静岡地方裁判所 平成4年(わ)148号 判決 1992年7月13日
本籍
静岡県清水市神田町四七三番地の二
住居
同県同市有東坂一丁目二二四番地の八
会社役員
望月常夫
昭和一一年一月二六日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宮崎雄一及び弁護人(私選)土屋連秀各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年二月及び罰金一八〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、静岡県清水市有東坂一丁目二二四番地の八において丸福材木店なる商号で木材加工販売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上
第一 昭和六三年分の実際の総所得金額が七〇五三万六八六四円で、これに対する所得税額が三二九二万三〇〇〇円であったのにかかわらず、平成元年三月一五日、同市江尻東一丁目五番一号所在の所轄清水税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が八〇九万八五四五円で、これに対する所得税額が一二八万〇一〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右不正の行為により、同年分の正規の所得税額との差額三一六四万二九〇〇円を免れ
第二 平成元年分の実際の総所得金額が八一六八万六一二八円で、これに対する所得税額が三六五〇万九〇〇〇円であったのにかかわらず、平成二年三月六日、前記清水税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一一六五万七七二八円で、これに対する所得税額が二四一万五六〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右不正の行為により、同年分の正規の所得税額との差額三四〇九万三四〇〇円を免れ
第三 平成二年分の実際の総所得金額が三七九五万四〇八二円で、これに対する所得税額が一四六四万二〇〇〇円であったのにかかわらず、平成三年三月一五日、前記清水税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一八一六万七七六三円で、これに対する所得税額が五〇一万九二〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右不正の行為により、同年分の正規の所得税額との差額九六二万二八〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書八通
一 被告人作成の上申書二通
一 望月年子の検察官に対する供述調書並びに大蔵事務官(平成三年九月一八日付け、同月一九日付け、同年一〇月三日付け、同年一一月二八日付け、平成四年一月一八日付け、同月三〇日付け、同年二月二八日付け及び同年三月六日付け)に対する各質問てん末書
一 佐野やよい、久保田弘子、小澤強(二通)及び早瀬五生(三通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の査察官調査書五通
判示第一及び第二の事実につき
一 稲葉司朗の大蔵事務官に対する質問てん末書
判示第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書(1)」「証明書(一)」「証明書(四)」「証明書(七)」と題する各書面
判示第二の事実につき
一 古川一夫(二通)及び是永健爾(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書(2)」「証明書(二)」「証明書(五)」「証明書(八)」と題する各書面
判示第三の事実のつき
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書(3)」「証明書(三)」「証明書(六)」「証明書(九)」と題する各書面
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条に該当するところ、情状により所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑について同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金一八〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、二十数年来木材加工販売業を営んでいた被告人が、以前取引先が倒産して貸倒損が生じて経営が悪化した経験があったことから、将来の経営の安定化を図るために所得税を免れて蓄財することを企て、経理を担当していた妻に指示して売上の一部を帳簿から除外し、借名の預金口座を利用して取り立てるなどして三年間に合計七五三五万九一〇〇円(平均ほ脱率約九〇パーセント)という多額の所得税を免れたという事案であって、動機に酌むべき点はなく、そのほ脱額、ほ脱率等に照らすと、被告人の責任は決して軽いものではない。
しかし、被告人は本件発覚後、深く反省悔悟し、調査当初から事実を認め、免れていた本税のほか重加算税や延滞税についても既に完納していること、被告人は本件後営業を法人化するに伴い、専門の経理担当者を雇い入れるなどし、今後不正の蓄財を行わない旨誓っていること等の諸事情も認められるので、右の諸事情を考慮した上懲役刑についてはその執行を猶予することとし、主文のとおり量刑した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木勝利 裁判官 伊東一廣 裁判官 内山梨枝子)