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青森地方裁判所 昭和61年(行ウ)2号 判決 1986年12月23日

青森市新町一丁目九番二六号

原告

有限会社武田開発商社

右代表者代表取締役

武田政治

右訴訟代理人弁護士

尾崎陞

清宮国義

同市本町一丁目六番五号

被告

青森税務署長

秋澤和雄

右指定代理人

佐藤崇

佐々木運悦

斎藤浩

佐々木邦二

津島豊

高橋静栄

福士貫蔵

佐藤四郎

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和六〇年六月二七日付で原告の同五七年五月一日から同五八年四月三〇日までの法人税についてした決定及び加算税の賦課決定をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  本案前の申立

主文同旨

2  本案の申立

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分の経緯

(一) 被告は、昭和六〇年六月二七日、原告の同五七年五月一日から同五八年四月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)における所得金額二〇二〇万四七九五円及び法人税額七五二万五六〇〇円とする決定をするとともに、無申告加算税七五万二〇〇〇円とする賦課決定をした(以下「本件各決定」という。)。

(二) 原告は、被告に対し右各決定を不服として異議申立をしたところ、被告は、昭和六〇年一二月一四日、これを棄却する旨の異議決定をし、原告は、これを不服として、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同所長は、同六一年二月二八日、これを棄却する旨の裁決をし、原告は、同年三月八日頃、右裁決書謄本の送達を受けた。

2  本件処分の違法事由

原告は本件事業年度において左記のとおりの事情から営業活動をしておらず、営業活動に基づく所得は生じていないので、課税所得があるとする本件各決定は違法である。

(一) 原告は中野英喜(以下「中野」という。)との間で、昭和四八年一月五日、中野所有の土地を五億九一〇〇万円で買受ける旨の契約を締結し、同日、手付金として五〇六〇万円、同年一月二六日、内金として一〇〇〇万円、同年三月一五日、三億円の合計三億六〇六〇万円を支払つた。

しかし、その後原告は、中野の債務不履行を理由として、同四九年八月二八日に右契約を解除し、同年一〇月七日、青森地方裁判所に対し中野を相手として右三億六〇六〇万円及びこれに対する同年八月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員並びに損害金一億二〇九〇万円の支払を求める訴えを提起した。

(二) 国は、原告の昭和五〇年度法人税二億二二二九円を徴収するため、同五一年三月三一日、原告の中野に対する右三億六〇六〇万円の返還請求権を差押え、同五三年四月二五日、中野に対し右金員の支払を求めて右訴訟に独立当事者参加した。

(三) 青森地方裁判所は、右訴訟について、昭和五三年四月二五日、国の請求を認容し、中野は国に対し三億六〇六〇万円及びこれに対する同五一年四月一日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を命ずる旨の判決をした。

(四) 中野は、右判決を不服として仙台高等裁判所に控訴したが、昭和五五年三月四日、中野において原告に対し和解金として金三〇〇〇万円を支払い、前記差押にかかる返還金三億六〇六〇万円及びこれに対する同五一年四月一日以降の利息は、中野から直接国に支払うことなどを定めた和解が成立した。

ところが、右和解により中野から原告に支払われることになつた和解金三〇〇〇万円についても、青森県から差押がなされ、原告はその取立権を失つた。

(五) 原告は、資本金二〇〇万円の宅地建物取引業等を営む会社であるが、その全資金を中野との前記土地売買代金の支払に投入し、これが中野の債務不履行により凍結したため営業活動を休止しなければならなくなり、社運のすべてを右訴訟の進行にかけてきたものであり、また、また、原告が右訴訟で中野に訴求してきた金員は、右(四)のとおり国及び青森県が直接取立てるか差押えることになつたので、原告は営業活動をすることができなかつた。

よつて、原告は、本件各決定の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

本件各決定については原告により異議申立がなされ、同申立に係る異議決定書謄本は、昭和六〇年一二月一六日、原告に送達されたところ、原告は、同六一年一月一七日付発送にかかる郵便をもつて国税不服審判所長に対し右審査請求書を提出し、同審査請求は国税通則法七七条二項所定の不服申立期間である一か月を徒過した不適法なものとして却下された。そこで、国税に関する法律に基づく処分の取消しを求める訴えについては、国税通則法一一五条により審査請求をすることができる処分にあつては同請求についての裁判を経なければならない旨のいわゆる審査請求前置が定められているところ、審査請求前置の要件が満たされたといえるためには、審査請求をしたというだけでは足りず、これが適法に提起され、本案について裁決を受けることを要するものであるから、原告の本件訴えは、適法な審査請求に対する裁決を経ておらず、審査請求前置の要件を欠き不適法なものである。

三  本案前の主張に対する原告の認否及び反論

被告主張の審査請求却下決定は、次のとおり違法であるので、本件訴えは審査請求を経ない違法なものではない。

国税通則法所定の審査請求前置の趣旨は、司法による救済を求める前に行政庁による再審査の機会を与えようとしたもので、不服申立をする者の利益を守るためである。したがつて、不服申立の法定期間及び期間徒過についての「やむを得ない理由」の判断は、柔軟性をもつて社会通念にしたがい合理的になされなければならない。

本件において、審査請求書提出の遅滞は一日に過ぎず、原告の近在地青森と原告代理人の事務所の所在地東京とが遠く離れていること、右原告代理人の事務所の所在地と仙台国税不服審判所も相当の距離があること、右遅滞が本件審査請求の審理に何らの支障を来たすものではないことから、不服審判所長が実質審理をなすことなく審査請求を却下したのは違法である。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、(一)ないし(四) の事実は認め、(五)の事実は不知、その余は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  被告の本案前の申立について判断する。

本件処分の経緯に関する請求原因1記載の事実は当事者間に争いがない。

本件処分は国税に関する法律に基づく処分で審査請求ができるものにあたるから審査請求に対する裁決を経た後でなければ取消訴訟を提起できず(国税通則法一一五条一項)、審査請求が不適法として却下された場合にはその却下決定が違法なものでない限り審査請求に対する裁決を経たことにならないものである(最高裁昭和三六年七月二一日判例)。

いずれも成立に争いのない乙第三及び第四号証、第六ないし第八号証によれば、青森税務署長の昭和六〇年一二月一四日付異議決定書は同月一六日原告に送達されたことが認められるから、これに対し審査請求するには昭和六一年一月一六日までに審査請求書を仙台国税不服審判所長に提出しなければならないのに(国税通則法七七条二項)原告は同月一七日にこれを提出したことが認められるから不服申立期間を徒過した不適法な審査請求というべきである。

この期間経過について、原告は仙台国税不服審判所長に対する昭和六一年二月二〇日付上申書(乙第七号証)において代理人の送達日付誤認というやむを得ない理由が存した旨上申していることが認められ、また、わずか一日の遅れを理由に実質審理することなく却下するのは違法である旨主張する。

しかし、国税通則法七七条三項にいう天災その他やむを得ない理由とは、不服申立期間内に不服申立をしなかつたことが、地震、暴風、落雷等の天然現象に基因する場合、火災、交通のと絶等人為による異常な災害に基因する場合等その責に帰することができない理由に基因する場合をいうものと解すべきところ、原告が期間を徒過した理由はいずれも右やむを得ない理由に該当しないし、一日の遅れであつても期間徒過に変りない。

したがつて、国税不服審判所長が本件各決定に対する審査請求を却下したことに何ら違法はない。

二  よつて、本件訴えは審査請求前置を欠いて不適法であるから、その余の点について判断するまでもなくこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤清實 裁判官 小原春夫 裁判官 中村俊夫)

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