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静岡地方裁判所 平成8年(行ウ)6号 判決 1999年4月22日

原告

足立春男

(ほか九名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

渡辺昭

被告

静岡県知事 石川嘉延

右訴訟代理人弁護士

大場民男

右指定代理人

中谷孔右

北川英明

榛葉法大

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  法二一条一項三号違反について

1  法二一条一項三号の定める「市街地とするのに適当でない地域」とは、都市計画法や農業振興地域の整備に関する法律等により、市街地として開発をすることが適当でないと定められた地域(例えば、風致地区、歴史的風土特別保存地区、緑地保全地区、耕作等の目的に供される、いわゆる農用地等)を意味するものと解するのが相当である。なぜなら、土地区画整理事業は、都市計画区域内の土地について、健全な市街地を造成することを目的として行われる事業であるところ(法一条、二条一項参照)、同区域内には、都市計画法や農業振興地域の整備に関する法律等により、市街地として開発をすることが適当でないと定められた地域が存在することから、かかる地域において同事業が行われることを防止することが右条項の趣旨であると解されるからである。

〔証拠略〕を総合すれば、本件施行地区は、当初、農業振興地域の整備に関する法律による農業振興地域に指定されていたが、平成二年七月三日付静岡県知事の都市計画決定により、東西の山沿い地域(約六・一ヘクタール)が工業地域、その他の地域(約四一・七ヘクタール)が第一種住居専用地域と定められ、右の農業振興地域の指定が解除され(なお、右第一種住居専用地域は、平成七年一月四日付同知事の都市計画決定により、第一種低層住居専用地域に変更された。)、その後、平成五年三月二六日付同知事の都市計画決定により、法による土地区画整理事業(都市計画法一二条一項一号の市街地開発事業)の施行区域と定められたことが認められる。

右事実によれば、本件施行地区は、法二一条一項三号の「市街地とするのに適当でない地域」に該当しないことが明らかである。

したがって、本件処分は、法二一条一項三号に違反しない。

2  この点につき、原告らは、本件施行地区が天竜市地域防災計画(東海地震対策編)において液状化発生の可能性が高い区域とされていること(〔証拠略〕)等を理由として、本件施行地区は「市街地とするのに適当でない地域」に該当する旨主張するが、右でみたところからも明らかなとおり、原告らが指摘する右事情は、「市街地とするのに適当でない地域」に該当するか否かの判断を左右する事情とは認め難いから、原告らの主張は理由がない。

二  争点2(法二一条一項二号違反)について

1  法は、事業計画において定められるべき事項について、建設省令に委任しているところ(法六条一項、七項)、〔証拠略〕によれば、本件事業計画の内容は、いずれも建設省令である土地区画整理法施行令の規定を遵守しているものと認められる。

2  ところで、原告らは、本件事業計画には、地盤改良等の液状化対策が定められていないから、本件事業計画は、法六条四項に違反する旨主張する。

確かに、本件事業計画(〔証拠略〕)には、原告らが指摘するような液状化対策は定められていない(なお、〔証拠略〕によれば、本件事業計画においては、二億八六〇〇万円の費用(整地費)をもって約二メートルの盛土を行うことが予定されているが、これは液状化対策としても有効であると認められる。)。

しかしながら、法六条四項は、事業計画を定めるにあたって留意すべき観点を定めた規定であると解されるところ、右規定の趣旨を受けて、法の委任により(法六条一項、七項)、事業計画において定められるべき事項の内容を詳細に規定した土地区画整理法施行令は、液状化対策に関する規定を置いていない。そうすると、土地区画整理事業において、原告らが指摘するような液状化対策を実施することは求められていないと解すべきであり、本件事業計画において、原告らが指摘するような液状化対策が定められていないことをもって、法六条四項に違反するとはいえない。

3  以上によれば、本件処分は法六条四項に違反しない。

三  争点3(法二一条一項四号違反)について

1  法二一条一項四号は、認可の申請があった土地区画整理組合が「土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎」が十分でないと認めるとき以外は、土地区画整理組合の設立を認可しなけれはならない旨規定するところ、〔証拠略〕によれば、本件事業の資金計画における収入予算五九億一〇〇〇万円のうち、二四億〇八〇〇万円については、国、静岡県、天竜市、公共施設管理者から資金提供があること、また、残りの三五億〇二〇〇万円については、保留地を一平方メートルあたり六万一〇〇〇円で処分した金員で賄う予定であるところ、右保留地処分金は、不動産鑑定士による鑑定評価を前提として、いわゆる路線価方式によって適正に算定されていることが認められるから、本件組合は、「土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎」が十分でないとはいえない。

2  この点につき、原告らは、(一)保留地処分金の算定にあたっては、<1>本件施行地区の土地が、液状化対策の実施が必要不可欠な土地であること、<2>本件施行地区は、三方を山で囲まれた盆地状の地形であり、場所によっては日照時間等の自然条件が著しく異なること(〔証拠略〕)、<3>いわゆるバブル経済崩壊後の不動産市況の低迷等といった価格を低下させる事情が考慮されていないこと、(二)本件事業計画では、液状化対策に要する費用が計上されていないこと等を理由として、本件組合は、「土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎」が十分でないと主張するが、右(一)で主張されている事情のほか、本件組合と類似の事業計画を有する他の土地区画整理組合による土地区画整理事業が、地価の下落等の事情により、保留地の処分に窮していること(〔証拠略〕)等を併せ考慮しても、直ちに、前記保留地処分価格が現実には処分できないような高額な価格であるとは認められず、また、右(二)の主張は、本件事業においても原告らが指摘するような液状化対策が実施されることが前提であるところ、右事業においては、その指摘するような液状化対策が実施されるわけではないから(弁論の全趣旨)、原告らの主張は、その前提を欠くというべきである。

3  以上によれば、本件処分は法二一条一項四号に違反しない。

四  結語

よって、原告らの請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 田中治 村主隆行)

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