青森地方裁判所八戸支部 昭和36年(ワ)26号 判決 1964年1月21日
主文
原告原計次郎が被告に対し雇傭契約上の地位を有することを確認する。
被告は原告原計次郎に対し昭和三六年二月三日以降復職するに至る迄一日金三百三十円也の割合の金員を支払うべし。
原告原計次郎の其の余の請求は之を棄却する。
原告柳久保勝男の請求は之を棄却する。
訴訟費用は十分してその一分を原告原計次郎のその四分を原告柳久保勝男のその五分を被告の負担とする。
事実
原告らは次のように請求の趣旨を陳べ第二項第三項につき、仮執行の宣言を求めた。
「一、原告らは被告に対し雇傭契約上の地位を有することを確認する。
二、被告は原告原に対し金三万二千円也及昭和三六年三月以降復職するに至る迄毎月十日限り金一万千四百七十円也を支払え。
三、被告は原告柳久保に対し金三万三千二百円也及昭和三六年三月以降復職に至る迄毎月十日限り金一万三千二百三十六円を支払え。
四、訴訟費用は被告の負担とする。」
被告は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。
(立証省略)
原告両名の主張の要旨は次の通りである。
第一 当事者
被告は丸棒鋼等の製造を目的とし資本金は金二百万円也従業員は二百五十名の株式会社である。
原告原は昭和三五年六月一日被告に採用され造塊工として日給三百三十円也毎月平均一万八百八円也の賃金を得原告柳久保は同三四年十一月一日被告に採用され炉前工として日給三百五十円也毎月平均一万二千六百九十円也の賃金を得各被告会社の従業員により結成されている総評鉄鋼労連八戸鋼業労働組合の組合員である。
第二 解雇の意思表示
被告は昭和三五年一月三〇日原告柳久保に対し、同年二月二日原告原に対し各就業規則第二三条第二号第八号に該当するものとして懲戒解雇の意思表示を行つた。
第三 右解雇の意思表示は次の理由により無効である。
就業規則に定める要件を具備していない。即ち、就業規則第二二条第四項は従業員を懲戒解雇する場合には労働基準監督署の認定を受けなくてはならないのに本件ではその認定を受けていない。
第四 原告両名に対する解雇は不当労働行為であつて無効である。
一、解雇に至る迄の被告会社の不当労働行為
(一) 被告は時間外労働深夜労働につき割増賃金を支給して居り青森県特別安全管理指定事業所となつて居り昭和三五年一〇月一四日被告会社の従業員によつて低賃金打破、労働時間短縮、労働強化反対、労働災害対策等の要求を貫徹するため八戸鋼業労働組合が結成された。
(二) 右労働組合が結成されるや被告は之を嫌悪し数々の不当労働行為を行つた。
(1) 被告は同年一〇月一六日八戸鋼業株式会社従業員組合なる第二組合を結成せしめた。
(2) 八戸鋼業労働組合は止むなく第二組合に合併し八戸鋼業労働組合なるものを結成した。
(3) 是より先被告は八戸鋼業労働組合の役員全部を十月十九日二番方に集中して組合の活動を不能ならしめた。
(4) 同年一一月五日組合は平均賃金二ケ月分の年末手当を要求し団交が数回に亘つて開かれたが第二組合から入つた役員は闘争委員会の情報を被告に流して組合活動を阻害した。
(5) 被告は更に(1)の従業員組合員と同一人を発起人として第二組合を結成せしめた。
(6) 被告は組合の切崩しをはかり三六年一月末日迄に脱退者を二八人ならしめた。
(7) 被告の意を受けて組合活動を内部から阻害してきた第二組合出身の役員は同三六年一月二九日、三〇日の組合大会の選挙で落選し、原告両名は執行委員に当選した。
二、原告両名の組合活動
原告両名は組合結成以来熱心な活動家であつて被告から嫌悪されて居た。
三、処分理由の不存在
(一) 被告の原告両名処分理由は次の通りである。
1 昭和三六年一月三〇日原告両名は二番方として午後三時四四分出勤し手前の棚から自己のカードを取出しタイムレコーダーで時刻を印し奥の棚に入れたが当日組合の臨時大会が開かれたので原告原は之に出席のため七戸職長に三時間遅刻の届出をなし場外の大会に出たが長びいたため当日職場に帰り得なかつた。
2 原告柳久保は原が帰らぬので勤務時間終了時に七戸職長に原が帰らなかつたことを告げ欠勤の事由を届出でた後に退場したが出入口で奥の棚から自己のカードを取り出しタイムレコーダーで打刻し手前の棚にカードを入れたがその際原告原のカードにタイムレコーダーで打刻し之を手前の棚に移してやつた。
(二) 原告柳久保の行為
原告柳久保は退場の際原告原のカードに打刻したことはみとめるが原告原に不正に利益を与えんとしたものではない。
(三) 原告原の行為
一月三〇日一旦出勤し、カードに入場の打刻をしてから急に組合大会に出席することとなり三時間の遅刻届を佐々木栄作に託して被告に提出せんとし大会に出席したが大会が終らず被告に電話で連絡しようとしたが不可能であつた。
(四) タイムカードの重要性
被告はタイムカードによつて賃金計算を行つて居り厳重なる注意を要求して居ると言うがそれ程の重要性はない。
原告原の遅刻届及被告柳久保が七戸職長に原が帰つて来なかつたことを伝えたことによつて原告原の勤務状態を確認し得たものである。
(五) 従来の取扱
被告は従来タイムレコーダーについては厳重な取扱をして居なかつた。
(六) 原告両名については懲戒事由は全く存在しない。
四、不当労働行為の成立
原告両名に対する解雇は組合潰滅のための支配介入不当労働行為としてなされたものである。
第五 原告両名に対する解雇は懲戒権の濫用であつて無効である。
労働者の行為が就業規則所定懲戒事由に該当するものとしてもその所為が企業運営上さしたる障碍を与えず、且労使間に於ける信頼関係をさまで破綻せしめないような場合は懲戒解雇の処分は避くべきものである。
第六 原告らの昭和三六年二月当時の一ケ月平均賃金は原告原に於て金一万千四百七十円也原告柳久保に於て金一万三千二百三十円也であり之は被告が解雇後に供託した予告手当額である。
原告両名の所属する八戸鋼業労働組合と被告との間に於ては昭和三六年度夏期一時金については総額金二百二十三万三千百二十円也を支給することにつき協定が成立し原告らは平均額即ち金一万二千二百円也を請求する権利がある。
昭和三七年五月には昭和三六年年末一時金一人二〇日分及昭和三七年以降昭和四〇年五月迄毎年二回に亘りそれぞれ二〇日分宛の一時金を支給する協定が成立した。
従つて原告両名は本件解雇が無効である以上平均賃金の外に今日迄各金一万二千二百円及び日給の六〇日分を請求する権利があり原告原は日給金三百三十円也原告柳久保は日給金三百五十円也であるから右日数を乗ずれば請求の趣旨の如き金員を請求する権利がある。
第七 原告両名に対し昭和三六年二月二日三〇日分の平均賃金の提供のあつたことはみとめるが本件が懲戒解雇である以上本件解雇の効力については影響はない。
被告主張の要旨は次の通りである。
原告主張第一当事者につき
被告の資本金は金四百万円也その従業員数は約百九十名であつて原告両名の毎月平均賃金算出の根拠は知らないし又労働組合の名称は鉄鋼労連八戸鋼業株式会社労働組合であつてその余の事実はみとめる。
第二 解雇の意思表示につき
被告は原告両名を懲戒解雇したのではなく予告手当を支給して行う普通解雇の方法を取つたのであつて理由としては就業規則第二三条第八号第二二条第四号により懲戒解雇すべき場合に該当するものとみとめたのである。
第三 につき
本件は通常解雇であるから懲戒解雇を前提とする原告両名の主張は理由がない。解雇に当り八戸労働基準監督署長に対し労働基準法第二〇条第三項第一九条第二項による除外申請をなし後之を取下げたことはみとめる。
第四 不当労働行為であるとの主張につき
(一) 解雇に至る迄の経過について
被告が時間外労働深夜労働につき割増賃金を支給していること、青森県特別安全管理指定事業所となつていることはみとめる。
八戸鋼業労働組合結成の動機、八戸鋼業株式会社労働組合結成の理由、昭和三五年年末手当要求当時における組合闘争委員会内部の模様、昭和三六年一月二九日、三〇日に行われた組合の役員改選の模様は何れも知らずその余の事実は否認する。
(二) 原告両名の組合行動について
原告両名の組合活動については何れも否認する。
(三) 処分理由不存在の部分について
原告柳久保は行為自体はみとめて居り原告柳久保は七戸職長に対し原告原が帰らなかつた事実を告げたものではない。
昭和三六年一月三〇日原告両名は二番方として出勤してタイムレコーダーに打刻し乍ら原告原はその後外出してしまつたのに原告柳久保は同日勤務が終了して退出する際原告原のタイムカードに同人が通常通り勤務を終了して退出したる如く原告原と共謀して打刻したものである。
被告は昭和三五年四月一日タイムレコーダーを備付けて賃金計算の基礎とすることとし二ケ月の訓練期間を置き同年六月一日以降本格的実施に入り六月一九日には総務部長名を以て「出社せずして記録を同僚に依頼する如き不正ありし場合は依頼した者依頼された者共に解雇する」との告示をタイムレコーダーの真上に掲示したのである。
(四) 不当労働行為の成立なる部分について
原告らは本件解雇を不当労働行為にせんがために支配介入切崩等の背景を造り上げて入るにすぎない。
第五 懲戒権の濫用と題する部分について
本件解雇は懲戒解雇ではないからこの主張もみとめ難い。
第六 原告らの賃金等請求について
(一) 被告が原告両名に対して解雇の意思をなした際支払を提供した予告手当が原告両名の主張の如くであることはみとめる。しかし右予告手当は解雇時に於ける原告両名の平均賃金であつて之には過去三月の実績に基づく時間外手当も含まれているのであつて原告両名が毎月受領しうべき金額とは言えない。
(二) 被告と八戸鋼業労働組合との間で妥結した昭和三六年夏期一時金の額及びその配分方法が被告の案によることは原告両名主張の通りである。
その配分方法は各従業員につき算出の公式により定められるので受給総額を受給人数で平均に割つたものではない。
(三) 昭和三七年五月に成立した協定中夏季年末の一時金に関する部分は「一時金については毎年八月上旬及び十二月下旬に従業員一人当り基本給同額の各二十日分以上を原資として会社配分案より公平に支給す。会社は昭和三六年年末一時金として従業員一人平均税込八千円を原資とし会社配分案により協定成立後速かに支給する但し十二月三十一日に支給した二千円を控除する。」であつて原告両名が当然自己の基本給同額の二十日分を受けうる筋合ではない。