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静岡地方裁判所 平成3年(行ウ)1号 判決 1992年9月25日

静岡県田方郡韮山町四日町八八番地の二

原告

原ミチ

右訴訟代理人弁護士

福地明人

鈴木弘之

静岡県三島市文教町一丁目四番三三号

被告

三島税務署長 山田廣志

右指定代理人

久保田浩史

川田武

佐野武人

田村利郎

伊藤久男

松井運仁

井上陽

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告が、平成元年七月一四日付でした原告の昭和六三年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも異議決定により一部取消された後のもの)のうち長期譲渡所得金額九七〇万六八三六円、納付すべき税額一六七万五二〇〇円、過少申告加算税額二二万五五〇〇円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和六三年分所得税について、原告がした確定申告、被告がした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は、別紙課税経過表記載のとおりである。(以下、右更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも異議決定により一部取消された後のもの)をそれぞれ「本件更正」「本件賦課決定」という。)。

2  本件更正のうち長期譲渡所得金額九七〇万六八三六円、納税すべき税額一六七万五二〇〇円を超える部分は、原告の所得を過大に評価した違法な処分であり、本件更正に伴う本件賦課決定のうち過少申告加算税額二二万五五〇〇円を超える部分も違法である。

よって、原告は本件更正及び本件賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

三  抗弁

1  原告の昭和六三年分所得税に係る長期譲渡所得金額及び納付すべき税額並びにその算出根拠は次のとおりである。

(一) 総収入金額 三億一七七〇万円

原告は、後記(四)の(1)及び(2)の保証債務を履行するため、原告の所有で昭和六三年一月一日における所有期間(相続により取得したものについては被相続人が所有していた期間を含む。)が一〇年を超える別紙物件目録1ないし17記載の土地又は建物のうち、同目録1に記載の土地並びに同目録2及び3記載の各建物を同年六月二三日に代金一億二七五〇万円で訴外眞田貞一に、同目録4ないし17記載の各土地を同年四月一二日に代金一億九〇二〇万円で訴外鴻基株式会社に、それぞれ売り渡した。

(二) 取得費の額 一五八八万五〇〇〇円

租税特別措置法三一条の四第一項を準用して右(一)の各譲渡収入金額にそれぞれ一〇〇分の五を乗じて得た取得費の額の合計額は一五八八万五〇〇〇円である。

(三) 譲渡費用の額 三一六四万一三一〇円

右(一)の各譲渡に係る仲介手数料等の譲渡費用の額の合計額は三一六四万一三一〇円である。

(四) 所得税法六四条二項、一項により譲渡所得金額の計算上なかったものとみなされる金額 二億四〇三〇万八三七五円

(1) 訴外アマギ導熱工業株式会社(昭和六三年六月五日に解散したもの。以下「アマギ導熱」という。)が別紙借入金及び保証債務弁済額明細書の順号1ないし4の合計一億七八〇〇万円の借入れをした際、原告は、右各借入金債務につき、それぞれの債権者に対し連帯保証をした。

(2) また、アマギ導熱が、静岡銀行から別紙借入金及び保証債務弁済額明細書の順号5の借入欄のアないしカの合計九〇〇〇万円の借入れをするについて、右各借入ごとに訴外静岡県信用保証協会(以下「信用保証協会」という。)との間で信用保証委託契約(以下「本件信用保証委託契約」という。)を締結し、信用保証協会の静岡銀行に対する保証を得た際、原告は、訴外原正登(以下「正登」という。)、同原幸宏(以下「幸宏」という。)及び同石川征雄(以下「石川」という。)と共に、本件信用保証委託契約に基づくアマギ導熱の信用保証協会に対する求償金債務につき、信用保証協会に対して連帯保証をした。

そして、信用保証協会は、別紙借入金及び保証債務弁済額明細書の信用保証協会による代位弁済欄記載のとおり、昭和六二年一二月一八日、静岡銀行に対する右各保証契約に基づく保証債務の履行として、右借入金債務の残額合計七七七一万一六四七円を代位弁済したので、アマギ導熱に対し、本件信用保証委託契約に基づく求償金として右代位弁済額及び損害金、延滞保証料、諸費用等の支払請求権を取得した。

(3)ア 原告は右(一)の譲渡収入金額のうちから、別紙借入金及び保証債務弁済額明細書の順号1ないし4の原告の保証債務弁済欄記載のとおり、昭和六三年四月二八日から同一一月八日までの間に、右(1)の各連帯保証債務の履行として合計一億七九五三万二九三六円を各債権者に支払った。

イ また、原告は、右(一)の譲渡収入金額のうちから、別紙借入金及び保証債務弁済明細書の順号5の原告の保証債務弁済欄記載のとおり、同年六月二三日に右(2)の連帯保証債務の履行として合計八〇六三万三九一八円を信用保証協会に支払った。

(4) 原告は、右(3)の連帯保証債務の履行により、アマギ導熱に対し右(3)のア及びイの金額の合計額である二億六〇四六万六八五四円の、また、右(3)のイの連帯保証債務の履行により、右(2)のアマギ導熱の信用保証協会に対する求償金債務についての相連帯保証人である幸宏、正登及び石川に対し、それぞれ右(3)のイの金額の共同保証人の人数に応じた負担部分である四分の一の割合に相当する二〇一五万八四七九円の、各求償債権を有するに至ったところ、アマギ導熱は、昭和六二年九月に銀行取引停止処分を受けて事実上倒産したため昭和六三年六月五日に解散し、また正登は、昭和六二年九月三日に死亡してその相続人間の遺産分割協議により妻であった原告がその資産及び債務の全部を相続し、さらに幸宏は、昭和六三年六月四日に新たに設立されたアマギ導熱工業株式会社の代表取締役に就任したが、収入も少なく、所有資産も存在しないため、原告は、右求償債権のうち、右(3)のアの連帯保証債務の履行により有することとなった一億七九八三万二九三六円の金額と、右(3)のイの連帯保証債務の履行により有することとなった八〇六三万三九一八円のうち石川に対する求償金の額二〇一五万八四七九円を除くその余の六〇四七万五四三九円とを行使することができないこととなった。

したがって、所得税法六四条二項、一項、租税特別措置法施行令二〇条四項、所得税法施行令一八〇条二項により、右一億七九八三万二九三六円と六〇四七万五四三九円との合計額に相当する二億四〇三〇万八三七五円が、原告の長期譲渡所得の計算上なかったものとみなされる。

(五) 長期譲渡所得金額 二九八六万五三一五円

右(一)の総収入金額から右(二)の取得費の額及び右(三)の譲渡費用の額を控除して得た金額から、さらに右(四)の譲渡所得の金額の計算上なかったものとみなされる金額を差し引いて算出した長期譲渡所得金額は二九八六万五三一五円である。

(六) 納付すべき税額 五七〇万七〇〇〇円

右(五)の長期譲渡所得金額から、租税特別措置法三一条一項、三項の特別控除額一〇〇万円及び所得控除額三三万円を控除した課税長期譲渡所得金額は二八五三万三〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満で端数切捨て)であるから、同法三一条一項一号に従い、右課税長期譲渡所得金額に一〇〇分の二〇を乗じて算出した税額は五七〇万七〇〇〇円であり、右金額が納付すべき税額となる。

2  本件更正に係る長期譲渡所得金額及び納付すべき税額は、右1の(五)の長期譲渡所得金額及び同(六)の納付すべき税額と同額であるから、本件更正は適法である。

3  本件更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は五七〇万七〇〇〇円であり、また、原告がした昭和六三年分所得税の期限内申告に係る納付すべき税額は請求原因1のとおり〇円であるから、国税通則法六五条一項、二項に従って、原告が新たに納付すべき税額五七〇万円(同法一一八条三項により一万円未満で端数切捨て)に一〇〇分の一〇を乗じて得た金額と、原告が新たに納付すべき税額五七〇万七〇〇〇円のうち同法六五条二項所定の五〇万円を超える部分である五二〇万円(同法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の五を乗じて得た金額とを合算して算出した過少申告加算税額は八三万円である。

そうすると、右金額と同額の過少申告加算税を賦課した本件賦課決定も適法である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1の(一)ないし(三)の各事実は認める。

(二)(1)  同(四)の(1)にないし(3)の各事実を認める。

(2) 同(4)のうち、同(3)の連帯保証債務の履行により、原告がアマギ導熱に対し合計二億六〇四六万六八五四円の求償債権を取得したこと、同(3)のイの連帯保証債務の履行により、原告が同(2)のアマギ導熱の信用保証協会に対する求償金債務についての連帯保証人である幸宏及び正登に対し求償債権を有するに至ったこと(ただし、各求償債権の額を争う。)、アマギ導熱が昭和六二年九月に銀行取引処分を受けて事実上倒産したため昭和六三年六月五日に解散したこと、正登が昭和六二年九月三日に死亡して遺産分割協議により妻であった原告がその資産及び債務の全部を相続したこと、さらに幸宏が昭和六三年六月四日に新たに設立されたアマギ導熱工業株式会社の代表取締役に就任したが、収入も少なく、所有資産も存在しないこと、そのため、原告は、同(3)のアの連帯保証債務の履行により有することとなった一億七九八三万二九三六円の求償債権の全額と同(3)のイの連帯保証債務の履行により有することとなったアマギ導熱、正登及び幸宏に対する求償債権(ただし、正登及び幸宏に対する各求償債権の額は争う。)とを行使することができないこととなったことは認め、その余は争う。

後記原告の主張のとおり、原告の石川に対する求償債権は発生しない。

(三)  同(五)は争う。

(四)  同(六)のうち、特別控除額が一〇〇万円であること及び所得控除額が三三万円であることは認め、その余は争う。

2  同2及び3は争う。

五  原告の主張(連帯保証人間の負担割合の特約)

1  以下のとおり、抗弁1の(四)の(2)のアマギ導熱の信用保証協会に対する求償金債務についての連帯保証人である原告、正登、幸宏及び石川の間では、石川の負担割合を零とする合意が事前になされていた。

(一) アマギ導熱は、原告の夫正登及び原告の子幸宏が代表取締役(ただし正登は昭和六二年五月に退社)を、原告が監査役を、それぞれ努める法人税法上の同族会社であり、昭和五八年より、静岡銀行から継続的な融資を受けていたころ、その融資の開始に当たって、静岡銀行の融資当事者から、連帯保証人が原告、正登、幸宏ら親族だけであることは好ましくないので親族外の者を一名連帯保証人に入れるよう要請されたことから、原告、正登及び幸宏の三名で相談して、正登と懇意にしており、家電製品販売を業とする株式会社三石電化センターの代表取締役を務めて、相当の収入の資産を有し、しかも、原告らと縁戚関係にない石川に連帯保証人になってもらうことを決めたものである。ただし、原告、正登及び幸宏の三名は、石川にアマギ導熱の連帯保証人になってもらうとしても、アマギ導熱の債務は原告、正登及び幸宏の三名で責任をもって支払い、決して石川に負担をかけないつもりであった。

(二) そして、正登は、右三名の合意を受けて、石川に対し、別紙借入金及び保証債務弁済明細書の順号5のアに借入について保証人となることを依頼するに当たり、既に静岡銀行に対しては、原告名義の資産等充分な物的担保を供してあるが、静岡銀行から、連帯保証人に親族外の者に入れるよう要請があったことからの員数合わせ的な意味で連帯保証人となってもらうのであり、石川には迷惑をかけないなど説明し、石川から、右の静岡銀行からの借入金債務及びそれに伴う信用保証協会との信用保証委託契約に基づく求償金債務についての連帯保証人となることの承諾を得たものであるが、その依頼の際になされた、石川に迷惑をかけないとの説明は、右借入金債務及び求償債務についての連帯保証する、原告、石川ら四名の間において石川の負担割合を零とするとの趣旨であり、石川もそのことを前提に右各債務について保証人となることを承諾したものである。

(三) また、別紙借入金及び保証債務弁済額明細書の順号5のイないしカの各借入れ及びこれらに伴う信用保証協会との保証委託契約について、原告らが石川に、原告らに共に連帯保証人になることを依頼し、石川からその旨の承諾を得た際においても、いずれも右(二)と同様の趣旨で石川が連帯保証人となることを前提としていたものであるから、いずれの連帯保証契約においても、原告、石川ら連帯保証人間において、石川の負担割合を零とする合意がされていたものである。

2  右1のとおり、抗弁1の(四)の(2)のアマギ導熱の信用保証委託協会に対する各求償金債務についての連帯保証人である原告、正登、幸宏及び石川の間で、いずれの連帯保証契約についても石川の負担部分を零とする合意がされていたのであるから、原告が、同(3)のイのとおり、保証債務の履行として信用保証協会に対し八〇六三万三九一八円を支払ったことにより、原告は、アマギ導熱に対し右同額の求償債権を取得した外、正登及び幸宏に対しそれぞれ右八〇六三万三九一八円の三分の一の割合に相当する金額の求償債権を取得したが、石川に対しては何らの求償債権も取得しない。

そして、アマギ導熱、正登及び幸宏に対する求償債権がいずれも行使することができないこととなったことは、同(4)のとおりであるから、結局、原告は、右保証債務の履行に伴う求償債権の全額を行使することができないこととなったものである。

六  原告の主張に対する認否

1(一)  原告の主張1の(一)のうち、アマギ導熱が、原告の夫正登及び原告の子幸宏が代表取締役を、原告が監査役を、それぞれ努める法人税法上の同族会社であること、石川が家電製品販売業を業とする株式会社三石電化センターの代表取締役を努め、相当の収入と資産とを有すること及び原告らと縁戚関係がないことは認め、その余は否認する。

(二)  同(二)及び(三)は否認する。

2  同2のうち、原告が保証債務の履行として信用保証協会に対し八〇六三万三九一八円を支払ったことにより、アマギ導熱に対し右同額の求償債権を取得したこと、原告のアマギ導熱、正登及び幸宏に対する求償債権がいずれも行使することができないこととなったことは認め、その余りは争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるこきであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁1の(一)ないし(三)の各事実、同(四)の(1)ないし(3)の各事実、同(4)のうち、同(3)の連帯保証債務の履行により、原告がアマギ導熱に対し合計二億六〇四六万六八五四円の求償債権を取得したこと、同(3)のイの連帯保証債務の履行により、原告が同じ(2)のアマギ導熱の信用保証協会に対する求償金債務についての相連帯保証人である幸宏及び正登に対し求償債権を有するに至ったこと(ただし、各求償債権の額については争いがある。)、アマギ導熱が昭和六二年九月に銀行取引停止処分を受けて事実上倒産したため昭和六三年六月五日に解散したこと、正登が昭和六二年九月三日に死亡して遺産分割協議により妻であった原告がその資産及び負債の全部を相続したこと、さらに幸宏が昭和六三年六月四日から新たに設立されたアマギ導熱工業株式会社の代表取締役に就任したが、収入も少なく、所有資産も存在しないこと、そのため、原告は、同(3)のアの連帯保証債務の履行により有することとなった一億七九八三万二九三六円の求償債権の全額と、同(3)のイの連帯保証債務の履行により有することとなったアマギ導熱、正登及び幸宏に対する求償債権(ただし、正登及び幸宏に対する各求償債権の額は争いがある。)とを行使することができないこととなったこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

三  原告は、抗弁1の(四)の(2)のアマギ導熱の信用保証協会に対する各求償金債務についての相連帯保証人である原告、正登、幸宏及び石川の間で、いずれの連帯保証契約についても石川の負担部分を零とする合意が事前になされていたから、原告が信用保証協会に対する保証債務の履行をしたことにより原告が石川に対する求償債権を取得することはない旨主張するので、以下この点について判断する。

1  アマギ導熱は、原告の夫正登及び原告の子幸宏が代表取締役を、原告が監査役を、それぞれ努める法人税法上の同族会社であること、石川が家電製品販売を業とする株式会社三石電化センターの代表取締役を務め、相当の収入と資産を有し、かつ、原告らと縁戚関係にないことは、当事者に争いがなく、右事実に、成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第七ないし第一〇号証、原本の存在およびその成立に争いがない乙第一、第二号証の一、第三号証の一、二及び第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六号証の一、二、証人石川征雄及び原幸宏の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、

(一)  正登と、石川とは、昭和三九年以前からの知り合いで、石川が同年事業を興すに当たっては、正登が石川う静岡銀行三島支店に紹介し、石川が同銀行から資金の借入を受けるに際しては正登が保証人となり、さらに石川の結婚式においては、正登が媒酌人を務めるなどして、親密な関係を有していたこと、

(二)  昭和五八年ころ、アマギ導熱は、静岡銀行を主要取引銀行とし、そのころから同銀行より継続的に融資を受けていたが、その融資の開始に当たり、同銀行の融資担当者から、借入債務の連帯保証人に正登、幸宏、原告らの親族の外、親族外の者を一名入れるよう指示されたので、当時のアマギ導熱社長の幸宏が実父であり同社会長であった正登と相談して、前記(一)のとおり正登と懇意にしており、当時、株式会社三石電化センターを経営して相当の収入と資産とを有し、しかも原告らと縁戚関係にない石川に連帯保証人となることを依頼することとしたこと、

(三)  正登は、右相談の後、石川に対し、静岡銀行から、連帯保証人に親族外の者を入れるように指示があったことを説明し、さらに、すでに静岡銀行に対しては、原告名義の資産等充分な物的担保を供してあるから、石川に迷惑をかけるような事態にはならないなどと申し述べて、静岡銀行からの借入金債務及びそれに伴う信用保証協会との本件信用保証委託契約に基づく求償債権について連帯保証人となってくれるように依頼し、石川は、正登の右依頼を承諾したこと

(四)  幸宏は、正登より、石川の承諾が得られたことを聞いたうえ、後日、必要な書類を持参して石川を訪ね、石川は、当該書類に署名押印することによって、別紙借入金及び保証債務弁済額証明書の順号5の借入欄アの記載のアマギ導熱の静岡銀行からの借入に際し、静岡銀行に対し、アマギ導熱の借入金債務につき、連帯保証する旨約するとともに、信用保証協会に対しても本件信用保証委託契約に基づくアマギ導熱の求償金債務につき、連帯保証する旨約したこと、

(五)  その後も、アマギ導熱が別紙借入金額及び保証債務弁済額明細書の順号5のイないしカ欄のとおり静岡銀行から借入をした際には、正登が、事前に石川が電話して、保証人となることを依頼した上で、幸宏が、石川方を訪ねて必要書類に署名押印をもらうことにより、石川が同銀行に対して借入金債務につき、また、信用保証協会に対し求償金債務につき連帯保証契約する旨約したこと、

(六)  右(四)記載のアマギ導熱の静岡銀行からの借入れの当時、正登所有名義の別紙物件目録1、3記載の土地建物、原告所有名義の2、19記載の土地、アマギ導熱所有名義のき同目録18記載の土地について、債務者をアマギ導熱、根抵当債権者静岡銀行、極度額を合計九五〇〇万円とする根抵当権が設定されていたこと、しかし、アマギ導熱が事実上倒産するに至った昭和六二年九月当時、アマギ導熱の静岡銀行からの借入残高は八〇四九万円に達していたが、債務者をアマギ導熱、根抵当権者を静岡銀行とする根抵当権の極度額の総額は五五〇〇万円であり、外に根担保預金四〇三万余円が設定されていただけであったこと、

以上の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

2  右の認定事実によれば、アマギ導熱が静岡銀行から別紙借入金及び保証債務弁済額明細書の順号5の借入欄ア記載の借入れをするに先立って、正登及び幸宏が石川に対し、右借入金債務及びこれに伴う本件信用保証委託契約に基づく求償債権について連帯保証人となることを依頼するに際し、充分な物的担保があるから迷惑をかける事態にならないなどと説明したことが認められ、また、アマギ導熱が同イないしカの借入をする際にも、右のような説明を一応の前提として、石川に対し、同様の連帯保証人となることを依頼したものと推認することができる。

しかしながら、右の依頼の経緯に原告自身が関与していたとか、原告も正登らの右依頼の内容を知った上でこれを是認している旨石川に伝えたとかいう事実を認めるに足りる証拠はなく、したがって、正登及び幸宏がした右の説明が、原告と石川との関係においても、それぞれの連帯保証の前提とされていたものと断定することはできない。

のみならず、正登らの右の説明が、相連帯保証人としての立場のものではなく、主たる債務者であるアマギ導熱の経営者としての立場のものであることはその趣旨に照らして明らかであるべきところ、迷惑をかけないなどとの言辞は主たる債務者ないしその経営者が他に保証を依頼する際の単なる常套句であるのが通常であるから、正登及び幸宏が、石川に連帯保証を依頼する際に右のような説明をしたからといって、それが、主たる債務者であるアマギ導熱の経営者の立場からその主たる債務の履行に努力する旨ないし主たる債務の履行を確実に行うことができる見込みがあるという旨の表明したものであるというに止まらず、連帯保証人としての立場の正登及び幸宏が、相連帯保証人である石川との間で、石川の負担割合を零とする旨を約する趣旨までを含むものとは直ちに認めることができない。

そして、他に、抗弁1の(四)の(2)のアマギ導熱の信用保証協会に対する各求償金債務についての相連帯保証人である原告、正登、幸宏及び石川の間で、いずれの連帯保証契約についても石川の負担部分を零とする合意が事前にされていたことを認めるに足りる証拠はないから、右の合計が存在することを前提として、原告が信用保証協会に対する保証政務の履行をしたことにより、原告が石川に対する求償債権を取得することはないとする原告の主張は失当である。

四  そうすると、原告が信用保証協会に対する保証債務の履行として、抗弁1の(四)の(3)のイの八〇六三万三九一八円を支払ったことによって、原告は、石川に対し、共同保証人の人数に応じ、右弁済額の四分の一に相当する二〇一五万八四七九円の求償債権を有するに至ったものというべきところ、右の石川に対する求償債権を行使することができない旨の主張立証はないから、結局、原告が抗弁1の(一)の譲渡収入金額のうちから履行した保証債務の額のうち、その履行に伴う求償債権を行使することができないこととなったのは、抗弁1の(四)の(3)のアの連帯保証債務の履行により有することとなった一億七九八三万二九三六円の全額と、同イの連帯保証債務の履行により有することとなった八〇六三万三九一八円のうち石川に対する求償債権の額二〇一五万八四七九円を除くその余の六〇四七万五四三九円との合計二億四〇三〇万八三七五円となり、所得税法六四条二項、租税特別措置法施行令二〇条四項、所有税法施行令一八〇条二項により、右金額が原告の長期譲渡所得の計算上なかったものとみなされることとなる。

そして、抗弁1の(一)総収入金額から同(二)の取得費の額及び同(三)の譲渡費用の額を控除して得た金額から、さらに右の譲渡所得の金額の計算上なかったものとみなされる二億四〇三〇万八三七五円を差し引いて原告の昭和六三年分の長期譲渡所得金額を算出すると二九八六万五三一五円となり、また、抗弁1の(六)のうち、所得控除額が三三万円であることは当事者間に争いがないので、右長期譲渡所得金額から租税特別措置法三一条一項、三項の特別控除額一〇〇万円及び右所得控除額三三万円を控除して得た課税長期譲渡所得金額二八五三万五〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に、同法三一条一項一号に従い、一〇〇分の二〇の税率を乗じて得た算出税額は五七〇万七〇〇〇円となるところ、算出税額から控除すべき金額に関する主張立証はないから、右五七〇万七〇〇〇円が原告の昭和六三年分所得税に係る納付すべき税額となる。

したがって、長期譲渡所得金額及び納付すべき税額をそれぞれ右金額と同額とする本件更正は適法である。

五  本件更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は五七〇万七〇〇〇円であり、また、原告がした昭和六三年分所得税の期限内申告に係る納付すべき税額は、請求原因1のとおり〇円であるから、国税通則法六五条一項、二項に従って、原告が新たに納付すべき税額五七〇万円(同法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇を乗じて得た金額と、原告が新たに納付すべき税額五七〇万七〇〇〇円のうち同法六五条二項所定の五〇万円を超える部分である五二〇万円(同法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の五を乗じて得た金額と合算して算出した過少申告加算税額は八三万円である。

そうすると、右金額と同額の過少申告加算税を賦課した本件賦課決定も適法である。

六  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒川昴 裁判官 石川直樹 裁判官 森崎英二)

別表

課税経過表

<省略>

別紙

物件目録

1 三島市中央町一四四七番地の一

宅地 五〇一・四八平方メートル

2 同所

木造瓦葺平屋建住宅 一二七・三三平方メートル

3 同所

木造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建店舗兼住宅 三九・八〇平方メートル

4 田方郡修善寺町牧之郷字田沢口五四六の二

宅地 一六四・二九平方メートル

5 同所 五四六の九

宅地 六五・六八平方メートル

6 同所 五四六の一〇

宅地 八九・三五平方メートル

7 同所 五四六の一一

宅地 二一・四五平方メートル

8 同所 五五三の五

宅地 三〇二・四七平方メートル

9 同所 五五三の七

宅地 三八・八九平方メートル

10 同所 五五三の九

宅地 一一三・四四平方メートル

11 同所 五五三の一〇

宅地 三〇・二六平方メートル

12 同所 五五三の一一

宅地 一二・七五平方メートル

13 同所 五五三の一二

宅地 一四・二一平方メートル

14 同所同字四ツ溝 五二七の二

宅地 六四六・七一平方メートル

15 同所 五二七の九

宅地 六八・四〇平方メートル

16 同所 五二七の一〇

宅地 一九・八九平方メートル

17 同所 五三一の一

宅地 二一四・八七平方メートル

18 同所同字廣地四六三番一

雑種地 四三四平方メートル

19 横浜市港北区篠原北二丁目一一二〇番五

宅地 一七四・二四平方メートル

別紙

借入金及び保証債務弁済明細書

<省略>

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