静岡地方裁判所 平成3年(ワ)578号 判決 1992年7月27日
原告
小林愛
ほか四名
被告
有澤金久
主文
一 被告は、原告小林愛に対して金一三二九万六六五〇円、原告大池夏代、同小林正美、同小林金光、同萩原真理子に対して各金三三二万四一六二円及びこれらに対する平成三年五月三〇日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告小林愛に対して金一六七三万二九七五円及びこれに対する平成三年五月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を、原告大池夏代、同小林正美、同小林金光、同萩原真理子に対して各金四一八万三二四三円及びこれに対する平成三年五月三〇日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実など
被告は、平成三年五月二八日午前一〇時三〇分ころ、補助参加人保有の大型貨物自動車を運転して、静岡県島田市元島田二四八番地の二先交差点を右折進行中、前方不注視により同所を横断中の訴外小林かづに自車前部を衝突させて、同人をその場に転倒させ、同月二九日午後一〇時二五分市立島田病院において後頭骨骨折による脳挫傷に基づいて死亡させた(乙一ないし三)。このため、同人の損害賠償請求権を妻原告小林愛が二分の一、子原告大池夏代、同原告小林正美、同原告小林金光、同原告萩原真理子がそれぞれ八分の一ずつ相続し(甲二ないし七)、また固有の損害を負つたため、被告に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を追及している。
二 争点
1 小林かづの損害額特に逸失利益
2 過失相殺すべきか
第三判断
一 損害額
1 逸失利益(九四二万二三五六円と休業損害として一万一一九四円請求) 六一九万〇九〇〇円
小林かづは、本件事故時満六八歳の健康な主婦であり、農業を手伝つており、以後五年間は稼働可能であつたから、原告主張の小学校卒六五歳以上の女子労働者の平均年収額である金二〇四万三〇〇〇円の年収はあつたものと認められ(原告小林正美)、これを基礎に、生活費控除割合三〇パーセント、中間利息の控除をライプニッツ方式(係数四・三二九)を用いて逸失利益を算出した六一九万〇九〇〇円(一〇〇円未満切り捨て)が相当である。
なお、本件では、原告請求の二日分の休業損害は、右逸失利益に含まれると解するのが相当で、特に独立して算定すべきではない。
2 慰謝料(傷害慰謝料三万円、死亡慰謝料二〇〇〇万円請求) 一七〇〇万〇〇〇〇円
小林かづは、主婦として仲のいい夫の原告小林愛らと平穏な生活をしていたにもかかわらず本件事故後わずか二日間で意識が戻らないまま入院中死亡した(原告小林正美)ことなどからみて、慰謝料額は一七〇〇万円が相当である。
3 治療関係費(争いない) 一四万九二五五円
4 入院雑費 二四〇〇円
一日当たり一二〇〇円が相当であるから、入院期間二日間(争いない)分で二四〇〇円が相当である。
5 葬儀費用 一〇〇万〇〇〇〇円
原告らが葬儀を行つてその費用を負担したことが明らかであるから(原告小林正美)、葬儀費用として一〇〇万円を相当と認める。
6 過失相殺
被告は、訴外小林かづには、被告車両に気づかず被告車両の直前に小走りで走り出た過失があり、一割程度過失相殺すべきであると主張する。
なるほど、被告の司法警察員に対する供述調書(乙六、七)中にはその旨の記載がある。しかし、被告は、信号待ちの後右折のため交差点に侵入直後被害者が青色信号に従つて横断歩道を左から右へ横断中のところを発見していること、衝突地点も横断歩道をほぼ半ばまで渡つた地点であることなど(乙一)からみて、同人の自認する対向車両に気をとられ被害者の発見が遅れたことと徐行義務を十分に尽くさず急ブレーキで衝突を回避できなかつたのが主な事故原因であるというべきである。したがつて、たとえ六八歳の女性の被害者が小走りで横断歩道を渡ろうとしたとしても、これをもつて、被害者の過失として過失相殺するのは相当ではない。他に小林かづの過失を認めるに足りる事実は認められない。
7 損害填補額(争いない) 一四万九二五五円
8 弁護士費用(合計三〇〇万円請求) 合計二四〇万〇〇〇〇円
弁護士費用相当の損害金としては、合計二四〇万円(原告各人に相続割合で分割)と認めるのが相当である。
三 右認容の限度で原告らの請求をそれぞれ認めることとする。
なお、被告から仮執行の免脱宣言の申立があるが本件では妥当ではないからこれを付さない。
(裁判官 安井省三)