静岡地方裁判所 平成13年(わ)850号 判決 2002年2月07日
主文
被告人を懲役2年に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1Aと共謀の上,株式会社B及び株式会社Cが有する商標の使用に関し,何ら権限がないのに
1 平成11年4月上旬ころから同年5月中旬ころまでの間,被告人が,静岡県清水市a町b番c号D商店において,株式会社Bが指定商品装身具,その他本類に属する商品(旧指定商品区分第21類)として登録を受けた商標である「ADABAT」の文字(登録年月日,平成1年12月25日,商標登録番号2197414号)及び指定商品かばん類等(指定商品区分第18類)として登録を受けた商標である犬図形(登録年月日,平成7年8月31日,商標登録番号3072281号)と類似する商標をかたどった布地を布生地に貼り付け,Aが同市d町e番地のfの同人方で同布生地をバッグ1個に仕立てた上,平成11年5月中旬ころ,D商店において,Eに対し,同バッグを代金5000円で販売譲渡し,もって株式会社Bが有する商標権を侵害し
2 同年6月中旬ころ,被告人が,D商店において,株式会社Bが指定商品フェルト及び不織布等(指定商品区分第24類)として登録を受けた商標である犬図形(登録年月日,平成8年5月31日,商標登録番号3153657号)と類似する商標をかたどった布地を布生地1枚に貼り付けた上,平成11年6月下旬ころ,同店において,Fに対し,同布生地を代金約3000円で販売譲渡し,もって株式会社Bが有する商標権を侵害し
3 平成12年2月中旬ころから同年5月下旬ころまでの間,被告人が,D商店において,株式会社Bが指定商品被服等(旧指定商品区分第17類)として登録を受けた商標である「ADABAT」の文字(登録年月日,平成1年8月31日,商標登録番号2162499号)及び指定商品被服等(指定商品区分第25類)として登録を受けた商標である犬図形(登録年月日,平成8年5月31日,商標登録番号3152982号)と類似する商標のマーキングシートを布生地に貼り付け,Aが前記同人方において同布生地をベスト1着に仕立てた上,平成12年5月下旬ころ,D商店において,Gに対し,同ベストを代金約1万5000円で販売譲渡し,もって株式会社Bが有する商標権を侵害し
4 平成13年4月中旬ころから同年5月下旬ころまでの間,被告人が,D商店において,株式会社Cが指定商品被服等(指定商品区分第25類)として登録を受けた商標である「SHONANBO」の文字(登録年月日,平成8年9月30日,商標登録番号3202441号)及びSHONAN DUKEの頭部正面向きの絵柄(登録年月日,平成12年6月2日,商標登録番号第4389093号)と類似する商標を布生地に刺繍し,Aが前記同人方において同布生地をベスト2着に仕立てた上,平成13年5月下旬ころ,D商店において,Hに対し,同ベスト2着を代金合計約2万2000円で販売譲渡し,もって株式会社Cが有する商標権を侵害し
第2I及び株式会社Bが有する商標権の使用に関し,何ら権限もないのに
1 平成11年10月下旬ころ,D商店において,Iが指定商品織物等(指定商品区分第24類)として登録を受けた商標である「adidas」の文字(登録年月日、昭和60年3月25日、商標登録番号第1499855号)と類似する商標を布生地1枚に刺繍するなどし、平成11年11月上旬ころ、同店において、Jに対し、同布生地を代金約4900円で販売譲渡し,もってIが有する商標権を侵害し
2 平成13年6月上旬ころ,D商店において株式会社Bが指定商品メリヤス生地等(指定商品区分第24類)として登録を受けた商標である「adabaT」の文字(登録年月日,平成13年1月12日,商標登録番号4445240号)及び犬図形(登録年月日,平成8年5月31日,商標登録番号第3153657号)と類似する商標を布生地1枚に刺繍するなどし,平成13年6月上旬ころ,同店において,Kに対し,同布生地を代金約2200円で販売譲渡し,もって株式会社Bが有する商標権を侵害し
たものである。
(量刑の理由)
本件は,いわゆる偽ブランド商品の製造及び販売により登録商標権を侵害したという事案である。被告人は,自社が販売する布生地等に有名ブランドの商標を貼り付けるなどして,自社商品の価値を高めるとともにその販売数を拡大し,専ら自己の経済的利益を追求しようとしたものであり,その安易かつ身勝手な動機に酌むべき事情はない。また被告人は,平成5,6年ころから継続的に偽ブランド商品の製造及び販売を敢行してきたのに加え,平成11年5月ころからは,新たに導入したパソコンや高額なコンピューター刺繍ミシンを駆使して,多数の登録商標をより精確に模造してきたものであり,その犯行は極めて計画的かつ職業的であり犯情悪質である。実際被告人は,平成11年7月27日以降,偽ブランド品の受注により,約220万円もの代金を得たものであって,各商標権者に与えた損害も決して少額とはいえない。そうすると,商標権,著作権等の無体財産権が極めて重要な財産的価値を有する現在の流通取引社会において,被告人の刑事責任は重いと言わざるを得ない。
しかし,被告人は,捜査段階から一貫して犯行を素直に認めるなど反省改悛の情を示していること,被告人には前科がないこと,被告人の妻が情状証人として出廷し被告人の指導監督を誓っていること,すでに新聞報道等により被告人及びD商店の信用が相当程度低下するなどの社会的・経済的制裁を受けていることなど,被告人のために酌むべき事情もある。
そこで,以上の諸事情を総合考慮すると,主文の刑が相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役2年)
(裁判官 篠原康治)