静岡地方裁判所 平成16年(行ウ)24号 判決 2005年4月14日
原告 甲
被告 下田税務署長 山本高志
同指定代理人 西村圭一
同 佐藤昌永
同 鈴木秀幸
同 出雲朗仁
同 鈴木智子
同 松島一秋
同 寺澤寿
同 大隅秀樹
同 新井克幸
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 2
事実及び理由
第1請求
被告が平成15年12月12日付けでした原告の平成13年分所得税の更正処分のうち、還付金の額に相当する税額4万7520円を納付すべき税額5万9600円とした部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は、原告が、A土地区画整理事業(以下「本件土地区画整理事業」という。)における物件移転補償契約に基づいて交付を受けた補償金のうち、動産の移転費用等に関する補償金を一時所得として計上せずに、平成13年分の所得税の確定申告をしたところ、被告から更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)を受けたため、被告に対し、これらの処分(ただし、本件更正処分については、原告が認める総所得金額を前提として計算された金額を超える部分)の取消しを求めた事案である。
2 関係法令の定め
(1) 所得税法34条1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう、と定めている。
(2) 所得税法44条は、居住者が、国若しくは地方公共団体からその行政目的の遂行のために必要なその者の資産の移転、移築若しくは除却その他これらに類する行為の費用に充てるため補助金の交付を受け、又は土地収用法の規定による収用その他政令で定めるやむを得ない事由の発生に伴いその者の資産の移転等の費用に充てるための金額の交付を受けた場合において、その交付を受けた金額をその交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てたときは、その費用に充てた金額は、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない、と規定している。
上記「土地収用法の規定による収用その他政令で定めるやむを得ない事由」には、土地区画整理事業に伴う買収等や資産の除去が含まれている(所得税法施行令93条参照)。
3 前提事実(争いのない事実については証拠を掲記しない。)
(1) 物件移転補償契約
原告は、A土地区画整理事業(以下「本件土地区画整理組合」という。)が施行する本件土地区画整理事業の用地買収に伴い、原告が所有する同町の建物(以下「本件建物」という。)等の収去につき、平成13年10月22日付けで、本件土地区画整理組合との間で、物件移転補償契約(以下「本件補償契約」という。)を締結した。
本件補償契約は、原告が本件建物等の収去を平成14年3月8日までに行うことを条件に、本件土地区画整理組合が、原告に対し、別表1のとおり、その移転により生じる、建物、工作物、動産、仮住居、移転雑費、その他に関する総額1610万4750円の補償金(以下「本件補償金」という。)を支払うとの内容であった。
(2) 本件建物の取壊し
原告は、平成13年12月4日ころ、本件建物を取り壊した(乙7から10)。
(3) 本件補償金の交付
原告は、平成13年12月10日、本件土地区画整理組合から、本件補償契約に基づく本件補償金として1610万4750円の交付を受けた。
(4) 原告の所得税の確定申告
原告は、平成13年分の所得税の確定申告に際し、本件補償金のうち、建物及び工作物に関する補償金については、租税特別措置法33条の4(収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除)の特例を適用する旨、それ以外の動産、仮住居、移転雑費、その他に関する合計191万4344円の補償金(以下「本件動産等補償金」という。)については、「区画整理の一時所得の収入金額191万4344円を平成14年分に延期する」旨を記載した上、別表3の「当初申告」欄のとおり、一時所得の金額を0円、総所得金額を182万4354円、還付金の額に相当する税額4万7520円とした確定申告書(乙2)を、平成14年2月27日、被告に提出した。
なお、上記「平成14年分に延期する」旨記載された「一時所得の収入金額191万4344円」について、原告の平成14年分の所得税の確定申告書(乙5)には、何らの記載もされなかった。
(5) 本件更正処分及び本件賦課決定処分
被告は、原告の平成13年分の所得税につき、平成15年12月12日付けで、原告に対し、別表3の「更正等処分」欄のとおり、一時所得の金額を141万4344円、総所得金額を253万1526円、納付すべき税額を5万9600円と更正する本件更正処分をし、併せて、5000円の過少申告加算税を賦課する本件賦課決定処分をした。
(6) 異議申立て及び審査請求等
原告は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成15年12月24日付けで、被告に対し、異議申立てをしたが、被告は、平成16年2月10日付けで、これを棄却する決定をした(甲1)。
原告は、この決定を不服として、同月14日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、同年8月10日付けで、これを棄却する裁決をした(甲2)。
そこで、原告は、同年9月14日、本件取消訴訟を提起した(顕著な事実)。
4 争点
本件動産等補償金が一時所得として課税の対象となるか。
(被告の主張)
本件動産等補償金は、都市計画事業の用地買収に伴い買収された土地上にある建物を移転することなく取り壊した場合における補償金で、一時的・偶発的利得であり、また、当該補償金は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であり、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないから、一時所得に該当する(所得税法34条1項)。
そして、原告は、本件動産等補償金の交付目的である動産移転、仮住居、移転雑費等に相応するような費用を支出していないから、当該補償金の金額がそのまま一時所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきこととなる(所得税法44条)。
また、その一時所得の帰属年度については、本件建物に居住した原告の母が平成13年12月12日以前に転居し、本件建物の解体も同日までには終えており、平成14年分以降において、原告が所得税法施行令93条に規定するような、本件動産等補償金の交付目的に相応する費用の支出が遅れるなどのやむを得ない事由の生ずる余地がないから、本件動産等補償金は平成13年分の総収入金額に算入すべき金額となる。
以上のとおり、本件動産等補償金の額191万4344円は、原告の平成13年分の一時所得に係る総収入金額に算入すべき金額となるのであり、本件更正処分及び本件賦課決定処分は適法である。
(原告の主張)
原告は、本件土地区画整理事業のために農地を強制収用され、本件建物を移転せざるを得なくなったが、本件補償金では本件建物等の移転はできないので、これを取り壊したものである。
強制収用により農業経営を不能にされた上に、本件建物を移転せずに取り壊した、移転補償金を移転のために消費しなかったとの理由で、本件動産等補償金を一時所得として所得税の課税をされるのは納得できない。
本件更正処分及び本件賦課決定処分は取り消されるべきである。
第3当裁判所の判断
1 前記前提事実に証拠(甲2、乙8、9の1、9の2、10、12、15から17)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。
(1) 原告は、本件土地区画整理事業の用地買収に伴い、本件建物等を収去せざるを得ないことから、本件土地区画整理組合との間で、本件補償金の交付を内容とする本件補償契約を締結した。
本件補償金の内訳種別ごとの補償内容(補償目的)は、別表2のとおりであった。
(2) 原告は、平成13年12月10日、本件土地区画整理組合から、本件補償契約に基づき、本件動産等補償金191万4344円を含む本件補償金1610万4750円の交付を受けた。
(3) 本件建物に居住していた原告の母乙は、平成13年12月初めに、原告の弟丙の住所地に引っ越した。その引越し作業には原告の兄弟が無償で従事したので、特段の費用を要することはなく、また、仮住居のための費用を支出することもなかった。
原告は、本件建物を曳家工法に基づき移転することはせず、同月4日ころ、本件建物を取り壊し、同月12日、その解体費用として68万円を支出したが、他に支出した費用はなかった。
結局、原告は、本件建物の屋内動産の移転料、仮住居に係る費用、曳家に伴う建築確認等の法定手数料、その他機械等処分に係る費用を支出してはいない。
2 上記認定事実によれば、原告が交付を受けた本件動産等補償金は、一時的・偶発的な利得であり、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないから、所得税法34条1項にいう一時所得に該当することが明らかである。
他方、本件動産等補償金の交付目的は、別表2のとおり、本件建物の屋内動産の移転料、仮住居に係る費用、曳家に伴う建築確認等の法定手数料、その他機械等処分に係る費用に充てることにあったところ、原告は、そうした交付目的に従った費用の支出をしていないのであるから、所得税法44条本文の規定によって本件動産等補償金の金額を一時所得に係る総収入金額に算入しないとすることはできない。
そして、上記規定の他に、本件動産等補償金が一時所得として課税の対象となることを否定すべき法的根拠は見出せない。
したがって、本件動産等補償金は一時所得として課税の対象となるというべきである。
なお、原告は、前記のとおり、本件動産等補償金は本件土地区画整理事業によって本件建物の移転等をせざるを得なくなったための補償金であるのに、一時所得として課税されるのは納得できないと主張する。しかしながら、所得税法は、人が収入等の形で新たに経済的価値を取得した場合には、その人の担税力が増加することに着目し、これをすべて所得と観念して課税することとしているのであって、こうした考え方は現代税法上の一般的な考えとなっているところ、このような所得のうち、土地収用法や土地区画整理法等の法律による土地の譲渡等がされ、その補償金等が交付された場合には、その譲渡等が、土地収用法等に基づき公権力の行使として強制力によって行われ、又は強制力を背景として行われるものであって、通常の資産の譲渡等と同様に課税することは適当でないし、さらに、公共事業のための土地等の取得を円滑に行うためにも、税制面において半強制的譲渡であることを考慮することが必要であるとの観点から、その補償金等が交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てられたときには、この金額を各種所得の金額の計算上総収入金額に算入しないとしたものであって、このような規定の仕方は、立法政策として、立法機関の裁量に委ねられたところであり、この規定をもって憲法に違反するなどということはできない。
3 本件において、本件動産等補償金の金額191万4344円は、原告の平成13年分の一時所得に係る総収入金額に算入すべきところ、このことを前提に計算すると、原告の同年分の一時所得の金額は141万4344円となり(所得税法34条2項・3項参照)、その2分の1に相当する70万7172円(同法22条2項2号参照)を原告の申告所得金額に加算すると、総所得金額は253万1526円となる。そして、これから税額を算出すると、原告の納付すべき税額は5万9600円となる。
この金額と本件更正処分における税額とは同額であるから、本件更正処分は適法である。
また、以上によれば、原告は、平成13年分の所得税につき過少申告をしたものであり、国税通則法65条1項に基づき、本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった本税の額(ただし、甲2のとおり同条4項の正当な理由があると認められる事実に基づく税額を控除し、同法118条3項により1万円未満の端数を切り捨てた金額)5万円に100分の10を乗じて過少申告加算税の額を算出すると5000円となるから、この金額と同額の過少申告加算税を賦課した本件賦課決定処分は適法である。
4 以上の次第で、本件更正処分及び本件賦課決定処分はいずれも適法であり、本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官 三島恭子)
別表1 本件補償金の内訳
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別表2 本件補償金の補償内容
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別表3 課税等の経緯
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