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静岡地方裁判所 平成9年(ワ)236号 判決 2000年3月21日

原告 A野一郎

右法定代理人親権者父 A野太郎

右法定代理人親権者母 A野花子

右訴訟代理人弁護士 藤森克美

被告 日本赤十字社

右代表者社長 藤森昭一

右訴訟代理人弁護士 牧田静二

同 祖父江史和

主文

1  被告は原告に対し金一八八二万九八三一円及びこれに対する平成七年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し金三〇一八万五九三二円及びこれに対する平成七年一〇月五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、その両親を介して被告と締結した診療契約に基づいて、被告には同契約上の債務不履行(不十分な診療)があり、その結果原告の身体に後遺症が残った等と主張して損害賠償及び遅延損害金の支払を求める事案であり、次の一の項に記載する事実は当事者間に争いがないか証拠により容易に認められ、争点は次の二の項に記載するとおりである。

一  当事者間に争いがない事実等

1  A野花子は出産のため被告が経営する静岡赤十字病院(以下「被告病院」という。)に入院し、平成四年六月二九日午後四時四三分、A野太郎との間の長男である原告を出生した。原告は、存胎三九週、出生時の身長四八・五センチメートル、体重二五四六グラムであった。

2  原告には、出生間もなくから頻回の嘔吐と著明な体重減少が認められたために、初期嘔吐との診断のもとに同年七月一日(以下断らない限り同年中の日を指す。)から被告病院の小児科に入院し、医師西川和男のもとで治療を受けることになった。

3  こうして、A野花子と被告、原告(法定代理人父A野太郎及び同母A野花子)と被告とは、A野花子の出産について、また、その後の原告の症状について診療契約を締結した。

4  しかし、原告は小児科に入院してまもなく、院内感染菌としてもよく知られているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下「MRSA」という。)を起炎菌とする化膿性股関節炎、骨髄炎、右膝関節炎に罹患し、被告病院の整形外科医師により掻爬排膿手術を受けることとなったが、化膿性股関節炎により右大腿骨骨端の成長が阻害されたこと、及び、右膝関節炎の予後が必ずしも良好ではなかったため、一定の障害が残ることとなった。

二  争点

1  被告病院において相当の注意を払っていれば原告の化膿性股関節炎をより早期に発見し、かつ、結果の発生を防ぐことができたか

(原告)

骨髄炎は、大腿骨上下端、脛骨上下端、上腕骨近位端など長管骨の骨幹端に好発し、X線所見は発病後一ないし二週間、乳児の場合は三ないし五日で骨膜反応、不規則な骨破壊像を示すようになることが知られている。被告病院は、原告が七月九日にグラム陽性球菌陽性となり、敗血症を疑ったが、当時原告には発熱があり、むつきを交換する際に号泣する等の化膿性股関節炎に典型的な症状も見られた上、七月一二日には原告がMRSA感染症に罹患したとの結論を得たのであるから、遅くともそのときにはMRSA感染症が発症すると同時に骨髄炎も発症したと疑って、逐次骨髄炎好発部位に対するX線写真撮影、骨シンチグラム検査をして発症の有無を確認し、これを発見した場合には早急に骨穿刺あるいは開窓により排膿すべき注意義務があった。

しかし、被告病院医師はこの点に思い至らず、七月一四日になってようやく化膿性股関節炎ないし大腿骨骨髄炎に罹患している可能性があると認識するに止まり、X線写真撮影は七月一五日に至るまで、骨髄炎や関節炎の早期発見に有効な骨シンチグラム検査に至っては同月一七日になるまでこれらをしなかった。

このために化膿性股関節炎、骨髄炎の発見が遅れ、七月二一日に排膿手術が行われたときには、すでに右膝の軟骨、右大腿骨骨頭あるいは軟骨も溶けかかっており、後に両脚長に差を生ずることになった。

(被告)

七月一五日に撮影されたX線写真を、結果を斟酌して観察すれば、股関節の変形を発見しうるとしても、それは整形外科のX線写真読影に熟達した医師に限っていえることであり、これを小児科医師の義務として認めることは困難であり、その後の骨シンチグラム検査の結果も、化膿性股関節炎のほかに蜂窩織炎等をも可能性として含むものであったし、むつきを交換する際に号泣することは、新生児の場合に稀ではないから、それらの事情があったからといって、被告病院における治療の経過より一層早期に化膿性股関節炎を発見し、対処し得たとはいえない。

2  損害

(原告)

イ 逸失利益 一八四八万五九三二円

原告は、被告における股関節炎発見の遅れ及びその後の治療の不備により右膝の軟骨及び右大腿骨骨頭に障害が残った。その障害の程度は労働者災害保障保険法障害等級のうち第八級の七「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」(人工骨頭又は人工関節を挿入置換したもの)に相当する。原告は右の後遺症により労働能力の四五パーセントを失ったから、これによる損失は、平成四年度の賃金センサス中の男子労働者学歴計年収である五四四万一四〇〇円を基に、中間利息の控除について年五分の割合によるライプニッツ式を用いて、一八四八万五九三二円と計算される。

ロ 後遺症慰謝料 九〇〇万〇〇〇〇円

右のとおりの後遺症を抱えることになった原告に対する慰謝料としては加害者と被害者との互換性がない医療過誤の特質を考慮して九〇〇万円が相当である。

ハ 弁護士費用 二七〇万〇〇〇〇円

ニ 合計 三〇一八万五九三二円

原告は、右合計額及びこれに対する民事調停申立書の送達による請求の日の翌日である平成七年一〇月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告)

原告に損害が発生した事実は争う。

第三争点に対する判断

一  発症の経過

《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

1  原告は、小児科に入院後次第に回復し、七月七日午後二時及び同日午後六時にA野花子から直接授乳された。ところが、同月八日午前中に発熱があって三八度三分となり、看護婦は、原告が体に触れるといやな顔をしてぐずぐず啼泣して不機嫌であること、下肢を縮め、体を硬くし、むつきを交換するときに両下肢を持つと啼泣が激しいことを確認し、関節痛があるのだろうかと疑いを持ち、その旨看護記録に残した。看護婦はその後も連日原告の同じ状態を確認した。

2  西川医師が敗血症を疑い、七月八日に原告の咽頭粘液、股静脈からの採血の検査をしたところ、双方からMRSAが検出された。原告にはこれに応じてフルマリン及びホスホマイシンが投薬され、七月一〇日には三七度、七月一一日には三七度五分と下熱傾向を見たが、同日夜再度三八度近くにまで上昇し、その後後記の手術時まで熱傾向が続いた。

3  原告は、同月一三日に再度発熱し、翌一四日にも三八度の熱を記録した。そこで、同月一四日からMRSAに対象を絞ったハベカシンが併せて投与されることとなった。七月一四日、原告の股関節は腫脹し、原告を診察した渡辺医師は、右下肢を股関節部で伸展させようとすると原告が激しく泣くのを確認し、化膿性股関節炎、大腿骨骨髄炎を鑑別(ルールアウト)すべきだと判断し、その旨を記録にとどめた。

4  西川医師は、七月一五日、一六日に原告の右足の動きが悪いことを、七月一七日には右大腿が太くなっていることをそれぞれ確認し、骨を含まない軟部組織の炎症である蜂窩織炎を疑い、さらに七月一八日には右足を動かさず、右大腿付け根、右膝が腫脹しているのを確認し、MRSA起炎菌とする敗血症に基づく右下肢蜂窩織炎と判断した。

七月一五日に原告の股関節X線写真を撮ったが、小児科では写真上何らの異常を認めなかった。もっとも、股関節炎や骨髄炎を専門に含む整形外科医に比較すると小児科医は平生四肢のX線写真を見る機会が乏しいものであって、後に当該X線写真を見た整形外科医には大腿骨と座骨との距離を比較して右の方が左よりもやや離れていることが認識された。

5  西川医師は放射線科の横山医師に依頼して、同月一七日原告に骨シンチグラム検査を実施することにした。同医師の見解では、原告の骨シンチグラム検査の結果、右大腿骨頭付近の集積が多いことを斟酌すると、骨髄炎、股関節炎、蜂窩織炎のいずれとも考えられた。

原告の体温は同日三八度まで上昇し、同月一九日には三八度二分あった。看護婦は、同月二〇日にも原告の右大腿の腫脹強く、同日深夜には右大腿から膝までが発赤腫脹強く、テカテカした状態で、号泣し、足をばたつかせるが右下肢の動きはほとんど見られない状態であることを確認した。

6  同月二〇日からバンコマイシンが点滴されることになった。同日撮影したX線写真によれば、大腿骨頭が七月一五日段階に比べて変形していた。しかし、この段階でも西川医師は蜂窩織炎との判断を保持し、当該写真上の印象は撮影の角度の影響でそうなるのかも知れないと考えつつ、骨髄炎の疑いも払拭できないとの判断から、まず外科に対し、七月八日に敗血症となり、七月一四日から右大腿さらに右膝に蜂窩織炎を合併したとの自己の見解を添えて、排膿術及びその後の治療を願いたいと依頼したところ、外科としては手術は困難と考えるが、骨シンチグラム検査の結果及びX線写真により骨頭及び骨幹部周辺で骨膜反応が見られたという結果からみて、整形外科の診断を仰ぐことを助言された。

7  この助言に従い、同年七月二一日、整形外科に排膿手術及び関連の診断を依頼したところ、整形外科では即日掻爬排膿等の緊急手術を要するとの結論であり、同科の山中芳医師及び鎌田修博医師により原告に対する手術が行われた。股関節を切開したところ、右大腿骨の関節包は黄褐色を呈し肥厚しており、切開中から膿塊排出があったが、大腿骨頭軟骨は外上方に脱臼した状態で、予想以上に健常で円形を保っていた。膝関節についても切開排膿の手術が施された。鎌田医師は、当該手術経過に看護記録から認められるむつき交換時の啼泣の事実を合わせて考慮し、股関節部の発症は七月八日、膝への転移は七月二〇日と判断した。術後、原告は九月一五日被告病院を退院するに至るまで同科において治療を受けた。

8  原告に対しては、ハベカシン使用に伴う好ましくない症状を懸念して腎機能(八月二六日)、聴力(八月二一日及び同月三〇日)の検査が行われたが、異常は発見されなかった。

二  化膿性股関節炎

《証拠省略》によれば次の事実が認められる。

1  一般に新生児の化膿性関節炎は比較的まれな疾患であるが、発見、治療が遅れることによって関節拘縮や成長障害、病的脱臼などの後障害を引き起こすところから注意を要すべき疾患とされている。起炎菌は黄色ブドウ球菌が多い。急性乳児化膿性股関節炎の場合、初発部位は大部分が大腿骨頸部骨幹端部の骨髄炎として発症し、同部が関節包内にあるため股関節炎の形となり、また、新生児の骨端部は骨幹端から血流が供給されているため、骨幹端部で起こった炎症が直接骨端部に波及して関節炎の形となることもあるとされる。股関節が好発部位の一つであり、その場合、患側股関節は屈曲、外転の防御肢位をとり、自動運動はほとんど見られず、他動的に股関節を伸展するとひどく痛がって泣くことがあり、罹患股関節部に相当して腫脹、硬結、発赤、熱感、圧痛などを認める。関節の腫脹が見られれば診断は容易であるが、新生児の場合、また、罹患初期には所見がさほど明瞭でないことが多く、臨床場面では見逃されやすい疾患の一つである。そこで、自動運動の減少や他動時の激しい啼泣などの症状が早期診断にとって重要と考えられている。なお、新生児について股静脈からの採血が股関節穿刺となって化膿性関節炎を引き起こすことがあることから、新生児の採血は抹消静脈からに限るとの見解が優位である。

2  X線所見では、発症後数日以内は局所の軟部組織の腫脹を認めるのみで、発症後三日目から五日目になると股関節包の拡張による大腿骨頭の軽微な側方化(亜脱臼)、骨幹端部の骨萎縮像、不規則印影像、骨膜反応像が見られるようになる。鑑別診断には、化膿性骨髄炎、化膿性筋炎、蜂窩織炎等が挙げられ、これを特異的に診断する方法はないが、化膿性関節炎は関節穿刺による膿の証明、化膿性骨髄炎は骨幹端部の全周にわたる炎症像、化膿性筋炎は筋の走行に一致した炎症像、蜂窩織炎はごく局限性の炎症像をそれぞれ特徴とするところから、理学的所見とX線所見が重要である。

3  こうして診断がついた場合には、少なくとも発病後一週以内に股関節包を切開して排膿することが最も重要である。発症後五日以内に切開、排膿したものの予後は概ね良好である。早期の適切な時期に外科的処置を失した場合には、高度な病的脱臼や関節破壊、大腿骨頭の完全消失などの傷害を残すことが多い。このように時宜を得なければ重大な機能障害を残すことから、新生児の感染症に際しては、常に化膿性関節炎の存在に留意して、全身症状のみでなく、局所の変化にも十分注意すべきである。

三  早期発見及び結果回避の可能性

先に判断したとおり、原告には、七月八日から継続してむつきの交換時に激しく泣く症状が見られ、渡辺医師は、七月一四日には、右下肢を股関節部で伸展させようとすると原告が激しく泣くことを見て、化膿性股関節炎、大腿骨骨髄炎の鑑別の必要(それは概ね整形外科による診断を求めることを意味すると考えてよい。)があると判断し、その旨を記録した。しかし、この看護記録上に残る原告の症状と渡辺医師の着眼が西川医師によって十分に検討されたとの十分な形跡は証拠上見いだせない。七月一七日の骨シンチグラム検査の結果に対する評価は、右大腿骨頭付近の集積は骨髄炎、股関節炎、蜂窩織炎のいずれの可能性も考えられるというものであったから、渡辺医師の他疾患のルールアウトの必要性の判断は保持されるべきであるのに、七月二〇日には蜂窩織炎ではないかとの判断に傾き、外科に治療を依頼し、外科から整形外科の診断を受けるべきであるとの助言を得てはじめて整形外科に股関節炎、骨髄炎がないかどうかを判断すべきことを求めた。

《証拠省略》によれば、放射線科の素養のある整形外科の医師であれば、被告病院で七月一五日に原告を撮影したX線写真から、原告の右股関節部において脱臼が生じていることを突き止め、脱臼を生じさせる疾患を疑うことができる上、七月二〇日のX線写真によれば、股関節に限局していた炎症が大腿骨に波及して骨髄炎を発症している事実を傍証すべき骨膜反応が見られる、そこで、七月一五日に必要な手術がなされていれば、原告に発生した大腿骨骨頭及び膝関節の障害を避けることができた、との事実が認められる。

これらの事実関係に、先の化膿性股関節炎の特徴を考慮すると、被告病院の医師が遅くとも七月一五日の段階で整形外科医の診断を求めていれば、原告の股関節に発生している異常に気付き、相応しい観察と施術が可能であり、かつ、原告の大腿骨骨頭及び膝関節の障害を避けることができたと認められる。

この点、医師青木継稔の鑑定的意見書は、原告には七月八日から七月一四日までの間に発熱以外に目立った症状が見られないとの事実をも前提にして医師の判断及び治療に誤り、時期の遅れがあったとはいえないとの結論を導いているが、先に判断したとおり、看護記録のなかにはその間の無視し難い原告の症状が残されており、渡辺医師も他疾患の鑑別の必要を指摘しているところであり、そこに十分意を払っていないのではないか、との憾みを残すのであって、右の判断を左右するに足りない。また、右意見書は、原告の障害の結果は避けられなかったとも指摘するが、福岡医師の証言に加えて、原告が七月二一日に整形外科に送られた後の整形外科の機敏な対応に照らして、結果を回避する可能性があったとの判断は動かない。

四  原告の損害

1  原告の現症状

《証拠省略》によれば次の事実が認められる。

原告の右大腿骨頭は変形して小さく、一部分節化している。大腿骨頸部は著しく短縮し、X線写真上には拡大した骨端線として認められるのみで骨化した部分はほとんどない(この点、掻爬排膿術時の大腿骨頭軟骨は予想以上に健常で円形を保っていたとの被告病院の中山医師及び鎌田医師による観察とはやや印象を異にするものの、両者の関係は明らかではない。)。

原告は、右脚延長手術として、大腿骨を人工的に切断し、中間部分の骨の伸張を促すために延長器を装着する処置を受けた上、該装置を着けた生活を平成一〇年一二月七日まで続けた。その後ギプスを装着して足を固定したが現在はそれも外れた。右手術の結果、原告の両脚は左右不等となっており、右大腿骨の延長が終了に近い現在右が左に比較して二ないし三センチメートル長いが、今後は左大腿骨が長くなる可能性もあることから、さらに二〇歳までに再度の手術をするのが適当である。最終的に二ないし三センチメートルの脚長差に収まれば日常生活上の問題は少ないが、成長終了時の左右の下肢長差の正確な予想は困難である。

右のとおり、原告の大腿骨近位部には変形があり、跛行、股関節の運動制限や痛みが残存する可能性があり、また、長時間の歩行、激しい運動の制限を要するかも知れない状態にある。

右大腿骨延長手術直前の平成一〇年二月九日の測定では、右股関節の関節可動域は屈曲一二〇度、外転三五度、内転二〇度、外旋一〇度であり、左股関節と比べて制限があった。右膝関節にも、伸展制限五度、屈曲一四〇度、左側が〇ないし一五〇度であるのに比較して軽度の可動域制限があり、手術の影響により平成一一年三月四日の測定では、伸展〇度、屈曲八〇度と制限が増えたが、これは徐々に軽快傾向にある。

原告は、現在松葉杖を利用することもなく、脚長差を補正するための厚底靴も用いずに生活しており、入浴等にも支障はない。原告にはそれ以外に障害はない。

2  損害の評価

イ 逸失利益 一二三二万九八三一円

原告の右の症状は、これを軽減するために将来の手術が望ましいものであり、その結果、どの程度の症状として原告の労働能力に影響を与えることになるのか確定できない面を有するが、現在の資料によって判断すると、その障害の程度は、労働能力の三割を喪失したものとして評価するのが相当である(原告は三大関節中の一の用を廃したという評価をすべきであると主張するが、その評価を納得させるに足る事実は認められない。)。そこでこれによる損害は、原告も主張する平成四年度の賃金センサス中の男子労働者学歴計全年齢平均年収である五四四万一四〇〇円を基に、中間利息の控除について年五分の割合によるライプニッツ式を用いて(平成四年から原告が六七歳に達するときまでのライプニッツ計数一九・二三九〇から、平成四年から原告が一八歳に達するときまでのライプニッツ計数一一・六八五九を減じた七・五五三一を充てる。)、一二三二万九八三一円と算定される。

ロ 後遺症慰謝料 五〇〇万〇〇〇〇円

右のとおり幼時に後遺症を抱えることになった原告に対する慰謝料としては五〇〇万円が相当である。

ハ 弁護士費用 一五〇万〇〇〇〇円

事案の内容、認容額等を考慮して弁護士費用一五〇万円をもって相当因果関係にある損害と認める。

五  結論

そうすると、原告の請求は、被告に対し右合計額一八八二万九八三一円及びこれに対する平成七年一〇月五日(原告が民事調停申立書の送達により被告に損害賠償の請求をした日の翌日が平成七年一〇月五日であることは被告も争わないから原告の請求がこれを起算日とすることには理由がある。)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 曽我大三郎)

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