静岡地方裁判所 平成15年(ワ)787号 判決 2005年1月11日
原告
X'こと
X
同訴訟代理人弁護士
藤森克美
被告
版権処理機構こと
Y
同訴訟代理人弁護士
伊東章
主文
1 被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成12年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,270万円及びこれに対する平成12年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の概要
本件は,原告が,人事録から原告の経歴を抹消するための抹消費用等の名目で,金員を騙取ないし喝取されたとして,上記金員の振込先の銀行口座を開設した被告に対し,この不法行為の幇助者に当たるとして,民法719条2項,1項,709条に基づき,上記金員及び慰謝料の賠償を求めた事案である。
2 前提事実(後掲括弧内に証拠を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない)
(1) 当事者
ア 原告は,大正15年1月24日生の書家(雅号・X')であり,○○大学の講師を17年間務め,平成10年に退職後,自宅等で書道を教える傍ら,○○県書道連盟会長など,書道団体の会長職又は副会長職を務める者である(甲21)。
イ 被告は,平成11年当時,居酒屋において,調理師として稼働しており(乙1,被告本人),平成12年3月28日,訴外株式会社三和銀行(合併前の旧商号であり,現在の商号は,株式会社ユーエフジェイ銀行である。以下「三和銀行」という。)池袋支店において,「版権処理機構 Y」の名義で,普通預金口座(口座番号<省略>)(以下「本件口座」という。)を開設した。
(2) 訴外共同人事探偵社(以下「訴外探偵社」という。)を発行人,訴外共同人事出版社(以下「訴外出版社」という。)を発行所とする「全日本人事興信録」(なお,奥書には,「全日本共同人事録全国篇」と表題されている。以下「本件人事録」という。)の平成10年度版(以下「本件人事録(平成10年)」という。)には,原告の氏名,住所,生年月日,略歴,趣味,妻の氏名等の経歴が記載されている(甲4)。
(3) 原告は,訴外日本版権処理機構(以下「日本版権処理機構」という。)のAと名乗る男(以下「A」という。)とのやり取りの後,同機構に対し,本件人事録を含め,原告の経歴に関する版権の最終処理を依頼し,そのための処理費用及び保証金として,平成12年7月7日,本件口座に200万円を振込入金した(甲21,原告本人)。
3 主要な争点
(1) 被告は,原告に対し,民法719条2項,1項,709条に基づき,原告の被った損害を賠償する責任を負うか否か(民法719条2項に基づく責任の有無)。
(原告の主張)
ア Aの言動によって,原告をして,日本版権処理機構に依頼すれば,原告の経歴を全ての人事録から抹消できると誤信させ,また,そうしなければ今後も原告の経歴の抹消名目で金員を請求されると脅えさせ,同機構に対し,最終的な版権の抹消費用及び保証金の名目で,200万円を本件口座に振込入金させた行為は,詐欺ないし恐喝に該当し,同機構は,原告に対し,これにより原告の被った損害につき,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任を負う。
イ 被告は,氏名不詳者から依頼され,本件口座を開設し,その通帳等を手渡したが,他人への譲渡目的を隠して不正に口座開設した行為は,詐欺罪に該当し,また,被告は,本件口座が違法行為に利用されることは十分に認識しながら,これを譲渡したから,上記アの詐欺ないし恐喝行為の幇助者として,民法719条2項,1項に基づき,原告に対し,原告の被った損害について,賠償責任を負う。
ウ また,仮に,被告が,本件口座が違法行為に利用されることを認識していなかったとしても,そのことは予見し得たし,また,本件口座の譲渡により何らかの違法行為を助長する程度の認識はあったから,過失により,上記アの詐欺ないし恐喝による不法行為を幇助したと解すべきところ,民法719条2項は,過失による幇助行為についても適用があると解されるから,被告は,原告に対し,同項に基づき,原告の被った損害について,賠償責任を負う。
(被告の主張)
ア 原告は,多額の金銭支払をするに当たって,通常人の果たすべき注意義務を果たすことなく,得体の知れない人物からの理由も定かでない金銭要求に対し,簡単に金銭の支払を行っているが,原告において,通常人の有する注意義務を尽くしていれば,十分に避けられた被害であり,その損害の填補を被告に求めることは相当ではない。
イ 被告は,本件口座が氏名不詳者により違法行為に利用されるという認識は全くなく,本件口座の開設行為,それに伴う通帳及びカードの受領行為に違法性はない。
ウ 幇助犯の成立には,幇助者が,未必的にせよ,正犯の実行行為を表象し,これを幇助する意思を有していたことが必要であり,過失による幇助犯は成立しないから,その場合には,民法719条2項の適用がない。被告は,本件口座が氏名不詳者によって悪用される,または,悪用されるかもしれないという認識は全くなく,さらに,本件口座が何らかの違法行為を助長する程度の認識すらなかった。したがって,被告は,上記不法行為を幇助したということにならず,民法719条2項の適用はない。
(2) 過失相殺
(被告の主張)
原告は,本件被害発生及び被害回復において,通常人として有すべき注意義務を著しく欠き,その結果,本件損害を被ったものであり,その責任は原告が負うべきであり,仮に,被告が,何らかの不法行為責任を負わなければならないとしても過失相殺されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 原告が本件口座に200万円を振込入金(前記前提事実(3))した経緯
前記前提事実,証拠(甲1,2,4,9ないし21,23,乙1(各枝番を含む),原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,平成7年ころ,訴外帝国人事院と名乗る団体より,原告の経歴を照会する手紙が届いたが,市政功労者としての表彰に必要な書類と勘違いし,原告の経歴を記入の上,返送した。
(2) 原告は,平成9年10月,訴外出版社より送付された,人事録(紳士録)の購読及び個人会員としての登録の希望の有無を確認する文書に対し,これを断るつもりで,同封の予約確認書(甲10の1)を返送したが,その記載方法の不備などもあり,結局,本件人事録に原告の経歴を掲載し,これを代金15万円で購入する羽目となった。
その後,上記(1)で返送した内容と同一の原告の経歴が掲載された本件人事録(平成10年)が,原告方に送付され,原告は,訴外出版社に対し,平成10年6月29日までに,上記代金15万円を支払った。
(3) ところで,本件人事録(平成10年)に原告の経歴が掲載されたころから,原告に対し,新聞の名刺広告の掲載及び社会福祉協会を名乗る者からの寄付の依頼の電話が頻繁に掛かってくるようになり,原告及びその妻は,対応に苦慮していた。原告は,本件人事録への経歴掲載が原因と考え,訴外出版社に対し,原告の経歴に関する記録の抹消及び次年度以降の原告の経歴の非掲載を依頼する旨の書簡を送付した。その後,訴外出版社より連絡はなかったが,上記寄付等の依頼の電話が減少したことから,原告は,上記書簡による要請が受け入れられたと考えた。
(4) 平成12年3月,訴外ジャーナルイントラスト(以下「訴外トラスト」という。)のBと名乗る男性(以下「B」という。)から,原告に電話があり,本件人事録への掲載抹消の希望があると聞いたので,訴外トラストにおいて,その抹消手続を代行すること,訴外トラストに依頼しないと抹消手続はできない旨述べた。原告は,Bが上記書簡のことを知っていたことなどから,訴外トラストが訴外出版社の関連会社と誤信し,Bに対し,上記抹消手続を依頼し,抹消費用として,10万5000円を支払い,その後,Bより,抹消手続が完了した旨の電話連絡を受けた。
(5) ところが,同年6月下旬,Bより再度電話があり,出版している人事録は,一つだけと思っていたが,地方の枝版があった旨述べ,それについても抹消手続を取ることを勧められ,原告は,これにより全ての抹消手続が完了すると誤信し,訴外トラストに対し,抹消手続を依頼し,抹消費用として,12万6000円を支払った。
(6) 同年7月6日,Aから電話があり,原告に対し,「何やってんですか,Xさん」と述べた上,既に,原告の経歴は,色々な人事録に掲載されているので,ある一つの業者と人事録からの抹消手続をしても,全ての人事録の元となっている版権の最終処理をしないと意味がないこと,各出版社より出版されている人事録に掲載されている内容を管理しているのは,日本版権処理機構であること,全ての人事録の元となっている原版から処理しないと全ての人事録から抹消できないことを説明し,「紳士録に載っているあなたの版を抹消しないとこれからも次々と金員を請求される。最終的に原版を処理するのはウチしかいない」「紳士録業界を支配するドンが今回70歳以上の功労ある人に限り,版権を処理することに決めた。これは特別な計らいであり,この機会を逃すと次はいつできるか分からない」「最終処理が完了した際には,原版をXさんにお返ししますので,完全に処理ができたと実感できるでしょ」などと述べた。原告は,Aの話を聞くうち,上記(4)及び(5)の経緯に鑑み,訴外トラストは次々に金員を請求する悪徳業者ではないかと疑念を抱くとともに,版権の最終的な処理をしなければ,今後も,訴外トラスト又は他の業者から,金員の請求を受けるのではないかと不安を募らせ,日本版権処理機構に依頼すれば,全ての人事録から原告の経歴を抹消できる旨誤信し,同機構に最終処理を依頼することを決意した。
Aは,原告に対し,処理費用は20万円であり,更に,版権の処理に当たり,万が一トラブルが発生した場合の保証金として180万円を預かるが,3か月後の同年10月6日までには,原告に返還する旨説明し,合計200万円を本件口座に振り込むよう指示した。原告は,Aが,今までトラブルが起きたことはなく,絶対に保証金180万円は返還する旨繰り返し述べたことから,その旨誤信し,同年7月7日,本件口座に200万円を振込入金した。
なお,原告は,200万円の振込入金に先立ち,日本版権処理機構の組織,活動内容,訴外出版社及び訴外探偵社との関係等について,特に調査を行っていないほか,本件人事録の発行所である訴外出版社に対し,本件人事録からの原告の経歴の抹消手続の概要や,同機構に版権の処理を依頼した場合に,確実に経歴が抹消されるか否か等について,何ら確認してない。
(7) その後,原告は,日本版権処理機構より,保証金180万円を同年10月6日までに返還する旨記載された同年7月7日付「保証書」と題する書面(甲19)及び一切の版権を消滅した旨記載された同月10日付「全版権処理通知」と題する書面(甲20)を受領した。
ところが,同年10月6日になっても,保証金180万円の返還はなく,原告が,日本版権処理機構に電話したところ,電話が通じなくなっており,騙されたことに気付いた。
2 本件口座開設の経緯
前記前提事実,証拠(甲22,23,乙1,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告は,休日に後楽園の場外馬券場に週1回位の頻度で通っていたが,平成11年夏ころ,同馬券場において,身長160センチメートル強,年齢50歳位,短髪でやせ形の氏名不詳の男(以下「本件不詳者」という。)と知り合い,競馬の話をするようになり,更に,同人より,2,3回,食事をご馳走されたり,競馬の負けが込んでいる際に,1万円の小遣いをもらったこともあった。
(2) 被告は,本件不詳者と数回会った後,同人より,上記馬券場において,「自分で銀行口座を開けないので,できたら君の名義の銀行口座を開いて使わせて欲しい」旨依頼され,その際,口座名義人を「版権処理機構 Y」とするよう依頼された。本件不詳者は,その使用目的について,「ちょっと使うだけだ」などと述べ,詳しい説明をしなかったが,この口座を「悪いことには使わない」旨述べたことや,上記(1)のとおり,食事をご馳走になるなど,世話になっていたこともあり,被告は,上記依頼を了承した。
なお,被告は,被告が開設する銀行口座を利用して,何か犯罪を犯すのではないかということは考えていなかった旨供述している(被告本人114ないし119項)。
(3) 被告は,上記(2)から間もない平成12年3月28日,前記前提事実(1)イのとおり,本件口座を開設し,その際,同口座の預金通帳を受領した。
なお,原告は,被告が,答弁書においては,本件不詳者と共に三和銀行池袋支店に赴き,本件口座を開設した旨主張していたのに対し,被告本人尋問の結果を受け,被告が一人で同支店に赴き,本件口座を開設した旨主張を変遷させており,後者の主張は信用できない点を指摘するが,この点は,証拠上判然とせず,被告が本件不詳者と一緒に上記支店に赴いたことを認めるに足る証拠はない。
(4) 本件口座の開設から10日位して,本件口座のキャッシュカードが被告方に送付され,被告は,その後間もなく,上記馬券場において,本件不詳者に対し,本件口座の預金通帳,キャッシュカード及び届出印を手渡した。
3 争点(1)(民法719条2項に基づく責任の有無)について
以上の認定事実を前提に,被告が,原告に対し,民法719条2項,1項,709条に基づき,原告の被った損害を賠償する責任を負うか否かについて検討する。
(1) まず,上記1の認定事実によれば,原告は,Aの言動によって,日本版権処理機構に最終的な版権の処理を依頼すれば,原告の経歴が全ての人事録から抹消することができる旨誤信し,また,版権の処理に当たり,万が一のトラブルが発生した場合に備えて,保証金180万円を同機構に預託することが必要であるが,この保証金については,平成12年10月6日までに原告に返還される旨誤信し,版権の処理費用として20万円及び保証金として180万円の合計200万円を本件口座に振込入金したと認められる。
したがって,Aないし日本版権処理機構には,原告に対する詐欺が成立し(以下「本件詐欺行為」という。),これは不法行為に該当する(以下「本件不法行為」という。)と解することが相当であり,Aないし同機構は,原告に対し,本件詐欺行為により原告の被った損害について,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任を負う。
なお,被告は,原告において,通常人の有する注意義務を尽くしていれば,十分に避けられた被害であり,その損害の填補を被告に求めることは相当ではない旨主張し,本件不法行為の成立を争っていると解する余地があるが,原告の落ち度は,過失相殺において考慮すべきであり,この点に関する被告の主張は,本件不法行為の成否の判断に影響しない。
(2) 次に,被告は,民法719条2項に基づく責任を負うか否かについて検討する。この点は,被告が,同項の定める「幇助者」に当たるか否かの判断と表裏の関係にある。
ア まず,前記認定事実によれば,本件口座は,本件詐欺行為の振込口座として利用されており,本件口座を開設し,その通帳等を譲渡した行為は,本件詐欺の犯行を容易にしたと認められるから,本件不法行為の幇助行為に当たると解することが相当である。
イ 本件における認定事実を総合しても,被告が,①本件詐欺行為に直接関与したこと,②本件不詳者の依頼を受け,本件口座を開設し,その通帳等を同人に手渡した際に,本件口座が詐欺等の違法行為に利用されることを認識していた,又は,本件口座が詐欺等の違法行為に利用されるかもしれないことを認識しながら,これを認容していたことは,いずれも認定することができず,また,これを認めるに足る十分な証拠もない。
したがって,被告が,本件詐欺行為を故意に幇助したと認定することはできない。
ウ しかしながら,前記認定事実,特に,被告は,本件口座を開設し,その通帳等を本件不詳者に譲渡するに当たり,同人に対し,同人が自己名義で銀行口座を開設できない理由及び本件口座の利用目的など,被告による本件口座の開設・譲渡の必要性について詳しい説明を求めたり,更には,本件口座の名義は,単なる個人名義ではなく,「版権処理機構 Y」であるところ,「版権処理機構」の内容や,かかる名義の口座が必要な理由について詳しい説明を求めるなどし,本件口座の開設・譲渡の必要性及び本件口座の悪用の危険性について,慎重に吟味する必要があったにもかかわらず,これを怠っていること,被告は,本件不詳者の氏名,住所,電話番号等,身分を特定する情報及び連絡を取る手段を有していない旨供述しており,そのような者からの依頼を安易に了承し,本件口座を開設し,その通帳等を本件不詳者に議渡していることを総合的に判断すれば,本件口座の開設行為及びその通帳等の譲渡行為が,本件不法行為を幇助するという客観的な結果を招来したことにつき,被告には,少なくとも過失があると解することが相当である。
エ 民法の定める不法行為制度は,被害者の損害の填補を目的とし,原則として,故意と過失を区別していないことに照らせば,民法719条2項の定める「幇助者」には,当該不法行為を故意に幇助した者のみならず,過失により幇助した者も含まれると解される。
したがって,被告は,同条2項,1項に基づき,本件不法行為により原告の被った損害について,賠償責任を負うと解することが相当である。
4 原告の損害
(1) 前記認定事実によれば,原告が,本件口座に振り込んだ200万円は,本件不法行為による損害と認められる。
(2) 慰謝料については,原告が本件不法行為により精神的苦痛を被ったことは疑いないが,経済的損失の回復によって,その精神的苦痛は一定程度慰謝されており,本件においては,経済的損失に加え,慰謝料を認めなければならない事情は認められない。
(3) 本件事案の性質,難易度等を考慮し,弁護士費用として,20万円を本件不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
5 争点(2)(過失相殺)について
前記認定事実によれば,原告は,Aより,版権の処理を持ち掛けられた際に,訴外トラストから,人事録からの経歴抹消の名目で金員を騙し取られた旨の疑念を抱きながら,日本版権処理機構については,何ら疑念を抱かず,200万円の振込入金に先立ち,同機構の組織,活動内容,訴外出版社及び訴外探偵社との関係等について,特に調査を行っていないほか,本件人事録の発行所である訴外出版社に対し,本件人事録からの原告の経歴の抹消方法や,同機構に版権の処理を依頼した場合に,確実に抹消されるか否か等について,何ら確認していないこと,そして,Aに対して,面談を求めるなどせずに,電話のやり取りのみで,安易に同人を信用し,200万円を振込入金したこと,その後,一切の版権を消滅した旨記載された平成12年7月10日付「全版権処理通知」と題する書面を受領し,版権の処理が完了したことを認識したのであるから,同年10月6日の返還期限を待つことなく,同機構に対し,版権の処理の完了後も保証金が必要であるか否かを確認し,保証金の返還を求めるべきであったのに,これを怠ったこと,その他本件にあらわれた一切の事情を考慮し,Aないし日本版権処理機構の負う上記不法行為責任に関し,5割の過失相殺を認めることが相当である。
6 結論
上記4のとおり,本件不法行為により原告の被った損害は,合計220万円であり,これにつき5割の過失相殺を行った110万円及びこれに対する本件不法行為による原告の上記損害の発生日である平成12年7月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金について,被告は,原告に対し,民法719条2項,1項,709条に基づき,賠償する責任を負う。
なお,当裁判所の法的判断は以上のとおりであるが,他人への譲渡目的での預金口座の開設行為は,譲渡された預金口座が詐欺等の犯罪行為に容易に利用される危険があり,態様によっては,金融機関に対する詐欺罪として問擬されかねず,また,預金口座の通帳等の譲渡行為も,本件当時には,これを規制する法律はなかったものの,態様によっては,平成16年12月30日に施行された「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」の規制対象となる悪質な行為であって,被告の開設した本件口座は,その入出金の状況に照らせば,本件詐欺行為と同様の詐欺行為に利用された可能性が高いことにも鑑みれば,本件口座の開設及びその通帳等の譲渡に安易に応じたことは,厳しく非難されなければならないと考えることを付言する。
第4 よって,原告の請求のうち,被告に対し,110万円及び平成12年7月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用について,民事訴訟法67条1項本文,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官・友重雅裕)