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青森地方裁判所十和田支部 昭和39年(ワ)30号 判決 1965年1月21日

原告 松岡繁幸

被告 国

国代理人 青木康 外一名

主文

一、被告は原告に対し金五百五十六万円及びこれに対する昭和三十九年四月四日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、成立に争いのない甲第一第二号証及び証人坂本政次郎の証言によれば、青森地方裁判所執行吏坂本政次郎は、昭和三十九年三月二十八日債権者山崎保一と、債務者松本正間の、青森地方法務局所属公証人猪狩真泰作成昭和三十九年第八七四号公正証書の執行力ある正本に基き、債務者松本正所有にかかる三戸郡名川町大字鳥舌内字袖ノ沢一五番二号、一、山林二町九反歩、同所同番三号、一、山林二町三反五畝二十四歩の地上に生立する杉立木、樹令三十年ないし四十年五百本約四百五十石、松立木樹令三十年ないし四十年三千五百本約三千三百石を有体動産執行の方法で差し押えたとし、何ら明認方法を講ずることなく、同年四月三日・三戸郡名川町大字鳥舌内字橋場八番地の債務者住所地においてこれを競売に付し、原告は代金五百五十六万円で石立木を競落し右代金を同執行吏に支払つた事実が認められる。

二、原告は、右執行が違法かつ無効であると主張するので判断する。

本件立木は立木に関する法律の適用を受けない立木であるが、かかる立木はその土地を離れて別個独立の不動産ではなく、もとより有体動産とはいえない、ただ取引上地磐とは別個独立の存在価値を有するから別個の客体として取り扱うことが可能であり、執行上も独立して目的等となりうる。しかして執行に際し如何なる執行方法によるべきかについては、立木の右実体法上の性格から従来執行実務の上において執行の目的物を立木伐採権と観念し民事訴訟法第六百二十五条の特別換価の方法によるとする見解(明治三十二年十二月十九日、同二十三年七月二十四日各民刑局長回答、大正十年五月十九日、同十二年十一月二十七日各民事局長回答、昭和三十二年十一月十八日法曹会決議)に従つて来たことが明らかである。しかるに同執行吏は本件立木が土地の未分離果実に該当し、その故に民事訴訟法第五百六十八条に基く有体動産執行の方法によりうると考えて本件執行をなし、格別明認方法を講じていない。

おもうに、立木が土地の未分離果実といえないことはいうまでもないが強制執行が国家の執行機能を実現する手続であるから公益上各種の執行々為につき執行機関を執行吏と裁判所とに厳別し、各執行手続の確実性を担保している法の趣旨に徴すると同執行吏の前記執行は違法にしてかつ無効というべきである。従つて原告は本件立木の所有権を取得しえないものということができる。

三、つぎに、被告は仮定的主張として、本件立木の競売は同執行吏が債権者山崎保一の代理人たる資格において原告に対し売り渡されたものであると主張する。

成立に争いのない乙第一号証(公正証書謄本)によれば、その第十四条に、債権者山崎保一と債務者松本正間において、債務者は強制執行の方法で本担保物件(本件立木を含む)を処分されても異議ない旨特約していることが認められ、本件執行が右債務名義に基くものであることは明らかであるが、本件立木が担保物件であつて処分の方法として強制執行の手続を利用したものとしてもいやしくも国家の執行権能によつて強制執行をなす以上債権者と同執行吏との関係は公法上の職権義務の関係であつて私法関係と解することはできないから同執行吏を売買の代理人とみることはできない。

よつて右仮定的主張も採用できない。

四、以上の理由によつて本件執行は違法かつ無効であり原告は本件立木の所有権を取得しえないからすでに支払つた競落代金五百五十六万円の返還を請求しうるものであるところ同執行吏が右返還請求に応じなかつたことは当事者間に争いがなく、原告がついに右代金を回収しえなかつたことが認められるから原告は右代金相当額の損害を蒙つたものということができる。

しかして、同執行吏が本件立木に対する執行をなすについては果して執行吏の執行権限に属するか否かを慎重に判断すべく特に執行実務の上において前記見解に従われてきている事実を尊重し執行手続の厳格確実性に配慮しなければならないものといことができるから漫然執行吏の権限に属すると考えてした本件執行は同執行吏の職務上の過失に基くものといわねばならない。そうすると同執行吏は国の機関として強制執行権を行使したものであるから国は国家賠償法第一条に基いて原告に対し損害賠償責任を負担すべきものである。

そうすると被告国に対し金五百五十六万円及び同執行吏の右不法行為の日の翌日である昭和三十九年四月四日から支払いずみに至るまで民事法定率年五分の割合による損害金の支払いを求める本訴請求は理由があるからこれを認容することとし訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し、仮執行宣言の申立については、その理由がないからこれを却下することとした上主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺博介)

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