静岡地方裁判所 平成15年(ワ)22号 判決 2005年1月18日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
諏訪部史人
同
家本誠
被告
株式会社静岡第一テレビ
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
中山慈夫
同
男澤才樹
同
中島英樹
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成11年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案及び当裁判所の判断の概要
本件は,被告の原告に対する諭旨解雇が不法行為に該当するとして,解雇時から復職時までの間の精神的苦痛に対する慰謝料を請求する事案である。
この諭旨解雇が権利濫用で無効であることは別訴で確定しているが,懲戒解雇が権利の濫用として私法的効力を否定される場合であっても,そのことで直ちにその懲戒解雇によって違法に他人の権利を侵害したと評価することはできないので,本件では,この諭旨解雇が故意又は過失によって違法に原告の権利を侵害したと言えるかどうかが問題となる。
当裁判所は,懲戒処分通知書において諭旨解雇の理由とされた3つの事実のうち,沖縄ゴルフツアー中の原告の暴言の事実は認められないが,他の2つの事実については事実関係の大要を認定することができ,これらの非違行為は軽微とは言えず,原告が本件で強く主張している,被告が原告をCM不正未放送問題の内部告発者と疑って社外に追放する目的で前記諭旨解雇をしたとの事実関係は,これを認めるに足りず,原告に対する諭旨解雇が明らかに他の懲戒処分と均衡を欠いているとか,解雇の手続に重大なミスがあって主要な非違事実を誤認したというような事情も認められないので,使用者の懲戒に裁量があること等を考慮すれば,被告が諭旨解雇を選択することについて,不法行為の要件としての故意又は過失があると認めることはできないと判断した。
1 当事者間に争いがない事実
(1) 当事者
<1> 被告は,昭和54年2月15日に設立された,放送法によるテレビジョンその他一般放送事業等を営む株式会社である。
<2> 原告は,昭和54年5月1日被告に雇用され,昭和57年1月まで本社営業部,同年2月から昭和63年2月まで報道部,同年3月から平成元年1月まで東部支社次長,同年2月から平成4年1月まで東部支社長,同年2月から平成6年1月まで本社営業部長,同年2月から平成8年1月まで東部支社長,同年2月から平成9年6月まで制作業務部参与(部長級),同年7月から平成10年4月まで東京支社付参与,同年5月から平成11年8月まで本社営業部長,同年8月から編成部ライブラリー室担当部長の職にあった者であり,後記のとおり被告から解雇されたものの,その後この解雇を無効とする判決の確定により,被告に復職した。
(2) 原告に対する諭旨解雇
被告は,原告に対し,平成11年9月14日付けで,別紙「懲戒処分通知書」<略-編注>をもって,懲戒処分としての諭旨解雇とする旨の通知をした(以下この通知を「本件解雇通知」といい,この解雇を「本件解雇」という。)。被告が原告に対して告知した諭旨解雇の理由と根拠は,別紙「懲戒処分通知書」記載のとおりである。
(3) 本件解雇の無効
<1> 原告は,本件解雇が無効であると主張して,被告に対し労働契約上の地位の確認と未払賃金の支払等を求める訴訟を静岡地方裁判所に提起し,平成13年3月28日,本件解雇が無効であることを理由として,原告が労働契約上の地位を有することを確認し,未払賃金の請求を一部認容する判決を受けた。
<2> 被告は,この判決を不服として東京高等裁判所に控訴したが,同年9月20日控訴棄却の判決を受け,最高裁判所に上告したが,平成14年2月22日上告不受理の決定を受け,これにより上記第1審判決が確定した(以下第1審から上告審を含めて「別件訴訟」という。)。
(4) 原告の復職
被告は,平成14年3月7日,原告を編成部ライブラリー室担当部長として復職させるとともに,原告に対し,本件解雇後復職時までの未払賃金及び賞与を支払った。
2 原告の主張
(1) 不法行為
本件解雇は,下記のとおり,その理由とされた就業規則違反の事実が認められず,さらに,平等性,相当性及び適正手続を欠いている違法な処分であり,故意又は過失による不法行為を構成する。
<1> まず,被告が本件解雇理由としてあげる事実は,要旨以下のとおりである。
a 本社営業部長であった原告は,平成10年6月に,販売促進目的でスポンサー(被告に対して広告を発注する広告主。以下「スポンサー」という。)18名を「サッカーフランスW杯とポルトガルEXPO」旅行(W杯とは,サッカーのワールドカップのことである。以下この旅行を「フランスW杯ツアー」という。)に招待する企画をしたが,旅行代理店のa社(以下「旅行代理店」という。)においてスポンサー18名中10名分のW杯入場券を手配することができず,そのため旅行代理店から,謝罪の趣旨でW杯観戦を希望しない1名を除く9名分として合計54万円相当の旅行クーポン券の交付を受けたにもかかわらず,そのうち3名分18万円相当の旅行クーポン券をスポンサーに交付せず現金化し,この金員を平成10年度の会計年度中に被告に返還せず,その処理を被告に報告しなかった。原告の上記行為は,被告の就業規則(以下「就業規則」という。)46条(6),(7),(16)に該当する。
b 本社営業部長であった原告は,平成11年2月に,販売促進目的でスポンサーを招待する「めんそーれ沖縄ゴルフツアー」(以下「沖縄ゴルフツアー」という。)を企画したが,同ツアーに先立ち,同ツアーに参加できなくなったスポンサー2名を川奈のゴルフ場に招待するので2名分として合計50万円が必要である旨被告営業推進部長及び旅行代理店に申し向け,被告が旅行代理店に旅行代金を入金した後,旅行代理店から50万円を受領し,これを上記スポンサーに交付した。原告の上記行為は,就業規則46条(6),(7),(12),(16),(17)(7条(2))に該当する。
c 原告は,沖縄ゴルフツアー中,某招待者に対し,酔余「こういうゴルフ旅行につれてきてやっているのだから,しっかり出稿してもらわないと困る」と発言し,その招待者に不快感と屈辱感を与えた。原告の上記行為は,就業規則46条(7),(12)に該当する。
<2> しかしながら,<1>a記載の事実関係のうち,原告が同記載のような経過で旅行クーポン券を現金化し,これを当該会計年度内に処理できなかったことは事実であるが,3名分の旅行クーポン券をスポンサーに交付しなかったのは,原告の上司であるB取締役の判断であり,原告は,同人からこれを営業部で販売促進用に利用するよう指示され,旅行クーポン券では利用しにくいことから,原告において旅行代理店に依頼して現金化した上,社内の原告の机の引き出しの中に他の金員と区別して保管していたところ,その後のB取締役の転勤,営業部事務所の移転,被告がスポンサーから広告料を受領していながら,不正にCM放送を間引いていたことが発覚したこと(以下「CM不正未放送問題」という。)による社内の混乱等の事情から,この金員の存在を失念してしまったにすぎない。<1>b記載の事実関係についても,沖縄ゴルフツアーに参加できなくなったスポンサー2名分の費用50万円を現金で同スポンサーに交付したことは事実であるが,CM不正未放送問題の発覚による社内の混乱等の事情から,代替のゴルフツアーが実施できなくなったことから,営業販売促進費として同スポンサーに交付したものである。また,原告において<1>c記載の発言をしたことはない。
以上から明らかなように,<1>a,b記載の各事実はB取締役の指示あるいは重要な取引先に対する対応であって被告に実害がなく,<1>c記載の暴言についてはそもそも指摘されている事実自体が存在しないのであるから,本件解雇には懲戒事由が欠けており,そのことは被告にとって容易に判断することができた。
<3> また,被告の開局以来20年の歴史の中で,懲戒処分としての解雇がされたことはなく,本件解雇は,過去の処分例と比較して極めて重い恣意的な処分であって合理性がない。
例えば,平成6,7年ころ,総務局長の管理不行き届きにより,株式投資で被告に数千万円の損害が発生したり,事業部長の判断ミスから屋外イベントが中止となって被告に数千万円の損害が生じたことがあり,平成11年初頭には,スポンサーに対する補償が十数億円,キー局からのネット補償金20億円カット及び信用失墜による売上げ減少を含めると四十数億円に達する損害を被告に及ぼすCM不正未放送問題が発生し,このほかにも,スポンサーから受注した景品をスタッフが分配してしまったり,平成16年9月に行われた税務調査で被告のりん議と異なる使用目的で商品券が保管されていたことも発覚している。特に,CM不正未放送問題は,社会的にも詐欺行為として非難されてやむを得ない重大に(ママ)非違行為であった。ところが,これらの事件において懲戒解雇された者は1人もいないのである。
<4> 平成9年6月,福岡放送が契約どおりの代金を受領していながら,CMを契約本数から抜き取って放送していたことが発覚し,他の放送会社にも同様の疑惑が浮上し,全国的な問題となった。被告については,平成11年2月8日付けの匿名による告発文によって同様のCM未放送のあることが発覚し,調査の結果,被告が,スポンサーから広告料を受領していながら,スポンサー430社中の130社,CM本数18万3080本中の3702本について不正にCM放送をしなかったことが判明し,被告は,民放連からの除名及びeテレビネットワーク協議会会員資格の無期限停止の措置を受けるに至った(CM不正未放送問題)。
本件解雇は,CM不正未放送問題の内部告発者(以下,単に「内部告発者」というときはこの趣旨である。)が原告であるとの疑いを抱いた被告が,CM不正未放送問題の内部告発者放逐の手段として,形式的な懲戒事由を付して行ったもので,故意による不法行為である。
さらに,本件解雇は,解雇事由について告知聴聞の機会が1回しかなく,上司のB取締役に対しても短時間の事情聴取が2回行われただけである。前記解雇事由<1>c(原告の暴言)については告知聴聞の機会がなかった。
したがって,本件解雇は適正手続に違反して無効である。
<5> 以上のとおり,本件解雇は,原告がCM不正未放送問題の内部告発者であると考えた被告が,原告を社外に追放する手段として形式的な懲戒事由を付して行った故意による不法行為であるか,そうでないとしても,被告が原告に解雇に値する事由がないことを容易に知り得たにもかかわらず,重大な過失によってこれを誤認して行った過失による不法行為であるから,いずれにしても,被告は,原告に生じた損害を賠償する義務がある。
<6> 被告は,懲戒事由の追加修正として,原告が沖縄ゴルフツアーに関連して,旅行代理店から被告に内緒でバックリベート90万円相当の旅行クーポン券の交付を受けたと主張するが,事実無根である。b社は被告開局以来の重要なスポンサーであり,原告とB取締役はC社長ら2名に対して沖縄ゴルフツアーに見合う接待をする必要があるとの認識で一致しており,これを受けて原告が川奈ゴルフツアーを企画したのである。
(2) 原告の損害(慰謝料)
本件解雇当時の原告は,妻,大学生の長女,大学受験を間近に控えた長男,多感な中学生の二男及び年老いた両親を抱えており,本件解雇の後,復職するまでの約2年半にわたり,違法な解雇という屈辱,世間からの視線,家族との葛藤,生活不安,家族(特に受験を控えた長男)の受ける精神的な打撃,自己及び家族の将来への不安等が相まって筆舌に尽くしがたい精神的,肉体的な苦痛を受けた。この苦痛に対する慰謝料は少なくとも1000万円を下回ることはない。
(3) まとめ
よって,原告は,被告に対し,上記慰謝料1000万円とこれに対する本件解雇日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の認否,反論
(1) 本件解雇と不法行為の成否について
<1> 本件解雇が無効であることは,既に別件訴訟の判決で確定しているところであるが,無効な解雇であるからといって,それが当然に不法行為として使用者に損害賠償義務を生ぜしめるものではなく,解雇が不法行為に該当するか否かは,個々の事例ごとに不法行為の要件(故意,過失,違法性,損害の発生及び因果関係)を充足するか否かを検討の上判断すべきものである。
<2> まず,原告には懲戒事由としての就業規則違反が存在するので,本件解雇は,懲戒事由がないのに故意又は過失により懲戒処分をした場合に当たらない。また,懲戒処分としてどのような処分を選択するのかは使用者において一義的に明確ではないから,仮に被告が原告に対する懲戒処分の選択を誤ったとしても,そのことで過失があるとまではいえず,別件訴訟の第1審判決も,懲戒処分の選択上,諭旨解雇が相当でないと判断しているにすぎない。
<3> 被告は,本件解雇に先立って原告及びB取締役から事情を聴取しており,その後原告の求めに応じて更に原告の意見を聴いているので,手続上問題はない(なお,沖縄ゴルフツアー中の暴言について事前の事情聴取をしていないことは原告主張のとおりである。)。また,被告において過去に懲戒処分としての解雇の事例が存在しないことは原告主張のとおりであるが,実際には解雇処分相当の事例で本人の申し出によって依願退職しているケースが3件ある。本件解雇の理由となった原告の就業規則違反は重大であるから,被告が本件解雇をしたことに過失はない。
原告は,本件解雇の目的は,被告が原告をCM不正未放送問題の内部告発者であると疑い,原告を社外に追放することにあったと主張するが,そのような事実はない。原告自身,別件訴訟においてそのような主張はしておらず,これを理由とする損害賠償請求もしていなかった。
<4> フランスW杯ツアーの件について
フランスW杯ツアーでW杯入場券を手配することができなかった10名のスポンサーに対し,お詫びの趣旨で各自に旅行クーポン券(6万円相当,旅行代理店負担)と野球チケット(ペアで1万円相当,被告負担)を進呈することは,旅行代理店と被告の協議で決定したことであり,これを勝手に流用することは,たとえB取締役の判断であったとしても許されることではない。しかも,1件10万円以上の資産の処分や接待交際費の支出はりん議決裁が必要とされ,平成10年9月29日の主管会議(局長会)において,販売促進・接待交際費についてはりん議・決裁に従って適正な処理をすることが申し合われ,そのことが同年10月13日に原告を含む部長以上の管理職に説明されているのに,原告は上記旅行クーポン券のうち3名分18万円相当について,りん議・決裁を経ることなく独断で現金化している。
原告は,平成11年7月22日にD専務取締役(以下「D副社長」という。)及びE取締役から上記金員の保管状況を尋ねられ,社内の原告の机の引き出しの中に保管していたと答えているが,このように長期間保管する理由はなく,既に自己のために費消したとしか考えられない。また,原告は野球チケットの使途を明らかにしていない。
<5> 沖縄ゴルフツアーの件について
沖縄ゴルフツアーの件についても,原告は,招待者のうちb社のC社長及びFが参加できなくなったので,その代わりとして現金50万円を用意してほしい旨G営業推進部長(以下「G部長」という。)に申し出たが,同人から拒絶されたため,同人に対し,B取締役が旅行代理店から50万円を拠出させることを承諾しているごとく虚偽の説明をし,また,旅行代理店に対しては,B取締役とともに上記2名を川奈のゴルフ場に招待するので2名分として合計50万円が必要である旨申し向け,あたかもB取締役がこのゴルフに同行し,かつ旅行代理店から50万円を拠出させることを承諾したごとく虚偽の説明をして,旅行代理店に50万円を用意させて受領し,これをC社長に交付した。
しかし,川奈ゴルフ場は予約さえされず,上記招待者の1名であるFはこの企画自体を知らされていなかった上,B取締役も,川奈ゴルフツアー自体は承認したものの,同人が参加することは承知しておらず,原告が旅行代理店から50万円を受領したこと及びこれをC社長に交付したことは全く承知していなかった。
また,沖縄ゴルフツアーにおける原告の暴言が存在したことは,同行したH及び添乗した旅行代理店のIが目撃している上,その後被告の浜松支局長が謝罪に出向いていることからも明らかである。
<6> 懲戒事由の追加修正
本件解雇をした後になって,被告が本件解雇の理由とした上記沖縄ゴルフツアーの50万円の事実関係が,原告の被告に対する虚偽の報告によって歪められていたことが判明した。このため,被告は,新たに判明した下記事実を別件訴訟の控訴審で懲戒事由として主張したが,時期(ママ)に後れた攻撃防御方法として排斥された。しかし,懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情のない限り,その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができないにしても,本件では,原告の虚偽の報告が原因しているのであるから,上記特段の事情が認められる。したがって,下記の事実関係は,本件で争点となっている不法行為の成否に関して考慮されるべきである。
すなわち,原告は,沖縄ゴルフツアーの招待者が実際には10名であるのに参加予定のないb社の2名を水増しして,被告からの同行者2名を合わせた14名で旅行計画を企画,立案し,被告のりん議を経て,被告から旅行代理店に14名分の旅行代金371万円(26万5000円×14名)を支払わせた後,上記2名がキャンセルしたように装い,被告に内緒で旅行代理店からバックリベートとして90万円相当の旅行クーポン券の交付を受け,このうち50万円分を旅行代理店に現金化させ,これを上記水増にかかるb社のC社長に交付した形を取り,残りの40万円を自分で費消した。これは,被告の就業規則46条(7),(10)及び(12)に該当する。
(2) 損害の不発生
被告は,原告の復職を含めて十分な原状回復措置をとっており,これにより原告の損害は回復されている。
また,原告は,解雇されてから復職するまでの間の生活不安等を訴えているが,賃金相当額の仮払いを受けていた上,株式会社cを設立して月額30万円の役員報酬も得ていた。
(3) 信義則違反
原告が,別件訴訟において慰謝料の請求をせず,消滅時効完成間近の平成15年1月16日に至ってから本件訴訟を提起したことは,信義則に反し,かつ訴訟経済に著しく反している。
第3当裁判所の判断
1 懲戒解雇と不法行為の成否
懲戒解雇(本号(ママ)においては,諭旨解雇を含む。)は,被用者による企業秩序の違反に対し,使用者が有している懲戒権の発動によって行われる制裁罰としての雇用契約解約の意思表示であり,使用者の懲戒権の行使は,当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である(ダイハツ工業事件,最高裁第二小法廷昭和58年9月16日判決・判例時報1093号135頁参照)。
しかしながら,権利濫用の法理は,その行為の権利行使としての正当性を失わせる法理であり,そのことから直ちに不法行為の要件としての過失や違法性を導き出す根拠となるものではないから,懲戒解雇が権利の濫用として私法的効力を否定される場合であっても,そのことで直ちにその懲戒解雇によって違法に他人の権利を侵害したと評価することはできず,懲戒解雇が不法行為に該当するか否かについては,個々の事例ごとに不法行為の要件を充足するか否かを個別具体的に検討の上判断すべきものである。
そして,従業員に対する懲戒は,当該従業員を雇用している使用者が,行為の非違性の程度,企業に与えた損害の有無,程度等を総合的に考慮して判断するものであって,どのような懲戒処分を行うのかは,自ずから制約はあるものの,当該事案に対する使用者の評価,判断と裁量に委ねられていること,他方,雇用契約は労働者の生活の基盤をなしており,使用者の懲戒権の行使として行われる重大な制裁罰としての懲戒解雇は,被用者である労働者の生活等に多大な影響を及ぼすことから,特に慎重にすべきことが雇用契約上予定されていると解されることを対比勘案するならば,懲戒解雇が不法行為に該当するというためには,使用者が行った懲戒解雇が不当,不合理であるというだけでは足らず,懲戒解雇すべき非違行為が存在しないことを知りながら,あえて懲戒解雇をしたような場合,通常期待される方法で調査すれば懲戒解雇すべき事由のないことが容易に判明したのに,杜撰な調査,弁明の不聴取等によって非違事実(懲戒解雇事由が複数あるときは主要な非違事実)を誤認し,その誤認に基づいて懲戒解雇をしたような場合,あるいは上記のような使用者の裁量を考慮してもなお,懲戒処分の相当性の判断において明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合に該当する必要があり,そのような事実関係が認められて初めて,その懲戒解雇の効力が否定されるだけでなく,不法行為に該当する行為として損害賠償責任が生じ得ることになるというべきである。
2 本件解雇と不法行為の成否
(1) 本件解雇通知に記載された懲戒事由(被告の懲戒事由追加の主張に対する判断を含む。)
本件解雇が無効であることは,既に別件訴訟の判決で確定しているところであるが,本件解雇が不法行為に該当するか否かについて争いがあるので,この観点から解雇事由について再度検討することとする。
<1> フランスW杯ツアーの件について
a 被告は,本社営業部長の原告が中心となって,平成10年6月に,販売促進目的でスポンサー18名をフランスW杯ツアーに招待する企画をした。ところが,旅行代理店においてスポンサー18名中10名分のW杯入場券を手配することができず,そのため,被告のD副社長,B取締役及びG部長は,謝罪に訪れた旅行代理店の社長らと善後策を協議し,旅行代理店から謝罪の趣旨で交付された旅行クーポン券(1人当たり6万円相当で合計54万円相当)に被告が費用を負担して用意する野球チケット(ペアで1万円相当)を添えて,これをW杯観戦を希望しない1名を除く9名のスポンサーに交付してお詫びをすることになった。しかし,受領を辞退するスポンサーもあって,最終的に3名分18万円相当の旅行クーポン券と野球チケットが残り,B取締役は,これらを販売促進のために利用しようと考え,原告に対し,販売促進のため適宜利用するよう指示し,これらを所持していた原告に処理を任せ,原告は旅行代理店に依頼してこの旅行クーポン券を換金(18万円)した(なお,野球チケットをどのように処理したのかは不明である。)。B取締役としては,原告に処理を任せた時点で旅行クーポン券の具体的な利用方法を考えていたわけではなく,販売促進用として利用する限りにおいて,具体的な利用方法を原告に一任するつもりでおり,旅行クーポン券等を換金することについても特に否定する考えはなかった。以上の措置は,D副社長やG部長に相談,報告されなかった。(<証拠省略>,弁論の全趣旨)
なお,その当時,被告の組織は,総務センター,営業センター,放送センターの3つに大別され,D副社長が営業センターを統括し,B取締役がその補佐を務めていた。本社営業,東京支社,関西支社等は営業センターの統轄下にあり,本社営業(B取締役が主管)の下に原告が部長を務める本社営業部が所属していた。(<証拠省略>,弁論の全趣旨)
b 被告は,上記スポンサーへの旅行クーポン券と野球チケットの進呈は,旅行代理店と被告の協議で決定したことであり,たとえB取締役の判断であっても,りん議を経ず勝手に流用することは許されないと主張し,<証拠省略>によれば,被告のりん議規定(<証拠省略>)では,1件30万円以上の接待交際費の支出,1件20万円以上の資産の処分等はりん議を経ることが必要とされているが,同規定の運用に関する事項を定めるりん議規定運用細則(<証拠省略>)ではこれがさらに厳しく規制され,1件1回当たり10万円以上の接待交際費の支出,1件当たり取得価額10万円以上の資産の処分等がりん議事項とされ,接待交際費の支出に関する事務処理についても,金額,伝票作成方法,資料添付等を含めて細かく規制され,スポンサーに現金を交付するようなことは予定されておらず,また,りん議決裁後の企画の取り消しないし内容変更が生じたときは,すみやかに社長等への報告をしなければならず,内容の変更によっては主幹の判断により再りん議をすべき旨規定されていることが認められる。
c したがって,上記りん議規定等の趣旨からすれば,スポンサーに交付しなかった18万円相当の旅行クーポン券と野球チケットについては,その企画ないし案件における利用(実行)がされないことが決まった以上,すみやかに被告に返還すべきものであり,これを勝手に現金化したり,他の費用に流用することは許されない。もっとも,旅行クーポン券を販売促進費として流用することは本社営業の主管であったB取締役の判断であるが,旅行クーポン券等の進呈は旅行代理店と被告の協議で決定された事項であること,りん議の制度は,1人による独断専行を防止し,複数の者の意見や批判を経て合理的な判断と実行を行う目的で設けられていることを考えれば,たとえ主幹のB取締役であったとしても,同人の一存で上記旅行クーポン券等の流用をすることは,これを許容する内規等がない限り許されないことになる(B取締役にそのような権限が付与されていたと認めるに足りる証拠はない。)。そうすると,フランスW杯ツアーの(ママ)企画した原告は,前記旅行クーポン券等を被告に返還するか,少なくとも事後にとった処理について指示を仰ぐべきであり,これを怠った原告の上記行為は,被告の就業規則46条(6)(職務上の義務に違反し,または職務を怠ったとき),(7)(社員としてふさわしくない行為のあったとき)及び(16)(懲戒に該当する行為につき故意に報告を怠ったり,またはその事実を隠蔽したとき)に該当すると認められる。
d 次に,上記就業規則違反の軽重については,原告が換金した18万円相当の旅行クーポン券は,もともと旅行代理店から謝罪の趣旨で受領したものであり,原告から後任者に引き継がれているので被告に実害がなく,流用についても役員であるB取締役の承認を得ているから,重大な規律違反とは言えないとの見方もあり得るところであり,原告としても,上司のB取締役の指示があったため,安んじてこれに従ったという面があることは否定できない。そして,原告の上司であるB取締役は,別件訴訟の証人尋問において,18万円相当の旅行クーポン券の処理を原告に一任した趣旨について,「それがゴルフの接待に回るのか,夜の接待に回るのか,それは全部包括してですね,現場の営業部長に任せたと,私はそういうふうに解釈しております。」と述べ,原告が換金した18万円の処理についても,「それはもうそのぐらいの金額はですね,営業部長の判断でどうでもなることだと思います。」と述べている。
しかし,このようなB取締役の見解が,被告のりん議規定等の内規(<証拠省略>)に合致していないことは前記のとおりであるから,B取締役の指示があったことをもって原告の責任が解消されるものではない。また,原告が旅行クーポン券を換金して作り出した現金18万円は,被告の帳簿に記載されない裏金であり,このような処理を許すときは,被告の公正な会計処理を損なうだけでなく,担当者による横領その他の不正の原因ともなり得ることを考えれば,その非違性を軽く見ることは正当ではない。しかも,当時の原告は,本社営業部長の職にあり,管理職として自ら適正な事務処理を行うべき立場にあったと言えるから,たとえ前記旅行クーポン券の流用についてB取締役の指示ないし承認があったとしても,そのことで自らの責任を回避できるものではない。
e また,一般的にみれば,日常,他社との熾烈な競争にさらされている営業の現場では,機動的かつ有効な営業活動を行うために,常時手元に余裕の資金をプールしておき,必要に応じてこれを利用することへの欲求や,営業の過程で不要になった商品券や旅行クーポン券等を,その都度社内手続どおりに返戻していたのでは営業が成り立たないといった意見があっておかしくはないし,儀礼的に授受されるビール券等,金額の少ないものについては,これを会社の経理に載せることなく,現場限りの処理がされ,会社においてもそのような処理を黙認していることが多いのではないかと推測されるところであるが,このような欲求や事実上の処理については,一面において合理性が認められるものの,これが行き過ぎると会社の金品の管理がルーズになり,私物化や不正の温床となって,健全な企業経営が阻害される危険性があることを否定できない。被告においても,平成10年9月の税務調査で多額の商品券の保管,管理について指摘を受けたことから,同月29日の主管会議において,販売促進・接待交際費についてりん議決裁に従った適正な処理を徹底することが申し合われ,被告の総務センター経理部において同年10月5日付けで売上げ及び経費の処理方法等を記載した書面を作成の上,これに従った事務処理を徹底するため,同月13日に部長以上の管理職を対象とした事務処理説明会を開催し,原告もこれに出席していたことが認められるところである(<証拠省略>,弁論の全趣旨)。
f 原告は,上記の事務処理に違反して,旅行クーポン券の換金とその後の現金保管を行っており,その保管状況についても,平成11年7月22日にD副社長及びE取締役から上記金員の保管状況を尋ねられ,社内の原告の机の引き出しの中に保管していたと答えている(<証拠省略>,弁論の全趣旨)が,その時点で上記保管状況の確認がされたわけではなく,また,原告が旅行クーポン券を換金した同年初めころ(<証拠省略>)から上記事情聴取を受けるまでの間についても,上記金員が社内の原告の机の引き出しの中に保管されていたことを裏付ける的確な証拠はなく,事実関係は不明瞭である(なお,原告は,同年8月の異動時には後任者に販売促進費として18万円を引き継いているが,そのことから原告が述べる上記保管状況が当然に推認されるわけではない。)。保管が長期化した事情について,原告は,B取締役の転勤(B取締役は,同年3月1日付けで東京支社長に異動している。<証拠省略>),営業部事務所の移転,CM不正未放送問題の発覚による社内の混乱等の事情から,上記金員の存在を失念して利用しなかった旨の主張をしているが,この点についても今となっては確認のしようがない。
g 以上を総合すると,18万円の旅行クーポン券等の流用については,上司のB取締役から指示があったため,原告が安んじてこれに従ったという面があり,現金18万円が後任に引き継がれているという事情は認められるものの,原告は,同人の一存で上記旅行クーポン券を換金し,その保管状況も第三者の目からは不明瞭であるとの批判を免れないものであったことを考えると,原告の前記就業規則違反は軽視できない非違行為であるというべきである。
<2> 沖縄ゴルフツアーの件について
a 沖縄ゴルフツアーは被告の本社営業部の要請により,営業推進部において発議した企画であり,平成11年1月11日に同部のG部長が発議し,同月13日にりん議決裁が下り,同年2月6日から同月8日までの3日間にわたって実施された。営業推進のG部長は,沖縄ゴルフツアー実施の1週間ほど前になって,原告から,同ツアーの招待者のうちb社の2名(C社長及びF)が参加できなくなり,両名をB取締役と一緒に川奈ゴルフ場に連れて行くことになったので,その費用として現金50万円を用意してほしい旨の申し出を受けたが,これに応じなかった。その後,原告は,B取締役に対し,b社の2名が参加できなくなった旨を報告し,その代替として両名を川奈ゴルフ場に招待すること及び費用は沖縄ゴルフツアーの2名分の費用をそのまま充てることを提案して了解を得た。しかし,原告は,川奈ゴルフ場へのゴルフツアーを企画せず,旅行代理店と交渉して上記2名のキャンセル手続をさせ,同月9日ころ,既に被告から旅行代理店に支払われていた14名分の旅行代金371万円(26万5000円×14名)のうち,50万円を旅行クーポン券で返還を受け,これを旅行代理店において直ちに換金して50万円を受領し,そのころこれをb社のC社長に交付した。原告は,旅行代理店から旅行クーポン券の交付を受け,これを現金化してC社長に交付したことについてB取締役に相談,報告せず,また以上のような処理をしたことを,D副社長やG部長に相談,報告しなかった。(<証拠省略>)
b これに対し,被告は,本件訴訟において,上記b社の2名の招待は架空であり,原告が旅行代理店からバックリベートとして90万円相当の旅行クーポン券の交付を受け,このうち50万円分を旅行代理店に現金化させ,これをb社のC社長に交付した形を取り,残りの40万円を自分で費消したと主張する(なお,被告は,別件訴訟の控訴審においても,原告が旅行代理店からバックリベート90万円相当の旅行クーポン券の交付を受けたことが新たに判明したとして懲戒事由の追加を主張したが,この主張は時期(ママ)に後れた攻撃防御方法として排斥されている。)。
懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情のない限り,当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから,その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできず(山口観光事件,最高裁第一小法廷平成8年9月26日判決・判例時報1582号131頁参照),懲戒事由の追加は原則として許されないが,不法行為の判断においてはそのような拘束を受けないから,懲戒をした時点において客観的に存在した事実関係に基づいて個別具体的に不法行為の該当性を判断すべきものである。したがって,被告主張の上記事実が認められるのであれば,本件の判断において考慮すべきである。
しかし,旅行代理店の静岡営業支店長が,弁護士法23条の2による弁護士照会に応じて作成した回答書(乙15の2)には,同社が被告から沖縄ゴルフツアーの旅行企画を依頼されたこと,原告に対し,平成11年2月9日に70万円,同月11日に20万円の合計90万円の旅行クーポン券を交付したこと,それ以前の平成10年12月の企画時点で原告から旅行クーポン券に(ママ)現金化を依頼されていたこと,50万円相当の旅行クーポン券を現金化して原告に交付したことの各事実が記載されているものの,この回答書の記載は極めて簡略であって,合計90万円の旅行クーポン券を直接原告に交付したか否かの点を含めて詳細が明らかではなく,旅行代理店の担当者のIが平成11年7月7日付けで作成した念書でも,同人と原告との交渉で50万円の旅行クーポン券を現金化して原告に交付した趣旨の記載はあるものの,90万円もの旅行クーポン券を原告に交付したことを窺わせる記載はない(<証拠省略>)。旅行代理店の上記回答書にはギフト券販売台帳が資料として添付され,そこには平成11年2月9日に70万円,同月17日に20万円の旅行クーポン券発券の記載がされているから,常識的には,合計90万円相当の旅行クーポン券が発券されている事実は認められるというべきであるが,そうであれば,なにゆえIが事実と相違する念書を作成したのかという疑問が生じるし,原告は,旅行クーポン券は担当者のIから交付され,その件で旅行代理店の静岡営業支店長と会ったことはない旨の供述をしているので,原告が受領した50万円分の旅行クーポン券を除く残りの40万円分の旅行クーポン券が原告に交付されたとみるにはなお疑問があり,乙15の2によってこの事実を認定するには十分ではない。そうすると,被告が主張する90万円のバックリベートについては,これを認めるに足りる証拠はないから,被告の上記主張は採用することができない。なお,これに関連して,被告のI常務取締役から<証拠省略>の陳述書が提出され,そこには,同人が旅行代理店の静岡営業支店長から事情を聴取した際,同支店長から,原告が沖縄ゴルフツアーの際に,あらかじめb社の2名のキャンセル分を含ませた旅行計画と50万円の現金化などをIに持ちかけた旨,あたかも原告が頭書(ママ)から50万円の現金化を計画していたかのごとき記載がされているが,この点も裏付けが十分でなく,認めるに足りない。
c そこで,前記<2>aで認定した事実関係に基づいて,原告の就業規則違反の有無を判断する。
まず,旅行代理店が作成した沖縄ゴルフツアーの参加者名簿予定(乙9の3)にはb社の2名の氏名の記載がされているものの,旅行代理店が作成した航空券発券等台帳(乙17)には両名の記載がなく,被告はこの齟齬を指摘している。しかし,この点については,企画当初の段階では参加者の氏名が明らかでない等の事情から,とりあえず被告の従業員の氏名を借用するなどしておき,参加者が確定した時点で改める方法をとっていた旨の説明が原告からされており,実際にも,乙9の3と乙17に記載された参加者の氏名を対比すると,ほとんど一致しておらず,乙17に記載された参加者の氏名には被告及び旅行代理店の従業員の氏名が多く記載されていることが認められるから,この点については原告が説明するような事情による相違であったと認めることができる。
次に,原告が両名接待の代替案として提案した川奈ゴルフツアーについて具体的な企画をしなかったことは原告も自認しているところ,原告は,この点について,CM不正未放送問題で社内が混乱していた関係で企画しないままに終わった旨の説明をしている。しかし,CM不正未放送問題で社内が混乱し始めたのは平成11年3月11日のJ社長の記者会見後のことであるから,川奈ゴルフツアーの企画をする時間的な余裕はあったようにも思われ(<証拠省略>),この点に関する原告の説明には得心が行かない。
また,原告がなぜ旅行代理店から旅行クーポン券の交付を受けようと考えたのか,なぜb社のC社長に現金50万円を交付しようと考えたのか,なぜ自分だけで独断専行してしまい,被告のりん議を経ようとしなかったのかという点についても,原告から納得の行く説明はされていない。企業が得意先等を旅行等に招待したような場合,企画した旅行の参加者にキャンセルが出たときの一般的な事務処理方法としては,企画旅行を担当した代理店からその企業に不要代金が返還され,その事実が領収書その他の資料で記載され,企業の経理上も返金の事実が明らかにされるのに対して,本件では,沖縄ゴルフツアーの参加者2名について,上記と異なる処理がされている。原告がb社のC社長を接待する必要があると判断したのであれば,その件について別途発議の上,りん議を経て必要な企画をすれば足りるのであり,<証拠省略>によれば,原告は,平成11年3月23日に,企画した旅行がスポンサーの都合で実施できないので代替策として37万円相当の旅行クーポン券を進呈したい旨のりん議を発議し,同年4月1日に決裁が下りていることが認められるから,C社長を(ママ)接待についてもそのような方法を取ることができたはずである。実際,<証拠省略>によれば,過去において,被告が企画した旅行に参加できなかったb社等のスポンサーに対し,改めてりん議を経て代替の接待を行った事実も認めることができる。もっとも,被告のりん議規定及びりん議規定運用細則の定め(<証拠省略>)に照らせば,C社長に接待として現金50万円を交付する行為は,それ自体が被告において容認されていない行為であったと認められるから,原告がC社長への現金50万円の交付について,被告のりん議を申し出ても決裁が下りなかった可能性が高い。
したがって,原告において旅行代理店から旅行クーポン券で払戻を受けたり,これを支出及び使途が不明朗になりがちな現金に換えることは,そもそも被告において許されていないだけでなく,B取締役も承認していなかった不正常な処理であり,そのような処理をする必要性や合理性もなかったということができる。この点,B取締役は,別件訴訟において,原告がC社長に50万円を交付したことはノーマルな対応ではなく,上司に相談すべきであったとしながら,b社は被告開局以来のつながりの深いスポンサーであったので,原告が特別の判断をしたと思われ,実害もないので重大な非違行為に該当しない旨の証言をしているが,本件記録を検討しても,これが緊急に処理しなければならない案件であったとは到底認められないから,原告が独断専行する必要性や合理性はなく,かえって,支出及び使途が不明朗になりがちな現金交付による接待を許容するときの弊害を考えれば,原告の行為の非違性はむしろ高いというべきである。
d 以上によれば,原告の上記行為は,被告の就業規則46条(6)(職務上の義務に違反し,または職務を怠ったとき),(7)(社員としてふさわしくない行為のあったとき)に該当し,また,原告の一存でC社長に50万円を交付して被告に同額の損害を与え,これらの事実を報告しなかったと言えるから,同(12)(故意,または重大な過失により会社に損害を与えたとき),(16)(懲戒に該当する行為につき故意に報告を怠ったり,またはその事実を隠蔽したとき),(17)(就業規則,または就業規則に基づいて作成された諸規定に違反したとき。具体的には,就業規則7条(2)に規定された禁止事項(会社の業務,または自己の職場を利用して,自己および第三者のために関係先から,不当な金品,報酬を受けまたは与えること)に違反する)に該当すると認められる。
<3> 沖縄ゴルフツアーでの暴言について
被告は,本件解雇の第3の理由として,原告が,沖縄ゴルフツアー中,d社のK社長に対し,酔余「こういうゴルフ旅行につれてきてやっているのだから,しっかり出稿してもらわないと困る」などと発言し,同人に不快感と屈辱感を与えたとの事実を主張し,同ツアーに同行した被告の従業員のHはこれに沿う陳述をし(<証拠省略>),被告の浜松支局長Lも,Hと旅行代理店の担当者のIから同様の趣旨の話を聞き,d社を訪問してK社長に謝罪した旨の記載のある陳述書(<証拠省略>)を提出している。
しかし,被害者とされるKは,<証拠省略>の陳述書において,そのようなことを原告から言われたことはなく,楽しいツアーであった旨を述べている上,営業経験の長い原告が,上記ツアーで初めて会った(<証拠省略>)取引先の社長に対して上記のような礼を失する態度を取ることは通常考え難いことである。もちろん,原告は営業部長であるから,その職責上からしても,沖縄ゴルフツアーの宴席で,Kに対しCM出稿の依頼をしたことは十分考えられることであり,その際,物事をはっきり述べる原告の性格(本人尋問時の応答の様子から,そのように窺われる。)もあって,多少くだけた態度で直裁(ママ)な表現をした可能性はあるものの,宴席での発言でもあり,また,K自身も不快な思いをしていないというのであるから,これを「暴言」と評することはできず,取り立てて懲戒事由とするほどのものではないといえよう。
いずれにしても,Lの陳述(<証拠省略>)は伝聞にかかる事柄を述べるものであり,Hの陳述書(<証拠省略>)についても,宴席での見聞であることから正確性に疑問なしとせず,いずれの証拠についても,上記Kの陳述書(<証拠省略>)の記載と対比して容易に採用することができないから,被告が主張する上記第3の懲戒理由の事実関係は,これを認めることができない。
(2) 原告に対する事情聴取等
<証拠省略>,原告本人によれば,被告は,原告が金銭を不正に処理しているとの疑いを抱き,D副社長とE取締役が中心となって,平成11年3月ころから調査を開始し,同年7月22日に原告から事情を聞いたほか,同日及び同年8月26日にB取締役から事情を聴取し,そのほかにも関係する従業員や旅行代理店の担当者のIらから事情を聴取するなどの調査を遂げた上,同年9月14日付けで本件解雇をしたことが認められる。
(3) 被告における過去の懲戒事例
被告において,過去において,懲戒解雇はもとより諭旨解雇についても行われたことがないことは,当事者間に争いがない。
しかし,<証拠省略>,証人Mの証言によれば,<1>総務局付き部長が社員に命じてある株主の株式を他の株主に譲渡するよう行動させたため,被告において懲戒が検討されたが,本人の申し出により昭和56年11月11日付けで依願退職となったこと,<2>東部支社副参事が再三の注意にもかかわらず無断欠勤を続け業務命令にも従わなかったため,被告において懲戒が検討されたが,本人の申し出により平成5年1月31日付けで依願退職となったこと,<3>制作管理部長が社宅制度を悪用して自宅を賃貸物件のように工作し,4年間にわたり被告から不正に318万2500円を受領したため,被告において懲戒が検討されたが,本人の申し出により平成7年2月3日付けで依願退職となったこと,<4>平成11年3月以降,CM不正未放送問題の責任を取って,代表取締役及び取締役東京支社長がそれぞれ引責辞任したほか,取締役,部長クラス等の役職罷免や降格,減俸その他の処分が行われたこと,依願退職となった上記3名については,本人が依願退職の申し出をしなければ懲戒処分としての諭旨解雇処分を受けた可能性が高かったこと,原告に対しても本件解雇前に依願退職を勧めたが,原告がこれに応じなかったため,本件解雇に至ったことが認められる。
(4) 本件解雇とCM不正未放送問題との関連
原告は,原告をCM不正未放送問題の告発者と疑った被告が,CM不正未放送問題の内部告発者放逐の手段として本件解雇を行ったと主張しているので,この点について次に判断する。
<1> まず,CM不正未放送問題について,事実の発生から調査結果の発表に至る事実の経過についてみると,前記事実,<証拠省略>及び証人N,同M,原告によれば,平成11年2月8日ころ,「静岡第一テレビを正しく導く会」名義で,被告がCMを間引きをして契約どおり流していない旨の告発文書が被告の大手スポンサー宛に資料(放送通知書及び放送運行表)を添えて郵送されたことから,被告を震憾させる大問題に発展した事件であり,同月15日にスポンサーから上記事実を通知された被告は,同月16日に「静岡第一テレビCM不正未放送問題調査委員会」を設置して内部調査を開始し,同年3月11日,J社長とO常務取締役の両名が記者会見を行い,その時点で判明していたCM未放送の事実と未放送本数を明らかにして謝罪したこと,これを受けて翌12日,民放連による被告の除名とeテレビネットワーク協議会による被告の会員資格の無期限停止の措置がそれぞれ決定されたこと,その日以降,被告は,J社長自らがスポンサーの事務所等に出向いて不祥事の謝罪をする一方,同月16日には静岡大学名誉教授,弁護士等を含む8名による社外の「CM不正未放送問題調査委員会」を設置したこと,同月19日に開かれた被告の臨時役員会でJ社長の退任,D副社長の専務降格,他の常務取締役の減俸等の人事が決定されたこと,同月31日に上記社外調査委員会による調査結果の中間報告があり,同年5月13日,同委員会による最終調査報告書(<証拠省略>)の提出に至ったこと,これら一連の調査によって,被告が,スポンサーから広告料を受領していながら,東京支社扱いでスポンサー619社中の211社,CM本数44万0473本中の5141本について,大阪営業部でスポンサー130社中の1社,CM本数4万2956本中の1本について,それぞれ不正にCM放送をしなかったこと(<証拠省略>)が判明したことが認められる。
そして,被告は,CM不正未放送問題によって社会的な非難を受けて信用を失墜し,民放連からの除名及びeテレビネットワーク協議会会員資格の無期限停止の措置を受けただけでなく,スポンサーからのCM出稿の減少やスポンサーに対する損害賠償等による収支の悪化(原告は,被告の売上げが100億円弱のところ,CM不正未放送問題による被告の損害は四十数億円以上に及んだ旨の供述をしている。)という経営上の問題も発生するなど,甚大な被害を受けている(<証拠省略>,弁論の全趣旨)。
<2> 次に,原告の最終準備書面によれば,本件解雇がCM不正未放送問題の内部告発者放逐の手段として行われた旨の原告の主張の論拠は,主に,<1>被告の幹部が原告を内部告発者であると疑い,原告に対して厳しい見方をしていたこと,<2>本件解雇がされた当時,内部告発者を摘発して排除しようとする動機があったこと,<3>内部告発者を摘発して排除することが部長以上の幹部の重要な課題とされていたこと,<4>本件解雇に懲戒事由がなく,過去の懲戒事例と比較しても極端に重い異常な処分であることの4点にあると解される。
そして,(証拠・人証略)によれば,J社長がCM不正未放送問題で謝罪をした後の被告の社内では,企業として非常に厳しい事態にあるとの認識から,社内の引き締めと,営業その他の上で発生する諸々の問題の検討と対策を徹底するため,平成11年3月16日以降毎日定例の部長会を開催し,主管会議も随時開催することが決まり,これとは別に,同年5月になって,Lの発起により,危機にある被告を再建する方策を協議,実践する場として,社内の中核とも言うべき被告開局時入社の一期生及び部長職にある者らの有志による「静有会」が結成されたこと,Lが発した「静岡第一テレビ有志の会「静有会」結成の辞」(<証拠省略>)には,「今回のCM不正未放送問題は,御愛顧いただいたクライアント・広告代理店を騙した恥ずべき犯罪であった。又,この問題の発端となった告発文と時を同じくして出されたいわゆる怪文書は,まさしく恩を仇で返す行為であり,二重の意味で静岡第一テレビを愛して下さった人々を裏切ったことは慚愧に耐えない。」などと印刷され,下部の余白部分には手書きで,「会は ・再生プラン・広報・調査(犯人摘発)の3部会に別れ,包み隠さず事実・知り得ていた事を論議するものです。」などと記載されているほか,部長連絡会の際にも,告発文や怪文書を発した者の調査,追及に関する要望や話題が再三出されていることが認められる(なお,ここで問題とされている告発文が,前記平成11年2月8日付けの「静岡第一テレビを正しく導く会」名義の文書であることは明らかであるが,怪文書については,「個人的な誹謗,中傷らしい。」(<証拠省略>),CM不正未放送問題後に,被告の社長及び幹部や系列会社を誹謗,中傷するスキャンダラスみたいなもの(証人M)という程度しか明らかではない。)。
また,平成10年6月から被告の最高顧問を務め,平成11年6月に常勤監査役となり,平成13年6月に退任した証人Nは,同人が平素は被告の東京支社に勤務し,要件がある時に静岡の本社に出向いていたこと(監査役になってからは役員会に出席したりもしている),平成11年2月にCM不正未放送問題が発生した後,J社長がキイ(ママ)局のeテレビに再三出向くことがあり,その帰路に同人が東京支社のNを訪ねて雑談した際,具体的ではないものの,内部告発者の探索をeテレビ側から求められていると受け取れるような発言をしたこと,その発言からNは被告において内部告発者の探索が行われていると理解したこと,J社長が同年3月31日付けで辞任して間もなく,同人からNに対し,部長会の静有会が調査した結果が出ているので読んでほしい旨の電話があり,2,3日して被告の本社に出向いてこれを読んだところ,原告が内部告発者であると疑うものがほとんどであったことを証言しているほか,「会社の幹部から,今度のCM放送の不正事件を告発したのはXであるという意見をかなり経営陣が持っていまして,相当の厳しい見方をしていたので,あっ,X君,ねらわれているなとは思っていたわけですけれども」,「静有会なんかの社内調査によってもX君が告発した張本人であると,間違いないというような雰囲気になっていましたんで,これはX君ねらわれているなと,こう感じてました。」などと証言しており,B取締役も別件訴訟において,確証はないものの,原告が内部告発者の一員というか主犯として本件解雇の処分を受けたと推測している旨の証言をしている(<証拠省略>)。
<3> 一般論として,会社に甚大な損失を及ぼすような内部告発があったときに,社内で内部告発者の探索,追及が行われることは十分考えられる動きであり,平成11年4月5日の部長連絡会でも,O常務取締役が,告発に対する対応として,日頃の情報収集をそれぞれの立場で続けてほしい旨の発言をしていることが認められる(<証拠省略>)から,これらを関連づけてみれば,J社長がeテレビに出向いて事態の説明,内部告発者の特定,あるいは再建策その他について協議等をしていたことや,部長職にある者たちが内部告発者に関する情報収集を行っていたことを述べるN証言は大要において信用することができ,時期や評価にかかる部分を別とすれば,NがJ社長から電話を受け,本社に出向いて部長クラスの調査結果を読んだことや,その中に原告が内部告発者と疑う記述が多くあった(「ほとんど」まで言えるかどうかは定かでない。)ことについても認めることができるであろう。
しかし,平素東京支社で勤務するNが被告の役員会での審議の詳細や,内部告発者に対する対応について的確に把握できていたのかは疑問であり,原告の諭旨解雇が決定された経緯についてもNは承知していない(N証言)。加えて,Nの陳述書(<証拠省略>)及び証言を検討すると,同人は,本件解雇の理由を検討することなく,原告が内部告発者であることを理由に解雇されたことを当然の前提として本件解雇が無謀な解雇であるなどと述べているように思われる。このような点をも考え併せると,Nの証言に頼って,原告が内部告発者であることを理由に本件解雇されるに至ったと速断することは危険である。
また,当時の被告を取り巻く諸情勢に照らせば,CM不正未放送問題による当面の危機的状況からの脱却と被告の再建策の検討が最優先課題であって,内部告発者の探索にばかり傾倒できる状況にはなかったものと考えられ,<証拠省略>によれば,部長会での話題も,被告の再建策に関する協議や事務連絡等が中心であったように認められる。
<4> 他方,E取締役は,別件訴訟において,平成11年3月ころ,原告に関する旅行クーポン券の情報を耳にし,同年4月初めころ旅行代理店のIから事情を聞き(<証拠省略>によれば,同年7月7日付けで同人の念書が作成されている。),同月12,3日ころになってスポンサーに授受の事実確認をした結果,3名のスポンサーに旅行クーポン券を交付していないことが判明したため,こうした事前の調査結果を踏まえて,同月22日に原告及びB取締役から事情を聴取した旨の証言をしている(<証拠省略>)。調査の時期や詳細は明確ではないが,平成11年7月22日に原告及びB取締役から事情を聴取していることは当事者間に争いがないので,少なくともこれより相当期間前から調査が開始されたことが合理的に推測できる(事前にある程度の情報収集や関係者の調査をしてから本人である原告の事情聴取をするというのが普通の流れであろう。)。
したがって,被告が原告に対する調査をすることなく本件解雇をしたとは言えないし,原告に就業規則違反の事実(非違行為)が認められ,これらがいずれも取るに足りない違反であると言えないことは前示のとおりである。もとより,非違行為の軽重の判断は単純なものではなく,見る立場,評価する立場によって違いが出ることはやむを得ないところであるが,原告が被告から内部告発者として疑われていたことを前提としてその延長線で見るのでは,その非違性を過小に評価するおそれがあるし,使用者に及ぼした損害の有無,程度が懲戒の判断をする要素の一つにすぎないことを忘れ,CM不正未放送問題による損害を念頭にして懲戒の軽重を比較するとなると,これまた評価を誤る危険性がある。さらに,諭旨解雇は被告の就業規則上最も重い懲戒処分に属しているが,退職金を支給しない懲戒解雇よりは軽い処分である(<証拠省略>)ところ,過去において,懲戒解雇や諭旨解雇の事例はないものの,非違行為による懲戒が問題となり,本人の申し出によって依願退職処理された事例があることは前記のとおりであり,これらの事例との比較においても,前記認定にかかる原告の就業規則違反の事実(前記2(1)の<1>a,<2>aの各事実)をもって原告を諭旨解雇することが,明らかに懲戒事由を欠いているということはできないし,被告が原告をCM不正未放送問題の内部告発者であると疑って社外放逐しようとしたのでなければ合理的に本件解雇の理由を考えることができないと言えるものでもない。
<5> そうすると,CM不正未放送問題発生後,被告が内部告発者の探索と調査を行った結果,原告を内部告発者と疑っていたと言えるにしても,前記認定にかかる非違行為が形式であって,真実はCM不正未放送問題の内部告発者放逐の手段として原告に対する本件解雇を行ったものであると認定するには,根拠が薄弱であると言わざるを得ず,その趣旨を述べる<証拠省略>,Nの証言及び原告の供述部分は採用することができない。
(4)(ママ) 不法行為の成否
<1> 以上に検討したところによれば,被告がCM不正未放送問題の内部告発者放逐の手段として原告に対する本件解雇を行ったと認めることはできないから,故意による不法行為をいう原告の主張は採用することができない。
<2> また,前示のとおり,従業員に対する懲戒は,当該従業員を雇用している使用者が,行為の非違性の程度,企業に与えた損害等の有無,程度等を総合的に考慮して判断すべきもので,どのような懲戒処分を行うのかについては,使用者の評価,判断と裁量に委ねられる面があるところ,本件解雇が原告及び関係者に対する事情聴取等を経た上で行われていること,原告に就業規則違反の事実が認められ,これらが取るに足りない違反であると言えないこと,被告における過去の依願退職事例3例(これらはいずれも実質的には懲戒処分としての解雇が想定された事例である。)と対比して,原告の前記非違行為が特に軽微であるとは言えないことに照らせば,本件解雇の相当性の判断において明白かつ重大な誤りがあるとすることはできず,被告に過失を認めることはできない。
なお,B取締役にせよ,原告にせよ,第一線の現場に立つ者からすれば,この程度の金銭,この程度の流用,という感覚が生じるのはやむを得ない面があり,現場が活性化しなければ競争に打ち勝つことができず,ひいては会社の浮沈にも係わることを考えれば,B取締役が原告を擁護する気持ちも理解できないではないが,それが唯一絶対の視点というものではないから,原告が自己の非違行為を軽微と考え,それを前提に本件解雇が不法行為にまで該当すると結論付けるのは,説得力に欠けると言えよう。
<3> CM不正未放送問題の関係者に対する前記懲戒処分と原告に対する本件解雇とでは,事案の性質が全く異なるので,両者を単純に比較することは困難であるが,被告に与えた損害という点でみれば,原告の非違行為による損害はCM不正未放送問題による損害と比較して微々たるものであると言える反面,社内の適正な金銭処理,従業員の規律維持という面から見れば,原告の行為の非違性も容易に看過できないものがある。したがって,CM不正未放送問題の関係者に対する前記の懲戒処分と比較して極端に均衡を欠いているこ(ママ)ということはできないし,CM不正未放送問題を起こして社会から強い非難を受けていた当時の被告とすれば,前述のような現場からの要望や見方もさることながら,社会の非難,批判を意識して,企業倫理の点からも社内の不祥事に対して厳正な処分をしなければならない立場にあったことが推認される。
また,沖縄ゴルフツアーにおける原告の暴言の事実とその他の懲戒事由とを比較すれば,上記暴言の事実が本件解雇理由に占める重要度は相対的に低いと言えるから,原告の暴言に関する事実に誤認があったことにより,本件解雇が違法になることはない。
3 結論
以上のとおり,本件解雇は不法行為に該当せず,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 宮岡章)