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静岡地方裁判所 平成15年(行ウ)12号 判決 2004年7月29日

原告 A株式会社

同代表取締役 甲

被告 浜松西税務署長

岡島讓

同指定代理人 小林誠

同 引地俊二

同 鈴木秀幸

同 真野重信

同 松田清志

同 菅原勝哉

同 峯金容子

同 出雲朗仁

同 鈴木智子

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求の趣旨

1  被告が平成13年12月21日付でした原告の平成10年12月1日から平成11年11月30日までの事業年度の法人税に係る更正処分及び同日付でした原告の平成11年12月1日から平成12年11月30日までの事業年度の法人税に係る更正処分並びに被告が平成14年3月6日付でした原告の平成10年12月1日から平成11年11月30日までの事業年度の法人税に係る重加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第2  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第3  事案の概要等

1  本件は、原告が、被告が平成13年12月21日付でした原告の平成10年12月1日から平成11年11月30日までの事業年度(以下「平成11年11月期」という。)の法人税に係る更正処分(以下「本件平成11年11月期更正処分」という。)及び同日付でした原告の平成11年12月1日から平成12年11月30日までの事業年度(以下「平成12年11月期」といい、平成11年11月期と合わせて「本件各事業年度」という。)の法人税に係る更正処分(以下「本件平成12年11月期更正処分」といい、本件平成11年11月期更正処分と合わせて「本件各更正処分」という。)並びに平成14年3月6日付でした原告の平成11年11月期の法人税に係る重加算税賦課決定処分(以下「本件重加算税賦課決定処分」といい、本件各更正処分と合わせて「本件各課税処分」という。)が違法であると主張し、その取消しを求めた事案である。

2  争いのない事実等

(1)  法令

ア 法人税法

(ア) 法人税法34条1項は、役員報酬について、「内国法人がその役員に対して支給する報酬の額(略)のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と同条2項は、「内国法人が、報を隠ぺいし、又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する報酬の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と各規定し、さらに、同条3項は、「前2項に規定する報酬とは、役員に対する給与(略)のうち、次条第4項に規定する賞与及び退職給与以外のものをいう。」と規定している。

(イ) 法人税法35条1項は、「内国法人がその役員に対して支給する賞与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と規定し、さらに、同条4項は、「前3項に規定する賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与(略)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(略)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう。」と規定している。

イ 国税通則法

国税通則法68条1項は、「65条第1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(略)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(略)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。」と規定している。

(2)  原告は、看板業、不動産の売買及び賃貸借とその管理、これらに附帯する一切を業とする株式会社である。

(3)  原告は、平成11年11月期の法人税について、所得金額を0円として確定申告をした。これは、原告の代表取締役甲(以下「甲」という。)の役員報酬として2900万円を損金の額に算入して同期の経常利益145万2141円を算出し、これから同額の未済欠損金を減算した額である(甲11)。また、原告は、平成12年11月期の法人税について、欠損金額を2346万4671円として確定申告した。これは、甲の役員報酬2380万円を損金の額に算入して同期の経常損失2347万7023円を算出し、さらに、交際費などの損金不算入額1万2352円を加算した額である(甲12。なお、平成11年11月期及び平成12年11月期の確定申告について、原告が甲の役員報酬として損金の額に算入した金員について、以下「本件金員」という。)。

なお、原告は、本件各事業年度の確定申告書に、事業年度の収入及び支出金額を月別、勘定科目別に記載し、合計欄に収入及び支出金額の年間合計額を記載した月別総括集計表と題する書面(甲11、12。以下「月別総括集計表」という。)を添付したが、この月別総括集計表には、各月ごとの「役員報酬」の金額も記載されていた。

なお、乙3の1ないし5によると原告の平成9年4月1日から平成13年11月30日までの甲に対する役員報酬額は、別表1「役員報酬の推移」のとおりである。

(4)  被告は、原告に対し、本件各課税処分をした(甲1ないし3)。

(5)  原告は、平成14年1月17日、本件各更正処分に対して異議を申し立て、さらに、平成14年4月30日、本件重加算税賦課決定処分に対して異議を申し立てたが、被告は、同年4月15日、本件各更正処分についての原告の異議申立てを棄却する決定をし、さらに、同年5月24日、本件重加算税賦課決定処分についての原告の異議申立てを棄却する決定をした(甲4、5)。

そこで原告は、これらの棄却決定をいずれも不服として、平成14年5月10日と同年6月13日、国税不服審判所長に対し、本件各課税処分に対する審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成15年5月9日、原告の審査請求をいずれも棄却すると決定した(以下「本件裁決」という。)ため、結局、本件訴訟を提起するに至ったものである(甲6ないし10)。

なお、本件各課税処分及び本件裁決の手続の経緯等は、別表2「本件各課税処分の経緯」のとおりである。

3  争点

(1)  本件各更正処分が適法かどうか。具体的には、本件金員が法人税法上の役員報酬に当たるのか、役員賞与に当たるのか。

(2)  本件重加算税賦課決定処分が適法かどうか。具体的には、原告の平成11年11月期の法人税の確定申告が、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を、隠ぺい又は仮装したものに当たるかどうか。

4  争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)について

ア 原告の主張

本件金員は、甲に対する役員報酬であり、役員賞与ではない。

被告は、原告が、株式の売却益に合わせて役員報酬を決定していたと主張するが、そのような事実はない。原告は、月別総括集計表のとおりの役員報酬を支給するために、株式取引を行ったのである。このことは、平成11年11月期の期末直前において、あえて手数料を支払ってまで、株式会社Cの株式(以下「C株」という。)をクロス取引(有価証券を売却した直後に同一の有価証券を購入すること。甲13)して売却益を捻出していることからも明らかである。

また、そもそも被告の主張によると、原告では役員報酬が存在しなかったことになり、不自然である。

イ 被告の主張

(ア) 法人税法上の役員報酬と役員賞与の区別の基準

法人税法上、役員賞与の損金への算入が認められていないが、これは役員賞与が利益の処分であるからであり、他方、役員報酬は、原則として損金の額に算入が認められているが、これは、役員報酬が役員の通常の業務執行の対価であって利益の有無に関係なく法人の費用として支払われるものであるからである。

このように役員報酬と役員賞与は、法人税法上の取扱いが異なるが、現実に役員に支給された給与が業務執行の対価であるか否かを判別することは、必ずしも容易ではなく、同族会社等において利益処分として支給すべきものを報酬化することによって課税を免れる場合も考えられる。

そこで、法人税法は、税務行政における基準を明確化して租税負担の公平を図る見地から、定期の給与であるか臨時的な給与であるかという外形的基準をもって役員報酬と役員賞与とを区別することにしている。

そして、法人税法35条4項が、継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給される給与も「臨時的な給与」に含まれるとした上で、例外的に役員賞与とはしないことを定めていることからすれば、法人税法上「臨時的の給与」ではなく役員報酬に該当する場合とは、あらかじめ定められた支給基準に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給される給与をいうものと解するのが相当である。

(イ) 原告は、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉徴収所得税」という。)の納付期限(各年1月及び7月)において、有価証券取引による利益の額に合わせるように、一括して過去6か月分の甲の役員報酬を決定していたのであり、本件金員は、各月ごとに支給されていたものではないから、あらかじめ定められた支給基準に基づいて各月ごとに継続して支給されていたものではなく、「臨時的な給与」に該当するものである。

また、本件金員は、実質的にも、原告の利益獲得の功労に対する報償であって、利益処分として支給されたものと解される。よって、いずれにせよ、本件金員は、役員賞与に該当するものであり、損金の額へ算入することはできない。

以上のことは、次のaないしdからも明らかである。

a 役員報酬の変更時期と源泉徴収所得税の納付期限の一致

原告は、本件各事業年度の中途において甲の役員報酬額を変更しており、その時期は、いずれも源泉徴収所得税の納付期限と一致している。すなわち、原告が源泉徴収した所得税の綿付期限は、7月10日あるいは翌年1月20日であるが、原告は、甲に対する役員報酬の月額を、平成11年1月に80万円から270万円に、同年7月に270万円から240万円に、平成12年1月に80万円から300万円に、同年7月に300万円から100万円にそれぞれ変更しているのである。

原告が、源泉徴収した所得税の納付期限(各年1月及び7月)に、過去6か月間の役員報酬の支給額をさかのぼって一括して決定したことは明らかである。

b 源泉徴収税額表の適用の誤り

(a) 平成11年の源泉徴収所得税については、1月分から3月分までが、所得税法185条1項・別表2「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」(乙9)が適用され、4月1日以降の分が、「平成11年4月1日以後の給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」(乙10)が適用される(平成11年4月1日から施行された経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律11条)。

そうすると、原告の平成11年1月分ないし3月分の各月の源泉徴収所得税は70万4520円になるはずであるが、原告は、平成11年1月分ないし6月分までの各月の源泉徴収所得税を65万5270円とし(平成11年4月1日以後の給与所得の源泉徴収税額表(月額表)を適用して算出される所得税額である。)、合計393万1620円を納付している(乙6)。仮に、原告が、平成11年1月分ないし3月分の役員報酬を各月毎に支給し、その都度所得税を源泉徴収していたならば、各月の源泉徴収税額の計算を間違うことはなかったはずであり、原告がこのような間違いをおこしたことからも、甲に対する役員報酬は各月ごとに支給されてはおらず、源泉徴収所得税の納付期限にさかのぼって決定していたことは明らかである。

(b) 源泉徴収所得税が貸借対照表に計上されていないこと

原告が、月別総括集計表のとおり給与を支払っているのであれば、その都度源泉徴収所得税を徴収し、預り金として計上しているはずであるが、本件各事業年度の確定申告書に添付された貸借対照表(甲11、12)の負債の部には、源泉徴収所得税相当額が計上されていない。

c 決算期の変更

(a) 原告は、平成10年6月30日に営業年度を変更しているが(毎年4月1日から翌年3月31日までであったのを毎年12月1日から翌年11月30日までへと変更した。乙7)、この変更自体が、有価証券取引による利益を役員報酬として損金処理するためのものと推定される。すなわち、営業年度の変更により、法人税の確定申告書の提出期限が役員報酬に係る源泉徴収所得税の納付期限(1月20日)の直後(1月31日)になるため、有価証券取引による利益に符合した役員報酬額を計上することが可能になるのである。

(b) 原告は、平成11年11月期において、役員報酬として2900万円を計上しているが、このときの有価証券の売買益は2997万5395円であり(甲11)、有価証券の売買益に見合う額を役員報酬としていたことは明らかである。甲も、被告職員の質問に対し、有価証券の売買益に合わせて役員報酬額を2900万円とした旨述べている。

d 株主総会決議の不存在

甲の役員報酬の変更については、株主総会の決議は存在しない。甲も、役員報酬の変更を独断で行っていたと述べている。

(2)  争点(2)について

ア 原告の主張

平成11年11月期の確定申告に際して、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を、原告が隠ぺい又は仮装した事実はない。

原告が、本件各事業年度の確定申告に当たって月別総括集計表を添付したのは、分かりやすいという理由からであり、事実を隠ぺい又は仮装するためではない。

イ 被告の主張

原告は、役員賞与が損金の額に算入されないことを知りながら、源泉徴収所得税の納付期限に合わせて原告の利益の額に見合う給与の額を決定し、それが法人税法上の役員賞与であるにもかかわらず、これを役員報酬と仮装して損金に計上するために本件各事業年度の決算期に上記役員賞与を各月定額の役員報酬を支給したかのごとく月別総括集計表に記載し、これを確定申告書に添付することによって上記役員賞与を役員報酬と装って損金の額に算入していたものであり、これが国税通則法68条1項にいう隠ぺい又は仮装に当たることは明らかである。

第4  当裁判所の判断

1  前提事実

前記争いのない事実等、乙11ないし15及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1)  原告は、看板業、不動産の売買及び賃貸借とその管理を目的に設立された株式会社であり、設立当初は、看板業だけを行っていたが、平成4年ころから有価証券取引、平成5年2月ころから不動産賃貸業を行っている。もっとも、看板業はすべて外部に発注しているため、従業員は存在せず、実体は甲の一人会社である。なお、原告の利益は、その大半が甲の有価証券取引によるものであるが、甲は、自らを取引主体とするよりも、原告を取引主体とした方が、税法上優遇される(損失を経費に計上できる。)と考えて、原告の業務として有価証券取引を行っていたものである。

このように、原告は甲の一人会社であることから、役員報酬についても甲の独断で増減が行われており、それにつき株主総会は開催されてはいなかった。また、原告は、別表1「役員報酬の推移」のとおり甲の役員報酬を計上していたが、実際の支払は、甲が原告の現金からその都度生活費等、を使用するという程度であり、期末に現実の使用額と役員報酬額との差額を甲からの借受金として計上するという形で帳尻合わせをしていた。

なお、原告は、計算書の作成、法人税の確定申告等について、平成5年3月期までは税理士に委任していたが、平成6年3月期からは、甲自らがこれを行っており、具体的には、甲が、期末に預金通帳や領収書を整理し、これを基に月別総括集計表と月別入出金集計表を作成していた(総勘定元帳、現金出納帳等は作成していない。)。

(2)  平成11年11月期の確定申告等について

ア 株式売却益について

原告は、平成10年12月9日から平成11年11月30日までに、別表3「有価証券取引の内訳」記載のとおりの売買を行った。これによると、原告の有価証券取引による利益は、平成11年6月7日の時点で1652万9493円、平成11年11月30日の時点で2997万5395円である(甲4)。

イ 甲の役員報酬の計上と源泉徴収所得税の納付

(ア) 原告は、平成11年7月ころ、同年1月1日から同年6月30日までの甲の役員報酬を1620万円(月額270万円)と確定し(なお、平成10年12月の甲の役員報酬は月額80万円である。)、平成11年7月5日、源泉徴収所得税393万1620円を納付した(乙6)。

このように、原告が、平成11年1月から甲の役員報酬を増額した理由は、平成11年3月に株式会社Bの社債償還により約1500万円の利益が生じ、また、C株も順調に値上がりしていたため、平成11年11月期末に大幅な利益(およそ2900万円)が見込まれており、これに対する多額の法人税の支払を回避するため、甲の役員報酬を年間3000万円くらい計上するためであった。

(イ) 原告は、平成12年1月ころ、平成11年7月1日から同年12月31日までの甲の役員報酬を1280万円(平成11年7月から同年11月までが月額240万円、同年12月が、月額80万円である。)と確定し、平成12年1月13日、源泉徴収所得税274万7650円を納付した。これは、平成11年11月の時点で、D銀行やC株の利益を含めて2900万円を超える利益が生じており、これに符合する役員報酬を計上して節税を図る目的であった。

ウ 法人税の確定申告

原告は、平成11年11月1期の法人税につき、甲の役員報酬を2900万円とし、それを損金の額に算入して、所得金額0円として確定申告をした。

(3)  平成12年11月期の確定申告等について

ア 株式の評価益について

原告所有の有価証券の評価益は、平成12年7月5日時点で7442万5449円、平成13年1月15日の時点で3985万6824円である。

イ 甲の役員報酬の計上と源泉徴収所得税の納付

原告は、平成12年1月1日から同年6月30日までの役員報酬を1800万円(月額300万円)とし、同年7月6日、源泉徴収所得税448万2000円を納付した。このように、平成12年11月から甲の役員報酬を増額した理由は、平成12年11月期末において約6000万円の株式評価益が見込まれたため、法人所得が多額になり、これに対する法人税の支払を避けることが目的であった。

また、原告は、平成13年1月ころ、平成12年7月1日から同年12月31日までの役員報酬を576万1950円(平成12年7月から同年11月までが月額100万円、同年12月が月額76万1950円)と確定し、平成13年1月16日、源泉徴収所得税59万4000円を納付した。このように、平成12年7月以降の役員報酬を減額した理由は、平成12年11月期末までの株式評価益が当初の予想を下回って2000万円ほどしかなく、有価証券取引も赤字であったからである。

ウ 法人税の確定申告

原告は、平成12年11月期の法人税につき、甲の役員報酬を2380万円とし、それを損金の額に算入し、欠損金額2346万4671円として確定申告をした。なお、原告は、従前株式評価益を所得として計上する必要があると思っていたが、その必要がないことが分かったので、法人税の申告に当たっては赤字申告を行った。

(4)  上記認定した事実によると、原告は、多額の法人税の支払を避けるために、源泉徴収所得税の納付時点(毎年1月及び7月)ころにおいて、当該事業年度の有価証券取引等による利益を予想、計算し、これに符合するように、一括して過去6か月分の甲の役員報酬を決定していたと認めるのが相当である。

これに対して、原告は、有価証券取引の売買益に合わせて役員報酬を決定していたことはないと主張するが、乙11ないし14(いずれも税務職員が甲の陳述を録取した書面であり、乙12ないし14には甲の署名・捺印がある。なお、乙11には、「質問応答の要領を録取し応答者に読み聞かせ、かつ示したところ相違ない旨申し立てたが、本人が署名押印を拒んだ。」と記載されている。)によると、甲自身、法人税の支払を避けるために役員報酬を増減させていたと陳述していることが認められ、加えて、本件各事業年度における甲の役員報酬の増減は、そのときどきの原告の利益の増減に符合していることを合わせ鑑みると、上記のとおり認定するのが相当であり、原告の主張は採用できない。

なお、原告は、月別総括集計表のとおりの役員報酬を支給するために、株式取引を行っていたと主張し、その根拠として平成11年11月期の期末直前にC株をクロス取引していることを挙げるが、仮に、このときのC株の売却が、当初予定していた役員報酬に見合う利益を捻出する目的であったとしても、これにより上記認定が左右されるわけではないから、原告の主張は採用しない。

2  争点(1)について

(1)ア  法人税法上、役員報酬とは、役員に対する給与のうち、賞与及び退職給与以外のものをいい(同法34条3項)、賞与とは、役員に対する臨時的な給与のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう(同法35条4項)と規定されている。

役員報酬は、役員の通常の業務執行の対価であって、事業経営上の経費から支出されるのに対し、役員賞与は、利益獲得の功労に対する報酬であって、利益金のうちから与えられるものであり、役員報酬と役員賞与とは本来的にその性質を異にするものである。しかしながら、現実に役員に支給される給与が業務執行の対価であるか否かを判別することは実際上容易ではなく、また、利益処分として支給すべきものを容易に報酬化することによって課税を免れる場合も考えられる。そこで、法人税法は、専ら「臨時的な給与」か否かという給与の支給形態を基準として役員報酬と役員賞与を区別しているものである。

このように法が、役員報酬と役員賞与の区別を、当該金員の支払が臨時的かどうかという点に求めた趣旨に照らすと、役員報酬として損金算入が認められるのは、あらかじめ定められた支給基準に基づいて、規則的かつ継続的に支給される給与に限定されるというべきである。

イ  そこで検討するに、上記1(4)のとおり、原告は、源泉徴収所得税の納付前に(毎年1月及び7月ころ)、当該事業年度の有価証券取引等による利益を予想、計算し、これに符合するように、一括して過去6か月分の甲の役員報酬を決定していたと認められる。そうすると、本件金員は、あらかじめ定められた支給基準に基づいて規則的かつ継続的に支給されたものとはいえないから、役員報酬には当たらないというべきである。実質的に見ても、本件金員は、有価証券取引等による利益の処分に他ならず、このような金員が法人税法の役員報酬に当たらないことは当然である。

なお、付言するに、上記1(1)のとおり、原告は、有価証券取引等による利益を法人税として納付することを回避するために、その利益に符合する役員報酬を決定し、損金の額に計上していたと認められるのであり、実際には、甲が必要に応じて生活費等を使用するほかは、期末に甲が使用した額と役員報酬額との差額を、甲からの借受金として計上することで帳尻を合わせていたのであるから、本件金員を役員報酬として計上する行為自体、仮装して経理されたものというべきであり、法人税法34条2項によっても損金の額への算入が否定されるのではないかと考えられる。

よって、いずれにせよ、本件金員は、法人税法上、損金の額に算入することは認められないものである。

(2)  本件各更正処分の適法性について

上記(1)のとおり、本件各事業年度の確定申告において原告が役員報酬として損金の額へ計上した金額はすべて役員賞与として所得に計上するべきものである。

そうすると、本件各事業年度における原告の所得金額及び法人税額は次のとおりになる。

ア 平成11年11月期分

(ア) 所得金額 2547万3728円

ただし、原告の申告に係る所得金額0円に、原告が甲に対する役員報酬として損金の額に算入した2900万円を加算し、さらに、平成13年1月26日付更正処分で認められた欠損金額190万0709円と繰越欠損金の当期控除額162万5563円(平成11年11月期の開始の日前5年以内に開始された事業年度において生じた欠損金額であり、全額が当期の損金の額に算入される。)を減算した金額である。

(イ) 納付すべき法人税額 802万8100円

イ 平成12年11月期分

(ア) 所得金額(欠損金額) 72万0481円

ただし、原告の申告に係る所得(欠損金額)2346万4671円に、甲に対する役員報酬として損金の額に算入した金額2380万円と法人税額から控除する所得税額16万1190円(ただし、確定申告書の別表6(1)「所得税額の控除及びみなし配当金額の一部の控除に関する明細書」に記載された「控除を受ける所得税額」欄の合計額であるが損金の額に算入することができない。)を加算し、さらに、事業税の額121万7000円(ただし、平成11年11月期の更正処分により新たに納付すべき事業税の額であり、当期の損金の額に算入される。)を減算した金額である。

(イ) 所得税額等の還付金額 16万1190円

ただし、上記(ア)で述べた、確定申告書の別表6(1)「所得税額の控除及びみなし配当金額の一部の控除に関する明細書」に記載された「控除を受ける所得税額」欄の合計額である。

(3)  本件各更正処分の適法性

平成11年11月期更正処分により定められた所得の金額は1397万3019円、法人税額406万0600円であり(甲1)、上記(2)アの所得金額、納付すべき法人税額の範囲内である。

また、平成12年11月期更正処分により定められた欠損金額は1032万0481円であり、還付所得税額は16万1190円であり(甲2)、上記(2)イの欠損金額、所得税額等の還付金額の範囲内である。

したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4)  なお、原告の主張(平成15年12月26日付準備書面)中には、当初の原告に対する調査の際には、甲に対する役員報酬が過大であるとして調査されていたが、原告が異議を申し立てたところ、その段階では、原告の甲に対する役員報酬が全て仮装であるとされた点が不満であるとしているものと読める部分がある。確かに、原告に対する更正処分の際には、甲に対する役員報酬とされた金員のうち月額80万円を超える部分が「臨時的な給与」であるとして、この部分の損金算入が否認されているが(甲1、2)、異議申立てに対する決定においては、前記当裁判所の判断と同様に、甲に対する役員報酬であるとされた金員の全額が「臨時的な給与」であるとして、損金算入を否定されている(甲4)。しかしながら、この点に関する当裁判所の判断は前記のとおりであるところ、更正処分での処分庁の判断が当裁判所を拘束することはないし、同処分庁の判断が異議申立審において採用されず、あるいは覆されたとしても、その結果が原告に不利益になっていない以上、原告がこれに不服を申し立てる利益はない。そこで、原告の上記不満については、採用できない。

3  争点(2)について

上記1で認定したとおり、平成11年11月期において、原告は、甲に対して役員賞与として本件金員を支払っていたにもかかわらず、役員報酬として損金の額に計上して申告していたものである。

そうすると、原告は、その法人税に係る所得の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部について隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づいて申告していたことになる。

そこで、被告は、国税通則法68条1項に基づき、142万1000円の加算税を賦課決定したのであるから、本件重加算税賦課決定は適法である。

よって、被告がした本件重加算税賦課決定処分は適法である。

4  以上のとおり、原告が取消しを求めている本件各課税処分には、原告が主張する違法事由は認められず、いずれも適法になされたものというべきである。

よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官 三島恭子 裁判官 佐藤久文)

別表1

役員報酬の推移

file_2.jpgae 1, 000, 000 500.0

別表2 本件各課税処分の経緯

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別表3

有価証券取引の内訳

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