静岡地方裁判所 平成10年(わ)542号
主文
被告人小髙孝治を懲役二年六月に、被告人医療法人社団健寿会を罰金五六〇〇万円に、被告人有限会社シルバーケアアンドサプライを罰金二五〇〇万円に、被告人有限会社敬寿会を罰金一五〇〇万円にそれぞれ処する。
被告人小髙孝治に対し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人医療法人社団健寿会(以下「被告健寿会」という)は、静岡県清水市草ケ谷六五一番地の七に本店を置き、病院経営を目的とし、山の上病院を開設、経営する資産総額一億八四六〇万円の医療法人であり、被告人有限会社シルバーケアアンドサプライ(以下「被告シルバーケア」という)は、同市本郷町五番八号-三〇二に本店を置き、医療に関する設備機器の販売及び賃貸等を目的とする資本金三五〇万円の有限会社であり、被告人有限会社敬寿会(以下「被告敬寿会」という)は、同市本郷町五番八号に本店を置き、医療に関する患者の介護・看護業務の受託、代行等を目的とする資本金三〇〇万円の有限会社であり、被告人小髙孝治(以下「被告人小髙」という。)は、右三法人の実質的経営者(被告健寿会においては理事長、同シルバーケア及び同敬寿会においては各取締役)としてこれら各法人の業務全般を統括していたものであるが、被告人小髙は、右三法人の業務に関し、それぞれの法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、経費を過大に計上するなどの方法により所得を秘匿した上
第一
一 平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度における被告健寿会の実際所得金額が四億三九一万六九〇三円であったにもかかわらず、平成七年五月三一日、静岡県清水市江尻東一丁目五番一号所轄清水税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億七三四四万四九一五円で、これに対する法人税額が六四七九万九四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告健寿会の右事業年度における正規の法人税額一億五一二二万六四〇〇円と右申告税額との差額八六四二万七〇〇〇円を免れ(別紙修正損益計算書<1>及びほ脱税額計算書<1>参照)
二 平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの事業年度における被告健寿会の実際所得金額が三億六六一二万八六八一円であったにもかかわらず、同年五月二八日、前記清水税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億七〇八〇万九二五七円で、これに対する法人税額が六三九六万七二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告健寿会の右事業年度における正規の法人税額一億三七二一万一八〇〇円と右申告税額との差額七三二四万四六〇〇円を免れ(別紙修正損益計算書<2>及びほ脱税額計算書<2>参照)
三 平成八年四月一日から平成九年三月三一日までの事業年度における被告健寿会の実際所得金額が四億四四五〇万七九〇六円であったにもかかわらず、同年五月三〇日、前記清水税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億七二四七万二二九三円で、これに対する法人税額が一億二一一万六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告健寿会の右事業年度における正規の法人税額一億六六六二万三七〇〇円と右申告税額との差額六四五一万三一〇〇円を免れ(別紙修正損益計算書<3>及びほ脱税額計算書<3>参照)
第二
一 平成六年二月一日から平成七年一月三一日までの事業年度における被告シルバーケアの実際所得金額が二億一七五九万三七四五円であったにもかかわらず、同年三月三〇日、前記清水税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四一一〇万一七七七円で、これに対する法人税額が一四六四万三六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告シルバーケアの右事業年度における正規の法人税額八〇八二万八一〇〇円と右申告税額との差額六六一八万四五〇〇円を免れ(別紙修正損益計算書<4>及びほ脱税額計算書<4>参照)
二 平成七年二月一日から平成八年一月三一日までの事業年度における被告シルバーケアの実際所得金額が一億四七六六万四七八円であったにもかかわらず、同年三月二九日、前記清水税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四一一五万五六三二円で、これに対する法人税額が一四五七万三三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告シルバーケアの右事業年度における正規の法人税額五四五一万二六〇〇円と右申告税額との差額三九九三万九三〇〇円を免れ(別紙修正損益計算書<5>及びほ脱税額計算書<5>参照)
第三 平成七年一一月一日から平成八年九月三〇日までの事業年度における被告健寿会の実際所得金額が一億九五八一万四七三九円であったにもかかわらず、同年一二月二日、前記清水税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三九一〇万七四八一円で、これに対する法人税額が一三九六万円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告健寿会の右事業年度における正規の法人税額七二七二万五一〇〇円と右申告税額との差額五八七六万五一〇〇円を免れ(別紙修正損益計算書<6>及びほ脱税額計算書<6>参照)
たものである。
(証拠)
括弧内の番号は、証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
全部の事実について
一 被告人の公判供述、検察官調書五通(乙2ないし4、7、11)
一 平居和子(三通、甲69、70、74)、平居康之(三通、甲77、81、84)の各検察官調書
冒頭部分について
一 登記簿謄本五通(乙14ないし18)
第一の事実について
一 被告人の検察官調書三通(乙5、6、9)
一 酒井良和(甲66)、油井義明(甲67)、平居和子(甲75)、平居康之(五通、甲78ないし80、82、83)の各検察官調書
一 五十嵐治男(甲55)、海野嘉明(甲56)、柴田昌樹(甲57)、林純一郎(甲58)、花村彰介(甲59)、青山英男(甲62)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 査察官調査書一二通(甲1ないし12)
一 証明書一二通(甲13ないし24)
第一、第二の事実について
一 竹本和明の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲60)
第二、第三の事実について
一 被告人の検察官調書二通(乙10、12)
一 平居和子の検察官調書二通(甲71、73)
一 伊藤久美子の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲63)
第二の事実について
一 被告人の検察官調書(乙8)
一 橋爪陽子の検察官調書(甲64)
一 中嶋一博の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲61)
一 査察官調査書九通(甲25ないし33)
一 証明書一〇通(甲34ないし43)
第三の事実について
一 後藤聡子(甲65)、平居和子(甲72)の各検察官調書
一 査察官調査書五通(甲44ないし48)
一 証明書六通(甲49ないし54)
(法令の適用)
罰条
1 被告健寿会、同シルバーケア、同敬寿会
判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)
2 被告人小髙
判示第一ないし第三の各所為につき、法人税法一五九条一項
刑種の選択
被告人小髙につき、懲役刑選択
併合罪加重
1 被告健寿会、被告シルバーケア、被告敬寿会
刑法四五条前段(平成七年法律第九一号附則二条二項)、四八条二項
2 被告人
刑法四五条前段(平成七年法律第九一号附則二条二項)、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の一の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予
被告人小髙につき、刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、被告人小髙が、被告健寿会の設営する山の上病院(老人専門の病院)を将来介護保険の適用が受けられる療養型病床群に転換するための増改築資金を捻出する目的等で、同被告人が実質的に経営する被告健寿会など被告三法人の所得を過少に申告して法人税を脱税した事案であるところ、脱税の合計額が約三億八九〇七万円と静岡県内では近年稀にみる巨額である上、総脱税率も約五八・七パーセントと高率であり、いかに療養型病床群に転換するための増改築資金捻出のためとはいえ、極めて悪質な事案といわざるを得ない。しかも、被告人小髙は、医師であるにもかかわらず、被告健寿会の医薬品等を不正に薬品業者に売却したり、山の上病院に出入りする業者にリベートを要求して徴収するなどして得た所得を脱税していたのであるから、本件が、高い道徳律の期待されている医療機関や医療関係者への社会的信用を失墜せしめ、また、国民に対して納税の不公平感を与えた責任は大きい。そうすると、被告三法人の刑事責任は大きく、とりわけ被告人小髙の刑事責任は重大であって、実刑が相当とも考えられる。
しかし、被告三法人は、修正申告して、本件にかかる本税及び延滞税のみなら重加算税(合計約一億一七三八万円)を支払っていること、本件後、被告三法人の会計を一括して監査する公認会計士を新たに選任した上、被告健寿会の出納印を事務長が保管し、被告シルバーケア及び同敬寿会の代表者印をそれぞれの代表者が保管するなど、被告人小髙が恣意的に経理操作しにくい措置を講じたこと、山の上病院はいわゆる大規模老人病院として地域社会に貢献していたのであって、被告人小髙が実刑に服した場合、療養型病床群へ転換のみならず病院の存続すら危うい状態になりかねないこと、被告人小髙は、医師として所属していた静岡県整形外科医会及び同臨床整形外科医会に退会届を出すなど、本件に対する反省の態度が見られること、報道機関の報道等により、被告人らは既に社会的制裁を受けていること、被告人小髙には前科がないことなどの諸事情を考慮すると、今回に限り、被告人小髙に対し懲役刑の執行を猶予するのが相当と思料した。
よって、主文のとおり判決する。
(検察官 福原道雄、私選弁護人 倉田雅年、同 高野明夫、同 井野一郎 各出席)
(求刑 被告人小髙につき懲役二年六月、被告健寿会につき罰金七〇〇〇万円、被告シルバーケアにつき罰金三〇〇〇万円、被告敬寿会につき罰金一八〇〇万円)
(裁判官 小林康男)
修正損益計算書
医療法人社団 健寿会
自 平成6年4月1日
至 平成7年3月31日
No.1
<省略>
修正損益計算書
医療法人社団 健寿会
自 平成7年4月1日
至 平成8年3月31日
No.2
<省略>
修正損益計算書
医療法人社団 健寿会
自 平成8年4月1日
至 平成9年3月31日
No.3
<省略>
修正損益計算書
有限会社 シルバーケアアンドサプライ
自 平成6年2月1日
至 平成7年1月31日
No.1
<省略>
修正損益計算書
有限会社 シルバーケアアンドサプライ
自 平成7年2月1日
至 平成8年1月31日
No.2
<省略>
修正損益計算書
有限会社 敬寿会
自 平成7年11月1日
至 平成8年9月30日
No.1
<省略>
ほ脱税額計算書
医療法人社団 健寿会
自 平成6年4月1日
至 平成7年3月31日
<省略>
自 平成7年4月1日
至 平成8年3月31日
<省略>
自 平成8年4月1日
至 平成9年3月31日
<省略>
ほ脱税額計算書
有限会社 シルバーケアアンドサプライ
自 平成6年2月1日
至 平成7年1月31日
<省略>
自 平成7年2月1日
至 平成8年1月31日
<省略>
ほ脱税額計算書
有限会社 敬寿会
自 平成7年11月1日
至 平成8年9月30日
<省略>