青森地方裁判所八戸支部 平成24年(ワ)84号 判決 2013年11月27日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
千葉晃平
同訴訟復代理人弁護士
宮腰英洋
被告
株式会社青森銀行
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
香月裕爾
同
古川綾一
同
阿部博昭
同
三好涼子
同
石黒英明
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は、原告に対し、1300万円及びこれに対する平成24年5月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、被告従業員の勧誘を受けて複数回投資信託を購入した原告が、被告に対し、後記第2取引、第4取引及び第6取引について、①投資信託を預金等と誤信していたから同購入契約は無効であると主張して購入代金1300万円の不当利得返還請求、②同従業員らの勧誘行為には適合性原則違反、説明義務違反、断定的判断の提供があり購入代金相当の1300万円の損害を被ったとして、使用者責任(民法715条)、不法行為責任(民法709条)及び③債務不履行(民法415条)に基づき、前記金額の支払いを求める事案である(①から③の請求は選択的と解される)。附帯請求は、民法所定の遅延損害金であり、その始期は、訴状送達の日の翌日である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠から容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告
原告は、昭和21年生まれの女性である。
イ 被告
被告は、預金または定期積金の受入れ、資金の貸付けまたは手形の割引ならびに為替取引等の銀行業務を行う株式会社である。
(2) 取引の経過
ア 被告従業員B(以下「B」という。)は、原告に投資信託である三菱UFJ豪ドル債券インカムオープン(以下「豪ドル債券インカム」ともいう。)の購入を勧誘し、原告は、平成17年10月4日、申込日を同月5日として、同投資信託を500万円分購入した(以下「第1取引」という。)。
イ 被告従業員C(以下「C」という。)らは、原告に資産運用を勧めたところ、原告は、平成19年6月4日、申込日を同月5日として、投資信託であるグローバル・ハイインカム・ストック・ファンド(以下「グローバル・ハイインカム」ともいう。)を500万円分(以下「第2取引」という。)、投資信託である豪ドル債券インカムを200万円分(以下「第3取引」という。)、投資信託であるDKAトリニティオープン(毎月決算型)(以下、MHAMトリニティオープンと商品名が変更になった前後を通じて「DKAトリニティ」ともいう。)を500万円分(以下「第4取引」という。)それぞれ購入した。
ウ 原告は、平成19年10月31日、申込日を同日として、被告から豪ドル債券インカムを500万円分購入した(以下「第5取引」という。)。
エ 原告は、平成20年2月19日、申込日を同月20日として、被告から投資信託である三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)(以下「外国債券オープン」ともいう。)を300万円分購入した(以下「第6取引」という。)。
(3) 原告が購入した投資信託の概要
ア 三菱UFJ豪ドル債券インカムオープン(乙51、52、64)
(ア) ファンドの仕組み
三菱UFJ投信株式会社が委託会社(運用会社)、三菱UFJ信託銀行株式会社が受託会社(信託財産の保管・管理会社)である。
(イ) ファンドの目的、特色
a ファンドの目的
豪ドル建の公社債を主要投資対象とし、信用度の高い公社債に分散投資することにより、利子収益の確保と値上がり益の確保を目指す。
b ファンドの特色
(a) 毎月8日(休業日の場合は翌営業日)に決算を行い、分配を行う。
(b) 高格付け(スタンダード・アンド・プアーズの「AA-」格、ムーディーズ・インベスターズ・サービスの「Aa3」格以上、ただし、オーストラリア国債、政府機関債は除く)の豪ドル建の公社債(国債、政府機関債、州政府債、国債機関債、政府保証債等のいわゆるソブリン債)に投資する。
(c) ポートフォリオの平均デュレーションは1年以上5年以内とする。
(ウ) ファンドのリスク
主なリスクとして、価格変動リスク(組入公社債の価格の下落は基準価額の下落要因となること)、為替変動リスク(組入外貨建資産について為替変動の影響を大きく受けること)、信用リスク(組入有価証券等の発行者等の経営・財務状況が悪化した場合等には当該組入有価証券等の価格が下落することやその価値がなくなることなど)、流動性リスク(有価証券等を売却あるいは取得しようとする際に、市場に十分な需要や供給がない場合や取引規制等により十分な流動性の下での取引を行えない場合または取引が不可能となる場合、市場実勢から期待される価格より不利な価格での取引となる可能性があること)がある。
イ グローバル・ハイインカム・ストック・ファンド(乙5、6、64)
(ア) ファンドの仕組み
野村アセットマネジメント株式会社が委託会社であり、三菱UFJ信託銀行株式会社が受託会社である。
(イ) ファンドの目的、特色
a ファンドの目的
世界各国の株式を実質的な主要投資対象とし、信託財産の成長を図ることを目的として積極的な運用を行うことを基本とする。
b ファンドの特色、運用の内容
(a) 世界各国の株式を主要投資対象とするマザーファンドを主要投資対象とすることで、世界各国の株式を主要投資対象とする。
(b) 世界を北米、欧州、アジア・オセアニア(日本を含む)の三地域に分割し、各地域への投資比率は概ね三分の一程度とする。
(c) 安定的な配当収入を得ながら、中長期の値上がり益の獲得を目指す。
(d) ポートフォリオの構築にあたっては、基本的には、世界主要株式市場上場銘柄に定量評価を加えて長期にわたって優れた実績を残してきた企業を選択し、定性評価を加えて将来的にも増配が継続可能かを判断し、北米、欧州、アジア・オセアニアの各地域に三分の一程度ずつ配分するなどして組入銘柄、投資比率を決定してポートフォリオを構築する。
(e) 株式の実質組入比率は、原則として高位を維持することを基本とし、実質組入外貨建資産については、原則として為替ヘッジを行わない。
(f) 投資制限
株式への投資割合、同一銘柄の株式への投資割合、外貨建資産への投資割合、デリバティブの使用はヘッジ目的に限定する等種々の投資制限が設けられている。
(g) 分配方針
年4回の毎決算時に、原則として配当等収益等を中心に安定分配を行う。
c 投資リスク
基準価額の主な変動要因として、株価変動リスク(株価変動の影響を受けること)、為替変動リスク(為替変動の影響を受けること)があり、その他の変動要因として信用リスク(投資対象の有価証券発行体の利払い、償還金の支払い遅延等の可能性があること)、有価証券の貸付等におけるリスク(貸付先の倒産等による契約不履行の危険があること)がある。
d 申込手続きの概要
(a) 買付の申込手続き
① 申込みには、分配金を受け取る一般コース、分配金が再投資される自動けいぞく投資コースがあり、いずれも1万円以上1円単位で買い付けできる。
② 買付価額は買付の申込日の翌営業日の基準価額となる。
③ 午後3時までに販売会社所定の事務手続が完了したものを当日の申込み分とする申込締切時間がある。
④ 原則毎日買付申込みできる。
(b) 換金の申込み手続き
① 換金は原則口数単位である。
② 換金の価額は、換金の申込日の翌営業日の基準価額となる。
③ 換金代金は原則として換金の申込日から起算して5営業日目から支払われる。
④ 午後3時までに販売会社所定の事務手続が完了したものを当日の申込み分とする申込締切時間がある。
⑤ 原則毎日換金申込みできる。
e 費用、税金
(a) 買付時に申込手数料が消費税込みで2.625%かかる。
(b) 分配時には普通分配金の10%の所得税及び地方税がかかる。
(c) 換金時には、基準価額の個別元本超過額に対して10%の所得税及び地方税がかかる。
(d) 償還時には、償還価額の個別元本超過額に対して10%の所得税及び地方税がかかる。
(e) 信託報酬率は消費税込みで年1.155%かかる。
(f) 換金時に解約手数料及び信託財産留保額は発生しない。
f その他
(a) 信託期間は平成25年10月5日までであるが、委託者の判断で延長することができる。
(b) 一定の場合、繰上償還される可能性がある。
ウ DKAトリニティオープン(毎月決算型)(乙16、17、64)
(ア) ファンドの仕組み
第一勧業アセットマネジメント株式会社が委託会社であり、みずほ信託銀行株式会社が受託会社である。
(イ) ファンドの目的
ファミリーファンド方式により、海外の債券ならびに国内の株式及び不動産投資信託証券への分散投資を行い、安定した収益の確保を図るとともに、信託財産の中・長期的な成長を目指す。
(ウ) ファンドの特色
a 海外債券、国内株式及び国内不動産(J-REIT)へマザーファンドを通じて分散投資を行う。
b 海外債券は日本を除く世界主要先進国の格付けA格相当以上の債券を主要投資対象とし、国内株式は日本株式のうち予想配当利回りが市場平均と比較して高いと判断される銘柄を主要投資対象とし、国内不動産(J-REIT)は日本の証券取引所上場の不動産投資信託証券を主要投資対象とする。
c 各マザーファンドへの投資配分は原則として、海外債券に50%、国内株式に25%、国内不動産(J-REIT)に25%とする。
d 利子・配当収入相当分を原資の中心として毎月の収益分配と売買益がある場合はそれを原資とした4半期ごとの収益分配を行うことを目指す。
(エ) ファンドのリスク
ファンドの主要なリスクとして、資産配分リスク(投資成果の悪い資産への配分が大きかったため、投資全体の成果も悪くなってしまうこと)、金利変動リスク(金利変動により保有資産価格が下落すること)、株価変動リスク(投資対象の株価が下落すると基準価額が下落する要因となること)、不動産投資信託証券の価格変動リスク(投資対象の不動産投資信託証券の市場価格が下落すると基準価額が下落する要因となること)、為替変動リスク(為替変動により円換算価値が下落すること)がある。
(オ) 主な投資制限
株式への実質投資割合を信託財産の40%以下とすること、外貨建資産への実質投資割合を信託財産の70%以下とするなどの投資制限が設けられている。
(カ) 取得申込み手続き
a 原則としていつでも申込みできるが、ニューヨークもしくはロンドンの銀行休業日にあたる場合には、取得申込みの受付はできない。
b 申込みには、分配金を受け取る分配金受取コース(一般口)と分配金が再投資される分配金再投資コース(累投口)があり、いずれも1万円以上1円単位で買い付けできる。
c 買付価額は買付の申込み日の翌営業日の基準価額となる。
d 午後3時までに販売会社所定の事務手続が完了したものを当日の申込み分とする。
(キ) 換金(解約)手続き
a 原則としていつでも解約できるが、ニューヨークもしくはロンドンの銀行休業日にあたる場合には、解約申込みの受付はできない。
b 解約は原則口数単位である。
c 解約の価額は、解約の申込日の翌営業日の基準価額となる。
d 解約代金は原則として換金の申込日から起算して5営業日目から支払われる。
e 午後3時までに販売会社所定の事務手続が完了したものを当日の申込み分とする。
(ク) 費用、税金
a 申込手数料が消費税込みで3.15%かかる。
b 分配時には普通分配金の10%の所得税及び地方税がかかる。
c 換金時には、解約手数料は発生しないが、信託財産留保額として解約請求受付日の翌営業日の基準価額に0.2%の率を乗じた額が発生する。また、基準価額の個別元本超過額に対して10%の所得税及び地方税がかかる。
d 償還時には、償還価額の個別元本超過額に対して10%の所得税及び地方税がかかる。
e 信託報酬率は消費税込みで年1.155%かかる。
(ケ) その他
a 信託期間は無期限である。
b 一定の場合、繰上償還される可能性がある。
エ 三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)(乙29、30、40、64)
(ア) ファンドの仕組み
三菱UFJ投信株式会社が委託会社であり、三菱UFJ信託銀行株式会社が受託会社である。
(イ) ファンドの目的
日本を除く世界主要国の国債等からなる債券市場全体の動きを概ね捉えることを目指して運用を行う。
(ウ) ファンドの特色
a 日本を除く世界主要国の国債等(投資適格債)を主要投資対象とし、シティグループ世界国債インデックス(除く日本、円ベース)をベンチマークとし、当該指数の動きを概ね捉えることを目指して運用を行う。
b 組入国債等の利子・配当収益を中心に原則として毎月分配を行う方針であるが、分配対象収益が少額の場合には分配を行わないことがある。
c 外貨建資産については、原則としてヘッジを行わない。
(エ) ファンドのリスク
ファンドの主要なリスクとして、価格変動リスク(債券など値動きのある証券に投資するため基準価額が変動すること)、金利変動リスク(金利変動により債券価格が変動すること)、為替変動リスク(外為相場の変動により、外貨建資産の円ベースの価値が変動すること)、信用リスク(投資対象の投資適格債の発行体の利払いや償還金の支払い遅延、支払不能の可能性があること)、流動性リスク(ファンドの解約資金を手当てする際に当初期待される価格で売却できないこと)があり、基準価額の下落により損失を被り、投資元金を割り込む可能性がある。
(オ) 取得申込み手続き
a 原則としていつでも申込みできる。
b 申込みには、分配金を受け取る分配金受取コース(一般口)と分配金が再投資される分配金再投資コース(累投口)があり、いずれも1万円以上1円単位で買い付けできる。
c 申込価額は申込日の翌営業日の基準価額となる。
d 午後2時まで(年初、年末は午前10時まで)に販売会社所定の事務手続が完了したものを当日の申込み分とする。
(カ) 換金手続き
a 原則としていつでも解約できる。
b 換金は口数単位である。
c 換金の価額は、換金の申込日の翌営業日の基準価額となる。
d 換金代金は原則として換金の申込日から起算して5営業日目から支払われる。
e 午後2時まで(年初、年末は午前10時まで)に販売会社所定の事務手続が完了したものを当日の換金請求とする。
(キ) 費用、税金
a 申込手数料が消費税込みで1.575%かかる。
b 分配時には普通分配金の10%の所得税及び地方税がかかる。
c 換金時には、解約手数料は発生しないが、信託財産留保額として解約請求受付日の翌営業日の基準価額に0.3%の率を乗じた額が発生する。また、基準価額の個別元本超過額に対して10%の所得税及び地方税がかかる。
d 償還時には、償還価額の個別元本超過額に対して10%の所得税及び地方税がかかる。
e 信託報酬率は消費税込みで年1.05%かかる。
(ク) その他
a 信託期間は無期限である。
b 一定の場合、繰上償還される可能性がある。
2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 第2取引、第4取引及び第6取引の適合性原則違反の有無
【原告の主な主張】
ア 適合性原則違反があったか否かは、第1取引ないし第6取引を一連として把握し、第1取引にあたって適合性を欠けば、当然、その後の各取引も適合性原則違反の上に重ねられたものであるから、客観的・主観的違法状態が治癒されることはない。
イ 第1取引について
豪ドル債券インカムは、原告の意向である預金等の元本確保取引に全く沿わない商品であり、それまで投資信託の知識、経験が全くないのと同様の原告にとってその内容は複雑で理解できないものである。従って、原告に対し、本件投資信託を勧誘することは、適合性原則違反である。
ウ 第2取引及び第4取引について
(ア) 第2取引の商品特性
グローバル・ハイインカムは、とりわけ、株価変動の影響を大きく受けること、投資対象が投資する市場構成と大きく異なることが予想されること、そのことにより基準価額の動きが一般的な株価指数の動きと大きく異なる可能性が存すること、為替変動の影響を大きく受けることなど、被告作成の金融商品選定マトリクス表(甲9の25枚目)において「多少のリスクを許容し、ある程度のリターンを望む」、「高いリスクを承知で、高いリターンを狙いたい」に該当する、極めてリスクが高く、一般投資家にとって、複雑で理解し難い金融商品である。
(イ) 第4取引の商品特性
DKAトリニティは、資産配分リスク、金利変動リスク、株価変動リスク、不動産投資信託証券の価格変動リスク、為替変動リスク等を有するものであり、被告作成の金融商品選定マトリクス表(甲9の25枚目)において「多少のリスクを許容し、ある程度のリターンを望む」、「高いリスクを承知で、高いリターンを狙いたい」に該当する、極めてリスクが高く、一般投資家にとって、複雑で理解し難い金融商品である。
(ウ) 原告の取引意向、実情及び目的等
原告の取引意向は、預金等の元本確保取引であったし、月額12万円、年額144万円の年金受給者であった原告にとって退職金から充てられた第2取引ないし第4取引の原資の1200万円は老後の生活資金であり客観的にも主観的にも元本欠損が許されないものであった。
(エ) 知識、経験
原告は、積立て等の預金取引以外の投資経験は存在しなかったし、第1取引については預金取引と認識していたのであるから、同取引経験が投資経験になるものではない。
(オ) 財産の状況
原告は、平成19年4月に約2500万円の退職金を受け取っているが、年金生活状態であり、同資金は元本確保取引を対象とする財産であった。
(カ) まとめ
以上のとおり、グローバル・ハイインカム、DKAトリニティは原告の元本確保取引との意向に全く沿わない商品であり、第1取引後も知識・経験を獲得していない原告にとってそれら内容は複雑で理解できないものである。また、1200万円も元本欠損の危険性を有する金融商品に拠出されているのであるから、著しく過大な取引であることは明白である。従って、原告に対しこれら投資信託を勧誘することは適合性原則違反である。
エ 第5取引について
豪ドル債券インカムは、預金等の元本確保取引の意向を有する原告には全く沿わない商品であり、それまで投資経験を有しない原告には内容も理解できないものであるから、原告に対し本件投資信託を勧誘することは適合性原則違反である。
オ 第6取引について
(ア) 商品特性
外国債券オープンは、市場リスク、価格変動リスク、為替変動リスク、信用リスク、流動性リスクといった高度のリスクを有するものであり、被告作成の金融商品選定マトリクス表(甲9の25枚目)において「多少のリスクを許容し、ある程度のリターンを望む」、「高いリスクを承知で、高いリターンを狙いたい」に該当する、極めてリスクが高く、一般投資家にとって、複雑で理解し難い金融商品である。
(イ) 知識・経験
原告は、預貯金以外の投資経験は存在しなかった。また、原告は第1取引ないし第5取引については預金取引と認識していたのであるから、同取引経験が投資経験になるわけではない。
(ウ) 原告の取引意向等
原告の取引意向は、預金等の元本確保取引であり、取引にあてられた300万円は元々は退職金であるから、資金の性質に照らし、被告作成の金融商品選定マトリクス表(甲9の25枚目)における「元本保証以外の取引はしたくない」に該当するものであるから、原告の意向は元本確保取引であった。
(エ) 財産状況
原告は当時無職の年金生活者であった。そして、原告の本件取引にあてられた300万円は前記のとおり元本確保取引を対象とする財産であった。
(オ) まとめ
以上のとおり、外国債券オープンは、原告の元本確保取引との意向に全く沿わない商品であり、第1取引後も投資の知識・経験を獲得していない原告にとってそれらの内容は複雑で理解できないものである。従って、原告に対し外国債券オープンを勧誘することは適合性原則違反であり、不法行為及び債務不履行を構成する。
【被告の主な主張】
ア 原告は、第1取引ないし第6取引を一連として把握して適合性原則を考えるべきであり、第1取引において適合性を欠くとすれば、当然、その後の各取引も適合性違反の上に重ねられたものであるから、客観的・主観的違法状態が治癒されることはないと主張する。しかし、適合性原則は、「顧客の知識、経験、財産の状況、商品購入の目的に照らして不適当な勧誘をしてはならない、というルール」(金融庁・証券取引等監視委員会「金融商品取引法の疑問に答えます」平成20年2月21日質問①参照)と解されているから、利用者の適合性は取引ごとに決せられるべきである。
イ 第2取引及び第4取引について
(ア) 第2取引の投資信託の特性
グローバル・ハイインカムは、北米、欧州、アジア・オセアニアの3地域の株式を実質的な主要投資対象としており、各地域への投資比率を概ね三分の一程度とし、地域ごとのリスクは分散されるように設計されている。また、デリバティブの使用についてもヘッジ目的に限定されており、実際の価格変動を超えて投資信託の資産が大きく目減りする可能性が低くなるような配慮がなされており、積極的なリスクを取って大きなリターンを狙うような商品ではなかった。
投資信託の基準価額の主要な変動要因としては、株価変動リスクと為替変動リスクがある。しかし、複数の銘柄に分散して投資するという投資信託の性質上、特定の株式固有の事情によってその株価のみが下落して損失を被るというようなリスクは分散されているし、世界各国の株式に分散投資していることから、特定の国や地域に生じた株価変動のリスクや為替変動のリスクについても分散されており、特定の事情から生じる価格変動の影響が小さくなるような設計となっている。
また、原則として毎日購入・解約申込みが可能であり、基準価額の下落が見込まれるときには購入者が契約に拘束されることなく自由に解約することができ、購入者が関与できないままに損失が拡大し続けるような仕組みにもなっていなかった。それに加え、一定の条件下で基準価額が大きく下落するといったような、投資についての高度な知識や経験がなければ理解できないような複雑な条件も設定されていなかった。さらに、仮に損失が生じるとしても損失が元本を超えて拡大することはないし、毎年4回の配当が予定されており、配当された金額についてはその都度利益が確定されていた。
(イ) 第4取引の投資信託の特性
DKAトリニティは、海外債券、国内株式及び国内不動産(J-REIT)を投資対象としており、投資配分はそれぞれ50%、25%、25%を原則として、株式への投資割合は40%以下、外貨建資産への投資割合は70%以下にするとの投資制限を加え、投資対象によるリスクの分散が図られていた。また、デリバティブ等を活用してリスクを積極的に取りながら大きなリターンを狙っていくような投資方針でもなかった。
基準価額の主要な変動要因としては、資産配分リスク、金利変動リスク、株価変動リスク、不動産投資信託証券の価格変動リスク、為替変動リスクがある。しかし、債券、株式、不動産という3種類の資産への分散投資を行うことにより、一つの要因によって資産全体の価値が下落する可能性は低くなっているし、海外と国内の資産の両方への投資を行うことによって、為替変動リスクも一定程度減殺され、基準価額の下落が最小限にとどまるように設計されている。
また、原則として毎日購入・解約申込みが可能であり、複雑な条件が設定されていなかったこと、損失が生じるにしても元本の限度に限られるし、配当によって利益が確定されていた。
(ウ) 商品性についてのまとめ
以上のとおり、グローバル・ハイインカム及びDKAトリニティは、特段リスクが高いものではなかったということできる。そのため、多少のリスクは許容するが、ある程度のリターンを望む顧客にとって適した金融商品だったということができる。また、いずれの投資信託も、投資について高度な知識や経験を有していなければ、その概要が理解できないような複雑なものでもなかった。
(エ) 投資経験、証券取引の知識
原告は、昭和21年○月○日に生まれ、大学を卒業してから30年以上にもわたり青森県内において教員として教鞭をふるっていた。このように、原告の教育水準が高く、長年にわたり人に教育指導する立場だったことからすれば、原告が一般人以上に社会常識や知識を持ち合わせていたことは容易に想像がつく。
また、原告は第2取引及び第4取引当時は61歳で、定年退職した直後だったことからすれば、加齢による判断能力の衰えということは考えにくく、正常な判断能力のもとで本件各取引を行ったと考えられる。
これらの取引がなされたのは平成19年6月であるが、原告が初めて投資信託を購入した平成17年10月の第1取引から既に1年半以上が経過しており、その間も被告から定期的に通知される収益分配金のご案内及び取引残高報告書により購入した投資信託の基準価額や分配金の結果などにより投資信託の運用を確認するなどして、基準価額が日々変化して上昇することもあれば下落することもあるということを経験するなど、投資信託による資産運用を自ら経験することによって投資信託について理解を深めるなどしていた。このことは、原告が第5取引時に被告担当者に対して「前回購入したときより多少基準価額が高めだが、安定した分配金を受け満足している。」と述べていることからも明らかである。
また、第2取引及び第4取引時、原告は、投資信託を購入した金額に応じて契約できる定期預金商品「みのり計画」についても3か月満期で契約している。これに充てられた資産は「近い将来必要なお金」として分けられたものであったが、3か月経過すれば自由に使うことができるし、投資信託とは異なり元本が欠損するリスクなしに通常の定期預金よりも高い利率で運用できるため、数ヶ月後に使う資金の資産運用としては極めて合理的なものであった。このことからも、原告が自己の目的に応じて投資対象を選択できる知識を有していたことが分かる。
以上のように、原告は金融商品について一般人以上の知識を有しており、さらに1年半以上もの間の投資信託の保有を通じて経験を積んでいることからすれば、原告が第2取引及び第4取引当時、各投資信託のリスクを把握して適切な判断をなし得るだけの知識と経験があったことは明らかである。
(オ) 投資意向
原告は、第2取引及び第4取引を中長期での値上がりを期待して行っていた。そのため、一定のリスクがあるものの、預金よりも収益を上げられる可能性がある投資信託を選択することは、原告の投資目的に合致したものであるといえる。
(カ) 財産状態
原告は、平成19年4月に退職しており、2500万円を超える退職金を得ている。原告は、自己の金融資産を「今すぐ必要な生活資金」「近い将来必要なお金」「使う予定のない余裕資産」に分類した上で、当分は使う予定のない余剰資金を投資信託の購入に回したい旨をCに伝えている。実際に、原告には金融資産が4000万円以上あり、投資信託の原資となるのは余裕資金であると答えている。
以上より、これらの取引の原資となったのは、原告の資産のうち使う予定のない余裕資産であったし、すでに保有している投資信託と合計しても原告の資産に対するリスク資産の割合は4割程度に抑えられており、特段リスク資産の割合が高すぎるという状況にもなかった。
(キ) 結語
以上より、第2取引及び第4取引が適合性原則に違反していないことは明らかである。
ウ 第6取引について
(ア) 第6取引の投資信託の特性
外国債券オープンは、日本を除く世界主要国の国債等(投資適格債)を主要な投資対象としており、シティグループ世界国債インデックス(世界の主要国の国債の総合投資収益を平準化したもの)を運用成果の目標基準とするなど、リスクを積極的に取って高収益を目指して運用するのではなく、債券市場全体の動きを概ね捉えつつ安定した収益を得ることを目標としたものである。また、デリバティブ等を活用してリスクを積極的に取りながら大きなリターンを狙っていくような投資方針でもなかった。
当該投資信託の基準価額の主な変動要因としては、債券の価格変動リスク、為替変動リスクがあるが、複数の債券を投資対象としているため、そのリスクは分散されているといえるし、債券は株式と比べて価格変動の幅が小さい傾向があり、価格変動リスクは比較的小さいものといえる。
また、原則として毎日購入・解約申込みが可能であり、複雑な条件が設定されていなかったし、損失が生じるにしても元本の限度に限られ、配当によって利益が確定されていた。
以上のとおり、外国債券オープンは、特段リスクが高いものではなかったということができる。そのため、多少のリスクは許容するが、ある程度のリターンを望む顧客にとって適した金融商品だったということができる。また、外国債券オープンは、投資について高度な知識や経験を有していなければ、その概要が理解できないような複雑なものでもなかった。
(イ) 投資知識・経験
第6取引時点において、原告は、第2取引及び第4取引当時よりも更なる投資経験を積んでいる。また、株価の下落等によって自らが購入した投資信託の基準価額が下落していることも把握しており、第6取引が投資信託の下落を経験した上での追加購入であったことが分かる。また、原告は第6取引を行うに際して、株式相場や為替相場、経済関連のニュースを確認し、経済関連の雑誌や新聞も時々購読していると述べており、投資信託を購入するに当たって基本となる情報や知識について、自ら興味を持って情報収集をしており、相応の知識を有していたことが分かる。
以上のことからすれば、原告が第6取引当時、第2取引及び第4取引がなされたときよりも一層、適切な判断をなし得るだけの知識と経験を持ち合わせていたことは明らかである。
(ウ) 財産状況
原告は金融資産を5500万円程度有している旨申告しており、従前購入した投資信託と合わせてもリスク資産の割合は45%程度に抑えられている。原告の年齢や保有資産、原告が投資信託の購入を積極的に希望したこと等に鑑みて、リスク資産の割合が過大な偏った投資とはなっていない。また、購入資金が退職金として得た資金であり、当分使う予定のない余裕資金であることからすれば、第6取引によっても、原告の資産に対するリスク資産の割合が特段高すぎるという状況ではなかった。
(エ) 投資目的
原告は、多少のリスクを許容し、ある程度のリターンを望んでおり、資産形成のために取引を行うとしている。また、原告にはリスクを分散させる意向があり、これまでとは異なる対象に投資する投資信託が適切であった。第6取引において原告が購入した投資信託は原告が従前購入していた投資信託と異なり、世界各国の国債を主要な投資対象としており、リスクを分散させることができた。このように、第6取引は原告の投資目的に合致したものである。
(オ) 結語
以上より、第6取引が適合性原則に違反していないことは明らかである。
(2) 説明義務違反(預金誤認防止義務違反を含む)、断定的判断の提供の有無
【原告の主な主張】
ア 被告は、預金を扱い一般顧客から信頼を得ている銀行であるから、元本割れのリスクがある投資信託を販売する際には、投資信託が預金同様に安全との誤解を避けるために、預金誤認防止義務がある。また、被告は、青森県において絶大な信頼を得ている地方銀行であるから、投資信託を販売するにあたっては証券会社などと比べてより一層、投資信託がリスク等のある商品であることの慎重な説明が求められるところ、被告が投資信託を勧誘する際に負う説明義務の内容は、個別具体的・実質的な内容の説明が求められる。具体的には、預金誤認防止が果たされる程度に具体的に預金との違いを説明することを前提に、勧誘対象商品の抽象的仕組み(投資勧誘に係る販売者、運用会社、管理会社、基準価額、個別元本、騰落率、目論見書、販売手数料、信託報酬、信託財産留保額、分配金、リスク等の基礎知識とその意味内容等)を説明した上、勧誘対象商品の個別具体的内容(運用会社や管理会社の信用状況、具体的な運用内容、具体的な利益発生の仕組み、他の金融商品との具体的な対比・異同、原告本人が自ら保有・解約の判断をなし得るための基礎的情報入手の方法等)及び個別具体的リスク内容(勧誘対象商品に係る各リスクの現実化の見通し、各リスク現実化に対する原告の現実的対処方法等)につき、投資家が投資の適否について的確な判断をなし得るに足りる情報の提供ないしは投資家が自らそのような情報を収集すべき必要性があることを自覚するに足る注意喚起のために必要十分なものであることを要し、当該投資信託の特質や危険性に関する枢要な要素については、これを十分に理解でき、かつ、それを尽くしたとされることにより、投資家に自己責任の原則を適用することを可能ならしめるものであるから、単に機械的に対象商品の仕組みや危険性を説明すればそれで足りるというものではなく、説明を受ける投資家自身の属性をも考慮に入れ、その者が投資の適否につき的確な判断を自らすることができるだけの情報が提供されていなければならない程度に説明がなされなければならない。
また、説明義務違反等があったか否かは、第1取引ないし第6取引を一連として把握し、第1取引にあたって違反があれば、その後の各取引も前の取引の違法性の上に重ねられたものであるから、後の取引時に、前の取引の説明義務違反を是正・充足するほどの説明が存しなければ後の取引についても当然に説明義務違反等を構成する。
イ 第1取引について
Bは、原告が第1取引時まで被告と預金取引のみを行ってきたことを把握しており、今後も原告としては預金又は定期積金の受入れといった元本確保取引を望んでいることを把握していたにもかかわらず、第1取引時においてこのような原告の認識を除去するための積極的な預金誤認防止行為を何らとらなかった。また、Bは、原告に対して、あおぎん投資信託ラインナップ、販売用資料、投資信託説明書(交付目論見書)を交付しておらず、具体的リスク、元本が減る可能性についても説明していないし、原告はそれらについて理解もしていない。このことは、Bが原告に投資信託の勧誘をすることができる時間は授業の合間であり、場所も長話できない職員室の中央通路に限られていたなど、高度かつ複雑な投資信託の実質的説明が困難な状況であったことなどから裏付けられる。
Bは、原告に対し、自ら持参していた入金部分が蛍光マーカーで強調された通帳を示しながら、「私もやっているんですけれども、こんなふうにお金が入ってきますよ」「預金などの安い利息と違って分配金も必ず入ってくるんですよ」などと申し向けた行為は、断定的判断の提供にあたる。
なお、被告が主張するBが行った説明内容を前提にしても説明義務を果たしたものとはいえない。
ウ 第2取引及び第4取引について
以上のとおり、第1取引において預金誤認防止義務違反、説明義務違反、断定的判断の提供があった以上、第2取引ないし第4取引の勧誘において第1取引における説明義務等を是正・充足するほどの具体的かつ実質的な説明が存しなければ、第2取引ないし第4取引における勧誘も説明義務違反等を構成することになる。
C及びD(以下「D」という。)は、第2取引ないし第4取引にあたって預金誤認防止義務をとっていない。また、あおぎん投資信託ラインナップ、販売用資料、投資信託説明書(交付目論見書)を交付していないし、各投資信託の説明は何もしていない。なお、被告が主張するCが行った説明内容を前提にしても説明義務を果たしたものとはいえない。
前記Bによる断定的判断の提供の発言があったことを前提にすると、Cによる、これからもまだ伸びる旨の発言は、原告をして利益確保が確実、元本欠損は存しないとの誤認を与える程度に断定的な言辞であったことは明らかである。
エ 第5取引について
第2取引ないし第4取引に説明義務違反等が認められるところ、第5取引においても、C及びDは何ら預金誤認防止義務を講じなかった。Cは、投資信託の説明を行っていないし、仮に被告が主張するCが行った説明内容をしても、基本的仕組み、内容、リスクをはじめ個別具体的に行うべき説明義務を果たしたものとはいえない。Cは、第2取引勧誘時に上記断定的判断を提供しているから、第5取引の同じ投資信託に係る説明もまた、原告をして利益確保が確実、元本欠損は存しないとの誤認をあたえる程度に断定的な言辞であったことは明らかである。
オ 第6取引について
以上のとおり、第5取引において預金誤認防止義務違反、説明義務違反、断定的判断の提供があった以上、第5取引における説明義務等を是正・充足するほどの具体的かつ実質的な説明が存しなければ、第6取引における勧誘も説明義務違反等を構成することになるが、C及びDは何ら預金誤認防止措置を講じなかった。また、Cは、目論見書や販売用資料を原告に交付していないし、契約締結前交付書面を用いた投資信託の具体的説明も行っていない。原告は、投資信託の商品内容を理解していない。仮に、被告が主張するCが行った説明内容をしても説明義務を果たしたものとはいえない。
そして、仮にCの供述を前提としても、「リスクの少ないファンド」「リスクの少ない投資信託」「一番基準価額の値動きが穏やかなファンドでしたので、先生のおっしゃるリスクの少ないというような、先生のおっしゃるご希望には一番沿える商品だなと思いまして」「リスクの少ないという先生のご希望でしたので、そのファンドだけ説明させていただきました」との説明内容を踏まえると、第6取引の外国債券オープンに係る説明もまた、原告をして利益確保が確実、元本欠損は存しないとの誤認をあたえる程度に断定的な言辞であったことは明らかである。
【被告の主な主張】
ア 投資信託をはじめとする金融商品の販売を業として行う場合、民事上の説明義務が及ぶ事項として、金融商品の販売等に関する法律(以下「金融商品販売法」という。)に所定の事項が定められている。被告が原告に対して販売した投資信託は、いずれも元本欠損が生ずるおそれがある金融商品に該当するため、①元本欠損が生ずるおそれがある旨、②元本欠損を生じさせる直接の原因となる指標、③②の指標に係る変動の直接の原因として元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分、について説明義務が定められている(金融商品販売法3条1項1号)。なお、前記現行法の規定が適用になるのは第6取引のみであり、第2取引及び第4取引時の旧法では、前記③は説明義務の対象とされていなかった。また、現行の金融商品販売法3条2項には、金融商品販売業者等の説明方法等について、「前項の説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約をする目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない。」と規定されているが、旧法にはこのような規定はなかった。
金融商品販売法に規定された事項以外の内容については、その説明を行わなかったとしても直ちに民事上の責任が生じるものではないが、被告は、第1取引ないし第4取引については、旧法に従い、第6取引については、現行法に則って必要とされる事項について、原告の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、原告に理解されるために必要な方法及び程度による説明を行うだけでなく、いずれの取引においても、被告は原告が取引を行うか否かを決定するに当たって重要となる事項について、原告が理解するために必要な方法及び程度による説明を行っているので、被告に預金誤認防止義務違反を含めて説明義務違反が成立する余地はない。
イ 第1取引について
Bは原告に対し、第1取引に至るまで数回にわたり、投資信託が預金とは異なるリスクのある商品であること、具体的にどのような原因によって価格変動するリスクがあるか等、投資信託の仕組みについて解説した「サポートブック」や被告が取り扱う投資信託を相互に比較できる「ラインナップ」、投資信託の要点についてまとめたメモを用いながら、ファンド説明チェック表(乙2)に記載されている事項について具体的に説明している。また、原告も安易に投資信託の購入を決定するのではなく、2週間ほど熟慮期間をおいた後に自ら購入手続を行う時間を指定してBに告げており、Bからの説明を理解して第1取引に至ったことは明らかである。
以上のように、第1取引に際して被告が説明義務を果たしていることは明らかである。
ウ 第2取引ないし第6取引
Cは、「ラインナップ」、販売用資料、目論見書を交付して、各投資信託の投資対象や投資方針について確認するとともに、投資信託が元本保証商品でないこと、各ファンドの投資対象、商品ごとのリスクの内容といったファンド説明チェック表に記載された事項を具体的に原告との会話の中で質問があればそれに答えながら説明した。なお、第2取引ないし第5取引については1時間程度の時間をかけて説明しており、第5取引及び第6取引については、原告自身が説明された内容について理解した旨回答している。
以上のとおり、第2取引以降についても、被告が説明義務を果たしていることは明らかである。
また、前記各説明において、被告は、原告に対し、投資信託が預金とは異なり、預金保険の対象ではなく、元本が保証されていないこと等、原告が投資信託と預金を誤認することを防止するための説明を行っているし、原告もそのことを確認した上で契約を締結している。そのため、原告が主張するような認識が仮に存在していたとしても被告はそれを除去する措置をとっている。
そのため、本件において断定的判断の提供は何らなされておらず、原告の主張は失当である。
(3) 口座情報利用禁止違反の有無
【原告の主な主張】
被告と原告との間には昭和47年ころから銀行預金取引が開始され継続してきたのであるから、被告は、銀行預金取引の当事者として、職務上知り得た情報を適正に管理することはもとより、原告が積極的にのぞまないにもかかわらず、銀行預金取引から逸脱する取引の勧誘等に利用してはならない義務を負う。このことは、銀行預金取引の本質から当然のことであり、また、金融機関の証券業務に関する内閣府令21条4号からも明らかである。
第2取引ないし第4取引は、Cが原告の預金口座に退職金が入金されたことを認識したことを起因として勧誘か行われ、第2取引ないし第4取引が行われた。
【被告の主な主張】
被告は、個人情報を取り扱うに当たって利用目的を特定し、その利用目的を「当行が取得する個人情報の利用目的について」と題する書面として公表しており、その中には「各種金融商品の口座開設等、金融商品やサービスの勧誘・販売・案内及び申込受付」が含まれている。
本件においても、被告は、原告の預金情報をもとに、原告に対して投資信託の勧誘を行ったにすぎず、被告が公表する利用目的から逸脱して原告の個人情報を利用したことはない。
また、本件における原告口座への入金等を端緒に金融取引が開始されることは法令の禁ずるところではない。原告の金融機関の証券業務に関する内閣府令21条4号の解釈は誤っている。
(4) 錯誤無効の成否について
【原告の主な主張】
Bは、平成17年9月下旬、a高校の中央通路において、原告とすれ違う際に、B自身の通帳を示しながら、「あ、先生、豪ドルの投資信託です」「私もやっているけど、預金などの安い利息と違ってこのように分配金も必ず入ってくるんですよ」などと申し向けた。このことから、原告は、豪ドル債券インカムは、利息が高い外貨預金と誤信していた。なお、被告から「三菱UFJ豪ドル」などの名称を聞かされたことはあるが、これは被告が行う運用方法の一つとして認識していた。また、被告からは預金と誤認することを防止・回避するための具体的な説明はなされなかった。このような経緯があったことから、原告は、第2取引で購入したグローバル・ハイインカム、第4取引で購入したDKAトリニティ、第6取引で購入した外国債券オープンについても、元本保証のある外貨建預金と誤信した。前記各取引は錯誤により無効となる。
【被告の主な主張】
ア 被告は、原告に対して、第1取引ないし第6取引の投資信託を販売するさいに、前記説明義務違反の有無で記載したとおり、原告が購入しようとする商品が投資信託という商品であり、投資信託は元本が保証されるものではなく、預金保険の対象にもならないこと等について、説明をしており、原告もそれを理解して取引を行っている。
イ 原告が、第1取引ないし第6取引を申し込むにあたって作成した書面には、表題に「投資信託」と記入されているものが多数あるのに対し、預金であることを示す文言は一切含まれていない。
原告自身で投資信託の名称を記載しているが、これらの銘柄の名称は「豪ドル債券」「ストック」「外国債券」等、一見して預金とは異なることが分かるものばかりである。
原告は、お客様カード(乙27、36)の「①投資のご経験」欄において「株式投資信託」の欄に、自ら金額を記載していることからしても、自身が預金ではなく投資信託を購入していることを当然に認識していたことが分かる。
ウ 仮に原告に錯誤があったとしても、被告が原告に交付した全ての書類、帳票等からして、本件商品を外国預金と窺わせるものは存在しないから、原告の錯誤について重過失がある。
(5) 不当利得、不法行為及び債務不履行による損害
【原告の主張】
ア 第2取引、第4取引及び第6取引は、いずれも錯誤により無効となるものであるから、被告は、それぞれ受領した金員につき返還義務を負う。
イ 不法行為、債務不履行により、第2取引、第4取引及び第6取引にかかる交付金相当額の損害を被った。
【被告の主張】
原告は、第6取引によって購入した投資信託の一部を解約しており、平成21年8月31日、原告の預金口座に99万5186円が入金されている。第4取引によって購入した投資信託の一部も解約しており、平成22年4月21日、原告の預金口座に102万2380円が入金されている。また、原告は本件訴訟の対象とされた各投資信託を未だに保有し続けており、グローバル・ハイインカムは3か月ごと、DKAトリニティと外国債券オープンは毎月、現在に至るまで分配金を受領している。
上記解約金、分配金及び現在原告が保有している投資信託の基準価額は、原告が本件各取引を行うことによって得た利益と言うことができるから、仮に不法行為責任ないし債務不履行責任が生じるとしても、上記金額に相当する分については損益相殺がなされるべきである。平成25年9月3日現在、本件各投資信託の評価額合計は593万6471円であり、同日までに分配された分配金の合計金額は454万1348円であるから、原告の損害は、請求金額から、これらの合計である1047万7819円を控除すべきである。そうすると、仮に原告に損害が生じたとしても、その金額は252万2181円に過ぎない。
加えて、万が一被告の責任が認められるとしても、原告の過失が極めて大きい本件においては、大幅な過失相殺が認められるべきである。
なお、不当利得構成によったとしても、上記の原告の利得を考慮して損失額を求めるべきである。
第3争点に対する判断
1 認定事実
前記の前提事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりの事実が認められる。
(1) 原告について
ア 原告の経歴及び学歴等
原告は、昭和21年○月○日に生まれ、昭和44年3月b大学教育学部で中学校教育科の英語科を専攻して英語の教員免許を取得して卒業し、昭和49年4月から公立高等学校の英語教員として勤務を開始し、平成19年3月に退職した(甲15、原告本人)。
原告は、シンガポールに旅行した経験を有する(原告本人)。
イ 原告の投資経験
原告は、第1取引まで、投資信託の購入といった投資取引を行った経験はなかった。
第2取引及び第4取引の時点では、第1取引による投資信託の購入による投資経験があるが、他には投資取引を行っていない。
また、第6取引の時点では、第1取引ないし第5取引による投資経験があるが、他には投資取引を行っていない。(甲15、原告本人)
(2) 取引経過について
ア 第1取引(乙1ないし4、61、証人B)
(ア) Bは、平成17年9月ころ、a高校に勤務していた原告から依頼を受けて記帳した通帳を返却する際に、第一生命からの入金について使い道を尋ねたことをきっかけとして、原告が投資信託に興味を持っているとの感触を得た。Bは、投資信託は定期預金とは異なり元本の保証はないが、定期預金よりも高い収益が望めるので始める人が増えていること、投資信託には、基準価額というものがあり、投資信託の購入、解約は基準価額を基にするが、同価額は種々のリスク要因によって上下するので元本の保証がないことなどの投資信託一般の説明と豪ドル債券インカムの概略を口頭で説明した。
(イ) Bは、次回訪問時には、あおぎん投資信託ラインナップ(乙64参考)、あおぎん投資信託サポートブック(乙63)、豪ドル債券インカムの販売用資料(乙51)及び同ファンドの要点(前記口頭で説明した内容に加え、投資対象の債券の格付けが高格付けであること、毎月分配型のファンドであること、一番大きなリスクとして為替リスクがあり、元本が保証されない商品であること、手数料、信託報酬等)についてBがまとめたメモを持参した。
そして、Bは、前記各書面を原告に交付し、あおぎん投資信託サポートブックを利用して、投資信託についての基本的な仕組みの情報、リスクとリターンの関係、リスクを抑える方法、投資信託についての用語の説明、預金と投資信託の違い等について詳しく記載されているのでよく読んで欲しい旨説明した。また、あおぎん投資信託ラインナップを利用して、被告では十数種類のファンドを取り扱っているが、人気があるのは格付けの高い豪ドル建の債券で運用する豪ドル債券インカムであることを説明した。さらに、豪ドル債券インカムの販売用資料を利用して、1万円以上から購入できること、申込及び解約はいつでもできるが投資信託は元本の保証がない仕組みになっていること、申込時に販売手数料が2.1%掛かること、運用期間中は信託報酬として1.1025%が純資産額から引かれること、解約時に手数料は掛からないが、信託財産留保額が基準価額の0.1%分費用として差し引かれること、運用会社は三菱UFJ投信、管理会社は三菱UFJ信託銀行となっていること、特色として毎月決算を行って分配を行うこと、分配金の原資は豪ドル建の債券から受け取る利子収入を基にしていること、原資が少額の場合には分配が行われないこともあるが設定来分配が行われなかったことはなかったこと、高格付けの豪ドル建の公社債に投資しているとあるが、簡単に言うと格付けの高いオーストラリア国債に主に投資していること、オーストラリアの国債は、スタンダード・アンド・プアーズ、ムーディーズという世界的な格付け会社から非常に高いAAAという格付けを付けられていること、ポートフォリオの平均デュレーションは1年以上5年以内とあるが、デュレーションとは簡単に言うと債券の元本を回収するまでにかかる期間であり、これが長すぎると金利との関係でずれが出てくるので、あまり長くない1年以上5年以内で満期が来るような債券に投資していること、リスクについては、一番大きなリスクは為替リスクであり、外国のものに投資するので為替リスクが生じること、円と豪ドルの力関係により、円高、円安が生じて基準価額に影響を及ぼすこと、他にも金利リスク、信用リスクといったリスクがあること、これらリスクがある結果、投資信託は元本の保証ができない商品であること等を説明した。Bはこれら説明に10分ないし15分程度かけた。
その際、原告から分配金とは何か、どのように入金になるかといった質問を受けたため、Bは、分配金は、月の収益の状況によって変わるため、毎月決まった金額というふうに約束されているものではないこと、通帳に入金されることを説明するとともに、自ら豪ドル債券インカムに投資していることから、後日にBの預金通帳を見せることを約束した。
(ウ) そして、次回訪問時、Bは、職員室において、原告に通帳を見せて、投資信託を購入する意思があるか尋ねたところ、原告はまだ考え中であると回答した。その後、原告からは返答がなく、2週間程度経過したころ、原告から投資信託を購入するとの返答を得たが、契約は、原告が指定した10月4日の昼休みに行うことになった。
(エ) Bは、10月4日昼休み、a高校の職員室に原告を訪問し、豪ドル債券インカムの販売用資料(乙51)、投資信託説明書(交付目論見書)(乙52)、投資信託保護預り口座設定申込書兼申込確認書兼告知書(乙4)、投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙3)を渡した。そして、交付目論見書の基本情報一覧、特色、リスクの各ページの太字部分などに適宜マーカーを引いて目論見書を利用して、投資信託は預金ではなく元本の保証がないこと、分配金はその月の運用状況によって毎月変わるため確実なものではないこと、オーストラリアの国債等に投資するファンドであるためオーストラリアの国等が破たんすればファンドも危なくなること、為替変動、金利変動によって価格が変動するリスクがあることなどを説明した後、投資信託保護預り口座設定申込書兼申込確認書兼告知書(乙4)、投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙3)を記入してもらった。
(オ) 後日、Bが、原告と会った際、原告は投資信託を購入したことについて夫から怒られたが、リスクはあるが分配金が結構よいと告げたら夫も投資信託をやろうかなと言っていた旨を告げられた。
イ 第2取引及び第4取引
(ア) 第2取引及び第4取引の経緯、Cの説明内容(乙5ないし21、60、証人C)
Cは、平成18年10月に被告八戸駅前支店に渉外係として赴任し、a高校を担当することとなり、平成19年3月に原告が退職した後も原告の担当となり、原告の自宅にも訪問するようになった。
Cは、平成19年4月26日、原告の普通預金口座に約2500万円の退職金が振り込まれたため、八戸駅前支店の支店長代理であったDと共に、原告の自宅を訪問し、入金についてお礼を述べるとともに今後の資産運用について承りたい旨述べた。
その後、何度か原告の自宅を訪問し、あおぎん投資信託サポートブック(乙63)を示しながら、投資信託と預金の違い、資産を収益性資金(使う予定のない余裕資金)、流動性資金(資金需要が生じたら直ちに使用できる普通預金)、安定性資金(将来に残しておきたい資金)に分けて運用するのがよいこと、複数の投資信託に投資することでリスクを分散させられること、購入時期を分散させることによりリスクを分散させられること、投資信託は長期で運用してもらいたいことを説明した。
Cは、あおぎん投資信託ラインナップ(乙64)を示し、被告で取り扱っている投資信託は、投資対象をもとにブロック分けされていること等を説明した。そして、原告から人気商品を問われ、三菱UFJ外国債券オープン、グローバル・ハイインカム・ストック・ファンド、DKAトリニティオープン、世界三資産バランスファンドが人気である旨、三菱UFJ豪ドル債券インカムオープンは被告で一番取扱いが多い商品である旨と各投資信託の概要の説明を行った。
原告は、その際、あおぎん投資信託ラインナップの三菱UFJ豪ドル債券インカムオープン、グローバル・ハイインカム・ストック・ファンド、DKAトリニティオープンの余白部分に丸印を付けた。
Cは、原告に、金額をどのようにするか尋ねたところ、金額は息子と相談の上決めたいから、決まったら電話する旨告げられ、その日は成約に至らなかった。
平成19年6月3日、Cは、原告から金額が決まったので来訪されたい旨依頼された。そこで、Cは、6月4日Dを帯同して原告方を訪問した。
Cは、グローバル・ハイインカムについて、販売用資料(乙5)、投資信託説明書(交付目論見書)(乙6)を原告に交付し(乙7)、ファンド説明チェック表(グローバル・ハイインカム・ストック・ファンド)(乙9)を参照しながら、30分程度かけて、預金保険の対象でないこと、元本保証はないこと、投資した資産の減少を含むリスクは投資信託の購入者自身が負うこと、ファンド名がグローバル・ハイインカム・ストック・ファンドであること、運用会社は野村アセットマネジメント株式会社であること、世界各国の株式を主要投資対象とし、安定的な配当収益の確保に加え、中長期的な値上がり益の獲得を目指すファンドであること、ファンドには株価変動リスク、信用リスク、為替変動リスク、流動性リスク等があること、ファンドは追加型株式投資信託(国際株式型)であること、信託期間は平成25年10月5日までであり変更される場合があること、一般口と累投口の販売があること、1、4、7、10月の年4回の決算日に、運用実績に応じて分配金を支払い、分配金は一般口の場合は決算日から起算して5営業日目に振り込まれること、ファンドの買付単位は1万円以上1円単位であること、購入・解約申込日の翌営業日の基準価額で購入・解約を約定するファンドであること、販売手数料は消費税込みで2.625%であること、解約は原則として口数単位であること、解約時の解約手数料及び信託財産留保額は発生しないこと、解約代金支払日は、解約申込日起算で5営業日目であること、信託報酬は消費税込みで年率1.155%であること、原則毎日購入・解約申込が可能であること、分配金に対して税金がかかる場合があること等について、交付した書面の説明事項欄を示しつつ、その内容に沿って、口頭で説明し、原告に目論見書受取書(乙7)、投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙11)を記入してもらった。
また、DKAトリニティについて、販売用資料(乙16)、投資信託説明書(交付目論見書)(乙17)を原告に交付し(乙18)、ファンド説明チェック表(DKAトリニティオープン<毎月決算型>)(乙19)を参照しながら、30分程度かけて、預金保険の対象でないこと、元本保証はないこと、投資した資産の減少を含むリスクは投資信託の購入者自身が負うこと、ファンド名がDKAトリニティオープン(毎月決算型)愛称ファンド3兄弟であること、運用会社は第一勧業アセットマネジメント株式会社であること、海外の公社債並びに日本株式及び不動産投資信託証券への分散投資を行い、安定した収益の確保を図るとともに、信託財産の中・長期的な成長を目指すファンドであること、ファンドには資産配分リスク、金利変動リスク、価格変動リスク、信用リスク、為替変動リスク等があること、ファンドは追加型株式投資信託(バランス型)であること、信託期間は無期限であるが変更される場合もあること、一般口と累投口の販売があること、毎月の決算日に、運用実績に応じて分配金を支払い、分配金は一般口の場合は決算日から起算して5営業日目に振り込まれること、ファンドの買付単位は1万円以上1円単位であること、購入・解約申込日の翌営業日の基準価額で購入・解約を約定するファンドであること、販売手数料は消費税込みで3.15%であること、解約は原則として口数単位であること、解約時の解約手数料は発生しないが信託財産留保額として解約請求日の翌営業日の基準価額に対して0.2%発生すること、解約代金支払日は、解約申込日起算で5営業日目であること、信託報酬は消費税込みで年率1.155%であること、原則毎日購入・解約申込が可能であるがニューヨーク、ロンドンの銀行休業日は不可能であること、分配金に対して税金がかかる場合があること等について、交付した書面の説明事項欄を示しつつ、その内容に沿って、口頭で説明し、原告に目論見書受取書(乙18)、投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙21)を記入してもらった。
さらに、Cは、豪ドル債券インカムについても、グローバル・ハイインカム、DKAトリニティと同様に、ファンド説明チェック表(三菱UFJ豪ドル債券インカムオープン)(乙13)を参照しながら、販売用資料、投資信託説明書(交付目論見書)を利用し、30分程度かけて、商品内容等を説明し、原告に目論見書受取書(乙12)、投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙15)を記入してもらった。
(イ) 原告が記入又はCが聴取の上記載した内容
a 第2取引ないし第4取引について
投資信託振替決済口座設定申込書兼申込確認書兼告知書(兼印鑑届・顧客カード)①及び同②(乙8)
Cは、原告から投資目的、主たる資金の性格、年収、金融資産を聴取した上、投資目的は値上がり期待との回答であったから中長期値上がり期待の「2」、主たる資金の性格については使う予定がないとの回答であったから余裕資金の「1」、金融資産は4000万円との回答であったから2000~5000万円未満の「6」などと記入した。なお、第2取引ないし第4取引の場合は、前記書面の記入は被告の内部手続上、担当者が記載することが許されており、Cは、銀行に戻った後に記入した。
b 第2取引について
① 目論見書受取書(乙7)
原告は、ファンド名欄に「グローバル・ハイインカム・ストックファンド」、目論見書発効年月欄に「2007.3」と記載され、「上記ファンドの目論見書を受領しました」との不動文字が記載された目論見書受取書のお客様ご記入欄の受領日の記入と署名をした。
② 投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙11)
原告は、「購入する商品の「目論見書」を受領し、商品説明を受けたこと」「預金保険、投資者保護基金の対象でないこと」「金融機関の預金と異なり、元利保証はないこと」「投資した資産の減少を含むリスクは、投資信託の購入者が負うこと」との確認事項が不動文字で記載されている直下の年月日欄をはじめ、必要事項を記入した。また、主たる資金の性格欄については余裕資金の「1」と記入した。
c 第4取引について
① 目論見書受取書(乙18)
原告は、ファンド名欄に「DKAトリニティオープン(毎月決算型)」、目論見書発効年月欄に「2007.6」と記載され、「上記ファンドの目論見書を受領しました」との不動文字が記載された目論見書受取書のお客様ご記入欄の受領日の記入と署名をした。
② 投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙21)
原告は、「購入する商品の「目論見書」を受領し、商品説明を受けたこと」「預金保険、投資者保護基金の対象でないこと」「金融機関の預金と異なり、元利保証はないこと」「投資した資産の減少を含むリスクは、投資信託の購入者が負うこと」との確認事項が不動文字で記載されている直下の年月日欄をはじめ、必要事項を記入した。また、主たる資金の性格欄については余裕資金の「1」と記入した。
d 第3取引について
原告は、前記第2取引及び第4取引と同様に目論見書受取書(乙12)、投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙15)を記入した。
(ウ) 契約内容
上記経緯を経て、原告は、グローバル・ハイインカムを500万円分、豪ドル債券インカムを200万円分、DKAトリニティを500万円分それぞれ購入するとともに、みのり計画という投資信託と同時に契約することにより金利が優遇されるプランにより、定期預金500万円を契約した。定期預金の500万円は、原告が息子に残したいお金として分類していたものであった。
(エ) 第2取引及び第4取引時の原告の資産状況
原告は、第2取引及び第4取引時、退職して年金生活を送っていた。原告の収入は、年間144万円程度の年金であった(甲10、原告本人)。
原告が当時、被告に預けている資産は、普通預金2700万円程度、豪ドル債券インカム414万9432口(購入時価格500万円)であった(甲10、乙49、55)。
原告は、自己の金融資産について4000万円と申告していた。(乙8、10、14、20、60、証人C)
ウ 第5取引の経緯、契約内容(乙22ないし28、60、証人C)
Cは、第2取引ないし第4取引の際に成約したみのり計画の定期預金の満期金500万円について、原告から投資信託を購入したいとの申し出があったところ、全額投資信託とするのではなく、みのり計画を利用して250万円については定期預金にしてはどうかと提案したが、豪ドル債券インカムに満足しているので全額豪ドル債券インカムを購入したいとの意向を示されたため、平成19年10月31日、豪ドル債券インカムを500万円分契約した。
エ 第6取引について
(ア) 取引に至った経緯、Cの説明内容(乙29ないし40、60、証人C)
Cは、原告から、時価額的には下がっているが分配金には満足しているから、リスクの少ない違う投資信託を申し込みたいとの電話を受けた。
そこで、Cは、平成20年2月19日、原告方を訪問したところ、原告からは保有している投資信託の価格は下がっているが分配金には満足しているのでリスクの少ない投資信託を購入したいとの要望を受けた。そこで、Cは、当時、一番基準価額の値動きが緩やかな外国債券オープンを紹介し、販売用資料(乙29)、三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)投資信託説明書(交付目論見書)2007.10(乙30)、「三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)」追加型株式投資信託説明書(契約締結前交付書面)(乙40)を原告に交付し(乙35)、30分程度かけて、預金と異なり元利保証はないこと、預金保険、投資者保護基金の対象でないこと、追加型株式投資信託であり、日本を除く世界主要国の国債(投資適格債)を主要投資対象とし、日本を除く世界主要国の国債等からなる債券市場全体の動きを概ね捉えることを目指して運用を行うファンドであること等ファンドの概要、決算日は原則、毎月17日であり、該当日が休日の場合は翌営業日に決算を行うこと、分配金額は三菱UFJ投信株式会社が基準価額水準や市場動向を勘案して決定し、分配対象額が少額の場合は分配を行わないことがあること、分配金再投資コースと分配金受取コースがあること、投資リスクとして、債券価格の変動に伴う価格変動リスク、金利変動リスク、外国為替相場の変動による為替変動リスク、投資対象国の経営不安等による信用リスク等があり、基準価額が下落し、投資元本を割り込む可能性があること、その他リスクとして解約資金手当てに係る組入証券売却に係る流動性リスク等があり、投資元本を割り込む可能性があること、申込時に税込で1.575%の販売手数料がかかること等、運用期間中、純資産総額に対して税込みで年率1.05%の信託報酬の他監査費用等が差し引かれ基準価額に反映されること、換金時に手数料は発生しないが、申込日の翌営業日の基準価額に対して0.3%の信託財産留保額がかかること、ファンドの取引にクーリングオフの適用はないこと、分配金や解約時に税金がかかる場合があること、クローズド期間はないが、証券取引所における取引停止その他やむを得ない事情により購入・換金の受付を中止する場合があること、信託期間は無期限であるが繰り上げ償還をする場合があること、原則毎日購入・換金が可能であるが、原則午後2時(年初・年末は午前10時まで)に受け付けたものを当日の申込分として、当日を申込日とすること等、申込単位は1万円以上1円単位の金額指定であり、換金申込は口数指定又は全額であること、申込価額は申込日の翌営業日の基準価額であること、販売手数料、手数料に対する消費税は支払金額から差し引かれること、約定が成立したときは、遅滞なく、取引報告書を交付すること、売買後3か月ごとに取引残高報告書を交付すること等、換金代金は申込日から起算して5営業日目以降に支払われること、換金の方法には解約請求と買取請求の2通りがあること、毎年1月及び7月の計算期末後に、運用報告書を郵送すること、基準価額は被告又は三菱UFJ投信への問い合わせ、または日本経済新聞社朝刊などで確認できることなどについて、交付した書面の説明事項欄を示しつつ、その内容に沿って、口頭で説明し、原告に説明事項ご確認書(乙35)、投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙39)を記入してもらった。
(イ) 原告が記入又はCが聴取の上記載した内容
① 三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)説明事項ご確認書(乙35)
原告は、外国債券オープンの目論見書および説明書を受領した上、下記説明事項の説明を受け、内容について十分理解した旨、説明にあたって、不確実な事項について断定的あるいは確実であると誤認させるおそれのあるような説明を受けることはなかった旨の不動文字がある本書面に説明開始時刻について14時00分、説明終了時刻について14時30分と記入し、署名、押印等をした。
また、「預金との誤認防止」等に関する確認事項、ファンドの概要、収益分配金の概要、投資リスク、手数料等の費用、課税上の取扱い、その他リスク、その他留意点、申込み(買付)方法、契約締結時の書面交付、換金(解約・買取)の方法、運用経過の確認方法、被告の概要について説明を受け内容を理解したとの各説明事項について、Cが一つずつ読み上げ原告に対し同意できるか確認したところ、原告は一つずつうなずいてチェック欄にチェックを入れた。
② お客さまカード(乙36)
原告は、投資のご経験欄について経験1年、保有金額2200万円と記入し、投資目的欄について「多少のリスクを許容し、ある程度のリターンを望む」にチェックを入れ、今回のご検討内容欄の運用目的欄は「資産形成のため」、運用原資欄は「余裕資金」、運用予定期間欄は「特に定めなし」、今回の運用資金欄は「~500万円」に各チェックを入れ、お持ちの金融資産欄は「~1億円」にチェックを入れ、現在の概算額について5500万円と記入した。また、金融経済に関するご興味欄の株式相場欄は「時々見ている」、為替相場欄は「時々見ている」、経済関連のニュース欄は「少し興味がある」、経済関連の雑誌・新聞欄は「時々購読している」に各チェックを入れた上、署名等を行った。
③ 投資信託振替決済口座設定申込書兼申込確認書兼告知書(兼印鑑届)①及び同②(乙37)
Cは、原告からの聴取内容及び原告が記入したお客さまカード(乙36)をもとに、同書面を作成した。なお、第6取引の場合は、同書面の記入は被告の内部手続上、担当者が記載することが許されており、Cは、銀行に戻った後に記入した。
(ウ) 契約内容
以上の経緯を経て、原告は、被告から、外国債券オープンを300万円分購入した。
(エ) 第6取引時の原告の資産状況(乙36、60、証人C)
原告は、株式投資信託を2200万円保有し、保有する金融資産は概算で5500万円と申告していた。
Cは、第5取引時に原告は保有する金融資産が4500万円であったにもかかわらず金融資産額が1000万円増えていたため、原告に資産額が増えている旨話したところ、原告は、他の金融機関にも預金がある旨説明した。
オ その後の経過
(ア) 原告は、平成21年8月25日、第6取引によって購入した外国債券オープンを103万口解約した。その際、原告は予定外の支払いがあり、そのために必要となったが、残りは長期的に保有したいと希望した(乙41、42)。
(イ) 同解約金は、同月31日、原告の預金口座に解約金99万5186円が入金となった。(乙42、50)
(ウ) 平成22年4月14日、原告は第4取引で購入したDKAトリニティについて、息子の結婚祝いとして使いたいとして一部解約を申し出、同月21日原告の預金口座に解約金102万2380円が入金された。(乙43、44、50)
(エ) 平成22年12月3日、原告より、損失の少ないファンドの一部を解約していったん現金化するとの連絡があり(乙45)、豪ドル債券インカムを一部解約した。同月9日に解約金が原告の口座に452万9525円入金となった。(乙46、50)
(オ) 同月10日、原告より、他の保有するファンドの基準価額が下がっているため、利益の出るファンドを今のうちに解約して利益を確定したいとの申し出があり(乙47)、豪ドル債券インカムを全額解約することとなった。同月16日に452万8748円が入金となった(乙48、50)。ただ、他の投資信託については基準価額が戻ることを期待して原告が保有を希望したため、解約手続を行わなかった。
(カ) 平成25年9月3日現在において、原告が保有する投資信託の評価額は合計593万6471円であり、原告が保有期間中に受領した分配金の合計は454万1348円である。(乙69)
2 証拠評価
(1) B供述(乙61、証人B)について
B供述は、業務の過程で作成した投資信託顧客情報記録(募集・購入・解約・買取用)(乙1)、ファンド説明チェック表(乙2)、原告が記入した投資信託保護預り口座設定申込書兼申込確認書兼告知書(兼印鑑届・顧客カード)②(乙4)と整合するものであり、その供述内容自体に不自然・不合理な点はなく、また、原告と原告の夫との間で交わされた話のエピソードは銀行員としてリスク商品を販売した場合には記憶に残るものであることなど信用することができる事情があることに加え、後記のとおり原告供述の内容は信用できず、B供述の信用性を減殺するようなものではないことを踏まえると、基本的に信用できる。
(2) C供述(乙60、証人C)について
C供述は、業務の過程で作成した投資信託顧客情報記録(募集・購入・解約・買取用)(乙10、14、20、23、32、41、43、45、47)、お客様カード面談記録票(乙22、31)、ファンド説明チェック表(乙9、13、19、24、25、33、34)、金融商品説明前チェックシート兼事前協議書(個人用)(乙38)、契約時に原告が作成した目論見書受取書(乙7、12、18)、説明事項ご確認書(乙26、35)、お客さまカード(乙27、36)といった各種書類の記載内容と整合するものであり、その供述内容自体に不自然・不合理な点はないこと、その供述内容は基本的に具体的であること、D供述とも整合するものであることに加え、後記のとおり原告供述の内容は信用できずC供述の信用性を減殺するようなものではないことを踏まえると、基本的に信用できる。
(3) 原告本人供述(甲15、原告本人)について(原告が被告から購入した投資信託に関する認識については後記第3の5争点(4)錯誤無効の成否についてにおいて検討する。)
原告は、被告との取引経緯について、要旨、BやCから購入した投資信託に関する販売用資料(乙5、16、29、51)、投資信託説明書(交付目論見書)(乙6、17、30、52)、契約締結前交付書面(乙40)を受領しておらず、購入した投資信託の説明を受けたこともない、投資信託募集・購入申込書兼申込金受付書兼確認書(乙3、11、15、21、28、39)、投資信託保護預り口座設定申込書兼申込確認書兼告知書(兼印鑑届・顧客カード)①②(乙4)、目論見書受取書(乙7、12、18)、説明事項ご確認書(乙26、35)、お客さまカード(乙27、36)については、眼鏡をかけておらず細かい文字も読めなかったし、被告を信用していたので言われるがままに記載したなどと供述する。しかし、原告の供述を前提にすると何ら資料も渡されず説明も受けることなく投資信託購入の契約を複数回締結したということになり、その内容自体にわかに信じ難い。そして、原告にはb大学教育学部を卒業した学歴、30年以上にわたる高等学校における英語教師としての職歴等があり、社会人として豊富な知識、経験を有し、理解力も高いと思われるところ、被告が青森県で大手の地方銀行であり原告が高い信頼を寄せていたことを踏まえても、第1取引では500万円、同時になされた第2取引ないし第4取引ではみのり計画を利用した定期預金も含めると1700万円、第5取引では500万円、第6取引では300万円もの大金に関する取引について、記載する書面の内容を一切確認することもせずに言われるがままに記載したとの供述は不自然かつ不合理である。また、目論見書受取書の記載内容は極めて単純であり受け取ってもいない書面の受取書に疑問を持たずに署名することは考えがたく原告の供述はこの点でも不自然かつ不合理である。さらに、本人尋問の際、眼鏡をかけていない状態でお客さまカード(乙27)の投資のご経験欄の「社債・外債」を示された際、「社債・外債」の文字はほとんど見えないと供述しているが、文字がほとんど見えない状況では、仮に言われるがままに記入したとしてもはっきりした文字の記入、的確なチェックの記入は困難と思われるところ、小さな四角のチェック欄にぶれることなくチェックを入れることができているし、数字も記入できていることなどに照らすと視力に関する供述にも疑問が残る。
以上のとおり、被告との取引経緯に関する原告の供述は全体として不自然、不合理であり、信用できないと言わざるを得ない。
なお、E供述は、第1取引時にEが原告勤務先の職員室に在室していた点が明らかでなく、原告供述の信用性を支えるものにはならない。
3 争点(1)第2取引、第4取引及び第6取引の適合性違反の有無について
(1) 投資商品を販売する金融機関の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した投資取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上の違法となると解するのが相当である。そして、前記の顧客の適合性を判断するに当たっては、単に取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく、当該取引の対象となった商品等の具体的な商品特性を踏まえて、これとの相関関係において、顧客の投資経験、投資取引の知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮すべきである(最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1323頁参照)。
また、前記認定事実のとおり、原告と被告の間には、第1取引において投資信託保護預り口座設定に関する契約が成立し、第2取引から第6取引も同契約を前提にしていることからすると、適合性に反する勧誘は契約上の義務違反として債務不履行責任も構成し得ると解する。
(2) 前記のとおり、顧客の適合性の有無は取引の対象となった商品等の具体的な商品特性を踏まえて、これとの相関関係において、顧客の投資経験、投資取引の知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮すべきものであることから、当然、適合性原則違反の有無については、取引ごとにその有無が判断されるべきものである。
したがって、複数の取引がある場合に、当初取引について適合性原則違反が認められる場合は、かかる違法性をその後の取引も承継するとの原告の主張は採用できない。このことは、当初取引については投資者の知識、経験、資産状態等から投資者の自己責任をおよそ問うことができず、投資市場への参入資格の有無に関する適合性原則に問題があったとしても、別途取引時においては、知識を得て、資産状態も余裕資金が潤沢にあり、投資意欲もある場合についてまで適合性原則に問題があると判断され投資市場への参入資格等が否定されてしまうことの不合理等を考慮すれば明らかである。
(3) 第2取引及び第4取引について
ア 第2取引の対象となった投資信託(グローバル・ハイインカム)は、前記前提事実のとおり、世界各国の株式を実質的に主要投資対象とするものであり、北米、欧州、アジア・オセアニア(日本を含む)の三地域に分散投資し、安定した配当収益と中長期的な値上がり益の獲得を目指し、原則として年4回分配を行うというものである。そして、同投資信託にはこれら投資信託の内容から主に株価変動リスク、為替変動リスクが存在する。
このように、グローバル・ハイインカムは、世界各国の株式に分散投資し、株式の配当益と値上がり益を追求するものであり、仕組みの理解に困難を生じさせるデリバティブ等を組み込むなどしておらず、比較的単純な金融商品といえる。
また、第4取引の対象となった投資信託(DKAトリニティ)は、前記前提事実のとおり、日本を除く世界主要先進国の国債を中心とした格付けの高い外国債券、好配当利回りの日本株式、国内不動産(J-REIT)を実質的な投資対象とし、その資産配分比率は原則として50%、25%、25%であり、利子・配当収入を原資の中心として毎月の収益分配と売買益がある場合はそれを原資とした4半期ごとの収益分配を行うことを目指すというものであり、主なリスクとしては資産配分リスク、金利変動リスク、株価変動リスク、不動産投資信託証券の価格変動リスク、為替変重リスクがある。
このように、DKAトリニティは、日本を除く国債を中心とした格付けが高い海外債券、国内株式、国内不動産(J-REIT)に分散投資し、株式の配当益と値上がり益、債券の利子と値上がり益、国内不動産(J-REIT)の配当益と値上がり益を追求するものであり、仕組みの理解に困難を生じさせるデリバティブ等を組み込むなどしておらず、比較的単純な金融商品といえる。
そして、前記認定事実のとおり、原告は、b大学の教育学部を卒業して、高等学校の英語科の教員として30年以上もの間教鞭をふるってきた経験を有している者であるから、教育者として相当程度の知識、教養を有し、理解力も備えていたと考えるのが自然である。そうすると、前記のとおり比較的単純なグローバル・ハイインカム、DKAトリニティの商品内容を理解する能力は有していたと認められる。
なお、第2取引及び第4取引は退職後まもなくして行われたものであって理解力等が減退していたとは考えがたく、その他原告が商品内容を理解するに足りる能力がなかったと認めるに足りる証拠もない。
イ 原告の財産状態は、すでに退職して年金生活を送っていたことから定期的な収入としては間144万円程度の年金を得ている他、被告に預けている資産として、普通預金2700万円程度、豪ドル債券インカム414万9432口(購入時価格500万円)を保有していたところ、原告は、自己の金融資産について4000万円と申告していた。この点、原告は4000万円との記載はCに言われるがまま記載したものであり真実ではないと主張し、原告本人もそれに沿う供述をするが、前記のとおり原告供述は信用できない。そして、金融機関としては契約当事者の金融資産額等の適合性を判断するに必要な情報は一次的には契約当事者の自己申告に拠らざるを得ないものであるから、特段の事情がない限り、適合性の有無については、自己申告を前提に判断することが許されるというべきである。
そうすると、グローバル・ハイインカムが、株式を実質的な投資対象とするものであり、債券等に比べると比較的価格変動が大きく、外国株式にも投資することから為替の影響も受けるものとはいえ、世界分散投資によりリスクが抑えられることが期待でき、解約も原則随時行うことができるため損切りもスムーズに行え、最悪でも元本以上の損失が生じるものではないとの商品性を有すること、DKAトリニティが、投資対象として海外債券を50%含んでおり為替の影響があり、債券に比べて比較的価格変動の大きい国内株式及び国内不動産(J-REIT)に投資するものとはいえ、海外債券については国債を中心として高格付けの債券を投資対象としておりデフォルトの可能性も低く、さらに世界分散投資によりリスクが抑えられることも期待できることに加え、3種類の資産に分散投資することによるリスクの低減も期待でき、解約も原則随時行うことができるため損切りもスムーズに行え、最悪でも元本以上の損失が生じるものではないとの商品性を有することを踏まえると、普通預金2700万円のうち第2取引ないし第4取引に合計1200万円投資することにより、自己申告があった資産4000万円のうち1700万円程度が投資信託ということになるが、原告には年間144万円の固定的な収入があり、余裕資金で中長期の値上がりを期待して投資することを希望する原告にとっては意向と実情に反して明らかに過度な危険を伴う取引とはいえない。
なお、原告は、原告の投資意向は元本確保取引であったと主張するが、前記認定事実のとおり、原告が第1取引後にBに対して豪ドル債券インカムについてリスクがあっても分配金が入るからよい旨発言していることに照らすと当時、原告が一定のリスクを許容してリターンを求める投資性向を有していたことが窺われる。そして、原告は外国債券オープンを解約する際に予定外の支払があり解約したいが他に保有している投資信託については長期的に保有したいと考えている旨述べており、購入した投資信託はそもそも長期保有を前提にしていたと考えられること、加えてCが原告に対し資産を収益性資金(使う予定のない余裕資金)、流動性資金(資金需要が生じたら直ちに使用できる普通預金)、安定性資金(将来に残しておきたい資金)に分けて運用するのがよいと告げたところ、原告が紙に金額を分けて記入していたことが窺われるところ原告が息子の結婚資金は預金として残したいと発言し(証人C)、同資金についてはみのり計画による定期預金に振り分けているなど元本確保取引と一定のリスクのある取引を区別した行動を取っていることなどからすると、第2取引及び第4取引についてはCが原告から聴取したとおり、主たる資金の性格は余裕資金であり、投資目的も中長期値上がり期待であったと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
ウ 以上より、被告の担当であるCが原告に対してグローバル・ハイインカム及びDKAトリニティの購入を勧誘したことが、適合性原則違反になると評価することはできない。
(4) 第6取引について
ア 第6取引の対象となった投資信託(外国債券オープン)は、前記前提事実のとおり、日本を除く世界主要国の国債等を主要投資対象とし、シティグループ世界国債インデックス(除く日本、円ベース)をベンチマークとして、同指数の動きを概ね捉えることを目指して運用を行い、組入国債等の利子・配当収益を中心に原則として毎月分配を行う方針であり、ファンドの主要なリスクとしては、価格変動リスク、為替変動リスク、信用リスク、流動性リスクがある。
このように、外国債券オープンは、日本を除く国債を主要投資対象とし、利子収益を中心に分配を行うというものであり、投資対象債券につきデフォルトの危険が低いといえ、仕組みの理解に困難を生じさせるデリバティブ等を組み込むなどしておらず、比較的単純な金融商品といえる。
イ 原告の理解力等については、前記のとおりであるところ、原告は、第1取引ないし第5取引を通じて投資信託への投資経験を深めており、特に、外国債券オープンが主要投資対象とする外国国債については、第1取引、第3取引ないし第5取引で購入した投資信託の投資対象となっており、すでに多くの投資経験を有していたといえるから、原告が外国債券オープンの商品内容を理解する能力を有していたと認められる。
ウ 前記認定事実のとおり、第6取引時の原告の投資意向は、余裕資金での資産形成のために多少のリスクを許容し、ある程度のリターンを望むというものであり、具体的には、これまで保有していた投資信託よりもリスクの低い投資信託への投資であった。そして、当時の原告の財産状態は、原告の申告によると株式投資信託を2200万円保有し、金融資産全体では概算で5500万円とのことであった。そうすると、外国債券オープンは、外国国債を主要な投資対象として分散投資するものであるから、株式、国内不動産(J-REIT)を投資対象としていないことを考慮すると、グローバル・ハイインカム、DKAトリニティよりもリスクが低く、特定の国の債券に集中投資する豪ドル債券インカムよりもリスクが低いと考えられ、実際、当時の基準価額の変動も被告で取り扱っている投資信託では一番緩やかであった(証人C)のであるから、前記被告の投資意向に沿うものであったし、第6取引を行うことにより全金融資産に占める投資信託の割合は45%と比較的高い割合になるものの、外国債券オープンが前記のとおり比較的リスクの低い金融商品と考えられること、第6取引は原告からの要望があり勧誘、成約に至ったとの原告の積極的な投資意欲を前提にしていたことを踏まえると、原告の意向と実情に反して、明らかに過度な危険を伴う取引を勧誘するといったことにも当たらないから、被告の担当者であるCが原告に対して外国債券オープンの購入を勧誘したことが、適合性原則違反になると評価することはできない。
エ これらの点について、原告は、取引に投じた資金は余裕資金などではなく、投資意向は元本確保取引であったと主張する。しかし、第5取引に際して、Cが原告に対して、投資額の半分を元本が保証される定期預金にすることを勧めたところ、原告は全額を投資信託に投資しており、当時、原告は元本保証の商品よりもリスクを取ってもリターンが望める金融商品を希望する投資性向を有していたことが窺われる上、原告は第2取引及び第4取引によって購入した投資信託の基準価額が下がっていることを認識しつつ(証人C)第6取引を行い、同取引で購入した外国債券オープンを解約する際には予定外の支払があり解約したいが他に保有している投資信託については長期的に保有したいと考えている旨述べているなど、原資が余裕資金ではなく元本確保取引を希望していたことと矛盾する言動をとっており、原告の主張は採用できない。
また、原告は、当時5500万円もの資産を保有しておらず、Cに言われるがまま同金額を記載したと主張するが、前記のとおり原告供述は信用できない。なお、当時の原告の資産が実際に5500万円あったと認めるに足りる証拠はないが、前記のとおり、金融機関としては契約当事者の金融資産額等の適合性を判断するに必要な情報は一次的には契約当事者の自己申告に拠らざるを得ない。Cは、第5取引時に原告が申告した保有する金融資産が4500万円であったにもかかわらず金融資産額が1000万円増えていたため、原告に資産額が増えている旨指摘したところ、原告は、他の金融機関にも預金がある旨回答したとの事情を踏まえると原告の自己申告額を前提に判断することが許されるというべきである。
(5) 以上の第2取引、第4取引及び第6取引について、原告は、原告が望まない、招かない勧誘を行うこと自体に適合性原則違反が認められるとか、Cは、被告の投資意向を確認することなく勧誘したから適合性原則違反が認められるなどと主張している。
しかし、Cが適合性の検討をしていることは、第2取引ないし第4取引時については、原告から資金の性格、投資目的、年収、金融資産を聴取していることや店内協議を行っていると思われること(乙10、14、20、証人D)などから、第6取引時については、原告からのリスクの少ない投資信託を購入したいとの電話を受けた上勧誘する商品を検討していること、お客さまカード(乙36)を記載してもらっていること、金融商品説明前チェックシート兼事前協議書(個人用)(乙38)の記載等から認められる。
また、第2取引、第4取引及び第6取引は、前記認定事実のとおりの経緯を経て行われたものであることに鑑みると、原告が望まない、招かない勧誘がなされたとは認められない。
4 争点(2)説明義務違反(預金誤認防止義務違反を含む)、断定的判断の提供の有無について
(1) 金融商品取引業者又はその販売委託を受けた金融機関の担当者は、一般投資家である顧客に投資取引を勧誘するに当たり、自己責任による投資判断を行う前提として、対象となる商品の仕組み、特性、リスクの内容と程度等について、当該顧客の特性を踏まえて具体的に理解することができる程度の説明をする信義則上の義務があり、同義務違反は不法行為を構成する(被告の主張する説明義務の範囲は金融商品販売法上のものであり、一般不法行為法上、信義則を根拠として求められる説明義務の範囲とは異なり得る。)。また、原告と被告の間には、第1取引において投資信託保護預り口座設定に関する契約が成立し、第2取引から第6取引も同契約を前提にしていることからすると、説明義務違反は債務不履行責任も構成し得ると解する。
(2) なお、説明義務は投資取引の勧誘に当たって、勧誘の対象となる商品ごとに、顧客の特性を踏まえて実質的に説明すべきことを内容とするのであるから、説明義務違反の有無の判断も当然個別の取引ごとに判断すべきことになる。
この点、原告は、当初取引に説明義務違反(預金誤認防止義務違反を含む)がある場合はその後の取引についてもその違法性を承継すると主張するが、その主張は採用できないし、前記認定事実のとおり、Bは豪ドル債券インカムについて元本が保証されていない商品であることも含め商品の説明を行っていること、預金と投資信託が異なるものであることを理解してもらうために、あおぎん投資信託サポートブック(乙63)を利用して説明した旨供述していること(証人B)、Bが原告に交付した同サポートブックには投資信託と預金(定期預金)の違いが表形式で示されており、原告の学歴、社会人経験等に照らせば、Bの説明を聞き、同サポートブックを読むことで、投資信託が預金ではないことを容易に理解できるはずであるから、預金か否かという単純な事実について錯誤に陥っていたとは認められず、かえって、豪ドル債券インカムが元本保証のない投資信託という金融商品であると理解していたと認められるから、原告の主張はその前提も欠いている。
(3) 第2取引について
グローバル・ハイインカムが前記前提事実記載の商品概要であることを踏まえると、グローバル・ハイインカムの投資の仕組み、投資対象が北米、欧州、アジア・オセアニアの株式であること、利益の源泉となるのは配当益と値上がり益であること、主に基準価額が下落する主要なリスク要因の内容及び元本欠損が生ずるおそれがあること、購入及び解約の制約に関する買付及び解約の手続内容、購入及び保有にあたってのコストである費用の内容についての説明を得られれば投資判断をすることができる、つまり、自己責任原則を問われ得るだけの必要な情報を得ていたといえるから、被告の説明義務も前記内容にわたると解する。
前記認定事実のとおり、Cは、第2取引に先立ち原告の自宅を訪問した際に、あおぎん投資信託サポートブック(乙63)を用いて、投資信託と預金の違いについて項目にしたがって説明し、更に、グローバル・ハイインカム、DKAトリニティの商品概要を説明している。そして、Cは、第2取引時、グローバル・ハイインカムについて、販売用資料(乙5)、投資信託説明書(交付目論見書)(乙6)を原告に交付し(乙7)、それら書面を利用して、グローバル・ハイインカムは、預金保険の対象ではないこと、元本保証がなく投資した資産の減少を含むリスクは購入者が負うこと、運用会社は野村アセットマネジメント株式会社であること、世界各国の株式を主要投資対象とし安定的な配当収益の確保に加え中長期的な値上がり益の獲得を目指すファンドであること、ファンドには株価変動リスク、信用リスク、為替変動リスク、流動性リスク等があることの他、信託期間、決算日と分配金の入金日、購入と解約に伴う手数料、税金、制約等について、販売用資料(乙5)、投資信託説明書(交付目論見書)(乙6)に記載された内容に沿って説明したことが認められる。
そうすると、前記のとおりグローバル・ハイインカムが世界の株式を実質的な投資対象にしている比較的単純な金融商品であることに照らすと、原告の学歴、社会人経験等を踏まえた能力、第1取引による投資信託の投資経験からすると、前記の説明義を負う内容について、原告が、Cの口頭での説明を聞き、説明する際に示された書面の該当箇戸の記載を見ることにより具体的に理解することができる程度の説明がなされたと認められる。また、被告が基本的に元本が保証される商品を主に取り扱ってきた銀行であり、投資商品を販売するにあたっては預金のような元本保証がある商品と誤解されないように慎重な説明が要求されることを前提にしても、そもそも預金との違いは単純な事項であることを踏まえると、前記説明で預金と誤認しないよう必要な説明がされたと認められるし、何ら断定的判断の提供があったとは認められない。
(4) 第4取引について
DKAトリニティが、前記前提事実記載の商品概要であることを踏まえると、DKAトリニティの投資の仕組み、投資対象が債券、株式及び国内不動産(J-REIT)であること、利益の源泉となるのは配当益と値上がり益であること、主に基準価額が下落する主要なリスクの内容及び元本欠損が生ずるおそれがあること、購入及び解約の制約に関する買付及び解約の手続内容、購入及び保有にあたってのコストである費用の内容についての説明を得られれば投資判断をすることができる、つまり、自己責任原則を問われ得るだけの必要な情報を得ていたといえるから、被告の説明義務も前記内容にわたると解する。
そして、前記認定事実のとおり、Cは、DKAトリニティについて、販売用資料(乙16)、投資信託説明書(交付目論見書)(乙17)を原告に交付し(乙18)、それらの書面を利用して、DKAトリニティは預金保険の対象でないこと、元本保証はないこと、投資した資産の減少を含むリスクは投資信託の購入者自身が負うこと、運用会社は第一勧業アセットマネジメント株式会社であること、海外の公社債並びに日本株式及び不動産投資信託証券への分散投資を行い、安定した収益の確保を図るとともに、信託財産の中・長期的な成長を目指すファンドであること、ファンドには資産配分リスク、金利変動リスク、株価変動リスク、信用リスク、為替変動リスク等があること、信託期間、決算日と分配金の入金日、購入と解約に伴う手数料、税金、制約等について販売用資料(乙16)、投資信託説明書(交付目論見書)(乙17)に記載された内容に沿って説明したことが認められる。
そうすると、前記のとおりDKAトリニティが海外債券、国内株式、国内不動産(J-REIT)に分散投資するという比較的単純な金融商品であることを踏まえると、第2取引と同様、預金との誤認防止を含め、必要な説明がなされたと認められるし、何ら断定的判断の提供があったとは認められない。
(5) 第6取引について
外国債券オープンが前提事実記載の商品概要であることを踏まえると、外国債券オープンの投資の仕組み、投資対象の債券、利益の源泉となるのは利子収益であること、主要なリスクの内容及び元本欠損が生ずるおそれがあること、買付及び解約の手続内容、掛かる費用・税金の内容についての説明を得られれば投資判断をすることができる、つまり、自己責任原則を問われ得るだけの必要な情報を得ていたといえるから被告の説明義務も前記内容にわたると解する。
前記認定事実のとおり、Cは、外国債券オープンについて、販売用資料(乙29)、三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)投資信託説明書(交付目論見書)2007.10(乙30)、「三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)」追加型株式投資信託説明書(契約締結前交付書面)(乙40)を原告に交付し(乙35)、それら書面を利用して、外国債券オープンは、預金と異なり元利保証はないこと、預金保険、投資者保護基金の対象でないこと、日本を除く世界主要国の国債(投資適格債)を主要投資対象とし、日本を除く世界主要国の国債等からなる債券市場全体の動きを概ね捉えることを目指して運用を行うファンドであること等ファンドの概要、決算日、分配金額は三菱UFJ投信株式会社が基準価額水準や市場動向を勘案して決定し、分配対象額が少額の場合は分配を行わないことがあること、投資リスクとして、債券価格の変動に伴う価格変動リスク、金利変動リスク、外国為替相場の変動による為替変動リスク、投資対象国の経営不安等による信用リスク等があり、基準価額が下落し、投資元本を割り込む可能性があること、その他リスクとして解約資金手当てに係る組入証券売却に係る流動性リスク等があり、投資元本を割り込む可能性があること、信託期間、決算日と分配金の入金日、購入と解約に伴う手数料、税金、制約等について販売用資料(乙29)、三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)投資信託説明書(交付目論見書)2007.10(乙30)、「三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)」追加型株式投資信託説明書(契約締結前交付書面)(乙40)に記載された内容に沿って説明したことが認められる。
前記認定事実によれば、Cは30分程度で多数の項目について説明を行っており、各説明が駆け足でなされた可能性も否定できないが、外国債券オープンが日本を除く世界主要国の国債を投資対象にしているという比較的単純な金融商品であり、しかも、その投資対象となっている外国国債については、第1取引、第3取引ないし第5取引で購入した投資信託の投資対象となっており、すでに多くの投資経験を有していたとの原告の状況に加え、原告が、説明事項ご確認書(乙35)に、説明を受けた事項を一つずつ確認して理解した旨のチェックを入れていることを踏まえれば、前記の説明義務を負う内容について、Cが直接口頭であるいは、交付した書面を原告が見ることにより具体的に理解することができる程度の説明がなされたと認められる。また、原告が預金と誤認しないよう必要な説明がなされたと認められるし、何ら断定的判断の提供があったとも認められない。
(6) 以上について、原告は下記のとおり主張する。
ア 原告は、説明義務の内容について、預金誤認防止が果たされる程度に具体的に預金との違いを説明することを前提に、勧誘対象商品の抽象的仕組み(投資勧誘に係る販売者、運用会社、管理会社、基準価額、個別元本、騰落率、目論見書、販売手数料、信託報酬、信託財産留保額、分配金、リスク等の基礎知識とその意味内容等)を説明した上、勧誘対象商品の個別具体的内容(運用会社や管理会社の信用状況、具体的な運用内容、具体的な利益発生の仕組み、他の金融商品との具体的な対比・異同、原告本人が自ら保有・解約の判断をなし得るための基礎的情報入手の方法等)及び個別具体的リスク内容(勧誘対象商品に係る各リスクの現実化の見通し、各リスク現実化に対する原告の現実的対処方法等)につき、投資家が投資の適否について的確な判断をなし得るに足りる情報の提供ないしは投資家が自らそのような情報を収集すべき必要性があることを自覚するに足る注意喚起のために必要十分なものであることを要し、当該投資信託の特質や危険性に関する枢要な要素にわたると主張する。
しかし、投資信託が、投資の専門家でない一般投資家が投資の専門家に運用を任せることにより、自己の投資能力を補完して投資機会を得られるようになるという商品特性を有することに鑑みると、原告が主張する説明内容全てについて投資信託を販売する金融機関の従業員に説明義務を負わせ、かつ、その内容を顧客に理解させなければ説明義務違反を問われるとすると、前記投資信託の役割を過度に阻害し、一般投資家の投資機会を不当に制限しかねない面も懸念されるところであるから、原告の主張は直ちには採用できない。前記判断において記載した程度の内容について具体的説明が果たされれば本件においては十分であると考える。
イ 原告は、第2取引、第4取引及び第6取引について、Cが、原告には、各取引の投資信託について適合性がないにも関わらず勧誘した、元本確保取引が原告の意向であったにもかかわらず投資信託取引を行ったなどと主張し、これら行為は誠実・公正、善管注意義務違反となると最終準備書面にて主張する。
かかる主張は、第4回弁論準備手続期日において原告において誠実・公正義務、善管注意義務は説明義務に内包あるいは収斂するものであり独立の違法要素としては主張しないと争点の整理を行った(原告が陳述した原告準備書面(2)11ないし12頁)ところではあるが、前記適合性違反がなかったとの判断、説明義務違反がなかったとの判断において判示したとおり、原告の主張は理由がない。
(7) 以上より、Cについて、原告に対する説明義務違反があったとは認められない。
5 争点(3)口座情報利用禁止違反の有無について
(1) 原告は、金融機関の証券業務に関する内閣府令21条4号を根拠として、被告には預金情報を利用して投資信託取引を勧誘することが禁じられていると主張する。
しかし、同規定は、顧客を勧誘する側の金融商品取引業者等の役職員が職務上の地位から知り得た顧客に関する特別の情報を利用して個人的な有価証券の売買等を行うことを禁じる趣旨で個人である金融商品取引業者及び金融商品取引業者等の役職員の行為を規制対象とするものであり、これらの者が個人的立場で行う自己計算による取引に適用されるものと解されることから、金融商品取引業者等の役職員が個人的立場で行う自己計算による取引に該当しない第2取引、第4取引及び第6取引には同規定は及ばないと解される。
(2) そして、被告が作成し公表している「当行が取得する個人情報の利用目的について」と題する書面(乙67)によると、被告が取得した情報の利用の対象として「各種金融商品の口座開設等、金融商品やサービスの勧誘・販売・案内及び申込受付」が含まれているから、被告が、原告の預金情報をもとに、原告に対して投資信託の勧誘を行ったことは、前記利用目的の範囲内の行為であり違法性は認められない。
(3) なお、仮に銀行が預金情報を元にして、投資信託を勧誘することが禁じられていたとしても、第2取引、第4取引及び第6取引には適合性原則違反も説明義務違反等も認められない原告及び被告間の適法な取引行為が介在するものであるから、預金情報の利用と投資信託購入代金相当額の損害との間には相当因果関係を認めることができない。
(4) 以上より、原告の主張はいずれにしても理由がなく、採用できない。
6 争点(4)錯誤無効の成否について
(1) 原告は、要旨、グローバル・ハイインカム、DKAトリニティ、外国債券オープンについて、元本保証のある商品と誤信していたと主張するようであるが、訴状、準備書面(2)においては、これら投資信託を元本保証を前提とした外貨建預金と誤信したと主張し、準備書面(5)では預金取引と同様のものと誤信したと主張し、最終準備書面では預金と誤認したと主張するなど、その主張内容自体変遷しており不自然である。この点、原告本人は、普通預金、定期預金といった預金種別のうちどのような預金と特定した認識は無く、特別な預金みたいなものと認識していた旨供述する(原告本人)。しかし、原告は、大学の教育学部を卒業した学歴を有し、高等学校の英語教師を30年以上勤めた人物であり、被告の複数の支店に普通預金口座や積立定期口座を有する他(甲10)、みちのく銀行に預金口座を保有し、これら預金口座を利用して預金取引を長期間継続してきた経験があれば(甲10、15、原告本人)、自分が銀行に預けたお金が普通預金であるとか定期預金であるとか識別して認識できて当然であるし、第2取引ないし第4取引で契約した額はグローバル・ハイインカム500万円、DKAトリニティ500万円、豪ドル債券インカム200万円の合計1200万円、第6取引で契約した額は300万円と高額であるにも関わらず自己が購入した商品について明確な認識がないことは不自然である。原告供述はにわかに信用することはできない。
(2) Cは、第2取引及び第4取引に際して、あおぎん投資信託サポートブック(乙63)を利用して投資信託と定期預金の違いについて、元本の保証の有無、預金保険の対象となるか否か、利息・分配金の受け取り、手数料の有無、税金の内容といった項目について、その違いを説明している。また、第2取引のグローバル・ハイインカム、第4取引のDKAトリニティの商品内容について取引前にその概要を説明し、取引時により詳細な説明をしているが、その説明事項に含まれる内容はおよそ原告が誤信したとする元本保証の金融商品とは相容れない内容を含むものである。預金であるか否かというのは単純な内容であり、前記各説明がなされれば投資信託、グローバル・ハイインカム、DKAトリニティが預金でないことは容易に理解できるから、原告がグローバル・ハイインカム、DKAトリニティについて外貨預金等と誤信していたとは認められない。前記認定事実の原告とB、Cとのやり取り、第2取引ないし第4取引から約5か月後に原告が自ら記入したお客さまカードには、投資の経験を記載する欄に、外貨預金欄には何も記入せずに、社債・外債、株式投資信託に経験があり資産を保有していることを記入していること(乙27)に照らすと原告は第2取引ないし第4取引時点において、グローバル・ハイインカム、DKAトリニティが元本保証のある商品である預金ではなく、元本保証のない投資信託であることを十分認識、理解していたと認められる。
(3) また、第6取引時においてもCは外国債券オープンについて「三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)」追加型株式投資信託説明書(契約締結前交付書面)(乙40)を原告に交付して、その内容を示して説明しているが、重要事項が記載されている同書面2頁以下の冒頭において大きな文字で「預金等との誤認防止」等に関する確認事項欄があり、投資信託が預金商品でないこと、金融機関の預金と異なり、元本保証および利回り保証のいずれもないことなどが記載されており、同内容についても説明がなされ、原告が理解したことは、原告が三菱UFJ外国債券オープン(毎月分配型)説明事項ご確認書(乙35)において、「預金等との誤認防止」等に関する確認事項について説明を受け内容を理解したことについてチェックを入れていることからも明らかである。原告が、外国債券オープンを元本保証のある外貨預金等と誤信していたとは認められない。原告は、外国債券オープンを元本保証のない投資信託であることを十分認識、理解していたと認められる。
7 以上のとおり、第2取引、第4取引及び第6取引について、被告従業員の勧誘行為について適合性原則違反、説明義務違反(預金誤認防止義務違反を含む)、断定的判断の提供があったとは認められず、被告について使用者責任、不法行為、債務不履行に基づく原告に対する損害賠償義務は生じない。また、原告について錯誤無効も成立せず、被告に対する不当利得返還請求権も生じない。
8 結論
よって、その余について判断するまでもなく原告の主張はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中一洋)