大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 平成12年(行ウ)2号 判決 2002年12月12日

原告

A株式会社

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

岡村共栄

中込光一

岡村三穂

被告

富士税務署長

岡本一夫

上記指定代理人

植田浩行

萩原規彰

磯野宏

渡邊康孝

真野重信

宗野有美子

松田清志

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が原告に対して平成10年4月14日付けでした平成6年5月1日から平成7年4月30日までの事業年度以後の法人税の青色申告の承認の取消処分を取り消す。

2  被告が原告に対し前同日付けでした平成6年5月1日から平成7年4月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、納付すべき税額1280万8500円を超える部分を取り消す。

3  被告が原告に対し前同日付けでした平成7年5月1日から平成8年4月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、納付すべき税額2098万7200円を超える部分を取り消す。

4  被告が原告に対し前同日付けでした平成8年5月1日から平成9年4月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、納付すべき税額3396万2600円を超える部分を取り消す。

5  被告が原告に対し前同日付けでした平成7年5月1日から平成8年4月30日までの課税期間の消費税の更正処分のうち、納付すべき税額868万1600円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

6  被告が原告に対し前同日付けでした平成8年5月1日から平成9年4月30日までの課税期間の消費税の更正処分のうち、納付すべき税額1713万3400円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

7  被告が原告に対し前同日付けでした平成8年5月1日から平成9年4月30日までの課税期間の地方消費税の更正処分のうち、納付譲渡割額58万2500円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

8  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要、争いのない事実及び争点

本件は、被告が原告に対し、①被告の税務調査に対して原告が帳簿書類を提示しなかったことは法人税法127条1項1号の青色申告承認の取消事由に当たるとして、平成6年5月1日から平成7年4月30日までの事業年度以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)を行うとともに、青色申告の承認を前提として申告された平成6年5月1日から平成7年4月30日まで、平成7年5月1日から平成8年4月30日まで及び平成8年5月1日から平成9年4月30日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税の更正処分(以下「本件各法人税更正処分」という。)を行ったこと、②被告による税務調査(以下、被告所属の調査官が原告に対して行った①及び②の一連の調査を「本件調査」ということがある。)に対して原告が帳簿又は請求書等(以下、①の帳簿書類と併せて「帳簿書類等」、「本件帳簿等」などということがある。)を提示しなかったことは消費税法30条7項にいう「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当し、同法30条1項による消費税の仕入税額控除が適用されないとして、平成7年5月1日から平成8年4月30日までの課税期間(以下「平成8年4月期」という。)及び平成8年5月1日から平成9年4月30日までの課税期間(以下「平成9年4月期」といい、平成8年4月期と併せて「本件各課税期間」という。)の消費税並びに平成9年4月期の地方消費税について各更正処分(以下「本件各消費税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各加算税賦課決定処分」という。)を行ったことにつき、原告が、法人税法127条1項1号の青色申告承認の取消事由及び消費税法30条7項に該当する事由は存在しないとして、上記各処分の取消しを求めた事実である。

1  争いのない事実

(1)  原告は、肩書地において産業廃棄物の収集、運搬、処分及び最終処分業、土木工事の請負工事、土石の採取及び土石の仕入販売、建物の解体工事、一般貨物自動車運送業等を営む株式会社である。

(2)  確定申告等

ア 法人税の確定申告等

原告は、本件各事業年度の各法人税について、それぞれ青色申告により法定申告期限内に確定申告を行い、納付すべき各税額を納付した。

本件各事業年度の各法人税の確定申告における所得金額及び納付すべき税額は、別表-2「法人税」の各「確定申告」欄記載のとおりである。

イ 消費税の確定申告等

原告は、平成8年4月期の消費税について、法定期限内に確定申告を行い、平成8年7月31日に修正申告を行って、納付すべき税額を納付した。また、原告は、平成9年4月期の消費税について、法定期限内に確定申告を行い、平成9年7月31日に修正申告を行って、納付すべき税額を納付した。

本件各課税期間の各消費税の確定申告及び修正申告における課税標準額、控除対象仕入税額及び納付すべき税額は、別表-3「消費税」の各「確定申告」欄及び「修正申告」欄記載のとおりである。

ウ 地方消費税の確定申告等

原告は、平成9年4月期の地方消費税について、法定期限内に確定申告を行い、平成9年7月31日に修正申告を行って、納付すべき税額を納付した。

同確定申告及び修正申告における各課税標準となる消費税額及び納付譲渡割額は、別表-4「地方消費税」の「確定申告」欄及び「修正申告」欄記載のとおりである。

(3)  原処分に至る経緯

原処分に至る被告の原告に対する調査の経緯については、以下の事実の限度で当事者間に争いがない。

ア 平成8年1月21日午前、富士税務署の乙特別国税調査官(以下「乙調査官」という。なお、以下、被告所属の調査官について「被告調査官」又は「被告調査官ら」ということがある。)が、原告から税務代理の委任を受けている丙税理士(以下「丙税理士」という。)に電話をかけ、同年12月3日から同月5日までの3日間、原告の税務調査をしたい旨申し出た。丙税理士は、原告の都合を聞いて、折り返し乙調査官に電話をかけ、原告も大村税理士も年内は忙しいので調査は平成9年1月以降にしてほしい旨伝えた。同日午後、乙調査官は、原告に電話をかけ、応対した当時の原告代表者丁(以下「丁」という。)の妻であり原告の取締役である戊(以下「戊」という。)に対し、同年12月3日から同年5日までの3日間、原告の税務調査をしたい旨連絡した。

イ 平成8年11月22日午前8時45分ころ、乙調査官は、原告に電話をかけたが、丁は不在だった。

ウ 平成8年12月3日午前、乙調査官及びB上席国税調査官(以下「B調査官」という。)が原告の事務所に臨場し、戊が応対した。戊は、その場で丙税理士に電話をかけ、乙調査官に電話を替わったところ、丙税理士は乙調査官に対して同日臨場したことに抗議した。乙調査官は、戊に対し、12月11日に再度調査のため臨場する旨告げて原告事務所を辞去した。

エ 平成8年12月6日午後1時ころ、乙調査官は、同月11日の調査予定について確認するために原告に電話をかけた。

オ 平成8年12月11日午前、乙調査官及びB調査官は、税務調査のため、原告の事務所に臨場し、丁及び戊が応対した。

カ 原告は、平成8年12月15日付けで乙調査官に対して文書を送付し、同月3日及び11日の臨場について抗議した。

キ 平成9年1月7日、8日及び9日、乙調査官は調査日程を調整するため丙税理士に電話をかけたが、丙税理士は不在だった。

ク 平成9年4月1日、乙調査官は、原告に電話をかけたが、丁は不在だった。その後、乙調査官は丙税理士に電話をかけたが、丙税理士は不在だった。

ケ 平成9年4月2日、乙調査官は調査日程の調整のため、原告に電話をかけたが、丁が不在だったため、戊が応対した。

コ 平成9年4月8日、被告調査官は原告の事務所に臨場し、応対した戊に対し、消費税申告書を示しながら、このまま本件帳簿等の提示がなければ、消費税について各課税期間の課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「消費税の仕入税額控除」という。)が認められなくなる旨を教示した。

サ 平成9年4月10日、乙調査官は丙税理士に竃話をかけたが、同税理士は不在だった。

シ 平成9年4月14日、被告調査官が原告の事務所に臨場し、戊が応対した。

ス 平成9年4月15日、丙税理士から乙調査官宛に同月7日付の文書が送付された。同文書には、①平成8年12月3日からの原告に対する税務調査については、原告及び丙税理士が12月中多忙を極めているので都合が悪く、平成9年1月以降に延期してほしい旨の意向を伝えていること、②当事者の意向を無視して調査を強行するような非常識な者を相手にできないので、署長と話がしたいこと、③今後、乙調査官が担当する調査は受けられないことなどが記載されていた。

セ 平成9年5月21日、乙調査官は原告に電話をかけ、応対した戊に対し、同月26日の週に平成6年4月期以降の年度の法人税、消費税及び源泉所得税の調査に行くので、本件帳簿等を見せてほしいと依頼した。

ソ 平成9年5月30日午後1時ころ、乙調査官及びB調査官は、原告の事務所に臨場し、丁と面接した。乙調査官は、本件帳簿等の提示がなければ、法人税については青色申告が取り消され特別償却が認められなくなること及び消費税については仕入税額控除が認められなくなることを教示した。

タ 平成9年6月10日、乙調査官は丙税理士に対し電話をかけたが、同税理士が不在だった。

チ 平成9年7月10日、C特別国税調査官(以下「C調査官」という。)及びD国税調査官(以下「D調査官」という。)が、乙調査官及びB調査官から原告に関する調査を引き継いだ。

ツ 平成9年7月28日、C調査官は、原告に電話をかけたところ、丁及び戊は不在であったので、明後日に再度電話すると伝えた。

テ 平成9年7月30日、C調査官が丙税理士に電話をかけたところ、丙税理士は署長からの連絡を要請した。

ト 平成9年8月26日、C調査官は、原告の代表者が同年4月21日付けで丁から長男の甲(以下「甲」という。)に替わったことを把握したことから、甲に調査に対する協力を要請するため、原告に電話をかけたが、甲は不在だった。

ナ 平成9年9月1日、C調査官は、丙税理士に電話をかけ、調査日の調整を依頼した。その後、C調査官は、原告に電話をかけたが甲が不在だったため、甲からC調査官に連絡するよう依頼した。

ニ 平成9年9月18日、C調査官は原告に電話をかけ、同月24日から3日間、税務調査で臨場するので、都合が悪ければ事前に連絡をしてほしい旨伝えた。また、同日、C調査官は、丙税理士にも電話をかけたが、丙税理士は不在だったので、応対した事務員に対し、同月24日から3日間、原告に対する税務調査を行うため原告事務所に臨場する旨を同税理士に伝えるよう依頼した。

ヌ 平成9年9月22日午前8時30分ころ、丙税理士がC調査官に電話をかけたが、同調査官は不在であったため、富士税務署職員のEに対し、原告に対する調査は受けられないとの伝言を依頼した。

ネ 平成9年9月24日、丙税理士からC調査官に対し、同月22日付けの文書が送付された。同文書には、①C調査官との一切の接触を断ること、②被告税務署長と会い、納得のいく説明を聞いた上で調査を受けたいことなどが記載されていた。C調査官は、同文書を見た後、午前10時30分ころ、D調査官と共に原告の事務所に臨場した。これに対し、応対した戊は、丙税理士の立会いなしには、調査に応じられないと述べた。C調査官は、このような状態が続くと調査拒否とみなされ、青色申告の承認が取り消され、青色申告の特典である特別償却等が受けられなくなること及び消費税の仕入税額控除が認められなくなることを教示した。

ノ 平成9年10月31日、C調査官は、原告に電話をかけ、応対した戊に対し、調査日を同年11月5日から7日の3日間としたい旨伝えた。また、C調査官は、丙税理士にも電話をかけたが不在だったため、応対をした女性事務員に対し、原告に対する上記調査日を丙税理士に伝えるように依頼した。

ハ 平成9年11月4日、戊は同月5日からの調査の件についてC調査官に電話をかけた。

ヒ 平成9年11月5日、午後1時25分ころ、C調査官及びD調査官が本件調査のため、原告事務所に臨場し、応対した戊に対し、調査への協力を要請した。

フ 平成10年2月9日午前9時10分ころ、C調査官は、原告に電話をし、応対した戊に対し同月13日午後3時ころ、調査で臨場する旨伝えた。その後、C調査官は、丙税理士に電話をし、応対した女性事務員に対し、同月13日午後3時ころ調査で原告事務所に臨場する旨丙税理士に伝えるように依頼した。

ヘ 平成10年2月10日午前9時ころ、戊からC調査官に電話があり、戊は、同月13日は原告代表者の甲の都合が悪いので調査を受けられないと述べた。

ホ 平成10年2月16日、C調査官は、書留速達により、原告宛てで、調査日時を同月19日午後3時、調査対象事業年度を平成6年5月1日から平成9年4月30日とする「法人税、消費税及び源泉所得税の調査のお知らせ」と題する文書(乙5)を送付した。

マ 平成10年2月18日、原告は、C調査官に対し、文書で同月19日の調査を断る旨通知した。

ミ 平成10年2月19日、甲からC調査官に対し、同月18日付けの文書(乙6)が送付された。同文書には、①同月19日午後3時からの税務調査の通知を受けたこと、②税務調査については丙税理士と話し合うこと、③この件の解決のため、丙税理士は署長に面談したいので、署長から連絡を待っていることなどが記載されていた。C調査官は、同文書を閲読した上、同日午後3時ころ、D調査官とともに原告事務所に臨場した。

(4)  原処分及び不服申立て

ア 本件青色申告承認取消処分

被告は、原告に対し、平成10年4月14日、本件青色申告承認取消処分をした。

イ 法人税の更正処分等

被告は、平成10年4月14日、原告に対し、本件各事業年度の原告の法人税について本件各法人税更正処分を行った。原告が、これに対して異議申立てをしたところ、被告は、平成6年5月1日から平成7年4月30日までの事業年度に係る更正処分に対する異議申立てを棄却し、平成7年5月1日から平成8年4月30日までの事業年度及び平成8年5月1日から平成9年4月30日までの各事業年度に係る更正処分について、平成10年9月10日、それぞれ異議決定(以下「本件各異議決定」という。)をした。

本件各事業年度の本件各法人税更正処分並びに本件各異議決定における所得金額及び納付すべき金額は、別表一2「法人税」の各「更正処分」欄及び「異議決定」欄記載のとおりである。

ウ 消費税の更正処分等

被告は、平成10年4月14日、原告に対し、本件各課税期間の消費税について、本件各消費税更正処分を行うとともに、本件各加算税賦課決定処分を行った。その後、平成8年4月期に係る消費税に関しては、平成10年6月19日、過少申告加算税の額を変更する決定を行った。

原告は、同各更正処分に対して異議申立てを行ったが、被告は、同年9月10日、これらをいずれも棄却した。

本件各消費税更正処分における課税標準額、控除対象仕入税額、納付すべき税額及び本件各加算税賦課決定処分における過少申告加算税額並びに平成8年4月期の消費税に係る過少申告加算税の変更決定における過少申告加算税は、別表一3「消費税」の各「更正処分及び賦課決定処分」欄及び「変更決定処分」欄記載のとおりである。

エ 地方消費税の更正処分等

被告は、平成10年4月14日、原告に対し、平成9年4月期の地方消費税についてそれぞれ更正処分及び賦課決定処分を行った。

原告は、同更正処分及び賦課決定処分に対して異議申立てを行ったが、被告は、平成10年9月10日、これを棄却した。

同更正処分及び賦課決定処分における課税標準となる消費税額、納付譲渡割額及び過少申告加算税の額は、別表一4「地方消費税」の「更正処分及び賦課決定処分」欄記載のとおりである。

オ 審査請求

原告は、平成10年10月9日、国税不服審判所長に対し、アの本件青色申告承認取消処分、イの本件各本業年度の本件各法人税更正処分、ウの平成8年4月期および平成9年4月期の消費税についての各更正処分と平成8年4月期の消費税に係る過少申告加算税の額の変更決定処分及び平成9年4月期の過少申告加算税の賦課決定処分並びにエの平成9年4月期の地方消費税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について、それぞれ審査請求をした。

これに対し、国税不服審判所長は、平成11年10月26日、上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

(5)  被告の主張するイからエの更正処分等の根拠

ア 前提

被告が原告に対してした上記イの本件各法人税更正処分は、いずれもアの原告に対する本件青色申告承認取消処分が適法であることを前提とするものである(なお、本件青色申告承認取消処分の適法性については、争点(1)のとおり争いがある。)。

また、被告が原告に対してした上記ウ及びエの本件各消費税更正処分及び本件各加算税賦課決定処分は、いずれも原告に消費税法30条7項(平成6年法律第109号改正前のもの。以下同じ。)に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」(ただし、平成9年課税期間の同年4月1日から同月30日までの期間については「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」(平成6年法律第109号改正後のもの)の意味で用いる。)に該当し、同法30条1項の消費税の仕入税額控除が適用されないことを前提とするものである(ただし、原告に同法30条7項に規定する事由が存するか否かについては、争点(2)のとおり争いがある。)

イ 平成7年4月期の法人税更正処分の根拠

(ア) 所得金額 3577万7477円

同金額は、別表一2の平成7年4月期の原告の確定申告の金額3526万3977円に、下記aの金額を加算し、bの金額を減算した額である。

a 減価償却超過額の損金不算入額 52万0000円

同金額は、原告が、租税特別措置法(平成9年法律第22号による改正前のもの。以下「措置法」という。)45条の2(中小企業者の機械等の特別償却)第1項に規定する特別償却(以下「中小企業者機械等特別償却」という。)に係る償却費の額として損金に算入していた金額であるが、前記アの前提によると、青色申告を適用要件とする中小企業者機械等特別償却に係る償却費の額52万円は損金の額に算入することはできない。

b 寄付金の損金算入額 6500円

同金額は、原告が法人税の確定申告書に添付した寄付金の損金算入に関する明細書の「所得金額仮計」を基礎に法人税法37条の規定により上記aの金額を加算して寄付金の損金不算入額を再計算した結果、6500円が所得金額に過大に加算されているので、これを寄付金として損金の額に認容した金額である。

(イ) 納付すべき法人税額 1303万0000円

同金額は、下記a及びbの合計額から、法人税法68条に規定する法人税額から控除されるべき所得税の額17万3852円を差し引いた金額(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)である。

a 所得金額に対する法人税額 1265万6375円

同金額は、前記(ア)の所得金額(通則法118条1項により、100円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)に法人税法66条(平成10年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)に定める税率を乗じて計算した金額である。

b 課税留保金額に対する税額 54万7500円

同金額は、原告が法人税の確定申告書に添付した同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書の「留保所得金額」に前記(ア)aの金額を加算して、法人税法67条の規定により課税留保金額に対する税額を再計算した金額である。

ウ 平成8年4月期の法人税更正処分の根拠

(ア) 所得金額 7087円0389円

同金額は、別表一2の平成8年4月期の原告の確定申告の金額5524万9044万に、次のa及びbの金額を加算し、cからeの金額を減算した7087万0389円である。

a 減価償却超過額の損金不算入額 2364万8400円

同金額は、原告が、措置法42条の5(エネルギー需給構造改革推進設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)に規定する特別償却(以下「エネルギー需給構造改革推進設備等特別償却」という。)に係る償却費の額2288万9400円及び中小企業者機械等特別償却に係る償却費の額75万9000円を損金の額に算入していた金額である。しかし、アのとおり平成7年4月期以後の法人税の青色申告の承認が取り消されたことを前提とすると、青色申告を適用要件とするエネルギー需給構造改革推進設備等特別償却に係る償却費の額2288万9400円及び中小企業者機械等特別償却に係る償却費の額75万9000円の合計額2364万8400円は損金の額に算入することはできない。

b 資産に係る控除対象外消費税額の損金不算入額 363万3725円

同金額は、前記アのとおり、原告に対して消費税の仕入税額控除が適用されないことを前提として、後記dで損金に算入した消費税額のうち、法人税法施行令(平成9年政令第17号による改正前のもの。以下同じ。)139条の10(資産に係る控除対象外消費税額の損金算入)の規定により、損金に算入することができない別表二「資産に係る控除対象外消費税額等」1の控除対象外消費税額の合計363万3725円である。

c 減価償却費の当期損金算入額 19万1880円

同金額は、平成7年4月期の減価償却超過額のうち、別表三「減価償却費の当期損金認容額」1のとおり、当期損金として認容する当期償却限度額に達するまでの金額19万1880円である。

d 未払消費税額の損金算入額 1140万4100円

同金額は、前記アのとおり、原告に対して消費税の仕入税額控除が適用されないことを前提にした結果、損金に算入することのできることになる額である。

e 事業税の損金算入額 6万4800円

同金額は、平成7年4月期の法人税の更正処分の所得金額を基礎に法人税基本通達9-5-2の定めにより、地方税法72条の22に規定する標準税率(以下「標準税率」という。)を適用して再計算した事業税の額であり、損金の額に算入する。

(イ) 納付すべき法人税額 2715万3400円

同金額は、次のa及びbの合計額から、法人税法68条が規定する法人税額から控除されるべき所得税の額19万2728円を差し引いた金額である。

a 所得金額に対する法人税額 2581万6250円

同金額は、前記(ア)の所得金額に法人税法66条に定める税率を乗じて計算した金額である。

b 課税留保金額に対する税額 152万9900円

同金額は、原告が法人税の確定申告書に添付した同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書の「留保所得金額」に前記(ア)のaからeの金額を加算又は減算して、法人税法67条の規定により課税留保金額に対する税額を再計算した金額である。

エ 平成9年4月期の法人税更正処分の根拠

(ア) 所得金額 9127万5149円

同金額は、別表一2の平成9年4月期の原告の確定申告の金額8811万1207円に、次のa及びbの金額を加算し、cからeの金額を減算した9127万5149円である。

a 減価償却超過額の損金不算入額 1678万5000円

同金額は、原告が、エネルギー需給構造改革推進設備等特別償却に係る償却費の額1678万5000円を損金の額に算入していた金額である。しかし、アのとおり、原告が平成7年4月期以後の法人税の青色申告の承認を取り消されたことを前提とすると、青色申告を適用要件とするエネルギー需給構造改革推進設備等特別償却に係る償却費の額1678万5000円は損金の額に算入することはできない。

b 資産に係る控除対象外消費税額の損金不算入額 489万0978円

同金額は、前記アのとおり、原告に対して消費税の仕入税額控除が適用されないことを前提に、後期eで損金に算入した消費税額のうち、法人税法施行令139条の10の規定により、損金に算入することができない別表二「資産に係る控除対象外消費税額等」の2の控除対象外消費税額の合計489万0978円である。

c 減価償却費の当期損金算入額 884万7336円

同金額は、平成7年4月期及び平成8年4月期の減価償却超過額のうち、別表三「減価償却費の当期損金認容額」の2のとおり、当期損金として認容する当期償却限度額に達するまでの金額884万7336円である。

d 未払消費税額の損金算入額 769万6400円

同金額は、前記アのとおり、原告に対して消費税の仕入税額控除が適用されないことを前提とした場合に損金に算入することのできる額である。

e 事業税の損金算入額 196万8300円

同金額は、平成8年4月期の法人税の更正処分の所得金額を基礎に法人税基本通達9-5-2の定めにより標準税率を適用して再計算した事業税の額であり、損金の額に算入する。

(イ) 納付すべき法人税額 3521万1500円

同金額は、次のa及びbの合計額から、法人税法68条が規定する法人税額から控除されるべき所得税の額19万4218円を差し引いた金額である。

a 所得金額に対する法人税額 3346万8125円

同金額は、前記(ア)の所得金額に法人税法66条に定める税率を乗じて計算した金額である。

b 課税留保金額に対する税額 193万7600円

同金額は、原告が法人税の確定申告書に添付した同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書の「留保所得金額」に前記(ア)のaからeの金額を加算又は減算して、法人税法67条の規定により課税留保金額に対する税額を再計算した金額である。

オ 平成8年4月期の消費税更正処分の根拠

(ア) 課税標準額 6億6952万5000円

同金額は、原告の修正申告の金額と同額である。

(イ) 課税標準に対する消費税額 2008万5750円

同金額は、原告の修正申告の金額と同額である。

(ウ) 控除対象仕入税額 0円

前記アのとおり、原告に消費税法30条1項の課税仕入れ等の消費税額の控除が適用されないことを前提とする。

(エ) 納付すべき税額 2008万5700円

同金額は、同(イ)から同(ウ)を控除した金額である(ただし、通則法119条1項の規定により、100円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)

カ 平成9年4月期の消費税更正処分の根拠

(ア) 課税標準額 8億0333万7000円

同金額は、原告の修正申告の金額と同額であり、平成9年3月31日以前の取引については、消費税法29条(平成6年法律第109号による改正前のもの)に定める消費税率3パーセントを適用し、同年4月1日以後の取引についての税率は、平成6年法律第109号による改正後の税率4パーセントを適用して算出したものである。平成9年課税期間における消費税の課税標準額は、3パーセントの税率が適用される課税標準額7億3771万9000円と4パーセントの税率が適用される課税標準額6561万8000円の合計額8億0333万7000円である。

(イ) 課税標準に対する消費税額 2475万6290円

同金額は、原告の修正申告の金額と同額であり、平成9年課税期間における消費税額は、税率3パーセントが適用された2213万1570円と税率4パーセントが適用された262万4720円の合計額2475万6290円である。

(ウ) 控除対象仕入税額 0円

前記アのとおり、原告に消費税法30条1項の課税仕入れ等の消費税額の控除を適用されないことを前提とする。

(エ) 納付すべき税額 2475万6200円

同金額は、(イ)から(ウ)を控除した金額であり、平成9年課税期間における納付すべき税額は、税率3パーセントが適用された2213万1570円と税率4パーセントが適用された262万4720円の合計額2475万6200円(ただし、通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

キ 平成9年4月期の地方消費税更正処分の根拠

(ア) 地方消費税の課税標準額となる消費税額 262万4700円

同金額は、地方税法72条の82の規定により、原告の修正申告の金額と同額の消費税法28条(平成6年法律第109号による改正後のもの、平成9年4月1日から同月30日までの課税期間)に基づく課税標準額6561万8000円に消費税法29条(平成6年法律第109号による改正後のもの)に定める税率4パーセントを乗じて算出した消費税額262万4700円(ただし、通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

(イ) 納付譲渡割額 65万6100円

同金額は、前記(ア)の地方消費税の課税標準となる消費税額に地方税法72条の83の規定により地方消費税率100分の25を乗じて算出した金額である(ただし、地方税法附則9条の4第1項及び通則法119条1項の規定により100円未済の端数を切り捨てた後のもの)。

ク 過少申告加算税

本件各消費税更正処分が適法であることを前提とすると、原告は納付すべき税額を過少に申告していたことになり、これについて通則法65条4項に規定する正当な理由も存しない。本件各加算税賦課決定処分は、原告が本件各消費税更正処分により行ったものである(ただし、平成8年課税期間については平成10年6月19日付け過少申告加算税の変更決定処分後のもの)。

2  争点

(1)  本件青色申告承認取消処分の適法性

(被告の主張)

ア 青色申告制度の趣旨

所得税法あるいは法人税法に規定する青色申告の制度は、納税者が自ら所得金額及び税額を計算し自主的に申告して納税する申告納税制度のもとにおいて、適正かつ公平な課税を実現するために不可欠な帳簿等の正確な記帳を推進する目的で設けられたものであって、適式に帳簿書類を備え付けてこれに取引を忠実に記載し、かつこれを保存する者について、当該納税者の申請に基づき、その者が特別の申告書(青色申告書)により申告することを税務署長が承認するものとし、その承認を受けた年分あるいは事業年度以後青色申告書を提出した納税者に対しては、推計課税を認めないなどの課税手続上の特典及び課税標準、税額の計算において種々特典を与えるとともに、青色申告の承認を受けた納税者は、上記特典を受ける前提として法人税に係るものにあっては法人税法施行規則53条ないし59条で定めている帳簿書類を備え付け、記録し、保存すべき義務を負うこととし(法人税法126条1項)、上記保存がない場合には、青色申告の承認は取り消されるものとされている(法人税法127条1項)。

このような青色申告制度の趣旨に照らすと、法人税法126条1項所定の保存の義務とは、青色申告の基礎としての適格性を有する帳簿書類の保存をすべきことをいうものであって、ただ単に帳簿書類が存在すればよいというものではなく、法人税法153条に規定する税務職員の質問検査権が行使された場合、税務職員において閲覧検討し、帳簿書類が青色申告の基礎としての適格性を有するものか否かを判断することができるように、いつでも提示できる状態で保存しておくことを意味するものと解される。

このように、法人税法126条1項の保存とは、税務職員の適法な提示要求に対していつでも提示できる状態で保存しておくという意味を含み、具体的な提示要求に対して正当な理由なく提示を拒否した場合には、法人税法127条1項に規定する青色承認の取消事由に該当するものと解される。

イ 本件青色申告承認取消処分

本件青色申告承認取消処分についてみると、被告調査官らは、平成8年12月3日に原告事務所に最初に臨場してから平成10年2月19日までの間に、本件調査のために計8回原告事務所に臨場し、帳簿書類等の提示要求等を行っている。また、同期間中に、被告調査官らは本件調査のため原告に計10数回の電話連絡及び1回の文書交付、丙税理士に対し計10数回の電話連絡を行い、調査への協力要請及び日程調整に社会通念上相当程度の努力をしている。これらのうち、平成8年12月3日に原告事務所に臨場した際には、被告調査官らは戊に対して法人税の調査で臨場した旨を伝え、さらに同月11日に丁に対して法人税の調査に来たことを伝え、調査に協力するよう要請し、調査を拒否し続けて本件帳簿等の提示がなければ、青色申告の承認を取り消されることがあり得ることを告げている。そして、平成9年4月8日及び平成10年2月19日に原告事務所に臨場した際には戊に対し、平成9年5月30日に原告事務所に臨場した際には丁に対し、それぞれ同旨の説明をして、調査に協力するよう要請している。

かかる期間における、被告調査官らの丁、戊等に対する対応、丁及び戊の被告調査官らに対する応対等を考慮すると、原告は青色申告に係る帳簿書類の備付け、記載又は保存が法人税法126条1項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないというべきであり、これが法人税法127条1項1号所定の青色申告承認の取消事由に該当することは明らかである。

なお、上記帳簿書類の提示要請については、丙税理士の立会いのもと行われたものではないが、税理士の立会いは質問検査権の行使に当たっての要件とはされておらず、また、被告調査官らは再三再四にわたって丙税理士に対し本件調査への協力を要請しており、それにもかかわらず、丙税理士が本件調査への協力を拒否し続けていたのであって、本件調査における帳簿書類等の提示要請が丙税理士の立会いのもと行われたものではないとしても、そのことをもって、本件調査における帳簿書類等の提示要請が不当な提示要請となるものではない。

したがって、本件青色申告承認取消処分は適法である。

ウ 原告の主張に対する反論

(ア) 原告は、被告が青色申告に係る帳簿書類等の提示を求めたとする平成9年9月24日、同年11月5日、平成10年2月19日は未だ調査に入っていない段階のものであり、原告としては帳簿書類等の提示を求められていない旨主張する。

ところで、税務職員による調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念であること、同法がその方法、時期等の具体的手続についてなんら規定していないことからすると、その方法、時期、範囲に関しては、課税庁に広範な裁量権が認められているものと解される。

本件においては、被告調査官らは、原告事務所に8回臨場し、その都度原告の代表者である丁や甲、または原告の役員である戊に対して、調査日程の調査、帳簿書類の提示要請及び青色申告の承認の取消事由の説明を繰り返し行っていることからしても、調査の着手があったことは明らかであり、原告の主張には理由がない。

(イ) また、原告は、仮に被告調査官らが調査のために原告事務所に臨場したとしても、本件調査は、丙税理士の立会いを認めず、税務代理権を侵害した違法な調査であるから、原告が帳簿書類を提示しなかったことには正当な理由がある旨主張する。

しかし、そもそも、原告の主張する上記税務代理権の具体的内容は必ずしも明らかでないし、仮にこれを認めるとしても、被告調査官らは、本件調査を進めるに当たって、平成8年11月21日に電話で調査日に関して事前に通知をしており、また、その後の調査においても、何度となく丙税理士に対して本件調査への協力を求め、円滑に本件調査を遂行しようと試みたにもかかわらず、丙税理士が本件調査への立会いに応じなかったものであって、本件調査が丙税理士の立会いを認めずに行われたものでないことは明らかであるから、被告に何ら非難される所為はなく、原告のかかる主張は失当である。

(原告の主張)

ア 法人税法127条1項は、青色申告承認の取消事由として、「帳簿の備付け、記録、又は保存」が大蔵省令の定めるところに従って行われていないことを挙げている。これは、客観的に帳簿書類の備付け、記録、又は保存がなされていないことを意味するのであって、税務調査においてそれらが確認できたかどうかとは無関係である。

ここにいう帳簿書類の「備付け、記録、又は保存」の概念は、明らかに税務調査における帳簿書類の「提示」とは異なる概念であり、仮に税務調査において適法な帳簿書類の提示要求に対して正当な理由なく帳簿書類の提示拒否が行われていたとしても、その後の青色申告承認取消処分の取消しを求める不服申立て又は訴訟段階において帳簿書類の備付け、記録又は保存を主張することを禁止する趣旨であると解することはできず、これらの主張立証が認められれば、帳簿書類の備付け、記録又は保存がなされているものとして当該青色申告承認取消処分を取り消すべきである。

原告は、昭和56年に法人化する以前から青色申告の承認を受けており、昭和57年に税務調査を受けて以来、ほぼ3年ごとに繰り返し税務調査を受けているが、その都度帳簿書類等の保存は確認されている。これらの帳簿は、丙税理士が仕訳してコンピューターに入力して作成しており、これに基づいて法人の決算を行い、法人税及び消費税の申告手続も行っている。原告は、これらを整理して原告事務所に保管している。

しかも、下記イのとおり、被告の質問調査権の行使は違法であり、原告には被告調査官らに対する本件帳簿等の提示拒否について正当な理由があるから、本件青色申告承認取消処分は違法であって取り消されるべきである。

イ 税務代理権の侵害

税務調査における質問検査の範囲、程度、時期、場所等実体法上特段の定めのない実施細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべきである。

本件では、まず、平成8年12月3日から同月5日までの税務調査について、丙税理士が、自身及び原告代表者の都合が悪いことを理由に明確に断ったにもかかわらず、被告調査官らは原告事務所に臨場し、調査を強行しようとしているし、同月11日に被告調査官らが原告事務所に臨場した際も、原告は事前に都合が悪いと断っているにもかかわらず(丙税理士には連絡もなかった。)、調査を強行しようとしている。これに対して、原告は、同月15日に前記2期日において被告調査官らが調査を強行しようとしたことに抗議し、今後税理士立会いの上でなければ調査を受けられない旨書簡をもって被告に申し入れているが、被告はこれに何ら回答していない。

このような被告の応対は、原告の私的利益を無視し、丙税理士の税務代理権を侵害するものであって違法であり、また、これらの被告の対応からすると、原告が調査を受けなかったことには正当な理由があるというべきである。

ウ 税務調査の未着手

被告は、平成9年9月24日、同年11月5日、平成10年2月19日の3回にわたり青色申告に係る帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、原告がこれらの書類等を提示しなかったことを本件青色申告承認取消処分の理由としている。

しかし、上記各期日の原告事務所への臨場は、税務調査のためのものではなく、また、原告は本件帳簿等の提示も求められていないから、この段階では被告は未だ税務調査に着手していないと認められる。

したがって、被告のした本件青色申告承認取消処分は理由がなく違法である。

(2)  本件各消費税更正処分及び本件各加算税賦課決定処分の適法性

(被告の主張)

ア 仕入税額控除制度の趣旨

消費税法30条1項は、事業者が課税仕入れ等を行った場合には、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から、その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額の合計額を控除する旨規定している。この規定は、消費税が、同法6条により非課税としたものを除き、国内において事業者が行った資産の譲渡等に対して広く課税されることから、取引の各段階で課税された税負担が累積することを防止するため、納税義務を負担する事業者が納付すべき消費税額から前段階の取引に係る消費税額を控除することとしたものである。

他方、消費税法30条7項は、消費税の仕入税額控除に係る帳簿等を保存しない場合には、同条1項の規定を適用しない旨規定している。したがって、消費税法の上記各規定からすれば、消費税の仕入税額控除が認められるためには、①課税仕入れ等に係る消費税額が真実存在するとともに、②法定の事項を記載した仕入税額控除に係る帳簿等を納税者が保存していることが必要であることは法文上明らかであり、②は、課税庁が、税務調査において、課税仕入れの事実の真実性と正確性を確認する手段として、納税者から仕入税額控除に係る帳簿等の提示を受け得る機会を担保し、質問調査権を実行あらしめようとする趣旨と解される。

イ 消費税法30条7項にいう「保存」の意義

帳簿等の保存を仕入税額控除の要件とした趣旨に照らせば、被告は、消費税の調査に当たり、質問検査権を行使して、①課税仕入れ等に係る帳簿等が保存されているか否か及び②上記帳簿等の記載が真実の課税仕入れ等に係る消費税額に合致するか否かを調査する権限を有するとともに上記権限を適正に行使する職責を負っているのであるから、上記調査の結果、仕入税額控除に係る帳簿等が保存されていることを確認するに至らなかったときは、上記①の要件を欠くものとして仕入税額控除を否認した処分をせざるを得ず、かつ、これを踏まえれば、同法30条7項にいう「保存」とは、「納税者が税務職員の質問検査に応じていつでもこれを提示し、税務職員の閲覧に供せられる状態で保存しておく」という趣旨を当然に含むものと解すべきであって、単に帳簿等を物理的に保存しておくだけでは足りず、税務職員による適法な提示要求に対して、その帳簿等の保存の有無及び記載内容を確認し得る状態に置くことを意味するものであり、このような意味における「保存」がないときは消費税の仕入税額控除を認めることができないものと解するのが相当である。

そして、消費税法30条7項にいう「保存」の意義が、単なる物理的な保存に止まらず、税務職員による適法な提示要求に対して、帳簿等の保存の有無及びその記載内容を確認しうる状態に置くことを含む趣旨であるとすれば、事業者が調査確認の権限及び職責を負う税務職員の適法な提示要求に従わなかった時点において帳簿等を保存していなかったものと認められることになるから、税務調査において、税務職員から納税者に対して適法な帳簿等の提示要求がされ、これに対して、納税者が正当な理由なくして帳簿等の提示を拒否したという事実が存する場合には、たとえ、後の不服申立手続又は訴訟手続において当該納税者が帳簿等を提示したとしても、これによって仕入税額の控除を認めることはできないというべきである。

ウ 本件各消費税等更正処分の適法性

前記(1)(被告の主張)イのとおり、本件調査は適法に行われたものであり、被告調査官らは、原告に対して再三再四にわたり仕入税額控除に係る本件帳簿等の提示を求め、上記帳簿の提示がない場合には消費税の仕入税額控除は認められない旨教示したにもかかわらず、原告は、何ら正当な事由がないのに、調査に応じることさえしなかった。これは、消費税法30条7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当することになるから、原告には同法30条1項の消費税の仕入税額控除が適用されないというべきである。

なお、前記(1)(被告の主張)イのとおり、上記帳簿書類の提示要請については、丙税理士の立会いのもと行われたものではないが、そのことをもって、本件調査における帳簿書類等の提示要請が不当な提示要請となるものではない。

したがって、本件各消費税更正処分に違法な点はない。

エ 原告は、被告による税務調査は未着手の段階であり、本件帳簿等の提示も要求されていない旨主張するが、この主張に理由がないことについては、前記(1)(被告の主張)ウ(ア)のとおりである。

また、原告は、本件調査において本件調査の担当職員から適法に本件帳簿等の提示要求がされ、原告がそれに応じなかったとしても、本件においては、被告調査官らの本件調査に税務代理権の侵害があり、本件帳簿等の提示要求に応じなかったことについての正当な理由があるから、消費税の仕入税額控除について本件帳簿等を「保存しない場合」には該当しない旨主張するが、本件調査において、原告が本件帳簿等を提示しなかったことについて正当な理由がないことは前記(1)(被告の主張)ウ(イ)のとおりである。

(原告の主張)

ア 消費税法30条7項にいう「保存」の意義

消費税法においては、「保存」と「提示」とが明確に区別されており、同項の「保存」に「提示」を含むという解釈は成り立ち得ないというべきであるから、消費税法30条7項にいう「保存」とは、納税者が法令の定めるところに従って、帳簿書類、請求書等を客観的に保持、管理等していることをいうと解すべきである。

そして、「提示」は「保存」を証明するための一手段にすぎず、「提示」がなされない場合であっても「保存」している場合はあり得るのであるから、税務調査において帳簿等を提示しない事実をもって、同項の帳簿等を「保存しない場合」に該当すると解するべきではなく、同事実は、帳簿等を保存していないこと推認させる間接事実にすぎないと解される。

そもそも、税務職員の質問検査における帳簿書類、請求書等の適法な提示要請に対する納税者の正当理由のない提示拒否は手続的な違法であり、これについては消費税法68条1項による罰則が定められているのであるから、これを適用すれば十分である。提示拒否という手続違反を実体的規定である同法30条7項の効力に関わらしめる特別な規定は存在しないのであるから、提示拒否は実体には影響を及ぼさないというべきである。

かかる解釈に基づくと、税務調査において帳簿等の提示がないという事実は、帳簿等を「保存しない場合」であることを推認させる間接事実であり、その後の不服申立手続や訴訟手続において、帳簿等の存在を主張し、これを証拠として提出することにより、同項にいう帳簿等を「保存しない楊合」に該当しないという主張立証(反証)をすることは許されるというべきである。

イ 原告は、昭和56年に法人化する以前から青色申告の承認を受けており、昭和57年に税務調査を受付て以来、ほぼ3年ごとに繰り返し税務調査を受けているが、その都度帳簿書類等の保存は確認されている。

これらの帳簿は、丙税理士が仕訳してコンピューターに入力して作成しており、これに基づいて法人の決算を行い、法人税及び消費税の申告手続も行っている。原告は、これらを整理して原告事務所に保管している。

これに対し、被告調査官らの税務調査には下記ウのとおりの違法がある。また、下記エのとおり、被告調査官らは原告事務所に何度も臨場したが、その都度原告に対して本件帳簿の提示を求めるところまで話し合いが進展せずに帰任しているのであって、原告は、本件帳簿等を提示しようとすればいつでも提示できる場所に保管していたが、被告調査官らが税務調査に着手できなかったために、これらを閲覧するに至らなかったものであり、原告には、税務調査時において、消費税法30条7項にいう「保存しない場合」に該当する事実はない。

ウ 税務代理権の侵害

本件では、前記(1)(原告の主張)イのとおり、被告の税務調査に丙税理士の税務代理権を侵害する違法があり、被告の対応からすると、原告が調査を受けなかったことには正当な理由があるというべきであるから、本件帳簿等の提示を拒否したことを理由とする本件各消費税更正処分及び本件各加算税賦課決定処分は違法である。

エ 税務調査の未着手

前記(1)(原告の主張)ウのとおり、被告による平成9年9月24日、同年11月5日及び平成10年2月19日の原告事務所への臨場は、税務調査のためのものとは認められず、原告は本件帳簿等の提示も求められていない。したがって、この段階では被告は未だ税務調査に着手していないというべきであるから、これにより原告が本件帳簿等の「保存をしない場合」に該当するとした被告の本件各消費税更正処分は違法というべきである。

第3争点に対する判断

1  原処分に至る経緯

証拠(甲15、甲32、甲33、乙2から6、乙12、乙13、証人戊、同丙、同乙、同C。ただし、各証人については以下の認定事実に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  平成8年11月21日

午前11時20分から11時30分ころの間、乙調査官は、丙税理士に電話をかけ、同年12月3日から同月5日までの3日間、原告の税務調査をしたい旨申し入れた。これに対し、丙税理士は、原告の都合を聞いて折り返し乙調査官に回答する旨答えた。丙税理士が原告事務所に電話をかけ、応対した戊に同月3日から同月5日の原告の都合を聞いたところ、戊は同期間は丁の都合が悪い旨答えた。丙税理士は、乙調査官に折り返し電話をかけ、原告も丙税理士も同月3日から同月5日は都合が悪いことを伝えるとともに、年内は丙税理士自身も原告も忙しいので、調査は平成9年1月以降にしてほしいと要望した。しかし、その時点で具体的な調査日程の調整は行われなかった。

同日午後、乙調査官は、原告に電話をかけ、応対した戊に対し、同年12月3日から同月5日までの3日間、原告の税務調査をしたい旨連絡した。戊は、乙調査官に対して調査は受けられないと返事をして電話を切り、乙調査官から電話があったことを丙税理士に伝えた。

丙税理士は、これを聞いて乙調査官に電話で抗議し、乙調査官の調査は今後受けられないと述べた。

(2)  同月22日

午前8時45分から50分ころ、乙調査官は、本件調査の調査日として予定した同年12月3日から同月5日の3日間についての丁の都合を確認するため原告に電話をかけたところ、丁は不在であり、戊が電話の応対をした。戊は、乙調査官に対し、丁に税務調査の予定があることを伝えたところ、丁から、同日は忙しく、後の調査日程について丙税理士と相談してほしい旨伝言があったことを述べた。

(3)  同年12月3日

午前10時30分から11時ころ、乙調査官及びB調査官が、原告事務所に臨場し、丁との面会を求めた。丁は仕事で遠方に出張しており不在であったため、応対した戊に所属及び氏名を名乗り、身分証明書及び質問検査章を示して、法人税、消費税等の調査に来た旨を告げた。戊は、忙しいと丙税理士を通じて断ってある、税務のことは丙税理士に任せてあると言い、丙税理士にその場で電話をかけた。戊が電話を乙調査官に替わると、丙税理士は乙調査官に対して、事前に断っているにもかかわらず調査に臨場したことに抗議し、相手の意向を無視した勝手な行動はチンピラややくざのすることである、とにかく帰ってもらいたい、乙調査官は相手にできない、署長と話をしたいので署長から連絡するようにと述べた。

乙調査官及びB調査官は、乙調査官がその電話を終えた後、同日はこれ以上進展を図ることが出来ないと判断し、同月11日を次回の調査日として予定しているので、そのことを丁に伝え、丁の都合を確認して電話をかけてもらいたい旨戊に依頼して、午前11時30分ころ原告事務所を辞去した。

(4)  同月6日

午後1時ころ、乙調査官は、原告に電話をかけ、応対した戊に対し、同月11日の調査予定日の都合について丁から電話をしてほしい旨伝えた。

丁は、乙調査官に電話をかけたが、乙調査官は不在であった。そこで、丁は、被告職員に対し、同月11日は丁の都合が悪い旨乙調査官に伝言してほしいと依頼した。

(5)  同月11日

午前11時50分ころ、乙調査官及びB調査官が原告の事務所に臨場した。丁は不在であったため戊が応対し、同日の調査は同月6日に電話で断っているはずだと述べた。その後、丁が帰宅したため、乙調査官及びB調査官は、所属及び氏名を名乗り、身分証明書及び質問検査証を示して原告の法人税、消費税等の調査で臨場した旨告げて、調査への協力を依頼した。丁は、乙調査官に対し、税務のことは分からないので丙税理士立会いの下でお願いしたいと言った。

乙調査官及びB調査官は、調査日程を検討して連絡をするよう依頼して、正午ころに原告事務所を辞去した。

(6)  原告は、同月15日付けで、乙調査官に対して文書を送付し、同月3日及び11日の税務調査のための臨場について、事前に断っているにもかかわらず調査を強行したことに抗議し、今後税理士立会の上でなければ調査を受けられないとして、調査の打ち合わせはすべて税理士としてほしい、また、直接原告に対し接触しないでほしいと要求した。

(7)  平成9年1月7日から9日、同年2月3日

乙調査官は、同年1月7日及び8日、調査日程を調整するために丙税理士に電話をかけたが、丙税理士は不在だった。そこで、応対した事務員に対し、丙税理士から乙調査官に電話してほしい旨の伝言を依頼した。

同月9日、乙調査官は再度丙税理士に電話をしたが、丙税理士は不在だったので、応対した事務員に丙税理士から乙調査官に対して電話をしてほしい旨伝言を依頼すると、同事務員は、丙税理士が署長からの電話を希望している旨伝えた。乙調査官は、これに対して、署長が丙税理士に電話することはない旨返答した。

同年2月3日午前9時ころ、乙調査官が丙税理士に電話をかけたところ、丙税理士は不在であり、乙調査官は、応対した事務員に対し、丙税理士から電話をしてほしい旨伝えた。

(8)  同年4月1日

乙調査官が、調査日程の調整のために原告に電話をかけたところ、丁は不在であり戊が応対した。戊は、丙税理士と連絡を取ってほしいと伝えた。

その後、戊は、丙税理士に電話をかけたが、丙税理士は不在だったので、応対した事務員に対して乙調査官から電話があった旨の伝言を依頼した。

乙調査官もまた丙税理士に電話をかけたが、丙税理士が不在だったため、応対した事務員に対して、原告と調査日程を調整して連絡してほしい旨の伝言を依頼した。

(9)  同月2日

午後1時15分ころ、乙調査官は調査日程の調整のため、原告に電話をかけたが、丁が不在だったため、戊が応対した。乙調査官は、戊に対し、丁と調査日程を調整して電話連絡をしてほしいと依頼した。

(10)  同月8日

午後3時頃、乙調査官とB調査官は原告事務所に臨場した。原告事務所では戊が応対した。乙調査官は、消費税申告書及び法人税申告書別表の特別償却の付表を示しながら、このまま本件帳簿等の提示がなければ、消費税について各課税期間の消費税の仕入税額控除が認められなくなり、法人税については青色申告承認が取り消され、その結果特別償却ができなくなることがあり得る旨を教示して、調査への協力を依頼した。

戊は、税務のことは丙税理士に任せてあるので、丙税理士を通してほしいと述べた。

乙調査官及びB調査官は、同日はこれ以上の進展が望めないと判断し、戊に丙税理士と次回調査の日程を調整して連絡してほしいと依頼して、午後3時30分ころ原告事務所を辞去した。

(11)  同月10日

乙調査官は丙税理士に電話をかけたが、同税理士が不在だったため、応対した事務員に対し、乙調査官に電話してほしい旨再度依頼した。

(12)  同月14日

同日午後、乙調査官とB調査官が原告事務所に臨場して、本件帳簿等の提出をして調査への協力をするよう求めた。戊は、乙調査官に対し、丙税理士が今週(4月14日の週)中に税務署に何らかの対応をする旨伝えた。乙調査官は、戊に対して同月8日にしたのと同様の教示をして、調査の日程を調整してほしい旨伝えて原告事務所を辞去した。

(13)  同月15日

丙税理士から乙調査官宛に同月7日付けの文書が送付された。同文書には、平成8年12月3日からの原告に対する税務調査について、原告及び丙税理士がその期間都合が悪く、また、12月中多忙を極めているので調査を1月以降にしてほしいと伝えていたはずであるとの抗議と、今後乙調査官の調査は受けられないので署長に伝えてほしいとの要請、署長と話をしたいから署長から連絡をするようお願いしたはずであること、税務調査を拒否しているわけではないことなどが記載されていた。

(14)  同年5月21日

午後3時40分から45分ころ、乙調査官は原告に電話をかけ、応対した戊に対し、同月26日の週に法人税、消費税及び源泉所得税の調査に伺うので、本件帳簿等を見せてほしいと依頼した。これに対し、戊は本件帳簿等は丙税理士に預けてある旨答えた。

(15)  同月30日

午後1時ころ、乙調査官及びB調査官が原告の事務所に臨場し、丁と面接し、本件帳簿等の提示がなければ、法人税については青色申告が取り消され特別償却が認められなくなること及び消費税については仕入税額控除が認められなくなることを教示して、原告の協力を求めた。これに対し、丁は、税務のことは丙税理士に任せてある、調査については丙税理士と日程を調整して決めてほしいと述べた。そこで、乙調査官は、同日はこれ以上の進展は望めないと考え、午後2時ころ、原告事務所を辞去した。

(16)  同年6月10日

午後3時ころ、乙調査官は丙税理士に対して電話をかけたが、同税理士は不在だった。そこで、乙調査官は、応対した事務員に対し、原告の本件帳簿の提示がなければ、青色申告承認の取消しや消費税の仕入税額控除が認められなくなる可能性があるということを伝言するよう依頼した。

(17)  同年7月1O日

C調査官及びD調査官が、乙調査官及びB調査官から原告に関する調査を引き継いだ。

(18)  同月28日

C調査官は、原告に電話をかけた。応対した丁の次男Fが丁及び戊は不在である旨述べたので、C調査官は、同月30日に再度電話すると伝えた。

(19)  同月30日

午前9時15分ころ、C調査官が原告に電話をかけたところ、丁は不在であり、戊が応対した。C調査官は、戊に対し、人事異動により担当が乙調査官からC調査官に替わったことを告げ、同年8月18日から同月20日まで税務調査を予定しているので協力してほしい旨要請した。これに対し、戊は、丙税理士と相談してほしい旨述べた。

その後、C調査官は丙税理士に電話をかけ、担当が乙調査官からC調査官に替わったことを述べた。C調査官が原告の税務調査の話に入ろうとすると、丙税理士は、C調査官に対して、原告側の意向は同年4月7日付けの文書のとおりである旨述べて、とにかく署長と会いたいので連絡がほしいと要請し、具体的な調査の話には進展しなかった。

なお、C調査官は、同年8月18日から予定していた原告の税務調査は実施しなかった。

(20)  同年8月26日

C調査官は、原告の代表者が同年4月21日付けで丁から甲に替わったことを把握したことから、同日午後2時ころ、甲に調査の協力を要請するため、原告に電話をかけたが、甲は不在だった。C調査官は、応対した戊に対し、調査の件で相談したいので、甲からC調査官に電話を入れてほしい旨要請した。これに対し、戊は、丙税理士の立会いがなければ調査は受けられない、丙税理士と調査日程を打ち合わせてほしいと答えた。

(21)  同年9月1日

午前10時ころ、C調査官は、丙税理士に電話をかけ、調査日の調整を依頼した。丙税理士は、署長に電話を替わるよう要請して署長からの説明を求め、署長の説明がなければ調査は受けられない旨述べた。これに対し、C調査官は、原告の調査を行うつもりである旨丙税理士に告げて電話を終えた。

同日午前11時25分ころ、C調査官が原告に電話をかけたところ、戊が応対した。C調査官は、丙税理士と電話で話をしたが進展しない、ついては甲と調査日程を相談したいと話した。戊は、C調査官に対し、丙税理士と日程を決めてほしい旨要請した。

(22)  同月18日

午前8時45分ころ、C調査官は原告に電話をかけ、応対した戊に対し、同月24日から3日間、税務調査で臨場するので、都合が悪ければ事前に連絡がほしい旨伝えた。

また、同日、C調査官は、丙税理士に電話をかけたが、丙税理士は不在だったので、応対した事務員に対し、同月24日から3日間、原告に対する税務調査を行うため原告事務所に臨場する旨を丙税理士に伝えるよう依頼した。

(23)  同月22日

午前8時30分ころ、丙税理士がC調査官に電話をかけたが、同調査官は不在であった。そこで、丙税理士は、富士税務署職員のEに対し、原告に対する調査は受けられない旨C調査官へ伝言するよう依頼した。

(24)  同月24日

丙税理士からC調査官に対し、同月22日付けの文書が送付された。同文書には、原告の意向は乙調査官に伝えたとおりであり、その線に従わない限り調査は受けられないこと、署長と会い納得のいく説明を受けた上で調査を受けたいことなどが記載されていた。

C調査官は、同文書を見た後、午前10時30分ころ、D調査官と共に原告の事務所に臨場した。甲は不在であったため、戊が応対した。C調査官及びD調査官は、戊に対し、所属及び氏名を名乗り、身分証明書及び質問検査証を提示した。その上で、C調査官が戊に原告の法人税、消費税等の調査で臨場した旨を告げ、帳簿書類等を提示して調査に協力してほしいと求めたが、戊は、丙税理士の立会いの上で調査を受けたいので、丙税理士と日程を調整してほしい旨延べ、帳簿書類等の提示には至らなかった。C調査官は、戊に対して、このような状態が続くと調査拒否とみなされ、青色申告の承認が取り消され、青色申告の特典である特別償却等が受けられなくなること及び消費税の仕入税額控除が認められなくなることを教示した。

C調査官は、同日これ以上調査への協力を要請しても進展がないと考え、原告事務所を辞去した。

(25)  同年10月31日

C調査官は、原告に電話をかけ応対した戊に対し、調査日を同年11月5日から7日の3日間としたい旨伝えた。

また、C調査官は、丙税理士にも電話をかけたが不在だったため、応対をした女性事務員に対し、原告に対する上記調査日を丙税理士に伝えるように依頼した。これに対し、丙税理士は以前に文書で申入れをしており、丙税理士の考えは伝えていたことから、特に応答しなかった。

(26)  同年11月4日

同月5日からの調査の件で戊からC調査官に電話があった。戊は、同月5日は甲も丙税理士も立ち会うことができないと述べた上、一度丙税理士に電話をしてほしいと言った。そこで、C調査官は丙税理士に電話をかけたが、丙税理士は不在であったので、応対した事務員に対し、C調査官に電話をしてほしい旨の伝言を依頼した。

(27)  同月5日

午後1時15分ころ、C調査官とD調査官が原告事務所に臨場した。原告事務所では甲は不在であり、戊が応対した。C調査官は、戊に対し、原告の法人税、消費税及び源泉所得税の調査のために臨場したことを告げ、平成6年4月以降の帳簿書類の提示を求め、調査への協力を要請した。

これに対し、戊は丙税理士と話し合ってほしいと述べ、帳簿書類等の提示をしなかった。そこで、C調査官は、原告がこのまま帳簿書類の提示をせず、調査をさせてもらえない状況が続くと、青色申告承認が取り消され、青色申告の特典である特別償却が認められなくなることや、消費税の仕入税額控除が認められなくなり、法人税及び消費税を更正することになる旨を教示したが、戊は調査に応じる様子はなかった。

C調査官及びD調査官は、これ以上原告事務所に滞在しても進展はないと考え、午後2時45分ころ、原告事務所を辞去した。

(28)  平成10年2月9日

午前9時10分ころ、C調査官は、原告に電話をかけ、応対した戊に対し、同月13日午後3時ころ、調査のために臨場する旨伝えた。戊は、C調査官に対し、丙税理士に連絡してほしいと述べた。

その直後、C調査官は、丙税理士に電話をしたところ、丙税理士は、C調査官に対し、C調査官との接触は断っている、署長から電話してほしい旨述べた。

C調査官は同日午後再び丙税理士に電話をかけ、応対した事務員に対し、同月13日午後3時ころ調査で原告事務所に臨場する旨丙税理士に伝言するよう依頼した。

(29)  同月10日

午前9時ころ、戊からC調査官に電話があり、同月13日は、原告代表者の甲の都合が悪いので調査を受けられない、丙税理士と話し合ってほしいと述べた。

(30)  同月16日

C調査官は、原告宛てで書留速達により調査日時を同月19日午後3時、調査対象事業年度を平成6年5月1日から平成9年4月30日とする「法人税、消費税及び源泉所得税の調査のお知らせ」と題する文書を送付した。

(31)  同月19日

甲からC調査官に対し、同月18日付けの文書が送付された。同文書には、同月19日午後3時からの税務調査の通知を受けたが調査を受けることができないこと、税務調査については丙税理士と話し合ってほしいこと、この件の解決のため、丙税理士は署長との面談を希望しており、署長から丙税理士に連絡してほしいことなどが記載されていた。

C調査官は、同文書を閲読した上、同日午後3時ころ、D調査官とともに原告事務所に臨場した。原告事務所では甲が不在であり、戊が応対した。C調査官は戊に調査に来た旨告げ、調査への協力を要請した。戊はC調査官に対し、甲から手紙で調査に応じられないと断ってあるにもかかわらず調査に臨場するのはおかしい、すべて丙税理士に任せてある、丙税理士の立会いなしでは調査を受けられない旨申し立てた。C調査官は、戊に対し、調査拒否をすれば青色申告承認の取消し等がされることになり、特別償却が認められなくなること、消費税の仕入税額控除ができなくなることなどを教示して戊の理解を求め、甲が戻るまで待たせてほしい旨申し向けたが、戊から帰ってほしい旨要請されたので、調査協力を得られる見込みはないと判断し、午後3時30分ころ原告事務所を辞去した。

(32)  同年4月14日

被告は、原告に対し、同日付けで、本件青色申告承認取消処分、本件各法人税更正処分、本件各消費税更正処分及び本件各加算税賦課決定処分を行い、それぞれの通知書を当日付けで原告に送付した。

(33)  同年6月19日

また、被告は、原告に対し、同日付けで平成8年4月期の消費税の加算税(再更正後のもの)の賦課決定通知書を発送した。

以上の事実が認められ、証人戊、同丙、同乙及び同Cの証言のうち、上記認定事実に反する部分は前掲の証拠(同人の証言は除く。)に照らし、採用できない。

2  争点(1)(本件青色申告承認取消処分の適法性)について

(1)  青色申告制度は、税務署長が、帳簿書類を正確に記録、保存している納税義務者に対して青色申告書による申告を承認し、青色申告書を提出した納税者に対しては納税手続上及び所得計算上の特典を与え、これにより申告納税制度のもとにおいて正確な帳簿書類を基礎として納税申告を行うことを奨励するものである。法人税法127条1項1号は、当該事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が同法126条1項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないことを青色申告承認の取消事由と規定しているが、前記の青色申告制度の趣旨からすると、同法127条1項1号にいう「保存」とは、帳簿書類等が単に存在しているということだけではなく、法令の規定する期間を通じて、定められた場所において税務職員による適法な質問検査権に基づく納税者に対する税務調査により、直ちにその内容を確認することができる状態、換言すれば、適法な提示要請があれば直ちにこれを提示できる状態での保存を意味するというべきである。

そして、この意味での保存の有無は、課税処分の段階に限らず、不服審査又は訴訟の段階においても、主張、立証することが許されるものというべきであるが、税務調査において、税務職員が納税者に対し社会通念上当然に要求される程度の努力を行って、適法に帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、合理的な理由もなく納税者がこれに応じないなどの事情が認められる場合には、納税者は、そもそも帳簿書類等を保管していないか、又はそれらを何らかの形で保管していても、少なくとも以上のような意味での保存がなかったとの推定が強く働くものと解すべきである。

(2)  そこで、本件において、原告に上記意味における本件帳簿等の保存があったといえるか否かについて検討する。

ア 前記認定事実のとおり、本件では、被告調査官らは、平成8年12月3日、同月11日、平成9年4月8日、同月14日、同年5月30日、同年9月24日、同年11月5日及び平成10年2月19日の計8回、原告事務所に臨場し、帳簿書類等の提示を求めるなど調査への協力を求め(そのうち、後記のとおり、平成9年4月8日、同月14日及び同年5月30日の臨場以外については、事前に原告に調査予定を通知している。)、また、被告調査官らは、原告事務所に臨場した際又は原告事務所に電話した際に、帳簿書類等の提示がなされない状態が続くと、調査拒否とみなされ、青色申告の承認が取り消され、その結果青色申告の特典である特別償却等が受けられなくなったり、消費税の仕入税額控除が認められなくなる可能性があることを再三教示して、調査への協力を促している。また、被告調査官らは何度となく原告事務所又は丙税理士の事務所に電話をかけて、調査日程を自ら調整しようとしたり、原告と丙税理士とで調査の日程を調整してほしい旨依頼している。

以上の事実及び後記イのとおり本件調査が被告調査官らにより適法に行われたことを考慮すると、被告調査官らは、社会通念上当然に要求される程度の努力は尽くしたものということができる。

他方、前記認定事実によれば、以上の被告調査官らの対応にもかかわらず、原告は、被告調査官らの本件帳簿等の提示要求に応じようとはせず、被告調査官らが具体的な調査予定日を挙げて調査の協力を求めても都合が悪いため調査に応じられないと返答するのみであり、被告調査官らからの具体的な調査予定日を断るに当たり、調査日程を調整しようとしたり、被告調査官らから原告と丙税理士との間で調査日程を調整して連絡してほしいとの要請に回答するなどの措置をとっていないと認められ、また、被告調査官から、原告や丙税理士に対し、調査日程の調整のため電話をしてほしい旨の伝言を受けても、これに対して何ら積極的な応答をしていないと認められる。

このような本件調査の経緯をみると、本件調査を進めていた当時において、原告が本件各事業年度に係る本件帳簿等を少なくとも前記説示の意味において保存していなかったという事実が強く推認されるというべきである。

イ 原告は、本件帳簿等については、整理した上、提示しようとすればいつでも提示することができる状態で原告事務所に保管している旨主張し、被告調査官らが結果として本件帳簿等の閲覧に至らなかったのは、被告調査官らによる不当な調査の強要が繰り返され、原告及び丙税理士が再三抗議して事態の解決を図ろうとしたのに、被告がそれに対する応対を怠ったことが原因であるとする。この点につき、原告が本訴において本件帳簿等を書証として提出する準備をしていたことは当裁判所に顕著な事実であり、弁論の全趣旨によれば、本件帳簿等が本訴において書証として提出できる状態であったことについては被告も争わないものと認められる。

確かに、前記認定事実のとおり、平成8年12月3日に予定していた原告の調査については、原告及び丙税理士が事前に乙調査官に都合が悪い旨連絡し、平成9年1月以降の調査を希望していたにもかかわらず、被告調査官らが原告事務所に臨場したこと、同月11日予定の調査についても、被告調査官は、丙税理士には直接事前連絡をせず、原告には事前に告知したものの都合が悪い旨申入れがあったのに、あえて原告事務所に臨場したことが認められ、その結果、原告及び丙税理士と被告調査官らとの間の信頼関係にほころびが生じ、その後の円滑な調査を困難にした面があることは否定し難いところである。

しかし、前記のとおり、乙調査官は、その後丙税理士に何度も電話をかけて調査日程を調整しようと試み、また原告事務所にも連絡して調査日程を調整しようとするなどしたことや、担当調査官が乙調査官からC調査官に替わってからも、C調査官は、前記のとおり丙税理士及び原告に何度も電話をかけて調査日程の調整を試みていた事実が認められ、これによれば、被告調査官らは、信頼関係の回復及び調査の円滑な進行のための手段を講じていたことが認められる。それにもかかわらず、前記認定事実によれば、丙税理士はあくまで署長との面談や署長による説明を求め、これがない限り被告の調査は拒否するという姿勢をとり、被告調査官から電話があっても具体的な日程調整には入らず、また、被告調査官から電話がほしい旨の伝言を受けても日程調整に向けた応答を何らしなかったと認められる。また、原告も、被告調査官らが電話で調査期日の調整を求め、あるいは直接原告事務所に臨場して、本件帳簿等の提示がない場合の不利益などを説明しながら調査の協力を依頼しているにもかかわらず、丙税理士の姿勢を知りながら、被告調査官らに丙税理士との協議を求めるのみで、自ら丙税理士と日程調整をするなどの行為には及んでいないと認められる。原告は、被告調査官らが、原告及び丙税理士の都合が悪いと通知しているにもかかわらず直接原告事務所に臨場したことについて、丙税理士の税務代理権を侵害した違法行為である旨主張するが、後記ウのとおり、被告調査官らの税務調査の手続には違法があるとはいえないというべきである。むしろ前記のような事情によれば、少なくとも平成9年9月24日以降に被告調査官らが原告事務所に臨場したことについては、丙税理士が明確に被告調査官らの調査に協力しない姿勢を示しており、丙税理士立会いの上で調査を行うことが困難であることから、直接原告の調査に対する姿勢を確認し、本件帳簿等の提示に協力することを求め、本件青色申告承認取消処分、本件各消費税更正処分等を回避する機会を与えるためになされた措置の面もあると解される。

以上によれば、原告が被告調査官らの対応を理由として本件帳簿等を提示しなかったことについて正当な理由があるとは認められず、これらの事情を総合して考慮すると、本件帳簿等が本訴において書証として提出できる状態であり、したがって、本件調査の当時、原告が本件帳簿等を何らかの状態で所持していたものであるといえるとしても、少なくともそれが前記判示の意味での保存がなかったとの推定が覆るものではないというべきである。

ウ なお、原告は、本件における被告の調査は、丙税理士の税務代理権を侵害する違法な調査である旨主張するので、以下この点について検討する。

税務調査による質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解される(最判平成5年3月11日訟月40巻2号305頁参照)。

原告は、まず、原告及び丙税理士が被告に対して調査予定日の都合が悪い旨連絡しているにもかかわらず臨場した点を指摘する。確かに、平成8年12月3日及び同月11日の臨場については、前記認定事実のとおり、被告調査官が事前に原告及び丙税理士の都合が悪いことを承知しながら原告事務所に臨場したことが認められ、その当否については疑問もないではない。しかし、上記両日の臨場の際にも、被告調査官らは原告の協力が得られないと察するや、無理な調査を強行しようとはせずに原告事務所を辞去しているのであり、この点を考慮すれば、被告調査官らの調査の手続に税務職員としての裁量権を逸脱した違法があるとは認められない。

また、平成9年4月8日、同月14日及び同年5月30日の臨場については、被告調査官らは事前に原告及び丙税理士に調査の予定を連絡していないが、前記認定事実によれば、このころまでに、原告から丙税理士を通じて連絡してほしい旨の文書が送付されていたこと、乙調査官が丙税理士に電話をして調査日程を依頼しても、丙税理士から何ら連絡のない状況が続いていたことが認められ、このような事情の下においては、被告調査官らが原告及び丙税理士に事前の通知をすることなく臨場したとしても、これが税務職員の裁量権を逸脱する違法な調査とまでは認めらない。

さらに、平成9年9月24日以降の臨場については、前記認定事実によれば、原告又は丙税理士から事前に都合が悪い旨の連絡はあったことが認められるが、他方、この時期に至るまでの間に、丙税理士は署長の説明があるまでは調査は受けられないと明言し、原告においても被告調査官らが日程調整を依頼しているにもかかわらず、これに対して何ら積極的な対応をせず、調査に応じる姿勢を示さなかったという事情が認められるのであるから、このような事情の下においては、被告調査官らが原告事務所に臨場したことが税務職員の裁量権を逸脱した行為であるとは認められない。

以上によれば、被告調査官らの原告に対する税務調査に違法はないというべきである。原告は、丙税理士の税務代理権の侵害をいうが、被告による税務調査が上記のとおり適法に行われていること、丙税理士は、被告調査官らから再三にわたり電話連絡を受けるなど、税務調査に関与する機会を得ているにもかかわらず、署長からの説明に固執し、原告と日程調整をしようとするなどの行為を行わなかったことなどを考慮すると、丙税理士に税務代理権が認められるとしても、その侵害があったとは認められない。

エ また、原告は、被告調査官らは原告事務所に臨場しているが、未だ税務調査に着手していないとの主張もする。

しかし、本件では、前記認定事実のとおり、被告調査害らは、原告事務所に8回臨場しており、平成8年12月3日及び同月11日の臨場においては、原告に税務調査で臨場した旨告げて、調査への協力を求め、平成9年4月8日、同月14日及び同年5月30日の臨場においては、原告に本件帳簿等の提示がなかった場合の不利益等を教示して調査への協力を求めている。また、同年9月24日及び同年11月5日に原告事務所に臨場した際には、戊に対して税務調査に来た旨告げて、本件帳簿等の提示を求め、平成10年2月19日に原告事務所に臨場した際にも、戊に対して税務調査に来た旨告げ、調査への協力を要請していることが認められる。

以上の事実によれば、被告が税務調査に着手していることは明らかであり、原告の主張には理由がない。

(3)  以上によれば、原告には、法人税法127条1項1号にいう青色申告承認の取消事由があるというべきであるから、本件青色申告承認取消処分に違法はない。そして、本件各法人税更正処分についても、前提となる本件青色申告承認取消処分に違法がなく、他に違法な点は認められない。

3  争点(2)(本件各消費税更正処分及び本件各加算税賦課決定処分の適法性)について

(1)  消費税法30条1項は、事業者の仕入れに係る消費税額の控除を規定するが、同規定は、同法6条により非課税とされるものを除き、国内において事業者が行った資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう。同法2条1項8号)に対して、広く消費税を課税する結果、取引の各段階で課税されて税負担が累積することを防止するため、前段階の取引に係る消費税額を控除することとしたものである。

そして、大量反復性を有する消費税の申告及び課税処分において、迅速かつ正確に、課税仕入れの存否を確認し、課税仕入れに係る適正な消費税額を把握するために、同法30条7項は、当該課税期間の課税仕入れに係る帳簿書類又は請求書等を保存しない場合には、同条1項による仕入税額控除の規定を適用しないものとしているが、この帳簿書類、請求書等の保存について、法の委任を受けた消費税法施行令50条1項が保存年限を税務当局において課税権限を行使しうる最長期限である7年間とし、保存場所を納税地等に限定し、その整理を要求していることからすれば、消費税法及び同法施行令は、主として課税仕入れに係る消費税額の調査、確認を行うための資料として帳簿書類又は請求書等の保存を義務づけ、その保存を欠く課税仕入れに係る消費税額については仕入税額控除をしないこととしたものと解される。

かかる趣旨に照らせば、消費税法30条7項に規定する「保存」とは、帳簿書類等が単に存在しているということだけではなく、法令の規定する期間を通じて、定められた場所において税務職員による適法な質問検査権に基づく納税者に対する税務調査により、直ちにその内容を確認することができる状態、換言すれば、適法な提示要請があれば直ちにこれを提示できる状態での保存を意味するというべきである。

そして、この意味での保存の有無は、課税処分の段階に限らず、不服審査又は訴訟の段階においても、主張、立証することが許されるものというべきであるが、税務調査において、税務職員が納税者に対し社会通念上当然に要求される程度の努力を行って、適法に帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、合理的な理由もなく納税者がこれに応じないなどの事情が認められる場合には、納税者は、そもそも帳簿書類等を保管していないか、又はそれらを何らかの形で保管していても、少なくとも以上のような意味での保存がなかったとの推定が強く働くものと解すべきである。

(2)  そこで、本件において、原告に上記意味における本件帳簿等の保存があったといえるか否かについて検討する。

前記認定事実の本件調査の経緯に鑑みると、前記2(2)アにおいて説示したとおり、本件調査を進めていた当時において、原告が本件各課税期間に係る本件帳簿等を少なくとも前記説示の意味において保存していなかったという事実が強く推認されるというべきである。

原告は、本件帳簿等については、整理した上、提示しようとすればいつでも提示することができる状態で原告事務所に保管している旨主張し、被告調査官らが結果として本件帳簿等の閲覧に至らなかったのは、被告調査官らによる不当な調査の強要が繰り返され、原告及び丙税理士が再三抗議して事態の解決を図ろうとしたのに、被告がそれに対する応対を怠ったことが原因であるとするが、この点については、前記2(2)イにおいて説示したとおり、原告が被告調査官らの対応を理由として本件帳簿等を提示しなかったことについて正当な理由があるとは認められないし、本件調査の経緯を総合して考慮すると、本件帳簿等が本訴において書証として提出できる状態であり、したがって、本件調査の当時、原告が本件帳簿等を何らかの状態で所持していたものであるといえるとしても、少なくともそれが前記判示の意味での保存がなかったとの推定が覆るものではないというべきである。

また、原告は、本件における被告の調査は、丙税理士の税務代理権を侵害する違法な調査であるという主張や、被告調査官らは原告事務所に臨場しているが未だ税務調査に着手していないなどの主張もするが、これらの点については、前記2(2)ウ及びエにおいて説示したとおり、原告の主張には理由がないといわざるを得ない。

(3)  以上によれば、原告には、本件各課税期間の消費税について、消費税法30条7項による仕入税額控除の適用が認められないというべきである。また、その他、本件各消費税更正処分及び本件各加算税賦課決定処分に違法があるとは認められない。

4  結語

よって、原告の請求はいずれも理由がないことに帰するから、原告の本訴請求はこれをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官 三輪恭子 裁判官 棚澤高志)

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例