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青森家庭裁判所 昭和35年(家イ)11号 審判 1960年4月05日

申立人 川島ひさ(仮名)

相手方 川島義明(仮名)

主文

申立人と相手方を離婚する。

申立人と相手方との間の長女冬子の親権を行う者を相手方とする。

理由

申立人は、昭和三十二年八月頃相手方と知り合い同棲生活を始め翌三十三年八月○○日長女冬子を分娩したので、同年九月○○日婚姻届出を済して相手方と正式に夫婦となつたものであるが、相手方に定職がないので已むなく申立人が女給をしながら生計を維持して今日に至つたところ、相手方は更に働こうとしないのみならず、近頃になつて何かと暴力を振うようになつたので、申立人は毎日恐怖におののきながら不安な生活をして居る次第である。

そこで申立人は相手方と別居し、種々交渉を重ねたが、当事者間において円満な解決が望めないから、相手方と離婚し夫婦間の長女冬子の親権者を相手方と定め、且つ慰藉料として金三十万円を申立人に支払わせるように調停して貰いたく、この申立に及んだ次第であるというのである。

そこで当裁判所は、昭和三十五年二月九日第一回の調停委員会を開き、当事者双方に対し種々調停を試みたところ、当事者双方は結局離婚すること及び長女冬子の親権を行う者を相手方とすることに異議なしとしながらも、離婚に基く慰藉料等の金銭授受の問題で互に折り合わず、申立人はその請求を撤回したけれども、相手方は申立人に対し金五十万円を要求して譲らず、もし申立人が相手方の右要求を容れなければ離婚を承諾することはできないと繰り返し、果ては同席の申立人に対し暴力を振いかねない態度さえ示すので、当委員会は当事者間に円滑な合意が成立する見込ないものとして調停を打ち切ることにした次第である。

川島義明の戸籍謄本、当調停委員会における当事者双方の陳述及び当事者双方に対する各審問に、家庭裁判所調査官戸館長逸の調査報告書を綜合すれば、申立人と相手方は昭年三十一年八月頃から同棲し、相手方の家で農業を手伝い、その後相手方はその母ウメが死亡したので、その遺産を兄弟と分割処分して申立人を連れて弘前市に世帯を持つに至つた。その後更に青森市に移り昭和三十三年八月○○日長女冬子が生れたので、同年九月○○日婚姻届出を済して夫婦となつたものである。その間申立人は一時キャバレーの女給をしたこともあり、又相手方は青森市の浜で人夫として働いたり、自動三輪車を買つて小運搬業をしたこともあつたが失敗し、昭和三十四年七月頃、神奈川県箱根方面へ出稼に行つたが、これ又思わしくなかつたので間もなく帰宅したところ、その留守中キャバレー等で働いて居た申立人が数日外泊したことがあつてから当事者夫婦の間に不和が生じそれが昂じて次第に相手方が申立人に暴行を加えるようになつたので、申立人より益々嫌悪されるようになつた。しかも相手方はキャバレー等に勤めて居る申立人を諫止することなく、却つてこれを利用してその給料を無心に行くことさえ度々であつた。他方申立人も生活のためとは申しながら人妻の身でありながら幼い女児を相手方の兄庄蔵の許に預けキャバレーに勤める等、兎角華やかな生活にあこがれた真面目な家庭生活を営もうと努力しなかつたことは甚だ遺憾である。しかしこれとて相手方に生活能力が充分でなく、円満な夫婦生活を営まんとする気概に欠けるところがあつたことも重大な要因となつたものと認められる。以上認定したところからすれば、当事者間における夫婦関係の破綻は既に救い難い程度にまで発展して居り、その他一切の事情を考慮しても申立人と相手方とを離婚させる外最善の方途を見出すことができない現状である。そこで調停委員山口和一郎及び同鳴海たけの意見をも聴さ、申立人と相手方を離婚させることとし、又当事者間の長女冬子(昭和三十三年八月○○日生)の親権者については当事者双方も希望し、且つ同女児のためにもより幸福と考えられるので、相手方を親権者とするのを相当と認める。なお相手方は調停委員会の席上で、申立人に対し金五十万円の慰藉料を要求し、且つその後少くとも金三十万円を即時支払うように申出て居るけれども、現在における申立人にはそのような高額の慰藉料を支払い得る能力あるものとは到底認められないし、又申立人の父佐山功一郎又は姉ふみの夫奈良山信治においても、相手方の要求するような金員を支払うことを肯じないところであるから、もし相手方において、あくまで自分の要求を貫徹したい意向であるならば、自ら別にその申立をするのが相当であると考えられるので、本審判においては本件の申立以外のことに触れないことにした。

以上の理由に基き家事審判法第二十四条第一項を適用して主文のように審判する次第である。

(家事裁判官 坪谷雄平)

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