青森地方裁判所弘前支部 平成14年(わ)119号 判決 2002年12月16日
主文
被告人を懲役1年6月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,青森県北津軽郡a町内において,A商店の名称で肥料,農薬等の販売業を営むものであるが,
第1 別紙一覧表(省略)記載のとおり,平成14年4月15日ころから同年5月中旬ころまでの間,前後8回にわたり,青森県北津軽郡a町内において,Bほか7名に対し,いずれもその容器又は包装に法定の表示がないのに,農薬である商品名ダイホルタンないしホールエース合計211袋を価格合計50万6400円で販売し,
第2 前記第1記載のとおり,農薬の販売の事業を営んでいたのに,営業所の所在地を管轄する都道府県知事に対し,法律で定める事項を届出しなかった。
(量刑の事情)
被告人は,長期間にわたって無届けで農薬の販売を続ける中で,その包装等に何の表示もない農薬を販売したものであるが,被告人がこれらの犯行に及んだ経緯に酌量の余地はない。本件で被告人が販売した農薬は,人間に対して発がん性がある可能性があるということから登録の失効に至ったそれ自体危険なものであり,被告人自身にこの点の認識まではなかったとしても,多少なりとも調査をすれば容易に判明したと思われるのであって,被告人が極めて安易にこのような農薬を販売するに至ったことは強く非難されるべきである。しかも,被告人は,本件農薬の仕入先業者が逮捕されたことを知るや,自らが招いた結果の重大性を正しく認識することもないまま,安易に本件農薬の購入者と口裏合わせをするなどして罪証隠滅工作を行っているのであって,この点もまた強く非難されるべきである。被告人の本件犯行によって,本件農薬を購入した農家やその隣接農家に甚大な経済的損失がもたらされたばかりか,青森県のりんごのイメージが傷付けられ,青森県全体のりんご産業にも多大な悪影響が生じているのであって,本件犯行の結果もまた重大である。
そうすると,被告人の刑事責任は重いが,被告人に本件農薬の危険性についての認識まではなかったこと,被告人が本件犯行を反省していること,被告人に懲役刑に処せられた前科はないこと等の情状を考慮すれば,被告人を主文掲記の刑に処した上で,今回は被告人に対する刑の執行を猶予するのが相当である。
(求刑 懲役1年6月)
(裁判官 土田昭彦)