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青森家庭裁判所八戸支部 昭和62年(家)410号 審判 1988年9月07日

申立人 青野朔太郎

相手方 青野和義

主文

相手方を申立人の推定相続人から廃除する。

理由

1  申立ての要旨

(1)  相手方は申立人の長男で、遺留分を有する推定相続人である。

(2)  相手方は、昭和55年3月まで、申立人が設立し代表取締役をしている株式会社○○○商店(本店所在地:申立人の住所地に同じ。以下「○○○商店」という。)の社長代理としてこれを経営していたが、その間、申立人の注意、勧告にも拘らず、賭博行為を繰返して上記商店の売上金を費消したばかりか、妻子があるのに愛人をマンシヨンに囲うなど、放蕩の挙句、借金取りに追われ、 そのころ、仕事を放棄し、妻子を捨てて、愛人と共に失踪した。

(3)  相手方は、失踪後、二度ほど申立人のもとに立寄つたが、相変らず愛人と同棲を続け、定職もなく、反省の態度が認められない。

申立人は相手方の借金の支払いのため、1億円を超える支出を余儀なくされたが、今後も更に相手方の借金の支払いをせざるを得ない状況にある。

(4)  申立人は齢83歳に達し、余命いくばくもないが、以上のような相手方の行状に鑑み、相手方に対して申立人の財産を相続させる意思はないので、相手方の著しい非行を理由に、相手方を申立人の推定相続人から廃除することを求める。

2  当裁判所の判断

一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  相手方は、申立人とその先妻カヨ(昭和8年4月8日協議離婚)との間の二男で、申立人の推定相続人である。

申立人の推定相続人は、相手方の他に、申立人の後妻ナヲ(昭和8年9月13目婚姻)、及びいずれもナヲとの間に生れた長男正、五男孝、六男悟の合計5名である。

(2)  申立人は、○○市内で食料品の小売販売業(八百屋)を営んできたもので、昭和55年ころ、自己の経営する営業組織を会社組織に改めて前記○○○商店を設立し、爾来、その代表取締役の地位にある。同商店は、申立人の本籍地に本店店舗がある外、○○市内に支店店舗を有し、主として食料品の小売販売を業とするいわゆるスーパーマーケツトである。

申立人は、○○市内に宅地5筆(うち1筆は前記孝と共有)、雑種地1筆、居宅1棟、倉庫・物置・車庫3棟を所有しており、その固定資産評価額は、土地分合計1億2913万9647円(うち孝との共有分1332万4570円)、建物分合計519万3043円である。また、申立人は、○○○商店の株式3000株を所有しているが、昭和62年度における同株式に対する配当所得は、105万円であつた。

(3)  相手方は、実母の離婚に伴い、継母ナヲに育てられ、高等小学校卒業後、申立人と共に家業に従事し、昭和29年2月4日、妻マチと婚姻の届出をし、長男賢一、長女芳子、二女薫、三女充代を儲けた。相手方は温和な働き者で、継母や異母弟らとも円満な関係を維持し、家業の隆盛に貢献した。

ところが、相手方は、昭和46年ころに至り、○○市内の商店関係者らが集まる賭場に出入りするようになり、次第に賭博がやみつきとなつて、以後約10年間にわたり、再三、賭場に出入りし、自己の給料を賭金に充てたほか、街の金融機関や親戚、知人らから総額約7500万円を借り入れ、これを賭博に費消した。

また、相手方は賭博を始めたころ、キヤバレーで知合つた雨川タツ子(以下「タツ子」という。)と親しくなり、同女の住むアパートに出入りするようになつた。

申立人は、こうした相手方の生活の乱れを心配し、相手方の借財を支払つてやる一方、再三にわたり相手方に注意し、あるいは、相手方の自覚を促すべく、昭和55年前記○○○商店を設立すると同時に相手方を同社の社長代理に任命して経営を任せるなどしたが、相手方は、日中は、真面目に仕事をするものの、閉店後は、依然として賭場やタツ子のもとへ通うなど、その生活態度は改まらなかつた。そのため、申立人は相手方に対し反省を求めるべく、二年間くらい、単身、他所で生活してくるように勧め、これに応じて相手方は、昭和56年3月ころ、○○を離れて上京したが、その際相手方は前記のタツ子を同伴し、上京後、同女と同棲生活を始めた。

(4)  その後、相手方は、パチンコ店の店員をしながら、タツ子との生活を続け、昭和58年11月11日、同女との間に男児「満」が出生した。そして、満の出生後、相手方らは、タツ子の実母及びタツ子の弟の子2名(タツ子の弟夫婦は、 多額の借財を抱え、子らを残したまま行方不明になつた。)を引取り、タツ子もパチンコ店に勤め、相手方と二人の収入で生計を支えている。相手方は、上京後、賭博行為は行つていないが、○○に残した借財は全く支払つていないし、○○の妻子らに仕送りもしていない(なお、相手方は、満の出生時にサラ金から50万円を借り入れたが、この借入金は、東京都内で婚姻生活をしている相手方の二女薫に支払つて貰つた。)。

現在、相手方は、申立人から居宅の入手資金程度の財産を分けて貰つたうえで、今後もタツ子との生活を続けることを希望している。相手方は、自己の借財を返済するだけの資力はなく、今後これを返済しうるようになる見込みもない。

(5)  一方、申立人は、相手方の残した借財約7500万円を返済したうえ、○○○商店の本店は相手方の妻マチと相手方の長男賢一にその経営を任せ、支店は、前記孝にその経営を任せている。申立人としては、相手方が推定相続人から廃除されても、○○に残された相手方の妻子に対しては、○○○商店の経営権を移譲する等、自己の資産を分与して同人らの生活を保障しようと考えている。

相手方の妻は、再び相手方と円満な夫婦としての生活を回復することは困難であると考えており、申立人の本件申立に同調している。

以上のように認められる。

上記認定事実によれば、相手方は、恵まれた地位にありながら、賭博行為を繰返して多額の借財を作出し、かつ、妻子があるのに、これを顧みることなく、愛人と同棲して同女との間に男児を儲け、上記の借財をことごとく申立人に支払わせ、愛人との生活を清算する意思もないというのであるから、相手方が8年前から賭博を行つていないことを考慮しても、相手方には、申立人との家族的共同生活関係を継続する意思、意欲がなく、申立人との円満な関係を自ら破壊したものと言わざるをえない(なお、申立人の資産は、○○市内における土地の取引価格は固定資産評価額の2ないし3倍程度、建物のそれは同評価額程度とされていることを考慮すると、およそ4億円程度と認めるのが相当であるところ、相手方が遊興のために作出し、申立人が支払つた借財は、約7500万円であるから、相手方は、既に申立人から自己の遺留分相当額を優に超える財産的利益を受けていると考えられる。)。

そして、以上によれば、相手方の申立人に対する行為は、民法892条にいう著しい非行に該当するものというべきであるから、同旨の理由により、相手方を申立人の推定相続人から廃除することを求める本件申立は理由がある。

よつてこれを認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 富塚圭介)

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