1の(五)のうち、竹本課長が時季変更権を行使したことは認めるが、同課長が業務上の支障について説明したことは否認する。

2  被告の主張2は争う。

原告が成田空港開港に反対する集会に参加するために本件年休の時季指定を行つたことは認める。しかし、そもそも年休の利用目的は労働基準法の関知しないところであつて、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由であるというべきである(最判昭和四八年三月二日民集二七巻二号一九一頁、最判昭和五三年一二月八日判例時報九二四号一二三頁参照)。さらに、右集会は合法的な集会であるうえ、それに参加した場合に原告が違法行為を行うという根拠は何もない。従つて、被告が原告に対し、右集会に参加した場合自分で意図しなくても異常な事態にまきこまれるおそれがあるから参加しないようにと説得することが許されるとしても(もつとも、本件の場合竹本課長はこのような説得はしていない。)、それにもかかわらず原告が年休の時季指定をなした場合、それが権利の濫用となることはない。

3  被告の主張3のうち、昭和五三年九月一七日に原告が勤務しなかつたことは認めるが、同日について年休が成立していなかつたこと及び原告の欠勤が無断であることは争う。

4  被告の主張4のうち、弘前電報電話局長が被告主張のような理由に基づき原告に本件戒告処分をしたこと及び本件賃金カツトをしたことは認める。

五  原告の再反論

原告の本件年休の時季指定に対し、竹本課長がなした時季変更権の行使は、以下の経過及び目的に照らすと権利の濫用として無効である。すなわち、

1  原告の所属していた機械課市外担当においては、輪番勤務者が年休の時季指定を行う場合、予め指定日が判明しているときは、事務処理を円滑にするため、正規の時季指定をする以前の段階でその旨を工事係長に伝え、代替勤務者を予定しておくのが通例になつていた。本件においても、原告は昭和五三年九月四日に竹本課長に本件年休の時季指定を行う以前の同年八月二五日ころ、須藤稔工事係長に同年九月一七日を年休として時季指定する予定であることを申し出た。同係長は、同年八月二五日原告に対し、赤城嗣光(以下赤城という。)が同年九月一七日に原告に代つて勤務することになつた旨の通知をした。

2  同年九月四日、原告が本件年休の時季指定をなした際、竹本課長は原告の代替勤務者が赤城に予定されていることを知悉していたので、原告の本件年休の時季指定を受理し、時季変更権を行使しないことにした。このことは、竹本課長管理にかかる九月勤務割表の原告欄の一七日のところに、「ネ」(年休を表わす)という文字が記載されていることからも明らかである。

3  しかし、その後竹本課長は、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日は、成田空港の開港に反対する集会が開かれる日であることを知り、原告が右集会に参加するのを阻止するため、同月六日赤城に対し、「花田を成田にやらせたくない。それが花田のためにもなる。」等と申し向けて代替勤務を断わるよう説得し、同人に代替勤務を断わらせたうえ、同月一三日に至り時季変更権を行使し、翌一四日に坂本係長をして、原告に対し、「代替者が急に勤務できなくなつた。」と通知させた。

このように、竹本課長は、原告の本件年休の時季指定に際し、原告の代替勤務者に予定されていた赤城に対し種々説得して代替勤務を断わらせたうえ、自ら業務上の支障があるかのような外観を作り出した。さらに、そもそも、年休をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由であるのに、九月一七日が前記集会の予定されている日であることのみを実質的な理由として時季変更権を行使したものである。このような時季変更権が行使されるに至つた経過及び目的に照らすと、竹本課長のなした時季変更権の行使は権利の濫用であつて法的効果を生じないものというべきである。

六  原告の再反論に対する被告の認否

原告が昭和五三年八月二五日頃須藤 稔工事係長に同年九月一七日を年休として時季指定をする予定であることを申し出たことは認めるが、その余の事実は争う。ただし、赤城が昭和五三年八月二五日ころ、須藤係長に対し、同年九月一七日に原告の代替勤務をしてもよい旨の意思表示をしたこと、及び竹本課長が赤城に対し、被告職員が年休を取得して成田空港における違法活動を行うことは許されないし、原告が成田空港の占拠、破壊を公言し、九月一七日における違法活動への参加を否定しようとしない以上、これを事実上、容認・助長するような代替勤務を積極的に命ずる考えはない旨を伝え、あわせて赤城が勤務割変更に応ずる意思があるのかを確認したところ、同人は終始消極的な態度を示すのみであつたこと、はある。

第三証拠<略>

理由

一  請求原因1ないし3の事実、被告の主張1の(一)、(二)、(三)の(1)、(2)の事実、同1の(五)のうち竹本課長が時季変更権を行使したこと、同3のうち原告が昭和五三年九月一七日に出勤しなかつたこと、同4のうち被告がその主張のような理由で本件戒告処分及び本件賃金カツトをしたことは当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、以下の事実が認められる。

1  被告は、公衆電気通信業務及びこれに付帯する業務等を行うため、日本電信電話公社法に基づき設置された公法上の法人であること、原告は、昭和四五年四月一日から被告の弘前電報電話局に勤務し、昭和五三年九月当時同局施設部機械課に所属する職員であること、

2  昭和五三年九月当時の機械課の主な業務は、市内、市外電話機械設備、伝送無線機械設備の建設、保全に関する被告主張の内容の業務であつたこと、

3  機械課は、課長、第一市内係長、第二市内係長、第一市外係長、第二市外係長各一名、工事係長二名、工事主任六名、係員二七名の合計四〇名で組織されていたが、その作業内容により市内担当と市外担当にわかれていたこと、市外担当は、第一市外係長、第二市外係長、工事係長各一名、工事主任二名、係員八名の合計一三名で構成されており、原告は市外担当の係員であつたこと、通常市内担当と市外担当の間では相互に人員を流用して作業にあたることはなかつたので、市外担当は右の一三名に固定されていたこと、市外担当においては、第一市外係長、第二市外係長はデスク作業として午前八時三〇分から午後五時一〇分までの日勤勤務を行い、他は現場作業に従事していたが、そのうち工事係長、工事主任二名、係員二名の五名は午前八時三〇分から午後五時一〇分までの日勤勤務であり、原告を含むその余の係員六名は日勤、宿直・宿明勤務の六輪番交替服務という勤務体制をとつていたこと、なお、市外担当においては、労使間の協議により、右六輪番交替服務のうち宿直・宿明勤務の最低配置人員は一名、日曜、祝祭日の日勤勤務の最低配置人員は二名と定められていたこと、従つて、被告の業務の性質上右の最低配置人員を欠く場合には業務上の支障が生ずるものであつたこと、

4  そこで、機械課市外担当においては、輪番交替服務勤務者が日曜、祝祭日の日勤勤務等最低配置人員配置時に年休を取得しようとする場合、最低配置人員を確保するために勤務割の変更を措置するなどの事務処理を円滑にするため、請求者が所属長である機械課長に正規の年休の時季指定をする以前に、予めその旨を工事係長等に伝え、工事係長等が他の市外担当係員の中から代替勤務を希望する者を募つたうえ、希望者があればその者を右請求者の代替勤務者として予定しておくというのが通例であつたこと、そして、このようにして代替勤務者が予定されるに至つた場合、その旨工事係長等からデスク担当の係長を経て機械課長に報告され、正規の年休の時季指定があつたときには右予定どおりに勤務割の変更がなされ、その結果最低配置人員も確保されており、従来年休の時季指定に対して最低配置人員を欠き業務上の支障があるという理由で、機械課長が時季変更権を行使した例はなかつたこと、

5  原告は、当初の勤務割によると、昭和五三年九月一七日は日勤勤務にあたつていたが、同日に開催される成田空港反対集会に参加するため年休を取ろうと考え、予め同年八月二五日ころ須藤 稔工事係長に同年九月一七日を年休として時季指定する予定であることを申し出たこと、同日は日曜日で最低配置人員配置時であり、原告が年休を取得するためには原告の代替勤務者を確保する必要があつたため、同年八月二五日に開かれた市外担当の打合わせの席上、佐藤唯春工事主任が原告の代替勤務者の希望を募つたところ、赤城が同年九月一七日に原告に代つて勤務してもよい旨申し出たので、赤城が原告の代替勤務者として予定されるに至つたこと、原告は、右打合わせ終了後須藤 稔工事係長からその旨の通知を受けたこと、そこで、原告は、同年九月四日竹本課長に対し、同月一七日を年休として時季指定をしたこと、

6  ところで、日本国政府は、かねてから成田空港の建設を進め、昭和五三年三月三〇日には同空港の開港が予定されていたが、同空港の開港に反対する過激派は、同月二六日同空港の管制塔に侵入したうえ、種々の設備等を破壊する等の違法行為に及んだため同月三〇日の開港は一旦延期されたこと、そして、右反対闘争においては、警備にあたつていた警察官に対し、火炎びんや石塊を投げつける等の違法な行為が繰り返されていたが、右の違法な行為により公務執行妨害罪等で逮捕された者の中には被告の職員が五名含まれており、社会から厳しい批判を受けたこと、その後同空港は修復のうえ同年五月二〇日に開港されるに至つたが、右開港後も過激派を含む反対派は、同空港を廃港に追い込むためと称し、同年六月五日から同年九月一七日までの一〇〇日間を「一〇〇日闘争」と銘打つて激しい反対闘争を展開していたこと、この間同年三月三一日には千葉、成田間を結ぶ市外電話用ケーブルが切断されるなど被告の所有する各種電信電話施設に対しても右過激派によりゲリラ的な破壊行為が度々加えられたこと、

このような事態の中で、公務員及び公共企業体職員らが成田空港反対闘争をめぐる違法な活動に再び参加することのないよう職員の管理、監督を求める内閣官房長官からの通達(内閣閣第八六号、昭和五三年五月一一日付)が出され、右通達に基づき被告の副総裁、東北電気通信局長らから職員の服務規律の厳正化について指示がなされたこと、右の指示を受けた弘前電報電話局の伊藤雄士次長は、同年五月及び六月の二度にわたり、局内の全管理者を集めたうえ、服務規律の厳正化の指示がなされた趣旨を説明するとともに、職員が成田空港反対闘争に参加して違法行為に及ぶのを未然に防止するため、職員から年休の時季指定があつた場合には業務上の支障の有無を厳正に判断し、支障があれば時季変更権を行使すべき旨及び勤務割の変更には安易に応じてはならない旨指示したこと、さらに、伊藤次長は、同年九月一日にも同様の指示を全管理者になしたこと、

7  このような指示を受けていた竹本課長は、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日は成田空港反対派による前記「一〇〇日闘争」の最終日にあたつていて、当日には反対派による集会が現地(三里塚)で開催される予定になつているうえ、原告が従前同空港の開港阻止を呼びかけるチラシなどの呼びかけ人名簿に名を連ねたり、同空港の開港阻止を主張する機関誌の編集者となつていたことがあつたことから、原告が昭和五三年九月一七日に年休を取得すれば右集会に参加するおそれがあると考え、右参加を阻止するため、原告の同日の年休の取得をやめさせようと企図したこと、そこで、竹本課長は、同年九月六日、原告の代替勤務者に予定されていた赤城に対し、「一七日には成田がある。花田(原告)のためを思つて年休の代替勤務を取りやめてくれ。」との趣旨のことを申し向けて昭和五三年九月一七日の原告の代替勤務を断わるよう説得し、同人を翻意させたこと、しかも、竹本課長は自ら、または部下の係長をして同日の原告の代替勤務者をみつけようとしなかつたこと、竹本課長は、九月一三日原告に対し、原告の本件年休の時季指定については業務上の支障があるとして、時季変更権を行使したこと、その際原告が時季変更権を行使する理由の説明を求めたが、竹本課長は、「業務上の支障がある。九月一七日は勤務割どおり勤務されたい。」というのみで、それ以上に具体的な説明をしなかつたこと、その後原告は、九月一六日の勤務終了後竹本課長に対し、電話で「明日一七日はどうしても年休として休むので代替勤務者を捜すか、課長自身が勤務するなど善処して欲しい。」旨申し入れたが、竹本課長はこれを拒否したうえ、原告に対し九月一七日には勤務するよう再度指示をしたこと、なお、この間竹本課長をはじめとして、弘前電報電話局の管理者が原告に対し、成田空港反対集会に参加しないように説得をしたことはなかつたこと、しかし、竹本課長は、原告が右集会に参加した場合に確定的に違法行為に及ぶとまでは考えていなかつたこと、

8  しかし、原告は、昭和五三年九月一七日適法に年休を取得したとして出勤せず、前記成田空港反対集会に参加したが、被告が懸念するような反社会的な違法行為には及ばなかつたこと、竹本課長は、同日原告が欠勤していることを確認したうえ、午前九時三〇分ころ出勤して原告の代わりに勤務したこと、

9  弘前電報電話局長は、原告の昭和五三年九月一七日の欠勤は無断欠勤であつて、被告職員就業規則第五九条第三号所定の「上長の命令に服さないとき」に該当し、かつ、同就業規則第五条第一項の「職員はみだりに欠勤してはならない」に違反するので、同就業規則第五九条第一八号所定の「第五条の規定に違反したとき」に該当するとして、原告に対し、同年一〇月一二日付で本件戒告処分をなすとともに、同月二〇日に本来原告が受給すべき賃金から同年九月一七日欠勤分として金五〇九六円を差し引いたこと、

10  なお、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日は、他の日曜、祝祭日の日勤勤務に比して特に機械の修理等市外担当の業務が増加する事情はなかつたこと、また、当時弘前電報電話局においては、成田空港に反対する過激派が被告の通信設備等に対し破壊行為を加えることを懸念してこれに対処するため、全管理者により重要市外ケーブルに対するパトロール、局舎の警備等特別災害体制が敷かれていたが、これは第一義的には全管理者によつて対処することとされていたため、原告ら一般職員は右特別災害体制について全く知らされておらず、従つて、右特別災害体制が敷かれているからといつて、原告ら一般職員の勤務には格別影響がなかつたこと、

以上の事実が認められ、<証拠略>中右認定に反する部分は、<証拠略>に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  そこで、以上の事実に基づいて本件戒告処分及び本件賃金カツトの効力について判断する。

1  被告は、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日に年休を取得した場合には、被告の業務の正常な運営を妨げる事情があつたと主張する。

ところで、事業の正常な運営を妨げる事情は、企業の規模、年休請求者の職場における配置、その担当する作業の性質、内容、作業の繁閑、代替勤務者の配置の難易、労働慣行等の諸事情を勘案してその存否を決すべきものと解されるところ、前記一の事実によると、原告が本件年休の時季として指定した昭和五三年九月一七日については、予め赤城が原告の代替勤務者として勤務することに予定されていたこと、竹本課長が赤城の代替勤務する意思を翻意させることなく、右予定どおり勤務割を変更したうえ、赤城を原告の代替勤務に就かせていた場合には同日の最低配置人員を確保することができ、原告が欠勤する場合に生ずる業務上の支障は容易に解消されたものと認められる。そうすると、昭和五三年九月一七日については、機械課市外担当の業務の正常な運営が妨げられる事情があつたものとは認められないから、竹本課長の本件年休の時季指定に対する時季変更権の行使は無効である(仮に、業務の正常な運営が妨げられる事情が存在したとしても、前記一の事実によると、業務上の支障は被告(竹本課長)自らが作り出したものと認められるから、それを理由に時季変更権を行使することは権利の濫用として許されないものというべきである。)。

なお、被告は、勤務割の変更は使用者の有する労務指揮権の行使として、それを命じるか否かは被告の裁量であるから、本件のように最低配置人員配置時において年休の時季指定がなされた場合にも、被告には勤務割を変更しなければならない義務はなく、仮にそのような義務があるとしても、本件においては勤務割を変更しないことについて合理的な理由があつた旨主張する。しかし、このような場合、勤務割を変更しなければ時季変更権を行使せざるをえないので、年休を取得することができず、逆に勤務割を変更すれば時季変更権を行使しなくとも済み、年休を取得することができるという意味で、勤務割の変更と時季変更権の行使、年休の取得とは表裏の関係にあることからすれば、勤務割を変更するか否かが被告の全くの自由裁量であるということはできず、ことに前記一の事実によると、本件においては、予め原告の代替勤務者が予定されていて容易に勤務割を変更できる状況にあつたことが認められるから、被告において勤務割を変更すべき義務があつたというべきである。さらに、被告において勤務割を変更しないことについて合理的な理由があつたものと認めるに足りる証拠もない。従つて、被告の右主張は理由がない。

2  被告は、原告の本件年休の時季指定は、一般の労働者として、さらには被告の職員として要請される信義に著しく反し、年休制度の趣旨、目的に反する反社会的な行為をするために年休を利用しようとしたものであるから、権利の濫用であつて無効であると主張する。

しかし、原告が反社会的な行為をするために本件年休の時季指定をしたことを認めるに足りる証拠はない。むしろ、前記一の事実によると、原告は昭和五三年九月一七日に開催された成田空港反対集会に参加するために本件年休の時季指定をなしたこと、原告は同日右集会に参加したが、いわゆる現地闘争に参加して違法行為を行うなどの反社会的な行動はとらなかつたこと、竹本課長は原告が右集会に参加するおそれがあると考え、右参加を阻止するため時季変更権を行使して原告の年休の取得を拒否したものであつて、原告が右集会に参加したうえ確定的に違法行為に及ぶとまでは考えていなかつたことが認められる。

さらに、年休をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であると解すべきであるから(最判昭和四八年三月二日民集二七巻二号二一〇頁参照)、もし、被告において、原告が年休を利用して反社会的な行動に及ぶおそれがあると判断した場合には、被告としては、まず、原告にそのような反社会的な行動をしないように説得に努めるべきであり、仮に、原告が右説得に従わず、その取得した年休を利用して反社会的な行動に及んだならば、そのことを理由に後日懲戒処分をなしうるにすぎないというべきであつて、それ以上に原告が年休を取得することを否定できないものといわなければならない。

そうすると、被告職員の職務の特殊性等被告が主張する諸事情を考慮しても、原告の本件年休の時季指定が権利の濫用であるとは到底認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。従つて、被告の右主張は理由がない。

3  以上によれば、原告が昭和五三年九月一七日に無断欠勤したことを理由とする本件戒告処分及び本件賃金カツトはいずれも無効であり、原告が同日有効に年休を取得したものであるから、被告は原告に対し、同日の未払賃金として金五〇九六円及びこれに対する支払期日の翌日である昭和五三年一〇月二一日から支払い済に至るまで、年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。さらに、本件においては労働基準法第一一四条本文の規定により、被告に対し、右未払賃金五〇九六円と同一額の附加金の支払いを命ずるのが相当であると認められる。

三  被告の不法行為責任の有無について判断する。

1  前記二のとおり、原告の本件年休の時季指定に対する竹本課長がなした時季変更権の行使及び弘前電報電話局長がなした本件戒告処分は違法であると解される。そこで、右違法な措置をしたことにつき竹本課長及び弘前電報電話局長に故意または過失が存したか否かについて検討する。<証拠略>によると、年休の利用目的については、前記最高裁判所昭和四八年三月二日判決が、「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である」旨判示しており、被告と被告の職員団体である全国電気通信労働組合との間でも、右判決を前提として、年次有給休暇に関する協約とその際の確認事項において、年休の利用目的は労働者本人の自由である旨の取り決めがなされていたことが認められる。右事実に前記一の事実(とりわけ一の6、7及び9の事実)を総合すると、時季変更権の行使及び本件戒告処分を行うについて、竹本課長及び弘前電報電話局長に過失があつたものと推認される。しかして、前記一の事実によれば、竹本課長及び弘前電報電話局長は被告の被用者であつて、その業務の執行について右各違法な措置をなしたものと認められるから、被告は原告に対し、民法第七一五条第一項本文の規定に基づき、原告が被つた損害を賠償すべき義務があるというべきである。

2  <証拠略>によると、本件戒告処分がなされたことは、被告の保管する原告の職員名簿に記載されるなど原告は違法な本件戒告処分により不利益な取扱いを受けるおそれがあつたこと、これに対し原告が自己の権利を擁護するためには、本件戒告処分の無効確認の訴を提起し、その無効確認を求める以外に方法がなかつたこと、右の訴を提起し追行するには高度の専門的知識及び技術を必要とし、一般人としては弁護士に委任せざるをえなかつたこと、そこで原告は本件訴訟の提起、追行を弁護士高橋 耕に依頼したことが認められる。右事実によれば、本件訴訟追行のため原告が支出を余儀なくされた弁護士費用のうち、事案の難易、請求額、認容額等諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右違法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。ところで、本件の場合、右の諸般の事情を考慮すると、被告に負担させるべき弁護士費用は金一〇万円をもつて相当と認められる。

しかし、原告の請求する慰謝料については、原告本人尋問の結果によると、原告が本件戒告処分により多少の精神的な苦痛を被つたことが認められるが、戒告処分は被告の懲戒処分中最も軽い処分であることからすると、右の精神的な苦痛は本件訴訟において本件戒告処分が違法であるとして、その無効確認がなされることによつておのずと慰謝されうると認められる。他に本件戒告処分の無効確認がなされたのみでは回復し難い精神的な苦痛を原告が被つたことを認めるに足りる証拠はない。従つて、原告の被告に対する慰謝料の支払を求める請求は理由がない。

四  以上説示したところによると、原告の本訴請求は、本件戒告処分の無効確認及び主文第二項記載の金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用し、なお仮執行の宣言については相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田國雄 須山幸夫 小池勝雅)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例