青森地方裁判所 昭和61年(行ウ)1号 判決 1992年9月29日
亡相馬せい訴訟承継人
原告
相馬義一郎
右訴訟代理人弁護士
相馬健司
右訴訟復代理人弁護士
山崎智男
被告
建設大臣
山崎拓
同
青森県知事
北村正哉
被告両名指定代理人
平尾雅世
外六名
被告建設大臣指定代理人
原田良吉
外三名
被告青森県知事指定代理人
櫻庭宏實
外二名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
一被告建設大臣が昭和六〇年一〇月二九日付けでした亡相馬せいの昭和五一年五月二一日付け審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。
二被告青森県知事が亡相馬せいに対し昭和五一年三月二三日付けでした別紙物件目録一記載の土地の換地として別紙物件目録二記載の土地を指定する旨の換地処分を取り消す。
第二事案の概要
一争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実
1 亡相馬せい(以下「せい」という。)は、従前より柏原博(以下「柏原」という。)所有の別紙物件目録三記載の土地(以下「二九〇番三二の土地」という。)のうち三〇坪を賃借し(以下「本件借地部分」という。)、その上に建物を建てて居住していた(争いがない。)。
2 青森都市計画復興土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)は、昭和二一年九月から被告青森県知事(以下(被告知事」という。)を施行者として青森市の中心部を施行区域として行われたもので、東部、中部第一、中部第二、西部の各工区から成り、二九〇番三二の土地ないし本件借地部分は中部第二工区に所在していたところ(<書証番号略>)、被告知事は、昭和二三年四月一四日、せいに対し、二九〇番三二の土地を従前の宅地として中部第二工区の四一街区内に指定した柏原に対する換地予定地161.52坪のうち、45.52坪を本件借地部分に対する換地予定地として指定した(以下「本件権利指定」という。争いがない。なお、当時は、特別都市計画法(昭和二一年法律第一九号)適用下にあったため、宅地に対するものも、宅地を目的とする使用収益権に対するものも、いずれも換地予定地の指定といったが、昭和三〇年、土地区画整理法の施行に伴い、同法施行法六条により換地予定地の指定は土地区画整理法九八条一項の仮換地の指定と、仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分の指定(宅地を目的とする使用収益権に対するもの)と、それぞれみなされるにいたった。)。
3 柏原は、昭和二四年七月四日、二九〇番三二の土地を二九〇番三二と二九〇番五五ないし五八の五筆に分筆した上、翌昭和二五年、本件借地部分に相当する別紙物件目録一記載の土地(以下「二九〇番五六の土地」という。)をせいに対し売り渡し、同年一二月二二日所有権移転登記をした(争いがない。)。
4 被告知事は、昭和三七年一〇月三〇日から同年一一月一二日までの間、換地計画(以下「旧換地計画」という。)を公衆の縦覧に付した。旧換地計画では、二九〇番五六の土地に対する換地の面積は42.39坪とされていた(争いがない。)。
5 被告知事は、昭和五〇年三月八日付け青森県報に旧換地計画の廃止を公告した上、同年八月二六日付けで中部第二工区土地区画整理審議会に同工区に係る新換地計画について意見を求め、同審議会から同年九月九日付けで原案のとおり差し支えない旨の答申を得、新換地計画を同年一一月二六日から同年一二月九日まで公衆の縦覧に供した(<書証番号略>)。新換地計画では二九〇番五六の土地に対する換地の面積は39.27坪とされた(争いがない。)。
6 せいは、新換地計画について昭和五〇年一二月三日付けで意見書を提出したが、被告知事は、中部第二工区土地区画整理審議会の意見を聞いた上審査して、採択すべきでないと認め、昭和五一年三月二七日、せいに対して不採択の通知をした(争いがない。)。
7 被告知事は、せいに対し、昭和五一年三月二三日付けで新換地計画のとおりに二九〇番五六の土地の換地として別紙物件目録二記載の土地(以下「本件換地」という。)を換地する旨の換地処分(以下「本件換地処分」という。)の通知をし、せいから四万三二二八円の清算金を徴収した(争いがない。)。その後、被告知事は、同年八月一〇日に本件換地処分の公告を青森県報に掲載した(<書証番号略>)。
8 せいは、被告建設大臣に対し、昭和五一年五月二一日、せいに対する本件換地処分につき、本件換地の面積が本件権利指定の45.52坪から39.27坪に減少したことを主たる理由とする審査請求を行った。
被告建設大臣は、昭和六〇年一〇月二九日付けで、本件換地処分において本件換地は青森都市計画復興土地区画整理事業施行規程第一六条に基づき定められた従前地の基準地積を基準として定められていることが認められ、本件権利指定における地積及び旧換地計画における地積はいずれも本件換地処分に関係を有するものではないとして、せいからの審査請求を棄却する裁決(以下「本件裁決」という。)を行った(争いがない。)。
9 せいは、平成元年一一月一一日死亡し、相続人間の協議により原告が本件に関する訴訟上の地位を承継した(争いがない。)。
二本件の争点
1 本件換地処分の適法性
(一) 本件換地処分には本件権利指定で指定した換地予定地の面積を削減した違法があるか否か。
(二) 仮換地の分割手続の有無、右手続に違法があるか否か。
(三) 旧換地計画の廃止は違法か否か。
(四) 本件換地処分は照応の原則に違反しているか否か。
2 本件裁決の適法性
三争点についての当事者の主張
1 争点1(本件換地処分の適法性)について
(一) 本件換地処分には本件権利指定で指定した換地予定地の面積を削減した違法があるか否か。
(1) 原告
せいは、本件借地部分について45.52坪の面積とする本件権利指定を受け、その後、柏原から売買により本件借地部分に相当する二九〇番五六の土地(45.52坪)の所有権を取得したところ、本件換地処分により本件換地の面積を39.27坪に削減された。しかしながら、仮換地(換地予定地)指定処分は換地計画決定の基準を考慮して定められるものであるから、本来換地処分は仮換地指定処分と内容において一致していることが要求され、ただ公益等の理由により一致しない換地処分をすることが許されているにすぎないところ、本件においてはそのような理由は存在しないから、本件換地処分は違法である。
なお、被告知事は、二九〇番五六の土地の実際の面積は当初から39.27坪であったと主張するが、そのような事実はなく、被告知事において勝手に面積を削減したものである。
(2) 被告知事
仮換地指定を行う場合には、換地計画の決定の基準を考慮してしなければならない(土地区画整理法九八条二項)ものの、換地処分は、その内容に関する法的制約としては照応の原則(同法八九条一項)のみであって、換地処分が仮換地指定処分と必ず一致しなければならないとする法律上の根拠はない。そして、仮換地指定処分は、換地と従前地の使用権の調整のためにされるものであるから、仮換地の指定がされても、その指定された土地が従前地に対応して与えられるであろうとの期待権と、その仮換地の使用収益権を取得するにとどまるものである。したがって、その後の手続の進行にともない仮換地と最終的な換地の面積がある程度変動することは、換地処分が「照応の原則」に反しない限り許容されているというべきであるから、仮換地指定処分と換地処分とが内容において同一でなければならないとする原告の主張は理由がない。
そもそも本件権利指定は借地権に対するものであるところ、この借地権は、せいが本件借地部分に相当する二九〇番五六の土地の所有権を取得したのと同時に混同により消滅しており、これに伴って本件権利指定も効力を失ったものである。仮に当然に消滅したとはいえないとしても、昭和三九年五月五日付けでせいから被告知事に対し借地の所有権取得を理由とする借地権消滅の届出がされたことによって消滅した。
また、本件権利指定において本件借地部分に対するものとして指定された45.52坪の面積は、現地における使用収益の範囲を測量の上指定したものでも、また換地予定地図に基づき現地に杭を設置した上測量したものでもなく、「現況図」と「街区図」を重ね合わせた「重ね図」をもとに机上作業によって算出されたものである。その後、昭和三五年に実地測量(確定測量)をして二九〇番五六の土地の面積を42.39坪と測量し、右測量に従って旧換地計画案を作成したが、昭和三九年に検照測量をしたところ、右測量は誤りであり実際の面積は39.27坪であることが判明したので、新換地計画では本件換地の面積を39.27坪として本件換地処分をしたものである。したがって、二九〇番五六の土地の実際の面積は当初から39.27坪であったから、せいが取得した二九〇番五六の土地の面積は45.52坪であるとの原告の主張は、理由がない。
(二) 仮換地の分割手続の有無、右手続に違法があるか否か。
(1) 原告
柏原は、二九〇番三二の土地の借地人であったせい、相馬松三郎及び島津忠助ら三名に対し、それぞれの借地部分に対する換地予定地として指定を受けた土地(合計122.52坪)の所有権を譲渡したが、登記簿上はせいら三名に対し、合計九二坪の所有権移転登記を行ったにとどまるから、せいら三名が権利指定を受けた土地の面積とせいら三名が移転登記を受けた土地の登記簿上の面積の差である30.52坪は、せいら三名の準共有となるところ、被告知事は、せいの立会なく他の準共有者だけで二九〇番五五ないし五八の各土地の境界杭を打って各土地の使用収益の範囲を定めて分割し、その後、勝手に二九〇番五六の土地の面積を削減した上、本件換地の面積を39.27坪とする本件換地処分をしたのであるから、本件換地処分は違法である。
(2) 被告知事
原告は、せいら三名が権利指定を受けた土地の面積とせいら三名が移転登記を受けた土地の登記簿上の面積の差である30.52坪は、せいら三名の準共有となると主張するが、本件では本件権利指定に従い、現地に杭を設置し、それにより範囲が明確にされた土地を従前地である本件借地部分に対して指定された換地予定地であるとして、その土地の取得を目的とする売買がされたものであるから、従前地も換地予定地も特定されており、準共有の発生する余地はない。したがって、準共有であることを前提として、被告知事が分割手続をしたとする原告の主張はそもそも理由がない。
(三) 旧換地計画の廃止は違法か否か。
(1) 原告
土地区画整理法上変更と廃止の各用語は明確に区別して用いられ、換地計画の変更は、換地計画が所定の手続きを経て公衆の縦覧に供してからは修正の手続によるべきものであり、換地計画の廃止は許されない。しかも、被告知事は、旧換地計画を昭和三七年に公示してからこれを廃止する公告をした昭和五〇年三月まで約一三年間にわたり関係権利者をこれによって実際に規制してきたのであり、これを一朝にして廃止するということは明文の根拠なくして行うことはできない。
したがって、旧換地計画を廃止して本件換地処分をしたことは違法である。
なお、被告知事は、関係権利者の約半数から意見書の提出があり、また、せいに対して指定された換地予定地については、隣地との境界杭を見誤って地積を算出したことが発見されたので、これを是正するため旧換地計画を廃止する必要があったと主張するが、意見書の内容は清算金に関するものが最も多かったのであり、旧換地計画を廃止までしなければならない理由にならないし、地積の誤りについては、旧換地計画を廃止するのではなく修正の手続をとるほうが合理的であるから、被告知事の主張する右の事実は旧換地計画の廃止を何ら正当化させるものではない。
(2) 被告知事
土地区画整理法九七条三項の換地計画の変更は、換地計画が違法又は不合理なものであるときには許されると解すべきであり、変更には、全面的変更を意味する換地計画を廃止して新たな換地計画を作成することも含まれるというべきである。
そして、本件では、旧換地計画に対してはこれを公衆の縦覧に付した後に全工区にわたって関係権利者から合計四三五〇件の意見書の提出があり、中部第二工区においてもせいを含め関係権利者の約半数から意見書の提出があった。そして、本件換地が所在する中部第二工区四一街区については、旧換地計画は、確定測量の結果を考慮して作成されたものであるところ、せいに対して指定された換地予定地については隣地との境界杭を見誤って地積を算出したものであり、その後の検照測量の結果、右誤りが発見され、四一街区の他の権利者に影響するものであったから、それを是正するため旧換地計画を廃止して新換地計画を作成したことには合理的な理由があったというべきである。
(四) 本件換地処分は照応の原則に違反しているか否か。
(1) 原告
本件換地処分は、せいが隣地の所有者のうちでは増歩率が最下位であることや隣地の相馬松三郎からせいの建物が松三郎の土地の一部を侵害しているとして非難され、松三郎の建物の屋根の雪のためせいの建物が毎年毀損される被害を受け、結局取り壊さなければならなくなったことからすれば、到底照応の原則に合致しているとはいえない。
(2) 被告知事
照応の原則とは、土地区画整理法八九条一項に定める諸要素を総合的に判断して、換地が従前の宅地に比べて大体同一条件にあり、かつ、多数の権利者間において均衡が取れ、おおむね公平なもので足りると解されているところ、本件換地処分が照応の原則に適合しているか否かをみると、本件換地はおおむね現地換地であり、かつ角地で土地評価が高いこと、土地区画整理事業において増換地となることは事業の性質上極めて希有であり、中部第二工区では全体の平均減歩率は13.36パーセントであるところ、本件換地は基準地積三五坪に対し39.27坪の増換地の指定であり、本件換地を含む四一街区の各換地の増歩率の中でも中位にあること等を総合的に判断すると、本件換地処分は照応の原則に適合するものであり、違法な点は何ら認められない。
2 争点2(本件裁決の適法性)について
(一) 原告
(1) 仮換地の指定と換地処分とは原則として同一内容のものであるべきであるにもかかわらず、本件裁決は、本件権利指定における地積及び旧換地計画における地積はいずれも本件換地処分と関係を有するものではないとして本件換地処分は有効であるとしているから、本件裁決は取り消されるべきである。
(2) 被告建設大臣は、本件換地は青森都市計画復興土地区画整理事業施行規程第一六条に基づき定められた本件従前地の基準地積を基準として定められているとの理由を付しているが、これだけでは行政不服審査法四一条一項に定める理由を付したことにならない。
(3) 本件換地処分についてせいが被告建設大臣に審査請求を申し立てた後、本件裁決に至るまで約一〇年間を要したため、その間、原告の建物の朽廃が進行し、維持保存ができなくなり、原告はやむなく建物を取り壊した。そして新建物の建築にあたっては、本件換地処分に従わなければ新建物の建築確認を取得できなかったため、新建物は本件換地処分に従った敷地内に建築せざるをえなくなった。これは、ひとえに被告建設大臣の審査の遅滞によってもたらされたものであるから、本件裁決は違法である。
(二) 被告建設大臣
(1) 裁決の取消しの訴えにおいては裁決固有の違法事由を主張できるにすぎず、原処分の違法事由を主張することはできないところ、原告の前記(1)の主張は原処分である本件換地処分の違法事由を裁決の違法事由とするものであるから主張自体理由がない。
(2) 原告は、本件裁決に理由不備の違法があると主張するが、本件裁決は、せいの不服事由に対応し、その主張を採用し得ない理由を具体的に明示しているから、理由不備の違法はない。
(3) 本件裁決にはせいの審査申立てから一〇年近くかかっているが、土地区画整理事業は広範な区域にわたって道路、公園、広場、河川等の公共施設を整備するとともに土地の区画形質の変更を行うことを内容とする面的整備事業であり、他の多くの都市計画事業に比して利害関係者の数が極めて多く、また、一つの事業における行政庁の処分も、例えば、仮換地指定、換地処分、清算金の徴収等多段階にわたり、それらのすべてについて不服申立てがされる場合も多々あり、被告建設大臣としてはそのような事案を大量的に処理しなければならないこと、及び行政不服審査法は裁決の期間について格別の制限を設けているものではないことを考慮すると、審査の遅滞をもって本件裁決を取り消さなければならないものとはいえない。
第三争点に対する判断
一争点1(本件換地処分の適法性)について
1 本件換地処分には本件権利指定で指定した換地予定地の面積を削減した違法があるか否か。
(一) 本件事業(青森都市計画復興土地区画整理事業)において、被告知事は、柏原所有の二九〇番三二の土地を従前地として中部第二工区四一街区内に指定した換地予定地161.52坪のうち、45.52坪をせいの本件借地部分に対する換地予定地として指定し(本件権利指定)、その後、せいは、柏原から、本件借地部分に相当する二九〇番五六の土地所有権を売買により取得したが、被告知事は、せいに対し、同土地について39.27坪の本件換地を換地する旨の換地処分(本件換地処分)をしたことは、当事者間に争いがない。
ところで、原告は、仮換地(換地予定地)指定処分と換地処分とはその内容において原則として同一でなければならないところ、被告知事は、せいに対する本件権利指定における土地の面積45.52坪を削減して39.27坪とする本件換地処分を行ったものであるから、本件換地処分は違法であると主張する。
しかしながら、一般に、仮換地指定処分は、従前の土地を使用する正当な権原を有する権利者に対して、従前の土地についての使用収益を停止させ、仮換地の位置範囲を定めて、これに従前の土地におけるのと同じ内容の使用収益をなしうる権能を与える形式的な処分であり、その付与される使用収益権は従前の土地の使用収益権とは別個に仮換地に設定される権利であると解される。そうすると、換地処分において換地は従前の土地との関係において決定されるべきものではあるが、仮換地自体は従前の土地とは別個に設定されるものである以上、仮換地指定処分と換地処分とはなんら直接関連を持つものではないことになる。したがって、換地処分自体が法定の基準に適合するものである限り、換地が仮換地の位置範囲と一致すると否とにかかわりなく、換地処分は適法といわなければならない。
また、そもそもせいに対する本件権利指定は借地権に対するものであるところ、この借地権は、せいがその後本件借地部分に相当する二九〇番五六の土地の所有権を取得したのと同時に混同により消滅した。他方、せいに対する本件換地処分は、旧換地計画を廃止し、新換地計画に基づいて行われたもので、対象もせいが所有権を取得した二九〇番五六の土地に対してされたものであるところ、同土地に対する仮換地の指定は行われていない(争いがない。)。そうすると、本件権利指定と本件換地処分とは、そもそも前提となる換地計画を異にし、対象も異なるものであるから、その間における同一性を云々する原告の主張は失当である。
(二) 原告の主張は、事実問題としては、本件借地部分に対し本件権利指定により45.52坪の面積が現地において実際に確保されていたことを前提としているので、この点について判断する。
原告は、右主張の根拠として、まず、本件権利指定においてせいに対し45.52坪の指定があったことを挙げている。しかしながら、本件権利指定は、換地予定地図(<書証番号略>)に基づいて行われたところ、換地予定地図は、現地でまず杭を設置した上で、それを測量して作成したものではなく、地区内の道路、公園、水路等の公共施設及び建物あるいは工作物等の位置・形状を表示した現況測量図(縮尺は一二〇〇分の一)及び事業計画で定められた道路、公園等の公共施設の位置を現地に杭を打って表示し、それを測量した街区図(縮尺は一二〇〇分の一)をいずれも六〇〇分の一に拡大して重ね合わせた重ね図を作成した上で、公図を参考にしながら机上で換地の街区と換地予定地を割り込み、それを謄写して作成されたというものにすぎない。その後、被告知事は、換地予定地図に基づいて権利指定を行い、その後、現地に杭を設置する作業に入ったが、換地予定地図と現地において設置された杭とが一致しない場所があったため、一致しない部分については、換地予定地を街区単位にして実測した間口や奥行きの距離、杭を打った場合の四角印、コンクリートをたがねで刻んだ場合の三角印、境界の十字等を表示した寸法図を作成した。中部第二工区の換地予定地図(<書証番号略>)は、距離を表示していたが、換地予定地図と現地において設置された杭とが一致しない場所の地権者から苦情が出たことから、本件事業の他の工区では、距離を表示しないで換地予定地図を作成した。換地予定地図の作成経過は以上のようなものである上に、当時の測量技術が現在と比べるとその正確性において劣っていたこと(以上、証人中村浩、同神只一)、せいと柏原の間の二九〇番五六の土地(登記簿上は三五坪)の売買が三七坪であるとして行われたこと(<書証番号略>)、せいは二九〇番五六の土地と隣地との境界を現地で示すことができなかったこと(証人神只一)を考慮すれば、換地予定地図の正確性には疑問があり、したがって、換地予定地図に基づいてせいに対し指定された45.52坪という本件権利指定の面積が現地における実際の面積を担保していたと認めることはできないというべきである。
また、原告は、「本件借地部分は間口が5.5間(約10.01メートル)、奥行きが七間あり、土地の中央に間口三間、奥行二間の家屋を建てていたところ、昭和二三年の権利指定に基づき杭を設置した際、本件借地の西側部分が一間分削られた代わりに東側に表間口が約一間半(実際には表間口の東側の角が削られたため、長さはこれよりも短くなっている。)、裏間口は一間広げられたが、二九〇番五六の土地と相馬松三郎所有の二九〇番五七の土地の境界と原告宅の建物との間にはなお半間の空間があった。その後、昭和二五年ころに松三郎が二九〇番五七の土地上に自宅を建築し、昭和三六年に原告宅を増築する際に、大工の浜田義弘に調査してもらった結果、松三郎の右建物が二九〇番五六の土地に食い込んでいることが判明し、その後の昭和三八年にも、松三郎が二九〇番五六の土地を侵害する形で建物を増築する等したため、原告宅の建物を取り壊さなければならなくなった。」と供述している。しかしながら、原告の右供述によれば、二九〇番五六の土地の西側を一間分削られてもなお原告の自宅と二九〇番五六の土地の西側の境界線との間には、半間の空間があったということになるが、そうすると、当時の二九〇番五六の土地の表間口(約8.87メートル、<書証番号略>)から約半間西側のところ(約9.78メートル)に境界線があったことになり(<書証番号略>)、これは換地予定地図(<書証番号略>)では二九〇番五六の土地の表間口は、5.2間(約9.46メートル)となっていることと矛盾する。また、原告は、「原告の自宅と松三郎の自宅との間の距離は、五尺五寸弱あったが、二九〇番五六の土地と二九〇番五七の土地との境界は、松三郎の自宅の土台から約五寸東側のところにある。」とも供述するが、右供述に従えば、二九〇番五六の土地の表間口は、約10.39メートルあることになるから、換地予定地図(<書証番号略>)上の二九〇番五六の土地の表間口の長さが5.2間(約9.46メートル)であることと矛盾するし、原告自身の、表間口の長さは約9.78メートルであったことになるとの前記供述とも矛盾する。さらに、原告は、「昭和三六年に大工の浜田義弘に頼んで作成してもらった図面(<書証番号略>)の西側の線は、原告宅の庇と松三郎宅の自宅の庇の中間である。」と供述しているが、<書証番号略>によれば、松三郎の自宅の庇は、二九〇番五六の土地の裏間口約9.95メートルの西端にあることになるはずであるが、<書証番号略>によれば、松三郎の自宅の庇は、二九〇番五六の土地の裏間口(10.25メートル)よりも西側にあることになり、矛盾する。
このように原告の右供述は、一貫しない上、いろいろと矛盾点が見受けられ、右事情に加えて、本件権利指定に基づいて原告の右供述のとおり杭が設置されたとすれば、前認定のとおり、せいと柏原との間で二九〇番五六の土地の面積が三七坪として売買されたことと矛盾すること及び原告の右供述のとおり、昭和三六年に松三郎が二九〇番五六の土地を侵害していることが判明したとすれば、同人に対し境界を侵害しているとして抗議したり、境界について協議をしたりするはずであるが、そのような対処をしたことはなかったことをも考慮すると、この点に関する原告の供述は、その余の部分も含めて採用することはできないというべきである。
さらに、原告は、旧換地計画において二九〇番五六の土地の面積は42.39坪であったところ、新換地計画において39.27坪とされた上、本件換地処分が行われたことをもって、二九〇番五六の土地の面積が削減されたことの根拠として主張する。
確かに旧換地計画のもととなった換地図(<書証番号略>)の図面と新換地計画のもととなった換地図(<書証番号略>)を比較すれば、二九〇番五六の土地の形状及び面積が食い違っていることが認められる。しかしながら、この点については、証人中村浩及び同神只一は、「<書証番号略>の換地図は、四一街区内の二九〇番二三の土地と二八九番二四及び二五の土地の裏間口の杭と二九〇番五六の土地と二九〇番五七の土地の裏間口の杭が東西に近接して併存していたため、作図の際、誤って二九〇番二三の土地と二八九番二四及び二五の土地の裏間口の杭を二九〇番五六の土地と二九〇番五七の土地の裏間口の杭であると見誤って境界線を作成したものである。」と証言しているところ、換地予定地図(<書証番号略>)において、二九〇番二三ないし二六、二九〇番三八及び二九〇番五六ないし五八の各土地に相当する土地の相互間の境界線は、いずれも表間口に面する道路とほぼ直角に交差しており、それを<書証番号略>の換地図のように、二九〇番二三ないし二六、二九〇番三八及び二九〇番五六ないし五八の各土地の相互の境界線を右各土地の表間口に面する道路と斜めに交差する形に設定し、その結果、右各土地の形状をいびつな形にすることは合理性を欠くことからすると、<書証番号略>の換地図は、右の各証言のとおり、二九〇番五六の土地と二九〇番五七の土地との裏間口の杭を見誤って作成されたものであって、それを検照測量によって是正し、<書証番号略>の換地図が作成されたと認めるのが相当である。
もっとも、<書証番号略>の換地図は、作図の際、誤って二九〇番二三の土地と二八九番二四及び二五の土地の裏間口の杭を二九〇番五六の土地と二九〇番五七の土地の裏間口の杭であると見誤って境界線を作成したものであるとすれば、<書証番号略>の換地図における二九〇番五六の土地の裏間口の長さと<書証番号略>の換地図における二九〇番二三の土地の裏間口の長さとは一致するはずであるが、<書証番号略>の換地図における二九〇番五六の土地の裏間口の長さは11.53メートルであり、<書証番号略>の換地図における二九〇番二三の土地の裏間口の長さは11.22メートルであって一致しないのみならず、二九〇番五六の土地の表間口の長さも<書証番号略>の換地図においては8.77メートルであったところ、<書証番号略>の換地図では8.87メートルとなっている。しかし、右距離の不一致の程度は、それほど大きくはない上、検照測量の際、二九〇番五六の土地が所在する四一街区以外の街区においても境界線を変更した箇所が多数あること(<書証番号略>)からすれば、右距離の不一致は、測量の際あるいは作図の際の誤りであると推認することができるから、右のような不一致があることは、前記認定を妨げるものではないというべきである。
(三) 以上のとおり、本件権利指定における面積と本件換地処分における面積とは同一であるべきであるとの原告の主張は、そもそも失当であるし、原告が主張するように、被告知事において二九〇番五六の土地の面積を勝手に削減したことも認められないから、原告の主張は、理由がない。
2 仮換地の分割手続の有無、右手続に違法があるか否か。
(一) 証拠によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 本件事業において、被告知事は、柏原所有の二九〇番三二の土地を従前地として中部第二工区四一街区内に161.52坪を、二九街区内に231.70坪をそれぞれ仮換地(換地予定地)として指定し、その上で四一街区に指定した右161.52坪のうち45.52坪をせいの本件借地部分に対する換地予定地として、四二坪を相馬松三郎の借地部分に対する換地予定地として、三五坪を島津忠助の借地部分に対する換地予定地としてそれぞれ指定した(<書証番号略>)。
(2) 柏原は、昭和二二年一二月二〇日、二九〇番三二の土地を二九〇番三二と同番三六ないし三八に分筆し、同番三六、三七の各土地の仮換地(換地予定地)は中部第二工区二九街区内に、同番三八の土地の仮換地(換地予定地)は同工区四一街区内に存在するものとして第三者に売り渡した(<書証番号略>)。
(3) 柏原は、昭和二四年七月二四日、右分筆後の二九〇番三二の土地を二九〇番三二と二九〇番五五ないし五八の五筆に分筆し(争いがない。)、二九〇番五五の土地の仮換地(換地予定地)は、中部第二工区二九街区内に存在するものとして昭和二五年六月三日に足立謹治に売り渡し、二九〇番五六ないし五八の各土地の仮換地(換地予定地)は、いずれも同工区四一街区内に存在するものとして、二九〇番五六の土地を昭和二五年一二月二二日にせいに対し、二九〇番五七の土地を昭和二四年七月二五日に相馬松三郎に対し、二九〇番五八の土地を昭和二五年四月二四日に島津忠助に対し、それぞれその借地部分に相当する従前地として売り渡した(<書証番号略>)。
(4) せい、相馬松三郎及び島津忠助と柏原の前記売買に先立って、被告知事は、右のせいら三名の各借地部分に対する換地予定地の範囲を指定した借地権の図面に従って境界杭を設置し、せいと柏原は、右設置された境界杭によって特定された土地を対応する仮換地(換地予定地)として二九〇番五六の土地の売買をした。なお、せいと柏原の売買には柏原の土地の管理人であった佐々木金蔵が柏原の代理人として関与していた(<書証番号略>、証人中村浩、同神只一、原告本人(一部))。
(5) せいは、昭和三九年五月五日付けで被告知事に対し、本件借地部分の所有権取得を原因とする借地権消滅の届出をしたが、被告知事は、その後も、せいに対する仮換地を特定した変更指定処分をしないまま、本件換地処分を行った(争いがない。)。
(二) 一般に、仮換地の指定後、従前の土地が分割譲渡されて所有者を異にする二筆以上の土地となった場合においては、施行者により各筆に対する仮換地を特定した変更指定処分がされない限り、各所有者は、仮換地全体につき、従前の土地に対する各自の所有地積の割合に応じ使用収益権を共同して行使すべき、いわゆる準共有の関係にあるものと解すべきである。
原告は、右と理由は異なるものの、せいら三名に対する譲渡部分(登記簿上、合計九二坪)に対応する仮換地(換地予定地・合計122.52坪)のうち30.52坪は準共有となるとした上で、その分割手続に違法があったと主張する。
しかし、準共有となった仮換地について民法上の共有地と同様に分割が認められるかどうかはそれ自体問題がある上に、民法上の共有物分割であれば、まず当事者間で協議を試みた上でまとまらなければ裁判所に訴えにより請求することになるところ、土地区画整理法には被告知事が一方的にかかる仮換地の分割手続を行うことを予定した規定は見当たらないし、本件においても被告知事がかかる仮換地の分割手続を行ったことについては証拠が全くない。
そうすると、準共有物である仮換地の分割手続があったことを前提とする原告の主張は理由がないことになる。
なお、せいが昭和二五年に柏原から二九〇番五六の土地を買い受けた翌年の昭和二六年に買受土地の範囲を確認するため、柏原の土地の管理者である佐々木金蔵の立会のもとに二九〇番五六の土地及びその周辺の土地について境界杭が設置された(証人中村浩、同神只一)が、右事実をもって、昭和二六年に被告知事によって仮換地(換地予定地)の分割手続が行われたということはできない。
3 旧換地計画の廃止は違法か否か。
(一) 証拠によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 被告知事は、昭和三七年一〇月三〇日から同年一一月一二日までの間、旧換地計画を公衆の縦覧に付した(争いがない。)が、本件事業の権利者(九〇二一人)から四三五〇件の意見書が提出され、その内訳は、地積に不服がある等の換地に関するものが四四二件、徴収額に不服がある等の清算金に関するものが九三四件、換地と清算金に不服がある等の換地計画に関するものが二七一六件、要望・批判が二四一件というものであった(<書証番号略>)。
(2) 被告知事は、右のように旧換地計画に対し多数の意見書が提出されたことから、換地地積の検照測量や権利関係の調査調整等について検討作業を行ったところ、旧換地計画の全体にわたり換地の境界線の変更を含む大幅な内容の変更を行う必要があることが判明したので旧換地計画を廃止することとし、旧換地計画の廃止を昭和五〇年三月八日付け青森県報に掲載した。そして、被告知事は、新換地計画を作成した上、同年八月二六日付けで中部第二工区土地区画整理審議会に対し中部第二工区に係る新換地計画について意見を求め、同審議会から同年九月九日付けで原案のとおり差し支えない旨の答申を得、新換地計画を同年一一月二六日から同年一二月九日まで公衆の縦覧に供した(<書証番号略>、証人中村浩、同神只一)。
(3) せいは、新換地計画について昭和五〇年一二月三日付けで意見書を提出したが、被告知事は、中部第二工区土地区画整理審議会の意見を聞いた上審査して、採択すべきでないと認め、昭和五一年三月二七日、せいに対して不採択の通知をした(争いがない。)。
(4) 被告知事は、せいに対し、昭和五一年三月二三日付けで新換地計画のとおりに二九〇番五六の土地を従前地として本件換地を換地する旨の換地処分(本件換地処分)の通知をし、せいから四万三二二八円の清算金を徴収した(争いがない。)。その後、被告知事は、同年八月一〇日、右換地処分の公告を青森県報に掲載した(<書証番号略>)。
(二) 右認定のとおり、被告知事は、旧換地計画を廃止した上、新換地計画を作成しているところ、土地区画整理法においては、換地計画の修正(同法八八条五項)と変更(同法九七条三項)について定めがあるが、換地計画の廃止という文言の規定は置かれていない。しかしながら、土地区画整理法上換地計画の変更については換地計画決定の場合と同様の手続を経ることを要求しているのみで、変更の限度、変更可能の時期についてはなんら定めを置いていないから、その変更の内容については換地計画を廃止して新たな換地計画を作成する全面的な変更も含まれると解される。
そうすると、本件においては旧換地計画の廃止の公告をなし、旧換地計画を廃止したことになっているが、これは旧換地計画の内容を大部分にわたって変更する必要があったためであるから、旧換地計画を廃止したことそれ自体は何ら違法ではない。
また、原告は旧換地計画を廃止する必要はなかったとも主張するが、その必要があったことは右(一)の(1)、(2)に述べたとおりである。
さらに、原告は、旧換地計画は公告から約一三年間維持されて来たのであるから、もはや廃止をすることはできないとも主張するが、前記のとおり換地計画の変更には時期的な制約を定めた規定がないこと、旧換地計画の廃止まで約一三年間かかったのは旧換地計画について多数の意見書が提出され旧換地計画全体にわたり再度の検照測量を実施する等の膨大な検討作業をする必要があったためであることを考慮すれば、公告後約一三年が経過したからといって、旧換地計画の廃止が違法であるということはできない。
4 本件換地処分は照応の原則に違反しているか否か。
(一) 土地区画整理法八九条一項は、「換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない」と規定しているところ、土地区画整理においては、その本質上土地の区画、形質に変更を生じるものであるし、また、道路、公園等公共施設の新設を伴うことが通常であるため、すべての条件が従前の土地に照応するように換地を定めることは、技術的にもほとんど不可能であるから、右規定において要求される「照応」とは、同条項に定める土地の諸要素を総合的に勘案して換地が従前の土地と大体同一の条件をもつもので、多数の権利者間においても均衡がとれ概ね公平である、という状態を指すものと解するのが相当である。そして、このように解すべきことは、法が多数の権利者間に多少の不均衡の生ずることを当然のことと予定し、これを是正するために清算金の制度を設けていることからも明らかである。
したがって、換地処分が右規定に定める照応の原則に反して違法とされるには、単に換地が従前の土地と比較して多少不照応の点があるというだけでは足りず、前記諸要素等を総合的に勘案してもなお従前の土地と著しく条件が異なり、かつ、ことさらに特定の者の不利益を計ったとか、あるいは近隣の土地と比較して著しく不利益でそのことにつき合理的理由がない場合等の事情がなければならないものとするのが相当である。
(二) そこで、せいに対する本件換地処分に照応の原則違反があるか否かについて検討するに、証拠によれば、次の事実が認められる。
せいを始めとする中部第二工区四一街区の土地所有者に対する換地前の従前地の面積と本件換地処分後の面積は、別表記載のとおりであり、せいに対する換地は増換地として行われ、その増歩率は四一街区中五番目に高かった(<書証番号略>)。
本件事業において被告知事は、できるかぎり従前地と同一場所を換地とする現地換地の方針で事業を進め(証人中村浩、同神只一)、せいの本件換地は従前地と完全に一致するものではないがほぼ同じ位置に存在するものであり、またせいの従前地は角地ではなかった(原告本人)のに対し、本件換地は角地に存在する概ね略正方形の土地である(<書証番号略>)。
(三) 以上の事実を総合すれば、せいに対する本件換地処分は照応の原則に適合するものであり、これに違反する違法なものであるということはできない。
この点について、原告は、同じ条件の位置にある隣地の所有者のうちでは増歩率が最下位であることを照応の原則違反の一事由として主張するが、照応の原則に違反しているか否かは土地の諸要素を考慮して判断すべきものであって、増歩率又は減歩率の割合のみを考慮すべきものではなく、また、増歩率又は減歩率は権利者全体との関係において比較すべきものであって、原告主張のように隣地の所有者との間のみにおいて比較すべきものではないし、別表記載のとおり、本件換地の増歩率は、本件換地の西側に旧線路通りに面して隣接する相馬松三郎、島津忠助らの土地よりは増歩率が低いものの、本件換地は相馬松三郎らが換地を受けた土地とは異なり角地にあることを考慮すれば、相馬松三郎らが換地を受けた土地よりも増歩率が低いということだけで照応の原則に違反するということはできないから、結局、原告の右主張は理由がない。
また、原告は相馬松三郎との間の境界争いのために本件建物を取り壊さなければならなくなったことをも照応の原則違反の一事由として主張するが、本件換地は、前記認定のとおり、現地換地であり、従前地と完全に一致するものではないものの、ほぼ同じ位置に存在するものであり、本件換地処分自体によって土地の使用収益の範囲が変更され、地上建物の使用に支障を来たしたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告と隣地の相馬松三郎との間の境界争いは、あくまでも両当事者間の問題であって、本件換地処分とは関係がないというべきである。そうすると、本件においては、換地上の建物の越境問題は照応の原則との関係において考慮する必要はないから、原告の右主張も理由がない。
以上のとおり、本件換地処分が照応の原則に違反しているという原告の主張は理由がない。
二争点2(本件裁決が違法か否か)について
1 原告は、本件換地処分はせいに対する本件権利指定で指定した地積を削減した違法があるにもかかわらず、被告建設大臣が本件権利指定における地積及び旧換地計画における地積はいずれも本件換地処分とは関係を有するものではないとして本件換地処分は有効であるとした本件裁決は違法であると主張する。
しかしながら、裁決の取消の訴えにおいては、処分の違法を主張することができず(行政事件訴訟法一〇条二項)、当該裁決固有の違法事由に限り主張できるところ、裁決固有の違法事由とは、裁決の主体・手続等の形式に関する違法を意味し、裁決の実体的判断に関する違法は含まれないと解すべきであるから、原告の右主張は、そもそも失当である。
2 また、原告は、本件裁決には理由不備の違法があると主張するが、本件裁決の理由は第二、一、8記載のとおりであり(争いがない。)、その結論を導くに十分なものであるから、右の主張は失当である。
3 さらに、原告は、本件裁決は申立てから約一〇年後にされたもので裁決遅滞の違法があるとも主張するが、行政事件訴訟法は、審査請求による権利救済と裁判による権利救済の調整として、審査請求前置主義をとる処分についても、審査請求があった日から三か月を経過しても裁決がないときは、裁決を経ないで処分の取消の訴えを提起することができ(同法八条二項一号)、また、審査庁を相手方として裁決をしないことを理由に不作為の違法確認の訴えを提起することができる(同法三条五項)と規定していることからすると、裁決が遅滞したこと自体は、裁決固有の違法事由とはならないというべきであるから、原告の右主張も理由がない。
第三結論
以上の次第で、本件換地処分及び本件裁決はいずれも適法であって、原告の本件訴えはいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小野剛 裁判官佐藤道明 田邊浩典)
別紙物件目録<省略>
別表<省略>