静岡地方裁判所 平成13年(行ウ)2号 判決 2002年9月19日
原告
甲
同
乙
同
丙
同
丁
上記4名訴訟代理人弁護士
高田剛
同
鳥飼重和
同
村瀬孝子
同
今坂雅彦
同
橋本浩史
同
吉田良夫
同
権田修一
同
内田久美子
同
小出一郎
同
國貞美和
被告
静岡税務署長
豊田滋
同指定代理人
宮田誠司
同
剣持孝文
同
丸山哲夫
同
大沼弘行
同
三ツ井敬雄
同
小林孝生
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告が、原告甲(以下「原告甲」という。)に対し、平成11年6月16日付けでした平成5年分、平成6年分及び平成7年分の所得税に係る加算税の各変更処分を取り消す。
2 被告が、原告乙(以下「原告乙」という。)に対し、平成11年6月16日付けでした平成5年分、平成6年分及び平成7年分の所得税に係る加算税の各変更処分を取り消す。
3 被告が、原告丙(以下「原告丙」という。)に対し、平成11年6月16日付けでした平成5年分、平成6年分及び平成7年分の所得税に係る加算税の各変更処分を取り消す。
4 被告が、原告丁(以下「原告丁」といい、原告甲、原告乙、原告丙及び原告丁をまとめて「原告ら」という。)に対し、平成11年6月16日付けでした平成5年分、平成6年分及び平成7年分の所得税に係る加算税の各変更処分を取り消す。
第2事案の概要、争いのない事実及び争点
本件は、平成5年ないし平成7年分の所得税につき、被告から、それぞれ過少申告加算税の賦課決定を受け、その後同過少申告加算税をそれぞれ重加算税に変更する旨の各変更決定処分を受けた原告らが、①同各変更決定処分は重加算税の課税要件(国税通則法68条1項。「原告らによる事実の隠ぺい又は仮装行為」)を欠いた違法なものである、②少なくとも、同各変更決定処分のうち、平成5年分の原告らに対する処分は除斥期間を経過した違法なものであると主張して、それぞれ同各変更決定処分の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告らの確定申告
原告らは、平成5年、平成6年及び平成7年分(以下、平成5年、平成6年及び平成7年をまとめて「本件各年」という。)の原告らの所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)、本件各年分の原告らの事業所得に係る青色申告決算書(以下「本件事業所得決算書」という。)及び本件各年分の原告らの不動産所得に係る青色申告決算書(以下「本件不動産所得決算書」という。)を、それぞれ法定期限内に被告に提出した。
原告らが申請した本件各年分の各所得の金額の内訳は、別表1「所得金額の内訳等」記載のとおりであり、原告らが申告した本件各年における所得税の課税標準(総所得金額等)は、事業所得の計算上生じた損失(以下「本件事業損失」という。)を他の各種所得の金額から控除して算出されたものであった。
(2) 本件事業損失
本件各年における原告らの本件事業損失は、原告らが、公認会計士である戊(以下「戊」という。)に節税対策として勧められたアメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)のナーシングホーム(療養院)の運営を目的としたリミテッド・パートナーシップ「A」(以下「本件パートナーシップ」という。)に対する投資(以下「本件投資」という。)が適正になされたことを前提に、本件パートナーシップに係る原告ら各人の出資持分に相当する額を原告らの事業損失とし、これを他の所得と損益通算して計上されたものである。
(3) 本件投資に至る経緯
原告甲は、昭和63年ころ、当時のB銀行静岡支店長から戊の紹介を受けた。原告甲は、同年11月、自らが会長を務めるC有限会社及び関連会社である有限会社D(以下両者を併せて「C等」という。)の顧問に戊を据えることを決め、C等は、戊が代表取締役を務める株式会社E(以下「E」という。)との間で、コンサルタント顧問契約を締結した。
その後、原告甲は、戊から本件投資の勧誘を受け、平成5年12月ころ本件投資をする意思を固め、戊に対してその旨伝えるとともに、本件投資により生じる損失を計上した原告らの本件事業所得決算書の作成を依頼した。
本件投資は、本件パートナーシップの出資持分を買い取るという方法で行われることになっており、戊の指導に従って、出資持分売買代金は総額で1億9000万円、原告らのそれぞれの投資額は、原告甲と原告乙がそれぞれ2850万円、原告丙が7600万円、原告丁が5700万円と定められた。そして、その支払方法は5回の分割払いと決められた。
平成6年6月、同出資持分の売主であるF(以下「F」という。)から本件パートナーシップの持分を買い取る旨の出資金売買契約書(英文、和文各2通。以下「本件契約書」という。)が戊から原告らに送付された。原告らは、それぞれ英文、和文各1通の契約書に署名をし、これらを原告乙が取りまとめて戊に返送した。
原告乙は、戊公認会計士から送付されたF名義の請求書(以下「本件請求書」という。)に基づく第1回目の出資金総額7000万円(原告甲及び原告乙分各1050万円、原告丙分2800万円、原告丁分2100万円)を取りまとめ、平成6年7月8日、これを戊が代表取締役を務める株式会社G(以下「G」という。)名義の普通預金口座に振り込んだ。原告乙は、同様に第2回目の出資金総額3000万円(原告甲及び原告乙分各450万円、原告丙分1200万円、原告丁分900万円)を取りまとめ、平成7年6月27日、これを同口座に振り込んだ(以下、原告乙が2回に分けて振り込んだ金員合計1億円を「本件金員」という。)。
しかし、Fは本件パートナーシップの持分を所有しておらず、本件契約書及び本件請求書は、戊が偽造したものであった。また、戊は、本件金員を自己名義の定期預金に振り替えたり、自宅の建築費や関係会社の運転資金に充てるなどしていた。
このように、本件投資は戊が偽造した本件契約書及び本件請求書に基づく架空の出資であったため、原告らが本件各年分の所得税の確定申告において計上した本件パートナーシップに係る損失も架空の事業損失であった。
(4) 原告らの修正申告及び被告の処分
原告らは、静岡税務署係官ら(以下「被告係官ら」という。)から指摘を受け、平成9年1月20日、本件パートナーシップに係る事業損失が存しなかったものとする本件各年分の所得税の修正申告をした(以下「本件各修正申告」という。)
被告は、原告らに対し、同年2月14日、本件各修正申告に対して、別表2のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をした。原告らは、同賦課決定処分に従って過少申告加算税を納付した。
被告は、平成11年6月16日、原告らに対し、本件各年分の所得税につき、加算税を過少申告加算税から別表3のとおり重加算税に変更する旨の変更決定処分(以下「本件各処分」という。なお、本件各処分のうち、各年分に係る部分については、「平成5年分の本件各処分」ということがある。)を行った。
(5) 原告らの異議申立て等
原告らは、同年6月30日、本件各処分を不服として、被告に対し、異議申立てをしたところ、被告は、同年9月28日付けで、各異議申立てを棄却する旨の決定をした。
さらに、原告らは、平成11年10月20日、国税不服審判所長に対し、本件各処分はすべて取り消されるべきであるとして審査請求をしたが、同所長は平成12年10月13日付けでこれらを棄却する旨の裁決をした。
(6) 本件訴えの提起
原告らは、平成13年1月11日、本件訴えを提起した。
2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 国税通則法(以下「法」という。)68条1項の重加算税の課税要件(原告らによる事実の隠ぺい又は仮装行為)の有無
(被告の主張)
ア 法68条1項は、過少申告加算税等の賦課要件が認められ、さらに「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の前部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは」重加算税を課するものとしている。
重加算税は、課税要件事実の隠ぺい又は仮装行為とそれに基づく過少申告等の結果、税務行政を混乱させて余分な徴税コストを負担させたという国家的損失を填補させるとともに、正当な申告納付義務の履行者との衡平負担を図ることを目的とする行政上の措置である。
このような重加算税の意義や法的性質に照らせば、同条にいう「納税者」とは、納税者本人に限られるものではなく、納税者以外の第三者であっても納税者本人と同視できる者を含むと解すべきである。
納税者本人と当該第三者との間に、雇用、委任(準委任を含む。)又はこれに類する関係があり、納税者本人がいわば自己の手足として当該第三者の行為を利用することによって自己の活動範囲を拡大し、利益を享受している場合は、当該第三者の行為による不利益も甘受することが公平である。したがって、当該第三者が雇用に基づく職務や委任事項に関して隠ぺい又は仮装行為に及んだ場合、それは納税者本人の行為と同視し得るというべきであり、当該第三者の権限の大小、当該第三者と納税者との間の親族関係の有無、当該第三者が隠ぺい、仮装の行為に及んだ目的などは、いずれも考慮すべきではない。
イ 本件において戊は納税者と同視し得る第三者に該当するか
本件において、戊は、原告らから振込みを受けた本件金員を、実際には本件パートナーシップに投資した事実がないのに、あたかも原告らに本件投資による損失が生じたかのように装い、その旨の本件各年分の本件事業所得決算書を作成したのであり、かかる行為が隠ぺい又は仮装の行為に当たることは明らかである。
また、戊は、原告らから本件投資に関する手続を全面的に依頼されていた。しかも、原告らが戊に対し本件投資を依頼したのは、これによって生じた損失を他の所得と損益通算することによって所得税を低額にすることが目的であり、戊は、同目的に従って本件各年分の本件事業所得決算書を作成しているから、戊による隠ぺい又は仮装行為は、過少申告に向けて行われている。そして、原告らは、戊が作成した本件各年分の本件事業所得決算書に基づいて、所得税の過少申告を行い、所得税の軽減という結果を享受している。
以上によれば、戊による本件各年分の本件事業所得決算書の作成は、原告らの手足としてなされたことは明らかであり、戊の行為は、原告らの行為と同視しうるというべきである。
(原告らの主張)
ア 法68条1項にいう「納税者」の意義
法68条1項にいう「納税者」が、納税者自身に限られるものではなく、納税者以外の第三者であっても納税者本人と同視できる者を含むことは認める。しかし、第三者の仮装、隠ぺい行為を納税者の行為と同視しうるか否かは、当該第三者に与えられた権限、当該第三者と納税者との関係、当該第三者が行った隠ぺい又は仮装行為について納税者に帰責性があるかどうか、当該第三者と納税者との利害対立性などを総合的に勘案して、個別具体的に判断されるべきである。
イ 本件において戊は納税者と同視しうる第三者に該当するか
(ア) 本件において、原告らが本件パートナーシップについて戊に依頼したのは、売主から契約書及び請求書の送付を受けて原告らに送付すること、原告らが署名した契約書を売主に送付すること及び売主から本件パートナーシップの決算書を受領してそれを原告らの持分に応じて税務決算書に記載することであって、本件パートナーシップに係る一定の手続事務を行うのみである。したがって、戊の持つ権限は極めて具体的に限定されており、裁量権はない。
さらに言えば、戊は原告らから金員を詐取し、その発覚を防ぐための行為を行っているに過ぎないのであって、原告らの委託の趣旨に沿う行為はまったく行っていない。
(イ) 原告らと戊との関係は、上記一定の事務を依頼したというだけであって、親族関係もなければ、会社における会社と従業員という関係もない。
確かに、戊が自ら代表取締役を務める会社と原告らの同族会社であるC等との間ではコンサルタント顧問契約が締結されているが、実体は名ばかりの契約であって、戊は原告らの手足といえる関係にはない。
(ウ) 戊が隠ぺい又は仮装行為をするについて、原告らに帰責性があるかどうかについては、確かに、原告らは本件各年分の本件事業所得決算書について本件投資に係る損失が計上されていることや、当該損失が他の所得と損益通算されていることを確認しているが、本件投資が真実なされているものと認識していたし、そのような認識しか持ち得ないのであるから、これらの事実によって原告らに帰責性があるということはできない。さらに、本件事業所得決算書の作成を戊に依頼したことをもって原告らに帰責性があることを導くこともできない。なぜなら、本件契約書及び本件請求書が偽造され、本件金員が実際に振り込まれ、戊が本件パートナーシップに関する決算書類自体を所持していた以上、戊以外の者が本件事業所得決算書を作成したとしても、同様の決算書が作成されるはずだからである。
(エ) また、戊は、もっぱら私服を肥やすために本件契約書及び本件請求書を偽造するなどの仮装、隠ぺい行為を行い、本件金員を領得したのであって、戊の行為は「納税者のため」の行為ではない。
(オ) 以上、戊の権限、原告らと戊との関係、原告らと戊との利害対立の程度について検討すると、戊の行為と原告らの行為とを同視し得ないことは明らかである。
(2) 平成5年分の本件各処分は除斥期間内に行われているか(原告らによる偽りその他不正の行為の有無。法70条5項)
(被告の主張)
ア 法70条5項は、「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正決定等」については、法定申告期限から7年間を経過する日まですることができるとして、当該除斥期間を通常の場合(5年)より長くしている。
更正処分は、納税者の申告による課税標準、税額等が課税要件の充足により抽象的に成立している納税義務の内容である納付すべき税額と異なっている場合、すなわち、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が、調査したところの課税標準等又は税額等と異なるという客観的事実がある場合に行うことができる。しかし、偽りその他不正の手段により税額を免れている場合には、課税庁における調査が困難となり、正確な課税標準等又は税額等を把握するために相当の期間を要する場合がある。そこで、課税の適正を維持するという観点なども考慮して除斥期間を延長することとしたのが法70条5項の趣旨である。
そして、課税庁における調査が困難となり、通常の除斥期間の経過により更正による是正の機会を失うことがあり得るのは、納税者自身が偽りその他不正の手段を用いて税額を免れている場合であっても、納税者が知らない間に第三者により偽りその他不正の手段が用いられて税額を免れている場合であっても何ら異なるものではない。
したがって、法70条5項にいう「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ」ているとは、このような客観的事実があれば足りるのであって、偽りその他不正の行為について、納税者が直接関与しているとか、その偽り等について納税者が認識していることは必要ではないと解すべきである。
イ 本件において、戊は、原告らから本件パートナーシップに対する投資総額及び原告らの各投資額、本件投資の支払方法、支払時期等の重要な権限についてすべて委任を受けており、原告らと同視し得る受任者といえる。そして、原告らは、戊が偽造した本件契約書及び本件請求書に基づき、原告らが本来納付すべき税額を不当に免れていたのであるから、被告が法70条5項を適用して、原告らに対し平成5年分の本件各処分を行ったのは適法である。
(原告らの主張)
ア 法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」という文言は、いわゆるほ脱犯(所得税法238条1項、239条1項、法人税法159条1項等)の構成要件と同一の文言であり、両者は同義である。そして、ほ脱犯の構成要件である「偽りその他不正の行為」とは、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能若しくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他工作を行うことをいうから、法70条5項の「偽りその他不正の行為」もこれと同じ意味であるというべきである。
イ 本件は、戊から勧誘されて本件投資をしようとした原告らが、その出資金を戊に詐取されたという事案である。原告らは、平成8年11月28日、被告係官らから指摘を受け、初めて戊に金員を騙し取られたことを知ったのであり、そのことについて原告らの責めに帰すべき点はない。
したがって、原告らは、本件各年分の所得税の確定申告をした時点において、ほ脱の意図を有しておらず、「偽りその他不正の行為」により所得税の一部を免れたものではないから、平成5年分の本件各処分は、除斥期間に関する法70条4項に違反する。
第3争点に対する判断
1 前記第2の1の争いのない事実、証拠(甲1の1から4、甲3、甲4、乙1から12の各1から3、乙13から16の各1、2、乙17から22、乙23から30の各1、2、乙31から41、乙42から45の各1から3、原告丁)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告らと戊との関係
原告らは、いずれも株式会社Hの取締役である。株式会社Hは、平成8年5月にC等を含む関連会社4社の合併により設立された会社であり、同年8月に社名を株式会社Hとして現在に至っている。
原告甲は、昭和63年10月ころ、C等のメインバンクである当時のB銀行静岡支店長から戊を紹介され、戊をC等の顧問とすることにし、同年11月ころ、C等は、戊が代表取締役を務めるEとの間で、報酬額を月額20万円としてコンサルタント顧問契約を締結した。同契約締結後、戊は月に1回程度、税法の解釈等に関する文書を送付するほか、半年から1年に1度会社を訪れていた。また、戊は、後記(3)のとおり、原告らが平成5年分ないし7年分の所得税確定申告をするに当たり、原告らそれぞれの本件各年分の本件事業所得決算書の作成に関与していた。
なお、同契約当時、C等はI税理士(以下「I税理士」という。)との間でも顧問契約を締結していた。
(甲1の1から4、乙41、原告丁)
(2) 本件パートナーシップ締結の経緯等
原告甲は、平成5年9月ころ、戊から初めて本件パートナーシップに関する話を聞き、その後、同年11月か12月ころ、戊は、原告甲に対して本件パートナーシップについて、合法的で確実に節税できる方法であるとして具体的な説明をした。戊は、原告甲に対し、本件パートナーシップは法人格がないので課税は出資者個人にかかり、建物の減価償却等の経費を多額に計上できることから所得の圧縮による節税が可能であることや、これを処分するときには売却益が発生し課税の対象となるが、全体として納税時期の繰延べになり、レバレッジドリースより有利であるなどの説明をした。
原告甲は、本件パートナーシップについて十分な理解をしていたわけではなかったが、節税対策になるという戊の説明を信頼し、同年12月ころ、原告ら全員で本件投資をしたいと考え、戊に対しその旨伝えるとともに、必要な手続をすべて戊に一任することにした。そして、原告甲が原告乙に本件パートナーシップについての説明をし、原告丙及び原告丁に対しては原告乙がその説明をしたところ、いずれも節税対策になるとの考えから本件投資に同意した。本件パートナーシップヘの出資持分売買代金及び原告らのそれぞれの投資額は、戊の指導に従って定められ、出資持分売買代金総額は1億9000万円、原告らのそれぞれの投資額は,原告甲と原告乙が各2850万円、原告丙が7600万円、原告丁が5700万円と定められた。また、その支払方法は5回の分割払と決められた。
原告らは、平成5年分の原告らの本件確定申告書、同年分の原告らの本件事業所得決算書及び本件不動産所得決算書を提出した後である平成6年6月ころ、戊から原告らそれぞれに対して送付された本件契約書(英文及び和文各2通)及び本件請求書を受領した。本件契約書は1993年(平成5年)12月1日付けで作成されており、第1回分の支払に関する本件請求書は1994年(平成6年)6月付けで、日付は空欄になっていた。原告らはそれぞれ英文及び和文各1通の本件契約書に署名し、原告乙がこれらを取りまとめて戊に返送した。また、本件請求書に従って、第1回目の出資金総額7000万円(原告甲及び原告乙分各1050万円、原告丙分2800万円、原告丁分2100万円)を原告乙が取りまとめ、平成6年7月8日、これを戊が代表取締役を務めるG名義の普通預金口座に振り込んだ。原告らは、これらの手続がいずれも平成5年分の所得税の確定申告後に行われていることについて特段の疑問を抱かず、手続が遅れているという程度の認識であった。そして、原告乙は、同様に第2回目の出資金総額3000万円(原告甲及び原告乙分各450万円、原告丙分1200万円、原告丁分900万円)を取りまとめ、平成7年6月27日、同口座に振り込んだ。
しかし、本件契約書及び本件請求書は、戊がF代表者であるJの署名を偽造して作成したものであり、また、本件契約は原告らが本件パートナーシップの出資持分をFから買い取るという内容であったが、そもそも本件パートナーシップの出資持分の所有者は、Fではなかった。そして、原告らが本件パートナーシップヘの出資として振り込んだ本件金員は、戊が自己名義の定期預金に振り替えたり、自宅の建築費や関係会社の運転資金に充当されるなどしていた。
(甲1の1から4、甲3、甲4、乙13から16の各1、2、乙17から22、乙23から30の各1、2、原告丁)
(3) 原告らの確定申告
原告らは、本件各年分の本件確定申告書、本件事業所得決算書及び本件不動産所得決算書をそれぞれ法定期限内に被告に提出した。
原告らの平成5年分の本件確定申告書、本件事業所得決算書及び本件不動産所得決算書は、平成6年3月15日に提出され、同各書面のうち、本件確定申告書及び本件不動産所得決算書の作成にはI税理士が関与し、本件事業所得決算書の作成には戊が関与した。(2)のとおり、同各書面の提出時点において、原告らは、本件パートナーシップヘの出資持分売買に関する契約の締結や出資金の振込等は行っていなかったが、戊は、原告らの平成5年分の本件事業所得決算書を作成するに当たり、本件投資が現実に行われていることを前提に本件事業損失を計上していた。
平成6年分及び平成7年分の原告らの同各書面の作成についても、本件事業所得決算書の作成には戊が関与しており、いずれも本件投資が現実に行われていることを前提に、同各書面には本件事業損失が計上されていた。なお、原告らの本件確定申告書及び本件不動産所得決算書については、平成6年分の各書面についてはI税理士が、平成7年分の各書面についてはK公認会計士(以下「K会計士」という。)がそれぞれの作成に関与している。
原告らは、これにより本来納付すべき所得税の一部を免れ、原告乙、原告丙及び原告丁は、平成6年4月及び平成7年4月にそれぞれ源泉所得税の還付を受けた。
(乙1から12の各1から3、乙31から36)
(4) 本件契約の解約
平成7年4月から、C等の税務ないし財務の顧問が、I税理士からK会計士になった。K会計士がC等の顧問に就任したころ、原告丁は、K会計士から本件投資について説明を求められ、原告甲に相談したが、原告丁も原告甲も本件パートナーシップの内容について十分理解をしておらず、K会計士にその説明をすることができなかった。そこで、平成7年6月ころ、原告丁は、K会計士とともに、本件投資の説明を受けるために戊に会い、その後もK会計士が何度か戊と連絡をとって本件投資についての説明や資料の提出を求めたが、戊は本件投資に関する資料の提出を一切せず、説明も曖昧なものに終始した。このような経緯があったことから、本件パートナーシップヘの出資金の3回目の支払期限である平成8年5月15日が近づいたころ、K会計士は、原告らに対し、本件契約を解約して本件投資をやめるべきであると助言し、原告らはこれを容れて本件契約を解約する意思を固めた。そして、K会計士を通じて戊に対し本件契約を解約する旨を伝え、解約の手続を進めることにした。
その後、原告丙は、戊に対し、電話で本件事業損失が税務調査で問題となっていることを指摘し、修正申告をするが重加算税を課せられるかもしれない、合法的な節税商品との説明であったが出資金は返してもらえるのか等の抗議をした。この抗議を受け、戊は、同年10月ころ、原告らの架空の本件契約について解約手続きを進め、本件契約を解約した形を整えた。そして、同年11月7日、原告らが2回に分けてG名義の普通預金口座に振り込んだ本件金員は全額原告らに返金され、原告らはこれを受領した。
(甲4、乙21、乙37から40、原告丁)
(5) 調査の経緯等
被告は、同年9月ころ、原告らの所得税の調査(以下「本件調査」という。)に着手し、本件調査の結果、本件契約書及び本件請求書のJの署名が戊の偽造によるものであるという事実を把握した。
そして、被告係官らは、同年11月28日、株式会社Hを訪れ、原告乙、原告丙及び原告丁に対し、原告らの出資した本件金員がアメリカに送金されていないこと、アメリカ歳入庁に原告らのパートナー登録がされていないこと、本件契約書及び本件請求書のJの署名筆跡が本人の筆跡と明らかに異なることなどを指摘するとともに、同年12月12日にも被告係官らが株式会社Hを訪れて、原告甲及び原告丁に対し、原告らの本件各年分の本件事業損失は架空であり、本件各年分の所得税について修正申告を行い是正する必要があることを指摘した。
同年12月18日、K会計士と原告丙が戊と会い、戊は原告らに課されると予測される過少申告加算税を自らが負担することを約し、平成9年2月20日、原告甲は戊から3000万円を受領した。
原告らは、被告係官らの指摘に従い、平成9年1月20日、本件各修正申告をした。これに対し、被告は、同年2月14日、原告らに対し、別表2のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をし(総額は1287万8000円)、原告らは右賦課決定処分に従って過少申告加算税を納付した。
その後、被告は、平成11年6月16日、原告らに対し、本件各年分の所得税につき、本件各処分を行った。
(甲1の1から4、甲3、甲4、乙21、乙42から45の各1から3、乙46、原告丁)
2 争点(1)について
(1) 過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、納税者に対して重加算税を課することとされている(法68条1項)。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することにより、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
(2) そこで、前記認定の事実により、原告らに対する本件各処分が法68条1項の課税要件を満たしているかについて考える。
ア 前記1の認定事実によれば、本件において、原告らは本件投資に必要な手続及び本件各年分の本件事業所得決算書の作成をそれぞれ戊に一任し、戊により作成された本件各年分の本件事業所得決算書をそれぞれ被告に提出しているが、右委任を受けた戊は、架空の本件投資を作出し、本件契約書及び本件請求書を偽造してその支出があったかのように装い、これを事業損失に計上して原告らの本件各年分の本件事業所得決算書を作成している。そして、本件事業損失を他の各種所得の金額から控除した結果、原告らが申告した本件各年における所得税の課税標準(総所得金額等)は、本来申告すべきものよりも低額なものとなった。
以上によれば、上記戊の行為が、法68条1項にいう「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に当たることは明らかである。
イ また、本件においては、納税者が原告らであるにもかかわらず、架空の本件投資を作出し、本件契約書及び本件請求書を偽造した行為及びその支出があったかのように装った原告らの本件各年分の本件事業所得決算書を作成した行為は、すべて第三者である戊が行っている。
しかし、前記1の認定事実によれば、原告らと戊とは、昭和63年10月ころのC等とEとの間のコンサルタント顧問契約締結以来の交流があり、原告らが本件投資の意思を固めるまでに少なくとも約5年間の付き合いがあったことが認められ、原告らが戊から本件投資の勧誘を受けた際に、節税対策になるという戊の言を信用し、その内容を十分理解しないまま本件投資を決意して、その手続一切及び本件各年分の本件事業所得決算書の作成について戊に一任したことからすると、戊は、本件投資について原告らの代理人又は補助者というべき立場にあったと認めることができる。また、前記のとおり、原告らが戊の言を安易に信用したことや、本件契約書への署名や本件請求書に基づく出資金の振込等がまったく行われていない段階でなされた平成5年分の確定申告において、戊の作成した本件事業所得決算書に本件事業損失が計上されているなど不自然な点があったにもかかわらず、原告らはこれについて何ら疑問を持たず、平成7年4月にK会計士に指摘されるまで本件パートナーシップに関する契約関係を漫然と放置していることなどからすると、戊と原告らとの間には一定の信頼関係があったものと推認される。そして、原告らが本件パートナーシップヘの出資金として振り込んだ本件金員は、原告丙が戊に抗議したことなどにより、結果として戊から原告らに返還され、さらに原告らに賦課されることが予想された本件各年分の過少申告加算税に相当する金員として、原告甲が戊から3000万円を受領している(なお、現実の過少申告加算税は原告ら4名で合計1287万8000円である。)という事実に照らすと、原告らと戊との関係は、原告らが一方的に戊に詐取されたというような通常の詐欺又は横領事案における加害者と被害者との関係とまったく同一であるとまでいうことはできない。以上のような、原告らと戊との人的関係、原告らが戊に委任した内容、原告らの本件投資及び本件各年分の確定申告における対応、原告らが出資した金員の流れ等の事実を総合すると、戊の行った前記隠ぺい、又は仮装行為は、納税者である原告らの行為と同視することができるというべきである。
ウ これに対し、原告らは、第2の2(1)(原告らの主張)イの(ア)ないし(エ)の事由を挙げて、戊の権限、原告らと戊との関係、原告らと戊との利害対立性の程度について検討すると、戊の行為と原告らの行為とを同視し得ない旨主張するので、この点について考える。
まず、原告らは、原告らが戊に対して委任した権限は、本件パートナーシップに係る一定の手続事務を行うという極めて具体的に限定された裁量権のないものにすぎない旨主張する。
しかしながら、原告らはいずれも本件パートナーシップの内容について十分に理解することなく、節税対策になるという戊の説明を信じて投資を決意したものであり、その投資額(合計1億9000万円)も戊の指導に従って定めたものであるのであるから、原告らが戊に対して委任した権限は原告ら主張のような極めて具体的に限定された単なる手続事務であると解することはできない。
また、原告らとしては、本件投資が真実なされているものとの認識しか持ち得なかったのであるから、原告らには何ら帰責性がない旨も主張するけれども、平成5年分の確定申告において原告らの本件事業所得決算書に本件事業損失が計上されていることは明らかに不自然であり、本件投資や平成5年分の本件事業所得決算書に疑問を持つことは十分考えられるから、原告らが本件投資が真実なされているという認識しか持ち得ないということはできない。
よって、原告らの主張はいずれも採用できない。
エ 以上によれば、本件各処分は、重加算税賦課の要件を満たしており、原告らに対して重加算税を賦課した本件各処分に何ら違法な点はない。
3 争点(2)について
(1) 法70条5項は、「偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税についての更正決定等」については、法定申告期限から7年間を経過する日まですることができるとしている。
(2) 本件においては、前記2(2)のとおり、原告らから本件投資の手続及び本件各年分の原告らの本件事業所得決算書の作成の依頼を受けた戊が、架空の本件投資を作出し、本件契約書及び本件請求書を偽造してその出資があったかのように装い、これを事業損失に計上して原告らの本件各年分の本件事業所得決算書を作成しており、この行為は、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を困難ならしめるような工作であると認めることができる。法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」は、かかる「ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を困難ならしめるような工作」を含むものと解されるから、戊の行った前記行為は、同項にいう「偽りその他不正の行為」に該当すると認められる。
そして、前記2(2)イのとおり、戊の行った前記行為は、原告らの行為と同視することができるというべきであり、この行為により原告らは本来納付すべき税額を免れているから、平成5年分の本件各処分については法70条5項の適用が認められ、同各処分が期間制限に違反してなされたものということはできない。
4 結論
以上によれば、原告らに対する本件各処分に違法はないから、原告らの本訴請求はいずれも理由がない。
よって、原告らの請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官 三輪恭子 裁判官 棚澤高志)
別表1 所得金額の内訳等
file_2.jpgwai uti: HEED FRIED % (OOo 5, 842, 508 & lonmmninoeni A [Oesamoes 2 lomo 2 [O—mngoem § [ow-omraan 59,686, 081 30,760, 750, E AHBRERT, Bi BRO TROP 22D MEATS, a Bair: ED FRED TROT FRIED DERAAOSR ‘020, 152,551 28, 500,270, 5, 842, 508 DASE 0 0 DESH 0 54, 730, 000 592, 824, 680 Dae MHGOSM DO~ORHBSM 441, 995, 1, 022, 670 B58H> SRA Faed a Ey REDE WEL BAD 1 HDA DRT DHE a A EVA FREE TRO 7, LOADS A53, 740, 138 667, 398 @ [remaoem o 0 bi 77,065, 000 18,146,685 bs 4,510 184, 891 2g - 2 a AM, 229, = kd 964, 032 ARERR, YR TE 64,7 Oa Me HRD LEER. ee Safir: AL EU AT , ORAOe @ [(Ormmaniaoem i [OBSTRORR 2 lOmrnmoga & [O-RROeT s PRETO Rew 20,005, 235 ATH, RT,
別表2 過少申告加算税の額(単位:円)
file_3.jpgene ray td eT 1, 007, 000 1, 007, 000 3,728, 000 2, 733, 500 FAROE 442, 000 398, 000 315, 500 872, 000 ERIE 292, 000 292, 000 1,207, 000 584, 000
別表3 重加算税の額(単位:円)
file_4.jpgats ra td eT SERRSESY 3, 524, 500 3,524, 500 9, 380, 000 6, 933, 500 PROS 1, 547, 000 1, 398, 000 734, 500 2, 464, 000 ATES 1, 022, 000 1, 022, 000 2, 044, 000