静岡地方裁判所 平成13年(わ)650号 判決 2001年12月17日
主文
被告人甲を懲役1年6月及び罰金100万円に,被告人乙を懲役1年2月及び罰金100万円に処する。
被告人両名において,その罰金を完納することができないときは,各金5000円を1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置する。
被告人両名に対し,この裁判が確定した日から各3年間,それぞれその懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人両名は,静岡県浜松市a町b番地のc所在のキャバレー「A」をBとともに経営するものであるが,同人と共謀の上,別表記載(略)のとおり,平成13年3月21日から同年8月23日までの間,同店において,興行の在留資格で本邦に在留し,在留資格の変更を受けていないフィリピン共和国の国籍を有するCほか15名をして,ホステスとして報酬を受ける活動に従事させ,もって,事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせた。
(量刑事情)
本件は,被告人両名らが,その経営するフィリピンパブにおいて,フィリピン人女性多数を在留資格外のホステスとして稼働させたという不法就労助長の事案である。被告人甲は,現職の警察官であったが,自らの警察官としての将来に対する諦めもあって,金儲けの手段としてフィリピンパブの経営を思い立ち,行きつけの寿司店経営者である被告人乙にその旨打ち明けたところ,同被告人も多額な借金返済のためにフィリピンパブの経営を考えていたためその申し出に応じ,資金提供者として共犯者Bを誘うなどし,本件犯行に至ったというのであって,その利欲のみに基づく動機,経緯には何ら酌量の余地はない。不法就労外国人の増大は我が国の出入国管理制度の根幹を揺るがすものであり,入管法73条の2第1項は不法就労外国人の吸引力又は推進力となっている雇用主等の不法な役割を果たす者を処罰するとしているところ,被告人両名は,約5か月の間に,在留資格が興行に過ぎないフィリピン人女性16名に対し,専らホステスとして報酬を受ける活動に従事させており,前記法の趣旨を大きく踏みにじった。また,本件犯行は,その企図がなされるや,店舗の賃借・改装,フィリピン人ホステスやスタッフの採用,営業システムの構築等,積極的かつ周到な準備の上で実行に移されており,確定的犯意に基づく計画性の高いものである。その結果,被告人両名は,開業資金として各500万円ずつを拠出したものの,開業後ほどなくしたころから本件パブの売上が伸び,それぞれ230万円ずつの利益配分を受けており,本件摘発が遅れれば,当初の目論見どおりに更に多額な利益を収めていたと窺われる。なお,弁護人は,本件は,現職の警察官が関与したことが主たる理由で異例の摘発を受け,不当に重い処罰を求められている旨主張するが,本件事案の内容に鑑みれば到底採用できない独自の見解である。
被告人甲は,フィリピンパブの経営を企てて共犯者らを犯行に誘い込み,その開業準備や営業活動において,極めて積極的かつ主導的な役割を果たしており,本件犯行はまさに被告人甲なしでは実現しえなかった。また,被告人甲が現職の警察官であったことや,元暴力団幹部で覚せい剤取締法違反の前科があり,同事犯の捜査協力者にもなっていたBにまで資金拠出を持ち掛けて共犯者に誘い込んだことなどを併せ考えると,その立場を弁えない節度のなさや規範意識の低下は強く非難されなければならない。さらに,本件によって警察の威信,信用が貶められたことも見過ごしにできない。
被告人乙は,元々フィリピンパブの経営を考えていたため,被告人甲の誘いを渡りに船と応じ,現職警察官が加担した本件犯行において重要な役割を果たした上,本件パブの売上金を管理する中で,前記230万円の利益配分以外にも自己の借金返済等に約200万円を流用している。
これらの点からすると,被告人両名の刑責はいずれも重い。
しかし,被告人両名は,犯行を素直に認めるなどして反省改悛の情を示していること,本件パブは既に廃業されていること,被告人甲の交際女性や被告人乙の妻が情状証人として出廷し,各被告人の更生に助力を約していること,外国人による在留資格外の不法就労については一般に違法性の認識に甘い面があるのは否めない事実であること,被告人甲は,前科前歴がないこと,警察官として長らく公務に精励してきたが,本件発覚によって懲戒免職に付され,事件がマスコミに大きく報道されるなどの社会的制裁を受けたこと,被告人乙は,10年以上前の賭博罪による罰金前科2犯があるだけでその余の前科はなく,今回が初めての公判請求であること,正業に就いていたことなど,酌むべき事情もある。
そこで,以上の諸事情を総合考慮すると,主文の刑が相当である。
(求刑 被告人甲 懲役1年6月 罰金100万円,被告人乙 懲役1年2月 罰金100万円)
(裁判長裁判官 姉川博之 裁判官 大熊一之 裁判官 平手一男)