青森家庭裁判所弘前支部 昭和45年(少)980号 1971年1月12日
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、自動車の運転の業務に従事している者であるが、
(1) 飲酒の上昭和四五年一〇月二六日午後一一時ごろから普通乗用自動車(青○×○○○○号)を運転して帰途についたところ、当時、酔が回つて前方注視など不十分となり正常な運転ができなくなる状態であつたのに、予め休息して酔の醒めるのを待つことなく、あえて前記自動車を運転して、同日午後一一時一五分ころ、○町通りから○○通り方面に向け時速五〇粁で青森市○○○丁目○○の○○番地先交差点にさしかかつたが、同所は左右の見通しの悪い交差点であり、かつ雨のため路面が湿潤しており、さらに少年自身上記のごとき酩酊状態にあることからして、十分な前方注視をなすはむろんのこと減速ないしは徐行をなすなどにより事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これらを怠り、漫然前記同一速度で運転を続けたため、前記交差点右側から左側に進行して来た○藤○運転の普通乗用自動車(青○△○○○○号)に気付かず、自車の約四・四メートル手前に接近して初めてこれを発見したが、急制動の措置をとるいとまもなく自車前部を同車に衝突させ、よつて同人に対し加療約一〇日間を要する顔面および左大腿挫傷、右肩関節部および右手関節部打撲傷の傷害を与え、
(2) 呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、前同日同時刻ころ同所附近で前記のとおり普通乗用自動車を運転したものである。
(適条)
(1)の事実刑法第二一一条前段。
(2)の事実道路交通法第六五条、第一一七条の二第一号。
(中等少年院に送致する理由)
少年は、昭和四三年二月以降本件非行に至るまで、前後七回の道路交通法違反(無免許運転四回、速度違反三回)と一回の業務上過失傷害の非行を連続的に犯し、そのうちの業務上過失傷害と無免許運転(一回)の件で昭和四四年五月二四日当裁判所において保護観察の処分に付せられた外、速度違反の件で同年一二月六日と昭和四五年八月一一日におのおの検察官への送致(少年法第二〇条)決定を受けたものであるところ、何ら反省することもなく、再度、道路交通法規を無視して本件非行を敢行したものである。本件非行は、友人と街へ遊びに出て飲酒し、上記のごとく前方注視能力もほとんど喪失しかけていたのではないかとの疑いもある程に酩酊のうえの無謀運転による事故であり、非行態様としても悪質きわまりなく、事後的に多額の損害賠償をなしたことを考慮しても、少年の責任は重大といわなければならない。ところで、少年の知能は準普通域にあるものの、性格的には注意力が散漫で、軽佻性が著しく、抑制力を欠き、些細な剌激で前後を忘れた衝動行動に足る傾向があるとともに規範意識に乏しいなどの著しい偏倚が認められるところであり、これらの性格的偏倚が再三にわたる非行の原因を形成していると思料される。しかるに、少年は、本件の審判の終了に至るまで、自己の非行についての内省に欠けたまま、何故に同種非行を反覆しているのかの原因や動機を理解し、説明しようとせず、単に謝罪することで許してもらえるのではないかとの安易な態度を維持し続けたところであり、他方、保護者においては、本件を契機として、今後少年を強く監督指導してゆく心構えが出来たことが認められるけれども、その態度も表層的であつて、それ以上に上記のごとき少年の性格的偏倚と、その非行原因を熟知した上で、それに対する適切な方策を立てることについての理解を示さず、むしろ事故自体は示談の成立によつてすべて解決ずみとの軽い考えがあるやにもうかがえられないことはない状況にあり、これらの意味において保護者の保護能力にも期待が持てないといわざるをえない。以上のごとき少年の環境、資質および少年は本件事故によつて自動車の運転免許を取り消されたことを合せ考えると、今後においても無免許運転などの非行を繰り返すおそれがきわめて濃厚であり、かつ前記の保護観察および二回にわたる検察官への送致の処分によつても本件非行を防止しえなかつたことを考えると、本件において少年を少年法第二〇条により検察官へ送致の上、刑事処分に付するよりは中等少年院において専門的指導のもとに教育することが、少年の健全な育成のため最も適切であると判断する。よつて、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第三号により、主文のとおり決定する。