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静岡地方裁判所 平成13年(ワ)892号 判決 2004年5月20日

両事件原告

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上記原告ら訴訟代理人弁護士

大橋昭夫

阿部浩基

久保田和之

宮崎孝子

池田剛志

甲事件被告

株式会社静岡フジカラー

同代表者代表清算人

乙事件被告

株式会社フジカラー三島

同代表者代表取締役

甲事件被告

フジカラー販売株式会社訴訟承継人株式会社フジカラーイメージングサービス

同代表者代表取締役

被告ら訴訟代理人弁護士

高井伸夫

岡芹健夫

山本幸夫

三上安雄

大山圭介

片山由美子

橋本吉文

廣上精一

市川裕史

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  甲事件

(1)  原告らが被告株式会社静岡フジカラーに対し,労働契約上の権利を有することを確認する。

(2)  被告株式会社静岡フジカラーは,原告らに対し,別紙原告一覧表<省略>「請求賃金」欄記載の各金員,及び平成13年11月16日以降毎月25日限り同一覧表「月額平均賃金」欄記載の各金員,並びに同一覧表「請求賃金」欄記載の各金員に対しては本訴状送達の日の翌日から各支払済みまで,同一覧表「月額平均賃金」欄記載の各金員に対しては各支払日の翌日から支払済みまで,各年6分の割合による金員を支払え。

(3)  被告株式会社フジカラーイメージングサービスは,原告らに対し,各330万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  (2)(3)について仮執行宣言

2  乙事件

(1)  原告らが被告株式会社フジカラー三島に対し,労働契約上の権利を有することを確認する。

(2)  被告株式会社フジカラー三島は,原告らに対し,別紙原告一覧表「請求賃金」欄記載の各金員,及び平成13年11月16日以降毎月25日限り同一覧表「月額平均賃金」欄記載の各金員,並びに同一覧表「請求賃金」欄記載の各金員に対しては本訴状送達の日の翌日から支払済みまで,同一覧表「月額平均賃金」欄記載の各金員に対しては各支払日の翌日から支払済みまで,各年6分の割合による金員を支払え。

(3)  (2)について仮執行宣言

第2  事案の概要

1  本件は,甲事件被告株式会社静岡フジカラー(以下「被告静岡フジカラー」という。)が,営業の全部を乙事件被告株式会社フジカラー三島(以下「被告フジカラー三島」という。)に譲渡して解散したことに伴い,被告静岡フジカラーに勤務していた原告らを解雇したことから,原告らが,この解雇が不当労働行為または解雇権の濫用により無効であるとして,被告静岡フジカラー及び被告フジカラー三島に対し,労働契約上の地位確認及び未払賃金の支払いを求め,被告静岡フジカラー及び被告フジカラー三島の親会社である甲事件被告株式会社フジカラーイメージングサービス(以下,承継前の商号を略して「被告フジカラー販売」という。)に対し,上記の違法な営業譲渡契約を締結させたとして不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。

2  争いのない事実

(1)  当事者

被告静岡フジカラーは,カラーフィルム及び各種フィルムの現像処理等を営業目的とする資本金2000万円の株式会社であり,昭和38年10月25日,富士フイルム株式会社のカラー写真部門全国サービスの一環として富士天然色写真株式会社が全額出資して設立された。昭和40年4月21日,被告静岡フジカラーの株式が被告フジカラー販売にすべて譲渡され,被告静岡フジカラーは,被告フジカラー販売の100%子会社となった。

被告フジカラー三島は,昭和44年6月,被告静岡フジカラーから分離独立して設立された会社で,被告フジカラー販売が株式の83.3%を保有しており,被告フジカラー三島も被告フジカラー販売の子会社である。

原告らは,被告静岡フジカラーの従業員であったものであり,化学一般労連東海本部フジカラー労働組合(以下「組合」という。)の組合員である。

(2)  被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島は,平成12年12月26日,平成13年3月20日をもって,被告フジカラー三島に対し被告静岡フジカラーの営業全部の譲渡を行う旨の営業譲渡契約を締結した(以下「本件営業譲渡」という。)。

(3)  解雇の意思表示

被告静岡フジカラーは,平成13年2月17日,原告らに対し,平成13年3月20日付で原告らとの間の雇用契約を解約(解雇)する旨の意思表示をした(以下,この解雇を「本件解雇」という。)。本件解雇通知では,解雇理由として,就業規則44条1項(6)の「事業の縮小その他止むを得ない業務の都合によるとき」が挙げられていた。

(4)  会社解散・営業譲渡・就労拒否

被告静岡フジカラーは,平成13年3月20日,その営業の全部を被告フジカラー三島に譲渡し,会社解散をした。そして,被告静岡フジカラーは,原告らが労務を提供しようとしているのに対し,あらかじめ同月21日以降の就労を拒否し,賃金の支払いをしない。

第3  主たる争点

1  被告静岡フジカラーのした本件解雇は無効か(解散決議無効,不当労働行為,整理解雇の要件欠如,労働協約違反が認められるか。)。

2  被告フジカラー三島に労働契約が承継されるか(営業譲渡契約が経営主体の変更を伴わない場合ないしは実質的同一性がある場合,譲渡元での解雇が無効なら,譲渡先に労働契約が承継されるか,本件営業譲渡契約中の労働者に関する条項が無効となるか。)。

3  被告フジカラー販売の不法行為責任は認められるか。

第4  当事者の主張<省略>

第5  裁判所の認定した事実経過(前記争いのない事実及び末尾記載の各証拠<省略>によって認定した。)

1  被告静岡フジカラーと組合の設立

昭和38年10月25日,被告静岡フジカラーが設立された。当時はカラーフィルムが普及しつつあった時期であり,写真専門店ではカラーフィルムの現像・プリントができなかったことから,これらを請負う総合ラボが各メーカー系列ごとに全国に設立されており,被告静岡フジカラーもその一環として設立されたものであった(<証拠省略>)。

昭和42年10月,残業代の支給をめぐる紛争をきっかけに,組合が結成された(<証拠省略>)。昭和44年7月,組合は,夏季一時金の支払いや非組合員に対するタクシー券利用の優遇策をめぐってストライキを行い,これに対し,被告静岡フジカラーは,同年8月14日,組合の三役を懲戒解雇処分に付した。この紛争は,組合側が,静岡地方裁判所に対する地位保全仮処分申請や静岡地方労働委員会に対する不当労働行為救済の申立を行った結果,同年10月13日,被告静岡フジカラーが上記三役の解雇を撤回し,組合に対し10万円の解決金を支払うとの内容で解決した(<証拠省略>)。

その後も組合は,賃金改定等の要求を行っていたが,昭和60年ころまではラボ業界の成長が続いており,被告静岡フジカラーでも昭和53年には累積赤字を一掃するなど業績が好調であったため(<証拠省略>),組合からの要求に応えることができ,昭和51年2月1日には,被告静岡フジカラーと組合が組合の広範な権利を認めた労働協約(<証拠省略>)を締結するなど,労使関係は比較的円満に推移した(<証拠省略>)。なお,その結果,被告静岡フジカラー従業員の賃金水準などの労働条件はフジカラー系列の総合ラボの中でも高水準となっていった(<証拠省略>)。

2  ミニラボの普及等

昭和50年代後半ころには,写真のカラー化が飽和状態に達したため,ラボ業界の成長が鈍化するようになったと言われ始めた。また,そのころから,写真店以外の現像・プリントの取次店が増加し,価格競争が次第に激化していったことも,総合ラボの売上減少要因となった。さらに,昭和50年代後半から写真店向けのミニラボが発売されるようになり,昭和60年末ころには,フジカラー系列でも写真店向けのミニラボが初めて発売されたが,ミニラボの普及により,写真店は総合ラボに依頼せずにカラー写真の現像を行うことができるようになったので,総合ラボ業界の現像・プリントの売上は昭和60年がピークで以後は減少に転じるようになった。被告静岡フジカラーでは売上の増加は平成5年まで続いていたが,昭和60年ころから主要取引先がミニラボを導入するようになったため,昭和60年ころには減益傾向が生じるようになった(<証拠省略>)。

3  A社長の就任

(1)  被告静岡フジカラーの代表取締役社長は,昭和47年1月21日以降Jであったが,昭和60年4月,同社長が胸部解離性動脈瘤と診断されて入院したので,同年5月16日,Aが社長代行に就任し,同年8月15日,正式に代表取締役社長に就任した(<証拠省略>)。このA社長に対して,組合は,同社長就任の第一の目的は組合の排除及び弱体化にあるとして警戒感を持っていた(<証拠省略>)。

(2)  A社長は,社長代行就任直後の同年6月21日,中期経営計画を策定したが,同計画では,被告静岡フジカラーのテリトリーを,西は榛原郡(浜松市もテリトリーとされている。),東は沼津市までとし,ミニラボの拡散,新映像の進出などの外部環境の変化に対応して,競争力を強化し,目標売上高を確保することなどを示していた(<証拠省略>)。

(3)  さらに,被告静岡フジカラーは,同年11月30日,組合に対し,労働協約の改訂を申し入れた。被告静岡フジカラーが改訂を求めた内容は,労働協約の適用範囲の縮小,転勤異動にあたり組合に協議等を求める範囲の縮小,経営上の都合による解雇などの解雇事由を定めること,団体交渉委員の制限,争議活動中の就労可能な会社要員の拡大,休憩時間,休日の変更,賃金体系の変更など労働協約の全般にわたっていた(<証拠省略>)。これに対し,組合も労働協約改訂案を提出し(<証拠省略>),両者の間で協議が続けられたが,労働協約の改訂の合意には至らず,被告静岡フジカラーと組合は,昭和61年7月7日,双方の提出した労働協約改訂案をそれぞれ取り下げた(<証拠省略>)。ただし,被告静岡フジカラーと組合は,5月1日のメーデーでの就業体制,繁忙期の休日振替えについての協議(<証拠省略>)など,労働協約改訂協議で問題となった事項の一部については合意に達した。また,被告静岡フジカラーと組合は,前同日,労使交渉の窓口を一本化し,現実的な積み上げで問題解決を図るという覚え書きを締結し(<証拠省略>),同年11月22日には,同年12月16日より交替制による夜間プリント処理の勤務体制を実施すること,時差交替手当を支給することなどを取り決め,具体的な人員などは改めて協議の上決定することとした(<証拠省略>)。

(4)  組合の行うストライキについては,J前社長の時代の昭和59年にもスト通告が行な(ママ)われていたが(<証拠省略>),平成2年7月17日,組合は,夏季一時金についての会社回答に不満を表明し,実際にストライキを実行した(<証拠省略>)。これに対し,被告静岡フジカラーは,ストライキ期間中の取引先への対応,集配,現像処理,警備(構内のビデオ撮影,警察・公安への連絡等)などについての対策を立て,ストライキ中には,管理職等により業務を遂行した(<証拠省略>)。

4  被告静岡フジカラーの売上減少と労使の対応

(1)  前記のとおり,ミニラボの普及などにより,被告静岡フジカラーの営業の主要部分を占める自社処理製品(現像及びプリント。以下「自社品」ともいう。)の売上は,第29期(平成3年7月から平成4年6月)をピークとして減少に転じ,総売上も第30期(平成4年7月から平成5年6月)が最高で減少に転じた(<証拠省略>)。

(2)  このような売上減少に対し,被告静岡フジカラーは,固定費を削減するため,平成5年7月から社長5%,取締役4%の役員報酬カットを行い,さらに平成7年1月からは社長10%,取締役7%にカット率を増加するとともに,管理職の賃金カット(平成7年2月より3%から2%)を行った(<証拠省略>)。また,平成5年8月から退職者の補充を行わず,以後は後記の日本色彩の統合時を除いて,正社員の採用はなかったし,組合の協力を得ることができなかったので,主として非組合員の退職,出向により人員削減を図った(<証拠省略>)。さらに,固定費を削減するため,平成6年4月20日,組合に対し,月曜日の実労働時間を延長して残業を減少させること,時差勤務体制を縮小することを申し入れたところ,この年には組合からの回答がなくて協議はまとまらなかったものの,翌平成7年2月10日,再度,時差勤務の一時中止,月曜日の実労働時間延長などを申し入れた結果,同年7月3日,時差勤務の一時中止,フィルム現像及びペットプリント(家庭用サービスプリント)担当者の勤務時間の変更等について協定を締結するに至った(<証拠省略>)。また,平成8年8月から,固定費削減のため,組合との間で,出向規定を労働協約に盛り込むための協議を開始したが,これは合意には至らなかった(<証拠省略>)。なお,平成9年10月8日にも従業員4名の出向または配転等の提案を行っている(<証拠省略>)。

(3)  このような経緯のなか,平成6年の夏季一時金交渉は,組合が一時金の回答が2か月にも達していないことに不満を表明し,非組合員・管理職の賃金の公表と経営内容の公開を強く求めたため難航し,6回の団体交渉を行ったものの,8月に入っても妥結に至らなかった。そこで,被告静岡フジカラーは,夏季一時金の支給が遅くなりすぎているとして,非組合員に対してのみ,同年8月10日に夏季一時金の支払いをした。これに対し組合は,非組合員のみに対する夏季一時金の支払いが不当労働行為にあたるとして静岡地方労働委員会に対してあっせんの申立をしたが,同年12月16日,双方の主張を確認して議事録に記載し,被告静岡フジカラーが組合に対して解決金10万円と会社回答額の夏季一時金を支払うことで解決した(<証拠省略>)。

(4)  平成8年3月8日,組合は例年どおり春闘の賃金改定要求をした(<証拠省略>)が,同月21日,被告静岡フジカラーは,会社の赤字体質が変わらず,固定費削減が必要なので,賃金改定は不可能であるとゼロ回答をした(<証拠省略>)。他方で,同月13日,被告静岡フジカラーは組合に対し,同年4月1日付で原告X5のフォトシステムグループ主任兼務を解き,テクニカルサービスグループ主任専任とする等の人事を発令すると通知するとともに,生産性向上,固定費削減等のための配置転換,出向に関する協議の申し入れをし,同年4月1日付で原告X5に関する上記人事を発令した(<証拠省略>)。これに対し,組合は,団体交渉において,賃上交渉をまず決着させ,その後に人事問題を協議すべきであると主張し,上記人事は組合と協議をしないで発令されたものであるから組合預かりとするとして,人事辞令書を返却した(<証拠省略>)。なお,これまで原告X5について平成3年から複数の部署の兼務辞令を発していたが,明確な反対はなかった(<証拠省略>)。そこで,被告静岡フジカラーは,組合が人事異動に異議を述べる理由を示さないとして,同月16日,原告X5に対し,4月1日付の人事異動の辞令を送付した(<証拠省略>)。そのため,春闘の交渉は決裂し,組合は,同年5月8日から10日までストライキを行ったが,5月10日,被告静岡フジカラーと組合は,労使が相互の理解と信頼の下に会社の再建を実現するとの合意を結んで賃金改定について妥結し,同月29日,組合は原告X5がテクニカルサービスグループ主任専任となる人事について了承した(<証拠省略>)。

(5)  この平成8年から平成9年初めにかけて,被告静岡フジカラーから従業員ないしは組合に対し,会社の業績などについて次のような情報提供と協力依頼がされた。すなわち,平成8年5月30日,被告静岡フジカラーの経営推進室が,現像・プリントの減少により粗利益が前年に比べて大幅にダウンしているとして,人件費削減のため時間外労働を削減するように関係各部署に通知した(<証拠省略>)。また,会社と組合で構成される経営協議会でも,上記同日に開催の同協議会で配布された資料中に,売上減少が大きく,人件費削減を実現する必要があるので,配置転換等により10名以上の人員削減,残業時間の削減,希望退職者の募集等が検討されていることが記載されていた(<証拠省略>)。さらに,組合からの賃金改定要求に対する平成9年3月19日付の被告静岡フジカラーの回答書では,第34期決算は営業損益では赤字であったが,道路拡幅に伴う補償金等の収益があったため税引前利益が計上できたこと,この収益は会社の資産を減少させた結果得られたものであるから,退職金の引当てや設備投資に使うべきことなどの説明をした上で,賃金を一人平均4443円引き上げることなどが記載されていた(<証拠省略>)。

5  労働協約改訂の申入れ等と危機意識の醸成

(1)  平成9年11月29日,被告静岡フジカラーは組合に対し,労働協約の改訂を申し入れた。この申入書面中で,被告静岡フジカラーは,これまで自社品の売上減少が続き,業績が悪化してきていることから,リバーサルプリントの自社処理など自社品の数量確保策を進めてきたこと,他方,固定費削減のため,臨時パートの削減,退職者の不補充,役員及び管理職の賃金カット,関連会社への出向・移籍,昇級・賞与支給率のダウン等の施策を実施してきたこと,しかし,売上減少に人件費減少が追いつかなかったので,さらに,組合に対しては,閑散部門から繁忙部門への配置転換や変形労働時間制の導入,関連会社への出向,出向規定の制定,休日の削減等の提案をしてきたが,配置転換は実施までに時間がかかり,関連会社の出向は管理職と非組合員のみで実施できたにすぎず,出向規定は制定できておらず,変形労働時間制の導入も組合の了解を得られていないことなどの経過を記載し,「体力が極端に脆弱化している」被告静岡フジカラーでは「従来の労働協約や労使慣行をこれ以上維持していくことは,再建が手遅れ」となると考えるので,新しい労使関係を構築し,企業存続を図っていくため,労働協約を当面不可欠な条項に絞って改訂することを申し入れるなどと記載した(<証拠省略>)。これに対し,組合は,平成10年1月29日,改訂案の対案を提出し,被告静岡フジカラーが同年2月12日に改訂案の条項を説明したが,その後は労働協約改訂の協議は行われなかった(<証拠省略>)。

(2)  平成10年2月16日の経営協議会において,被告静岡フジカラーは,会社の経営状態が危機的状況にあるとして,「第36期経営計画及び方針」と題する再建策を示し,この中で,売上高などを示しながら「当社は今や危機存亡の事態に至っている」として,もし第36期の見通しが赤字であるならば「なるべく早い時期に,事業の存続を断念すべき」とまで踏み込んで記載した(<証拠省略>)。また,同時に,残業時間削減のための1か月単位の変形労働時間制の提案をし(<証拠省略>),組合からの賃金改定要求に対しては,同年3月18日,売上減などから35期決算は赤字であること,36期に黒字化するには人件費の削減が不可欠であるとして,賃金引き上げは考慮の余地がないとゼロ回答をした(<証拠省略>)。

(3)  このような情報提供などによって,組合としても,遅くとも平成10年春ころには,被告静岡フジカラーの窮境を,薄々であれ認識するようになった(<証拠省略>)。このため,組合は役員や管理職の平均賃金やカット率,休日出勤や変形労働時間制を必要と考える理由などについて質問をし,被告静岡フジカラーは,同年4月21日,この回答をしている(<証拠省略>)。

6  基本協定締結

(1)  平成10年9月9日,被告静岡フジカラーは,組合に対し,労働協約改訂の合意がされてないので同協約が期限切れとなることが予想されるが,新協定締結までの間の労使交渉ルールを定めたいとの申入れを行い(<証拠省略>),その協議の中で,被告静岡フジカラーは会社再建のための生産活動の効率化等を主張し,組合は雇用の確保を強く主張したが(<証拠省略>),両者の考えを取り入れ,平成10年10月21日,会社の再建を実現するための基本事項について協定を締結した(<証拠省略>。以下,この協定を「基本協定」と呼ぶ。)。

基本協定は,第1条で,企業消滅の危機から回避するためには,会社を取り巻く内外の情勢変化に,柔軟かつ迅速に対応していくことが急務であり,抜本的な施策の実行なくして企業の存続は困難であることを相互に確認した上で,会社は再建に重大な支障のない限り,組合員の雇用の確保を優先し,組合は会社が行う営業・生産活動の効率化等の施策に積極的に協力することを(ママ)などを相互に確認し,新たな労使関係を確立することを宣言するものであり,同第2条は,基本協定の有効期間を平成10年10月21日から平成12年10月20日までの2年間とし,合意の上で1年間の更新ができることを定めていた。

基本協定締結以後,組合は,後記のとおり,勤務体制の変更に応じたほか,機関誌の発刊を停止し,賃上げの要求を抑制するなどして会社再建に協力した(<証拠省略>)。

(2)  平成11年2月21日,被告静岡フジカラーは,株式会社日本色彩静岡(以下「日本色彩」という。)の営業を譲り受けた(<証拠省略>)。これは,平成10年10月12日に,日本色彩の本社工場が火災で全焼したためであったが(<証拠省略>),この営業譲渡の結果,被告静岡フジカラーの37期(平成11年2月から平成12年2月)の決算は,売上高は約11億2738万円と前年より約12%増えたものの,人員増による人件費増加などが影響し,営業損失は前年より拡大し約3405万円,経常損失は約435万円,税引前当期利益は約613万円の赤字決算となった(<証拠省略>)。

(3)  日本色彩の営業譲受に先立つ平成11年1月18日,被告静岡フジカラーは,組合に対し,日本色彩がコンビニエンスストア等の取次窓口を主要な取引先としており,夜間処理の比率が高いことを理由に,営業譲受後,夜間休日処理体制を構築することに協力を求め,同年2月8日に夜間休日勤務の体制を示したが,組合も会社再建に協力的であったので,夜間休日勤務(1週間の交替制)が導入された(<証拠省略>)。さらに,同年3月18日,被告静岡フジカラーは,組合の賃金改定要求などに対し,第36期は,退職金積立保険の解約により税引前利益は出ているが,実質はプラスマイナスゼロであり,経営状況が厳しいなどとして,賃金引上げは凍結すると回答し(<証拠省略>),組合も,会社再建に協力するため,この回答を受け入れ,また,一時金交渉でも年間で2か月程度の低い水準で妥結した(<証拠省略>)。他方で,組合は,平成11年6月10日,被告静岡フジカラーから,夜間休日勤務体制の変更を求められたのに対し,プリント部門の従業員が2週間連続の夜間勤務になるなど労働条件が厳しくなり,家族とのコミュニケーションや地域の活動に参加できなくなるとして,この提案に反対した(<証拠省略>)。

7  営業譲渡の決定まで

(1)  平成12年3月15日,被告静岡フジカラーは,組合からの賃金改定要求に対し,第37期は営業譲渡によって売上高は増加したが,収益は赤字で目標を達成していないこと,第38期に入って売上が減少し始めていることなどを理由に,組合員一人平均2243円の賃金引上げにとどめるとの低額の回答をしたが,基本協定に従い会社再建に協力するためとして,組合も強い反対をせずに妥結に至った(<証拠省略>)。

(2)  この第38期(平成12年2月以降)における被告静岡フジカラーの月次の前年比売上の推移は,以下のとおりであった(<証拠省略>)。

売上合計 自社品

2月 146.0% 141.6%

3月 99.7% 92.1%

4月 108.2% 101.7%

5月 93.9% 98.3%

6月 128.8% 92.2%

7月 91.5% 85.0%

8月 83.0% 82.3%

9月 92.8% 94.1%

10月 82.8% 87.3%

(3)  A社長は,上記売上状況から,7月の自社品売上の落ち込みが大きく,8月,9月の売上推移も同様であったこと,当時デジタルカメラの販売等が好調であったことから,このような売上減少は構造的なものであり,回復の見込みのないL字型の売上減少であると判断し,企業存続を断念し,退職金支払原資を確保するため,資産を買い取って貰えるよう営業を譲渡することを決意した(<証拠省略>)。そして,同年10月初めころ,被告フジカラー販売に対し,会社を解散する可能性のあることを伝え,同年11月1日ころには,会社解散・営業譲渡の方針を伝えて協力を要請した(<証拠省略>)。これを受けて被告フジカラー販売は,被告フジカラー三島に対し,被告静岡フジカラーの営業譲渡の受け皿となるよう要請したので,その後A社長と被告フジカラー三島のB社長は毎週のように営業譲渡に関する協議を行った。A社長とB社長が協議を行った事項は,被告静岡フジカラーの経営成績,仕事量,設備,退職金,各従業員の職務の内容等の被告静岡フジカラーの業務全般にわたり,両社が合併した場合には退職金支払いの目処が立たないこと,他方で営業譲渡もせずにおけば,被告静岡フジカラーの商圏が同業他社の草刈り場になると予想されることも検討された(<証拠省略>)。そして,A社長とB社長は,平成12年12月上旬ころ,被告静岡フジカラーの営業を被告フジカラー三島に譲渡し,被告静岡フジカラーの従業員は,その半数を被告フジカラー三島に受け入れることとし,受け入れる従業員の労働条件は被告フジカラー三島のものに合わせるとの合意に達した(<証拠省略>)。なお,この両社の協議の半数以上には,被告静岡フジカラーの取締役であり,被告フジカラー販売の総合ラボ経営企画委員会副委員長でもあったDが同席していた(<証拠省略>)。

8  基本協定更新拒絶申入れと労使交渉

(1)  被告静岡フジカラーは,会社解散,営業譲渡を検討し始めていた平成12年10月12日,経営協議会において,組合に対し,総合ラボを取り巻く環境が悪化し,自社品売上が急激に減少し,資金繰りも逼迫してきていることから,企業の再建策は非常に難しくなってきたので,基本協定の更新はできない,ついては今期ポストカード商戦や決算の見通しが立ったところで,企業の存続の可能性も含めて改めて会社の考えを示すと伝えた(<証拠省略>)。このような申入れを受け,組合は,会社解散,営業譲渡やリストラ等の最悪の事態が発生する可能性があると考え,直ぐに被告静岡フジカラーに団体交渉を申し入れ,10月21日に団体交渉が行われたが,この団体交渉において,A社長は,ミニラボ化,デジタル化等の構造的な原因があり,L字型の売り上げ落ち込みがあることからすると再建は非常に難しいなどと説明し,退職金のことを考えると会社再建を断念すべきであると思うと述べた(<証拠省略>)。

(2)  その後,団体交渉などは,次のとおりに行われた。

<1> 平成12年11月2日,労使それぞれ2名ずつの代表(組合側がE(組合の上部団体である化学一般労連執行委員長),原告X1,被告静岡フジカラーがA社長,F取締役経営推進室室長)によるトップ交渉が行われ,ここでA社長は明確に営業譲渡,会社解散の可能性があることを説明した(<証拠省略>)。これに対し,組合は,会社解散をしなければならないような経営状況にあるのか判断するため,被告静岡フジカラーに33期から37期まで5期分の営業報告書(貸借対照表・損益計算書)の提出を求め,平成12年11月27日,被告静岡フジカラーは,組合が要望した書類のコピーを引き渡した(<証拠省略>)。

<2> 同月28日に行われた団体交渉では,組合は,親会社被告フジカラー販売の支援を得て会社を再建し存続することを強く求める,万一,会社解散,営業譲渡,新会社設立,他社による生産継続等がなされる場合は,継続して雇用を希望する者については全員の雇用を保障すること,退職者については,会社都合の退職金に加えて2年分の賃金を加算すること等の要望を申し入れた(<証拠省略>)。

<3> 同年12月7日には,組合は,経営状況を把握するために,税務申告書,売上原価の内訳及び販売管理費の内訳(いずれも5年分),会社の組織図,組合員各人の退職金額,現在までの積立金額等の開示を求め(<証拠省略>),被告静岡フジカラーは,同月13日,税務申告書は税務資料なので提出できないと回答したものの,他の組合要求書類はいずれも開示した(<証拠省略>)。

<4> 同月12日,労使それぞれ2名ずつによる2回目のトップ交渉が行われ,A社長は,年末ポストカードの売上目標は前年比プラス12%であったが,現在のところ前年比プラスマイナスゼロであること,親会社など各方面に打診を重ね,営業譲渡と従業員約半数の新規採用に向けて努力している,採用される従業員は管理職も含めて約半数の見込みであると伝えた(<証拠省略>)。

<5> 他方,組合員らは,年末ポストカード商戦で好成績を上げて,会社解散を回避しようと考え,他の労働組合に営業をしたり,残業に積極的に協力するなどした(<証拠省略>)。

9  営業譲渡契約締結以後

(1)  平成12年12月26日,被告静岡フジカラーの取締役会が開催され,平成13年3月20日付で,被告フジカラー三島に対し営業全部の譲渡を行い,解散することを決議した。また,前記のとおり,平成12年12月26日,被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島は,本件営業譲渡契約を締結したが,この契約の中では,従業員の取扱いについて,被告静岡フジカラーは平成13年3月20日までに従業員全員を退職させ,退職金を支払うこと,被告フジカラー三島は事業が健全経営できることを基本として,被告静岡フジカラーの従業員から必要な人材を選考の上,新規に採用すること(同契約書11条1項,2項)とされていた(<証拠省略>)。

(2)  平成12年12月27日の経営協議会において,被告静岡フジカラーは,組合に対し,「自主清算する方向で会社を解散する件」と題する文書を交付し,前記基本協定更新拒絶申入れの文書中で,年末商戦の見通し等が立ったところで企業の存続の可能性についての最終結論を示すとしていたが,その後の経営事情を検討した結果,7月以降の自社品やポストカード売上の低迷などから,前日の被告静岡フジカラー取締役会において会社存続を断念し,平成13年3月20日をもって自主清算の方法による会社解散を決議したこと,また,同月26日に被告フジカラー三島との営業譲渡契約を完了したこと,被告フジカラー三島静岡事業所の社員数はおよそ半減すると予想され,被告フジカラー三島に対して社員の採用について要望をする予定であることなどを通知した(<証拠省略>)。これに対し,組合は,平成13年1月6日,同年3月21日以降,生活が続けられるよう再就職の完全斡旋を要求する書面を提出し(<証拠省略>),さらに,この要求に付け加え,同年1月9日,継続して雇用を希望する者は全員の雇用を保障し,労働条件も現行のものを保障すること,退職者には会社都合の退職金に2年分の賃金を加算すること,同年3月20日までに合意が成立しない場合は,期限を延期して協議することなどの要求書を提出した(<証拠省略>)。

(3)  平成13年1月11日,被告静岡フジカラーの臨時株主総会が開催されて同年3月20日付で被告フジカラー三島に営業全部を譲渡し,被告静岡フジカラーが解散することなどが決議されたので,被告静岡フジカラーは,同年1月12日,この株主総会の結果を組合に報告した(<証拠省略>)。そして,同月16日の団体交渉において,組合の前記1月9日付要求に対し,被告フジカラー三島とは組合員を含めた従業員,管理職とも社員の半数が採用されるよう話し合っているが,労働条件は被告フジカラー三島の条件によること,現時点の経営見通しでは,自己都合退職金に加算できる要素は非常に少ないこと,同年3月20日までに労使間で問題の解決ができなければ,法的整理を検討せざるをえなくなることなどを回答した(<証拠省略>)。さらに,同年1月25日の団体交渉においては,退職金に関する組合の要求に一部応じて,会社都合による退職金の加算として社員全員に退職金基準給の1か月分,会社解散時に再就職できなかった退職者への加算として退職金基準給の2か月分などの回答をし(<証拠省略>),同月31日の団体交渉においては,退職金は上記25日の回答が精一杯であること,希望者全員の再雇用は無理であること,会社は2月17日までに全員に解雇通知を行い,その後被告フジカラー三島の面接が実施される予定であること,被告フジカラー三島の経営状況は可能な範囲で情報提供すること,賃金,労働条件等の協議は,労使それぞれ2名ずつの代表によるいわゆる小団交で行いたいことなどを伝えた(<証拠省略>)。

(4)  同年2月5日,被告静岡フジカラーは,組合に対し,同月7日に小団交をしたいと申し入れ,同小団交において,被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島の労働条件・就業基準の比較表などの丸秘文書を交付した(<証拠省略>)。なお,被告フジカラー三島は,同月3日に,静岡事業所発足時の組織人員体制について検討する極秘扱いの文書(<証拠省略>)を作成し,本社部門の削減,正社員は夜間中心の勤務として勤務体制を夜間処理体制中心に編成し,管理職を8名,社員を10名削減することなどを検討していたが,この極秘文書も被告静岡フジカラーを通じて組合に交付された(<証拠省略>)。

(5)  その後,同月7日と15日に,組合は,被告静岡フジカラーに対し,同月19日に団体交渉をしたいと申し入れ(<証拠省略>),他方,同月13日,被告静岡フジカラーは組合に対し,同月16日に解雇通知,静岡事業所の人選などについての小団交を行いたいと申し入れたが,この16日の小団交は,組合側担当者の体調不良などによって開催されなかった(<証拠省略>)。しかし,その間,被告静岡フジカラーから組合に対し,2月17日付の解雇通知書,賃金関係の資料(賃金規定概要の比較表,賃金手当などの比較表)が交付されており(<証拠省略>),また,同月19日の団交は,後記のとおり行われている。

10  解雇通知と組合・被告らの対応

(1)  平成13年2月17日,被告静岡フジカラーは,従業員に対し,前記のとおり,同年3月20日をもって自主的に解散し,被告フジカラー三島に営業譲渡することとなったとして,本件解雇通知を送付した。

(2)  同年2月19日の団体交渉は,化学一般労連本部のI書記長も加わって行われたが,この席で,組合は,本件解雇は無効であるなどとして上記解雇通知書を一括で返却しようとし,被告静岡フジカラーはこれを断った(<証拠省略>)。そして,同年3月2日の団体交渉において,組合は上記のとおり解雇通知を一括返還しようとしたが,組合からの異議申立があっても本件解雇は無効,取消とはならないなどの見解の書面を交付したが(<証拠省略>),これに対し,組合は,同日,本件解雇は一方的で不当なものであり,組合は認めることができないから,直ちに撤回し,労使協議を再開するよう書面で申し入れた(<証拠省略>)。なお,同日,被告静岡フジカラーは,組合から要望があった営業譲渡契約書のコピー,再就職支援関係の資料を引き渡している(<証拠省略>)。

(3)  同年3月6日,被告フジカラー三島は,被告静岡フジカラーの従業員に対し,同月11日に行われる社員採用面談の案内書を送付した(<証拠省略>)。しかし,組合は,同月8日,被告フジカラー三島に対し,本件解雇は解雇権の濫用であり,不当労働行為であるとして,被告静岡フジカラーに解雇撤回を要求しているので,社員採用面談には応じられないとして,組合員16人分の社員採用面談の案内書を一括して返却した(<証拠省略>)。なお,被告フジカラー三島は,上記採用面談通知に先立ち,同年2月19日,被告静岡フジカラーのパート従業員の一部に対しては採用内定通知を送っていた(<証拠省略>)。

(4)  同年3月9日の団体交渉において,被告静岡フジカラーは,組合に対し,退職金を加算する旨の申出をしたが,これに対し組合は,あくまでも本件解雇の撤回と解散の延期を要求した(<証拠省略>)。また,組合は,同月13日の団体交渉においても本件解雇撤回等を要求し,被告静岡フジカラーはこの要求は拒絶したが,採用面談に応じることを前提に組合との交渉期間を4月5日まで延期することを申し入れたものの,これに対し,組合は同年3月13日付の文書で,組合は解雇の白紙撤回を要求しているので,単に本件解雇日を延期するのは受け入れられないこと,労使協議がまとまらない限り新会社の面接を受けないこと,組合の要求は,希望者の全員採用,退職金2年分加算などであると,前記要求を繰り返した(<証拠省略>)。なお,同月9日付や12日付の「リストラ合理化闘争」と題する組合発行紙では,被告フジカラー三島の労働条件が劣悪で,非人間的な生活を強いられるなどと記載されていた(<証拠省略>)。

(5)  同年3月14日の団体交渉では,被告静岡フジカラーは,本件解雇に関する労使交渉の回数については組合認識と大きな相違があることなどを文書で回答し(<証拠省略>),組合は,交渉期限を切らないこと,希望者全員を再雇用することなどの従前の要求を繰り返していたが,同月15日,被告静岡フジカラーは,組合に対し,組合があくまで主張を変えないのであれば,当初の予定どおり,3月20日をもって会社解散・営業譲渡により従業員を解雇すると回答した(<証拠省略>)。これに対し,組合は,同月16日,労使協議がまとまらない限り被告フジカラー三島の採用面談を受けることはできないとの考えは変わらないと回答していたが(<証拠省略>),被告静岡フジカラーは,同月19日,組合員が再雇用面接を拒否しているので,被告フジカラー三島が独自の雇用を開始したこと,このままでは3月21日から組合員全員が失業してしまうので,現実的な対応をするようにと通知した(<証拠省略>)。また,同月19日,組合に対し,3月21日より会社の土地・建物その他の施設は被告フジカラー三島の所有,占有下に入るので,組合が同月12日から掲揚している組合旗等を撤去するよう申し入れをしている(<証拠省略>)。このような被告静岡フジカラーの申入れなどに対し,組合は,同月19日の団体交渉において,書面をもって,本件解雇は不当なもので白紙撤回を求める,被告フジカラー三島への採用面接を受ける意思はないとの回答をした(<証拠省略>)。

(6)  この間,組合と化学一般労連東海地方本部は,被告フジカラー販売に対して団体交渉を求めていたが,同年3月16日,被告フジカラー販売は,同社は団体交渉の当事者になり得ないものと考えるので,団交申し入れは受けることができないと,拒絶通知をしている(<証拠省略>)。

11  会社解散・営業譲渡とその後の状況

(1)  前記のとおり,被告静岡フジカラーは,平成13年3月20日,その営業の全部を被告フジカラー三島に譲渡し,解散した。なお,営業譲渡日の資産から負債を控除した金額を譲渡代金とすることとされていたが,後日の精算の結果,その代金は約316万円であった(<証拠省略>)。

(2)  営業譲渡に伴って被告静岡フジカラーの施設はそのまま被告フジカラー三島が同社の静岡事業所として使用しているが,土地建物は依然として被告静岡フジカラーの所有名義となっており,同被告が被告フジカラー三島に賃貸している形になっている(<証拠省略>)。これは,原告らへの退職金未払(供託)中に資産を譲渡すると多額の課税がされるので,被告フジカラー三島と売買予約契約を締結し,同被告から譲渡代金相当額を借入れて退職金支払いの原資としたためである(<証拠省略>)。

(3)  従業員関係では,被告静岡フジカラー解散時には正社員が33名おり,このうち組合員は原告ら16名であったが,原告ら全員は被告フジカラー三島に採用されなかった。また,非組合員のうち5名が退職し(うち1名が嘱託で雇用された),残りの13名は被告フジカラー三島に採用されたが(<証拠省略>),被告フジカラー三島に採用された者のうち少なくとも1名は,原告らが採用面接を受ける可能性が残っていたことを考慮し,採用留保とされていたものの,3月20日までに原告らが採用面接を受けなかったため,人員不足により追加採用となった者であった(<証拠省略>)。また,被告フジカラー三島静岡事業所は,発足前の同年3月15日ころから発足後の5月下旬にかけて,写真の集配要員,写真の仕分・プリントの仕上要員のアルバイトを募集していた(<証拠省略>)。

(4)  勤務態勢は,被告フジカラー三島静岡事業所では,生産部門の正社員は夜間中心の勤務(2名が9時から18時まで勤務,2名が13時から21時まで勤務,4名が16時30分から1時まで勤務)に変更された(<証拠省略>)。

第6  以上認定の事実経過を前提に,原告らの主張を検討する。

1  争点1(組合排除目的による解雇等の無効)について

(1)  被告静岡フジカラーの経営状態

ア 原告らは,被告静岡フジカラーの解散などは組合壊滅を目的としてされたので,無効であると主張し,その根拠として,被告静岡フジカラーは経営危機状態になかったことを挙げている。そこで,同被告の売上高の推移をみてみると次表(<表1>-編注)のとおりである。

<表1>被告静岡フジカラーの売上高の推移

<省略>

以上のとおり,被告静岡フジカラーの総売上高は,第30期が最高で,以後減少に転じており,自社品の売上は,第29期から,日本色彩の営業譲受けの時期を除いて,一貫して減少を続けている。なお,自社品は粗利が約70%と利益率が高く,それ以外の商品・外注品は,粗利が約20%以下であることから(<証拠省略>),自社品は被告静岡フジカラーの主力商品であったものである。

イ 原告らは,G名誉教授の鑑定意見書(<証拠省略>。なお,以下出典を明示しない場合は,<証拠省略>,証人Hの証言を併せて「G鑑定」と呼ぶ。)に依拠し,第35期,第36期の売上減少は,消費税の引上げ,社会保障負担増加などによる需要の減退があった時期であり,取り立てて問題とするほどのものではなく,被告静岡フジカラーは近年の不況下では健闘しているとさえ評価できると主張する(<証拠省略>)。

しかしながら,次のようなラボ業界の動向に照らすと,被告静岡フジカラーの売上減少は,消費税引上げなどによる不況下における一時的な現象とはいえず,ラボ業界を取り巻く環境の変化による構造的な原因に基づくものといえる。

(ア) 被告静岡フジカラーのようなメインラボの数は,平成4年の835が最高で,その後は平成11年には726まで減少し,その後もメインラボの統廃合が進んでいる(<証拠省略>)。また,メインラボのプリント及び現像料売上は,昭和60年の2610億円が最高で,その後は平成14年の1270億円まで一貫して減少し続けている(<証拠省略>)。ところが,現像及びプリントの市場全体の売上は平成5年までは増加を続けており,平成11年までの減少幅も概ねメインラボの売上の減少幅より小さい(<証拠省略>)。他方で,ミニラボの数は増加を続け,平成11年には2万7558となっていて,平成11年ころには,カラーDPの市場シェアは,ミニラボが7割を超え,ゼロ円プリントがメインのカラーDP取次店が約1割,メインラボが約2割まで縮小している(<証拠省略>)。このことからは,市場にミニラボが進出し,メインラボの減少分を肩代わりしている(メインラボの売上を食っている)ものと推察できる。

(イ) また,近年では,大型写真専門店の進出(<証拠省略>),ゼロ円プリントの出現(<証拠省略>)により競争が激化し,フィルム現像・プリントの単価が下がっている(<証拠省略>)ことも,売上減少の原因となっている。

(ウ) さらに,デジタルカメラの出荷額は急増し続け,平成14年には,減少が続いているフィルムカメラの出荷額と逆転するに至っており(<証拠省略>),デジタル化によるフィルム需要の減少も生じていると考えられる。

ウ 営業利益,経常利益,税引後当期利益の検討

被告静岡フジカラーの上記諸利益の推移は次表(<表2>-編注)のとおりである。

<表2>被告静岡フジカラーの諸利益の推移

<省略>

このように,被告静岡フジカラーの業績は,特に32期以降,悪化しているといわざるを得ない。

原告らは,被告らが営業損益が7期連続の赤字であることを強調するのは作為的であり,被告静岡フジカラーに対しては,親会社である被告フジカラー販売や富士写真フイルムが多額の雑収入を支給していて,そのため被告静岡フジカラーの経常損益及び税引後当期利益は2年連続の赤字に過ぎないから,被告静岡フジカラーの経営は危機的状況にはないと主張する。

しかしながら,そもそも2期連続の赤字であっても,特別な原因がない限り十分危機的状況であるということができると考えられるが,その点をおくとしても,上記表記載のとおり,経常損益などについても,29期から31期までは黒字であったものの,その後の7期(会社解散前の7期)では経常利益が生じたのはわずか2期,税引後当期利益が生じたのもわずか3期に過ぎず,その他の期は損失を生じているのである。しかも,この各期に利益が生じた原因をみると,経常利益については,第33期は決算期の変更によって決算期間が短くなったが,この短い期間にもっとも収益のあがる年末年始を含んでいたため利益を生じたこと,第36期は1763万8192円の保険解約による雑収入があったために利益が生じたこと,税引後当期利益が生じた第34期は,道路用地買収による補償金の臨時収入があったためであることなど(<証拠省略>),決して被告静岡フジカラーの営業が好調であったためではないことが明確に見て取れるのである。このことからすれば,被告静岡フジカラーは,原告らの重視する経常損益や税引後当期利益の面においても,近時は利益を出せない状況に陥っていたと考えられる。

なお,雑収入については後に検討する。

エ 退職給与引当金の設定率

(ア) 原告らは,H鑑定(<証拠省略>)に依拠し,被告静岡フジカラーが税法基準を超える退職給与引当金を設定し,営業損失を意図的に増大させていると主張する。すなわち,平成10年までの法人税法では退職給与引当金は要支給額の40%を限度として損金算入が認められていたが,被告静岡フジカラーでは,同引当率を,第34期に55%に,第36期に57%にそれぞれ引き上げている,これをもし40%に止めていれば,第34期は1221万円の経常利益が計上されていたはずであり,第36期の経常利益は2786万円であったはずである,このような異常な引き当てをした理由は,利益を隠蔽するためであったと考えられる,というのである。

(イ) しかしながら,被告静岡フジカラーにおいては,前記認定のとおり,平成5年以来,退職した正社員の補充を行っていなかったことから,正社員の高齢化が進んでいたこと,そのため,平成19年から21年ころにかけて従業員約13名(平成13年1月当時の従業員の3分の1)が定年退職する予定であったこと(<証拠省略>)が認められ,このことから考えれば,大量退職に備えて退職給与引当金の引当率を引き上げたという被告静岡フジカラーの説明も不合理とはいえないし,この引当率の引き上げが,被告静岡フジカラーの業績を意図的に悪く見せるためにされたものということは到底できない。

なお,課税の公平な負担を重視し,原則として損金に関して債務確定主義をとる法人税法と,企業の財政状態及び経営成績を正確に把握することを目的とし,適正な期間損益計算のために費用の見越計上を認める企業会計原則では,引当金に関する規定の趣旨,目的及び規制方法が異なるのであり,企業会計上の退職給与引当金と法人税法上の退職給与引当金とは直接の関連がないというべきであって(現実に,法人税法上は段階的に退職給与引当金の損金算入限度が引き下げられ,現在では廃止されるに至っている),税法基準を超える退職給与引当金を計上したことが不当な経理処理であったということもできない。

(ウ) また,被告静岡フジカラーは,退職給与引当金の引き上げについて,第34期決算の直後の平成9年春闘において,組合に対し,道路収用補償金はストックから身を切った利益であり,将来を考えれば,借入金や退職給与引当金に充当されるべき性質のものなので,引当率を引き上げると説明していた(<証拠省略>)ことからすれば,被告静岡フジカラーに利益を隠蔽する意図があったと認めることもできない。

オ 財政状態に関する指標

H鑑定は,被告静岡フジカラーの流動比率,借入金依存度,自己資本比率,借入金月商倍率は,いずれも同程度の資本金の産業平均と比べても悪い数値を示していないとしている(<証拠省略>)。確かに,借入金月商倍率は6倍を超えると倒産予備軍になるとされており(<証拠省略>),被告静岡フジカラーの数値はそこまで悪化していない(<証拠省略>)。しかし,同業者のフジカラー系列ラボの中でこの指標をみてみると,被告静岡フジカラーは,粗利に占める人件費の割合(40社中37位),自己資本比率(同37位),借入金依存度(同28位),借入金月商倍率(同31位),売掛回収率(37社中33位)が同系列ラボの平均を下回っていて,唯一平均を上回っているのは現預金月商倍率のみである(40社中9位。以上,<証拠省略>)。このことから考えれば,上記倒産予備軍といわれる数値に至ってないことをもって,経営が危機的状況になかったということはできない。

カ 東海フォーテクスへの寄付

被告静岡フジカラーは,会社解散前の第38期に,子会社東海フォーテクスに1300万円の寄付を行っているが,これは,東海フォーテクスの株式会社ヤオハンに対する債権が更生債権となったため,東海フォーテクスが不良債権処理を自力で行うと,被告静岡フジカラーの債権が回収できなくなるおそれがあるので,公認会計士とも相談の上,寄付をしたものである(<証拠省略>)。

このように解散前の時期に1300万円を寄付することが可能であったことは,同時期に被告静岡フジカラーが直ちに支払停止に陥るほどの状況になかったことを示す一事情ではある。しかしながら,仮にこの寄付がなかったとしても,被告静岡フジカラーの第38期決算は,経常損失,税引後当期損失が生じていたことは間違いがなく(<証拠省略>),同寄付は公認会計士とも相談の上被告静岡フジカラーの損失を少なくするものとしてされたものであることは上記のとおりであるから,このことを考えれば,当時被告静岡フジカラーの経営危機が生じていなかったということはできない。

(2)  被告フジカラー三島の経営状態

ア 原告らは,被告フジカラー三島もミニラボの普及等により同様に売上が落ち込んでおり,売上回復が見込めないことは被告静岡フジカラーと同様であると主張する。

そこで,被告フジカラー三島の総売上高の推移を見てみると,次表(<表3>-編注)のとおりである。

<表3>被告フジカラー三島の売上高の推移

<省略>

上記表によれば,原告ら主張のとおり,被告フジカラー三島の売上も低落傾向にあることは明らかである。しかしながら,同じように売上が落ち込んでいても,被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島の業績は異なっている。この点を明らかにするために,被告フジカラー三島の諸利益を検討する。

イ 被告フジカラー三島の諸利益の検討

<表4>被告フジカラー三島の諸利益の推移

<省略>

営業損益が2種類あるのは,上段が雑収入を売上原価に振り替えていない損益計算書に基づき,下段が雑収入の一部を売上原価に振り替えた損益計算書に基づいているからである(<証拠省略>)。

なお,被告フジカラー三島が,地方労働委員会に対し,いったん営業損失が出ている損益計算書(<証拠省略>)を提出し,その後に釈明に応じて営業利益が出ている損益計算書(<証拠省略>)を再度提出した点について,担当者が,決算書作成過程の内案を,完成した本案と間違えて提出してしまったと説明しながら(<証拠省略>),後に,内案と説明していたものが税務申告書添付の損益計算書であることが判明した経過に,被告フジカラー三島のいい加減さ,不誠実さが現れていると原告らは主張する。しかし,たとえ被告フジカラー三島の説明が不当であったとしても,2種類の損益計算書の営業損益の違いは,雑収入を売上原価とするか,営業外収益とするかの違いであって(<証拠省略>),後記のとおり,この処理方法によっては変更が生じない経常損益及び税引後当期利益を比較の対象とする場合には何ら問題がない。

ウ 上記表のとおり,被告フジカラー三島においては,営業損益(営業報告書記載の金額),経常損益では5期中1期のみが赤字であるが,他の4期は黒字を計上しており,税引後当期利益も1期を除いた残りの4期は黒字を計上しているのであって,被告フジカラー三島の業績は悪いものではないといえる。

(3)  被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島の比較について

ア 上記諸利益の計上について,原告らは,雑収入の営業損益への繰入率は被告静岡フジカラーよりも被告フジカラー三島の方が圧倒的に高く,営業損益の比較だけで両社の経営状態の比較はできないと主張する。

この原告らの主張は一理あるが,経常損益で両社を比較してみても,被告静岡フジカラーは5期中4期が経常損失を計上しているのに対し,被告フジカラー三島の経常損失は5期中1期だけであり(なお,被告フジカラー三島は,税引後当期利益も赤字は5期中1期だけである),相対的に被告フジカラー三島の業績の方が良いということができる。

イ 退職給与引当金の設定率の違い

(ア) 原告らは,H鑑定に依拠して被告フジカラー三島との退職給与引当金の設定額の違いを問題とする。すなわち,H鑑定(<証拠省略>)は,「平成12年1月の被告フジカラー三島の従業員延べ人員は2304人(うち社員680人)と被告静岡フジカラーの同延べ人員1165人(うち社員数529人)よりも多いが,退職給与引当金は被告静岡フジカラーより少ない。これは,被告静岡フジカラーが被告フジカラー三島よりも退職給与引当金をより多く引当て,損失及び負債をより多く計上し,自己資本を減らしていることを意味する。そこで,退職給与引当金を利益準備金と剰余金に合算した場合(この数値を粗留保利益という。),平成13年1月期末の粗留保利益は,被告静岡フジカラーは2億0899万円,被告フジカラー三島は1億9940万円となり,業績は逆転する。このように,被告静岡フジカラーの業績を故意に悪くし,被告フジカラー三島の業績を故意に良く見せようとしている。」という。

(イ) しかしながら,被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島は退職金規定が同一ではなく,また,従業員の給与体系,勤続年数なども異なっているのであるから(<証拠省略>),単純に従業員の人数と退職給与引当金の金額とを比較してみても意味がない。実際に,両社の各決算期の退職給与要支給額は異なっており,被告フジカラー三島のそれは,平成12年1月で1億2840万8000円(<証拠省略>),平成13年1月で144万9000円であり(<証拠省略>),これに対し,被告静岡フジカラーのそれは,平成12年1月で3億2557万5000円(<証拠省略>),平成13年1月で3億2264万7200円(<証拠省略>)であって,被告静岡フジカラーの方が退職給与要支給額が高かったのである。そこで,被告静岡フジカラーの方が,退職給与引当金の設定額が多額なのは自然なことであって,同金額から,同被告の業績を意図的に悪く見せようとしたと判断することはできない。

また,上記の粗留保利益を比較する点も,従業員に対して支払義務を負うべき退職給与引当金は,純粋な利益準備金や剰余金とは異なるものであるから,退職給与引当金を加算した数値を粗留保利益として比較しても,正確な財政状態の比較はできないと考えられる。

そこで,退職給与引当金の金額の比較によって,被告静岡フジカラーの業績を故意に悪くし,被告フジカラー三島の業績を故意に良く見せようとしていたという原告らの主張は採用できない。

ウ 雑収入

(ア) H鑑定は,被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島の5期分の雑収入を比較し,被告フジカラー三島の平成13年1月期(第32期)の決算では,同被告の売上減少幅が被告静岡フジカラーよりも高いのに,被告フジカラー三島には同社の前年の雑収入より多額で,かつ,同年度の被告静岡フジカラーよりも多額の雑収入が計上されて,経常損益は黒字になっており,雑収入によって,被告フジカラー三島の業績を良好に見せるための親会社の措置が推定できる(<証拠省略>)とする。

(イ) しかしながら,雑収入は,例えば被告フジカラー三島の第32期の雑収入の内訳でみてみると,売上原価としたものは,ポストカードペーパー達成援助金など仕入金額に応じて一定割合の現金が支給されるものであり,営業外収益としたものは,写るんです回収援助金など機器回収数に応じて支給されるものであり(<証拠省略>),その中にはフジカラー系列の他のラボにも同様の基準で支給されるものが含まれている(<証拠省略>)。そして,これらと異なる援助金の支給を被告静岡フジカラーや被告フジカラー三島が受けていたとは窺えない(なお,被告フジカラー三島の第29期の雑収入が突出して多いのは,事故による保険金収入があったからである。<証拠省略>)。そして,平成13年1月期で両社の雑収入を比べてみると,被告フジカラー三島が2705万円(千円未満切り捨て。<証拠省略>),被告静岡フジカラーが3449万円(千円未満切り捨て。<証拠省略>)と,被告フジカラー三島の方が少なくなっているし,同被告の前年度の雑収入は1443万円(千円未満切り捨て。<証拠省略>)であって,平成13年1月期に極端に増加したと評価すべきほどの増加率でもない(<証拠省略>)。これらの事実に,前記のとおり,売上高が被告静岡フジカラーよりも多く,直営店も多い被告フジカラー三島(<証拠省略>)に対する援助金が,被告静岡フジカラーよりも多くなるのは決して不自然なことではないと考えられることを併せれば,被告フジカラー販売や富士写真フイルムが,被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島の経営成績を操作するため,恣意的に援助金を支給していたということはできない。

(4)  まとめ

以上によれば,被告静岡フジカラーの業績は,近年,特に直近の7期は,ミニラボやゼロ円プリントの進出,デジタルカメラの普及などの社会情勢と,粗利益に占める人件費の高さなどの高経費体質などの内部的要因が競合して,悪化の一歩をたどっており,平成12年7月からの売上の落ち込みは,これら悪条件がより明確になってきたと判断できるものであった。これに対し,被告フジカラー三島の業績は,被告静岡フジカラーと同様の社会情勢の大波を受けながらも,社内における工夫等によって曲がりなりにも利益を出すことができる状況にあったといえるのである。そして,このような両社の業績の相違が,原告らが主張するような退職給与引当金や雑収入(援助金)の操作によるものとはいえないことは前記のとおりである。

そこで,被告静岡フジカラーが,今後の営業継続の可能性や従業員の退職金支給可能性を考え,平成13年3月20日での会社解散と被告フジカラー三島への営業譲渡を決意したのは,経済合理性に基づいた経営判断であったものと一応考えることができる。

(5)  これに対し,原告らは,被告静岡フジカラーが組合を敵視してきたことを,本件解散・営業譲渡が偽装であること,本件解雇が無効であることの根拠とするので,検討する。

ア A社長就任以前の行為

前記認定のとおり,J前社長の時代は,組合がスト通告をすることはあったものの,労使間の大きな対立はなかったし,昭和60年のA社長就任以前に不当労働行為が存在したとしても,これが本件解散営業譲渡,解雇に関連する事実であるとはいえない。

イ ストライキ中の被告静岡フジカラーの対応について

原告らは,被告静岡フジカラーがストライキ中に管理職,非組合員等により操業し,警察等に連絡するなどの対策をとったことを不当労働行為として挙げる。しかし,労働協約(<証拠省略>)では,管理職,非組合員による操業が禁止されているものとはいえないし,警備のために警察等に連絡をとったことも,違法であるとか,これが不当労働行為に該当するということはできない。

ウ 賃上げ抑制のための労働協約改訂及び労働条件改定要求

原告らは,A社長は組合を嫌忌し,労働協約の改悪案を提出し,賃金抑制のために,春闘,一時金交渉の度に労働条件変更の提案を行っていたと主張する。

前記のとおり,被告静岡フジカラーは,平成9年11月に労働協約の変更を申し入れたことがあり,特に平成6年ころから,春闘などの機会を捉えて固定経費圧縮のため労働条件の変更等を申し入れたりしていた。しかしながら,前記のとおり,被告静岡フジカラーでは平成5年を最高に売上が減少し,収益の減少傾向はその前から生じていたのであるから,春闘などにおいて,被告静岡フジカラーが賃金引上げ要求に対しゼロ回答をし,経費節減のため労働条件変更の申し入れをしたことは,会社の危機を脱しようとする当然の行為というべきであって,これらの行為があったからといって,組合を嫌忌していたということはできない。なお,このような会社申し出の労働条件変更等については,組合も一部はその必要性を認めていたものであって,勤務条件の一部変更はその後に組合と協議ができて実現されている。

エ 平成6年の夏季一時金について

前記のとおり,このときには非組合員に対してのみ夏季一時金を支給されたが,これは会社と組合の交渉が6回の団体交渉を経てもまとまらず,夏季一時金の支給が例年より大幅に遅れていたという事情があり,また,結局は被告静岡フジカラーが解決金を支払って解決したものであって,これを組合嫌忌の事情の一つと捉えることはできない。

オ 平成8年の人事異動について

前記のとおり,このときには原告X5の主任兼務を解いたことがあったが,このような「転勤」を伴わない異動は,労働協約で「事前に組合の了解を求める」こととされている異動に該当しないと考えられるし(<証拠省略>),それまでは原告X5の同種人事に組合の反対はなかったのだから,この点も,組合嫌忌の事情の一つと捉えることはできない。

カ 基本協定締結

基本協定締結後は,それまでとは異なり,前記認定のとおり,組合が賃金交渉,一時金交渉でも,会社回答に強い反対をせず,低水準で妥結したこと,日本色彩統合により夜間休日処理体制を強化したことに伴い,1週間の交替制による夜間休日勤務についても組合が協力するなど労使が会社再建に向けて協力するようになっており(ただし,組合は2週間連続の夜間勤務となる交替制勤務には反対していた。),基本協定更新拒絶の申入れの時点では,組合活動が活発化していたなどの事情は全く認められず,会社が組合を嫌忌しなければならない状況にはなかったというべきである。

キ まとめ

以上によれば,被告静岡フジカラーが減収となった平成6年以降,ストライキが行われるなど労使間の緊張が高まった時期があるものの,その間に被告静岡フジカラーが,労働協約や労働組合法違反行為を繰り返したとはいえないし,緊張発生の原因も,組合敵視にあるのではなく,減収減益となって経費削減が必要であったために労働条件切下げ提案を被告静岡フジカラーが行い,組合が当然の権利としてこれに反対したことに原因があると認められるのであって,それ以上特別に会社が組合を嫌忌し敵視するような状況が発生していたとは認められないのである。かえって,基本協定締結以後は,それまでとは異なり,会社再建のために労使がともに協力していたと認められる。このような全体の状況を考えれば,個々の紛争を捉えて,会社側が組合を嫌忌していたなどと断定することはできない。

(6)  営業譲渡後の事業継続

ア 前記のとおり,被告フジカラー三島は,営業譲渡に伴い,被告静岡フジカラーの施設を被告フジカラー三島静岡事業所として使用し,同様の営業を続けているが,他方で,被告静岡フジカラー解散時の正社員33名のうち,組合員である原告ら16名は全く被告フジカラー三島に採用されなかったのに,非組合員の大多数の13名は被告フジカラー三島に採用され,原告ら組合員が同事業所から排除された形になっていること,また,本件営業譲渡がされたのに,被告フジカラー三島静岡事業所の土地建物は被告静岡フジカラー名義のままであるなど,営業譲渡が名目的なものだったのではないかとの疑いを生じさせる事実がある。

イ しかしながら,被告フジカラー三島が上記施設を静岡事業所として利用し営業を続けているのは本件営業譲渡の目的そのものであって,不自然なことではない。そして,組合員が全く採用されなかったのは,前記のとおり,本件営業譲渡契約では被告静岡フジカラーの従業員が当然に被告フジカラー三島に雇用されるようにはなっていなかったところ,組合が社員採用面談には応じられないと面接を拒否したためであり,また,土地建物の名義を移転しないのは,退職金未払時点で名義を移転すると多額の課税を受けるためであるから,これらの事情があるからといって,本件営業譲渡が形骸化したものであったとはいえない。

(7)  まとめ

以上の検討のとおり,被告静岡フジカラーが経営危機になかったとはいな(ママ)いこと,被告フジカラー三島の方が被告静岡フジカラーよりも経営状態は良かったといえること,過去の労使関係において緊張状態があったとはいえ,被告静岡フジカラーが組合を嫌忌し敵視して不当労働行為を行っていたとはいえない上,基本協定締結以後は労使関係が比較的安定し組合活動が活発化するなどの事情がなかったこと,組合員全員が被告フジカラー三島に採用されなかったことも,組合側の面接拒否という行動がその原因であることからすると,本件営業譲渡,本件解雇が組合を排除する目的でなされたとはいえない。

原告らは,被告静岡フジカラーが県庁所在地に所在するから,被告フジカラー三島に営業譲渡をする合理的根拠がないと主張するが,このような理由は経済的にはほとんど意味がなく,前記のとおり,被告フジカラー三島の方が売上規模が大きく,経営成績も良好であったこと,ラボ業界の構造変化に対応し,直営店の展開に早くから着手するなど経営の工夫を行っていたこと(<証拠省略>)などからすると,被告静岡フジカラーが被告フジカラー三島へ営業を譲渡したことが不合理であるとは到底いえない。

そこで,会社解散,本件営業譲渡には,組合を排除する目的があり,偽装解散であるとして,会社解散の無効,解雇無効をいう原告らの主張は採用できない。

2  争点1(整理解雇)について

(1)  原告らは,本件会社解散は偽装解散であり,原告らを解雇するにはいわゆる整理解雇の4要件が必要であると主張する。本件会社解散が偽装解散であるという原告らの主張は,前記のとおり採用できないが,これをおいて,原告らの主張にそって整理解雇の4要件(人員整理の必要性,解雇回避努力,被解雇者選定の合理性,手続の妥当性)といわれるものを検討してみる。

ア 人員整理の必要性

前記のとおり,ミニラボの普及,デジタル化などの社会情勢によって被告静岡フジカラーの売上高は,平成5年以後減少を続けており,営業損益は解散前の7期は連続して赤字,経常損益は7期中5期が赤字で,経常利益や税引後当期利益が出た期も,その原因は営業成績が好調であったためではなく,特別の収入があったためであったこと,他方,被告静岡フジカラーの粗利に占める人件費の割合は高く,同被告は,近年は構造的な原因により,経常的に利益が出せない状態に陥っていて,人員削減の高度の必要性があったものと認められる。

イ 解雇回避努力

(ア) このような情勢のもと,被告静岡フジカラーは,平成5年7月から役員の報酬カット(社長5%,取締役4%。平成7年1月からは社長10%,取締役7%)を行い,平成7年2月からは管理職の賃金カットも行ってきた。また,春闘での賃上げ要求に対してはゼロ回答(平成8年,10年,11年)をしたりして,賃上げ水準は低いものにとどまっていたし,基本協定締結後は,夏季・年末の一時金も合計で2か月分程度の低い水準にとどまっていた。そして,平成5年以降は正社員退職者の補充を行わず,人件費の抑制を図ってきたし,非組合員による出向を行い,組合の協力を得て,閑散部門から繁忙部門への配置転換,勤務時間の変更など人件費削減につながる施策を講じていた。

(イ) 被告静岡フジカラーでは,本件解雇までに希望退職者の募集を行っていない。希望退職者の募集は,一般的には,労働者により打撃が少ないから,これによって経営上必要な人員整理が可能であれば,これをしないことが解雇回避義務違反と評価される余地も生ずることがある。

しかしながら,被告静岡フジカラーは,希望退職者募集によって社員を半減した場合には,その期は黒字化が可能であるとしても,退職者に対する退職金の支払いが不可能であり,また,残った人員で事業を継続することが困難であること,さらに,次の期が赤字になれば,残された従業員の退職金の支払いが困難になると考えてこれを行わなかったと認められる(<証拠省略>)ところ,前記のとおりの売上の減少傾向が続き,経営状態が悪化していたこと,実際に本件営業譲渡をした後,不動産譲渡代金相当の貸付けを受けなければ従業員全員の退職金の支払いが不可能であったことなどからすれば,希望退職者募集による会社再建が不可能と考えた被告静岡フジカラーの判断が不合理なものであったとはいえない。

(ウ) 以上から,被告静岡フジカラーに解雇回避努力違反があったとはいえない。

ウ 人選の合理性

原告らは,被告静岡フジカラーが全員解雇の必要性がないのに被解雇者を選定することなく全員解雇したことから,被解雇者選定に合理性がないと主張する。しかし,被解雇者選定に合理性を必要とするのは従業員間の不平等扱いを防止するためのものであるから,被告静岡フジカラーが全員を解雇したことは不平等な取り扱いとはいえないし,全員解雇も,前記のとおり,会社解散の必要性が認められた以上やむを得ないことであって,このことを人選に合理性がないことの根拠とすることはできない。

なお,念のため本件営業譲渡の受け先である被告フジカラー三島での採用基準を検討すると,被告静岡フジカラーの従業員中,組合員も非組合員も半数ずつを採用するというもので,その他の勤務成績,勤続年数などの具体的かつ客観的な採用基準はなかったのであるが(<証拠省略>),組合員を差別する意図があったか否かについては,上記半数ずつという基準からはその意図を読みとることはできず,採用実績からは,原告ら組合員が採用面接を受けなかったため被告フジカラー三島に採用されなかったことから,不明であるといわざるを得ない。

エ 解雇手続の妥当性

前記のとおり,被告静岡フジカラーは,平成10年2月16日の経営協議会において,組合に対し,会社が危機存亡の事態に至っているとして会社再建策を示し,さらに平成12年10月12日の経営協議会においては,組合に対し,基本協定更新拒絶の申入れをし,会社解散の可能性があることを組合に伝えたこと,その後の団交などの場で,組合に対し営業譲渡やリストラの可能性があることが伝えられ,組合からの要求に応じて,経営状況を判断するため営業報告書などの資料を提供したこと,本件営業譲渡契約が締結された翌日の平成12年12月27日には,経営協議会において,組合に対し,会社解散,営業譲渡が決定されたことを正式に伝え,被告フジカラー三島に約半数の従業員が雇用される見通しであることも伝えたこと,平成13年に入ると,株主総会で解散決議がされたことを報告し,さらに労働条件や退職金などについては,被告静岡フジカラーの丸秘資料や被告フジカラー三島の極秘資料まで交付して説明し,数度にわたり退職金上積みを提示していること,そして,被告静岡フジカラーが組合の団交申し入れなどを拒否したことはなかったこと,本件解雇通知後も,退職金の上積みを回答し,組合が解雇白紙撤回などの非現実的な対応を改めないと組合員全員が失職することになるなどと警告を行ったりしていて,この期間の団交だけでも6回行っていること,これらの状況からすれば,仮に労働協約の協議条項が本件会社解散に適用されるとしても,本件解雇手続が妥当性を欠くということはできない。

(2)  以上によれば,仮に本件解雇に整理解雇要件が必要であったとしても,本件解雇はこの要件を満たしているというべきである。

3  争点2(被告フジカラー三島への労働契約承継)について

(1)  次に,原告らは,本件は経営主体の変更を伴わない営業譲渡であり,このような場合,解雇権の濫用等によって解雇が無効とされるならば,譲渡先に労働契約の承継を認めるべきである,と主張する。

しかしながら,本件では,前記のとおり,本件解雇が解雇権濫用などによって無効となることはないから,この原告らの主張はその点においてすでに失当である。しかし,原告らの主張にそって,経営主体が同一か,すなわち被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島とが同一といえるかを,一応検討する。

(2)  前記のとおり,被告静岡フジカラーは被告フジカラー販売の100%子会社,被告フジカラー三島は被告フジカラー販売が約83%の株式を保有する子会社であるが,役員の大部分が共通ということはなく(両社共通の役員は被告フジカラー三島のA社長のみであり,被告フジカラー販売出身の役員は被告静岡フジカラーの役員の半数である。),被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島とは,同一グループの会社同士として,親会社へ経営情報などをあげ,親会社から経営指導を受け,富士写真フィ(ママ)ルムからは地区旬報などによる各種情報を得たりしていたことが認められるが,それ以上,被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島との間に経理の混同や保証関係などあったとはいえず,他に両社が同一であると認めるべき事情はない。また,原告らは,両社が地区分けをして棲み分けていたとも主張するところ,直営店の展開では,被告フジカラー三島が静岡県西部に出店したり,逆に被告静岡フジカラーが静岡県東部に出店したりしており(<証拠省略>),同一地域に複数のフジカラー系列のラボが営業したこともあったこと(<証拠省略>)からすると,原告らが主張するように被告フジカラー販売が被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島の営業区域を決定し,両社を棲み分けさせていたとはいえない。

以上によれば,被告静岡フジカラーと被告フジカラー三島とが同一であると認めることはできない。

(3)  以上によれば,いかなる観点からも被告フジカラー三島に労働契約が承継されることはないといわざるを得ないのであって,原告らの主張は採用できない。

第7  結論

以上の検討の結果によれば,

1  原告らの被告静岡フジカラーに対する請求は,同被告の会社解散,営業譲渡が無効などとされる理由はなく,本件解雇についても,これが無効とか取り消されるものということはできないのであるから,同被告の従業員としての地位の確認と未払賃金の支払いを求める原告らの請求は,その余について判断するまでもなく,理由がない。

2  原告らの被告フジカラー三島に対する請求は,本件解雇が有効であることは上記のとおりであるし,営業譲渡を受けたことによって,被告静岡フジカラーの従業員が当然に被告フジカラー三島の従業員として引き継がれるとする理由も認められないから,同被告の従業員としての地位の確認と未払賃金の支払いを求める原告らの請求は,理由がない。

3  原告らの被告フジカラー販売に対する請求については,本件会社解散,営業譲渡,解雇は被告静岡フジカラーがその経営判断として行ったものであると認められ,被告フジカラー販売が子会社である被告静岡フジカラーや被告フジカラー三島への影響力を不当に行使して行ったものであるなどの事情は全く認めることができないから,理由がない。

4  よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官棚澤高志,裁判官綿貫義昌は,いずれも転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 佃浩一)

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