静岡地方裁判所 昭和26年(行)14号 判決
原告 佐々木コウ ほか七名
被告 静岡県知事
一、主 文
原告等の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告は原告等に対し静岡県伊東市岡字新川百八番地の一田一反六畝二十八歩につき、被告が昭和二十五年三月二十八日静岡地方法務局伊東出張所受付第一一六〇号を以て昭和二十二年十二月二日自作農創設特別措置法第三条の規定に因る買収に依り農林省の為なした所有権移転登記の抹消登記手続をなせ、訴訟費用は被告の負担とする」との旨の判決を求め、その請求の原因として請求の趣旨表示の土地は元原告らの先代亡佐々木惟朝の所有であつたところ同人が昭和二十五年十二月三日死亡したので原告らにおいてその相続をなし原告らの共有に帰属したものである。然るところ被告は右土地につき請求の趣旨記載の日時に同趣旨記載の内容の所有権移転登記を静岡地方法務局伊東出張所に嘱託し、その登記手続を完了し現にその旨の登記が登記簿上なされているのであるが、本件土地に対する自作農創設特別措置法に基く買収処分はないのであるから本件登記は登記原因を欠く無効の登記である。よつてその抹消手続を求むる為本訴に及ぶと述べ、尚本件登記は被告静岡県知事の嘱託によつてなされたものでありその登記原因が無効である以上登記の抹消手続も同知事においてなすべき義務があるもので被告を国と変更する必要はないと附陳した。
被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との旨の判決を求め答弁として本件土地が元訴外佐々木惟朝の所有に属するものであつたこと、昭和二十五年十二月三日同人の死亡により原告等がその相続をなしたこと、原告等主張の日時にその主張の如き登記がなされ現にその旨登記簿に登載されていること本件訴訟の提起されるまでは本件土地につき自作農創設特別措置法に基く買収処分がなかつたことはいづれもこれを認めると述べた。
三、理 由
よつて先づ職権をもつて、被告の当事者適格の有無につき考察するに、本件訴旨は要するに原告らが本件土地の所有権者として該土地につき、農地買収を登記原因として被告静岡県知事の登記嘱託により農林省のためなしたる所有権取得登記の抹消登記手続を嘱託官庁たる被告静岡県知事に対し求めんとするにあることその主張自体明らかである。しかしながらかように不動産物権者がその目的不動産について不当な登記が存在するとしてその登記の抹消を求むるに当つて、その相手方となすべきものは通常その不動産の登記簿上の名義人であると言わなければならない。けだし不動産物権者はかゝる不当な登記の存在により目的不動産に対する支配権を不当に侵害せられるから該支配権の効力としてその除去を請求しうる権利を有するとなすもの、これすなわち右登記請求権に外ならない以上該権利はその性質上かゝる不当なる登記を有するものに対して行使すべく、またかくせざれば、その目的を達することが出来ないこと明らかであるからである。本件に於て本件不動産の現時の登記名義人が国の代表者としての農林省であつて被告静岡県知事でないことは本件弁論の全趣旨に徴し当事者間に争いのないところである。
果して然らば前叙の理由により本件訴訟に於ては静岡県知事は正当なる当事者適格を有しないこと明かであるから本訴請求はこの点に於て失当であり到底棄却を免れないものである。そこで民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する次第である。
(裁判官 戸塚敬造 田島重徳 小河八十次)